(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011991
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】脱炭酸システム、ハイドロゲルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240118BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240118BHJP
C12N 11/04 20060101ALI20240118BHJP
B01J 20/24 20060101ALI20240118BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240118BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C12N1/12 C
C12N1/00 R
C12N11/04
B01J20/24 B
B01J20/28 A
B01J20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114386
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】507256968
【氏名又は名称】並木 禎尚
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】並木 禎尚
【テーマコード(参考)】
4B033
4B065
4G066
【Fターム(参考)】
4B033NA11
4B033NB43
4B033NB61
4B033NB68
4B033NC01
4B033ND04
4B033ND20
4B033NG04
4B033NH10
4B033NJ10
4B065AA83X
4B065AC09
4B065AC14
4B065BC46
4B065BC48
4B065BC50
4B065CA02
4B065CA56
4G066AA02D
4G066AC01C
4G066AC06B
4G066AE20D
4G066BA28
4G066CA12
4G066CA46
4G066DA07
4G066FA03
4G066FA27
4G066FA36
4G066FA38
4G066FA40
(57)【要約】
【課題】ゲルの腐蝕を抑えつつ、ゲル内に微細藻類を内包させても光合成を効率よく行うことができるハイドロゲルを提供する。
【解決手段】微細藻類を含有し、アルカリ性を示すハイドロゲルであって、当該ハイドロゲル内で前記微細藻類が細胞分裂して形成されたコロニーが内包されている。ハイドロゲルには、蓄光物質、磁性物質が内包されていてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類を含有し、アルカリ性を示すハイドロゲルであって、
当該ハイドロゲル内で前記微細藻類が細胞分裂して形成されたコロニーが内包されているハイドロゲル。
【請求項2】
更に、蓄光物質および磁性物質の少なくとも一方を有する請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
水面に浮くように、気泡を内包させた請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
前記ハイドロゲルは、グルコマンナンおよび/又は蒟蒻粉を含む請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
前記ハイドロゲルは、有害物質を吸着する請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか記載のハイドロゲルと、
前記ハイドロゲルを浮遊または分散させる、水系媒体とを含み、
前記ハイドロゲルに含まれる微細藻類に光を照射して光合成をさせ、酸素を産生すると共に、炭素化合物を合成する脱炭酸システム。
【請求項7】
光照射により、微細藻類が光合成を行なうハイドロゲルの製造方法であって、
前記微細藻類、ゲル成分および水系媒体を混合する工程Aと、
前記工程Aの後、ゲル化する工程Bと、
前記微細藻類の培養成分をゲル内に取り込む工程Cと、
前記ゲルをアルカリ性とする工程Dとを有し、
工程C、Dは、それぞれ独立に、工程A、工程Bの少なくともいずれか、および/又は工程B後に行うハイドロゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微細藻類を用いた脱炭酸システム、光合成を行うハイドロゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化を防止するために、CO2を削減するための脱炭酸システムの技術開発が急務となっている。CO2回収技術として、特許文献1には、大気中の空気から化学反応によりCO2を吸収する吸収部と、気体のCO2を化学反応により取り出す処理部を備えるCO2回収システムが提案されている。また、特許文献2には、電気化学反応によってCO2含有ガスからCO2を分離するCO2回収システムが提案されている。
【0003】
二酸化炭素は、植物による光合成によって酸素と炭素に分解される。大気中の酸素全体の凡そ半分は、光合成を行うことができる微細藻類により産生されている。この微細藻類は、光合成により、糖、脂質、タンパク質などの有機物を産生する。微細藻類を用いた二酸化炭素の固定・有機物の産生は、地球温暖化、食料飢饉対策の一つとして期待されている。非特許文献1には、微細藻類であるChlamydomonasdebaryanaNIES-2212をアルギン酸ゲルに内包させ、ゲル内において増殖すると共に、トリアシルグリセロール(TAG)が産生されることが報告されている。非特許文献1の方法によれば、二酸化炭素の分解、脂質の産生が可能であり、脱炭酸技術、食料生産の点で期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-181451号公報
【特許文献2】特開2022-072977号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Plant Cell Physiol. 61(1): 158-168 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゲルを用いた微細藻類による脱炭酸技術は、微細藻類単体を用いる場合に比べて、回収が容易であり、管理しやすいというメリットを有する。その一方で、ゲル自体が腐蝕するという新たな問題がある。また、ゲルに微細藻類を内包させても光合成を効率よく行うことができる技術が重要となる。
