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特開2024-119842ダパグリフロジンを用いて、駆出率が低下した心不全を治療する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119842
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ダパグリフロジンを用いて、駆出率が低下した心不全を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240827BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240827BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/04
A61P43/00 111
A61K31/351
A61K31/381
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024083232
(22)【出願日】2024-05-22
(62)【分割の表示】P 2022194700の分割
【原出願日】2020-03-09
(31)【優先権主張番号】62/893,849
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/930,673
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/946,625
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/960,756
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/969,181
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/985,407
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・マリア・ラングキルデ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】心不全(HFrEF)の患者を治療する方法を提供する。
【解決手段】本開示は、SGLT2阻害薬、例えばダパグリフロジンを用いて、T2D合併又は非合併の、駆出率が低下した心不全(HFrEF)の患者を治療する方法に関する。本明細書に開示される方法は、悪化する心不全の最初のエピソード(心不全のための入院若しくは緊急心不全外来)又は心血管に起因する死亡の複合評価項目のリスクを低減することができる。この複合評価項目の3つの構成要素の各々並びに心不全入院及び心血管に起因する死亡の総数も低減され得る。ダパグリフロジンなどのSGLT2阻害薬は、心不全症状の悪化も低減することができる。本明細書に開示される方法は、心不全症状、健康状態及びクオリティオブライフを改善することもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において駆出率が低下した心不全(HFrEF)を治療する方法であって、有効量のナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項2】
2型糖尿病(T2D)非合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項3】
T2D合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項4】
T2D非合併のHFrEF患者において致死的心血管事象を予防するか又は遅延させる方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項5】
T2D合併のHFrEF患者において致死的心血管事象を予防するか又は遅延させる方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項6】
T2D非合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含み、前記患者は、治療中、腎不全に関連する有害な事象を経験しない、方法。
【請求項7】
T2D合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含み、前記患者は、治療中、腎不全に関連する有害な事象を経験しない、方法。
【請求項8】
腎不全に関連する有害な事象がないことは、eGFRレベルの低減がないか若しくはわずかであること、末期腎不全(ESRD)がないこと及び/又は腎臓に起因する死亡がないことを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
T2D非合併のHFrEF患者によって摂取される心不全(HF)標準治療薬の合計数を低減する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項10】
T2D合併のHFrEF患者によって摂取されるHF標準治療薬の合計数を低減する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項11】
前記SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン、ソタグリフロジン、イプラグリフロジン若しくはエルツグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ダパグリフロジンは、非結晶性固体の形態である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ダパグリフロジンは、結晶性固体の形態である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ダパグリフロジンは、構造:
【化1】
を有する(S)-プロピレングリコール((S)-(PG)溶媒化合物の形態である、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1種の他の治療薬を前記患者に投与することをさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記他の治療薬は、前記SGLT2阻害薬と一緒に、同じ又は異なる医薬組成物中において且つ同じ又は異なる時点で投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記他の治療薬は、抗糖尿病薬、抗肥満薬、抗高脂血症薬、抗アテローム性動脈硬化薬、抗高血圧薬、抗血小板薬、抗血栓薬又は抗凝血薬である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記他の治療薬は、抗糖尿病薬である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記抗糖尿病薬は、ビグアナイド及び/又はDPP4阻害薬である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ビグアナイドは、メトホルミン又はその薬学的に許容される塩である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記DPP4阻害薬は、サクサグリプチン、リナグリプチン若しくはシタグリプチン又はその薬学的に許容される塩である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記患者は、40%以下の左室駆出率(LVEF)を有する、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記LVEFは、35%、30%又は25%以下である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記LVEFは、少なくとも20%である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記LVEFは、心エコー図、放射線核種心血管造影図、血管造影法又は心臓MRIを使用して決定される、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
ダパグリフロジンは、2.5mg、5.0mg又は10mgの用量で1日1回前記患者に経口投与される、請求項12~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
ダパグリフロジンの用量は、10mgである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記SGLT2阻害薬の投与は、以下の転帰:
(i)最初の心不全(HF)事象及び/若しくは致死的心血管事象までの時間を延長すること;並びに/又は
(ii)心不全症状の悪化を低減すること;並びに/又は
(iii)心不全事象の数を減少させること及び/若しくは致死的心血管事象の発生率を低減すること
の少なくとも1つをもたらす、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記SGLT2阻害薬の投与は、最初の心不全(HF)事象までの時間を延長する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記HFのための入院は、HFの一次診断と共に少なくとも24時間続く入院を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院の合計回数を減少させる、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記HFのための入院の合計回数は、最初の及び/又は再入院を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記HFのための入院は、以下の基準:
(i)前記患者によって経験されるHFの新たな若しくは悪化する症状;及び/又は
(ii)HFの新たな若しくは悪化する症状の客観的エビデンス;及び/又は
(iii)HF専門治療の開始若しくは強化
の1つ又は複数によるものである、請求項32~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記患者によって経験されるHFの新たな又は悪化する症状は、呼吸困難、減少した運動耐容能、疲労及び/又は悪化した末端器官障害若しくは体液過剰の他の症状を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
HFの新たな又は悪化する症状の客観的エビデンスは、HFに起因すると考えられる身体診察所見及び/又は新たな若しくは悪化するHFの臨床検査値を含む、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
前記身体診察所見は、以下の所見:末梢浮腫、増加する腹部膨満若しくは腹水、肺ラ音/クラックル/捻髪音、増加した頸静脈圧及び/若しくは肝頸静脈逆流、S3ギャロップ並びに/又は体液貯留に関連する臨床的に有意な若しくは急速な体重増加の少なくとも2つを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
新たな又は悪化するHFの前記臨床検査値は、以下の所見:心不全の代償不全と一致する増加したB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)/N末端プロ-BNP(NT-プロBNP)濃度;肺うっ血の放射線検査エビデンス;臨床的に有意に上昇した左室若しくは右室充満圧又は低心拍出量の非侵襲性診断エビデンス或いは右心カテーテル法による侵襲性診断エビデンスの少なくとも1つを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記HF専門治療の開始又は強化は、以下:経口利尿薬療法の増加、利尿薬若しくは血管作用薬の静脈内投与又は機械的若しくは外科的介入の少なくとも1つを含む、請求項35~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記機械的又は外科的介入は、機械的循環補助又は機械的液体除去を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
緊急HF外来は、HFの一次診断のための救急処置室外来であるが、入院を必要としない、請求項31に記載の方法。
【請求項43】
緊急HF外来は、HFの一次診断のための診療所への緊急の予約なし外来である、請求項31に記載の方法。
【請求項44】
前記患者は、HF症状を経験しており、且つ/或いは体診察所見及び/又は新たな若しくは悪化するHFの臨床検査所見を有していた、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項45】
前記患者は、呼吸困難、減少した運動耐容能、疲労及び/又は悪化した末端器官障害若しくは体液過剰の他の症状からなる群から選択されるHFの1つ又は複数の症状を経験する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記患者は、HF専門治療の開始又は強化を受ける、請求項42~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記緊急HF外来は、静脈内療法を必要とする、請求項42~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記SGLT2阻害薬の投与は、致死的心血管事象までの時間を延長する、請求項29~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
最初の心不全事象及び/又は致死的心血管事象までの時間は、前記SGLT2阻害薬の最初の投与から8週間~2年間遅延される、請求項29~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
最初の心不全事象までの時間は、前記SGLT2阻害薬の最初の投与から8週間~2年間遅延される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
致死的心血管事象までの時間は、前記SGLT2阻害薬の最初の投与から8週間~2年間遅延される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記SGLT2阻害薬の投与は、治療されている前記患者のHF症状の悪化を低減する、請求項29に記載の方法。
【請求項53】
前記患者の心不全症状の低減した悪化は、12~36ヶ月の期間にわたる、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記心不全症状の低減した悪化は、前記患者のHFのための入院の低減した回数によって特徴付けられる、請求項52又は53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記心不全症状の低減した悪化は、前記患者の緊急HF外来の低減した回数によって特徴付けられる、請求項52~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記緊急HF外来は、救急処置室外来又は緊急外来患者の診療所外来である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記心不全症状の低減した悪化は、SGLT2阻害薬投与前の患者のスコアと比較したカンザスシティ心筋症アンケート(KCCQ)に基づく前記患者のより高いスコアによって特徴付けられる、請求項52~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記KCCQに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から8ヶ月以内に現れる、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記KCCQに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前の前記スコアより少なくとも5ポイント高い、請求項57又は58に記載の方法。
【請求項60】
前記KCCQに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前の前記スコアより少なくとも10ポイント高い、請求項57又は58に記載の方法。
【請求項61】
前記KCCQに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前の前記スコアより少なくとも15ポイント高い、請求項57又は58に記載の方法。
【請求項62】
前記KCCQスコアは、KCCQ総症状スコア(TSS)である、請求項57~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記KCCQ-TSSに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬の投与前の患者の閾値KCCQ-TSSスコアとは関係なく得られる、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記KCCQスコアは、KCCQ-臨床症状スコア(CSS)である、請求項57~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記KCCQスコアは、KCCQ-全体サマリースコア(OSS)である、請求項57~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記SGLT2阻害薬の投与は、HF事象の数を減少させ、且つ/又は心血管事象の発生率を低減する、請求項29に記載の方法。
【請求項67】
前記SGLT2阻害薬の投与は、HF事象の数を減少させる、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院の回数を減少させる、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記SGLT2阻害薬の投与は、緊急HF外来の回数を減少させる、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
前記緊急HF外来は、救急処置室外来である、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記緊急HF外来は、静脈内療法を必要とする、請求項70又は71に記載の方法。
【請求項73】
前記SGLT2阻害薬の投与は、致死的心血管事象の発生率を低減する、請求項66に記載の方法。
【請求項74】
前記SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院又は致死的心血管事象の複合項目を減少させる、請求項66~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記患者は、前記SGLT2阻害薬の投与前又は投与中に1種又は複数のHF標準治療薬を受けている、請求項1~74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記1種又は複数のHF標準治療薬は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、β遮断薬、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、ネプリリシン阻害薬及び利尿薬からなる群から選択される、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、治療有効量のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬である、請求項75又は76に記載の方法。
【請求項78】
前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、治療有効量のアンギオテンシンII受容体遮断薬(ARB)である、請求項75~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、β遮断薬である、請求項75~78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)である、請求項75~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、ネプリリシン阻害薬である、請求項75~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、ループ利尿薬である、請求項75~81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記SGLT2阻害薬を投与されている前記患者は、II~IVのニューヨーク心臓協会(NYHA)心不全分類を有する、請求項1~82のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
前記患者は、IIのNYHA心不全分類を有する、請求項1~83のいずれか一項に記載の方法。
【請求項85】
前記患者は、III又はIVのNYHA心不全分類を有する、請求項1~83のいずれか一項に記載の方法。
【請求項86】
前記患者は、前記SGLT2阻害薬の投与前に≧30ml/分/1.73m2のeGFRを有する、請求項1~85のいずれか一項に記載の方法。
【請求項87】
前記患者は、前記SGLT2阻害薬の投与中に≧30ml/分/1.73mのeGFRを維持する、請求項1~86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
前記患者は、SGLT2阻害薬投与前に1ミリリットル当たり少なくとも400pg、1ミリリットル当たり少なくとも600pg又は1ミリリットル当たり少なくとも900pgの血漿N末端プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド(NT-プロBNP)レベルを有する、請求項1~87のいずれか一項に記載の方法。
【請求項89】
前記患者は、SGLT2阻害薬投与前に症候性HFrEFと医学的に診断されている、請求項1~88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
前記患者は、SGLT2阻害薬投与の少なくとも2か月前にHFrEFと診断された、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記患者は、SGLT2阻害薬投与前に心房細動及び/又は心房粗動を有する、請求項1~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記患者は、SGLT2阻害薬投与前に心房細動及び/又は心房粗動を有さない、請求項1~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
前記SGLT2阻害薬投与は、前記患者のHbA1cを減少させる、請求項1~92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
前記SGLT2阻害薬投与は、前記患者の収縮期血圧を減少させる、請求項1~93のいずれか一項に記載の方法。
【請求項95】
前記SGLT2阻害薬投与は、前記患者の体重を減少させる、請求項1~94のいずれか一項に記載の方法。
【請求項96】
前記SGLT2阻害薬投与は、前記患者の前記NT-プロBNPレベルを減少させる、請求項1~95のいずれか一項に記載の方法。
【請求項97】
前記減少は、SGLT2阻害薬投与の開始から8ヶ月以内に起こる、請求項94~96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
前記SGLT2阻害薬投与は、NYHA HF分類の改善をもたらす、請求項84~96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項99】
前記SGLT2阻害薬投与は、HFのための再入院の減少又は再発HF事象の減少をもたらす、請求項1~98のいずれか一項に記載の方法。
【請求項100】
再発HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来を含む、請求項99に記載の方法。
【請求項101】
前記SGLT2阻害薬投与は、非心血管に起因する死亡の低下した発生率をもたらす、請求項1~100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
SGLT2阻害薬及びHF標準治療薬で治療されているHFrEF患者において、心血管系死亡、HF入院又は緊急HF外来の主要複合エンドポイントのレートを低減する方法であって、前記レートは、HF標準治療薬単独で治療されている患者に対して低減される、方法。
【請求項103】
SGLT2阻害薬及びHF標準治療薬で治療されているHFrEF患者において、心血管系死亡又はHF入院の副次複合エンドポイントのレートを低減する方法であって、前記レートは、HF標準治療薬単独で治療されている患者に対して低減される、方法。
【請求項104】
前記SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである、請求項102又は103に記載の方法。
【請求項105】
前記ダパグリフロジンは、1日1回10mgで投与される、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
SGLT2阻害薬で治療されているHFrEF患者の全死因死亡の発生率を低減する方法。
【請求項107】
前記全死因死亡は、心血管及び非心血管に起因する死亡を含む、請求項106に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
心不全(HF)は、心臓が、身体の器官を維持するのに十分な血液を汲み出すことができない、生命を脅かす医学的状態である。HFは、全世界で6千4百万人(その半数は、低下した駆出率(HFrEF)を有する)が罹患し、HFの有病率及び発生率は、世界的に増加し続けている。(非特許文献1)。HFは、慢性及び変性疾患であり、患者の半数は、診断から5年以内に死亡し得る(非特許文献2)。HFは、65歳を超える人達の入院の主要な原因であり、相当の臨床及び経済的負担となっている(非特許文献3)。
【0002】
HFの既存の標準治療パラダイムは、下記クラスの薬剤、例えばアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のような鉱質コルチコイド受容体薬、アンギオテンシン受容体-ネプリリシン阻害薬(ARNI)、ジゴキシン、利尿薬、心ポンプ療法、選択的洞結節抑制薬、血管拡張薬及びカルシウムチャネル遮断薬(患者が収縮性心不全に罹患していない限り)の1つ又は複数の同時投与を含む。考えられる最善の治療法を用いても、HFの5年生存率は、大部分の癌より低い。(非特許文献4)。HF患者の罹患率及び死亡率は、高いままであり、患者の転帰には改善が必要である。心血管死亡率を低下させ、心不全事象及びHF症状の悪化を低減すると共に、疾患進行を緩徐にすることによって患者の転帰を改善するために、HF患者、特にHFrEF患者を治療する別の方法が求められている。
【0003】
ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬は、血糖降下薬のクラスであり、これは、インスリン分泌とは独立に、低い低血糖症リスクで血糖コントロールを改善し、血圧、体重及び尿酸値の低減をもたらす(非特許文献5)。SGLT2阻害薬は、腎臓の糖再吸収を低減し、これにより尿糖排泄量が増加する(同上)。加えて、SGLT2阻害薬は、血管硬化を低減し、内皮機能を改善する。
【0004】
