(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119853
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ヒトTim-3に対するモノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240827BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K16/28 ZNA
C12N15/13 ZNA
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024083589
(22)【出願日】2024-05-22
(62)【分割の表示】P 2021502951の分割
【原出願日】2019-08-21
(31)【優先権主張番号】62/720,234
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520224085
【氏名又は名称】アルバート アインシュタイン カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】ALBERT EINSTEIN COLLEGE OF MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】シンシン・ジャン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗ヒトTim-3IgVドメイン特異的抗体及びその断片、並びにそのような抗体及び/又は断片の使用方法を提供する。
【解決手段】抗ヒトTim-3IgVドメイン特異的抗体及びその断片であって、ヒトTim-3(T細胞免疫グロブリンムチンドメイン含有3)のIgVドメイン、若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する、抗体又はその抗原結合断片が特定の配列を含む、抗ヒトTim-3IgVドメイン特異的抗体及びその断片を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトTim-3(T細胞免疫グロブリンムチンドメイン含有3)のIgVドメイン若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
a) GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1);
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3)
若しくは
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3)
の1つ以上を含む重鎖、及び
b) KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3);
若しくは
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2);
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
の1つ以上を含む軽鎖
を含む抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
ヒトTim-3のIgVドメイン又はヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1);
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3)
を含む重鎖、及び
KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3)
を含む軽鎖
を含む抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
ヒトTim-3のIgVドメイン又はヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3)
を含む重鎖、及び
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2);
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
を含む軽鎖
を含む抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記軽鎖及び前記重鎖のフレームワーク領域が、ヒトのフレームワーク領域と85%以上の同一性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
前記軽鎖及び前記重鎖のフレームワーク領域が、ヒトのフレームワーク領域である、請求項4に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
KDが10.0nMより小さい親和性でヒトTim-3のIgVドメイン又はヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
KDが0.5nMより小さい親和性でヒトTim-3のIgVドメイン又はヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する、請求項6に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
ヒトFc領域の配列を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
ヒトTim-3とデキサメタゾン処理ジャーカットT細胞に発現するホスファチジルセリンとの結合を阻害する、請求項6~8のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
1つ以上の
GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1)
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2)
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3)
を含む重鎖を含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項11】
1つ以上の
KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1)
WASTRES(配列番号5)(CDR2)
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3)
を含む軽鎖を含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項12】
1つ以上の
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1)
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2)
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3)
を含む重鎖を含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項13】
1つ以上の
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1)
SASNRYT(配列番号11)(CDR2)
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
を含む軽鎖を含む、請求項6~9又は12のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項14】
前記抗体又はその抗原結合断片は、キメラであるか、又はヒト化されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項15】
前記抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、scFv、Fab断片、Fab’断片及びF(ab)’断片からなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の単離された抗体又はその抗原結合断片。
【請求項16】
1つ以上の
GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1);
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3)
を含む抗体の重鎖をコードする核酸。
【請求項17】
1つ以上の
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3)
を含む抗体の重鎖をコードする核酸。
【請求項18】
1つ以上の
KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3)
を含む抗体の軽鎖をコードする核酸。
【請求項19】
1つ以上の
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2)
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
を含む抗体の軽鎖をコードする核酸。
【請求項20】
