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特開2024-119872長続きする眼の潤滑をもたらす眼用配合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119872
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】長続きする眼の潤滑をもたらす眼用配合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/44 20170101AFI20240827BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240827BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240827BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240827BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61K47/44
A61P27/02
A61P27/04
A61K9/107
A61K47/24
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/02
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024087553
(22)【出願日】2024-05-30
(62)【分割の表示】P 2021554559の分割
【原出願日】2019-12-09
(31)【優先権主張番号】62/777,588
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521251556
【氏名又は名称】エテルナティアー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ETERNATEAR, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー アール ウィリス
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ピー ストーン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】長期間持続する利益をもたらす、ドライアイ及び他の眼の適応症を対象とする眼用配合物を提供する。さらに、ドライアイの症状を軽減するための方法、眼用医薬を送達するための方法及び長期間持続する眼用配合物を製造する方法も提供する。
【解決手段】(a)水と、(b)油と、(c)界面活性剤と、(d)約0.1~約1.5重量パーセントの濃度で存在するワックスエステルとを含む水中油型エマルションを含む、点眼剤であって、(e)(i)眼と接触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマルションを形成し、(ii)約2~約12時間の間眼に潤滑をもたらす、点眼剤が提供される。
【効果】本明細書に記載の配合物は、長続きする緩和をもたらし、眼に対して現在市販されている製品より2~10倍長く持続する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 水と、
(b) 油と、
(c) 界面活性剤と、
(d) 約0.1~約1.5重量パーセントの濃度で存在するワックスエステルと
を含む水中油型エマルションを含む、点眼剤であって、
(e) (i) 眼と接触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマルションを形
成し、(ii) 約2~約12時間の間眼に潤滑をもたらす、
点眼剤。
【請求項2】
眼に接触したときに、眼及び/又は角膜細胞の(iii) 脂質層、(iv) 水様層
、(v) ムチン層、(vi) 脂質層と水様層との界面及び(vii) 水様層とムチ
ン層との界面を通り抜ける、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
ワックスエステルが、約0.2~約1.25重量パーセントの濃度で存在する、請求項
1又は2に記載の点眼剤。
【請求項4】
ワックスエステルが、合成蜜蝋又は天然蜜蝋である、請求項1の点眼剤。
【請求項5】
ワックスエステルが、セラ・アルバ又はセラ・フラバである、請求項4に記載の点眼剤
【請求項6】
油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物である、請求項1から5の
いずれかに記載の点眼剤。
【請求項7】
油が、約1.0~約7.5重量パーセントの濃度で存在する、請求項1から5のいずれ
かに記載の点眼剤。
【請求項8】
油が、鉱油である、請求項7に記載の点眼剤。
【請求項9】
油が、植物油である、請求項7に記載の点眼剤。
【請求項10】
界面活性剤が、非イオン性界面活性剤を含む、請求項1から5のいずれかに記載の点眼
剤。
【請求項11】
界面活性剤が、2種以上の界面活性剤の混合物である、請求項1から5のいずれかに記
載の点眼剤。
【請求項12】
2種以上の界面活性剤の混合物が、ポリソルベート80、オクトキシノール40又はア
ニオン極性リン脂質(APP)を含む、請求項11に記載の混合物。
【請求項13】
(i) 油が、分子量がより低いと分子量がより高い油との混合物であり、約1~約5
.5重量パーセントの濃度で存在し、(ii) 約0.35~約0.45重量パーセント
の濃度のポリソルベート80と、約0.3~約0.4重量パーセントの濃度のジミリスト
イルホスファチジルグリセロールとの界面活性剤混合物、(iii) ワックスエステル
が、約0.25~約1.0重量パーセントの濃度の天然蜜蝋である、請求項1に記載の点
眼剤であって、約230~約260mOsmol/kgの質量オスモル濃度を有する、点
眼剤。
【請求項14】
(i) 油が、分子量がより低いと分子量がより高い油との混合物であり、約1~約5
.5重量パーセントの濃度で存在し、(ii) 約0.35~約0.45重量パーセント
の濃度のポリソルベート80と、約0.3~約0.4重量パーセントの濃度のジミリスト
イルホスファチジルグリセロールとの界面活性剤混合物、(iii) ワックスエステル
が、約0.25~約1.0重量パーセントの濃度の合成蜜蝋である、請求項1に記載の点
眼剤であって、約230~約260mOsmol/kgの質量オスモル濃度を有する、点
眼剤。
【請求項15】
医薬品又は活性作用物質をさらに含む、請求項1から5のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項16】
無菌マルチユース型又は無菌シングルユース型容器の中に包装された、請求項1から5
のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項17】
マルチドーズ型保存料不含(MDNP)容器の中に包装された、請求項1から5のいず
れかに記載の点眼剤。
【請求項18】
安定化オキシクロロ錯体(PURITE(登録商標))又はポリヘキサメチレンビグア
ニド(PHMB)又はポリクオタニウム-1(Polyquad)等の保存料をさらに含
む、請求項1から5のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項19】
眼用補装具用の再湿潤及び/又は潤滑溶液としての使用のための、請求項1から5のい
ずれかに記載の点眼剤。
【請求項20】
(a) 水と、
(b) 油と、
(c) 界面活性剤と、
(d) 約0.1~約1.5重量パーセントの濃度で存在するワックスエステルと
を含む水中油型エマルションを含む、点眼剤であって、
(e) 点眼剤中のワックスエステルが、被検体の眼においてムチン層、水様層及び脂質
層を結合させ、ムチン層と水様層との間にある介在層、水様層と脂質層との間にある介在
層の完全性を維持又は向上させるように作用する、
点眼剤。
【請求項21】
ワックスエステルが、ムチン層、水様層又は脂質層の厚さを増大させるように作用する
、請求項20に記載の点眼剤。
【請求項22】
ワックスエステルが、ムチン層、水様層又は脂質層の厚さを増大させるように作用する
、請求項20に記載の点眼剤。
【請求項23】
ワックスエステル又は加水分解生成物が可能にする結合及びホメオスタシスにより、涙
膜のムチン層、水様層及び脂質層が、互いに相互作用することができ、涙膜が、長期間に
わたって眼に残留することができる、請求項19から22のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項24】
医薬品及び
(a) 水と、
(b) 油と、
(c) 界面活性剤と、
(d) 約0.1~約1.5重量パーセントの濃度で存在するワックスエステルと
を含む水中油型エマルション
を含む、点眼剤であって、
(e) (i) 眼と接触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマルションを形
成し、(ii) 約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす、
点眼剤を被検体の眼に投与することを含む、医薬品又は活性作用物質を被検体に送達する
ための方法。
【請求項25】
医薬品が、水溶性医薬品である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
医薬品が、油溶性医薬品である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
(a) 水と、
(b) 油と、
(c) 界面活性剤と、
(d) 約0.1~約1.5重量パーセントの濃度で存在するワックスエステルと
を含む水中油型エマルションを含む、点眼剤であって、
(e) (i) 眼と接触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマルションを形
成し、(ii) 約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす、
点眼剤を眼に接触させることを含む、ドライアイの症状を軽減するための方法。
【請求項28】
点眼剤が、眼に接触したときに、眼及びむき出しの角膜細胞の(iii) 脂質層、(
iv) 水様層、(v) ムチン層、(vi) 脂質層と水様層との界面及び(vii)
水様層とムチン層との界面と相互作用する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ワックスエステルが、天然蜜蝋又は合成蜜蝋である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物である、請求項27から2
9のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
油が、約1.0~約7.5重量パーセントの濃度で存在する、請求項27から29のい
ずれかに記載の方法。
【請求項32】
油が、鉱油である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
油が、植物油である、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
界面活性剤が、2種以上の界面活性剤の混合物である、請求項27から29のいずれか
に記載の方法。
【請求項35】
(i) 油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物であり、約1.0
~約5.5重量パーセントの濃度で存在し、(ii) 界面活性剤が、約0.35~約0
.45重量パーセントの濃度のポリソルベート80と、約0.3~約0.4重量パーセン
トの濃度のジミリストイルホスファチジルグリセロールとの混合物であり、(iii)
ワックスエステルが、約0.25~約1.0重量パーセントの濃度で存在する天然又は合
成蜜蝋であり、点眼剤が、約230~約260mOsmol/kgの質量オスモル濃度を
有する、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
点眼剤が、無菌マルチユース型又は無菌シングルユース型容器の中に包装されている、
請求項27から29のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
点眼剤が、マルチドーズ型保存料不含(MDNP)容器の中に包装されている、請求項
27から29のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
準安定な水中油型エマルションであり、約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす、点眼
剤を調製する方法であって、
(a) 脱イオン水溶液に取り込まれたワックスエステル及び界面活性剤を調製すること
と、
(b) 脱イオン水溶液に取り込まれた油を含む水中油型エマルションを調製することと

(c) 蜜蝋分散物と水中油型エマルションとを別々にオートクレーブ処理することと、
(d) 約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす準安定な水中油型エマルション点眼剤を
調製するように、オートクレーブ処理された蜜蝋分散物と水中油型エマルションとを無菌
方式でブレンド処理することと
を含む、方法。
【請求項39】
点眼剤が、眼に接触したときに、眼の(iii) 脂質層、(iv) 水様層、(v)
ムチン層、(vi) 脂質層と水様層との界面及び(vii) 水様層とムチン層との
界面を通り抜ける、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
ワックスエステルが、天然蜜蝋である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
蜜蝋が、合成蜜蝋である、請求項38に記載の方法
【請求項42】
油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物である、請求項38から4
1のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
界面活性剤が、2種以上の界面活性剤の混合物である、請求項38から41のいずれか
に記載の方法。
【請求項44】
(i) 油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物であり、約1.0
~約5.5重量パーセントの濃度で存在し、(ii) 界面活性剤が、約0.35~約0
.45重量パーセントの濃度のポリソルベート80と、約0.3~約0.4重量パーセン
トの濃度のジミリストイルホスファチジルグリセロールとの混合物であり、(iii)
ワックスエステルが、約0.25~約1.0重量パーセントの濃度で存在する天然蜜蝋又
は合成蜜蝋であり、点眼剤が、約230~約260mOsmol/kgの質量オスモル濃
度を有する、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
点眼剤が、無菌マルチユース型又は無菌シングルユース型容器の中に包装されている、
請求項38から41のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
点眼剤が、マルチドーズ型保存料不含(MDNP)容器の中に包装されている、請求項
38から41のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
