(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119823
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】3D印刷のためのバイオインク
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240827BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20240827BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20240827BHJP
C07K 14/78 20060101ALN20240827BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20240827BHJP
C07K 5/09 20060101ALN20240827BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C07K7/08 ZNA
C07K7/06
C07K14/78
C12N5/071
C07K5/09
C12Q1/02
C07K7/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024080409
(22)【出願日】2024-05-16
(62)【分割の表示】P 2021503767の分割
【原出願日】2019-07-23
(31)【優先権主張番号】2018902674
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】507201348
【氏名又は名称】ニューサウス イノベーションズ プロプライアタリー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ハディノート ウタマ
(72)【発明者】
【氏名】ビンセント ティット グァン タン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジャスティン グッディング
(57)【要約】
【課題】生体適合性があり、実質的に非毒性の化学的経路を介してヒドロゲルを迅速に形成する。
【解決手段】少なくとも二つのチオール官能基を有するビスチオール含有架橋剤を使用して架橋されたマレイミド含有ポリマーから形成された3Dプリントヒドロゲルを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つのチオール官能基を有するビスチオール含有架橋剤を使用して架橋されたマレイミド含有ポリマーから形成された3Dプリントヒドロゲル。
【請求項2】
マレイミド含有ポリマーは、フルクトース、スクロース、またはグルコースモノマーを含有するポリマーを含む、マレイミド含有多糖類;ポリ(エチレングリコール)(PEG)マレイミド、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)(PHEMA)マレイミド、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)マレイミド、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)マレイミド、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)マレイミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(NIPAAM)マレイミド、ポリ(フマル酸プロピレン)(PPF)マレイミド、ポリ(エチレンイミン)(PEI)マレイミド、ポリ(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム(PMAETMA)マレイミド、ポリ(L-リジン)(PLL)マレイミド、ポリ(アクリル酸)(PAA)マレイミド、ポリ(スチレンスルホナート)(PSS)マレイミド、ポリ(アクリル酸-stat-ジメチルアミノエチルメタクリルアミド)(P(AA-stat-DMAEMA))マレイミド、およびポリ(メタクリル酸アルギニン)マレイミド、またはその誘導体を含む、合成ポリマー;ゼラチンマレイミド(gelatin maleimide)、セルロースマレイミド(cellulose maleimide)、ヒアルロン酸マレイミド、およびアルギン酸マレイミドを含む、マレイミド含有バイオポリマー;アデニン、チアミン、グアニン、および/またはシトシン反復単位を含むマレイミド含有核酸塩基ポリマー;およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項3】
マレイミド含有ポリマーはPEGマレイミドを含む、請求項2に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項4】
マレイミド含有ポリマーはゼラチンマレイミド(gelatin maleimide)を含む、請求項2に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項5】
前記ビスチオール含有架橋剤は、合成ポリマー、バイオポリマー、小分子、生理活性分子、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項6】
前記合成ポリマーは、PEGビスチオール(PEG-bis-thiol)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ビスチオール(NIPAAMビスチオール)、ポリ(アクリル酸)ビスチオール、ポリ(メタクリル酸)ビスチオール、ポリ(スチレンスルホナート)ビスチオール、ポリ(アミド)ビスチオール、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項7】
前記ビスチオール含有架橋剤はPEGビスチオールである、請求項6に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項8】
前記バイオポリマーはチオール-ゼラチン、チオール-セルロース、チオール-キトサン、チオール-ヒアルロン酸、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項9】
前記小分子はジチオスレイトール(DTT)である、請求項5に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項10】
前記生理活性分子は、少なくとも二つのシステインアミノ酸基を有する短鎖ペプチド、不活性短鎖ペプチド、酵素感受性短鎖ペプチド、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)感受性ペプチド、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項11】
前記生理活性分子は、MMP感受性ビスシステインペプチドである、請求項10に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項12】
前記MMP感受性ペプチドは、GCIPVSLRSGCG、GCRDGPQGIWGQDRCG、GCRDPLGLDRCG、GCRDEAPLKQDRCG、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項13】
前記マレイミド含有ポリマーはPEGマレイミドであり、ビスチオール含有架橋剤はPEGビスチオール、MMP感受性ペプチド、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項14】
前記マレイミド含有ポリマーは、RGD、YIGSR、およびIKVAVから選択される少なくとも一つの生理活性分子で置換されたPEGマレイミドであり、前記ビスチオール含有架橋剤は、PEGビスチオール、MMP感受性ペプチド、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項15】
MMP感受性ペプチドは、GCIPVSLRSGCG、GCRDPLGLDRCG、またはそれらの組み合わせである、請求項13または14に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項16】
前記マレイミド含有ポリマーはゼラチンマレイミドであり、ビスチオール含有架橋剤はPEGビスチオールである、請求項1に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項17】
マレイミド含有ポリマーとビスチオール含有架橋剤のモル比が10:1から1:10の範囲である、請求項1~16のいずれか一項に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項18】
細胞を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項19】
前記細胞はヒドロゲルの一部内に懸濁されている、または前記細胞は実質的にヒドロゲル全体に均一に懸濁されている、請求項18に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項20】
印刷された細胞の濃度は1×105~5×108細胞/mLの範囲にある、請求項18または19に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項21】
前記細胞は、肝細胞、胃腸細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、気管細胞、血管細胞、骨格筋細胞、心臓細胞、皮膚細胞、平滑筋細胞、結合組織細胞、角膜細胞、泌尿生殖器細胞、乳房細胞、生殖細胞、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、シュワン細胞、脂肪細胞、骨細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、周皮細胞、中皮細胞、内分泌組織由来細胞、間質細胞、幹細胞、前駆細胞、リンパ細胞、血液細胞、内胚葉由来細胞、外肺葉由来細胞、および中胚葉由来細胞、ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項18~20のいずれか一項に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項22】
生理活性分子をさらに含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項23】
前記生理活性分子は、遊離生理活性分子である、またはマレイミド含有ポリマー、ビスチオール含有架橋剤、またはマレイミド含有ポリマーおよびビスチオール含有架橋剤の両方に結合している、請求項22に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項24】
前記生理活性分子は、ペプチド、MMP感受性ペプチド、タンパク質、多糖類、薬剤(drug)、治療薬(therapeutic agent)、抗体、小分子阻害剤、キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤、抗原、病原体、血小板、成長因子、サイトカイン、アミノ酸、栄養素、馴化培地、抗生物質、抗ウイルス薬、RNA、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項22または23に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項25】
前記生理活性分子はコラーゲンである、請求項24に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項26】
細胞培養培地をさらに含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の3Dプリントヒドロゲル。
【請求項27】
マレイミド含有ポリマーを含むポリマーバイオインクを提供する工程;
少なくとも二つのチオール官能基を有するビスチオール含有架橋剤を含む活性化剤を提供する工程;および
ポリマーバイオインクおよび活性化剤を印刷して3Dプリントヒドロゲルを形成する工程
を含む、3Dプリントヒドロゲルを調製する方法。
【請求項28】
細胞を提供して、細胞含有3Dプリントヒドロゲル(3D printed hydrogel containing cells)を形成する工程をさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞は、ポリマーバイオインク中、活性化剤中、ポリマーバイオインクおよび活性化剤の両方の中、または3D印刷の前の別個の培地(separate medium prior to 3D printing)の中に存在する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記3Dプリントヒドロゲルは、ポリマーバイオインクと活性化剤の印刷から30分以内、または10分以内、または1分以内、または30秒以内、または10秒以内、または1秒以内で形成される、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記ポリマーバイオインク、活性化剤、またはその両方を印刷前に約pH7.4に調整する、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記pHはNaOHを使用して調整される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
請求項18~21のいずれか一項に記載の細胞を含む3Dプリントヒドロゲルを含む細胞アッセイ。
【請求項34】
細胞アッセイのための、請求項18~21のいずれか一項に記載の細胞を含む3Dプリントヒドロゲルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2018年7月24日に出願された「3D印刷用のバイオインク」と題されたオーストラリア仮特許出願第2018902674号からの優先権を主張し、その全内容は相互参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本技術は3Dバイオプリンティングのためのバイオインクに広く関連している。特に、この技術は、架橋剤を使用して架橋されたポリマーから形成された3D印刷されたヒドロゲル、ヒドロゲルを調製するためのプロセス、およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞は、in vivoで細胞外マトリックス(ECM)内に三次元的に存在する。細胞とECMの間の相互作用は、細胞の生物学的特性および挙動を制御する上で重要な役割を果たす。がん生物学では、三次元(3D) in vitro細胞培養アッセイを使用して、細胞の本来の環境を厳密に模倣した環境で細胞を培養する。このようなアッセイは、二次元単層培養には存在しない生理学的な細胞間相互作用および細胞・マトリックス相互作用を維持する。
【0004】
