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特開2024-119886反射防止コーティングを有する透明カバー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119886
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】反射防止コーティングを有する透明カバー
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20240827BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G02B1/115
G02C7/10
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024089891
(22)【出願日】2024-06-03
(62)【分割の表示】P 2021521146の分割
【原出願日】2019-10-03
(31)【優先権主張番号】62/748,154
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/584,648
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】524036088
【氏名又は名称】ラミネーテッド フィルム エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】LAMINATED FILM LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン、スティーブン エス.
【テーマコード(参考)】
2H006
2K009
【Fターム(参考)】
2H006BE00
2H006BE05
2K009AA03
2K009AA04
2K009BB24
2K009CC06
2K009FF03
(57)【要約】
【課題】透明カバーをある基板に貼り付ける際に、不要な反射を低減するために反射防止コーティングが実装されることがあるが、一般的な反射防止コーティングでは、可視スペクトル全体(約390から700nm)で反射を適切に低減できないことがある。
【解決手段】プロテクティブアイウェアのための透明カバーであって、前記透明カバーは、第1反射防止コーティングを有する第1レンズと、第2反射防止コーティングを有する第2レンズと、前記第1レンズと前記第2レンズとの間に配置された接着剤であって、前記プロテクティブアイウェアの着用者によって、前記第2レンズが前記第1レンズから容易に剥がされることを可能にするように構成されている、接着剤と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテクティブアイウェアのための透明カバーであって、前記透明カバーは、
第1反射防止コーティングを有する第1レンズと、
第2反射防止コーティングを有する第2レンズと、
前記第1レンズと前記第2レンズとの間に配置された接着剤であって、前記プロテクティブアイウェアの着用者によって、前記第2レンズが前記第1レンズから容易に剥がされることを可能にするように構成されている、接着剤と、を備える、透明カバー。
【請求項2】
前記透明カバーを前記プロテクティブアイウェアの基板に固定するための接着剤を更に含み、前記透明カバーを前記プロテクティブアイウェアの前記基板に固定するための前記接着剤が、前記第1レンズと前記第2レンズとの間に配置される前記接着剤よりも強力である、請求項1に記載の透明カバー。
【請求項3】
前記第1反射防止コーティングおよび前記第2反射防止コーティングが単層干渉コーティングである、請求項1に記載の透明カバー。
【請求項4】
前記第1反射防止コーティングおよび前記第2反射防止コーティングが多層干渉コーティングである、請求項1に記載の透明カバー。
【請求項5】
前記第1反射防止コーティングおよび前記第2反射防止コーティングがそれぞれ、MgF(フッ化マグネシウム)のフィルムを含む、請求項1に記載の透明カバー。
【請求項6】
前記第1レンズおよび前記第2レンズが、ポリエチレンテレフタレート(PET)から作製される、請求項1に記載の透明カバー。
【請求項7】
前記第1レンズおよび前記第2レンズのそれぞれの厚さが、12.7マイクロメートルから177.8マイクロメートルである、請求項1に記載の透明カバー。
【請求項8】
前記第1レンズおよび前記第2レンズのそれぞれの厚さが50.8マイクロメートルである、請求項1に記載の透明カバー。
【請求項9】
前記接着剤がアクリル接着剤である、請求項1に記載の透明カバー。
【請求項10】