(a) 水と、
(b) 油と、
(c) 界面活性剤と、
(d) ワックスエステルと
を含む水中油型エマルションを含む、点眼剤を調製する方法であって、
(e) 点眼剤中のワックスエステルが、被検体の眼においてムチン層、水様層及び脂質
層に結合し、ムチン層と水様層との間にある介在層及び水様層と脂質層との間にある介在
層の完全性を維持するように作用する、
方法。
【請求項48】
ワックスエステルが、ムチン層、水様層又は脂質層の厚さを増大させるように作用する
、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
ワックスエステルが、ムチン層、水様層及び脂質層の厚さを増大させるように作用する
、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
ワックスエステルが可能にする結合及びホメオスタシスにより、涙膜のムチン層、水様
層及び脂質層が、互いに相互作用することができ、涙膜が、長期間にわたって眼に残留す
ることができる、請求項47に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体を参照により本明細書に組み込む、発明者がTimothy Wi
lli及びRalph Stoneで、「OPHTHALMIC FORMULATIO
NS PROVIDING LONG-LASTING EYE LUBRICATIO
N」という名称の、2018年12月10日に出願された米国仮特許出願第62/777
,588号の利益を主張する。
【0002】
1.分野
本開示は、ドライアイ及び他の眼の適応症を対象とする眼の治療のための、長期間持続
する新規な眼用配合物を提供する。本明細書に記載の配合物は、眼に対して現在市販され
ている製品より2~10倍長く持続するドライアイの緩和をもたらす。処置の方法、医薬
の送達の方法及び調製の方法も提供される。
【背景技術】
【0003】
2.背景
2.1.導入
本明細書において提供されている「背景」の記述は、本開示の背景を大まかに提示する
という目的のためのものである。この背景のセクションで記述されている限りでのここで
名前を挙げられている発明者らの成果、及び、通常であれば出願時点における従来技術と
して解され得ない前述の記述に属する態様は、本開示に対する従来技術として明示的に認
められるわけではないし、黙示的に認められるわけでもない。
【0004】
ドライアイは、世界中の3億2000万人超の患者及び米国人口の15%超において発
生している、眼部の医学的状態である。ドライアイ状態に起因する不快感は、眼の乾燥、
ザラつき、灼熱感、痛み、擦過傷又は異物反応を含み得る。不快感の度合いは、被検体及
び被検体の状態に依存する。提案されているドライアイの原因、処置及び症状は、ドライ
アイ状態及びドライアイ状態の処置の教示に関して参照により本明細書に組み込む、Ho
lly編、The Preocular Tear Film in Health,D
isease,and Contact Lens Wear、The Dry Eye
Institute、Lubbock、Tex.1986;David A.Sull
ivan編、Lacrimal Gland,Tear Film,and Dry E
ye Syndromes、1994、Plenum Press、New York;
David A.Sullivanら編、Lacrimal Gland,Tear F
ilm,and Dry Eye Syndromes 2、1998、Plenum
Press、New York;David A.Sullivanら編、Lacrim
al Gland,Tear Film,and Dry Eye Syndromes
3、Part A and B、2002、Kluwer Academic/Ple
num Publishers、New York、The 2007 DEWS Re
port Ocular Surface 2007年7月、The DEWS II
Report Ocular Surface 2017年7月という論文の概説に記述
されている。
【0005】
さらに、多くの患者に関しては、ドライアイに関連付けられた症状は、大抵の場合、コ
ンタクトレンズ等の眼用補装具の使用によって悪化する。場合によっては、個体は、ドラ
イアイ及びドライアイの症状のみを理由にして、又はこれらを部分的に理由にして、コン
タクトレンズの装用を中止することになる。さらに、眼からの蒸発の速度は、コンタクト
レンズの材料及び表面の性質によって加速される。コンタクトレンズが物理的に存在する
ことにより、十分な涙膜を有する被検体の場合であっても、さらなる物理的な蒸発の影響
を受けて凸凹面が形成される。多くの被検体に関しては、コンタクトレンズを我慢できな
いことは、代用涙液の局所施用によって克服されない。したがって、ドライアイ状態を処
置するため、及び眼用補装具に対する忍容を改善するための改良型の組成物及び方法が必
要とされている。さらに、患者は、ドライアイを体験しているとき又は眼用補装具を装用
しているときには、リッドワイパーエピテリオパシー(lid wiper epith
eliopathy)及び角膜染色を含む眼の徴候を呈することがある。
【0006】
ドライアイの最も一般的な処置は、ある体積の液体を眼の表面及び隣接する組織、例え
ば眼瞼、角膜に供給する人工代用涙液の局所施用によって、ドライアイ症状を一時的に軽
減するものである。一般的な市販の代用涙液組成物は、水溶性ポリマー溶液を含む。これ
らの水溶性ポリマー溶液は、眼における平均の滞留時間が15分未満であるため、限定的
な緩和のみをもたらす。このような溶液の例には、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプ
ロピルメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースの生理食塩水溶液が挙げられる
。米国特許第4,421,748号明細書は、レシチンの低張水溶液と、可溶性セルロー
スの溶液等の粘度調整剤とを含む、人工涙液組成物を教示している。水を含んだ涙膜がオ
キュラーサーフェスに広がり、潤滑された湿潤なオキュラーサーフェスを維持する。眼か
ら水分が脱水すると、不快感を生じる可能性があることも公知である。さらに、ドライア
イ処置用として意図された組成物は、市場から入手することができる。市販の組成物は主
に、眼の表面を覆うように水溶性ポリマーの膜を加えることによって涙膜を補う、水性物
質である。これらの膜は、寿命が短いものであり、限定的な緩和をもたらす。
【0007】
いくつかの改良型のドライアイ処置用組成物は、米国特許第4,914,088号明細
書、第5,278,151号明細書、第5,294,607号明細書、第5,578,5
86号明細書及び第9,161,905号明細書において開示されており、これらのそれ
ぞれは、組成物及び使用を含む、どのようにして眼の表面に油膜を形成するかについての
教示に関して、参照により本明細書に組み込む。米国特許第4,914,088号明細書
は、ドライアイ症状の処置のための、特定の帯電したリン脂質の使用を教示している。帯
電したリン脂質を眼に加えることにより、眼の中に自然に存在する涙膜の再現が促される
と考えられている。上記特許によれば、好ましくは水性エマルションの形態の形態である
リン脂質組成物が眼に局所施用されるが、リン脂質組成物は、オキュラーサーフェスに拡
散し、主として瞬きの間にマイボーム腺から分泌された天然脂質の伸展によって形成され
た脂質層を再現する膜を形成すると考えられている。リン脂質は、眼に施用されたときに
は正味の負電荷を帯びているため、配列された分子が互いに反発しあって、複雑な凝集物
の形成を防止することにより、安定なリン脂質膜を生じさせると考えられている。上記特
許は、帯電したリン脂質から形成された膜が、バリア膜の形成を促進して、水様層の蒸発
を提言することにより、涙膜を保つと理論化している。他の者達は、リン脂質がエマルシ
ョン安定性を維持する界面活性剤としても機能すると理論化している。
【0008】
上記で言及した米国特許第5,278,151号明細書、第5,294,607号明細
書、第5,578,586号明細書、第9,279,095号明細書及び第9,375,
401号明細書は、ドライアイ処置のさらなる改良を開示している。これらの特許におい
ては、米国特許第4,914,088号明細書のドライアイ処置用組成物は、眼球処置用
組成物への油、好ましくは、炭化水素構成要素から構成される鉱油等の非極性油の添加に
よって改良されている。油は、蒸発バリアとして機能する油膜がオキュラーサーフェスを
覆うように形成される結果として、眼に形成された涙膜の存在期間を長くすることによっ
て、すなわち、涙膜の外面上に脱水バリア(油層)を設け、及び/又はこの脱水バリア(
油層)を増厚することによって、ドライアイ処置用組成物の性能を改善するために添加さ
れる。したがって、油は、ドライアイ処置用溶液の有効性を高め、被検体ごとの成果のバ
ラつきを少なくする。この油は、多くのドライアイの事例においては十分な脂質涙液層を
設けるのに十分な油を供給しない、マイボーム腺から供給される油も補う。上記で言及し
た特許において開示された好ましい一実施形態は、水相が、乳化剤としても機能するし、
ぼやけを伴わない油の膜による涙膜の水様層への結合を形成するように油を眼に伸展させ
る界面活性剤としても機能すると考えられている、帯電したリン脂質を含む、準安定な水
中油型エマルションを含む、ドライアイ処置用組成物である。エマルションは望ましくは
、エマルションが眼に施用されると、最初に眼の環境と接触したときに迅速に分裂し、オ
キュラーサーフェスに伸展するように、「準」安定である。
【0009】
上記特許文献においては、眼に加えられた油の総量が、好ましくは25μLを超えず、
より好ましくは約1~10μLであり、最も好ましくは約1~5μLである、準安定なエ
マルションが配合された。眼に加えられた油の量が25μLを超える場合、眼の表面上の
油層は、過剰な厚さを有し、結果として、眼の表面上に油の小球が形成される可能性があ
る。これらの小球は、長期間にわたるぼやけた視界を生じさせる可能性が高い。眼に加え
られる油の量を制御するために、エマルション中における油の濃度限界は、妥当な限界に
収まるように制御される。全組成の重量により少なくとも0.1パーセントの濃度の油を
含有するエマルションは、ある程度の利益をもたらし、好ましい濃度は、処置用組成物の
重量に対して少なくとも1.0パーセントであり、最も好ましい油含量は、エマルション
の重量により約2.5~12.5パーセントである。
【0010】
米国特許第5,371,108号明細書は、油及びワックスを含むゲルを生成して、オ
キュラーサーフェス上に涙膜を形成するための方法と、ゲル中にワックスが存在すること
により、油の滞留時間を延長することができることとを教示している。大部分の消費者に
許容されるものを超える視界のぼやけを誘発させないようにワックスを均一化することが
難しいため、ワックス含有ゲルは、商業的には生産及び販売されてこなかった。特に、オ
ートクレーブ処理して、ワックス含有配合物を滅菌することは、粒形を増大させ、この結
果として、刺激及びぼやけた視界を生じさせる。ゲルは、粘度が低い半固体状配合物であ
る。対照的に、本開示は、室温で流動する液体として振る舞う、準安定なエマルションを
対象としている。エマルションは、液体として振る舞い、したがって、固定的な内部構造
を示さない。
【0011】
米国特許第5,278,151号明細書は、水中油型エマルションが天然ワックスを含
有してもよいことを教示している。
【0012】
自然の涙に関しては、Shimizu及び同僚らは、典型的な涙液体積が12.4±6
.2μLであると報告している。Shimizuら、1993 Nippon Gank
a Gakkai Zasshi.97(9):1047~52。他の者達からは、6.
2±2.0μLという小さな体積が報告されている。Mishimaら、1996、IO
VS 1966;5:264~76。
【0013】
油エマルション製品及び水エマルション製品を含む現在の市販の製品は大抵の場合、油
、水溶液及び粘液模倣物質(mucomimetic)の様々な組合せよって、涙膜に属
する1つ以上の層を補う。これらの脂質エマルションは、十分な潤滑及び乾燥の防止をも
たらすが、眼に残留し、最も望まれている臨床結果である持続的な緩和をもたらす能力と
いう観点においては、不十分なままである。しかしながら、これらの組成物は、介在層に
結合することができず、上記涙膜に属する1つ以上の層は、眼の表面における自然の安定
性を喪失し、この結果として、眼における滞留時間が45分未満になるため、緩和も限定
的になる。脂質層、水様層及びムチン層は、涙膜に属するそれぞれの後続の層に接続され
ていない場合、自然のものであるか、人工的なものであるか、これらの何らかの組合せで
あるかにかかわらず、短すぎて、ドライアイの症状から逃れて持続的な心地よさをもたら
すことができない期間でしか発現しないことが多い。眼及び涙膜の層及び界面の構成要素
の拡大図に関しては、図1を参照されたい。正常な涙膜は、3~6μMの厚さである。涙
膜まで線を引かれた2つの挿入図は、脂質層/水様層界面の拡大図及び水様層/ムチン層
界面の拡大図を示している。第3の挿入図は、ドライアイに関連付けられた層及び界面の
減厚を示している。特に、第3の挿入図は、(i) 水様層、(ii) 非結合型ムチン
層及び(iii) 角膜上皮細胞の表面上にある結合型ムチン層の減厚を示している。既
存製品は、脂質層を含む涙膜に属する異なる層及び界面を安定化しない。したがって、既
存製品は、安定な脂質層を作り出さず、長期的な利益をもたらさない。
【0014】
ドライアイ処置用溶液用の代用涙液の有効性を定量化するために使用される方法は、歴
史的に標準化されておらず、このような代用涙液組成物を用いて得られた結果を定量化す
るために使用される多くの方法は、大抵の場合、不正確である。このため、公知の代用涙
液を用いるドライアイ症状の既報の緩和は、被検体ごとにかなり異なり、代用涙液を用い
る緩和を定量化するのに使用される方法にかかわらず、緩和は、大抵の場合、数分を超え
ない。
【0015】
ある治療法が持続的な緩和をもたらすためには、涙膜に属する不足のある層を補わなけ
ればならないだけでなく、オキュラーサーフェス上におけるこれらの層のホメオスタシス
を促進するのに必要な化学的特性及び結合特性も有さなければならない。原因及び程度が
大きく異なる症状を伴う多数の患者を対象にして実用可能な何らかのソリューションを求
める場合、治療法は、自然の人間の涙膜の特性を可能な限り近似するように模倣する必要
がある。研究により、涙膜の中にワックスが存在することが報告されているが、これらの
ワックスの目的はあまり分かっていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
涙膜の目的は、オキュラーサーフェスを保護し、オキュラーサーフェスに潤滑をもたら
すことであるため、さらに加えて、低い濃度の医薬品有効成分(API)を眼に送達する
ために涙膜を使用できるようにもすることは、産業上の課題になっている。Patelら
、2013、「Ocular drug delivery systems: An
overview」World J.Pharmacol 2(2)47~64を参照さ
れたい。賦形剤が医薬品有効成分(API)の良好な担体であるためには、賦形剤は、自
然の涙膜の特性及び容積モル浸透圧濃度を模倣し、長期間にわたって眼に残留する必要が
ある。このような製品は、眼用薬用として長い間望まれている経路である角膜上皮細胞へ
