IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク.の特許一覧

特開2024-119830ベスト病の処置のためのアデノ随伴ウイルスベクター
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119830
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ベスト病の処置のためのアデノ随伴ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240827BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240827BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240827BHJP
   C12N 15/67 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C12N15/113 140Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/63 Z
A61K31/7105
A61P27/02
A61K48/00
A61K35/76
C12N15/12
C12N15/67 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024081593
(22)【出願日】2024-05-20
(62)【分割の表示】P 2021511541の分割
【原出願日】2019-08-30
(31)【優先権主張番号】62/754,530
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/749,622
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/726,184
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】501453307
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハウスヴィルト,ウィリアム,ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】レウィン,アルフレッド,エス.
(72)【発明者】
【氏名】イルデフォンソ,クリスチャン,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヤング,ブリアンナ,エム.
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ベスト病などのベストロフィノパチーを処置するのに有用な方法および組成物を提供することである。
【解決手段】本発明の解決手段は、ベスト病などのベストロフィノパチーを処置するのに有用な方法および組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ヌクレオチド配列CGUCAAAGCUUCACAGUGU(配列番号2)を含むセンス鎖およびヌクレオチド配列ACACUGUGAAGCUUUGACG(配列番号3)を含むアンチセンス鎖;および
b)ループ
を含む、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)。
【請求項2】
ループが、ヌクレオチド配列UUCAAGAGA(配列番号7)を含む、請求項1に記載のshRNA。
【請求項3】
ヌクレオチド配列CGUCAAAGCUUCACAGUGUUUCAAGAGAACACUGUGAAGCUUUGACG(配列番号1)を含む、請求項1に記載のshRNA。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のshRNAをコードする、ベクター。
【請求項5】
前記shRNAの標的となる配列を含有しない組換えBEST1コード配列をさらに含む、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
組換えBEST1コード配列が、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
組換えBEST1コード配列が、配列番号9のヌクレオチド配列と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む、請求項5または6に記載のベクター。
【請求項8】
組換えBEST1コード配列が、配列番号9のヌクレオチド配列を含む、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
配列番号11のヌクレオチド配列と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のshRNAおよび組換えBEST1配列をコードするベクター。
【請求項10】
配列番号11のヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
プラスミドである、請求項4~10のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項12】
ウイルスベクターである、請求項4~10のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項13】
ウイルスベクターが、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターである、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
rAAVベクターが、自己相補的である、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
請求項13または14に記載のrAAVベクターを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子。
【請求項16】
AAV血清型2(AAV2)ウイルス粒子である、請求項15に記載のrAAV粒子。
【請求項17】
請求項4~14のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項15または16に記載のrAAV粒子および薬学的に許容し得る担体を含む、組成物。
【請求項18】
請求項17に記載の組成物を対象へ投与することを含む、対象におけるBEST1発現を調節する方法。
【請求項19】
請求項17に記載の組成物を対象へ投与することを含む、対象におけるベスト病を処置する方法。
【請求項20】
対象が、ヒト対象である、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
ベスト病を処置することにおける使用のための、請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
ベスト病を処置するための医薬の製造における使用のための、請求項17に記載の組成物。
【請求項23】
ベスト病を処置することにおける、請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項24】
ベスト病を処置するための医薬の製造における、請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項25】
請求項17に記載の組成物を対象へ投与することを含む、対象における常染色体劣性ベストロフィノパチー(ARB)を処置する方法。
【請求項26】
対象が、ヒト対象である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ARBを処置することにおける使用のための、請求項17に記載の組成物。
【請求項28】
ARBを処置するための医薬の製造における使用のための、請求項17に記載の組成物。
【請求項29】
ARBを処置することにおける、請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項30】
ARBを処置するための医薬の製造における、請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項31】
ヌクレオチド配列ACACUGUGAAGCUUUGACG(配列番号3)を含むアンチセンス鎖を含む、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、2018年8月31日に出願された米国仮出願第62/726,184号、2018年10月23日に出願された米国仮出願第62/749,622号、および2018年11月1日に出願された米国仮出願第62/754,530号の出願日の利益を主張し、各々の内容全体は参照により組み込まれる。
政府の支援
発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金番号EY021721の下で政府の支援を受けてなされた。政府は発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
背景
BEST1遺伝子(VMD2とも呼ばれる)の変異は、ベスト病としても知られるベスト卵黄様黄斑変性症を含むいくつかの形態の網膜変性を引き起こす。(ベスト病は、ベスト黄斑変性症、卵黄変性症、および卵黄様黄斑変性症とも呼ばれる。)ベストロフィノパチー(bestrophinopathy)は、網膜色素上皮の側底膜に関連するカルシウム依存性塩化物チャネルとして機能するタンパク質(ベストロフィン、またはBEST1)をコードするヒトBEST1遺伝子の200を超える種々の変異によって引き起こされる。ベストロフィノパチーでは、RPEを通過する体液輸送の欠陥が、RPEと光受容体細胞との間の相互作用を損なう。この損傷は、網膜がその支持層から剥離し、RPEおよび網膜下腔内に酸化されたプロテオリピド(リポフスチン)が蓄積することにつながる。最終的に、光受容体は、主に(中心視野をもたらす)黄斑領域で死ぬ。ヒトでは、BEST1変異は通常、常染色体優性であり、一方の欠陥のあるコピーは、もう一方の親から受け継いだ正常な(野生型)遺伝子の存在に関係なく、疾患につながることを意味する。しかしながら、常染色体劣性ベストロフィノパチー(ARB)も報告されている。
【0003】
希少疾患であるベスト病は、ゆっくりと進行する黄斑変性症であり、一般的に小児期に発症し、時には10代後半に発症する。発症した個体は、最初は正常な視力を有し、その後、中心視力が減少し、変視症になる。個体は正常な周辺視野および暗順応を保持する。個体は黄斑上に卵黄に似た塊を発達させる。この塊は最終的に崩壊し、黄斑全体に広がり、中心視野の低下につながる。ベスト病は、家族歴または眼科検査、例として眼底の外観または眼電図(EOG)に基づいて診断され得る。
遺伝性網膜変性(IRD)は、分子的に不均一で病態生理学的に異なる盲眼状態の大きな群を包含する。遺伝的欠陥は、しばしば主に桿体または錐体光受容体(PR)またはその両方に作用し、特定の欠陥は、光伝達、毛様体輸送、形態形成、神経伝達、または他を伴い得る。網膜色素上皮(RPE)に関連する原発性(primary)欠陥はあまり一般的ではないが、注目を集める臨床試験により注目が高まっている。
【0004】
原発性RPE欠陥による最も一般的なIRDは、RPEの側底部分に関連する膜貫通タンパク質をコードするBEST1の変異によって引き起こされる。BEST1(ベストロフィン)は、経上皮イオン輸送、細胞内カルシウムシグナル伝達およびRPE細胞体積の調節、および網膜下腔の恒常性環境の調節を媒介する多機能チャネルタンパク質である。真核細胞では、BEST1は、4つの膜貫通ヘリックス、細胞質ゾルのNおよびC末端、および塩化物浸透のカルシウム依存性の制御に対して感受性がある連続的な中心細孔を備えた安定したホモペンタマーを形成する。
【0005】
ヒトでは、BEST1変異は、特徴的な黄斑病変をしばしば伴うベストロフィノパチーとして集合的にグループ化された広範囲のIRDをもたらす。病変から離れた網膜領域は、眼の立位電位(standing potential)の異常を反映するEOGに網膜全体の電気生理学的欠陥が存在するにも関わらず、全体的に正常に見える傾向がある。イヌBEST1遺伝子(cBEST1)における天然に存在する二アレル変異は、イヌ中心窩様領域への網膜下病変の顕著な偏向を含む、優性および劣性形態の両方のヒトベストロフィノパチーに対して明確な表現型の類似性を有するイヌIRDを引き起こす。
【0006】
適切な解剖学的並置およびRPE頂端微絨毛(MV)とPR外側セグメント(OS)との間の持続した相互作用は、正常な視力にとって重要であると考えられる。網膜下腔のイオン組成および体積調節の両方が、この複合体の正確な分子近接性およびRPE-PR界面の恒常性を維持するために必須である。in vitroおよびex vivo研究は、遺伝的変異、代謝摂動、ならびに光刺激が網膜下腔のイオン組成およびRPEおよび/またはPRの生理学的応答を変化させることを長い間示してきた。より最近では、健康および疾患における外側網膜の微小解剖およびその光への応答のin vivo研究は、現代の網膜イメージングモダリティで益々有益になっている。
【0007】
BEST1遺伝子の変異は、隣接する網膜色素上皮(RPE)細胞の原発性チャネル病により、網膜の剥離および光受容体(PR)細胞の変性を引き起こす。網膜剥離の形成に先立つRPEとPR細胞との間の相互作用の病態生理はよく理解されていないままである。
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
開示の側面は、対象における(例として、ヒトにおける)ベストロフィノパチー(例として、ベスト卵黄様黄斑変性症)を処置するための組成物に関する。開示の側面は、内因性BEST1 mRNA(例として、変異および正常コピーの両方)の発現を抑制するように設計されている。いくつかの態様において、発現は、RNA干渉を使用して抑制される。いくつかの態様において、内因性BEST1 mRNAは、正常なBEST1 mRNAと同時に置き換えられて、正常なタンパク質のみを産生する。いくつかの態様において、アデノ随伴ウイルス(AAV)は、BEST1遺伝子のイントロンのないコピーに加えて、低分子干渉RNA(siRNA)の産生をもたらす低分子ヘアピン型RNA(shRNA)の遺伝子を送達するために使用される。
【0009】
いくつかの態様において、対象(例として、ヒト)のBEST1遺伝子の一方または両方のアレルは、対象(例として、ベスト病を有する対象、例えば、ベスト病を有するヒト)に低分子ヘアピン型RNA(shRNA)分子を投与することによってサイレンシングされる。いくつかの態様において、置換BEST1コード配列はまた、機能的なベストロフィンタンパク質を提供するために、例として、対象に光受容体機能を回復させるために、対象に投与される。いくつかの態様において、置換BEST1コード配列は、置換遺伝子を干渉RNAの効果に対して耐性にする内因性遺伝子アレル(単数または複数)に対して1以上のヌクレオチド置換を有する。いくつかの態様において、置換BEST1コード配列は、遺伝子をshRNAによって媒介される分解に対して耐性にする1以上(例として、1、2、3、4、または5以上)の置換を含むヒトBEST1コード配列(例として、野生型ヒトBEST1コード配列)である。いくつかの態様において、置換BEST1コード配列は、標的部位に1以上のサイレント変異(コドンの第3の位置における塩基変化)を含み、遺伝子をshRNAによって媒介される分解に対して「脱標的化」させる。
【0010】
いくつかの側面において、開示は、ヌクレオチド配列CGUCAAAGCUUCACAGUGU(配列番号2)を含むセンス鎖、ヌクレオチド配列ACACUGUGAAGCUUUGACG(配列番号3)を含むアンチセンス鎖、およびループを含む低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を提供する。いくつかの態様において、ループは、ヌクレオチド配列UUCAAGAGA(配列番号7)を含む。
【0011】
いくつかの側面において、開示は、ヌクレオチド配列GCUGCUAUAUGGCGAGUUCUU(配列番号6)を含むセンス鎖、ヌクレオチド配列AAGAACUCGCCAUAUAGCAGC(配列番号5)を含むアンチセンス鎖、およびループを含む低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を提供する。いくつかの態様において、ループは、ヌクレオチド配列CUCGAG(配列番号8)を含む。
【0012】
いくつかの態様において、開示は、ヌクレオチド配列ACACUGUGAAGCUUUGACG(配列番号3)を含むアンチセンス鎖を含む低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を提供する。