3Dバイオプリンティングは、3D印刷技術を使用して、細胞および他の生体材料を組み合わせて、ECMを模倣する合成構造を調製する。一般的に、3Dバイオプリンターは、ドロップオンデマンドまたは押出し印刷技術のいずれかを利用して、3D in vitroアッセイを印刷する。ドロップオンデマンドバイオプリンティングは、印刷時に高い細胞生存率を維持することが報告されているが、現在の3Dバイオインクの粘度の低さおよび細胞密度の低さのため、この手法は押出しのバイオプリンティングと比較してあまり一般的に利用されていない。
【0005】
合成および天然の両方のヒドロゲルは、ECM模倣物として広く使用されてきた。特に、合成ヒドロゲルは再現性が高く、物理的および細胞応答性の優れた制御を提供できる。これは、in vitro研究のECM模倣物として非常に望ましい。3D in vitroアッセイを手動で作成するための現在のアプローチでは、ECM模倣物として主にマトリゲル(登録商標)またはコラーゲンを利用している。広く使用されている他の材料は、ヒアルロン酸、キトサン、およびアルギン酸塩である。それらは天然物から供給されるため、天然ヒドロゲルは通常生体適合性があり、場合によっては、細胞・マトリックス相互作用に必要な生体分子を輸送する。しかしながら、天然のヒドロゲルは、バッチ間のばらつきの影響を受けやすく、物理的および生化学的モジュール性に欠け、および/または取り扱いが難しいため、ECM模倣物としての制限がある。
【0006】
天然ヒドロゲルの様々な制限を克服するために、様々な合成ヒドロゲルが調製されてきた。特に、共有結合で架橋された合成ヒドロゲルは、天然のヒドロゲルよりも堅牢および機械的に正確なシステムを提供できる。しかしながら、これらの合成ヒドロゲルの多くは、細胞・マトリックス相互作用を促進する生化学的特性を欠いている。さらに、共有結合で架橋された合成ヒドロゲルを細胞の3Dバイオプリンティングに適用するには、細胞をヒドロゲル内でその場で印刷できるようにするために、材料が生体適合性である必要がある。たとえば、ポリ(アクリルアミド)は細胞生物学で使用される生体適合性の合成ヒドロゲルであるが(Caliari and Burdick、2016)、対応するヒドロゲル前駆体は生体適合性がないため、細胞の3Dバイオプリンティングには不適である。
【0007】
3Dバイオプリンティングへの現在のアプローチは、迅速なヒドロゲル形成を可能にするUV開始ラジカル架橋反応を含む(Murphy and Atala, 2014; Donderwinkel et al, 2017: Jungst et al, 2016 Lowe et al, 2014)。たとえば、光架橋性のアクリレート化PEGおよびペプチドのインクジェット印刷は、間葉系幹細胞をカプセル化するための3Dヒドロゲルコンストラクトの生成に好適であることが見出された(Gao et al, 2017; Gao et al, 2015)。しかしながら、生細胞の3Dバイオプリンティングにこのアプローチを使用する可能性が示されている一方で、UV照射を使用して光架橋を開始すると、生体内のDNAに損傷を与える可能性があり、生成されたフリーラジカルも感受性細胞に損傷を与える可能性がある。
【0008】
3Dバイオプリンティングの進歩は、近年顕著であり、3D in vitro細胞培養アッセイへの現在のアプローチの制限を緩和する可能性がある。しかしながら、3D印刷された細胞培養の利点は十分に確立されているが、細胞生物学における3D印刷されたin vitroアッセイの利用は、その複雑さ、労働集約的、および低スループットの性質によって依然として制約されている。したがって、3Dバイオプリンティングで使用するための代替ECM模倣物に対するニーズがある。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、生体適合性があり、実質的に非毒性の化学的経路を介してヒドロゲルを迅速に形成することができる、3D印刷に好適なバイオインクを開発した。
【0010】
第一の態様では、本技術は、少なくとも二つのチオール官能基を有するビスチオール含有架橋剤を使用して架橋されたマレイミド含有ポリマーから形成された3Dプリントヒドロゲルを提供する。
【0011】
架橋剤を含むビスチオールは、二つより多いチオール官能基を含んでもよい。
【0012】
一つの実施形態では、3Dプリンターを使用して、マレイミド含有ポリマー(ポリマーバイオインク)を含む溶液とビスチオール含有架橋剤(活性化剤)を含む溶液とを組み合わせると、ヒドロゲルの形成が起こる。
【0013】
一つの実施形態では、3Dプリントされたヒドロゲルは、ポリマーバイオインクおよび活性化剤の印刷から約30分以下、または10分以下、または1分以下、または30秒以下、または10秒以下、または1秒以下で形成される。
【0014】
一つの実施形態では、ポリマーバイオインクは、細胞と生体適合性である。
【0015】
一つの実施形態では、活性化剤は、細胞と生体適合性である。
【0016】
一つの実施形態では、3D印刷中に組み合わされると、ポリマーバイオインクおよび活性化剤は、細胞と生体適合性であるヒドロゲルを形成する。
【0017】
一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーは、マレイミド含有多糖類、たとえばフルクトース、スクロース、またはグルコースモノマーを含有するポリマー;合成ポリマー、たとえばポリ(エチレングリコール)(PEG)マレイミド、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)(PHEMA)マレイミド、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)マレイミド、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)マレイミド、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)マレイミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(NIPAAM)マレイミド、ポリ(フマル酸プロピレン)(PPF)マレイミド、ポリ(エチレンイミン)(PEI)マレイミド、ポリ(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム(PMAETMA)マレイミド、およびポリ(L-リジン)(PLL)マレイミド、ポリ(アクリル酸)(PAA)マレイミド、ポリ(スチレンスルホナート)(PSS)マレイミド、ポリ(アクリル酸-stat-ジメチルアミノエチルメタクリルアミド)(P(AA-stat-DMAEMA))マレイミド、およびポリ(メタクリル酸アルギニン)マレイミド、またはその誘導体;マレイミド含有バイオポリマー、たとえばゼラチンマレイミド(gelatin maleimide)、セルロースマレイミド(cellulose maleimide)、ヒアルロン酸マレイミド、およびアルギン酸マレイミド;およびマレイミド含有核酸塩基ポリマー(すなわち、アデニン、チアミン、グアニン、および/またはシトシン反復単位のポリマーを含むマレイミド);およびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0018】
一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)マレイミドを含む。
【0019】
一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーは、ゼラチンマレイミドを含む。
【0020】
一つの実施形態では、ビスチオール含有架橋剤は、合成ポリマー、バイオポリマー、小分子、生理活性分子、またはそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0021】
一つの実施形態では、合成ポリマーは、PEGビスチオール(PEG-bis-thiol)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ビスチオール(NIPAAMビスチオール)、ポリ(アクリル酸)ビスチオール、ポリ(メタクリル酸)ビスチオール、ポリ(スチレンスルホナート)ビスチオール、ポリ(アミド)ビスチオール、またはそれらの任意の組み合わせから選択される。一つの実施形態では、ビスチオール含有架橋剤はPEGビスチオールである。
【0022】
一つの実施形態では、バイオポリマーはチオール-ゼラチン、チオール-セルロース、チオール-キトサン、チオール-ヒアルロン酸、またはそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0023】
一つの実施形態では、小分子はジチオスレイトール(DTT)である。
【0024】
一つの実施形態では、生理活性分子は、少なくとも二つのシステインアミノ酸基を有する短鎖ペプチド、不活性短鎖ペプチド、酵素感受性短鎖ペプチド、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)感受性ペプチド、またはそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0025】
一つの実施形態では、ビスチオール含有生理活性分子は、MMP感受性ビスシステインペプチドから選択される。
【0026】
一つの実施形態では、MMP感受性ペプチドは、GCIPVSLRSGCG、GCRDGPQGIWGQDRCG、GCRDPLGLDRCG、GCRDEAPLKQDRCG、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0027】
一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーはPEGマレイミドであり、ビスチオール含有架橋剤は、PEGビスチオール、MMP感受性ペプチド、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0028】
一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーは、RGD、YIGSR、およびIKVAVから選択される少なくとも一つの生理活性分子で置換されたPEGマレイミドであり、ビスチオール含有架橋剤は、PEGビスチオール、MMP感受性ペプチド、およびそれらの組み合わせから選択される。
【0029】
一つの実施形態では、MMP感受性ペプチドは、GCIPVSLRSGCG、GCRDPLGLDRCG、またはそれらの組み合わせである。
【0030】
一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーはゼラチンマレイミドであり、ビスチオール含有架橋剤はPEGビスチオールである。
【0031】
一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーとビスチオール含有ポリマーのモル比は約10:1から約1:10の範囲である。マレイミド含有ポリマー(単数または複数)中のマレイミド基に対するビスチオール含有架橋剤(単数または複数)中のチオール基の比率は、約60%を超えてもよい。
【0032】
一つの実施形態では、ヒドロゲルは、ポリマーバイオインクの一滴を基板上に印刷し、続いて活性化剤の一滴を印刷してヒドロゲル液滴を形成することによって形成することができ、または活性化剤の一滴を基板に適用し、続いてヒドロゲルを形成するためのポリマーバイオインクの一滴を適用することができる。印刷工程を繰り返すと、ヒドロゲルが形成される。印刷プロセス中、細胞は、ポリマーバイオインク、活性化剤、またはポリマーバイオインクおよび活性化剤の両方に含めることができる。追加的または代替的に、細胞は細胞培養培地に含まれていてもよい。細胞培養培地は、ポリマーバイオインク、活性化剤に含まれていてもよく、またはポリマーバイオインクおよび活性化剤から分離されていてもよい。たとえば、細胞培養培地は、ポリマーバイオインクおよび活性化剤から形成された3D印刷されたヒドロゲルの層間に懸濁されていてもよく、またはヒドロゲルの表面上に堆積されていてもよい。
【0033】
一つの実施形態では、基板は、任意の好適な容器から選択される。例は、異なるウェル構成(6、24、48、および96ウェル)のマイクロタイタープレート、異なるウェル構成(6、24、48、および96ウェル)のカバーガラス底部を備えたマイクロタイタープレート、様々なサイズのフルオロディッシュ、異なるチャンバー構成(1、2、4、8、および16)のチャンバースライド、カバーガラス、または顕微鏡スライドを含む。容器は、細胞を収容、保持、または増殖させるのに好適であってもよい。
【0034】
一つの実施形態では、3Dプリントヒドロゲルは、生理活性分子をさらに含む。生理活性分子は、マレイミド含有ポリマー、ビスチオール含有架橋剤、またはマレイミド含有ポリマーとビスチオール含有架橋剤の両方に結合してもよい。追加的または代替的に、遊離の生理活性分子が3Dプリントヒドロゲルに存在してもよい。遊離の生理活性分子は、ポリマーバイオインク、活性化剤、またはその両方に存在してもよい。生理活性分子は、ペプチド、MMP感受性ペプチド、タンパク質、多糖類、薬剤(drug)、治療薬(therapeutic agent)、抗体、小分子阻害剤、キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤、抗原、病原体、血小板、成長因子、サイトカイン、アミノ酸、栄養素、馴化培地、抗生物質、抗ウイルス薬、RNA、およびそれらの任意の組み合わせから選択することができる。ナノ粒子はまた、3Dプリントヒドロゲルに組み込むこともできる。
【0035】
一つの実施形態では、生理活性分子は、CRGDS、CIKVAV、CYIGSR、C末端不対システインを有するVEGF、タンパク質(たとえば、ラミニン、コラーゲン)、およびMMP感受性ペプチド(たとえば、GCIPVSLRSGCG、GCRDGPQGIWGQDRCG、GCRDPLGLDRCG、GCRDEAPLKQDRCG);およびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0036】
一つの実施形態では、3Dプリントヒドロゲルは、細胞培養培地をさらに含む。好適な培養培地の例は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、Media 199培地、ハムF10培地、ハムF12培地、マッコイ5A培地、およびロズウェルパーク記念研究所(RPMI)培地をさらに含む。細胞培養培地は、ポリマーバイオインク、活性化剤、または両方に存在してもよい。
【0037】
一つの実施形態では、ヒドロゲルは細胞を含む。
【0038】
一つの実施形態では、細胞は、ポリマーバイオインク中、活性化剤中、ポリマーバイオインクと活性化剤の両方の中、または3D印刷の前の別個の培地(separate medium prior to 3D printing)中に存在し、細胞を含むヒドロゲルの印刷を可能にする。
【0039】
一つの実施形態では、細胞は、ヒドロゲル全体に実質的に均一に懸濁されている。
【0040】
印刷された細胞の濃度は約1×105~約5×108細胞/mLの範囲にあってもよい。より低いまたはより高い濃度の細胞を印刷して、細胞を含む印刷されたヒドロゲルを形成することができることが理解されよう。
【0041】
