(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119848
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】サイズ排除クロマトグラフィー及び多角度光散乱技術を使用した遺伝子療法ウイルス粒子のキャラクタリゼーション
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/70 20060101AFI20240827BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20240827BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C12Q1/70
C12Q1/06
C12N7/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024083411
(22)【出願日】2024-05-22
(62)【分割の表示】P 2022519130の分割
【原出願日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】62/907,509
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/043,571
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】506136483
【氏名又は名称】バイオマリン ファーマシューティカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バート ヴィカース
(72)【発明者】
【氏名】ベルギグ ジェフリー イェフダ
(72)【発明者】
【氏名】マッキントッシュ ニコル ルイーズ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ウイルス粒子の力価を推定し、ウイルス粒子の完全性を判定し、且つウイルス粒子においてカプシドに封入されたDNAの量を推定するためにも有用な方法を提供する。
【解決手段】ウイルス粒子をキャラクタリゼーション及び定量化する方法であって、カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子を含有する試料をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析するステップと;前記SEC分析から、前記試料中の前記ウイルス粒子の凝集を定量化すること、前記試料中の核酸及び/又はタンパク質不純物の濃度を定量化すること、前記カプシド及び/又はベクターゲノムの重量平均分子量を決定すること、及び前記試料中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドの濃度を定量化することの少なくとも1つを決定するステップとを含む方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス粒子をキャラクタリゼーション及び定量化する方法であって、
カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子を含有する試料をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析するステップと;
前記SEC分析から、
前記試料中の前記ウイルス粒子の凝集を定量化すること、
前記試料中の核酸及び/又はタンパク質不純物の濃度を定量化すること、
前記カプシド及び/又はベクターゲノムの重量平均分子量を決定すること、及び
前記試料中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドの濃度を定量化すること
の少なくとも1つを決定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記SEC分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、約260ナノメートル(nm)及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、前記画分の前記少なくとも1つにおいてウイルス粒子を同定することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
カプシドの構造的完全性をモニタする方法であって、
カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子を含む調製物からの複数の試料をSECによって分析するステップであって、前記試料の各々は、他と異なる特性を有するように修飾されている、ステップと;
前記SEC分析から、前記試料の各々における前記カプシドの構造的完全性をモニタするステップと
を含み、前記試料間のタンパク質及び核酸濃度の変化は、前記カプシドの構造的完全性の変化と相関する、方法。
【請求項5】
前記SEC分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することとを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、前記画分の前記少なくとも1つにおいてウイルス粒子を同定することを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記カプシドの構造的完全性に基づいて、25℃における時間長さの前記試料の貯蔵安定性を決定することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
ウイルス粒子をキャラクタリゼーション及び/又は定量化する方法であって、
カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子の調製物の試料をSEC及びサイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱法(SEC-MALS)によって分析するステップと;
前記SEC及びSEC-MALS分析から、
前記調製物中の前記ウイルス粒子の凝集を定量化すること、
前記調製物中の核酸及び/又はタンパク質不純物の濃度を定量化すること、前記カプシド及びベクターゲノムの重量平均分子量を決定すること、及び/又は
前記調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及びカプシドの濃度を定量化すること
の少なくとも1つを決定するステップと
を含む方法。
【請求項9】
前記SEC分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することとを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、前記画分の前記少なくとも1つにおいてインタクトなrAAV粒子を同定することを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記SEC-MALS分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、画分の屈折率、紫外スペクトル内の波長における前記画分による光吸収及び多角度光散乱分析(MALS)を使用した前記画分による光散乱の強度の少なくとも1つを測定することとを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記調製物中における、被包されたベクターゲノムがない前記ウイルス粒子及び/又は前記カプシドのサイズ分布を動的光散乱分析によって決定することを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルス粒子の前記サイズ分布は、前記ウイルス粒子の回転半径(Rg)及び/又は流体力学半径(Rh)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及びカプシドの濃度を前記定量化することは、被包されたベクターゲノムがない前記ウイルス粒子及び/又は前記カプシドのRg及びRhを動的光散乱分析によって決定することを含み、Rg対Rhの比は、前記調製物中のウイルス粒子のパーセンテージ濃度と相関する、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
カプシドの構造的完全性をモニタする方法であって、
カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子を含む調製物からの複数の試料をSEC及びSEC-MALSによって分析するステップであって、前記試料の各々は、他と異なる特性を有するように修飾されている、ステップと;
前記SEC及びSEC-MALS分析から、前記試料の各々における前記カプシドの構造的完全性をモニタするステップと
を含み、前記試料間のタンパク質及び核酸濃度の変化は、前記カプシドの構造的完全性の変化と相関する、方法。
【請求項16】
前記SEC分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することとを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、前記画分の前記少なくとも1つにおいてインタクトなrAAV粒子を同定することを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記SEC-MALS分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、画分の屈折率、紫外スペクトル内の波長における前記画分による光吸収及びMALSを使用した前記画分による光散乱の強度を測定することとの少なくとも1つを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記カプシドの構造的完全性に基づいて、25℃における時間長さの前記試料の貯蔵安定性を決定することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記定量化するステップ及び決定するステップは、検量線を必要としない、請求項8~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ウイルス粒子は、アデノ随伴ウイルス粒子又はレンチウイルスウイルス粒子である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
SEC又はSEC-MALS分析前に、前記試料又は複数の試料を分析超遠心法によって分析して、封入されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドを同定することを更に含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年9月27日に出願された米国仮特許出願第62/907,509号明細書及び2020年6月24日に出願された米国仮特許出願第63/043,571号明細書の利益を主張するものであり、これらの仮特許出願の全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、アデノ随伴ウイルス及びレンチウイルス粒子などのウイルス粒子をキャラクタリゼーションするための、サイズ排除クロマトグラフィー及び/又は多角度光散乱技術と併せたサイズ排除クロマトグラフィーの使用に関する。開示される方法は、ウイルス粒子の力価を推定し、ウイルス粒子の完全性を判定し、且つウイルス粒子においてカプシドに封入されたデオキシリボ核酸の量を推定するためにも有用である。
【背景技術】
【0003】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒト及び他の一部の霊長類種に感染する小型で複製欠損性の非エンベロープ型動物ウイルスである。例えば、AAVがヒト疾患を引き起こさないと見られており、穏和な免疫応答を誘導すること、及びAAVベクターが分裂細胞と静止細胞との両方に感染することができ、宿主細胞ゲノムに組み込まれないことを含む、AAVの幾つかの特徴により、このウイルスは、遺伝子療法による治療用タンパク質の送達に魅力的な媒体となっている。
【0004】
AAVは、パルボウイルス科(Parvoviridae)に属する25nmのサイズ範囲のウイルス粒子ファミリーからなる。AAVは、非エンベロープ型ウイルスであり、約4.7キロベース(kb)長の一本鎖DNAゲノムを封入する3つの異なるウイルスタンパク質(VP1、VP2及びVP3)でできた正二十面体タンパク質外殻を備えている(Balakrishnan et al.,Curr Gene Ther 14,86-100,2014)。比較的安全であり、且つ遺伝子発現が長期にわたるため、現在、非臨床段階及び臨床段階の両方で様々な遺伝子療法プログラムに種々の血清型の組換えAAVベクターが用いられている。現在、組換えAAV(rAAV)を用いる遺伝子療法試験は、世界中で150件が第I相、第II相及び第III相段階で進行中であり、それらのうち、第III相臨床試験のものがあり、それらの6件は、米国で行われている(http://www.abedia.com/wiley/search.php)。長期の臨床使用向けにこうしたウイルス粒子を大規模に作成するため、幾つかの精製方法が開発されており、著しい成功を収めている(Brument et al.,Mol Ther 6,678-686,2002、Qu et al.,J Virol Methods 140,183-192,2007、Okada et al.,Hum Gene Ther 20,1013-1021,2009、Mietzsch et al.,Hum Gene Ther 25,212-222,2014、Clement et al.,Mol Ther Methods Clin Dev 3,16002,2016)。しかしながら、プロセス開発全体及び最終的な精製後AAV薬物製品に存在するあらゆる変数を考慮するロバストな分析論の開発は、依然として発展途上の分野である。
【0005】
組換えレンチウイルス(rLV)は、アデノシンデアミナーゼ欠損症(Farinelli,et al,2014)、β-サラセミア、鎌状赤血球症(Negre et al.,2016)、重症複合型免疫不全症、異染性白質ジストロフィー、副腎白質ジストロフィー、ヴィスコット・オールドリッチ症候群、慢性肉芽腫性疾患(Booth et al.,2016)及び幾つかのリソソーム蓄積障害(Rastall,et al.,2015)などの遺伝性疾患の治療のため、異種トランス遺伝子(即ちレンチウイルス(LV)にとって天然でない遺伝子)を造血幹細胞に送達するのに有用である。
【0006】
LV属は、レトロウイルス科(Retroviridae)に属する。LVは、宿主における疾患発症までの長い潜伏期を特徴とし、「遅い」を意味するラテン語「lente(レンテ)」に因んでその名称が付けられた(Milone and O’Doherty,Leukemia 32,1529-1541,2018)。レンチウイルスカプシドの徹底的な最適化を通して、初期遺伝子送達後に複製不能となる非病原性レンチウイルスベクターの作製が成功したことにより、LVベクターバイオ療法の安全及び効率が確立されている。こうしたベクターの大多数は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)をベースとするものであり、HIVは、円錐形のカプシド中に配列された2,000個のp24タンパク質の外被を有する2つの一本鎖RNAコピーからなる(Milone and O’Doherty,Leukemia 32,1529-1541,2018)。カプシドの完全性は、p17マトリックスによって更に保護され、これは、全てほぼ球形の直径約120nmのリン脂質エンベロープに包まれている(Milone and O’Doherty,Leukemia 32,1529-1541,2018)。このウイルス粒子は、大型のメガダルトンサイズ範囲であるため、この粒子による最大8.5kbの大型ゲノムの被包が可能となる(Milone and O’Doherty,Leukemia 32,1529-1541,2018)31。この一本鎖RNAゲノムは、長鎖末端反復配列(LTR)が隣接する、5つがウイルスの生存及び機能に不可欠なものであり、4つがアクセサリー遺伝子である9つの遺伝子をコードする(Milone and O’Doherty,Leukemia 32,1529-1541,2018)。遺伝子療法を目的に設計される組換えLVベクターでは、ほとんどの場合、リン脂質エンベロープが水疱性口内炎ウイルスG(VSV-G)エンベロープに置き換えられ、VSV-Gは、遍在的に発現するリポタンパク質(LDL)受容体を認識するため、従って多様な細胞型におけるベクター形質導入が可能となる(Milone and O’Doherty,Leukemia 32,1529-1541,2018)。加えて、ベクターの安全性を強化するためにウイルスのアクセサリー遺伝子が除去され、治療用遺伝子発現カセットに置き換えられる。通常の感染過程は、糖タンパク質がそのそれぞれの細胞膜受容体によってベクターエンベロープに付着した後の受容体介在性エンドサイトーシス又は膜融合による細胞侵入を伴う(Milone and O’Doherty,Leukemia 32,1529-1541,2018)。細胞侵入後、ゲノムの脱外被及び放出された一本鎖リボ核酸(ssRNA)の逆転写が続く。次に、新規に合成されたcDNAが核に輸送され、そこで宿主ゲノムに組み込まれる。LVベクターの合理的設計を強化するには、この感染性が関わるステップの詳細の理解が不可欠である。しかしながら、これらのステップの多くの側面は、十分に理解されていない。
【0007】
特に重要性のある領域の1つは、LV感染過程のゲノム脱外被ステップである。重要なことに、送達されたリボ核酸(RNA)の逆転写は、ゲノム脱外被が成功したときに限り起こる(Milone and O’Doherty,Leukemia 32,1529-1541,2018)。従って、LVベクターの細胞形質導入効率は、一部にはその脱外被効率に依存すると考えることが妥当であり得る。現在まで、LVゲノム脱外被に関して確実に分かっていることは、ほとんどない。しかしながら、pHを下げる局所的な変化が脱外被過程を促進すると推測されている(Milone and O’Doherty,Leukemia 32,1529-1541,2018)。更に、LVの生物学的特性と物理的特性との間の関係を評価するための生物物理学的ツールの使用及びキャラクタリゼーション方法に関して、利用できる文献が限られている。
【0008】
遺伝子療法プログラムでは、遺伝子コピー数の存在と、タンパク質発現及び潜在的な有害作用との間の線形性が示されている8~10。従って、遺伝子療法プログラムの成功は、投薬後の安全性及び有効性アウトカムに大きく依存し、次に、これは、AAVベクターの力価決定及びキャラクタリゼーション方法の精密さ及び正確さに依存する。電子顕微鏡法、動的光散乱法、分析超遠心法(AUC)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの種々の方法は、サイズ、凝集傾向、安定性、空のカプシドに対するフルカプシドの量、それぞれカプシド及びベクターゲノム力価を含め、精製カプシド粒子の種々の属性の経過を追跡するために別個に利用されている。遺伝子療法分野では、これらの方法がしばらく用いられているが、既存の方法には、それぞれ低いスループットから高い変動性まで及ぶ固有の関連する限界がある。
【0009】
過去には、アデノウイルス調製物のベクターゲノム及びカプシドタンパク質含有分を定量化するため、バルク光学濃度測定が試験されている(Maizel et al.Virology 36,115-125,1968、Mittereder et al.,J Virol 70,7498-7509,1996、Sweeney et al.,Virology 295,284-288.,2002)。その後、同様の概念を適用して、比較的単純な構造のAAV2カプシド粒子のベクターゲノム及びカプシドタンパク質含有分が定量化された(Sommer et al.,Mol Ther 7,122-128,2003)。結果は、qPCR及びELISAのような既存の方法と比較したとき、良好な類似性を示したが、1つの大きい限界は、タンパク質、核酸及び緩衝液成分など、同じUV範囲で吸収し得る溶液中の外因性不純物の有意な効果であった。その上、この方法は、カプシド溶液のバルク測定であるため、外因性不純物及びカプシド凝集体の量を別々に推定することが不可能であった。これらの潜在的限界及びこの方法がカプシド内の封入されたゲノムを特異的に定量化できなかったという事実に起因して、この方法の利用は、大学の研究室及び非臨床試験に限られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
遺伝子療法ウイルス粒子のキャラクタリゼーションのためのより効率の高いハイスループット技法が必要とされている。例えば、ウイルス濃度が未知又は決定困難である試料中のウイルス粒子をカウントし、且つウイルスのサイズ分布を決定する能力のある正確な方法が必要とされている。本明細書に開示される方法は、極めて信頼性が高いものであり、高速且つ自動化されたウイルス粒子のサイズ分布分析及び定量化を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書では、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)又は多角度光散乱(MALS)技術と組み合わせたSECの分離能力を利用して、ウイルス粒子カプシドサイズ、高次カプシド凝集体、カプシドに封入されていないデオキシリボ核酸(DNA)及びタンパク質不純物の存在、カプシドの完全性、軽いカプシドの量、カプシドタンパク質及びカプシドに封入されたDNAの分子質量、カプシド力価並びにゲノム力価をモニタするハイスループット及び多目的のキャラクタリゼーション方法が提供される。本方法は、屈折計及び光散乱法を併用した、それぞれ紫外線(UV)280ナノメートル(nm)及びUV 260nmにおけるカプシドタンパク質及びカプシドに封入されたDNAの吸光度特性を利用することにより、単回のランでAAVカプシドの複数の属性をモニタする。ウイルス濃度が未知又は決定困難である試料中のウイルス粒子をカウントし、且つウイルスのサイズ分布を決定する能力のある正確な方法は、極めて望ましい。ウイルス試料中のかかる特性のキャラクタリゼーションは、より多くの情報を提供するため、ウイルス調製条件の最適化及び安定調製物の同定に関連する開発時間を短縮することを促進し得る。ウイルス粒子をそのサイズ別に分離すると、凝集したウイルス粒子の量の推定が可能となり、より正確なウイルスカウントが得られる。凝集したウイルス粒子を分離すれば、その凝集状態(1凝集体当たりの個別のビリオンの数及び凝集体の幾何学的構造)を特徴付けることができる。
【0012】
本開示は、SEC及び/又はサイズ排除クロマトグラフィーを多角度光散乱法(SEC-MALS)とともに使用する、AAV及びLV粒子などのウイルス粒子をキャラクタリゼーション及び定量化する方法、プロセス及びシステムを提供する。
【0013】
サイズを基準とする分離技法であるSECは、固定相の細孔から大型種が部分的に排除されることに基づいて、高次凝集体を単量体種から分離するという利点を有する。この方法は、インフルエンザ粒子のような大きいVLP(ウイルス様粒子)の場合に用いられており、それらの分子のUV吸光度特性を用いてその溶出プロファイルをモニタする(Vajda et al.J Chromatogr A 1465,117-125.,2016、Weigel et al.,J Virol Methods 207,45-53,2014、Lagoutte et al.,J Virol Methods 232,8-11,2016、Yang et al.,Vaccine 33,1143-1150,2015、Ladd Effio et al.Vaccine 34,1259-1267,2016)。この技法の有用性は、多角度光散乱法(MALS)及び屈折率(RI)検出器と併用した場合に更に高まり得る。MALSは、SEC又はフィールドフローフラクショネーションと連動して、ポリマー並びにタンパク質バイオ治療薬の絶対分子量、サイズ、立体構造及び分布の決定に広く用いられている(Ye et al.,Anal Biochem 356,76-85,2006、Wyatt et al.,Analytica Chimica Acta 272,1-40,1993、Zinovyev et al.,ChemSusChem 11,3259-3268,2018、Letourneau et al.,Protein Pept Lett 25,973-979,2018、Sahin et al.,Methods Mol Biol 899,403-423,2012、Minton et al.,Anal Biochem 501,4-22,2016)。最近になって、幾つかの研究により、他の特性に加えて、光散乱法も溶液中のVLPの定量化に使用され得ることが示されている(Steppert et al.,J Chromatogr A 1487,89-99,2017、McEvoy et al.,Biotechnol Prog 27,547-554,2011、Wei et al.,J Virol Methods 144,122-132,2007、Makra et al.,Methods 2,91-99,2015)。
【0014】
pHの関数としてのLVベクター構造及び安定性を包括的に特徴付けるための、様々な生物物理学的ツールと組み合わせたSEC-MALSキャラクタリゼーション方法の開発及び使用も記載される。注目すべきことに、記載されるSEC-MALS方法は、検量線を必要とすることなく、LV粒子を直接定量化し、且つそこでLV粒子力価を推定する迅速な且つ再現性のある方法であると特定される。加えて、提案されるゲノム脱外被機構と一致して、本発明者らの結果は、酸性条件下でのLVカプシドの不安定化を実証する。
【0015】
一態様において、様々な実施形態の方法、プロセス及びシステムは、カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子の調製物の試料をSECによって分析するステップと、SEC分析からウイルス粒子をキャラクタリゼーション及び定量化するステップとを含む。キャラクタリゼーション及び定量化は、調製物中のウイルス粒子の凝集を定量化すること、調製物中の核酸及び/又はタンパク質不純物の濃度を定量化すること、カプシド及びベクターゲノムの重量平均分子量を決定すること、及び調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及びカプシドの濃度を定量化することを含む。SEC分析は、試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画するステップと、ウイルス粒子の特性を測定するステップと、ウイルス粒子をキャラクタリゼーションするステップとを含む。測定は、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することを含む。改良形態では、キャラクタリゼーションステップは、画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、画分の少なくとも1つにおいてAAVなどのウイルス粒子を同定することを含む。様々な実施形態において、様々な実施形態の方法、プロセス及びシステムは、SEC分析前に、試料を分析超遠心法によって分析して、カプシドに封入されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドを同定するステップを更に含む。
【0016】