いくつかの側面において、開示は、先行する段落に記載されたshRNAをコードする遺伝子配列を含むベクターを提供する。
いくつかの側面において、開示は、shRNAの標的となる配列を含有しない組換え機能的(例として、野生型)BEST1コード配列をさらに含むベクターを提供する。いくつかの側面において、ベクターは、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている組換え機能的BEST1コード配列をさらに含む。
【0013】
いくつかの側面において、開示は、配列番号9のヌクレオチド配列と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む組換えBEST1コード配列を含むベクターを提供する。いくつかの側面において、開示は、配列番号10のヌクレオチド配列と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含む組換えBEST1コード配列を含むベクターを提供する。
いくつかの側面において、開示は、プラスミドまたはウイルスベクターであるベクターを提供する。いくつかの側面において、ウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターである。いくつかの側面において、rAAVベクターは、自己相補的である。
いくつかの側面において、開示は、AAV血清型2ウイルス粒子であるrAAVウイルス粒子を提供する。
いくつかの側面において、開示は、ベクターまたはrAAV粒子および薬学的に許容し得る担体を含む組成物を提供する。
【0014】
いくつかの側面において、開示は、対象におけるBEST1発現を調節する方法を提供し、当該方法は、ベクターまたはrAAV粒子および薬学的に許容し得る担体を含む組成物をヒト対象などの対象へ投与することを含む。いくつかの側面において、開示は、対象におけるベストロフィノパチー(例として、ベスト病およびARB)を処置する方法を提供し、当該方法は、組成物を投与することを含む。
いくつかの態様において、機能的BEST1配列をコードするベクターは、内因性BEST1遺伝子発現をノックダウンすることなく、細胞のBEST1機能を(例として、少なくとも部分的に)補足または修正するために提供される。いくつかの態様において、BEST1配列は、コドン最適化されている。
【0015】
いくつかの態様において、機能的BEST1配列をコードするベクターは、細胞のBEST1機能を(例として、少なくとも部分的に)補足または修正するために提供され、shRNA配列は、内因性BEST1遺伝子発現をノックダウンするために提供される。いくつかの態様において、内因性Best1発現は、shRNAを使用してノックダウンされる。いくつかの態様において、BEST1配列は、コドン最適化されている。いくつかの態様において、BEST1配列は、shRNAに耐性があるように改変されている。いくつかの態様において、BEST1およびshRNA配列は、同じAAVベクター上にコードされている。
【0016】
いくつかの側面において、開示は、ベスト病を処置することにおける使用のための組成物およびベスト病を処置するための医薬の製造における使用のための組成物を提供する。いくつかの側面において、開示は、ベクターまたはrAAV粒子を含む組成物、ここでベクターは、ARBを処置することにおける使用のための機能的BEST1配列をコードする、およびARBを処置するための医薬の製造における使用のための組成物を提供する。
これらおよび他の側面は、以下の図面、例、および請求項において記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図面の簡単な記載
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示の一定の側面をさらに実証するために含まれ、本明細書に提示される特定の態様の詳細な記載と組み合わせてこれらの図面の1以上を参照することによってよりよく理解することができる。図面において説明されているデータは、決して開示の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0018】
図1A-D】図1A~1Dは、イヌBEST1変異に関連するRPE頂端微絨毛突起の網膜全体の病態を示す。図1Aおよび1Bは、野生型(図1A)(42週)と比較したcBest(R25/R25;89週)(図1B)の分子病態を示す共焦点画像を示す。網膜凍結切片は、抗EZRINおよびヒト錐体アレスチンで免疫標識され、ピーナッツ凝集素レクチンおよびDAPI標識と組み合わされた。図1Cは、抗BEST1および抗SLC16A1で免疫標識された6週齢のイヌ野生型およびcBest変異(R25/P463fs)網膜の代表的な顕微鏡写真を示す。白色の矢印は、錐体-MVのサブセットを指す。図1Dは、cBest変異体と同齢の対照の眼との間の網膜全体の錐体-MV数の定量化を示す。y軸は、調べた各色分けされた網膜領域の1平方ミリメートル当たりの錐体-MVの平均数を表す。略語:H&E、ヘマトキシリン&エオシン染色;PRL、光受容体IS/OS層;i、下方;N、鼻;S、上方;T、側頭。
【0019】
図2A-C】図2A~2Fは、野生型およびcBest(R25/P463fs)変異体における網膜外側構造の光媒介性変化を示す。図2Aは、より弱いおよびより強い明順応(LA)を有する、15週齢の正常(WT)イヌおよび11週齢のcBest(R25/P463fs)の中心網膜中心窩野(中心窩様領域)を通る水平経線に沿った断面イメージングを示す。細い白色の矢印は、OCTの上側頭(superotemporal)位置を示す。図2Bは、より弱いおよびより強いLAを有する、cBest処置イヌ(6の眼、11週齢)と比較した、WTイヌ(12の眼、15~17週齢)における中心窩様領域(T、側頭網膜)および視神経乳頭の鼻縁(N、鼻網膜)からの3°鼻での縦反射プロファイル(LRP)(85の単一LRPの平均)を示す。矢印は、IS/OSおよびRPE/Tのピークを示す。一重および二重矢印は、cBestの追加の低反射層を示す。図2Cは、2つのLA条件下でのWTおよびcBestの眼におけるIS/OSピークとRPE/Tピークとの間の距離を示す。エラーバーの付いた記号は、両方の場所での各群の眼の平均(±2SD)距離を表す。図2Dは、暗順応プロトコルおよび明順応プロトコルの概略図である。動物を終夜暗順応(D/A)し、OCTイメージングを行った。次いで、5つの増加する露光(L1からL5)が使用された。
図2D-F】図2Dは、終夜の暗順応後(左)および最大露光後(右)のLRPが重なっているcBestのOCTスキャンの拡大図も示す。図2Eは、cBestの眼の異なるサブセット(n=3;色付きのトレース)で、L4およびL5の曝露のみを伴う簡略化されたプロトコルを使用した結果を示す。図2Fは、2つの代表的なcBestの眼と比較した平均WTでのIS/OSからRPE/Tまでの距離の空間組織分布を示す[パネル;EM356-OS:297週齢のcmr1/cmr3(R25/P463fs);LH30-OD:12週齢のcmr3(P463fs/P463fs)]。
【0020】
図3A-B】図3A~3Dは、BEST1遺伝子増強治療が、cBest変異体において、小窩黄斑(foveomacular)病変の持続的な逆転およびRPE-PR界面構造の回復をもたらすことを示す。図3Aは、3つの時点でのcBestイヌ(EM356-OD;R25/P463fs)の右眼におけるin vivoイメージングによって記録された中心網膜下剥離の自然経過を示す。挿入図は、自家蛍光およびOCT画像を示す。図3Bは、AAV2-cBEST1(1.5x1010vg/mL)の網膜下注射が図3Aに示される眼において行われる前(52週齢)および後に撮影された眼底画像を示す。網膜下小疱領域は破線の円で示される。注射後43週および245週に取得された画像は、中心病変の持続した逆転、および処置された領域内の完全に再付着した網膜を示す。中央および右の挿入図は、自家蛍光およびOCT画像を示す。
図3C-D】図3Cおよび3Dは、対照と比較したcBest(R25/R25)モデルでのAAV-hBEST1処置後のRPE-光受容体界面構造の回復を示す。小疱の境界は破線の円で示される。注射前に網膜下病変を通過する、または注射後にマッピングされた一致する位置を通過する対応するOCTスキャンの位置は、水平線で示される。網膜切開部位は矢印で示される。
【0021】
図4A-B】図4A~4Fは、BSSまたはAAV-hBEST1を網膜下に注射したcBest変異イヌ[cmr1(R25/R25)、cmr1/cmr3(R25/P463fs)、またはcmr3(P463fs/P463fs)]における網膜下遺伝子治療後の網膜領域全体の微小剥離の逆転を示す。図4Aは、BSSまたはAAV-hBEST1を網膜下に注射したcBest変異イヌ[cmr1(R25/R25)、cmr1/cmr3(R25/P463fs)、またはcmr3(P463fs/P463fs)]のIS/OS-RPE/T距離の組織分布のマップを示す。処置の境界は、注射時に撮影された小疱の眼底写真(点線)、および表示されている場合は、イメージング時に明らかな境界(破線)に基づく。すべての眼は、比較を容易にするために、視神経および主要な血管(黒色)、タペータム境界(白色)、および中心窩様領域(白色の楕円)が重ねられた同等の右眼として示される。図4Bは、処置された小疱(Tx;塗りつぶされた記号)および未処置の外側小疱(Ctrl;白抜きの記号)領域内のcBest眼の上方および下方の網膜位置におけるWTのIS/OS-RPE/T距離の差異を示す。破線は、正常な変動性の95パーセンタイルを区切る。IS/OS-RPE/T距離の組織分布は、処置前(左)および処置後(右)に示される。
図4C-F】図4Cおよび4Eは、各cBest眼と平均WT対照との間の差異のグレースケールマップを示す。白色は総網膜剥離を表す。図4Dおよび4Fは、図4Cおよび4Eにそれぞれ示される眼について、WTと、処置前(PreTx)および処置後(Tx)cBestとの間のIS/OS-RPE/T距離の共存した差異の測定値を示す。
【0022】
図5A-C】図5A~5Gは、ARBを有する2人のヒト対象における網膜部位の表現型を示す。図5Aは、天然のRPEフルオロフォアリポフスチンを利用して、短波長低照度自家蛍光イメージング(SW-RAFI)で画像化した、2人のARB患者、P1およびP2の網膜全体のRPEの健康状態を示す。白色の矢印は、視野測定プロファイルおよびOCTスキャンの場所を示す。長方形は、他のパネルに示されている関心領域を示す。黒色の矢印は、鼻の中央周辺の網膜における疾患から健康への推移を示す。図5Bは、水平経線にわたって測定された眼の、暗順応(上)の桿体および明順応(下)の錐体の視野測定の光感受性を示す。灰色の領域は、視神経(ONH)に対応する生理学的盲点を除いて正常な感受性を表す。図5Cは、中心窩を横断する水平経線に沿ったOCTを伴う網膜断面を示す。
図5D-G】図5Dおよび5Eは、乳頭周囲(parapapillary)網膜(図5D)および中央周辺鼻網膜(図5E)の2つの関心領域での正常と比較した患者の網膜外側積層の詳細を示す。色は、COS先端近くの界面およびROS先端近くの界面およびRPE頂端突起を示し、レンガ(brick)はRPEおよびブルッフ膜の近くの界面を示す。図5Fおよび5Gは、乳頭周囲遺伝子座でのP1(図5F)および鼻中央周辺遺伝子座でのP2(図5G)で測定された暗順応動態を示す。時間0は、順応光の終わりを示す。
【0023】
図6A-D】図6A~6Dは、CNGB3関連色覚異常(ACHM3)のイヌモデルにおけるRPE-PR嵌合ゾーンを示す。図6Aおよび6Bは、6週齢のCNGB3-D262N変異体(図6A)およびCNGB3ヌル(図6B;CNGB3-/-)網膜の代表的な蛍光顕微鏡画像を示し、RPE細胞の側底原形質膜に限定されたBEST1、およびRPE頂端突起を標識するマーカーであるSLC16A1の正常な発現を実証する。矢印は、錐体関連RPE頂端微絨毛(c-MV)のサブセットを指す。図6Aおよび6Bはまた、抗CNGB3および抗EZRIN共標識を示し、参照のために、同齢の野生型網膜が示されている。図6Cおよび6Dは、85週齢(図6C)および57週齢(図6D)の発症したイヌからのCNGB3変異網膜におけるRPE-PR界面の免疫組織化学的評価を示す。RPE頂端側面およびその微絨毛の拡張はEZRINで免疫標識され、c-MVのサブセットは矢印で示されている。略語:ACHM3、3型色覚異常;cCNGB3、イヌCNGB3遺伝子;c-MV、錐体関連RPE頂端微絨毛;CNGB3、環状ヌクレオチドゲートチャネルベータ3タンパク質;hCAR、ヒト錐体アレスチン;SLC16A1、溶質キャリアファミリー16メンバー1。
【0024】
図7図7は、光媒介微小剥離の回復を示す。2つのcBest発症(R25/P463fs)眼[43週齢(右)および52週齢(左)]を終夜暗順応させ、図2Aに示す結果と同様に画像化した。
図8A-B】図8A~8Bは、cBest眼において、微小剥離を伴う網膜領域での超厚ONL、および遺伝子治療によるその修正を示す。図8Aは、未注射のcBest眼(図2A~2Fおよび4A~4FにIS/OS-RPE/T厚さマップとして示される)が、網膜微小剥離の広い領域に対応する超厚ONL、およびいくつかの眼における総病変上および中心窩様領域の近くのONLの局所的薄化を実証することを示す。図8Bは、処置されたcBest眼(図4A~4FにIS/OS-RPE/T厚さマップとして示される)が、未処置領域内の超厚、正常、または薄化したONLに囲まれたAAV処置領域において正常なONL厚さを実証することを示す。OD、右眼;OS、左眼。
【0025】
図9A-F】図9A~9Fは、cBest発症(R25/P463fs)イヌ(EM356-OS)における限局性黄斑病変の進展を示す。図9Aは、下にあるRPEからの光受容体層の離散的な分離が進行して、正面に明らかなより大きな網膜下マクロ剥離(卵黄様病変)を形成することを示し、図9Bは、23週齢での対応するOCTスキャンを示す。図9Cは、網膜下病変内に蓄積する高自家蛍光物質の最初の兆候が、8週後に観察されたことを示す(31週;初期の偽性前房蓄膿病変)。図9Dは、66週齢で、典型的な偽性前房蓄膿の外観が記録され、これに続き、172週齢および297週齢で、自家蛍光物質の分散を伴う卵黄破裂様病変が記録されることを示す(挿入図、拡大)。図9Eおよび9Fは、ONLの有意な薄化がOCTスキャンによって明らかであることを示す。濃い線は、対応するSD-OCTスキャンの位置を示す。
【0026】
図10図10は、3つのcBestモデル[cmr1(R25/R25)、cmr1/cmr3(R25/P463fs)、およびcmr3(P463fs/P463fs)]におけるAAV-hBEST1処置後の網膜保存を、野生型対照の眼およびcBest未処置の眼と比較して示す。
図11A-D】図11A~11Dは、cBest(R25/P463fs)網膜におけるRPE細胞骨格レスキューに対するBEST1導入遺伝子発現の用量応答効果を示す。図11Aは、外科的小疱領域(左)から、隣接する境界域の領域(中央)を通って、注射ゾーンの外側の連続した範囲(右)に向かう断面の概観を示す。図11Bは、増強されたBEST1を用いて処置された領域内のRPE頂端突起の顕著な拡張を示す。図11Cは、BEST1(個々のRPE細胞内の弱いシグナル)の斑状の分布およびRPE-PR微小剥離に関連する小疱境界域における痕跡微絨毛および桿体MVの存在を示す。図11Dは、BEST1発現および処置ゾーンの外側のRPE頂端突起の両方の非不在下での網膜下病変の形成を示す。
【0027】
図12A-B】図12A~12Bは、桿体および錐体機能ARB患者P1(図12A)およびP2(図12B)の眼間対称性を示す。ARBを有する2人の患者の両方の眼の桿体(RSL)および錐体感受性喪失(CSL)マップ。
図13図13は、6262bpプラスミド、pTR-VMD2-hBest、ヒトベストロフィンのマップを示す。
図14図14は、6222bpプラスミド、pTR-VMD2-cBest、イヌベストロフィンのマップを示す。
【0028】
図15図15は、耐性Best1を含有する、6209bpプラスミド、pTR-SB-VMD2-HBest1-shRNA05のマップを示す。
図16図16は、脱標的化Best1を含有する、6145bpプラスミド、pTR-SB-VMD2-DTBest1-shRNA744のマップを示す。
図17図17は、VMD2プロモーターが細胞培養において十分に機能することを示す。HEK293T細胞は、ニワトリベータアクチンプロモーター(CBA)またはVMD2プロモーターを使用してGFPまたはBest1を発現するプラスミドでトランスフェクトされた。タンパク質ライセートはポリアクリルアミドゲルで分離され、ベストロフィン(Best1)の発現はウェスタンブロットによって検出され、ベータチューブリンの発現に対して正規化され、ゲルの均一な負荷を示した。
【0029】