ダパグリフロジンは、強力であり、高選択性であり、且つヒト腎臓SGLT2の経口で有効な阻害薬であり、低血糖症を誘導するリスクが低いままHbAlcを有効に低減する。ダパグリフロジン治療法は、体重、収縮期血圧、血中尿酸、アルブミン尿を低減し、且つ動脈コンプライアンス(増大するCVリスクに関連する全ての状態)を改善することが証明されている(非特許文献6)。ダパグリフロジンの化学構造は、
【化1】
である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cannie D.E.et al.,European Cardiology Review 14(2):89-96(2019)
【非特許文献2】Mamas,M.A.et al.,European Journal of Heart Failure 19:1095-1104(2017)
【非特許文献3】Azad,N.et al.,Journal of Geriatric Cardiology 11:329-337(2014)
【非特許文献4】Braunwald,E.et al.,Lancet 385:812-824(2015)
【非特許文献5】Inzucchi et al.,Diabetes & Vascular Dis Res.12(2):90-100(2015)
【非特許文献6】Shigiyama et al.,Cardiovasc Diabetol 16:84(2017)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本開示は、SGLT2阻害薬、例えばダパグリフロジンを用いて、2型糖尿病(T2D)合併又は非合併の患者を含め、HFrEF患者を治療する方法に関する。
【0007】
本開示は、患者において駆出率が低下した心不全(HFrEF)を治療する方法であって、有効量のナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬を患者に投与することを含む方法に関する。例えば、一部の実施形態では、本開示は、2型糖尿病(T2D)非合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬を患者に投与することを含む方法に関する。他の実施形態では、本開示は、T2D合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法に関する。
【0008】
また、T2D合併又は非合併のHFrEF患者において致死的心血管事象を予防するか又は遅延させる方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法も開示される。
【0009】
さらに、本明細書には、T2D非合併のHFrEF患者において糖尿病の発生を予防するか又は遅延させる方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法も開示される。一部の実施形態では、T2D非合併のHFrEF患者は、5.7%未満の糖化ヘモグロビンを有する。一部の実施形態では、T2D非合併のHFrEF患者は、糖尿病前期である(即ち糖化ヘモグロビン≧5.7%且つ<6.5%を有する)。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較してT2Dの発生率を低下させる。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HFの標準治療薬と比較してT2Dの発生率を低下させる。一部の実施形態では、T2D発生率の低下は、6.5%≧の糖化ヘモグロビン測定値の最初の報告までの時間によって測定される。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較してT2Dの発生率を低下させる上で1未満のハザード比をもたらす。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、標準HF治療薬と比較してT2Dの発生率を低下させる上で1未満のハザード比をもたらす。
【0010】
さらにまた、T2D合併又は非合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法も開示され、患者は、治療中、腎不全に関連する有害な事象を経験しない。一部の実施形態では、腎不全に関連する有害な事象がないことは、eGFRレベルの低減がないか若しくはわずかであること、末期腎不全(ESRD)がないこと及び/又は腎臓に起因する死亡がないことを含む。
【0011】
本明細書には、T2D合併又は非合併のHFrEF患者によって摂取される心不全(HF)標準治療薬の合計数を低減する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法が開示される。
【0012】
本明細書に開示される実施形態のいずれかにおいて、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン、ソタグリフロジン、イプラグリフロジン若しくはエルツグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。少なくとも一実施形態では、ダパグリフロジンは、非結晶性固体の形態である。少なくとも一実施形態では、ダパグリフロジンは、結晶性固体の形態である。少なくとも一実施形態では、ダパグリフロジンは、構造:
【化2】
を有する(S)-プロピレングリコール((S)-(PG)溶媒化合物の形態である。
【0013】
さらに、本明細書には、有効量のSGLT2阻害薬を単独で又は少なくとも1種の他の治療薬と組み合わせて、それを必要とする患者に投与することを含む方法が開示される。一部の実施形態では、他の治療薬は、SGLT2阻害薬と一緒に、同じ又は異なる医薬組成物中において且つ同じ又は異なる時点で投与される。一部の実施形態では、他の治療薬は、抗糖尿病薬、抗肥満薬、抗高脂血症薬、抗アテローム性動脈硬化薬、抗高血圧薬、抗血小板薬、抗血栓薬又は抗凝血薬である。例えば、少なくとも一実施形態では、他の治療薬は、ビグアナイド及び/又はDPP4阻害薬などの抗糖尿病薬である。例示的なビグアナイドは、メトホルミン又はその薬学的に許容される塩である。例示的なDPP4阻害薬としては、サクサグリプチン、リナグリプチン、シタグリプチン及びそれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0014】
本明細書に開示される方法では、患者は、40%以下、例えば35%、30%又は25%以下及び少なくとも一実施形態では少なくとも20%の左室駆出率(LVEF)を有する。LVEFは、例えば、心エコー図、放射線核種心血管造影図、血管造影法又は心臓MRIを使用して決定され得る。
【0015】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグなどのSGLT2阻害薬を2.5mg、5.0mg又は10mgの用量で1日1回患者に経口投与することを含む。少なくとも一実施形態では、用量は、10mgである。
【0016】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、以下の転帰:
(i)最初の心不全(HF)事象及び/若しくは致死的心血管事象までの時間を延長すること;並びに/又は
(ii)心不全症状の悪化を低減すること;並びに/又は
(iii)心不全事象の回を減少させること及び/若しくは致死的心血管事象の発生率を低減すること
の少なくとも1つをもたらす。
【0017】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、心筋梗塞の発生率を低減する。一部の実施形態では、心筋梗塞は、致死的である。一部の実施形態では、心筋梗塞は、非致死的である。一部の実施形態では、患者は、心筋梗塞の病歴を有する。一部の実施形態では、患者には心筋梗塞の病歴がない。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して心筋梗塞の発生率を低減する。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF標準治療薬と比較して心筋梗塞の発生率を低減する。一部の実施形態では、心筋梗塞の発生率の減少は、最初の致死的又は非致死的心筋梗塞までの時間によって測定される。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して心筋梗塞の発生率の低減について1未満のハザード比をもたらす。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、標準治療薬と比較して心筋梗塞の発生率の低減について1未満のハザード比をもたらす。
【0018】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、急性心筋梗塞後の患者の心不全のための入院及び心血管系死亡のリスクを低減する。一部の実施形態では、患者は、SGLT2阻害薬による治療の開始から7日以内に急性心筋梗塞を経験したことがある。一部の実施形態では、患者は、STEMI(ST部分上昇心筋梗塞)を経験したことがある。一部の実施形態では、患者は、NSTEMI(非ST部分上昇心筋梗塞)を経験したことがある。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジンである。一部の実施形態では、患者は、T2Dに罹患している。一部の実施形態では、患者は、T2Dに罹患していない。一部の実施形態では、患者は、HFrEFに罹患している。一部の実施形態では、患者は、HFrEFに罹患してない。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して、急性心筋梗塞後の患者の心不全のための入院及び心血管系死亡のリスクを低減する。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF標準治療薬と比較して、急性心筋梗塞後の患者の心不全のための入院及び心血管系死亡のリスクを低減する。本明細書に開示される方法では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、SGLT2阻害薬の投与前又は投与中に1種又は複数のHF標準治療薬を受けていることができる。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、7日以内に急性心筋梗塞を経験した患者において、以下の転帰:
(i)最初の心不全(HF)事象及び/若しくは致死的心血管事象までの時間を延長すること;並びに/又は
(ii)心不全症状の悪化を低減すること;並びに/又は
(iii)心不全事象の数を減少させること及び/若しくは致死的心血管事象の発生率を低減すること;並びに/又は
(iv)心不全のための入院及び心血管系死亡を低減すること;並びに/又は
(v)致死的若しくは非致死的心筋梗塞のリスクを低減すること;並びに/又は
(vi)生命に関わる有害心臓事象(心血管系死亡、非致死的心筋梗塞及び非致死的発作の複合項目)のリスクを低減すること;並びに/又は
(vii)全死因死亡のリスクを低減すること
の少なくとも1つをもたらす。
【0019】
一部の実施形態では、上のパラグラフに記載される方法は、(i)~(vii)のいずれか1つについて1未満のハザード比をもたらす。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF標準治療薬を摂取する患者と比較して低いハザード比をもたらす。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して低いハザード比をもたらす。
【0020】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、急性非代償性心不全患者の心血管系死亡又は心不全症状の悪化の最初の事象までの時間を低減する。一部の実施形態では、患者は、SGLT2投与の開始前に心不全症状の悪化又は急性非代償性心不全のために入院している。一部の実施形態では、患者は、SGLT2投与の開始前に40%以下、例えば35%、30%又は25%以下、少なくとも一実施形態では少なくとも20%の左室駆出率(LVEF)を有する。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジンである。一部の実施形態では、患者は、SGLT2投与の開始前にT2Dに罹患している。一部の実施形態では、患者は、SGLT2投与の開始前にT2Dに罹患していない。一部の実施形態では、患者は、SGLT2投与の開始前に>30ml/分/1.73mのeGFRを有する。一部の実施形態では、患者は、SGLT2投与の開始前に増加したナトリウム利尿ペプチドを有する。一部の実施形態では、患者は、心不全症状の悪化又は急性心不全のために、安定した状態で入院している。本明細書で使用される場合、「安定した状態」とは、SGLT2投与開始の少なくとも24時間前、例えばSGLT2投与開始の少なくとも48時間前、例えば少なくとも72時間前及び一部の実施形態では少なくとも1週間前にi.v.利尿薬の増加がなく、且つi.v.血管拡張薬又は循環作動薬の使用もないことを意味すると理解される。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して、急性非代償性心不全患者の心血管系死亡又は心不全症状の悪化の最初の事象までの時間を低減する。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF標準治療薬と比較して、急性非代償性心不全患者の心血管系死亡又は心不全症状の悪化の最初の事象までの時間を低減する。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、SGLT2阻害薬の投与前又は投与中に1種又は複数のHF標準治療薬を受けていることができる。
【0021】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、急性非代償性心不全患者において、以下の転帰:
(i)最初の致死的心血管事象までの時間を延長すること;並びに/又は
(ii)心不全のための再入院までの時間を延長すること;並びに/又は
(iii)緊急HF外来までの時間を延長すること;並びに/又は
(iv)生存及び退院後の合計日数を延長すること;並びに/又は
(v)心不全症状の悪化を低減すること;並びに/又は
(vi)全死因死亡のリスクを低減すること
の少なくとも1つをもたらす。
【0022】
一部の実施形態では、上のパラグラフに記載される方法は、(i)~(vi)のいずれか1つについて1未満のハザード比をもたらす。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF標準治療薬を摂取する患者と比較して低いハザード比をもたらす。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して低いハザード比をもたらす。
【0023】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、いずれかの発作(虚血性、出血性又は原因不明)の発生率を低減する。一部の実施形態では、発作は、致死的である。一部の実施形態では、発作は、非致死的である。一部の実施形態では、患者は、発作の病歴を有する。一部の実施形態では、患者には発作の病歴がない。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して発作の発生率を低減する。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF標準治療薬と比較して発作の発生率を低減する。一部の実施形態では、発作の発生率の低減は、最初の致死的又は非致死的発作までの時間によって測定される。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して発作の発生率の低減について1未満のハザード比をもたらす。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF標準治療薬と比較して発作の発生率の低減について1未満のハザード比をもたらす。
【0024】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、最初の心不全(HF)事象までの時間を延長する。少なくとも一実施形態では、HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来である。少なくとも一実施形態では、HFのための入院は、HFの一次診断と共に少なくとも24時間続く入院を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院の合計回数を減少させる。少なくとも一実施形態では、HFのための入院の合計回数は、最初の及び/又は再入院を含む。
【0025】
一部の実施形態では、HFのための入院は、以下の基準:
(i)患者によって経験されるHFの新たな若しくは悪化する症状;及び/又は
(ii)HFの新たな若しくは悪化する症状の客観的エビデンス;及び/又は
(iii)HF専門治療の開始若しくは強化
の1つ又は複数によるものである。
【0026】
少なくとも一実施形態では、患者によって経験されるHFの新たな若しくは悪化する症状は、呼吸困難、減少した運動耐容能、疲労及び/又は悪化した末端器官障害若しくは体液過剰の他の症状を含む。少なくとも一実施形態では、HFの新たな若しくは悪化した症状の客観的エビデンスは、HFに起因すると考えられる身体診察所見及び/又は新たな若しくは悪化するHFの臨床検査値を含む。少なくとも一実施形態では、身体診察所見は、以下の所見:末梢浮腫、増加する腹部膨満若しくは腹水、肺ラ音/クラックル/捻髪音、増加した頸静脈圧及び/若しくは肝頸静脈逆流、S3ギャロップ並びに/又は体液貯留に関連する臨床的に有意な若しくは急速な体重増加の少なくとも2つを含む。少なくとも一実施形態では、新たな若しくは悪化するHFの臨床検査値は、以下の所見:心不全の代償不全と一致する増加したB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)/N末端プロ-BNP(NT-プロBNP)濃度;肺うっ血の放射線検査エビデンス;臨床的に有意に上昇した左室若しくは右室充満圧又は低心拍出量の非侵襲性診断エビデンス或いは右心カテーテル法による侵襲性診断エビデンスの少なくとも1つを含む。少なくとも一実施形態では、HF専門治療の開始又は強化は、以下:経口利尿薬療法の増加、利尿薬若しくは血管作用薬の静脈内投与又は機械的若しくは外科的介入(例えば、機械的若しくは外科的介入は、機械的循環補助又は機械的液体除去を含む)の少なくとも1つを含む。
【0027】
一部の実施形態では、緊急HF外来は、HFの一次診断のための救急処置室外来であるが、HFの一次診断のための診療所への緊急の予約なし外来などのように、入院を必要としない。緊急HF外来が必要である一部の実施形態では、患者は、HF症状を経験しており、且つ/或いは身体診察所見及び/又は新たな若しくは悪化するHFの臨床検査所見を有していた。少なくとも一実施形態では、患者は、呼吸困難、減少した運動耐容能、疲労及び/又は悪化した末端器官障害若しくは体液過剰の他の症状からなる群から選択されるHFの1つ又は複数の症状を経験する。緊急HF外来が必要である一部の実施形態では、患者は、HF専門治療の開始又は強化を受ける。緊急HF外来が必要である一部の実施形態では、患者は、静脈内療法を必要とする。
【0028】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、致死的心血管事象までの時間を延長する。
【0029】
前述した実施形態では、最初の心不全事象及び/又は致死的心血管事象までの時間は、SGLT2阻害薬の最初の投与から8週間~24ヶ月間遅延され得る。少なくとも一実施形態では、最初の心不全事象までの時間は、SGLT2阻害薬の最初の投与から8週間~24ヶ月間遅延される。少なくとも一実施形態では、致死的心血管事象までの時間は、SGLT2阻害薬の最初の投与から8週間~24ヶ月間遅延される。
【0030】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、治療されている患者のHF症状の悪化を低減する。少なくとも一実施形態では、患者の心不全症状の低減した軽減は、12~36ヶ月の期間にわたる。少なくとも一実施形態では、心不全症状の低減した悪化は、患者のHFのための入院の低減した回数によって特徴付けられる。少なくとも一実施形態では、心不全症状の低減した悪化は、患者の緊急HF外来の低減した回数によって特徴付けられる。少なくとも一実施形態では、緊急HF外来は、救急処置室外来又は緊急外来患者の診療所外来である。
【0031】
少なくとも一実施形態では、心不全症状の低減した悪化は、SGLT2阻害薬投与前の患者のスコアと比較したカンザスシティ心筋症アンケート総症状スコア(KCCQ-TSS)に基づく患者のより高いスコアによって特徴付けられる。こうした実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から16週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から20週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から24週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から28週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から32週間又は8ヶ月以内に現れる。少なくとも一実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも5ポイント高い。少なくとも一実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも10ポイント高い。少なくとも一実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも15ポイント高い。
【0032】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、以下:
a)心不全症状を低減すること;
b)身体的制約を低減すること;
c)運動耐容能を改善すること;及び/又は
d)日常生活において座っている時間量を低減すること
のいずれか1つ又は複数をもたらす。
【0033】
少なくとも一実施形態では、心不全症状の低減は、SGLT2阻害薬投与前の患者のスコアと比較して、カンザスシティ心筋症アンケート総症状スコアに基づく患者のより高いスコアによって特徴付けられる。こうした実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から16週間(又は4ヶ月)以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から20週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から24週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から28週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から32週間又は8ヶ月以内に現れる。少なくとも一実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも5ポイント高い。少なくとも一実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも10ポイント高い。少なくとも一実施形態では、KCCQ-TSSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも15ポイント高い。少なくとも一実施形態では、KCCQ-TSSは、診療所に患者が報告するなど、患者が報告する。少なくとも一実施形態では、患者は、T2Dに罹患している。一部の実施形態では、患者は、T2Dに罹患していない。
【0034】
少なくとも一実施形態では、身体的制約の低減は、SGLT2阻害薬投与前の患者のスコアと比較して、カンザスシティ心筋症アンケート身体的制約スコア(KCCQ-PLS)に基づく患者のより高いスコアによって特徴付けられる。こうした実施形態では、KCCQ-PLSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から16週間(又は4ヶ月)以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-PLSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から20週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-PLSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から24週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-PLSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から28週間以内に現れる。他の実施形態では、KCCQ-PLSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から32週間又は8ヶ月以内に現れる。少なくとも一実施形態では、KCCQ-PLSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも1ポイント高い。少なくとも一実施形態では、KCCQ-PLSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも5ポイント高い。少なくとも一実施形態では、KCCQ-PLSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも10ポイント高い。少なくとも一実施形態では、KCCQ-PLSに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも15ポイント高い。少なくとも一実施形態では、KCCQ-PLSは、診療所に患者が報告するなど、患者が報告する。少なくとも一実施形態では、患者は、T2Dに罹患している。一部の実施形態では、患者は、T2Dに罹患していない。
【0035】
少なくとも一実施形態では、運動耐容能の改善は、SGLT2阻害薬投与前の患者の6MWDと比較して、患者のより長い6分間歩行距離(6MWD)によって特徴付けられる。こうした実施形態では、より長い6MWD距離は、SGLT2阻害薬投与の開始から16週間以内に現れる。他の実施形態では、より長い6MWD距離は、SGLT2阻害薬投与の開始から20週間以内に現れる。他の実施形態では、より長い6MWD距離は、SGLT2阻害薬投与の開始から24週間以内に現れる。他の実施形態では、より長い6MWD距離は、SGLT2阻害薬投与の開始から28週間以内に現れる。他の実施形態では、より長い6MWD距離は、SGLT2阻害薬投与の開始から32週間又は8ヶ月以内に現れる。少なくとも一実施形態では、6分間歩行距離(6MWD)の改善は、30メートル以上の距離によって測定される。少なくとも一実施形態では、患者は、T2Dに罹患している。一部の実施形態では、患者は、T2Dに罹患していない。
【0036】