前記第1レンズおよび前記第2レンズ、並びに前記接着剤がそれぞれ、1.40から1.52の屈折率を有する、請求項1に記載の透明カバー。
【請求項11】
透明カバーであって、
第1反射防止コーティングを有する第1レンズと、
第2反射防止コーティングを有する第2レンズと、
前記第1レンズと前記第2レンズとの間に配置される接着剤と、
前記透明カバーを基板に固定するための接着剤であって、前記第1レンズと前記第2レンズとの間に配置される前記接着剤よりも強い、接着剤と、を備える、透明カバー。
【請求項12】
前記第1反射防止コーティングおよび前記第2反射防止コーティングが単層干渉コーティングである、請求項11に記載の透明カバー。
【請求項13】
前記第1反射防止コーティングおよび前記第2反射防止コーティングが多層干渉コーティングである、請求項11に記載の透明カバー。
【請求項14】
前記第1反射防止コーティングおよび前記第2反射防止コーティングがそれぞれ、MgF(フッ化マグネシウム)のフィルムを含む、請求項11に記載の透明カバー。
【請求項15】
前記第1レンズおよび前記第2レンズが、ポリエチレンテレフタレート(PET)から作製される、請求項11に記載の透明カバー。
【請求項16】
前記第1レンズおよび前記第2レンズのそれぞれの厚さが、12.7マイクロメートルから177.8マイクロメートルである、請求項11に記載の透明カバー。
【請求項17】
前記第1レンズおよび前記第2レンズのそれぞれの厚さが50.8マイクロメートルである、請求項11に記載の透明カバー。
【請求項18】
前記接着剤がアクリル接着剤である、請求項11に記載の透明カバー。
【請求項19】
前記第1レンズおよび前記第2レンズ、並びに前記接着剤がそれぞれ、1.40から1.52の屈折率を有する、請求項11に記載の透明カバー。
【請求項20】
基板に貼り付け可能な透明カバーであって、
2つ以上のレンズの積層と、
前記積層の第1レンズに配置された第1反射防止コーティングと、
前記積層の第2レンズに配置された第2反射防止コーティングと、
前記2つ以上のレンズのうちの隣接するレンズの間に配置された接着剤であって、前記基板から前記透明カバーを外すことなく、個々のレンズが前記積層から剥がされることを可能にするように構成された接着剤と、を備える、透明カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、窓、アイウェア、またはディスプレイ画面用の透明カバーに関し、より具体的には、複数のレンズが積層されて接着剤により接着されている透明カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な状況において、透明カバーをある基板に貼り付けると便利である。建物や車両の窓は、色付けのため(例えば、プライバシー用に)、断熱のため、UV(紫外線)を遮断するため、または装飾のために透明なウィンドウフィルムで覆われることがある。プロテクティブアイウェア(例えば、オフロード車、医療処置等で使用するためのゴーグル、眼鏡、フェイスマスク)は、アイウェアが汚れて着用者の視界を遮った際に簡単に剥がせるように、透明なレンズの積層で覆われ得る。携帯電話、パソコン、ATM、自動販売機等のディスプレイ画面は、保護レンズで覆われることで、その下に位置する画面の損傷を防ぎ得る、または側面から見られる事を阻止(例えば、公共の場所でのプライバシーおよびセキュリティのため)し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようなカバーを使用する場合、不要な反射を低減するために反射防止コーティングが実装されることがあるが、これは、入射光が反射し得る複数の境界面を提供する多層カバーで特に問題になり得る。しかしながら、一般的な反射防止コーティングでは、可視スペクトル全体(約390から700nm)で反射を適切に低減できないことがある。反射防止コーティングの設計波長範囲に応じて、透明カバーに光が入射すると、顕著な青色反射(約450nm)または赤色反射(約700nm)が発生し得る。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、関連技術に付随する上記の欠点を克服するための様々なシステム、方法、および装置を検討する。本開示の実施形態の一態様は、基板に貼り付け可能な透明カバーである。透明カバーは、2つ以上のレンズの積層と、2つ以上のレンズのうちの隣接するレンズの間に配置された接着層と、積層の第1最外側レンズに配置された第1反射防止コーティングと、第1最外側レンズの反対側で積層の第2最外側レンズに配置された第2反射防止コーティングと、を有する。第1反射防止コーティングは、第1設計波長範囲を有し、第2反射防止コーティングは、第1設計波長範囲とは異なる第2設計波長範囲を有する。
【0005】