図18A-B】図18A~18Bは、Best1特異的siRNAが機能的であることを示す。ウェスタンブロット(図18A)において示され、棒グラフ(図18B)において定量化されたバンド強度は、BEST1を安定的に発現するHEK293Tのトランスフェクションがベストロフィン(Best1)タンパク質の75%の低減をもたらしたことを示す。
図19A-B】図19A~19Bは、Best1 shRNAが活性であることを示す:HEK293T-BEST1細胞に4μgの示されたプラスミドをトランスフェクトした。
図20図20は、Best1の脱標的化を示す。サイレント変異(コドンの3番目の位置の塩基変化)を使用して、Best1 mRNAからsiRNA標的部位を除去した。開示されている例は、shRNA744用である。配列番号15~17は、以下の上から下の配列に対応する:野生型BEST1標的部位;(相補的)shRNA744標的部位、および脱標的化DTBEST1 siRNA標的部位。
【0030】
詳細な記載
出願の側面は、対象における(例として、ベスト病を有するヒト対象)におけるベスト病を処置するために有用である方法および組成物を提供する。
いくつかの態様において、開示は、1以上の変異BEST1遺伝子を有する対象に機能的ベストロフィンタンパク質を送達するための方法および組成物を提供する。いくつかの態様において、組換えBEST1遺伝子(例として、コード配列、例えばcDNAまたはオープンリーディングフレーム)は、ウイルスベクター(例として、rAAVベクター)上に提供される。いくつかの態様において、内因性BEST1遺伝子の一方または両方のアレルの発現もまたノックダウンされる。例えば、いくつかの態様において、siRNA(例として、shRNA)は、組換えBEST1遺伝子とともに対象に送達される。いくつかの態様において、ウイルスベクター(例として、rAAVベクター)は、組換えBEST1遺伝子および内因性BEST1遺伝子を標的とする1以上のsiRNAの両方をコードする。いくつかの態様において、組換えBEST1遺伝子は、1以上のsiRNAによる標的化に対して耐性を与える1以上のヌクレオチド置換を含むように改変される。いくつかの態様において、組換えBEST1遺伝子は、(例として、対象における、例えばヒト対象における発現のために)コドン最適化されている。
【0031】
いくつかの態様において、開示は、ヌクレオチド配列CGUCAAAGCUUCACAGUGU(配列番号2)を含むセンス鎖、ヌクレオチド配列ACACUGUGAAGCUUUGACG(配列番号3)を含むアンチセンス鎖、およびループを含む低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を提供する。いくつかの態様において、ループは、ヌクレオチド配列UUCAAGAGA(配列番号7)を含む。
他の態様において、開示は、ヌクレオチド配列GCUGCUAUAUGGCGAGUUCUU(配列番号6)を含むセンス鎖、ヌクレオチド配列AAGAACUCGCCAUAUAGCAGC(配列番号5)を含むアンチセンス鎖、およびループを含む低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を提供する。いくつかの態様において、ループは、ヌクレオチド配列CUCGAG(配列番号8)を含む。
いくつかの態様において、開示は、ヌクレオチド配列ACACUGUGAAGCUUUGACG(配列番号3)を含むアンチセンス鎖を含む低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を提供する。
【0032】
いくつかの態様において、shRNAは、プロモーター(例として、ヒトH1 RNAプロモーター)によって駆動されるshRNAとしてベクターを使用して送達され得る。いくつかの態様において、このベクターはプラスミドである。いくつかの態様において、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターである。いくつかの態様において、ベクターは、二本鎖または自己相補的AAVベクターである。いくつかの態様において、shRNAをコードするベクター配列は、BEST1配列を含む。
したがって、いくつかの態様において、shRNAは、CCGTCAAAGCTTCACAGTGTTTCAAGAGAACACTGTGAAGCTTTGACG(配列番号18)(ループ配列に下線が引かれている)の配列を有する核酸によって、DNAベクター(例として、ウイルスベクター)上にコードされ得る。いくつかの態様において、種々のループ配列が、配列番号7に示されるループ配列について置換される。
【0033】
また、いくつかの態様において、shRNAは、GCTGCTATATGGCGAGTTCTTCTCGAGAAGAACTCGCCATATAGCAGC(配列番号19)(ループ配列に下線が引かれている)の配列を有する核酸によって、DNAベクター(例として、ウイルスベクター)上にコードされ得る。いくつかの態様において、種々のループ配列が、配列番号8に示されるループ配列について置換される。
いくつかの態様において、同じベクターは、正常な(例として、野生型)Best1タンパク質をコードするが、ベクターによって発現されるshRNAの作用に耐性があるコード配列を含む。
【0034】
いくつかの態様において、BEST1コード配列は、配列番号9と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を含む。
いくつかの態様において、BEST1コード配列は、配列番号10と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を含む。いくつかの態様において、BEST1コード配列は、配列番号11と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を含む。
【0035】
いくつかの態様において、BEST1コード配列は、配列番号15と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を含む。
1757bpの野生型BEST1配列は、以下のように定義される(配列番号9):
【化1】
【0036】
いくつかの態様において、BEST1コード配列は、野生型BEST1遺伝子の領域に対応する短い脱標的化配列を含む。shRNA744配列をコードするベクター配列とともに使用され得る例示の脱標的化配列は、以下のように定義される(配列番号10):CTACTGTACGGAGAATTTCT。
【0037】
BEST1配列を脱標的化するために、他のヌクレオチド置換がなされ得る。例えば、いくつかの態様において、脱標的化配列は、BEST1コード配列上の種々の位置に位置付けられ、野生型BEST1遺伝子の種々の領域に対応する。shRNA05配列をコードするベクター配列とともに使用され得る例示の脱標的化配列は、以下のように定義される(配列番号11):CCAGCAAGCTGCACAGCGT。
【0038】
いくつかの態様において、配列番号1(および/またはその相補体)の配列を含む核酸によってコードされるshRNA(例として、shRNA05)は、ベクターで処置された宿主細胞において(例として、対象において、例えばヒト対象において)転写される。いくつかの態様において、2以上の種々のshRNA(例として、種々の開始部位および/または終止部位を有し、例えば、1または2の追加のまたはより少ないヌクレオチドによってshRNA05とは異なる)が、宿主細胞において転写される。
【0039】
いくつかの態様において、BEST1コード配列は、プロモーター(例として、ヒトオプシン近位プロモーター)によって駆動される。いくつかの態様において、プロモーターは、以下の配列番号12と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を含む。
【0040】
いくつかの態様において、shRNA発現を駆動するプロモーターは、以下の配列番号13と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を含む。いくつかの態様において、shRNA発現を駆動するプロモーターは、以下の配列番号14と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を含む。
【0041】
例示のプロモーターの配列は以下のとおりである:
VMD2プロモーター、623bpフラグメント(配列番号12)
【化2】
【0042】
H1プロモーター(配列番号13)
【化3】
U6プロモーター(配列番号14)
【化4】
【0043】
いくつかの態様において、BEST1コード配列は、AAVベクターまたはプラスミドなどのベクター中にある。
いくつかの態様において、本明細書に記載のベクターは、脱標的化BEST1配列、配列番号10と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を含む。
【0044】
いくつかの態様において、機能的BEST1配列をコードするベクターは、内因性BEST1遺伝子発現をノックダウンすることなく、細胞のBEST1機能を(例として、少なくとも部分的に)補足または修正するために提供される。いくつかの態様において、BEST1配列は、コドン最適化されている。
いくつかの態様において、機能的BEST1配列およびshRNA配列をコードするベクターは、細胞のBEST1機能を(例として、少なくとも部分的に)補足または修正し、内因性BEST1遺伝子発現をノックダウンするために提供される。いくつかの態様において、内因性Best1発現は、shRNAを使用してノックダウンされる。いくつかの態様において、BEST1配列は、コドン最適化されている。いくつかの態様において、BEST1配列は、shRNAに耐性があるように改変されている。いくつかの態様において、BEST1およびshRNA配列は、同じAAVベクター上にコードされている。
【0045】
いくつかの態様において、開示は、対象におけるBEST1発現を調節する方法を提供し、当該方法は、ヒト対象などの対象に、ベクターまたはrAAV粒子および薬学的に許容し得る担体を含む組成物を投与することを含む。いくつかの側面において、開示は、対象におけるベストロフィノパチー(例として、ベスト病およびARB)を処置する方法を提供し、当該方法は、組成物を投与することを含む。
【0046】
いくつかの態様において、開示は、ベスト病を処置することにおける使用のための組成物、およびベスト病を処置するための医薬の製造における使用のための組成物を提供する。いくつかの側面において、開示は、ARBを処置することにおける使用のためのベクターまたはrAAV粒子を含む組成物、ここで当該ベクターは、機能的BEST1配列をコードする、およびARBを処置するための医薬の製造における使用のための組成物を提供する。
【0047】
開示の側面は、本明細書に記載のrAAVベクター(例として、shRNAおよび/または置換BEST1をコードする)の、様々な組織、器官、および/または細胞への送達のための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子に関する。いくつかの態様において、rAAV粒子は、本明細書に記載のカプシドタンパク質、例として、AAV2カプシドタンパク質を含む。いくつかの態様において、rAAV粒子内に含有されるベクターは、目的のRNA(例として、配列番号1の配列を含むshRNA)をコードし、置換BEST1コード配列(例として、配列番号10の配列を含む)を含む。
【0048】
rAAV粒子内に含有される組換えAAV(rAAV)ベクターは、少なくとも(a)1以上の異種核酸領域(例として、shRNAおよび/またはBest1タンパク質をコードする)および(b)1以上の異種核酸領域(または導入遺伝子)に隣接する逆方向末端反復(ITR)配列(例として、野生型ITR配列または操作されたITR配列)を含む1以上の領域を含み得る。いくつかの態様において、異種核酸領域は、目的のRNA(例として、配列番号3の配列を含むshRNA)をコードし、置換BEST1コード配列(例として、配列番号10の配列を含む)を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターは、4kbと5kbとの間のサイズ(例として、4.2~4.7kbのサイズ)である。このrAAVベクターは、AAV2カプシドなどのウイルスカプシドによってカプシド化され得る。いくつかの態様において、rAAVベクターは一本鎖である。いくつかの態様において、rAAVベクターは二本鎖である。いくつかの態様において、二本鎖rAAVベクターは、例えば、ベクターの別の領域に相補的であるベクターの領域を含有し、ベクターの二本鎖の形成を開始する自己相補的ベクターであり得る。
【0049】
本明細書に開示のとおり、標的変異を伴うBest1構造の分析は、網膜色素上皮の頂端微絨毛の喪失および結果として生じる網膜の微小剥離が、イヌベストロフィノパチーの最も初期の特徴を表すことを示した。網膜の露光が拡大し、暗順応が収縮し、微小剥離が起こる。網膜下アデノ随伴ウイルスベースの遺伝子治療は、卵黄様病変および光変調微小剥離の両方を修正する。
【0050】
イヌBEST1疾患モデルにおける分子病態の研究は、RPE微絨毛鞘(ensheathment)および錐体PR関連不溶性光受容体間マトリックスの欠陥に関連するRPE-PR界面での網膜全体の異常を明らかにした。in vivoイメージングは、網膜全体のRPE-PR微小剥離を実証し、これは、暗順応で収縮し、中程度の強度の光に曝露されると拡大した。アデノ随伴ウイルス2を使用した網膜下BEST1遺伝子増強治療は、臨床的に検出可能な網膜下病変だけでなく、びまん性微小剥離も逆転させた。免疫組織化学的分析は、BEST1導入遺伝子発現を有する領域におけるRPE-PR界面での構造上の変更の修正を示した。成功した処置効果は、1mLの範囲当たり0.1×1011~5×1011のベクターゲノムのベクター力価を有する3つの異なるイヌBEST1遺伝子型で実証された。二アレルのBEST1変異を有する患者は、網膜積層欠陥の広い領域、重度のPR感受性喪失、およびレチノイドサイクルの遅延を示した。RPE-PR界面での細胞構築の回復によるマクロおよび微小剥離の逆転におけるイヌBEST1遺伝子治療の成功のヒトのトランスレーションは、改善された視覚機能をもたらし、ベストロフィノパチーを発症する患者の疾患進行を防ぐことを約束する。
【0051】
本明細書でさらに開示されるように、アデノ随伴ウイルス(AAV)2媒介BEST1遺伝子増強が、この原発性無症候性欠陥ならびに疾患を修正することが発見された。
【0052】
rAAV粒子は、任意の誘導体または偽型(例として、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、2/1、2/5、2/8、または2/9)を含む、任意のAAV血清型のものであり得る。本明細書に使用されるとき、rAAV粒子の血清型は、カプシドタンパク質の血清型を指す。いくつかの態様において、rAAV粒子はAAV2である。誘導体および偽型の非限定例は、rAAV2/1、rAAV2/5、rAAV2/8、rAAV2/9、AAV2-AAV3ハイブリッド、AAVrh.10,AAVhu.14、AAV3a/3b、AAVrh32.33、AAV-HSC15、AAV-HSC17、AAVhu.37、AAVrh.8、CHt-P6、AAV2.5、AAV6.2、AAV2i8、AAV-HSC15/17、AAVM41、AAV9.45、AAV6(Y445F/Y731F)、AAV2.5T、AAV-HAE1/2、AAVクローン32/83、AAVShH10、AAV2(Y→F)、AAV8(Y733F)、AAV2.15、AAV2.4、AAVM41、およびAAVr3.45を含む。かかるAAV血清型および誘導体/偽型、およびかかる誘導体/偽型を産生する方法は、当該技術分野において知られている(例として、Mol Ther. 2012 Apr;20(4):699-708. doi: 10.1038/mt.2011.287. Epub 2012 Jan 24. The AAV vector toolkit: poised at the clinical crossroads. Asokan A1, Schaffer DV, Samulski RJ.を参照)。いくつかの態様において、rAAV粒子は、(a)1つの血清型(例として、AAV2)からのITRを含む核酸ベクター、および(b)別の血清型(例として、AAV5)に由来するカプシドタンパク質で構成されるカプシドを含む、偽型rAAV粒子である。偽型rAAVベクターを産生および使用するための方法は、当該技術分野において知られている(例として、Duan et al., J. Virol., 75:7662-7671, 2001; Halbert et al., J. Virol., 74:1524-1532, 2000; Zolotukhin et al., Methods, 28:158-167, 2002; and Auricchio et al., Hum. Molec. Genet., 10:3075-3081, 2001を参照)。