【0007】
本開示は上記背景に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、ゲルの腐蝕を抑えつつ、ゲル内に微細藻類を内包させても光合成を効率よく行うことができるハイドロゲルおよびその製造方法、並びにこのハイドロゲルを用いた脱炭酸システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の課題を解決すべく鋭意検討を重ね、以下の態様において、本開示の課題を解決し得ることを見出し、本開示を完成するに至った。
[1]: 微細藻類を含有し、アルカリ性を示すハイドロゲルであって、
当該ハイドロゲル内で前記微細藻類が細胞分裂して形成されたコロニーが内包されているハイドロゲル。
[2]: 更に、蓄光物質および磁性物質の少なくとも一方を有する[1]に記載のハイドロゲル。
[3]: 水面に浮くように、気泡を内包させた[1]または[2]に記載のハイドロゲル。
[4]: 前記ハイドロゲルは、グルコマンナンおよび/又は蒟蒻粉を含む[1]~[3]のいずれかに記載のハイドロゲル。
[5]: 前記ハイドロゲルは、有害物質を吸着する[1]に記載のハイドロゲル。
[6]: [1]~[5]のいずれか記載のハイドロゲルと、
前記ハイドロゲルを浮遊または分散させる、水系媒体とを含み、
前記ハイドロゲルに含まれる微細藻類に光を照射して光合成をさせ、酸素を産生すると共に、炭素化合物を合成する脱炭酸システム。
[7]: 光照射により、微細藻類が光合成を行なうハイドロゲルの製造方法であって、
前記微細藻類、ゲル成分および水系媒体を混合する工程Aと、
前記工程Aの後、ゲル化する工程Bと、
前記微細藻類の培養成分をゲル内に取り込む工程Cと、
前記ゲルをアルカリ性とする工程Dとを有し、
工程C、Dは、それぞれ独立に、工程A、工程Bの少なくともいずれか、および/又は工程B後に行うハイドロゲルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ゲルの腐蝕を抑えつつ、ゲル内に微細藻類を内包させても光合成を効率よく行うことができるハイドロゲルおよびその製造方法、並びにこのハイドロゲルを用いた脱炭酸システムを提供できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る。ハイドロゲルの一例を示す模式的説明図。
【
図2】第1実施形態に係る混合撹拌装置の一例を示す模式的説明図。
【
図8】実施例5のハイドロゲル:暗室下、CO
2濃度の経時的変化を示すグラフ。
【
図9】実施例5のハイドロゲル:光照射下、CO
2濃度の経時的変化を示すグラフ。
【
図10】実施例6、7のハイドロゲル:光照射前後の溶存酸素量をプロットしたグラフ。
【
図12】実施例8のハイドロゲル、比較例1のCO
2濃度の経時的変化を示すグラフ。
【
図13】実施例1のハイドロゲルに対し、LED光源3000ルクスを1日8時間の割合で7日間照射した後の写真。
【
図14】実施例10のハイドロゲル:暗室下、CO
2濃度の経時的変化を示すグラフ。
【
図15】実施例10のハイドロゲル:光照射下、CO
2濃度の経時的変化を示すグラフ。
【
図17】実施例10のハイドロゲルを30時間撹拌した後の写真。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本開示の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本開示の範疇に含まれることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは一致しない。各実施形態は任意に組み合わせてもよい。
【0012】
[第1実施形態]
第1実施形態に係るハイドロゲルは、微細藻類を含有する、アルカリ性を示すゲルである。本ハイドロゲルは、ゲル内の微細藻類が、ハイドロゲル内で細胞分裂し、これによりコロニーが形成される。即ち、ハイドロゲルを作製後、経時的に、微細藻類がハイドロゲル内で細胞分裂してコロニーを形成する。本明細書において「微細藻類」とは、光合成を実行できる、葉緑体を含む原核性微生物もしくは真核性微生物を意味する。
【0013】
微細藻類はクラミドモナスおよび例えば2つの明瞭な細胞の単純性多細胞光合成微小生命体であるボルボックス等の微小生命体等、細胞分裂の後、ほどなく姉妹細胞から分離する単細胞生物を含む。「微細藻類」にはクロレラ、パラクロレラおよびドナリエラも含まれる。本明細書において「コロニー」とは、ハイドロゲル内で形成された細胞集団をいう。微細藻類が細胞分裂し、増殖することにより細胞数が増加してコロニーが形成される。また、コロニーは、ゲル形成直後には観測できないが、時間経過共に、例えば数日後に、顕微鏡または目視で確認することができる。また、光合成により発生した酸素による気泡を顕微鏡または目視で確認することができる。
【0014】
微細藻類の好適例として、スピルリナ(Spirulina、以下SPLともいう)、クロレラ、ユーグレナが例示できる。SPLとして、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)などを用いることができるが、スピルリナ・プラテンシスが例示できる。SPLとは、微細藻類の一種であり、藍藻類のユレモ目アルスロスピラ属に属する。SPLは、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの有用成分が含まれており、栄養補助食品として用いられている。また、青色食品着色料、臨床検査試薬としても用いられている。
【0015】
本ハイドロゲルは、ハイドロゲル内において微細藻類が生存している時期が少なくともあるゲルをいう。即ち、(i)ハイドロゲル内において微細藻類が生存しているゲル、(ii)ハイドロゲル内において微細藻類が生存していた時期があり、生存していた時に形成されたコロニーを有する、死滅した微細藻類を含むゲル、および(iii)前記(i)と(ii)が共存しているゲルを含む。
【0016】
本ハイドロゲルにおいて、微細藻類が光合成により酸素を産生するためには、ハイドロゲル内の微細藻類が生存している必要がある。上記(i)のハイドロゲルは、ゲル内で微細藻類が生命活動を維持することが可能なゲルであり、生命活動している微細藻類に光照射することにより光合成が行われ、酸素を産生すると共に、有機化合物を合成する。炭素化合物は、炭素を含む有機化合物であり、タンパク質、脂質、糖などの炭水化物等が例示できる。