のAPIのバイオアベイラビリティを高めるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第4,421,748号明細書
【特許文献2】米国特許第4,914,088号明細書
【特許文献3】米国特許第5,278,151号明細書
【特許文献4】米国特許第5,294,607号明細書
【特許文献5】米国特許第5,578,586号明細書
【特許文献6】米国特許第9,161,905号明細書
【特許文献7】米国特許第第9,279,095号明細書
【特許文献8】米国特許第第9,375,401号明細書
【特許文献9】米国特許第5,371,108号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Holly編、The Preocular Tear Film in Health,Disease,and Contact Lens Wear、The Dry Eye Institute、Lubbock、Tex.1986
【非特許文献2】David A.Sullivan編、Lacrimal Gland,Tear Film,and Dry Eye Syndromes、1994、Plenum Press、New York
【非特許文献3】David A.Sullivanら編、Lacrimal Gland,Tear Film,and Dry Eye Syndromes 2、1998、Plenum Press、New York
【非特許文献4】David A.Sullivanら編、Lacrimal Gland,Tear Film,and Dry Eye Syndromes 3、Part A and B、2002、Kluwer Academic/Plenum Publishers、New York、The 2007 DEWS Report Ocular Surface 2007年7月、The DEWS II Report Ocular Surface 2017年7月
【非特許文献5】Shimizuら、1993 Nippon Ganka Gakkai Zasshi.97(9):1047~52
【非特許文献6】Mishimaら、1996、IOVS 1966;5:264~76
【0019】
3.本開示の概要
いくつかの方法で涙膜を再構築する天然又は合成ワックスエステル又はワックスエステ
ルの適切な組合せを涙膜に組み入れる、水中油型エマルションが、本明細書において開示
されている。特に、この水中油型エマルションは、介在層自体の完全性を向上させること
によって涙膜を再構築し、ムチン層を水様層に結合させ、並びに/又は角膜細胞及び水様
層を脂質層に結合させ、さらには、ムチン層自体、水様層自体及び脂質層自体を構築及び
増厚する。ワックスエステル及びワックスエステルの加水分解生成物が可能にする結合及
び増厚プロセス並びに後続するホメオスタシスにより、涙膜の層は、互いにくっつきあう
ことができ、この結果、自然の涙膜を模倣し、長期間にわたって眼に残留する涙膜をもた
らすことができる。この賦形薬は、本明細書において述べたような医薬の送達のために使
用されることに加えて、涙膜を模倣することも行う。
【0020】
一実施形態において、本開示は、水と、油と、界面活性剤と、蜜蝋又はワックスエステ
ルの適切な組合せであってもよいワックスエステルとを含む水中油型エマルションを含む
、点眼剤であって、(i) 眼と接触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマル
ションを形成し、(ii) 約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす、点眼剤を提供する
。一部の実施形態において、点眼剤は、約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす。他の実
施形態において、点眼剤は、眼に約2~約8時間又は1~10時間をもたらす。代替的に
は、点眼剤は、眼に3時間超の潤滑、5時間超の潤滑、8時間超の潤滑又は10時間超の
潤滑をもたらすことができる。
【0021】
水と、油と、界面活性剤と、ワックスエステル及び他のワックスエステル組成物並びに
これらのエステルの部分加水分解生成物を含む蜜蝋等のワックスエステルとを含む水中油
型エマルションを含む、点眼剤であって、点眼剤中のワックスエステル組成物が、被検体
の眼においてムチン層、水様層及び脂質層と相互作用し、ムチン層と水様層との間にある
介在層、水様層と脂質層との間にある介在層の完全性を維持するように作用する、点眼剤
【0022】
水と、脂質と、界面活性剤と、失活されたビール酵母又はADPリボース等の誘導体等
の抗炎症性構成要素と、ワックスエステル及び他のワックスエステル組成物並びにこれら
のエステルの部分加水分解生成物とを含む準安定なエマルションを含む、点眼剤であって
、点眼剤中のワックスエステル組成物が、被検体の眼においてムチン層、水様層及び脂質
層を結合させ、涙膜を増大させ、ドライアイによって起こされる眼の炎症を低減しながら
、ムチン層と水様層との間にある介在層、水様層と脂質層との間にある介在層の完全性を
維持するように作用する、点眼剤。
【0023】
別の実施形態において、本開示は、水と、鯨油若しくはアザラシ油等の油及びワックス
若しくはワックスエステル構成要素又はこれらの合成版の構成要素と、界面活性剤と、他
のワックスエステル組成物及びこれらのエステルの部分加水分解生成物とを含む脂質及び
ワックスを主体とするエマルションを含む、点眼剤であって、点眼剤中のワックスエステ
ル組成物が、被検体の眼においてムチン層、水様層及び脂質層を結合させ、ムチン層と水
様層との間にある介在層、水様層と脂質層との間にある介在層の完全性を向上及び維持す
る、点眼剤を提供する。
【0024】
別の実施形態において、本開示は、水と、油と、界面活性剤と、蜜蝋等のワックスエス
テル及びワックスエステルの部分加水分解生成物とを含む水中油型エマルションを含む、
点眼剤であって、(i) 眼と接触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマルシ
ョンを形成し、(ii) 約2~約12時間の間眼に潤滑をもたらす、点眼剤を眼に接触
させることを含む、ドライアイの症状を軽減するための方法を提供する。一部の実施形態
において、本方法は、約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす。他の実施形態において、
本方法は、約2~約8時間又は1~10時間の間眼に潤滑をもたらす。代替的には、本方
法は、眼に3時間超の潤滑、5時間超、8時間超又は10時間超の潤滑をもたらすことが
できる。
【0025】
別の実施形態において、本開示は、準安定な水中油型エマルションであり、約2~約5
時間の間眼に潤滑をもたらす、点眼剤を調製する方法であって、脱イオン水溶液に取り込
まれた蜜蝋等のワックスエステル及び界面活性剤を含むワックスエステル分散物を調製す
ることと、脱イオン水溶液に取り込まれた油を含む水中油型エマルションを調製すること
と、適切な条件下で蜜蝋分散物と水中油型エマルションとを別々にオートクレーブ処理す
ることと、約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす準安定な水中油型エマルションを調製
するように、オートクレーブ処理されたワックスエステル分散物と水中油型エマルション
とを無菌方式でブレンド処理することとを含む、方法を提供する。好ましい一実施形態に
おいて、脂質画分は、油と蜜蝋が乳化した均一な液滴である。一実施形態において、本組
成物は、一般用医薬品又は処方せん医薬品(ジェネリック医薬品又は専売医薬品)を送達
するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
4.図面の簡単な説明
図1】異なる領域を有する涙膜の拡大図を示している、図である。正常な涙膜は、3~6ミクロンの厚さである。この図面は、脂質層、脂質層/水様層界面、水様層、水様層/ムチン層界面、ムチン層及び角膜を示している。これらの挿入図のうちの2つは、脂質層/水様層界面の拡大図及び水様層/ムチン層界面の拡大図を示している。第3の挿入図は、ドライアイに関連付けられた層及び界面の減厚を示している。特に、第3の挿入図は、(i) 水様層、(ii) 非結合型ムチン層及び(iii) 角膜上皮細胞の表面に結合した結合型ムチン層の減厚を示している。
図2】1%ワックスエステル試作品(実線)と市販の水溶性ポリマー溶液(点線)(n=2)との対比における、分単位で表した経時的な涙膜スコア(又は分単位で表した滞留時間)を示している、図である。
図3】1%ワックスエステル試作品(実線)と市販の水溶性ポリマー溶液(点線)(n=5)との対比における、分単位で表した経時的な涙膜スコア(又は分単位で表した滞留時間)を示している、図である。
図4】1%ワックスエステル試作品(実線)と市販の水溶性ポリマー溶液(点線)(n=5)との対比における、分単位で表した経時的な涙膜スコア(又は分単位で表した滞留時間)を示している、図である。
図5】1%ワックスエステル試作品といくつかの市販の溶液とを対比させた場合における比較データ又は分単位で表した滞留時間及び涙膜スコアの一部を示すグラフを示している、図である。灰色の実線は、EternaTear(商標)という1%ワックスエステル試作品を用いた2回の実験であり、灰色の点線は、第1世代型の市販の眼用製品である。黒色の点線は、第2世代型の市販の眼用製品である。
図6】2倍(実線)、3倍(点線)、及び4倍(白丸)に濃縮されたエマルションをオートクレーブ処理した後のエマルションの粒径分布の変化を示している、図である。上側の図は、「製造時の状態のままの」製品の粒径分布を示しているが、下側の図は、これらのサンプルをオートクレーブ処理した効果を示している。
図7】オートクレーブ処理の前(黒色の実線)及び後(点線)における、サブミクロンワックスエステル粒子の粒径分布を示している。
図8】オクトキシノール-40含有の水に取り込まれた乳化プロセスにおいて得られたワックスエステル粒子の粒径分布を示している、図である。黒色の実線は、製造時の状態のままのサンプルに関するものであり、点線は、オートクレーブ処理後に得られた分布である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
5.本開示の詳細な説明
本発明は、蒸発を低減し、現在入手可能な製品より2~10倍長く眼に残留しながら、
向上した眼の潤滑をもたらすことができる、眼のオキュラーサーフェスを覆うように人工
涙膜を形成するためのエマルション組成物に関する。本組成物は、オキュラーサーフェス
と眼用補装具の表面との両方を濡らし、潤滑をもたらすため、本組成物は、医薬品をオキ
ュラーサーフェスに送達するため、及び、コンタクトレンズ等の眼用補装具を装用した個
体を処置するためにも有用である。より特定すると、本発明は、2~6時間の期間にわた
ってオキュラーサーフェスを覆うように安定な涙膜を増大及び維持することができ、並び
に/又は重大な視界のぼやけも不快感も発生させることなく医薬品を眼に送達することが
できる、エマルション組成物に関する。本エマルションは望ましくはエマルションの形態
であるが、ワックス又はワックスエステルを、油並びに適切な界面活性剤及び介在する構
成要素と組み合わせて使用して、オキュラーサーフェスにおける滞留時間を長くし、同時
に、このようなエマルションの形成に適した組合せを供給し、オートクレーブ処理中にお
けるエマルションの完全性を維持することを特徴とする。
【0028】
一部の実施形態において、本発明は、当該水中油型エマルションを、制御された様式で
送達することが可能になり、人工涙膜組成物中における当該水中油型エマルションの存在
が、準安定な水中油型エマルション中におけるワックスエステルの組成、濃度及び粒径を
指定することによって、眼における滞留時間を劇的に長くするように蜜蝋等の天然ワック
スエステルが溶解された、水中油型エマルションである。このワックス含有エマルション
は、当業者が製造、貯蔵及びオキュラーサーフェスへの施用のために望ましいものとして
容認する準安定な特性を得るために、1種以上の界面活性剤を使用することができる。さ
らに、これらの界面活性剤に片方又は両方が、アニオン極性リン脂質であってもよい。
【0029】
蜜蝋等の天然又は合成ワックスエステル及びこれらのワックスエステルの部分加水分解
生成物が添加され、エマルションの様々な相の隅から隅まで正常に分配されることには、
潤滑作用のある要素が、通常の条件下で1時間超から12時間までの期間にわたって眼に
残留できるようにすることによって、組成物の有効性を改善する効果がある。
【0030】
本発明の化学的構造及びこの構造を得る製造プロセスは、脂質、水溶液及び粘液模倣物
質を用いて涙膜に属する別々の層を再生するだけでなく、自然の涙膜を忠実に模倣する濃
度の均一化されたワックスエステルを導入することによって、涙膜の介在部結合特性を補
強し、涙膜を構築及び増厚する。このようにすると、眼用潤滑剤と、同時に存在する医薬
品とによってもたらされる緩和の持続期間の著しい改善が、達成される。
【0031】
涙膜中におけるワックスエステル及びワックスエステルの加水分解生成物の役割は、介
在層自体の完全性を維持して、ムチン層を水様層に結合させ、水様層を脂質層に結合させ
ることであると提案されている。さらに、ワックスエステルは、ムチン層自体、水様層自
体及び脂質層自体を構築及び増厚するようにも働く。ワックスエステルが可能にする結合
プロセス及び後続するホメオスタシスにより、涙膜に属する層は、互いにくっつきあうこ
とができ、この結果、涙膜全体が、長期間にわたって眼に残留することができる。眼科用
組成物は、いかなる生成物もあらかじめ取り込まれていない介在層を含む、涙膜に属する
すべての層を通り抜ける。このような理解は、正常な涙膜においては、完全に既知になっ
ている又は理解されているわけではないが、内部での研究により、本発明者らは、クラウ
ゼ腺、ヴォルフリング腺及びモル腺を含む眼瞼の腺が、脂質を排出するマイボーム腺、及
び、正常な瞬きの作用が安定した正常な眼の涙膜を構築することによる眼瞼のリップワイ
パー効果を伴う涙腺の水性分泌物と相まって、ワックス及びワックスエステルを排出する
と結論付けるように促された。
【0032】
本明細書に記載の点眼剤の粘度は、当業者に周知の技法を用いて測定することができる
。粘度を測定するための方法の非限定的な例には、落球粘度計、粘度カップ、コンシスト
メータ(傾斜面の流れを測定する)、ガラスキャピラリー粘度計又は回転粘度計を挙げら
れる。種々の機器が市販されている(Cole-Palmer Instrument
Co.、Vernon Hills、IL、USA)。
【0033】
眼における長い滞留時間及び自然の涙膜と共有する特性は、眼及び眼用補装具のための
潤滑剤として作用するだけでなく、医薬品を送達するための向上したバイオアベイラビリ
ティを可能にする賦形剤としても作用する能力をエマルションにさらに付与する。
【0034】
このワックス含有エマルションは、患者に不快感を与えないように7.0~7.7の生
理的pHに維持され、適切な緩衝系によって維持される。油相は、約1.0重量パーセン
ト~約12.5重量パーセントの濃度。好ましくは、油は、約1パーセント~約7.5パ
ーセントの範囲で存在する。好ましい一実施形態において、鉱油は、分子量が異なる2種
の油の混合物である。
【0035】
本発明のための配合物は、上記構成要素の組合せを含むことができるが、上記構成要素
の組合せの一部は、眼への使用が許容される安全なものであると当業者に認識されている
保存料の添加を必要とする可能性がある。保存料の例には、ベンザルコニウムクロリド、
PURITE(登録商標)(Bio-Cide International Inc.