別の態様において、様々な実施形態の方法、プロセス及びシステムは、カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子の調製物の試料をSEC及びSEC-MALSによって分析するステップと、SEC及びSEC-MALS分析からウイルス粒子をキャラクタリゼーション及び定量化するステップとを含む。キャラクタリゼーション及び定量化は、調製物中のウイルス粒子の凝集を定量化すること、調製物中の核酸及び/又はタンパク質不純物の濃度を定量化すること、カプシド及びベクターゲノムの重量平均分子量を決定すること、及び調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及びカプシドの濃度を定量化することを含む。SEC分析は、試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画するステップと、ウイルス粒子の特性を測定するステップと、ウイルス粒子をキャラクタリゼーションするステップとを含む。測定は、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することを含む。改良形態では、キャラクタリゼーションステップは、画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、画分の少なくとも1つにおいてAAVなどのウイルス粒子を同定することを含む。SEC-MALS分析は、試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画するステップと、ウイルス粒子の特性を測定するステップと、ウイルス粒子をキャラクタリゼーションするステップとを含む。測定は、画分の屈折率、紫外スペクトル内の波長における画分による光吸収及びMALSを使用した画分による光散乱の強度を含む。様々な実施形態において、本方法、プロセス及びシステムは、調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドのサイズ分布を動的光散乱分析によって決定するステップを更に含む。ウイルス粒子のサイズ分布は、ウイルス粒子の回転半径(Rg)及び/又は流体力学半径(Rh)を含み得る。様々な実施形態において、様々な実施形態の、調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及びカプシドの濃度を定量化することは、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドのRg及びRhを動的光散乱分析によって決定することを含み得、Rg対Rhの比は、調製物中のウイルス粒子のパーセンテージ濃度と相関する。様々な実施形態において、様々な実施形態の方法、プロセス及びシステムは、SEC又はSEC-MALS分析前に、試料を分析超遠心法によって分析して、カプシドに封入されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドを同定するステップを更に含む。
【0017】
別の態様下では、様々な実施形態の方法、プロセス及びシステムは、カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子の調製物からの複数の試料をSECによって分析するステップと、SEC分析から、試料の各々におけるカプシドの構造的完全性をモニタするステップとを含む。試料の各々は、他と異なる特性を有するように修飾される。例えば、特性は、25℃における時間長さの試料の貯蔵である。また、試料間のタンパク質及び核酸濃度の変化は、カプシドの構造的完全性の変化と相関する。SEC分析は、試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画するステップと、ウイルス粒子の特性を測定するステップと、ウイルス粒子をキャラクタリゼーションするステップとを含む。測定は、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することを含む。改良形態では、キャラクタリゼーションステップは、画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、画分の少なくとも1つにおいてAAVなどのウイルス粒子を同定することを含む。様々な実施形態において、本方法、プロセス及びシステムは、SEC-MALS分析前に、複数の試料を分析超遠心法によって分析して、カプシドに封入されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドを同定するステップを更に含む。
【0018】
別の態様下では、様々な実施形態の方法、プロセス及びシステムは、カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子の調製物からの複数の試料をSEC及びSEC-MALSによって分析するステップと、SEC及びSEC-MALS分析から、試料の各々におけるカプシドの構造的完全性をモニタするステップとを含む。試料の各々は、他と異なる特性を有するように修飾される。例えば、特性は、摂氏25度(℃)における時間長さの試料の貯蔵である。また、試料間のタンパク質及び核酸濃度の変化は、カプシドの構造的完全性の変化と相関する。SEC分析は、試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画するステップと、ウイルス粒子の特性を測定するステップと、ウイルス粒子をキャラクタリゼーションするステップとを含む。測定は、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することを含む。改良形態では、キャラクタリゼーションステップは、画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、画分の少なくとも1つにおいてAAVなどのウイルス粒子を同定することを含む。SEC-MALS分析は、試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画するステップと、ウイルス粒子の特性を測定するステップと、ウイルス粒子をキャラクタリゼーションするステップとを含む。測定は、画分の屈折率、紫外スペクトル内の波長における画分による光吸収及びMALSを使用した画分による光散乱の強度を含む。様々な実施形態において、本方法、プロセス及びシステムは、SEC-MALS分析前に、複数の試料を分析超遠心法によって分析して、カプシドに封入されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドを同定するステップを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、AAV試料中の軽い、中間及び重いカプシド種を示すグラフである。このグラフは、分析超遠心法からの0%及び100%軽いカプシド材料の沈降を示す。軽いカプシドの沈降は、約50~60Sピークによって示される一方、重いカプシドは、約80~100Sで沈降する。中間のカプシドは、重いカプシドのピークの肩部約70~80Sによって示される。
【0020】
【
図2A-F】
図2A、2B、2C、2D、2E及び2Fは、サイズ排除クロマトグラフィーUV吸光度値からの力価計算のグラフである。
図2Aは、重いAAV試料の280nm及び260nm吸光度プロファイルを示す。
図2Bは、軽いAAV試料の280nm及び260nm吸光度プロファイルを示す。
図2Cは、カプシド力価に当てはめた線形回帰モデルを示す。
図2Dは、軽いカプシドの含有率の関数としてのVg力価を示す(n=3)。
図2Eは、それぞれ指数及び線形回帰モデルへの当てはめの、軽いカプシドの含有率の関数としてのUV吸光度値から計算したカプシド力価の過小推定及びVg力価の過大推定を示す(n=3)。
図2Fは、軽いカプシドの関数としての260nm及び280nm吸光度比への多項式回帰モデルの当てはめを示す(n=3)。
【0021】
【
図3A-B】
図3A及び3Bは、サイズ排除クロマトグラフィーによる力価計算のためのカプシド及びベクターゲノム標準曲線のグラフである。
図3Aは、カプシド負荷量に対する280nm吸光度のプロットを示す(n=3)。
図3Bは、ベクターゲノム負荷量に対する260nm吸光度のプロットを示す(n=3)。
【0022】
【
図4A-D】
図4A、4B、4C及び4Dは、多角度光散乱法がカプシド及び被包されたDNAの質量及びモル質量を測定し、力価の計算を可能にすることを明らかにするグラフである。
図4Aは、カプシドタンパク質及び被包されたDNAのモル質量と併せた重いAAV試料の光散乱クロマトグラムである。
図4Bは、カプシドタンパク質及び被包されたDNAのモル質量と併せた軽いAAV試料の光散乱クロマトグラムである。
図4Cは、軽いカプシドの含有率の関数としての、それぞれカプシド及び被包されたDNAの質量への線形回帰モデルの当てはめを示す(n=3)。
図4Dは、軽いカプシドの含有率の関数としての、それぞれカプシド及び被包されたDNAのモル質量への線形回帰モデルの当てはめを示す(n=3)。
【0023】
【
図5A-D】
図5A、5B、5C及び5Dは、多角度光散乱法力価計算における軽い及び中間のカプシドへの考慮を示すグラフである。
図5Aは、軽いカプシドの含有率に伴う多角度光散乱法からのタンパク質分率の傾向を示す(n=3)。
図5Bは、軽いカプシドの予想割合に対する光散乱法質量から計算した重いカプシドの割合の線形回帰モデルへの当てはめのプロットを示す(n=3)。
図5Cは、軽いカプシドの関数としてのベクターカプシド及びベクターゲノム力価への線形回帰モデルの当てはめを示す(n=3)。
図5Dは、0~100%の軽いカプシドを含有する試料の予想値に対する多角度光散乱法から計算したカプシド/ベクターゲノム比の線形回帰モデルへの当てはめを示す(n=3)。
【0024】
【
図6A-B】
図6A及び6Bは、MALSから求めたカプシド及びベクターゲノム量の理論値との差を示すグラフである。0~100%の軽いカプシドを含有するAAV試料について、カプシド及びベクターゲノム量の理論値とのパーセント差を計算した(n=3)。網掛け領域は、理論値との±5%の差を強調表示する。
【0025】
【
図7A-F】
図7A、7B、7C、7D、7E及び7Fは、重い及び軽いカプシドの熱安定性のSEC-MALS分析を示すグラフである。
図7Aは、25℃から95℃まで10度間隔でインキュベートした重いカプシドの試料の280nm吸光度プロファイルを示す。
図7Bは、25℃から95℃まで10度間隔でインキュベートした軽いカプシドの試料の280nm吸光度プロファイルを示す。
図7Cは、温度の関数としての重い及び軽いカプシドの単量体280nmピーク吸光度パーセンテージへのボルツマンシグモイド回帰モデルの当てはめを示す(n=3)。重いカプシドのモデルのV50値(50.03℃)を縦の点線で示す。
図7Dは、温度の関数としての重い及び軽いカプシドの単量体ピークA60/A280を示す(n=3)。重いカプシドのデータへのボルツマンシグモイド回帰モデルの当てはめのV50値(61.22℃)を縦の点線で示す。
図7Eは、温度の関数としての単量体の重い及び軽いカプシド種の流体力学半径(Rh)及び回転半径(Rg)を示す(n=3)。
図7Fは、温度の関数としての重い及び軽いカプシドのタンパク質及びカプシドに封入されたDNAのモル質量を示す(n=3)。重いカプシドのDNAデータへのボルツマンシグモイド回帰モデルの当てはめのV50値(57.89℃)を縦の点線で示す。
【0026】
【
図8A】
図8Aは、代表的なSEC及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)プロファイルを示す。差し込み図は、260nmでのラベルを付けたピークの100倍の拡大図を示し、差し込みの表は、プロファイルに存在する各ピークを同定する。各ピークは、PCRベースの方法も用いて同定した。
【0027】
【
図8B】
図8Bは、SECによるAAVカプシド粒子の代表的な溶出プロファイルを示す。
【0028】
【
図9A-C】
図9A、9B及び9Cは、SECピーク面積の変化をモニタすることによるカプシド安定性の分析を示す。アデノ随伴ウイルス(AAV)試料を25℃で0、1、3、5、7、10、14、21及び28日間貯蔵した。外来性デオキシリボ核酸(DNA)ピークの%ピーク面積は、線形的に約2倍に増加したことから、カプシドの安定性の変化が示唆される。
【0029】
【
図10A-C】
図10A、10B及び10Cは、SEC溶出したカプシド及びカプシドに封入されたベクターゲノムの多角度光散乱(MALS)分析を示す。
【0030】
【
図11-12】
図11及び
図12は、AAV試料のSEC-MALS分析から取得されたデータの例を示す。
【0031】
【
図13A-C】
図13A、13B及び13Cは、AAV粒子のDNA質量が軽いカプシドの濃度の増加とともに線形的に減少する一方、カプシド(フル又は空の)の総濃度が変化しないため、タンパク質質量が一定のままであることを明らかにするグラフである。
【0032】
【
図14A】
図14Aは、MALSによって測定したときのAAV粒子(カプシド及びDNA)の総分子量(MW)を明らかにするグラフであり、軽いカプシドの濃度の増加に伴うMWの減少を示す。
【0033】
【
図14B-C】
図14B及び14Cは、
図14Aに示されるとおりのAAV粒子の総MWの減少がDNA分量のMWの減少に起因することを示すグラフ表示である。
図14B及び
図14Cは、軽いカプシドの濃度の増加とともにDNA分量の分子量が線形的に減少する一方、カプシドの分子量が、軽いカプシドの分量に関係なく、一定のままであることも示す。
【0034】
【
図15】
図15は、AAV試料からのカプシドに封入されたDNAの臭化エチジウム染色したアガロースゲルの蛍光像である。
【0035】
【
図16】
図16は、軽い、中間及び重いカプシドの沈降を示すグラフである。
【0036】
【
図17A-C】
図17A、17B及び17Cは、軽いカプシドのパーセンテージに対するフルカプシド濃度、カプシド濃度及びベクター濃度のパーセンテージを示すグラフである。
【0037】
【
図18A-B】
図18A及び18Bは、MALSによって計算したときの種々のAAV試料間での分子量及びサイズ分布の比較を示すグラフである。
【0038】
【
図19】
図19は、SEC-MALSデータを用いた空のカプシド粒子のパーセンテージの推定を示すグラフである。
【0039】
【
図20A-D】
図20A、20B、20C及び20Dは、SEC-MALSを用いたAAV粒子のカプシド及びベクターゲノム力価の推定を示すグラフである。
【0040】
【
図21】
図21は、LV試料のSEC溶出プロファイルを提供する。画分1~12は、精製LV試料の注入後に収集されたものであり、丸で囲んだ画分をp24及びドロップレットデジタルPCR(ddPCR)分析に選択した。これらの分析により、19分の目盛りの辺りにあるピークによって表される、カラムの空隙容量中に溶出するLV粒子の存在が確認された。25~45分にある残りのピークは、タンパク質又は核酸試料不純物を表す。
【0041】
【
図22】
図22は、緩衝液塩濃度がLV SECプロファイルに及ぼす効果を提供する。精製LV試料を50μL注入した後の、280nmのUV吸光度によって検出されるSEC溶出プロファイル。300mM NaCl(太線)又は150mM NaCl(破線)のいずれかを含有するpH7.40の20mMトリスを溶出緩衝液として使用し、且つ0.300mL/分の流量を適用した。
【0042】
【
図23A-B】
図23A及び23Bは、LV試料のSEC-MALS溶出プロファイルを提供する。
図23Aは、LV試料をトリプリケートで40μL注入した後に得られた、280nmのUV吸光度によって検出した平均SEC溶出プロファイルを提供する。
図23Bは、同じ試料注入から得られた対応する平均MALSプロファイルを提供する。17分の目盛りの辺りにある突出する光散乱ピークがカラムの空隙容量におけるLV粒子溶出を示し、p24及びddPCRデータを更に裏付けている。
【0043】
【
図24A-B】
図24A及び24Bは、LV試料のMALS数密度分析の線形性モデルを提供する。
図24Aは、LV試料をトリプリケートで10μL、20μL、40μL及び80μL注入した後に得られた平均MALSピークプロファイルを提供する。17分で溶出した粒子の平均分子量は、注入量に関係なく一定であったが(約1.25×10
8Da)、MALS信号の強度は、試料の注入容積に比例した。
図24Bは、SEC-MALS方法の検量線を提供し、SEC-MALSによって測定された数密度が試料注入量と相関を示す。線形モデルの妥当性が95%信頼区間でのF検定統計量によって確認され、平均相関係数は、0.9947であった。
【0044】
【
図25A-B】
図25A及び25Bは、LV粒子のSEC-MALS pH安定性分析を提供する。
図25Aは、pH4.00、pH7.40及びpH10.00で透析したLV粒子をトリプリケートで25μL注入した後に得られた、280nmのUV吸光度によって検出した平均SEC溶出プロファイルを提供する。カプシドの溶出は、注入後約17分に観察されるピークによって表される。pH7.00 LV粒子のSECプロファイルと比較すると、pH4.00 LVピークは、ほぼ無視できるほどのみである一方、pH10.00ピークは、増大している。
図25Bは、上述のSECプロファイルに見られるのと同じ傾向を示す平均MALSピークプロファイルを提供する。
【0045】
【
図26】
図26は、pHの関数としてのLV粒子タンパク質の円偏光二色性(CD)二次構造分析を提供する。pH4.00、7.40及び10.00におけるLV粒子のCD曲線のオーバーレイ。210nm及び220nmにおける二重極小を含め、曲線特徴は、pH7.40及び10.00におけるLV粒子のαヘリックス優勢な立体構造を示唆している。この立体構造は、pH4.00で完全に失われる。
【0046】
【
図27A-B】
図27A及び27Bは、pHの関数としてのLV粒子の動的光散乱法(DLS)融解曲線を提供する。
図27Aは、温度の関数としてのDLSによって評価したLV粒子の流体力学的径をモニタすることによって求めた、pH6.00、pH7.40及びpH10.00におけるLV粒子の熱曲線の比較を提供する。各pH試料の融解温度を縦の点線で示す。
図27Bは、pHの関数としてのLV融解温度の差の統計的有意性を示す棒グラフを提供する。
【0047】
【
図28A-B】
図28A及び28Bは、LV粒子のSEC-MALS塩安定性分析を提供する。
図28Aは、0mM、300mM及び1mM NaClで透析したLV粒子をトリプリケートで25uL注入した後に得られた、280nmのUV吸光度によって検出した平均SEC溶出プロファイルを提供する。カプシドの溶出は、注入後約17分に観察されるピークによって表される。
図28Bは、上述の
図28AのSECプロファイルに対応する平均MALSピークプロファイルを提供する。
【0048】
【0049】
【
図30A-B】
図30A及び30Bは、塩の関数としてのLV粒子のDLS熱ランプを提供する。
図30Aは、温度の関数としてのDLSによって評価したLV粒子の流体力学的径をモニタすることによって求めた、0mM、300mM及び1M NaClにおけるLV粒子の熱曲線の比較を提供する。各塩試料の融解温度を縦の点線で示す。
図30Bは、塩の関数としてのLV融解温度の差の統計的有意性を示す棒グラフを提供する。
【0050】
【
図31A-D】
図31A、31B、31C及び31Dは、内部蛍光及び円偏光二色性を用いた空及びフルのrAAV5カプシドの初期熱安定性分析を提供する。
図31Aは、空及びフルのカプシドの代表的な内部蛍光曲線の一次導関数を示し、両方のカプシドとも、そのタンパク質が約90℃の融解温度を示し、DSCによって決定される以前に報告されたAAV5融解温度と一致する。
図31Bは、210nm及び270nmの吸光度の差を示す、空及びフルのカプシドの代表的な遠紫外CDスペクトルを提供する。空のカプシドのスペクトルで観察される約210nmの顕著な極小は、フルカプシドのタンパク質よりも空のカプシドのタンパク質の方が、αヘリックス立体構造が多いことを示している。フルカプシドによって被包されたDNAは、270nmの吸収を示し、これは、DNAを被包しない空のカプシドでは見られなかった。
図31Cは、温度の関数としての220nmでのCD楕円率をモニタすることによって求めた、空及びフルのカプシドの融解曲線の比較を提供する。約90℃の両方のカプシド型の融解温度を縦の点線で示す一方、フルカプシドにおいてのみ観察される二相性イベントの始まりを矢印で示す。
図31Dは、温度の関数としての270nmでのCD楕円率をモニタすることによって求めた、空及びフルのカプシドの融解曲線の比較を提供する。この場合にもやはり、縦の点線で示す両方のカプシド型の融解温度は、90℃である一方、矢印は、もっぱらフルカプシドにおける融解温度より前に観察される二相性イベントを示す。
【0051】
【
図32A-D】
図32A、32B、32C及び32Dは、空及びフルのrAAV5カプシドのSEC-MALS熱安定性分析を提供する。
図32Aは、25℃から95℃まで10℃間隔でインキュベートした空のカプシドをトリプリケートで注入した後に得られた、280nmのUV吸光度によって検出した平均SEC溶出プロファイルを提供する。カプシドの溶出は、注入後約11分に観察される突出ピークによって表される。空のカプシドのSECプロファイルは、比較的一定のままであり、75℃まで主ピークサイズの低下が限られており、続いてタンパク質カプシドの融解に起因して85℃~95℃で急激に下降する。
図32Bは、それぞれの温度でインキュベートしたフルカプシドをトリプリケートで注入した後に得られた平均SEC UV 280nm溶出プロファイルを提供する。フルカプシドのSECプロファイルの変化は、45℃で始まり、45℃~65℃に突出ピークサイズの下落が観察される。
図32Cは、温度の関数としてのカプシドの完全性の下降を示すため測定し、プロットした、空及びフルの両方のカプシドの主UVピークのパーセンテージを提供する。
図32Dは、UVピークパーセンテージに見られるのと同じ傾向を反映する、空及びフルの両方のカプシドの主MALSピークのパーセンテージを提供する。
【0052】
【
図33A-B】
図33A及び33Bは、温度の関数としてのカプシドタンパク質及び被包されたDNAの分子量のMALS分析を提供する。
図33Aは、温度の関数としての空及びフルの両方のカプシドについての温度の関数としてのタンパク質カプシドの分子量を示す。
図33Bは、空及びフルの両方のカプシドについての温度の関数としての被包されたDNAの分子量を示す。
【0053】
【
図34A-C】
図34A、34B及び34Cは、SYBR gold色素を使用した空及びフルのrAAV5カプシドの外部蛍光分析を提供する。
図34Aは、外部蛍光アッセイスキームを提供する。
図34Bは、温度の関数としてのフルカプシドと混合したSYBR gold色素の蛍光スペクトルを示す。
図34Cは、フル及び空の両方のカプシドについて蛍光曲線下総面積を測定し、温度の関数としてプロットしたものを示す。フルカプシドについて二相性の当てはめが得られたが、空のカプシドは、このプロットに関していかなる傾向も示さなかった。縦の点線は、フルカプシドについて観察されるとおりの、これらの2つの転移温度の最大値の半分を表す。
【0054】
【
図35A-B】
図35A及び35Bは、インハウス及びViGeneのAAV5試料のアガロースゲル画像を提供する。
図35Aは、様々な一本鎖ゲノムサイズの外被をなすAAV5カプシドのアガロースゲル画像を示す。
図35Bは、ViGene Biosciencesから入手した、3.5kb又は4.5kbゲノムの外被をなすAAV5カプシドのアガロースゲル画像を示す。
【0055】
【
図36A-D】
図36A、36B、36C及び36Dは、DNA負荷量がrAAV5カプシドの完全性に及ぼす効果を決定するための外部蛍光分析を提供する。
図36A及び
図36Cは、供給源A及び供給源Bからのカプシドについて、様々なサイズの被包されたDNAを有するカプシドと混合したSYBR gold色素の蛍光スペクトルを得て、曲線下面積を計算し、温度の関数としてプロットしたものを提供する。
図36B及び
図36Dは、供給源A及び供給源Bからのカプシドについて、被包されたゲノムのサイズの関数としてのrAAV5カプシド転移温度の統計的に有意な差を示す棒グラフを提供する。被包されたゲノムのサイズが増加するにつれて、カプシド破壊の指標である転移温度が低下する。
【0056】
【
図37A-D】
図37A、37B、37C及び37Dは、DNA負荷量の増加がrAAV5カプシドの完全性に及ぼす効果を確立するためのSEC分析を提供する。試料2カプシド(
図37A)、試料4カプシド(
図37B)及び試料6カプシド(
図37C)を25℃、55℃及び75℃に30分間供したSECプロファイル。試料は、本明細書の
図22のアルカリゲル像によって示されるとおりのカプシドの漸増DNA負荷量に基づいて選択した。全ての試料が25℃(一様なrAAV5カプシドピーク)及び75℃(元のピークの10%未満)で同様のプロファイルを呈した一方、55℃で得られた試料のプロファイルは、その被包されたゲノムのサイズに基づく3つの試料の各々で、カプシドの各々について異なる転移温度に基づいて変化した。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本明細書では、SEC又はSEC-MALSの使用を通して、AAV又はLVなどのウイルス粒子の生物物理学的キャラクタリゼーションを実現した。詳細には、こうした方法を用いて、調製物中のウイルス粒子の凝集を定量化し、調製物中の核酸及び/又はタンパク質不純物の濃度を定量化し、カプシド及びベクターゲノムの重量平均分子量を決定し、調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及びカプシドの濃度を定量化し、調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドのサイズ分布を決定し、且つカプシドの構造的完全性をモニタした。
【0058】
また、SEC-MALS、CD、DLS及び蛍光の使用を通して、AAV(非エンベロープ型)又はLV(エンベロープ型)粒子の生物物理学的キャラクタリゼーションを実現することにより、カプシド構造を評価した。詳細には、これらの方法を用いて、ウイルス粒子サイズ及びウイルスカプシド不安定化を決定した。カプシドの完全性とpHとの間には、正の相関がある。加えて、高イオン化条件は、LVカプシドを安定化させる役割を果たす。最後に、AAVカプシドの熱安定性の調節において、被包されたゲノムのサイズが担う役割が同定された。これらの生物物理学的ツール(SEC及びMALS)を組み合わせた使用は、遺伝子療法に使用されるウイルスベクターの包括的なキャラクタリゼーション及び構造-機能の解明のための有効な手段としての役割を果たす。
【0059】
一般的技法
本方法の実施には、特に指示されない限り、当業者の技能の範囲内にある細胞生物学、分子生物学、細胞培養、ウイルス学などの従来技術が用いられることになる。これらの技法は、既刊の文献に十分に開示されており、特にSambrook,Fritsch and Maniatis eds.,“Molecular Cloning,A Laboratory Manual”,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Celis J.E.“Cell Biology,A Laboratory Handbook”Academic Press,Inc.(1994)及びBahnson et al.,J.of Virol.Methods,54:131-143(1995)が参照される。更に、本明細書に引用される全ての刊行物及び特許出願は、それらの方法が関係する分野の当業者の技術水準を指し示すものであり、本明細書によって全体として参照により援用される。
【0060】
定義
本開示全体を通して、以下の段落に定義される幾つかの用語が用いられる。
【0061】
本明細書では、本技術の実施形態を説明及び特許請求するために、包含する、含有する又は有するなどの非限定的な用語の同義語として、オープンエンド形式の用語「含む」が使用されるが、実施形態は、あるいは、「からなる」又は「から本質的になる」など、より限定的な用語を用いて説明してもよい。
【0062】