【0053】
rAAV粒子およびrAAVベクターを産生する方法もまた、当該技術分野において知られており、市販されている(例として、Zolotukhin et al. Production and purification of serotype 1, 2, and 5 recombinant adeno-associated viral vectors. Methods 28 (2002) 158-167;および米国特許公開番号US 2007/0015238およびUS 2012/0322861(これらは、参照により本明細書に組み込まれる)、およびATCCおよびCell Biolabs, Inc.から入手可能なプラスミドおよびキットを参照)。例えば、rAAVベクターを含有するプラスミドは、例として、rep遺伝子(例として、Rep78、Rep68、Rep52およびRep40をコードする)およびcap遺伝子(例として、VP1、VP2、およびVP3(本明細書に記載の改変されたVP3領域を含む)をコードする)を含有する1以上のヘルパープラスミドと組み合わされ、rAAV粒子をパッケージングし、続いて精製することができるように、産生細胞株にトランスフェクトされ得る。
【0054】
いくつかの態様において、1以上のヘルパープラスミドは、rep遺伝子およびcap遺伝子(例として、本明細書に記載のrAAVカプシドタンパク質をコードする)を含む第1のヘルパープラスミド、およびE1a遺伝子、E1b遺伝子、E4遺伝子、E2a遺伝子、およびVA遺伝子を含む第2のヘルパープラスミドを含む。いくつかの態様において、rep遺伝子は、AAV2に由来するrep遺伝子であり、cap遺伝子は、AAV2に由来し、本明細書に記載の改変されたカプシドタンパク質を産生するために、遺伝子への改変を含み得る。ヘルパープラスミド、およびかかるプラスミドを作製する方法は、当該技術分野において知られており、市販されている(例として、以下を参照:PlasmidFactory(ビーレフェルト、ドイツ)のpDM、pDG、pDP1rs、pDP2rs、pDP3rs、pDP4rs、pDP5rs、pDP6rs、pDG(R484E/R585E)、およびpDP8.apeプラスミド;以下から入手可能な他の製品およびサービス:Vector Biolabs(フィラデルフィア、PA);Cellbiolabs(サンディエゴ、CA);Agilent Technologies(サンタクララ、Ca);およびAddgene(ケンブリッジ、MA);pxx6;Grimm et al. (1998), Novel Tools for Production and Purification of Recombinant Adenoassociated Virus Vectors, Human Gene Therapy, Vol. 9, 2745-2760;Kern, A. et al. (2003), Identification of a Heparin-Binding Motif on Adeno-Associated Virus Type 2 Capsids, Journal of Virology, Vol. 77, 11072-11081.;Grimm et al. (2003), Helper Virus-Free, Optically Controllable, and Two-Plasmid-Based Production of Adeno-associated Virus Vectors of Serotypes 1 to 6, Molecular Therapy,Vol. 7, 839-850;Kronenberg et al. (2005), A Conformational Change in the Adeno-Associated Virus Type 2 Capsid Leads to the Exposure of Hidden VP1 N Termini, Journal of Virology, Vol. 79, 5296-5303;およびMoullier, P. and Snyder, R.O. (2008), International efforts for recombinant adeno-associated viral vector reference standards, Molecular Therapy, Vol. 16, 1185-1188)。
【0055】
例示の非限定的なrAAV粒子産生方法が次に記載される。1以上のヘルパープラスミドが産生または取得され、これは、所望されるAAV血清型のrepおよびcap ORFと、それらのネイティブプロモーターの転写制御下にあるアデノウイルスVA、E2A(DBP)、およびE4遺伝子を含む。cap ORFはまた、本明細書に記載の改変されたカプシドタンパク質を産生するための1以上の改変を含み得る。HEK293細胞(ATCC(登録商標)から入手可能)は、CaPO4媒介トランスフェクション、脂質、またはポリエチレンイミン(PEI)などのポリマー分子を介して、ヘルパープラスミド(単数または複数)および本明細書に記載の異種核酸ベクターを含有するプラスミド(例として、図13、14、15または16に示される野生型または変異cBEST1またはhBEST1遺伝子を含む異種核酸を含有するプラスミド)にトランスフェクトされる。次いで、HEK293細胞は、少なくとも60時間インキュベートされ、rAAV粒子の産生を可能にする。代替的に、別の例において、Sf9ベースの産生(producer)安定細胞株を、核酸ベクターを含有する単一の組換えバキュロウイルスに感染させる。さらなる代替として、別の例において、HEK293またはBHK細胞株を、核酸ベクターを含有するHSV、および任意に、本明細書に記載のrepおよびcap ORFおよびそれらのネイティブプロモーターの転写制御下にあるアデノウイルスVA、E2A(DBP)、およびE4遺伝子を含有する1以上のヘルパーHSVに感染させる。次いで、HEK293、BHK、またはSf9細胞は、少なくとも60時間インキュベートされ、rAAV粒子の産生を可能にする。次いで、rAAV粒子は、当該技術分野で知られている、または本明細書に記載の任意の方法を使用して、例として、イオジキサノールステップ勾配、CsCl勾配、クロマトグラフィー、またはポリエチレングリコール(PEG)沈殿によって精製され得る。
【0056】
開示はまた、本明細書に記載のshRNA、ベクター、またはrAAV粒子を含む宿主細胞を企図する。かかる宿主細胞は、哺乳動物宿主細胞を含み、ヒト宿主細胞が好ましく、例として、細胞または組織培養において単離され得る。いくつかの態様において、宿主細胞は眼の細胞である。
いくつかの側面において、開示は、細胞または動物への投与のために、およびとりわけ、ヒト細胞、組織、およびヒトに発症する疾患の治療のために、薬学的に許容し得る溶液中の本明細書に開示の1以上のrAAVベースの組成物の製剤を、単独で、または治療の1以上の他のモダリティと組み合わせて提供する。
【0057】
したがって、いくつかの態様において、本明細書に記載のshRNA、ベクター、またはrAAV粒子、および任意に薬学的に許容し得る担体を含む組成物が提供される。いくつかの態様において、本明細書に記載の組成物は、処置を必要とする対象に投与され得る。いくつかの態様において、対象は、脳および/または眼の1以上の状態、疾患、または障害(例として、ベスト病)を有するか、または有することが疑われる。いくつかの態様において、対象は、本明細書に開示の状態、疾患、および障害(例として、ベスト病)の1以上を有するか、または有することが疑われる。いくつかの態様において、対象は、1以上の内因性変異BEST1アレル(例として、眼または網膜の疾患または障害に関連するか、またはそれを引き起こす)を有する。いくつかの態様において、対象は、少なくとも1の常染色体優性変異BEST1アレル(例として、それはベスト病を引き起こす)を有する。いくつかの態様において、対象はヒトである。いくつかの態様において、対象は霊長目の非ヒト動物である。霊長目の非ヒト動物対象の非限定例は、マカク(例として、カニクイザルまたはアカゲザル)、マーモセット、タマリン、クモザル、ヨザル、サバンナモンキー、リスザル、ヒヒ、ゴリラ、チンパンジー、およびオランウータンを含む。他の例示の対象は、イヌおよびネコなどの飼い慣らされた動物、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、およびニワトリなどの家畜、マウス、ラット、モルモット、およびハムスターなどの他の動物を含む。
【0058】
いくつかの態様において、細胞または対象に投与されるrAAV粒子の用量は、10~1014粒子/mLまたは10~1015粒子/mLの範囲のオーダー、またはいずれかの範囲のそれらの間の任意の値(例えば、約10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、または1014粒子/mLなど)であり得る。一態様において、1013粒子/mLを超えるrAAV粒子が投与される。いくつかの態様において、対象に投与されるrAAV粒子の用量は、10~1014ベクターゲノム(vg)/mLまたは10~1015vg/mLの範囲のオーダー、またはいずれかの範囲のそれらの間の任意の値(例えば、約10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、または1014vg/mLなど)であり得る。一態様において、1013vg/mLを超えるrAAV粒子が投与される。rAAV粒子は、単回用量として投与するか、または処置されている特定の疾患または障害の治療を達成するために必要とされ得る2以上の投与に分割することができる。いくつかの態様において、0.0001mL~10mL(例として、0.0001mL、0.001mL、0.01mL、0.1mL、1mL、10mL)が、1つの用量で対象に送達される。
【0059】
いくつかの態様において、rAAV粒子力価は、1×1010~5×1013vg/mlの範囲である。いくつかの態様において、rAAV粒子力価は、約1×1010、2.5×1010、5×1010、1×1011、2×1011、2.5×1011、5×1011、1×1012、2.5×1012、5×1012、1×1013、2.5×1013、または5×1013vg/mLであり得る。いくつかの態様において、粒子力価は、1×1010vg/mL未満である。いくつかの態様において、rAAV粒子力価は、1×1015vg/mLよりも大きい。いくつかの態様において、rAAV粒子力価は、5×1013vg/mLよりも大きい。具体的な態様において、rAAV粒子力価は、約2×1011または2.5×1011である。いくつかの態様において、rAAV粒子は、本明細書にさらに記載の方法を介して(例として、網膜下または硝子体内に)投与される。
【0060】
rAAV粒子は、単回用量として投与するか、または処置されている特定の疾患または障害の治療を達成するために必要とされ得る2以上の投与に分割することができる。いくつかの態様において、本出願において記載されている1~500マイクロリットルの組成物(例として、rAAV粒子を含む)が、対象の一方または両方の眼に投与される。例えば、いくつかの態様において、約1、約10、約50、約100、約200、約300、約400、または約500マイクロリットルが各眼に投与され得る。しかしながら、いくつかの態様において、より少ないまたはより大きい量が投与され得ることを理解されたい。
【0061】
必要に応じて、rAAV粒子または核酸ベクターは、他の薬剤、例として、タンパク質またはポリペプチドまたは様々な薬学的に活性な薬剤などとも組み合わせて投与され得る(治療的ポリペプチド、生物学的に活性なフラグメント、またはそのバリアントの1以上の全身投与または局所投与を含む)。実際、追加の薬剤が標的細胞または宿主組織との接触時に重大な悪影響を引き起こさないことを考えると、含まれ得る他の成分に事実上制限はない。よって、rAAV粒子は、特定の場合に必要とされるように、様々な他の薬剤とともに送達され得る。かかる組成物は、宿主細胞または他の生物学的供給源から精製され得るか、または代替的に本明細書に記載されるように化学的に合成され得る。
【0062】
他の側面において、開示は、細胞または動物への投与のために、およびとりわけ、ヒト細胞、組織、およびヒトに発症する疾患の治療のために、薬学的に許容し得る溶液中の本明細書に開示のshRNAをコードする1以上のプラスミドの製剤を、単独で、または治療の1以上の他のモダリティと組み合わせて提供する。開示はまた、本明細書に開示のshRNAをコードするプラスミドの投与の方法を提供する。例示の方法は、哺乳動物(例として、ヒト)へのプラスミドの投与の方法を含んでいた。
【0063】
いくつかの態様において、哺乳動物(例として、ヒト)への投与のための開示されたプラスミド製剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のDNAプラスミドベクターを含む。ベクターの濃度は、1mg/mlと3mg/mlとの間であり得る。ある態様において、濃度は、約2mg/mlである。他の態様において、濃度は、約1.6mg/ml、約1.7mg/ml、約1.75mg/ml、約1.8mg/ml、約1.85mg/ml、約1.9mg/ml、約1.95mg/ml、約2.05mg/ml、約2.1mg/ml、または約2.15mg/mlである。
【0064】
薬学的に許容し得る賦形剤および担体溶液の製剤は、例として、経口、非経口、静脈内、鼻腔内、関節内、および筋肉内の投与および製剤を含む様々な処置計画で本明細書に記載の特定の組成物を使用するための好適な投薬および処置計画の開発と同様に、当業者に周知である。
【0065】
典型的には、これらの製剤は、少なくとも約0.1%の治療剤(例として、rAAV粒子またはプラスミド)またはそれ以上を含有し得るが、活性成分(単数または複数)のパーセンテージは当然変化し得、便宜上、全製剤の重量または体積の約1または2%と、約70%または80%以上との間であり得る。当然のことながら、各治療的に有用な組成物中の治療剤(単数または複数)(例として、rAAV粒子)の量は、化合物の任意の所与の単位用量で好適な投薬量が得られるように調製され得る。溶解性、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与の経路、製品の貯蔵寿命、ならびに他の薬理学的考察などの要因は、かかる医薬製剤を調製する当業者によって企図され、そのため、様々な投薬量および処置計画が望まれ得る。
【0066】
ある状況において、皮下、眼内、硝子体内、非経口、皮下、静脈内、脳室内、筋肉内、髄腔内、経口、腹腔内、経口または経鼻吸入、または直接注射による1以上の細胞、組織、または器官への直接注射のいずれかで、本明細書に開示の好適に製剤化された医薬組成物で本明細書に記載のshRNA、ベクター、またはrAAV粒子を送達することが望ましい。
【0067】
注射可能な使用に好適な組成物(例として、本明細書に記載のshRNA、ベクター、またはrAAV粒子を含む)の医薬形態は、滅菌水溶液または分散体を含む。いくつかの態様において、形態は、容易な通針性(syringability)が存在する程度まで無菌で流動性である。いくつかの態様において、形態は、製造および保管の条件下で安定であり、細菌および菌類などの微生物の汚染作用に対して保存される。担体は、例えば、水、生理食塩水、エタノール、ポリオール(例として、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、および/または植物油を含有する溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散の場合では必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持され得る。
【0068】
「担体」という用語は、本明細書に記載のshRNA、ベクター、またはrAAV粒子が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。かかる医薬担体は、水、および、鉱油などの石油系油、落花生油、大豆油、およびゴマ油などの植物油、動物油、または合成由来の油のものを含む油などの滅菌液体であり得る。生理食塩水溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液もまた、液体担体として用いられ得る。
【0069】
本開示の組成物は、様々な経路を通じて眼に送達され得る。それらは、眼への局所適用によって、または例えば硝子体(硝子体内注射)または網膜下(網膜下注射)光受容体間空間への眼内注射によって、眼内に送達され得る。いくつかの態様において、それらは桿体光受容体細胞に送達される。代替的に、それらは眼の周囲の組織への挿入または注射によって局所的に送達され得る。それらは、経口経路を通じて、または皮下、静脈内、または筋肉内注射によって全身的に送達され得る。代替的に、それらは、カテーテルを用いてまたは移植片を用いて送達され得、かかる移植片は、多孔質、非多孔質、またはゼラチン状の物質でできており、シラスティック膜または繊維などの膜、生分解性ポリマー、またはタンパク質性の物質を含む。それらは、例えば、眼の外科手術中、または病態の発病直後、または急性または長期の症状の発生中に、その発生を防ぐために、症状の発病前に投与され得る。
