IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 協和発酵キリン株式会社の特許一覧

特開2024-119984TfRに結合するバイスペシフィック抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119984
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】TfRに結合するバイスペシフィック抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20240827BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240827BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240827BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240827BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240827BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P35/00
A61K47/68
A61K39/395 T
G01N33/53 D
G01N33/53 Y
C07K16/46
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024096802
(22)【出願日】2024-06-14
(62)【分割の表示】P 2020562545の分割
【原出願日】2019-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2018248334
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】三田村 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】中野 了輔
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 正之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信明
(57)【要約】
【課題】TfRおよび細胞表面抗原に結合する新規なバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を含む治療および診断薬、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を用いる治療および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定用試薬を提供することを目的とする。
【解決手段】Transferrin Receptor(TfR)に結合するIgG部分、および細胞表面抗原に結合するN末端側ポリペプチドを含み、該N末端側ポリペプチドが該IgG部分の重鎖のN末端に直接またはリンカーを介して結合する、TfRおよび前記細胞表面抗原に結合するバイスペシフィック抗体であって、前記IgG部分が、特定のアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、およびそれぞれ特定のアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLを含み、前記細胞表面抗原がEGFRであり、前記N末端側ポリペプチドが、EGFRに対する抗体のFabであって、該抗体がそれぞれ特定のアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、およびそれぞれ特定のアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLを含む抗体である、バイスペシフィック抗体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Transferrin Receptor(TfR)に結合するIgG部分、および
細胞表面抗原に結合するN末端側ポリペプチドを含み、該N末端側ポリペプチドが該IgG部分の重鎖のN末端に直接またはリンカーを介して結合する、
TfRおよび前記細胞表面抗原に結合するバイスペシフィック抗体であって、
前記IgG部分が、以下の(ai)~(ci)から選ばれる1のVH、およびそれぞれ配列番号17~19で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLを含み、
前記細胞表面抗原がEGFRであり、
前記N末端側ポリペプチドが、EGFRに対する抗体のFabであって、該抗体がそれぞれ配列番号60~62またはそれぞれ配列番号65~67で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、およびそれぞれ配列番号17~19で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLを含む抗体である、バイスペシフィック抗体。
(ai)それぞれ配列番号32~34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(bi)それぞれ配列番号42~44で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(ci)それぞれ配列番号47~49で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
【請求項2】
TfRおよび前記細胞表面抗原にそれぞれ2価で結合する、請求項1に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項3】
前記IgG部分が、配列番号31、41、および46のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、請求項1又は2に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項4】
前記IgG部分の重鎖定常領域が配列番号84または配列番号86で表されるアミノ酸配列を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項5】
前記EGFRに対する抗体が、以下の(a)の抗体である、請求項1~4のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
(a)配列番号59または配列番号64で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
【請求項6】
前記Fabの重鎖C末端が前記IgG部分の重鎖N末端に直接結合する、請求項1~5のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項7】
前記Fabの重鎖C末端が前記IgG部分の重鎖N末端にリンカーを介して結合する、請求項1~5のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項8】
上記リンカーのアミノ酸配列がIgGのヒンジ領域のアミノ酸配列の一部または全部からなる、請求項7に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項9】
前記Fabおよび前記IgG部分が同一のアミノ酸配列からなる軽鎖を含む請求項1~8のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項10】
Transferrin Receptor(TfR)に結合するIgG部分、および細胞表面抗原に結合するN末端側ポリペプチドを含み、該N末端側ポリペプチドが該IgG部分の重鎖のN末端に直接結合する、