一つの実施形態では、細胞は、肝細胞、胃腸細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、気管細胞、血管細胞、骨格筋細胞、心臓細胞、皮膚細胞、平滑筋細胞、結合組織細胞、角膜細胞、泌尿生殖器細胞、乳房細胞、生殖細胞、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、シュワン細胞、脂肪細胞、骨細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、周皮細胞、中皮細胞、内分泌組織由来細胞、間質細胞、幹細胞、前駆細胞、リンパ細胞、血液細胞、内胚葉由来細胞、外肺葉由来細胞、および中胚葉由来細胞、ならびにそれらの任意の組み合わせから選択することができる。
【0042】
第二の態様では、本技術は、3Dプリントされたヒドロゲルを調製する方法を提供し、該方法は、以下の工程を含む:
マレイミド含有ポリマーを含むポリマーバイオインクを提供する工程;
少なくとも二つのチオール官能基を有するビスチオール含有架橋剤を含む活性化剤を提供する工程;および
ポリマーバイオインクおよび活性化剤を印刷して3Dプリントヒドロゲルを形成する工程。
【0043】
一つの実施形態では、本方法は、細胞を提供して、細胞含有3Dプリントヒドロゲル(3D printed hydrogel containing cells)を形成する工程をさらに含む。細胞は、ポリマーバイオインク中、活性化剤中、ポリマーバイオインクおよび活性化剤の両方の中、または3D印刷の前の別個の培地(separate medium prior to 3D printing)の中に存在してもよい。
【0044】
一つの実施形態では、3Dプリントヒドロゲルは、ポリマーバイオインクと活性化剤の印刷から30分以内、または10分以内、または1分以内、または30秒以内、または10秒以内、または1秒以内で形成される。
【0045】
一つの実施形態では、ポリマーバイオインク、活性化剤、またはその両方を印刷前に約pH7.4に調整する。
【0046】
一つの実施形態では、pHはNaOHを使用して調整される。
【0047】
本方法は、第一の態様による3Dプリントヒドロゲルの調製に使用することができる。
【0048】
第三の態様では、本技術は、3D印刷のためのキットを提供し、該キットは、以下を含む:
マレイミド含有ポリマーを含むポリマーバイオインク;および
少なくとも二つのチオール官能基を有するビスチオール含有架橋剤を含む活性化剤。
【0049】
一つの実施形態では、キットは、細胞をさらに含む。
【0050】
一つの実施形態では、キットは、印刷基材(printing substrate)をさらに含む。
【0051】
第四の態様では、本技術は、第一の態様による細胞含有3Dプリントヒドロゲル(3D printed hydrogel containing cells)を含む細胞アッセイを提供する。
【0052】
第五の態様では、本技術は、細胞アッセイのための第一の態様による細胞含有3Dプリントヒドロゲル(3D printed hydrogel containing cells)の使用を提供する。
【0053】
定義
以下は、本明細書を理解するのに役立ちうる、当技術分野で使用される用語のいくつかの定義である。これらは一般的な定義として意図されており、本発明の範囲をそれらの用語のみに限定するものではなく、以下の説明をよりよく理解するために提示されている。
【0054】
文脈上、別段または反対の記載を必要としない限り、本明細書で単数整数、工程、または要素として列挙される、本発明の整数、工程、または要素は、列挙された整数、工程、または要素の単数および複数の形態の両方を明らかに包含する。
【0055】
本明細書で使用する場合、用語「約」は、記載された値の±10%を意味する。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「架橋剤(cross-linker)」および「架橋剤(cross-linking agent)」は、互換的に使用され、マレイミド含有ポリマーを共有結合的に架橋することができる化合物を意味する。本技術の架橋剤は、少なくとも2つのチオール官能基を含み、本明細書では「ビスチオール含有架橋剤(bis-thiol containing cross-linker)」または「ビスチオール含有架橋剤(bis-thiol containing cross-linking agent)」と呼ばれる。ビスチオール含有架橋剤は、2つより多いチオール官能基、たとえば、3つ、4つ、5つ、6つ、またはそれ以上のチオール官能基を含んでもよい。
【0057】
本明細書で使用する場合、用語「ポリマーバイオインク」は、マレイミド含有ポリマー、または2つ以上のマレイミド含有ポリマーの組み合わせを含む溶液、好ましくは水溶液を指す。本明細書で使用する場合、用語「活性化剤」は、少なくとも一つのビスチオール含有架橋剤を含む溶液、好ましくは水溶液を指す。ポリマーバイオインクと本技術の活性化剤を混合すると、すなわち3D印刷中に、チオール-マレイミド架橋反応が起こり、ヒドロゲルが形成される。
【0058】
本明細書で使用する場合、物質に関する「生体適合性」という用語は、物質が生細胞または組織に対して実質的に無毒であることを意味する。
【0059】
本明細書で使用する場合、用語「生理活性分子」は、培養細胞で使用することができる生物学的活性を有する分子を指す。
【0060】
本明細書で使用する場合、用語「細胞ポリマーバイオインク」は、少なくとも一つのマレイミド含有ポリマーを含むポリマーバイオインクと混合した細胞を指す。本明細書で使用する場合、用語「細胞活性化剤」は、少なくとも一つのビスチオール含有架橋剤を含む活性化剤と混合した細胞を指す。本技術の細胞ポリマーバイオインクおよび細胞活性化剤は、一つ以上の種類の生理活性分子の水溶液であってもよく、その中に細胞が懸濁され、3Dバイオプリンティングプロセス全体を通じて懸濁されたままであってもよい。
【0061】
用語「細胞培養培地」は、細胞を貯蔵、維持、生育、または培養するために使用することができる液体を指す。
【0062】
本明細書で使用する場合、3Dバイオプリンティングに関する「トロップオンデマンド」という用語は、バイオインクの送達が個別の液滴の生成に基づく印刷プロセスを指す。ドロップオンデマンドバイオプリンティングは、サーマルインクジェット、ピエゾインクジェット、およびマイクロバルブベースのバイオプリンティングを含むが、これらに限定されない。
【0063】
本明細書および特許請求の範囲の全体にわたって値の範囲が与えられている場合、列挙された範囲は、その範囲内の任意の値を含むことを意図している。
【0064】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、装置、物品等の考察は、本発明の文脈を提供することのみを目的としている。これらの事項のいずれかまたはすべてが先行技術の基礎の一部を形成すること、または本明細書の各請求項の優先日より前に存在した本発明に関連する分野の一般的な知識であったことを認めるものと見なされるべきではない。
【0065】
本明細書の全体を通して、文脈が別段の定めをしない限り、単語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」等の変形は、記載された要素、整数、もしくは工程、または要素、整数、もしくは工程の群を含むことを意味するが、他の要素、整数、もしくは工程、または要素、整数、もしくは工程の群を除外することはない。
【0066】
用語「からなる」は、「のみからなる」を意味する。つまり、指定された要素、整数、または工程を含み、これらに限定され、他の要素、整数、または工程は除外される。用語「本質的にからなる」は、記載された要素、整数、または工程を含むことを意味するが、本発明の作用を実質的に改変または寄与しない他の要素、整数、または工程も含まれてもよい。
【0067】
本技術をより明確に理解するために、以下の図面および実施例を参照して、好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】
図1は、3Dバイオプリンティングプロセスの代表的な模式図(representative schematic)である。
【
図2】
図2は、(a)UV分析;および(b)CRGDSによる4アームPEG-Malの修飾の
1H NMRによるCRGDS共役解析(conjugation analyses)の定量化を示す。
【
図3】
図3は、2.5mM RGD(10重量%)を含む4アームPEG-Malヒドロゲルから調製され、PEGビスチオールおよびMMP2応答性ビスシステインペプチドで架橋されたヒドロゲル(50:50のチオールモル濃度で混合)の流動学的研究の(a)周波数;(b)ひずみ;(c)剛性;および(d)粘性の結果を示す。
【
図4】
図4は、(a)PEGビスチオールで架橋された7.5重量%のブランク4アームPEG-Malヒドロゲル、および(b)MMP感受性ビスシステインペプチド活性化剤で架橋されたPEGトリペプチドヒドロゲルの剛性流動学的研究の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本技術は、3Dプリントヒドロゲルに関する。3Dプリントヒドロゲルは、長期間にわたって細胞の生存率を維持できる可能性がある。本技術のヒドロゲルは、生体適合性があり、印刷時にヒドロゲルを迅速に形成するポリマーバイオインクおよび活性化剤の3D印刷によって調製され、3D細胞構造およびアッセイの高スループット生成を可能にする。
【0070】
特に、本発明者らは、ビスチオール含有架橋剤を使用して共有結合的に架橋されたマレイミド含有ポリマーが、生理学的条件下で、今日反応物の助けを借りずに、生体適合性の架橋経路を介した、均一なヒドロゲルの迅速な形成を可能にし、有毒な副産物を生成しないことを見出した。したがって、本技術の3Dプリントヒドロゲルは、マレイミド含有ポリマーを含むポリマーバイオインクと、少なくとも2つのチオール官能基を有するビスチオール含有架橋剤を含む活性化剤とを組み合わせることによって形成される。
【0071】
ポリマーバイオインク
本技術のポリマーバイオインクは、マレイミド含有ポリマー、または組み合わせ、または二つ以上のマレイミド含有ポリマーを含む。マレイミド含有ポリマーは、ヒドロゲルの形成のためのマレイミド反応基を含む任意のポリマーであってもよい。遊離マレイミド基を含むポリマーもヒドロゲル中に存在してもよい。
【0072】
様々な分子量、分子構造、分子分布、および機能性のポリマーを含むマレイミドを、ポリマーバイオインクに使用することができる。たとえば、マレイミド含有ポリマーの分子量は、約1kDaから約10,000kDa、または約5kDaから約10,000kDa、または約5kDaから約5,000kDa、または約5kDaから約1,000kDa、または約10kDaから約500kDaの範囲でありうる。マレイミド含有ポリマーは、とりわけ、任意の好適な分子構造、たとえば、線状ポリマー、ブロックポリマー、分岐ポリマー、星型ポリマー、環状ポリマー、コーム、またはブラシポリマー、またはそれらの任意の組み合わせを有してもよい。ポリマー骨格に沿ったモノマー単位の分布を指す分子分布は、とりわけ、ホモ、ブロック、統計的、ランダム、またはマルチブロック分布、またはそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。機能性(すなわち、モノマーのタイプ)は、とりわけ、ヒドロキシル、アミン、チオールカルボン酸、アルケン、アルキン、および多員炭素環を含みうるが、これらに限定されない。ポリマーは、1つの官能性、または2つ以上の官能性(すなわち、コポリマー)を含んでもよい。
【0073】
一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーは、生体適合性である。
【0074】
マレイミド含有ポリマーは、2つ以上のマレイミド反応基をポリマーに組み込むことによって合成的に調製される。2つ以上のマレイミド基は、当技術分野で知られている任意の好適な方法、たとえば、カルボジイミドカップリング、シュテークリヒエステル化、および過剰のビスマレイミド分子とのチオール-マレイミドカップリングによってポリマーに組み込むことができる。追加的または代替的に、市販のマレイミド含有ポリマーを使用することができる。
【0075】
本技術のポリマーバイオインクにおける使用のための好適なマレイミド含有ポリマーの非限定的な例は、フルクトース、スクロース、またはグルコースモノマーを含むポリマー等のマレイミド含有多糖類;ポリ(エチレングリコール)(PEG)マレイミド、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)マレイミド、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)マレイミド、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)マレイミド、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)マレイミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(NIPAAM)マレイミド、ポリ(プロピレンフマレート)(PPF)マレイミド、ポリ(エチレンイミン)(PEI)マレイミド、ポリ(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム(PMAETMA)マレイミド、ポリ(L-リジン)(PLL)マレイミド)、ポリ(アクリル酸)(PAA)マレイミド、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)マレイミド)、ポリ(アクリル酸-stat-ジメチルアミノエチルメタクリルアミド)(P(AA-stat-DMAEMA))マレイミド、およびポリ(アルギニンメタクリレート)マレイミド、またはそれらの誘導体等の合成ポリマー;ゼラチンマレイミド、セルロースマレイミド、ヒアルロン酸マレイミド、およびアルギン酸マレイミド等のマレイミド含有バイオポリマー;およびマレイミド含有核酸塩基ポリマー(すなわち、アデニン、チアミン、グアニン、および/またはシトシン繰り返し単位のマレイミド含有ポリマー);またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0076】
PEGは、市販されており、不活性であり、生物学的用途において無毒であり、そして様々な化学修飾に対して多用途であるため、ECM模倣物として合成ヒドロゲルの調製にとって特に魅力的な材料である。さらに、PEGベースのポリマーバイオインクは、PEGポリマー前駆体の分子量が低いために相対粘度が低く、ドロップオンデマンドバイオプリンティングに特に好適である可能性がある。したがって、一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーは、少なくとも2つのマレイミド反応基(PEG-マレイミド)を含むポリ(エチレングリコール)(PEG)ポリマーである。PEG-マレイミドは、3アームPEGマレイミド、4アームPEGマレイミド、少なくとも2つのマレイミド基を有するPEGのブロックコポリマー、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない、任意の好適な分子構造を有してもよい。PEG基は、任意の好適な分子量を有してもよい。たとえば、PEG基の分子量は、約1kDaから約50kDa、または約1kDaから約40kDa、または約1kDaから約30kDa、または約5kDaから約30kDa、または約5kDaから約20kDa、または約5kDaから約10kDa、または約10kDaから約20kDaの範囲であってもよい。一つの実施形態では、PEG基の分子量は、約5kDa、または約10kDa、または約20kDaである。