【0070】
注射可能な水溶液の投与のために、例えば、溶液は、必要に応じて好適に緩衝され得、液体希釈剤は、最初に、十分な生理食塩水またはグルコースで等張にされる。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、硝子体内、皮下および腹腔内投与に特に好適である。これに関連して、用いることができる滅菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に知られているであろう。例えば、1つの投薬量を1mlの等張NaCl溶液に溶解し、1000mlの皮下注入液に加えるか、提案された注入部位に注射することができる(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版、1035~1038頁および1570~1580頁を参照)。処置される対象の状態に応じて、投薬量にいくらかの変動が必然的に生じるであろう。いずれにせよ、投与の責任者は、個々の対象に適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒトのための投与の場合、調製物は、無菌性、発熱性、および(例として、FDA Office of Biologics standardsで要求されるような)一般的な安全性および純度の基準を満たすべきである。
【0071】
滅菌注射液は、本明細書に記載のshRNA、ベクター、またはrAAV粒子を、必要に応じて上記に列挙した他のいくつかの成分とともに適切な溶媒に必要な量で組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散体は、様々な滅菌された活性成分を、基本的な分散媒体および上記に列挙されたものからの必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。無菌注射液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥技法であり、これは、前もって滅菌濾過された溶液から活性成分および任意の追加の所望の成分の粉末を生成する。
【0072】
組成物(例として、本明細書に記載のshRNA、ベクター、またはrAAV粒子を含む)の量およびかかる組成物の投与時間は、本教示の利益を有する当業者の範囲内である。しかしながら、治療的有効量の開示された組成物の投与は、例えば、かかる処置を受けている患者に治療上の利益を提供するのに十分な数のrAAV粒子の単回注射などの単回投与によって達成され得る。代替的に、状況によっては、かかる組成物の投与を監督する医師によって決定され得るように、比較的短い期間または比較的長い期間のいずれかで、組成物の複数または連続投与を提供することが望ましい場合がある。
【0073】
いくつかの態様において、桿体細胞は、細胞のBEST1遺伝子発現のサイレンシング時に、構造的に無傷のままであり、および/または生存可能である。いくつかの態様において、細胞のBEST1遺伝子発現がサイレンシングされている桿体細胞は、通常、BEST1を含有するであろう短縮された外側セグメントを有し得る。いくつかの態様において、外側セグメントの長さは、外因的に加えられた(硬化された)BEST1遺伝子を使用して(例として、部分的または完全に)維持または回復され得、その発現は、本出願において記載されている組成物を使用するサイレンシングに耐性がある。
【0074】
本明細書で使用される用語としての疾患を「処置する」とは、対象が経験する疾患または障害(例として、ベスト病)の少なくとも1の兆候または症状の頻度または重症度を低減することを意味する。上記の組成物は、典型的には、有効量、すなわち、所望の結果を生み出すことができる量で対象に投与される。所望の結果は、投与される活性剤に依存するであろう。例えば、rAAV粒子の有効量は、異種核酸を宿主器官、組織、または細胞に移すことができる粒子の量であり得る。
【0075】
開示の方法で利用される組成物の毒性および有効性は、LD50(集団の50%に致死的な用量)を決定するために培養細胞または実験動物のいずれかを使用する標準的な医薬の手順によって決定され得る。毒性と有効性の治療指数との間の用量比は、LD50/ED50の比として表すことができる。大きな治療指数を示すそれらの組成物が好ましい。有毒な副作用を示すものを使用することもできるが、かかる副作用の潜在的な損傷を最小限に抑える送達システムを設計するように注意すべきである。本明細書に記載の組成物の投薬量は、一般に、毒性がほとんどまたはまったくないED50を含む範囲内にある。投薬量は、用いられる剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。
【0076】
さらなる詳細なしに、当業者は、上記の記載に基づいて、本開示を最大限に利用することができると考えられる。したがって、以下の特定の態様は、単なる例示として解釈されるべきであり、いかなる方法であれ、開示の残りの部分を限定するものではない。本明細書で引用されるすべての刊行物は、本明細書で参照される目的または主題のために参照により組み込まれる。
【0077】

例1
RPE-PR界面での初期の網膜全体の病態。
障害のあるRPE-PR相互作用の背後にある病態生理学を理解するために、臨床的に明らかな疾患を伴うcBest網膜を評価した。PR OSとの直接的な相互作用に関与するRPE頂端膜の重要な特徴を、RPE頂端MVの形成に必須な膜-細胞骨格リンカータンパク質であるEZRINに対する免疫組織化学(IHC)によって調べ、錐体PRマトリックス特異的界面を区別するためのヒト錐体アレスチン(hCAR)およびピーナッツ凝集素レクチン(PNA)標識と組み合わせた。野生型(WT)網膜の共焦点顕微鏡法およびの3D再構成画像の分析により、RPE頂端膜の両方の固有の構成要素である錐体および桿体関連MVの複雑なシート様構造が露出した。錐体-MV(RPE頂端錐体鞘としても知られている)は、桿体-MVよりも顕著であり、個々の錐体外側セグメント(COS)をRPE頂端表面につなぐ高度に組織化されたラッピングを形成した(図1A)。網膜下腔において、この細胞間複合体は、PNAレクチンの選択的結合によって検出された同様に複雑な錐体特異的不溶性細胞外マトリックス鞘(錐体-IPM)でさらに包まれていた(図1A)。しかしながら、罹患したcBest網膜では、COSのかかる複雑な細胞外区画化が失われ、微絨毛鞘の欠如は、リポフスチン顆粒で過負荷になり、不溶性錐体-IPMが損なわれた肥大したRPE細胞を伴った(図1B)。これらの所見は、発症後の22の眼(45~270週齢の範囲)の網膜のタペータム部分および非タペータム部分の両方で調べた3つの異なるcBEST1遺伝子型(R25/R25、P463fs/P463fs、およびR25/P463fs)で確認された。
【0078】
構造的な錐体-MV異常が錐体機能障害および疾患に続発する可能性を評価するために、異なるイヌIRDモデル(原発性錐体光受容体チャネル病、CNGB3関連色覚異常)におけるRPE-COS相互作用を調べた。RPE-COS複合体を6週齢で最初に調べた。ミスセンス変異または遺伝子座欠失変異のいずれかを含むCNGB3変異網膜は、RPE-PR界面に明らかな不規則性を示さず、RPE頂端マーカーの適切な局在化は特定の抗BEST1標識と関連していた(図6Aおよび6B)。二重免疫染色は、hCAR陽性であるがCNGB3陰性のCOSと互いに嵌合する錐体-MVに沿ったEZRINの特異的分布を示した。徐々に錐体PR変性を受けるより高齢(57および85週齢)変異網膜におけるCNGB3チャネルサブユニット機能障害の結果として、RPE頂端部の微絨毛鞘は依然として大部分が無傷のままであることが見出された(図6Cおよび6D)。
【0079】
CNGB3変異網膜の知見は、cBestの錐体-MV鞘に関連する構造変化が錐体欠損に続発するのではなく、BEST1の変異によって引き起こされるRPEチャネル病に特異的であることを示唆した。イヌにおける臨床的疾患の発症のかなり前であり、出生後の網膜分化の終わり近くである6週の時点が、これらの実験の焦点であった(図1Cおよび1D)。同齢のWT対照とは対照的に、cBest RPEにおける特定の側底BEST1免疫標識の欠如は、かなり滑らかな頂端表面および明らかに未発達の(痕跡)頂端微絨毛と関連していた(図1C、矢印)。錐体-MVの空間密度および錐体-MVおよび桿体MVの長さの定量化は、4つの網膜位置でのデコンボリューションされた3D Zスタック投影画像で行った(図1D)。錐体-MVの平均数の有意差(P<0.0001)が、調べた各網膜領域のcBestとWTとの間に見られた(図1D)。錐体光受容体の数は対照と同等であったが、cBestの錐体-MVは数がはるかに少なく、まばらに分布しており、組織分布的位置に関係なく、対照よりも一貫して短く、はるかに細かく見えた。対照(WT)の眼では、錐体-MVの平均的な長さは、タペータム上側頭象限で17.4(±0.25)μmであり、下方非タペータム網膜で12.3(±0.23)μmであったが、桿体-MVの長さは、網膜のタペータム部分および非タペータム部分でそれぞれ6.7(±0.11)μmおよび5.3(±0.27)μmであった。しかしながら、cBestでは、識別された希少な錐体-MV拡張の平均的な長さが大幅に短縮された(中心のタペータムおよび非タペータムの下方部分でそれぞれ6.0±0.31および6.5±0.74μm)。cBestの微細な桿体-MVの定量的評価は、光学分解能の限界を超えていた。
【0080】
cBEST1変異眼は露光に伴って拡大する網膜全体の微小剥離を有する。
IHCによって検出された初期のRPE-PR界面異常のin vivo相関を決定するために、光干渉断層撮影(OCT)による非侵襲的イメージングを使用して、検眼鏡検査の病変が検出されるかなり前の若い年齢のcBest眼を評価した。定性的に、評価されたすべての眼の中心網膜は、WT眼では検出できなかった外顆粒層(ONL)の遠位に位置する外側網膜に追加の低散乱層を示した(図2A、矢印および二重矢印)。予期せぬことに、低散乱層は、単一の実験セッション内で同じ眼に繰り返し記録されて変動した。さらなる分析により、明るい短波長光で行われる介在する自家蛍光イメージングのために網膜がより大きな網膜放射照度に曝露された場合、イメージングセッションの終わりに向かって得られたスキャンで低散乱層の幅がより広いことが明らかになった(図2A、二重矢印、より多くのLA)。低散乱層の幅は、自家蛍光イメージングが行われる前のイメージングセッションの初期に得られたスキャンでは小さかった(図2A、矢印、より少ないLA)。
【0081】
定量的研究は、縦反射プロファイルを取得し、鼻および側頭の網膜の位置の両方で測定を行うことによって行った。WT眼(n=12、15~17週齢)は、外網状層(OPL)および外境界膜(ELM)に網膜外側の高散乱ピークを示し、介在する低散乱層をONLとして定義した(図2B)。ELMの遠位には、光受容体の内側セグメントと外側セグメントとの間の接合部に対応する高散乱ピーク(IS/OS)、RPE-タペータム界面の近くで発生する主要なピーク(RPE/T)、および(解像が困難なことが多い)光受容体OS先端に対応する介在する少数の高散乱ピークがあった(図2B)。異常な低散乱層(図2B、矢印)は、より少ない露光でcBest眼(n=6、11週齢)において検出可能であった。より大きな露光で、低散乱層はより深く、より明確になった(図2B、二重矢印)。鼻および側頭の網膜の位置の両方が同じ効果を示した。IS/OSピークとRPE/Tピークとの間の距離(図2Aおよび2B、矢印)を測定した。WT眼では、距離は41.3(±4.5)μmであったが、cBest眼では、この距離は、鼻および側頭網膜領域について、それぞれ、46.8(±6.7)μmおよび45.2(±6.8)μm(より少ない露光)および55.8(±10.5)μmおよび53.5(±6.3)μm(より多い露光)で有意に大きかった(P<0.001)(図2C)。
【0082】
低散乱層の厚さを露光の機能としてよりよく理解するために、2種類の実験を行った。主な実験(WT、n=12、15~17週齢;cBest、n=3、13週齢)では、眼を終夜暗順応させ、次いで標準的な臨床眼科機器によって生成される極めて薄暗い光から中程度の光までの範囲で、徐々に大きくなる強度の5つの介在する短時間の488nmの露光で2時間にわたって、暗所で連続イメージングを行った(図2D)。より短い実験プロトコルでは、最も高い2つの露光のみを異なる眼で使用した(cBest、n=3、13週齢)。終夜の暗順応後、IS/OS-RPE/T距離はWT眼では40.0(±4.5)μmであったが、cBestでは47.1(±4.8)μmであった(図2E)。差異は統計的に有意であった(P<0.001)。益々明るい露光は、cBest眼においてIS/OS-RPE/T距離の単調な拡大をもたらし、59.4(±8.7)μmの見かけのプラトーに達した(図2E)。WTの眼では、露光の影響は無視できるか小さいかのどちらかであり、IS/OS-RPE/T距離は40.9(±4.3)μmのプラトーに達した。よって、光への曝露は、任意の検出可能な検眼鏡検査の知見の前の年齢で数分以内にcBest眼で最大18.4(±8.7)μmの急性網膜微小剥離を引き起こすように見えた。光を介した微小剥離は、24時間未満の期間にわたって消失した(図7)。
【0083】
局所遺伝子治療の準備において、光駆動微小剥離の網膜部位分布を、完全に明順応したcBestおよびWT眼において評価した(図2F)。WT眼(n=4、104週齢)全体の平均IS/OS-RPE/T距離は、上方網膜領域および下方網膜領域で比較的均一であり、タペータム網膜と色素性(非タペータム)網膜との間の移行に対応する明確な境界があった。WT眼のタペータム網膜の距離が遠いのは、高散乱ピーク(タペータム網膜におけるタペータム対色素性RPE)に対する主要な要因の差異が原因である可能性があった。297週齢のcBest眼(R25/P463fs)では、中心窩様領域での著しく明らかな網膜剥離に加えて、相対的にびまん性の網膜全体の微小剥離があった(図2F、より暗い色で示されている)。12週齢の若いcBest眼(P463fs/P463fs)では、検眼鏡検査の異常は明らかではなかったが、視線(visual streak)に沿い、視神経乳頭を取り囲む大きな微小剥離の明確なバンドがあった。変異体の眼と平均WTとの間の差異マップは、微小剥離の程度の空間分布を示した(図2F、右)。
【0084】
光受容体に対する潜在的な有害事象を評価するために、ONLの厚さを、微小剥離を伴う網膜領域全体に組織分布的にマッピングした(図8Aおよび8B)。微小剥離は、光受容体の変性から予想されるONLの薄化をもたらさなかった。代わりに、cBestのONLはWTよりも均一に厚くなる傾向があった。超厚領域は、中心-上方タペータム網膜を典型的に含んでいたが、下方の非タペータム網膜にまで及ぶこともあった(図8A)。重要なことに、ONLの超厚領域は、顕微鏡で調べると、対照に匹敵する数のPR核を有していた。これは、イメージングによって観察された超厚ONLの考えられる原因として、核間の間隔の拡大を示唆している。
【0085】
イヌベストロフィノパチーの自然経過。
遺伝子治療の結果を評価するための前提条件として、cBestの自然経過を18匹のイヌの群[12匹のオス(M)および6匹のメス(F);6~297週齢の範囲]から決定した(表1)。cBestイヌは、最も初期の疾患の発病を検出し、疾患の進行を理解するために、検眼鏡検査および非侵襲的イメージングによって連続的にモニタリングした。体系的なin vivoイメージングに基づいて、最初の疾患の兆候を、イヌ中心窩様領域のわずかな限局性網膜隆起として、早くも11週齢(平均15週齢)で検出した(図9A)。下にあるRPEからの光受容体層のこの離散的な分離は進行して、正面および23週齢での対応するOCTスキャンで明らかな、より大きな網膜下マクロ剥離(卵黄様病変)を形成した(図9B)。断面イメージングでのこの離散的なRPE-PR剥離は、正面のイメージングでは目立たないものの、遺伝子型に関係なく、調べたcBest眼(n=34)の間で一貫していることがわかった。無症候性段階から、疾患は進行して、イヌ中心窩に限定され、微小剥離に囲まれたマクロ剥離(卵黄様段階)を形成した(図3A、左パネル)。原発性病変は徐々に進化して、中心窩様領域を含む網膜中心窩野内の特徴的な水疱性剥離として現れるようになった(図3A、中央および右のパネル、および図9B~9D)。特徴的な高自家蛍光の存在は、病変の下部で明らかであった(図3A、中央の挿入パネル;偽性前房蓄膿段階)。進行した疾患段階は、中心病変内の高自家蛍光物質の部分的な吸収および分散を伴い、ONLの有意な薄化に関連した(図9Eおよび9F)。
