(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119907
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】黄色ブドウ球菌(STAPHYLOCOCCUS AUREUS)感染症を治療および予防するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240827BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240827BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240827BHJP
A61K 38/14 20060101ALI20240827BHJP
C07K 16/12 20060101ALI20240827BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 R ZNA
A61P31/04
A61P43/00 121
A61K38/14
C07K16/12
A61K38/16
A61K39/395 R
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024092217
(22)【出願日】2024-06-06
(62)【分割の表示】P 2022076737の分割
【原出願日】2015-06-03
(31)【優先権主張番号】62/007,242
(32)【優先日】2014-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/115,665
(32)【優先日】2015-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/041,423
(32)【優先日】2014-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】510312617
【氏名又は名称】エックスバイオテク インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】XBiotech Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】シマール,ジョン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症を治療する、または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症を発現するリスクを減少させるための医薬組成物を提供する。
【解決手段】医薬上許容される担体と、Fab領域パラトープを介して1×10-10M未満のKDで黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)タンパク質A(SpA)に特異的に結合する精製モノクローナル抗体とを含み、前記モノクローナル抗体が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細菌上のSpAにそれらのFc領域を介して結合したヒトIgG免疫グロブリンを置換することができることを特徴とする、医薬組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症を治療する、または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症を発現するリスクを減少させるための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
医薬上許容される担体と、Fab領域パラトープを介して1×10-10M未満のKDで黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)タンパク質A(SpA)に特異的に結合する精製モノクローナル抗体とを含み、
前記モノクローナル抗体が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細菌上のSpAにそれらのFc領域を介して結合したヒトIgG免疫グロブリンを置換することができることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記モノクローナル抗体が、ヒトまたはヒト化IgG3モノクローナル抗体であることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記モノクローナル抗体が、それらのFc領域を介してSpAに結合する少なくとも1mg/mLのIgG免疫グロブリンの存在下でSpA発現性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細菌のオプシニゼーションを媒介することができることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症が、菌血症であることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌によって引き起こされることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記モノクローナル抗体が、対象に静脈投与されるものであることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の医薬組成物において、バンコマイシンが、対象に前記モノクローナル抗体と共に投与されるものであることを特徴とする、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年6月3日に出願された米国仮特許出願第62/007,242号明細書、2014年8月25日に出願された同第62/041,423号明細書および2015年2月13日に出願された同第62/115,665号明細書からの優先権を主張するものである。
【0002】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出されており、参照により全体として本明細書に組み込まれる配列表を含有する。2015年5月28日に作成された上記のASCIIコピーは、5407-0234_SL.txtと指名されており、サイズは83,036バイトである。
【0003】
本発明は、概して内科療法、免疫学および微生物学の方法に関する。より詳細には、本発明は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症を治療および予防するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(SA)は、ヒトおよび動物の何れにおいても疾患および死亡の実質的原因である。これらのグラム陽性球菌による感染症は、表在性膿瘍の発生を生じさせることが多い。SA感染症のその他の症例は、はるかに重篤となることがある。例えば、リンパ管および血液中へのSAの侵入は全身性感染症もたらす可能性があり、これは順に、例えば心内膜炎、関節炎、骨髄炎、肺炎、敗血症性ショックおよび死亡さえなどの合併症を引き起こす場合がある。院内SA感染症は一般的であり、SAが院内外科部位感染症および肺炎の最も頻度の高い原因であり、心血管および血流感染症の2番目に頻度の高い原因である場合は特に解決が困難になる。抗生物質の投与は、これまでSA感染症の標準治療であったが、現在も依然として標準治療である。残念なことに、抗生物質の使用は、SAにおける抗生物質耐性の発生も加速させてきた。明白に、メチシリン耐性SA(MRSA)は、例えばペニシリンおよびセファロスポリン系のβ-ラクタム系抗生物質に抵抗する能力を進化させてきた。より懸念されることに、近年は、例えばバンコマイシンおよびリネゾリドなどの頼みの綱の抗生物質へのSA耐性が出現してきた。このため、SA感染症を予防および治療するための新規なアプローチが必要とされる。
【発明の概要】
【0005】
SAタンパク質A(SpA)に特異的に結合するFab領域パラトープを有する特定の抗体(Ab)は、抗体(Ab)中和SpAのSAの発現にもかかわらずSA細菌のオプシニゼーション(opsinization)を媒介できることが見いだされた。SA感染症を治療または予防するための以前のAbに基づく戦略は、前臨床および早期臨床試験において前途有望であることを示したが、第III相試験におけるエンドポイントを満たすことには失敗した。おそらくこれらの結果を説明するのは、以前の戦略がSpAのAb中和特性に取り組まなかったことにある。SpAは、それらのFc(エフェクター)領域を介してほとんどの免疫グロブリン(Ig)に結合する、多量に発現する細胞壁関連タンパク質である。SpAは、サブクラスのIgG1、IgG2およびIgG4のヒト抗体にそれらのFc領域を介して約1×10-9MのKDで結合し、それにより免疫グロブリン(Ig)のエフェクター部分を例えば補体などのFc相互作用免疫エフェクターおよびFc受容体(FcR)担持食細胞から外向きに方向付けるFc領域アンカーとして作用する。したがって、SA抗原に対して特異的な大多数のAbは、この方法で免疫エフェクターから「隔離」される。さらに、SpAは、SAの細胞壁上で極めて高度に発現するため(細胞壁の推定7%)、SpAは、細胞壁を被覆するIgのシールド形成を媒介する。このシールドは、細胞壁抗原に対して特異的なAbがそれらの標的に結合して細菌のオポノファゴサイトーシス(oponophagocytosis)を媒介するのを立体的に妨害する。Igシールドの形成は、以前は毒性因子であるとは認識されていなかった。そこでSpAのFc中和能力およびIgシールドの形成にもかかわらず、それらのFc領域が依然として免疫エフェクター細胞上のFcRと相互作用する、および/またはClqに結合することにより補体を活性化することを許容しながらSpAに特異的に結合するFab領域を有するSA結合Abは、抗SA Abをベースとするアプローチに比して有意なステップであった。そのようなAbの好ましいバージョンは、SpAに既に結合したIgをそれらのFc領域によって置換することができる。
【0006】
上記の例として、本明細書では、SpAのFc結合特性およびそれらのFc領域を介してSpAに結合したIgによる標的エピトープの立体障害にもかかわらず、それらのFc領域が依然として1つの(例えば、免疫細胞上の可溶性の組換えまたは天然)FcRと相互作用することが可能でありながら、SA細菌上のSpAの標的エピトープに特異的に結合できるFab領域を単離または精製抗体(特に、例えばアミノ酸435位にアルギニンを有するアロタイプを備えるようなSpAに対して低親和性または非親和性のFc領域を有するヒトIgG3抗体;Stapleton et al.,Nature Communications 2,Article number:599,2011)について記載する。さらに本明細書では、これらの抗体のうちの少なくとも1つと医薬上許容される担体(例えば、非天然型の医薬上許容される担体)とを含有する医薬組成物が提供される。さらに、SA感染症を有する対象を治療する、または対象においてSA感染症が発現するリスクを減少させる方法において、それを必要とする対象に治療有効量の本明細書に記載した医薬組成物の何れか、または本明細書に記載した抗体もしくは抗原結合フラグメントの何れかを投与するステップを含む方法が提供される。