、Norman、OK、USA)、POLYQUAD(登録商標)(Alcon Lab
oratories,inc.、Fort Worth、TX、USA)、GENAQU
(登録商標)(Novartis Ophthalmics、East Hanove
r、NJ、USA)、ポリヘキサメチレンビグアニド(ICI)、OcuPure(登録
商標)(Abbott Laboratories Inc.、Chicago、IL、
USA)、DISSIPATE(登録商標)(OCuSOFT、Rosenberg、T
X、USA)が挙げられる。Moshirfarら、2014、「Artificial
tears potpourri:a literature review」Cli
n Ophthalmol.8:1419~1433を参照されたい。保存料含有の配合
物中には、一般的に、エチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)も含まれる。
【0036】
無菌マルチドーズ型容器用に調製されたものであろうが、保存料を含むものであろうが
、配合物は、ホウ酸緩衝液をさらに含むこともできる。代替的には、リン酸緩衝液を使用
してもよい。
【0037】
好ましい一実施形態において、点眼剤は、保存料不含である。一部の実施形態において
、保存料不含の溶液は、従来のマルチユース用途に伴う細菌汚染の危険性があるため、シ
ングルユース型パッケージに入った状態で送達される。別の実施形態において、点眼剤は
、無菌マルチドーズ型ボトルに入った状態で送達される。いくつかの構成が公知である。
一例として、Aptar Pharma(Crystal Lake、IL、USA)は
、機械的に動作し、フィルターメンブレンを用いる、マルチドーズ型圧搾式ディスペンサ
ーを販売している。PCT公報WO2017/074420及びWO2017/1321
90(Aptargroup,inc.)を参照されたい。この技術は、ALLEGAN
RESTASIS MULTIDOSETMという製品の場合、シクロスポリン眼用エ
マルションを送達するために使用されている。上記技術は、CLEAR EYES(登録
商標)PURE RELIEF(登録商標)という製品を送達するためにも使用されてい
る。別の無菌マルチユース型システムは、JOT(商標)という製品である。JOT(商
標)は、圧力を用いて、制御された滴を送達し、現在のディスペンサーを代替する水平な
送達を実現する、目薬用ディスペンサーである。http://jotteq.com/
about/。
【0038】
本発明の処置用組成物は、それぞれの中に存在するように油滴を含有する水性相及びワ
ックス成分と、エマルションを安定化すること、及び眼へのエマルションの施用後にエマ
ルションをオキュラーサーフェスに伸展させることという2つの目的のために使用される
界面活性剤の組合せとを有する、水中油型エマルションである。界面活性剤の組合せは、
第1の界面活性剤及び第2の界面活性剤を含むことが可能であり、製造時及び貯蔵中にお
いては安定であるが、オキュラーサーフェスに施用されたときには準安定であることが望
ましい、エマルションの形成を可能にするものであり、言い換えると、眼に施用されると
迅速に分化し、これにより、ぼやけた箇所がない油膜が、オキュラーサーフェスを覆うよ
うに迅速に形成され、ワックスエステルをエマルションの各相にワックスエステルを広げ
るものである。製造中及び貯蔵中に安定なエマルションは、静置中に別個の相に分離する
ことができるが、簡単な振とうによって再構築することができる、エマルションである。
不安定なエマルションは、分裂してバラバラになると、一般的には、簡単な振とうによっ
て排除することができない油膜又はオイルスリックを形成する、エマルションである。一
部の実施形態において、界面活性剤は、ポリソルベート80、オクトキシノール40、又
は、ジミリストイルホスファチジルグリセロール等のジホスファチジルグリセロール等の
非イオン性界面活性剤である。他の実施形態において、界面活性剤は、アニオン性界面活
性剤である。アニオン性界面活性剤は、リソホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、
ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール
又はホスファチジルセリン等のアニオン極性リン脂質であってよい。好ましい一実施形態
において、アニオン性界面活性剤は、ジホスファチジルグリセロールである。好ましい一
実施形態において、界面活性剤は、2種の界面活性剤の混合物である。
【0039】
使用中に準安定なエマルションは、本発明の目的のために望ましい。ドライアイ症状の
軽減のために使用可能ではあるが、安定なエマルションは、準安定なエマルションとは対
照的に、オキュラーサーフェスに施用されたときに迅速に分化しない。これは、次の理由
のため望ましくない。エマルションは一般的に、異なる2種の相が存在するため、光学的
に不透明である。したがって、眼の表面を覆った不透明なエマルションは、ぼやけを発生
させる可能性が高い。ぼやけの持続期間は、エマルションが分化し、別個の層を形成して
、涙膜を再生するのに必要な時間に依存する。さらに、エマルションは、点眼器から標準
的な一滴として眼に最も容易に加えられる。眼は、体積が25μL未満である限られた体
積の流体を保持することができる。25μLの体積は、標準的な一滴の体積より大幅に小
さい。したがって、エマルションが安定であり、眼への施用後に迅速に分化できなかった
場合、過剰なエマルションは、瞬きの間に眼から排出される。眼からエマルションが排出
されると、長期間持続する涙膜の形成が可能になる前に、眼から処置用溶液の有効成分が
排出されることになる。このため、有効成分は、望ましい涙膜を形成するのに十分な量で
利用することができないこともある。したがって、安定なエマルションは、限られた期間
にわたってドライアイの症状を軽減することができるかもしれないが、好ましさが減じた
本発明の実施形態である。
【0040】
準安定なエマルションという用語が本明細書において使用されているとき、準安定なエ
マルションは、貯蔵中に安定である又は2つの別個の層に分化するが、使用前に簡単に振
とうすることによって容易に再構成されるものである。準安定なエマルションは、標準的
な一滴として眼に加えられると素早く分化して、瞬きによる過剰な油の排出を伴うことな
く、角膜表面を覆うように油膜を迅速に形成することができる。好ましくは、エマルショ
ンは、眼への施用後約10回以内の瞬きの間に、より好ましくは約1分未満の時間で分化
する。ぼやけは、過剰な液体の大部分を動かして、眼から排出するのに必要な時間の間に
生じる可能性がある。エマルションの分化中及び分化後には、エマルションの形成を促し
、エマルションが分かれたときには眼の表面に油が伸展しやすくするように働く、界面活
性剤の組合せを用いて、油膜の形成が促進される。したがって、準安定なエマルションは
、本発明の好ましい実施形態である。
【0041】
本発明のエマルションは、水中油型エマルションを含む。エマルションを形成するため
に使用される油は、動物、植物、ナッツ、石油等に由来し得る。動物、植物種子及びナッ
ツに由来するこのような油は、脂肪に類似しており、主にはグリセリド又は脂肪酸である
が、この結果として、著しい数の酸基及び/又はエステル基を含有するため、極性を有す
るものになっており、本発明の目的に関する好ましさが減じている。これらの油の例は、
サフラワー油、コーン油、カノーラ油、鯨油及びアザラシ油又は化学的に類似する油であ
る。代替的には、石油に由来する油が、オキュラーサーフェス等の人間の組織に対して適
合するように精製されていることを条件にして、石油に由来する油は通常、極性の置換基
を本質的に不含であり、したがって、本発明の目的に適している、脂肪族又は芳香族炭化
水素である。好ましくは、油は、10~150個の炭素原子を有する直鎖状炭化水素油で
あり、より好ましくは、油は、10~26個の炭素原子を有する飽和n-アルカン又はイ
ソアルカン炭化水素である。不飽和アルケン炭化水素が使用されてもよいが、不飽和アル
ケン炭化水素は、化学的により不安定である。好ましい一実施形態において、油は、分子
量が異なる2種の油の混合物である。一部の実施形態において、鉱油は、本発明の目的の
ための好ましい油である。好ましい鉱油の例は、DRAKEOL(登録商標)15及びD
RAKEOL(登録商標)35である。
【0042】
適切な水中油型エマルションを配合するために使用され得るさらなる油は、ヒマシ油、
アーモンド油、ベイ油(myrcia oil)、コーン油、ピーナッツ油、カノーラ油
、サフラワー油、コーラナッツ油、ライトオリーブ油、ベイリーフ油、又は、眼用配合物
用に適したものとして列挙されている他の一般に安全と認められる(GRAS:gene
rally recognized as safe)油等の植物油であってよい。代替
的には、油は、リポソームを形成するのに適した油であってもよい。
【0043】
エマルションに含まれる油成分は、眼へのエマルションの施用後に眼に保持される油の
量が、制御された体積に収まっており、25μLを超えないことを条件にして、妥当な限
界の中で変わり得る。好ましくは、前述の体積は、15μLを超えず、より好ましくは約
1~10μLであり、最も好ましくは約1~5μLである。眼に加えられた油の量が15
μLを超える場合、眼の表面上の油層が、過剰な厚さを有し、長期間にわたるぼやけが生
じる可能性がある。全組成の重量により少なくとも0.1パーセントの濃度の油を含有す
る処置用組成物は、ある程度の利益をもたらす。好ましい油の濃度は、処置用組成物の重
量に対して少なくとも1.0パーセントである。好ましくは、処置用溶液の油含量は、処
置用組成物の重量により約1~12.5パーセントである。
【0044】
好ましい一実施形態において、蜜蝋は、セラ・アルバ(Cera Alba)又はセラ
・フラバ(Cera Flava)である。蜜蝋は、USDAによって認証された有機蜜
蝋又は従来の天然蜜蝋であってもよい。代替的には、蜜蝋は、Koster Keune
n(Watertown、CT、USA)を含む種々の供給元から購入することができる
合成ワックスであってもよい。このようなワックスは、エマルションの調製中に部分加水
分解生成物を含有する可能性がある。
【0045】
本明細書に記載された配合物中に使用されるワックスの量は、変更することができる。
一部の実施形態において、油の百分率が、油の百分率の範囲の上位部分である約7.5w
t%になった場合、蜜蝋の相対的な重量パーセントは、より低くなり、例えば0.5wt
%以下になる。同様に、油の百分率が前述の範囲の下位部分になった場合、蜜蝋の相対的
な重量パーセントは、より高くなり、0.75~1.25wt%になる。
【0046】
他の添加剤が処置用組成物中に存在してもよい。このような材料には、1種のトリグリ
セリド、部分加水分解エステル、コレステロールエステル、高分子量イソプレノイド等の
少量の中性脂質及び中性油;安定剤、さらなる界面活性剤;抗炎症性化合物;粘液模倣物
質;保存料;好ましくは約6.5~7.8、最も好ましくは約7.2~7.5のpHを有
する組成物を得るためのpH調整剤;眼の環境中でエマルションが安定しないように若干
低張性の組成物を形成するのに十分な濃度の塩、バッファー、グリセロール又は糖等が挙
げられ、これらはすべて、当業者には明らかなものである。
【0047】
5.1.医薬品含有の配合物
別の有用な種類の添加剤は、医薬品を含む。本発明のエマルション組成物を用いて眼の
表面に形成された油膜の長期安定性の結果として、眼に対する医薬品の接触が増えるため
、眼への医薬品の送達が長期化し、改善される。本発明の膜形成用組成物を用いた眼への
送達に適した医薬品は、本組成物の水性相又は油相に可溶な医薬品であるが、医薬品は、
油相に可溶であることが好ましい。例示的な医薬品には、参照により本明細書に組み込む
1983年10月26日に公開された欧州特許出願公開第0092453号明細書のセク
ション5.3.1及び5.3.2、又は、2015年4月23日に公開されたPCT公開
番号WO2015/05531、5ページ、5~22行目において部分的に説明されてい
るような、抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤及び緑内障治療剤が挙げられる。
【0048】
本発明における使用に適したいくつかの一般的な眼科用薬物又は活性作用物質には、限
定されるわけではないが、アデノシン二リン酸リボース、アンタゾリン、アプラクロニジ
ン、アプラクロニジン、アトロピン、アゼラスチン、ベポタスチン、ベタキソロール、ベ
タキソロール、ビマトプロスト、ブリモニジン、ブリンゾラミド、ブロムフェナク、ブロ
ムフェナク、カルテオロール、セトリミド、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン
、デキサメタゾン、ジクロフェナク、ドルゾラミド、エメダスチン、エピナスチン、エピ
ナスチン、フルルビプロフェン、フラマイセチンスルフェート、ゲンタマイシン、グラミ
シジン、ハマメリス水、ホマトロピン、ヒアルロン酸、ケトチフェンフマレート、ラタノ
プロスト、レボブノロール、レボフロキサシン、ロドキサミドロテプレドノール、モキシ
フロキサシン、ナファゾリン、ナファゾリン、ネドクロミルマレエート、オフロキサシン
、オロパタジン、ペガプタニブ、フェニラミン、ピロカルピン、プラノプロフェン、プレ
ドニゾロン、ラニビズマズ、リメキソロン、ナトリウム、テトラカイン、テトラヒドロゾ
リン、チオマーサル、チモロール、トブラマイシン、トラフルプロスト、トラボプロスト
、ケトロラクトロメタモール、トロメタモール、キシロメタゾリン、及び、トラボプロス
ト/チモロール、ドルゾラミド/チモロール、ビマトプロスト/チモロール、ブリモニジ
ン/チモロール、ラタノプロスト/チモロール、ブリンゾラミド/チモロール等の組合せ
が挙げられる。好ましい一実施形態において、眼科用薬物は、水又は油相に可溶である。
【0049】
5.2.好ましい組成物の配合
好ましい配合の例は、重量パーセントにより、下記のとおりである。
【0050】
ワックスエステル:好ましくは0.25%~1.0%、範囲:.01~1.25%。一
部の実施形態において、ワックスエステルは、0.25%~0.35%、0.30%~0
.40%、0.35%~0.45%、0.40%~0.50%、0.45%~0.55%
、0.50%~0.60%、0.55%~0.65%、0.60%~0.70%、0.6
5%~0.75%、0.70%~0.80%、0.75%~0.85%、0.80%~0
.90%、0.85%~0.95%、0.90%~1.00%、0.95%~1.05%
、1.00%~1.10%、1.05%~1.15%、1.10%~1.20%又は1.