本明細書で使用されるとき、用語「約」は、値に適用されるとき、計算又は測定が値の僅かな不正確さを許容することを指示する(値の正確さに向けた何らかの手法を伴う;その値に近似的に又は合理的に近い;ほぼ)。何らかの理由のため、「約」によってもたらされるその不正確さが当技術分野におけるその通常の意味で理解される以外の場合、本明細書で使用されるとおりの「約」は、少なくともかかるパラメータの通常の測定又は使用方法から起こり得るばらつきを指示する。
【0063】
本明細書で使用されるとき、用語「及び/又は」は、挙げられている関連する項目の1つ以上のあらゆる組み合わせを含む。
【0064】
用語「ウイルス粒子」又は「ビリオン」は、タンパク質外被を有するRNA又はDNAコアを指し、ウイルスに応じて、コア及びタンパク質は、外側のエンベロープを含み得る。例示的ウイルス粒子は、AAV粒子、LV粒子、アデノウイルス粒子、アルファウイルス粒子、ヘルペスウイルス粒子、レトロウイルス粒子及びワクシニアウイルス粒子である。
【0065】
用語「カプシド粒子」は、RNA又はDNAコアを含むことも又は含まないこともあるタンパク質外被を指す。例えば、RNA又はDNAコアを含有しないカプシド粒子は、空の若しくは軽いカプシド粒子又は空の若しくは軽いカプシドと記載することもできる。RNA又はDNAコアを含有するカプシド粒子は、ウイルスの種類(例えば、外側エンベロープを有しないウイルス)に応じて、フルのカプシド粒子若しくはウイルス粒子又はビリオンと記載することもできる。
【0066】
本明細書で使用されるとき、「AAVベクター」は、AAVウイルスゲノムにとって異種の転写調節エレメント、即ち1つ以上のプロモーター及び/又はエンハンサーに作動可能に連結されたタンパク質コード配列(好ましくは機能性の治療用タンパク質コード配列;例えばFVIII、FIX及びPAH)が隣接するAAV 5’逆方向末端反復(ITR)配列及びAAV 3’ITR並びに所望によりポリアデニル化配列及び/又はタンパク質コード配列のエクソン間に挿入された1つ以上のイントロンを有する、一本鎖又は二本鎖のいずれかの核酸を指す。一本鎖AAVベクターは、AAVウイルス粒子のゲノムに存在する核酸を指し、本明細書に開示される核酸配列のセンス鎖又はアンチセンス鎖のいずれかであり得る。かかる一本鎖核酸のサイズは、塩基単位で提供される。二本鎖AAVベクターは、プラスミド、例えばpUC19のDNAに存在する核酸又はAAVベクター核酸の発現又は移入に使用される二本鎖ウイルス、例えばバキュロウイルスのゲノムを指す。かかる二本鎖核酸のサイズは、塩基対(bp)単位で提供される。
【0067】
「AAVビリオン」、又は「AAVウイルス粒子」、又は「AAVベクター粒子」、又は「AAVウイルス」は、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質と、本明細書に記載されるとおりのカプシドに封入されたポリヌクレオチドAAVベクターとで構成されるウイルス粒子を指す。この粒子が異種ポリヌクレオチド(即ちトランス遺伝子など、野生型AAVゲノム以外の、哺乳類細胞に送達しようとするポリヌクレオチド)を含む場合、それは、典型的には、「AAVベクター粒子」又は単に「AAVベクター」と称される。従って、AAVベクター粒子の作製には、必然的にAAVベクターの作製が含まれ、このように、ベクターは、AAVベクター粒子内に含まれる。
【0068】
用語「レンチウイルス」は、一群の複合レトロウイルスを指す一方、用語「組換えレンチウイルス」は、複製できないが、培養細胞(例えば、293T細胞)で産生させることができ、且つ遺伝子を目的の細胞に送達することができるように操作された、レンチウイルスゲノム(HIV-1ゲノムなど)に由来する組換えウイルスを指す。
【0069】
用語「ベシクロウイルス」は、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)のマイナスセンス一本鎖レトロウイルスの属を指す。
【0070】
用語「エンベロープタンパク質」は、いずれの種及び細胞型をウイルスが形質導入できるかを決定付ける、ウイルスの表面にある膜貫通タンパク質を指す。
【0071】
用語「シュードタイプ化」は、ウイルスの任意の成分を異種ウイルスからの成分に置き換えることを指す。詳細には、「シュードタイプ化」は、野生型エンベロープと異なるエンベロープを含むために変化した向性を有する組換えウイルスを意味する。シュードタイプ化したレンチウイルスの場合、それは、非レンチウイルス起源又はレンチウイルスの異なる種若しくは亜種、例えば別のウイルスを起源とするか、或いは細胞起源の異種エンベロープを有するレンチウイルスであるか、又は別のウイルスを起源とするか若しくは細胞起源の別の細胞膜タンパク質によってエンベロープが置き換えられているレンチウイルスである。
【0072】
用語「VSVエンベロープ」は、水疱性口内炎ウイルス(VSV)と呼ばれるラブドウイルスからのエンベロープタンパク質を指す。多くの場合、このタンパク質は、VSV-Gタンパク質とも称され、ここで、「G」は、糖タンパク質を意味する。ラブドウイルスのエンベロープタンパク質は、グリコシル化されている唯一のラブドウイルスタンパク質である。
【0073】
「サイズ排除クロマトグラフィー」(SEC)は、「ゲルろ過クロマトグラフィー」としても知られ、ゲルを通したろ過により、分子をそのサイズに基づいて分離するクロマトグラフィー法を指す。
【0074】
用語「分画」又は「分画すること」は、SECゲルマトリックス内での様々な分子量の分子の分離を指す。この分離方法では、目的の分子がゲルの分画範囲内になければならない。用語「画分」は、SECゲルマトリックスから溶出した分子のピークを指す。
【0075】
用語「流量」は、単位時間当たりでSECカラムの所与の断面積を通過する流体の容積を指す。一般には、中程度の流量が最も高い分解能を提供する。流量は、使用する媒体の種類に特異的である。中程度の流量では、分子が固定相の全表面積にわたって十分に接触する時間があるため、小さい分子量種が細孔に入り込むことが可能であり、結果として異なる分子量種の分配が向上する。流量が遅過ぎると、それがカラム中を移動するにつれてピーク又はバンドが拡散し過ぎることになるため、分解能が低下することになる。
【0076】
「多角度光散乱法」(MALS)は、試料によって複数の角度に散乱した光を測定するための技法を指す。この技法は、溶液中の分子がどの程度光を散乱させるかを検出することにより、その絶対モル質量及び平均サイズを決定するのに有用である。「多角度」という用語は、例えば、特定の選択された角度を含むある範囲にわたって動く単一の検出器又は特定の角度位置に固定された検出器のアレイによって測定されるとおりの、異なる個別の角度での散乱光の検出を指す。MALS測定値は、概して、散乱強度又は散乱放射照度として表される。
【0077】
「屈折率増分」又は「dn/dc」は、ウイルス粒子、カプシド又はベクターゲノムに伴う屈折率の変化を示す定数である。屈折率増分をスネルの法則に用いると、屈折率(RI)から濃度が測定される。例えば、タンパク質のdn/dcは、0.185であり、DNAのdn/dcは、0.170である。屈折率増分は、AUCによって決定することができる。
【0078】
「吸光係数」、「モル吸光係数」又は「ε」は、化学種又は物質が特定の波長の光をどの程度強く吸収するかの尺度である。吸光係数をランベルト・ベールの法則に用いると、ある波長(例えば、280nm)の吸光度から濃度が測定される。例えば、AAV5カプシドの吸光係数は、1.79であり、例示的ベクターゲノムの吸光係数は、17.0である。
【0079】
空のウイルス粒子は、「空のカプシド」又は「軽いカプシド」とも称され、ウイルスゲノムDNAを少量のみ含有するか又は全く含有しないウイルス粒子を指す。典型的には、AAV又はLVベクター作製時に形成される空のカプシドである。これらの空のウイルス粒子は、クロマトグラフィー精製時にゲノム含有ベクター粒子と共精製され得、空のカプシドが過剰にあると、吸光度によるベクターゲノム濃度の単純な決定が交絡する。
【0080】
カプシド粒子(Cp)力価は、1ミリリットル当たりのウイルス粒子の数を指す。
【0081】
ベクターゲノム(Vg)力価は、1ミリリットル当たりのウイルスゲノムの数を指す。この力価は、UV260/UV280におけるウイルス粒子吸光度の比によって決定され得る。高度に精製したAAV調製物の吸光度(A260)は、ベクターDNAの分子量及びカプシドタンパク質の量に依存する。
【0082】
「回転半径(Rg)」は、「二乗平均平方根半径」としても知られ、MALSによって測定したときの溶液中のウイルス粒子の絶対モル質量測定値を指す。この測定値は、ウイルス粒子における分子のコアから各質量要素までの質量加重平均距離によって決定される。Rgは、動的光散乱分析によって決定することができる。
【0083】
「流体力学半径(Rh)」は、観測下にあるウイルス粒子と同じ速度で拡散する均等な剛体球の半径である。Rhは、MALS検出器で動的光散乱法によって測定される。ウイルス粒子の溶液は、「剛体球」として存在しないため、決定されるRhは、溶液中のウイルス粒子がとる見かけのサイズを反映する。Rhは、動的光散乱分析によって決定することができる。
【0084】
ウイルス粒子のキャラクタリゼーション方法
本開示は、SEC及びSEC-MALS技法を利用した組み合わせ方法を提供する。これらの方法は、AAV及びLV粒子の複数の属性を定量化するロバストで直接的な手法を提供する。これらの方法は、カプシド及びカプシドに封入されたDNAの吸光度及び光散乱特性を利用して、溶液中のカプシド粒子(cp)及びカプシドに封入されたベクターゲノム(vg)の総含有率を推測する。更に、これらの方法は、ウイルス粒子及びカプシドに封入されたベクターゲノムの平均分子質量、ウイルス粒子のサイズ分布及び凝集プロファイル、外因性DNAの量、カプシドの完全性並びに精製AAV又はLV調製物中の空のウイルス粒子のフルのウイルス粒子に対する比を決定する。現在、同じ情報量の生成に複数の技法が用いられているが、正確さ及び精密さが様々である。本開示の方法は、カプシド粒子及びカプシドに封入されたベクターゲノムの内部特性を利用するものであり、それは、決定的に重要な情報を提供し、且つAAV又はLV溶液の多くの物理的特徴を1回のランで、高精度に、試料の操作を最小限に抑えて定量化する。これらの方法を通して生成されたデータを直交技法と比較したところ、結果は、SEC-MALSアッセイによってAAV又はLVの様々な質的属性を迅速に且つ高精度で決定可能であることを実証している。新規適用を伴うこの十分に確立された方法は、AAV遺伝子療法の分野における製品開発及びプロセス分析の強力なツールである。
【0085】
現在、同じ情報量の生成に複数の技法が用いられているが、正確さ及び精密さが様々である。本開示の方法は、ウイルス粒子及びカプシドに封入されたベクターゲノムの内部特性を利用するものであり、それは、決定的に重要な情報を提供し、且つAAV又はLV溶液の多くの物理的特徴を1回のランで、高精度に、試料の操作を最小限に抑えて定量化する。
【0086】
ウイルスベクターの中間産物及び最終産物の両方の包括的な生物物理学的キャラクタリゼーションは、生物医学的適用に向けたその合理的設計及び開発において極めて重要である。更に、生物物理学的ツールは、ウイルスベクター構造-機能関係の解明に用いることができる。結果的に、本研究におけるLV試料を用いた初期の取り組みでは、LVキャラクタリゼーション方法の開発に焦点を置き、ここで、方法-設計原理の中心は、生物物理学的ツールを使用して、LV粒子の不均一性、サイズ及び力価を含めたパラメータをリアルタイムで定性的及び定量的に測定することにあった。
【0087】
現在、SECは、ゲルろ過クロマトグラフィーとしても知られ、産業部門の主力として、生物学的治療薬を最小限のコスト及び労力で迅速に再現性よく評価するために広く用いられている。SECは、試料中の生物学的分子の不均一性、分布及び凝集に関する情報を提供する強力な技法である。SECは、溶液中の分子を溶液中でそのサイズ又は重量別に分離し、大きい種ほど、小さい種と比べてカラムから速く溶出する。
【0088】
一般に、SECゲルは、特定のサイズ分布の細孔を含む球状のビーズからなる。種々のサイズの分子がマトリックス内の細孔に取り込まれるか又はそれから排除されると、分離が起こる。小さい分子は、細孔内に拡散し、そのサイズに応じてカラムを通したその流れが遅くなる一方、大きい分子は、細孔に入り込まず、カラムの空隙容量に溶出される。結果的に、分子がカラムを通過するにつれて、分子は、そのサイズに基づいて分離され、分子量(MW)が減少する順に溶出される。
【0089】
動作条件及びゲル選択は、適用及び所望の分解能に依存する。SECによって行われる分離でよく用いられる2つの種類は、分画及び脱塩(又は緩衝液交換)である。分離の分解能は、粒径、細孔径、流量、カラム長さ及び直径並びに試料容積に依存する。一般に、粒径が小さいほど、分解能が高くなる。細孔径が媒体の排除限界及び分画範囲を制御する。分解能は、カラム長さとともに増加し、カラム直径が増加すると、カラム容積又は総容積が大きくなるため、カラムの能力が増加する。次に、カラム溶出液がUV検出器により、この場合には溶液中のタンパク質が吸収する光の波長である280nmで検出される。このツールは、ウイルス試料の評価において多くの利点を提供するが、重要な難点は、それが提供するデータの定性対定量的性質である。しかしながら、これは、SECを定量的生物物理学的ツールと組み合わせることにより増強され得る。
【0090】
カラムの充填は、分解能にとって決定的に重要であり;過充填のカラムでは、ビーズの細孔がつぶれるため、分解能が下がり得る。充填不足のカラムでは、細孔の外側の混合容積が増加するため、ピークの幅が広がり、分解能が低くなる。カラムの最上部に排除容積があると、試料がカラムベッドに入る前に拡散するため、「バンドの広がり」が起こり、即ち幅が広いピークとなり、分解能が大きく低下し得る。カラムの最上部にある排除容積は、次に、分子がカラムを通して移動するにつれて分解能の損失が増大するため、場合により最も重要な考慮事項である。
【0091】
本開示の方法において使用し得る例示的カラムとしては、TSKgel G5000PWXL(TOSOH Bioscience)、Superdex 200 10/300 GL、Sepax SEC 1000カラム(Sepax technologies)、Superdex 200(GE Lifescience)又はSuperdex XK26/60(GE Healthscience)qEVサイズ排除カラム(Izon Scientific)が挙げられる。AAV又はLTの分離に選択されるカラムは、100キロダルトン(kDa)~10メガダルトン(MDa)範囲又は10~40nmの流体力学的サイズのタンパク質を分離することが可能である。
【0092】
SECでのAAV又はLT粒子の溶出プロファイルを分析すると、約UV260:UV280での1番目及び2番目のピークが外因性DNAであり、3番目のピークがウイルス粒子の二量体に相当し、4番目のピークが単量体ウイルス粒子に相当し、5番目のピークが低分子ヌクレオチド及び緩衝液成分に相当することが示される。SECでは、AAV及びLVベクター試料の定性的分析が可能であるが、遺伝子療法ベクターを定量的に評価できない点は、この方法の実質的な欠陥である。これらの定量的分析測定は、総ウイルス粒子数及びサイズを含め、ウイルスベクターの生物物理学的パラメータを有効に理解するために重要である。従って、AAV又はLV生物物理学的キャラクタリゼーション方法の開発では、利用可能なデータの範囲を広げる手段としてSECをMALSと併用することについて評価した。
【0093】
本研究では、SECカラムから溶出する生物学的分子を直接定量化するためのSECのMALSとの併用である。溶液中の分子によって散乱した光を複数の角度で測定するMALSは、散乱光の強度を用いて、光を散乱させる分子の分子量、サイズ及び数を引き出す。光散乱の原理上、MALSピークの強度は、光を散乱させる分子の重量の平方と等しいことが記述される。
【0094】
多角度静的光散乱法と併せたサイズ排除クロマトグラフィーは、本明細書では「SEC-MALS」と称される。SECは、分子を流体力学的容積に基づいて分離するが、正確な質量の決定には、参照標準の組との類似性に依存する。MALSは、散乱光の強度及び角度依存を用いて溶液中の分子の絶対モル質量及びサイズ(二乗平均平方根半径、rg)を測定する。MALSシステムの角度の数は、2個の角度~最大で20個の角度で様々であり得るが、ここで、散乱は、各角度で同時に検出される。いずれの光散乱検出器(単一角度又は多角度)も分子量を測定することができるが、散乱角の関数として光散乱データを入手する主な利点は、Rg又は二乗平均平方根(RMS)半径を計算して分子のサイズを求めることができる点である。SEC-MALS実験でSEC及びMALSを組み合わせると、いずれか一方の方法単独と比べてより正確な質量測定が可能となる。動的光散乱法(DLS)検出器とも称されるインライン準弾性光散乱法(QELS)では、流体力学半径の測定が可能である。
【0095】
LV及びAAV粒子は、サイズが大きく、理論的には多量の光を散乱させることが可能であるため、MALSは、LV及びAAV粒子分析において魅力的なツールとなる。MALSの別の利点は、それが絶対的な方法として検量線の作成を必要としないことである。Steppert et al.,(J Chromatogr A.2017;1487:89-99)によって以前に概説された、ウイルス様粒子をキャラクタリゼーションする方法を出発点として用いて、LV粒子を生物物理学的に分析するSEC-MALS方法を開発した。これを本明細書で開示する。注目すべきことに、本開示の方法は、AAV又はLV粒子の定性的及び定量的評価を可能にしたのみならず、LV粒子力価を迅速に推定する新規の再現性のある方法を提供した。
【0096】
本開示の方法のいずれにおいても、SEC-MALSは、AAV又はLVの分子量の決定に少なくとも2角度、少なくとも3角度、少なくとも4角度、少なくとも5角度、少なくとも6角度、少なくとも7角度、少なくとも8角度、少なくとも9角度、少なくとも10角度、少なくとも11角度、少なくとも12角度、少なくとも13角度、少なくとも14角度、少なくとも15角度、少なくとも16角度、少なくとも17角度、少なくとも18角度、少なくとも19角度、少なくとも20角度を用いて実施される。
【0097】
本明細書に記載される方法のいずれにおいても、SEC-MALSは、約0.1ml/ml~1.5ml/分の範囲の流量、又は約0.3ml/分~約1.0ml/分の範囲の流量、又は0.3ml/分~約0.5ml/分の範囲の流量、又は0.5ml/分~約1.0ml/分の範囲の流量で実施される。例えば、SEC-MALSは、約0.1ml/分、約0.2ml/分、約0.3ml/分、約0.4ml/分、約0.5ml/分、約0.6ml/分、約0.7ml/分、約0.8ml/分、約0.9ml/分、約1.0ml/分、約1.1ml/分、約1.2ml/分、約1.3ml/分、約1.4ml/分、約1.5ml/分、約1.6ml/分、約1.7ml/分、約1.8ml/分、約1.9ml/分、約2.0ml/分の流量で実施される。
【0098】
組換えAAV粒子
本明細書で使用されるとき、用語「AAV」は、アデノ随伴ウイルスの一般的な略語である。アデノ随伴ウイルスは、一本鎖DNAパルボウイルスであり、共感染するヘルパーウイルスによって特定の機能が提供される細胞においてのみ成長する。現在、特徴付けられているAAVの血清型は、13種ある。AAVの一般的な情報及びレビューについては、例えば、Carter,1989,Handbook of Parvoviruses,Vol.1,pp.169-228;及びBerns,1990,Virology,pp.1743-1764,Raven Press,(New York)を参照することができる。しかしながら、様々な血清型が構造的にも機能的にも遺伝子レベルでさえ非常に近縁であることは、周知であるため、これらの同じ原理を更なるAAV血清型に適用可能であろうことは、十分に予想される(例えば、Parvoviruses and Human Disease,J.R.Pattison,ed.のBlacklowe,1988,pp.165-174;及びRose,Comprehensive Virology 3:1-61(1974)を参照されたい)。例えば、いずれのAAV血清型も、見かけ上、相同なrep遺伝子によって媒介される極めてよく類似した複製特性を呈し;及びいずれも、3つの関連するカプシドタンパク質を担持する。その近縁度は、ヘテロ二重鎖解析によって更に示唆され、この解析では、血清型間でのゲノムの長さに沿った広範なクロスハイブリダイゼーション;及び「逆方向末端反復配列」(ITR)に対応する、末端に存在する類似の自己アニーリングセグメントが明らかとなっている。感染パターンが類似していることも、各血清型の複製機能が同様の調節制御下にあることを示唆している。
【0099】
「rAAVビリオン」、又は「rAAVウイルス粒子」、又は「rAAVベクター粒子」、又は「AAVウイルス」は、少なくとも1つのカプシド又はCapタンパク質と、本明細書に記載されるとおりのカプシドに封入されたrAAVベクターゲノムとで構成されるウイルス粒子を指す。この粒子が異種ポリヌクレオチド(即ちトランス遺伝子など、野生型AAVゲノム以外の、哺乳類細胞に送達しようとするポリヌクレオチド)を含む場合、それは、典型的には、「rAAVベクター粒子」又は単に「rAAVベクター」と称される。従って、AAVベクター粒子の作製には、必然的にrAAVベクターの作製が含まれ、このように、ベクターは、rAAVベクター粒子内に含まれる。
【0100】
治療上有効なAAV粒子又は治療用AAVウイルスは、細胞に感染する能力を有し、感染した細胞は、目的のエレメント(例えば、ヌクレオチド配列、タンパク質等)を(例えば、転写及び/又は翻訳によって)発現することになる。この限りにおいて、治療上有効なAAV粒子は、種々の特性を有するカプシド又はベクターゲノム(vg)を有するAAV粒子を含み得る。例えば、治療上有効なAAV粒子は、種々の翻訳後修飾を含むカプシドを有し得る。他の例では、治療上有効なAAV粒子は、種々のサイズ/長さ、プラス鎖又はマイナス鎖配列、種々のフリップ(5’ITR)/フロップ(3’ITR)ITR構成(例えば、5’ITR/3’ITR、3’ITR/5’ITR、3’ITR/3’ITR、5’ITR/5’ITR等)、種々の数のITR(1つ、2つ、3つ等)又はトランケーションを含むvgを有し得る。例えば、AAV感染細胞では、5’末端トランケーション及び3’末端トランケーションを有する核酸間でオーバーラップのある相同組換えが起こり、大きいタンパク質をコードする「完全な」核酸が作成され、従って機能性の完全長遺伝子が再構成される。治療上有効なAAV粒子は、「重い」又は「フルの」カプシドとも称される。
【0101】
例として、治療用タンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むAAVビリオン、AAVウイルス粒子、AAVベクター粒子又はAAVウイルスを指す「治療用AAVウイルス」は、インビボでのタンパク質の補充又は補給に使用することができる。「治療用タンパク質」は、対応する内因性タンパク質の活性の損失又は低下を補充又は補償する生物学的活性を有するポリペプチドである。例えば、機能性フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)は、フェニルケトン尿症(PKU)の治療用タンパク質である。従って、例えば、PKUに罹患している対象の治療用医薬品に組換えAAV PAHウイルスを使用することができる。医薬品は、静脈内(IV)投与によって投与され得、医薬品の投与により、対象の血流中において、対象の神経伝達物質代謝産物又は神経伝達物質レベルを変化させるのに十分なPAHタンパク質の発現が生じる。所望により、医薬品は、AAV PAHウイルスの投与に付随する任意の肝毒性の予防及び/又は治療のための予防用及び/又は治療用コルチコステロイドも含み得る。予防用又は治療用コルチコステロイド治療を含む医薬品は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60mg/日又はそれを超えるコルチコステロイドを含み得る。予防用又は治療用コルチコステロイドを含む医薬品は、少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10週間又はそれを超える連続期間にわたって投与され得る。PKU療法は、所望により、チロシンサプリメントも含み得る。
【0102】
治療的に効果のないAAV粒子は、細胞に感染する能力がないか、又は治療的に効果のないAAV粒子に感染した細胞は、目的のエレメント(例えば、ヌクレオチド配列、タンパク質等)を(例えば、転写及び/又は翻訳によって)発現することができない。治療的に効果のないAAV粒子は、カプシドの単位用量当たりの有効性を低下させる一因となり得るものであり、重い/フルのカプシドが有効量となるように患者に導入する外来性タンパク質の量を増加させる必要が生じるため、免疫応答のリスクが増加し得る。治療的に効果のないAAV粒子は、種々の特性を有するカプシド又はvgを有するAAV粒子を含むことができ、「部分的にフルの」カプシド及び空のカプシド又は部分的にフルのカプシドと空のカプシドとの両方を含む「軽い」カプシドと称される。例えば、空のカプシドは、vgを有しないか、又は定量化不能なvg濃度を有する。空のカプシドも種々のカプシド特性を有し得る。いかなる特定の理論にも拘束されることはないが、重い/フルのカプシドは、部分的にフルのカプシド又は空のカプシドとその電荷及び/又は密度が異なる。
【0103】
AAV「rep」及び「cap」遺伝子は、それぞれ複製及びカプシド形成タンパク質をコードする遺伝子である。AAV rep及びcap遺伝子は、現在まで調査がなされた全てのAAV血清型に見出されており、本明細書及び引用文献に記載されている。野生型AAVでは、rep及びcap遺伝子は、概して、ウイルスゲノム中で互いに隣接して見られ(即ち、これらは、隣接又は重複する転写単位として一体に「カップルになっている」)、これらは、概して、AAV血清型間で保存されている。AAV rep及びcap遺伝子は、個別に且つまとめて「AAVパッケージング遺伝子」とも称される。AAV cap遺伝子は、rep及びアデノヘルパー機能の存在下でAAVベクターをパッケージングする能力及び標的細胞受容体に結合する能力を有するCapタンパク質をコードする。一部の実施形態において、AAV cap遺伝子は、特定のAAV血清型に由来するアミノ酸配列を有するカプシドタンパク質をコードする。
【0104】
AAVの作製に用いられるAAV配列は、任意のAAV血清型のゲノムに由来し得る。概して、AAV血清型は、アミノ酸及び核酸レベルで高い相同性のあるゲノム配列を有し、類似した遺伝機能の組を提供し、本質的に物理的及び機能的に均等なビリオンを産生し、且つ事実上同一の機構によって複製及び集合する。AAV血清型のゲノム配列及びゲノム類似性の考察について。(例えば、GenBank受託番号U89790;GenBank受託番号J01901;GenBank受託番号AF043303;GenBank受託番号AF085716;Chiorini et al.,J.Vir.(1997)vol.71,pp.6823-6833;Srivastava et al.,J.Vir.(1983)vol.45,pp.555-564;Chiorini et al.,J.Vir.(1999)vol.73,pp.1309-1319;Rutledge et al.,J.Vir.(1998)vol.72,pp.309-319;及びWu et al.,J.Vir.(2000)vol.74,pp.8635-8647を参照されたい)。
【0105】
既知のAAV血清型は、いずれもゲノム構成が極めてよく類似している。AAVのゲノムは、約5,000ヌクレオチド(nt)長未満の線状の一本鎖DNA分子である。非構造Repタンパク質及び構造(VP)タンパク質のユニークなコードヌクレオチド配列に逆方向末端反復(ITR)が隣接する。VPタンパク質がカプシドを形成する。末端145ntは、自己相補的であり、T字型ヘアピンを形成するエネルギー的に安定した分子内二重鎖が形成され得るように構成される。これらのヘアピン構造は、ウイルスDNA複製の起点として機能し、細胞性DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとしての役割を果たす。Rep遺伝子は、Repタンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40をコードする。Rep78及びRep68は、p5プロモーターから転写され、Rep 52及びRep40は、p19プロモーターから転写される。cap遺伝子は、VPタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする。cap遺伝子は、p40プロモーターから転写される。開示されるベクターに用いられるITRは、関連するcap遺伝子と同じ血清型に対応し得るか又は異なり得る。特に好ましい実施形態において、開示されるベクターに用いられるITRは、AAV2血清型に対応し、cap遺伝子は、AAV5血清型に対応する。