【0007】
本明細書で使用する名詞の前の用語「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1つ以上の特定名詞を表す。例えば、フレーズの「抗体」は、「1つ以上の抗体」を表す。
【0008】
用語「抗体」または「Ab」は、抗原(例えば、配列番号1などのSpA抗原または配列番号1の抗原フラグメント)に特異的に結合する任意の免疫グロブリン(例えば、ヒト、軟骨魚類もしくはラクダ抗体)またはそれらのコンジュゲートを意味する。極めて広範なAbが当業者には公知である。Abの非限定的な例には、モノクローナルAb(例えば、全長Abを含む)、ポリクローナルAb、多重特異性Ab(例えば、二重特異性Ab)、二重可変ドメインAb、一本鎖Ab(例えば、単一ドメインAb、ラクダAbおよび軟骨魚類抗体)、キメラ(例えば、ヒト化、例えばヒト化IgG3)AbおよびヒトAb(例えば、ヒトIgG3 Ab)が含まれる。用語の「抗体」には、さらにAbコンジュゲート(例えば、安定化タンパク質、標識または治療薬(例えば、本明細書に記載した、または当技術分野において公知の治療薬の何れか)にコンジュゲートしたAb)が含まれる。
【0009】
用語「抗原結合フラグメント」は、抗原に特異的に結合できる少なくとも1つの可変ドメイン((例えば、哺乳動物(例えば、ヒト,マウス、ラット、ウサギまたはヒツジ)重鎖または軽鎖免疫グロブリン)、ラクダ可変抗原結合ドメイン(VHH)または抗原に特異的に結合できる軟骨魚類免疫グロブリン新規抗原受容体(Ig-NAR)ドメイン)を含有する全長Abの何れかの部分を意味する。例えば、本明細書に記載した抗原結合フラグメントは、哺乳動物(例えば、ヒト)における抗体依存性の細胞媒介性細胞毒性(ADCC)および/または補体依存性の細胞毒性(CDC)を媒介するために十分であり、および/または治療薬(例えば、本明細書に記載した、または当技術分野において公知の治療薬の何れか)にコンジュゲートしているAb Fc領域の少なくとも一部を含むことができる。Abフラグメントの非限定的な例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメント、ダイアボディ、線状抗体およびAbフラグメントから形成された多重特異性Abが含まれる。少なくとも1つのラクダVHHドメインまたは少なくとも1つの軟骨魚類Ig-NARドメインを含有する追加のAbフラグメントには、ミニボディ、マイクロ抗体、サブナノ抗体およびナノ抗体ならびに米国特許出願公開第2010/0092470号明細書に記載された他の形態のAbの何れかが含まれる。抗原結合フラグメントは、例えば、ヒトまたはヒト化IgG1、IgG2、IgG3 IgG4、IgD、IgA、IgEまたはIgMの1つの抗原結合フラグメントであってよい。
【0010】
用語「ヒト抗体」は、ヒトのゲノム内に存在する核酸(例えば、再配列ヒト免疫グロブリン重鎖または軽鎖遺伝子座)によってコードされるAbを意味する。一部の実施形態では、ヒトAbは、哺乳動物(例えば、ヒト)細胞培養中で生成される。一部の実施形態では、ヒトAbは、非ヒト細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞系またはマウスもしくはハムスター細胞系)中で生成される。一部の実施形態では、ヒトAbは、細菌または酵母細胞中で生成される。ヒトAbは、コンジュゲート化治療薬(例えば、本明細書に記載した、または当技術分野において公知の治療薬の何れか)を含むことができる。ヒトAbは、ヒトIgG1、IgG2、IgG4、IgD、IgA、IgEまたはIgMであってよく、好ましくはヒトIgG3である。用語「完全ヒト抗体」は、人間の血清中に自然に存在する重鎖および軽鎖可変領域を備えるAbを意味する。
【0011】
用語「ヒト化抗体」は、ヒトAbの大多数の配列を含有するが、さらに非ヒト(例えば、マウス、ラット、ウサギまたはヤギ)Igに由来する最小配列も含むAbを意味する。非限定的な例では、ヒト化Abは、レシピエントAbの超可変領域残基が所望の特異性、親和性および能力を有する非ヒト種Ab(ドナーAb)、例えば、マウス、ウサギまたはヤギAb由来の超可変領域残基と置換されるヒトAb(レシピエントAb)である。一部の実施形態では、ヒトIgのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。一部の実施形態では、ヒト化Abは、レシピエントAbまたはドナーAb中では見いだされない残基を含有していてよい。これらの修飾は、Ab性能をさらに精錬するために加えることができる。
【0012】
一部の実施形態では、ヒト化Abは、超可変ループ(相補性決定領域)の全部または実質的に全部が非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、フレームワーク領域の全部または実質的に全部がヒト免疫グロブリン配列のフレームワーク領域である、少なくとも1つ、および典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含有しているであろう。ヒト化抗体は、さらに、典型的にはヒトIg(例えば、ヒトIgG3)のIg定常領域(Fc領域)の少なくとも一部を含有している可能性がある。ヒト化Abは、当技術分野において周知である分子生物学的方法によって生成できる。ヒト化抗体を生成する方法の非限定的な例は、本明細書に記載されている。ヒト化Abは、コンジュゲート化治療薬(例えば、本明細書に記載した、または当技術分野において公知の治療薬の何れか)を含むことができる。
【0013】
用語「一本鎖抗体」は、抗原に特異的に結合できる少なくとも1つの可変結合ドメイン(例えば、哺乳動物重鎖もしくは軽鎖Ig、ラクダ可変抗原結合ドメイン(VHH)または軟骨魚類(例えば、サメ)免疫グロブリン新規抗原受容体(Ig-NAR)ドメイン)の可変ドメイン)を含有する単一ポリペプチドである。一本鎖Abの非限定的な例は、本明細書に記載されており、当技術分野において公知である(例えば、米国特許出願公開第2010/0092470号明細書に記載された抗体)。単一ドメイン抗体は、コンジュゲート化治療薬(例えば、本明細書に記載した、または当技術分野において公知の治療薬の何れか)を含むことができる。
【0014】
Abまたはその抗原結合フラグメントは、特定抗原、例えばSpA(例えば、配列番号1を含むエピトープまたは配列番号1の抗原結合フラグメント)に「特異的に結合する(specially binds)」または「特異的に結合する(binds specially)」が、Abまたはその抗原結合フラグメントがその抗原に結合する場合は、サンプル中の他の分子にはより少ない程度にのみ認識および結合する(例えば、認識および結合しない)。一部の実施形態では、Abまたはその抗原結合フラグメントは、リン酸緩衝食塩液中で(表面プラズモン共鳴によって決定した)1×10-10M以下(例えば、1×10-11M以下または1×10-12M以下)の親和性(KD)でエピトープに選択的に結合する。Abまたは抗原結合フラグメントがタンパク質エピトープに特異的に結合する能力は、当技術分野において公知の方法または本明細書に記載した方法の何れかを使用して決定することができる。
【0015】
用語「相補性決定領域」または「CDR」は、Abまたはその抗原結合フラグメント中の抗原結合部位の一部(パラトープ)を形成するIg(重鎖または軽鎖Ig)内の1つの領域を意味する。当技術分野において公知であるように、重鎖Igは、通常はそれぞれ3つのCDR:CDR1、CDR2およびCDR3を含有し、軽鎖Igは、通常はそれぞれ3つのCDR:CDR1、CDR2およびCDR3を含有する。何れかのAbまたはその抗原結合フラグメント内では、重鎖Ig由来の3つのCDRおよび軽鎖Ig由来の3つのCDRは、Abまたはその抗原結合フラグメント内で一緒に1つの抗原結合部位を形成する。カバット(Kabat)データベースは、軽鎖Igまたは重鎖Ig内に存在するCDR配列をナンバリングするために当技術分野において使用される1つのシステムである。
【0016】
他に特に規定しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者であれば一般に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書では本発明において使用するための方法および材料について記載する。当技術分野において公知である他の好適な方法および材料も使用できる。材料、方法および実施例は、例示することのみを意図しており、限定することは意図していない。本明細書で言及した全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース記入事項および他の参考文献は、参照により全体として組み込まれる。不一致が生じた場合は、用語の定義を含めて本明細書が優先されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、5つの抗原ペプチド各々の異なるドメインおよび場所を示しているSpAの概略図である。抗原ペプチド5番の配列(配列番号1)が示されている。
【
図2】
図2は、ビオチン化PA8-G3 Ab(明るい線)またはコントロールのビオチン化抗インターロイキン1αAb(MABp1)(濃い線)とともにインキュベートされ、次にストレプトアビジン-APCとともにインキュベートされた、SA臨床単離体00X(上)およびSA菌株ATCC#25923(下)の蛍光のヒストグラムを示す2つのグラフのセットである。
【
図3】
図3は、未標識PA8-G3 Ab(明るい線)または未標識MABp1 Ab(濃い線)とともにインキュベートされ、次にビオチン化組換えFcγ受容体1とともにインキュベートされ、さらに次にストレプトアビジン-APCとともにインキュベートされた、SA臨床単離体00X(上)およびSA菌株ATCC#25923(下)の蛍光のヒストグラムを示す2つのグラフのセットである。
【
図4】
図4は、pH-ロードグリーン標識菌株ATCC#25923または臨床単離体00Xを用いてオプソニン化されたPA8-G3 Abとともにコインキュベーションされた後の分化HL60細胞の(蛍光細胞分類法を使用した)平均蛍光強度のグラフである。PA8-G3 Abの代わりに、コントロールAb MABp1とともにインキュベートされた類似のサンプルを陰性コントロールとして使用した。
【
図5】
図5は、ビオチン化PA8-G3 Abまたは陰性コントロールMABP1 Abの添加前の15分間にわたりヒト血清とともに予備インキュベートされ、次にストレプトアビジンAPCとともにインキュベートされた、臨床単離体00X(上)またはATCC#25923(下)の蛍光強度を示している2つのグラフのセットである。
【
図6】
図6は、pH-ロードグリーン標識SAおよび次の未標識Ab:PA7.2-G3、PA4-G3、PA8-G3、PA15-G3、PA21-G3、PA27-G3、PA32-G3、PA37-G3またはMABp1のうちの1つとのコインキュベーション後の分化または未分化HL-60細胞の平均蛍光強度を示しているグラフである。MABp1 Abサンプルを陰性コントロールとして使用した。
【
図7】
図7A-Dは、mAb PA8の投与が黄色ブドウ球菌(S.aureus)に感染したマウス対象の生存を強化することを示すグラフである。
