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特開2024-11994継目無鋼管および継目無鋼管の製造方法
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  • 特開-継目無鋼管および継目無鋼管の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011994
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】継目無鋼管および継目無鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240118BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240118BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20240118BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20240118BHJP
   B21B 17/00 20060101ALN20240118BHJP
   B21B 45/08 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/60
C21D8/10 B
C21D9/08 E
B21B17/00
B21B45/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114392
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】影山 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 遼太郎
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA40
4K032BA03
4K032CA03
4K032CB01
4K032CB02
4K032CF01
4K032CF03
4K042AA06
4K042BA01
4K042BA02
4K042CA02
4K042CA03
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042CA14
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DE02
(57)【要約】
【課題】素管を熱処理した後の酸洗または外面研削を必要とせず、低コストに製造することができ、表面性状に優れる鋼管を提供すること。
【解決手段】C:0.06~0.30%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.01~2.0%、P:0.1%以下、S:0.1%以下、Cu:0.01~1.0%、N:0.01%以下、Ni:0.1~1.50%、Cr:0.01~1.0%、Mo:0.01~1.0%、Nb:0.001~0.10%、Al:0.001~0.10%、B:0.0001~0.010%、Ti:0.001~0.05%およびV:0.001~0.10%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、表層から順に、酸化スケール層、脱炭層および素地を有し、脱炭層は炭素濃度が0.06%未満であり、酸化スケールの厚さToと前記脱炭層の厚さTdとが、下記式(1)で示される関係を有し、引張強さが780MPa以上である、継目無鋼管。
To/Td≦2.0・・・・・(1)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.06~0.30%、
Si:0.01~1.0%、
Mn:0.01~2.0%、
P:0.1%以下、
S:0.1%以下、
Cu:0.01~1.0%、
N:0.01%以下、
Ni:0.1~1.50%、
Cr:0.01~1.0%、
Mo:0.01~1.0%、
Nb:0.001~0.10%、
Al:0.001~0.10%、
B:0.0001~0.010%、
Ti:0.001~0.05%および
V:0.001~0.10%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表層から順に、酸化スケール層、脱炭層および素地を有し、
前記脱炭層は炭素濃度が0.06%未満であり、
前記酸化スケールの厚さToと前記脱炭層の厚さTdとが、下記式(1)で示される関係を有し、
引張強さが780MPa以上である、継目無鋼管。
To/Td≦2.0・・・・・(1)
【請求項2】
前記成分組成は、質量%で、さらに、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%および
REM:0~0.01%以下
からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の継目無鋼管。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼片を1200~1300℃に加熱し、