第1設計波長範囲は、約550nmを中心としてよく、第2設計波長範囲は、約450nmを中心としてよい。第1反射防止コーティングおよび第2反射防止コーティングは異なる厚さを有してよい。第1反射防止コーティングは、約100nmの厚さを有するMgF(フッ化マグネシウム)の膜を含んでよく、第2反射防止コーティングは、約82nmの厚さを有するMgF(フッ化マグネシウム)の膜を含んでよい。
【0006】
透明カバーは、390nmから700nmの間の全ての波長で10%未満の垂直入射反射率を示してよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態による透明カバーの概略側面図。
図2図1に示される透明カバーの最も外側の表面の拡大図。
図3】AR(反射防止)コーティングを有する200ゲージPET(ポリエチレンテレフタレート)レンズを含む透明カバーの波長の関数として表される垂直入射反射率のグラフ表示。
図4】同一の設計波長範囲を有するARコーティングを最も外側のレンズに配置した、3層の200ゲージPETレンズの積層を含む透明カバーの波長の関数として表される垂直入射反射率のグラフ表示。
図5図4の透明カバーの波長の関数として表される垂直入射反射率のグラフ表示であり、550nmを中心とする設計波長範囲を有するARコーティングの使用と、450nmを中心とする設計波長範囲を有するARコーティングの使用との比較を示す。
図6】異なる設計波長範囲を有するARコーティングを最も外側のレンズに配置した、3層の200ゲージPETレンズを含む透明カバーの波長の関数として表される垂直入射反射率のグラフ表示。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に開示される様々な実施形態のこれらおよび他の特徴および利点は、以下の説明および図面を基によりよく理解される。同じ番号は、全体を通して同じ部品を指す。
本開示は、AR(反射防止)コーティングを有する透明カバーの様々な実施形態を包含する。添付の図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、現在考えられる複数の実施形態の説明を意図しており、開示される発明が開発または利用され得る唯一の形態を表すことは意図しない。説明は、例示された実施形態に関連する機能および特徴を説明する。しかしながら、同一または同等の機能が、本開示の範囲内に包含されることも意図されている異なる実施形態によっても達成され得ると理解される。さらに、第1および第2等の関係語は、そのものの間の順序における実際の関係を必ずしも要求または暗示することなく、互いに区別するためにのみ使用されると理解される。
【0009】
図1は、本開示の一実施形態による透明カバー100の概略側面図である。特定の目的に応じて、透明カバー100は、窓(色付け、断熱、UV(紫外線)の遮断、装飾等のため)、プロテクティブアイウェア(例えば、簡単に剥がせるように)、またはディスプレイ画面(例えば、引っかき傷の防止、側面から見られる事の阻止等のため)等の基板に貼り付けられてよい。透明カバー100は、2つ以上のレンズ110a、110b(総称してレンズ110)の積層、積層の隣接するレンズ110の間に配置された接着層120、および積層の最も外側のレンズ110上のARコーティング130a、130bを含んでよい。図1の実施例では、2つのレンズ110が示されている。しかしながら、3つ以上のレンズ110の積層もまた考えられ、レンズ110の数は、特定の用途に依存する。透明カバー100は、米国特許第6,536,045号に記載されているように、例えば、透明カバー100の周囲の選択領域において、接着剤によって基板に貼り付けられてよく、その全内容は参照により本明細書に明示的に組み込まれる。透明カバー100を基板に貼り付けるために使用される接着剤は、積層の隣接するレンズ110の間に配置された接着層120の接着剤と同じであるか、または異なって(例えば、より強力)よい。例えば、基板から透明カバー100全体を外すことなく個々のレンズ110が剥がされる場合には、より強力な接着剤を使用してよい。または、透明カバー100は、他の手段によって、例えば、米国特許第8,693,102号に記載されているレーシングヘルメットのテンションポストを使用して貼り付けられてよく、その全内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0010】