【0017】
光量・照射波長等は、光合成を行うことができればよく、ゲルの置かれた環境に応じて調整すればよい。例えば、光量を500~10000ルクスとすることができる。照射方法は、連続照射、断続照射、明暗サイクルを交互に行う(例えば12時間毎)方法が例示できる。温度は例えば15~45℃とすることができる。
【0018】
図1に、ハイドロゲルの一例を示す模式的説明図を示す。第1実施形態のハイドロゲル1はビーズ状のゲルであり、三次元網目構造2内に、微細藻類3、培養成分4および水5を含有する。なお、同図には説明の便宜上、コロニーは図示していない。三次元網目構造2は、ハイドロゲル1の骨格を成すものであり、公知の技術を制限無く利用できる。例えば、架橋構造を有する高分子鎖を用いることができる。ハイドロゲル1の主たる成分は水である。ハイドロゲル1の形状は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲であればよく任意である。ハイドロゲルの主溶媒は水であるが、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で他の溶媒を含むことができる。なお、培養成分4は、微細藻類3が生存中は必須であるが、上記(ii)のハイドロゲルの場合には含まれていなくてもよい。上記(i)および(iii)のハイドロゲルは培養成分4が必要である。ハイドロゲル内への培養成分の取り込み方法としては、ハイドロゲルの製造時に原料として用いる方法、ハイドロゲルを浮遊および/又は分散させる水系媒体中に培養成分を含有させ、ハイドロゲル内に供給する方法、およびこれらを組み合わせる方法が例示できる。
【0019】
三次元網目構造2は特に限定されず、適宜、選定できる。一例として、蒟蒻(蒟蒻粉)、グルコマンナン、ガラクトマンナン、寒天、ゼラチン、アガロース、カラギナン、グアーガム、キサンタンガム、グアー豆酵素分解物、ローカストビーンガム、トリブロックコポリマー、環動ゲル、ナノコンポジットゲル、ダブルネットワークゲル、ポリアンフォライトゲル、卵白を用いたタンパク質ゲルが例示できる。また、特開2017-171617号公報や、T. Nojima、T. Iyoda、“Water-Rich Fluid Material Containing Orderly Condensed Proteins”、Angewandte Chemie 56、1308-1312、(2017)等に記載のゲルを利用することも可能である。
【0020】
また、国際公開2016/027383号に記載のポリアンフォライトゲル、K. Haraguchi、et al.、”A Unique Organic-Inorganic Network Structure with Extraordinary Mechanical, Optical, and Swelling/De-swelling Properties”, Adv. Mater. 14, 1120-1124 (2002)に記載のナノコンポジェットゲル、Y. Okumura, et al., “The Polyrotaxane Gel: A Topological Gel by Figure-of-Eight Cross-links”, Adv. Mater. 13, 485-487 (2001)に開示の環動ゲル、J. P. Gong、et al., “Double-Network Hydrogels with Extremely High Mechanical Strength”, Adv. Mater. 15, 1155-1158 (2003)のダブルネットワークゲル、H. J. Zhang、et al., “Tough Physical Double-Network Hydrogels Based on Amphiphilic Triblock Copolymers”, Y. Adv. Mater. 28, 4884-4890 (2016)のトリブロックコポリマーを用いたダブルネットワークゲル、T. Sakai, et al, “Design and Fabrication of a High-Strength Hydrogel with Ideally Homogeneous Network Structure from Tetrahedron-like Macromonomers”, U.I.Chang. Macromolecules, 41, 5379-5384 (2008)のテトラPEGゲル等を用いることができる。
【0021】
ハイドロゲルの機械的強度を高める観点からは、ダブルネットワークゲルが好ましい。ダブルネットワークゲルは、2種の違う要素を組み合わせて形成されたゲルである。例えば、ベースとなる網目構造に他の高分子鎖が絡みついている、複数の網目構造からなる構造や、ベースとなる網目構造と、他の高分子鎖が互いに架橋している構造が挙げられる。3種以上の違う要素を組み合わせて形成されたゲルも好適に用いられる。
【0022】
複数の高分子鎖を用いる場合、それぞれの高分子鎖が網目構造である必要は無く、全体として網目構造が構築されていればよい。
【0023】
経済性の観点からは、ゲル成分として安価な蒟蒻、グルコマンナン、寒天、ゼラチン、カラギナン、ローカストビーンガム、キサンタンガムなど、もしくはこれらの混合物の使用が好ましい。これらのうちでもグルコマンナンや蒟蒻がより好ましい。グルコマンナンは、腸で消化されない水溶性食物繊維(複合多糖類)であり、蒟蒻芋から精製されるものである。これを水または温水に溶解し、アルカリを加え、加熱すると、食物繊維が不溶性食物繊維に変化することにより凝固する。これが食用の蒟蒻であり、その約97%が水分である。グルコマンナンは、水を吸収し、30分で約10倍、6時間で約150倍程度に膨張する。この性質を利用して、ゲル化剤、品質改良剤、増粘剤、保湿剤、吸収剤などとして、広い分野で利用されている。
【0024】
本ハイドロゲルは微細藻類が死滅しない温度においてゲルを作製する必要がある。例えば、グルコマンナンのゲルは、通常80℃以上でゲル化する工程を含むが、このような温度にすると微細藻類が死滅してしまう。このため、グルコマンナンを用いてハイドロゲルを作製する場合には、例えば、80℃以上の温度でゲル化させる場合よりもグルコマンナン粉の量を1.5~8倍とし、且つ温度を20~45℃としてゲル化工程を行う。その結果、生存した微細藻類を内包したハイドロゲルを得ることができる。