請求項14~17のいずれか一項に記載の核酸の1つ以上を含む宿主細胞。
【請求項21】
治療薬と連結又は結合した、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項22】
前記治療薬が、細胞障害性薬剤、放射性同位体、免疫調節剤又は二次抗体である、請求項21に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項23】
ヒトTim-3を阻害するのに有効な量の、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片、又はそのヒトTim-3結合断片を投与することを含む、対象のヒトTim-3を阻害する方法。
【請求項24】
前記対象はがんに罹患している、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
Tim-3が媒介するT細胞の抑制を阻害するのに有効な量の、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片、又はそのヒトTim-3結合断片を投与することを含む、対象のTim-3が媒介するT細胞の抑制を阻害する方法。
【請求項26】
対象のがんを治療するのに有効な量の、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を投与することを含む、対象のがんを治療する方法。
【請求項27】
前記がんがヒトTim-3陽性のがんである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
対象のヒトTim-3陽性細胞を検出する方法であって、
ヒトTim-3陽性細胞を標識するのに有効な量の検出可能なマーカーが結合した請求項1~15のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を投与し、
前記対象における前記標識の存在を検出し、
これにより、対象のヒトTim-3陽性細胞を検出することを含む、方法。
【請求項29】
前記標識を画像化により検出する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞ががん細胞である、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記がんが血液悪性腫瘍である、請求項24、26、27又は30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記がんが固形腫瘍を含む、請求項24、26、27又は30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記対象が、抗PD-1、抗PD-L1又は抗CTLA4療法を受けている、請求項24、26、27又は30~32のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願第62/720,234号(出願日:2018年8月21日)の利益を主張し、その内容は全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出した配列表を含み、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。2019年8月21日に作成したASCIIの写しはSequenceListing.txtというファイル名で、サイズは15.6KBである。
【背景技術】
【0003】
本明細書で参照する全ての刊行物、特許、特許出願及び図書の開示は、本発明に関連する技術をより完全に説明するために、それらの全体が参照としてこの明細書に組み込まれる。
【0004】
A型肝炎ウイルス細胞受容体2(HAVCR2)としても知られるT細胞免疫グロブリンムチンドメイン含有3(Tim-3)はI型膜貫通タンパク質であり、IFNγ産生T細胞、Foxp3+ Treg細胞、及びマクロファージや樹状細胞などの自然免疫細胞で発現する抑制性受容体である。Tim-3は、そのリガンドと相互作用することにより免疫応答を抑制することができる。Tim-3は、N末端免疫グロブリン(IgV)ドメイン、O結合型グリコシル化部位を含むムチンドメイン、N結合糖を有する膜貫通ドメインとムチンドメインとの間にあるストークドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質尾部を含む(Monney 2002)。本発明者の研究室は、以前に、Tim-3のIgVドメインが炭水化物に結合することができる機能ドメインであることを報告した(Cao 2007)。Tim-3 IgVドメインは、全てのTimファミリータンパク質では特徴的な構造であるものの他の免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーでは認められない固有のCC’-FG溝と、2つの非標準的な(noncanonical)ジスルフィド結合を含む(Cao 2007)。PD-1阻害治療に対する免疫逃避が、Tim-3を含む他の免疫チェックポイントのアップレギュレーションと関連していると報告した研究者もいる(Koyama 2016)。炭水化物(Cao 2007;Wilker 2007)に加えて、ガレクチン-9(Zhu 2005)、ホスファチジルセリン(DeKruyff 2010)、HMGB1(高移動度タンパク質ボックス1)(Chiba 2012)及びLILRB2(白血球免疫グロブリン様受容体B2)(国際公開第2016/111947号)を含む他の分子が、Tim-3のリガンドであると報告されている。
【0005】
発明の概要
ヒトTim-3(T細胞免疫グロブリンムチンドメイン含有3)のIgVドメイン若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合し、
a) GYSFTGYTIN(配列番号1)(相補性決定領域(CDR)1(CDR1));
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3);
若しくは
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3);
の1つ以上を含む重鎖、及び
b) KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3);
若しくは
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2);
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
の1つ以上を含む軽鎖、を含む抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0006】
ヒトTim-3のIgVドメイン若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合し、
GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1);
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3);
を含む重鎖、及び
KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3)
を含む軽鎖、を含む抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0007】
ヒトTim-3のIgVドメイン若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合し、
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3)
を含む重鎖、及び
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2);
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
を含む軽鎖、を含む抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0008】
KDが10.0nMより小さい親和性でヒトTim-3のIgVドメイン又はヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する単離された抗体を提供する。
【0009】
1つ以上の
GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1);
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3)
を含む抗体の重鎖をコードする核酸を提供する。
【0010】
1つ以上の
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3)
を含む抗体の重鎖をコードする核酸を提供する。
【0011】
1つ以上の
KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3)
を含む抗体の軽鎖をコードする核酸を提供する。
【0012】
1つ以上の
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2)
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
を含む抗体の軽鎖をコードする核酸を提供する。
【0013】
本明細書に記載の1つ以上の核酸を含む宿主細胞を提供する。