TfRおよび前記細胞表面抗原にそれぞれ2価で結合するバイスペシフィック抗体であって、
前記IgG部分が、配列番号31で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含み、
前記細胞表面抗原がEGFRであり、
前記N末端側ポリペプチドが、EGFRに対する抗体のFabであって、該抗体が配列番号64で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体である、バイスペシフィック抗体。
【請求項11】
Transferrin Receptor(TfR)に結合するIgG部分、および細胞表面抗原に結合するN末端側ポリペプチドを含み、該N末端側ポリペプチドが該IgG部分の重鎖のN末端に直接結合する、
TfRおよび前記細胞表面抗原にそれぞれ2価で結合するバイスペシフィック抗体であって、
前記IgG部分が、配列番号41で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含み、
前記細胞表面抗原がEGFRであり、
前記N末端側ポリペプチドが、EGFRに対する抗体のFabであって、該抗体が配列番号59で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体である、バイスペシフィック抗体。
【請求項12】
Transferrin Receptor(TfR)に結合するIgG部分、および細胞表面抗原に結合するN末端側ポリペプチドを含み、該N末端側ポリペプチドが該IgG部分の重鎖のN末端に直接結合する、
TfRおよび前記細胞表面抗原にそれぞれ2価で結合するバイスペシフィック抗体であって、
前記IgG部分が、配列番号41で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含み、
前記細胞表面抗原がEGFRであり、
前記N末端側ポリペプチドが、EGFRに対する抗体のFabであって、該抗体が配列番号64で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体である、バイスペシフィック抗体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体をコードするDNA。
【請求項14】
請求項13に記載のDNAを含有する組換え体ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載の組換え体ベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
【請求項16】
請求項15に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に請求項1~12のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体を生産蓄積させ、該培養物からバイスペシフィック抗体を採取することを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体の製造方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体を有効成分として含有する、ヒトTfRおよび前記細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患の治療薬および/または診断薬。
【請求項18】
ヒトTfRおよび前記細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患ががんである請求項17に記載の治療薬および/または診断薬。
【請求項19】
ヒトTfRおよび前記細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断に使用するための、請求項1~12のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項20】
ヒトTfRおよび前記細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患ががんである請求項19に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項21】
ヒトTfRおよび前記細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断剤の製造のための、請求項1~12のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体の使用。
【請求項22】
ヒトTfRおよび前記細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患ががんである請求項21に記載の使用。
【請求項23】
請求項1~12のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体を含む、ヒトTfRおよび前記細胞表面抗原の少なくとも一方を検出または測定するための試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスフェリン受容体(TfR)に結合する抗原結合部位と細胞表面抗原に結合する抗原結合部位を含むバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を含む治療および診断薬、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を用いる治療および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、あらゆる哺乳動物の血清や組織体液中に存在する糖タンパク質であり、生体内において外来抗原を認識する。抗体は、補体系の活性化や、細胞表面に存在するレセプター(FcR)への結合を介して、FcR発現細胞の貪食能、抗体依存性細胞傷害能、メディエーターの遊離能、及び抗原提示能といったエフェクター機能を活性化し、生体防御に関与する。
【0003】
1分子の抗体は、2本の相同な軽鎖(L鎖)と2本の相同な重鎖(H鎖)とから成り、2つの抗原結合部位を備える。抗体のクラス及びサブクラスはH鎖によって決定され、各クラス及びサブクラスは異なる固有の機能を有する。ヒトの抗体には、5つの異なるクラス、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEが存在する。IgGはさらにIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに、IgAは、IgA1及びIgA2のサブクラスに各々分類される(Charles A. J. et al., Immunobiology, 1997, Current Biology Ltd/Garland Publishing Inc.)。
【0004】
多価抗体は、1分子内に複数の抗原結合部位を備えた抗体である。多価抗体の例としては、まず、ハイブリッドハイブリドーマを用いて、二種類の異なる抗体由来のH鎖およびL鎖を1つの細胞で発現させることにより、異なる二種類の抗原にそれぞれ一価で結合する二価抗体を作製したことが報告された(非特許文献1)。しかしながら、本法では、抗体のH鎖とL鎖との組み合わせが10通り程度生じる。そのため、所望のH鎖とL鎖との組み合わせを有する多価抗体の生成量は低く、またそのような多価抗体を選択的に単離精製することも難しいため、所望の抗体の収量は減少する。
【0005】
この問題点を克服するため、複数の抗原結合部位を連結して単一のポリペプチド鎖として発現することにより、サブユニット間の組み合わせのバリエーションを減らし、所望の組み合わせを有する抗体を生産する試みが報告されている。
【0006】