【
図8】
図8A-Cは、PA8-G3とバンコマイシンとの相乗作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書では、SA感染症を有する対象を治療するため、または対象におけるSA感染症を発現するリスクを減少させるための方法および組成物について記載する。
【0019】
抗体およびそれらの抗原結合フラグメント
本明細書では、SpAに結合し、SAの抗体(Ab)中和SpAの発現にもかかわらずSA細菌のオプシニゼーションを媒介することができる、精製または単離(例えば、重量で少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%または99%純粋な)Ab(例えば、好ましくは完全ヒト、ヒトまたはヒト化IgG3)について記載する。好ましいそのようなAbは、配列番号1のペプチドに、それらのFc領域を介してSpAに結合したヒトIgG免疫グロブリン(例えば、IgG1、IgG2およびIgG4のうちの1つ以上)を置換するために十分な結合親和性で結合する。好ましいAbは、それらのFab領域パラトープを介して1×10-10M未満(例えば、1×10-11M未満、1×10-12M未満、0.5×10-12M未満または1×10-13M未満)のKDで、生理的条件(例えば、リン酸緩衝食塩液)下において(例えば、表面プラズモン共鳴または組換えSpAを使用するバイオレイヤー干渉分光法(Bio-Layer Interferometry)を使用して決定されるように)SpAに結合できる。例えば、本明細書で記載したそれらのFab領域を介してSpAに(例えば、生理的条件下、例えばリン酸緩衝食塩液中で、例えば組換えSpAを使用する表面プラズモン共鳴を使用して測定して)1×10-10M~0.5×10-12M、1×10-11M~0.5×10-12M、1×10-11M~0.2×10-12MのKDで結合するAbが好ましい。本明細書に記載したそれらのAbまたは抗原結合フラグメントは、好ましくはそれらのFc領域を介してSA細菌の細胞壁内のSpAに結合したヒトAb(例えば、IgG1、IgG2およびIgG4のうちの1つ以上)を置換することができる。さらに本明細書では、それらのFab領域パラトープを介して黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)タンパク質A(SpA)に1×10-10M未満のKDで特異的に結合する精製または単離(例えば、重量で少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%または99%純粋の)mAb(例えば、好ましくは完全ヒト、ヒトまたはヒト化IgG3)が提供されるが、このときmAbは、それらのFc領域を介してSpAに結合する少なくとも1mg/mL(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、10、25、50または100mg/mLまたはヒト血清中に通常含有される量)のIgG免疫グロブリンの存在下で、SpA発現性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細菌のオプシニゼーションを媒介することができる。
【0020】
本明細書に提供した精製または単離Abは、SpAの細胞外ドメイン中に存在する(例えば、XR反復領域および1つ以上のIgG結合ドメイン中に存在する)エピトープに結合する可能性がある。本明細書に提供したAb(またはそれらの抗原結合フラグメント)の何れかによって特異的に認識できる抗原の非限定的例には、配列番号1の6、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20隣接アミノ酸(例えば、配列番号1のアミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13もしくは14位から始まるフラグメント);配列番号82の6、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20もしくは21隣接アミノ酸(例えば、配列番号82のアミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15位から始まるフラグメント);配列番号83の6、7、8、9、10、11、12、13、14、15もしくは16隣接アミノ酸(例えば、配列番号83のアミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10位から始まるフラグメント);配列番号84の6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20もしくは21隣接アミノ酸(例えば、配列番号84のアミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15位から始まるフラグメント);配列番号85の6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20隣接アミノ酸(例えば、配列番号85のアミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13もしくは14位から始まるフラグメント);または配列番号86のアミノ酸1~20、10~30、20~40、30~50、40~60、50~70、60~80、70~90、80~100、90~110、100~120、110~130、120~140、130~150、140~160、150~170、160~180、170~190、180~200、190~210、200~220、210~230、220~240、230~250、240~260、250~270、260~280、270~290、280~300、290~310、300~320、310~330、320~340、330~350、340~360、350~370、360~380、370~390、380~400、390~410、400~420、410~430、420~440または430~450位からの6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20隣接アミノ酸が含まれる。他の抗原の例には、配列番号86のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するSpAの類似のフラグメントが含まれる。
【0021】
Abまたはその抗原結合フラグメントが標的タンパク質(例えば、SpAまたはその一部分)に結合する能力を決定するための方法は、当技術分野において公知の方法を使用して実施することができる。そのような方法の非限定的な例には、標的タンパク質(例えば、SpA)に結合することが公知のAbを使用する競合結合アッセイ、酵素結合免疫吸着検定法、BioCoRE(登録商標)、アフィニティカラム、免疫ブロッティングまたはタンパク質アレイテクノロジーが含まれる。一部の実施形態では、Abまたはその抗原結合フラグメントの結合能力は、SA細菌をAbまたはその抗原結合フラグメントと接触させることによって決定される。Abまたはその抗原結合フラグメントがSA細菌の細胞壁内のSpAに結合したヒトAb(例えば、IgG1、IgG2およびIgG4のうちの1つ以上)を置換する能力を決定するための典型的な方法については、下記の実施例の項において記載する。Abまたはその抗原結合フラグメントがSA細菌の細胞壁内のSpAに結合したヒトAb(例えば、IgG1、IgG2およびIgG4のうちの1つ以上)を置換する能力を決定するための追加の方法は、当技術分野において公知である。
【0022】
Abは、例えばmAb、多重特異性Ab(例えば、二重特異性Ab)、キメラAb(例えば、ヒト化Ab、例えばヒト化IgG Ab)、ヒトAbまたは上記の何れかのフラグメントであってよい。例えば、Abは、ヒトまたはヒト化モノクローナルIgG3 Abであってよい。Abは、さらに一本鎖Ab(例えば、単一ドメインAb)、例えば一本鎖ラクダもしくは軟骨魚類(例えば、サメ)Abまたは少なくとも1つのラクダ可変抗原結合ドメイン(VHH)もしくは少なくとも1つの軟骨魚類(例えば、サメ)免疫グロブリン新規抗原受容体(Ig-NAR)ドメインを含有する一本鎖Ab(例えば、米国特許出願公開第2010/0092470号明細書に記載されたAb)であってよい。Abは、Ab全分子またはAb多量体であってよい。
【0023】
用語の「Ab」には、さらにAbコンジュゲート(例えば、安定化タンパク質、標識または治療薬(例えば、本明細書に記載した、または当技術分野において公知の治療薬の何れかにコンジュゲートしたAb))が含まれる。例えば、本明細書に提供したAbには、哺乳動物(例えば、ヒト)におけるAb依存性の細胞媒介性細胞毒性(ADCC)および/または補体依存性の細胞毒性(CDC)を媒介するために十分である、および/または治療薬(例えば、本明細書に記載した、または当技術分野において公知の治療薬の何れか)にコンジュゲートしているFcドメインまたはFcドメインの一部を含むことができる。Abは、例えばヒトまたはヒト化IgG1、IgG2、IgG4、IgD、IgA、IgEまたはIgMであってよく、好ましくはヒトまたはヒト化IgG3である。
【0024】
本明細書に記載した抗原結合フラグメントは、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)におけるAb依存性の細胞媒介性細胞毒性(ADCC)および/または補体依存性の細胞毒性(CDC)を媒介するために十分であり、および/または治療薬(例えば、本明細書に記載した、または当技術分野において公知の治療薬の何れか)にコンジュゲートしているFcドメインの少なくとも一部を含むことができる。Abフラグメントの非限定的な例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、一本鎖Fv(scFv)、Fvフラグメント、可変軽鎖または可変重鎖ドメイン何れかを含有するフラグメント、ダイアボディ、線状AbおよびAbフラグメントから形成された多重特異性Abが含まれる。少なくとも1つのラクダVHHドメインまたは少なくとも1つの軟骨魚類Ig-NARドメインを含有する追加のAbフラグメントには、ミニボディ、マイクロAb、サブナノ-Abおよびナノ-Abならびに米国特許出願公開第2010/0092470号明細書に記載された他の形態のAbの何れかが含まれる。
【0025】