少なくとも一実施形態では、日常生活において座っている時間量の低減は、SGLT2阻害薬の投与前に患者が日中活発な身体活動に費やした時間と比較して、患者が日中活発な身体活動に費やした合計時間の増加によって特徴付けられる。こうした実施形態では、日常生活において座っている時間量の減少は、16週間のSGLT2阻害薬投与後7日以内において、SGLT2阻害薬の投与前に患者が日中活発な身体活動に費やした時間と比較して測定される。他の実施形態では、日常生活において座っている時間量の減少は、20週間のSGLT2阻害薬投与後7日以内において、SGLT2阻害薬の投与前に患者が日中活発な身体活動に費やした時間と比較して測定される。他の実施形態では、日常生活において座っている時間量の減少は、24週間のSGLT2阻害薬投与後7日以内において、SGLT2阻害薬の投与前に患者が日中活発な身体活動に費やした時間と比較して測定される。他の実施形態では、日常生活において座っている時間量の減少は、28週間のSGLT2阻害薬投与後7日以内において、SGLT2阻害薬の投与前に患者が日中活発な身体活動に費やした時間と比較して測定される。他の実施形態では、日常生活において座っている時間量の減少は、32週間又は8ヶ月のSGLT2阻害薬投与後7日以内において、測定される。そのような実施形態では、日常生活中に座って費やされる時間は、装着可能な活動モニタによって測定される。少なくとも一実施形態では、患者は、T2Dに罹患している。一部の実施形態では、患者は、T2Dに罹患していない。
【0037】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HF事象の数を減少させ、且つ/又は致死的心血管事象の発生率を低減する。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HF事象の数を減少させる。少なくとも一実施形態では、HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来である。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院の回数を減少させる。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、緊急HF外来の回数を減少させる。少なくとも一実施形態では、緊急HF外来は、救急処置室外来である。少なくとも一実施形態では、緊急HF外来は、静脈内療法を必要とする。
【0038】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院又は致死的心血管事象の複合項目を減少させる。
【0039】
本明細書に開示される方法では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、SGLT2阻害薬の投与前又は投与中に1種若しくは複数のHF標準治療薬を受けていることができる。少なくとも一実施形態では、1種若しくは複数のHF標準治療薬は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のような鉱質コルチコイド受容体薬、ネプリリシン阻害薬、抗血小板薬、アスピリン、脂質降下薬(例えば、スタチン、胆汁酸吸着剤、ナイアシン、フィブラート、オメガ3脂肪酸)及びループ利尿薬などの利尿薬からなる群から選択される。
【0040】
本明細書に開示される方法では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、II~IVのニューヨーク心臓協会(NYHA)心不全分類を有する。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、IIのNYHA心不全分類を有する。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、III又はIVのNYHA心不全分類を有する。
【0041】
本明細書に開示される方法では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、SGLT2阻害薬の投与前に≧30ml/分/1.73m2のeGFRを有し得る。本明細書に開示される方法では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、SGLT2阻害薬の投与中に≧30ml/分/1.73mのeGFRを有する。
【0042】
本明細書に開示される方法では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、SGLT2阻害薬の投与前に1ミリリットル当たり少なくとも400pg、1ミリリットル当たり少なくとも600pg又は1ミリリットル当たり少なくとも900pgの血漿N末端プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド(NT-プロBNP)レベルを有し得る。
【0043】
本明細書に開示される方法では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、SGLT2阻害薬の投与前に症候性HFrEFと医学的に診断されていることができる。少なくとも一実施形態では、患者は、SGLT2阻害薬の投与の少なくとも2か月前にHFrEFと診断されていることができる。
【0044】
本明細書に開示される方法では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、SGLT2阻害薬の投与前に心房細動及び/又は心房粗動を有し得る。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬を投与される患者は、SGLT2阻害薬投与前に心房細動又は心房粗動を有さない。少なくとも一実施形態では、本明細書に開示される方法は、SGLT2阻害薬投与前に心房細動又は心房粗動の病歴を有する患者の心房細動の発生率を低減する。少なくとも一実施形態では、本明細書に開示される方法は、SGLT2阻害薬投与前に心房細動又は心房粗動を有さない患者の心房細動の発生率を低減する。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して心房細動の発生率を低減する。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF標準治療薬と比較して心房細動の発生率を低減する。一部の実施形態では、心房細動の発生率の低減は、最初の致死的又は非致死的心房細動までの時間によって測定される。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、プラセボと比較して心房細動の発生率の低減について1未満のハザード比をもたらす。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF標準治療薬と比較して心房細動の発生率の低減について1未満のハザード比をもたらす。
【0045】
特定の実施形態では、開示される方法は、患者のHbA1cの減少をもたらす。特定の実施形態では、開示される方法は、患者の収縮期血圧の減少をもたらす。特定の実施形態では、開示される方法は、患者の体重の減少をもたらす。特定の実施形態では、開示される方法は、患者のNT-プロBNPレベルの減少をもたらす。前述の実施形態のいずれかにおいて、減少は、SGLT2阻害薬投与の開始から8ヶ月以内に起こり得る。特定の実施形態では、開示される方法は、患者において、経時的なml/分/1.73m当たりのeGFRの50%以上の持続的な降下をもたらす。こうした実施形態では、持続的な降下は、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月又はそれを超えるものであり得る。
【0046】
特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、NYHA HF分類の改善をもたらす。
【0047】
特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HFのための再入院の減少又は再発HF事象の減少をもたらす。少なくとも一実施形態では、再発HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来を含む。
【0048】
特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、非心血管に起因する死亡の低下した発生率をもたらす。
【0049】
さらに、本明細書には、SGLT2阻害薬及びHF標準治療薬で治療されているHFrEF患者において、心血管系死亡、HF入院又は緊急HF外来の主要複合エンドポイントのレートを低減する方法が開示され、このレートは、HF標準治療薬単独で治療されている患者に対して低減される。さらに、本明細書には、SGLT2阻害薬及びHF標準治療薬で治療されているHFrEF患者において、心血管系死亡又はHF入院の副次複合エンドポイントのレートを低減する方法も開示され、このレートは、HF標準治療薬単独で治療されている患者に対して低減される。前述の実施形態のいずれかにおいて、SGLT2阻害薬は、例えば、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬は、患者に1日1回10mgで経口投与されるダパグリフロジンである。
【0050】
一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、以下の転帰:
(i)最初の心不全(HF)事象及び/若しくは致死的心血管事象までの時間を延長すること;並びに/又は
(ii)心不全症状の悪化を低減すること;並びに/又は
(iii)心不全事象の数を減少させること及び/若しくは致死的心血管事象の発生率を低減すること
の少なくとも1つをもたらす。
【0051】
また、本明細書には、HF患者の高カリウム血症のリスクを低減する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法も提供される。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法は、HF患者の高カリウム血症のリスクを低減し、これは、有効量のSGLT2阻害薬を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。一部の実施形態では、HF患者の高カリウム血症のリスク低減に使用するためのSGLT2阻害薬が開示される。
【0052】
一部の実施形態では、本開示は、HF患者においてMRA使用に関連する高カリウム血症のリスクを低減する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法に関する。一部の実施形態では、本開示は、HF患者においてMRAに関連する高カリウム血症のリスクを低減する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を含む医薬組成物を患者に投与することを含む方法に関する。一部の実施形態では、HF患者におけるMRA使用に関連する高カリウム血症のリスク低減に使用するためのSGLT2阻害薬が開示される。
【0053】
一部の実施形態では、本開示は、患者のHFを治療する方法であって、有効量のMRA及び有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法に関する。一部の実施形態では、本開示は、患者のHFを治療する方法であって、有効量のMRA及び有効量のSGLT2阻害薬を含む医薬組成物を患者に投与することを含む方法に関する。一部の実施形態では、HF患者における高カリウム血症のリスク低減に使用するためのSGLT2阻害薬及びMRAの併用が開示される。一部の実施形態では、HF患者の治療に使用するためのSGLT2阻害薬が開示され、ここで、前記治療は、前記患者に対するMRA及びSGLT2阻害薬の個別、連続的又は同時投与を含む。
【0054】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジンである。一部の実施形態では、MRAは、ステロイド鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、例えばスピロノラクトン(例えば、Aldactone(登録商標)、Aldactazide(登録商標)として市販されている)及びエプレレノン(例えば、Inspra(登録商標)として市販されている)から選択される。一部の実施形態では、MRAは、フィネレノン、エサキセレノン、KBP-5074及びアパラレノンなどの非ステロイドMRAから選択される。
【0055】
また、本明細書には、国際公開第2016/001631号パンフレットに開示されるAZD9977、2-{(3S)-7-フルオロ-4-[(3-オキソ-3,4-ジヒドロ-2H-1,4-ベンゾキサジン-6-イル)カルボニル]-3,4-ジヒドロ-2H-1,4-ベンゾキサジン-3-イル}-N-メチルアセトアミドも開示され、これは、以下の構造を有する。
【化3】
【0056】
一部の実施形態では、HFを治療する方法であって、それを必要とする患者に、有効量のAZD9977又はその薬学的に許容される塩と;有効量のSGLT2阻害薬とを投与することを含む方法が開示される。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0057】
一部の実施形態では、患者のHFの治療に使用するためのAZD9977又はその薬学的に許容される塩が開示され、ここで、前記治療は、前記患者に対するAZD9977及びSGLT阻害薬の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0058】
一部の実施形態では、患者のHFの治療に使用するためのSGLT2阻害薬が開示され、ここで、前記治療は、SGLT2阻害薬及びAZD9977又はその薬学的に許容される塩の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0059】
一部の実施形態では、HF患者において高カリウム血症のリスクを低減する方法であって、それを必要とする患者に、有効量のAZD9977又はその薬学的に許容される塩と;有効量のSGLT2阻害薬とを投与することを含む方法が開示される。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0060】
一部の実施形態では、HF患者において高カリウム血症のリスクを低減するためのAZD9977又はその薬学的に許容される塩が開示され、ここで、前記治療は、前記患者に対するAZD9977及びSGLT阻害薬の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0061】
一部の実施形態では、HF患者において高カリウム血症のリスクを低減するためのSGLT2阻害薬が開示され、ここで、前記治療は、SGLT2阻害薬及びAZD9977又はその薬学的に許容される塩の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0062】
一部の実施形態では、HFrEFを治療する方法であって、それを必要とする患者に、有効量のAZD9977又はその薬学的に許容される塩と;有効量のSGLT2阻害薬とを投与することを含む方法が開示される。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0063】
一部の実施形態では、患者のHFrEFの治療に使用するためのAZD9977又はその薬学的に許容される塩が開示され、ここで、前記治療は、前記患者に対するAZD9977及びSGLT阻害薬の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0064】
一部の実施形態では、患者のHFrEFの治療に使用するためのSGLT2阻害薬が開示され、ここで、前記治療は、SGLT2阻害薬及びAZD9977又はその薬学的に許容される塩の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0065】
一部の実施形態では、HFpEFを治療する方法であって、それを必要とする患者に、有効量のAZD9977又はその薬学的に許容される塩と;有効量のSGLT2阻害薬とを投与することを含む方法が開示される。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0066】
一部の実施形態では、患者のHFpEFの治療に使用するためのAZD9977又はその薬学的に許容される塩が開示され、ここで、前記治療は、前記患者に対するAZD9977及びSGLT阻害薬の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0067】
一部の実施形態では、患者のHFpEFの治療に使用するためのSGLT2阻害薬が開示され、ここで、前記治療は、SGLT2阻害薬及びAZD9977又はその薬学的に許容される塩の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0068】
一部の実施形態では、心血管系死亡及び心不全のための入院のリスクを低減する方法であって、それを必要とする患者に、有効量のAZD9977又はその薬学的に許容される塩と;有効量のSGLT2阻害薬とを投与することを含む方法が開示される。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0069】
一部の実施形態では、患者における心血管系死亡及び心不全のための入院のリスクの低減に使用するためのAZD9977又はその薬学的に許容される塩が開示され、ここで、前記治療は、前記患者に対するAZD9977及びSGLT阻害薬の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0070】
一部の実施形態では、患者における心血管系死亡及び心不全のための入院のリスクの低減に使用するためのSGLT2阻害薬が開示され、ここで、前記治療は、SGLT2阻害薬及びAZD9977又はその薬学的に許容される塩の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0071】
一部の実施形態では、心血管系死亡及び心不全のための入院のリスクを低減する方法であって、それを必要とし、55%以下のLVEF及び約15~45ml/分/1.73 m2のeGFRを有する患者に、有効量のAZD9977又はその薬学的に許容される塩と;有効量のSGLT2阻害薬とを投与することを含む方法が開示される。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0072】
一部の実施形態では、55%以下のLVEF及び約15~45ml/分/1.73m2のeGFRを有する患者における心血管系死亡及び心不全のための入院のリスクの低減に使用するためのAZD9977又はその薬学的に許容される塩が開示され、ここで、前記治療は、前記患者に対するAZD9977及びSGLT阻害薬の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0073】
一部の実施形態では、55%以下のLVEF及び約15~45ml/分/1.73m2のeGFRを有する患者における心血管系死亡及び心不全のための入院のリスクの低減に使用するためのSGLT2阻害薬が開示され、ここで、前記治療は、SGLT2阻害薬及びAZD9977又はその薬学的に許容される塩の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0074】
一部の実施形態では、心血管系死亡、心不全のための入院又は緊急HF外来の複合エンドポイントのレートを低減する方法であって、それを必要とし、55%以下のLVEF及び約15~45ml/分/1.73m2のeGFRを有する患者に、有効量のAZD9977又はその薬学的に許容される塩と;有効量のSGLT2阻害薬とを投与することを含む方法が開示される。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0075】
一部の実施形態では、55%以下のLVEF及び約15~45ml/分/1.73m2のeGFRを有する患者における心血管系死亡、HFのための入院又は緊急HF外来の複合エンドポイントのレートの低減に使用するためのAZD9977又はその薬学的に許容される塩が開示され、ここで、前記治療は、前記患者に対するAZD9977及びSGLT阻害薬の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0076】
一部の実施形態では、55%以下のLVEF及び約15~45ml/分/1.73m2のeGFRを有する患者における心血管系死亡、心不全のための入院又は緊急HF外来の複合エンドポイントのレートの低減に使用するためのSGLT2阻害薬が開示され、ここで、前記治療は、SGLT2阻害薬及びAZD9977又はその薬学的に許容される塩の個別、連続的又は同時投与を含む。
【0077】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。一部の実施形態では、全死因死亡、心筋梗塞又は発作のいずれか1つのレートを低減する方法であって、それを必要とし、55%以下のLVEF及び約15~45ml/分/1.73m2のeGFRを有する患者に、有効量のAZD9977又はその薬学的に許容される塩と;有効量のSGLT2阻害薬とを投与することを含む方法が開示される。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0078】
一部の実施形態では、55%以下のLVEF及び約15~45ml/分/1.73m2のeGFRを有する患者における全死因死亡、心筋梗塞又は発作のいずれか1つのレートの低減に使用するためのAZD9977又はその薬学的に許容される塩が開示され、ここで、前記治療は、前記患者に対するAZD9977及びSGLT阻害薬の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0079】
一部の実施形態では、55%以下のLVEF及び約15~45ml/分/1.73m2のeGFRを有する患者における全死因死亡、心筋梗塞又は発作のいずれか1つのレートの低減に使用するためのSGLT2阻害薬が開示され、ここで、前記治療は、SGLT2阻害薬及びAZD9977又はその薬学的に許容される塩の個別、連続的又は同時投与を含む。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0080】
前述の実施形態のいずれかにおいて、SGLT2阻害薬は、例えば、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグであり得る。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬は、1日1回10mgで経口投与されるダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。前述の実施形態のいずれかにおいて、AZD9977又はその薬学的に許容される塩は、1日1回100mg~150mgの量で患者に経口投与される。
【0081】
前述の実施形態のいずれかにおいて、患者は、40%以下、例えば35%、30%若しくは25%以下、少なくとも一実施形態では少なくとも20%の左室駆出率(LVEF)を有する。一部の実施形態では、患者は、40%以下、例えば35%、30%若しくは25%以下、少なくとも一実施形態では少なくとも20%の左室駆出率(LVEF)を有する。一部の実施形態では、患者は、40%以上、例えば45%、50%若しくは55%以上、少なくとも一実施形態では少なくとも55%のLVEFを有する。一部の実施形態では、患者は、45ml/分/1.73m2以下、例えば30ml/分/1.73m2、25ml/分/1.73m2、20ml/分/1.73m2又は15ml/分/1.73m2以下のeGFRを有する。一部の実施形態では、患者は、T2Dに罹患している。一部の実施形態では、患者は、T2Dに罹患していない。一部の実施形態では、高カリウム血症は、5.5mmol/Lを超えるカリウム値を意味すると理解される。一部の実施形態では、高カリウム血症は、軽度(5.5mmol/Lを超える血清カリウム値)又は中度/重度(6.0mmol/Lを超える血清カリウム値)であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】実施例1に記載する、ダパグリフロジン及び心不全における有害事象の予防(DAPA-HF)多施設第3相臨床試験における患者のスクリーニング、ランダム化及び追跡を描くフローチャートである。ランダム化された患者は、全て治療意図(ITT)集団であった。
図2】DAPA-HF第3相臨床試験からの心血管評価項目を描くグラフである(実施例1を参照されたい)。図2Aは、心血管に起因する死亡、心不全のための入院又は静脈内療法を必要とする緊急心不全外来の複合項目の治験の主要エンドポイントを描くグラフである。主要エンドポイント(図2A)、心不全入院(図2B)、心血管に起因する死亡(図2C)並びに全死因による死亡(図2D)の累積発生率は、カプラン-マイヤー法を用いて推定し、ハザード比及び95%信頼区間は、Cox回帰モデルを用いて推定して、説明変数としての、心不全入院歴のある糖尿病状態及びダパグリフロジン又はプラセボによる処置別に階層化した。分析は、ランダム化を受けた参加者全員に基づいて行った。依然としてリスクのある患者が10%未満となった時点で表示を切断する。各パネル内の挿入図は、拡大y軸に基づく同じデータを示す。
図3】DAPA-HF第3相臨床試験からの心不全悪化及び死亡率に対するダパグリフロジンの作用の要約を提供する(実施例1を参照されたい)。この図は、主要複合エンドポイントを示し、これは、心血管に起因する死亡、心不全のための入院又は静脈内療法を必要とする緊急心不全外来の複合項目及びその構成要素の各々であった。副次評価項目であった、心血管に起因する死亡又は心不全のための入院及び全死因による死亡のより狭い複合項目も示す。
図4】DAPA-HF第3相臨床試験からの、事前指定亜群による主要複合評価項目を描く((実施例1を参照されたい)。人種は、治験責任医師により報告された。ボディマス指数(BMI)は、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った商である。NYHA=ニューヨーク心臓協会;LVEF=左室駆出率;NT-プロBNP=N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド;MRA=鉱質コルチコイド受容体拮抗薬;及びeGFR=推定糸球体濾過量。
図5】3つの三分位(i)≦65.6、(ii)65.7~87.5及び(iii)>87.5ポイントに区分されたベースラインKCCQ合計症状スコア(TSS)を描くグラフであり、ランダム化から24か月にわたるこれらの三分位内の累積パーセンテージの変化を示す。
図6】心血管系死亡、HF入院又は緊急HF外来;心血管系死亡若しくはHF入院;HF入院若しくは緊急HF外来;HF入院;心血管系死亡;並びに全死因による死亡を含む、DAPA-HF治験におけるダパグリフロジン対プラセボについての患者の6つの臨床試験評価項目を描く。
図7】DAPA-HF治験でのダパグリフロジン対プラセボによる処置後のKCCQ合計症状スコア(TSS)(図7A);KCCQ臨床症状スコア(CSS)(図7B);及びKCCQ全体サマリースコア(OSS)(図7C)を描くグラフである。
図8A】DAPA-HF治験でのダパグリフロジン対プラセボによる処置後のKCCQ合計症状スコア(TSS)を比較する棒グラフである。
図8B図8Aに対応するオッズ比(OR)である。
図8C】DAPA-HF治験でのダパグリフロジン対プラセボによる処置後のKCCQ臨床症状スコア(CSS)を比較する棒グラフである。
図8D図8Cに対応するオッズ比(OR)である。
図8E】DAPA-HF治験でのダパグリフロジン対プラセボによる処置後のKCCQ全体サマリースコア(OSS)を比較する棒グラフ(図8A、8C及び8E)である。
図8F図8Eに対応するオッズ比(OR)である。
図9A】ベースライン時の糖尿病状態により、DAPA-HF治験からの患者の主要複合エンドポイントを描くグラフである。
図9B】その構成要素 - 即ち心不全のための入院を描くグラフである。
図9C】心血管に起因する死亡(を描くグラフである。
図9D】全死因による死亡を描くグラフである。