【0014】
治療薬と連結若しくは結合した、本明細書に記載の抗体又はその断片を提供する。
【0015】
ヒトTim-3を阻害するのに有効な量の、本明細書に記載の抗体又はその断片を投与することを含む、対象のヒトTim-3を阻害する方法を提供する。
【0016】
Tim-3が媒介するT細胞の抑制を阻害するのに有効な量の、本明細書に記載の抗体又はその断片を投与することを含む、対象のTim-3が媒介するT細胞の抑制を阻害する方法を提供する。
【0017】
対象のがんを治療するのに有効な本明細書に記載の抗体又はその断片を投与することを含む、対象のがんを治療する方法を提供する。
【0018】
対象のヒトTim-3陽性細胞を検出する方法であって、ヒトTim-3陽性細胞を標識するのに有効な量の検出可能なマーカーが結合した本明細書に記載の抗体又はその断片を投与し、対象における前記標識の存在を検出し、これにより、対象のヒトTim-3陽性細胞を検出することを含む方法を提供する。
【0019】
本明細書に記載の抗体又はその断片をコードする単離された核酸分子を提供する。ある態様では、核酸はDNAである。ある態様では、核酸はcDNAである。ある態様では、核酸はRNAである。
【0020】
いくつかの態様では、抗体の抗原結合断片は、抗体のTim-3 IgVドメイン結合断片である。いくつかの態様では、抗体の抗原結合断片は、抗体のヒトTim-3 IgVドメイン結合断片である。
【0021】
本明細書に記載の核酸分子をコードするベクターを提供する。本明細書に記載の核酸分子又は本明細書に記載のベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0022】
抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片を製造する方法は、本明細書に記載の宿主細胞が抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片を産生する条件で、宿主細胞を培養することを含む。
【0023】
本明細書に記載の抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片及び薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0024】
治療有効量の、本明細書に記載の抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記対象におけるTim-3の活性を低下させる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】ELISAは、50B5がTim-3-IgVタンパク質及びTim-3の細胞外のタンパク質(IgVムチンストーク)に結合するが、ヒトIgG対照タンパク質には結合しないことを示す。
【
図2】FACSは、50B5がヒトTim-3を発現する細胞に結合するが、マウスTim-3には結合しないことを示す。50B5:太線、マウスIgG1アイソタイプ対照:影のヒストグラム。
【
図3】表面プラズモン共鳴による50B5の速度論的パラメーター。
【
図4】A:混合リンパ球反応では、分裂したCD4 T細胞及びCD8 T細胞は、4日目にTim-3を発現したが、分裂していないCD4 T細胞及びCD8 T細胞はそうではなかった。 B:混合リンパ球反応で、mAb 50B5は、4日目にCD4 T細胞及びCD8 T細胞からのIFNγ産生を有意に増強した;N=8;
**P<0.01。
【
図5】FACSは、15B4がヒトTim-3を発現する細胞に結合することを示す。15B4:太線、マウスIgG1アイソタイプ対照:影のヒストグラム。
【
図6】表面プラズモン共鳴による速度論的パラメーター。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
ヒトTim-3(T細胞免疫グロブリンムチンドメイン含有3)のIgVドメイン若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合し、
a) GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1);
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3);
若しくは
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3);
の1つ以上を含む重鎖、及び
b) KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3);
若しくは
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2);
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
の1つ以上を含む軽鎖、を含む抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0027】
ヒトTim-3のIgVドメイン若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合し、
GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1);
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3);
を含む重鎖、及び
KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3)
を含む軽鎖、を含む抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0028】
ヒトTim-3のIgVドメイン若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合し、
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3);
を含む重鎖、及び
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2);
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
を含む軽鎖、を含む抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0029】
いくつかの態様では、軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域は、ヒトのフレームワーク領域と85%以上の同一性を有する。
【0030】
いくつかの態様では、軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域は、ヒトのフレームワーク領域である。KDが10.0nMより小さい親和性でヒトTim-3のIgVドメイン若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する単離された抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0031】
いくつかの態様では、抗体は、KDが1.0nMより小さい親和性でヒトTim-3のIgVドメイン又はヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する。いくつかの態様では、抗体は、KDが0.5nMより小さい親和性でヒトTim-3のIgVドメイン又はヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する。
【0032】
いくつかの態様では、抗体はマウスTim-3に結合しない。
【0033】
いくつかの態様では、抗体は、デキサメタゾン処理ジャーカットT細胞に発現するホスファチジルセリンとヒトTim-3との結合を阻害する。
【0034】
いくつかの態様では、単離された抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFc領域の配列を有する。
【0035】
いくつかの態様では、単離された抗体又はその抗原結合断片は、
GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1)
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2)
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3)
の1つ以上を含む重鎖を含む。
【0036】
いくつかの態様では、単離された抗体又はその抗原結合断片は、
KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1)
WASTRES(配列番号5)(CDR2)
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3)
の1つ以上を含む軽鎖を含む。
【0037】
いくつかの態様では、単離された抗体又はその抗原結合断片は、
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1)
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2)
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3)
の1つ以上を含む重鎖を含む。