Abまたはそれらの抗原結合フラグメントは、何れかのタイプ(例えば、ヒトもしくはヒト化IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、ヒトもしくはヒト化IgG1(例えば、IgG1aもしくはIgG1b)、IgG2(例えば、IgG2aもしくはIgG2b)、IgG3(例えば、IgG3aもしくはIgG3b)、IgG4(例えば、IgG4aもしくはIgG4b)、IgA1およびIgA2またはサブクラスであってよいが、生理的条件(例えば、リン酸緩衝食塩液)下で(例えば、組換えSpAを使用する表面プラズモン共鳴を使用して決定されるような)SpAに対するFc結合親和性が低い(例えば、1×10-7M、1×10-6M、1×10-5M、1×10-4Mまたは1×10-3Mより大きいKDを有するか、またはヒトIgG1のFc領域についてはSpAのKDより大きいKDを有する)Abまたはその抗原結合フラグメントが好ましい。抗原結合フラグメントは、例えば、ヒトもしくはヒト化IgG1(例えば、IgG1aもしくはIgG1b)、IgG2(例えば、IgG2aもしくはIgG2b)、IgG4(例えば、IgG4aもしくはIgG4b)、IgD、IgA(例えば、IgA1もしくはIgA2)、IgEもしくはヒト化IgMの抗原結合フラグメントであってよく、好ましくはヒトもしくはヒト化IgG3(例えば、IgG3aもしくはIgG3b)のフラグメントである。アミノ酸突然変異は、これらのIgGサブクラスの定常領域内に導入することができる。導入できるアミノ酸突然変異は、例えば、(例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.103(11):4005-4010,2006;MAb 1(6):572-579,2009;米国特許出願公開第2010/0196362号明細書;同第2013/0108623号明細書;同第2014/0171623号明細書;同第2014/0093496号明細書;および同第2014/0093959号明細書に記載されているように)Fc受容体への結合を強化する、または(例えば、J.Biol.Chem.276(9):6591-6604,2001;Int Immunol.18(12):1759-1769,2006;およびJ.Biol.Chem.281(33):23514-23524,2006に記載されているように)FcRnへの結合を強化または減少させるアミノ酸突然変異であってよい。
【0026】
2つのタイプのH鎖は、非相同的に関連して二重特異性Abを生成する。ノブイントゥホール(knobs-into-holes)テクノロジー(例えば、J.Immunol.Methods 248(1-2):7-15,2001;およびJ.Biol.Chem.285(27):20850-20859,2010に記載されている)、静電反発力テクノロジー(例えば、国際公開第06/106905号パンフレットに記載されている)、SEEDbodyテクノロジー(例えば、Protein Eng.Des.Sel.23(4):195-202,2010に記載されている)などは、CH3ドメインを介して2つのタイプのH鎖の異種関連のために使用できる。本明細書に記載した抗体の何れも、修飾または欠損性糖鎖を備える抗体であってよい。改質糖鎖を有する抗体の例には、グリコシル化組換え抗体(例えば、国際公開第99/54342号パンフレットに記載されているように)、脱フコシル化糖鎖を備える抗体(例えば、国際公開第00/61739号パンフレット、同第02/31140号パンフレット、同第06/067847号パンフレットおよび同第06/067913号パンフレットに記載されているように)ならびにバイセクティング(bisecting)GlcNAc(例えば、国際公開第02/79255号パンフレットに記載されている)が含まれる。糖鎖欠損性IgG抗体を生成するための方法の公知の例には、重鎖内のEUナンバリング位置297位でアスパラギンに突然変異を導入する方法(J.Clin.Pharmacol.50(5):494-506,2010)および大腸菌(E.coli)を使用してIgGを製造する方法(J.Immunol.Methods 263(1-2):133-147,2002;およびJ.Biol.Chem.285(27):20850-20859,2010)が含まれる。さらに、IgG内のC末端リシンの異種性付随欠失およびIgG2のヒンジ領域内のジスルフィド結合の異種付随誤対合は、(例えば、国際公開第09/041613号パンフレットに記載されているように)アミノ酸欠失/置換を導入することによって減少させることができる。本明細書に記載したAbまたは抗原結合フラグメントの何れかには、対応するヒトAb内には存在しない少なくとも1つの(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの)アミノ酸(例えば、CDR内には存在しない付加、挿入または置換アミノ酸)が含まれる。本明細書に記載したAbまたは抗原結合フラグメントの何れも、さらに少なくとも1つの(対応するヒトAbと比較して)欠失したアミノ酸、例えば軽鎖または重鎖のN末端またはC末端からの欠失、または定常領域(例えば、Fc領域)からの1つのアミノ酸の欠失を有することができる。
【0027】
SpAまたはそのフラグメント(例えば、配列番号1の少なくとも7、8、9または10隣接アミノ酸(例えば、配列番号1のアミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13位から始まる、または配列番号1の全部)は、ポリクローナルおよびモノクローナルAb調製物のための標準技術を使用してAbを生成するための免疫原として使用できる。Abフラグメントは、当技術分野において周知の方法を使用してモノクローナルAbから生成することができる。
【0028】
免疫原は、典型的には好適な対象(例えば、ウサギ、ヤギ、マウスまたは他の哺乳動物)を免疫することによってAbを調製するために使用される。適切な免疫原調製物は、例えば、組換え発現ポリペプチドまたは化学合成ポリペプチドを含有することができる。この調製物は、さらにアジュバント、例えばフロイントの完全もしくは不完全アジュバントまたは類似の免疫賦活剤を含むことができる。
【0029】
モノクローナルAb分泌ハイブリドーマを調製するための代替法として、ポリペプチドに対して向けられたモノクローナルAbは、関心のあるポリペプチドを備える組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリ(例えば、Abファージ提示ライブラリ)をスクリーニングすることによって同定および単離することができる。ファージ提示ライブラリを生成およびスクリーニングするためのキットは、市販で入手できる(例えば、the Pharmacia Recombinant Phage Antibody System,Catalog No.27-9400-01;およびthe Stratagene SurfZAP* Phage Display Kit,Catalog No.240612)。さらに、Ab提示ライブラリを生成およびスクリーニングする際に使用するために特に適した方法および試薬の例は、例えば、米国特許第5,223,409号明細書;国際公開第92/18619号パンフレット;同第91/17271号パンフレット;同第92/2079号パンフレット;同第92/15679号パンフレット;同第93/01288号パンフレット;同第92/01047号パンフレット;同第92/09690号パンフレット;同第90/02809号パンフレット;Fuchs et al.,Bio/Technology 9:1370-1372,1991;Hay et al.,Hum.Antibod.Hybridomas 3:81-85,1992;Huse et al.,Science 246:1275-1281,1989;Griffiths et al.,EMBO J.12:725-734,1993に見いだすことができる。
【0030】
下記の実施例のセクションでは、SpAエピトープ(例えば、配列番号1のポリペプチド内に位置する、または規定されるエピトープ)に特異的に結合するヒトAb(例えば、ヒトIgG3)を単離およびシーケンシングするための追加の方法について記載する。Abおよび抗原結合フラグメントを作成するための追加の一般的方法は、米国特許出願公開第2011/0059085号明細書に記載されている。
【0031】
一部の実施形態では、本明細書に提供したAbまたは抗原結合フラグメントは、ヒトまたはヒト化Ab(例えば、ヒトまたはヒト化IgG3 Ab)である。一部の実施形態では、ヒト化Abは、非ヒトAb(例えば、ラット、マウス、ウサギまたはヤギAb)中に存在する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含有するように組み換えられているヒトAbである。一部の実施形態では、1つのヒト化Abまたはそのフラグメントは、SpAエピトープ(例えば、配列番号1のポリペプチド内に位置する、または規定されたエピトープ)に特異的に結合するヒトまたは非ヒトAbの軽鎖の全3つのCDRを含有することができる。一部の実施形態では、そのヒト化Abまたはそのフラグメントは、SpAエピトープ(例えば、配列番号1のポリペプチド内に位置する、または規定されたエピトープ)に特異的に結合するヒトまたは非ヒトAbの重鎖の全3つのCDRを含有することができる。一部の実施形態では、そのヒト化Abまたはそのフラグメントは、SpAエピトープ(例えば、配列番号1のポリペプチド内に位置する、または規定されたエピトープ)に特異的に結合するヒト化またはヒトモノクローナルAbの重鎖の全3つのCDRおよび軽鎖の全3つのCDRを含有することができる。
【0032】
本発明のAbは、さらにAbの多量体形を含むことができる。例えば、本発明のAbは、単量体免疫グロブリン分子のAb二量体、三量体またはより高次の多量体の形態を取ることができる。完全免疫グロブリン分子またはF(ab’)2フラグメントの二量体は四価であるが、FabフラグメントまたはscFv分子の二量体は二価である。Ab多量体内の個別単量体は同一であってよい、または異なっていてよく、すなわちそれらはヘテロメリックまたはホモメリックAb多量体であってよい。例えば、多量体内の個別Abは、同一または異なる結合特異性を有していてよい。
【0033】
Abの多量体化は、Abの自然凝集を通して、または当技術分野において公知の化学結合または組換え結合技術を通して遂行することができる。例えば、一部のパーセンテージの精製Ab調製物(例えば、精製IgG1分子)は、Abホモ二量体および他より高次のAb多量体を含有するタンパク質凝集体を自然に形成する。または、Abホモ二量体は、当技術分野において公知である化学結合技術を通して形成されてよい。Ab多量体を形成するためには、例えば、SMCC(スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)およびSATA(N-スクシンイミジルS-アセチルチオ-アセテート)(例えば、Pierce Biotechnology,Inc.(Rockford,IL)から入手可能)を含むがそれらに限定されないヘテロ二官能架橋剤を使用することができる。Abホモ二量体を形成するための典型的なプロトコルは、Ghetie et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:7509-7514,1997)に明示されている。Abホモ二量体は、ペプシンによる消化を通してFab’2ホモ二量体に変換させることができる。Abホモ二量体を形成するためのまた別の方法は、Zhao et al.(J.Immunol.25:396-404,2002)に記載されたオートフィリック(autophilic)T15ペプチドの使用による。
【0034】