15%~1.25%までで存在してもよい。一部の実施形態において、ワックスエステル
は、蜜蝋、例えば天然蜜蝋又は合成蜜蝋であってもよい。
【0051】
油:重量が異なる2種の油(例えば、1.0%DRAKEOL(登録商標)15と4.
5%DRAKEOL(登録商標)35)を用いて、好ましくは3.5%~5.5%。範囲
:1.0%~6.5%。一部の実施形態において、油は、1.0%~1.5%、1.25
%~1.75%、1.5%~2.0%、1.75%~2.25%、2.0%~2.5%、
2.25%~2.75%、2.5%~3.0%、2.75%~3.25%、3.0%~3
.5%、3.25%~3.75%、3.5%~4.0%、3.75%~4.25%、4.
0%~4.5%、4.25%~4.75%、4.5%~5.0%、5.75%~6.25
%又は6.0%~6.5%までで存在することができる。
【0052】
ポリソルベート80:好ましくは0.4%、範囲:0.2%~0.7%。一部の実施形
態において、ポリソルベート80は、0.2%~0.4%;0.3%~0.5%;0.4
%~0.6%;0.5%~0.7%までで存在することができる。
【0053】
好ましい一実施形態において、第2の界面活性剤が使用され、第2の界面活性剤は、オ
クトキシノール40又はアニオン極性リン脂質(APP:anionic polar
phospholipid)であってもよい。第2の界面活性剤がオクトキシノール40
である場合、好ましくは.3%、範囲0.1%~0.6%。一部の実施形態において、オ
クトキシノール40は、0.1%~0.2%、0.15%~0.25%、0.2%~0.
3%、0.25%~0.35%、0.3%~0.4%、0.35%~0.45%、0.4
%~0.5%、0.45%~0.55%又は0.5%~0.6%で存在することができる
。第2の界面活性剤がアニオン極性リン脂質(APP)である場合、第2の界面活性剤は
、好ましくは、ジミリストイルホスファチジルグリセロール等のジホスファチジルグリセ
ロールである:好ましくは0.25%、範囲0.1%~0.75%。一部の実施形態にお
いて、APPは、0.1%~0.2%;0.15%~0.25%;0.2%~0.3%;
0.25%~0.35%;0.3%~0.4%;0.35%~0.45%;0.4%~0
.5%;0.45%~0.55%;0.5%~0.6%;0.55%~0.65%;0.
6%~0.7%又は0.65%~0.75%までで存在することができる。
【0054】
一塩基性及び二塩基性リン酸塩:0.25%及び.03%、範囲0.01%~0.5%
【0055】
塩化ナトリウム:.67%、範囲0.60%~0.75%
【0056】
配合物のpH:7.6+0.1、-0.6
【0057】
質量オスモル濃度:好ましくは230~260mOsmol/kg、範囲210~26
0mOsmol/kg
【0058】
脱イオン水
【0059】
任意選択により、EDTA。存在する場合、好ましくは0.01%、範囲0.007%
~0.02重量%。一般的に、配合物中に保存料が存在する場合には、EDTAが使用さ
れる。
【0060】
任意選択により、失活されたビール酵母又はアデノシン二リン酸リボース等の抗炎症性
化合物、存在する場合、好ましくは0.02%~1重量%。
【0061】
任意選択により、ヒアルロン酸(HA:hyaluronic acid)又はヒアル
ロン酸ナトリウム等のグリコシルアミノグリカン等のヒドロキシプロピルグアーガム(H
P Guar)等の粘液模倣物質が、含まれてもよい。点眼剤のための一般的なHA濃度
は、0.1%~0.4%の範囲である。軟化剤又は粘滑剤等の他の添加剤が取り込まれて
いてもよい。非限定的な例には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド又はブチレンオ
キシドのポリマーが挙げられる。さらなる例は、カルボキシメチルセルロース(CMC:
carboxymethylcellulose)、ヒドロキシプロピルメチルセルロー
ス(HPMC:hydroxypropyl methylcellulose)、ポリ
アクリル酸(PAA:polyacrylic acid)、ポリエチレングリコール(
PEG:polyethylene glycol)、プロピレングリコール(PG:p
ropylene glycol)又はポリビニルアルコール(PVA:polyvin
yl alcohol)である。液体状ポリオールに関する特定の濃度範囲:グリセリン
0.2%~1%;ポリエチレングリコール300 0.2%~1%;ポリエチレングリコ
ール400 0.2%~1%;プロピレングリコール0.2%~1%;又はポリビニルア
ルコール0.1%~4%。セルロース誘導体に関する特定の濃度範囲 カルボキシメチル
セルロースナトリウム0.2%~2.5%;ヒドロキシエチルセルロース0.2%~2.
5%;ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.2%~2.5%;及びメチルセルロース
0.2%~2.5%。Pucker,ADら、2016、「Over the coun
ter (OTC) artificial tear drops for dry
eye syndrome」、Cochrane Database Syst Rev
.2月23日;2:CD009729を参照されたい。
【0062】
点眼剤は、HCl若しくはクエン酸等の酸又はNaOH等の塩基を用いて適切なpHに
される。
【0063】
5.3.規定
当業者ならば下記の用語は十分に理解すると信じてはいるが、本出願により開示された
主題の説明を円滑にするために、下記の規定を記載している。
【0064】
本明細書において使用されている「ワックスエステル」は、長い又は非常に長い炭素鎖
を有し、60℃又は100℃までは固体である、ワックスエステルを意味する。ワックス
エステルは、動物、植物、細菌の供給源に由来の天然ワックスエステルであってもよいし
、又は、蜜蝋、イボタ蝋、シェラックワックス及び鯨蝋等の合成ワックスエステルであっ
てもよい。好ましいワックスエステルは、蜜蝋であり、蜜蝋は、C1531COOC
61の典型的な近似の化学式を有する、いくつかの成分からなるワックス又はワック
スエステルの混合物である。天然蜜蝋の場合、主要な成分は、2種の主要な成分であるト
リコンタニルパルミテートCH(CH29O-CO-(CH14CHとセロ
チン酸CH(CH24COOHとの比がおよそ6:1である、長鎖脂肪族アルコー
ルのパルミチン酸エステル、パルミトレイン酸エステル及びオレイン酸エステルである。
蜜蝋の化学組成は、モノエステル30~55%;炭化水素10~18%;遊離脂肪酸10
~15%;ジエステル及び複合エステル8~18%;ヒドロキシモノエステル3~6%;
ヒドロキシポリエステル7~10%;遊離脂肪アルコール1~2%;微量成分2~7%で
ある。Leray,Claude、「Waxes」Kirk-Othmer Encyc
lopedia of Chemical Technology、2016年9月15
日、John Wiley & Sons、第25巻、1~25頁を参照されたい。天然
蜜蝋は、セラ・アルバ又はセラ・フラバ(白蝋又は黄蝋)としても市販されている。代替
的には、蜜蝋は、合成蜜蝋であってもよい。一般的に、合成蜜蝋は、脂肪エステル(C3
2~C62)、高分子量炭化水素(C21~C34)、脂肪酸(C16~C36)及び脂
肪アルコール(C16~C36)のブレンド品である。合成蜜蝋の場合、エステルが最も
豊富であり、炭化水素が次に豊富であり、酸、次いでアルコールが豊富である。合成蜜蝋
の例は、Andersonの米国特許第4,151,001号明細書の中で見つけること
ができる。エマルションの調製中には、商業用プロセスの一部として、ワックスエステル
を加水分解して、さらなる酸及び/又はアルコールを形成することができる。
【0065】
本明細書を通して、「約」及び/又は「およそ」という用語は、数値及び/又は範囲と
一緒にして使用されることがある。「約」という用語は、記載された値に近い値を意味す
るように理解されている。例えば、「約40[単位]」は、40に対して±25%以内(
例えば、30から50まで)、±20%以内、±15%以内、±10%以内、±9%以内
、±8%以内、±7%以内、±6%以内、±5%以内、±4%以内、±3%以内、±2%
以内、±1%以内、±1%未満、又は、これらの中に含まれる若しくはこれらより低い他
の任意の、すなわち、「何らかの他の」値若しくは値の範囲を意味することができる。代
替的には、文脈によっては、「約」という用語は、標準偏差±2分の1、標準偏差±1又
は標準偏差±2を意味することもある。さらに、「約[値]未満」又は「約[値]超」と
いう語句は、本明細書において提供された「約」という用語の規定を考慮して理解された
い。「約」及び「およそ」という用語は、相互に置きかえ可能なように使用され得る。
【0066】
本明細書を通して、数値範囲は、特定の量を対象にして提供されている。これらの範囲
は、これらの範囲に含まれるすべての部分範囲を含むことを理解されたい。したがって、
「50から80まで」という範囲は、この「50から80まで」という範囲に含まれるす
べての可能な範囲(例えば、51~79、52~78、53~77、54~76、55~
75、60~70等)を含む。さらに、所与の範囲に含まれるすべての値は、この所与の
範囲によって包含される範囲における限度になることができる(例えば、50~80とい
う範囲は、55~80、50~75等、複数の限度がある範囲を含む。)。
【0067】
本明細書において使用されているとき、本明細書及び特許請求の範囲において使用され
ている「含む」という動詞及びこの動詞の活用形は、この「含む」という単語に後続する
要素が含まれるが、具体的に言及されていない要素も排除されないことを意味するように
、非制限的な意味で使用されている。
【0068】
本明細書を通して、「含む」という語句又は「備える」若しくは「具備する」等の変形
形態は、記載された要素、整数若しくは段階又は要素、整数又は段階の群の包含を含意す
るが、他の任意の、すなわち、「何らかの他の」要素、整数若しくは段階又は要素、整数
若しくは段階の群の排除を含意するわけではないと理解される。本開示は、特許請求の範
囲に記載された段階、要素及び/又は試薬を適切に「含み」、「からなり」、又は「から
本質的になる」ことができる。
【0069】
特許請求の範囲が、何らかの任意選択による要素を排除するように作成され得ることに
は、さらに留意する。したがって、本明細書は、クレーム要素の列挙又は「消極的」限定
の使用との関連において、「単独で」及び「のみ」等のような排他的な用語の使用の先行
基礎として働くように意図されている。
【0070】
そうではないと規定されていない限り、本明細書において使用されているすべての専門
用語及び技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるもの
と同じ意味を有する。好ましい方法、デバイス及び材料が記述されているが、本明細書に
記載の方法及び材料に類似する又はこれらに等価な任意の方法及び材料を、本開示の実施
化又は試験において使用することもできる。本明細書において引用されたすべての参考文
献は、それらの全体を参照により組み込む。
【0071】
5.4.涙膜を評価するための方法
患者が報告した症状及び涙膜を評価するための眼の検査を含む、ドライアイを診断する
ためのいくつかの方法が存在する。一部の者は、診断用のゴールドスタンダードが存在し
ないことに懸念を表明してきた。Puckerら、2016を参照されたい。
【0072】
方法の一つは、LIPIVIEW(登録商標)IIオキュラーサーフェス干渉計である
。LIPIVIEW(登録商標)IIは、脂質層の厚さと瞬きの率を測定し、マイボーム
腺をイメージングする、FDAの審査を通過した非接触式診断機器である。TearSc
ience、Morrisville、NC、USA。Eomら、2013、「Corr
elation between quantitative measurement
s of tear film lipid layer thickness and
Meibomian gland loss in patients with o
bstructive Meibomian gland dysfunction a
nd normal controls」Am J Ophthalmol.155(6
)1104~1110;King-Smithら、2010、「Application
of a novel interferometric method to in
vestigate the relation between lipid lay
er thickness and tear film thinning」Inve
st Ophthalmol Vis Sci.2010;51(5):2418~24
23;King-Smithら、2009、「The contribution of
lipid layer movement to tear film thinn
ing and breakup」Invest Ophthalmol Vis Sc
i.2009;50(6):2747~2756;Blackieら、2009、「Th
e relationship between dry eye symptoms
and lipid layer thickness」Cornea 28(7)78
9~794を参照されたい。Korbら、米国特許第9,545,197号明細書、第8
,915,592明細書、第8,746,883号明細書及び第8,591,033号明
細書も参照されたく、これらの内容は、参照により本明細書に組み込む。
【0073】
涙膜を測定するための別の方法は、涙膜破壊時間(TBUT:tear breaku
p time)である。この試験においては、患者が瞬きしていない間にフルオレセイン
染料を使用して、眼を染色する。涙膜が壊れるまでの時間が記録され、10秒超は正常で
あると考えられ、5~10秒は最低限度であると考えられ、5秒未満は短いと考えられる
。Wang及びCraig、2018、「Comparative Evaluatio
n of Clinical Methods of Tear Film Stabi
lity Assessment: A Randomized Crossover
Trial」JAMA Ophthalmol.136(3):291~294。
【0074】
5.4.1.涙膜を評価するための干渉縞
光と観察された干渉縞(interference pattern)とを用いて涙膜
を分析するためのさらに別の方法を、以下に記述する。この方法においては、涙膜は、標
準的な一滴の処置用溶液(40~50μL)を加えることによって、いずれかのオキュラ
ーサーフェスを覆うように形成される。その後、形成された涙膜は、光源をオキュラーサ
ーフェスに投影し、光源からの反射像をビデオスクリーン上で観察することによって、評
価される。光源及び光源の位置は、およそ10mmであるオキュラーサーフェスの表面
領域を照明するように構成される。干渉縞が形成され、これらの干渉縞の色(複数可)は
、オキュラーサーフェスを覆った油層の厚さを指し示す。波紋(wave)の色は、既知
の膜厚の基準を用いて補正される。このようにして、涙膜は、リアルタイムのある期間に
わたって評価されるが、最初に、次の尺度に従って等級付けされる。Yokoiら、19
96、「Correlation of tear lipid layer inte
rference patterns with the diagnosis and
severity of dry eye」Am J Ophthalmol 122
818~824も参照されたい。下記表1の膜特性の欄にある干渉縞によって判定され
た脂質膜の厚さは、涙膜中における見かけの脂質膜の厚さと相関することが知られている
。見かけの脂質膜の厚さは、眼の涙膜の全厚と相関する。涙膜に属する異なる層について
は、図1を参照されたい。
【0075】
【表1】
【0076】
上記カテゴリーに関しては、カテゴリーD及びFに評価された薄膜には広範囲にわたる
劣化があるため、膜厚は概算であることを認識されたい。上記のように涙膜を等級付けし
た後、数値形式を採用して、涙膜の厚さの変化を表す。1.0の数値グレードは、一字違
いのグレードの変化を示し、例えば、1滴の処置用組成物の施用前におけるCのベースラ
インの所見が涙膜をBの等級に改善した場合、1.0の数値グレードが与えられる。2.