【0086】
いずれの場合も、連続イメージングが続き(表1)、cBestは両側に現れ、進行速度は変動するが、ほぼ常に顕著な対称性を示した(図3Aおよび図9A~9F)。両眼に検眼鏡検査的に見える総網膜剥離は、中心網膜に限定されたままであるか、中心部外病変が全体に散在してより広範囲になり、依然として中心錐体が豊富な領域への強い偏向があり、超厚ONLに関連している。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0087】
キー:BSS、平衡塩類溶液;cBEST1、イヌ導入遺伝子;hBEST1、ヒト導入遺伝子;Inj.、注射した;OD、右眼;OS、左眼;OU、両側;p.i.、注射後;UnTx、未処置;vg、ベクターゲノム;WT、野生型。cBEST1変異:R25/R25、p.Arg25Ter-ホモ接合体;P463fs/P463fs、p.Pro463fs-ホモ接合体;R25/P463fs、p.Arg25Ter/p.Pro463fs-複合ヘテロ接合体。
【0088】
網膜下BEST1遺伝子増強治療は疾患を安定的に修正する。
AAV2を介した網膜下遺伝子増強治療の概念実証を評価するために、22のcBest眼に27~69週でヒトVMD2プロモーターによって駆動されるイヌ(cBEST1)またはヒト(hBEST1)導入遺伝子を注射した[0.1~5×1011ベクターゲノム(vg)/mL範囲のベクター力価または平衡塩類溶液(BSS)対照](表1)。開示されたrAAV粒子を作製するために使用されるhBEST1およびcBEST1異種核酸を含む例示のAAVベクターのマップをそれぞれ図13および14に示す。種々の段階の限局性または多発性網膜剥離を示すcBestイヌに、AAVを片側に注射して他方の眼に注射しないか、または片方の眼にAAVを注射して反対側の眼に対照(BSS)注射を行った。多発性疾患を呈する3例は、上側頭象限を標的とするAAVを両側に注射し、他方、外科的小疱の外側の網膜領域は内部対照として機能した(表1)。
【0089】
代表的な結果は、52週齢でcBEST1の網膜下注射を受けた右眼の進行した中心網膜剥離(EM356-OD)(図3A)を示す複合ヘテロ接合(R25/P463fs)イヌから示されるが(図3B、左パネル)、他方の眼には注射しなかった(EM356-OS)(図9A~9F)。両眼は、臨床的におよびin vivoイメージングによってモニタリングした。疾患の逆転は、注射後(p.i.)4週に注射した眼で最初に明らかになり、43および245週p.i.に示されているように、長期間持続的な効果を保持した(図3B)。網膜下マクロ剥離(n=13眼)内に自家蛍光物質の広範な蓄積を示した進行性疾患のこの症例および他の症例では、高自家蛍光シグナルは、AAV注射後数ヶ月間は依然として検出可能であったが、経時的に徐々に弱まった(図3B、挿入パネル)。非侵襲的イメージングに基づいて、AAV-BEST1処置領域内の限局性病変ならびに中心外病変の両方が4~12週p.i.で解消し、局所的な網膜再付着はその後も安定したままであった(表1)。AAVで処置した眼のいずれにも炎症反応の証拠はなく、縦方向のin vivo評価では、RPEまたは神経網膜への悪影響は明らかにならなかった。
【0090】
hBEST1によるAAVを介した処置もまた、病変の逆転および長期的な疾患の修正をもたらした(n=13眼)。cBestイヌ(R25/R25)からの代表的なin vivoイメージング結果およびIHC評価(図3Cおよび3D)は、処置前に存在した初期の両側性病変が、研究の眼(study eye)(EMC3-OS)をAAV-hBEST1(2×1011vg/mL)で処置した後に消失したことを示したが(図3D)、BSSを注射した反対側の対照眼(EMC3-OD)の病変は拡大し続けた(図3C)。眼底検査に基づいて、説明した例ならびに他のすべての場合において、ベクターまたはBSS送達に関連する一過性の網膜剥離は、24~48時間p.i.以内に解消した。しかしながら、BSSを注射した網膜病変は、早くも1週p.i.で再発し、自然の疾患経過に沿って進行した(図3C)。これは、hBEST1遺伝子治療後の最初の6週以内に初期病変およびより進行した病変の両方が解消し、その後処置領域が無病のままであったAAV処置眼とは明確に対照的であった(図3D)。RPEおよびPR特異的なマーカーを使用した眼科検査およびIHC評価では、207週p.iまで網膜に悪影響は見られなかった(図3、10および11)。特に重要なことは、網膜保存p.i.の評価が、錐体-MVおよびアクチン細胞骨格レスキューの拡張を含む、RPE-PR界面での網膜構造の顕著な回復を明らかにしたことであり、これは、イヌまたはヒトのBEST1導入遺伝子のいずれかによるベクターで処置した小疱領域に対応する(図3Cおよび3D、下のパネルおよび図10および11)。性別間で臨床写真またはAAV-BEST1処置への応答に差異は見られなかった。
【0091】
網膜は、野生型対照およびcBestの未処置の眼と比較して、3つのcBestモデル[cmr1(R25/R25)、cmr1/cmr3(R25/P463fs)、およびcmr3(P463fs/P463fs)]でAAV-hBEST1処置後に保存した。cBest眼に27週齢(cmr1)、45週齢(cmr1/cmr3)、または63週齢(cmr3)でAAV-hBEST1(2×1011vg/mL)を注射し、それぞれ103週、51週、または207週p.i.でIHCによって評価した(図10)。処置領域内に明らかな異常は207週p.i.まで検出されなかった。すべての処置した眼(EZRIN)の網膜下腔に突出しているRPE頂端拡張に注意されたい。未処置のcBest対照(右端のパネル)は、RPE頂端微絨毛の欠如、RPE肥大(EZRIN、RPE65)、および網膜下腔の自家蛍光沈着物とともにRPE単層内のリポフスチン顆粒の蓄積を示す。
【0092】
代表的な共焦点顕微鏡写真を、AAV-hBEST1注射(2.5×1011vg/mL)の79週後のcBest(R25/P463fs)網膜を示し、BEST1(RPE、より暗い色)およびSLC16A1(RPE、より明るい色)で二重標識されている図11Aに示す。外科的小疱領域(図11B)から、隣接する境界域領域(図11C)を通って、注射ゾーンの外側の隣接範囲(図11D)に向かう断面の概観を図11B~11Dに示す。拡大画像で強調されているように、RPE-PR界面構造の回復の程度とBEST1導入遺伝子の発現との間に直接的な相関関係が観察された。増強されたBEST1を有する処置領域内のRPE頂端突起の顕著な拡張が観察された(図11B);BEST1の斑状分布(個々のRPE細胞内の弱い赤色シグナル)およびRPE-PR微小剥離に関連する小疱境界域における痕跡の微絨毛[c-MV(明るい矢印)および桿体-MV(より暗い矢印)]の存在(図11C);処置ゾーンの外側でのBEST1発現およびRPE頂端突起の両方の不在下での網膜下病変の形成(図11D)。スカラップ状で精巧でないRPE頂端表面および大量の細胞内沈着物は、cBest変異RPE内の顆粒状凝集体として現れた(図11A、上部パネル、非注射;図11D、拡大)。剥離ゾーンでは、網膜下腔に潜り込む細胞デブリ(星印)はミュラーグリアに対応し、ストレスに応じた網膜のリモデリングを反映する。[スケールバー、100μm(上)および10μm(図11A~11D)。]
【0093】
遺伝子治療による光調節した微小剥離の修正。
検眼鏡検査的に検出可能な網膜剥離のない網膜領域に対するBEST1遺伝子増強治療の結果を理解するために、IS/OS-RPE/T距離を網膜下小疱の内外で組織分布的に測定したcBest(R25/P463fs)イヌの69週齢での対照網膜下BSS注射による代表的な結果は、87週齢で画像化されたすべての網膜を覆う均一な微小剥離を示した(図4A)。平均微小剥離範囲(WT眼で行われた共存測定から差し引かれたBSS注射変異イヌのIS/OS-RPE/T距離)は、上方網膜で11.6μm、下方網膜で16.7μmであり(図4B)、未注射のcBest眼で一貫していた。他方、網膜下AAV遺伝子治療は、処置領域のIS/OS-RPE/T距離の大幅な短縮をもたらした。EMC3-OS、EML4-OS、およびLH21-OSは、約2×1011vg/mLの力価を有するヒトBEST1導入遺伝子を使用した遺伝子治療で処置された3つの遺伝子型の結果を示す(図4Aおよび表1)。いずれの場合も、処置された小疱のIS/OS-RPE/T距離の大幅な短縮があった。注目すべきことに、総網膜剥離(より暗い色)は、処置領域の外側でのみ検出可能であった(図4A)。定量的測定は、微小剥離の完全な改善を示し、IS/OS-RPE/T距離は網膜下の遺伝子治療で処置された上方網膜領域および下方網膜領域の両方でWTレベルに戻ったが(図4B、塗りつぶされた記号)、処置小疱から離れた網膜領域ではそうならなかった(図4B、塗りつぶされていない記号)。
【0094】
網膜下遺伝子治療の有効領域は、手術時に形成された小疱を超えて拡張し、境界域領域を含むことがしばしば示される。遺伝子治療に成功したcBestイヌでは、境界域領域もあったが、これまでに典型的に遭遇したものよりも定性的に大きいように見えた(図4A)。最も極端な例のいくつかでは、網膜全体の微小剥離の前処置マップが、境界域拡張の程度を示すために必要であることがわかった。例えば、EML9-ODは、29週齢で、視線に沿って最も極端であり、総網膜剥離を伴ういくつかの領域を含む網膜全体の微小剥離を示した(図4C)。遺伝子治療は69週で行った。87週で、画像化された網膜全体にわたる微小剥離、ならびに総網膜剥離の大部分が消失し(図4C)、定量的測定は、上方および下方の網膜の位置において、正常またはより薄いIS/OS-RPE/T距離を示した(図4D)。重要なことに、IS/OS-RPE/T距離は、注射時に形成された小疱に対応する網膜の位置、ならびに同じ眼の鼻網膜制御領域で大幅な改善を示した。境界域拡張のこの極端な例は、最初の小疱よりも実質的により離れた部位でのRPEの形質導入をもたらした、cBest眼の微小剥離を介したベクターのより大きな拡散によって説明される可能性がある。比較のために、区切られた境界域拡張を使用したより典型的な例を示す。37週齢のEML13-OSは、網膜全体に、側頭網膜においておよび視線に沿って特に顕著である微小剥離を示した;視線に沿っていくつかの総網膜剥離もあった(図4E)。遺伝子治療は45週で行った。81週齢では、視神経の上方および下方の網膜側頭の両方が微小剥離およびマクロ剥離を欠いていたが、未処置の鼻網膜は微小剥離を保持し、多数のマクロ剥離を形成した(図4E)。定量的結果は、EML9-ODとは異なり、鼻網膜に到達しなかった処置効果を確認した(図4F)。
【0095】
網膜変性に対する遺伝子治療の潜在的な結果を理解するために、ONLの厚さを処置した眼全体にマッピングした(図8B)。微小剥離の消失を示す処置した網膜領域はまた、正常なONLの厚さに対応する傾向があるが、微小剥離を保持する未処置の領域は、超厚または正常、またはいくつかの領域では、薄化したONLを示す傾向があった(図8B)。要約すると、イヌベストロフィノパチーにおけるAAVを介した遺伝子増強治療は、総網膜剥離の持続的な逆転、RPEとPRとの間の密接な接触の再確立、およびONLの厚さの正常値への復帰を促進するようである。
【0096】
ヒト常染色体劣性ベストロフィノパチー:構造および機能。
BEST1変異イヌにおける成功した遺伝子治療の臨床トランスレーションを容易にするために、常染色体劣性ベストロフィノパチー(ARB)のヒト病態生理学をよりよく理解し、前述の検眼鏡検査的に検出可能な総病変を超えた網膜全体の疾患の分布に関する洞察を得るための研究を行った。2人の患者からのデータを示す(図5A~5G):P1は、二アレルBEST1変異(c.341T>C/c.400C>G)を有し、20/100の最良の矯正視力を有する39歳の女性であったが、P2は、BEST1において二アレル変異(c.95T>C/c.102C>T)を有し、20/60視力を有する36歳の男性であった。両方の患者において、変異アレルは臨床的に発症していない親と分離した。それらが含むリポフスチン顆粒の自然な自家蛍光を利用するRPE健康状態の超ワイドイメージングは、相対的な高または低自家蛍光および局所的な不均一性の領域からなる広範囲かつ豊富な異常を示した。注目すべきことに、より健康な鼻末梢網膜を区別する鼻中央周辺網膜において明確な移行ゾーン(図5A、矢印)があった。
【0097】
桿体および錐体の機能は、視力喪失の組織分布および網膜構造異常へのその対応をよりよく理解するために、水平経線に沿って高密度でサンプリングした。両方の患者は、長期の暗順応眼の中心部で桿体媒介感受性の深い(>3log)喪失を示した;両方の患者の側頭野(鼻網膜)および1人の患者の乳頭周囲領域における桿体機能の相対的な保存があった(図5B、上部パネル)。驚くべきことに、明順応した眼の錐体媒介機能は、中程度の喪失(<1log)または正常またはほぼ正常な結果のみを示した(図5B、下部パネル)。視野の全範囲にわたってサンプリングした桿体および錐体機能は、これらの知見を実証かつ拡張し、強い眼間対称性を示した(図12Aおよび12B)。ARBを有する2人の患者の両眼の桿体感受性喪失(RSL)および錐体感受性喪失(CSL)マップ。重度のRSLの大きく対称的な中心領域は、側頭野で比較的保持された機能に囲まれていた。錐体機能への影響は比較的少なく、CSLは視野全体で比較的均一である。生理学的盲点は、側頭野の12°にある黒色の四角として示されている。
【0098】
中心窩を横断する水平経線に沿った網膜積層異常を評価するために、OCTを用いた断面イメージングを行った(図5C)。OCTイメージングの時点では、一貫した露光履歴はなかった。両方の患者は、中心網膜の大部分にわたって外側網膜の光受容体IS/OSのレベルでONLの有意な喪失および異常を示した。さらに、P2は網膜内嚢胞腔およびRPEからの中心網膜の剥離を示した。これはおそらく網膜下液の蓄積によるものである。網膜積層は、乳頭周囲領域(図5C、暗い色の長方形)において、および鼻の中央周辺の移行を超えて(図5C、明るい色の長方形)、相対的な正常化を示した。2つの関心領域の分析は、検出可能であるが異常に薄化したONL、および検出可能なIS/OSおよび錐体外側セグメント先端(COST)を示し、これは両方の患者で低いピークシグナルを伴った(図5Dおよび5E)。P1では、ELMからIS/OSまでの距離およびIS/OSからCOSTまでの距離は正常なものと同等であった。COSTの遠位に低散乱層があるように見え、RPEは超厚のものに見えた(図5D、中央のパネル)。P2では、ELMからIS/OSまでは正常よりも短く見えたが、IS/OSからCOSTまでの距離は正常なものと同等であった。COSTからROST/RPEまでの距離は、不明瞭な低散乱層が介在しているため、正常なものよりも長く見えた;RPEは、厚さが正常なものと同等であるように見えた(図5D、右パネル)。P1の鼻中央周辺領域の外側網膜の分析は、ELMからIS/OS、IS/OSからCOST、およびCOSTからROST/RPEの距離が正常なものよりも大きく、RPEの厚さが正常なものに匹敵することを示した(図5E、中央パネル)。P2の特徴は、P1と正常なものとの間の中間に現れた(図5E、右パネル)。
【0099】
これらの細胞層間のレチノイド移動の動態に対する外側網膜およびRPEのレベルでの構造異常の影響を理解するために、暗順応試験を行った。図5Dに示す乳頭周囲の位置では、P1の暗順応閾値は桿体媒介であったが、1.3log単位上昇した(図5F)。露光後22.5分までに、P1の結果はプラトー上で錐体媒介のままでであったが、正常なものは既に最終的な暗順応閾値の1log単位以内であった。50分までに、P1桿体の結果は依然として1log上昇したが、正常な回復は完了した(図5F)。図5Eに示す中央周辺の鼻網膜の位置では、P2の暗順応閾値は、桿体媒介性であり、正常なものと比較して約0.5log単位上昇した(図5G)。露光後14.5分までに、桿体機能の最初の証拠があったが、これは正常なものの11分の錐体-桿体破壊よりも徐々に遅くなった。桿体の回復率は正常なものと同様であった(図5G)。要約すると、乳頭周囲の遺伝子座でのP1の桿体暗順応動態は非常に遅い時間経過を示したが、中央周辺の遺伝子座でのP2の桿体機能の暗順応動態は正常なものに近かった(図5Fおよび5G)。
【0100】
RPEは、網膜下腔の代謝的に活性な環境を維持する上で重要な役割を果たす。隣接する網膜層との動的な関係により、RPE特異的遺伝子の変異は、隣接する感覚ニューロンに悪影響を及ぼし、視覚機能の喪失およびPR変性をもたらすことがよくある。BEST1の変異は、細胞内カルシウムの異常なレベルに応答して、経上皮イオンおよび体液輸送を妨害することが知られている。異常なRPEカルシウムシグナル伝達は、Ca2+感受性タンパク質の発現および相互作用の変化を通じて他の経路の調節異常をもたらすとも考えられている。cBestの知見に基づくと、かかるタンパク質の1つは、RPE頂端MVの形成および適切な成熟に必須な膜-細胞骨格リンカーであるEZRINである。EZRINの膜-F-アクチン架橋機能の活性化は、Ca2+トランジェントに直接応答して発生し、Ezrin-KOマウスはRPE MVの生成の大幅な減少を示すことが実証されている。BEST1変異RPEに見られるRPE頂端MVの明らかな未発達は、これらの知見と一致している。さらに、他のIRDモデルとの比較IHC評価は、微絨毛鞘に関連するこれらの主要な構造変化が、BEST1変異によって引き起こされる原発性RPEチャネル病に特異的であり、錐体機能障害および変性に続発しないことを示した。