図10A】糖尿病合併及び非合併患者の事前指定主要複合評価項目に対する、且つベースライン時の糖尿病非合併患者の糖化ヘモグロビン値によりプラセボと比較したダパグリフロジンの効果(図10A)並びに事前指定主要及び副次複合評価項目、それらの構成要素及び全死因死亡率に対する、ベースライン時の糖尿病状態によりプラセボと比較したダパグリフロジンの効果(図10B)を描く。
図10B】事前指定主要及び副次複合評価項目、それらの構成要素及び全死因死亡率に対する、ベースライン時の糖尿病状態によりプラセボと比較したダパグリフロジンの効果を描く。
図11A】臨床検査測定値、体重及び収縮期血圧に対する、ベースライン時の糖尿病状態(即ち糖尿病又は糖尿病なし)により、プラセボと比較したダパグリフロジンの効果を描くグラフである。糖化ヘモグロビン濃度(%)(HbAlc)のベースラインからの変化を示す。最小2乗平均の変化を95%信頼区間(CI)と一緒に示す。これらの変化は、ベースライン値について調整する。*糖尿病の病歴(n=1983)及びベースライン時の糖化ヘモグロビン≧6.5%(n=156)。
図11B】臨床検査測定値、体重及び収縮期血圧に対する、ベースライン時の糖尿病状態(即ち糖尿病又は糖尿病なし)により、プラセボと比較したダパグリフロジンの効果を描くグラフである。体重のベースラインからの変化を示す。最小2乗平均の変化を95%信頼区間(CI)と一緒に示す。これらの変化は、ベースライン値について調整する。*糖尿病の病歴(n=1983)及びベースライン時の糖化ヘモグロビン≧6.5%(n=156)。
図11C】臨床検査測定値、体重及び収縮期血圧に対する、ベースライン時の糖尿病状態(即ち糖尿病又は糖尿病なし)により、プラセボと比較したダパグリフロジンの効果を描くグラフである。収縮期血圧のベースラインからの変化を示す。最小2乗平均の変化を95%信頼区間(CI)と一緒に示す。これらの変化は、ベースライン値について調整する。*糖尿病の病歴(n=1983)及びベースライン時の糖化ヘモグロビン≧6.5%(n=156)。
図11D】臨床検査測定値、体重及び収縮期血圧に対する、ベースライン時の糖尿病状態(即ち糖尿病又は糖尿病なし)により、プラセボと比較したダパグリフロジンの効果を描くグラフである。ヘマトクリットのベースラインからの変化を示す。最小2乗平均の変化を95%信頼区間(CI)と一緒に示す。これらの変化は、ベースライン値について調整する。*糖尿病の病歴(n=1983)及びベースライン時の糖化ヘモグロビン≧6.5%(n=156)。
図11E】臨床検査測定値、体重及び収縮期血圧に対する、ベースライン時の糖尿病状態(即ち糖尿病又は糖尿病なし)により、プラセボと比較したダパグリフロジンの効果を描くグラフである。クレアチニンのベースラインからの変化を示す。最小2乗平均の変化を95%信頼区間(CI)と一緒に示す。これらの変化は、ベースライン値について調整する。*糖尿病の病歴(n=1983)及びベースライン時の糖化ヘモグロビン≧6.5%(n=156)。
図12】主要複合評価項目(図12A);心不全のための入院又は緊急外来(図12B);心血管に起因する死亡(図12C);及び全死因による死亡(図12D)を含む、ベースライン時のHbAlcによる評価項目を描くグラフである。
図13】閾値KCCQ-TSSスコアとは関係なく、プラセボに対してダパグリフロジンを投与された患者に対する一貫した症状利益(例えば、5ポイント以上、10ポイント以上、15ポイント以上)を示す応答者分析を描く。
図14】eGFRの50%以上の持続的低下、末期腎不全(持続的eGFR<15mL/分/1.73mとして定義される)又は長期透析若しくは腎臓移植から構成される、糖尿病状態(過去に診断できない糖尿病;即ち2回のHbAlc≧6.5%(≧48mmol/mol)を有する82人のダパグリフロジン及び74人のプラセボ患者を含む)別の腎臓複合評価項目を記載する。
図15】プラセボ患者と比較したダパグリフロジン患者の経時的なml/分/1.73m当たりの持続的eGFR低下を示す。
図16】ベースライン時の糖尿病状態(過去に診断できない糖尿病;即ちHbAlc≧6.5%(≧48mmol/mol)を有する82人のダパグリフロジン及び74人のプラセボ患者を含む)別の年毎のml/分/1.73m当たりのeGFRを示す。
図17】ランダム化後の2回の連続した治験来院で測定された新たな発症T2D(HbAlc≧6.5%)又は過去に診断されていない糖尿病;即ちHbAlc≧6.5%を有するプラセボ患者に対して、治験責任医師により報告された新たなT2Dの発生率を表す。
図18】プラセボ群(非破線)及びダパグリフロジン群(破線)において鉱質コルチコイド受容体拮抗薬で処置した患者における中度の高カリウム血症(>5.5mmol/L)(図18A)及び重度の高カリウム血症(>6.0mmol/L)(図18B)の累積発生率を表す。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本開示は、SGLT2阻害薬、例えば、ダパグリフロジンを用いて、2型糖尿病(T2D)合併又は非合併の患者を含め、駆出率の低い心不全(HFrEF)を有する患者を治療する方法に関する。本開示は、最初の(若しくは再発)HF事象までの時間を延長し、HF症状を軽減し、HF症状の悪化を軽減し、且つ/又は心血管(CV)事象からの死亡の発生率を低減することにより、SGLT2阻害薬、例えばダパグリフロジンを用いてHFrEF患者を治療することにも関する。本開示は、さらに、SGLT2阻害薬及びHF標準治療薬で治療されているHFrEF患者において、CV死亡、HF入院若しくは緊急HF外来の主要複合エンドポイント又はCV死亡及びHF入院の副次複合エンドポイントのレートを低減する方法にも関し、この割合は、HF標準治療薬単独で治療されている患者と比較して低減する。
【0084】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬、例えばダパグリフロジンは、同じ又は別の組成物中のHF標準治療薬(例えば、β遮断薬など)と一緒に同時に又は異なる時点で投与される。
【0085】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬、例えばダパグリフロジンは、同じ又は別の組成物中の少なくとも1種の治療薬(例えば、抗糖尿病薬など)と一緒に同時に又は異なる時点で投与される。
【0086】
I.定義
「含む」、「有する」、「包含する」及び「含有する」という用語は、別に注記のない限り、制約のない用語(即ち「含むが、それらに限定されるわけではない」ことを意味する)として解釈すべきである。
【0087】
「A及び/又はB」などのフレーズに用いられる「及び/又は」という用語は、次の実施形態を含むことが意図される:「A及びB」、「A又はB」及び「B」。
【0088】
同様に、「A、B及び/又はC」などのフレーズに用いられる「及び/又は」という用語は、次の実施形態の各々を含むことが意図される:A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(のみ);B(のみ);及びC(のみ)。従って、実際の例として、1つ若しくは複数の緊急HF事象(例えば、HF入院及び/若しくはER外来)及び/又は心血管系原因による死亡と述べるとき、全ての明示される事象を一緒にした複合項目、一部の事象を一緒にした任意の組合せの複合項目又は各事象のみを包含することが意図される。
【0089】
本明細書で使用される場合、「プロドラッグ」という用語は、例えば、生理条件下において又は加溶媒分解により、SGLT2阻害薬に変換され得るエステル及び炭酸塩を指す。従って、プロドラッグという用語は、薬学的に許容されるSGLT2阻害薬の代謝前駆体を含む。プロドラッグという用語は、そうしたプロドラッグが患者に投与されるとき、インビボでSGLT2阻害薬を放出する、共有結合された担体も含む。プロドラッグの非限定的例として、酢酸塩、ピバル酸塩、炭酸メチル、安息香酸塩などを生成するために当技術分野で公知の手順を用いて、SGLT2阻害薬の1つ又は複数のヒドロキシルをアルキル、アルコキシ又はアリール置換アシル化剤と反応させることにより形成されるエステル及び炭酸塩が挙げられる。
【0090】
様々な形態のプロドラッグが当技術分野で知られている。こうしたプロドラッグ誘導体の例については、以下を参照されたい:(1)Design of Prodrugs,edited by H.Bundgaard,(Elsevier,1985)及びMethods in Enzymology,Vol.42,pp.309-396,edited by K.Widder et al.(Academic Press,1985);(2)A Textbook of Drug Design and Development,edited by Krogsgaard-Larsen and H.Bundgaard,Chapter 5“Design and Application of Prodrugs,”by H.Bundgaard pp.113-191(1991);(3)Bundgaard,H.,Advanced Drug Delivery Reviews 8:1-38 (1992);(4)Bundgaard,H.et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences 77:285(1988);並びに(5)Kakeya,N.et al.,Chem Pharm Bull 32:692(1984)。
【0091】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療すること」などの用語は、診断された病的状態又は障害、例えばHFrEFなどの症状を治癒させ、緩徐にし、軽減し、且つ/又はその進行を停止させる処置(例えば、対象に対する医薬品の投与)を指す。本明細書で使用される場合、本明細書に記載のSGLT2阻害薬で治療されているか、又はその治療を必要とする患者は、障害、例えばHFrEFの診断が確定された患者を含む。
【0092】
「治療有効量」又は「有効量」は、所望の治療結果(例えば、HFrEFの治療)を達成する上で必要な用量且つ期間での有効な量を指す。
【0093】
予防処置は、標的とされる病的状態又は障害の発生を予防及び/又は緩徐にする措置(例えば、対象に対する、本明細書に記載のSGLT2阻害薬の投与)を指す。従って、予防処置が必要な者は、障害に罹患しやすい者及び障害を予防しようとする者を含む。「予防有効量」は、所望の予防結果(例えば、致死的心血管事象の予防又は遅延)を達成する上で必要な用量且つ期間での有効な量を指す。
【0094】
「患者」及び「対象」という用語は、HFrEFと診断され、SGLT2療法の開始前に、本明細書に記載される通り、HF標準治療薬で治療されている成人個体を指す。一部の実施形態では、患者は、少なくとも2ヶ月前からHFrEFと診断されている。
【0095】
本明細書で使用される場合、「駆出率が低下した心不全」、「HFrEF」又は「HFrEF(を有する)患者」という用語は、その患者の左室駆出率(LVEF)が≦40%であり、且つ患者の心不全症状がニューヨーク心臓協会(NYHA)心不全分類システムのステージII~IVに入る慢性疾患を指す。以下を参照されたい:Dolgin M,“Criteria Committee of the New York Heart Association;Nomenclature and Criteria for Diagnosis of Diseases of the Heart and Great Vessels,”9th ed.,Boston,MA:Little Brown & Co(1994)。NYHA心不全分類システムは、実施例1に記載する第3相臨床試験への患者の登録に際して使用した。一部の実施形態では、「HFrEF患者」は、NYHA HF分類のステージIIに入る。一部の実施形態では、「HFrEF患者」は、NYHA HF分類のステージIII又はIVに入る。
【0096】
一部の実施形態では、HFrEF患者は、40%以下の左室駆出率(LVEF)を有するが、一部の実施形態では、LVEFは、35%、30%又は25%以下である。一部の実施形態では、LVEFは、少なくとも20%である。HFrEF患者の診断及び評価は、一般に、心エコー図、放射線核種心血管造影図、血管造影法又は心臓MRIを用いたLVEFの評価など、心臓のイメージング及び身体診察を含む。
【0097】
NYHA HF分類システムは、主観的な患者の症状評価に従ってクラスI~IVを分類し、日常生活における患者の機能能力に基づいて心不全を分類する:クラスI:身体活動の制約なし。通常の身体活動が過度の疲労、動悸又は呼吸困難を引き起こさない;クラスII.身体活動の若干の制約。休息していれば快適。通常の身体活動が疲労、動悸又は呼吸困難を引き起こす;クラスIII.身体活動の顕著な制約。休息していれば快適。通常より少ない身体活動が疲労、動悸又は呼吸困難を引き起こす;クラスIV.いかなる身体活動も困難を伴わずに続けることができない。休息時に心不全の症状。何らかの身体活動を始めると、困難が増大する。NYHA分類のステージII~IVの患者は、実施例1に記載する第III相DAPA-HF治験に登録された。
【0098】
本明細書で使用される場合、「HF標準治療薬」は、HF、例えばHFrEFを治療するために使用される、SGLT2阻害薬以外の少なくとも1種のHF標準治療薬、例えば少なくとも2種又は少なくとも3種以上の医薬品又は医薬品クラスを含む。本明細書に記載されるHF標準治療薬は、SGLT2阻害薬、例えばダパグリフロジンの投与前及び/又は投与中に使用することができる。HF標準治療薬及びそれらの用量は、HFrEF患者を診察し、治療する心臓病専門医及び他の医師に周知である。例示的なHF標準治療薬として、以下のものが挙げられる:アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬;アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB);β遮断薬;鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のような鉱質コルチコイド受容体薬及びネプリリシン阻害薬。
【0099】
HFrEFを治療するために使用され得、従ってやはり「HF標準治療薬」とみなすことができる他の医薬品として、利尿薬及びループ利尿薬(例えば、フロセミド、ブメタニド及びトルセミドなど)、ジゴキシン、心ポンプ療法薬、選択的洞結節抑制薬、イバブラジン(洞房(SA)結節モジュレータ)、アルドステロン拮抗薬、血管拡張薬、カルシウムチャネル遮断薬(患者が、収縮性心不全に罹患していない限り)、ヒドララジン/二硝酸イソソルビド又は診療ガイドラインに従う他のHF医薬品が挙げられる。以下を参照されたい:Yancy C.W.et al.,“ACC/AHA/HFSA focused update of the 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:A report of the American College of Cardiology/American Heart Association task force on clinical practice guidelines and the Heart Failure Society of America,J Am Coll Cardiol.70(6):776-803(2017)。
【0100】
「投与する」、「投与すること」、「投与」などの用語は、本明細書で使用される場合、本明細書で記載される通り、薬剤、例えばSGLT2阻害薬の送達を可能にするために用いることができる方法を指す。本明細書に記載される薬剤及び方法に使用することができる投与技術は、例えば、以下に見出される:Goodman and Gilman,The Pharmacological Basis of Therapeutics,current edition,Pergamon;及びRemington’s,Pharmaceutical Sciences,current edition,Mack Publishing Co.,Easton,Pa。少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬は、経口投与される。
【0101】
「1種又は複数の他の治療薬と組み合わせた」SGLT2阻害薬の投与は、同じ又は異なる時点における、同じ又は異なる医薬組成物(例えば、丸薬、錠剤、カプセル)中での同時(同時発生的)又は連続的投与を含む。「他の治療薬」は、前述したHF標準治療薬又は以下に挙げる他の治療薬、例えば抗糖尿病薬、抗肥満薬、抗高脂血症薬、抗アテローム性動脈硬化薬、抗高血圧薬、抗血小板薬、抗血栓薬又は抗凝血薬のいずれかを含む。「他の治療薬」は、薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体又はプロドラッグの形態であり得る。
【0102】
いくつかの事例では、他の治療薬は、ビグアナイド(例えば、メトホルミン)及び/又はDPP4阻害薬(例えば、サクサグリプチン、リナグリプチン若しくはシタグリプチン)などの抗糖尿病薬である。SGLT2阻害薬+抗糖尿病薬併用製剤の代表的な例として、以下のものが挙げられる:ダパグリフロジン/メトホルミン徐放剤(XIGDUO XR(登録商標))、ダパグリフロジン/サクサグリプチン(QTERN(登録商標))、ダパグリフロジン/サクサグリプチン/メトホルミン(QTERNMET(登録商標))、カナグリフロジン/メトホルミン(INVOKAMET(登録商標))、カナグリフロジン/メトホルミン徐放剤(INVOKAMET XR(登録商標))、エンパグリフロジン/リナグリプチン(GLYXAMBI(登録商標))、エンパグリフロジン/メトホルミン(SYNJARDY(登録商標))、エンパグリフロジン/メトホルミン徐放剤(SYNJARDY XR(登録商標))、エルツグリフロジン/メトホルミン(STEGLUROMET(登録商標))及びエルツグリフロジン/シタグリプチン(STEGLUJAN(登録商標))。
【0103】
本明細書で使用される場合、「心不全事象」は、HFのための入院及び/又は緊急のHF外来を指す。
【0104】
本明細書で使用される場合、「HFのための入院」又は「HF入院」は、HFの一次診断による少なくとも24時間の入院を指す。一部の実施形態では、入院患者は、来院時にHFによる新たな症状又は症状の悪化を呈している。一部の実施形態では、入院患者は、新たな又は悪化するHFの客観的なエビデンスを有する。一部の実施形態では、入院患者は、HF専門治療の開始又は強化を受ける。一部の実施形態では、入院患者は、前述した基準の全てを有する。
【0105】
本明細書で使用される場合、「HFによる症状」は、呼吸困難、減少した運動耐容能、疲労又は末端器官障害若しくは体液過剰の他の症状の少なくとも1つを含む。一部の実施形態では、HFによる症状は、以前の期間、来診又は来院から新たに発生したか又は悪化している。
【0106】
本明細書で使用される場合、「カンザスシティ心筋症アンケート(KCCQ)」は、患者のHF症状を評価し、且つ/又は患者のHF症状が改善しているか若しくは悪化しているかを決定するために医師が使用するアンケートを指す。KCCQは、0~100の尺度を用い、より高いスコアほど、少ないHF症状を示し、5ポイント以上の変化は、臨床的に重要とみなされる。以下を参照されたい:Green,C.P.,“Development and evaluation of the Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire:a new health status measure for heart failure,”J Am Coll Cardiol.35:1245-1255(2000)。KCCQは、健康に関するクオリティオブライフ(HRQL)の指標としてDAPA-HF臨床試験(実施例1)において実施した。実施例2に示す分析は、ダパグリフロジンが、心血管系死亡及びベースラインKCCQ値の範囲にわたってHFの悪化を低減すると共に、HFrEF患者の症状負荷、身体機能及びクオリティオブライフを改善したことを明らかにしている。
【0107】
本明細書で使用される場合、「新たな又は悪化するHFの客観的エビデンス」は、HFに起因すると考えられる医師による身体診察所見及び/又は新たな若しくは悪化するHFの臨床検査値を指す。一部の実施形態では、新たな又は悪化するHFの客観的エビデンスは、少なくとも2つの身体診察所見からなる。一部の実施形態では、新たな又は悪化するHFの客観的エビデンスは、1つの身体診察所見と、少なくとも1つの臨床検査値とからなる。
【0108】
本明細書で使用される場合、「HFに起因すると考えられる身体診察所見」(新たな又は悪化するHFを含む)は、以下の所見の少なくとも1つを含む:末梢浮腫、増加する腹部膨満若しくは腹水;肺ラ音/クラックル/捻髪音;増加した頸静脈圧及び/若しくは肝頸静脈逆流;S3ギャロップ;並びに/又は体液貯留に関連する臨床的に有意な若しくは急速な体重増加。
【0109】
本明細書で使用される場合、「新たな又は悪化するHFの臨床検査値」は、以下の所見の少なくとも1つを指す:心不全の代償不全と一致する増加したB型ナトリウム利尿ペプチド/N末端プロ-BNP(NT-プロBNP)濃度(BNP>500pg/mL又はNT-プロBNP>2,000pg/mLなど);肺うっ血の放射線検査エビデンス;肺毛細血管楔入圧(肺動脈閉塞圧)≧18mmHg、中心静脈圧≧12mmHg若しくは心係数<2.2L/分/mを示す、臨床的に有意に上昇した左室若しくは右室充満圧又は低心拍出量の非侵襲性診断エビデンス或いは右心カテーテル法による侵襲性診断エビデンス。
【0110】
本明細書で使用される場合、「HF専門治療の開始又は強化」は、以下の少なくとも1つを含む:経口利尿薬療法の増加;静脈内利尿薬若しくは血管作用薬(例えば、循環作動薬、昇圧薬若しくは血管拡張薬);機械的若しくは外科的介入(例えば、動脈内バルーンポンプ、補助人工心臓、体外式膜型人工肺、全置換型人工心臓などの機械的循環補助)及び/又は機械的液体除去(例えば、超濾過、血液濾過、透析)。
【0111】
本明細書で使用される場合、「緊急HF外来」は、HFの一次診断のための診療所への緊急の予約なし外来又は救急科/救急処置室外来を指すが、この外来は、HF入院の基準を満たさない。一部の実施形態では、緊急HF外来の患者は、既述した通り、HF症状及び/又は身体診察所見及び/又は新たな若しくは悪化するHFの臨床検査値を有し、且つ/或いは既述した通りHF専門治療の開始又は強化を受ける。
【0112】
本明細書で使用される場合、「心血管系(CV)死亡」は、本明細書に記載される通り、以下に起因する、HFrEFの治療を受けている患者の死亡を指す:急性心筋梗塞(MI)、心臓突然死、心不全又は心原性ショック、発作(脳血管事象)、心血管処置、心血管出血、他の心血管系原因(上のカテゴリーに含まれないが、特定の既知原因(例えば、胚閉塞又は末梢動脈疾患)によるCV死亡を指す。
【0113】
本明細書で使用される場合、「非心血管系(CV)死亡」は、「心血管系(CV)死亡」に含まれないあらゆる死亡を指す。
【0114】
本明細書で使用される場合、「主要複合評価項目」又は「主要複合エンドポイント」という用語は、HF標準治療薬と一緒にSGLT2阻害薬(例えば、ダパグリフロジン)を投与されるHFrEF患者に起こる、以下のHF事象(既述した通り):
・心血管系(CV)死亡;
・HF入院;又は
・緊急HF外来(ER外来及び緊急の予約なし診療所外来を含むと上記で定義されている)
の複合項目及びHF標準治療薬のみを摂取する患者と比較した、SGLT2阻害薬(例えばダパグリフロジン)を摂取する患者における相対リスク低減の決定を指す。(実施例1を参照されたい)。
【0115】
本明細書で使用される場合、「副次評価項目」という用語は、以下のHF事象の複合項目を指す:CV死亡又はHF入院(既に定義した通り)及びHF標準治療薬のみを摂取する患者と比較して、SGLT2阻害薬(例えばダパグリフロジン)を摂取する患者における相対リスク低減の決定。(実施例1を参照されたい)。
【0116】
本明細書に記載される通り、例えばHF症状、HF事象、HF入院、CV死亡又は非CV死亡に関連して、「低減」、「低減した」、「悪化した」、「減少した」、「悪化(している)」、「延長」、「延長された」などの比較を表すフレーズの使用は、以下のいずれかに関するSGLT2阻害薬(例えば、ダパグリフロジン)を投与されるHFrEF患者の比較を示すことが意図される:
・SGLT2阻害薬を摂取していない患者(又は患者の集団);
・HF標準治療薬のみを摂取する患者(又は患者の集団);
・同じ期間にわたってプラセボを摂取する患者(又は患者の集団);
・同じ期間にわたってプラセボとHF標準治療薬を摂取する患者(又は患者の集団);
・SGLT2阻害薬の投与前の患者;
・HFrEF患者の集団についての平均的予後予測。
【0117】
II.SGLT2阻害薬
本明細書に記載される通り、SGLT2阻害薬は、2型糖尿病合併及び非合併患者の確定されたHFrEFを治療するために、本明細書に記載される方法で使用することができる。
【0118】
ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)は、血液中への糖の再吸収を担うナトリウム依存性腎タンパク質である。SGLT2阻害薬(「グリフロジン」としても知られる)は、腎SGLT2タンパク質を阻害することにより、2型糖尿病患者における血糖を降下させるために用いられる薬剤のクラスである。その結果、より多くの糖が尿中に排泄される。
【0119】
HFrEF患者を治療する開示の方法で使用することができるSGLT2阻害薬として、ダパグリフロジン(FARXIGA(登録商標))、カナグリフロジン(INVOKANA(登録商標))、エンパグリフロジン(JARDIANCE(登録商標))、エルツグリフロジン(STEGLATRO(登録商標))、ソタグリフロジン若しくはイプラグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグが挙げられる。
【0120】
少なくとも一実施形態では、HFrEF患者を治療する開示の方法で使用されるSGLT2阻害薬は、米国特許第6,414,126号明細書及び同第6,515,117号明細書(それらの全体を参照により本明細書に組み込む)に記載されるようなダパグリフロジンである。FARXIGA(登録商標)は、単剤療法として2014年に、その後、2017~2019年に、2型糖尿病合併の成人の血糖コントロールを改善するために食事及び運動と併せた併用療法(XIGDUO(登録商標)、QTERN(登録商標)、QTERNMET(登録商標))の一部としてU.S.FDAにより承認された。ダパグリフロジンは、2.5mg、5.0mg又は10mgの用量で投与することができる。少なくとも一実施形態では、開示の方法で使用するために10mgの用量が投与される。
【0121】
一部の実施形態では、「ダパグリフロジン」は、FDA承認製剤のFARXIGA(登録商標)を指すか、又は薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグを指す場合もある。一部の実施形態では、ダパグリフロジンは、構造:
【化4】
を有する(S)-プロピレングリコール((S)-(PG)溶媒化合物の形態である。
【0122】
一部の実施形態では、ダパグリフロジンは、結晶性固体又は非結晶性固体の形態である。
【0123】
一部の実施形態では、「ダパグリフロジン」は、例えば、別の抗糖尿病薬などの別の治療薬と一緒に固定用量の併用製剤として製剤化される。ダパグリフロジン/メトホルミン徐放剤(XIGDUO(登録商標))、及びダパグリフロジン/サクサグリプチン(QTERN(登録商標))、及びダパグリフロジン/サクサグリプチン/メトホルミン(QTERNMET(登録商標))は、ダパグリフロジンを含む併用製剤の例である。
【0124】
III.HF標準治療薬
本明細書で使用される場合、「HF標準治療薬」は、SGLT2阻害薬以外の、HF、例えばHFrEFを治療するために使用される少なくとも1種、例えば少なくとも2種、少なくとも3種以上の医薬品又は医薬品クラスを含む。HF標準治療薬は、本明細書に記載の通り、SGLT2阻害薬、例えばダパグリフロジンの投与前及び/又は投与中に使用することができる。一部の実施形態では、HF標準治療薬及びSGLT2阻害薬は、同時又は異なる時点で一緒に投与される。