レンズ110は、透明なポリエステルであってよく、デュポン(DuPont Company)社所有の登録商標「マイラー(Mylar)」として販売されているプラスチックフィルムのシート、例えば、一般にPETと呼ばれる透明なポリマーポリエチレンテレフタレート(polymer polyethylene terephalate)から作製されたマイラーの一種から作成されてよい。レンズ110および接着層120は、1.40から1.52の間の屈折率を有してよい。各レンズ110の厚さは、12.7マイクロメートル(0.5ミル)から177.8マイクロメートル(7ミル)であってよく、例えば50.8マイクロメートル(2ミル)である。接着層120の接着材料が50.8マイクロメートル(2ミル)の厚さのレンズ110に塗布された後でも、接着層120は名目上の厚さしかないため、50.8マイクロメートル(2ミル)の厚さのレンズ110の厚さは依然として50.8マイクロメートル(2ミル)であり得る。「濡れ」という用語は、積層されたレンズ110間の関係を記述する際に使用され得る。積層されたレンズ110を透かして見ると、単一のプラスチック膜のように見え得る。
【0011】
レンズ110を積層するために使用される接着層120は、透明で光学的な低粘着性材料でできていてよく、また水性でアクリルの光学的に透明な接着剤または油性で透明の接着剤を含んでよい。接着層120は図1では別個の層として示されているが、レンズ110が、介在する接着層120と共に積層または別の方法で結合された後は、各接着層120の厚さは無視してよい。
【0012】
図2は、図1に示される透明カバー100の最も外側の表面の拡大図である。図2の上部には、第1ARコーティング130aでコーティングされた第1最外側レンズ110aが示される。図2の実施例では、第1ARコーティング130aは、相殺的干渉の原理に基づき作用する薄膜ARコーティングである。透明カバー100に入射する光線i(例えば、太陽光)は、最初に外部環境(例えば、空気)と第1ARコーティング130aとの間の第1境界面132aを通過し、その後に第1ARコーティング130aと第1最外側レンズ110aとの間の第2境界面134aを通過する。各境界面132a、134aにおいて、光iの一部が反射されて、反射光線r、rを生成する。第1ARコーティング130aの材料および厚さを適切に選択することにより、境界面134aで生成される反射光線rは、境界面132aで生成される反射光線rと、設計波長範囲(設計波長と呼ばれる特定の波長を中心とし得る)と呼ばれる所与の波長範囲について180°位相をずらし得る。したがって、結果として生じる反射光線r、rは、互いに相殺的に干渉し得る(すなわち、山が谷を打ち消す)、その結果、透明カバー100は、設計波長範囲内にある波長に対する光の反射の減少を示す。
【0013】
ARコーティング130aは、MgF(フッ化マグネシウム)の単一の薄膜であってよく、これは、多くの透明な材料での使用に適した比較的低い屈折率(n≒1.37、ここで、nは、フラウンホーファーの「D」線での屈折率を指す)が理由で単層干渉ARコーティングにおいて一般的な素材である。しかしながら、多層干渉構造を含む、任意の周知のARコーティング材料および構造が使用されてよい。第1ARコーティング130aの厚さは、所望の設計波長範囲に対する反射の減少を最適化するように選択されてよい。例えば、第1ARコーティング130aが単層干渉ARコーティングである場合、第1ARコーティング130aの厚さは、いわゆる4分の1波長厚さ、例えば、厚さd=((nair/ncoating)λ)/4、ここで、設計波長範囲はλを中心とし、nairは外部媒体の屈折率(例えば、空気の場合は1.00)であり、ncoatingは第1ARコーティング130aの屈折率(例えば、MgFの場合は1.37)である。光iが透明カバー100に90°で入射すると、境界面132aから境界面132bを伝わり再び戻る、第1ARコーティング130aを伝わる光の追加的経路長2dにより、反射光線rは、設計波長λの反射光線rに対して半周期(つまり180°位相がずれている)進む。これにより、rとrの間に相殺的干渉が発生することで、設計波長λの反射率が低下する。第1ARコーティング130a内を伝わる光の角度の付いた経路のために、非垂直入射の場合、この効果はそれほど顕著ではないことがある。
【0014】
図2の下部には、第2ARコーティング130bでコーティングされた第2最外側レンズ110bが示される。第2ARコーティング130bは、同様に、相殺的干渉の原理に基づき作用する薄膜ARコーティングであってよい。光iが第2ARコーティング130bに到達する場合、最初に第2最外側レンズ110bと第2ARコーティング130bとの間の第3境界面134bを通過し、その後、第2ARコーティング130bと外部環境(例えば、空気)との間の第4境界面132bを通過する。各境界面134b、132bにおいて、光iの一部が反射されて、反射光線r、rを生成する。第1ARコーティング130aの場合と同様に、第2ARコーティング130bの材料および厚さを適切に選択することにより、境界面132bで生成される反射光線rは、境界面134bで生成される反射光線rと、所与の設計波長範囲について180°位相をずらし得る。したがって、結果として生じる反射光線r、rは、互いに相殺的に干渉し得る、その結果、透明カバー100は、設計波長範囲内にある波長に対する光の反射の減少を示す。