【0025】
本発明者が検討を重ねた結果、ゲル成分として、例えば、アルギン酸カルシウムを用いる場合に比べて、グルコマンナンは弾力性に優れることがわかった。また、グルコマンナンは、せん断に対して崩れにくい特性を有しており、撹拌などの外力に対する耐性をより効果的に高められることがわかった。
【0026】
蒟蒻は、保存可能期間を延ばす観点から、化学的にシュウ酸やシュウ酸カルシウム、不快な臭気(蒟蒻臭)の原因となるアミン類などの成分などを除去した無臭蒟蒻、もしくは蒟蒻から精製した蒟蒻マンナンを原料とすることがより好ましい。蒟蒻マンナンの精製は、例えば、小笠原至玄、他2名、“コンニャクマンナンを支持体とする電気泳動法の試み”、生物物理化学、Vol.31、No.3、1987(第155-158)を参照することができる。
【0027】
培養成分4としては、公知の培養液の成分を用いることができる。培養成分は、用いる微細藻類に応じて適宜選択すればよい。SPLの場合には、例えば、SOT培養液(J.Ferment.Technol.、48、361-367、1970)、Zarroukの培地(Soong、 P. ; "Production and Development of Chlorella and Spirulina in Taiwan"、 Algae Biomass Production and Use、 North Holland Biomedical Press、 pp. 97-113 (1980))(https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakoronbunshu1975/22/1/22_1_56/_pdf/-char/ja)が例示できる。SOT培養液とは、蒸留水100ml当たり、NaHCO3が1.68g K2HPO4が50 mg、NaNO3が250 mg、K2SO4が100mg、NaClが100mg、MgSO4・7H2Oが20mg、CaCl2・2H2Oが4mg、FeSO4・7H2Oが1mg、Na2EDTAが8mg、A5溶液が0.1mL配合されている培養液をいう。また、前記A5溶液は、蒸留水100mL当たり、H3BO3が286mg、MnSO4・7H2Oが250mg、ZnSO4・7H2Oが22.2mg、CuSO4・5H2Oが7.9mg、Na2MoO4・2H2Oが2.1mgが配合されている溶液である。
【0028】
ハイドロゲルのサイズは目的に応じて選定できる。光合成を効率的に行う観点から、水面に浮遊できるサイズが好ましい。
【0029】
第1実施形態のハイドロゲル1の製造方法は、少なくとも微細藻類3、ゲル成分および水系媒体を混合する工程Aと、工程Aの後、ゲル化する工程Bと、微細藻類の培養成分をゲル内に取り込む工程Cと、ゲルをアルカリ性とする工程Dとを有する。工程C、Dは、それぞれ独立に、工程A、工程Bの少なくともいずれか、および/又は工程B後に行うことができる。即ち、工程Cは、工程Aと同時、工程Bと同時、或いは工程Bの後のいずれか、または任意の組合せで行うことができる。工程Dも同様である。
【0030】
ハイドロゲルの製造に際して微細藻類が生存できる環境で行うことが重要である。温度の上限は50℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることが更に好ましい。ゲル化の下限温度は0℃越えの温度である。
【0031】
工程Aは、ハイドロゲルの構成成分を混合する工程である。例えば、微細藻類を含む培養液に、ゲル成分を投入して混合する。効率よく混合できればよく、公知の方法を用いることができる。
ゲル成分としてグルコマンナンを用いる場合には、熱水工程を用いる場合よりもグルコマンナン濃度を高めにすることにより容易に作製できる。例えば、グルコマンナン濃度を4~6g/100mLとすることができる。グルコマンナンを用いる場合には、ゲル成分として水酸化ナトリウムを添加しpHを10程度に調整した炭酸水素ナトリウムを加える。水酸化ナトリウムを添加した炭酸水素ナトリウムを加えることにより、食物繊維が不溶性食物繊維に変化して凝固する。なお、アルカリ剤は凝固の目的を達成できればよく、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム等を含め種々の化合物、混合物を用いることができる。
【0032】
工程Bは、ゲル化する工程である。工程A、Bの製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造できる。例えば、
図2に示すような混合撹拌装置により製造できる。
図2の混合撹拌装置100は、第1収容容器101と、第2収容容器102と、反応場であるマイクロ流路103と、図示しない制御装置を主な構成として備えている。第1収容容器101は、注射器型の容積可変体10を電動ステージ11に固定して構成されている。容積可変体10は、円筒状のシリンジ15と、シリンジ15の円筒内部において摺動可能に嵌入されるプランジャ16を有する。容積可変体10において、シリンジ15の円筒内壁と、プランジャ16の先端面において区画される空間の容積は、プランジャ16をシリンジ15に対して移動させることにより変化させることができる。
【0033】
シリンジ15は、電動ステージ11の非可動面にシリンジサポート12、13を介して固定されている。プランジャ16は、電動ステージ11によりプランジャ16の摺動方向に移動可能なプランジャサポート14により支えられている。シリンジ15に、例えば、微細藻類および微細藻類の培養液を投入する。
【0034】
第2収容容器102は、第1収容容器101と同じ構成を有し、注射器型の容積可変体20を電動ステージ21に固定して構成されている。容積可変体20は、円筒状のシリンジ25と、シリンジ25の円筒内部において摺動可能に嵌入されるプランジャ26を有する。シリンジ25は、電動ステージ21の非可動面にシリンジサポート22、23を介して固定されている。プランジャ26は、電動ステージ21によりプランジャ26の摺動方向に移動可能なプランジャサポート24により支えられている。シリンジ25に、例えば、グルコマンナン粉などのゲル成分を投入する。
【0035】