加熱後の前記鋼片の表面に、鋼片温度1100~1200℃にて100~200kgf/cmの高圧水を噴射し、
前記高圧水を噴射した後の鋼片に縮径加工を行って素管を製造し、
前記素管をAc点~950℃に加熱した後、急冷する焼入れを行ない、
焼入れ後の前記素管を500~600℃に加熱した後、室温まで冷却する焼戻しを行い、
焼戻し後の前記素管に矯正加工を行なって継目無鋼管とする、継目無鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、継目無鋼管および継目無鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管は様々な用途に用いられており、クレーンラチスやクレーンブームといった建設機械用の構造部材としても広く用いられている。それらの用途に用いられる鋼管には、クレーンの大型化や極寒冷地での使用に対応するために、高い強度と靭性を備えることが求められる。例えば、近年では、引張強さ(TS)が780MPa級の鋼管が、-20℃という低温においても優れた靭性を有することが求められている。
【0003】
これらの用途には、肉厚が4mm程度の比較的薄肉のものから、肉厚が10mmを超える厚肉のものまで、幅広い肉厚の鋼管が用いられている。これまでは、薄肉の鋼管としては継目無鋼管または電縫鋼管が、厚肉の鋼管としては継目無鋼管が使われてきた。そして、厚肉の鋼管を製造する際には、造管後に熱処理(焼き入れおよび焼き戻し)を行うことによって必要強度を確保する方法がとられてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、クレーンのブーム等の機械構造部材として用いられる、肉厚30mm超の継目無鋼管の製造方法が記載されている。特許文献1で提案されている方法では、造管後に熱処理を2回以上行うことによって、引張強さ950MPa以上、降伏強度850MPa以上という高い強度と、-40℃でのシャルピー吸収エネルギーが60J以上という高い靭性を兼ね備えた継目無鋼管を得ることができる。
【0005】
また、特許文献2には、クレーンのブーム等の機械構造部材として用いられる、引張強さが980MPa以上、2mmVノッチ試験片を用いた-40℃でのシャルピー衝撃値が75J/cm以上である、継目無鋼管が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-193404号公報
【特許文献2】特許第6292366号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2ともに、造管後に熱処理することで特性を確保しているため、熱処理により鋼管の表面があばた状になるなど、表面肌が不良となるという問題がある。造管後に熱処理することで、素管の最外層に生じた酸化スケール層が急冷されて部分的に亀裂が生じ、場合によっては剥離してしまう。亀裂が生じ、または剥離した酸化スケール層がその後の矯正加工において矯正ロールにより踏み込まれ、鋼管表面があばた状になったり、押し込みキズが生じたりしてしまう。従来は、熱処理後、酸洗して酸化スケールを除去した後に矯正加工を行うか、最終工程で外表面の研削を行って、外表面のあばたおよび押し込みキズを除去していた。しかしながら、これらの工程は製造コスト上昇を生じるという課題があった。
【0008】
本開示は、かかる事情に鑑みてなされたもので、素管を熱処理した後の酸洗または外面研削を必要とせず、低コストに製造することができ、表面性状に優れる鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は鋭意検討を繰り返した。その結果、焼入れ直前の表層近傍の構造において最外層の酸化スケール層と素地との間に、所望の厚み比となる脱炭層を挟むことで、焼入れ後の酸化スケール層の剥離がしにくくなることを発見した。また、所望の厚み比となる脱炭層を挟むことで、矯正加工において外表面にあばたおよび押し込みキズが生じることを防ぎ、表面性状に優れた継目無鋼管を製造することができることを発見した。すなわち、最外層の酸化スケール層と素地との間に、所望の厚み比となる脱炭層を挟むことで、焼入れによる素地のマルテンサイト変態膨張による応力、酸化スケール層の熱収縮による応力に対し、その中間に存在する脱炭層がこれらの応力を緩和することができる。その結果、酸化スケールの亀裂、剥離を抑制することができることが分かった。なお、脱炭層は焼入れでマルテンサイトに変態しないことが必要であり、そのためには脱炭層の炭素量は0.06%未満とする。また、応力を緩和する効果を発揮するには、酸化スケールの厚みToに対し、少なくとも式(1)を満たす脱炭層の厚みTdが必要であることを見出した。
To/Td≦2.0 ・・・・・(1)
【0010】
本開示は、上記知見に基づいてなされた。すなわち、本開示の要旨構成は以下のとおりである。
【0011】
[1] 質量%で、
C:0.06~0.30%、
Si:0.01~1.0%、
Mn:0.01~2.0%、
P:0.1%以下、
S:0.1%以下、
Cu:0.01~1.0%、
N:0.01%以下、