【0125】
例示的なHF標準治療薬としては、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬;アンギオテンシン受容体遮断薬(ARBs);β遮断薬;鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のような鉱質コルチコイド受容体薬及びネプリリシン阻害薬が挙げられる。HF標準治療薬及びそれらの用量は、HFrEF患者を診察し、治療する心臓病専門医及び他の医師に周知である。これらのHF標準治療薬の簡単な説明を以下に行う。
【0126】
ACE阻害薬は、静脈及び動脈系の両方で血管拡張をもたらし、これにより前負荷及び後負荷を減らし、重要臓器系への血流を増大して駆出率を改善する。これらの医薬品は、アンギオテンシンIをアンギオテンシンIIに変換するのに必要な酵素も遮断する。アンギオテンシンIIは、血圧を高め、アルドステロンを放出して、ナトリウム及び水貯留を招く強力な血管収縮物質である。ACE阻害薬は、この作用カスケードを阻止する。ACE阻害薬の代表的な例として、カプトプリル、エナラプリル及びリシノプリルが挙げられる。
【0127】
ARBSは、ACE阻害薬と同様に、アンギオテンシンIIの作用を遮断する。ARBsは、血管及び副腎中のアンギオテンシンIIを遮断する。血管内において、ARBsは、静脈及び動脈拡張を起こして、前負荷及び後負荷の両方を低減する。副腎中のアンギオテンシンII受容体の遮断は、アルドステロンの放出を低減し、これは、次に、ナトリウム及び水の排泄を増大する。ARBsの代表的な例として、バルサルタン、ロサルタン及びイルベサルタンが挙げられる。
【0128】
β遮断薬は、交感神経系刺激を低減し、心拍数及び血圧を下げ、左室機能、血行動態及び運動耐容能を改善する。β遮断薬の代表的な例として、アテノロール、プロプラノロール、ビソプロロール、カルベジロール及び徐放性メトプロロールが挙げられる。
【0129】
鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)又は「アルドステロン拮抗薬」は、鉱質コルチコイド受容体において、アルドステロンの作用に拮抗する利尿薬である。この薬剤群は、慢性心不全の管理のために、他の薬剤と組み合わせた補助療法として使用されることが多い。MRAの代表的な例として、スピロノラクトン及びエプレレノンが挙げられる。
【0130】
鉱質コルチコイド受容体モジュレータ(MRM)は、組織若しくは細胞特異的受容体拮抗作用、完全拮抗作用又は部分拮抗作用のいずれかを呈示する化合物を表すために使用される。
【0131】
ネプリリシン阻害薬は、ナトリウム利尿ペプチドを分解し、心室が過負荷である場合、ナトリウム及び水減少を担う。それらの分解を遅らせることによりその効果を持続させて、より多くのナトリウム及び水を身体から除去し、血管内容積及び血圧を減少させることにより、前負荷及び後負荷を低減する。ネプリリシン阻害薬の代表的な例は、サクビトリルである。ネプリリシン阻害薬は、アンギオテンシン受容体ネプリリシン阻害薬と呼ばれる新規クラスの心不全医薬品として、ARBと組み合わされ得る。ファーストインクラス医薬品、サクビトリル/バルサルタンは、ARB(バルサルタン)とネプリリシン酵素阻害剤(サクビトリル)とを組み合わせる。
【0132】
HFrEFを治療するために使用することができ、従って「HF標準治療薬」とみなすこともできる他の医薬品として、利尿薬並びにループ利尿薬(例えば、フロセミド、ブメタニド及びトルセミドなど)、ジギタリス又は他の心ポンプ療法薬、ヒドララジン/二硝酸イソソルビド、イバブラジン(洞房(SA)結節モジュレータ)又は診療ガイドラインに従う他のHF医薬品が挙げられる。以下を参照されたい:Yancy C.W.et al.,“ACC/AHA/HFSA focused update of the 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:A report of the American College of Cardiology/American Heart Association task force on clinical practice guidelines and the Heart Failure Society of America,J Am Coll Cardiol.70(6):776-803(2017)。
【0133】
IV.他の治療薬
本明細書に記載される通り、SGLT2阻害薬の投与は、1種又は複数の「他の治療薬」と組み合わせて行われ得る。本明細書で使用される場合、「他の治療薬」というフレーズは、典型的に、文脈から別のことが指示されない限り、上記で論じたHF標準治療薬を含まない。
【0134】
本明細書に記載されるSGLT2阻害薬と一緒に投与することができる他の治療薬として、抗糖尿病薬、抗肥満薬、抗高脂血症薬、抗アテローム性動脈硬化薬、抗高血圧薬、抗血小板薬、抗血栓薬又は抗凝血薬が挙げられる。「他の治療薬」は、薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体又はプロドラッグの形態であり得る。
【0135】
1種又は複数の「他の治療薬」と組み合わせたSGLT2阻害薬の投与は、同じ又は異なる時点における、同じ又は異なる医薬組成物(例えば、丸薬、錠剤、カプセル)中での同時(同時発生的)又は連続的投与を含む。
【0136】
いくつかの事例では、他の治療薬は、ビグアナイド(例えば、メトホルミン)及び/又はDPP4阻害薬(例えば、サクサグリプチン、リナグリプチン若しくはシタグリプチン)などの抗糖尿病薬である。SGLT2阻害薬+抗糖尿病薬併用製剤の代表的な例として、以下のものが挙げられる:ダパグリフロジン/メトホルミン徐放剤(XIGDUO(登録商標)、ダパグリフロジン/サクサグリプチン(QTERN(登録商標)、ダパグリフロジン/サクサグリプチン/メトホルミン(QTERNMET(登録商標)、カナグリフロジン/メトホルミン(INVOKAMET(登録商標)、カナグリフロジン/メトホルミン徐放剤(INVOKAMET XR(登録商標)、エンパグリフロジン/リナグリプチン(GLYXAMBI(登録商標)、エンパグリフロジン/メトホルミン(SYNJARDY(登録商標)、エンパグリフロジン/メトホルミン徐放剤(SYNJARDY XR(登録商標)、エルツグリフロジン/メトホルミン(STEGLUROMET(登録商標)及びエルツグリフロジン/シタグリプチン(STEGLUJAN(登録商標)。
【0137】
V.SGLT2阻害薬を投与することによってHFrEFを治療する方法
本開示は、患者のHFrEFを治療する方法であって、本明細書に記載される通り、有効量のナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬を患者に投与することを含む方法を提供する。一部の実施形態では、患者は、2型糖尿病にも罹患している。一部の実施形態では、患者は、2型糖尿病に罹患していない。
【0138】
本開示は、T2D非合併患者のHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法も提供し、患者は、治療中、腎不全に関連する有害な事象を経験しない。
【0139】
本開示は、T2Dを伴う患者のHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法も提供し、患者は、治療中、腎不全に関連する有害な事象を経験しない。
【0140】
一部の実施形態では、「腎不全に関連する有害な事象がない」は、SGLT2阻害薬療法を受けている間、患者の推定糸球体濾過量(eGFR)レベルの変化がないか若しくはわずかな低下にすぎないこと、末期腎不全(ESRD)がないこと及び/又は腎臓に起因する死亡がないことを含む。
【0141】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン、ソタグリフロジン、イプラグリフロジン若しくはエルツグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0142】
少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。一部の実施形態では、ダパグリフロジンは、非結晶性固体の形態である。一部の実施形態では、ダパグリフロジンは、結晶性固体の形態である。一部の実施形態では、ダパグリフロジンは、(S)-プロピレングリコール((S)-(PG)溶媒化合物の形態であり、これは、構造:
【化5】
を有する。
【0143】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬(例えば、ダパグリフロジン)は、1日1回患者に経口投与される。一部の実施形態では、ダパグリフロジンは、1日1回患者に2.5mg、5.0mg又は10mgの用量で投与される。少なくとも一実施形態では、投与されるダパグリフロジンの用量は、10mgである。
【0144】
一部の実施形態では、患者のHFrEFを治療する方法は、少なくとも1種の他の治療薬を患者に投与することをさらに含む。他の治療薬は、同じ又は異なる時点において、同じ又は異なる医薬組成物中でSGLT2阻害薬と一緒に投与される。
【0145】
一部の実施形態では、他の治療薬は、抗糖尿病薬、抗肥満薬、抗高脂血症薬、抗アテローム性動脈硬化薬、抗高血圧薬、抗血小板薬、抗血栓薬又は抗凝血薬である。
【0146】
一部の実施形態では、他の治療薬は、抗糖尿病薬である。一部の実施形態では、抗糖尿病薬は、ビグアナイド及び/又はDPP4阻害薬である。一部の実施形態では、ビグアナイドは、メトホルミン又はその薬学的に許容される塩である。一部の実施形態では、DPP4阻害薬は、サクサグリプチン、リナグリプチン若しくはシタグリプチン又はその薬学的に許容される塩である。
【0147】
一部の実施形態では、HFrEF患者は、SGLT2阻害薬の投与前又は投与中、HFを治療するための1種又は複数のHF標準治療薬を受けている。一部の実施形態では、HF標準治療薬は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のような鉱質コルチコイド受容体薬、ネプリリシン阻害薬及び利尿薬からなる群から選択される。
【0148】
特定の実施形態では、少なくとも1種のHF標準治療薬は、治療有効量のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬である。
【0149】
特定の実施形態では、少なくとも1種のHF標準治療薬は、治療有効量のアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)である。
【0150】
特定の実施形態では、少なくとも1種のHF標準治療薬は、β遮断薬である。
【0151】
特定の実施形態では、少なくとも1種のHF標準治療薬は、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のような鉱質コルチコイド受容体薬である。
【0152】
特定の実施形態では、少なくとも1種のHF標準治療薬は、ネプリリシン阻害薬である。一部の実施形態では、ネプリリシン阻害薬は、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(例えば、サクビトリル/バルサルタン)と組み合わされる。
【0153】
特定の実施形態では、少なくとも1種のHF標準治療薬は、ループ利尿薬である。
【0154】
一部の実施形態では、患者へのSGLT2阻害薬の投与は、以下の転帰:
(i)最初の心不全(HF)事象及び/若しくは致死的心血管(CV)事象までの時間を延長すること;並びに/又は
(ii)心不全症状の悪化を低減すること;並びに/又は
(iii)心不全事象の数を減少させること及び/又は致死的心血管事象の発生率を低減すること
の少なくとも1つをもたらす。
【0155】
一部の実施形態では、「HF事象」は、HFのための入院又は緊急HF外来である。
【0156】
一部の実施形態では、HFのための入院は、HFの一次診断と共に少なくとも24時間に続く入院を含む。
【0157】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院の合計回数を減少させる。HFのための入院の合計回数は、最初の及び/又は再入院を含む。
【0158】
一部の実施形態では、HFのための入院は、以下の基準:(i)患者によって経験されるHFの新たな若しくは悪化する症状;及び/又は(ii)HFの新たな若しくは悪化する症状の客観的エビデンス;及び/又は(iii)HF専門治療の開始若しくは強化の1つ又は複数による。一部の実施形態では、HFのための入院は、上に挙げた基準の全てによる。一部の実施形態では、患者によって経験されるHFの新たな若しくは悪化する症状は、呼吸困難、減少した運動耐容能、疲労及び/又は悪化した末端器官障害若しくは体液過剰の他の症状を含む。一部の実施形態では、HFの新たな若しくは悪化する症状の客観的エビデンスは、HFに起因すると考えられる身体診察所見及び/又は新たな若しくは悪化するHFの臨床検査値を含む。一部の実施形態では、身体診察所見は、以下の所見:末梢浮腫、増加する腹部膨満若しくは腹水、肺ラ音/クラックル/捻髪音、増加した頸静脈圧及び/若しくは肝頸静脈逆流、S3ギャロップ並びに/又は体液貯留に関連する臨床的に有意な若しくは急速な体重増加の少なくとも2つを含む。一部の実施形態では、新たな若しくは悪化するHFの臨床検査値は、以下の所見:心不全の代償不全と一致する増加したB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)/N末端プロ-BNP(NT-プロBNP)濃度;肺うっ血の放射線検査エビデンス;臨床的に有意に上昇した左室若しくは右室充満圧又は低心拍出量の非侵襲性診断エビデンス或いは右心カテーテル法による侵襲性診断エビデンスの少なくとも1つを含む。一部の実施形態では、HF専門治療の開始又は強化は、以下:経口利尿薬療法の増加、利尿薬若しくは血管作用薬の静脈内投与又は機械的若しくは外科的介入の少なくとも1つを含む。機械的又は外科的介入は、機械的循環補助又は機械的液体除去を含む。
【0159】
一部の実施形態では、緊急HF外来は、HFの一次診断のための救急処置室外来であるが、入院を必要としない。一部の実施形態では、緊急HF外来は、HFの一次診断のための診療所への緊急の予約なし外来である。一部の実施形態では、患者は、HF症状を経験しており、且つ/又は身体診察所見及び/若しくは新たな若しくは悪化するHFの臨床検査値を有した。一部の実施形態では、患者は、呼吸困難、減少した運動耐容能、疲労及び/又は悪化した末端器官障害若しくは体液過剰の他の症状からなる群から選択されるHFの1つ又は複数の症状を経験する。一部の実施形態では、患者は、HF専門治療の開始又は強化を受ける。一部の実施形態では、緊急HF外来は、静脈内療法を必要とする。
【0160】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、致死的CV事象までの時間を延長する。
【0161】
一部の実施形態では、最初の心不全事象及び/又は致死的心血管事象までの時間は、SGLT2阻害薬の最初の投与から6ヶ月~24ヶ月遅延され得る。一部の実施形態では、最初の心不全事象までの時間は、SGLT2阻害薬の最初の投与から6ヶ月~24ヶ月遅延され得る。一部の実施形態では、致死的心血管事象までの時間は、SGLT2阻害薬の最初の投与から6ヶ月~24ヶ月遅延され得る。
【0162】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、治療されている患者のHF症状の悪化を低減する。一部の実施形態では、患者の心不全症状の低減した悪化は、12~36ヶ月の期間にわたる。
【0163】
一部の実施形態では、心不全症状の低減した悪化は、患者のHFのための入院の低減した回数によって特徴付けられる。一部の実施形態では、心不全症状の低減した悪化は、患者の緊急HF外来の低減した回数の減少によって特徴付けられる。一部の実施形態では、緊急のHF外来は、救急処置室外来又は緊急外来患者の診療所外来である。
【0164】
一部の実施形態では、心不全症状の低減した悪化は、SGLT2阻害薬投与前の患者のスコアと比較したカンザスシティ心筋症アンケート(KCCQ)に基づく患者のより高いスコアによって特徴付けられる。一部の実施形態では、KCCQに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から8ヶ月以内に現れる。一部の実施形態では、KCCQに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも5ポイント高い。一部の実施形態では、KCCQに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも10ポイント高い。一部の実施形態では、KCCQに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも15ポイント高い。
【0165】
一部の実施形態では、心不全症状の低減した悪化は、SGLT2阻害薬の投与前の患者のスコアと比較した変化に対する患者の全般的印象(PGIC)アンケートに基づく患者のより高いスコアによって特徴付けられる。一部の実施形態では、PGICに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から8ヶ月以内に現れる。一部の実施形態では、PGICに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも1ポイント高い。一部の実施形態では、PGICに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも2ポイント高い。一部の実施形態では、PGICに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも3ポイント以上高い。
【0166】
一部の実施形態では、心不全症状の低減した悪化は、SGLT2阻害薬の投与前の患者のスコアと比較した重症度に対する患者の全般的印象(PGIS)アンケートに基づく患者のより高いスコアによって特徴付けられる。一部の実施形態では、PGISに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から8ヶ月以内に現れる。一部の実施形態では、PGISに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも1ポイント高い。一部の実施形態では、PGISに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも2ポイント高い。一部の実施形態では、PGISに基づくより高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前のスコアより少なくとも3ポイント以上高い。
【0167】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HF事象の数を減少させ、且つ/又は致死的心血管事象の発生率を低減する。
【0168】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HF事象の数を減少させる。一部の実施形態では、HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来である。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HF入院の回数を減少させる。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、緊急HF外来の回数を減少させる。一部の実施形態では、緊急HF外来は、救急処置室外来である。一部の実施形態では、緊急HF外来は、静脈内療法を必要とする。
【0169】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、致死的心血管事象の発生率を低減する。
【0170】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院又は致死的心血管事象の複合項目を減少させる。
【0171】
一部の実施形態では、HFrEFを有する成人へのSGLT2阻害薬の投与は、心血管系死亡及び心不全の悪化のリスクを低減し、心不全症状を改善する。
【0172】
一部の実施形態では、HFrEF患者は、SGLT2阻害薬の投与前に≧30ml/分/1.73m2のeGFRを有する。一部の実施形態では、HFrEF患者は、SGLT2阻害薬の投与中に≧30ml/分/1.73m2のeGFRを維持する。
【0173】
一部の実施形態では、HFrEF患者は、SGLT2阻害薬の投与前に1ミリリットル当たり少なくとも400pg、1ミリリットル当たり少なくとも600pg又は1ミリリットル当たり少なくとも900pgの血漿N末端プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド(NT-プロBNP)レベルを有する。
【0174】
一部の実施形態では、患者は、SGLT2阻害薬の投与前に症候性HFrEFと医学的に診断されている。一部の実施形態では、患者は、SGLT2阻害薬の投与の少なくとも2か月前にHFrEFと診断されている。
【0175】
一部の実施形態では、HFrEF患者は、SGLT2阻害薬の投与前に心房細動及び/又は心房粗動を有する。一部の実施形態では、HFrEF患者は、SGLT2阻害薬の投与前に心房細動又は心房粗動を有さない。少なくとも一実施形態では、本明細書に開示される方法は、SGLT2阻害薬の投与前に心房細動又は心房粗動を有さないHFrEF患者において心房細動の発生率を低減する。
【0176】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HFrEF患者のHbA1cを減少させる。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HFrEF患者の収縮期血圧を減少させる。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HFrEF患者の体重を減少させる。特定の実施形態では、開示される方法は、患者のNT-プロBNPレベルの減少をもたらす。一部の実施形態では、この減少は、SGLT2阻害薬の投与の開始から8ヶ月以内に現れる。特定の実施形態では、開示される方法は、患者において、eGFR(ml/分/1.73m当たり)の持続的な降下をもたらす。
【0177】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、NYHA HF分類の改善をもたらす。
【0178】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、HFのための再入院の減少又は再発HF事象の減少をもたらす。一部の実施形態では、再発HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来を含む。
【0179】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、T2D合併又は非合併のいずれの患者においても全死因死亡、例えば心血管死因及び非心血管死因による死亡の発生率低下をもたらす。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬の投与は、非心血管系死亡の発生率の低下をもたらす。
【0180】
別の態様では、本開示は、SGLT2阻害薬及びHF標準治療薬で治療されているHFrEF患者において、心血管系死亡、HF入院又は緊急HF外来の主要複合エンドポイントのレートを低減する方法を提供し、このレートは、HF標準治療薬単独で治療されている患者に対して低減される。別の態様では、本開示は、SGLT2阻害薬及びHF標準治療薬で治療されているHFrEF患者において、心血管系死亡又はHF入院の副次複合エンドポイントのレートを低減する方法を提供し、このレートは、HF標準治療薬単独で治療されている患者に対して低減される。一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。一部の実施形態では、ダパグリフロジンは、1日1回10mgで投与される。
【0181】
別の態様では、本開示は、T2D非合併のHFrEF患者の致死的CV事象を予防又は遅延させる方法であって、本明細書に記載される通り、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法を提供する。
【0182】
本開示は、T2D合併のHFrEF患者の致死的CV事象を予防又は遅延させる方法であって、本明細書に記載される通り、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法も提供する。
【0183】
一部の実施形態では、SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン(FARXIGA(登録商標))、カナグリフロジン(INVOKANA(登録商標))、エンパグリフロジン(JARDIANCE(登録商標))、エルツグリフロジン(STEGLATRO(登録商標))、ソタグリフロジン若しくはイプラグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである。
【0184】
少なくとも一実施形態では、SGLT2阻害薬は、本明細書に記載される通り、ダパグリフロジンである。一部の実施形態では、ダパグリフロジンは、1日1回、2.5mg、5mg又は10mgの用量で投与される。少なくとも一実施形態では、ダパグリフロジンは、1日1回、10mgの用量で投与される。
【0185】
別の態様では、本開示は、T2D非合併のHFrEF患者によって摂取されるHF標準治療薬の合計数を低減する方法であって、本明細書に記載される通り、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法も提供する。
【0186】
本開示は、T2D合併のHFrEF患者によって摂取されるHF標準治療薬の合計数を低減する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を患者に投与することを含む方法も提供する。
【0187】
一部の実施形態では、本明細書に記載される通り、有効量のSGLT2阻害薬をHFrEF患者に投与することにより、患者は、患者が摂取するHF標準治療薬の合計数を減らすことができる。一部の実施形態では、HF標準治療薬の合計数は、2、3又は4まで減少する。患者が摂取しなければならないHF標準治療薬の合計数が減少すると、TD2合併及び非合併HFrEF患者の健康に関連するクオリティオブライフが改善される。
【0188】
以下の実施例は、本開示をさらに説明するが、当然のことながら、これらは、決して本開示の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例0189】
実施例1
DAPA-HF第III相臨床試験結果
序論
2型糖尿病(T2D)を有する参加者を含む大規模な臨床試験により、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)の阻害薬が心不全(HF)入院のリスクを低減することが実証されている。1~4 しかし、特に、これらの試験のほとんどの患者は、ベースライン時にHFに罹患していなかったため、SGLT2阻害薬治療の利益が、起こりがちなHF事象の予防に大きくつながった。注目すべきことに、心不全入院の減少は、ランダム化後、早期に観察され、血糖降下療法の心血管利益を説明するために通常仮定されるものと異なる機構又は作用機構の可能性が高くなった。5~9 SGLT2阻害薬の利尿作用及び関連する血行動態作用に加えて、心筋代謝、イオン輸送体、線維症、アディポカイン及び尿酸に対する効果も提示されている。5~9 これらの作用の大部分並びに腎機能の保存も、恐らく、SGLT2阻害薬の試験を実施していない、確定された心不全を有する患者(糖尿病非合併の患者を含む)に利益をもたらすのであろう。4、10、11