【0015】
第2ARコーティング130bは、第1ARコーティング130aと同等の構成および機能を有し得るが、以下により詳細に説明されるように、異なる設計波長範囲(例えば、異なる設計波長λ≠λを中心とする設計波長範囲)を有する。例えば、第2ARコーティング130bは、同様に、その厚さがいわゆる4分の1波長厚さであり得る単層干渉ARコーティングであってよく、例えば、厚さd=((nair/ncoating)λ)/4、ここで、設計波長範囲はλを中心とし、nairは外部媒体の屈折率(例えば、空気の場合は1.00)であり、ncoatingは第2ARコーティング130bの屈折率(例えば、MgFの場合は1.37)である。このようにして、第2ARコーティング130bの設計波長範囲は、異なるARコーティング材料または構造的構成を使用する必要なしに、第2ARコーティング130bの厚さを変更することによって(第1ARコーティング130aの設計波長範囲に対して)調整されてよい。例えば、ARコーティング130aおよび130bが、MgF(n≒1.37)でできた単層干渉ARコーティングである場合、550nmおよび450nmを中心とするそれぞれの設計波長範囲は、以下に示すようにそれぞれ約100nmの厚さdおよび約82nmの厚さdを用いて達成されてよい。
【0016】
【数1】
【0017】
【数2】

式1および式2で表される上記の例では、2つのARコーティング130aおよび130bは、MgF(n≒1.37)でできた単層干渉ARコーティングである。しかしながら、第1ARコーティング130aおよび第2ARコーティング130bが異なる設計波長範囲を有する限り、材料、構造、および第1ARコーティング130a、第2ARコーティング130bの作用の原理でさえ異ってよいことが意図される。
【0018】
上記の説明は、説明を容易にするため多少簡略化されていることに留意されたい。例えば、反射光線rおよびrには、入射光iに対して低屈折率から高屈折率に変化する境界面132aおよび境界面134aによって、反射光線rおよびrには与えられない追加的180°の位相シフトが与えられてよい。ただし、反射光線rと反射光線rの両方に同じ追加的位相シフトが与えられるため、追加的位相シフトは反射光線rとrの間の相殺的干渉には影響しない。
【0019】
図3は、ARコーティングを有する200ゲージPETレンズを含む透明カバーの波長の関数として表される垂直入射反射率のグラフ表示である。波長の関数としての垂直入射透過率も示されている。図3の実施例では、ARコーティングは、約550nm(つまり緑色光)を中心とする設計波長範囲を有する。図3の透明カバーは、500nmから700nmの間の全ての波長で10%未満の垂直入射反射率を示す。反射率は500nmより短い波長で高く、人間の視覚の範囲(約390nmまで及ぶ)内で20%以上に上昇するため、図3の透明カバーは、知覚可能な青色または紫色の反射を生成する。
【0020】
図4は、ARコーティングを最も外側のレンズに配置した、3層の200ゲージPETレンズの積層を含む透明カバーの波長の関数として表される垂直入射反射率のグラフ表示である。波長の関数としての垂直入射透過率も示されている。図4の透明カバーは、層110aと層110bとの間に第3層110を有し、図1および図2に示される透明カバー100の構造を有してよいが、図4の例では、ARコーティングは互いに同一の設計波長範囲を有する(図1のARコーティング130a、130bとは違って)点が異なる。図3の実施例のように、図4のARコーティングの設計波長範囲は約550nm(つまり緑色光)を中心とする。ただし、この場合、3つのPETレンズ間の内部反射により、低波長端での反射率はやや悪くなり、人間の視覚の範囲(約390nmまで及ぶ)内で30%以上に上昇する。2つのARコーティングを使用しているにもかかわらず、青色または紫色の反射が顕著に観測され得る。
【0021】
図5図4と同一であるが、図5は破線で示される追加的曲線をさらに示す点が異なる。破線は、同じ透明カバーの波長の関数としての垂直入射反射率を表すが、550nmを中心とする設計波長範囲を持つARコーティングの代わりに、450nmを中心とする設計波長範囲を有するARコーティングを使用する。図示されるように、450nmを中心とする設計波長を有するARコーティングを使用することにより、反射率曲線全体を左に移動することができ、これにより低波長の反射率を改善する。図示されるように、反射率は、人間の視覚の範囲外のより低い波長において上昇する前に、約390nmまでずっと10%未満である。これにより、知覚可能な青色または紫色の反射を大幅に減少または除去し得るが、より高い波長での反射率(例えば、約700nmで15%を超える反射率)を増加させるので、図4のARコーティングの使用では知覚されなかった赤色の反射を発生させる。したがって、約550nmを中心とするARコーティングと、約450nmを中心とするARコーティングのどちらを選択するかは、異なる色の不要な反射間のトレードオフになる。