【0077】
用語「3アームPEGマレイミド」は、以下の構造(n=38-3、788):
【0078】
【0079】
を有するポリマー化合物を指す。
【0080】
用語「4アームPEGマレイミド」は、以下の構造(n=28-2、841):
【0081】
【0082】
を有するポリマー化合物を指す。
【0083】
マレイミド含有ポリマーの特性は、マレイミド基を1つまたは複数の官能基または他の部分で部分的に修飾することによって、特定の用途に合わせて調整することができる。部分的修飾とは、ビスチオール含有架橋剤との架橋のために、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのマレイミド基がインタクトなままであることを意味する。したがって、生理活性分子がマレイミド含有ポリマーに組み込まれる場合、マレイミド含有ポリマーは、少なくとも2つ、典型的には少なくとも3つのマレイミド基を含む。このアプローチにより、ポリマーの再現性およびモジュール性を維持しながら、関連する生物学的特性を3Dプリントヒドロゲルに導入することができる。したがって、一つの実施形態では、マレイミド含有ポリマーのマレイミド基は、1つまたは複数の生理活性分子で部分的に修飾されてもよい。
【0084】
本技術のポリマーバイオインクは、当技術で知られている任意の好適な処方でマレイミド含有ポリマーを含む水溶液として調製することができる。たとえば、ポリマーバイオインクは、少なくとも1つのマレイミド含有ポリマー、および、任意選択で、1つ以上の生理活性分子を含む水性製剤として調製することができる。たとえば、水性製剤は、pH緩衝液または細胞培養培地中にマレイミド含有ポリマーを含む溶液であってもよい。一部の実施形態では、ポリマーバイオインクは、2つのマレイミド含有ポリマーを任意の比率、たとえば約10:1から約1:10の間の比率、例として、約10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、または1:10で含んでもよい。
【0085】
一つの実施形態では、ポリマーバイオインクは、マレイミド含有ポリマーを含む水溶液の形態で提供される。典型的には、ポリマーバイオインクは、マレイミド含有ポリマーを溶液、好ましくは培養培地に溶解させることによって調製される。一部の実施形態では、ポリマーバイオインクは、2つ以上のマレイミド含有ポリマーの混合物を含んでもよい。ポリマーバイオインクは、溶液中に任意の好適な濃度のマレイミド含有ポリマーを含んでもよい。たとえば、ポリマーバイオインク溶液中のマレイミド含有ポリマーの濃度は、約1重量%から50重量%、または約1%から40重量%、または約1重量%から約30重量%、約5重量%から20重量%、約5重量%から15重量%、または約10重量%から20重量%の範囲であってもよい。ポリマーバイオインクは、マレイミド含有ポリマーに共有結合する1つ以上の生理活性分子を含んでもよい。追加的または代替的に、ポリマーバイオインクは、溶液中に1つ以上の遊離生理活性分子を含んでもよい。ポリマーバイオインク中の生理活性分子の濃度は、約0.1mMから10mM、約0.5mMから10mM、約1mMから10mM、約1mMから5mM、やく2mMから5mM、または約2mMから3Mの範囲であってもよい。
【0086】
一つの実施形態では、ポリマーバイオインクは、滅菌溶液として調製される。滅菌溶液を調製するための好適な方法、またはポリマーバイオインクを滅菌する方法は、当業者に知られているであろう。
【0087】
一つの実施形態では、ポリマーバイオインクは生体適合性である。
【0088】
活性化剤
本技術の活性化剤は、ビスチオール含有架橋剤を含む。ビスチオール含有架橋剤は、本明細書でビスチオールと呼ばれる、少なくとも2つのチオール基を含む任意の化合物であってもよい。好ましくは、チオール基は、末端チオール基である。
【0089】
一つの実施形態では、ビスチオール含有架橋剤は、生体適合性である。
【0090】
一つの実施形態では、ビスチオール含有架橋剤は、ビスチオール含有ポリマー、好ましくは末端ビスチオール含有合成ポリマーであってもよい。好適なビスチオール含有合成ポリマーは、PEGビスチオール、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ビスチオール(NIPAAMビスチオール)、ポリ(アクリル酸)ビスチオール、ポリ(メタクリル酸)ビスチオール、ポリ(スチレンスルホネート)ビスチオール、ポリ(アミド)ビスチオール、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。代替的に、ビスチオール含有架橋剤は、ビスチオール含有バイオポリマー、好ましくは末端ビスチオール含有バイオポリマーであってもよい。好適なビスチオール含有バイオポリマーは、チオール-ゼラチン(たとえば、ウシ、ブタ、および冷水魚(cold fish)由来)、チオール-ヒアルロン酸(たとえば、ストレプトコッカス・エクイ(streptococcus equi)、ウシ、およびヒト臍帯由来)、およびそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0091】
一つの実施形態では、ビスチオール含有架橋剤は、PEGビスチオールである。PEGビスチオールは、とりわけ、線状、分岐、および星型PEG構造を含むが、これらに限定されない、任意の好適な分子構造を有してもよい。一つの実施形態では、PEGビスチオールは、線状PEGビスチオールである。PEG基の分子量は変動してもよく、たとえば、PEG基の分子量は、約1kDaから約50kDa、または約1kDaから約40kDa、または約1kDaから約30kDa、または約5kDaから約30kDa、または約5kDaから約20kDa、または約5kDaから約10kDa、または約10kDaから約20kDaの範囲であってもよい。一つの実施形態では、PEG基の分子量は、約5kDa、または約10kDa、または約20kDaである。
【0092】
線状PEGビスチオールの例は、以下の構造(n=11-1、136):
【0093】
【0094】
を有する。
【0095】
一部の実施形態では、ビスチオール含有架橋剤は、ビスチオール含有小分子であってもよい。好適なビスチオール含有分子は、ジチオスレイトール(DTT)(ホウ酸ナトリウムまたはホウ砂の有無にかかわらず使用される)、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。別の実施形態では、ビスチオール含有架橋剤は、少なくとも2つのシステインアミノ酸基、好ましくは末端システイン基(すなわち、チオール隣接アミノ酸配列)を有するビスチオール含有短鎖ペプチドであってもよい。好適な2つのシステインアミノ酸基と隣接したビスチオール含有短鎖ペプチドは、不活性な短鎖ペプチド配列、酵素感受性短鎖ペプチド(たとえば、MMP感受性、セリン感受性、システイン感受性、アスパラギン酸感受性(aspartic responsive)、グルタミン酸感受性(glutamic responsive)、カスパーゼ感受性、またはトリプシン感受性ペプチド配列)、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0096】
一つの実施形態では、ビスチオール含有架橋剤は、ビスチオール含有生理活性分子である。たとえば、ビスチオール含有短鎖ペプチドは、MMP感受性ビスシステインペプチドであってもよい。たとえば、MMP感受性ペプチドは、MMP2感受性ビスシステインペプチド(たとえば、GCIPVSLRSGCG)、MMP1、MMP、MMP3、MMP7、MMP8、およびMMP9感受性ビスシステインペプチド(たとえば、GCRDGPQGIWGQDRCG)、MMP15感受性チオール化ペプチド(たとえば、GCRDEAPLKQDRCG)、またはMMP1、MMP、MMP3、MMP7、MMP8、MMP9、MMP12、MMP13、およびMMP14感受性ビスシステインペプチド(たとえば、GCRDPLGLDRCG)であってもよい。
【0097】
活性化剤は、任意の比率で架橋剤を含む2つ以上の種類のビスチオールの組み合わせを含んでもよい。たとえば、活性化剤は、2種類のビスチオール含有架橋剤の組み合わせを、約10:1から約1:10の間の比率、例として、約10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、または1:10で含んでもよい。
【0098】
一つの実施形態では、活性剤は、ビスチオール含有架橋剤を含む水溶液の形態であってもよい。水溶液は細胞培養培地であってもよい。一部の実施形態において、活性化剤は、2つ以上のビスチオール(bio-thiol)含有架橋剤の混合物を含んでもよい。活性化剤は、溶液中に任意の好適な濃度のビスチオール含有架橋剤を含んでもよい。好適な実施形態では、活性化剤中のビスチオール含有架橋剤の濃度は、補完ポリマーバイオインク(complementing polymer bio-ink)中のマレイミド含有ポリマーの濃度以下である。マレイミド含有ポリマーとビスチオール含有架橋剤とのモル比は、約10:1から1:1、約9:1から1:1、約8:1から1:1、約7:1から1:1、約6:1から1:1、約5:1から1:1、約4:1から1:1、約3:1から1:1、または約2:1から1:1の範囲であってもよい。ビスチオール含有架橋剤は、生理活性分子を含んでもよく、またはそれに共有結合した1つ以上の生理活性分子を含んでもよい。追加的または代替的に、活性化剤は、溶液中に1つまたは複数の遊離生理活性分子を含んでもよい。活性化剤中の生理活性分子の濃度は、約0.1mMから10mM、約0.5mMから10mM、約1mMから10mM、約1mMから5mM、約2mMから5mM、または約2mMから3mMの範囲であってもよい。
【0099】
一つの実施形態では、活性剤は滅菌溶液である。滅菌溶液を調製するための好適な方法、または活性化剤溶液を滅菌する方法は、当業者に知られているであろう。
【0100】
活性化剤の製剤は、ポリマーバイオインクの製剤と同じであってもよく、またはそれは異なっていてもよい。好ましい実施形態では、ポリマーバイオインクおよび活性化剤に使用される製剤は同じである。
【0101】
一つの実施形態では、活性化剤は生体適合性である。
【0102】
3Dプリントヒドロゲル
本技術の3Dプリントヒドロゲルは、ビスチオール含有架橋剤を使用して架橋されたマレイミド含有ポリマーを含む。一つの実施形態では、3Dプリントヒドロゲルは細胞を含む。
【0103】
一つの実施形態では、3Dプリントヒドロゲルは、マレイミド含有ポリマーと、ビスチオール含有架橋剤を含む活性化剤とを含むポリマーバイオインクの3D印刷によって調製される。
【0104】
3Dバイオプリンティングでの使用に好適であるためには、ヒドロゲルの形成が迅速に起こるべきである。しかしながら、従来技術で使用されるヒドロゲルの急速な形成は、典型的には、不規則なヒドロゲルの形成をもたらした。3Dバイオプリンティングで架橋速度を制御し、均一なゲルを生成するための現在のアプローチは、UV照射や共反応物または触媒等の外部駆動力の利用を含む。これらの外部駆動力は、ヒドロゲルの形成に関与せず、むしろヒドロゲルの形成を補助し、ヒドロゲルにカプセル化された細胞の細胞特性および生物学的特性に影響を与える可能性がある。特に、UV照射の使用を含む光化学的架橋反応は、ヒドロゲル中の細胞と相互作用しないように生成物から除去されなければならないフリーラジカル源の使用を含みうる。
【0105】
本発明者らは、驚くべきことに、マレイミド含有ポリマーをビスチオール含有架橋剤と反応させることにより、高密度および生存率で細胞を支持することができる均一なヒドロゲルの迅速な形成を達成できることを見出した。マレイミド基は、生理学的条件下でチオールと迅速かつ自発的に反応する。この反応は外部の駆動力を必要としないため、細胞毒性の可能性のある共反応物、ラジカル開始剤、またはUV照射の必要性を排除するため、in vitroアッセイの3Dバイオプリンティングでの使用に特に魅力的である。さらに、不要なまたは細胞毒性の副産物が生成されないため、不要な副産物を生成することなく細胞のin situ印刷が可能になる。
【0106】
ビスチオール含有架橋剤を使用するマレイミド含有ポリマー間の架橋反応は、ポリマーバイオインクが活性化剤と接触すると急速に起こり、3Dプリントされたヒドロゲルの迅速な形成を可能にする。したがって、一部の実施形態では、ヒドロゲルは、ポリマーバイオインクおよび活性化剤の印刷から30分以内に形成される。たとえば、ヒドロゲルは、ポリマーバイオインクと活性化剤の印刷から30分以内、または20分以内、または10分以内、または1分以内、または30秒以内、または10秒以内、または1秒以内で形成されうる。サイズ、形状、組成などのさまざまな要因が、3Dプリントヒドロゲルの形成速度に影響を与える可能性がある。
【0107】
マレイミド含有ポリマーとビスチオール含有架橋剤との間の例示的な反応を以下のスキーム1に示す。この反応は、ビスチオール含有架橋剤(1)上のチオール基とマレイミド含有ポリマー(2)上のマレイミド部分のアルケン官能基との求核性(マイケル)付加を含み、水性条件下(たとえば、細胞培養培地中)に3-置換スクシンイミド基を生成する。この反応は、細胞毒性の可能性のある共反応物、ラジカル開始剤、またはUV照射の必要性を排除するため、in vitroアッセイの3Dバイオプリンティングに特に役立つ。さらに、共有結合架橋は、マレイミド含有ポリマーとビスチオール架橋剤を生理学的条件下(たとえば、約6.5~7.5のpH、好ましくはpH7.4)で混合して架橋ポリマー(3)を生成すると、迅速かつ自発的に起こる。
【0108】
【0109】
一つの実施形態では、ポリマーバイオインク、活性化剤、またはその両方のpHは、3D印刷の前に、好適な塩基を使用して、生理学的pH(例えば、約6.5~7.5、好ましくは約pH7.4)に調整されてもよい。好適な塩基は、当業者には明らかであろう。
【0110】
一つの実施形態では、塩基はNaOHである。
【0111】
本発明者らは、NaOHを使用してポリマーバイオインクのpHを調整することにより、活性化剤が3D印刷中のゲル化を加速し、3Dプリントヒドロゲルの迅速な形成を可能にする(たとえば、約1秒未満)ことを見出した。さらに、本発明者らは、NaOHの存在が、ポリマーバイオインク、活性化剤、またはその両方における細胞凝集を低減し、小さなノズル開口部を通して3D印刷のために高濃度の細胞を溶液中に分散させることを可能にすることを見出した。
【0112】
一部の実施形態では、マレイミド含有ポリマーのモル比は、ビスチオール含有架橋剤よりも大きいため、ビスチオール含有架橋剤が消費される。得られるヒドロゲルは、追加の望ましくない副生成物なしに、架橋生成物および過剰のマレイミド含有ポリマー(もしあれば)を含みうる。たとえば、マレイミド含有ポリマーとビスチオール含有架橋剤とのモル比は、約10:1から2:1、約9:1から2:1、約8:1から2:1、約7:1から2:1、約6:1から2:1、約5:1から2:1、約4:1から2:1、約3:1から2:1の範囲であってもよい。
【0113】