【0038】
いくつかの態様では、単離された抗体又はその抗原結合断片は、
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1)
SASNRYT(配列番号11)(CDR2)
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
の1つ以上を含む軽鎖を含む。
【0039】
いくつかの態様では、単離された抗体又はその断片は、キメラであるか、ヒト化されている。
【0040】
いくつかの態様では、単離された抗体又はその断片は、モノクローナル抗体、scFv、Fab断片、Fab’断片及びF(ab)’断片からなる群から選択される。厳密にいうと、scFvは抗体の断片ではなく融合タンパク質であるが、本明細書では、特に言及しない限り、抗体の断片はscFvを含むことに注意されたい。
【0041】
1つ以上の
GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1);
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3)
を含む抗体の重鎖をコードする核酸を提供する。
【0042】
1つ以上の
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3)
を含む抗体の重鎖をコードする核酸を提供する。
【0043】
1つ以上の
KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3)
を含む抗体の軽鎖をコードする核酸を提供する。
【0044】
1つ以上の
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2)
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
を含む抗体の軽鎖をコードする核酸を提供する。
【0045】
本明細書に記載の1つ以上の核酸を含む宿主細胞を提供する。
【0046】
治療薬と連結若しくは結合した、本明細書に記載の抗体又はその断片を提供する。
【0047】
いくつかの態様では、治療薬は、細胞障害性薬剤、放射性同位体、免疫調節剤又は二次抗体である。
【0048】
ヒトTim-3を阻害するのに有効な量の、本明細書に記載の抗体若しくはその断片又はそのヒトTim-3結合断片を投与することを含む、対象のヒトTim-3を阻害する方法を提供する。
【0049】
いくつかの態様では、対象はがんに罹患している。
【0050】
Tim-3が媒介するT細胞の抑制を阻害するのに有効な量の、本明細書に記載の抗体若しくはその断片又はそのヒトTim-3結合断片を投与することを含む、対象のTim-3が媒介するT細胞の抑制を阻害する方法を提供する。
【0051】
対象のがんを治療するのに有効な量の、本明細書に記載の抗体又はその断片を投与することを含む、対象のがんを治療する方法を提供する。
【0052】
いくつかの態様では、がんはヒトTim-3陽性のがんである。
【0053】
対象のヒトTim-3陽性細胞を検出する方法であって、ヒトTim-3陽性細胞を標識するのに有効な量の検出可能なマーカーが結合した本明細書に記載の抗体又はその断片を投与し、対象における前記標識の存在を検出し、これにより、対象のヒトTim-3陽性細胞を検出することを含む方法を提供する。
【0054】
いくつかの態様では、標識は画像化により検出する。
【0055】
いくつかの態様では、細胞はがん細胞である。
【0056】
いくつかの態様では、がんは血液悪性腫瘍である。いくつかの態様では、がんは、肺癌、胃癌、頭頸部癌、神経鞘腫、黒色腫又は濾胞性B細胞非ホジキンリンパ腫である。
【0057】
いくつかの態様では、がんは固形腫瘍を含む。
【0058】
いくつかの態様では、対象は、抗PD-1、抗PD-L1又は抗CTLA4療法を受けている。
【0059】
いくつかの態様では、抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片は、(i) ヒト生殖細胞系列IGHV1-2*02、IGHV1-2*04、IGHV1-2*05、IGHV1-18*04、IGHV1-69-2*01、IGHV1-46*01、IGHD5-12*01、IGHD5-24*01、IGHD6-25*01、IGHJ3*01、IGHJ4*01、IGHJ4*03、IGHJ6*01、IGHJ6*02のフレームワーク配列を含むVHフレームワーク、及び/又は (ii) ヒト生殖細胞系列IGKV1-13*02、IGKV1-27*01、IGKV3-7*02、IGKV4-1*01、IGKV1D-13*02、IGKV3D-7*01、IGKJ1*01、IGKJ2*01、IGKJ4*01、IGKJ4*02のフレームワーク配列を含むVLフレームワーク、を含む。
【0060】
いくつかの態様では、抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片は、Tim-3 IgVドメインと約1×10-9M~約1×10-12Mの結合親和性(KD)で結合する。
【0061】
いくつかの態様では、抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片は、モノクローナル抗体である。
【0062】
いくつかの態様では、抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片は、組換え抗体である。
【0063】
いくつかの態様では、抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片は、ヒトのフレームワーク領域を有する。
【0064】
いくつかの態様では、抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片は、ヒトの定常領域を有する。
【0065】
いくつかの態様では、抗Tim-3 IgVドメイン抗体を提供する。
【0066】
いくつかの態様では、抗体のTim-3 IgVドメイン結合断片を提供する。
【0067】
いくつかの態様では、抗体のTim-3 IgVドメイン結合断片は、Fab、F(ab)2又はscFvである。
【0068】
本明細書に記載の抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片をコードする単離された核酸分子を提供する。ある態様では、核酸はDNAである。ある態様では、核酸はcDNAである。ある態様では、核酸はRNAである。
【0069】
本明細書に記載の核酸分子をコードするベクターを提供する。本明細書に記載の核酸分子又は本明細書に記載のベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0070】
抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片を製造する方法は、本明細書に記載の宿主細胞が抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はTim-3 IgVドメイン結合断片を産生する条件で、宿主細胞を培養することを含む。
【0071】
本明細書に記載の抗Tim-3 IgVドメイン抗体又はそのTim-3 IgVドメイン結合断片及び担体を含む組成物を提供する。ある態様では、組成物は医薬組成物であり、担体は薬学的担体である。本明細書に記載の抗体又はその結合断片及び薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物も提供する。
【0072】
本明細書では、「抗体」という用語はインタクトな抗体、すなわち完全なFc及びFv領域を有することを指す。「断片」は、非限定的な例としては、Fab、F(ab)2、一本鎖Fv(scFv)など、抗体の一部分又は相互に連結した抗体の一部分を指し、抗体全体ではないがその抗原結合部分であって、特異的結合においてインタクトな抗体と競合する。この場合、抗原はヒトTim-3 IgVドメインである。
【0073】
そのような断片は、例えば、インタクトな抗体を切断することにより、又は組換えにより調製することができる。Fundamental Immunology, Ch. 7(Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y. (1989)、その全体が参照として本明細書に組み込まれる)参照。抗原結合断片は、組換えDNA技術により、インタクトな抗体の酵素的若しくは化学的切断により、又は分子生物学の技術により製造してもよい。いくつかの態様では、断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fv、相補性決定領域(CDR)断片、一本鎖抗体(scFv)(ペプチドリンカーを介して連結した軽鎖可変ドメイン(VL)及び重鎖可変ドメイン(VH))である。ある態様では、scFvは、ヒト可変ドメインFR1、FR2、FR3又はFR4と同一の配列を有する可変ドメインフレームワーク配列を含む。ある態様では、scFvは、5~30アミノ酸残基を有するリンカーペプチドを含む。ある態様では、scFvは、1つ以上のグリシン、セリン及びスレオニン残基を含むリンカーペプチドを含む。
【0074】