【0106】
一部の実施形態において、AAVカプシドタンパク質をコードする核酸配列は、Sf9又はHEK細胞など、特定の細胞型における発現のため、発現制御配列に作動可能に連結される。本明細書では、昆虫宿主細胞又は哺乳類宿主細胞で外来性遺伝子を発現させるための当業者に公知の技法を用いることができる。分子操作の方法論及び昆虫細胞におけるポリペプチドの発現については、例えば、Summers and Smith(1986)A Manual of Methods for Baculovirus Vectors and Insect Culture Procedures,Texas Agricultural Experimental Station Bull.No.7555,College Station,Tex.;Luckow(1991)In Prokop et al.,Cloning and Expression of Heterologous Genes in Insect Cells with Baculovirus Vectors’ Recombinant DNA Technology and Applications,97-152;King,L.A.and R.D.Possee(1992)The baculovirus expression system,Chapman and Hall,United Kingdom;O’Reilly,D.R.,L.K.Miller,V.A.Luckow(1992)Baculovirus Expression Vectors:A Laboratory Manual,New York;W.H.Freeman and Richardson,C.D.(1995)Baculovirus Expression Protocols,Methods in Molecular Biology,volume 39;米国特許第4,745,051号明細書;米国特許出願公開第2003148506号明細書;及び国際公開第03/074714号パンフレット(これらの全ては、全体として参照により援用される)に記載されている。AAVカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写に特に好適なプロモーターは、例えば、多角体プロモーターである。しかしながら、昆虫細胞で活性のある他のプロモーターが当技術分野において公知であり、例えばp10、p35又はIE-1プロモーター及び上記の参考文献に記載される更なるプロモーターも企図される。
【0107】
異種タンパク質を発現させるための昆虫細胞の使用について、ベクター、例えば昆虫細胞適合性ベクターなどの核酸をかかる細胞に導入する方法及びかかる細胞を培養下に維持する方法と同様に十分に裏付けられている(例えば、METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,ed.Richard,Humana Press,N J(1995);O’Reilly et al.,BACULOVIRUS EXPRESSION VECTORS,A LABORATORY MANUAL,Oxford Univ.Press(1994);Samulski et al.,J.Vir.(1989)vol.63,pp.3822-3828;Kajigaya et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA(1991)vol.88,pp.4646-4650;Ruffing et al.,J.Vir.(1992)vol.66,pp.6922-6930;Kirnbauer et al.,Vir.(1996)vol.219,pp.37-44;Zhao et al.,Vir.(2000)vol.272,pp.382-393;及び米国特許第6,204,059号明細書を参照されたい)。一部の実施形態では、昆虫細胞においてAAVをコードする核酸コンストラクトは、昆虫細胞適合性ベクターである。「昆虫細胞適合性ベクター」又は「ベクター」は、本明細書で使用されるとき、昆虫又は昆虫細胞の増殖性形質転換又はトランスフェクションの能力を有する核酸分子を指す。例示的な生物学的ベクターには、プラスミド、線状核酸分子及び組換えウイルスが含まれる。それが昆虫細胞適合性である限り、任意のベクターを用いることができる。ベクターは、昆虫細胞ゲノムに組み込まれ得るが、昆虫細胞にベクターが永久的に存在する必要はなく、一過性のエピソームベクターも包含される。ベクターは、公知の任意の手段、例えば細胞の化学的処理、電気穿孔又は感染によって導入することができる。一部の実施形態において、ベクターは、バキュロウイルス、ウイルスベクター又はプラスミドである。より好ましい実施形態において、ベクターは、バキュロウイルスであり、即ち、コンストラクトは、バキュロウイルスベクターである。バキュロウイルスベクター及びその使用方法については、昆虫細胞の分子操作に関する上記の引用文献に記載されている。
【0108】
バキュロウイルスは、節足動物のエンベロープ型DNAウイルスであり、その2つのメンバーは、細胞培養下での組換えタンパク質の産生について周知の発現ベクターである。バキュロウイルスは、環状二本鎖ゲノム(80~200kbp)を有し、特定の細胞への大型ゲノム内容物の送達が可能となるように操作することができる。ベクターとして使用されるウイルスは、概して、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)多カプシド核多角体病ウイルス(AcMNPV)又はカイコガ(Bombyx mori)(Bm)NPVである)。
【0109】
バキュロウイルスは、組換えタンパク質の発現のための昆虫細胞を感染させるためによく使用される。詳細には、昆虫における異種遺伝子の発現は、例えば、米国特許第4,745,051号明細書;Friesen et al(1986);欧州特許第127,839号明細書;欧州特許第155,476号明細書;Vlak et al(1988);Miller et al(1988);Carbonell et al(1988);Maeda et al(1985);Lebacq-Verheyden et al(1988);Smith et al(1985);Miyajima et al(1987);及びMartin et al(1988)に記載されるとおり達成することができる。タンパク質産生に使用することのできる多くのバキュロウイルス株及び変異体並びに対応する許容性昆虫宿主細胞は、Luckow et al(1988),Miller et al(1986);Maeda et al(1985)及びMcKenna(1989)に記載されている。
【0110】
組換えAAVの作製方法
本開示は、昆虫又は哺乳類細胞において組換えAAVを作製するための材料及び方法を提供する。一部の実施形態において、ウイルスコンストラクトは、プロモーターと、1つ以上の目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの挿入を可能にする、プロモーターの下流にある制限部位とを更に含み、ここで、プロモーター及び制限部位は、5’AAV ITRの下流及び3’AAV ITRの上流に位置する。一部の実施形態において、ウイルスコンストラクトは、制限部位の下流及び3’AAV ITRの上流に転写後調節エレメントを更に含む。一部の実施形態において、ウイルスコンストラクトは、制限部位に挿入され、且つプロモーターと作動可能に連結されたポリヌクレオチドを更に含み、このポリヌクレオチドは、目的のタンパク質のコード領域を含む。当業者が理解するであろうとおり、本方法では、組換えAAVを作製するためのウイルスコンストラクトとして、本願に開示されるAAVベクターの任意の1つを使用することができる。
【0111】
一部の実施形態において、ヘルパー機能は、アデノウイルス又はバキュロウイルスヘルパー遺伝子を含む1つ以上のヘルパープラスミド又はヘルパーウイルスによって提供される。アデノウイルス又はバキュロウイルスヘルパー遺伝子の非限定的な例としては、限定はされないが、E1A、E1B、E2A、E4及びVAが挙げられ、これらは、AAVパッケージングのためのヘルパー機能を提供することができる。
【0112】
AAVのヘルパーウイルスは、当技術分野において公知であり、例えばアデノウイルス科(Adenoviridae)及びヘルペスウイルス科(Herpesviridae)のウイルスが挙げられる。AAVのヘルパーウイルスの例としては、限定はされないが、米国特許出願公開第20110201088号明細書(この開示は、参照により本明細書に援用される)に記載されるSAdV-13ヘルパーウイルス及びSAdV-13様ヘルパーウイルス、ヘルパーベクターpHELP(Applied Viromics)が挙げられる。当業者は、AAVに十分なヘルパー機能を提供することができるAAVの任意のヘルパーウイルス又はヘルパープラスミドを本明細書で使用し得ることを理解するであろう。
【0113】
一部の実施形態において、AAV cap遺伝子は、プラスミドに存在する。このプラスミドは、cap遺伝子と同じ血清型に対応しても又はしなくてもよいAAV rep遺伝子を更に含み得る。本明細書では、組換えAAVを作製するために、任意のAAV血清型(限定はされないが、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13及びこれらの任意の変異体を含む)からのcap遺伝子及び/又はrep遺伝子を使用することができる。一部の実施形態において、AAV cap遺伝子は、血清型1、血清型2、血清型4、血清型5、血清型6、血清型7、血清型8、血清型9、血清型10、血清型11、血清型12、血清型13又はこれらの変異体のカプシドをコードする。
【0114】
一部の実施形態において、昆虫又は哺乳類細胞に、ヘルパープラスミド又はヘルパーウイルス、ウイルスコンストラクト及びAAV cap遺伝子をコードするプラスミドをトランスフェクトすることができ;及びコトランスフェクション後の様々な時点で組換えAAVウイルスを回収することができる。例えば、組換えAAVウイルスは、コトランスフェクション後約12時間、約24時間、約36時間、約48時間、約72時間、約96時間、約120時間又はこれらの2つの時点のいずれかの間の時点で回収することができる。
【0115】
組換えAAVは、感染性組換えAAVの作製に好適である、当技術分野において公知の任意の従来方法を用いて作製することもできる。一部の例では、組換えAAVは、AAV粒子作製に必要な成分の一部を安定に発現する昆虫又は哺乳類細胞を用いることによって作製され得る。例えば、AAV rep及びcap遺伝子並びにネオマイシン耐性遺伝子などの選択可能なマーカーを含むプラスミド(又は複数のプラスミド)を細胞のゲノムに組み込み得る。次に、昆虫又は哺乳類細胞をヘルパーウイルス(例えば、ヘルパー機能を提供するアデノウイルス又はバキュロウイルス)並びに5’及び3’AAV ITR(及び必要に応じて異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列)を含むウイルスベクターと共感染することができる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、組換えAAVの大規模作製に好適であることである。別の非限定的な例として、パッケージング細胞へのrep及びcap遺伝子の導入には、プラスミドよりむしろ、アデノウイルス又はバキュロウイルスが使用され得る。更に別の非限定的な例として、5’及び3’AAV LTRを含有するウイルスベクター並びにrep-cap遺伝子が両方とも産生株細胞のDNAに安定に組み込まれ得、ヘルパー機能が野生型アデノウイルスによって提供されることにより、組換えAAVが作製され得る。
【0116】
AAV作製に使用される細胞型
開示されるAAVベクターを含むウイルス粒子は、AAV又は生物学的産物の作製が可能であり、且つ培養下に維持することのできる任意の無脊椎動物細胞型を使用して作製することができる。例えば、使用される昆虫細胞株は、SF9、SF21、SF900+などのスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、ショウジョウバエ細胞株、カ細胞株、例えばヒトスジシマカ(Aedes albopictus)由来細胞株、家畜カイコ細胞株、例えばカイコガ(Bombyx mori)細胞株、High 5細胞などのイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)細胞株又はアスカラファ・オドラタ(Ascalapha odorata)細胞株などの鱗翅目(Lepidoptera)細胞株からのものであり得る。好ましい昆虫細胞は、High 5、Sf9、Se301、SeIZD2109、SeUCR1、Sf9、Sf900+、Sf21、BTI-TN-5B1-4、MG-1、Tn368、HzAm1、BM-N、Ha2302、Hz2E5及びAo38を含め、バキュロウイルスに感染し易い昆虫種からの細胞である。
【0117】
バキュロウイルスは、節足動物のエンベロープ型DNAウイルスであり、その2つのメンバーは、細胞培養下での組換えタンパク質の産生について周知の発現ベクターである。バキュロウイルスは、環状二本鎖ゲノム(80~200kbp)を有し、特定の細胞への大型ゲノム内容物の送達が可能となるように操作することができる。ベクターとして使用されるウイルスは、概して、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)多カプシド核多角体病ウイルス(AcMNPV)又はカイコガ(Bombyx mori)(Bm-NPV)である(Kato et al.,2010)。
【0118】
バキュロウイルスは、組換えタンパク質の発現のための昆虫細胞を感染させるためによく使用される。詳細には、昆虫における異種遺伝子の発現は、例えば、米国特許第4,745,051号明細書;Friesen et al(1986);欧州特許第127,839号明細書;欧州特許第155,476号明細書;Vlak et al(1988);Miller et al(1988);Carbonell et al(1988);Maeda et al(1985);Lebacq-Verheyden et al(1988);Smith et al(1985);Miyajima et al(1987);及びMartin et al(1988)に記載されるとおり達成することができる。タンパク質産生に使用することのできる多くのバキュロウイルス株及び変異体並びに対応する許容性昆虫宿主細胞は、Luckow et al(1988)、Miller et al(1986);Maeda et al(1985)及びMcKenna(1989)に記載されている。
【0119】
別の態様において、本開示の方法は、AAVの複製又は生物学的産物の産生が可能であり、且つ培養下に維持することのできる任意の哺乳類細胞型で実施する。使用される好ましい哺乳類細胞は、HEK293、HeLa、CHO、NSO、SP2/0、PER.C6、Vero、RD、BHK、HT 1080、A549、Cos-7、ARPE-19及びMRC-5細胞であり得る。
【0120】
組換えレンチウイルス粒子
本開示は、ヒトCD34+細胞などの造血幹細胞の形質導入を可能にする、ウイルスエンベロープタンパク質と組み合わせたレンチウイルス遺伝子療法ベクターを含む組換えウイルスを提供する。一実施形態において、本開示は、レラブドウイルスエンベロープタンパク質の結合ドメインを含む異種エンベロープにパッケージングされたレンチウイルス遺伝子ベクターで構成される組換えレンチウイルス又はそれに由来するアミノ酸配列を提供する。開示されるレンチウイルスベクターは、最低でも、レンチウイルス5’長鎖末端反復(LTR)配列、宿主細胞への送達用分子及びレンチウイルス3’LTR配列の機能性の一部分である。所望により、ベクターは、Ψ(プサイ)カプシド形成配列、Rev応答エレメント(RRE)配列又は均等な若しくは同様の機能を提供する配列を更に含み得る。宿主細胞への送達のためベクターで運ばれる異種分子は、限定なしに、ポリペプチド、タンパク質、酵素、炭水化物、化学的部分又は核酸分子であって、オリゴヌクレオチド、RNA、DNA及び/又はRNA/DNAハイブリッドを含み得る核酸分子を含む任意の所望の物質であり得る。一実施形態において、異種分子は、例えば、突然変異遺伝子の修正のために、ヒト染色体に特定の遺伝子修飾を導入する核酸分子である。別の望ましい実施形態において、異種分子は、所望のタンパク質、ペプチド、ポリペプチド、酵素又は別の産物をコードする核酸配列と、コードされる産物の宿主細胞での転写及び/又は翻訳を指示し、且つコードされる産物の宿主細胞での発現を可能にする調節配列とを含むトランス遺伝子を含む。好適な産物及び調節配列は、以下で更に詳細に考察する。しかしながら、ベクターで運ばれ、開示されるウイルスによって送達される異種分子の選択は、本開示の限定ではない。
【0121】
レンチウイルスベクター及び組換えウイルスの構築のため、本明細書に記載されるレンチウイルスエレメントを選択する際、任意の好適なレンチウイルス及び任意の好適なレンチウイルス血清型又は株からの配列を容易に選択し得る。好適なレンチウイルスとしては、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ビスナウイルス及びネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)が挙げられる。本明細書に提供される例では、HIVに由来するベクターの使用を説明している。しかしながら、FIV及び非ヒト起源の他のレンチウイルスも特に望ましいものであり得る。開示されるコンストラクトに使用される配列は、学術的な、非営利の(例えば、American Type Culture Collection、Manassas、Virginia)又は商業的なレンチウイルス供給源に由来し得る。あるいは、配列は、公的にアクセス可能な電子データベースに掲載されている配列を含め、公開されているウイルス配列を参照して、遺伝子工学技術を用いて組換えで作製されるか又は従来技術を用いて合成してもよい(例えば、G.Barony and R.B.Merrifield,THE PEPTIDES:ANALYSIS,SYNTHESIS&BIOLOGY,Academic Press,pp.3-285(1980))。
【0122】
レンチウイルスベクターは、レンチウイルスベクター中に存在するゲノムの逆転写を可能にし、cDNAを生成し、且つRNA配列の発現を可能にするのに十分な量のレンチウイルス長鎖末端反復(LTR)配列を含む。好適には、これらの配列は、ベクターの5’末端の最も端に位置する5’LTR配列及びベクターの3’末端の最も端に位置する3’LTR配列の両方を含む。これらのLTR配列は、選択のレンチウイルス又は交差反応性レンチウイルスにとって天然のインタクトなLTRであり得るか、又はより望ましくは修飾されたLTRであり得る。
【0123】
レンチウイルスLTRに対する様々な修飾が記載されている。1つの特に望ましい修飾は、H.Miyoshi et al,J.Virol.,72:8150-8157(Oct.1998)にHIVについて記載されるなどの自己不活性化LTRである。これらのHIV LTRでは、5’LTRのU3領域が強力な異種プロモーター(例えば、CMV)に置き換えられ、且つ3’LTRのU3領域に133bpの欠失が作られる。従って、逆転写すると、3’LTRの欠失が5’LTRに移り、LTRの転写不活性化が起こる。HIVの完全ヌクレオチド配列は、公知であり、L.Ratner et al.Nature.313(6000):277-284(1985)を参照されたい。更に別の好適な修飾は、U3領域の完全欠失を伴うものであり、従って、5’LTRは、強力な異種プロモーター、R領域及びU5領域のみを含み;及び3’LTRは、ポリAを含む領域であるR領域のみを含むことになる。更に別の実施形態では、5’LTRのU3及びU5の両方の領域の欠失が行われ、3’LTRがR領域のみを含む。これら及び他の好適な修飾は、HIV及び/又は選択された別のレンチウイルスの同等の領域に当業者によって容易に操作され得る。
【0124】
所望により、レンチウイルスベクターは、5’レンチウイルスLTR配列の下流にΨ(プサイ)パッケージングシグナル配列を含み得る。所望により、LTR配列とΨ配列の直ちに上流との間に1つ以上のスプライス供与部位が位置し得る。本開示によれば、gag配列とのオーバーラップを除去し、且つパッケージングを向上させるため、Ψ配列が修飾され得る。例えば、gagコード配列の上流に終止コドンが挿入され得る。Ψ配列に対する他の好適な修飾は、当業者によって操作され得る。かかる修飾は、本開示の限定ではない。
【0125】
1つの好適な実施形態において、レンチウイルスベクターは、LTR及びΨ配列の下流に位置するレンチウイルスRev応答エレメント(RRE)配列を含む。好適には、RRE配列は、最低でも約275~約300ntの天然レンチウイルスRRE配列及びより好ましくは少なくとも約400~約450ntのRRE配列を含む。所望により、RRE配列は、gag/polの発現及び細胞核へのその輸送に役立つ別の好適なエレメントによって置換され得る。例えば、他の好適な配列としては、メーソン・ファイザーウイルスのCTエレメント又はウッドチャック肝炎ウイルス調節後エレメント(WPRE)を挙げることができる。あるいは、gag及びgag/polポリペプチドのアミノ酸配列を変化させることなく核局在化が修飾されるように、gag及びgag/polをコードする配列を変化させ得る。好適な方法が当業者に容易に明らかであろう。
【0126】
細胞及び宿主において所望の遺伝子産物を得るために転写、翻訳及び/又は発現が必要なトランス遺伝子又は別の核酸配列の設計には、コードされる産物の発現を促進するため目的のコード配列に作動可能に連結される適切な配列が含まれ得る。「作動可能に連結」された配列には、目的の核酸配列と連続する発現制御配列と、目的の核酸配列をトランスで又は離れて制御する役割を果たす発現制御配列との両方が含まれる。
【0127】
発現制御配列には、適切な転写開始、終結、プロモーター及びエンハンサー配列;スプライシング及びポリアデニル化シグナルなどの効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を亢進させる配列(即ちKozakコンセンサス配列);タンパク質安定性を亢進させる配列;及び必要に応じてタンパク質分泌を亢進させる配列が含まれる。多くの発現制御配列 - 天然、構成的、誘導性及び/又は組織特異的 - が当技術分野において公知であり、所望の発現の種類に応じて遺伝子の発現をドライブするために利用され得る。真核細胞について、発現制御配列は、典型的には、プロモーター、エンハンサー、例えば免疫グロブリン遺伝子、SV40、サイトメガロウイルス等に由来するものなど、及びスプライス供与・受容部位を含み得るポリアデニル化配列を含む。ポリアデニル化(ポリA)配列は、概して、トランス遺伝子配列の後ろ、3’レンチウイルスLTR配列の前に挿入される。最も好適には、トランス遺伝子又は他の分子を担持するレンチウイルスベクターは、LTR配列を提供するレンチウイルス、例えばHIVのポリAを含む。しかしながら、開示されるコンストラクトに含めるために他のポリA供給源を容易に選択し得る。一実施形態において、ウシ成長ホルモンポリAが選択される。レンチウイルスベクターは、望ましくは、プロモーター/エンハンサー配列とトランス遺伝子との間に位置したイントロンも含み得る。1つの可能なイントロン配列は、SV-40にも由来し、SV-40 Tイントロン配列と称される。ベクターに使用し得る別のエレメントは、配列内リボソーム進入部位(IRES)である。IRES配列は、単一の遺伝子転写物から2つ以上のポリペプチドを産生するために使用される。IRES配列を使用すれば、2つ以上のポリペプチド鎖を含むタンパク質を産生し得る。これら及び他のよく使用されるベクターエレメントの選択は、従来どおりであり、多くのかかる配列が利用可能である(例えば、Sambrook et al.及びそこに引用される、例えば3.18~3.26及び16.17~16.27頁にある文献並びにAusubel et al.,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY.John Wiley&Sons,New York,1989を参照されたい)。
【0128】
一実施形態では、高度に構成的な発現が所望されることになる。有用な構成的プロモーターの例示としては、限定なしに、レトロウイルスのラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(所望によりRSVエンハンサーとともに)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(所望によりCMVエンハンサーとともに)(例えば、Boshart et al,Cell,41:521-530(1985)を参照されたい)、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター及びEFlαプロモーター(Invitrogen)が挙げられる。外因的に供給される化合物によって調節される誘導性プロモーターも有用であり、亜鉛誘導性ヒツジメタロチオネイン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーターシステム(国際公開第98/10088号パンフレット);エクジソン昆虫プロモーター(No et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.93:3346-3351(1996))、テトラサイクリン抑制性システム(Gossen et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:5547-5551(1992))、テトラサイクリン誘導性システム(Gossen et al,Science.268:1766-1769(1995)、Harvey et al,Curr.Opin.Chem.Biol.2:512-518(1998)も参照されたい)、RU486誘導性システム(Wang et al.Nat.Biotech.15:239-243(1997)及びWang et al,Gene Ther.4:432-441(1997))及びラパマイシン誘導性システム(Magari et al,J.Clin.Invest.100:2865-2872(1997))が挙げられる。これに関連して有用であり得る他の種類の誘導性プロモーターは、具体的な生理学的状態、例えば温度、急性期、細胞の特定の分化状態によって又は複製細胞においてのみ調節されるものである。
【0129】
別の実施形態では、トランス遺伝子のための天然プロモーターが使用されることになる。天然プロモーターは、トランス遺伝子の発現が天然の発現を模倣すべきことが所望されるときに好ましいものとなり得る。天然プロモーターは、トランス遺伝子の発現が時間的若しくは発生的に、又は組織特異的な方式において、又は特定の転写刺激に応答して調節される必要があるときに使用され得る。更なる実施形態において、エンハンサーエレメント、ポリアデニル化部位又はKozakコンセンサス配列など、他の天然発現制御エレメントも天然の発現を模倣するために使用され得る。トランス遺伝子の別の実施形態には、組織特異的プロモーターに作動可能に連結されたトランス遺伝子が含まれる。
【0130】