好ましくは、ヒドロゲル形成のために、ビスチオール含有架橋剤中のチオール基の数は、マレイミド含有ポリマー中のマレイミド基の数の約60%より大きい。たとえば、マレイミド含有ポリマー中のマレイミド基へのビスチオール含有架橋剤中のチオール基の数は、約60%、または70%、または80%、または90%、または100%、または200%以上であってもよい。一部の実施形態では、ビスチオール含有架橋剤中のチオール基の数は、マレイミド含有ポリマー中のマレイミド基の数と同じ(すなわち、100%)である。
【0114】
本明細書に開示されるポリマーバイオインクおよび活性化剤は、大量のアッセイを生成するために使用されうるので、ポリマーバイオインクおよび活性化剤の調製に使用される材料は、好ましくは、バルクで容易に市販で入手できるか、またはそのような市販の材料から容易に調製される。
【0115】
本技術の3Dプリントヒドロゲルの調製のための典型的プロセスは、以下の工程を含んでもよい:
マレイミド含有ポリマーを含むポリマーバイオインクを提供する工程;
ビスチオール含有架橋剤を含む活性化剤を提供する工程;および
ポリマーバイオインクおよび活性化剤を3D印刷して、3Dプリントヒドロゲルを形成する工程。
【0116】
一つの実施形態では、プロセスは、ポリマーバイオインク、活性化剤、および細胞の3D印刷が細胞を含む3Dプリントヒドロゲルを形成するように、細胞を提供することをさらに含む。
【0117】
一つの実施形態では、細胞はヒドロゲルに懸濁されている。細胞は、ポリマーバイオインク、活性化剤、もしくはその両方、または別の培地で提供されてもよい。細胞は、ヒドロゲルの一部(または複数の部分)に懸濁されていてもよく、またはヒドロゲル全体に実質的に均一に懸濁されていてもよい。
【0118】
一つの実施形態では、細胞は、細胞培養培地で提供される。細胞培養培地は、ポリマーバイオインク、活性化剤内に含まれてもよく、またはポリマーバイオインクおよび活性化剤とは別に提供されてもよい。たとえば、細胞培養培地は、ポリマーバイオインクと活性化剤から形成された3Dプリントヒドロゲルの層間に懸濁されてもよく、またはヒドロゲルの表面上に堆積されていてもよい。
【0119】
一つの実施形態では、3Dプリントヒドロゲルは、生理活性分子をさらに含む。生理活性分子は、ポリマーバイオインクまたは活性化剤、またはその両方で提供されうる。生理活性分子は、ポリマーバイオインクまたは活性化剤、またはその両方に自由に懸濁されてもよく、またはマレイミド含有ポリマーおよび/またはビスチオール含有架橋剤に結合されていてもよい。
【0120】
一つの実施形態では、3D印刷プロセスは、実質的に無菌の環境で実行される。
【0121】
生理活性分子
本技術の3Dプリントヒドロゲルは、特定の生物学的特性を導入するために、1つまたは複数の生理活性分子によって修飾されていてもよい。たとえば、3Dプリントヒドロゲルの生物学的特性は、タンパク質、ペプチド(たとえば、MMP応答性ペプチド)、化学誘引物質、成長因子、有機色素、蛍光色素、薬剤、治療薬、抗体、小分子阻害剤、キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤、抗原、病原体、血小板、サイトカイン、栄養素(たとえば、単糖および多糖)、馴化培地、抗生物質、抗ウイルス、RNAおよび関連するバリアント(たとえば、siRNA、mRNA)等を組み込むことによって改変されうる。マレイミド含有ポリマー、ビスチオール含有架橋剤、またはそれらの任意の組み合わせに共有結合することにより、1つまたは複数の生理活性分子を3Dプリントヒドロゲルに組み込むことができる。ナノ粒子も、3Dプリントヒドロゲルに組み込むことができる。
【0122】
一つの実施形態では、生理活性分子は、短鎖ペプチド(たとえば、NまたはC末端のいずれかにシステイン(C)アミノ酸を含むArg-Gly-Asp(RGD))、成長因子(たとえば、VEGF)、タンパク質(たとえば、ラミニン、コラーゲン)、または化学誘引物質(たとえば、間質細胞由来因子-1(CXCL12))、またはそれらの任意の組み合わせである。他の好適な生理活性分子は、当業者に知られているであろう。
【0123】
一部の実施形態では、1つ以上の生理活性分子は、遊離生理活性分子をポリマーバイオインク、活性化剤、またはその両方に組み込むことによって、3Dプリントヒドロゲルに組み込まれてもよい。ポリマーバイオインク、活性剤、またはその両方は、細胞培養培地を含んでもよい。
【0124】
一つの実施形態では、生理活性分子は、マレイミド含有ポリマーに結合することができる。生理活性分子は、マレイミド基を生物活性分子と反応させて共有結合を形成することにより、マレイミド含有ポリマーに導入することができる。たとえば、共有結合は、チオールとビニルを有する(vinyl-carrying)生物活性分子との間のマイケル型付加反応(たとえば、水性媒体中)、アミノ基とアルデヒド基との間のシッフ塩基反応、ディールス・アルダー反応、クリック化学、活性エステル基へのアミノリシス反応、または酵素架橋によって形成されうる。チオール部分は多くの生理活性分子に豊富に存在するため、マレイミド含有ポリマーへの生理活性分子の取り込みは、マレイミド基のアルケン部分へのチオール基の求核性(マイケル)付加によって起こり、3-置換スクシンイミド部分を生成する。使用される反応物の条件およびモル比に応じて、得られる化合物は、少なくとも1つのマレイミド基を、3-置換スクシンイミド基を有する生理活性分子に変換し、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのマレイミド基をインタクトのままにする。当業者は、少なくとも1つ、または少なくとも2つ以上のマレイミド基がインタクトのままであることを確実にするために反応を制御するための適切な条件(たとえば、反応物のモル比)を決定することができるであろう。
【0125】
チオール含有生理活性分子をマレイミド含有ポリマーに組み込むための典型的なプロセスにおいて、生理活性分子およびマレイミド含有ポリマーは、水溶液(たとえば、緩衝液または細胞培養培地)中で、マレイミド含有ポリマーが生理活性分子の比率を超える(たとえば、3:1、または4:1、または5:1)モル比で室温で混合される。反応の完了は、たとえばエルマンアッセイを介してモニターして、遊離チオール基が残っていないことを確認することができる。典型的な反応時間は約30分である。反応の完了後、必要に応じて好適な塩基(たとえば、NaOH)を加えて、溶液のpHを生理学的pH(約7.4)に調整することができる。pHを生理学的pHに調整するための好適な塩基は、当業者には明らかであろう。得られた修飾マレイミド含有ポリマー溶液は、単離または精製を必要とせずに使用することができる。
【0126】
一つの実施形態では、生体分子含有ポリマーバイオインクまたは活性化剤溶液のpHは、NaOHを使用して生理学的pH(例えば、約6.5~7.5、好ましくはpH7.4)に調整される。ポリマーバイオインクまたは活性化剤のpHを調整するためにNaOHを使用すると、その後の3D印刷中に迅速な重合が可能になり、それによってヒドロゲル形成が加速される(たとえば、1秒未満)。さらに、NaOHを使用すると、ポリマーバイオインク、活性化剤、またはその両方での細胞凝集が減少し、小さなノズル開口部から3D印刷用の溶液に高濃度の細胞を分散させることができる。
【0127】
RGDで部分的に修飾された4アームPEG-マレイミド(4アームPEG-マレイミド-RGD)の例は、4アームPEG-マレイミドをCRGDSと4:1のモル比で反応させることによって調製され、以下の構造(n=28-2、841):
【0128】
【0129】
を有する。
【0130】
VEGFで部分的に修飾された4アームPEG-マレイミド(4アームPEG-マレイミド-VEGF)の例は、4アームPEG-マレイミドをVEGFと4:1のモル比で反応させることによって調製され、以下の構造(n=28-2、841):
【0131】
【0132】
を有する。
【0133】
一部の実施形態では、生理活性分子、たとえばCRGDS、CIKVAV、C末端不対システインを有するVEGF、および/またはMMP感受性ペプチド(たとえば、GCIPVSLRSGCG、GCRDGPQGIWGQDRCG.GCRDPLGLDRCG、またはGCRDEAPLKQDRCG)は、生物学的機能を導入するために3Dプリントヒドロゲルに組み込まれる。たとえば、細胞接着は、CRGDSまたはCIKVAV細胞接着モチーフの組み込みによって導入することができ、血管新生は、VEGFの導入によって促進することができ、そして細胞運動性は、MMP感受性ペプチド架橋剤の組み込みによって促進できる。GCIPVSLRSGCGは、架橋剤中のビスチオール含有架橋剤としての使用に特に好適であるが、追加的または代替的に、マレイミド含有ポリマー、ビスチオール含有架橋剤、またはその両方に共有結合するか、またはポリマーバイオインク、活性剤、またはその両方への遊離生理活性分子として添加することができる。
【0134】
生理活性分子は、所望の生物学的特性を達成するために、任意の好適な濃度で3D印刷されたヒドロゲル中に存在してもよい。たとえば、生理活性分子は、約1nMから100μM、約1nMから50μM、約5nMから50μM、約10nMから50μM、約50nMから50μM、約100nMから50μM、約100nMから1μM、または約500nMから1μMの範囲の濃度で3Dプリントヒドロゲルに存在してもよい。
【0135】
細胞
細胞は、本技術の3D印刷されたヒドロゲルに組み込まれうる。細胞培養培地もヒドロゲルに組み込んで、細胞の生存率を維持したり、増殖および細胞分裂を促進したりすることもできる。細胞および/または細胞培養培地は、それらをポリマーバイオインクまたは活性化剤、あるいはその両方に組み込むことによって、ヒドロゲルに組み込むことができる。
【0136】
一つの実施形態では、細胞は、ポリマーバイオインク、活性化剤、ポリマーバイオインクおよび活性化剤の両方、または別個の培地で提供される。
【0137】
ポリマーバイオインクおよび/または活性化剤は、細胞培養培地を含んでいてもよい。細胞培養培地は、細胞と適合性があり、3D印刷プロセス中に細胞の生存率を維持する任意の好適な培地から選択することができる。たとえば、細胞培養培地は、水(たとえば、滅菌されたMilliQ水)、緩衝液、および細胞培養培地を含む溶液であってもよい。好適な緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸(HEPES)、および2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。好適な細胞培養培地の非限定的な例は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、Media 199培地、ハムF10培地、ハムF12培地、マッコイ5A培地、およびロズウェルパーク記念研究所(RPMI)培地を含む。
【0138】
一部の実施形態では、細胞培養培地は、還元剤(たとえば、2-メルカプトエタノールまたはトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP))、安定剤(たとえば、フィコール(登録商標)またはPVP)、および/または生育サプリメント[growth supplement](たとえば、L-グルタミンまたはヒドロコルチゾン)をさらに含んでもよい。好適な生育サプリメントの非限定的な例は、ウシ胎仔血清(FCS)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFBF)、線維芽細胞増殖因子(FBF)、内皮細胞増殖因子(ECGF)、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、および血小板由来増殖因子(PDGF)を含む。還元剤は、たとえば、架橋剤中の遊離チオール基間のジスルフィド架橋の形成を防止することができる。安定剤は、たとえば、細胞が細胞培養培地から沈降するのを防ぐために使用することができる。必要に応じて、適切な塩基を使用して、細胞培養培地のpHを約7.4の生理学的pHに調整することができる。一つの実施形態では、水酸化ナトリウム(NaOH)は、細胞凝集を促進しないので、細胞培養培地のpHを中和または制御するための塩基として使用される。
【0139】
回収した細胞を、ポリマーバイオインクまたは活性化剤、またはその両方において選択された細胞濃度で再懸濁することができる。ポリマーバイオインク、および/または活性化剤中の細胞の濃度は、約1×105から約5×108細胞/mL、または約1×105から約1×108細胞/mL、または約1×105から約1×107細胞/mL、または約5×105から約1×107細胞/mL、または約5×105から約5×106細胞/mL、または約5×106から約5×106細胞/mLの範囲であってもよい。一つの実施形態では、細胞は、ポリマーバイオインク、および/または活性化剤、または細胞培養培地中に、ポリマーバイオインク、および/または活性化剤の約4×106細胞/mL、または5×106細胞/mLで懸濁される。
【0140】
任意の好適な細胞を、本技術のポリマーバイオインクおよび活性化剤と一緒に使用することができる。たとえば、好適な細胞は、哺乳動物肝細胞、胃腸細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、気管細胞、血管細胞、骨格筋細胞、心臓細胞、皮膚細胞、平滑筋細胞、結合組織細胞、角膜細胞、泌尿生殖器細胞、乳房細胞、生殖細胞、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、シュワン細胞、脂肪細胞、骨細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、周皮細胞、中皮細胞、内分泌組織由来細胞、間質細胞、幹細胞、前駆細胞、リンパ細胞、血液細胞、内胚葉由来細胞、外肺葉由来細胞、中胚葉由来細胞、またはそれらの任意の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0141】
他の好適な細胞型は、他の真核細胞(たとえば、チャイニーズハムスター卵巣細胞)、細菌(たとえば、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、真菌(たとえば、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum))、および酵母(たとえば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を含んでもよい。
【0142】
3Dプリントヒドロゲルは、少なくとも約100、または約1,000、または約5,000、または約10,000、または約50,000、または約100,000、または約150,000、または約200,000、または約250,000、または約300,000、または約350,000、または約400,000、または約450,000、または約500,000以上の細胞を含んでもよい。他の数の細胞を使用できることは当業者には理解されるであろう。
【0143】
一部の実施形態では、プロセスは、細胞の増殖または維持を可能にする条件下で、ヒドロゲルに懸濁された細胞をインキュベートすることをさらに含む。一部の実施形態では、細胞は、幹細胞の分化を可能にする条件下でヒドロゲルに懸濁することができる。インキュベーションは、任意の好適な温度および条件で行うことができる。たとえば、細胞の増殖、維持、または分化に好適なインキュベーションは、約37℃で約5%のCO2を用いて少なくとも24時間行うことができる。インキュベーションは、ヒドロゲル中の細胞の種類の細胞増殖、維持または分化を可能にする任意の温度および持続時間で実施できることが理解されよう。