ある態様では、scFvのリンカーは長さが10~25のアミノ酸である。ある態様では、ペプチドリンカーは、グリシン、セリン及び/又はスレオニン残基を含む(例えば、Bird 1988及びHuston 1988参照、これら文献の全体が参照として本明細書に組み込まれる)か、又は、ダイアボディを含む、ヒトTim-3 IgVドメインと特異的に結合するのに十分な抗体の少なくとも一部を含むポリペプチドを含む。N末端からC末端まで、成熟した軽鎖及び重鎖可変ドメインは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4領域を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987 and 1991))、Chothia & Lesk 1987又はChothia 1989(これらの全体が参照として本明細書に組み込まれる)の定義に従う。本明細書では、「ポリペプチド」という用語は、天然又は人工のタンパク質、タンパク質の断片及びポリペプチド類似体が含まれる。ポリペプチドは、単量体又は高分子であってもよい。本明細書では、Fd断片は、VH及びCH1ドメインから成る抗体の断片を意味し、Fv断片は、抗体の一本鎖のV1及びVHドメインから成り、dAb断片(Ward 1989、その全体が参照として本明細書に組み込まれる)はVHドメインから成る。いくつかの態様では、断片のアミノ酸の長さは、少なくとも5、6、8又は10である。別の態様では、断片のアミノ酸の長さは、少なくとも14、少なくとも20、少なくとも50、又は少なくとも70、80、90、100、150若しくは200である。
【0075】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書では、実質的に均質な抗体の集団、すなわち、個々の抗体は、わずかに存在する可能性のある変異、例えば、天然で生じる突然変異を除いて同一である集団を指す。したがって、「モノクローナル」という用語は、異なる抗体の混合物ではないという抗体の特徴を示す。ある態様では、そのようなモノクローナル抗体は、通常、ヒトTim-3 IgVドメイン抗体に結合するペプチド配列を含む抗体を含む。異なる抗原決定基(エピトープ)に対する抗体を含むポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体調製物中のそれぞれのモノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対するものである。その特異性に加え、モノクローナル抗体は、通常、他の免疫グロブリンで汚染されていないという点で有利である。したがって、その配列が同定された後は、モノクローナル抗体は、非ハイブリドーマ技術、例えば、組換えによって調製することができる。
【0076】
本明細書に記載された発明の態様では、抗体は単離されている。本明細書では、「単離された抗体」という用語は、その起源又は由来に基づいて、(1) 天然の状態で共存する要素とは無関係である、(2) 他の同種のタンパク質を含まない、(3) 異なる種の細胞で生産される、(4) 人間が手を加えなければ自然界では生じない、の1つ、2つ、3つ又は全てを有する抗体を指す。
【0077】
ある態様では、抗体はヒト化されている。非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、最小限の非ヒト免疫グロブリンに由来する配列を含むキメラ抗体である。ある態様では、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域(HVR)(又はCDR)が、所望の特異性、親和性、及び/又は能力を有する、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)のCDRの残基によって置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある態様では、抗体は、本明細書に記載のマウス抗体(mAb15B4及びmAb50B5)の重鎖及び軽鎖の1、2、3、4、5又は6つ全てのCDR1-3を有する。好ましい態様では、マウスmAbのフレームワーク(FR)残基は、対応するヒト免疫グロブリン可変ドメインフレームワーク(FR)残基に置き換えられる。これらは、抗体性能をさらに向上するために、実施の形態においてさらに改変されてもよい。さらに、特定の態様では、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に存在しない残基を含んでいてもよい。ある態様では、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に存在しない残基を含まない。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの全てを実質的に含むことができ、当該可変ドメインでは、全て又はある態様では実質的に全ての超可変ループは非ヒト免疫グロブリン(例.本明細書に記載のmAb 15B4及びmAb 50B5)のループに対応し、全て又はある態様では実質的に全てのFRはヒト免疫グロブリンの配列である。ヒト化抗体は、場合により、免疫グロブリン、通常はヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部を含むこともできる。例えば、Jones 1986;Riechmann 1988;Presta 1992;Vaswani & Hamilton 1998;Harris 1995;Hurle & Gross 1994並びに米国特許第6,982,321号及び第7,087,409号を参照、これら文献の全体が参照として本明細書に組み込まれる。ヒト化抗体がレシピエント抗体又はドナー抗体に存在しない残基を含む態様では、抗体のFc領域は国際公開第99/58572号に記載されているように修飾される。この公報の全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0078】
モノクローナル抗体をヒト化する技術はよく知られており、例えば、米国特許第4,816,567号、第5,807,715号、第5,866,692号、第6,331,415号、第5,530,101号、第5,693,761号、第5,693,762号、第5,585,089号及び第6,180,370号に記載されている。これら明細書の全体が参照として本明細書に組み込まれる。げっ歯類又は改変されたげっ歯類のV領域とその相補性決定領域(CDR)とヒト定常ドメインが融合した抗体を含む、非ヒト免疫グロブリンに由来する抗原結合部位を含む多くの「ヒト化」抗体分子が記載されている。例えば、Winter 1991;Lobuglio 1989;Shaw 1987及びBrown 1987を参照、これらの全体が参照として本明細書に組み込まれる。他の文献は、適切なヒト抗体定常ドメインと融合する前にヒトフレームワーク領域(FR)に移植された、げっ歯類の超可変領域又はCDRを記載している。例えば、Riechmann 1988;Verhoeyen 1988及びJones 1986を参照、これら文献の全体が参照として本明細書に組み込まれる。別の文献は、げっ歯類の組換えられたフレームワーク領域を有するげっ歯類のCDRを記載している-欧州特許出願公開第0519596号(全体が参照として本明細書に組み込まれる)。これらの「ヒト化」分子は、非ヒト抗体であるげっ歯類の抗体に対する望ましくない免疫応答であって、ヒトで抗体の治療期間や有効性を制限する免疫応答を最小限とするように設計されている。抗体の定常領域は、免疫学的に不活性である(例えば、補体溶解を引き起こさない)ように操作することができる。例えば、国際公開第99/58572号;英国特許出願第9809951.8号を参照。利用することができる他の抗体のヒト化方法は、Daugherty 1991;米国特許第6,180,377号;第6,054,297号;第5,997,867号;第5,866,692号;第6,210,671号及び第6,350,861号、並びに国際公開第01/27160号に記載されており、これら文献の全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0079】
ヒト化抗体の他の形態は、元の抗体に対して変更された、1つ以上又は全てのCDR(CDR L1、CDR L2、CDR L3、CDR H1、CDR H2又はCDR H3)を有し、これらは1つ以上の元の抗体に「由来する」1つ以上のCDRとも呼ばれる。ある態様では、本発明の抗体は、元の抗体に対して変更された、1つ以上又は全てのCDR(CDR L1、CDR L2、CDR L3、CDR H1、CDR H2又はCDR H3)を有するヒト化mAb 15B4及びmAb 50B5である。ある態様では、本発明の抗体は、元の抗体に対して変更されていないCDR(CDR L1、CDR L2、CDR L3、CDR H1、CDR H2又はCDR H3)を有するヒト化mAb 15B4及びmAb 50B5である。
【0080】
いくつかの態様では、本明細書の抗体又は断片は、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現させた抗体、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離した抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニック動物(例えば、マウス)から単離した抗体のように、組換えにより得ることはできる。
【0081】
ある態様では、本明細書に記載の抗Tim-3 IgVドメイン抗体は、ヒトTim-3 IgVドメインに特異的に結合することができるか、又は特異的に結合する。本明細書では、「特異的に結合することができる」又は「特異的に結合する」という用語は、1μM未満、好ましくは1nM未満、最も好ましくは10pM未満の解離定数で(特定の)抗原に結合する抗体又はその断片の性質を指す。ある態様では、抗体(又は断片)のTim-3 IgVドメインに対するKdは10.0nMより小さい。ある態様では、抗体(又は断片)のTim-3 IgVドメインに対するKdは1.0nMより小さい。ある態様では、抗体(又は断片)のTim-3 IgVドメインに対するKdは0.5nMより小さい。ある態様では、抗体(又は断片)のTim-3 IgVドメインに対するKdは0.1nM又はこれより小さい。