0の数値グレードは、二字違いのグレードの改善を示し、3.0の数値グレードは、三字
違いのグレードの改善を示す。次の例の多くに関しては、Fのグレードの被検体が選別を
受けて試験から排除されたため、3.0の数値グレードが、使用された試験方法に従った
最大の改善であるDからAへの改善を表す。表中では、これらの尺度が使用されている。
【0077】
一部の例においては、3.0を超える等級が与えられている。このような場合、形成さ
れた膜は、例外的なものであり、尺度の範囲外だった。大部分の例においては、処置用組
成物を用いて形成された涙膜の評価は、眼における涙膜の滞留時間を測定するために4時
間の期間にわたるものであった。したがって、時間が経つにつれて、数値による等級は低
下しているが、すべての事例において、数値による等級は、処置用組成物を加える前のベ
ースライン涙膜に基づいている。
【0078】
下記の例は、本開示をさらに説明するものであり、本開示の範囲を限定するように意図
されていない。特に、本開示は、記述された特定の実施形態に限定されず、したがって、
当然ながら、変更が可能であることを理解されたい。本明細書において使用されている用
語は、特定の実施形態を記述するという目的のためのものにすぎず、本開示の範囲は添付
した特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定を加えるものであるように意図さ
れていないことも理解されたい。
【実施例0079】
6.例
6.1.ワックスエステル含有配合物
このセクションでは、改善された涙膜安定性のための眼用配合物、0.1~1.5wt
%のレベルで最終的なエマルションに取り込まれることになるコロイド状ワックスエステ
ル粒子の製造のための制御された再現性の良い方法、及び、OTC(over-the-
counter)向けの使用に関する要件を満たす準安定なエマルションの形成という、
いくつかの主要な目標について述べる。
【0080】
リン脂質1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-(ホスホ-rac-(1-グ
リセロール)の塩(DMPG二ナトリウム)を、グリセリルモノステアレート(GMS)
によって置きかえることによって、容易に再乳化することができる配合物を調製し、これ
らのエマルションへの添加用のワックス粒子を形成するための再現性の良い方法を確立し
た。
【0081】
6.1.1.ワックスエステル含有製品の涙膜安定性
この組の実験においては、ワックスエステル含有水中油型エマルションを、いくつかの
他の市販の製品と比較した。
【0082】
蜜蝋含有点眼剤:H714:5.0 Dr-21、10.0%ロイヤルゼリー(Bee
’s Milk)(蜜蝋、ゴマ油、レシチン、メチルパラベン及び水)(Koster
Keunan)、0.18 Tween-80、0.1 EDTA、及び、100mOs
mになるまでのb.a./NaCl。
【0083】
水溶性ポリマー溶液#1:DUASORB(0.1%デキストラン70と、0.3
%ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910とを含有するポリマー系)、0.001
%ポリクオタニウム-1、ホウ酸ナトリウム、KCl、NaCl、HO並びにHCl及
び/又はNaOH。
【0084】
6.1.2.涙膜の有効性に関する水溶性ポリマー溶液#1とワックスエステルとの対比

涙膜の性能は、上記セクション5.4.1に記載の干渉縞の観察によって、標準的な対
側眼実験を用いて評価した。
【0085】
送達方法
【0086】
およそ50μLの標準的で完全な一滴を、5人の被検体の眼に送達した。
【0087】
結果
【0088】
ワックスエステル配合物H714と水溶性ポリマー溶液#1との対比:H714は、非
常によい涙膜の厚さの干渉分析を非常に良好に達成した。初期には、H714は、最初の
2時間に関しては、ベースラインより2.5点高いグレードを得点し、3時間後にベース
ラインに戻った。一方、1組の実験において、水溶性ポリマー溶液は、初期には、ベース
ラインより2.0点高いグレードだったが、30分以内に非常に迅速に低下していった。
別の組の実験においては、滴下後、H714と水溶性ポリマーは両方とも、ベースライン
より約1.8点高いグレードだった。15分後、水溶性ポリマー溶液#1は、事実上ベー
スラインに戻ったが、H714(約1%蜜蝋)は、2時間超の間眼に残留した。初期に2
.0点のスコアの変化を示した水溶性ポリマー#1は、1時間で基本的にベースラインに
戻ることが示された。(図2を参照されたい。)。
【0089】
別の実験において、H714配合物を、第2の水溶性配合物に対比させて評価した。ワ
ックスエステル配合物は、初期には2点のスコア上昇を示したが、3~4時間の間にベー
スライン(0.5点未満のスコアの変化)に戻った。水溶性ポリマー配合物#2は、初期
におよそ0.7点のスコアの変化のみを示した後、30分未満で0.5点未満のスコアの
変化に戻った(図3を参照されたい。)。第3の実験においては、ワックスエステル配合
物を、水溶性ポリマー#1に対比させて評価した。初期には、両方の配合物が、1.8点
のグレードのスコア上昇を示した。水溶性配合物は、15分でベースラインに基本的に戻
ったが、ワックスエステル配合物は、3時間を超えるまでスコア改善を維持した(図4
参照されたい。)。ワックス含有配合物H714と水溶性ポリマー溶液#1との対比にお
ける、涙膜分析の結果が、図4に示されている。この図面により、ワックスエステル含有
製品は、市販の水溶性ポリマー溶液製品より著しく長い間涙膜を保護することが示されて
いる。図5は、図3及び図4に示された結果の複合を示している。データは、ワックスエ
ステル含有製品が、他の市販の製品より大幅に長い涙膜の保護の持続期間をもたらすこと
を実証している。言い換えると、ワックスエステル配合物は、3時間超にわたって長続き
する眼の潤滑をもたらす。
【0090】
定性的には、第2の水溶性ポリマー溶液の外観は、試験期間を通して自然なものだった
が、H714の外観は、個体によって、自然なものから、ビーズ様、細い束状、作り物の
ようなものまであった。しかしながら、15分以内には、H714製品は、すべての被検
体において、起伏の大きい(high-riding)自然な見た目のカラフルな波紋を
生じさせた。いずれのワックスエステル配合物を用いた場合にもぼやけは報告されなかっ
たが、被検体の2/5は、H714を送達したときに軽い刺痛を報告した。
【0091】
6.1.3.エマルション
初期の研究の目的は、(別の界面活性剤によるDMPGナトリウムの置きかえを可能に
する)DMPGナトリウムの除去、及び、使用者にとっての心地よさを増すためのEDT
A二ナトリウムの最小化又は排除を含む、いくつかの要件を満たすことだった。この目的
のために、EDTA二ナトリウム成分は、調査した配合物から排除された。
【0092】
上記作業により、DMPGナトリウムは、準安定なエマルションの生成において決定的
な役割を担うことが示された。したがって、商業的に許容されるエマルションを形成する
という目的で、DMPGナトリウムを置きかえるために、異なる界面活性剤を使用するこ
とができる。
【0093】
最初の実験により、SPAN-80(登録商標)とポリソルベート80との界面活性剤
混合物の親水親油バランス(HLB:hydrophile-lipophile-ba
lance)レベルを最適化するとともに、濃度及び処理パラメータ(温度、均一化)も
最適化することによって、鉱油由来の「安定な」エマルションを製造することができるこ
とが示された。製品は、化学的劣化の観点からは「安定な」エマルションだったが、コロ
イド運動の観点からは必ずしも「安定な」エマルションではなかった。実際、エマルショ
ンは、相分離に対して準安定であることが望ましい。
【0094】
下記の研究においては、商業的要件を満たすために本発明者らが必要に応じて成分を置
きかえたエマルション配合物を、モデル系として使用した。
【0095】
6.1.4.リン脂質不含のエマルション(GMSによるDMPGナトリウムの置きかえ

全組成に対して0.15~0.30wt%の界面活性剤濃度になるように、GMSによ
ってDMPGナトリウムを置きかえることによって、エマルションを調製した。(これら
の実験においては、EDTA二ナトリウムは、配合物に添加されなかった。)。Myrj
-52とGMSとの比を変更して、界面活性剤混合物の計算HLBを調節した。乳化した
相は、約5.0wt%Drakeol-35鉱油からなっていた。サンプルの組成は、表
2に列挙されている。水性相は、水相100ml当たり0.67gのNaCl及び0.0
5gのNaHPO(無水)を含有していた。
【表2】
【0096】
表2:DMPGナトリウム不含のエマルションに関するサンプルの組成及び計算HLB値
【0097】
上記に記載の条件により、相分離後に容易に再乳化するエマルションが製造された。一
般に、計算HLBの値を上昇させることにより、水性相の濁度の低下によって示されてい
るように、静置状態での相分離がより完全になる。長期間が経った後、表2に示された配
合物中の油の一部は、分散された状態に留まらなかった。
【0098】
表2に列挙された組成物は有望であるように思えるため、さらなる調査を実施して、界
面活性剤濃度の上昇と、配合物に添加された0.1wt%のEDTA二ナトリウム及び軽
油との効果を判定した。
6.1.5.ワックスエステル含有のエマルション(水性相中に分散された粒子)
【0099】
(高イオン強度媒体に取り込まれた)蜜蝋粒子分散物を、表2に示された組成を有する
あらかじめ調製したエマルションに添加することによって、エマルションと分散された蜜
蝋粒子とのブレンド品を調製した。得られたブレンド品中における蜜蝋(BW:bees
wax)濃度を、表3に示している。
【表3】
【0100】
表3:エマルションをワックスエステル粒子分散物とブレンド処理した後における、エマ
ルションへの蜜蝋の装入量。
【0101】
エマルションの連続相に組成が類似する水性相に分散されたBW粒子は、BW粒子の凝
集なしでもエマルションとうまく配合することができることが判明した。
【0102】
6.2.ワックスエステル含有エマルション及びオートクレーブ処理
ドライアイ用の既存製品には制限が多いため、第二世代型製品の調製のための様々な方
法を調査した。例は、共乳化法によって調製された。これは、上記のような臨床的に実用
可能な製品であるが、このサンプルは、十分な商業用の安定性に関する特性を示さなかっ
た。
【0103】
一般に、良好な臨床結果及びオートクレーブ内における十分な安定性を示した眼用エマ
ルションは、上記に開示されたもののように、ワックスエステルを添加した状態では、オ
ートクレーブ処理されると不具合を生じさせることに留意した。典型的な実験においては
、前述の不具合は、ワックス全体において凝集が起き、ワックスエステルが、別個の相に
なるように排除されることからなっていたが、このとき、蜜蝋粒子は、オートクレーブ処
理の完了後、分散された状態に留まらない。凝集が起きた場合、眼に送達される濃度が一
定しないものになり、ワックス粒子が眼を刺激する可能性がある。
【0104】
上記失敗の原因を確定させるために、エマルションの振る舞いと蜜蝋粒子分散物の振る
舞いとを別々に調査したが、最終的な目標は、臨床試験に適したブレンド品を形成するこ
とであった。この作業が、安定性及び性能が改善された「第二世代」型のワックスエステ
ル含有眼用エマルションを製造するための方法に帰結している。
【0105】
研究により、製品を製造するために使用される方法は、常温保存可能なワックスエステ
ル含有エマルションをうまく製造するためには、修正される必要があることが示唆された
。修正された手順は、ワックスエステル粒子分散物とエマルション成分とを別々に調製及
びオートクレーブ処理した後、製品の無菌性を確保するために無菌方式のブレンド処理段
階を行うことからなる。以下、様々な段階を別々に記述する。
【0106】
6.2.1.ワックスエステルエマルション成分の処理
1回のオートクレーブ処理段階で最終的なワックスエステル含有エマルション製品を作
製することはできなかったため、二段階式の調製方法が開発され、最後にある無菌方式の
ブレンド処理段階により、成分が合わせられた。この無菌方式のブレンド処理段階は、エ
マルションの化学的性質が、オートクレーブ条件下におけるワックスエステル粒子の安定
性に影響しないようにするために実施された。
【0107】
ブレンド処理中に生じる相互希釈効果のため、エマルション成分は、上記のように調製
されたが、すべての濃度に関して、含量は、水に対して2倍にした。乳化した油混合物の
濃度の上昇は、オートクレーブ内におけるエマルションの振る舞いに影響したが、増大し
た装入量(分散されたエマルション成分の量)により、最終的には、オートクレーブ処理
中にエマルションの不具合が起きることになる。図6は、オートクレーブ処理の前(上側
の図)及び後(下側の図)における、2倍(実線)、3倍(点線)及び4倍(白丸)に濃
縮されたエマルションから得られた粒径分布を重ね合わせたものを示している。
【0108】
図6は、十分なオートクレーブ安定性を有する2倍又は3倍に濃縮された蜜蝋エマルシ
ョンサンプルを調製した後、安定なワックスエステル分散物によって希釈して、サンプル
中における望ましいワックスエステル濃度を達成することができることを示している。こ
れらの発見の最も重要な結果は、エマルションが、濃縮された形態で調製され、オートク
レーブ処理された後、最後にある包装段階において、あらかじめオートクレーブ処理され
たワックス粒子分散物と無菌方式で配合される、製造方法を規定することができるという
ことである。オートクレーブ処理の結果、このオートクレーブ処理に付随して、濃度に応
じた粒径分布の平均サイズの増大が起き、これにより、準安定性が高まる。
【0109】