【0144】
他の実施形態では、プロセスは、細胞増殖に好適でない可能性がある条件下で、ヒドロゲルに懸濁された細胞をインキュベートすることをさらに含む。たとえば、インキュベーションは、酸素を欠く条件下で、細胞を飢餓状態にするための無血清環境で、酸性または塩基性環境で、加えられた外圧下で、電場の存在下で、一定の振とう下で、またはそれらの任意の組み合わせで行うことができる。特定の生物学的状態を模倣するための他の好適な条件は、当業者に知られているであろう。
【0145】
3Dバイオプリンティング
本技術のポリマーバイオインクおよび活性化剤は、ドロップオンデマンド(DOD)バイオプリンティングに好適であり、それにより、バイオプリンティングは、ポリマーバイオインクおよび活性化剤の個別の液滴の生成に基づいており、とりわけ、サーマルインクジェット、ピエゾインクジェット、マイクロバルブベースのバイオプリンティングを含みうる。他のドロップオンデマンド印刷技術と同様に、ポリマーバイオインクおよび活性剤はバイオプリンターカートリッジ内で液体でなければならない。さらに、ポリマーバイオインクおよび活性化剤は、バイオプリンティングカートリッジに保存したときに高い細胞生存率を維持するために、生体適合性材料で製造する必要がある。
【0146】
3DアッセイのDODバイオプリンティングは、ポリマーバイオインクの液滴およびバイオプリンターソフトウェアによって決定された基板上のあるサイズおよび位置での活性化剤の反復堆積を含む。したがって、一つの実施形態では、3Dバイオプリンティングは、液滴を形成および堆積することができる3Dバイオプリンターを使用して行われる。バイオプリンターは、少なくともポリマーバイオインク、活性化剤、および洗浄溶液用の流体リザーバー、3軸運動制御ステージ、ドロップオンデマンド液滴分配システム、ならびに流体リザーバー内の圧力を制御するための圧力調整器を有してもよい。液滴分配システムおよび3軸ステージは、層流キャビネット等の無菌チャンバー内に収容できる。印刷プラットフォームは、マイクロウェルプレートおよびペトリ皿等、さまざまな種類の素材に印刷するためのアダプターを含んでもよい。印刷プラットフォームは、細胞増殖を補助するために約37℃に加熱することができる。
【0147】
3Dバイオプリンターは、印刷フォーマットを定義するためのソフトウェアを有するコンピューターによって制御されうる。
【0148】
3Dバイオプリンターは、細胞の完全性、生存能力または機能性を可能にする方法で、ポリマーバイオインクおよび活性化剤の液滴を印刷(堆積)するように構成できる。ポリマーバイオインクおよび活性化剤の堆積は、任意の順序で実施できることが理解されよう。ポリマーバイオインクの液滴を基板に適用し、続いて活性化剤の液滴を適用してヒドロゲル液滴を形成するか、または活性化剤の液滴を基板に適用し、続いてポリマーバイオインクの液滴を適用してヒドロゲル液滴を形成することができる。
【0149】
本技術のプロセスによって形成されたヒドロゲルは、実質的に均一な3D構造を含む。ヒドロゲルが細胞を含む場合、細胞は、ヒドロゲル全体に実質的に均一に分布してもよく、またはそれらは、ヒドロゲルのヒドロゲルの一部内に懸濁されてもよい。細胞は、ヒドロゲル内の1つ以上の選択された位置に堆積されてもよい。
【0150】
印刷基板は、印刷されたヒドロゲル構造を封入および培養するために使用される生体適合性の消耗品である。基板は、細胞を収容、保持、または増殖させるための任意の好適な容器から選択することができる。例は、異なるウェル構成(6、24、48、および96ウェル)のマイクロタイタープレート、異なるウェル構成(6、24、48、および96ウェル)のカバーガラス底部を備えたマイクロタイタープレート、様々なサイズのフルオロディッシュ、異なるチャンバー構成(1、2、4、8、および16)のチャンバースライド、カバーガラス、または顕微鏡スライド、またはペトリ皿を含む。一部の実施形態では、3Dバイオプリンティングプロセスは、基板上に複数の3D組織培養モデルを形成するために行われる。たとえば、96ウェルマイクロタイタープレートは好適な基板であり、複数の細胞アッセイに使用できる。他の好適な容器は、当業者に知られているであろう。
【0151】
アッセイの3D構造は、バイオプリンターソフトウェアを使用して設計することができる。 好適なバイオプリンターおよびバイオプリンターソフトウェアは、当業者に知られているであろう。たとえば、96ウェルプレートでのバイオプリンティングの場合、バイオプリンターソフトウェアは、選択された直径の層でウェル内の液滴を繰り返し堆積するように構成することができる。
【0152】
ポリマーバイオインクおよび活性化剤は、印刷時に迅速に反応してヒドロゲルを形成し、3D構造およびアッセイの迅速なハイスループット生成を可能にする。一つの実施形態では、本技術のポリマーバイオインクおよび活性化剤は、混合の数秒以内に(すなわち、印刷時に)ヒドロゲルを形成する。たとえば、ヒドロゲルは、混合の5秒以内に、好ましくは混合の4、3、2、または1秒以内に形成されうる。
【0153】
本技術のポリマーバイオインクおよび活性化剤は、任意の適切なDODバイオプリンティングシステムと共に使用することができる。本発明者らは最近、3D in vitroアッセイのバイオプリンティングのために特別に設計されたDODバイオプリンティングシステムを開発した。より具体的には、バイオプリンターは、ポリマーバイオインクおよび活性化剤を最大200cPで、最大5億細胞/mLの細胞で95%を超える細胞生存率で印刷することができる。開発されたシステムは、ハイスループットな方法で3Dスフェロイドアッセイをバイオプリンティングするために首尾よく使用されている。したがって、本技術のバイオインクは、本発明者らによって開発された3Dバイオプリンティングシステムを使用する3D細胞印刷に特に有用である。
【0154】
本技術のヒドロゲルの高速ゲル化特性は、開発されたバイオプリンターの新規の印刷ロジックと組み合わされて、バイオプリンターを96ウェルフォーマットでの複雑な3Dアッセイの迅速な印刷を可能にした。たとえば、96ウェルプレートにおける3Dアッセイのバイオプリンティングは、約1時間未満、好ましくは約30分未満、たとえば、約25分、または約20分、または約15分、またはそれ以下で達成されうる。
【0155】
ポリマーバイオインクおよび活性化剤は、印刷の直前に別個の滅菌カートリッジに装填することができ、またはそれらをカートリッジに保存することができる。細胞バイオインクをカートリッジに保存する場合、カートリッジは、さらに使用する必要があるまで4℃で保存することが好ましい。本技術のポリマーバイオインクおよび活性化剤は、印刷前の長期間の細胞生存率を補助しうる。たとえば、細胞は、少なくとも約2時間印刷する前に、ポリマーバイオインクおよび活性剤中で生存し続けることができる。一部の実施形態では、本技術のポリマーバイオインクおよび活性化剤は、細胞生存率に実質的に影響を与えることなく、-20℃で少なくとも6ヶ月間保存することができる。同様に、本技術の3Dプリントヒドロゲルは、印刷後の長期間の細胞生存率を補助しうる。たとえば、細胞は3Dプリントヒドロゲルで少なくとも約21日間生存し続けることができる。
【0156】
使用する準備ができたら、カートリッジを清潔なバイオプリンターに接続することができる。カートリッジおよび/またはバイオプリンター(流体ライン、バルブおよびノズルを含む)の洗浄は、当技術分野で知られている任意の好適な方法、たとえば、エタノール(水中70v/v%)の拭き取り、空気乾燥、およびバイオセーフティキャビネット内に配置することによって達成することができる。好ましくは、バイオプリンターは、洗浄後および印刷前に、使用されている組織培養培地でパージされる。
【0157】
用途
本技術の3Dプリントヒドロゲルは、様々なin vitro用途を有しうる。一例では、本技術の3Dプリントヒドロゲルを使用して、細胞運動性、細胞遊走、細胞浸潤、経内皮遊走、上皮-間葉移行、間葉-上皮移行、スフェロイドの形成および増殖、細胞分化(たとえば、幹細胞分化、細胞分化マーカーのモニタリング)、細胞死(たとえば、細胞アポトーシス、細胞ネクローシス)、細胞オートファジー、細胞増殖、細胞代謝、タンパク質代謝回転、タンパク質分布および場所、細胞シグナル伝達および下流イベント、薬剤有効性、薬力学、薬物作用メカニズム、薬物受容体媒介輸送、薬物内在化メカニズム、バイオマーカー評価、細胞間接合、細胞間シグナル伝達および下流イベント、細胞形態、細胞接着、遺伝子発現、タンパク質発現、細胞ホーミング、細胞サイクルの調節および制御、サイトカイン放出、インスリン産生、タンパク質分泌および細胞内輸送(trafficking)および輸送(transport)、受容体-リガンド結合、抗体結合、抗体特異性、タンパク質リン酸化、プロテオソーム機能、酵素機能(たとえば、酵素阻害)、免疫調節、クローン形成能、酸化ストレス、タンパク質フォールディング、細胞骨格、オルガネラの形態および機能(たとえば、ミトコンドリア、葉緑体、ペルオキシソーム、分泌小胞、液胞、リボソーム、核、リソソーム、繊毛、小胞体、ゴルジ)、膜輸送、低酸素症、血管新生、創傷治癒、神経突起(成長または形成)、キナーゼ機能、ホスファターゼ機能、葉状仮足(lamellipodial)形成およびダイナミクス、焦点接触/接着形成、ダイナミクスおよびシグナル伝達、細胞センシング、および機械的シグナル伝達を含むがこれらに限定されない生物学的表現型の試験のためのアッセイを調製することができる。
【0158】
本技術の3D印刷されたヒドロゲルはまた、in vivo用途(たとえば、動物研究)に好適である可能性がある。たとえば、本技術の3Dプリントヒドロゲルは、細胞の有無にかかわらず、同所性および皮下モデルで使用することができる。
【実施例0159】
以下の実施例は、本技術および本技術の3Dプリントヒドロゲルで達成することができ、有益な効果の例示であり、限定として解釈されるべきではない。
【0160】
材料
4アームPEGマレイミド(PEG-Mal、分子量 5、10、および20kDa、JenKem)、PEGビスチオール(分子量 1kDa、Sigma Aldrich)、ゼラチン(ウシ、魚、またはブタ由来、Sigma Aldrich)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、Sigma Aldrich)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS、Sigma Aldrich)、水酸化ナトリウム(NaOH)、CRGDS、CIKVAV、CYIGSR、GCRDGPQGIWGQDRCG、GCRDPLGLDRCG、およびGCIPVSLRSGCG(>90%、Genscript)、塩化カルシウムを含まないリン酸緩衝液(PBS、Gibco)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco)、カルシウムを含まないDMEM(Gibco)、ピルビン酸ナトリウム(Gibco)、L-グルタミン(Gibco)、トリプシン(Sigma Aldrich)、0.22μmシリンジフィルター(ポリエーテルスルホン膜、Merck Millipore)T75およびT150フラスコ(Corning)、15mL遠心管(Corning)、エタノール(Sigma Aldrich)を受け取ったまま使用した。
【0161】
実施例1 -PEG-Malポリマーバイオインクの調製
実施例1a -PBSにおけるポリマーバイオインクの調製
3種類のPEG-MalポリマーバイオインクをPBS緩衝液中で調製した。
【0162】
PEG-Malポリマーバイオインク
PEG-Malポリマーバイオインクは、PEG-Mal(7.5重量%)をPBS緩衝液に室温で混合することにより調製した。 完全に溶解した後、溶液を0.22μmシリンジフィルターで無菌的に濾過した。
【0163】
PEG-RGDポリマーバイオインク
RGD含有PEG-Mal(PEG-RGD)ポリマーバイオインクは、CRGDSを、PBS緩衝液中のPEG-Mal(10重量%で)と室温で30分間混合することによって調製し、合計5mMのRGD濃度を得た。反応の完了は、遊離チオールが記録されていないときにエルマンアッセイによって確認した。反応生成物は、10重量%および5mMのRGD濃度のPEG-RGDを含み、PBSに溶解した。完全に溶解した後、RGD濃度と等モル濃度のNaOHを溶液に加えて、溶液のpHを7.4に上げた。この溶液を、0.22μmシリンジフィルターで無菌的に濾過して滅菌した。
【0164】
PEG-トリペプチドポリマーバイオインク
RGD、IKVAVおよびYIGSR(PEG-トリペプチド)ポリマーバイオインクを含むPEG-Malは、CRGDS、CIKVAVおよびCYIGSR(所望のモル濃度で)をPBS緩衝液中のPEG-Mal(15重量%で)と混合することによって調製した。室温で30分間溶液を溶解し、15重量%のPEG-トリペプチドおよび0.67mMのRGD、YIGSR、およびIKVAVを得た。完全に溶解した後、1M NaOHを滴下して溶液のpHを7.4に上げた。 次に、得られた溶液を、0.22μmシリンジフィルターで無菌的に濾過することにより滅菌した。
【0165】
図2は、CRGDSによる4アームPEG-Malの修飾の分析を示す。UV分析では、反応開始時に412nmに明確なピークが見られた(
図2(a))。これは、エルマン試薬のジスルフィド結合がチオール部分(この場合はCRGDS)によって切断され、イオン化されたときに生成されるTNB
2-(2-ニトロ-5-チオベンゾエート)イオンの存在を表している。対照的に、このようなピークは、CRGDSを含まない4アームPEG-Mal溶液には存在せず、反応を30分間進行させた後、4アームPEG-Malがエルマン試薬と反応していないことを示唆しており、CRGDSがそれぞれ30分後に完全に反応した。CRGDS結合の定量化は、
1H NMRを使用して、アミドおよびマレイミドのプロトンピークを比較することで確認した(
図2(b))。
【0166】
実施例1b -細胞培養培地中におけるポリマーバイオインクの調製
細胞培養培地中のRGD含有PEG-Malポリマーバイオインクは、PBS溶液の代わりに、印刷される細胞に適切な細胞培養溶液を使用して、実施例1aの手順に従って調製した。得られたポリマーバイオインクを、濾過(0.22μmフィルター)により無菌的に滅菌した。
【0167】
実施例1に従って調製されたポリマーバイオインクは、さらなる使用が必要になるまで-20℃で保存した。ポリマーバイオインクは、機能に影響を与えることなく、-20℃で少なくとも6カ月間保存できる。
【0168】
実施例2 -PEGビスチオールおよびGCIPVSLRSGCG活性化剤の調製
実施例2a -PBS中での活性化剤の調製
活性化剤は、ジチオスレイトール(DTT)、PEGビスチオール、GCIPVSLRSGCG、およびGCRDPLGLDRCG、またはそれらの様々な組み合わせを、相補的ポリマーバイオインクのマレイミド濃度に等モルの総チオール濃度でPBS中で混合することによって調製した。得られた溶液を、0.22μmシリンジフィルターで無菌的に濾過して滅菌した。
【0169】
実施例2b -細胞培養培地中における活性化剤の調製
活性化剤は、印刷される細胞に適切な細胞培養溶液中で、相補的バイオインクのマレイミド濃度に等モルの総チオール濃度で、ジチオスレイトール(DTT)、PEGビスチオール、GCIPVSLRSGCG、およびGCRDPLGLDRCGを混合することによって調製した。得られた溶液を無菌的に濾過(0.22μmフィルター)により滅菌した。