【0190】
DAPA-HF(ダパグリフロジン及び心不全の有害転帰の予防)臨床試験は、駆出率が低く(LVEF≦40%)、T2D合併及び非合併の両方の患者の慢性心不全におけるSGLT2阻害薬の効果及び安全性の見込みを評価するために設計された。12、13 この実施例では、DAPA-HF第III相臨床試験の結果を提供する。
【0191】
方法
治験の設計及び監督
AstraZenecaが治験のスポンサーとなり、データを収集及び解析した。12、13 臨床試験は、プロトコル及び統計分析計画に従って実施し、報告した。治験は、各研究施設の倫理委員会によって承認された。治験に参加する患者の安全は、独立データモニタリング委員会により定期的に審査された。スポンサーによる解析は、グラスゴー大学の独立アカデミックグループによって反復された。
【0192】
試験の患者
参加資格要件には、年齢が少なくとも18歳、ニューヨーク心臓協会(NYHA)クラスII、III又はIVの症状及び40%以下の駆出率が含まれた。患者は、1ミリリットル当たり少なくとも600pgの血漿N末端プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド(NT-プロBNP)レベル又は患者が過去12ヶ月以内に心不全のために入院したことがある場合、1ミリリットル当たり少なくとも400pgのNT-プロBNPを有することが求められた。ベースライン心電図上に心房細動又は心房粗動を有する患者は、心不全による入院歴とは関係なく、少なくとも900pg/mLのNT-プロBNPレベルを有することが求められた。患者は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシン受容体受容体拮抗薬(ARB)又はサクビトリル/バルサルタン;禁忌又は非忍容性でない限り、β遮断薬並びに適切とみなされれば、鉱質コルチコイド受容体(MR)薬など、心不全のための標準薬及び装置療法を受けることが要求された。用量は、ガイドラインに推奨される目標に従って個別に最適化され、少なくとも4週間(柔軟に用量決定することができる利尿薬を除く)安定していることが要求された。治験責任医師は、2型糖尿病患者が、その血糖降下治療薬の摂取を継続すべきことを勧められたが、これらは、必要に応じて調節することができる。特に、プロトコルには、例えば、ベースラインヘモグロビンAlc(HbAlc)値が7%未満の患者の低血糖症のリスクを最小にするために、インスリン、スルホニルウレア治療薬の用量又は両方の用量を低減することができると記載されていた。
【0193】
除外基準には、SGLT2阻害薬による最近の治療若しくはそれに対する不耐性、1型糖尿病、低血圧又は95mm Hg未満の収縮期血圧の症状、最近の心不全悪化若しくは他の心血管事象又は手術(若しくは計画された手術)並びに身体表面積1,73m当たり毎分30ml未満の推定糸球体濾過(eGFR)(又は腎機能の急速な低下)が含まれた。
【0194】
治験手順
患者は、全て書面でのインフォームドコンセントを提出した後、14日の登録期間に入り、その間、治験参加及び除外基準が審査されると同時に、臨床検査及び検査室測定値からの所見を含め、ベースライン情報が収集された。この期間後、2つの治療のほぼ1対1比を確実にするための釣合い型ブロックを用いて、隔離された固定ランダム化スケジュールに従い、1日1回ダパグリフロジン10mg又は対応するプラセボを受けるように患者をランダムに振り分けた。治験責任医師は、自動音声又はウェブ応答システムを使用して、処置振り分けを実施した。ランダム化は、確定診断又はスクリーニング時に中央研究施設で確認された6.5%以上(≧48mmol/mol)のHbAlc値のいずれかとして定義される2型糖尿病の診断に基づいて階層化した。ランダム化から14日及び60日後、心不全及びボリュームステータス、有害事象並びに腎機能及びカリウム検査の評価に焦点を絞って患者を評価した。4ヶ月後及びその後4ヶ月置きにさらに治験来院を実施した。プロトコルでは、妊娠又は糖尿病性ケトアシドーシスが起こった場合、試験薬を以後一切停止することが要求された。急激な予想外のeGFR低下、体液量減少若しくは低血圧のいずれかの場合(又はこれらを回避するために)、用量低減(1日当たりダパグリフロジン5mg若しくは対応するプラセボに)又は一時的な中断が許可され、可能な場合、後の用量増加(又は処置再開)が勧められた。
【0195】
治験評価項目
主要評価項目は、心不全悪化の最初のエピソード又は心血管に起因する死亡の複合項目であった。心不全悪化のエピソードは、心不全による予定外の入院又は静脈内療法を必要とする緊急心不全外来のいずれかであった。14 第1の副次評価項目は、心不全入院又は心血管系死亡の複合項目であった。別の副次評価項目は、次の通りであった:再発心不全入院(再入院を含む)及び心血管系死亡の総数;ベースラインから8ヶ月までの、0~100の尺度を用いるカンザスシティ心筋症アンケート(KCCQ)の合計症状スコアの変化(より高いスコアほど、少ない症状を示し、5ポイント以上の変化は、臨床的に重要とみなされる)15;eGFRの50%以上の持続的低下、末期腎不全(持続的eGFR<15mL/分/1.73m、持続的透析治療若しくは腎移植として定義される)又は腎臓系死亡からなる複合的な腎臓機能悪化評価項目の発生率;並びにあらゆる死因による死亡;全ての症例において、持続的とは、少なくとも28日間続くことを意味した。12
【0196】
評価項目は、事前指定基準に従い、処置の振り分けについて知らされていない臨床エンドポイント委員会により決定された。
【0197】
統計分析
主要評価項目について、プラセボと比較したダパグリフロジンの0.80のハザード比(HR)を推定した。5%の両側αを用いて、本発明者らは、844の主要エンドポイントが仮説検定について90%の検定力を提供することを計算した。プラセボ処置群における11%の年間予測事象率で、18ヶ月の予想動員期間及び約24ヶ月の平均追跡期間に基づき、約4500人の患者が必要な回数の主要事象をもたらすと推定した。上に指定した順の主要及び副次エンドポイントの事前指定階層検定を含め、閉検定手順を使用した。第一種過誤は、主要及び副次エンドポイント全体にわたる多重度について両側0.0499αレベルで制御し、また1つの中間効果分析を考慮した。
【0198】
ランダムに振り分けた全患者からのデータは、治療意図原則に従い、主要及び副次評価項目の分析に導入した。ベースラインの特徴は、平均値及び標準偏差、中央値及び四分位範囲又はパーセンテージとして要約した。糖化ヘモグロビン値(HbAlc)及び体重などの縦断的測定値は、反復測定の混合モデルを用いて分析し、処置群同士の最小2乗平均差を95%信頼区間と共に推定した。事象までの時間データは、カプラン・マイヤー推定値及びコックス(Cox)比例ハザードモデルを用いて評価し、心不全による入院歴及び治療歴を固定効果係数として、糖尿病状態により階層化し(腎臓エンドポイントの場合、心不全による入院歴ではなく、ベースラインeGFRを導入した);ハザード比、95%信頼区間及び両側P値を、コックスモデルを用いて算出した。
【0199】
セミパラメトリック比例的レートモデルを用いて、全(再発を含む)事象を分析して、処置効果を検証すると共に、処置差を定量化した。16
【0200】
KCCQ合計症状スコアは、処置効果の程度を推定するために用いられる対応するウィンレシオ(win ratio)で共分散法のランク分析を用いて、生存患者におけるベースラインから8ヶ月までのスコアの変化と一緒に、8ヶ月時点の患者の生命状態を組み込んだ複合ランクに基づくエンドポイントとして分析した。17 14の事前指定群間の処置効果の一貫性を評価した。事前指定安全性分析には、以下のものが含まれた:重篤な有害事象;治験処置の中止に関連する有害事象;「注目すべき有害事象」、即ち体液量減少、腎臓事象、主要低糖事象、骨折、糖尿病性ケトアシドーシス、切断;フルニエ壊疽;及び留意すべき臨床検査治験。他の有害事象は、ダパグリフロジンに関する過去の安全性データからなる大量の過去の収集データを考慮して、日常的に収集されていない。安全性分析は、ランダム化を経て、少なくとも1用量のダパグリフロジン又はプラセボを受けた患者について実施した。フィッシャーの正確確率検定を用いて、有害事象率を比較した。分析は、Stata、バージョン15(College Station TX,USA)及びRバージョン3.5.1(R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria)を用いて実施した。
【0201】
結果
被験患者
2017年2月15日から2018年8月17日まで、4744人の患者を、20ヶ国の410施設で、1日1回10mgのダパグリフロジン又は対応するプラセボを受けるようにランダムに振り分けた(図1)。患者の特徴及び心不全の治療法は、ベースライン時に治験群間で良好にバランスが取れていた(表1)。
【0202】
【表1】
【0203】
【表2】
【0204】
試験薬投与及び追跡
死亡による中止を除き、ダパグリフロジンを受ける249人(10.5%)の患者と、プラセボを受ける258人の患者(10.9%)とで治験薬を停止した(P=0.71)。最後の評価時、試験薬剤を摂取する患者のうち、ダパグリフロジン群の2039人(98.1%)が1日10mgを維持し;1993人(98.2%)が同等用量のプラセボを受けた。治験の終了時、生命状態が不明であった患者は、ダパグリフロジン群におらず、プラセボ群に2人いた(図1)。追跡期間の中央値は、18.2ヶ月であった。
【0205】
試験評価項目
心不全悪化事象又は心血管に起因する死亡(主要エンドポイント)は、ダパグリフロジン群で386人の患者(16.3%)及びプラセボ群で502人の患者(21.2%)に起こった(ハザード比、0.74;95%信頼区間[CI]、0.65~0.85;P<0.001(図2A及び表2)。複合評価項目の全3つの構成要素についての事象率は、ダパグリフロジンが有利であり;最多の心不全悪化事象は、入院であった(図2及び表2)。ダパグリフロジンを受ける患者のうちの231人(9.7%)が心不全のために入院したのに対し、プラセボを受ける患者では318人(13.4%)であった(ハザード比、0.70;95%CI、0.59~0.83;P<0.001)(図2B及び表2)。心血管に起因する死亡は、ダパグリフロジン群で227人の患者(9.6%)及びプラセボ群で273人の患者(11.5%)に起こった(ハザード比、0.82;95%CI、0.69~0.98;P<0.03)(図2C及び表2)。治験の期間にわたり、1つの主要事象を予防するためにダパグリフロジンで処置しておく必要があったと考えられる患者数は、21であった。
【0206】
心不全入院又は心血管に起因する死亡の副次評価項目は、ダパグリフロジンにより低下した(ハザード比、0.75;95%CI、0.65~0.85;P<0.001)(図2)。ダパグリフロジンアームには計567件の初回及び再発事象(382人の患者において、340件の心不全による入院及び227件の心血管に起因する死亡)が、またプラセボアームには計742件の事象(495人の患者において、469件の心不全による入院及び273件の心血管に起因する死亡)があり、0.75の比(95%CI、0.65、0.88;P<0.001)(表2)が得られた。
【0207】
KCCQ合計症状スコアは、ベースラインから8ヶ月まで、ダパグリフロジン群で6.1±18.6ポイント及びプラセボ群で3.3±19.2ポイントの中間値分だけ増加した(群間差、2.8ポイント;95%CI、1.6~4.0(ウィンレシオ、1.18;95%CI、1.11、1.26;P<0.001)(表2)。プラセボと比較して、より多くのダパグリフロジン群の患者が5ポイント以上のスコア改善を有し(58%対51%;OR 1.15、95%CI、1.08、1.23;P<0.001)、悪化を有する者は少なかった(25%対33%;OR 0.84、95%CI、0.78、0.90;P<0.001)。
【0208】
事前指定腎臓複合評価項目は、ダパグリフロジンを摂取する28人の患者(1.2%)と、プラセボを摂取する39人の患者(1.6%)とに現れた(ハザード比、0.71;95%CI、0.44~1.16;P=0.17)(表2)。
【0209】
合計して、ダパグリフロジン群の276人の患者(11.6%)及びプラセボ群の329人の患者(13.9%)が何らかの死因で死亡した(ハザード比、0.83;95%CI、0.71~0.97)(図2D及び表2)。心不全悪化及び死亡についてのダパグリフロジンの作用を図3にまとめる。
【0210】
主要評価項目に対するダパグリフロジンの効果は、ベースラインで糖尿病非合併の患者を含め、事前指定亜群間で概ね一貫していたが、利益は、NYHA機能クラスIII及びIVの患者において、クラスIIと比べて低いことがわかった(図4)。ベースライン時にサクビトリル-バルサルタンを摂取する患者のpost hoc亜群分析では、主要評価項目についてのダパグリフロジン対プラセボハザード比は、0.75(95%CI、0.50、1.13)であったのに対し、サクビトリル-バルサルタンを摂取していない患者では、0.74(0.65、0.86)であった。
【0211】
【表3】
【0212】
【表4】
【0213】
他の評価項目
ベースラインから8ヶ月までの糖化ヘモグロビン、ヘマトクリット、血漿カリウム、収縮期血圧及び体重の変化を表3に示す。平均クレアチニン濃度は、ベースラインから2週間までにダパグリフロジン群で1デシリットル当たり0.08±0.19mg、またプラセボ群では1デシリットル当たり0.01±0.17mg増加した(群間差、1デシリットル当たり0.07mg;95%CI、0.05~0.08;P<0.001);8ヶ月時点で対応する変化は、それぞれ1デシリットル当たり0.07±0.24及び0.04±0.25mgであった(差、1デシリットル当たり0.02mg;95%CI、0.01~0.04;P=0.04)。ベースラインから720日までの毎年ml/分/1.73当たりのeGFRの変化も測定し、図15及び16に示した。
【0214】
【表5】
【0215】
安全性
特に注目すべき事前指定安全性評価項目を表2に示す。ダパグリフロジンに振り分けられた5人の患者及びプラセボに振り分けられた3人は、治験薬を受けなかったため、安全性分析から除外した。ダパグリフロジン群では、178人の患者(7.5%)が体液量減少に関する有害な事象を有したのに対し、プラセボに振り分けられた患者では162人(6.8%)であった(P=0.40)。体液量減少に関する重篤な有害事象は、29人のダパグリフロジン処置患者(1.2%)及びプラセボ群の40人の患者(1.7%)に現れた(P=0.23)。
【0216】
腎不全に関する有害事象は、ダパグリフロジン群で153人の患者(6.5%)に対して170人の患者(7.2%)に現れた(P=0.36)(表2)。重篤な腎有害事象は、38人のダパグリフロジン処置患者(1.6%)及びプラセボ群の65人の患者(2.7%)に現れた(P=0.009)。
【0217】
処置の中止を必要とした有害事象は、稀であった(表2)。下肢切断及び骨折は、稀にのみ起こり、各々の発生率は、2つの処理群で類似していた(表2)。生命に関わる低血糖症(ダパグリフロジン群で4人の患者、プラセボ群で4人)及び糖尿病性ケトアシドーシス(3対0)も稀であった(表2)。ダパグリフロジン群ではフルニエ壊疽の症例がなかったのに対し、プラセボ群では1人が報告された。ダパグリフロジン群では、いずれの重篤な有害事象(SAE)も顕著に過剰なものはなかった。
【0218】
論考
左室駆出率が低い慢性心不全を有する患者のこの多施設ランダム化プラセボ対照治験では、ダパグリフロジンが、心不全悪化の最初のエピソード(心不全のための入院若しくは静脈内療法を必要とする緊急心不全外来)又は心血管に起因する死亡の主要複合評価項目のリスクを低減した。この評価項目の3つの構成要素の各々は、心不全入院及び心血管に起因する死亡の合計数と同様に低減した。ダパグリフロジンは、カンザスシティ心筋症アンケート(KCCQ)の合計症状スコアにより測定される通り、心不全の症状も改善した。実質的且つ臨床的に重要であった観察された利益は、ランダム化後、早期に現れ、高い割合の患者におけるレニン-アンギオテンシン系遮断薬、β遮断薬及び鉱質コルチコイド受容体拮抗薬を含め、心不全の推奨される基礎療法を受ける参加者で得られた。
【0219】
特に、ダパグリフロジンは、糖尿病合併の参加者と同様に、2型糖尿病非合併の患者の55パーセントで有効であった。糖尿病非合併の患者におけるSGLT2阻害薬の心血管利益のこの最初の実証は、このタイプの処置が血糖降下以外の有益な作用を有し得るという過去の示唆に支持をもたらすものである。4~11 従って、DAPA-HFから得られる知見は、恐らく、ダパグリフロジンの治療的役割を糖尿病以外にも広げ得る。
【0220】
主要評価項目の低減は、概して、残る事前指定亜群全体で一貫していたが、1つの亜群は、クラスIIと比較して、NYHA機能クラスIII及びIVの患者で利益が小さく、処置効果が不均質であり得ることを示唆した。しかし、より低い駆出率、腎機能悪化及びより高いNT-プロBNPなど、より進行した疾患も示す他の亜群は、NYHAクラスの所見と一致しなかった。
【0221】
DAPA-HF治験で試験された集団は、DAPA-HF患者の方が、心不全入院及び心血管に起因する死亡のリスクがはるかに高いという点で、以前のSGLT2阻害薬治験とかなり異なった。ほとんどの患者は、ループ利尿薬及び鉱質コルチコイド受容体拮抗薬で既に処置を受けていたため、ダパグリフロジンが、他の患者群で認められた、予想される初期ナトリウム利尿及び利尿を起こすかどうかは不明であった。こうした作用は、特に、今回の患者の多くが慢性腎疾患を有していたことから、体液量減少及び腎機能悪化を引き起こし得ると考えられた。これらの2つの有害作用のいずれも一般的とはならず(それぞれ各治療群の患者の8パーセント未満で起こった)、重篤な腎有害事象は、概して稀であり、ダパグリフロジン群では有意に頻度が低かった。全体として、いずれかの有害事象のために治験処置を停止した患者は、ごくわずかであった(いずれの各治療群でも5パーセント未満)。糖尿病性ケトアシドーシスと同様に、生命にかかわる低血糖症は、稀であり、両方の有害事象の全ての症例が糖尿病合併の患者で起こった。
【0222】
心不全入院及び心血管に起因する死亡の低減に関して、レニン-アンギオテンシン系遮断のみより有効なサクビトリル-バルサルタンのベースライン使用は低かった。18 しかし、SGLT2阻害及びネプリリシン阻害の作用の仮定される作用機構は、異なり、post hoc亜群分析において、ダパグリフロジンの利益は、サクビトリル-バルサルタンと併用して及び併用なしで処置した患者で同様であった。19、20
【0223】
結論として、SGLT2阻害薬ダパグリフロジンは、2型糖尿病非合併の患者を含め、心不全及び低駆出率を有する患者において、心不全悪化及び心血管に起因する死亡のリスクを低減すると共に、症状を改善した。
【0224】
参考文献
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10 Wanner C.et al.,“Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes,”N Engl J Med.375:323-334(2016).
11 Zelniker T.A.et al.,“SGLT2 inhibitors for primary and secondary prevention of cardiovascular and renal outcomes in type 2 diabetes:a systematic review and meta-analysis of cardiovascular outcome trials,”Lancet 393:31-39(2019).
12 McMurray J.J.V.et al.,“DAPA-HF design paper - A trial to evaluate the effect of the sodium glucose co-transporter 2 inhibitor dapagliflozin on morbidity and mortality in patients with heart failure and reduced left ventricular ejection fraction(DAPA-HF),Eur J Heart Fail.21:665-675(2019).
13 McMurray J.J.V.et al.,“The Dapagliflozin and Prevention of Adverse-Outcomes in Heart Failure(DAPA-HF) trial:baseline characteristics,”Eur J Heart Fail.,doi:10.1002/ejhf.1548.[Epub ahead of print](2019 Jul 15).
14 Hicks K.A.et al.,“Standardized Data Collection for Cardiovascular Trials Initiative(SCTI)2017 Cardiovascular and Stroke Endpoint Definitions for Clinical Trials,”Circulation 137:961-972(2018).
15 Green C.P.,“Development and evaluation of the Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire:a new health status measure for heart failure,”J Am Coll Cardiol.35:1245-1255(2000).
16 Lin D.Y.et al.,“Semiparametric regression for the mean and rate functions of recurrent events,”J R Stat Soc Series B Stat Methodol 62:711-730(2000).
17 Wang D.and Pocock S.,“A win ratio approach to comparing continuous non-normal outcomes in clinical trials.”Pharm Stat.15:238-245(2016).
18 McMurray J.J.et al.,“Angiotensin-neprilysin inhibition versus enalapril in heart failure,”N Engl J Med.371:993-1004(2014).
19 McMurray J.J.,“Neprilysin inhibition to treat heart failure:a tale of science,serendipity,and second chances,”Eur J Heart Fail.17:242-247(2015).
20 Packer M.,”Reconceptualization of the Molecular Mechanism by Which
Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors Reduce the Risk of Heart Failure Events,”Circulation 140:443-445(2019).
【0225】
実施例2
DAPA-HF第III相臨床試験結果-HF症状、健康状態及びクオリティオブライフに対するダパグリフロジンの効果
序論
HF及びHFrEFを有する患者は、疾患進行の高いリスクがあり、臨床的悪化、入院の繰り返し、且つ死亡を招く。Bui,A.L.et al.,Nat Rev Cardiol 8:30-41(2011)。重要なことには、こうした患者は、高い負荷の衰弱症状も経験し、これは、患者らの日常の機能及びクオリティオブライフに影響を及ぼす。確かに、死亡及び入院に好ましい効果を有するHFrEFの一部の治療薬は、健康状態を改善せず(Reddy,P.and Dunn,A.B.,Pharmacotherapy 20:679-689(2000)、臨床事象を改善するだけではなく、症状負荷及び身体的制約を軽減すると共に、クオリティオブライフを改善する別の有効な療法に対する高いアンメットニーズを際立たせている。実際に、患者の健康状態の改善は、心不全管理の主要な目標であり、診療ガイドラインによって益々認識されており(Tsevat,J.et al.,J Gen Intern Med.9:576-582(1994);Lewis,E.F.et al.,J Heart Lung Transplant 20:1016-1024(2001))、取締り機関により重要な評価項目として認められている。US FDA,“Treatment for Heart Failure:Endpoints for Drug Development Guidance for Industry,”https://wwwfdagov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/treatment-heart-failure-endpoints-drug-development-guidance-industry(2019)。
【0226】
実施例1で述べるDAPA-HF治験では、他のガイドライン推奨治療薬に追加したSGLT2阻害薬、ダパグリフロジンは、死亡率及びHF入院のリスクを低減し、HFrEFを有する4,744人の患者の症状を改善した。また、McMurray,J.J.V.et al.,N Engl J Med,doi:10.1056/NEJMoa1911303[Epub ahead of print](2019 Sep 19);McMurray,J.J.V.et al.,Eur J Heart Fail 21:665-675(2019);McMurray J.J.V.et al.,Eur J Heart Fail.,doi:10.1002/ejhf.1548.[Epub ahead of print](2019 Jul 15)(それらの全体を参照により組み込む)も参照されたい。広範囲の健康状態評価項目に対するダパグリフロジンの効果をより良く理解するために、KCCQ(心不全関連症状、機能及びクオリティオブライフを定量化する承認済の自己管理手段)の様々なドメインに対するその効果を調べた。
【0227】
方法
DAPA-HF治験の設計、被験患者のベースライン時の特徴及び主要な結果は、実施例1並びにMcMurray,J.J.V.et al.,N Engl J Med,doi:10.1056/NEJMoa1911303[Epub ahead of print](2019 Sep 19);McMurray,J.J.V.et al.,Eur J Heart Fail 21:665-675(2019);及びMcMurray J.J.V.et al.,Eur J Heart Fail.,doi:10.1002/ejhf.1548.[Epub ahead of print](2019 Jul 15)に記載される通りであった。DAPA-HF治験の主要評価項目は、心不全悪化のエピソード(HF入院若しくは緊急HF外来)又は心血管(CV)系死亡(いずれが最初に起こったかにかかわらず)の複合項目であった。評価された別の臨床評価項目は、HF入院又はCV死亡の発生;HF悪化事象(HF入院若しくは緊急HF外来)、HFのための入院、心血管系死亡並びに全死因死亡であった。
【0228】
カンザスシティ心筋症アンケート
KCCQは、現地治験スタッフによる補助なしで、患者により電子的に記入され(検証された通り)、ランダム化、4ヶ月及び8ヶ月時に評価された。KCCQは、23項目の、自己管理疾患特異的手段であり、これは、過去2週間にわたる症状(頻度、重症度及び最近の変化)、身体機能、クオリティオブライフ及び社会的機能を定量化する。KCCQでは、総症状スコア(TSS)は、症状の頻度及び重症度を定量化し、KCCQ臨床サマリースコア(KCCQ-CSS)は、身体機能及び症状ドメインを含み、KCCQ全体サマリースコア(OSS)は、次のドメイン(合計症状スコア、身体機能、クオリティオブライフ及び社会的機能)から導き出される。各ドメインについて、有効性、再現性、応答性及び解釈可能性は、独立に確立されている。スコアは、0~100の範囲に変換され、この場合、高いスコアほど、優れた健康状態を表す。