【0082】
「Kd」という用語は、本明細書では、抗体-抗原相互作用の解離定数を指す。Tim-3 IgVドメインに対する抗体のKd又は結合親和性を決定する方法の一つは、抗体の単機能Fab断片の結合親和性を測定することである。(親和性定数は解離定数の逆数である。)抗体(例.IgG)をパパインで切断するか、組換えにより発現させることによって、単機能Fab断片を得ることができる。抗ヒトTim-3 IgVドメイン抗体の断片の親和性は、例えば表面プラズモン共鳴(BIAcore3000(登録商標)表面プラズモン共鳴(SPR)システム、BlAcore Inc.、Piscataway N.J.)により求めることができる。CM5チップは、供給者の指示に従い、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイニド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。抗原を10mM酢酸ナトリウム(pH4.0)で希釈し、0.005mg/mLで活性化チップに注入する。チップ全体で可変フロー時間を使用して、2つの抗原密度:詳細な速度論的研究では100~200応答単位(RU)、スクリーニングアッセイでは500~600RU、を実現する。精製したFabの段階希釈(推定Kdの0.1~10倍)を100μl/分で1分間注入し、最大で2時間の解離時間を許容する。Fabタンパク質の濃度は、(アミノ酸分析によって決定された)濃度が既知のFabを使用するELISA及び/又はSDS-PAGE電気泳動で決定する。結合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)を、BIA評価プログラムを使用して、データを1:1ラングミュア結合モデル(Karlsson et al. “Kinetic and concentration analysis using BIA technology, Methods: A Companion to Methods Enzymol 6:99-110 (1994)参照、その全体が参照として本明細書に組み込まれる)に適合させることにより、取得する。平衡解離定数(Kd)値は、koff/konで求められる。この方法は、抗原に対する抗体又はその断片の結合親和性の決定に適している。当該技術分野において公知の他の方法、例えば、ELISAも使用することができる。
【0083】
抗体又はポリペプチドに「特異的に結合する」エピトープは、当該技術分野において十分に理解されている用語であり、そのような特異的又は優先的な結合を決定する方法も当該技術分野においてよく知られている。分子が、特定の細胞又は物質と、より頻繁に、より迅速に、より長く及び/又はより高い親和性で反応又は会合する場合、当該分子は「特異的結合」又は「優先的結合」を示すといわれる。抗体は、他の物質に結合する場合と比較して、標的に、高い親和性、結合力で、より容易に、及び/又はより長く結合する場合、当該抗体は、「特異的に結合する」又は「優先的に結合する」。例えば、ヒトTim-3 IgVドメインに特異的又は優先的に結合する抗体は、他のTim-3エピトープ又は非Tim-3エピトープに結合する場合と比較して、高い親和性、結合力で、より容易に及び/又はより長くこのエピトープに結合する抗体である。この定義から、例えば、第1の標的に特異的又は優先的に結合する抗体(又は部分又はエピトープ)は、第2の標的に特異的又は優先的に結合する可能性も、結合しない可能性もあることもまた理解できる。したがって、「特異的結合」又は「優先的結合」は、必ずしも排他的な結合を必要としない(それを含むこともできる)。
【0084】
抗体が「競合する」という用語は、本明細書では、一次抗体又はその抗原結合部分は、二次抗体又はその抗原結合部分による結合と非常に似た方法でエピトープに結合し、その結果、一次抗体とその同族エピトープとの結合は、二次抗体が存在しない場合と比較して、二次抗体が存在する場合、検出可能な程度に減少する。二次抗体のエピトープへの結合が一次抗体の存在下で検出可能な程度に減少する場合もあるが、必ずしもその必要はない。すなわち、二次抗体が一次抗体とエピトープの結合を阻害しなくても、一次抗体は二次抗体とエピトープの結合を阻害することができる。そして、各抗体が他の抗体とエピトープ又はリガンドとの結合を検出可能な程度に阻害する場合、その程度にかかわらず、それらの抗体は、それぞれのエピトープとの結合について、互いに「交差競合する」といわれる。本発明には、競合抗体及び交差競合抗体の両者が含まれる。そのような競合又は交差競合が生じるメカニズム(例.立体障害、コンフォメーションの変化又は共通のエピトープ若しくはその一部への結合)にかかわらず、本明細書の教示に基づいて、当業者は、本明細書に記載された方法にそのような競合抗体及び/又は交差競合抗体が含まれ、また、有用であり得ることを理解するであろう。
【0085】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列により、抗体(免疫グロブリン)を異なるクラスに割り当てることができる。抗体又はその断片は、例えば、それぞれ、IgG、IgD、IgE、IgA又はIgMの抗体又はその断片のいずれかであり得る。ある態様では、抗体は免疫グロブリンGである。ある態様では、抗体断片は免疫グロブリンGの断片である。ある態様では、抗体は、IgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3又はIgG4である。ある態様では、抗体は、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG2a、ヒトIgG2b、ヒトIgG3又はヒトIgG4からの配列を含む。これらの抗体サブクラスの組合せも使用することができる。使用する抗体の種類を選択する際に考慮する要素の1つは、抗体の血清半減期である。例えば、IgGの血清中での半減期は一般に23日であり、IgAは6日、IgMは5日、IgDは3日、IgEは2日である(Abbas AK, Lichtman AH, Pober JS. Cellular and Molecular Immunology, 4th edition, W.B. Saunders Co., Philadelphia, 2000、その全体が参照として本明細書に組み込まれる)。
【0086】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖のN末端ドメインを指す。重鎖の可変ドメインは「VH」ということがある。軽鎖の可変ドメインは「VL」ということがある。これらのドメインは一般に抗体の最も変化する部分であって、抗原結合部位を含む。「可変」という用語は、可変ドメインの特定の部分のアミノ酸配列が抗体間で大きく異なり、その部分が特定の抗原に対する抗体の結合及び特異性の発揮において使用されるという事実を指す。しかし、この配列の変化は抗体の可変ドメイン全体に均等に分布していない。これは、軽鎖及び重鎖の可変ドメインの超可変領域(HVR)(又はCDR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインの高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、主にβシート構造をとる4つのFR領域を含み、これらFRは、そのベータシート構造に接続し、場合によってはベータシート構造の一部を形成する、ループ状の3つのCDRで接続されている。各鎖のCDRは、FR領域によって近接しており、他方の鎖のCDRとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, National Institute of Health, Bethesda, Md. (1991)参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与していないが、抗体依存性細胞傷害における抗体の関与など、さまざまなエフェクター機能を示す。
【0087】
脊椎動物種の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κ及びλと呼ばれる2つの明確に異なる型のいずれかに分けることができる。
【0088】
「フレームワーク」又は「FR」は、本明細書で定義されたHVR以外の可変ドメインである。
【0089】