Ni:0.1~1.50%、
Cr:0.01~1.0%、
Mo:0.01~1.0%、
Nb:0.001~0.10%、
Al:0.001~0.10%、
B:0.0001~0.010%、
Ti:0.001~0.05%および
V:0.001~0.10%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表層から順に、酸化スケール層、脱炭層および素地を有し、
前記脱炭層は炭素濃度が0.06%未満であり、
前記酸化スケールの厚さToと前記脱炭層の厚さTdとが、下記式(1)で示される関係を有し、
引張強さが780MPa以上である、継目無鋼管。
To/Td≦2.0・・・・・(1)
【0012】
[2] 前記成分組成は、質量%で、さらに、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%および
REM:0~0.01%以下
からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する、前記[1]に記載の継目無鋼管。
【0013】
[3] 前記[1]または[2]に記載の成分組成を有する鋼片を1200~1300℃
に加熱し、
加熱後の前記鋼片の表面に、鋼片温度1100~1200℃にて100~200kgf/cmの高圧水を噴射し、
前記高圧水を噴射した後の鋼片に縮径加工を行って素管を製造し、
前記素管をAc点~950℃に加熱した後、急冷する焼入れを行ない、
焼入れ後の前記素管を500~600℃に加熱した後、室温まで冷却する焼戻しを行い、
焼戻し後の前記素管に矯正加工を行なって継目無鋼管とする、継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、素管を熱処理した後の酸洗または外面研削を必要とせず、低コストに製造することができ、表面性状に優れる鋼管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】継目無鋼管の断面の概要を示す図である。
図2】To/Td比に対する深さ0.1mm以上のキズの個数を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、本開示は以下の実施形態に限定されない。なお、以下の説明において、「%」は、特に明記しない限り「質量%」を意味する。また本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
[成分組成]
継目無鋼管は、上述した成分組成を有する。以下、各成分の含有量の限定理由について説明する。
【0018】
C:0.06~0.30%
Cは、熱処理後にクレーンラチスまたはクレーンブームに求められる強度(硬さ)を確保するために必要な元素である。Cの含有量は0.06%以上、好ましくは0.09%以上とする。一方、C含有量が0.30%を超えると、低温靱性を劣化させる。そのため、C含有量は0.30%以下、好ましくは0.25%以下とする。
【0019】
Si:0.01~1.0%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、強化元素としても作用する元素である。前記効果を得るためには0.01%以上の含有を必要とする。そのため、Si含有量は0.01%以上とする。一方、Si含有量が1.0%を超えると低温靭性は溶接性の低下につながる。したがって、Si含有量は0.01~1.0%にすることが重要である。Si含有量は、好ましくは0.5%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.1%以上とする。
【0020】
Mn:0.01~2.0%
Mnは、鋼の強度向上に寄与するとともに、鋼の焼入れ性を向上させ、厚肉でも必要とする強度を確保するために重要な元素である。クレーンラチスまたはクレーンブームに求められる強度(硬さ)を確保するために、Mn含有量は0.01%以上、好ましくは0.2%以上とする。一方、2.0%を超えて含有すると、靭性が低下することに加え、高質化して造管が難しくなる。そのため、Mn含有量は2.0%以下、好ましくは0.8%以上とする。
【0021】
P:0.1%以下
Pは、不純物として鋼中に含まれる元素であり、粒界等に偏析し、溶接割れ性および靭
性を低下させる。そのため、継目無鋼管をクレーンラチスまたはクレーンブーム用として用いるために、P含有量を0.1%以下に低減する。そのため、P含有量は0.1%以下、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下とする。P含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよいが、生産技術上の観点から、P含有量は0.005%以上であり得る。
【0022】
S:0.1%以下
Sは、鋼中では硫化物系介在物として存在し、熱間加工性、靭性を低下させる元素である。継目無鋼管をクレーンラチスまたはクレーンブーム用に用いるために、S含有量を0.1%以下に低減する。S含有量は、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.02%以下とする。S含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよいが、生産技術上の観点から、S含有量は0.001%以上であり得る。