マイクロ流路103は、流体のミキシングを促進させる役割を担う。マイクロ流路103は、第1収容容器101と第2収容容器102のそれぞれと、流体が出入り可能に配管等を介して接続されている。第1収容容器101とマイクロ流路103とを接続する配管には、三方活栓104が設けられている。三方活栓104は、3方向に流体の出入口を有し、所望の2つの出入口だけを開通できる手動弁である。三方活栓104において、第1の出入口は第1収容容器101に接続され、第2の出入口はマイクロ流路103に接続されている。また、三方活栓104の第3の出入口は、流体を流入する流入口として使用される。三方活栓104の開通方向の切り換えは、制御装置による制御可能な駆動機構により実行してもよく、手動により実行してもよい。シリンジ15、25の内容物を、加圧法により混合撹拌することにより、効率的にゲルを作製することができる。
【0036】
次いで、例えば射出することによりゲルを所望の形状とし、必要に応じてpHを調整してフィルターを用いてゲルを取り出すことができる。
【0037】
ハイドロゲルを塊として得、ミキサーなどで解砕してもよい。この場合、解砕条件により、サイズの分布や形状(多角多面体の形状等)を調整することができる。複数の多角多面体が連なる形状や不整形であってもよい。また、糸こんにゃく製造機などを用いて装置の細孔から押し出す方法により製造してもよい。糸状のものを切断して円柱状のハイドロゲルを製造してもよいし、ミキサー等で解砕することにより、形状分布のあるハイドロゲルを得ることもできる。また、アルカリ凝固時に成形して、球型など様々な形状に設計してもよい。更に、シート状のゲルとしてもよい。
【0038】
ハイドロゲルのpHはアルカリ性とする。アルカリ性の度合いは、用いる微細藻類の生存に適した値にすればよい。ハイドロゲルをアルカリ性とすることにより、他の微生物の繁殖・生存・カビの発生を防ぐことができ、ゲルの腐敗を抑制することができる。このため、CO2固定化を、生産性を高めつつ実現できる。また、ハイドロゲル内へのCO2の溶解量・溶解速度を高めることができ、光合成を効率よく行うことができる。SPLの場合には、pH8.5以上、11.0以下が好ましく、8.5~10.5がより好ましい。
【0039】
微細藻類をハイドロゲル内に内包させることにより、微細藻類そのものに比べて取り扱い性を格段に向上させることができる。例えば、微細藻類そのものを回収する場合、微細藻類を濾過できるサイズのフィルターで濾過・回収すると、目詰まりしやすく、メンテナンスに手間がかかるという問題がある。一方、微細藻類をゲル内に内包させることにより、目の粗いフィルターで濾過・回収が可能となり、培養液の交換などのメンテナンスを格段に向上させることができる。また、微細藻類そのものに比べ、微細藻類が水分を大量に含むゲル中に固定されているため、短時間の乾燥にも耐え、取扱いも容易である。
【0040】
第1実施形態に係る脱炭酸システムは、水系媒体に本ハイドロゲルを浮遊、分散または沈殿させる。水系媒体は、本ハイドロゲルの腐蝕を効果的に防ぐ点から、アルカリ性であることが好ましい。特に、微細藻類としてSPLを用いる場合には、SPLの良好な生育、増殖能、光合成能を向上させ、生存期間を延ばすためにアルカリ性水溶液、特に、炭酸水素ナトリウムを含む水溶液とすることが好ましい。水系媒体は、水、培養成分が含まれた水、各種添加剤が含まれた水、培養槽、池の水などが例示できる。各種添加剤は、例えば、防腐剤、溶媒分子、イオン、低分子、抗生物質、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、炭水化物、脂質、脂肪酸、コレステロール、代謝物等の任意の化学分子又は生化学分子である。なお、本ハイドロゲルは、水系媒体で用いることが好ましいが、ゲルが乾燥しないように湿度を高めた(調湿した)ドライ系で用いることを排除するものではない。
【0041】
水系媒体に分散または浮遊させた本ハイドロゲルに、太陽光、LED光、蛍光灯、紫外線ランプ等の光を照射してハイドロゲル内に含まれる微細藻類に光合成を行わせる。微細藻類の光合成により、酸素が産生されると共に、炭素化合物が合成される。光合成を効率的に行うために、水系媒体にCO2とO2を適切な濃度になるようにエアポンプなどで送気することが好ましい。空気を送気する方法の他、上記特許文献1、2などの方法により回収したCO2をO2と共に送気してもよい。本脱炭酸システムは、開放形で行っても、密閉容器内で行ってもよい。
【0042】
本開示のハイドロゲルによれば、ゲルの比重を調整することにより水に浮遊させることができるので水資源を有効活用でき、濁水であっても光の届きやすい水面にゲルを集積させることができる。他の微生物・真菌などによるゲルの腐敗・分解、せん断力による崩壊を防ぐことができるので、場所を選ばず、環境適応性が高いというメリットを有する。本開示のハイドロゲルを大量培養技術、例えば、立体的微細藻類培養(閉鎖形培養法、開放形培養方法)と組み合わせることにより、CO2を効率よく固定化することができる。また、例えば、上記特許文献1、2のCO2回収技術と組み合わせることにより、効率的な脱炭酸システムを実現できる。大規模な培養施設の他、公園の池等で本ハイドロゲルを利用することもできる。微細藻類の種類に応じて、有害物質除去用のハイドロゲルとしても好適に利用できる。例えば、SPLを用いる場合、ホウ素原子、放射性物質、重金属などを吸着する作用があるため、これらを除去するためのハイドロゲルとしても好適に用いることができる。
【0043】
[第2実施形態]
次に、第1実施形態とは異なるハイドロゲルの一例について説明する。
【0044】
第2実施形態に係るハイドロゲルは、ハイドロゲル内に蓄光物質を含有する点を除き、第1実施形態のハイドロゲルと同様である。蓄光物質は、ハイドロゲル内の微細藻類に対して毒性を示す物質でなければよい。蓄光物質とは、光を吸収すると電子が励起状態となり、励起状態の電子は、光が除去された後もすぐに基底状態に下がらず、まず準安定状態に変わってからまた基底状態へと戻りつつ光を放出する物質である。光合成を誘起する光を放出する蓄光物質を用いることにより、遮光された後にも微細藻類の光合成を行うことが可能となる。蓄光物質は、暗い領域で短時間および長時間光放出の維持が可能であり、蓄光物質によって光放出時間の調節が可能である。
【0045】
蓄光物質としては、アルミン酸ストロンチウム系顔料、硫化亜鉛、珪酸マグネシウム、珪酸ストロンチウムが例示できる。市販品としては、N夜光ルミノーバシリーズ(Gシリーズ、GLLシリーズ、BGシリーズ、BGLシリーズ、以上根元特殊化学社製)、アルファ・ベガ(エルティーアイ社製)が例示できる。蓄光物質は、三次元網目構造2によって空間的な移動が束縛されている。蓄光物質の保持力を強化する観点からは、架橋構造を密とすることが好ましい。
【0046】