本明細書における「超可変領域」又は「HVR」という用語は、配列が超可変であり、及び/又はループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般的に、抗体は、VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)の6つのHVRで構成される。天然の抗体では、6つのHVRの中でH3とL3が最も多様性を示し、特にH3は、抗体に高い特異性を付与する特別な役割を果たしていると考えられている。例えば、Xu et al., Immunity 13:37-45 (2000);Johnson and Wu, in Methods in Molecular Biology 248:1-25 (Lo, ed., Human Press, Totowa, N.J., 2003)参照。実際、重鎖のみからなる天然のラクダ抗体は、軽鎖がなくても機能的で安定である(例えば、Hamers-Casterman 1993;Sheriff & Constantine 1996参照)。いくつかのHVRの記述が使用されており、それらは本明細書に含まれる。Kabat相補性決定領域(CDR)は、配列の変動性に基づいており、最も一般的に使用されている(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)、その全体が参照として本明細書に組み込まれる)。重鎖及び軽鎖のそれぞれにCDR1、2及び3がある。代わりに、Chothiaは構造ループの位置に基づく(Chothia & Lesk 1987)。AbM HVRは、Kabat HVRとChothia構造ループの妥協であり、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアで用いられる。「接触」HVRは、利用可能な複雑な結晶構造の分析に基づく。HVRは、以下の「拡張HVR」であってもよい:VLでは、24~36又は24~34(L1)、46~56又は50~56(L2)、89~97又は89~96(L3)、及び、VHでは、26~35(H1)、50~65又は49~65(H2)、93~102、94~102又は95~102(H3)。これらの定義のそれぞれで、可変ドメイン残基は、上記Kabatらによって番号が付されている。
【0090】
本明細書において、「Fc領域」という用語は、野生型配列のFc領域及び変異型Fc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化する場合があるが、通常、ヒトIgG重鎖のFc領域は、Cys226又はPro230からそのC末端までと定義されている。Fc領域のC末端リジンは、例えば、抗体の産生若しくは精製中に除去される可能性があり、又は抗体の重鎖をコードする核酸の組換えによって除去することができる。したがって、本明細書で使用する無傷の抗体は、C末端のリジンを含むか、又は含まない抗体であってもよい。
【0091】
本明細書に記載の抗体、scFv又は抗体の断片を含む組成物又は医薬組成物は、好ましくは、保存及び輸送中の変性、酸化又は凝集によるタンパク質の活性又は構造的完全性の喪失を防ぐ安定剤を含む。組成物又は医薬組成物は、凝集の問題を克服することに寄与する可能性がある、塩、界面活性剤及び糖のような等張化剤の1つ以上を含むことができる。本発明の組成物又は医薬組成物を注射剤として使用する場合、そのpHはほぼ中性のpHであることが望ましく、また、対象への注射において有害な製剤中の気泡を回避するために、界面活性剤の量を最小限にすることも有利である。ある態様では、組成物又は医薬組成物は液体で、溶液中の高濃度の生物活性抗体を安定に保持し、吸入又は非経口投与に適している。ある態様では、組成物又は医薬組成物は、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮内及び/又は皮下注射に適している。ある態様では、組成物又は医薬組成物は液体で、気泡形成及びアナフィラキシー様副作用の危険性を最小限に抑えている。ある態様では、組成物又は医薬組成物は等張である。ある態様では、組成物又は医薬組成物のpHは6.8~7.4である。
【0092】
ある態様では、本明細書に記載されたScFv又は抗体断片は、凍結乾燥され(lyophilized及び/又はfreeze dried)、使用時に再構成される。
【0093】
薬学的に許容される担体の例には、リン酸緩衝生理食塩水、滅菌水(注射用水(USP)を含む)、o/w型エマルジョンなどのエマルジョン及びさまざまな湿潤剤が含まれるが、これらに限定されるものではない。エアロゾル又は非経口投与に好ましい希釈剤は、リン酸緩衝生理食塩水、又は、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液(USP)のような、通常の生理食塩水(0.9%)である。このような担体を含む組成物は、周知の方法(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, A. Gennaro, ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1990及びRemington, The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. Mack Publishing, 2000参照、これらの全体が参照として本明細書に組み込まれる)で製造される。非限定的な例では、組成物は、1つ以上のリン酸水素二ナトリウム、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、ポリソルベート80(例.9-(E)-オクタデセン酸2-[2-[3,5-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)オキソラン-2-イル]-2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エチル)、エデト酸二ナトリウム水和物、スクロース、リン酸二水素ナトリウム一水和物及びリン酸水素二ナトリウム二水和物を含むことができる。
【0094】
本明細書に記載の抗体若しくは抗体断片、又は、組成物若しくは医薬組成物は、凍結乾燥することができるか、又は、注射可能若しくは吸入可能な溶液、ゲル及び錠剤を含むが、これらには限定されない適切な形態で提供することができる。
【0095】
本明細書において、「Fcドメイン」という用語は、野生型配列のFc領域及び変異型Fc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFcドメインの境界は変化する場合があるが、通常、ヒトIgG重鎖のFcドメインは、Cys226又はPro230からそのC末端までと定義されている。FcドメインのC末端リジンは、例えば、それをコードする核酸の組換えによって除去することができる。いくつかの態様では、抗体はFcドメインを含む。ある態様では、Fcドメインの配列は、ヒトIgG1 Fcドメインと同一であるか、又は99%以上の類似性を有している。ある態様では、Fcドメインの配列は、ヒトIgG2 Fcドメインと同一であるか、又は99%以上の類似性を有している。ある態様では、Fcドメインの配列は、ヒトIgG3 Fcドメインと同一であるか、又は99%以上の類似性を有している。ある態様では、Fcドメインの配列は、ヒトIgG4 Fcドメインと同一であるか、又は99%以上の類似性を有している。ある態様では、Fcドメインは変異していない。ある態様では、FcドメインはCH2-CH3ドメインの界面が変異し、酸性でのFcRnに対するIgGの親和性を増加する(Dall'Acqua 2006;Yeung 2009)。ある態様では、Fcドメインの配列はヒトIgG1 Fcドメインと同一である。
【0096】
いくつかの態様では、本発明は、本明細書に記載された可変領域への改変を含む。例えば、本発明は、その特性に重大な影響を及ぼさない機能的に同等の可変領域及びCDRを含む抗体、並びに増強又は減少した活性及び/又は親和性を有する変異体を含む。例えば、ヒトTim-3 IgVに対して所望の結合親和性を有する抗体を得るために、アミノ酸配列を変異させてもよい。ポリペプチドの修飾は当該技術分野において日常的に行われており、本明細書で詳細に説明する必要はない。修飾ポリペプチドの例には、アミノ酸残基が保存的置換されたポリペプチド、活性を著しく阻害しない若しくはリガンドに対するポリペプチドの親和性を成熟(増強)する1つ以上のアミノ酸の欠失又は付加を有するポリペプチド、又は化学的類似体を有するポリペプチドが含まれる。
【0097】
アミノ酸配列の挿入には、1~100以上の残基を含むポリペプチドのN末端及び/又はC末端への融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内への挿入が含まれる。末端への挿入の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体又はエピトープタグに融合された抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変異体には、血液中で抗体の半減期を増加させる酵素又はポリペプチドの、抗体のN末端又はC末端への融合が含まれる。
【0098】
置換変異体は、抗体分子の少なくとも1つのアミノ酸残基が除かれ、その場所に別の残基が挿入されている。置換突然変異の誘発で最も関心のある部位には超可変領域が含まれるが、フレームワークの変更も考えられる。保存的な置換は、表1の「保存的置換」の列に示されている。そのような置換が生物学的活性を変化させる場合、表1において「代表的置換」の列で示され、又はアミノ酸クラスに関して以下に説明するような、より実質的な置換が行われ、生成物がスクリーニングされるかもしれない。
【0099】
【0100】
抗体の生物学的特性の実質的な変更は、(a) 置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えば、βシート若しくはらせん構造、(b) 標的部位の電荷若しくは疎水性、又は (c) 側鎖の大部分、の維持に対する影響が大幅に異なる置換を選択することによって達成される。天然に存在する残基は、一般的な側鎖の特性に基づいて以下のグループに分けられる:
(1) 非極性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2) 電荷を有さない極性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3) 酸性(負電荷):Asp、Glu;