最後にある(後述のワックスエステル分散物との)ブレンド処理段階は、望ましい最終
濃度に戻るまでエマルション成分を希釈し、「第2世代」型の眼用エマルション用のワッ
クス粒子を供給する。この段階は、ワックスエステル及び鉱油の相対的な濃度を「微調整
」して、最適な臨床成果を得るための方法も提供する。
【0110】
6.2.2.ワックスエステル粒子分散物の配合
例えば約75℃でオクトキシノール-40(約0.2%)が添加された蒸留水中で溶融
蜜蝋(約1.0%)を均一化することによって、ワックス粒子分散物を調製した。オクト
キシノール-40(100℃超)の高い曇点は、温度が高くなるほど、水溶性の低下(H
LB値の効果的な低下)により、オクトキシノール-40の乳化効率が上昇していくこと
を意味する。したがって、オートクレーブ条件下では、オクトキシノール-40は、溶融
ワックスの液滴を、水性相中に溶解した状態から粒子/液滴の表面上に再分配し、フロキ
ュレーションを防止することによって安定化することが予想される。
【0111】
蜜蝋の融点は約63℃であるため、蜜蝋は、オートクレーブ条件下では完全に溶融し、
分散物は、水及び界面活性剤に取り込まれた蜜蝋の液滴からなる。サンプル温度はオート
クレーブ処理プロセス中に上昇し続けるため、オクトキシノール-40は、水にますます
不溶性になり、粒子表面(液滴/水界面)に向かって移動して、溶融蜜蝋の液滴を安定化
しやすくなる。しかしながら、これらの実験において採用された低い界面活性剤濃度にお
いては、この機構は単独では、これらの粒子/液滴に十分な安定化をもたらさない可能性
がある。
【0112】
上記実験により、水に取り込まれたサブミクロン蜜蝋粒子は、強く負に帯電しており(
ゼータ電位が大きな負の値)、結果として生じる静電反発が、これらの粒子の安定化に大
きく寄与していることが示された。実際、サブミクロンサイズの粒子は、粒径分布の小さ
な変化しか伴うことなく、オートクレーブ処理することができる。しかしながら、これら
の分散物中に界面活性剤は存在しない。この事実は、界面活性剤の非存在下であっても、
安定化機構としての静電反発モデルの重要性を実証している。
【0113】
オートクレーブ処理の(黒色の線)前及び(赤色の線)後における、サブミクロンサイ
ズの粒子のサイズ分布が、図7に示されている。しかしながら、複雑化した処理のため、
サブミクロンサイズの粒子は、長期間持続する効果を伴うドライアイ用の商業用製品に有
用であるとは予想されていない。
【0114】
これらの大径粒子分散物は、界面活性剤の添加なしでは調製することができない。働い
ている粒子形成機構は、サブミクロンサイズの分散物の形成において用いられる単純な核
形成及び粒子成長モデルとは異なる。この場合、乳化法が使用され、添加された界面活性
剤が、均一化シーケンスの間、成長中の蜜蝋の液滴を安定化する。界面活性剤は、オート
クレーブ処理後の冷却期間中に液滴の凝集を防止するときにも重要である。
【0115】
化学的な検討事項に加えて、処理方法も決定的な役割を担っており、つまりは、これら
の粒子のオートクレーブ処理の成否は、使用される方法に完全に依存する。系の化学的性
質は、オートクレーブ内では安定である(溶融蜜蝋の液滴の状態)が、サンプル冷却中に
サンプルの温度が低下して蜜蝋の融点(結晶化温度)に近づくと不可逆的に凝集する、粒
子分散物を与える。
【0116】
ゼータ電位値は、オートクレーブ条件下では測定することができないが、密閉された蜜
蝋粒子/液滴の分散物は、水に分散されたときにも(緩やかに撹拌しながら)121℃で
安定な状態のままであることが目視により観察される。図8は、オートクレーブ処理の前
及び後における、水及びオクトキシノール-40に取り込まれた(乳化プロセスにおいて
得られた)ワックスエステル粒子の典型的な粒径分布を示している。
【0117】
ワックス粒子の安定性におけるワックス粒子の電荷の重要性を考慮すると、塩含量も極
めて重要なパラメータになる。すなわち、高いイオン強度(塩濃度)においては、ワック
ス粒子は凝集物になり、この結果として、ソフトワックスの場合においては、(何らかの
界面活性剤が存在する場合であっても)オートクレーブ条件下での不可逆的な合体が起き
る。この発見の帰結は、蜜蝋粒子は、高い塩濃度を有する水性相(高イオン強度系)中で
オートクレーブ処理することができないということである。
【0118】
6.2.3.エマルションのブレンド処理
ブレンド処理段階(濃縮されたエマルション及び蜜蝋分散物)は、適量を合わせて、供
された製品中における鉱油、蜜蝋及び他の成分の望ましい最終濃度を確実に得ることがで
きるようにする。この手順は、一定のエマルション成分の組成を維持しながら、最終的な
生成物中における蜜蝋総含量の変更も可能にする。基本的に、この手順においては、エマ
ルションは、成分のレベルを高めた上で配合されるが、蜜蝋粒子は、界面活性剤を添加さ
れた蒸留水中で乳化される。(オートクレーブ処理前の)2種の画分中における様々な成
分の濃度は、比較的幅広いバリエーションの最終的なエマルション組成物を可能にするよ
うに調整することができる。
【0119】
オートクレーブ条件下におけるワックスの不可逆的な凝集(ワックスにおけるだまの形
成(wax breakout))に関与する機構は、比較的高い(およそ等張の)塩濃
度の存在を伴うように思われる。この多量のイオン装入量は、ワックスエステル粒子のゼ
ータ電位を著しく低下させ、これにより、これらの分散物がオートクレーブ条件に晒され
たときに、重要な安定化機構を本質的に取り除くのに役立つ。オクトキシノール-40の
存在は、オートクレーブ内に存在する高温で蜜蝋エマルションを安定化するのに役立つ。
【0120】
レーザー回折分析により、エマルションは、上記のようにして調製されたときには著し
い量の粒子の凝集を伴わないことが示されている。これは、配合されたエマルションが、
良好な長期安定性に関する特性を示すと予想されている、主な理由である。
【0121】
次いで、両方の成分を別々にオートクレーブ処理し、(質量により)等しい比率で混合
して、0.5wt%又は1.0wt%ワックスエステルを含有する最終生成物を得た。
【0122】
7.本開示に関する一般化された記載事項
下記の付番された記載事項は、本開示の概説を提供するものであり、添付した特許請求
の範囲を限定するように意図されていない。
【0123】
記載事項1:本開示は、水と、油と、界面活性剤と、約0.1~約1.5重量パーセン
トの濃度で存在するとを含む水中油型エマルションを含む、点眼剤であって、(i) 眼
と接触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマルションを形成し、(ii) 約
2~約12時間の間眼に潤滑をもたらす、点眼剤を提供する。点眼剤は、干渉法若しくは
涙膜破壊時間(TBUT)又は他の診断方法によって実証することができる、間違いなく
正常な安定した涙膜の厚さをもたらす。
【0124】
記載事項2:本開示は、眼に接触したときに、眼及び/又は角膜細胞の(iii) 脂
質層、(iv) 水様層、(v) ムチン層、(vi) 脂質層と水様層との界面及び(
vii) 水様層とムチン層との界面と相互作用する、記載事項1に記載の点眼剤を提供
する。
【0125】
記載事項3:本開示は、ワックスエステルが、セラ・アルバ又はセラ・フラバ等の天然
又は合成蜜蝋である、記載事項1又は2に記載の点眼剤を提供する。
【0126】
記載事項4:本開示は、ワックスエステルが、約0.1~約1.25重量パーセントの
濃度で存在する、記載事項1から3のいずれかに記載の点眼剤を提供する。
【0127】
記載事項5:本開示は、油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物で
ある、記載事項1から4のいずれかに記載の点眼剤を提供する。
【0128】
記載事項6:本開示は、鉱油が、約1.0~約7.5重量パーセントの濃度で存在する
、記載事項1から5のいずれかに記載の点眼剤を提供する。
【0129】
記載事項7.油が、鉱油である、記載事項6に記載の点眼剤。
【0130】
記載事項8.油が、植物油である、記載事項6に記載の点眼剤。
【0131】
記載事項9.界面活性剤が、リン脂質を含む、記載事項1から8のいずれかに記載の点
眼剤。
【0132】
記載事項10.界面活性剤が、非イオン性界面活性剤を含む、記載事項1から9のいず
れかに記載の点眼剤。
【0133】
記載事項11.界面活性剤が、2種以上の界面活性剤の混合物である、記載事項1から
10のいずれかに記載の点眼剤。
【0134】
記載事項12.2種以上の界面活性剤の混合物が、ポリソルベート80、オクトキシノ
ール40又はアニオン極性リン脂質(APP)を含む、記載事項10の点眼剤。
【0135】
記載事項13.(i) 油が、分子量がより低いと分子量がより高い油との混合物であ
り、約1~約5.5重量パーセントの濃度で存在し、(ii) 約0.35~約0.45
重量パーセントの濃度のポリソルベート80と、約0.3~約0.4重量パーセントの濃
度のジミリストイルホスファチジルグリセロールとの界面活性剤混合物、(iii) 蜜
蝋が、約0.25~約1.0重量パーセントの濃度のセラ・アルバ又はセラ・フラバであ
る、記載事項1に記載の点眼剤であって、約230~約260mOsmol/kgの質量
オスモル濃度を有する、点眼剤。
【0136】
記載事項14.医薬品をさらに含む、記載事項1から13のいずれかに記載の点眼剤。
【0137】
記載事項15.無菌マルチユース型又は無菌シングルユース型容器の中に包装された、
記載事項1から14のいずれかに記載の点眼剤。
【0138】
記載事項16.マルチドーズ型保存料不含(MDNP:multi-dose non
-preserved)容器の中に包装された、記載事項1から15のいずれかに記載の
点眼剤。
【0139】
記載事項17.安定化オキシクロロ錯体(PURITE(登録商標))又はポリヘキサ
メチレンビグアニド(PHMB:polyhexamethylene biguani
de)又はポリクオタニウム-1(Alcon)等の保存料をさらに含む、記載事項1か
ら14のいずれかに記載の点眼剤。
【0140】
記載事項18.眼用補装具用の再湿潤及び/又は潤滑溶液としての使用のための、記載
事項1から14のいずれかに記載の点眼剤。
【0141】
記載事項19.水と、油と、界面活性剤と、ワックスエステル及び部分加水分解エステ
ルを含む蜜蝋とを含む水中油型エマルションを含む、点眼剤であって、点眼剤中のワック
スエステル及び部分加水分解エステルが、被検体の眼においてムチン層、水様層及び脂質
層を結合させ、ムチン層と水様層との間にある介在層、水様層と脂質層との間にある介在
層の完全性を維持するように作用する、点眼剤。
【0142】
記載事項20.ワックスエステルが、ムチン層、水様層又は脂質層の厚さを増大させる
ように作用する、記載事項18に記載の点眼剤。
【0143】
記載事項21.ワックスエステルが、ムチン層、水様層及び脂質層を増大させるように
作用する、記載事項19に記載の点眼剤。
【0144】
記載事項22.ワックスエステルが可能にする結合及びホメオスタシスにより、涙膜に
属するムチン層、水様層及び脂質層が、互いに相互作用することができ、涙膜が、長期間
にわたって眼に残留することができる、記載事項19から21のいずれかに記載の点眼剤
【0145】
記載事項23.医薬品及び水と、油と、界面活性剤と、蜜蝋とを含む水中油型エマルシ
ョンを含む、点眼剤であって、(i) 眼と接触したときに油相と水相とに分離する準安
定なエマルションを形成し、(ii) 約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす、点眼剤
を被検体の眼に投与することを含む、医薬品又は活性作用物質を被検体に送達するための
方法。
【0146】
記載事項24.医薬品が、水溶性医薬品である、記載事項23に記載の方法。
【0147】
記載事項25.医薬品が、油溶性医薬品である、記載事項23に記載の方法。
【0148】
記載事項26.水と、油と、界面活性剤と、蜜蝋又はワックスエステルの組合せとを含
む水中油型エマルションを含む、点眼剤であって、
(i) 眼と接触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマルションを形成し、(
ii) 約2~約5時間の間眼に潤滑をもたらす、
点眼剤を眼に接触させることを含む、ドライアイの症状を軽減するための方法。
【0149】
記載事項27.点眼剤が、眼に接触したときに、眼の(iii) 脂質層、(iv)
水様層、(v) ムチン層、(vi) 脂質層と水様層との界面及び(vii) 水様層
とムチン層との界面と相互作用する、記載事項26に記載の方法。
【0150】
記載事項28.蜜蝋が、セラ・アルバ又はセラ・フラバである、記載事項26又は27
に記載の方法。
【0151】
記載事項29.油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物である、記
載事項26から28のいずれかに記載の方法。
【0152】
記載事項30.油が、約1.0~約7.5重量パーセントの濃度で存在する、記載事項
26から29のいずれかに記載の方法。
【0153】
記載事項31.油が、鉱油である、記載事項30に記載の方法。
【0154】
記載事項32.油が、植物油である、記載事項30に記載の方法。
【0155】
記載事項33.界面活性剤が、2種以上の界面活性剤の混合物である、記載事項26か
ら30のいずれかに記載の方法。
【0156】
記載事項34.(i) 油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物で
あり、約1.0~約5.5重量パーセントの濃度で存在し、(ii) 界面活性剤が、約
0.35~約0.45重量パーセントの濃度のポリソルベート80と、約0.3~約0.