一例として、H鎖とL鎖の抗原結合部位を1つのポリペプチドで連結したsingle chain Fv(scFv)を含む抗体(非特許文献2)が知られている。さらに、IgG1のH鎖定常領域のCH1ドメインもしくは該ドメインの部分断片及びL鎖定常領域、又はフレキシブルリンカー(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)を用いて、二つの抗原結合部位を連結させた抗体などが報告されている(特許文献1、特許文献2)。
【0007】
これらの従来の多価抗体は、凝集し易く、安定性や生産性が低いという欠点を有していた。しかし一方で、単一のH鎖ポリペプチド中に複数の抗原結合部位を有し、抗体重鎖可変領域がイムノグロブリンドメインまたはその断片のアミノ酸配列を有するリンカーを介して結合している多価抗体は、安定性が高く、生産性も良いことが見出されている(特許文献3)。
【0008】
トランスフェリンレセプター(以下TfRとも記載する)は、網状赤血球表面に発現する細胞膜構造として同定された。TfRはトランスフェリン(以下Tfとも記載する)に結合した鉄を細胞内に取り込む機能を有している。鉄は細胞の恒常性の維持や細胞増殖に必要不可欠な金属であるため、それを取り込むためのTfRは胎盤の栄養膜細胞、網状赤血球、活性化されたリンパ球や鉄取り込みが盛んな正常組織で多く発現している。また、増殖が活発な様々な腫瘍細胞(非特許文献3、非特許文献4)においても多く発現していることが知られている。TfRは細胞膜上で架橋されるとクラスリン依存的なエンドサイトーシスによる内在化が促進され、分解されることが知られている(非特許文献5、非特許文献6)。
【0009】
骨髄細胞以外の正常細胞におけるTfRの発現量は低く、増殖が活発ながん細胞では発現が高いため、TfRは古くからがん治療の分子標的として認識されている。TfRを標的とした分子として、たとえば、マウス担がんモデルにおいて強い薬効を示すTfR中和抗体が知られている(特許文献4)。
【0010】
正常細胞と比較してがん細胞では特定の膜タンパク質の発現が亢進していることが知られている。このような膜タンパク質を選択的に認識する抗体によってがん細胞のみを殺す機能を有する医薬品が開発されている。たとえば大腸がんや頭頸部がんに対してEpidermal growth factor receptor(以下EGFRと記載する)を標的とした抗体医薬品は臨床で有効性が確認されている(非特許文献7)。
【0011】
EGFRは、Epidermal growth factor(以下EGFと記載する)の受容体として発見されたチロシンキナーゼ型の受容体である。EGFRは分子量が170kDaの膜貫通型膜糖タンパク質で、リガンドが結合すると二量体を形成し、下流の細胞内シグナル伝達経路を活性化することにより、細胞の増殖、分化、浸潤、転移などを促す。
【0012】
EGFRは上皮系、間葉系、神経系の多様な細胞で発現しているが、脳腫瘍や扁平上皮がんなど多くのがん細胞で高発現している(非特許文献8、非特許文献9)ことから、がん抗原として知られている。
【0013】
二種類の膜タンパク質に結合できる分子を用いることで、一方の抗原分子を足場にもう一方の抗原分子を内在化、分解できることが知られている(特許文献5、特許文献6)。また、がん細胞特異的な膜タンパク質を認識するペプチドとTfRを認識するペプチドを化学的に結合、またはハイブリドーマフュージョン法で連結させると、鉄キレート剤添加条件下で両方の抗原が発現している細胞に対して増殖阻害活性を示すことが報告されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0071675号明細書
【特許文献2】国際公開第2001/077342号
【特許文献3】国際公開第2009/131239号
【特許文献4】国際公開第2012/153707号
【特許文献5】国際公開第2013/138400号
【特許文献6】欧州特許出願公開第2808035号明細書
【特許文献7】米国特許第570561号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Suresh et al., Methods Enzymol. 121, 210-228, 1986
【非特許文献2】Kranz et al., J. Hematother. 5, 403-408, 1995
【非特許文献3】Hamilton TA et al., PNAS USA 76 6406-10, 1979
【非特許文献4】Larson SM et al., J Natl Cancer Inst. 64 41-53, 1980
【非特許文献5】Liu AP et al., J Cell Biol. 191 1381-93, 2010
【非特許文献6】Weissman AM et.al., J Cell Biol. 102 951-8, 1986
【非特許文献7】Erbitux 米国添付文書(2018年6月改訂)
【非特許文献8】Libermann TA et al., Cancer Res. 44 753-60, 1984
【非特許文献9】Hendler FJ et al., J Clin Invest. 74 647-51, 1984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、TfRおよび細胞表面抗原に結合する新規なバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を含む治療および診断薬、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を用いる治療および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定用試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための手段として、本発明はTfRに結合するIgG部分のN末端側に、細胞表面抗原への抗原結合部位を有するポリペプチド(N末端側ポリペプチドとも言う)が直接またはリンカーを介して結合する、TfRおよび細胞表面抗原に結合するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片などを提供する。
【0018】
すなわち本発明は、以下に関する。
1.Transferrin Receptor(TfR)に結合するIgG部分、および細胞表面抗原に結合するN末端側ポリペプチドを含むバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片であって、該ポリペプチドが該IgG部分の重鎖のN末端に直接またはリンカーを介して結合する、TfRおよび細胞表面抗原に結合するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
2.前記IgG部分が、
配列番号32で表されるアミノ酸配列もしくは配列番号32で表されるアミノ酸配列から、2番目のチロシンのアラニンもしくはフェニルアラニンへの置換および3番目のスレオニンのアラニンもしくはグリシンへの置換から選ばれる少なくとも1つの置換により改変されたアミノ酸配列を含む相補性決定領域(complementarity determining region;CDR)1、
配列番号33で表されるアミノ酸配列もしくは配列番号33で表されるアミノ酸配列から、1番目のバリンのアラニンへの置換、2番目のイソロイシンのアラニンもしくはロイシンへの置換、7番目のバリンのグルタミン酸への置換、10番目のアスパラギン酸のアラニンへの置換および13番目のアスパラギン酸のプロリンへの置換から選ばれる少なくとも一つの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2および