全ての発現制御配列が、可能な全てのトランス遺伝子を発現するように等しく良好に機能するとは限らない。しかしながら、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、これらの発現制御配列間で選択を行い得る。当業者により、本願によって提供される指針を用いて、好適なプロモーター/エンハンサー配列が選択され得る。かかる選択は、ルーチンの事項であり、分子又はコンストラクトの限定ではない。例えば、目的のコード配列に作動可能に連結され、トランス遺伝子、ベクター及び開示される組換えウイルスに挿入され得る1つ以上の発現制御配列を選択し得る。本明細書に教示されるか又は当技術分野において教示されるとおりのレンチウイルスベクターのパッケージング方法の1つに従った後、好適な細胞をインビトロ又はインビボで感染させ得る。細胞中のベクターのコピー数は、サザンブロッティング又は定量的PCRによってモニタされ得る。RNA発現レベルは、ノーザンブロッティング又は定量的RT-PCRによってモニタし得る。発現レベルは、ウエスタンブロッティング、免疫組織化学、ELISA、RIA又は遺伝子産物の生物学的活性試験によってモニタされ得る。従って、トランス遺伝子によってコードされる具体的な産物に特定の発現制御配列が好適であるかどうかを容易にアッセイし、最適な発現制御配列を選定し得る。あるいは、例えば炭水化物、ポリペプチド、ペプチド等、送達する分子の発現が不要である場合、発現制御配列がレンチウイルスベクター又は他の分子の一部を形成する必要はない。
【0131】
所望により、レンチウイルスベクターは、当技術分野において周知のものなど、他のレンチウイルスエレメントを含み得、その多くは、レンチウイルスパッケージング配列との関連で以下に記載される。しかしながら、注目すべきことに、レンチウイルスベクターは、レンチウイルスエンベロープタンパク質をアセンブルする能力を欠いている。かかるレンチウイルスベクターは、RREに対応するエンベロープ配列の一部分を含むが、他のエンベロープ配列を欠いているものであり得る。しかしながら、より望ましくは、複製能のあるウイルスを生じさせる組換えイベントが起こる可能性を実質的に排除するため、レンチウイルスベクターは、いずれの機能性レンチウイルスエンベロープタンパク質をコードする配列も欠いている。
【0132】
従って、開示されるレンチウイルスベクターは、最低でも、レンチウイルス5’長鎖末端反復(LTR)配列と、(所望により)Ψ(プサイ)カプシド形成配列と、宿主細胞への送達用分子と、レンチウイルス3’LTR配列の機能性の一部分とを含む。望ましくは、ベクターは、RRE配列又はその機能均等物を更に含む。好適には、レンチウイルスベクターは、ウイルスへのパッケージングのため、任意の好適な手段、例えばレンチウイルスベクターを含む「ネイキッド」DNA分子のトランスフェクション又は上記に記載した他のレンチウイルスエレメント及び調節エレメント並びにベクターに一般的に見られる任意の他のエレメントを含み得るベクターによって宿主細胞に送達される。「ベクター」とは、それに担持された配列又は分子を細胞に送達する能力を有する任意の好適な媒体であり得る。例えば、ベクターは、限定なしに、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルス等の中から容易に選択し得る。レンチウイルスを作製する本開示の方法における使用には、プラスミドが特に望ましい。選択されたベクターは、トランスフェクション、電気穿孔、リポソーム送達、膜融合技法、高速DNAコートペレット、ウイルス感染及びプロトプラスト融合を含め、任意の好適な方法によって送達され得る。本開示によれば、レンチウイルスベクターは、以下に記載される方法を用いて異種(即ち非レンチウイルス)エンベロープにパッケージングされて、組換えウイルスを形成する。
【0133】
LVエンベロープタンパク質
レンチウイルスベクターがパッケージングされるエンベロープは、好適には、レンチウイルスエンベロープタンパク質を含まず、少なくとも1つの異種エンベロープタンパク質の結合ドメインを含む。一実施形態において、エンベロープは、全体がラブドウイルス糖タンパク質に由来し得るか、又は第2のウイルスのエンベロープタンパク質、ポリペプチド若しくはペプチドとインフレームで融合した、結合ドメインを含むラブドウイルスエンベロープの断片(ラブドウイルスポリペプチド若しくはペプチド)を含み得る。代替形態では、エンベロープは、以下で考察するCD34+細胞形質導入決定基に由来する配列を含むウイルスエンベロープタンパク質を含み得る。別の実施形態では、エンベロープは、全体がアレナウイルス糖タンパク質又はその断片に由来し得る。
【0134】
エンベロープタンパク質又はそのポリペプチド若しくはペプチド(例えば、結合ドメイン)をコードする配列を提供するラブドウイルスは、ベシクロウイルス亜科の任意の好適な血清型、例えばVSV-G(インディアナ)、モレトン(Morreton)、マラバ(Maraba)、コカル(Cocal)、アラゴア(Alagoa)、カラジャス(Carajas)、VSV-G(アリゾナ)、イスファハン(Isfahan)、VSV-G(ニュージャージー)又はピリー(Piry)に由来し得る。エンベロープタンパク質をコードする配列は、ウイルス供給源への遺伝子工学技術の適用、化学合成技法、組換え産生又はこれらの組み合わせを含め、任意の好適な手段によって入手され得る。所望のウイルス配列の好適な供給源は、当技術分野において周知であり、種々の学術的な、非営利の、商業的な供給源及び電子データベース経由が挙げられる。配列を入手する方法は、本開示の限定ではない。望ましい一実施形態において、異種エンベロープ配列は、ヒトCD34+細胞の形質導入を媒介することができる全てのエンベロープタンパク質に見られるが、ヒトCD34+細胞の形質導入を媒介しないものに見られない31アミノ酸ヒトCD34+細胞形質導入決定基に由来する。
【0135】
従って、一実施形態において、エンベロープタンパク質は、インタクトなラブドウイルス糖タンパク質である。あるいは、31アミノ酸ヒトCD34+細胞形質導入決定基の範囲内に位置する、ラブドウイルスエンベロープ糖タンパク質の結合ドメインを最低でも含む、選択されたラブドウイルスの断片を利用することが望ましい場合もある。好適には、このラブドウイルスタンパク質断片は、第2の非レンチウイルスエンベロープタンパク質又はその断片に直接又は間接的にリンカーを介して融合される。この融合タンパク質は、得られるエンベロープタンパク質のパッケージング、収率及び/又は精製の向上に望ましいものであり得る。第2の非レンチウイルスエンベロープタンパク質又はその断片は、最低でも膜ドメインを含む。望ましい一実施形態では、31アミノ酸ヒトCD34+細胞形質導入決定基のトランケート型断片がVSV-Gエンベロープタンパク質に融合される。本開示にかかるなおも他の融合(キメラ)タンパク質は、当業者により作成され得る。
【0136】
別の実施形態において、エンベロープタンパク質は、インタクトなアレナウイルスエンベロープタンパク質又はアレナウイルスエンベロープ糖タンパク質の結合ドメインを最低でも含む、選択されたアレナウイルスエンベロープタンパク質の断片である。好適には、このアレナウイルスタンパク質断片は、第2の非レンチウイルスエンベロープタンパク質又はその断片に直接又は間接的にリンカーを介して融合される。この融合タンパク質は、得られるエンベロープタンパク質のパッケージング、収率及び/又は精製の向上に望ましいものであり得る。第2の非レンチウイルスエンベロープタンパク質又はその断片は、最低でも膜ドメインを含む。
【0137】
アレナウイルスエンベロープ糖タンパク質(GP)に対する防御中和抗体免疫は、最小限であり、即ち、感染によって生じる再感染に対する抗体媒介性防御は、たとえあったとしても最小限であることになる。この特徴により、アレナウイルスエンベロープタンパク質を含むベクターでは、繰り返し免疫することが可能になる。ヒト集団では、アレナウイルスに対する既存の免疫は、低いか又は無視できる程度である。加えて、アレナウイルスは、概して非細胞溶解性であり(細胞破壊性でない)、一定の条件下では、動物において疾患を誘発することなく長期抗原発現を維持し得る。
【0138】
アレナウイルスエンベロープタンパク質は、ラッサウイルス、ルナウイルス、ルヨウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、モバラウイルス、モペイアウイルス、イッピーウイルス、アマパリウイルス、フレクサルウイルス、グアナリトウイルス、フニンウイルス、ラチノウイルス、マチュポウイルス、オリベロスウイルス、パラナウイルス、ピチンデウイルス、ピリタルウイルス、サビアウイルス、タカリベウイルス、タミアミウイルス、ベアキャニオンウイルス、ホワイトウォーターアロヨウイルス、メリノウォークウイルス、メネクレ(Menekre)ウイルス、モロゴロウイルス、グバグルーブ(Gbagroube)ウイルス、コドコ(Kodoko)ウイルス、クサマウス属(Lemniscomys)ウイルス、コビトハツカネズミ(Mus minutoides)ウイルス、ランク(Lunk)ウイルス、ジアロ(Giaro)ウイルス及びウェンチョウ(Wenzhou)ウイルス、パタワ(Patawa)ウイルス、パンパウイルス、トントクリークウイルス、アルパワヨウイルス、カタリーナウイルス、スキナータンク(Skinner Tank)ウイルス、レアル・デ・カトルセウイルス、ビッグブラッシータンクウイルス、カタリーナウイルス及びオコソコアウトラ・デ・エスピノサウイルスからのものであり得る。
【0139】
組換えレンチウイルスの作製方法
組換えレンチウイルスは、複製欠損であり、従って、このウイルスは、必要な構成成分が単一の細胞に提供されている「プロデューサー細胞株」で作製される。本明細書で使用されるとき、用語「プロデューサー細胞株」は、パッケージング細胞株と、パッケージングシグナルを含むトランスファーベクターコンストラクトとを含む、組換えレトロウイルス粒子の産生能を有する細胞株を指す。感染性ウイルス粒子及びウイルスストック溶液の作製は、従来技術を用いて行われ得る。ウイルスストック溶液の調製方法は、当技術分野において公知であり、例えばY.Soneoka et al.(1995)Nucl.Acids Res.23:628-633及びN.R.Landau et al.(1992)J.Virol.66:5110-5113によって解説されている。感染性ウイルス粒子は、従来技術を用いてパッケージング細胞から回収され得る。例えば、感染粒子は、当技術分野において公知のとおり、細胞溶解又は細胞培養液の上清の回収によって回収することができる。所望により、回収されたウイルス粒子は、必要に応じて精製され得る。好適な精製技法は、当業者に周知である。
【0140】
プロデューサー細胞株の作成には、3つ又は4つの別個のプラスミドシステムが使用される。4プラスミドシステムは、3つのヘルパープラスミドと、1つのトランスファーベクタープラスミドとを含む。例えば、Gag-Pol発現カセットは、構造タンパク質及び酵素をコードする。別のカセットは、ベクターゲノムの核外移行に必要なアクセサリータンパク質であるRevをコードする。第3のカセットは、ベシクロウイルス又はアレナウイルスエンベロープタンパク質など、標的細胞へのレンチウイルス粒子の侵入を可能にする異種エンベロープタンパク質をコードする。トランスファーベクターカセットは、ベクターゲノムそれ自体をコードするものであり、粒子への取り込みのためのシグナルと、トランス遺伝子発現をドライブする内部プロモーターとを担持している。トランスファーベクターは、異種トランス遺伝子を担持し、標的細胞、例えばCD34+細胞に移入される唯一の遺伝子材料である。3プラスミドシステムは、gag-pol及びエンベロープ機能をコードする2つのヘルパープラスミドと、トランスファーベクターカセットとを含む。Merten et al.,Mol.Ther.Methods Clin.Dev.3:16017,2016を参照されたい。
【0141】
これらの複数の構成的発現カセットは、プロデューサー細胞に一過性又は安定にトランスフェクトされる。一実施形態において、必要な構成成分が持続的且つ構成的に産生されるプロデューサー細胞株である。プロデューサー細胞は、HEK293細胞、HEK293T細胞、293FT、293SF-3F6、SODk1細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、HtTA-1細胞、STAR細胞、RD-MolPack細胞、Win-Pac、CHO細胞、BHK細胞、MDCK細胞、C3H 10T1/2細胞、FLY細胞、Psi-2細胞、BOSC 23細胞、PA317細胞、WEHI細胞、COS細胞、BSC 1細胞、BSC 40細胞、BMT 10細胞、Vero細胞、W138細胞、MRCS細胞、A549細胞、HT1080細胞、B-50細胞、3T3細胞、NIH3T3細胞、HepG2細胞、Saos-2細胞、Huh7細胞、HeLa細胞、W163細胞、211細胞及び211A細胞であり得る。市販のレンチウイルスパッケージングシステム、例えばLentiSuiteキット(Systems Biosciences、Palo Alto、CA)、Lenti-Xパッケージングシステム(Takara Bio、Mountain View、CA)、ViraSafeパッケージングシステム(Cell Biolabs,Inc.San Diego、CA)、ViroPowerレンチウイルスパッケージングミックス(Invitrogen)及びMissionレンチウイルスパッケージングミックス(Millapore Sigma、Burlington、MA)がある。
【0142】
別の実施形態において、プロデューサー細胞株は、パッケージング機能を発現させるための誘導性発現カセットを含む。例えば、テトラサイクリン誘導性発現システムを用いて、TET-Offシステム及びTET-Onシステムを含む産生株細胞が作成される。加えて、エクジソン誘導性システムが使用される。
【0143】
レンチウイルスの作製は、ペトリ皿、T-フラスコ、マルチトレイシステム(Cell Factories、Cell Stacks)又はHYPERFlaskで成長させる表面接着細胞を使用して実施される。最適なコンフルエンスで(50%未満)、従来のリン酸Caプロトコル又は最近になって開発されたポリエチレンイミン(PEI)法のいずれかを用いて細胞をトランスフェクトする。使用される他の効率的なカチオン性トランスフェクション剤としては、lipofectamine(Thermo-Fisher)、fugene(Promega) LV-MAX(Thermo-Fisher)、TransIT(Mirus)又は293fectin(Thermo-Fisher)が挙げられる。
【0144】
あるいは、レンチウイルスの作製は、振盪フラスコ、ガラスバイオリアクター、ステンレス鋼バイオリアクター、waveバッグ及びディスポーザブル撹拌槽を使用して、浮遊培養物を用いて実施される。浮遊培養物は、リン酸Ca又はカチオン性ポリマー及び線状ポリエチレンイミンを使用してトランスフェクトされる。細胞は、電気穿孔を用いてもトランスフェクトされる。
【0145】
レンチウイルスの精製は、タンジェンシャルフローろ過(TFF)又は膜ベースのクロマトグラフィーを用いたろ過/清澄化、濃縮/ダイアフィルトレーションなど、膜処理ステップ及び/又はイオン交換クロマトグラフィー(IEX)、アフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーベースの処理ステップなど、クロマトグラフィー処理ステップを用いて行われる。レンチウイルスの精製には、これらの処理の任意の組み合わせが用いられる。混入したDNAを分解するためのベンゾナーゼ/DNアーゼ処理は、下流プロトコルの一部であるか、又はベクター作製時に実施されるかのいずれかである。
【0146】
精製は、3相で行われる:(i)捕捉が、粗製の細胞培養物又は清澄化した細胞培養物のいずれかからの標的分子の最初の精製であり、これが主要な汚染物質の排除につながる。(ii)中間精製は、捕捉段階と仕上げ段階との間の清澄化したフィードに対して実施されるステップからなり、これにより特定の不純物(タンパク質、DNA及びエンドトキシン)が除去されることになり、(iii)仕上げは、微量汚染物質及び不純物の除去を目的とする最終ステップであり、製剤化又は包装に好適な形態の、活性のある安全な産物が後に残る。汚染物質は、多くの場合、標的分子に対するコンフォーマー、微量の他の不純物又は疑わしい漏出産物である。1つ又は複数の中間精製及び最終仕上げステップには、任意の種類のクロマトグラフィー及び限外ろ過処理が用いられる。
【0147】
レンチウイルスを精製するための例示的な標準処理としては、以下が挙げられる。i)細胞及び残屑の除去のため、フロンタルろ過(0.45μm)又は遠心で行われ、ii)Mustang Q又はDEAE Sepharoseなどの陰イオン交換クロマトグラフィー又はアフィニティークロマトグラフィー(ヘパリン)でキャプチャークロマトグラフィーが行われ、iii)サイズ排除クロマトグラフィーで仕上げが行われ、iv)タンジェンシャルフローろ過又は超遠心法で濃度及び緩衝液交換が行われ、v)ベンゾナーゼでDNAの削減が行われ、及びvi)0.2μmフィルタで滅菌が行われる。Merten et al.,Mol.Ther Methods Clin Dev.3:16017,2016を参照されたい。
【0148】
過去10年間にわたり、複数のグループがAAVカプシドの熱安定性を評価してきた。被包されたゲノムのサイズは、カプシドの熱安定性に影響を及ぼすことが示されているが、それ以来、一部では別の結論が出ている。重要なことに、これらの相反する結論は、異なる生物物理学的ツールを用いて導き出された。示差走査型蛍光定量法(DSF)は、AAVカプシドの熱安定性の決定法としてよく用いられている。しかしながら、DSFが測定するのは、単にカプシドタンパク質が融解する温度である。カプシドタンパク質の融解は、確かにカプシドの分解を表しているものの、カプシドの構造的完全性がその融解イベントよりはるかに前に失われていた可能性がある。従って、この方法は、AAVカプシドの熱安定性を真に評価する有効な手段ではないという議論があり得る。しかしながら、DSFで使用される色素(典型的にはSypro Orange)を、SYBR goldなど、DNAに結合する色素に交換した場合、カプシドタンパク質融解よりむしろ、カプシド破壊及びDNA漏出を評価することができる。この方法は、従って、カプシドの完全性を判定する一層正確な手段を提供する。この方法を用いて、様々な一本鎖ゲノムサイズの外被をなすrAAV5カプシドを判定し、ゲノムサイズとカプシドの熱安定性との間に逆相関が見出された。更に、これらの結果は、幅広い生物物理学的ツールを用いて裏付けられた。結果的に、本研究は、被包されるゲノムのサイズがAAV5カプシドの熱安定性の調節において役割を果たすと結論付ける。今後、本研究は、遺伝子療法に使用されるウイルスベクターの包括的キャラクタリゼーション及び構造-機能の解明に複数の生物物理学的ツールを使用する必要があることを明らかにする。
【0149】
以下に示す例を考察することにより、本開示の他の態様及び利点が理解されるであろう。
【実施例0150】
実施例1:サイズ排除クロマトグラフィー及び多角度光散乱法によるアデノ随伴ベクターの包括的キャラクタリゼーション及び定量化
【0151】
材料及び方法
緩衝液
全てのSEC-MALS実験において、イソクラティッククロマトグラフィーの移動相として10%EtOH含有1.8×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用した。この緩衝液のストック溶液は、ダルベッコPBS(10×)(Corning(登録商標)、Corning、NY)及び200プルーフEtOH(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)であった。緩衝液は、Milli-Q(登録商標)EMD Milliporeシステム(Millipore、Burlington、MA)の精製水で調製し、0.2μmポリエーテルスルホン膜(Nalgene、Rochester、NY)でろ過した。
【0152】
AAV5重い及び軽いカプシドの作製及び精製
本研究では、「フル」、「部分的にフル」及び「空」のように、カプシド種におけるDNAパッケージングの程度を表す用語は、それぞれ科学的に許容できる「重い」、「中間の」及び「軽い」という表現に置き換えられる。この術語法は、精製されたAAV調製物がどの程度詰まっているかについて、そのカプシドに封入されたDNAのサイズに基づく差があり、「空の」カプシドでもDNAが全くないわけではないことを示す先行研究に基づく(Torikai et al.,J Virol 6,363-369(1970)、de la Maza et al.,J Biol Chem 255,3194-3203(1980)、Lipps and Mayor,J Gen Virol 58 Pt 1,63-72(1982))。SF9昆虫細胞系から、バキュロウイルスベースのAAVカプシド作製及び精製プロセスの既発表の方法を応用し、標準化することにより、コンストラクト1及び2と称されるrAAVカプシドを作成した(Kohlbrenner et al.,Mol Ther 12,1217-1225(2205)、Smith et al.,Mol Ther 17,1888-1896(2009))。
図1に示されるとおり、分析超遠心法によって分析したとき、最終的な精製AAVカプシド材料が含有する軽いカプシドは、0%であった。本研究に使用した軽いカプシド材料は、分析超遠心法によって確認したカプシド精製の副産物であった。
【0153】
AAV重い及び軽いカプシド調製物
以前記載されている方法を用いて、重い及び軽いカプシド材料のCp及びVg総力価をカプシドELISA及びqPCRによって定量化した(Mayginnes et al.,J Virol Methods 137,193-204(2006)、Wang et al.,Med Sci Monit Basic Res 19,187-193(2013))。分析前に、NaCl、プルロニック酸及び糖を含有するpH7.40の独自のリン酸塩ベースの緩衝液で重い及び軽いカプシドを2.00e13Cp/mLの最終濃度となるように希釈した。材料は、全て-80℃で保存し、実験前に室温(約22~25℃)で解凍した。次に、容積基準で材料を合わせ、全ての試料について2.00e13Cp/mLの最終濃度の0%~100%の軽いカプシドを含有する一連の試料を作成した。
【0154】
サイズ排除クロマトグラフィー
全てのSEC-MALS実験について、Sepax SRT SEC-1000カラム(4.6×300mm)及びガードカラム(Sepax、Newark、DE)を使用した。カラムは、PBS(2×)+10%EtOHのイソクラティック移動相によって0.2mL/分で12時間平衡化した。流量を3時間かけて1mL/分までゆっくりと増加させた後、50μLの試料をカラムにロードした。固定相及び移動相は、4℃の自動熱制御型1290バイアルサンプラー及びバイナリポンプからなるAgilent Series 1260 Infinity II LCシステム(Agilent、Waldbronn、Germany)内に入れた。260nm及び280nmにおけるカラム溶出液のUV吸光度を多波長ダイオードアレイ検出器によって検出した。HPLCシステムの制御及びUV吸光度データの分析には、ChemStation OpenLab LCシステムソフトウェア、バージョン2.1.1.13を使用した。注入後のステップは、全て25℃で実施した。
【0155】
多角度光散乱分析
LCシステムの下流に多角度光散乱(MALS)システムを結合した。MALS信号は、DAWN HELEOS 18角度静的光散乱(SLS)検出器(Wyatt、Santa Barbara、CA)を組込みのQELS動的光散乱(DLS)検出器及びOptilab rEX屈折率(RI)検出器(Wyatt、Santa Barbara、CA)と併せることによって検出した。UV、RI及びMALSデータの取得及び分析には、Astra 7.3.1ソフトウェアを使用した。
【0156】
MALSは、溶液中の分子によって散乱した光の強度を用いて光散乱種のモル質量、サイズ及び数を引き出す。フローモードで解析される各カプシド種について、SLS強度の角度及び濃度依存が検出器によって測定され、ASTRAのZimmの式(1)に用いられた(Wyatt et al.,Analytica Chimica Acta 272,1-40(1993))。
[Kc/Rθ]=((1/M)+2A2c){1+(16π2(Rg)2/3λ2)sin2(θ/2)} (1)
式中、Rθは、過剰レイリー比であり、cは、カプシド濃度(mg/ml)であり、θは、散乱角であり、Mは、各カプシド粒子のモル質量観測値であり、A2は、第2ビリアル係数であり、λは、溶液中におけるレーザー光の波長(658nm)であり、Rgは、タンパク質の回転半径であり、及びKは、以下の式2:
K=[4π2n2(dn/dc)2]/N0λ4 (2)
によって定義され、式中、nは、溶媒の屈折率であり、dn/dcは、溶液中のカプシドの屈折率増分であり、及びN0は、アボガドロ数(6.02×1023mol-1)である。
【0157】
高度に希釈したカプシド溶液について、ここで、(c→0)のとき、式1は、直線方程式(3)に変形される。
[Kc/Rθ]=((1/M)+{1+((16π2(Rg)2/3λ2)sin2(θ/2))} (3)
【0158】
従って、sin2(θ/2)に対する[Kc/Rθ]のプロットから、16π2(Rg)2/3Mλ2によって定義される傾き及び1/Mとしてのy切片を有する直線が求められることになる。式3を用いて、式4及び式5により定義されるとおりの、18 SLS検出器によって取得されたデータに関する大域的分析を用いたAAVカプシドについての加重平均分子量(Mw)及びRgを求めた。
Mw=Σ(ciMi)/Σci (4)
Rg=Σ(ciRgi)/Σci (5)
式中、溶出プロファイル中i番目のスライスにおいて、ciは、タンパク質濃度であり、Miは、モル質量観測値であり、及びRgiは、回転半径観測値である。
【0159】
入射レーザービームに対して90°に置かれたWyatt QELS検出器により、AAVベクターの各溶出種の流体力学半径(Rh)を決定した。Rhデータは、動的光散乱(DLS)強度変動の時間及び濃度依存関係を測定し、ASTRAの組込みの式(6)に非線形最小二乗回帰分析を用いて繰り返し当てはめることにより生成される。式6から得られたΓ値を用いることにより、組込みの式(7)を用いて各溶出カプシド種の並進拡散係数(Dt)を計算し、最後にそれを用いてストークス・アインシュタインの式(8)に当てはめることによりRhを計算した(Wang,Feng,et al.,Medical science monitor basic research 19(2013):187、Koppel,J.Chem.Phys.57,4814-4820(1972)、Berne,Dynamic Light Scattering,Wiley,New York,NY(1976))。
G(τ)=αExp(-2Гτ)+β (6)
Dt=[(Гλ2)/(16π2n2sin2θ/2)] (7)
Rh=[(kBT)/(6πηDt)] (8)
【0160】
G(τ)は、DLS強度変動Iの自己相関関数であり、αは、遅延時間0における自己相関関数の初期振幅であり、Γは、自己相関関数の減衰速度定数であり、τは、自己相関関数の遅延時間であり、及びβは、ベースラインオフセット(遅延時間無限大における自己相関関数の値)である。λは、溶液中におけるレーザー光の波長(658nm)であり、及びnは、溶媒の屈折率であり、及びθは、散乱角(90°)である。最後に、kBは、ボルツマン定数(1.38×10-23JK-1)であり、Tは、絶対温度であり、及びηは、溶媒粘度である。
【0161】
ここで報告されるRhは、式9によって定義されるとおりの加重平均値を表す。
Rh=Σ(ciRh,i)/Σci (9)
式中、溶出プロファイル中i番目のスライスにおいて、ciは、タンパク質濃度であり、及びRh,iは、流体力学半径観測値である。
【0162】
ASTRAにおいて、Wyatt Optilab rEX検出器によって測定されるとおりの溶媒に対する屈折率(Δn)の変化から、式10を用いて各カプシド種の溶出プロファイルに沿ったカプシド濃度(c)が自動的に定量化された。
c=(Δn)/(dn/dc) (10)
式中、dn/dcは、溶液中におけるAAVベクターの屈折率増分である。