4重量パーセントの濃度のジミリストイルホスファチジルグリセロールとの混合物であり
、(iii) 蜜蝋が、約0.25~約1.0重量パーセントの濃度のセラ・アルバ又は
セラ・フラバであり、点眼剤が、約230~約260mOsmol/kgの質量オスモル
濃度を有する、記載事項26のいずれかに記載の方法。
【0157】
記載事項35.(i) 油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物で
あり、約1.0~約5.5重量パーセントの濃度で存在し、(ii) 界面活性剤が、約
0.35~約0.45重量パーセントの濃度のポリソルベート80と、約0.3~約0.
4重量パーセントの濃度のジミリストイルホスファチジルグリセロールとの混合部であり
;(iii) 人工的な蜜蝋が、約0.25~約1.0重量パーセントの濃度のワックス
エステル及び部分加水分解されたワックスエステルの組合せであり、点眼剤が、約230
~約260mOsmol/kgの質量オスモル濃度を有する、記載事項26に記載の方法
【0158】
記載事項35.点眼剤が、無菌マルチユース型又は無菌シングルユース型容器の中に包
装されている、記載事項26から35のいずれかに記載の方法。
【0159】
記載事項36.点眼剤が、マルチドーズ型保存料不含(MDNP:multi-dos
e non-preserved)容器の中に包装されている、記載事項25から35の
いずれかに記載の方法。
【0160】
記載事項37.準安定な水中油型エマルションであり、約2~約5時間の間眼に潤滑を
もたらす、点眼剤を調製する方法であって、脱イオン水溶液に取り込まれた蜜蝋又は人工
的な蜜蝋及び界面活性剤を含むワックス分散物を調製することと、脱イオン水溶液に取り
込まれた油を含む水中油型エマルションを調製することと、蜜蝋分散物と水中油型エマル
ションとを別々にオートクレーブ処理することと、約2~約5時間の間眼に潤滑をもたら
す準安定な水中油型エマルション点眼剤を調製するように、オートクレーブ処理された蜜
蝋分散物と水中油型エマルションとを無菌方式でブレンド処理することを含む、方法。
【0161】
記載事項38.点眼剤が、眼に接触したときに、眼の(iii) 脂質層、(iv)
水様層、(v) ムチン層、(vi) 脂質層と水様層との界面及び(vii) 水様層
とムチン層との界面を通り抜ける、記載事項37に記載の方法。
【0162】
記載事項39.蜜蝋が、セラ・アルバ又はセラ・フラバである、記載事項37又は38
に記載の方法。
【0163】
記載事項40.ワックスが、人工的な蜜蝋である、記載事項37又は38に記載の方法
【0164】
記載事項41.油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物である、記
載事項37から40のいずれかに記載の方法。
【0165】
記載事項42.界面活性剤が、2種以上の界面活性剤の混合物である、記載事項37か
ら40のいずれかに記載の方法。
【0166】
記載事項41.(i) 油が、分子量がより低い油と分子量がより高い油との混合物で
あり、約1.0~約5.5重量パーセントの濃度で存在し、(ii) 界面活性剤が、約
0.35~約0.45重量パーセントの濃度のポリソルベート80と、約0.3~約0.
4重量パーセントの濃度のジミリストイルホスファチジルグリセロールとの混合物であり
、(iii) 蜜蝋が、約0.25~約1.0重量パーセントの濃度のセラ・アルバ又は
セラ・フラバであり、点眼剤が、約230~約260mOsmol/kgの質量オスモル
濃度を有する、記載事項37に記載の方法。
【0167】
記載事項43.点眼剤が、無菌マルチユース型又は無菌シングルユース型容器の中に包
装されている、記載事項37から42のいずれかに記載の方法。
【0168】
記載事項44.点眼剤が、マルチドーズ型保存料不含(MDNP)容器の中に包装され
ている、記載事項37から42のいずれかに記載の方法。
【0169】
記載事項45.水と、油と、界面活性剤と、ワックスエステルを含む蜜蝋又は人工的な
蜜蝋とを含む水中油型エマルションを含む、点眼剤を調製する方法であって、点眼剤中の
ワックスエステル又は加水分解生成物が、被検体の眼においてムチン層、水様層及び脂質
層に結合し、ムチン層と水様層との間にある介在層及び水様層と脂質層との間にある介在
層の完全性を維持するように作用する、方法。
【0170】
記載事項46.ワックスエステル又は加水分解生成物が、ムチン層、水様層又は脂質層
の厚さを増大させるように作用する、記載事項45に記載の方法。
【0171】
記載事項47.ワックスエステルが、ムチン層、水様層及び脂質層の厚さを増大させる
ように作用する、記載事項45又は46に記載の方法。
【0172】
記載事項48.ワックスエステル又は加水分解生成物が可能にする結合及びホメオスタ
シスにより、涙膜に属するムチン層、水様層及び脂質層が、互いに相互作用することがで
き、涙膜が、長期間にわたって眼において安定な状態のままであることができる、記載事
項45又は46に記載の方法。
【0173】
記載事項49.医薬品及び(a)水と、(b) 油と、(c) 界面活性剤と、(d)
蜜蝋とを含む水中油型エマルションを含む、点眼剤であって、(e) (i) 眼と接
触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマルションを形成し、(ii) 干渉法
若しくは涙膜破壊時間(TBUT)又は他の診断方法によって実証することができる、間
違いなく正常な安定した涙膜の厚さをもたらすことによって、約2~約12時間の間眼に
潤滑をもたらす、点眼剤を被検体の眼に投与することを含む、被検体に医薬品を送達する
ための方法。
【0174】
上記の記述は、説明用の実施形態及び例を代表するものにすぎないことを理解されたい
。読者にとっての便宜のため、上記の記述は、本開示の原理を教示する例である、すべて
の可能な実施形態のうちの限られた数の代表例に焦点をあてている。上記の記述は、記述
された変形形態のすべての可能な変形形態又は組合せを網羅的に列挙しようとはしていな
い。代替的な実施形態が、本開示の特定の部分との関連で提供されていなかった可能性が
あることこと、又は、記述されていないさらなる代替的な実施形態が、本開示のある部分
との関連で利用可能なものであり得ることは、このような代替的な実施形態の放棄である
と考えるべきではない。当業者ならば、このような記述されていない実施形態の多くが、
本開示の原理の適用の違いではなく技術及び材料の違いを伴うことは、理解されよう。し
たがって、本開示は、以下の特許請求の範囲及び均等物に記載された範囲より狭く限定さ
れるように意図されていない。
【0175】
参照による組み込み
【0176】
本明細書において引用されたすべての参考文献、論文、刊行物、特許、特許公報及び特
許出願は、あらゆる目的において、それらの全体を参照により組み込む。しかしながら、
本明細書において引用された何らかの参考文献、論文、刊行物、特許、特許公報及び特許
出願に関する言及は、有効な従来技術を構成する又は世界のいずれかの国における技術常
識の一部を形成することの了解又は何らかの形態の示唆として解されるわけではなく、そ
のように解すべきでもない。本開示は、本開示の詳細な説明に関連付けて記述してきたが
、上記の記述は、本開示の範囲を説明することを意図しており、本開示の範囲を限定する
ように意図されていないことを理解されたい。他の態様、利点及び変更形態は、以下に記
載された特許請求の範囲に含まれる。本明細書において引用されたすべての刊行物特許、
及び特許出願は、個別の刊行物又は特許出願のそれぞれが参照により組み込まれると明示
的及び個別に示された場合と全く同じように、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然蜜蝋粒子と、アニオン極性界面活性剤と、水とを含むワックス分散物と、
ヒアルロン酸ナトリウムと、
油と水とを含む水中油型エマルションと
から成る点眼剤であって、
(i) 油が、分子量がより低い鉱油と分子量がより高い鉱油との混合物であり、約4.0~約6.25重量パーセントの濃度で存在し、
(ii) アニオン極性界面活性剤が、約0.35~約0.45重量パーセントの濃度のポリソルベート80と、約0.35~約0.50重量パーセントの濃度のアニオン極性ジミリストイルホスファチジルグリセロールとの混合物であり、
(iii) 天然蜜蝋粒子が、約60℃までは固体であり、約0.50~約1.25重量パーセントの濃度で存在し、
点眼剤が、
(i) 眼と接触したときに油相と水相とに分離する準安定なエマルションを形成し、
(ii) 少なくとも2時間の眼における滞留時間をもたらし、
(iii) 室温で自由に流動する液体として調合され、
(iv) 約230mOsmol/kg~約260mOsmol/kgの質量オスモル濃度を有し、
(v) 約6.5~約7.8のpHを有する、点眼剤。
【請求項2】
眼に接触したときに、眼及び/又は角膜細胞の
脂質層、
水様層、
ムチン層、
脂質層と水様層との界面、及び
水様層とムチン層との界面を通り抜ける、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
蜜蝋が、約1.0重量パーセントの濃度で存在する、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項4】
ワックスエステルが、セラ・アルバ又はセラ・フラバである、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項5】
医薬品又は活性作用物質をさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項6】
無菌マルチユース型又は無菌シングルユース型容器の中に包装された、請求項1から4のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項7】
マルチドーズ型保存料不含(MDNP)容器の中に包装された、請求項1から4のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項8】
安定化オキシクロロ錯体又はポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)又はポリクオタニウム-1(Polyquad)の保存料をさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項9】
眼用補装具用の再湿潤及び/又は潤滑溶液としての使用のための、請求項1から4のいずれかに記載の点眼剤。
【外国語明細書】