または、Abは、組換えDNA技術を通して多量体化するために作成できる。IgMおよびIgAは、成熟J鎖ポリペプチドとの相互作用を通してAb多量体を自然に形成する。非IgAまたは非IgM分子、例えばIgG分子は、IgAまたはIgMのJ鎖相互作用ドメインを含有し、それにより非IgAまたは非IgM分子上により高次の多量体を形成する能力を付与するように組み換えることができる(例えば、Chintalacharuvu et al.,Clin.Immunol.101:21-31,2001およびFrigerio et al.,Plant Physiol.123:1483-1494,2000を参照されたい)。IgA二量体は、粘膜で内張りされた器官の内腔に自然に分泌される。この分泌は、上皮細胞上のJ鎖とポリマーIgA受容体(plgR)との相互作用を通して媒介される。Ab(またはJ鎖相互作用ドメインを含有するために組み換えられたAb)のIgA形の分泌が望ましくない場合は、pIgRと余り相互作用しない変異J鎖と関連してAb分子を発現させることによって大きく減少させることができる(Johansen et al.,J.Immunol.,167:5185-192,2001)。ScFv二量体は、さらに当技術分野において公知である組換え技術によって形成することができる。scFv二量体の構築の例は、Goel et al.(Cancer Res.60:6964-71,2000)に明示されている。Ab多量体は、サイズ排除クロマトグラフィを含むがそれには限定されない当技術分野において公知である任意の好適な方法を使用して精製することができる。
【0035】
本明細書に記載したAbまたは抗原結合フラグメントの何れも、安定化分子(例えば、ネコまたは溶液中でAbまたはその抗原結合フラグメントの半減期を増加させる分子)にコンジュゲートさせることができる。安定化分子の非限定的な例には、ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)またはタンパク質(例えば、血清アルブミン、例えばネコ血清アルブミン)が含まれる。本明細書に記載したAbまたはその抗原結合フラグメントの何れも、標識(例えば、蛍光体、放射性同位体または発光性分子)または治療薬(例えば、細胞毒性薬または放射性同位体)にコンジュゲートさせることができる。標識または治療薬をAbに付着させるための典型的な方法は、米国特許出願公開第2013/0224228号明細書に記載されている。細胞毒性薬の非限定的な例には、微生物(例えば、グラム陽性菌、例えば黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))の細胞死を誘導することが公知の作用物質が含まれる。本明細書に提供したAbまたはその抗原結合フラグメントの何れかにコンジュゲートさせることができる細胞毒性薬の非限定的な例には、リネゾリド、エリスロマイシン、ムピロシン、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム、シラスタチン、メロペネム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン(cefalotin)、セファロチン(cephalothin)、セファレキシン、セフラコール(ceflacor)、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフタロリン・フォサミル、セフトビプロール、テイコプラニン、バンコマイシン、テレバンシン(televancin)、クリンダマイシン、リンコマイシン、ダプトマイシン、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、ペニシリンG、テモシリン、チカルシリン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、マフェニド、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スファメチゾール(sufamethizole)、スルファメトキサゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフイソキサゾール、トリメトプリム・スルファメトキサゾール、スルホンアミドクリソイジン、デメクロサイクロン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリンおよびテトラサイクリンが含まれる。
【0036】
例えば、SpAに特異的に結合する、本明細書に提供したAb(例えば、ヒトまたはヒト化モノクローナルIgG3)またはその抗原結合フラグメント(例えば、ヒトまたはヒト化モノクローナルIgG3のフラグメント)には、
(i)それぞれ配列番号2、3および4のCDR1、CDR2およびCDR3を含む重鎖、ならびに/またはそれぞれ配列番号7、8および9のCDR1、CDR2およびCDR3を含む軽鎖;
(ii)それぞれ配列番号12、13および14のCDR1、CDR2およびCDR3を含む重鎖、ならびに/またはそれぞれ配列番号17、18および19のCDR1、CDR2およびCDR3を含む軽鎖;
(iii)それぞれ配列番号22、23および24のCDR1、CDR2およびCDR3を含む重鎖、ならびに/またはそれぞれ配列番号27、28および29のCDR1、CDR2およびCDR3を含む軽鎖;
(iv)それぞれ配列番号32、33および34のCDR1、CDR2およびCDR3を含む重鎖、ならびに/またはそれぞれ配列番号37、38および39のCDR1、CDR2およびCDR3を含む軽鎖;
(v)それぞれ配列番号42、43および44のCDR1、CDR2およびCDR3を含む重鎖、ならびに/またはそれぞれ配列番号47、48および49のCDR1、CDR2およびCDR3を含む軽鎖;
(vi)それぞれ配列番号52、53および54のCDR1、CDR2およびCDR3を含む重鎖、ならびに/またはそれぞれ配列番号57、58および59のCDR1、CDR2およびCDR3を含む軽鎖;
(vii)それぞれ配列番号62、63および64のCDR1、CDR2およびCDR3を含む重鎖、ならびに/またはそれぞれ配列番号67、68および69のCDR1、CDR2およびCDR3を含む軽鎖;または
(viii)それぞれ配列番号72、73および74のCDR1、CDR2およびCDR3を含む重鎖、ならびに/またはそれぞれ配列番号77、78および79のCDR1、CDR2およびCDR3を含む軽鎖を含むことができる。
【0037】
一部の例では、本明細書に提供したAbの何れかは、配列番号6を含むAb重鎖および/または配列番号11を含む軽鎖;配列番号16を含むAb重鎖および/または配列番号21を含む軽鎖;配列番号26を含むAb重鎖および/または配列番号31を含む軽鎖;配列番号36を含むAb重鎖および/または配列番号41を含む軽鎖;配列番号46を含むAb重鎖および/または配列番号51を含む軽鎖;配列番号56を含むAb重鎖および/または配列番号61を含む軽鎖;配列番号66を含むAb重鎖および/または配列番号71を含む軽鎖;または配列番号76を含むAb重鎖および/または配列番号81を含む軽鎖を有する。
【0038】
本明細書に提供した追加の例では、Ab(例えば、ヒトまたはヒト化IgG3)または抗原結合フラグメント(例えば、ヒトまたはヒト化IgG3の抗原結合フラグメント)は、1×10-10M未満(例えば、1×10-11M未満または1×10-12M未満)のKDでSpAに結合できる、および/またはSpAに結合したヒトAb(例えば、IgG1、IgGおよびIgG4のうちの1つ以上)を置換することができ、このときその抗原または抗原結合フラグメントは、6つのCDRのセットであって、
(i)配列番号2、3、4、7、8および9;
(ii)配列番号12、13、14、17、18および19;
(iii)配列番号22、23、24、27、28および29;
(iv)配列番号32、33、34、37、38および39;
(v)配列番号42、43、44、47、48および49;
(vi)配列番号52、53、54、57、58および59;
(vii)配列番号62、63、64、67、68および69;または
(viii)配列番号72、73、74、77、78および79
からなる群から選択される6つのCDRのセット(セット全体)内に1個、2個、3個、4個、5個または6個以下の全アミノ酸置換(例えば、保存アミノ酸置換)を有する、6つCDRのセットを有する。
【0039】
例えば、本明細書に提供したAb(例えば、ヒトまたはヒト化IgG3)または抗原結合フラグメント(例えば、ヒトまたはヒト化IgG3の抗原結合フラグメント)は、6つのCDRのセットであって、配列番号2、3、4、7、8および9の6つのCDRのセット(セット全体)内に1個、2個、3個または4個以下の全アミノ酸置換を有する、6つのCDRのセットを含むことができる。例えば、本明細書に提供したAb(例えば、ヒトもしくはヒト化IgG3)またはその抗原結合フラグメント(例えば、ヒトもしくはヒト化IgG3の抗原結合フラグメント)は、
(i)配列番号2、3、4、7、8および9の6つのCDRのセット;
(ii)配列番号12、13、14、17、18および19の6つのCDRのセット;
(iii)配列番号22、23、24、27、28および29の6つのCDRのセット;
(iv)配列番号32、33、34、37、38および39の6つのCDRのセット;
(v)配列番号42、43、44、47、48および49の6つのCDRのセット;
(vi)配列番号52、53、54、57、58および59の6つのCDRのセット;
(vii)配列番号62、63、64、67、68および69の6つのCDRのセット;または
(viii)配列番号72、73、74、77、78および79の6つのCDRのセット
を含むか、またはそれらからなる可能性がある。
【0040】
追加の例では、SpAに特異的に結合する本明細書に提供したAb(例えば、ヒトもしくはヒト化モノクローナルIgG3)または抗原結合フラグメント(例えば、ヒトもしくはヒト化IgG3の抗原結合フラグメント)には、(i)配列番号5を含むか、または配列番号5からなる可変ドメイン;(ii)配列番号10を含むか、または配列番号10からなる可変ドメイン;(iii)配列番号15を含むか、または配列番号15からなる可変ドメイン;(iv)配列番号20を含むか、または配列番号20からなる可変ドメイン;(v)配列番号25を含むか、または配列番号25からなる可変ドメイン;(vi)配列番号30を含むか、または配列番号30からなる可変ドメイン;(vii)配列番号35を含むか、または配列番号35からなる可変ドメイン;(viii)配列番号40を含むか、または配列番号40からなる可変ドメイン;(ix)配列番号45を含むか、または配列番号45からなる可変ドメイン;(x)配列番号50を含むか、または配列番号50からなる可変ドメイン;(xi)配列番号55を含むか、または配列番号55からなる可変ドメイン;(xii)配列番号60を含むか、または配列番号60からなる可変ドメイン;(xiii)配列番号65を含むか、または配列番号65からなる可変ドメイン;(xiv)配列番号70を含むか、または配列番号70からなる可変ドメイン;(xv)配列番号75を含むか、または配列番号75からなる可変ドメイン;または(xvi)配列番号80を含むか、または配列番号80からなる可変ドメインからなる群から選択される可変ドメインが含まれる。例えば、Ab(例えば、ヒトまたはヒト化モノクローナルIgG3)または抗原結合フラグメント(例えば、ヒトまたはヒト化IgG3の抗原結合フラグメント)は、(i)配列番号5を含むか、または配列番号5からなる可変ドメインおよび/または配列番号10を含むか、または配列番号10からなる可変ドメイン;(ii)配列番号15を含むか、または配列番号15からなる可変ドメインおよび/または配列番号20を含むか、または配列番号20からなる可変ドメイン;(iii)配列番号25を含むか、または配列番号25からなる可変ドメインおよび/または配列番号30を含むか、または配列番号30からなる可変ドメイン;(iv)配列番号35を含むか、または配列番号35からなる可変ドメインおよび/または配列番号40を含むか、または配列番号40からなる可変ドメイン;(v)配列番号45を含むか、または配列番号45からなる可変ドメインおよび/または配列番号50を含むか、または配列番号50からなる可変ドメイン;(vi)配列番号55を含むか、または配列番号55からなる可変ドメインおよび/または配列番号60を含むか、または配列番号60からなる可変ドメイン;(vii)配列番号65を含むか、または配列番号65からなる可変ドメインおよび/または配列番号70を含むか、または配列番号70からなる可変ドメイン;または配列番号75を含むか、または配列番号75からなる可変ドメインおよび/または配列番号80を含むか、または配列番号80からなる可変ドメインを含むことができる。