【0023】
Cu:0.01~1.0%
Cuは、耐食性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るには0.01%以上の含有量とする。しかし、Cuは高価な合金元素であるため、Cu含有量が1.0%を超えると材料コストの高騰を招くとともに、加工性の劣化につながる。そのため、Cu含有量は1.0%以下、好ましくは0.50%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.1%以上とする。
【0024】
N:0.01%以下
Nを0.01%を超えて含有すると、焼入れ性を高める固溶Bを窒化ホウ素(BN)として固定化させるため、特に厚肉の場合に管厚全体で必要な強度を確保することが難しくなる場合がある。したがって、N含有量は0.01%以下とする。N含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよいが、生産技術上の観点から、N含有量は0.002%以上であり得る。
【0025】
Ni:0.1~1.5%
Niは、Cuと同様、耐食性を向上させる作用を有するだけでなく、焼入れ性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るには0.1%以上の含有とする。しかし、Niは高価な合金元素であるため、Ni含有量が1.5%を超えると材料コストの高騰を招く。そのため、Ni含有量は0.1~1.5%とする。Ni含有量は、好ましくは0.5以上とする。また、Ni含有量は、好ましくは1.3%以下とする。
【0026】
Cr:0.01~1.0%
CrはCuやNiと同様に、耐食性を向上させる作用がある。また、焼入れ性を向上させ鋼の強度向上に寄与する元素である。前記効果を得るために、Cr含有量を0.01%以上の含有とする。一方、Cr含有量が1.0%を超えると、材料の加工性の低下や素材コストの上昇、および溶接割れの危険性につながる。そのため、Cr含有量は1.0%以下とする。
【0027】
Mo:0.01~1.0%、
Moは焼入れ性を向上させる元素である。前記効果を得るために、Mo含有量を0.01%以上の含有が望ましい。一方、Mo含有量が1.00%を超えると、効果が飽和すると同時に素材のコストの増加に繋がる。そのため、Mo含有量は1.0%以下、好ましくは0.9%以下とする。
【0028】
Nb:0.001~0.10%
Nbは、Cと結合しNbCを形成し焼き入れ加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制することで、低温靭性の劣化を防ぐ元素である。このような効果を発揮するには0.00
1%以上の含有量とする。一方、Nb含有量が0.1%を超えると、添加効果が飽和して含有量に見合う効果が得られないため、経済的に不利となる。そのため、Nb含有量は0~0.10%とする。Nb含有量は、好ましくは0.001%以上とする。また、Nb含有量は、好ましくは0.05%以下とする。
【0029】
Al:0.001~0.10%
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合しAlNとして析出し、強度を高める効果を有する。前記効果を得るためには、0.001%以上の含有を必要とする。そのため、Al含有量は0.001%以上とする。一方、Alを0.10%を超えて多量に含有すると、酸化物系介在物量が増加し、加工性が低下する。そのため、Al含有量は0.10%以下、好ましくは0.05%以下とする。
【0030】
B:0.0001~0.010%
Bは、十分な焼入れ組織を具備させ、必要となる強度を確保させるために重要な元素である。前記効果を得るために、B含有量は0.0001%以上、好ましくは0.0005%以上とする。一方で、B含有量が0.01%を超えると、前記効果は飽和すると同時に、低温靭性の低下につながるため、B含有量は0.010%以下とする。
【0031】
Ti:0.001~0.05%以下
TiはNbと同様に、Cと結合しTi炭化物を形成することで、焼き入れ加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制することで、低温靭性の劣化を防ぐ元素であり、これらの効果を発揮するためには0.001%以上の含有を必要とする。しかし、Ti含有量が0.05%を超えると、添加効果が飽和して含有量に見合う効果が得られないため、経済的に不利となる。そのため、Ti含有量は0.05%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.01%以上とする。Ti含有量は、好ましくは0.03%以下とする。
【0032】
V:0.001~0.10%