【0170】
実施例2に従って調製された活性化剤は、さらなる使用が必要になるまで-20℃で保存した。活性化剤は、機能に影響を与えることなく、-20℃で少なくとも6カ月間保存できる。
【0171】
実施例3 -細胞培養
SK-N-BE(2)(ヒト神経芽細胞腫)、KrasG12Dおよびp53R172H(膵管腺がん)、MCF7(ヒト乳がん)、およびU87vIII(ヒト神経膠芽腫)細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)/DMEMで37℃/5% CO2で個別に維持した。ヒト非小細胞肺がんH460細胞は、ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)1640培地および10%FCSで37℃/5% CO2で培養された。細胞株は定期的にスクリーニングされ、マイコプラズマ汚染はなかった。
【0172】
実施例4 -トリパンブルー色素排除試験
実施例3に従って培養したSK-N-BE(2)、KrasG12Dおよびp53R172H、H460、およびU87vIII細胞を、トリプシン/PBSを使用してT75フラスコから収集し、遠心分離を使用してペレット化した。細胞を、PEG-Mal及びPEG-RGDを10重量%および5mM RGD濃度で含むポリマーバイオインクに再懸濁して、細胞濃度を2×106細胞/mLにした。サンプルを、印刷された対照および印刷されていない対照の2つの群に分けた。印刷されたサンプルは3Dバイオプリンターを通過し、室温で30分間無菌状態に保たれた。0.4%トリパンブルー染色(Invitrogen)を使用して死細胞を同定した。細胞数は、各サンプルの生細胞と死細胞の数を数えることによって得られた。細胞生存率は、生細胞の総数を細胞の総数(生+死)で割ることによって決定された。
【0173】
実施例5 -細胞ポリマーバイオインクの調製
特定の培養密度での目的の培養細胞を、実施例4の手順に従って収集した。細胞ポリマーバイオインクを構成するために、収集した細胞を、適切な細胞濃度で実施例1(a)または1(b)に従って調製した滅菌ポリマーバイオインクに再懸濁し、2×106細胞/mLの1mLの滅菌ポリマーバイオインクを得た。
【0174】
実施例6 -細胞活性化剤の調製
特定の培養密度での目的の培養細胞を、実施例4の手順に従って収集した。細胞活性化剤を構成するために、収集した細胞を、適切な細胞濃度で実施例2(a)または2(b)に従って調製した滅菌活性化剤に再懸濁した。
【0175】
実施例7 -3D細胞生存率アッセイ
生/死染色を使用して、ヒドロゲルカプセル化細胞の生存率をモニターした。DMEM中のカルセインAM(1μLmL-1)およびエチジウムホモダイマー-I(4μLmL-1)を使用して、それぞれ生細胞と死細胞とを染色した。実施例5に従って調製された細胞ポリマーバイオインクを使用して、カプセル化された細胞を有するヒドロゲルを3Dバイオプリンティングした。必要なインキュベーション期間後、共焦点蛍光顕微鏡分析の前に、バイオプリントヒドロゲルを生/死染色とともに37℃/5% CO2で少なくとも2時間インキュベートした。
【0176】
実施例8 -レオロジー解析
5mM RGD(10重量%)を有する4アームPEG-Malヒドロゲルから調製され(実施例1(a)に従って調製された)、PEGビスチオールおよびMMP2感受性ビスシステインペプチドGCIPVSLRSGCG(50:50チオールモル濃度で混合)(実施例2(a)に従って調製された)で架橋されたヒドロゲルについて機械的特性を研究した。
【0177】
ヒドロゲルレオロジーは、同心円筒状スピンドルおよびカップシステムを備えたアントンパールモジュラーコンパクトレオメーター(MCR)302を使用して測定した。粘度測定は、1~1000s-1のせん断速度値で行った。ヒドロゲルのレオロジー特性は、平行平板形状(直径25mm)システムと液体の蒸発を最小限に抑えるための溶媒トラップを備えた同じマシンを使用して測定した。レオロジー測定は予熱されたプレート上で行われ、37℃の一定温度に維持された。振幅ひずみ掃引実験(γ:1 100%)を行い、10Hzの固定周波数で線形粘弾性領域(LVR)を決定した。各サンプルのLVRを確立し、ヒドロゲルの線形粘弾性領域で固定ひずみで動的周波数掃引を行った(ω:0.1~10Hz)。時間掃引測定は、通常、固定周波数(10Hz)およびひずみ振幅(LVR内)で行った。
【0178】
図3に示されるように、周波数(
図3(a))およびひずみ(
図3(b))掃引研究は、ゲルの機械的特性がこれらの2つのパラメータから独立していることを確認した。
【0179】
その後の剛性の決定は、ヒドロゲルの粘弾性領域内の一定の周波数およびひずみ値で行った(
図3(c))。ヒドロゲルをキャストしてから1分以内に測定を行った。
図3(c)は、測定期間を通じて、貯蔵弾性率(G’)値が常に損失弾性率(G’’)値よりも高かったことを示している。約1.1kPaの一定の貯蔵弾性率値は、ゲル化プロセスが1分以内に完了したことを示している。ポリマーバイオインクと活性剤の両方の粘度研究では、粘度値が10 cP未満であることが示され、ポリマーバイオインクと活性剤の両方がドロップオンデマンドバイオプリンティングプロセスに非常に好適である(
図3(d))。
【0180】
PEGビスチオール(実施例2(a)に従って調製された)で架橋された4アームPEG-Malブランクポリマーバイオインク(実施例1(a)に従って調製された)から調製されたヒドロゲル、およびMMP感受性活性化剤((GCIPVSLRSGCG) 実施例2(a)に従って調製された)で架橋されたPEGトリペプチドから調製されたヒドロゲルについても機械的特性を研究した。剛性の決定は、PEG-Malヒドロゲル(
図4(a))およびPEGトリペプチドヒドロゲル(
図4(b))の粘弾性領域内で一定の周波数とひずみの値で行った。ヒドロゲルをキャストしてから1分以内に測定を行った。
図4(a)および4(b)は、貯蔵弾性率(G’)値が、測定期間を通じて常に損失弾性率(G’’)値よりも高かったことを示している。この観察により、バイオインクと活性化剤が混合されたときにヒドロゲルの存在を確認した。定量的に、PEG-MalブランクポリマーバイオインクとPEGビス-活性化剤から形成されたヒドロゲルの剛性値は約0.2kPaであり、PEGトリペプチド/MMP感受性ヒドロゲルの剛性値は約1.6kPaであった。
【0181】
実施例9 -3Dバイオプリンティングプラットフォーム
本実施例で使用される3Dバイオプリンターの構成要素は、3軸運動制御ステージ、ドロップオンデマンド液滴分配システム、および流体リザーバー内の圧力を制御するための圧力調整器を含む。液滴分配システムおよび3軸ステージは、層流キャビネット等の無菌チャンバー内に収容することができる。印刷プラットフォームは、マイクロウェルプレートやペトリ皿等、さまざまな種類の基板に印刷するためのアダプターを含む。印刷プラットフォームは、細胞増殖を補助するために37℃に加熱することができる。
【0182】
3軸運動制御ステージ(MX80S、Parker)は、3つすべての(X、YおよびZ)次元において10μmの解像度で液滴分配システムを正確に配置することができる。10個の液滴ディスペンシングシステムは、マイクロコントローラー(Arduino Mega 2560、Arduino)によって制御されるjewelled orifice dispensing nozzle (MINSTAC Nozzle, The Lee Company)を備えた電磁弁(VHSシリーズ電磁弁、The Lee Company)からなる。jewelled orifice nozzleの内径は、流体の粘度および所望の液滴量に応じて、127~254μmにすることができる。各液滴分配システムは、ポリマーバイオインクおよび活性化剤溶液が柔軟なチューブを介して分配されるための静圧リザーバーに取り付けられている。流体リザーバーの背圧および電磁弁の開放時間を使用して、必要な液滴量を調整することもできる。通常、背圧は1~300kPaの圧力に設定され、電磁弁の開放時間は0.3ms以上で、液滴の体積は1~500nLである。ポリマーバイオインクと活性化剤リザーバーを接続するフレキシブルチューブは、システムのプライミングと印刷ルーチンの最後のパージにかかる時間を最小限に抑えるために、可能な限り短く保たれた。
【0183】
実施例10 -コントロールソフトウェア
3Dバイオプリンターは、生物学的アッセイを印刷するために開発されたカスタムソフトウェアを介して制御された。このソフトウェアは、グラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)を含んでおり、Pythonプログラミング言語で記述されている。GUIを介して、エンドユーザーはさまざまなアッセイ印刷ルーチンを選択し、液滴間隔や液滴体積などのアッセイパラメーターを変更できる。ユーザーは、液滴ディスペンシングシステムの空間位置を手動で制御し、液滴のカスタムパターンを作成することもできる。ソフトウェアの追加機能は、液滴ディスペンシングシステムをプライミングおよびパージするためのルーチンを含む。
【0184】
実施例11 -3Dバイオプリンティング
滅菌ポリマーバイオインクおよび活性化剤を、印刷前に室温に加熱した。目的の細胞を、ポリマーバイオインクおよび/または活性化剤と所望の細胞濃度で混合した。次に、すべての溶液をバイオプリンターのサンプルトレイにロードした。バイオプリンティングは、Rastrum(商標)モジュラー3Dバイオプリンター(Inventia Life Science(ILS))を使用して行った。構造は、Rastrum(商標)ソフトウェア(ILS)を使用して設計した。2つの異なるバイオプリントサンプルを印刷した;直径約6.35cm、厚さ400μmの円筒形構造と直径100μmの半球構造で、直径6.35cm、厚さ100μmの不活性ゲル層の上にある。ポリマーバイオインクと活性化剤の両方の溶液は、20~100kPaの印刷圧力で印刷された。バイオプリンティングプロセスの前に、Rastrum(商標)バイオプリンターは自動滅菌およびプライミングステップを実施した。
【0185】
3Dオブジェクトの生成は、ポリマーバイオインク液滴の堆積によって達成され、その後、ソフトウェアによって決定された位置で、その直後に活性化剤液滴がその上に堆積された。すべての印刷は96ウェルプレート(Corning)で行われた。完了したら、細胞に関連する細胞培養培地(150μL)を添加し、プレートをインキュベーターに移動した。
【0186】
図1は、3Dバイオプリンティングプロセスの代表的な概略図である。使用されたポリマーバイオインクは、4アームPEGマレイミド(PEG-Mal)、CRGDS、および所望のがん細胞(実施例1(a)および5に従って調製された)を含んでいた。活性化剤は、PEGビスチオールおよびビスチオールMMP感受性ペプチドGCIPVSLRSGCG(実施例2(a)に従って調製された)の混合物を含んでいた。両方の溶液を、実施例9に従ってILS 3Dバイオプリンターシステムにロードし、これは、空間的に制御された方法でポリマーバイオインクと活性化剤の組み合わせを堆積させた。両方の溶液を混合すると即座にゲル化が起こり、96ウェルプレート内のヒドロゲル内に三次元的にカプセル化された細胞が生成された。
【0187】
実施例12 -膵管腺がん(Kras
G12D
およびp53R
172H
)の3Dバイオプリンティング
チオール-マレイミド架橋PEGヒドロゲル内の三次元的にカプセル化されたがん細胞の複数のサンプルを、ILS 3Dバイオプリンターを使用してバイオプリントした。具体的には、がん細胞、ポリマーバイオインク、および活性化剤の同時送達が、バイオプリンターを使用して行われ、バイオプリンティングされたヒドロゲル内のin situ細胞カプセル化の迅速な作成を達成した。
【0188】
細胞培養
T150フラスコ中の80%培養密度の膵管腺がん細胞KrasG12Dおよびp53R172Hを3mLのPBSで洗浄した。過剰なPBSを吸引した後、3mLのトリプシンを添加し、フラスコを37℃でインキュベートして、フラスコ表面から細胞を5分間解離させた。続いて、DMEMとFCSを10v/v%で混合して調製した7mLの組織培養培地を添加し、解離した細胞を15mLチューブに移動した。細胞分散液を400gで3分間遠心分離した。上清を廃棄し、細胞ペレットを5mLの培地に再懸濁した。次に、等量の細胞懸濁液とトリパンブルー染色を混合して細胞濃度を決定することにより、細胞計数を行った。
【0189】
基板
組み込まれたCorningによって供給された96ウェルプレートは、受け取ったままで使用された。内容物の無菌性を維持するために、無菌包装を無菌環境で開封した。
【0190】
ポリマーバイオインク
ポリマーバイオインクを調製するために、PEG-Mal(0.150g)を1.5mLのPBSに溶解して、10重量%のポリマーバイオインクを得た。PEG-RGDを組み込む場合は、CRGDS(1.34mg)を溶液に加え、30分間撹拌して、5mM RGDを含む10重量%PEG-Mal/PEG-RGDポリマーバイオインクを得た。この溶液に、2.5μLの1M NaOHを添加し、溶液のpHを7.4に上げた。次に、溶液を無菌環境下で0.22μmシリンジフィルターで濾過した。
【0191】
2×106細胞/mLで1mLのDMEMに分散された、収集されたKrasG12Dおよびp53R172Hを遠心分離して、500,000細胞の細胞ペレットを得た。次に、得られたペレットをポリマーバイオインク(1mL)に再分散させて、2×106細胞/mLでKrasG12Dおよびp53R172H細胞を分散させた細胞ポリマーバイオインク溶液を得た。
【0192】
活性化剤
非MMPおよびMMP感受性ヒドロゲルの両方を生成するために、2つの異なる活性化剤を調製した。2つの活性化剤は、PEGビスチオール(0.01975g)のみ、またはPEGビスチオール(0.0096g)とGCIPVSLRSGCG(0.0111g)の組み合わせのいずれかから調製し、それぞれ1mL PBSに溶解して、ポリマーバイオインクのマレイミド濃度に等モルの総チオール濃度の活性化剤を得た。次に、各溶液を無菌環境下で0.22μmシリンジフィルターで濾過した。
【0193】
細胞印刷条件
細胞ポリマーバイオインクおよび活性化剤を、バイオプリンターに接続された関連するカートリッジにロードした。細胞ポリマーバイオインクと活性化剤の両方を0.007”ノズルに接続し、10Psiで動作させた。
【0194】
プリンターは、最初にエタノール(水中で70v/v%)で拭き取り、空気乾燥することによって洗浄された。流体ライン、バルブ、およびノズルも、エタノール、水、および組織培養培地のパージによって、この順序で滅菌された。次に、細胞ポリマーのバイオインクおよび活性化剤をそれぞれのバイアルにロードした。次に、印刷ルーチンを開始する前に、プリントヘッドをプライミングした。
【0195】
アッセイの3D構造は、ILSカスタムメイドソフトウェアを使用して設計した。3Dアッセイは、総直径6.35mmの円形ゲルの3層で構成されていた。3Dアッセイのバイオプリンティングは、ソフトウェアを介して決定された位置にポリマーバイオインクと活性化剤のペアの液滴を繰り返し堆積させることによって行った。
【0196】
細胞濃度
2×106細胞/mLの濃度の細胞ポリマーバイオインクをこの実験で使用した。
【0197】
細胞生存率
95%以上の細胞生存率が得られた。
【0198】
実施例13 -ヒト乳がん細胞(MCF7)の3Dバイオプリンティング