【0041】
本明細書に記載したAb(例えば、ヒトもしくはヒト化モノクローナルIgG3)または抗原結合フラグメント(例えば、ヒトもしくはヒト化IgG3の抗原結合フラグメント)の何れかの一部の実施形態は、以下の:MRSAの菌株中のSpAに特異的に結合する;配列番号1によって規定されたエピトープに特異的に結合する;SpAに1×10-10M未満(例えば、1×10-11M未満または1×10-12未満)のKDで結合する;および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細菌(例えば、MRSA菌)の細胞壁内のSpAに結合したヒトAbを置換する能力のうちの1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つまたは4つ)を有する。
【0042】
医薬組成物
本明細書では、少なくとも1つの医薬上許容される担体(例えば、非天然の医薬上許容される担体)および少なくとも1つ(例えば、2つ、3つまたは4つ)の本明細書に提供したAbまたはその抗原結合フラグメントの何れかを含有する医薬組成物が提供される。医薬上許容される担体の非限定的な例には、滅菌水、生理的食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸)、バッファー(例えば、リン酸塩、クエン酸塩、ヒスチジンおよび他の有機酸)、防腐剤、界面活性剤(例えば、PEGおよびTween)、キレート剤(例えば、EDTAまたはEGTA)ならびに結合剤が含まれる。医薬上許容される担体の追加の例には、さらにまた低分子量ポリペプチド、タンパク質(例えば、血清アルブミンおよびゼラチン)、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン、アルギニンおよびリシン)、糖および炭水化物(例えば、多糖類および単糖類)ならびに糖アルコール(例えば、マンニトールおよびソルビトール)も含まれる。注射用水溶液を調製する場合は、グルコースおよび他のアジュバント、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトールおよび塩化ナトリウムを含む生理的食塩水および等張性溶液を、および必要であれば、適切な可溶化剤、例えばアルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコールおよびPEG)、および非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188およびHCO-50)と組み合わせて使用することができる。調製物中にヒアルロニダーゼを混合することによって、より多量の流体量を皮下投与することができる(例えば、Expert.Opin.Drug.Deliv.4(4):427-440,2007を参照されたい)。
【0043】
本明細書に提供したAbおよび抗原結合フラグメントは、例えば、(例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチンおよびポリ(メチルメタクリレート)から作成された)マイクロカプセル内に封入できる、またはコロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)の成分として組み込むことができる(例えば、“Remington’s Pharmaceutical Science 16th edition”,Oslo Ed.(1980)を参照されたい)。制御放出型医薬製剤としての医薬組成物を調製するための方法も周知であり、そのような方法は本発明のAbおよび抗原結合フラグメントに適用することができる(例えば、Langer et al.,J.Biomed.Mater.Res.15:267-277,1981;Langer,Chemtech.12:98-105,1982,;米国特許第3,773,919号明細書;欧州特許第58,481号明細書;Sidman et al.,Biopolymers 22:547-556,1983;および欧州特許第133,988号明細書を参照されたい)。
【0044】
本明細書に提供した医薬組成物は、静脈内、動脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内または経口投与のために調製することができる。
【0045】
本発明の医薬組成物の用量は、剤形、投与方法、患者の年齢および体重、患者の症状、SA感染症の重症度またはSA感染症のリスクのレベルを考察することにより適切に決定することができる。一般に、成人のための1日量は、例えば、1回または数回に分けて0.1mg~10,000mgであってよい。用量は、例えば、0.2~10,000mg/日(例えば、1~10g/日、2~8g/日、1~5g/日、0.5~2.5g/日、0.5~500mg/日、1~300mg/日、3~100mg/日または5~50mg/日)であってよい。これらの用量は、患者の体重および年齢ならびに投与方法に依存して変動してよい。しかし、好適な用量の選択は、明確に当業者の認識範囲内に含まれる。同様に、投与期間は、治療の進展に依存して適切に決定することができる。
【0046】
本明細書に提供した医薬組成物の何れも、1つ以上の追加の抗菌剤を含むことができる。そのような抗菌剤の非限定的な例には、リネゾリド、エリスロマイシン、ムピロシン、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム、シラスタチン、メロペネム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン(cefalotin)、セファロチン(cefalothin)、セファレキシン、セフラコール、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフタロリン・フォサミル、セフトビプロール、テイコプラニン、バンコマイシン、テレバンシン、クリンダマイシン、リンコマイシン、ダプトマイシン、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、ペニシリンG、テモシリン、チカルシリン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、マフェニド、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフイソキサゾール、トリメトプリム・スルファメトキサゾール、スルホンアミドクリソイジン、デメクロサイクロン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリンおよびテトラサイクリンが含まれる。
【0047】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症を有する対象を治療する、または対象における黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症が発現するリスクを減少させる方法
さらに、SA感染症(MRSA感染症、SA菌血症、SA皮膚感染症、SA乳腺炎、SA蜂巣炎もしくは毛包炎、またはSA関連性創感染症、膿瘍、骨髄炎、心内膜炎、肺炎、敗血症性ショック、食中毒、毒性ショック症候群)を有する対象を治療する方法において、それを必要とする対象(例えば、人間または他の哺乳動物、例えばウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ブタまたは鳥類)に治療有効量の本明細書に提供した医薬組成物の何れかの少なくとも1つまたは本明細書に提供したAbまたはその抗原結合フラグメントの何れかの少なくとも1つを投与するステップを含む方法が提供される。一部の例では、対象は、SA感染症(例えば、MRSA感染症)を有すると診断または同定されている。一部の実施形態は、さらに(投与するステップの前に)SA感染症(例えば、MRSAまたはVRSA感染症)を有する対象を診断、同定もしくは選択する、または対象がSA感染症(例えば、MRSAまたはVRSA感染症)を有すると診断、同定または選択するステップを含むことができる。一部の例では、SA感染症は、院内感染症である。一部の例では、対象は、以前に抗菌治療を用いて治療されており、以前の治療は不成功であった。
【0048】
さらに、対象がSA感染症(例えば、MRSA感染症)を発現するリスクを減少させる方法において、その対象に有効量の本明細書に提供した医薬組成物の何れかの少なくとも1つまたは本明細書に提供したAbまたはその抗原結合フラグメントの何れかの少なくとも1つを投与するステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、SA感染症は、院内感染症である。一部の実施形態は、投与するステップの前に、さらに対象がSA感染症(例えば、MRSA感染症)を発現する増加したリスクを有すると選択または同定するステップを含む。例えば、対象は、医療従事者(例えば、医師、看護師、検査室技師または医師の助手)(例えば、SA感染症(例えば、MRSA感染症)を有する対象と物理的に接触する医療従事者)である可能性がある。これらの方法における対象は、さらにSA感染症(例えば、MRSA感染症)を有する少なくとも1人の他の対象を含む(受け入れている)入院治療(hospital treatment)または入院治療(inpatient treatment)(例えば、ナーシングホーム)に受け入れられた対象であってよい。対象は、入院患者、例えば集中治療室内の患者、免疫不全患者および外科手技を受けている、または外科手技を今後受けるであろう患者であってよい。
【0049】
本明細書に提供した方法の何れにおいても、対象は男性または女性であってよい。例えば、対象は、乳児、幼児、青少年、ティーンエージャーまたは成人(例えば、少なくとも18歳、少なくとも20歳、少なくとも25歳、少なくとも30歳、少なくとも35歳、少なくとも40歳、少なくとも45歳、少なくとも50歳、少なくとも55歳、少なくとも60歳、少なくとも65歳、少なくとも70歳、少なくとも75歳、少なくとも80歳、少なくとも85歳、少なくとも90歳、少なくとも95歳または少なくとも100歳)であってよい。一部の例では、対象は、機能が抑制または低下した免疫系(例えば、体液性または細胞性免疫系)を有する。
【0050】