VはNb、Tiと同様に、Cと結合しV炭化物を形成し、焼き入れ加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制することで、低温靭性の劣化を防ぐ元素である。このような効果を発揮するには、0.001%以上、好ましくは0.01%の含有量とする。一方、V含有量が0.10%を超えると、添加効果が飽和して含有量に見合う効果が得られないため、経済的に不利となる。また、V含有量が0.10%を超えると、冷温靭性が劣位となる。そのため、V含有量は0.10%以下とする。
【0033】
さらに本開示の他の実施形態においては、上記成分組成が、任意で、Ca、MgおよびREMからなる群から選ばれる1種または2種以上を、以下に記す含有量で含むことができる。
【0034】
Ca:0~0.01%
Caは硫化物系介在物の形態制御を介して延性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。一方で、0.01%を超える含有は、介在物量が増加しすぎて、鋼の清浄度が低下する。このため、含有する場合は、0.01%以下に限定することが好ましい。なお、Ca含有量は、より好ましくは0.005%以下である。Ca含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。
【0035】
Mg:0~0.01%
MgはCaと同様に硫化物系介在物の形態制御を介して延性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。一方で、0.01%を超える含有は、介在物量が増加しすぎて、鋼の清浄度が低下する。このため、含有する場合は、Mg含有量は0.01%以下に限定することが好ましい。なお、Mg含有量はより好ましくは0.005%で
ある。Mg含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。
【0036】
REM:0~0.01%
REM(希土類金属)は、CaやMgと同様に、硫化物系介在物の形態を微細な略球形の介在物に制御する作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。一方で、0.01%を超える含有は、介在物量が増加しすぎて、鋼の清浄度が低下する。このため、含有する場合は、0.01%以下に限定することが好ましい。なお、REM含有量は、より好ましくは0.005%である。REM含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。
【0037】
[管外表面近傍の断面構造]
つぎに、継目無鋼管の外表面近傍の断面構造の限定理由について説明する。図1に、継目無鋼管の断面の一部の概要を示す。図1に示すように、継目無鋼管1は、表層から順に、酸化スケール層2、脱炭層3および素地4を有する。なお、継目無鋼管の外表層とは、継目無鋼管の管外側表層を指す。継目無鋼管は、管内側表層において表層から順に、酸化スケール層2、脱炭層3および素地4を有していてもよい。
【0038】
酸化スケールの厚さToと前記脱炭層の厚さTdとは、下記式(1)で示される関係を有する。
To/Td≦2.0・・・・・(1)
焼入れ直前の表層近傍の構造において上記式(1)で示される特徴を有することで、焼入れ後の酸化スケールの剥離がしにくくなる。そのため、矯正ロールによる酸化スケールの踏み込みが解消され、表面性状に優れた継目無鋼管を製造することができる。酸化スケールの厚みTo/脱炭層の厚みTdの比が2.0以下でないと、十分な応力緩和効果がえられない。To/Tdは、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.5以下とする。To/Tdの下限は特に限定されないが、0.1以上であり得る。
【0039】
図2を用いて、To/Td比と表面性状との関係を見出すに至った予備実験の結果について説明する。図2は、To/Td比に対する深さ0.1mm以上のキズの個数を表すグラフを示す。図2においては、外径120.6mm、肉厚9.5mmの製品について、To/Td比に対する、鋼管1m長さ当りの深さ0.1mm以上のキズの個数を調べた。長さ6mの鋼管5本について、全長、全周にわたってキズの観察を行った。図2に示すように、キズの個数はTo/Td比が1.5程度を境にTo/Td比に比例して増加する。図2に示されるように、To/Td比が2.0以下であれば、鋼管1m長さ当りの深さ0.1mm以上のキズの個数を3個程度に抑えることができ、表面性状に優れた継目無鋼管を製造することができる。
【0040】
脱炭層:炭素濃度が0.06%未満
脱炭層は、炭素濃度が0.06%未満の領域である。脱炭層の炭素濃度が0.06%以上の場合、マルテンサイト変態による変態膨張が生じるため、脱炭層の炭素濃度は0.06%未満とする。
【0041】
素地は、焼戻しマルテンサイトを面積率で80%以上含むことが好ましい。より好ましくは、素地は、焼戻しマルテンサイトを面積率で90%以上含む。素地は、焼戻しマルテンサイトを面積率で100%含んでいてもよい。
【0042】
ここで、組織観察、並びに酸化スケールの厚みToおよび脱炭層の厚みTdの測定は、以下のとおり行う。
【0043】
(1)組織観察