細胞培養
T75フラスコ中の80%培養密度のMCF7細胞を3mLのPBSで洗浄した。過剰なPBSを吸引した後、1mLのトリプシンを添加し、フラスコを37℃でインキュベートして、フラスコ表面から細胞を3分間解離させた。続いて、DMEMとFCSを10v/v%で混合して調製した7mLの組織培養培地を添加し、解離した細胞を15mLチューブに移動した。細胞分散液を400gで3分間遠心分離した。上清を廃棄し、細胞ペレットを5mLの培地に再懸濁した。次に、等量の細胞懸濁液とトリパンブルー染色を混合して細胞濃度を決定することにより、細胞計数を行った。
【0199】
基板
組み込まれたCorningによって供給された96ウェルプレートは、受け取ったままで使用された。内容物の無菌性を維持するために、無菌包装を無菌環境で開封した。
【0200】
ポリマーバイオインク
ポリマーバイオインクを調製するために、PEG-Mal(0.1125g)を1.5mLのPBSに溶解して、7.5重量%のポリマーバイオインクを得た。PEGトリペプチドは、CRGDS(0.54mg)、CIKVAV(0.64mg)、CYIGSR(0.70mg)、およびPEG-Mal(0.225g)を1.5mLのPBSで30分間混合して、15重量%のPEG-トリペプチドおよび0.67mMのRGD、YIGSR、およびIKVAVを得た。1M NaOHを滴下して溶液のpHを7.4に上げた。両方の溶液を、0.22μmシリンジフィルターで無菌的に濾過した。
【0201】
活性化剤
非MMPおよびMMP感受性ヒドロゲルの両方を生成するために、2つの異なる活性化剤を調製した。2つの活性化剤は、PEGビスチオール(0.0015g)、またはGCRDPLGLDRCG(0.019g)のいずれかから調製し、それぞれ1mL PBSに溶解して、それぞれブランクバイオインクおよびPEGトリペプチドのマレイミド濃度に等モルの総チオール濃度の活性化剤を得た。次に、MMP感受性活性化剤溶液を1M NaOHを滴下してpHを7.4に上げた。次に、各溶液を無菌環境下で0.22μmシリンジフィルターで濾過した。
【0202】
1mLのDMEMに分散された収集されたMCF7を遠心分離して、10.000,000細胞の細胞ペレットを得た。次に、得られたペレットを活性化剤(1mL)に再分散させて、MCF7細胞を1×107細胞/mLで分散させた細胞MMP-活性化剤溶液を得た。
【0203】
細胞印刷条件
ポリマーバイオインク、PEGビスチオール活性化剤、およびMMP感受性細胞活性化剤を、バイオプリンターに接続された関連するカートリッジにロードした。ポリマーバイオインク、PEGビスチオール活性化剤、およびMMP感受性細胞活性化剤をそれぞれ0.007”ノズルに接続し、25~30kPaで動作させた。
【0204】
プリンターは、最初にエタノール(水中で70v/v%)で拭き取り、空気乾燥することによって洗浄された。流体ライン、バルブ、およびノズルも、エタノール、滅菌水パージによって、この順序で滅菌された。次に、ポリマーバイオインク、PEGビスチオール活性化剤、およびMMP感受性細胞活性化剤をそれぞれのバイアルにロードした。次に、印刷ルーチンを開始する前に、プリントヘッドをプライミングした。
【0205】
アッセイの3D構造は、ILSカスタムメイドソフトウェアを使用して設計した。3Dアッセイは、直径6.35cm、厚さ100μmの下部ゲル層と、直径1mm、厚さ200μmの細胞を含んだドーム型のゲルで構成されていた。
【0206】
細胞濃度
1×107細胞/mLの濃度の細胞活性化剤をこの実験で使用した。
【0207】
細胞生存率
95%以上の細胞生存率が得られた。
【0208】
実施例14 -細胞配列の比較
膵がんの細胞配列に対するヒドロゲル微小環境の効果を、本技術のポリマーバイオインクおよび活性化剤を使用して試験した。膵がん細胞は、その生物学的特性が細胞培養環境に大きく依存しているために選択された。直径6mm、高さ0.4mmのヒドロゲルサンプルを96ウェルプレートにバイオプリンティングすることにより、2つの異なる細胞配列を試験した。最初に、細胞をヒドロゲルの上に3Dバイオプリントし、次に、細胞をヒドロゲルの内側に印刷しました(すなわち、カプセル化した)。試験した両方の細胞配置において、生細胞が観察された。さらに、ヒドロゲルへの突起を形成する細胞の能力によって表されるように、細胞-ゲル相互作用が目に見えた。全体として、生体適合性および生体関連の3Dアッセイは、PEGベースのポリマーバイオインクで正常にバイオプリントされました。
【0209】
ヒドロゲル上に播種された膵がん細胞
細胞ポリマーバイオインクは、採取した膵管腺がん細胞(KrasG12Dおよびp53R172H)および3Dバイオプリンティング用の5mM RGDポリマーバイオインクを備えた4アームPEG-Mal(10kDa)から調製した。膵がん細胞は、推定5,000細胞/ウェルを播種するのに適切な濃度で細胞ポリマーバイオインクに分散された。
【0210】
無細胞ヒドロゲルは、最初に、5mM RGDポリマーバイオインクを備えた4アームPEG-Mal(10kDa)およびPEGビスチオールおよびMMP2(GCIPVSLRSGCG)活性化剤(50:50のチオール濃度比で)から、96ウェルプレート上に3Dバイオプリンティングされた。次に、細胞ポリマーバイオインクを、PEGビスチオールおよびMMP2活性化剤(50:50のチオール濃度比で)とともにヒドロゲルの上に印刷して、推定5,000細胞/ウェルを播種した。
【0211】
ヒドロゲル上に播種された膵がん細胞の顕微鏡画像を撮影した。3日間のインキュベーション後、組織培養プラスチックの上に播種した場合の同じ細胞の形態学的差異が観察された。ヒドロゲル上に播種すると、細胞-ゲル相互作用と細胞間相互作用の両方が促進され、三次元すべてに広範な細胞突起を備えた拡張細胞ネットワークが形成された。3日間のインキュベーション後、培養細胞は生/死染色アッセイにより生存していることが確認された。細胞生存率は>98%であることが確認され、小さな個々の死細胞がより大きな生細胞クラスター内にはっきりと見えた。
【0212】
膵がん細胞はまた、比較のために様々な基板に播種された。顕微鏡画像は、組織培養ウェルプレートの上に播種された膵がん細胞が非常に個性的であることを示した。対照的に、膵がん細胞は、ヒドロゲル上に播種されたときに、複数の細胞間に拡張されたネットワークを形成した。ヒドロゲル上に播種されている間、細胞はヒドロゲルに侵入し、3D細胞ネットワークを形成することができた。顕微鏡でz軸のゲルをスキャンし、ヒドロゲル内に3D細胞ネットワークが存在することを確認する。
【0213】
生物学的に不活性なヒドロゲルにカプセル化された膵がん細胞
膵管腺がん細胞(KrasG12Dおよびp53R172H)を、PEG-RGDを含まないポリマーバイオインクに2×106細胞/mLで分散させて、細胞ポリマーバイオインクおよび細胞ポリマーバイオインクを、MMP2感受性ペプチドを含まない活性化剤と一緒に印刷した。in situカプセル化は、96ウェルプレート上のPEGビスチオール活性化剤を用いて細胞バイオインクを直接3Dバイオプリンティングすることによって達成された。
【0214】
共焦点画像は、ヒドロゲル内にカプセル化された膵がん細胞を示した。細胞の形態は、インキュベーション期間にわたって確認された。RGDおよびMMP2架橋剤がないため、細胞はゲル内の形態が丸みを帯びていた。この形態は、細胞がヒドロゲルと相互作用して接着斑を生成することができず、ゲル内を移動することができなかったことを示した。生/死アッセイは、3日間のインキュベーション期間後にカプセル化された細胞で実施された。蛍光画像は、3日間のインキュベーション後に生細胞(>95%の生存率)を示した。
【0215】
生物学的に活性なヒドロゲルにカプセル化された膵がん細胞
膵管腺がん細胞(KrasG12Dおよびp53R172H)を2×106細胞/mLで細胞ポリマーバイオインクに分散させ、MMP2感受性ペプチド活性化剤(50:50チオール濃度比で)と一緒に印刷した。in situカプセル化は、96ウェルプレート上にPEGビスチオールおよびMMP2活性化剤(MMP-2 activator)を使用して細胞ポリマーバイオインクを直接3Dバイオプリンティングすることによって達成した。MMP2活性化剤(MMP-2 activator)を使用して、細胞浸潤を可能にした。
【0216】
共焦点画像は、ヒドロゲル内にカプセル化された膵がん細胞を示した。細胞の形態学的変化は、インキュベーション期間にわたって確認された。ゲル内部では、細胞間相互作用は細胞クラスターの形成によって表され、細胞-ゲル相互作用および細胞浸潤は細胞膜突起の存在によって確認された。生/死アッセイは、3日間および6日間のインキュベーション期間後にカプセル化された細胞で行われた。明視野および蛍光画像は、3日間のインキュベーション後に生細胞(>98%の生存率)を示し、細胞間相互作用および細胞-ゲル相互作用の存在を確認した。細胞浸潤は6日間のインキュベーションでより顕著であり、強い細胞-ゲル相互作用を示している。同時に、ゲル内で6日間培養した後も、98%を超える細胞生存率が維持された。
【0217】
ヒドロゲルに播種されたMCF7乳がん細胞
細胞活性は、3日間のインキュベーション後、明視野顕微鏡下での細胞形態の観察を介して確認された。インキュベーション期間後、単一のMCF7細胞の凝集が見られ、あらかじめ決められたゲル領域に複数のスフェロイドが形成された。これは、個々のMCF7細胞がヒドロゲル内で互いに移動できることを示している。
【0218】
実施例15 -マレイミド基による冷水魚の皮膚由来のゼラチンの修飾
魚皮由来のゼラチン(1g)を、40℃で20mLの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液に溶解した。別の容器に、6-マレイミドヘキサン酸(MHA; 0.211g)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、1:20 EDC:MHAモル比で)、およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、1:2 NHS:EDCモル比で)を1mLのMESバッファーに溶解し、20分間撹拌して、カルボン酸(COOH)基を活性化した。次に、活性化されたCOOH基の溶液をゼラチン溶液に移動し、反応を24時間進行させた。得られた溶液を、10mM塩酸(HCl)および1重量%塩化ナトリウム(NaCl)に対する2日間の透析、続いて10mM HClに対する1日間の透析によって精製した。次に、精製ゼラチン溶液を凍結乾燥して、マレイミド修飾魚ゼラチンを得た。
【0219】
実施例16 -マレイミド基によるブタ皮膚由来のゼラチンの修飾
ブタの皮膚由来のゼラチン(ゲル強度300、タイプA、1g)を、40℃で20mLのMES緩衝液に溶解した。別の容器で、MHA(0.139g)、EDC(1:20 EDC:MHAモル比で)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、1:2 NHS:EDCモル比で)を1mL MESバッファーに溶解し、20分間撹拌して、COOH基を活性化した。次に、活性化されたCOOH基の溶液をゼラチン溶液に移動し、反応を24時間進行させた。得られた溶液を、10mM HClおよび1重量% NaClに対する2日間の透析、続いて10mM HClに対する1日間の透析によって精製した。次に、精製ゼラチン溶液を凍結乾燥して、マレイミド修飾ブタゼラチンを得た。
【0220】
実施例17 -マレイミド修飾ゼラチンのゲル化
実施例15および16で合成された、ブタおよび冷水魚の皮膚の両方由来のマレイミド修飾ゼラチンを、それぞれ20重量%のPBSに溶解して、ポリマーバイオインクを得た。各溶液のpHを1M NaOHでpH7.4に中和した。活性化剤を調製するために、マレイミドモル濃度と等しいSHモル濃度のPEGビスチオールをPBSに溶解した。ゲル化は、等量の各ポリマーバイオインクと活性化剤とを混合することによって達成された。
【0221】
実施例18 -コラーゲン含有PEGヒドロゲルの3Dバイオプリンティング
基板
Thermofisherによって供給された細胞培養皿を、96ウェルプレートの寸法を模倣する標的グリッドでエッチングした。
【0222】
ポリマーバイオインク
ポリマーバイオインクを調製するために、PEG-Mal(0.15g)を1.5mLのPBSに溶解して、10重量%のポリマーバイオインクを得た。溶液を0.22μmシリンジフィルターで無菌的に濾過した。
【0223】
活性化剤
コラーゲン含有活性化剤は、GCRDPLGLDRCG(0.01g)を0.5mLのPBSに混合することによって調製された。続いて、0.5mLのI型ウシコラーゲン(3.1mg)を活性化剤溶液に混合して、コラーゲン含有MMP活性化剤を得た。続いて、1M NaOHを滴下することにより、溶液のpHをpH7.4に調整した。次に、溶液を0.22μmシリンジフィルターで無菌的に濾過した。
【0224】
印刷条件
ポリマーバイオインクおよびコラーゲン含有MMP活性化剤を、バイオプリンターに接続された適切なカートリッジにロードした。ポリマーバイオインクと活性化剤の両方が0.007”ノズルに接続され、25~30kPaで動作した。
【0225】
アッセイの3D構造は、ILSカスタムメイドソフトウェアを使用して設計された。3D直角プリズム構造は、長さと幅が約4.5cm、厚さが150μmの下部ゲル層で構成されていた。
【0226】
構造の検証
得られたヒドロゲル構造を、USBデジタル顕微鏡を使用して画像化した。
【0227】
実施例19 -コラーゲン含有PEGヒドロゲル内の線維芽細胞培養
コラーゲン含有ポリマーバイオインクは、1:1のv/v比で、PBS中の10重量%のPEG-MalとI型ウシコラーゲンとを混合することによって調製した。1M NaOH溶液を滴下することにより、溶液のpHを7.4に上げた。マレイミド濃度に対して等モルのチオールを含むPEGビスチオール活性化剤をPBSで調製した。収集したヒト肺線維芽細胞(MRC-5)細胞をペレット化し、コラーゲン含有ポリマーバイオインクに再懸濁した。PEGヒドロゲルは、最初にポリマーバイオインクをウェルプレートに移動し、続いて等量の細胞含有活性化剤を同じウェルに移動ことによって調製した。次に、100μLのDMEM+10v/v% FBSを各ウェルに添加し、サンプルを6日間インキュベートし、0、3、および6日目に明視野画像を撮影して細胞活性をモニターした。
【0228】
線維芽細胞培養に対するゲルの生物学的適合性は、線維芽細胞の形態が丸い形態から紡錘体様の形態に変化するのを調べることによって評価した。
【0229】
当業者は、本開示が、具体的に記載されたもの以外の変形および改変を受けやすいことを理解するであろう。本発明は、広く説明されているように、本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、そのようなすべての変形および改変を含むことが理解されるべきである。したがって、本実施形態は、すべての点で例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【0230】
本開示はまた、本明細書において個別にまたは集合的に言及または示されたすべての工程、特徴、組成物、および化合物、ならびに該工程、特徴、組成物、および化合物の任意の2つ以上の任意およびすべての組み合わせを含む。
【0231】
参考文献
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