【0229】
統計分析
本治験では、ベースラインKCCQ-TSS(副次エンドポイントとして事前指定されたKCCQドメインであった)の三分位:(i)≦65.6、(ii)65.7~87.5、(iii)>87.5ポイントに基づいて、患者を3つの亜群に分けた。ベースライン時の特徴を平均及び標準偏差、中央値及び四分位範囲又はパーセンテージとして要約した。KCCQ-TSSの三分位にわたるCV死亡率及びHF悪化率(処置振り分けとは関係なく)を算出し、カプラン・マイヤー推定値を用いて比較した。
【0230】
KCCQ-TSS三分位にわたり臨床評価項目に対するダパグリフロジン対プラセボの効果を比較するために、本発明者らは、カプラン・マイヤー推定値を用いて、時間対事象データを評価し、Cox比例ハザードモデルを使用し、HF入院歴及び処置群振り分けを固定効果係数として用いて、糖尿病状態により階層化して、ハザード比、95%信頼区間及び両側P値を算出した。
【0231】
反復測定の混合モデルを用いて、生存患者における4ヶ月及び8ヶ月時点の平均KCCQ-TSS、CSS及びOSSの処置群間の差を分析し、ベースライン値について調節された処置群間の最小2乗平均の差を推定した。8ヶ月時点のKCCQに、悪化及び臨床的に重要な改善を有する患者の割合を調べて、応答者分析を実施した。このKCCQドメインにわたる全ての応答者分析のために、KCCQ(≧5ポイント(少なくとも小さい)、≧10点(中度)及び≧15ポイント(大きい)変化)について確立された、臨床的に重要な閾値を使用した。欠測KCCQ値を説明するために、多重代入法を用いて、ダパグリフロジン対プラセボで処置した患者間で、応答者の割合を比較した(以下を参照されたい)。
【0232】
処置群間の差を推定するためのオッズ比並びにそれらの対応する95%信頼区間及び両側P値を、ロジスティック回帰モデル(処置群、階層化変数(ランダム化時のT2D)及びベースラインKCCQ値を含む)から推定した;これらのモデルは、欠測KCCQ値を説明する補完データを使用し、ルービン(Rubin)の法則を用いて、推定値を合わせた。欠測データは、ランダム欠測仮定及び予測平均マッチング多重代入モデル並びにSAS Procedure MI(FCSステートメント)で実行される完全条件付き指定の方法を用いて補完した。代入モデルは、処置群、2型糖尿病ランダム化階層、ベースライン、4ヶ月及び8ヶ月のKCCQスコア並びにランダム化から4ヶ月までの区間及び4~8ヶ月までの区間において治験責任医師により報告されたHF事象の数(0、1、≧2事象)を表すカテゴリー変数を含んだ。死亡は、最下位の値を割り当てることにより処理した。患者が特定の閾値(例えば、5ポイント閾値の場合、ベースラインスコア≧95ポイント)に従う改善を経験するには高すぎるベースラインKCCQスコアを有する患者は、そのスコアが8ヶ月時点で高いまま(即ち≧95ポイント)であれば、改善したものとして定義した。同様に、患者が悪化を経験するには低すぎるベースライン時のKCCQスコアを有する患者は、そのスコアが8ヶ月時点で低いままであれば、悪化したものとして定義した。全ての分析は、STATAバージョン15.1(College Station,TX,USA)及びSASバージョン9.4(SAS Institute,Cary,NC,USA)を用いて実施した。0.05のP値は、統計的に有意であるとみなした。
【0233】
結果
全体として、4744人の患者をランダム化した。ベースラインKCCQ TSSは、4,443人(93.7%)の患者について利用可能であった。KCCQ TSS中央値は、77.1(IQR58.3~91.7)であった。KCCQ TSS三分位における患者の数及び割合を表4に示す。
【0234】
【表6】
【0235】
【表7】
【0236】
患者の特徴
ベースラインでより高いKCCQ-TSSスコアを有する参加者と比較して、より低いスコアを有する参加者は、より若く、より高頻度で、女性、白人であり、欧州及び南北アメリカで登録されていた。これらの参加者はまた、より高いボディマス指数及びナトリウム利尿ペプチド値;並びにより低いeGFRも有し(表4);クラスIIよりも、NYHA機能クラスIII/IVに入る傾向並びに2型糖尿病及び心房細動を有する傾向が高かった。基礎HF療法に関して、低いベースラインKCCQ-TSSを有する患者は、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)及び利尿薬で治療されている頻度が高かった。アンギオテンシン受容体ネプリリシン阻害薬(ARNI)のベースライン使用は、概して低かったが、年齢群全体で類似していた。植込み型心臓装置で処置された患者の割合は、KCCQ-TSS亜群全体で概ね同等であった。
【0237】
臨床評価項目
低いベースラインKCCQ-TSSを有する患者ほど、高いレートでCV死亡率又はHF悪化を経験した(≦65.6、65.7~87.5、>87.5のKCCQ-TSS三分位にわたる患者でそれぞれ25.0%、17.3%及び13.6%;p<0.001)。Cox比例ハザードモデルでは、低いベースラインKCCQ-TSSを有する患者ほど、高リスクのCV死亡又はHF悪化を有した(三分位>87.5:指示対象;三分位65.7~87.5:HR 1.30(95%CI:1.08~1.56)、p=0.006;三分位≦65.6:HR 1.93(95% 1.62~2.30)、p<0.001;図5)。
【0238】
臨床評価項目の範囲に対するダパグリフロジンの効果を図6にまとめる。ダパグリフロジンは、KKCQ-TSSの範囲全体にわたってCV死亡又はHF悪化の主要評価項目を低減し、且つ処置効果不均質性のエビデンスがなかった(最低から最高三分位のHR(95%CI):それぞれ0.70(0.57~0.86)、0.77(0.61~0.98)及び0.62(0.46~0.83);不均質性についてのP=0.52)。CV死亡又はHFのための入院;HF悪化事象;HF入院;CV死亡;及び全死因死亡について類似の結果が観察された(図6;不均質性についての全てのP値が非有意)。
【0239】
健康状態評価項目
経時的なKCCQ-TSS、CSS及びOSSの平均変化をそれぞれ図7A、7B及び7Cに示す。ダパグリフロジンで処置した患者は、4か月時点の平均KCCQ-TSS、CSS及びOSSに控えめであるが、有意な改善があった(それぞれプラセボより1.9、1.8及び1.7ポイント高い;全てについてP<0.0001)。これらの有益な効果は、時間経過と共に増幅し、8ヶ月時点での対応する平均差は、プラセボに対して、ダパグリフロジンの方が2.8、2.5及び2.3ポイント高かった(全てについてP<0.0001)。
【0240】
応答者分析の結果を図8A~8Fに示す。臨床的に有益な悪化を有するのは、ダパグリフロジンで処置した患者の方が少なく(KCCQ-TSSの≧5ポイント降下(25.3%対32.9%;OR 0.84、95%CI 0.78~0.90;p<0.0001);少なくとも小さい(58.3%対50.9%)、中度(54.5%対47.6%)及び大きい(54.0%対48.2%)改善を有するのは、ダパグリフロジンで処置した患者の方が多かった(対応するオッズ比(OR)、95%CI:1.15、(1.08~1.23);1.15(1.08~1.22);1.14(1.07~1.22);処置を必要とする数(NNT)=それぞれ14(10~23)、15(11~25)及び18(12~35);全てについてP<0.0001;図8A~8B)。これらの知見は、KCCQ-CSS及びOSSについて類似していた(図8C~8F)。
【0241】
論考
DAPA-HF治験においてKCCQを用いて健康状態の事前指定評価事項を評価したこの前向き研究では、ダパグリフロジンによる処置が、CV死亡又はHF悪化の主要複合エンドポイント及びその構成要素を含め、全ての主要な臨床事象のリスクをベースライン時のKCCQの範囲全体にわたって類似の程度で低減したが、これは、HF評価項目に対するダパグリフロジンの有益な効果がベースライン時の健康状態障害とは無関係であることを示している。さらに、ダパグリフロジンは、KCCQ-TSS、CSS及びOSS(障害、身体機能、クオリティオブライフ及び社会的機能を総合的に含む)を有意に改善し、これらの効果は、時間の経過と共に増幅された。最後に、ダパグリフロジンで処置した患者で、臨床的に重要な悪化を経験した者は、有意に少なく、少なくとも小さい、中度及び大きい臨床的に重要な健康状態の改善を経験した者は、有意に多かった。これらの効果は、実質的であり、処置を必要とする数は、わずか8ヶ月の処置後に12~18の範囲であった。
【0242】
これらの結果には、いくつかの重要な意味がある。第1に、ベースラインKCCQ-TSSの亜群全体にわたる臨床評価項目の分析は、ベースライン時の症状障害の等級別のダパグリフロジンの利益に不均質性のエビデンスを示さない。主要エンドポイント(CV死亡又はHF悪化)について以前報告された事前指定亜群分析では、ダパグリフロジンの利益が、クラスIII-IVに比べ、NYHA機能クラスIIを有する患者でより顕著になり得ることが示唆された。しかし、NYHAクラスは、予後には重要であるが、より主観的、恣意的及び非患者中心的な症状負荷の評価を提示しており;この報告を考慮すると、以前のNYHAクラス亜群分析からの観察結果は、恐らく好機獲得であった。
【0243】
第2に、所見は、HFrEFを有する患者において、KCCQにより測定される通り、健康状態に対するダパグリフロジンの過去に報告された効果を実質的に詳説する。駆出率が低下した心不全を有する患者におけるバイオマーカ、症状及び機能状態に対するダパグリフロジン効果(DEFINE-HF)治験、即ち米国の26の施設で実施された適度な規模のランダム化、プラセボ対照治験では、ダパグリフロジンは、KCCQのいくつかのドメインに対して好ましい効果を有することも証明され、プラセボに対するダパグリフロジンの平均差は、DAPA-HF治験で観察されたものよりやや大きいが、わずか12週間の処置後、応答者分析及び処置が必要な数は、同等であった。Nassif,M.E.et al.,Circulation 140:1463-1476(Sept.2019)。これらの知見により、より長い追跡期間を伴うはるかに大規模な世界的治験における症状、機能及びクオリティオブライフに対する上記の有益な効果が確認される。総合的に、DEFINE-HF及びDAPA-HF治験の両方からの知見は、ダパグリフロジンが、KCCQにより測定される通り、心不全関連の健康状態を有意に改善し、こうした利益は、早期に現れ、且つ長期にわたって持続されることを示している。
【0244】
第3に、DAPA-HF治験でプラセボに対してダパグリフロジンを用いて観察されたKCCQの改善の程度は、HFrEFの他の有効な療法と好ましく匹敵する。一例として、If阻害剤イバブラジンを用いた収縮性心不全処置治験(SHIFT)で、イバブラジンは、12ヶ月の処置後、2.4ポイントのKCCQ-OSSの平均改善と、1.8ポイントのKCCQ-CSSの平均改善とを示した。Ekman,I.et al.,Eur Heart J 32:2395-2404(2011)。PARADIGM-HF治験、Lewis,E.F.et al.Circ Heart Fail.10:doi:10.1161/CIRCHEARTFAILURE.116.003430(2017)では、サクビトリルーバルサルタンは、8か月の治療後、エナラプリルに対して、KCCQ-OS及びKCCQ-CSでそれぞれ1.3及び0.9ポイントの改善を示した。HF-ACTION、Flynn,K.E.et al.,JAMA 301:1451-1459(2009)では、HFrEFの運動療法がKCCQ-OSSに1.9ポイントの改善をもたらした。HFrEF及びQRS幅延長を有する患者における心臓再同期療法(CRT)のMADIT-CRT治験、Veazie,P.J.et al.,J Am Coll Cardiol.60:1940-1944(2012)では、CRTによる処置で、左脚ブロック(LBBB)を有する患者において、KCCQ-TSS、CSS及びOSSにそれぞれ2.0、2.0及び2.4ポイントの改善が得られ、LBBBのない患者にはKCCQに有意な改善がなかった。応答者分析は、これまでにごくわずかにのみ実施されているが、DAPA-HFの応答者分析でもダパグリフロジンを用いて観察された利益の程度(処置を必要した回数など)は、過去に観察された結果と非常に好ましく匹敵する。Ekman,I.et al.,Eur Heart J 32:2395-2404(2011)。KCCQの臨床的に重要な改善のために処置を必要とした回数は、ダパグリフロジン処置患者及びプラセボ処置患者(本発明者らの治験及びDEFINE-HF治験の両方で認められ、かなり大きい「プラセボ効果」と一致する健康状態の改善も経験している)の比較に基づく。従って、臨床診療(明らかにプラセボを使用しない)における健康状態へのダパグリフロジン効果の程度は、観察されたものより大きい可能性がある。症状負荷及び身体制約の軽減並びにクオリティオブライフの改善(診療ガイドライン及び取締り機関によって是認されたHF管理の主要な目標)を考慮すれば、本発明者らの知見は、HFrEF患者のための新たな治療選択肢としてのダパグリフロジンに対するさらなる支持を提供する。
【0245】
結論
DAPA-HF治験において、ダパグリフロジンによる処置は、ベースラインKCCQ値の範囲にわたって死亡及び心不全入院を低減すると共に、HFrEF患者の症状負荷、機能状態及びクオリティオブライフを改善した。さらに、ダパグリフロジンは、健康状態の小さい、中度及び大きい改善を経験する患者の割合を有意に増加し;これらの効果は、持続され、臨床的に重要であった。
【0246】
実施例3
DAPA-HF第III相臨床治験結果-糖尿病合併及び非合併のHF患者における臨床的、代謝、血行動態及び腎評価項目に対するダパグリフロジンの効果
序論
実施例1に述べる通り、DAPA-HF治験では、SGLT2阻害は、糖尿病合併及び非合併のHF患者におけるHF悪化事象又は心血管に起因する死亡の主要評価項目に類似の低減をもたらした。McMurray,J.J.V.et al.,Eur J Heart Fail 21:665-675(2019);McMurray,J.J.V.et al.,N Engl J Med doi:10.1056/NEJMoa1911303[Epub ahead of print](2019 Sep 19)(その全体を参照により本明細書に組み込む)も参照されたい。本実施例に記載の事前指定分析では、HF患者において、DAPA-HFにおけるベースライン糖化ヘモグロビン(別名:ヘモグロビンAlc若しくはHbAlc)の範囲にわたり、ダパグリフロジンの効果及び安全性が代謝及び血行動態の変化と一緒に記載される。
【0247】
方法
DAPA-HF治験患者の参加資格要件、ベースライン特徴及び除外基準は、実施例1並びにMcMurray,J.J.V.et al.,Eur J Heart Fail 21:665-675(2019);McMurray,J.J.V.et al.,N Engl J Med doi:10.1056/NEJMoa1911303[Epub ahead of print](2019 Sep 19)に記載される通りであった。治験手順、治験評価項目及び統計分析も、実施例1並びにMcMurray,J.J.V.et al.,Eur J Heart Fail 21:665-675(2019);McMurray,J.J.V.et al.,N Engl J Med doi:10.1056/NEJMoa1911303[Epub ahead of print](2019 Sep 19))に記載される通りであった。
【0248】
糖尿病状態のベースライン分類
治験責任医師は、患者が登録来院(来院1)時に糖尿病の病歴を有するか否かを記録した。患者は、来院1、またその14(±7)日後の来院2(ランダム化来院)時に中央研究施設での糖化ヘモグロビン(HbAlc)値の測定値も有した。この事前指定亜群分析のために、患者は、来院1及び2の両方において、糖尿病の病歴があったか、又は糖化ヘモグロビンが少なくとも6.5%(≧48mmol/mol)であった場合に糖尿病合併として分類された。来院1及び2の両方において、糖化ヘモグロビン値<5.7%(<39mmol/mol)を有する患者は、正常な糖化ヘモグロビンを有するとみなした。この試験の目的で、糖化ヘモグロビン値≧5.7%且つ<6.5%を有する患者は、糖尿病前期を有するとみなした。同上。
【0249】
結果
患者
ベースライン時の血糖状態
参加した4,744人の患者のうち、2605人(55%)には、糖尿病がなかった。残りのうち、1983人(41.8%)は、スクリーニング時に糖尿病の病歴を有し、さらに156人(3.3%)は、過去に診断されていない糖尿病、即ち来院1(登録)及び来院2(ランダム化)時に糖化ヘモグロビン≧6.5%を有することが判明した。糖尿病のない2605人の患者のうち、1748人(67.1%)は、来院1又は2のいずれかに糖化ヘモグロビン値≧5.7%を有し、839人の患者(32.2%)は、来院1及び2の両方で、糖化ヘモグロビン値<5.7%を有した。加えて、12人の患者は、単一の糖化ヘモグロビン測定値<5.7%のみを有し、6人の患者は、両方のベースライン糖化ヘモグロビン測定値が欠損していた(これらの18人は、正常ヘモグロビン群に含まれた)。
【0250】
ベースライン血糖状態による患者の特徴
糖尿病合併及び非合併患者のベースライン特徴を表5に示すが、これらは、各患者群内でダパグリフロジン又はプラセボに振り分けられた患者間でバランスがよく取れていた(表6)。糖尿病非合併の患者は、糖尿病を伴う患者よりも、黒人である傾向及び虚血性病因を有する傾向が低かった(表5)。平均ボディマス指数、心拍数、収縮期血圧及びNT-プロBNPレベルは、糖尿病を伴う者と比較して、糖尿病非合併の参加者の方が低かった。平均eGFRは、糖尿病を伴う者と比較して、糖尿病非合併の参加者の方が高かった。糖尿病非合併の患者の平均糖化ヘモグロビン値は、5.8%であったのに対し、糖尿病を伴う患者では7.4%であった。糖尿病の平均期間は、7.41年であった(IQR 2.75、13.5)。
【0251】
ベースライン時、NYHA機能クラス及びKCCQ-TSSのいずれも、糖尿病を伴う患者と比較して糖尿病非合併の患者の方が優れていた。
【0252】
【表8】
【0253】
【表9】
【0254】
【表10】
【0255】
【表11】
【0256】
【表12】
【0257】
【表13】
【0258】
【表14】
【0259】
評価項目
ベースライン血糖状態による評価項目
糖尿病非合併の患者は、事前指定死亡率及びHF悪化率が低かった(表7、図9A~9D及び図10A)。糖尿病非合併の患者間において、評価項目のレートは、ベースライン糖化ヘモグロビン(≧6.0%)の上部1/3にある者、即ち糖尿病前期を有する個体で最も高かった(図10A)。腎複合エンドポイントのリスクも、糖尿病非合併の参加者の方が低かった(図14)。対照的に、KCCQ-TSSのベースラインからの全体的変化は、糖尿病合併又は非合併の患者間で変わらなかった。
【0260】
【表15】
【0261】
【表16】
【0262】
ベースライン血糖状態によるダパグリフロジン対プラセボの効果
主要複合評価項目並びに個別の死亡率及び入院評価項目、さらに静脈内療法を必要とする心不全悪化による緊急外来に対するダパグリフロジンの効果を表7及び図10Bに示す。各評価項目に対するダパグリフロジンの効果は、糖尿病合併及び非合併患者において同等であり、腎複合評価項目に対する試験薬の効果も同様であった。
【0263】
ベースライン時、糖尿病非合併の患者間において、3つの等しい群に分割されたとき、主要評価項目に対するダパグリフロジンの効果は、糖化ヘモグロビンの範囲にわたって一貫していた(図10A)。特に、下部1/3(糖化ヘモグロビン値≦5.6%)にある患者について、ダパグリフロジン対プラセボハザード比は、0.74(95%CI 0.53、1.04)であったのに対し、中部1/3(>5.6~<6.0%)では0.71(0.48、1.04)であり、上部1/3(≧6.0%)にある者は、0.72(0.52、1.00)であった;P交互作用=0.837。連続的変数として糖化ヘモグロビンを用いる別の分析は、含まれる範囲にわたってダパグリフロジンの利益を実証した(図12A~12D)。
【0264】
ベースライン時~8ヶ月では、糖尿病非合併の患者において、KCCQ-TSSは、ダパグリフロジンでは、プラセボに比べ、2.2(95%CI 0.7~3.7)ポイント増加し、糖尿病を伴う患者では、3.5(95%CI 1.6~5.4)ポイント増加した;P交互作用=0.176(表7)。
【0265】
糖尿病非合併の個体では、プラセボ群よりもダパグリフロジン群で多くの患者がKCCQ-TSSの少なくとも5ポイントの増加(57.7%対51.7%;オッズ比1.12(95%CI 1.03、1.22)を自己報告し、より少数の患者が有意な悪化を報告した(26.0%対31.3%;オッズ比0.88(0.81、0.97);いずれの比較についてもP<0.01。糖尿病を伴う個体において対応する割合は、以下の通りであった:≧5ポイントの改善-58.9%対49.9%オッズ比1.20(1.09、1.31);並びに悪化24.5%対34.8%オッズ比、0.78(0.71、0.87);いずれの比較についてもP<0.001(改善についての交換作用のP=0.294及び悪化についての交換作用のP=0.075)。
【0266】
糖尿病非合併の個体では、157人が治験時にT2Dを発生し、そのうちの150人(95.5%)が糖尿病前期を有した(Alc5.7~6.4%)(より制限的6.0~6.4%基準を用いて136人[86.6%])。T2Dを発生した患者は、糖尿病がないままの者より高いベースラインAlc(6.2±0.3対5.7±0.4%;p<0.001)、より高いBMI(28.5±5.9対27.1±5.7kg/m;p=0.003)及びより低いeGFR(61.5±17.4対68.2±19.3ml/分/1.73m;p<0.001)を有した。ダパグリフロジンは、新たに発症する糖尿病を32%低減した:プラセボ93/1307(7.1%)対ダパグリフロジン64/1298(4.9%);HR 0.68(95%CI、0.50~0.94;p=0.019)(Cox.)(図17)。
【0267】
臨床検査測定値、体重及び血圧
図11A~11Eは、臨床検査測定値、体重及び血圧の変化を示し、ベースライン値について調整する。糖尿病非合併の患者では糖化ヘモグロビンにほぼ変化はないが、糖尿病合併の患者では60日までにわずかな低下があった(P交換作用<0.0001)(図11A)。体重及び収縮期血圧は、両患者群で低下した(それぞれ図11B及び11C)。ヘマトクリットは、両患者群でダパグリフロジンにより増加し、約4か月後に安定期に達した;この増加は、糖尿病非合併の患者の方が糖尿病合併の患者より低かった(P交換作用=0.0002)(図11D)。処置間の差は、6ヶ月までに減衰したが、両群にダパグリフロジンによるクレアチニンのわずかな初期増加があった;この増加は、糖尿病非合併の患者の方が糖尿病合併の患者より低かった(P交換作用=0.0005)(図11E)。
【0268】
N末端プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド
糖尿病非合併の患者では、NT-プロBNPは、ベースライン~8ヶ月においてダパグリフロジン群で144±2286pg/mlだけ減少し、プラセボ群では84±2993pg/mlだけ増加した;処置群間差-278(-485~-71)pg/ml;p=0.009。糖尿病合併の参加者において対応する変化は、ダパグリフロジン群で257±2502pg/mlの減少及びプラセボ群で121±2884pg/mlの増加であった;処置群間差-333(-562~-104)pg/ml;p=0.004(P交換作用=0.728)。
【0269】
忍容性及び安全性
糖尿病非合併の患者のうち、ダパグリフロジン群の144人の患者(11.1%)とプラセボ群の141人の患者(10.8%)とが治験薬を停止した。糖尿病合併の患者では、これらの数は、それぞれ105(9.8%)及び117人(11.0%)であった。
【0270】
最も一般的な注目すべき有害事象は、体液量減少及び腎障害に関するものであったが、これらは、糖尿病合併の患者よりも糖尿病非合併の患者の方が稀であった(表8)。これらの有害事象の発生率は、いずれの患者群においてもダパグリフロジン及びプラセボ間で相違がなかった。
【0271】
【表17】
【0272】
【表18】
【0273】
血清クレアチニンの2倍化は、ダパグリフロジンに振り分けられた糖尿病非合併の22人の患者(1.7%)及びプラセボに振り分けられた36人の患者(2.8%)に起こった、p=0.08;糖尿病合併の患者において対応する数は、21(2.0%)及び41(3.9%)、p=0.01であった。
【0274】
3人の患者(0.06%)が、治験において明確な又は推定される糖尿病性ケトアシドーシスを経験し、その全員が、ダパグリフロジンにランダム化された糖尿病患者であった。8人の患者(0.17%)が、治験中、生命にかかわる低血糖症を経験し、8人は、全て糖尿病があった:4人は、ダパグリフロジンにランダム化され、4人は、プラセボに振り分けられていた。全体として、25人の患者(0.53%)が切断を受け、糖尿病非合併の個体のうち、1人は、ダパグリフロジン群に、3人は、プラセボ群に属し、糖尿病患者のうち、12人の患者がダパグリフロジン群に、9人の患者がプラセボ群に属した。
【0275】
論考
HF及び低駆出率を有する患者のこの分析からの重要な知見は、SGLT2阻害薬ダパグリフロジンが、糖尿病合併及び非合併の人々において全ての事前指定死亡率及び入院評価項目を同等程度で改善したことであった。さらに、糖尿病非合併の個体間において、ダパグリフロジンによる主要評価項目の低減は、カテゴリー別又は連続的尺度のいずれとして評価されるかにかかわらず、ベースライン時の糖化ヘモグロビン値の範囲にわたって一貫していた。実際、偶然に、糖尿病非合併の参加者の三分位分析では、糖化ヘモグロビン基準に基づき、糖尿病前期のU.S.(≧5.6%)及び欧州(≧6.0%)定義を反映する四分位が選択された。(American Diabetes Association.2.Classification and Diagnosis of Diabetes:Standards of Medical Care in Diabetes-2019,Diabetes Care 42(Suppl 1):S13-S28(2019);Chatterton,H.et al.,BMJ 345:e4624(2012))。ダパグリフロジンの利益は、いずれかの定義を用いて診断された糖尿病前期を有する個体並びに正常な糖化ヘモグロビンを有する個体で類似していた。このデータは、SGLT2阻害の利益が、糖尿病又は糖尿病前期を有する人々に限定されず、血糖状態とは関係なく、心不全及び低駆出率を有する患者にも適用可能であるという納得できるエビデンスを提供する。さらに、観察された利益は、レニン-アンギオテンシン系遮断薬、β遮断薬及び鉱質コルチコイド受容体拮抗薬を含め、HFに推奨される療法を既に受けている参加者においても得られる。
【0276】
本分析は、糖尿病合併及び非合併の人々における代謝、血行動態及び人体測定値に対するダパグリフロジンの効果も実証する。予測通り、ダパグリフロジンは、2型糖尿病患者の糖化ヘモグロビンを低減したが、糖尿病非合併の患者のこの測定値には作用が一切なかった。しかし、体重、血圧、ヘマトクリット、クレアチニン及びNT-プロBNPに対するダパグリフロジンの効果は、糖尿病合併及び非合併の人々において方向的に類似していたが、前者の群の方が幾分顕著であった。
【0277】