【0101】
RPE頂端突起の構造要素は、非運動性の腸の微絨毛のものとは大きく異なる。RPEの頂端微絨毛に収縮性タンパク質(ミオシンなど)が存在すること、および細胞付着部位に典型的に見られる分子も、RPEが神経網膜に積極的に付着し、張力をかけていることを示唆している。cBestのRPE-PR界面での適切な微絨毛鞘の不足、したがってPR OSへのこれらの突起による物理的および静電的支持の不在は、接着力を弱め、網膜全体のRPE-PR複合体の分離につながると予想されるであろう。疾患の最も初期の段階でcBestに見られる下にあるRPEからのPR層の微小剥離は、このプロセスと一致するであろう。さらに、RPE頂端突起における収縮要素の存在、およびそれらが色素遊走が起こった細胞から進化したという事実は、MVがPR OSと嵌合する間、活発な収縮が可能であり、概日食作用活性を促進する運命にあることを示している。単一のRPE細胞は、網膜の位置およびパッキング密度に応じて、約30~50のPRを収容できる;微絨毛の精巧なネットワークにより、各RPE細胞はかかる高い代謝負荷を日常的に処理することができる。プロテオミクスプロファイリングからの洞察は、この議論を裏付けている。RPEとPR OSとの間の水、イオン、および代謝物の効率的な輸送の中心となる多数のチャネルタンパク質およびトランスポーター(例として、Na/KATPase)とともに、RPE頂端MVに沿って発現されるレチノイドプロセシングタンパク質の濃縮画分がある。RPE細胞のサイズの組織分布的な差異を考え、この研究で定量化したMVの密度および長さを考慮すると、MV拡張は単一のRPE細胞の機能表面を中心網膜で20~30倍拡大し、これは以前の見積もりと一致している。この数は、最も密集したPRに直面しながら、脱落したPOSのより高い代謝回転率に適応した黄斑領域の小さなRPE細胞ではさらに高くなる(約50倍)。BEST1変異RPEの総頂端表面領域のかかる劇的な減少は、代謝物のプロセシングの慢性的な遅延につながり、網膜下腔において適切な細胞体積ならびに化学組成および生理学的pHレベルの両方を維持するRPEの能力を停止させる。これらの要因は網膜の接着に必須であるため、RPE輸送システムに制限があると、静水圧のバランスが変化し、RPE-PR複合体の浸透圧弾性(osmoelastic)特性が低下し、その後神経網膜から分離する。実際、ヒトおよびイヌのベストロフィノパチーにおける原発性漿液性剥離は、最も高い代謝活性の中心領域である中心窩で最初に明らかになる。構造的に無傷の網膜でCOSを楕円体までしっかりと包み込む、高範囲のRPE頂端突起がないことは、この錐体に富む構造が、ベストロフィノパチーにおけるその原発性剥離に対する偏向を説明するであろう。MVとの摩擦相互作用に対するほぼ排他的な依存性があるであろう。これは、cBestでの所見と一致しており、網膜中心窩野のイヌ中心窩様領域内の限局性の前卵黄様病変の形成、および網膜下剥離に対する他の中心錐体に富む領域(視線など)の感受性も記録している。
【0102】
薄暗く中程度の光強度に曝露したときのcBestの微小剥離の主な拡大は予想外の結果であった。正常な眼では、露光は網膜下腔の分子組成を変化させることが知られている。外側セグメントの長さの変化、網膜下腔の水和、RPE頂端MVに沿ったアクチン染色の増加、および外側セグメントの光指向性など、露光によって正常な外側網膜に測定可能な構造変化が生じるという証拠もある。しかしながら、正常な変化のすべては、cBestで測定したものよりも大幅に小さい。例えば、cBestの光によって駆動される網膜下腔の約18μmの拡張と比較して、正常なヒトの眼は約1μmの変化を示し、正常なマウスの眼は外側網膜で約4μmの変化を示した。ヒトARBは最近認識されたばかりであり、最も初期の疾患段階に関する文献は限られている。劣性cBest疾患は、ヒトの優性および劣性の両方のベストロフィノパチーに対する表現型の類似性を有しているようである。ベスト病(BVMD)を有する患者では、卵黄様または後期病変を囲む網膜領域、または前卵黄様段階の疾患の網膜の構造的特徴に関していくつかの論争があった。いくつかの研究は、RPE-PR界面のレベルで軽微な異常を示したが、他からの結果は、検出可能な構造上の欠陥を支持しなかった。この論争の原因は、遺伝子型、使用した種々の方法論的アプローチの解決、またはイメージングに先行する光の履歴であり得る。実際、光依存性の網膜外側の変化は、本明細書に開示のものなどの方法を使用してBVMDに記載されている;それでも、患者の変化の大きさはcBestよりも小さかった(約2μm)。しかしながら、一般に、光刺激に対する影響を受けた網膜の異常な応答は、眼電図の光のピーク/暗闇の谷の比率が著しく低下していることに関連し得る(すべてのベスト病患者(発症前のベスト病患者でさえ)で一貫した知見)。
【0103】
重要なことに、cBestの微小剥離およびマクロ剥離の両方が光受容体の健康に悪影響を及ぼした:微小剥離の領域は超厚ONLに対応する傾向があったのに対し、総マクロ剥離を伴う大きな病変はONLの薄化を示した。本明細書で使用したサンプリング方法では、マクロ剥離を伴うより小さな病変を評価できなかった。ONLはすべての桿体および錐体の核を含み、動物モデルおよびヒトの眼のドナーでの古典的な研究は、一般に、疾患の進行に伴ってONLが薄化することを示している。ONLの肥厚を示す網膜疾患の最も初期の段階のいくつかはあまり知られておらず、これは、in vivoイメージング方法の進歩によってのみ測定可能になった。ヒト研究は、網膜疾患の初期段階でかかるONLの肥厚を以前に示した。網膜ストレスに関連するONL肥厚の動物研究でも証拠がある。顕微鏡で調べたときにcBestのマッピングされたONLの超厚領域は、PR核の数が対照に匹敵することを示し、ONL内のより大きな核間間隔を示唆しており、アポトーシスの閾値を下回る網膜ストレスのレベルに対応している可能性がある。他方、総網膜剥離は、より大きな網膜ストレスおよび進行性の変性を引き起こし得る。
【0104】
BEST1変異に関連する光受容体および視力の喪失を防ぐために、マクロ剥離および微小剥離を伴う網膜領域を対象とした網膜下の遺伝子増強治療を行った。結果は、AAVを介したBEST1遺伝子の増強が安全であり、臨床的に明らかな病変を逆転させ、びまん性微小剥離を改善し、超厚ONLの正常化をもたらすことを示した。さらに、遺伝子治療は、限局性および多発性の両方の症状を伴う3つの異なるBEST1遺伝子型で成功し、処置効果の長期的な持続性を確認した。分子レベルでは、イヌならびにヒトのBEST1導入遺伝子が、RPE-PR複合体の並置を修正し、この重要な界面の細胞構築を回復する能力を確認した。この研究は、常染色体劣性疾患の初期ならびにより進行した段階がこの治療でアプローチするのが賢明であることを示唆している。常染色体Best1変異を有する患者に由来するヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来RPEモデルを利用したさらなる研究は、遺伝子増強アプローチがBVMD患者にも有益であるかどうかを決定するであろう。
【0105】
成功した遺伝子増強治療の臨床トランスレーションを容易にするために、それらの網膜全体の疾患への洞察を得るためにARB患者を研究した。すべてではないが、ほとんどの以前の説明と一致して、ARB患者の網膜疾患は黄斑をはるかに超えて中末梢(midperiphery)にまで拡大した。正面および断面のイメージングと桿体および錐体機能の網膜部位マッピングは、これまで強調されていなかった特徴である、中央周辺の網膜における疾患から健康への明確な移行の存在を示した。疾患領域内では、網膜構造の重度の異常が桿体機能の重度の喪失と関連していた;意外にも、錐体機能は比較的保持されていた。中心網膜内の桿体機能障害はまた、レチノイドサイクルの極端な遅延と関連していたが、より健康な周辺部は、レチノイドのほぼ正常な再循環を示した。光受容体色素に11-cis-網膜発色団を提供する少なくとも2のレチノイドサイクルがある。標準的なレチノイドサイクルはRPEで機能し、桿体および錐体PRの発色団を生成する。他方、網膜レチノイドサイクルは、錐体の特定の使用のために網膜内の発色団を再生すると考えられている。ベスト病における異常なRPE-PR界面は、標準的なRPEレチノイドサイクルからの発色団の送達に影響を与える可能性が最も高いであろう;網膜レチノイドサイクルは比較的影響を受けない可能性があり、したがって錐体機能のより大きな保持を説明する。
【0106】
要約すると、本明細書に開示されているように、RPE-PR界面でのベストロフィノパチーの病態生理学への新しい分子の寄与を驚くべきことに明らかにした。疾患の最も初期の発現を発見した―露光によって増強されたびまん性微小剥離は、in vivoイメージングによって容易に検出できた。AAVを介したBEST1増強遺伝子治療は、全体的に明らかな病変および微小剥離の両方を逆転させ、RPE-PR界面の細胞構築を回復させた。ARB患者の評価は、PR変性から予想されるものを超える網膜部位分布および構造的および機能的欠陥の特性を示した。かかる視覚機能障害は、ベストロフィノパチーを発症する患者へのBEST1遺伝子増強治療の適用の成功により改善することが期待され得る。
【0107】
例2
例2のベクター技術は、RNA干渉を使用して、内因性BEST1 mRNA(変異コピーおよび正常コピーの両方)の発現を抑制するように設計した。これらのベクターは、内因性BEST1 mRNAを正常なBEST1 mRNAに同時に置き換えて、正常なタンパク質のみを生成する。当該技術は、アデノ随伴ウイルスを使用して、BEST1遺伝子のイントロンのないコピーに加えて、低分子干渉RNA(siRNA)の生成につながる低分子ヘアピン型RNA(shRNA)の遺伝子を送達する。BEST1遺伝子は、そのリーディングフレームにサイレント変異があるため、siRNAに対して耐性がある。2つのshRNA、したがって2つの改変したヒトBEST1遺伝子を設計した。両方のBEST1遺伝子は、ヒトVMD2プロモーターの623bpフラグメントによって駆動される。BEST1 cDNAの前には合成イントロンがあり、その後にポリアデニル化配列があり、どちらもSV40ウイルスに由来する。1つのケースでは、shRNA05はRNAポリメラーゼIII(pol III)H1プロモーターによって駆動され、他方のケースでは、shRNA744pol III U6プロモーターによって駆動される。6つのチミジンの配列は、各shRNAの終止配列として機能する。これらの活性なshRNAを特定するために、9つの潜在的なsiRNAまたはshRNA配列をスクリーニングした。
【0108】
shRNAをコードする遺伝子配列は以下のとおりである。
【化5】
shRNA05およびshRNA744をコードする異種核酸、ならびに開示されたrAAV粒子を生成するために使用される脱標的化配列(例として、配列番号10または11の1つ)を含むhBEST1遺伝子を含む例示のAAVベクターのマップをそれぞれ図15および16に示す。両方の配列はVMD2プロモーターによって駆動される。
【0109】
いくつかの態様において、開示は、配列番号2のヌクレオチド配列に加えて、この配列の最初のシトシンの直前の追加のヌクレオチドを含むセンス鎖を含むshRNA05センス鎖を提供する。ある態様において、この追加のヌクレオチドは、シトシン(C)を含む。
いくつかの態様において、開示は、配列番号3のヌクレオチド配列を含むアンチセンス鎖を含むshRNA05を提供する。
【0110】
pol III H1プロモーター、shRNA05、および終止配列をコードするベクターの領域に対応する例示の遺伝子配列は、以下の通りである:
【化6】
(配列番号20)。この配列は、スクリーニングを容易にし、shRNA05の開始部位がH1プロモーターTATAボックス(TATAA)の25ヌクレオチド下流に位置することを保証するためのBamHIエンドヌクレアーゼ部位(ggatcc)をさらに含む。したがって、いくつかの態様において、この配列(および/またはその相補体)を含む核酸によってコードされるshRNA(例として、shRNA05)は、宿主細胞において転写される(例として、対象において、例えば、ヒト対象において、ベクターで処置される)。いくつかの態様において、2以上の異なるshRNA(例として、異なる開始部位および/または終止部位を有し、例えば、1つまたは2つの追加のまたはより少ないヌクレオチドによってshRNA05とは異なる)が、宿主細胞において転写される。
【0111】
図17は、VMD2プロモーターが細胞培養においてうまく機能することを示す。HEK293T細胞を、ニワトリベータアクチンプロモーター(CBA)またはVMD2プロモーターを使用してGFPまたはBest1を発現するプラスミドでトランスフェクトした。タンパク質ライセートをポリアクリルアミドゲルで分離し、ベストロフィン(Best1)の発現をウェスタンブロットで検出し、ベータチューブリンの発現に対して正規化して、ゲルの負荷が均一であることを示した。図18Aおよび18Bは、Best1特異的siRNAが機能的であることを示す。BEST1を安定的に発現するHEK293Tのトランスフェクションは、ベストロフィン(Best1)タンパク質の75%の減少をもたらした。20nM siRNAを使用し、トランスフェクションの48時間後に細胞を分析した。ウェスタンブロット(図18A)、BEST1のノックダウンを、Best1とチューブリンとの間のバンド強度の標準化によって比較した(Best1/チューブリン)(図18B)。図19Aおよび19Bは、Best1 shRNAが活性であることを示す:HEK293T-BEST1細胞に、4μgの示されたプラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に細胞を回収した。BEST1の発現をウェスタンブロットによって決定した(図19A)。BEST1のノックダウンを、Best1とチューブリンとの間のバンド強度の標準化によって比較した(Best1/チューブリン)(図19B)。図20は、Best1の脱標的化を示す。サイレント変異(コドンの3番目の位置の塩基変化)を使用して、Best1 mRNAからsiRNA標的部位を除去した。開示されている例は、shRNA744用である。配列番号15~17は、上から下への配列に対応する。
【0112】
材料および方法
イヌBEST1モデルおよびin vivo網膜イメージング。
ホモ接合型(c.73C>T)(p.R25/R25)または(c.1388delC)(p.P463fs/P463fs)またはcBEST1(GBNM_001097545)の二アレル(c.73C>T/1388delC)(p.R25/P463fs)変異のいずれかを保有する両性(12Mおよび6F)のcBest変異イヌ(n=18)が含まれていた。マルチパネルの図に注釈を付けやすくするために、3つの遺伝子型をそれぞれcmr1、cmr3、およびcmr1/cmr3と呼ぶ。当該研究は、対照の交雑種のイヌ(n=12;7Mおよび5F)と比較して行った(表1)。すべての動物は、網膜疾患研究施設(RDSF)で飼育および維持した。研究は、NIHの実験動物の管理および使用に関するガイドの推奨事項に厳密にしたがって、眼科および視覚研究における動物の使用に関する視覚および眼科学研究協会の声明に準拠して行った。プロトコルは、ペンシルベニア大学の施設内動物管理使用委員会によって承認された(IACUC番号804956および803422)。正面および網膜の断面イメージングは、前述のように全身麻酔下でイヌを使用して行った。
【0113】
ヒト対象。
明順応および2色暗順応機能は、中心視野全体で2°間隔(水平および垂直経線に沿って中心60°)で、および視野全体で12°間隔で測定した。暗順応条件下での光受容体の媒介は、500nmと650nmとの刺激間の感受性の差異によって決定した。暗順応動態は、LEDベースの暗順応計(Roland Consult)および臨床短波長自家蛍光イメージングデバイス(25%レーザー出力;Spectralis HRA;Heidelberg Engineering)からの短時間(30秒)の中程度の露光を使用して、これまでに記載された技法(92~94)と同様に評価した。光干渉断層撮影(OCT)を使用して、網膜全体の層状構造を分析した。網膜断面は、スペクトルドメイン(SD)OCTシステム(RTVue-100;Optovue)で記録した。取得後のデータ分析は、カスタムプログラム(MATLAB 7.5;MathWorks)で行った。記録および分析技法はこれまでに記載されている(30、31、94)。網膜の特徴を特定するために、縦反射プロファイル(LRP)を使用した。共焦点走査型レーザー検眼鏡(Spectralis HRA;Heidelberg Engineering)を使用して、これまでに記載されたように(95)、正面画像を記録し、短波長低照度自家蛍光イメージング(SW-RAFI)でRPEの健康状態を推定した。すべての画像は高速モード(30°×30°の四角形のフィールドまたは50°の円形のフィールド)で取得した。