【0163】
ベクターは、AAVカプシドタンパク質と、カプシドに封入されたDNAとの組み合わせであるため、MALSから直接入手されるモル質量及び濃度は、タンパク質-DNAの組み合わせの複合体を表す。カプシドタンパク質及びカプシドに封入されたDNAの寄与を別々に計算するため、全てのデータセットにASTRAの組込みのタンパク質コンジュゲート方法を適用した。M.Kunitani et.al.から応用し、更に改変したこの方法は、2つの異なる濃度検出器からの情報、RI及び280nmのUVを用いることにより、連立方程式を用いてカプシドタンパク質からタンパク質-DNA複合体の総濃度を決定する(Kunitani,Michael,et al.,Journal of Chromatography A 588.1-2(1991):125-137、Chu,Benjamin.Laser light scattering:basic principles and practice.Courier Corporation,2007)。この方法は、RI(及びUV)の反応が、タンパク質カプシド及びカプシドに封入されたDNAからの反応の総和であるという仮定の下で機能する。式11を用いることにより、カプシドタンパク質からの質量分率(x)の関数としてタンパク質-DNA複合体(V)の組み合わせdn/dcを計算する。
【数1】
式中、CP及びDNAの添え字は、それぞれカプシドタンパク質及びカプシドに封入されたDNAの0.185及び0.170の固有dn/dc値を表す。次に、式12を用いることにより、屈折率の変化(Δn)に基づいてタンパク質-DNA複合体の濃度(C
dRI)を計算する。
【数2】
【0164】
同様に、式13を用いることにより、カプシドタンパク質からの質量分率(x)の関数としてのタンパク質-DNA複合体の組み合わせ吸光係数(ε
v)を計算する。
【数3】
【0165】
式中、ε
cp及びε
DNAは、それぞれカプシドタンパク質及びカプシドに封入されたDNAの1.790mL/mg・cm及び17.000mL/mg・cmの固有の吸光係数を表す。カプシドタンパク質について、この係数は、VPタンパク質に基づいて、それらの1:1:10比を仮定して決定した。次に、式14を用いることにより、A280吸光度に基づいてタンパク質-DNA複合体の濃度を計算する。
【数4】
【0166】
最後に、UV及びRIによって計算したタンパク質-DNA複合体の濃度が等しいため、次に、Astraは、式15を用いてカプシドタンパク質の質量を解くことができる。
【数5】
【0167】
カプシドタンパク質からの質量分率が分かると、AAVカプシド及びカプシドに封入されたDNAの物理的属性を独立に測定することが可能となる。AAV試料分析前に、BSA(Thermo Scientific、Waltham、MA)[2mg/mL]を用いて光散乱検出器を標準化した。
【0168】
分析超遠心法
試料分析には、吸光度及びレイリー干渉(RI)光学系を備えたBeckman Coulter ProteomeLab XL-I AUC(Beckman、Brea、CA)を使用した。エポンセンターピースが入った2セクター試料セルに試料をロードした。次に、8ホールローターに細胞をロードした。試料の温度を2時間以上にわたって20℃に平衡化させた。温度平衡化後、試料に対して10,000rpmで10~12時間にわたって沈降速度遠心を実施し、機器の最大検出率でスキャンを収集した。
【0169】
プログラムSedfitに実装されているとおりのc(s)法(これは、以前にAAVカプシド分析に利用されている)でデータを分析した(Kunitani,Michael,et al.,Journal of Chromatography A 588.1-2(1991):125-137、Schuck,Peter.,Biophysical journal 78.3(2000):1606-1619)。簡潔に言えば、Sedfitは、扇形区画内での拡散及び沈降を記述する基本式、ラムの式(12)の数値解でデータを直接モデル化する。
∂c/∂t=[(∂2c/∂r2)+1r(∂c/∂r)]-sω2[r(∂c/∂r)+2c] (12)
式中、cは、AAV総濃度であり、tは、時間であり、Dは、拡散定数であり、rは、半径であり、sは、沈降係数であり、及びωは、ローター回転速度である。式の右辺の2つの項は、2つの競合する力:拡散及び沈降を記述する。拡散の力は、分子運動によって駆動され、均一な溶質の溶液に向かって移動する。沈降の力は、加わる重力場によって駆動され、溶質をセルの底に運ぶ。
【0170】
データ解析
データプロットは、全てGraphPad Prism、バージョン8.2.1を用いて作成した。
【0171】
結果
サイズ排除クロマトグラフィーによるAAVキャラクタリゼーション及び力価推定
AAV試料をSECによって分離し、得られた溶出プロファイルを、UV(260及び280nm)、MALS及びRI検出器からなる多検出器システムによってモニタした。カラムにより、単量体AAVカプシド種(約11.5分で溶出)は、二量体(約10.5分で溶出)、高次多量体(10分未満で溶出)及びより小さいヌクレオチド不純物並びに緩衝液成分(12分を超えて溶出)と有効に分離された(
図1A及び
図1B)。280及び260nmの吸光度をモニタすることにより、そのA260/A280比に基づくそのタンパク質及びDNA含有率に関して、異なるカプシド種に対応する各溶出ピークを特徴付けた。単量体の重いカプシドは、約1.34の一貫したA260/A280比を有した一方、軽いカプシドは、約0.6の比を有した。初期の溶出ピークに、1.7を超えるA260/A280比を示す、インタクトなカプシドの外側にあるDNAが検出された(
図1A及び
図1B)。
【0172】
以前には、変性したAAV2カプシドのCp及びVg力価が、UVベースのバルク光学濃度法を用いて推定されている
11。ここで、高度に精製したカプシド又は変性したカプシドを必要としないであろう一層高度な力価推定方法として、SEC法を評価した。280及び260nmのAAV吸光度値をChemstationの単量体及び二量体ピーク面積のドロップライン積分で入手した。A280及びA260ピーク面積測定値は、表Aに示されるとおり高い再現性を示し[CV
A280=0.36%、CV
A260=0.41%]、それぞれCp及びVgのロードした量に伴う線形的傾向が見られた(データは示さず)。
【表1】
【0173】
SECアッセイの再現性及び線形性の高さから、ELISA及びqPCRによるCp及びqPCR力価が既知のAAVカプシド材料から作成した標準曲線(
図3A及び
図3B)を用いて、未知の試料のCp及びVg力価を計算した。これらの標準曲線(ここで、yは、吸光度に等しく、xは、力価負荷に等しい)により、既知の吸光度値及び直線傾向線の傾きから未知の力価を計算することが可能になる。具体的には、未知の試料のCp力価を計算するには、単に試料のA280単量体及び二量体ピーク面積を傾向線の傾き(2.527e09、
図3A)で除し、注入量を乗じるのみでよい(式13)。
【数6】
【0174】
同様に、A260ピーク面積及び傾き(3.378e09、
図3B)を用いてVg力価が決定される(式14)。
【数7】
【0175】
この方法を用いて、0~100%の軽いカプシドを含有するAAV試料のCp及びVg力価を計算した。SECアッセイは、単量体AAVカプシドを高次又は低次の不純物と分離するが、軽いカプシドを重いカプシドと分離することはない。結果的に、両方の力価について、軽いカプシドの含有率の関数としての線形的な減少が観察され、R
2>0.999であった(
図2C及び
図2D)。軽いカプシドの増加に伴うVg力価の線形的な下降が予想される一方、類似したCp力価の下落は、カプシドに封入されたベクターゲノムがA280ピーク面積に及ぼす影響を示している。このようにゲノムが280nmにおける重いカプシドの吸光度に寄与する結果、見かけ上Cp力価が高くなり、タンパク質カプシド及びカプシドに封入されたDNAがそれぞれA280及びA260ピーク面積にのみ寄与するというアッセイの仮定の誤りが浮かび上がる。現行のフォーマットでのこの方法は、A280及びA260の畳み込みによって制限されるが、両方のコンストラクトのCp及びVg力価の誤差は、それぞれ7%未満(過小推定)及び3%(過大推定)であり、試料は、最大10%の軽いカプシドを含有した(
図2E)。それぞれ16%及び36%を上回る軽いカプシドを含有する試料に限り、Cp及びVg力価の誤差は、10%に達した(
図2E)。SECアッセイの高い精度を考えると、この誤差は、依然として、最大約50%の軽いカプシドを含む試料でも、広く用いられているPCR及びELISAの力価決定法のばらつきの範囲内である(Fagone et al.,Hum Gene Ther Methods 23,1-7(2012)、Kuck et al.,J Virol Methods 140,17-24(2007)、Dorange and Le Bec,Cell Gene Ther.Insights,119-129(2018)。更に、UV吸光度を用いて、A260/A280ピーク面積比から、重いカプシドに対する軽いカプシドの相対的割合を推定した。0~100%の軽いカプシドを含有するAAV試料のA260/A280比を計算し、軽いカプシドの含有率の関数としてプロットした(
図2F)。得られたプロットは、三次多項式モデルが最良に当てはまる。この多項式回帰モデルにより、AAV試料の軽いカプシドの割合を単純にそのA260/A280値から計算することが可能となる。A260及びA280の畳み込みは、力価計算に補正係数を適用することによって軽減され得るが、本発明者らは、以下に記載するとおり、MALSをSECと併用すると、この欠点を回避する一層直接的な手法がもたらされることを見出した。
【0176】
サイズ排除クロマトグラフィーを多角度光散乱とともに用いたAAVキャラクタリゼーション及び力価推定
MALSは、以前にも、ウイルス粒子の直接的な定量化及び追加のキャラクタリゼーションを提供するため、SEC及び他の分離技法と併用されている(Koppel,J.Chem.Phys.57,4814-4820(1972))。SECと異なり、MALSは、絶対的な方法であり、A280及びA260の畳み込みに制限されない。簡潔に言えば、MALSは、溶液中における濃度及びサイズの関数としての種によって散乱した光の検出を伴う。次に、ASTRAソフトウェアは、散乱光の角度を用いて散乱種の物理的属性を定量化する。ASTRAのタンパク質コンジュゲート分析機能は、タンパク質及びDNAの内部特性を用いて、重い及び軽いAAV試料についてのカプシド及びカプシドに封入されたDNAの質量及びモル質量を計算する(
図4A及び
図4B)。従って、カプシドの完全性、凝集及び物理的特徴の詳細な要約が得られる。タンパク質コンジュゲート機能を用いて、0~100%の軽いカプシドを含有するAAV試料のカプシド及びカプシドに封入されたDNAの質量及びモル質量を測定した。仮定したとおり、カプシド質量は、約6マイクログラム(μg)で一定であった一方、DNA質量は、軽いカプシドの含有率の関数として約1.7から0.14μgに線形的に減少し、R
2>0.999であった(
図4C)。同様に、カプシドモル質量は、約3650キロダルトン(kDa)で一貫して保たれた一方、カプシドに封入されたDNAのモル質量は、約1000kDAから100kDAに線形的に減少し、R
2>0.997であった(
図4D)。MALSmから導き出されたカプシド及びカプシドに封入されたDNAの質量及びモル質量を用いて、式15及び式16(式中、N
Aは、アボガドロ数(6.023e23)である)でCp及びVg力価を計算した。
【数8】
【数9】
【0177】
これらの式を用いると、コンストラクト1重いカプシド材料のCp及びVg力価は、それぞれ1.908e13Cp/mL及び1.906e13Vg/mLと計算され、Cp/Vg比は、1.00であった。これらの値は、上記で式13及び式14を用いて得られた値(それぞれ1.99e13Cp/mL及び2.01e13Vg/mL)と同等である。式15は、軽いカプシドの含有率に依存しないが、式16は、AAV試料が含有する軽いカプシドが0%であることを仮定する。結果的に、軽い及び中間のカプシドを含む試料の正確なVg力価を計算するには、相対的なカプシドの含有率を考慮して補正する必要がある。
【0178】
軽い及び中間のカプシドについてのSEC-MALS推定及び補正
SECカラムから軽い及び重いカプシドが共溶出するため、正確な力価を得るために、それらの相対的な割合を決定することが必要となる。SEC-MALSでは、複数の方式で相対的カプシドの含有率を計算することが可能である。A260/A280ピーク面積に加えて、MALSから導き出されるタンパク質分率(タンパク質DNA複合体質量に対する相対的なカプシドタンパク質質量)により、軽いカプシドの含有率の推定が可能となる。タンパク質分率は、軽いカプシドの含有率に伴って線形的に変化する傾向を示し、軽いカプシドが0%から100%になると、0.77から0.98に増加したことから(両方のコンストラクトについてR
2>0.99)(
図5A)、これを使用してVg力価への軽いカプシドの寄与分を補正することができる。精製後でも、軽いカプシドを含まないAAVベクター調製物が重いカプシドのみを含有するとは限らない(Schuck,Peter.Biophysical journal 78.3(2000):1606-1619)。AAV調製物は、AUCによってモニタしたとき、重いカプシドと軽いカプシドとの間に沈降する様々なサイズのゲノムを含むカプシドからなることが公知である(
図1)。これらの中間のカプシドが存在することにより、カプシドに封入されたDNAのモル質量測定値(1.03e06kDa、
図4D)は、理論値(約1.50e06kDa)よりも低くなる。SEC-MALS力価計算において軽い及び中間のカプシドを考慮するため、0%軽いAAV5試料からのカプシドに封入されたDNAのモル質量測定値をその理論値で除すことにより、カプシドのパッキング効率を決定した(式17)。
【数10】
【0179】
次に、パッキング効率(PE)を用いることにより、式18で重いカプシドの比率を決定した。
【数11】
【0180】
これらの式を用いて、0~100%の軽いカプシドを含有するAAV試料の重いカプシドの含有率を計算した。既知の軽いカプシドの含有率の関数としての重いカプシドのパーセンテージ測定値のプロットを線形回帰モデルに当てはめ、R
2>0.99であった(
図5B)。重いカプシドの含有率が分かったことに伴い、Cp力価に重いカプシドの比率を乗じることにより、更に正確なVg力価が得られた。しかしながら、この計算は、依然として試料中の軽いカプシドがいかなるゲノムも有しないことを前提とする。軽いカプシドは、真に空であるわけではなく(
図4C及び
図4D)、そのカプシドに封入されたDNAがVg力価の値を歪める。これを防ぐため、軽いAAV試料のVg力価を、式19を用いて計算した。
【数12】
【0181】
次に、Vg力価の値に対する軽いカプシドのゲノムの寄与分を、式20を用いて既知の軽いカプシドの比率で補正した。
【数13】
【0182】
最後に、これらの計算を一緒にして、相対的な重い及び軽いカプシドの含有率を反映するように補正したVg力価を、式21を用いて得た。
【数14】
【0183】
両方のコンストラクトについて、MALSによって導き出されるCp及び補正後Vg力価を軽いカプシドの関数としてプロットした。Cp値は、一定のままであった一方、Vg力価は、軽いカプシドの含有率の増加に伴って線形的に減少した(
図5C)。補正後Vg力価で試料Cp/Vg比を計算し、予想値の関数としてプロットした(
図5D)。Cp/Vg測定値及び予想値は、R
2>0.99で線形相関を実証した。各試料について計算したCp及びVg力価の予想値との差の平均を
図5A及び
図5Bにまとめる。SEC-UVのみから導き出された力価と対照的に、SEC-MALSでは力価の正確さが向上し、最大80%の軽いカプシドでスパイクした試料において予想値との差は、4%未満であった。90~100%の軽いカプシドを含む試料中では、Vg力価の差がより大きいことが観察された。これらの差は、様々なサイズの軽いカプシドのゲノムの絶対吸光係数及びdn/dc値を推定することが困難であることに起因する可能性がある。計算には、代わりに理論的なゲノム全体の吸光係数及びdn/dc値を使用し、そのため、90~100%の軽いカプシドを含有する試料への適用性が低くなる。
【0184】
SEC-MALSによる徹底的AAVカプシド分析
SEC-MALSの実際的な適用を実証するため、25℃~95℃の範囲の温度でインキュベートした重い及び軽いAAV試料を分析した。試料は、それぞれの各温度で30分間インキュベートした後、直接SECカラムに注入した。重い材料(
図7A)及び軽い材料(
図7B)について、SEC A260(データは示さず)及びA280溶出プロファイルを用いて様々なカプシド形態(例えば、単量体、二量体等)並びに外因性タンパク質及び核酸不純物を観察した。重い及び軽いカプシドについて、温度の関数としての単量体ピーク面積も計算した(
図7C)。ピーク面積の変化は、試料の生物物理学的変化と相関したことから、これをカプシドの完全性及び安定性の評価に用いることができる。重いカプシドについて、温度が増加すると、6.5分の時点でAAV単量体ピークが減少し、核酸ピークが増加した(A260/A280>1.7)。一方、軽いカプシドは、高温での熱的安定性がはるかに高いことが分かり、カプシドに封入されたDNAからの内部圧力によってカプシドの不安定性が引き起こされるという考えが裏付けられた(Horowitz et al.,J Virol 87,2994-3002(2013)、Ivanovska et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 104,9603-9608(2007))。軽いカプシド及び重いカプシドの両方のUVプロファイルで観察された傾向は、MALS溶出プロファイルとよく類似していた(データは示さず)。SEC溶出プロファイルに観察された変化がカプシドの不安定化及びゲノム放出を表したものであるかどうかを評価するため、温度の関数としてのA260/A280比をモニタした。25℃では、重いカプシド及び軽いカプシドのA260/A280比は、それぞれ1.34及び0.6であった(
図7D)。温度が増加するにつれて、重いカプシドは、A260/A280比が55~65℃で変曲して0.8まで減少した一方、軽いカプシドは、一定のままであった。A260/280比の減少は、カプシドに封入されたDNAの量の減少を示すものであり、これは、3分に約2のA260/A280比を有する遊離DNAピークの増加が現れることによって更に裏付けられる(
図7A)。これを更に探るため、MALSを用いて、温度に伴うサイズ分布及び可能性のあるカプシド破壊をモニタした。温度の上昇に伴う単量体の重い及び軽いカプシド種の流体力学半径(Rh)及び回転半径(Rg)を評価した。軽いカプシドのRh及びRgが一定のままであった一方、重いカプシドについて、温度の上昇に伴って両方の半径が増加することが分かった(
図7E)。MALSによってサイズ及びばらつきの両方の増加が測定されたことは、A280及びA260/280によって観察された不安定化を更に裏付けている。興味深いことに、タンパク質コンジュゲート分析では、重い及び軽いカプシドについてカプシドタンパク質のモル質量は、一定のままであった一方、重いカプシドのカプシドに封入されたDNAのモル質量は、温度の関数として減少したことが確認された(
図7F)。これらの結果は、A280によって観察された外因性DNAと併せて、45℃を上回るときのカプシド構造の破壊及びDNA漏出のイベントを裏付けている。更に、結果は、重い粒子と比較した軽いAAVカプシドの熱安定性の増加など、AAVの生物物理学的変化の解明におけるSEC-MALSの有用性を実証している。
【0185】
考察
SEC-MALSは、AAVカプシドの多岐にわたる物理的属性のキャラクタリゼーションのための単純で忠実度の高い方法である。これは、標準曲線を用いずにAAV Cp及びVg力価を測定する簡単明瞭なシングルメソッド手法をもたらし、軽いカプシドの重いカプシドに対する比率を決定する複数の方法を提供する。カプシド及びそのカプシドに封入されたDNAに固有の吸光度、光散乱及び屈折特性を利用することにより、生のSEC-MALSデータをカプシド属性の有意味な定量化に集約することができる。それが提供するその使い勝手のよさ、再現性及び情報の豊富さのため、それは、SEC-MALSがAAVキャラクタリゼーションに利用可能な極めて万能なツールの1つであることがほぼ間違いない。
【0186】
AAVカプシドのCp及びVg力価は、通常、カプシドELISA及びqPCRを用いて独立に測定されるが、これらは、時間がかかり、且つばらつきが大きい方法であり得るため、より正確で精密な力価決定方法の必要性が浮かび上がる(Fagone et al.,Hum Gene Ther Methods 23,1-7(2012)、Kuck et al.,J Virol Methods 140,17-24(2007)、Dorange and Le Bec,Cell Gene Ther.Insights,119-129(2018)。光学濃度を用いて報告されるVg力価は、qPCRと比べるとばらつきが最大1対数分だけ少ない(Sommer et al.,Mol Ther 7,122-128(2003))。光学濃度は、Cp力価及びVg力価の両方を測定可能な単純なアッセイであるものの、タンパク質及び核酸不純物によって結果が歪み得る。別のUV分光光度法として、SECは、光学濃度の利点を保ちつつ、カラムでカプシドを不純物と分離するという追加の利点を有する。従って、AAV試料を高度に精製しなくても、SECによって正確な力価が得られる。更に、SECによれば、アッセイ間精度が1%未満となり、qPCRの約16%と比較して実質的に向上する(Lock et al.,Hum Gene Ther Methods 25,115-125(2014)、Pavsic et al.,Anal Bioanal Chem 408,67-75(2016)、Pacouret et al.,Mol Ther 25,1375-1386(2017))。SEC法の制限は、カラムからの軽いカプシドと重いカプシドとの共溶出である。結果として、軽いカプシドの含有率によっては、A260及びA280の畳み込みによる力価誤差が増加する。しかしながら、SEC Vg力価の誤差がqPCRの通例のばらつき(約15~20%)に達するのは、50%を超える軽いカプシドを含有する試料のみである。これらの方法は、力価の計算に標準曲線が必要であるという共通の制限も共有する。軽いカプシドの存在に関する補正係数を用いてその吸光度寄与分を考慮し、SECから導き出される力価の正確さを向上させることができるが、その作業は、本研究の範囲外である。本研究は、SECをMALSと組み合わせると、これらの制限が取り除かれることを示す。MALS測定は、A260及びA280の畳み込みの影響を受けず、及び絶対的な方法として、MALSは、標準曲線を必要としない。ddPCRも、標準曲線の必要なしに、アッセイ内及びアッセイ間精度を、それぞれqPCRの5.35%及び16.5%と比較したときに2.21%及び8%未満まで改善することが示されている(Lock et al.,Hum Gene Ther Methods 25,115-125(2014)、Pavsic et al.,Anal Bioanal Chem 408,67-75(2016)、Pacouret et al.,Mol Ther 25,1375-1386(2017))。しかしながら、SEC-MALSと異なり、ddPCR法は、Cp力価及びVg力価の両方を他の物理的カプシド属性と併せて測定することができない。SEC-MALSは、試料操作、標準曲線又は大きい労力を要するプロトコルの必要なしに、20分のランで精密さが向上した正確なCp及びVg力価を提供する。加えて、同じ方法から、カプシドの完全性及び安定性のような生物物理学的特徴もモニタすることができる。
【0187】
ある種のスイスアーミーナイフのような方法であるSEC-MALSは、多機能のAAVキャラクタリゼーション手法である。これは、AAV製品開発及びプロセス分析の強力なツールとして登場した。本研究は、工業用及び学術的プラットフォームを横断するウイルスベクターの生物物理学的キャラクタリゼーションに向けたSEC-MALSの開発及び応用可能性を明らかにする。
【0188】
実施例2:サイズ排除クロマトグラフィー及び/又は多角度光散乱(SEC-MALS)技法によるアデノ随伴ウイルス粒子の分布分析及び定量化の改良
【0189】
材料及び方法
試料調製
分析的サイズ排除クロマトグラフィー:分析的SEC分析には、Sepax technologiesからのSepax SEC 1000カラム(7.8mm内径×300mm長さ)を使用した。このカラムは、高純度の、機械的安定性が強化されたシリカに化学的に結合した、一様な親水性の中性ナノメートル厚さ薄膜を実現するSepax独自の表面技術を利用している。このSepax独自の表面技術により、薄膜形成化学を十分に制御することが可能となり、その結果、高いカラム間再現性が得られる。薄膜の化学結合の性質及び最大限の結合密度がSRT SEC相に有益に作用し、高い安定性をもたらす。一様な表面被膜により、高い効率での分離が可能となる。SEC-100、SEC-150、SEC300、SEC-500、SEC-1000及びSEC-2000について、SRTパッキングの分散が狭い球状シリカ粒子は、公称細孔径がそれぞれ100Å、150Å、300Å、500Å、1,000Å及び2,000Åである。これらの特別に設計された大きい細孔容積(SRT SEC-150、300及び500について約1.35mL/g及びSRT SEC-100、1000及び2000について約1.0mL/g)により、大きい分離容量が可能となり、高い分離分解能につながる。SRT SECカラムは独自のスラリー技法で充填され、カラム効率が最大となる一様で安定した充填床密度を実現する。
【0190】
50μL試料をSepax SRT SEC-1000カラム(固定相と称される)に注入し、PBS(2×)+10%EtOHのイソクラティック溶出緩衝液(移動相と称される)によって1mL/分の流量で溶出した。固定相及び移動相は、自動熱制御型1290バイアルサンプラーとバイナリポンプとからなるAgilent Series 1260 Infinity II LCシステム(Agilent、Waldbronn、Germany)内に入れた。260nm及び280nmにおけるカラム溶出液のUV吸光度を多波長ダイオードアレイ検出器によって検出し、且つHPLCシステムの制御及びUV吸光度データの分析には、ChemStation OpenLab LCシステムソフトウェアを使用した。いずれも注入後に22~25℃で実施した。
【0191】
多角度光散乱法(MALS):多角度光散乱法分析は、DAWN HELEOS 18角度検出器(Wyatt、Santa Barbara、CA、USA)及びOptilab rEX屈折率検出器(Wyatt、Santa Barbara、CA、USA)を用いて実施した。MALSデータの取得及び分析には、Astraソフトウェアを使用した。
【0192】
分析超遠心法(AUC):全ての試料の分析には、吸光度及びレイリー干渉(RI)光学系を備えたBeckman Coulter ProteomeLab XL-I AUCを使用した。データは、プログラムSedfitに実装されるとおりのc(s)法で分析した。Sedfitでは、c(s)分布を積分することにより、個別のピークの沈降係数、信号平均沈降係数及び種の相対量が確立された。
【0193】
カプシド及びベクターゲノム含有率の計算:カプシド及びベクターゲノム濃度は、以下の式に基づいて計算した。
【0194】
【0195】
【数16】
タンパク質及びDNAの質量は、MALS及びRI信号によって計算される。カプシドタンパク質及びカプシドに封入されたDNAの分子量は、MALS及びRI信号により、以下の既知のパラメータを用いて計算される。
【数17】
【数18】
【0196】
結果
SEC及びSEC-MALSによるAAV粒子のキャラクタリゼーション及び定量化
SEC-MALSシステム:SEC-MALSシステムは、HPLCシステム、サイズ排除カラム、UV検出器、MALS検出器及び示差RI検出器を含む。
【0197】