継目無鋼管から、組織観察用試験片(管円周(C)方向断面観察)を採取し、断面研磨した後、ナイタール液を用いて腐食して観察面とする。光学顕微鏡(倍率:100倍)を用い、観察面の組織を観察する。各継目無鋼管について観察面を10視野以上撮像して、素地のマルテンサイト組織の観察を行なう。
【0044】
(2)脱炭層部分の炭素濃度分析
(1)において断面組織を観察したサンプルの外表面から肉厚中央側に向けて、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)によるC濃度ライン分析を行なう。EPMA分析は、日本電子製JXA‐iSP100を用い、加速電圧12kV、ビーム径5μm、ステップ間隔5μm、分析長さ(最外面からの距離)は1mmで実施する。分析の結果、明らかに酸化スケール層である部分を除いて、炭素濃度が0.06%未満の部分の厚みを脱炭層Tdとする。酸化スケール層である部分の厚みをToとする。測定は、10サンプルについて行い、その平均値で評価する。その結果、得られたToとTdとの値により、To/Td≦2.0を満たすかどうかを判定する。
【0045】
[機械的特性]
つぎに、継目無鋼管の機械的特性について説明する。
【0046】
引張強さ:780MPa以上
クレーンの大型化および寒冷地での使用を考慮し、継目無鋼管の高強度化と高靭性化とが求められている。そのためには引張強さ(Tensile strength:TS)を780MPa以上とする。引張強さは好ましくは800MPa以上とする。上限については特に規定しないが、低温靭性を好適な範囲内とし、成形性をより向上するため、引張強さは好ましくは1180MPa以下である。
【0047】
引張強さは以下のとおり測定する。JIS Z 2241の規定に準拠して、引張方向が管軸(L)方向となるようにJIS 12号B引張試験片(標点距離:50mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施する。
【0048】
[低温靭性]
低温靭性については、本開示に適合する範囲内の鋼成分および熱処理条件において製造すれば、レーンラチス用またはクレーンブーム用として好適な低温靭性が得られるため、特に限定を設けない。一般的に寒冷地での使用を考慮すれば、-40℃のシャルピー試験で得られる衝撃値が30J以上であることが好ましい。-40℃のシャルピー試験で得られる衝撃値が100J以上であることがより好ましい。
【0049】
低温靭性は以下のとおり測定する。鋼管から、JIS Z 2242の規定に準拠して、管長手(L)方向の管厚中央部からVノッチ試験片(幅10mm×高さ7.5mm×長さ55mm、ノッチ角度45°、ノッチ深さ2mm、ノッチ底半径0.25mm)を管軸方向から採取し、試験温度-40℃にて吸収エネルギーを測定する。
【0050】
継目無鋼管の厚み(肉厚)について、特に制限は設けない。継目無鋼管の厚みは20mm以上であることが好ましく、40mm以下であることが好ましい。
【0051】
継目無鋼管の外径も特に限定されないが、50mm以上であることが好ましく、450mm以下であることが好ましい。
【0052】
[製造方法]
つぎに、継目無鋼管の製造方法について説明する。
【0053】
[製管方法]
上述した成分組成を有する鋼素材を、一般的な方法で溶製した後、鋳造により丸形状、あるいは角形状の鋼片とする。その後、鋼片を、一例においてはマンネスマン方式の熱間圧延方法により継目無鋼管とする。ここでいうマンネスマン方式の圧延方法とは、以下の方法である。まず、矩形断面または丸断面の鋼片をマンネスマン穿孔法またはプレスロール穿孔法により穿孔する。穿孔後の鋼片を、必要に応じて傾斜圧延機(エロンゲータ)により延伸し、さらにプラグミルまたはマンドレルミルで肉厚を調整する。最終仕上げ圧延機(サイザーミルまたはストレッチレデューサー)で所定の外径に成形することにより造管する。
【0054】
鋼片の加熱温度:1200~1300℃
まず、鋼片を加熱する。鋼片の加熱温度が1200℃未満の場合、加工性におとり、所望の形状に穿孔することができない。また、脱炭層の厚みが薄くなり、焼入れ時の応力緩和効果が不十分となる。一方で、1300℃を超えると、粒界割れが発生するおそれが増え、また、表面性状が劣化すると同時に、過度な脱炭によりC含有量が低下し、特に表層近傍において必要とされる焼入れ後強度が得られない場合がある。したがって、鋼片の加熱温度は1200~1300℃とする。鋼片の加熱温度は、好ましくは1220℃以上とする。鋼片の加熱温度は、好ましくは1280℃以下とする。鋼片の加熱温度は、鋼片表面温度を基準とする。
【0055】
高圧水噴射時の鋼片温度:1100~1200℃
加熱後の鋼片の表面に、高圧水を噴射する。加熱炉から抽出された鋼片は、穿孔圧延機に到達するまでに放熱するため、穿孔圧延機到達時には上述した鋼片の加熱温度(1200~1300℃)よりも鋼片温度が下がる。高圧水噴射時の鋼片温度が1100℃以下の場合、加工性におとり、所望の形状に穿孔することができない。一方で、1200℃を超えると粒界割れが発生する危険性が増え、また、表面性状が劣化すると同時に、脱炭層が過度に大きくなるため、特に表層近傍において必要とされる焼入れ後強度が得られない場合がある。したがって、高圧水噴射時の鋼片温度は1100~1200℃とする。高圧水噴射時の鋼片温度は、好ましくは1120℃以上とする。高圧水噴射時の鋼片温度は、好ましくは1180℃以下とする。なお、高圧水噴射時の鋼片温度は1150℃を基準とする。