第2実施形態のハイドロゲルによれば、第1実施形態のハイドロゲルの効果に加え、遮光中にも光合成を行うための光源を提供できるというメリットを有する。例えば、日中、太陽光線を吸収した蓄光物質が、夜間に準安定状態から基底状態へと戻る際に放出する光によって、夜間あるいは暗室環境下でも光合成を継続することができる。
【0047】
[第3実施形態]
第3実施形態に係るハイドロゲルは、ハイドロゲル内に磁性物質(磁性粉)を含有する点を除き、第1実施形態のハイドロゲルと同様である。
【0048】
磁性粉は、ハイドロゲル中にあり、磁力集積手段によって集積可能な磁性を有するという条件を満たすものであればよい。また、粒子径が小さくても高い磁気誘導特性を有する磁気異方性の高い材料が好ましい。磁性粉の好ましい材料としては、鉄粉、ステンレス粉、酸化鉄粉(マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(Fe2O3)、一酸化鉄(FeO))、コバルト粉、ニッケル粉、ガドリニウム粉、鉄-ケイ素系合金粉、鉄-ニッケル系合金粉、鉄-コバルト系合金粉、鉄-ケイ素-アルミニウム合金粉、もしくはニッケル-亜鉛系、マグネシウム-亜鉛系、マンガン-亜鉛系のフェライト粉、窒化鉄、コバルト白金クロム合金、バリウムフェライト合金、マンガンアルミ合金、鉄白金合金、鉄パラジウム合金、コバルト白金合金、鉄ネオジウムボロン合金、及びサマリウムコバルト合金等が挙げられる。また、複写機等で用いられている磁性トナ-等を利用してもよい。なお、磁性ナノ粒子表面の耐食性を向上させるため、表面を各種酸化金属などで被覆してもよい。これらの粒子は、耐食性を向上させるために非磁性分子によって被覆してもよい。例えば、高分子ポリマー被覆磁性マイクロ粒子、樹脂被覆磁性マイクロ粒子やシリカ被覆磁性マイクロ粒子などを用いてもよい。磁性粉は、入手容易性の観点から鉄粉や酸化鉄粉が好ましい。
【0049】
磁性粉の平均粒径は目的に応じて適宜設計し得るが、取り扱い容易性の観点から平均粒子径が1~500μmの磁性粉が好ましく、10~200μmがより好ましく、20~100μmが更に好ましい。平均粒子径が55~100μmの磁性粉を用いることにより、迅速な磁気分離性、経済性、取り扱い上の安全性を高めることができる。なお、磁性粉としてナノ粒子を排除するものではない。即ち、磁性粉として、1種類もしくは複数種のナノ粒子を単独で又は他のサイズの粒子と併用して用いてもよい。ナノ粒子を用いることで、比表面積を大きくし、三次元網目構造との相互作用を高めることができる。磁性粉のサイズは、ゲルの特性等を考慮して適宜選定することができる。
【0050】
磁性粉の含有量は、磁性粉の磁力に応じて適宜設計できる。例えば、ハイドロゲルの質量に対して0.01~0.25倍程度とする。
【0051】
磁性粉は、三次元網目構造によって空間的な移動が束縛されている。磁性粉の保持力を強化する観点からは、吸着を目的とする物質やイオンの出入りを妨げない範囲で、架橋構造を密とすることが好ましい。
【0052】
ハイドロゲルがアルカリ性を示すことにより、磁性粉として鉄粉を用いる場合、錆びを防止することができる。
【0053】
磁力集積手段としては公知の技術を適宜用いることができる。適用する液体の量に応じて、適切な磁力集積手段を用いればよい。比較的少量の液体に対しては、スペースを取らない観点からマグネティックセパレーター(株式会社Noritake製)等が好ましい。また、大量の液体に対して本実施形態に係る物質回収システムを利用する場合には、強力な磁場を発生できる超電磁磁石等が好適である。
【0054】
磁力集積手段として、磁力のON-OFF可能な機能と、移動機構を備えたものを用いることもできる。また、永久磁石とシールド手段とによって磁力のON-OFFを制御することも可能である。さらに、永久磁石等を用いてハイドロゲル1をまず回収し、その後、より強力な電磁石、超電導磁石等によりハイドロゲル1を回収し、次いで、電磁石や超電導磁石等の磁力をオフすることにより、ハイドロゲル1を分離することも可能である。
【0055】
コンパクトなマグネットセパレーターも好適に用いられる。例えば、MDK-4(-U)、MDK-6(-U)、MDK-8(-U)、MDK-12(-U)、MDK-18(-U)、MDK-24(-U)、以上株式会社Noritake製等を好適に用いることができる。そのほか、ダイカ社株式会社製のダイアバーDB1、DB2、DB3、ダイアグリッドDGS-200、DGS-250、DGS-300、DGH-200、DGH-250、DGH-300、ダイアコーナーDCH-100、DCH-150、DCH-200、DCH-250、DCH-300、DCH-350、DCH-400、DCS-100、DCS-150、DCS-200、DCV-100、DCV-150、DCV-200、DCV-250、ダイアセルフDAS(AMS)、ダイアローターDRP-200、DRP-250、DRP-300、DRP-400、DRP-500、ダイアキャノンDKP-80、DKP-90、DKP-100、DKP-150、ダイアスラーDSY-25、DSY-32、DSY-40、DSY-50、DSI-25、DSI-40、DSI-50、DST-25、DST-40、DST-50、DST-60、DSH-40、DSH-50、DSH-60、DSH-70、DSH-80、DSH-100などのマグネットセパレーターも好適に用いられる。
【0056】
永久磁石を用いる場合には、特に限定されるものではないが、一例として、フェライト、Ne-Fe-B合金、サマリウム-コバルト合金を挙げることができる。強力な磁力を要する場合には、Ne-Fe-B合金が好ましい。磁力集積手段は、電磁石や超電導磁石等を用いる場合にも、磁石の磁力線に指向性を付与させるために、シールド手段を設けることが有効である。磁力集積手段を海水による腐食などから適切に保護するために、必要に応じて磁石等をケーシング内に密封する。
【0057】
ハイドロゲルは、大半が水分であることから、焼却処理、フィルタープレス脱水機、ベルトプレス脱水機、スクリュープレス脱水機、真空脱水機、遠心脱水機により減容化することが可能である。
【0058】
[第4実施形態]
第4実施形態に係るハイドロゲルは、ハイドロゲルに内包されている気泡の量を調整している点を除き、第1実施形態のハイドロゲルと同様である。
【0059】
ゲルに対する気泡の調整は限定されないが、例えば、ゲル作製時にCO2ガスを注入し、ゲル作製後に光照射により光合成を行い、ゲル内に酸素ガスを発生させる方法が例示できる。
【0060】
光合成を効率的に行うためには、ハイドロゲルが水面上に浮遊していることが理想である。気泡を内包させて浮力を調整することにより、ハイドロゲルのサイズ・形状の設計自由度を高めることができる。