一部の例では、本明細書に提供した少なくとも1つの医薬組成物または本明細書に提供した少なくとも1つのAbまたは抗原結合フラグメントは、静脈内、動脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内または経口投与される。例えば、SA感染症を発現するリスクを減少させる方法では、対象には、本明細書に提供した医薬組成物の少なくとも1つまたは本明細書に提供したAbまたはその抗原結合フラグメントの少なくとも1つが、SA感染症(例えば、MRSA感染症)が同定された、診断された、SA感染症(例えば、MRSA感染症)を有する、または有することが疑われる対象と物理的に接触する前に、または接触した直後に投与される。
【0051】
本明細書に記載した方法の何れかでは、対象には、少なくとも1(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10)回量の本明細書に提供した医薬組成物の少なくとも1つまたは本明細書に提供したAbまたは抗原結合フラグメントの何れかの少なくとも1(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10)回量が投与される。対象には、2回量以上の本明細書に提供した医薬組成物の何れかまたはAbまたは抗原結合フラグメントの何れかの少なくとも2回量を毎月少なくとも1回(例えば、毎月少なくとも2回、毎月少なくとも3回、毎月少なくとも4回、少なくとも週1回、少なくとも週2回、少なくとも週3回、少なくとも週4回、少なくとも週5回、少なくとも1日1回、少なくとも1日2回または少なくとも1日3回)の頻度で投与することができる。
【0052】
一部の実施形態は、さらに対象に本明細書に記載したAbおよび1種以上の追加の抗菌剤を共投与するステップを含んでいる。そのような抗菌剤の非限定的な例には、リネゾリド、エリスロマイシン、ムピロシン、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム、シラスタチン、メロペネム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン(cefalotin)、セファロチン(cefalothin)、セファレキシン、セフラコール、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフタロリン・フォサミル、セフトビプロール、テイコプラニン、バンコマイシン、テレバンシン、クリンダマイシン、リンコマイシン、ダプトマイシン、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、ペニシリンG、テモシリン、チカルシリン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、マフェニド、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファジメトキシン、スファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフイソキサゾール、トリメトプリム・スルファメトキサゾール、スルホンアミドクリソイジン、デメクロサイクロン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリンおよびテトラサイクリンが含まれる。本明細書に提供した医薬組成物の何れかに含めることのできる治療薬の追加の例は、米国特許出願公開第2011/0059085号明細書に記載された1つ以上のAbである。
【0053】
キット
本明細書では、さらに本明細書に提供したAbまたは抗原結合フラグメントの何れかの少なくとも1つ(例えば、2つ、3つ、4つまたは5つ)を含有するキットが提供される。一部の例では、キットは、配列番号1を含むか、または配列番号1からなる組換えSpAまたはペプチドまたは配列番号1の抗原フラグメント(例えば、配列番号1の少なくとも7個の(例えば、配列番号1のアミノ酸1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13位から始まる)隣接アミノ酸))を含有することができる。一部の例では、少なくとも1つのAbまたは抗原結合フラグメントは、1つの固体基質(例えば、ウエル、チップ、フィルム、ビーズまたはクロマトグラフィ樹脂)に付着させられている。そのようなキットは、商業包装および/またはAbおよびそれらの使用方法についての印刷された情報を含むことができる。
【実施例0054】
実施例1.SpAに特異的に結合してそれらのFc領域を介してSpAに結合したヒトIgG免疫グロブリンを置換するヒトAbの生成
SpAエピトープに結合するヒトIgG3 Abを下記に記載するように生成した。SpA内のIgG結合配列およびXr反復配列にわたる5つの合成ペプチドを使用して311人の健常成人志願者の血液中の抗ペプチドAbをスクリーニングした。スクリーニングのために使用したSpA由来の5つの合成ペプチドは、配列番号82、83、84、85および1(各々、ペプチド1、2、3、4および5)と指定した配列を有していた。健常対象の約4%は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用して決定したバックグラウンドに比して、10倍を超えるレベルの抗ペプチドAb(抗SpA)を有していた(以下では、「陽性ドナー」と呼ぶ)。これらの陽性ドナー由来の血漿を入手し、これを使用して米国特許出願公開第2013/0018173号明細書に記載された方法を使用してSpAのIgG結合配列およびXr反復配列にわたるペプチドに特異的に結合する完全ヒトAbを単離した。要約すると、抗原アフィニティクロマトグラフィを使用して関心のあるAbを単離し、さらに質量分析法を使用してde novoシーケンシングした。同時に、ヒトアイソタイピングキットを使用してAbをアイソタイピングした。
【0055】
単離Abの1つはVH3サブファミリー内にあり、IgG2重鎖およびVKl軽鎖を有すると同定された。B細胞はSTEMCELL Technologies,Inc.から入手したキットを使用してドナー血液から単離した。それらのRNAは、Trizol抽出プロトコルを使用して抽出し、cDNAは、SuperScript IIIを使用して生成した。リーダー特異的プライマーを使用してAbの対応する重鎖および軽鎖を増幅させ、「定方向」ScFvライブラリを生成した。ライブラリは、7ラウンドにわたり野生型SpA抗原に対してパンニングされた。クローンは野生型SpAを備える直接およびサンドイッチELISAを使用してスクリーニングした。選択されたクローンをシーケンシングし、重鎖および軽鎖はIgG3定常(Fc)領域(Fab領域内のSpA認識部位が欠如する領域)を備えるベクター内にクローニングした。ベクターをCHO細胞系内にトランスフェクトし、高産生性クローンを選別した。精製Abを高SpA活性について試験した。クローンを大規模生産のために拡大し、産生したAbを精製してその後の分析のために使用した。そのような8つのAbの例を以下に記載する。
PA8-G3 Ab
配列番号5の重鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号2、3および4の重鎖CDR1、2および3。
配列番号6の重鎖。
配列番号10の軽鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号7、8および9の軽鎖CDR1、2および3。
配列番号11の軽鎖。
PA4-G3 Ab
配列番号15の重鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号12、13および14の重鎖CDR1、2および3。
配列番号16の重鎖。
配列番号20の軽鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号17、18および19の軽鎖CDR1、2および3。
配列番号21の軽鎖。
PA7.2-G3 Ab
配列番号25の重鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号22、23および24の重鎖CDR1、2および3。
配列番号26の重鎖。
配列番号30の軽鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号27、28および29の軽鎖CDR1、2および3。
配列番号31の軽鎖。
PA15-G3 Ab
配列番号35の重鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号32、33および34の重鎖CDR1、2および3。
配列番号36の重鎖。
配列番号40の軽鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号37、38および39の軽鎖CDR1、2および3。
配列番号41の軽鎖。
PA21-G3 Ab
配列番号45の重鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号42、43および44の重鎖CDR1、2および3。
配列番号46の重鎖。
配列番号50の軽鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号47、48および49の軽鎖CDR1、2および3。
配列番号51の軽鎖。
PA27-G3 Ab
配列番号55の重鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号52、53および54の重鎖CDR1、2および3。
配列番号56の重鎖。
配列番号60の軽鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号57、58および59の軽鎖CDR1、2および3。
配列番号61の軽鎖。
PA32-G3 Ab
配列番号65の重鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号62、63および64の重鎖CDR1、2および3。
配列番号66の重鎖。
配列番号70の軽鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号67、68および69の軽鎖CDR1、2および3。
配列番号71の軽鎖。
PA37-G3 Ab
配列番号75の重鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号72、73および74の重鎖CDR1、2および3。
配列番号76の重鎖。
配列番号80の軽鎖可変ドメイン。
それぞれ配列番号77、78および79の軽鎖CDR1、2および3。
配列番号81の軽鎖。
【0056】
PA8-G3 AbがSAの細胞壁上のSpAに結合できるかどうかを決定するために実験セットを実施した。これらの実験では、SAは、ATCC#25923を染色する、または臨床分離体00Xは、(i)SA表面上に結合したビオチン-PA-G3の量を蛍光定量するためにビオチン化PA8-G3、次にストレプトアビジン-APC(
図2)とともに、または(ii)貪食作用をもたらすであろうSA表面に結合したPA8-G3の量を蛍光定量するために精製未標識PA8-G3 Ab、その後にビオチン化組換えFcγ受容体1、および次にストレプトアビジン-APC(