SECシステム(即ちSEC-HPLCシステム)の例は、溶媒及び試料の供給源に流体接続したサイズ排除カラム、サイズ排除カラム中に溶媒及び試料を流す能力のあるポンプ及びサイズ排除カラムからの溶出物の光吸収を測定する能力のある吸光度検出器を含む。
【0198】
SEC-MALSシステムの例、ここでは1つ又は複数のサイズ排除カラムを含むSEC-HPLCシステムがUV検出器、MALS検出器及び示差RI検出器に流体接続している。動作時、初めに、試料は、1つ又は複数のサイズ排除カラムを含むSEC-HPLCシステムを通して流れる。次に、SEC-HPLCシステムからの溶出物がUV検出器、MALS検出器及び示差RI検出器に流れる。
【0199】
AAV粒子を含有する試料のSEC又はSEC-MALSを用いた分析では、短時間(例えば、20分以内)でAAV粒子の特性を特徴付け、AAV粒子の力価を定量化することができる。更に、SEC及びSEC-MALSの両方は、ばらつきが最小限である、複数のアッセイに関して直交性の技法であり、ハイスループット方式で高速且つ効率的に処理及び長期安定性に関する情報を提供し、且つ異なる画分を別々に収集及び分析することが可能である。SEC-MALS分析によってキャラクタリゼーションし得る特性の例としては、AAV粒子の凝集プロファイルの視覚化、インタクトなカプシドの外側にあるか又はその中に封入されていない核酸の濃度の推定、カプシドの構造的完全性の検査、試料中のAAV粒子(即ち重いカプシド)及び空のカプシド(即ち軽いカプシド)の割合の推定、AAV粒子の粒径分布(例えば、体積基準の粒径又は球体の直径/半径)の決定、カプシド及びベクターゲノムの重量平均分子量の計算が挙げられる。力価定量化の例としては、カプシド力価及びベクターゲノム力価の定量化が挙げられる。同じ情報を取得しようとすれば、分析超遠心法(AUC)、電子顕微鏡法(EM)、動的光散乱分析(DLS)、蛍光分析、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及びドロップレットデジタルPCR(ddPCR)など、相当な数の従来技術を用いなければならないであろう。
【0200】
AAV調製物のSEC-HPLC分析:SECは、その名称が示すとおり、溶液中の分子をサイズ別に分離する。Sepax SRT SEC-1000カラムを使用したAAV5カプシド粒子の分離について、50μL試料をカラム(固定相と称される)に注入することによってモニタし、PBS(2×)+10%EtOHのイソクラティック溶出緩衝液(移動相と称される)によって1mL/分の流量で溶出した。固定相及び移動相は、自動熱制御型1290バイアルサンプラーとバイナリポンプとからなるAgilent Series 1260 Infinity II LCシステム(Agilent、Waldron、Germany)内に入れた。UV、MALS及びRI検出器を用いてカラム溶出液をモニタした。
図8Aに示されるとおり、得られた不均一性、分布及び凝集プロファイルは、異なる検出器によって捕捉された。
【0201】
図8Aは、260nm波長で測定した試料の代表的なSEC-HPLCプロファイルを示す。このプロファイルは、多くの吸光度単位(AU)ピークを示し、各ピークが異なる産物又は成分を表す。例えば、
図8Aに示されるとおり、主ピーク(即ちピーク4番)は、試料中の単量体カプシドを表す。三量体及び二量体カプシドなどのカプシド凝集体は、ピーク2番及び3番によって表される。ピーク1番は、細胞からの高分子量核酸を表し、ピーク5番は、低分子ヌクレオチド及び緩衝液成分を表す。
【0202】
カラムからの試料溶出後、260及び280nmのUV吸光度を記録して溶出プロファイルを入手する(
図8A)。特徴的な主ピークが溶出した後、続いて主ピークの左側及び右側にある、それより小さいピークが溶出する。この溶出プロファイルは、約11.5分の特徴的な大きいピークと、主ピークの左側及び右側にある微小ピークとを特徴とする。溶液中の種がサイズの減少する順にカラムから溶出することは、明らかであり、AAV5単量体カプシド種が高次種並びに他の外因性タンパク質及びDNA不純物と分離される。SECカラムは、キャラクタリゼーションのためピークを別々に画分収集する能力を提供する。各ピークを別々に分離し、AUC、PCR及びMALSのような様々な技法によって特徴付けて、溶出ピークのアイデンティティを確定した。
図8Aに示されるとおり、データから、目的の遺伝子を被包する優勢な単量体カプシド集団が存在し、更に、二量体及び多量体形態のカプシドが外因性DNA及び低分子ヌクレオチド断片とともに存在することが確認された。
【0203】
図8Bは、260nm及び280nm波長で測定した試料の別の代表的なSEC-HPLCプロファイルを示す。
【0204】
この方法では、260及び280nmの両方の溶出プロファイルをモニタすることは、試料中にある様々な形態のカプシド(単量体及びより高次の凝集体)並びに任意の外因性タンパク質又はDNAベースの不純物の存在を観察するための優れたツールとなる(
図8B)。単量体カプシド種の260/280比は、バッチ間において約1.34で一定であることが観察され、DNA又はDNAタンパク質複合体のような他の種も、単量体カプシドより高い一貫した比を示すことが分かった。
【0205】
図8Bのプロファイルは、
図8Bのプロファイルが単量体カプシドを表す主ピークを示す点で
図8Aのプロファイルと同様である。加えて、260nm波長における吸光度測定によってピークの核酸濃度が定量化され、280nm波長における吸光度測定によってピークのタンパク質濃度が定量化される。260nm/280nm AU比を同定することにより、ピークによって表される産物を特徴付けることができる。例えば、
図8Bの主ピークは、1.34の260nm/280nm AU比を有し、単量体AAV粒子を表す。
図8Bは、1.13の260nm/280nm AU比を呈する凝集したAAV粒子(例えば、二量体AAV粒子)、1.75及び2の260nm/280nm AU比を呈する外因性核酸並びに2.4の260nm/280nm AU比を呈する低分子ヌクレオチド及び緩衝液成分も示す。従って、単量体AAV粒子は、1.13より大きく、1.75より小さい範囲の260nm/280nm AU比を呈し得る。
【0206】
カプシドの構造的完全性及び安定性の分析:
図9A、
図9B及び
図9Cは、AAV試料のカプシド安定性の分析を示し、ここで、各試料は、他と異なる特性を有するように修飾される。
【0207】
この方法は、例えば、主ピーク面積の変化を時間の関数としてモニタし、試料安定性の経過を追うことができるため、安定性の指標を得るアッセイとして利用することができる。小規模の加速安定性試験を25℃で1ヵ月間にわたって実施したところ、この方法の安定性適用を裏付ける原理証明データが得られた。このデータは、時間の関数としての外因性DNAピークの2倍の増加及び対応する単量体ピーク面積の下落を示した。詳細には、AAV試料を25℃で0、1、3、5、7、10、14、21及び28日間貯蔵し、SEC-HPLCによって個別に分析した。貯蔵時間が長くなるほど、
図9Aに示されるとおり、単量体AAV粒子の%ピーク面積が減少し、
図9Cに示されるとおり、外来性核酸の%ピーク面積が増加した。詳細には、外来性デオキシリボ核酸(DNA)ピークの%ピーク面積は、線形的に約2倍に増加した。これは、カプシドの安定性の変化を示唆している。
図9Bに示されるとおり、二量体AAV粒子の%ピーク面積は、貯蔵時間が長くなっても実質的に変化しなかった。
【0208】
AAV調製物のMALS分析:AAV調製物からの試料をMALSによって分析した。上記に指摘したとおり、SEC-HPLCシステムからの溶出物は、UV検出器、MALS検出器及び示差RI検出器に流れる。
【0209】
UV及び示差RI検出器を用いると、核酸及びタンパク質濃度測定値が提供される。
【0210】
示差RI検出器の測定値から試料中のタンパク質及び核酸の濃度を計算するには、タンパク質及び核酸(即ちDNA)の屈折率増分(dn/dc)を用いる。タンパク質及び核酸の屈折率増分は、下記のとおり提供される。
【数19】
【0211】
カプシド及びベクターの吸光係数(ε)を用いて、UV検出器によって測定したときの280nmの試料の吸光度測定値から濃度を計算する。吸光係数は、空のカプシド及び被包されていないベクターゲノムの複数の吸光度測定値から求められる。例えば、AAV5カプシド及びベクターゲノムの吸光係数は、下記のとおり提供される。
【数20】
【0212】
屈折率及びUV吸光度の両方の測定値を用いることにより、試料中のカプシド及びベクターゲノムの質量を計算することができる。
【0213】
以下の式を適用することにより、屈折率の変化からカプシド及びベクターゲノムの質量を計算する。
【数21】
【数22】
【0214】
Δnは、示差RI検出器によって検出されるとおりの屈折率の変化である。
【0215】
(dn/dc)vは、AAVベクターの屈折率増分である。
【0216】
(dn/dc)cpは、カプシドの屈折率増分である。
【0217】
(dn/dc)DNAは、ベクターゲノムの屈折率増分である。
【0218】
xは、カプシドの質量分率である。
【0219】
以下の式を適用することにより、吸光度の変化からカプシド及びベクターゲノムの質量を計算する。
【数23】
【数24】
【0220】
A280は、UV検出器によって検出されるとおりの吸光度である。
【0221】
εvは、AAVベクターの吸光係数である。
【0222】
Lは、光路長である。
【0223】
εcpは、カプシドの吸光係数である。
【0224】
εDNAは、ベクターゲノムの吸光係数である。
【0225】
xは、カプシドの質量分率である。
【0226】
以下の式に示されるとおり、屈折率及びUV吸光度から導き出される計算値は、互いに相関する。
【数25】
【数26】
【0227】
MALS検出器は、静的光散乱法を用いてAAV粒子のモル質量及び濃度を測定する。以下の式に示されるとおり、0°で散乱する光は、AAV粒子のモル質量及び質量濃度に正比例する。
【数27】
【0228】
I(θ)散乱は、光散乱の強度である。
【0229】
Mは、AAV粒子のモル質量である。
【0230】
cは、AAV粒子の濃度である。
【0231】
dn/dcは、AAV粒子の屈折率増分である。
【0232】
MALS検出器は、動的光散乱によって粒子の平均サイズも測定することができる。動的光散乱では、散乱角に伴う散乱光の変化は、散乱させる分子の平均サイズに比例する。粒子の平均サイズは、流体力学半径(Rh)及び回転半径(Rg)の測定値を含む。Rhは、観測下の分子と同じ速度で拡散する均等な剛体球の半径と理解される。Rgは、分子の中心から分子内の各質量要素までの質量加重平均距離と理解される。
【0233】
図10の(A)及び(B)は、カプシド及びカプシドに封入されたDNAのモル質量を示す。
図10の(A)及び(B)に示されるピークは、
図8A及び
図8Bに示されるピークと相関し、ここで、主ピークは、単量体AAV粒子を表し、小さいピークは、AAV粒子凝集体を表す。
図10の(A)及び(B)は、単量体AAV粒子の粒径が実質的に一様であることも示す。
図10の(C)及び
図11は、AAV粒子の粒径及び分子量を示す。AAV粒子の特性のキャラクタリゼーションに加えて、この情報は、AAV調製物の力価の定量化にも有用である。
図11でも指摘されるとおり、試料中の軽いカプシドの割合は、分析超遠心法によって0%であることが確認された。
【0234】
SEC-MALS分析による調製物のAAV力価の定量化:試料が空のカプシドを含まないと仮定して、以下の式を用いてカプシド及びベクター濃度を計算することができる。
【数28】
【数29】
【0235】
図12は、
図11に示されるとおりのMALS分析からの力価計算を示す。試料中の軽いカプシドの割合は、分析超遠心法によって0%であることが確認された。
【0236】
空のカプシドを含む調製物のAAV力価の定量化:
図13A、
図13B及び
図13Cは、試料中の核酸の総質量が空のカプシド濃度の増加とともに線形的に減少することを明らかにしている。特に、
図13Cは、空のカプシド濃度の増加とともに線形的に減少する核酸画分の総質量を示す一方、
図13A及び
図13Bは、空のカプシドの量の増加及びフルカプシドの量の低下とともにタンパク質分率が増加し、タンパク質画分の総質量は同じままであることを示す。空のカプシドの濃度が核酸の総質量に効果を有するため、出発材料中の空のカプシドの割合を決定しなければならない。
ベクターゲノムの重量をカプシドの重量と合わせると、AAV粒子の総分子量に等しい。例えば、カプシド分子量が3.73×10
6キロダルトン(kDa)であり、4.9キロベース(kb)のベクターゲノムの分子量が1.53×10
6kDaであるAAV粒子は、5.23×10
6kDaの理論的分子量を有する。しかし、
図14Aに示されるとおり、AAV粒子の分子量測定値は、4.71×10
6kDaである。
図14B及び
図14Cにも示されるとおり、カプシド及び4.9kbベクターゲノムの分子量測定値は、3.73×10
6kDA及び0.96×10
6kDaである。
【0237】
図15及び
図16は、ベクターゲノムの分子量が異なると、試料のカプシド濃度が異なることを明らかにする例を示す。
【0238】
分子量の理論値と計算値との相違に取り組むために、AAV粒子のパッケージング効率に注目することができる。例えば、4.9kbベクターゲノムの分子量計算値(即ち0.96メガダルトン(MDa)及びAAV粒子の理論的パッケージング限界(即ち4.7kbベクターゲノムの理論的分子量又は1.44MDa)に基づいてパッケージング効率を決定するため、以下の式が提供される。
【数30】
【0239】
SEC-MALSによって決定されるパッケージング効率の予測がつかないことを所与として、以下の式は、試料中の空のカプシドに関する補正を提供する。
【数31】
【0240】
以下の式から、カプシド及びベクター濃度が計算される。
【数32】
【0241】
図17Aは、試料中のフルカプシド(即ちAAV粒子)の総濃度が空のカプシド濃度の増加とともに線形的に減少することを明らかにしている。特に、
図17Cは、空のカプシド濃度の増加とともにベクターゲノム濃度が線形的に減少することを示す一方、
図17Bは、空のカプシド濃度が増加してもカプシド濃度が同じままであることを示す。
【0242】
異なる試料のサイズ分布の分子量の分析:
図18Aは、空のカプシドの関数としてカプシドの分子量は一定のままであったが、カプシドに封入されたベクターゲノムの分子量が変化したことを明らかにしている。
図18Bは、カプシドのR
hが一定であることと、R
gが試料中の空のカプシドのパーセント濃度に依存することとを明らかにしている。
【0243】
これらの計算に基づいて、
図19に示されるとおり、空のカプシドのパーセント濃度の推定値を決定することができる。
図20A、
図20B、
図20C及び
図20Dに示されるとおり、これらの推定値は、従来のアッセイと同等である。
【0244】
実施例3:遺伝子療法に用いられるウイルスカプシドの生物物理学的安定性研究
【0245】
材料及び方法
緩衝液成分は、全てJ.T.Baker(Center Valley、PA、USA)から購入した。緩衝液は、Milli-Q(登録商標)EMD Milliporeシステム(Burlington、MA、USA)の精製水で調製し、0.2μmポリエーテルスルホン膜(Nalgene、Rochester、NY、USA)でろ過した。
【0246】
ウイルス試料:インハウスのレンチウイルス(LV)pH試験試料は、300mM NaCl及び2mM MgCl2を含有するクエン酸塩(pH4.00)、リン酸塩(pH6.00及びpH8.00)、トリス(pH7.40)又は炭酸塩(pH10.00)緩衝液で透析した一方、レンチウイルス塩試験試料は、所望の塩濃度(0~1M)の2mM MgCl2含有トリス緩衝液(pH7.40)で透析した。透析は、全て0.1mL、20kDA分子量カットオフSlide-A-Lyzer(商標)MINI透析装置(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)で15分の時間をかけて実施した。この方法では、試料が僅かに希釈されたが、透析装置によるLV粒子のサイズ又は構造の変化は、認められなかった(データは示さず)。アデノ随伴ウイルス(AAV)試料は、内部プロセス開発ランから入手するか(以下で「供給源A」と称する)、又はViGene Biosciences(Rockville、MD、USA)から取得した(以下で「供給源B」と称する)。
【0247】
LV生物物理学的キャラクタリゼーション方法開発:予備的SEC実験のため、TSKgel G5000PWXLカラム(300.0mm×7.8mm内径)に100μLのLV試料を注入し、2×PBS、pH7.40緩衝液を使用して0.300mL/分の流量でイソクラティック溶出を行った。ChemStation OpenLab LCシステムソフトウェアを用いると、時間に応じて溶出画分が自動的に回収され、17~41分で各画分について2分間回収された。方法の最適化には、2つのカラム、3つの流量及び9つの緩衝液の評価が含まれ、表Bにまとめた。予備実験に使用したTSKgel G5000PWXLカラムを選択し、トリス緩衝液移動相(20mMトリス、300mM NaCl、2mM MgCl2、pH7.40)で0.300mL/分の流量とした。実験は、全て22~25℃で実施した。
【表2】
【0248】
サイズ排除クロマトグラフィーと多角度光散乱法の併用(SEC-MALS):自動熱制御型1290バイアルサンプラーとバイナリポンプとからなるAgilent Series 1260 Infinity II LCシステム(Agilent、Waldbronn、Germany)でSE-HPLC実験を実施した。280nm及び260nmのUV吸光度を多波長ダイオードアレイ検出器によって検出し、且つHPLCシステムの制御及びUV吸光度データの分析には、ChemStation OpenLab LCシステムソフトウェアを使用した。本発明者らのLCシステムと併用して、DAWN HELEOS 18角度検出器(Wyatt、Santa Barbara、CA、USA)及びOptilab rEX屈折率検出器(Wyatt、Santa Barbara、CA、USA)によってMALS信号を検出した。MALSデータの取得及び分析には、Astra 7.1.2ソフトウェアを使用した。レンチウイルス実験について、25μLの試料をTSKGel G5000PWXLカラムにトリス緩衝液移動相で0.3mL/分の流量として注入した(上記に記載されるとおり)。試料は、全てフリーザーから出して25℃で解凍した後に直接注入した。いずれも注入後に22~25℃で実施した。アデノ随伴ウイルス粒子実験について、25μLの試料を注入し、イソクラティック溶出に2×PBS+10% EtoHを使用して、1mL/分の流量を適用した。試料は、全て注入前にフリーザーから出して37℃で解凍した。いずれも注入後に22~25℃で実施した。
【0249】
遠紫外円偏光二色性(CD)分光法:25℃でサーモスタット制御された、6位置キュベットホルダーを備えたJasco J-1500分光偏光計(Jasco、Oklahoma City、OK、USA)を使用して遠紫外CDスペクトルを収集した。レンチウイルス実験について、0.1mm経路長キュベットに30μLの試料をロードした一方、アデノ随伴ウイルス実験について、1mm経路長キュベットに170μLの試料をロードした。データは、全て190nm~250nm波長範囲において0.2nmの分解能、走査速度50nm/分、応答時間4秒及び帯域幅2nmで収集した。提示されるスペクトルは、10回の連続した測定の平均値である。
【0250】
動的光散乱法(DLS):UNcleオールインワン生物調製物安定性スクリーニングプラットフォーム(UNchained Labs、Pleasanton、CA、USA)を使用して、Freeformモード下で設計した段階的温度ランプの経過にわたるDLS測定値を記録した。このフリーフォーム法は、可能な限り短い時間で25~95℃まで2度ずつ増分する測定が実現するように設計した。Uniウェルに8.8μLの試料をロードした後、直接測定した。各試料について各5秒で4回のDLS測定を取った。試料は、全てトリプリケートで測定した。
【0251】
内部カプシド蛍光:UNcle機器の「Tm&Tagg with optional DLS」アプリケーションを使用して、露出したトリプトファン又はチロシンカプシドタンパク質残基の内部蛍光を記録した。473nmの波長のレーザー励起光を使用して、500~700nmの波長の蛍光発光スペクトルを記録した。Uniウェルに8.8μLの試料をロードし、25から95℃まで2.5℃ずつ増分する段階的熱ランプで加熱した。試料は、全てトリプリケートで測定した。
【0252】
外部カプシド蛍光:UNcle機器の「Tm With SYPRO」アプリケーションを使用して、試料の外部蛍光を記録した。リン酸緩衝液で推奨ワーキング濃度に希釈したSYBR Gold核酸色素(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)を各試料に加えた後、直ちに8.8μL Uniウェルにロードした。内部蛍光実験で使用したのと同じ励起/発光波長及び温度プログラムに従った。測定は、全てトリプリケートで行った。温度の関数としての蛍光強度をボルツマン方程式に当てはめて、最も低い変性温度を決定した。転移温度値は、転移の中点又は変曲点に対応する。
【0253】
アルカリアガロースゲル電気泳動:被包されたゲノムのサイズ分布を0.8%アガロースゲル電気泳動によりGelRed核酸ゲル染色剤(Biotium)で染色し、Chemidocイメージングシステムを使用してUV光下で視覚化して確認した。アガロースゲルは、0.8g SeaKem LEアガロースを100mL 1×アルカリ性緩衝液(50mM NaOH、1mM EDTA)中に溶解して調製した。電気泳動前、1.0E+11vgの試料を1.5μL 10%SDS(Ambion)及び7.5μL 6×アルカリ性ゲルローディング色素(Alfa Aesar)に加え、1×アルカリ性緩衝液で25μLにした。トリプリケートのランのために、7.8μLの1kbラダー(New England Biolabs)を6.3μL 10%SDS、30μL 6×アルカリ性ローディング色素及び30.95μLの1×アルカリ性緩衝液に加えた。18μLの試料及びラダーをゲルにロードし、それを、52V/cmを用いて3.5時間分離させた後、中和緩衝液(1Mトリス-HCl、1M NaCl、pH7.40)による10分間の洗浄を3回行った。ゲル上のDNAをGelRed溶液(30μL GelRed、20mL中和緩衝液、180mL Milli-Q H2O)で30分間染色し、続いてMilli-Q H2Oによる10分間の洗浄を3回行った。DNAは、ChemidocイメージングシステムでGelRed読み取り設定を用いて視覚化した。
【0254】
結果
サイズ排除クロマトグラフィーと多角度光散乱の併用によるレンチウイルス粒子の定性的及び定量的キャラクタリゼーション
Steppert et al.(J.Chromatogr.1487:89-99,2017)において以前に概説されている、ウイルス様粒子をキャラクタリゼーションする方法を出発点として用いて、LV粒子を生物物理学的に分析するSEC-MALS方法を開発した。この方法により、LV粒子を定性的及び定量的に評価することが可能となり、LV粒子力価を迅速に推定するための新規の再現性のある方法が提供された。
【0255】
100μLの粗LV試料及び精製LV試料の両方をTSKgel G5000PWXLカラムに注入することにより、予備的SEC実験を実施した(
図21)。pH7.40の2×PBSを溶出緩衝液として使用し、0.3mL/分の流量を適用した。SEC溶出プロファイル、280nmのUV吸光度によって検出される。画分1~12は、精製LV試料の注入後に収集されたものであり、丸で囲んだ画分をp24及びddPCR分析に選択した。これらの分析により、19分の目盛り辺りにあるピークによって表される、カラムの空隙容量中に溶出するLV粒子の存在が確認された。25~45分の残りのピークは、タンパク質又は核酸試料不純物を表す。
【0256】
粗LV SECプロファイルの初期検査から、実質的な試料不均一性が明らかとなり、25~40分の溶出時間のピークの分解能は、最小限であった。しかしながら、精製LV SECプロファイルでは、これらのピークが著しく低下した。メガダルトンサイズ範囲というLVの大きさを考えれば、LV粒子は、19分の目盛り辺りの初期ピークによって表される、保持されない大型分子が溶出するところであるカラムの空隙容量内に溶出するであろうことが予想された。実際に、この時点で溶出するLV粒子の存在は、精製LV注入の様々な溶出画分(
図1~3、
図6及び
図9)のp24及びドロップレットデジタルPCR(ddPCR)分析によって確認された(表C)。
【表3】
【0257】
選択された画分のp24 ELISA分析から、空隙容量ピークに対応した、2番目の画分のp24濃度が最も高いことが明らかになった(
図21及び表C)。これらの結果と一致して、ddPCR画分分析により、画分2及び3のLV RNA濃度が最も高いことが確認され(表D)、空隙容量ピークにおけるLV粒子の溶出が更に裏付けられた。25~45分の残りのUVピークは、残留タンパク質及び核酸不純物の溶出を表すものと考えられる。約19分後に溶出する1番目のピークによって表されるLV溶出の同定に伴い、続く方法開発は、分解能の亢進及びこのピークと残りの不純物ピークとの分離に焦点を置いた。
【0258】
LVクロマトグラフィー法を最適化するために、様々なカラム、流量及び緩衝液(表Bにまとめる、実施例1)を評価した。カラムスクリーニングを行ったが、他の試料不純物の溶出との空隙容量における有効なLV分離のため、予備実験に使用した元のTSKgel G5000PWXLカラムを最終的に選択した。加えて、流量が0.300mL/分を超えて増加すると、LVベクターと不純物溶出との間の時間が短くなり、ピーク分離が最小限になることが分かった(データは示さず)。結果として、予備実験で適用した元の0.300mL/分流量も選択して先に進めた。カラムへのベクターの吸着を最小限に抑えつつ、LVベクター安定性を最大化することを目的として緩衝液をスクリーニングした。この均衡を見出すことは、ウイルスベクタークロマトグラフィーの最適化において大きい課題となる。LV試料添加剤は、ベクター構造を安定化させる役割を果たし得る一方、添加剤は、ベクター-カラム疎水性相互作用に対して効果を発揮し、従ってカラムへのベクター吸着に影響を与えることもある。
【0259】
本研究では、緩衝液成分としてNaCl、MgCl
2及びスクロースを評価した。細胞質ゾルのpHに対応するpH7.40が好ましいため、異なるpH値は、スクリーニングしなかった。リン酸塩が金属イオンなどの試料添加剤と相互作用し易いことを所与として、緩衝液としては、予備実験で使用したPBSよりむしろトリスも評価した。この緩衝液スクリーニングプロセスにより、3つの注目すべき観察結果が明らかになった。第一に、移動相にエタノールを加えると、最小限(約10%)でもLV UVピーク信号が大幅に低下したことから(データは示さず)、アルコールの存在下では、LVベクターは、分解、凝集又は沈殿する傾向があり得ることが示唆される。第二に、カラムへのLVベクターの吸着を防止するには、NaCl濃度が300mM未満のときのLV UVピーク信号の喪失及び試料ピーク保持の増加からも明らかなとおり、少なくとも300mMのNaClが必要であった(
図22)。第三に、MgCl2はUV吸光度信号に影響を与えなかったが、移動相にスクロースが存在すると、相当量の吸着及びピーク保持が生じた(データは示さず)。これらの観察結果に照らせば、TSKgel G5000PWXLカラムに0.300mL/分の流量で適用されるpH7.40の300mM NaCl及び2mM MgCl2を含有する20mMトリス緩衝液は、全ての続くLVクロマトグラフィー実験に選択されるパラメータであった。
【0260】
LV生物物理学的キャラクタリゼーション方法を開発して、利用可能なデータの範囲を広げる手段としてSECをMALSと併用することについて評価した。上記に概説したクロマトグラフィーパラメータに従い、40μLの精製LVをトリプリケートで別々の日に注入して、平均SEC-MALSプロファイルを入手した(
図23A及び
図23B)。SEC UVプロファイルには、4つの識別可能なピークが観察されたが(