<<実施例>>
【0061】
以下、実施例に基づき、本開示を詳細に説明するが、本開示は実施例に限定されない。本実施例中、特に断り書きが無い場合には、部は質量部を、%は質量%を表す。実施例および比較例で使用した材料を以下に示す。
【0062】
(実施例1)
SPL(Spirulina platensis NIES-39)を含む培養液100mLを濾紙でろ過し、SPLを得た。得られたSPLを新たなSOT培養液6mL(血球計算盤を用いて6×106菌体/mLに調整)に分散させた後、第1シリンジ(テルモ製10mL)に入れた。
【0063】
第2シリンジ(10mL)にグルコマンナン0.3gを加えた。これら2つのシリンジを、
図2に示す混合撹拌装置に設置し、加圧法により25℃で半凝固させたゲルを作製した。
【0064】
室温で1時間放置後、シリンジポンプ(ヒュージョンタッチ6000(高圧注入吸引/1本架/タッチパネル、株式会社アイシス)を用いて、100mLの容器に入れたSOT培養液70mL(NaOH水溶液を用いてあらかじめpH10.5に調整)を37℃において恒温マグネットスターラー装置で攪拌しながら、当該ゲルを培養内に4mL/分の速度で射出し、攪拌を続けた。アルカリを強めた培養液内での当該加温・攪拌操作により、ゲルが崩壊しないレベルまで凝固させた。20分後、電動ピペッターを用いて、SOT培養液を取り除き、新たなSOT培養液70mL(pH8.6)を加え、同様の攪拌を30分間続けた。攪拌後、ステンレス製メッシュ状のフィルターを用いてゲルを取り出した。得られたゲルを
図3に示す。
【0065】
(実施例2)
第2シリンジに、グルコマンナン0.3gに加えて、蓄光パウダー(N夜光、Gシリーズ、緑、アルミン酸塩系、根元特殊化学社製)0.06gを加えた以外は、実施例1と同様にしてSPLを含む第1シリンジ、蓄光パウダー入りグルコマンナンを含むシリンジを用意した。
【0066】
これら2つのシリンジを、
図2に示す混合撹拌装置に設置し、実施例1と同様の方法によりシリンジ内の内容物を混合してゲルを得、実施例1と同様の方法により、ゲルを取り出した。得られたゲルに、10000ルクスの光を1分照射した後、暗室での像を
図4に示す。同図に示すように、畜光性ゲルが得られることを確認した。
【0067】
(実施例3)
第2シリンジに、グルコマンナン0.3gに加えて、鉄粉0.2gを加えた以外は、実施例1と同様にしてSPLを含む第1シリンジ、鉄粉入りグルコマンナンを含むシリンジを用意した。次いで、これら2つのシリンジを、
図2に示す混合撹拌装置に設置し、実施例1と同様の方法によりシリンジ内の内容物を混合してゲルを得、実施例1と同様の方法により、ゲルを取り出した。得られたゲルを、pH8.6のSOT培養液を含むチューブに入れ、チューブ外部から磁石を近づけたところ、
図5に示すように、ゲルが磁石により集積することを確認した。
【0068】
(実施例4)
第2シリンジに、グルコマンナン0.3gに加えて、更に、CO
2ガス2mLを加えた以外は、実施例1と同様にしてSPLを含む第1シリンジ、CO
2ガス入りグルコマンナンを含むシリンジを用意した。次いで、これら2つのシリンジを、
図2に示す混合撹拌装置に設置し、実施例1と同様の方法によりシリンジ内の内容物を混合してゲルを得た。その後、10000ルクスの光を照射しながら、ゲル内でのSPLの光合成により、ゲル内にO
2ガスを発生させ、発泡ゲルを作製した。その後、室温で1時間放置後、シリンジポンプを用いて実施例1と同様の方法によりゲルを取り出した。得られたゲルをpH8.6のSOT培養液にいれたところ、
図6に示すように、ゲルが水面に浮遊することを確認した。
【0069】
(実施例5)
以下の方法により、CO
2濃度測定用小型密閉装置(ウェットタイプ)を作製し、実施例1のハイドロゲルによるCO
2濃度・O
2濃度を経時的に測定した。
1.3Lの樹脂製の密閉容器の内部に、内外の空気の出入りを遮断して気密性を保ったまま、内部のCO
2濃度を測定できる装置を開発した。
図7に、小型密閉装置の模式図を示す。小型密閉装置50は、気密性容器51を有する。気密性容器51の内部には、100mLの樹脂製の容器52、エアポンプ53、CO
2測定装置54、小型ファン55および角形樹脂製容器56を設置した。角形樹脂製容器56の内部に容器52を格納し、エアポンプ53、CO
2測定装置54を積載した。
【0070】
角形樹脂製容器56には、多数のスリットや穴が設けられており、容器52内外の空気が自由に連通するように構成されている。容器52にはSPLとアルカリ性培養液を入れた。そして、エアポンプ53に接続したシリコンゴム管58の先端を、容器52の底内部に位置するように設置した。シリコンゴム管58により、エアポンプから、気密性容器51内の空気を容器52に送気した。
【0071】
次いで、気密性容器51の蓋部に電源アダプター用のDCジャック57を設置した。端子周辺には気密性を保持するためシリコンコーキング処理を施した。密閉シールにより密閉容器内外の空気の流通を遮断した。更に、エアポンプ53、小型ファン55、CO2測定装置54、それぞれと電源アダプター用端子間に配線を施し(不図示)、直流5Vを供給できるように設計した。小型ファン55は気密性容器51内部の空気を循環させるため、また、CO2測定装置54のCO2濃度表示部の結露による曇りを防ぐために設置した。
【0072】
気密性容器51の中に、アネロパウチ・CO2(三菱ガス化学社製)1パックを、容器52内部にアルカリ性培養液のSOT培地50mLおよび実施例1のゲル12グラムを、それぞれ入れ、気密性容器51の蓋を閉めて密封し、CO2濃度を経時的に測定した。
【0073】
最初の24時間は暗室内で遮光し、6時間ごとにCO
2濃度を記録した。その結果を
図8に示す。同図に示すように、経時的にCO
2濃度が上昇し、24時間後には凡そ0.7%になることを確認した。
【0074】
24時間経過後、気密性容器51外部から10000ルクスの光を照射し、CO
2測定装置54により、15分ごとにCO
2濃度を測定した。その結果を
図9に示す。
図9より、照射開始から徐々にCO
2濃度が低下し、凡そ7.5時間後ぐらいにCO
2濃度が0.1%となることを確認した。
【0075】
(実施例6、7)
実施例1および実施例2で作製したハイドロゲル3.5gを、それぞれ1/4に希釈したSOT培地25mLおよびマグネティックスターラーバーを30mLシリンジに入れ、実施例6、7のハイドロゲルをそれぞれ得た。シリンジのピストン挿入部に溶存酸素計のセンサー(HANNA社製)を挿入し、周囲をゴムパッキンで密封した。更に、注射針装着部をシリンジキャップで密栓し、スターラーバーをスターラー装置で攪拌した。その後、暗室内で10分間10000ルクスの光を照射し、照射前後の溶存酸素量を記録した。結果を