(4) 塩基性(正電荷):Lys、Arg;
(5) 鎖の配向に影響を及ぼす残基;Gly、Pro、及び
(6) 芳香族:Trp、Tyr、Phe、His。
【0101】
非保存的置換は、これらのグループの1つのアミノ酸を別のグループと交換することによって行われる。
【0102】
行われてもよい置換の1つの例は、抗体中の1つ以上の化学的に反応性であり得るシステインを、限定されるものではないが、アラニン又はセリンなどの別の残基に変更することである。例えば、非標準的(non-canonical)システインを置換する可能性がある。置換は、可変ドメインのCDR若しくはフレームワーク領域、又は抗体の定常領域で行うことができる。いくつかの態様では、当該システインは標準的(canonical)である。分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を防ぐために、抗体の適切なコンフォメーションの維持に関与しないシステイン残基も、一般に、セリンで置換してもよい。反対に、特に抗体がFv断片のような抗体断片の場合、抗体の安定性を改善するために、システイン結合を追加してもよい。
【0103】
抗体は、例えば、その結合特性を変更するために、例えば、重鎖及び/又は軽鎖の可変ドメインを修飾してもよい。可変領域の変更は、結合親和性及び/又は特異性を変化させる可能性がある。いくつかの態様では、1~5以下の保存的アミノ酸の置換がCDRドメインで行われる。他の態様では、1~3以下の保存的アミノ酸の置換がCDRドメインで行われる。例えば、ヒトTim-3 IgVドメインに対する抗体のKDを増加若しくは減少させるため、koffを増加若しくは減少させるため、又は、抗体の結合特異性を変化させるために、1つ以上のCDR領域で変異を行ってもよい。部位特異的突然変異の技術は、当該技術分野において周知である。
【0104】
抗ヒトTim-3 IgVドメイン抗体の半減期を増加させるために、フレームワーク領域又は定常領域で改変又は変異を行うこともできる。例えば、国際公開第00/09560号を参照。抗体の免疫原性を変化させるため、別の分子と共有結合若しくは非共有結合する部位を設けるため、又は、補体結合、FcR結合及び抗体依存性細胞傷害作用などの特性を変化させるために、フレームワーク領域又は定常領域の変異を行うこともできる。本発明によれば、単一の抗体は、可変ドメインの1つ以上のCDR若しくはフレームワーク領域又は定常領域に変異を有している可能性がある。
【0105】
ある態様では、本明細書に記載の抗体は組換えで製造される。ある態様では、融合タンパク質は真核生物の発現系で製造される。
【0106】
ある態様では、真核生物の発現系で製造される融合タンパク質は、FcのAsn297に対応する残基におけるグリコシル化を含む。
【0107】
ある態様では、本明細書に記載の抗体若しくはその抗原結合断片を含む組成物又は医薬組成物は、抗体又はその抗原結合断片に関して実質的に純粋である。組成物又は医薬組成物の試料の少なくとも60%~75%が単一の抗体若しくはその抗原結合断片である場合、本明細書に記載の抗体若しくはその抗原結合断片を含む組成物又は医薬組成物は、抗体又はその抗原結合断片に関して「実質的に純粋」である。本明細書に記載の抗体若しくはその抗原結合断片を含む実質的に純粋な組成物又は医薬組成物は、抗体について、単一の抗体を60%、70%、80%又は90%、より通常は約95%、及び好ましくは99%を超えて含むことができる。純度又は均一性は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はHPLCのような当該技術分野において周知のさまざまな方法で試験をすることができる。
【0108】
ある態様では、ヒトTim3は以下の配列を有する:
MFSHLPFDCVLLLLLLLLTRSSEVEYRAEVGQNAYLPCFYTPAAPGNLVPVCWGKGACPVFECGNVVLRTDERDVNYWTSRYWLNGDFRKGDVSLTIENVTLADSGIYCCRIQIPGIMNDEKFNLKLVIKPAKVTPAPTRQRDFTAAFPRMLTTRGHGPAETQTLGSLPDINLTQISTLANELRDSRLANDLRDSGATIRIGIYIGAGICAGLALALIFGALIFKWYSHSKEKIQNLSLISLANLPPSGLANAVAEGIRSEENIYTIEENVYEVEEPNEYYCYVSSRQQPSQPLGCRFAMP(配列番号13)。
【0109】
ある態様では、抗体のIgVドメインの配列は、
SEVEYRAEVGQNAYLPCFYTPAAPGNLVPVCWGKGACPVFECGNVVLRTDERDVNYWTSRYWLNGDFRKGDVSLTIENVTLADSGIYCCRIQIPGIMNDEKFNLKLVIKPA(配列番号22)
を含む。
【0110】
本明細書では、例えば、A及び/又はBのように用いられる「及び/又は」は、(i) A、(ii) B、及び (iii) A及びBという形態を包含する。
【0111】
本明細書に記載されたさまざまな要素の全ての組合せは、明細書中に異なる指示がない限り、又は文脈中で明らかに矛盾しない限り、本発明の範囲内である。
【0112】
本発明は、以下の詳細な実験によって、さらに理解することができる。
【実施例0113】
ヒトTim-3のIgVドメインに特異的に結合するmAbの生成:
ヒトTim-3 IgVコード領域(S22-A132)にプラスミドpMT/BiPのヒトIgG1Fcタグを融合することにより、Tim-3 IgV-Ig融合タンパク質を得た(Zhao 2013)。S2系で融合タンパク質を発現し、次いで精製した。マウスをTim-3 IgV-Ig融合タンパク質で免疫し、脾細胞にNSO骨髄腫細胞を融合する標準的な方法でハイブリドーマを得た。
【0114】
mAb 50B5の説明:
mAb 50B5が得られた。これは、κ鎖を有するIgG1である。ELISAアッセイでは、これは、Tim-3-IgVタンパク質及びTim-3の細胞外のタンパク質(IgVムチンストーク)に結合したが、ヒトIgGタンパク質には結合しなかった(
図1)。FACSでは、50B5は、細胞上に発現したヒトTim-3に結合するが、マウスTim-3には結合しないことが確認された(
図2)。
【0115】
表面プラズモン共鳴法では、mAb 50B5のヒトTim-3タンパク質に対する結合親和性は、K
Dが0.13nMであった(
図3)。mAb 50B5の阻害能を決定するために結合アッセイを行い、mAb 50B5は、デキサメタゾン処理ジャーカットT細胞に発現するホスファチジルセリンとヒトTim-3との結合を妨げることを見いだした。Tim-3はIFNγ産生T細胞で発現する抑制性受容体であることから、混合リンパ球反応により、mAb 50B5のアンタゴニストとしての能力を確認した。あるドナーのPBMCから得た単球から分化させた成熟樹状細胞を、別のドナーのPBMCから得た精製T細胞と4日間インキュベートした。表面にTim-3を発現する分裂したCD4 T細胞及びCD8 T細胞が見つかったが、Tim-3を発現する分裂していないCD4 T細胞及びCD8 T細胞は見つからなかった(
図4A)。混合リンパ球反応では、mAb 50B5又はマウスIgG1(対照)を添加し、mAb 50B5が対照のIgG1と比較して3倍以上IFNγ産生を増加させることがわかった(
図4B)。
【0116】
まとめると、これらの結果は、mAb 50B5がヒトTim-3に対するアンタゴニスト抗体であることを示す。最後に、mAb 50B5ハイブリドーマの配列を決定し、mAbが固有のVH及びVLの配列を有することがわかった。
【0117】
【0118】
mAb 15B4の説明:
別のmAbである15B4を、上述した方法と同じ方法で得た。mAb 15B4はκ鎖を有するIgG1で、細胞上に発現したヒトTim-3に結合する(
図5)。表面プラズモン共鳴法では、mAb 15B4のヒトTim-3タンパク質に対する結合親和性は、K
Dが0.32nMであった(
図6)。mAb 50B5の阻害能を決定するために結合アッセイを行い、mAb 15B4は、デキサメタゾン処理ジャーカットT細胞に発現するホスファチジルセリンとヒトTim-3との結合を妨げることを見いだした。最後に、15B4ハイブリドーマの配列を決定し、mAbが固有のVH及びVLの配列を有することがわかった。
【0119】
【0120】
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ヒトTim-3(T細胞免疫グロブリンムチンドメイン含有3)のIgVドメイン若しくはヒトTim-3のIgVムチンストークに結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
a) GYSFTGYTIN(配列番号1)(CDR1);
LFNPYNGGTT(配列番号2)(CDR2);
ARRYYGYDAMDY(配列番号3)(CDR3)
若しくは
GFNIKDYYMH(配列番号7)(CDR1);
WIDPENDNTIY(配列番号8)(CDR2);
ARDFGYVAWLVY(配列番号9)(CDR3)
の1つ以上を含む重鎖、及び
b) KSSQSVLYSSNQKNHLA(配列番号4)(CDR1);
WASTRES(配列番号5)(CDR2);
HQYLSSYT(配列番号6)(CDR3);
若しくは
KASQNVDTAVA(配列番号10)(CDR1);
SASNRYT(配列番号11)(CDR2);
QQYSSYPT(配列番号12)(CDR3)
の1つ以上を含む軽鎖
を含む抗体又はその抗原結合断片。