【0114】
イヌBEST1モデルおよびin vivo網膜イメージング。
視神経、網膜血管、注射小疱の境界、網膜切開部位、および他の局所的な変化などの眼底の特徴を描写するために、30°および55°の直径のレンズを使用して、近赤外照明(820nm)による反射率の重複する正面画像を取得した(Spectralis HRA + OCT)。カスタムプログラム(MATLAB 7.5;MathWorks)を使用して、個々の写真を網膜全体のパノラマにデジタルステッチした。短波長の自家蛍光および反射率のイメージングを使用して、タペータムおよび色素性RPEの境界の輪郭を描いた。スペクトルドメイン光干渉断層撮影(SD-OCT)は、網膜の広い領域にわたってオーバーラップ(30°×25°)ラスタースキャンを使用して行った。OCTデータの取得後処理は、カスタムプログラム(MATLAB 7.5)を使用して行った。網膜全体の組織分布的分析では、各ラスタースキャンの統合後方散乱強度を使用して、近赤外反射(NIR)画像によって形成された網膜全体のモザイクに表示される網膜の特徴に対する正確な位置および方向を配置した。登録されたすべてのラスタースキャンを形成する個々のLRPは、視神経を中心とする直交座標系の規則的な間隔のビン(1°×1°)に割り当てた;各ビンのLRPを調整し、平均化した。OPL、ELM、IS/OS、およびRPE/Tに対応する網膜内のピークおよび境界は、各LRPに沿った後方散乱シグナルの強度および勾配の両方の情報を使用してセグメント化した。ONLの厚さの組織分布的マップはOPLからELMまでの距離から生成し、IS/OSからRPE/Tの厚さのマップはこれらのピーク間の距離から生成した。すべての組織分布的結果について、血管、視神経乳頭、小疱、タペータム境界、および中心窩様領域の位置(24)を参照用に重ね合わせた。まず、WTイヌのマップを視神経乳頭の中心に登録し、回転させて中心窩様領域を一致させ、平均WT組織分布のマップを導出した。cBest変異イヌの中心窩様領域は、視神経乳頭、主要な上方血管、およびタペータムの境界のアライメントによって変異体の眼にWTテンプレートを重ね合わせることによって決定した。次に、cBEST1変異マップを視神経の中心および推定された中心窩様領域によってWTマップに登録し、差異マップを導出した。差異マップは、各眼の処置小疱の内外でサンプリングした。光への曝露と網膜外側構造の変化との間の関係を、2つのアプローチによって評価した。眼のサブセットでは、断面OCTイメージングを各実験セッションの初期に行い、最初に明るい短波長光による自家蛍光イメージングを行い、続いてさらにOCTイメージングを行った。かかるセッションの初期に取得したOCT記録は、正確な露光を定量化することはできなかったが、遅く取得した記録と比較して、より少ない光に曝露された網膜からのものであると考えられた。8つの眼の別のサブセットでは、OCT記録は、終夜の暗順応後に行い、cSLOからの短波長露光の短い間隔に続いて暗い部屋で連続的に行った。3つの眼では、益々大きくなる5つの露光を使用した:L1:レーザー、20%;期間、60秒;L2:レーザー、25%;期間、30秒;L3:レーザー、50%;期間、30秒;L4:レーザー、100%;期間、30秒;L5:レーザー、100%;期間、300秒。3つの目では、L4およびL5のみを使用した。2つの追加の目では、L5のみを使用して、24時間にわたって光を介した微小剥離の回復を追跡した。標準的(100%)レーザー設定は、波長488nmで330μW・cm-2のヒト網膜放射照度に対応すると推定されている(98)。両方のアプローチにおいて、分析用に選択された領域は、研究開始前のcSLOによる眼底の近赤外イメージングに基づいており、臨床的に明らかなマクロ剥離が位置付けられる領域を除外した。
【0115】
網膜下注射および術後手順。
ヒトVMD2プロモーターの制御下でcBEST1またはhBEST1導入遺伝子のいずれかを送達する組換えAAV2/2の網膜下注射(46)を、これまでに公開された手順(46、82、97)にしたがって全身麻酔下で行った。ベクター作製および検証については、これまでに詳しく記載されている(46)。ウイルスベクター溶液の50~180μLの範囲の注射量(力価範囲0.1~5×1011vg/mL)(表1)を、硝子体切除を伴わない経硝子体アプローチを介した手術顕微鏡による直接視覚化下で、カスタム改変されたRetinaJect網膜下注射器(SurModics)(97)を使用して網膜下に送達した。眼圧の上昇を防ぐために、注射直後に前眼房穿刺を行った。注射直後に、網膜下小疱の形成を眼底写真(RetCam Shuttle; Clarity Medical Systems)によって記録した。すべての場合において、外科的小疱は平らになり、網膜は24~48時間p.i.以内に再付着した。生体顕微鏡検査、間接検眼鏡検査、および眼底写真撮影を含む眼科検査は、注射~エンドポイント評価の時間間隔を通じて定期的に(24時間、48時間、および5日間p.i.、次いで最初の2カ月間は毎週、これに続きその後は毎月の眼科検査)行った。術後管理はこれまでに記載されたように行った(46)。
【0116】
組織学的および免疫組織化学的評価。
ex vivo分析のための眼組織は、これまでに記載されたように収集した(24、99)。動物福祉を改善し、不快感を最小限に抑えるためにあらゆる努力をした。すべてのex vivo評価で、cBestおよび対照(WT)の眼は、4%パラホルムアルデヒドで固定し、最適な切断温度の媒体に包埋し、これまでに報告されたように処理した(99)。組織学的評価は、標準的なヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色を使用して行い、すべての免疫組織化学的実験は、確立されたプロトコル(46、99)にしたがって厚さ10μmの凍結切片で行った。簡単に説明すると、網膜凍結切片を1×PBS/0.25%Triton X-100で透過処理し、室温で1時間ブロッキングし、一次抗体とともに終夜インキュベートした(表2)。多色標識では、一次抗体をAlexa Fluor 488ファロイジン(Thermo Fisher Scientific)またはPNA-AF647(L32460;Molecular Probes)と組み合わせ、これに続き、対応する二次抗体(Alexa Fluor)と1時間インキュベートした。スライドを落射蛍光または透過型光学顕微鏡(Axioplan;Carl Zeiss Meditec)で検査し、デジタル画像をSpot 4.0カメラ(Diagnostic Instruments)で収集した。
【表2】
【0117】
共焦点顕微鏡および画像分析。
共焦点画像は、TCS-SP5共焦点顕微鏡システム(Leica Microsystems)またはA1Rレーザー走査型共焦点顕微鏡(Nikon Instruments)で取得した。錐体関連MV(錐体-MV)のカウントを取得するために、各関心領域(ROI)が155μmの長さの2つの隣接するフィールドを、6週齢のcBest(R25/P463fs)および同齢のWT対照からの両眼の1の網膜象限(側頭、上方、下方、および鼻)当たり10の網膜切片(n=80ROI/眼)において視神経乳頭から4mmで画像化した。画像スタックは0.25μmのZステップで取得し、Huygensデコンボリューションソフトウェアバージョン17.04(Scientific Volume Imaging)でデコンボリューションした。デコンボリューションしたすべての画像を、Leica LAS X 3Dレンダリングモジュールでレンダリングし、錐体-MVを手動でカウントした。錐体-MVおよび桿体-MVの両方の長さは、最大投影画像からLeica LAS Xソフトウェア内で評価した。データをMicrosoft Excelで分析し、Prismソフトウェアバージョン7(GraphPad)を使用して定量化した。
【0118】
参考文献
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【表3-7】
【表3-8】
【0119】
他の態様
本明細書に開示されているすべての特徴は、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書に開示されている各特徴は、同じ、同等の、または同様の目的を果たす代替の特徴によって置換ることができる。よって、特に明記しない限り、開示される各特徴は、同等または同様の特徴の一般的なシリーズの例にすぎない。
上記の記載から、当業者は、本開示の必須の特徴を容易に確認することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、様々な利用および条件に適合させるために開示の様々な変更および改変を行うことができる。よって、他の態様もまた請求項内にある。
【0120】
均等物
いくつかの発明の態様が、本明細書に記載され、説明されているが、当業者は、本明細書に記載の、機能を実施するための、および/または、結果および/または1以上の利点を得るための、様々な他の手段および/または構造を容易に把握するであろうし、かかるバリエーションおよび/または改変の各々は、本明細書に記載の発明の態様の範囲内であるとみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および立体配置は、例示的であることを意味すること、および、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または立体配置は、発明の教示が使用される特定の出願(単数または複数)に依存するであろうということを、容易に理解するであろう。当業者は、本明細書に記載の特定の発明の態様に対する多くの均等物を認識するか、または、ルーチンな実験法を使用するだけでこれを確かめることができるであろう。したがって、上記の態様は、一例としてのみ提示されること、および添付の請求項およびそれに対する均等物の範囲内で、発明の態様は、具体的に記載されおよび特許請求される以外に実施され得ることが理解されるべきである。本開示の発明の態様は、本明細書に記載の、各々の個々の特徴、系、物品、材料、キット、および/または方法に関する。加えて、かかる特徴、系、物品、材料、キット、および/または方法の2以上の任意の組み合わせは、かかる特徴、系、物品、材料、キット、および/または方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0121】
すべての定義は、本明細書に定義され、使用される場合、辞書の定義、参照によって組み込まれる文献における定義、および/または定義される用語の通常の意味に優先することが理解されるべきである。
本明細書に開示の、すべての参考文献、特許および特許出願は、各々が引用される主題に関して、参照により組み込まれ、いくつかのケースにおいて、文献の全体を包含し得る。
不定冠詞「a」および「an」は、本明細書および請求項に使用されるとき、それとは反対であることが明確に示されない限り、「少なくとも1の」を意味すると理解されるべきである。
【0122】
句「および/または」は、本明細書および請求項に使用されるとき、そのように結合された要素、すなわち、いくつかのケースにおいて結合的に存在し、他のケースにおいて分離的に存在する要素の「いずれかまたは両方」を意味すると理解されるべきである。「および/または」とともに列挙される複数の要素は、同じ様式(すなわち、そのように結合された要素の「1以上」)で解釈されるべきである。具体的に同定されるこれらの要素に関連するか関連しないかに関わらず、「および/または」節によって具体的に同定される要素以外の、他の要素は任意に存在してもよい。よって、非限定例として、「Aおよび/またはB」への参照は、「含む(comprising)」などのオープンエンドの言語と併せて使用されるとき、一態様において、Aのみ(任意にB以外の要素を含む);別の態様において、Bのみ(任意にA以外の要素を含む);もう1つの態様において、AおよびBの両方(任意に他の要素を含む);等々を指し得る。
【0123】
本明細書および請求項に使用されるとき、「または」は、上に定義されるとおりの「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リストにおける項目を分離するとき、「または」または「および/または」は、包括的であると解釈されるものとし、すなわち、要素の数またはリストのうち、少なくとも1を含むが、1より多いものも含み、任意に、追加の列挙されていない項目を含む。「のうち1つのみ」または「のうち正確に1つ」、または、請求項において使用されるときの「からなる」などの、それとは反対であることが明確に示される用語のみが、要素の数またはリストのうちの正確に1つの要素の包含を指すであろう。一般に、用語「または」は、本明細書に使用されるとき、「いずれか」、「のうちの1つ」、「のうちの1つのみ」または「のうち正確に1つ」などの、排他性の用語が先行するときにのみ、排他的代替(すなわち、「一方または他方」であるが両方ではない)を示すと解釈されるものとする。「から本質的になる」は、請求項において使用されるとき、特許法の分野において使用されるその通常の意味を有するものとする。
【0124】
本明細書および請求項に使用されるとき、句「少なくとも1の」は、1以上の要素のリストを参照して、要素のリスト中の要素の任意の1以上から選択される少なくとも1の要素を意味すると理解されるべきであるが、要素のリスト内に具体的に列挙される各要素およびすべての要素の少なくとも1を含む必要はなく、要素のリスト中の要素の任意の組み合わせを排除しない。この定義はまた、具体的に同定されている要素に関連するかしないかに関わらず、句「少なくとも1」が参照する要素のリスト内に具体的に同定される要素以外の要素が任意に存在してもよいことを可能にする。よって、非限定例として、「AおよびBの少なくとも1」(または同等に「AまたはBの少なくとも1」、または同等に「Aおよび/またはBの少なくとも1」)は、一態様において、少なくとも1のA(任意に1より多いAを含む)、Bが存在しない(および任意にB以外の要素を含む);別の態様において、少なくとも1のB(任意に1より多いBを含む)、Aが存在しない(および任意にA以外の要素を含む);もう1つの態様において、少なくとも1のA(任意に1より多いAを含む)、および少なくとも1のB(任意に1より多いBを含む)(および任意に他の要素を含む);等々を指し得る。
【0125】
それとは反対であることが明確に示されない限り、1より多いステップまたは行為を含む、本明細書に特許請求される任意の方法において、方法のステップまたは行為の順序は、方法のステップまたは行為が記載される順序に必ずしも限定されないことも理解されるべきである。
請求項において、および上記明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「保有する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」、「保持する(holding)」、「から構成される(composed of)」等などのすべての移行句は、オープンエンドであること、すなわち、これを含むが、これに限定されないことを意味することが理解されるべきである。移行句「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」のみが、合衆国特許庁特許審査便覧セクション2111.03に表されるように、それぞれ、クローズまたはセミクローズの移行句であるものとする。オープンエンドの移行句(例として、「含む」)を使用するこの文献において記載される態様はまた、代替の態様において、オープンエンドの移行句によって記載される特徴「からなる」および「から本質的になる」として企図されることが理解されるべきである。例えば、開示が「AおよびBを含む組成物」を記載する場合、開示はまた、代替の態様「AおよびBからなる組成物」および「AおよびBから本質的になる組成物」を企図する。
図1A-D】
図2A-C】
図2D-F】
図3A-B】
図3C-D】
図4A-B】
図4C-F】
図5A-C】
図5D-G】
図6A-D】
図7
図8A-B】
図9A-F】
図10
図11A-D】
図12A-B】
図13
図14
図15
図16
図17
図18A-B】
図19A-B】
図20
【配列表】
2024119830000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-06-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【外国語明細書】