本治験の知見から、ダパグリフロジンの利益が血漿グルコースの低下とは独立していたと推定することができる。SGLT2阻害薬の他の作用機構は、利尿作用を含めて提示されている。(Hallow,K.M.et al.,Diabetes Obes Metab 20 479-487(2018);McMurray,J.,J Diabetes Complications 30:3-4(2016))。この機構は、本治験で直接測定しなかったが、収縮期血圧及び体重の早期減少並びにクレアチニンの増加は、利尿作用と一致していた。しかしながら、特にHF患者、とりわけ糖尿病非合併の患者において、従来の利尿薬療法に追加した場合の、尿ナトリウム及び水排泄に対するSGLT2阻害薬の効果については、ほとんどわかっていない。(Hallow,K.M.et al.,前掲;Devineni,D.et al.,Clin Ther 36:698-710(2014);Nassif,M.E.et al.,Circulation(2019 Sep);Kosiborod,M.et al.,J Diabetes Complications 31:1215-1221(2017))。クレアチニン及びヘマトクリットの増加については、他に考えられる説明もある。SGLT2阻害薬は、利尿とは独立に、尿細管糸球体フィードバックを引き起こすと考えられ、これが糸球体輸入細動脈の収縮及び糸球体濾過量の低下を促進する。(Heerspink,H.K.et al.,Circulation 134:752-72(2016);Kidokoro,K.et al.,Circulation 140:303-315(2019)。同様に、ヘマトクリットの上昇は、SGLT2阻害薬が媒介する腎機能の改善による腎エリスロポエチン分泌の増加に起因すると考えられる。(Yanai,H.et al.,J Clin Med Res 9:178-179(2017))。本発明者らが観察したクレアチニン及びヘマトクリットの経時変化は、かなり異なっており、クレアチニンの初期増加が14日後に逆転したのに対し、ヘマトクリットは、最初の4か月間は徐々に増加し、その後、水平状態になった。利尿による体積収縮では、こうした多様な変化を説明できそうにない。
【0278】
イオン輸送体、線維症、アディポカイン、交感神経系活性及び血管機能に対する作用など、他の利尿非依存性作用も提示されているが、それらを支持する臨床エビデンスは乏しい。(Thomas,M.C.et al.,Diabetologia 61:2098-2107(2018);Garg,V.et al.Prog Cardiovasc Dis pii:S0033-0620(19)30102-1(2019);Wojcik,C.et al.,Curr Cardiol Rep 21:130(2019);Verma S.et al.,Diabetologia 61:2108-2117(2018)。一部のデータは、SGLT2阻害薬が左室容積を減少させ得ることを示唆しており、心臓再モデル化への作用は、ダパグリフロジンによってNT-プロBNPに観察された減少を説明し得る。(Verma,S.et al.,Circulation(2019 Aug.22))。近年の実験研究は、さらに、糖尿病のない動物の心臓構造及び機能に対するSGLT2阻害薬の利益も明らかにしている。(Thomas,M.C.et al.,Diabetologia 61:2098-2107(2018);Yurista,S.R.et al.,Eur J Heart Fail 21:862-873(2019);Garg,V.et al.,Prog Cardiovasc Dis pii:S0033-0620(19)30102-1(2019))。また、腎機能低下の予防も心不全に有益である可能性がある。
【0279】
心不全、体液量減少に関するものに関連して注目すべき他の重要な有害事象の全体的レートは低く、糖尿病合併及び非合併の参加者で類似していた。この知見は、利尿作用が、ダパグリフロジンの有益な効果の根拠となる主要機構ではない可能性があるという見解とも一致している。他の事前指定安全性評価項目は、両患者群で稀であり、治験薬の中止も両群共にめったになかった。生命に関わる低血糖症及び糖尿病性ケトアシドーシスのいずれも、糖尿病非合併の患者には起こらなかった。本発明者らの事前指定腎評価項目に対する有意な作用は明らかにされなかったが、これは、ほとんどの患者に起こらなかった。しかし、血清クレアチニンの二倍化は、糖尿病合併及び非合併患者の両方において、ダパグリフロジンを受ける患者の方が有意に少ないことが判明した。重篤な腎有害事象も、プラセボと比較して、ダパグリフロジンに振り分けられた患者の方が少なかった。
【0280】
結論として、HF及び低駆出率を有する患者では、SGLT2阻害薬ダパグリフロジンは、悪化する心不全及び心血管に起因する死亡のリスクを低減し、ベースライン時の糖尿病とは関係なく、且つ糖化ヘモグロビン値とは独立に症状を改善した。これらの利益は、糖尿病合併及び非合併の人々の両方で優れた標準治療薬より優位に観察された。総合すると、これらのデータは、糖尿病合併及び非合併の人々において、血糖状態とは関係なく、駆出率が低い心不全の治療薬としてのダパグリフロジンの使用を支持する。
【0281】
刊行物、特許出願及び特許を含め、本明細書に引用される全ての参考文献は、各参考文献が参照により組み込まれると個別且つ具体的に示され、その全体が記載されているのと同じ範囲まで参照により本明細書に組み込まれる。
【0282】
別に示されていない限り、本明細書における値の範囲の記載は、該当範囲内に入る各個別の値を個々に指す簡潔な方法として役立てられることを意図するに過ぎず、各個別の値は、それが個別に本明細書に記載されているのと同様に本明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、別に本明細書に示されるか、又はそうでなければ文脈から明らかに矛盾するのでない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書に提供されるあらゆる例又は例示的表現(例えば、「など」)は、本開示をより明瞭に示すことを意図するに過ぎず、別に主張されない限り、本開示の範囲に限定をもたらすものではない。本明細書のいかなる表現も、いずれかの非特許請求要素を本開示の実施に不可欠のものとして示すと解釈すべきではない。
【0283】
本明細書には、本開示を実施するための本発明者らが知る最良の方式を含め、本開示の様々な実施形態が記載されている。これらの実施形態の変形形態は、上の説明を読めば当業者に明らかであろう。本発明者らは、当業者が、こうした変形形態を適宜使用することを予想し、本発明者らは、本開示が、本明細書に明示されている以外の様式で実施されることを意図している。従って、本開示は、適用可能な法律によって認可される通り、本明細書に添付される特許請求の範囲に記載される主題のあらゆる変更形態及び均等物を包含する。さらに、別に本明細書に示されるか、又はそうでなければ文脈から明らかに反対の矛盾するのでない限り、考えられるそれらのあらゆる変形形態における上述した要素の任意の組合せが本開示に包含される。
【0284】
実施例4
DAPA-HF第III相臨床試験結果-HF患者における高カリウム血症の軽減に対するダパグリフロジンの効果
序論
高カリウム血症は、多くの場合、心不全及び低駆出率(HFrEF)を有する患者における鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の使用を制限し、これらの患者への救命治療の使用を妨げる。本実施例に示す事前指定分析では、ダパグリフロジンによる処置が、HFrEF患者におけるMRA使用に関連する高カリウム血症のリスクを低減するか否かを決定するために、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害薬ダパグリフロジンを評価した。
【0285】
方法
基礎MRA使用に応じた、ダパグリフロジン及び心不全における有害転帰の予防治験(Dapagliflozin And Prevention of Adverse-outcomes in Heart Failure trial)(DAPA-HF)において、軽度の高カリウム血症(カリウム>5.5mmol/L)及び中度/重度高カリウム血症(>6.0mmol/L)を発生するリスクを調べ、Cox回帰分析の使用により、処置振り分けをランダム化した。
【0286】
結果
全体として、DAPA-HFにおける3370人(70.1%)の患者をMRAで処置した。軽度の高カリウム血症及び中度/重度高カリウム血症は、ダパグリフロジンで処置した180人(11%)及び21人(1.2%)の患者に現れたのに対し、プラセボを投与した患者では、204人(12.6%)及び40人(2.4%)であった(表8及び図18A~18B)。これにより、ダパグリフロジンをプラセボと比較して、軽度の高カリウム血症について0.86(0.70~1.05)のハザード比(HR)及び中度/重度高カリウム血症について0.50(0.29、0.85)が得られた。ダパグリフロジンにより処置は、HFrEF患者でのMRAに関連する中度/重度高カリウム血症の発生率を半減した。
【0287】
【表19】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【手続補正書】
【提出日】2024-06-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書および図面に記載する発明。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0187
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0187】
一部の実施形態では、本明細書に記載される通り、有効量のSGLT2阻害薬をHFrEF患者に投与することにより、患者は、患者が摂取するHF標準治療薬の合計数を減らすことができる。一部の実施形態では、HF標準治療薬の合計数は、2、3又は4まで減少する。患者が摂取しなければならないHF標準治療薬の合計数が減少すると、TD2合併及び非合併HFrEF患者の健康に関連するクオリティオブライフが改善される。
本願発明はさらに以下に記載する実施態様を提供する。
1. 患者において駆出率が低下した心不全(HFrEF)を治療する方法であって、有効量のナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
2. 2型糖尿病(T2D)非合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
3. T2D合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
4. T2D非合併のHFrEF患者において致死的心血管事象を予防するか又は遅延させる方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
5. T2D合併のHFrEF患者において致死的心血管事象を予防するか又は遅延させる方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
6. T2D非合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含み、前記患者は、治療中、腎不全に関連する有害な事象を経験しない、方法。
7. T2D合併患者においてHFrEFを治療する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含み、前記患者は、治療中、腎不全に関連する有害な事象を経験しない、方法。
8. 腎不全に関連する有害な事象がないことは、eGFRレベルの低減がないか若しくはわずかであること、末期腎不全(ESRD)がないこと及び/又は腎臓に起因する死亡がないことを含む、項6又は7に記載の方法。
9. T2D非合併のHFrEF患者によって摂取される心不全(HF)標準治療薬の合計数を低減する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
10. T2D合併のHFrEF患者によって摂取されるHF標準治療薬の合計数を低減する方法であって、有効量のSGLT2阻害薬を前記患者に投与することを含む方法。
11. 前記SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン、ソタグリフロジン、イプラグリフロジン若しくはエルツグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである、項1~10のいずれか一項に記載の方法。
12. 前記SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである、項11に記載の方法。
13. ダパグリフロジンは、非結晶性固体の形態である、項12に記載の方法。
14. ダパグリフロジンは、結晶性固体の形態である、項12に記載の方法。
15. 前記ダパグリフロジンは、構造:
【化6】
を有する(S)-プロピレングリコール((S)-(PG)溶媒化合物の形態である、項12~14のいずれか一項に記載の方法。
16. 少なくとも1種の他の治療薬を前記患者に投与することをさらに含む、項1~15のいずれか一項に記載の方法。
17. 前記他の治療薬は、前記SGLT2阻害薬と一緒に、同じ又は異なる医薬組成物中において且つ同じ又は異なる時点で投与される、項16に記載の方法。
18. 前記他の治療薬は、抗糖尿病薬、抗肥満薬、抗高脂血症薬、抗アテローム性動脈硬化薬、抗高血圧薬、抗血小板薬、抗血栓薬又は抗凝血薬である、項16又は17に記載の方法。
19. 前記他の治療薬は、抗糖尿病薬である、項18に記載の方法。
20. 前記抗糖尿病薬は、ビグアナイド及び/又はDPP4阻害薬である、項19に記載の方法。
21. 前記ビグアナイドは、メトホルミン又はその薬学的に許容される塩である、項20に記載の方法。
22. 前記DPP4阻害薬は、サクサグリプチン、リナグリプチン若しくはシタグリプチン又はその薬学的に許容される塩である、項20に記載の方法。
23. 前記患者は、40%以下の左室駆出率(LVEF)を有する、項1~22のいずれか一項に記載の方法。
24. 前記LVEFは、35%、30%又は25%以下である、項23に記載の方法。
25. 前記LVEFは、少なくとも20%である、項24に記載の方法。
26. 前記LVEFは、心エコー図、放射線核種心血管造影図、血管造影法又は心臓MRIを使用して決定される、項23~25のいずれか一項に記載の方法。
27. ダパグリフロジンは、2.5mg、5.0mg又は10mgの用量で1日1回前記患者に経口投与される、項12~26のいずれか一項に記載の方法。
28. ダパグリフロジンの用量は、10mgである、項27に記載の方法。
29. 前記SGLT2阻害薬の投与は、以下の転帰:
(i)最初の心不全(HF)事象及び/若しくは致死的心血管事象までの時間を延長すること;並びに/又は
(ii)心不全症状の悪化を低減すること;並びに/又は
(iii)心不全事象の数を減少させること及び/若しくは致死的心血管事象の発生率を低減すること
の少なくとも1つをもたらす、項1~28のいずれか一項に記載の方法。
30. 前記SGLT2阻害薬の投与は、最初の心不全(HF)事象までの時間を延長する、項29に記載の方法。
31. HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来である、項30に記載の方法。
32. 前記HFのための入院は、HFの一次診断と共に少なくとも24時間続く入院を含む、項31に記載の方法。
33. 前記SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院の合計回数を減少させる、項1~32のいずれか一項に記載の方法。
34. 前記HFのための入院の合計回数は、最初の及び/又は再入院を含む、項33に記載の方法。
35. 前記HFのための入院は、以下の基準:
(i)前記患者によって経験されるHFの新たな若しくは悪化する症状;及び/又は
(ii)HFの新たな若しくは悪化する症状の客観的エビデンス;及び/又は
(iii)HF専門治療の開始若しくは強化
の1つ又は複数によるものである、項32~34のいずれか一項に記載の方法。
36. 前記患者によって経験されるHFの新たな又は悪化する症状は、呼吸困難、減少した運動耐容能、疲労及び/又は悪化した末端器官障害若しくは体液過剰の他の症状を含む、項35に記載の方法。
37. HFの新たな又は悪化する症状の客観的エビデンスは、HFに起因すると考えられる身体診察所見及び/又は新たな若しくは悪化するHFの臨床検査値を含む、項35又は36に記載の方法。
38. 前記身体診察所見は、以下の所見:末梢浮腫、増加する腹部膨満若しくは腹水、肺ラ音/クラックル/捻髪音、増加した頸静脈圧及び/若しくは肝頸静脈逆流、S3ギャロップ並びに/又は体液貯留に関連する臨床的に有意な若しくは急速な体重増加の少なくとも2つを含む、項37に記載の方法。
39. 新たな又は悪化するHFの前記臨床検査値は、以下の所見:心不全の代償不全と一致する増加したB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)/N末端プロ-BNP(NT-プロBNP)濃度;肺うっ血の放射線検査エビデンス;臨床的に有意に上昇した左室若しくは右室充満圧又は低心拍出量の非侵襲性診断エビデンス或いは右心カテーテル法による侵襲性診断エビデンスの少なくとも1つを含む、項37に記載の方法。
40. 前記HF専門治療の開始又は強化は、以下:経口利尿薬療法の増加、利尿薬若しくは血管作用薬の静脈内投与又は機械的若しくは外科的介入の少なくとも1つを含む、項35~39のいずれか一項に記載の方法。
41. 前記機械的又は外科的介入は、機械的循環補助又は機械的液体除去を含む、項40に記載の方法。
42. 緊急HF外来は、HFの一次診断のための救急処置室外来であるが、入院を必要としない、項31に記載の方法。
43. 緊急HF外来は、HFの一次診断のための診療所への緊急の予約なし外来である、項31に記載の方法。
44. 前記患者は、HF症状を経験しており、且つ/或いは体診察所見及び/又は新たな若しくは悪化するHFの臨床検査所見を有していた、項42又は43に記載の方法。
45. 前記患者は、呼吸困難、減少した運動耐容能、疲労及び/又は悪化した末端器官障害若しくは体液過剰の他の症状からなる群から選択されるHFの1つ又は複数の症状を経験する、項44に記載の方法。
46. 前記患者は、HF専門治療の開始又は強化を受ける、項42~45のいずれか一項に記載の方法。
47. 前記緊急HF外来は、静脈内療法を必要とする、項42~46のいずれか一項に記載の方法。
48. 前記SGLT2阻害薬の投与は、致死的心血管事象までの時間を延長する、項29~47のいずれか一項に記載の方法。
49. 最初の心不全事象及び/又は致死的心血管事象までの時間は、前記SGLT2阻害薬の最初の投与から8週間~2年間遅延される、項29~48のいずれか一項に記載の方法。
50. 最初の心不全事象までの時間は、前記SGLT2阻害薬の最初の投与から8週間~2年間遅延される、項49に記載の方法。
51. 致死的心血管事象までの時間は、前記SGLT2阻害薬の最初の投与から8週間~2年間遅延される、項49に記載の方法。
52. 前記SGLT2阻害薬の投与は、治療されている前記患者のHF症状の悪化を低減する、項29に記載の方法。
53. 前記患者の心不全症状の低減した悪化は、12~36ヶ月の期間にわたる、項52に記載の方法。
54. 前記心不全症状の低減した悪化は、前記患者のHFのための入院の低減した回数によって特徴付けられる、項52又は53のいずれか一項に記載の方法。
55. 前記心不全症状の低減した悪化は、前記患者の緊急HF外来の低減した回数によって特徴付けられる、項52~54のいずれか一項に記載の方法。
56. 前記緊急HF外来は、救急処置室外来又は緊急外来患者の診療所外来である、項55に記載の方法。
57. 前記心不全症状の低減した悪化は、SGLT2阻害薬投与前の患者のスコアと比較したカンザスシティ心筋症アンケート(KCCQ)に基づく前記患者のより高いスコアによって特徴付けられる、項52~56のいずれか一項に記載の方法。
58. 前記KCCQに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬投与の開始から8ヶ月以内に現れる、項57に記載の方法。
59. 前記KCCQに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前の前記スコアより少なくとも5ポイント高い、項57又は58に記載の方法。
60. 前記KCCQに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前の前記スコアより少なくとも10ポイント高い、項57又は58に記載の方法。
61. 前記KCCQに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬投与前の前記スコアより少なくとも15ポイント高い、項57又は58に記載の方法。
62. 前記KCCQスコアは、KCCQ総症状スコア(TSS)である、項57~61のいずれか一項に記載の方法。
63. 前記KCCQ-TSSに基づく前記より高いスコアは、SGLT2阻害薬の投与前の患者の閾値KCCQ-TSSスコアとは関係なく得られる、項62に記載の方法。
64. 前記KCCQスコアは、KCCQ-臨床症状スコア(CSS)である、項57~61のいずれか一項に記載の方法。
65. 前記KCCQスコアは、KCCQ-全体サマリースコア(OSS)である、項57~61のいずれか一項に記載の方法。
66. 前記SGLT2阻害薬の投与は、HF事象の数を減少させ、且つ/又は心血管事象の発生率を低減する、項29に記載の方法。
67. 前記SGLT2阻害薬の投与は、HF事象の数を減少させる、項66に記載の方法。
68. 前記HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来である、項67に記載の方法。
69. 前記SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院の回数を減少させる、項68に記載の方法。
70. 前記SGLT2阻害薬の投与は、緊急HF外来の回数を減少させる、項68に記載の方法。
71. 前記緊急HF外来は、救急処置室外来である、項70に記載の方法。
72. 前記緊急HF外来は、静脈内療法を必要とする、項70又は71に記載の方法。
73. 前記SGLT2阻害薬の投与は、致死的心血管事象の発生率を低減する、項66に記載の方法。
74. 前記SGLT2阻害薬の投与は、HFのための入院又は致死的心血管事象の複合項目を減少させる、項66~73のいずれか一項に記載の方法。
75. 前記患者は、前記SGLT2阻害薬の投与前又は投与中に1種又は複数のHF標準治療薬を受けている、項1~74のいずれか一項に記載の方法。
76. 前記1種又は複数のHF標準治療薬は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、β遮断薬、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、ネプリリシン阻害薬及び利尿薬からなる群から選択される、項75に記載の方法。
77. 前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、治療有効量のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬である、項75又は76に記載の方法。
78. 前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、治療有効量のアンギオテンシンII受容体遮断薬(ARB)である、項75~77のいずれか一項に記載の方法。
79. 前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、β遮断薬である、項75~78のいずれか一項に記載の方法。
80. 前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)である、項75~79のいずれか一項に記載の方法。
81. 前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、ネプリリシン阻害薬である、項75~80のいずれか一項に記載の方法。
82. 前記HF標準治療薬の少なくとも1つは、ループ利尿薬である、項75~81のいずれか一項に記載の方法。
83. 前記SGLT2阻害薬を投与されている前記患者は、II~IVのニューヨーク心臓協会(NYHA)心不全分類を有する、項1~82のいずれか一項に記載の方法。
84. 前記患者は、IIのNYHA心不全分類を有する、項1~83のいずれか一項に記載の方法。
85. 前記患者は、III又はIVのNYHA心不全分類を有する、項1~83のいずれか一項に記載の方法。
86. 前記患者は、前記SGLT2阻害薬の投与前に≧30ml/分/1.73m2のeGFRを有する、項1~85のいずれか一項に記載の方法。
87. 前記患者は、前記SGLT2阻害薬の投与中に≧30ml/分/1.73m のeGFRを維持する、項1~86のいずれか一項に記載の方法。
88. 前記患者は、SGLT2阻害薬投与前に1ミリリットル当たり少なくとも400pg、1ミリリットル当たり少なくとも600pg又は1ミリリットル当たり少なくとも900pgの血漿N末端プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド(NT-プロBNP)レベルを有する、項1~87のいずれか一項に記載の方法。
89. 前記患者は、SGLT2阻害薬投与前に症候性HFrEFと医学的に診断されている、項1~88のいずれか一項に記載の方法。
90. 前記患者は、SGLT2阻害薬投与の少なくとも2か月前にHFrEFと診断された、項89に記載の方法。
91. 前記患者は、SGLT2阻害薬投与前に心房細動及び/又は心房粗動を有する、項1~90のいずれか一項に記載の方法。
92. 前記患者は、SGLT2阻害薬投与前に心房細動及び/又は心房粗動を有さない、項1~90のいずれか一項に記載の方法。
93. 前記SGLT2阻害薬投与は、前記患者のHbA1cを減少させる、項1~92のいずれか一項に記載の方法。
94. 前記SGLT2阻害薬投与は、前記患者の収縮期血圧を減少させる、項1~93のいずれか一項に記載の方法。
95. 前記SGLT2阻害薬投与は、前記患者の体重を減少させる、項1~94のいずれか一項に記載の方法。
96. 前記SGLT2阻害薬投与は、前記患者の前記NT-プロBNPレベルを減少させる、項1~95のいずれか一項に記載の方法。
97. 前記減少は、SGLT2阻害薬投与の開始から8ヶ月以内に起こる、項94~96のいずれか一項に記載の方法。
98. 前記SGLT2阻害薬投与は、NYHA HF分類の改善をもたらす、項84~96のいずれか一項に記載の方法。
99. 前記SGLT2阻害薬投与は、HFのための再入院の減少又は再発HF事象の減少をもたらす、項1~98のいずれか一項に記載の方法。
100. 再発HF事象は、HFのための入院又は緊急HF外来を含む、項99に記載の方法。
101. 前記SGLT2阻害薬投与は、非心血管に起因する死亡の低下した発生率をもたらす、項1~100のいずれか一項に記載の方法。
102. SGLT2阻害薬及びHF標準治療薬で治療されているHFrEF患者において、心血管系死亡、HF入院又は緊急HF外来の主要複合エンドポイントのレートを低減する方法であって、前記レートは、HF標準治療薬単独で治療されている患者に対して低減される、方法。
103. SGLT2阻害薬及びHF標準治療薬で治療されているHFrEF患者において、心血管系死亡又はHF入院の副次複合エンドポイントのレートを低減する方法であって、前記レートは、HF標準治療薬単独で治療されている患者に対して低減される、方法。
104. 前記SGLT2阻害薬は、ダパグリフロジン又はその薬学的に許容される塩、溶媒化合物、混合溶媒化合物、複合体若しくはプロドラッグである、項102又は103に記載の方法。
105. 前記ダパグリフロジンは、1日1回10mgで投与される、項104に記載の方法。
106. SGLT2阻害薬で治療されているHFrEF患者の全死因死亡の発生率を低減する方法。
107. 前記全死因死亡は、心血管及び非心血管に起因する死亡を含む、項106に記載の方法。
【外国語明細書】