【0022】
上記のトレードオフを回避し、広い波長範囲にわたる反射を除去するために、図1および2に示される透明カバー100は、異なる設計波長範囲を有する2つの異なるARコーティング130a、130bを利用する。例えば、図5で比較された2つのARコーティングは、単一の透明カバー100に組み合わされることで、一方のARコーティングは、積層の第1最外側レンズ110a(例えば、図1および図2における上部レンズ110a)に配置され、他方のARコーティングは、積層の第2最外側レンズ110b(例えば、図1および図2における下部レンズ110b)に配置されてよい。したがって、透明カバー100は、約550nmを中心とする第1設計波長範囲を有する第1ARコーティング130aと、約450nmを中心とする第2設計波長範囲を有する第2ARコーティング130bとを有し得る。このようにして、500nm未満の低波長と600nmを超える高波長の両方で反射を防止できる。
【0023】
図6は、波長の関数として表される結果の反射率を示す。ARコーティングを最も外側のレンズに配置した、3層の200ゲージPETレンズを含む同一の透明カバーが使用されるが、ARコーティングはそれぞれ約550nmと450nmを中心とする設計波長範囲を有する。図示されるように、図6の透明カバーは、390nmから700nmの間の全ての波長で10%未満の垂直入射反射率を示す。
【0024】
ARコーティング130a、130bの設計波長範囲は、550nmおよび450nmを中心とする必要はなく、特定の用途に対して任意の適切な設計波長を中心としてよい。例えば、赤色の反射は問題ではないが紫外線の反射は問題である場合、設計波長範囲をさらに低い波長に移動してよく、例えば、450nmと300nmを中心としてよい。赤色および青色/紫色光の反射を低減するが、緑色光の反射は許容することが望ましい場合等、重複しない設計波長範囲もまた想定される。これは、例えば、750nmと250nmを中心とする設計波長範囲を使用することによって達成され得る。異なる設計波長範囲を有する2つのARコーティング130a、130bの効果をこのように組み合わせることにより、MgFでできた単層干渉コーティング等の比較的安価なARコーティングを使用して、広範囲の波長にわたる反射を除去し得る。
【0025】
上記の実施例では、透明カバー100の外部環境は、約1.00の屈折率を有する空気であると想定される。しかしながら、外部環境は空気でない場合も考えられる。例えば、水中の建物または車両の窓用の透明カバー100の場合、外部環境は、より高い屈折率を有する水であり得る。いくつかの例では、外部環境は、空気よりも低い屈折率を有する真空でさえあり得る。これに従って、ARコーティング130a、130bの上記の選択を行うことができ、nairは一般に、外部媒体の屈折率を指す。
【0026】
上記の実施例では、透明カバー100は、ある基板に貼り付けられていると記載されている。しかしながら、その全内容が参照により本明細書に明示的に組み込まれる、米国特許出願公開2018/0029337号の図6Cに関連して記載されるように、例えば、その周辺において周囲の壁または衣服に貼り付けられる等、透明カバー100自体が、下の基板なしで使用され得ることも考えられる。
【0027】
本開示を通して、「透明」という言葉は、透かして見ることのできる任意の材料を包含するために広く使用されている。「透明」という言葉は、半透明の、かすみがかった、つや消しの、着色された、または色付けされた材料を除外することを意図したものではない。
【0028】
本開示を通して記載されるARコーティング130a、130bは、スピンコーティング、ディップコーティング、または真空蒸着等の周知の方法に従って適用されてよい。
上記の説明は、限定ではなく、例として提示されるものである。上記の開示に基づき、当業者は、本明細書に開示された本発明の範囲および精神内の変形例を考案することが可能であろう。さらに、本明細書に開示される実施形態の様々な特徴は、単独で、または互いに様々な組み合わせで使用することができ、本明細書に記載の特定の組み合わせに限定されることは意図されない。したがって、特許請求の範囲は、例示された実施形態によって限定されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6