図3)の何れかとともにインキュベートした。抗インターロイキン-1a Ab(MABp1)をこれらの実験における陰性コントロールとして使用した。
図2に記載のデータは、PA8-G3がSAの細胞壁内のSpAに結合することを示しており、
図3に記載のデータは、結合PA8-G3 AbがFcRと相互作用するために利用可能なそのFc領域を有することを示しており、これはAbが(SpAに結合しており、FcRに係合することができず、細菌のオプシノファゴサイトーシス(opsinophagocytosis)を媒介できないFc領域を有するのとは対照的に)ヒト対象におけるSAのオプシノファゴサイトーシス(opsinophagocytosis)を媒介できることを示唆している。
【0057】
SAの表面へのPA8-G3 Abへの結合が食細胞上のFcγ受容体によって認識されるかどうかを試験するためにまた別の実験セットを実施した。これらの実験では、pH-ロードグリーン標識黄色ブドウ球菌(S.aureus)(臨床単離体00XまたはATCC#25923)の2種の異なる菌株を未標識PA8-G3 AbまたはコントロールAb(MABp1)の何れかとともにインキュベートし、次に分化HL-60細胞とともにインキュベートした。結果として生じたHL-60細胞の蛍光は、蛍光支援細胞選別法(FACS)を使用して決定した。データは、PA8-G3が両方のSA菌株の細胞壁に結合し、HL-60細胞の表面上のFcγ受容体を通して貪食作用を媒介することを示している(
図4)。PA8-G3に結合した黄色ブドウ球菌(S.aureus)の分化HL-60細胞による良好な結果が得られる貪食作用は、蛍光顕微鏡実験からも明白であった。
【0058】
表面プラズモン共鳴を使用してPA8-G3のSpAへの結合キネティクスを決定した。これらの実験では、PA8-G3 Abは、抗ヒト捕捉センサーおよび商業的野生型SpAを使用して固定化した。これらのデータは、PA8-G3が5.38pMのKDを有することを示している。この親和性は、ヒト血清IgG1、IgG2およびIgG4のSpAへのナノモル親和性のおよそ1,000倍高い。
【0059】
PA8-G3 AbがSpAへの結合についてそれらのFc受容体を通してSpAに結合したヒトIgGと上首尾で競合できるかどうかを決定するために、追加の実験セットを実施した。これらの実験では、2種の異なる黄色ブドウ球菌(S.aureus)菌株をヒト血清(それらのFc領域を介してSpAに結合する高濃度のIgを含有する)とともに15分間インキュベートし、その後にビオチン化PA8-G3 Abまたはビオチン化MABp1-IgG3 Ab(アイソタイプを適応させた陰性コントロール)とともにインキュベートし、次にストレプトアビジン-APCを用いて処理し、次にフローサイトメトリーによって蛍光を決定した。データは、PA8-G3 AbがそれらのFc領域によってSpAに結合したヒトIgG Abを有するSpAに結合できたことを示している(
図5)。
【0060】
また別の実験セットでは、PA8-G3抗体は、SpA被覆ビーズ上のMABp1-IgG1(そのFc領域を介してSpAに結合する)結合と競合することが証明された。SpAビーズとPA8-G3とのプレインキュベーションは、後に加えられたMABp1-IgG1結合を80.3%減少させた。これとは逆に、MABp1-IgG1とともにプレインキュベートしたSpAビーズを用いると、後に加えられたPA8-G3は15分間以内にSpAビーズ表面の30%超に結合したが、他方後に加えられたMABp1-IgG3(MABp1のFabおよびヒトIgG3 Fcを有するアイソタイプを適応させた陰性コントロール)は、MABp1-IgG1とともにプレインキュベートされたSpAビーズに有意には結合しなかった。
【0061】
追加の抗SpA Abが分化HL-60細胞によりSAの貪食作用を促進する能力を試験するために、追加の実験セットを実施した。これらの実験では、分化HL-60細胞をpH-ロードグリーン標識黄色ブドウ球菌(S.aureus)および次のAb:PA7.2-G3、PA4-G3、PA8-G3、PA15-G3、PA21-G3、PA27-G3、PA32-G3、PA37-G3またはMABp1のうちの1つとコインキュベートした。MABp1は、これらの実験において陰性コントロールとして使用した。データは、試験した抗SpA Abの全部が分化HL-60細胞による黄色ブドウ球菌(S.aureus)のオプシニゼーションおよび貪食作用を促進できたことを証明している(
図6)。
【0062】
7つの追加の抗SpA AbのKDを決定するために、追加のバイオレイヤー干渉分光法(ForteBio Octet Red 96機器)実験を実施した(20nM抗原を使用して実施した)。結果として生じたデータは、PA7.2-G3が1×10-12M未満のKDを有し、PA4-G3が5.38×10-12MのKDを有し、PA15-G3が1×10-12M未満のKDを有し、PA21-G3が1×10-12M未満のKDを有し、PA27-G3が1×10-12M未満のKDを有し、PA32-G3が1×10-12M未満のKDを有し、およびPA37-G3が1×10-12M未満のKDを有することを示した。
【0063】
これらをまとめると、データは、本明細書に提供したAbが極めて高親和性でSAの細胞壁内のSpAに結合して免疫細胞による貪食作用を促進することができること、およびそれらのFc領域によりSpAに結合したヒトIgGの存在下においても同様に実施できることを証明している。
【0064】
マウス菌血症/敗血症モデルにおけるモノクローナル抗体PA8のIn Vivo生存試験。黄色ブドウ球菌(S.aureus)菌血症からのマウスの生存率は、予防用量のPA8(実施例1において記載したPA8-G3と称したモノクローナル抗体)を使用して試験した。
【0065】
雌性Balb/Cマウス(6~8週齢)は、Charles River Laboratory,NIH,Marylandから購入した。到着後、マウスを試験し、吸収性敷きわらを備えるケージ中にグループ収容(10匹/ケージ)した。全マウスは、実験動物の管理と使用に関するNIHガイドライン(NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に見いだされる必要な飼育基準下に置いた。
【0066】
PA8の保護効果は、2×107個のCFUのMRSA菌株NR-46223の静脈内注射(i.v.)によって誘導されたSA敗血症モデルにおいて調査した。マウスは、第0日および第3日各々にMRSA感染症の3時間前に特定用量(5mgまたは10mg)または5mgの2回量でPA8を用いて静脈内処置した。コントロールマウスは、調製用バッファー単独を用いて処置した。マウスは、残っているマウス全部を犠死させた時点から10日間(1日2回)追跡した。
【0067】
PA8/調製用バッファー(0.1mL)の静脈内投与の3時間後、マウスには黄色ブドウ球菌(S.aureus)菌株NR-46223(0.1mL中の2×10
7個のCFU)の単回静脈内(IV)注射によりチャレンジ投与した。1組のマウスに第0日および3日各々に5mgの2回量を与えた。処置群間の相対生残期間において有意差が検出された。
図7A~Dを参照すると、mAb PA8の5mg(A)または10mg(B)の単回投与、または第0日および3日での5mgの2回量の受動的投与(静脈内)は、(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)菌株NR-46223の2×10
7個のコロニー形成単位の静脈内注射によって誘導した)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)敗血症を備えるBALB/cマウスの生残率を用量依存性方法(1群当たり10匹のマウス)で調製用バッファー処置より有意に高く強化する。セクション(D)は、1枚のグラフにおいて全部の相違する処置を使用した生残率を示している。調製用バッファー(1/10)を摂取したマウスの10%(1/10)が黄色ブドウ球菌(S.aureus)NR-46223による細菌チャレンジ投与を生残したことに比較して、5mgのMab PA8(p=0.016)を摂取したマウスの50%(5/10)が生残し、各々5mgの2回量を摂取した60%(p=0.09)および、10mgのmAb PA8(p=0.003)を摂取した70%(7/10)が生存した。動物実験データの統計的分析は、マンテル・コックス(Mantel-Cox)(ログランク)検定を用いるカプラン・マイヤー生存分析を使用して実施した。これらの結果は、明らかに、PA8が黄色ブドウ球菌(S.aureus)MRSA菌株による致死性感染症に対して有意なレベルの防護を提供することを示している。
【0068】
実施例3.チャールス・リバー(Charles River)研究所からの雌性Balb/Cマウス(1群当たり10匹)に腹腔内経路を介して0.5mgのバンコマイシンを異なる準最適量のPA8-G3(静脈内経路による0mg、2.5mgおよび5mg)とともにMRSA(3×10
7個のCFU(i.v.)でNR 46223)による感染の2時間前に注射した。マウスを14日間観察した。
図8A~Cを参照すると、第14日にPBS処置マウスの10%のみが生残したが、バンコマイシン処置マウスの30%が生残した。しかし、2.5mgのPA8-G3がバンコマイシン処置と一緒に注射された場合は、60%の動物が生残し(p=0.027)、5mgのPA8-G3がバンコマイシンとともに注射された場合は、60%の動物が生残し、それらの死亡したマウスは低用量群よりも長期間生存した(p=0.016)。このデータは、低有効量のPA8-G3は、準最適用量のバンコマイシンを用いて共処置した場合に、SA媒介性菌血症から動物を救済できることを示している。動物実験データの統計的分析は、マンテル・コックス(Mantel-Cox)(ログランク)検定を用いるカプラン・マイヤー生存分析を使用して実施した。
【0069】
その他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて記載してきたが、上記の説明は具体的に説明するためのものであり、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定することは意図していない。他の態様、利点および修飾形態は、以下の特許請求の範囲に含まれる。
対象における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症を治療する、または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症を発現するリスクを減少させるための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
医薬上許容される担体と、Fab領域パラトープを介して1×10-10M未満のKDで黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)タンパク質A(SpA)に特異的に結合する精製モノクローナル抗体とを含み、
前記モノクローナル抗体が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細菌上のSpAにそれらのFc領域を介して結合したヒトIgG免疫グロブリンを置換することができることを特徴とする、医薬組成物。