図23A)、MALS溶出プロファイルには、1つの優勢なピークのみが観察され、注目すべきことに、これは、LV SEC溶出ピークに対応した(
図23B)。
【0261】
LV粒子は、その大きいメガダルトンサイズに起因して光をかなり散乱すると予想される。そのため、理論的には、LV粒子の溶出は、大きいMALSピーク(17分の目盛り辺り)によって表されることになる。実際、SEC溶出プロファイルには、空隙容量ピークに対応するそのようなピークが存在し、この時点でのLV粒子の溶出を示す先に報告したp24及びddPCR結果が更に裏付けられる。加えて、SEC溶出プロファイルには、不純物ピーク(ピーク2~4)に対応するMALSピークがなく、それらの不純物が小さいタンパク質又は核酸不純物であり、あまり多くの光を散乱させることができないことが指摘される。
【0262】
優勢なMALSピークのモル質量分析では、MALSピークの前半にかけたモル質量の下落によって指示されるとおり、カラムの空隙容量にLVベクター粒子とともに溶出する高次種の存在が示された。このデータは、空隙容量ピークの後半によって表される2番目の溶出画分にp24及びLV RNAコピーの大多数を検出したp24及びddPCR分析に対応する(
図21及び表C)。重要なことに、優勢なMALSピークの後半の初期定量分析では、この時点で溶出する粒子は、LV粒径の文献値と一致する平均分子量及び半径を有すること明らかになった(表D)。SEC、p24、ddPCR及びMALS分析結果は、全てが空隙容量ピークの後半にLV粒子の溶出を示したことに伴い、続く方法開発は、MALS数密度手順を利用して、この時間フレームで溶出するLV粒子の力価推定を実現することに焦点を置いた。
【表4】
【0263】
LV溶出ピークが同定されたことに伴い、線形性試験によってMALSによるLV粒子の定量化を評価した。10μL、20μL、40μL及び80μLのLV試料容積をトリプリケートで別々の日に注入し、MALS数密度手順を用いて評価した。MALSピークは、注入量に比例し(
図24A)、且つ初期MALS分析及び文献値と一致して、17分辺りに溶出したLV粒子の平均分子量及び半径は、それぞれ1.27E+08±0.06Da(n=10)及び62.50±3nm(n=12)であった。MALS検出器によって分析したLV粒子のサイズは、注入間で一貫性を保ったが、検出された粒子の数は、試料容積とともに線形的に増加した(表E)。線形モデルの確認は、10μL~80μLのLV試料注入量間で95%信頼区間とともにF検定統計によって達成され、傾き平均値は、1.0×10
5であり、切片平均値は、1.1×10
-5であり、及び相関係数平均値は、0.9947であった(
図24B)。従って、先に進めると、試料不均一性及び分子量分布などの定性的試料情報と、溶液中のウイルス粒子の定量的情報、即ち直径、分子量及び数密度との両方を得るための有用な生物物理学的ツールとして、SEC-MALSが確立された。注目すべきことに、ウイルス粒子の直接的な定量化が可能であり、検量線が不要なこのMALS数密度手順は、ウイルス粒子力価を迅速に推定する新規の信頼性の高い方法であることが示された。
【表5】
【0264】
レンチウイルスのpH安定性研究
SEC-MALSベースの方法を開発し、それがLV粒子を定性的及び定量的に判定する有用な手段であることが実証されたため、それを続くLV pH安定性研究に適用した。LV試料をそれぞれのpH緩衝液で透析した後、上記に記載した線形性試験と同じ条件下で直接注入した。幅広いpH範囲が網羅されるように、pH4.00、7.40及び10.00でのLVのSEC溶出プロファイルをモニタした。先述のとおり、インハウスddPCR及びp24分析により、注入後約17分のこのカラムからのLVの溶出が確認された。注目すべきことに、pH4.00でのLV粒子のSEC溶出プロファイルでは、LV 280nm UV主ピークがほぼ完全に失われた(
図25A)。更に、pH10.00でのLV粒子の溶出プロファイルでは、pH7.00と比較して、このピークが拡大した(
図25A)。これと同じ傾向がMALSプロファイルにも映し出されており(
図25B)、LV MALS突出ピークがpH10.00プロファイルでは拡大し、pH4.00プロファイルでは急減した。これらの観察結果と一致して、MALS粒子数及びサイズ分析(表F)では、それぞれpH7.40及び10.00と比較してpH4.00で粒子数が約15~約20分の1に減少したことが明らかになった。加えて、pH4.00の粒子流体力学半径は、一貫して保たれていた一方、pH4.00粒子の分子量は、文献値の約3分の1であった(表F)。pH7.40及び10.00でのLV粒子のサイズは、一貫していた一方、pH10.00での粒子数は、pH10.00 SEC-MALSプロファイルで観察されたピークサイズの増加と一致して約1倍増加した(表F、
図25A及び
図25B)。これらの結果から、低pHでベクターが分解されるのみならず、恐らく高pHでベクターの完全性が維持されることが示唆された。
【表6】
【0265】
pHがLV粒子分解に及ぼす効果を包括的に評価するため、円偏光二色性(CD)を用いて、pHがLV二次構造に及ぼす効果を決定した。CDスペクトルは、光及びキラル分子の累積的な相互作用から生じる。各タンパク質は、特定のCDシグネチャを有し、これは、主にタンパク質の全体的な三次元構造の影響を受ける。このため、CDは、タンパク質二次構造の分析に有用なツールとなる。更に、αヘリックス及びβシートなどのタンパク質の二次構造要素は、特徴的なCD信号を有する。αヘリックス優勢な構造は、約210nm及び220nmの2つの極小によって特徴付けられる一方、優勢にβシートからなる構造は、約220nmの1つの極小によって特徴付けられる。pH7.40でのLV粒子のCDデータは、αヘリックス優勢な立体構造を示唆している(
図26)。LV pH試料のSEC-MALS分析と一致して、このαヘリックス立体構造は、pH4.00のLV粒子で完全に失われており、完全なベクター分解が示唆される。しかしながら、pH10.00のLV粒子では、ベクタータンパク質の立体構造は、保持されており、高pHがLVベクターの完全性を保護する役割を果たすという考えを裏付けている。
【0266】
SEC-MALS及びCDの両方のデータの結果が一貫してpHとLV粒子の完全性との間の正の相関を示唆していることに伴い、温度の増加に伴うLV粒子の動的光散乱(DLS)をモニタすることにより、pHの関数としてのLV粒子の熱安定性を評価した。DLSは、溶液中に懸濁された粒子が拡散する速度を測定する。こうした粒子は、大きい粒子が小さい粒子よりも緩徐に拡散することを定めるブラウン運動を起こす。DLSは、粒子が拡散する速度に基づいて粒子のサイズを近似する。タンパク質のアンフォールディングは、その凝集と関連付けられるため、DLS融解曲線を用いてLV粒子の融点を決定することができる。換言すれば、LV粒子のタンパク質がアンフォールディングするにつれて、粒子が凝集し、まとまって光を散乱し、それがDLS機器によって1つの大きい粒子として認識される。従って、粒径の急な増加は、温度に伴うタンパク質のアンフォールディングを示している。注目すべきことに、pH4.00での透析後に直接DLS判定した粒子は、DLS機器の検出限界(>1000nm直径)を超えて既に凝集していた。このため、pH6.00、7.40及び10.00で透析したLV粒子のDLS融解曲線を報告する(
図27A及び
図27B)。これらの結果から、pH6.00のLV粒子の熱的安定性が最も低く、融解温度が約47℃であり、続いてpH7.40のものであり、融解温度が約53℃であり、及び最後にpH10.00が約61℃であったことが示された(
図27B)。興味深いことに、pH6.00及び7.40のLV粒子は、融解直後にDLS機器の検出上限に達したが、pH10.00のLV粒子がこの上限に達することはなかった(
図27A)。従って、SEC-MALS、CD及びDLSによって評価したとき、LV粒子の完全性は、3つ全ての技法から得られた結果が低pHでのベクター分解及び高pHでのベクター維持を示唆するとおり、pHと直接相関するように見える。
【0267】
レンチウイルス塩安定性研究
pHに加えて、pHの関数としてのLV粒子安定性について、同じSEC-MALSベースの方法及び生物物理学的ツールを用いて評価した。LV試料をそれぞれの塩緩衝液で透析した後、上記に記載した線形性及びpH試験と同じクロマトグラフィー条件下で直接注入した。0mM、300mM及び1M NaClにおけるLVのSEC溶出プロファイルをモニタした。興味深いことに、pH安定性試験と異なり、塩濃度の関数としてのLV試料SEC-MALSプロファイルに大きい差は観察されなかった(
図28A及び
図21B)。同様に、優勢なMALSピーク間の分子重量の傾向は、イオン化条件間で一貫していた(
図28B)。加えて、3つ全てのイオン化条件でMALSによって決定されたLV粒子のサイズは、文献値と一致しており、塩濃度の増加とともにLV粒子数が僅かに増加した。
【表7】
【0268】
SEC-MALSを用いると、塩濃度がLV粒子分解に及ぼす効果は、明らかでなかったが、CDを用いて、イオン強度とともにLV二次構造が変化したかどうかを見た。SEC-MALS結果と一致して、3つ全てのイオン化条件でLV粒子についてαヘリックス優勢な構造が観察されたことから(
図29)、塩濃度がLV粒子の完全性に対していかなる即時的な効果も及ぼさないことが更に示唆される。
【0269】
イオン化条件は、SEC-MALS及びCDによって観察したとき、LV粒子の完全性に対していかなる即時的な効果も及ぼさなかったが、LV粒子の熱安定性に対するその効果を、DLS熱ランプを用いて評価した。興味深いことに、LV粒子の熱安定性は、塩濃度とともに増加することが分かった。0mM、300mM及び1M NaClで透析したLV粒子のDLS融解曲線を報告する(
図30A)。これらの結果から、0mM NaClのLV粒子の熱的安定性が最も低く、融解温度が約50℃であり、続いて300mM NaClのものであり、融解温度が約53℃であり、及び最後に1M NaClが約63℃であったことが示された(
図30B)。従って、LV粒子は、低イオン化条件で安定性が低く、高い塩濃度は、凝集傾向を減少させる一方、LV粒子安定性を増加させる役割を果たすように見える。
【0270】
アデノ随伴ウイルス5型熱的完全性研究
示差走査型蛍光定量法(DSF)を用いて、被包されたゲノムのサイズがAAVカプシドの熱安定性に及ぼす役割を研究した。この技法では、アンフォールディングしたタンパク質の疎水性領域に結合する蛍光色素(多くの場合にSYPRO-orange(商標))の存在下でカプシドを加熱する。カプシドタンパク質がアンフォールディングするにつれて、その疎水性ポケットが露出し、色素の結合が可能となり、蛍光が増加する。従って、蛍光の増加は、温度に伴うタンパク質のアンフォールディングの指標となる。この技法を用いて、被包されたゲノムのサイズに関係なく、AAV5カプシドの融解温度は、約89℃と報告されている。実際、類似の方法を用いると、空(被包されているゲノムがない)及びフル(ゲノムが被包されている)のrAAV5カプシドの融解温度は、これらの報告と一致した(
図31A)。これらの結果は、カプシドタンパク質のトリプトファン及びチロシン残基の内部蛍光を測定して入手した。タンパク質がアンフォールディングするにつれて、そのトリプトファン及びチロシン残基の溶媒への露出が増し、それによってその蛍光が増加する。従って、DSFと同様に、内部蛍光の増加は、温度に伴うタンパク質のアンフォールディングを意味する。これらの初期結果は、カプシドの熱安定性の決定においてゲノムサイズが意味を有さないことを裏付けるように見えたが、その後間もなく、CDを用いて、逆のことを裏付ける結果が達成された。空及びフルのカプシドの初期の代表的な遠紫外CDスペクトルは、210nm及び270nmで差を示した(
図31B)。空のカプシドのCDスペクトルは、顕著な210nmの極小がある、αヘリックス優勢な立体構造を示唆する曲線を呈し、それと比較して、フルカプシドは、むしろβシートを指し示す220nmに極小のある曲線を有した。意外ではないが、フル-カプシドのCDスペクトルは、DNAが光を吸収する270nmでの吸収を示し、これは、空のカプシドで観察されないものであった。注目すべきことに、空及びフルの両方のカプシドについてCDで入手された融解温度は、以前の報告と一致したが、フルカプシドについて、空のカプシドに見られない二相性の融解曲線が観察された(
図31C及び
図31D)。この二相性の曲線は、220nm(
図31C)及び270nm(
図31D)でCD楕円率をモニタしたときに観察された。これらの結果から、軽いカプシドと比較したフルカプシドの熱的完全性に関して更なる研究が必要となった。
【0271】
熱への曝露に伴う完全性について、空のカプシドとフルカプシドとの間に差があるかどうかを確かめるため、SEC-MALSを用いて、25℃~95℃の範囲において10℃間隔でインキュベートした両方のタイプのカプシドを評価した。カプシド試料をそれぞれの温度毎に30分間インキュベートした後、2×PBS+10%EtOH移動相で1.0mL/分の流量として直接注入した。25℃でインキュベートした後、両方のカプシドタイプとも、注入後11分辺りに優勢な280nm UVピーク(
図32A及び
図32B)及び対応するMALSピーク(図示せず)のある一様なSECプロファイルを呈した。このプロファイルは、空及びフルの両方のカプシドについて、35℃でインキュベートした後も変わらないままであったが、続く注入における熱の増加とともに、2つの極めて異なる傾向が観察された(
図32A、
図32B及び
図32C)。空のカプシドについて、45℃から75℃まで優勢なカプシドピークの段階的な約15%の低下が観察された(
図32A及び
図32C)。85℃でインキュベートした後、主ピークのパーセンテージは、元の約65%に下落し、次に95℃でインキュベートした後、ほぼ0%まで急落した(
図32A及び
図32C)。全く対照的に、フルカプシドの主ピークは、45℃でインキュベートした後に約20%下落し、次に65℃までに元の約10%まで急落した(
図32B及び
図32C)。空及びフルの両方のカプシドのUVプロファイルで観察された傾向は、MALS溶出プロファイルとよく類似していた(データは示さず)。核酸は、260nmの光を吸収する一方、タンパク質は、280nmを吸収するため、260nmと280nmとのUV溶出プロファイルの曲線下面積を比較して260:280比を求めることは、タンパク質-DNAカプシド複合体のキャラクタリゼーションにおいて有用なツールであり得る。温度の関数としてこの比をモニタすることにより、空のカプシドにないフルカプシドにおける興味深い転移が明らかになった。予想どおり、フルカプシドの当初の260:280比は、その被包されているゲノムに起因して、25℃で軽いカプシドよりもはるかに高かった(約1.4対約0.6)(
図32D)。しかしながら、空のカプシドの260:280比は、75℃まで一定のままであったが、フルカプシドについて、60℃辺りにこの比の下落が観察された(
図32D)。これらの結果から、フルカプシドにおける被包されたDNAの量がこの温度で減少したことが指摘され、カプシド構造の破壊及び続くDNA漏出の可能性が示唆された。これを更に探るため、MALSタンパク質コンジュゲート手順を用いて、空及びフルの両方のカプシドのタンパク質及び被包されたDNAの分子量を温度の関数として別々にモニタした。この分析により、空及びフルの両方のカプシドについてタンパク質カプシドの分子量が25℃から65℃まで一定のままであるのに対して(
図33A)、重いカプシドの被包されたDNAの分子量は、温度の関数として減少する(
図33B)ことが確認された。これらの結果から、ゲノムを含有するカプシドは、1)空のカプシドの破壊、及び2)カプシドタンパク質の融解よりもはるかに早い温度で破壊され、その被包されたDNAがこぼれ出すという考えが裏付けられた。重要なことに、SEC-MALSによって判定したときのフルカプシドの熱安定性で観察された傾向は、CD融解曲線で観察された二相性イベントと一致していたことから、90℃辺りでカプシドタンパク質が融解するはるかに前にカプシド破壊が起こる転移温度が存在することが指摘される。
被包されたゲノムの存在がカプシドの安定性に影響を与えるという考えを裏付けるエビデンスを得て、ゲノムサイズが熱的完全性に及ぼす効果を更に厳密にモニタするため、様々な一本鎖ゲノムサイズの外被をなすrAAV5カプシドを判定した。カプシドタンパク質が90℃で融解する前にカプシドの完全性が実際に損なわれた場合、DNAが溶液中に放出されるはずである。従って、カプシドの分解をモニタするため、SYBR Gold核酸色素を用いて外部カプシド蛍光をモニタした。この方法の背後にある前提には、カプシドから溶液中に吐き出されたDNAにSYBR Gold色素が結合することが含まれている(
図34A)。カプシドが壊れるにつれて、より多くのDNAがSYBR goldに結合することが可能となり、蛍光曲線の強度が増加する。従って、カプシド融解温度(DSF及び内部蛍光によって評価されるとおり)よりむしろ外部蛍光曲線を用いると、カプシドの破壊をモニタすることができる。この方法を試験するため、SYBR gold色素と混合したフル及び空の両方のrAAV5カプシドの蛍光を25℃から95℃まで測定した。予想どおり、フルカプシドの蛍光曲線は、温度とともに増加し(
図34B)、SYBR gold色素が吐き出されたDNAに結合したことが示された一方、空のカプシドの蛍光曲線は、SYBR goldが結合するDNAがないことに起因して、無視できる程度であった(データは示さず)。蛍光曲線下面積を温度の関数としてプロットすることにより、重いカプシドについて特徴的な傾向及び転移温度が観察され、これは、CD熱融解で観察された傾向と一致した(
図34C)。空のカプシドについて何らの傾向も観察されなかった(
図34C)。これらの結果は、約55℃のカプシド破壊が起こる転移温度の存在を更に示している。この方法を用いて、様々な一本鎖ゲノムサイズの外被をなすrAAV5カプシドを判定し、被包されたゲノムのサイズの関数としてのカプシドの転移温度に感知可能な差があるかどうかを決定した。SYBR Gold色素と混合した、ゲノムサイズが増加する順の様々な一本鎖ゲノムの外被をなすカプシド試料1~7(
図35A)の外部蛍光を温度の関数として評価した。顕著なことに、カプシド転移温度は、ゲノムサイズと逆相関した(
図36A及び
図36B)。即ち、カプシド試料1~7間で転移温度の線形傾向が観察され、転移温度は、試料1のカプシドが最も高く、試料7のカプシドが最も低かった。これらの結果は、大きいゲノムの外被をなすカプシドが、小さいゲノムの外被をなすカプシドよりも熱的安定性が低いことを示している。
【0272】
ゲノムサイズがrAA5カプシドの完全性に及ぼす効果を更に評価するため、試料2、4及び6からのカプシド(広範囲のゲノムサイズを包含する)の熱安定性をSEC-MALSで評価した。カプシド試料を25℃、55℃及び75℃で30分間インキュベートした後、SEC-1000 Sepaxカラムに2×PBS+10%EtOH移動相で1.0mL/分の流量として直接注入した。25℃でインキュベートした後、全てのカプシドが一様なSECプロファイルを呈し、注入後11分辺りに優勢な280nm UVピーク(
図37A、
図37B及び
図37C)及び対応するMALSピーク(図示せず)があった。しかしながら、55℃でインキュベートした後、これらの3つのカプシド試料の各々の間に優勢なUVピークの面積の差が観察された(
図37A、
図37B及び
図37C)。試料2カプシド(最も小さいゲノムの外被)について、主UVピークの約29%の低下が観察された一方、試料4カプシドについて約38%の低下が観察され、試料6カプシド(最も大きいゲノムの外被)について、約73%の大幅な低下が観察された(
図37D)。75℃でインキュベートした後、3つのカプシドの全ての主UVピークは、元の約10%未満に下落した。これらの結果は、3つのカプシド構造がいずれも75℃より前に壊れたが、カプシド破壊の発生が、その被包されたゲノムのサイズによって調節されるとおり、3つ全てについて異なったことを示している。
【0273】
例示的な実施形態が上記に記載されているが、これらの実施形態が本発明の可能な全ての形態を記載することは意図されない。むしろ、本明細書で使用される文言は、限定でなく、むしろ説明の文言であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な変更形態がなされ得ることが理解される。加えて、様々な実施形態の特徴を組み合わせて、本発明の更なる実施形態を形成し得る。
例示的な実施形態が上記に記載されているが、これらの実施形態が本発明の可能な全ての形態を記載することは意図されない。むしろ、本明細書で使用される文言は、限定でなく、むしろ説明の文言であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な変更形態がなされ得ることが理解される。加えて、様々な実施形態の特徴を組み合わせて、本発明の更なる実施形態を形成し得る。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] ウイルス粒子をキャラクタリゼーション及び定量化する方法であって、
カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子を含有する試料をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析するステップと;
前記SEC分析から、
前記試料中の前記ウイルス粒子の凝集を定量化すること、
前記試料中の核酸及び/又はタンパク質不純物の濃度を定量化すること、
前記カプシド及び/又はベクターゲノムの重量平均分子量を決定すること、及び
前記試料中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドの濃度を定量化すること
の少なくとも1つを決定するステップと
を含む方法。
[2] 前記SEC分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、約260ナノメートル(nm)及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することとを含む、実施形態1に記載の方法。
[3] 前記画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、前記画分の前記少なくとも1つにおいてウイルス粒子を同定することを更に含む、実施形態2に記載の方法。
[4] カプシドの構造的完全性をモニタリングする方法であって、
カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子を含む調製物からの複数の試料をSECによって分析するステップであって、前記試料の各々は、他と異なる特性を有するように修飾されている、ステップと;
前記SEC分析から、前記試料の各々における前記カプシドの構造的完全性をモニタリングするステップと
を含み、前記試料間のタンパク質及び核酸濃度の変化は、前記カプシドの構造的完全性の変化と相関する、方法。
[5] 前記SEC分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することとを含む、実施形態4に記載の方法。
[6] 前記画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、前記画分の前記少なくとも1つにおいてウイルス粒子を同定することを更に含む、実施形態5に記載の方法。
[7] 前記カプシドの構造的完全性に基づいて、25℃における時間長さの前記試料の貯蔵安定性を決定することを含む、実施形態4に記載の方法。
[8] ウイルス粒子をキャラクタリゼーション及び/又は定量化する方法であって、
カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子の調製物の試料をSEC及びサイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱法(SEC-MALS)によって分析するステップと;
前記SEC及びSEC-MALS分析から、
前記調製物中の前記ウイルス粒子の凝集を定量化すること、
前記調製物中の核酸及び/又はタンパク質不純物の濃度を定量化すること、前記カプシド及びベクターゲノムの重量平均分子量を決定すること、及び/又は
前記調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及びカプシドの濃度を定量化すること
の少なくとも1つを決定するステップと
を含む方法。
[9] 前記SEC分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することとを含む、実施形態8に記載の方法。
[10] 前記画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、前記画分の前記少なくとも1つにおいてインタクトなrAAV粒子を同定することを更に含む、実施形態9に記載の方法。
[11] 前記SEC-MALS分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、画分の屈折率、紫外スペクトル内の波長における前記画分による光吸収及び多角度光散乱分析(MALS)を使用した前記画分による光散乱の強度の少なくとも1つを測定することとを含む、実施形態8に記載の方法。
[12] 前記調製物中における、被包されたベクターゲノムがない前記ウイルス粒子及び/又は前記カプシドのサイズ分布を動的光散乱分析によって決定することを更に含む、実施形態8に記載の方法。
[13] 前記ウイルス粒子の前記サイズ分布は、前記ウイルス粒子の回転半径(Rg)及び/又は流体力学半径(Rh)である、実施形態12に記載の方法。
[14] 前記調製物中における、被包されたベクターゲノムがないウイルス粒子及びカプシドの濃度を前記定量化することは、被包されたベクターゲノムがない前記ウイルス粒子及び/又は前記カプシドのRg及びRhを動的光散乱分析によって決定することを含み、Rg対Rhの比は、前記調製物中のウイルス粒子のパーセンテージ濃度と相関する、実施形態8に記載の方法。
[15] カプシドの構造的完全性をモニタリングする方法であって、
カプシド内に被包されたベクターゲノムを有するウイルス粒子を含む調製物からの複数の試料をSEC及びSEC-MALSによって分析するステップであって、前記試料の各々は、他と異なる特性を有するように修飾されている、ステップと;
前記SEC及びSEC-MALS分析から、前記試料の各々における前記カプシドの構造的完全性をモニタリングするステップと
を含み、前記試料間のタンパク質及び核酸濃度の変化は、前記カプシドの構造的完全性の変化と相関する、方法。
[16] 前記SEC分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、約260nm及び約280nmの波長における画分による光吸収を測定することとを含む、実施形態15に記載の方法。
[17] 前記画分の少なくとも1つが、1.13~1.75未満の、第1の波長対第2の波長(第1の波長:第2の波長)の吸光度比を呈するとき、前記画分の前記少なくとも1つにおいてインタクトなrAAV粒子を同定することを更に含む、実施形態16に記載の方法。
[18] 前記SEC-MALS分析は、前記試料をサイズ排除クロマトグラフィーによって分画することと、画分の屈折率、紫外スペクトル内の波長における前記画分による光吸収及びMALSを使用した前記画分による光散乱の強度を測定することとの少なくとも1つを含む、実施形態15に記載の方法。
[19] 前記カプシドの構造的完全性に基づいて、25℃における時間長さの前記試料の貯蔵安定性を決定することを含む、実施形態15に記載の方法。
[20] 前記定量化するステップ及び決定するステップは、検量線を必要としない、実施形態8~19のいずれかに記載の方法。
[21] 前記ウイルス粒子は、アデノ随伴ウイルス粒子又はレンチウイルスウイルス粒子である、実施形態1~20のいずれかに記載の方法。
[22] SEC又はSEC-MALS分析前に、前記試料又は複数の試料を分析超遠心法によって分析して、封入されたベクターゲノムがないウイルス粒子及び/又はカプシドを同定することを更に含む、実施形態1~21のいずれかに記載の方法。