【0056】
高圧水の噴射圧力:100~200kgf/cm
鋼片温度が1100~1200℃の状態で高圧水を鋼片表面全体に噴射することで、厚さのばらつきがない安定した脱炭層の形成が可能となる。高圧水の圧力が100kgf/cm以下の場合、冷却効果が低く、脱炭層の厚さのばらつきを制御することができない。一方で、高圧水の圧力が200kgf/cmを超えると、過冷却となり、鋼片の加工性におとる。したがって、高圧水の圧力は100~200kgf/cmとする。高圧水の噴射圧力は、好ましくは120kgf/cm以上とする。高圧水の噴射圧力は、好ましくは190kgf/cm以下とする。高圧水の噴射圧力は、高圧水噴射装置に付属する圧力計測器によって測定する。
【0057】
断面減少率:40~99%の縮径加工
高圧水を噴射した後の鋼片に、縮径加工を行って、素管を製造する。縮径加工の断面減少率は40%以上とすることが好ましい。断面減少率が40%以上であれば、特に優れた寸法精度が得られる。縮径加工の断面減少率は99%以下とすることが好ましい。断面減少率が99%以下であれば、設備増設等が不要であり、また設備への負荷も低い。
【0058】
[熱処理方法]
焼入れ:素管をAc点~950℃に加熱した後、急冷する焼入れを行う。
焼入れの加熱温度がAc点を下回るとオーステナイト化が完了しないため、焼入れが不完全となり必要強度が確保できない。また、脱炭層の厚みが薄くなり、焼入れ時の応力緩和効果が不十分となる。一方で、焼入れの加熱温度が950℃を超えると、加熱時にオーステナイト粒が粗大化し、低温靭性の低下につながる。したがって、焼入れの加熱温度はAc点~950℃とする。焼入れの加熱温度は、素管表面を基準とする。加熱後の急冷は定法に従えばよい。
【0059】
Ac点は以下の式に従い算出する。
Ac=937.2-436.5C+56Si-19.7Mn-16.3Cu-26.6Ni-4.9Cr+38.1Mo+124.8V+136.3Ti-19.1Nb+198.4Al+3315B
【0060】
焼戻し温度:500~600℃
焼入れした素管を500~600℃に加熱した後、室温まで冷却する焼戻しを行う。加熱温度が500℃を下回ると、低温靭性が低下する。一方で、加熱温度が600℃を超えると必要強度が確保できない。したがって、焼戻し温度は500~600℃とする。焼戻し温度は、好ましくは520℃以上とする。焼戻し温度は、好ましくは580℃以下とする。焼戻し温度は、550℃を基準とする。
【0061】
[矯正加工]
曲がり取りのために矯正加工を行う。矯正加工については、特に限定しない。本継目無鋼管の特徴として、矯正工程前には、酸洗や外面研削を行なわなくても、表面性状に優れる特徴を有している。そのため、矯正工程後に酸洗や外面研削を行なわなくても表面性状を好適な範囲内とするために、矯正加工での圧下は200トン以下とすることが好ましい。
【0062】
なお、上記した条件以外の製造条件は、常法によることができる。
【実施例0063】
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で丸鋼片(外径210mm)とした。これら丸鋼片を、表2に示す条件のマンネスマン方式の熱間圧延法によって継目無鋼管に造管した。得られた継目無鋼管について、表2に示した条件の熱処理(焼入れ・焼戻し)および矯正加工を行った。組織観察、脱炭層の厚み、酸化スケール層の厚み、引張強さ、低温靭性、および表面性状の評価を実施した。組織観察、脱炭層の厚み、酸化スケール層の厚みは上述した方法により求めた。その他の試験方法および評価は次のとおりとした。
【0064】
(3)引張試験
得られた鋼管から、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張方向が管軸(L)方向となるようにJIS 12号B引張試験片(標点距離:50mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施し、0.2%耐力YS(MPa)、伸びEl(%)を求めた。
【0065】
(4)表面性状
表面性状の評価については、熱処理(焼入れ・焼戻し)に続き、矯正加工を行った後の継目無鋼管について実施した。長さ6mの鋼管5本について、全長、全周にわたってキズの観察を行った。表2においては、評価基準として、鋼管1m長さ当りで、深さ0.2mm以上のキズ(スケール押込みに起因した凹みキズに相当)が3か所以内ならば「良好」、それ以上であれば「不良」と評価した。表3においては、鋼管1m長さ当りの深さ0.2mm以上のキズの個数の平均値を示した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
本発明例に係る鋼管は、高強度、表面性の美麗性、および低温靭性に優れている。対し
て、比較例に係る鋼成分、製造条件で製造した鋼管は、所望強度不足、表面の美麗性、低温靭性のいずれかまたは複数の点で劣る。
【符号の説明】
【0070】
1 継目無鋼管
2 酸化スケール層
3 脱炭層
4 素地
図1
図2