図10に示す。
【0076】
図10より、実施例7のゲルでは光照射OFF後40分程度、溶存酸素濃度が130%程度に保たれること、実施例6のゲルでは光照射OFF直後より溶存酸素濃度が低下することを確認した。蓄光剤を含有するゲルでは、光照射OFF後も蓄光剤の発光により光合成を続けたものと考えられる。
【0077】
(実施例8)
次に、CO2濃度測定用小型密閉装置(ドライタイプ)を作製し、実施例1のハイドロゲルによるCO2濃度を経時的に測定した。
0.6Lの樹脂製密閉容器の内部に、内外の空気の出入りを遮断し気密性を保ったまま、内部のCO2濃度を測定できる装置を開発した。小型密閉装置60は、気密性容器61、気密性容器61の内部に設置されるCO2測定装置62、小型ファン63、ゲル用トレイ64、アネロパウチ・CO2(三菱ガス化学社製)65を有する。気密性容器61の中に実施例1のハイドロゲル6グラムを入れ、蓋を閉めて装置を密封し、CO2濃度を経時的に記録した。
【0078】
(比較例1)
実施例1のハイドロゲルを入れないこと以外は実施例8と同様の方法により、装置を密閉し、CO2濃度を経時的に記録した。
【0079】
図12に、実施例8および比較例1の測定結果を示す。
図12より、実施例8のハイドロゲルは光合成によりCO
2濃度が減少していることを確認した。
【0080】
図13に、実施例1のハイドロゲルにLED光源3000ルクスを1日8時間の割合で7日間照射した後のハイドロゲルの写真を示す。同図の点線囲み線に示すように、多数のコロニーが確認された。また、光合成による気泡も多数観測されることを確認した。
【0081】
(実施例9)
第2シリンジに、グルコマンナン0.3gに加えて、更に、C
3F
8ガス1.5mLを加えた以外は、実施例4と同様にしてSPLを含む第1シリンジ、C
3F
8ガス入りグルコマンナンを含むシリンジを用意した。次いで、これら2つのシリンジを、
図2に示す混合撹拌装置に設置し、実施例1と同様の方法によりシリンジ内の内容物を混合してゲルを得た。室温で1時間放置後、シリンジポンプを用いて、100mLの容器に入れたSOT培養液70mL(NaOH水溶液を用いてあらかじめpH10.5に調整)を(37℃で)恒温マグネットスターラー装置で攪拌しながら、当該ゲルを培養内に4mL/分の速度で射出した。20分後、電動ピペッターを用いて、SOT培養液を取り除き、新たなSOT培養液70mL(pH8.6)を加え、同様の攪拌を30分間続けた。攪拌後、ステンレス製メッシュ状のフィルターを用いてゲルを取り出した。得られたゲルをpH8.6のSOT培養液アルカリ性水溶液にいれたところ、ゲルが水面に浮遊することを確認した。
【0082】
(実施例10)
実施例1で作製したゲルに対し、2ヶ月間、LED光源3000ルクスを1日8時間の割合で照射し、育成した。培地液の交換は1週間に1度行った。2か月後に前記ゲル4.5gを取り出し、実施例5と同様の実験を行った。その結果を
図14に示す。同図に示すように、経時的にCO
2濃度が上昇し、6時間後に凡そ0.6%となることを確認した。
【0083】
また、6時間経過後、気密性容器51外部から10000ルクスの光を照射し、CO
2測定装置54により、15分ごとにCO
2濃度を測定した。その結果を
図15に示す。
図15より、照射開始から徐々にCO
2濃度が低下し、凡そ7.5時間後ぐらいにCO
2濃度が0.1%となることを確認した。
2か月ゲル内のSPLを生育したハイドロゲルに対し、送気に伴うせん断力を13.5時間持続的に加えてもゲルは崩壊せず、CO
2を低減する光合成能を維持できることを確認した。
【0084】
(実施例11)
SOT培養液を、NaOH水溶液により予めpH10.5に調整した点、およびグルコマンナンに代えてコンニャク精粉(JAぐんま製)を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、ゲルを得た。コンニャク製粉を用いたハイドロゲルを作製できることを確認した。
【0085】
(実施例12)
グルコマンナンに代えて、3%アルギン酸ナトリウム4mLを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりゲルを作製した。シリンジポンプ(ヒュージョンタッチ6000(高圧注入吸引/1本架/タッチパネル、株式会社アイシス)を用いて、100mLの容器に入れた0.1M塩化カルシウム水溶液70mLをマグネットスターラー装置で攪拌しながら、当該ゲルを培養内に4mL/分の速度で射出し、攪拌を続けた。5分後、ステンレス製メッシュ状のフィルターを用いてゲルを取り出した。得られたゲルを
図16に示す。
【0086】
(実施例13)
実施例10で作製したゲルを50mL遠沈管に入れ、SOT培地15mLを加え、回転撹拌機(AS ONE社TUBE ROTATOR TR―350)に遠沈管を装着し、13.5回転/分のスピードで30時間の攪拌を行い、ゲルの形状について観察を行った。その結果、ゲルは崩壊せず、安定であることを確認した。結果を
図17に示す。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本開示のハイドロゲルは、CO2削減のための脱炭酸システムとして好適に用いられる。また、本開示のハイドロゲル内の微細藻類の光合成により得られた炭素化合物は、タンパク質、脂質等の栄養補助食品、機能性食品、医薬品として利用できる。また、肥料、有害物質除去剤としても利用できる。
【符号の説明】
【0088】
1 ハイドロゲル
2 三次元網目構造
3 微細藻類
4 培養成分
5 水
10 容積可変体
11 電動ステージ
12 シリンジサポート
14 プランジャサポート
15 シリンジ
15、25 シリンジ
16 プランジャ
20 容積可変体
21 電動ステージ
22 シリンジサポート
24 プランジャサポート
25 シリンジ
26 プランジャ
50 小型密閉装置
51 気密性容器
52 容器
53 エアポンプ
54 CO2測定装置
55 小型ファン
56 角形樹脂製容器
57 DCジャック
58 シリコンゴム管
60 小型密閉装置
61 気密性容器
62 CO2測定装置
63 小型ファン
64 ゲル用トレイ
100 混合撹拌装置
101 第1収容容器
102 第2収容容器
103 マイクロ流路
104 三方活栓