配列番号34で表されるアミノ酸配列もしくは配列番号34で表されるアミノ酸配列から、3番目のグルタミンのアラニンもしくはアスパラギン酸への置換、4番目のプロリンの任意の天然アミノ酸への置換、5番目のトリプトファンのアラニン、フェニルアラニン、ヒスチジンもしくはチロシンへの置換、7番目のチロシンのアラニンもしくはフェニルアラニンへの置換および13番目のバリンのロイシンへの置換から選ばれる少なくとも1つの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに
それぞれ配列番号17~19で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、前記1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
3.前記IgG部分が、以下の(ai)~(ci)から選ばれる1のVH、およびそれぞれ配列番号17~19で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLを含む、前記1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
(ai)それぞれ配列番号32~34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(bi)それぞれ配列番号42~44で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(ci)それぞれ配列番号47~49で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
4.前記IgG部分が、配列番号26、31、36、41、および46のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、前記1または2に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
5.前記IgG部分が、それぞれ配列番号17~19で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVL、および、以下の(a)~(m)から選ばれる1のVHを含む、前記1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
(a)それぞれ配列番号33および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR2および3、ならびに、配列番号32で表されるアミノ酸配列から、2番目のチロシンのアラニンまたはフェニルアラニンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR1を含むVH
(b)それぞれ配列番号33および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR2および3、ならびに、配列番号32で表されるアミノ酸配列から、3番目のスレオニンのアラニンまたはグリシンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR1を含むVH
(c)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、1番目のバリンのアラニンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(d)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、2番目のイソロイシンのアラニンまたはロイシンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(e)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、7番目のバリンのグルタミン酸への置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(f)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、10番目のアスパラギン酸のアラニンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(g)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、13番目のアスパラギン酸のプロリンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(h)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、3番目のグルタミンのアラニンまたはアスパラギン酸への置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(i)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、4番目のプロリンの任意の天然アミノ酸への置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(j)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、4番目のプロリンのアラニン、チロシン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、スレオニン、アルギニン、グリシン、リジン、メチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニンもしくはヒスチジンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(k)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、5番目のトリプトファンのアラニン、フェニルアラニン、ヒスチジンまたはチロシンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(l)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、7番目のチロシンのアラニンまたはフェニルアラニンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(m)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、バリンのロイシンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
6.前記IgG部分が、配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVL、ならびに配列番号31で表されるアミノ酸配列から、KabatらによるEUインデックス(以下、EUインデックス)により示されるY32A、Y32F、T33A、T33G、L45A、V48A、V50A、I51A、I51L、V55E、D58A、D61P、Q97A、Q97D、W99A、W99F、W99H、W99Y、Y100AA、Y100AF、V102L、およびP98の任意のアミノ酸への置換から選ばれる少なくとも1つの置換により改変されたアミノ酸配列を含むVHを含む、前記1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
7.前記IgG部分が、配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVL、ならびに配列番号31で表されるアミノ酸配列から、EUインデックスにより示されるY32A、Y32F、T33A、T33G、L45A、V48A、V50A、I51A、I51L、V55E、D58A、D61P、Q97A、Q97D、W99A、W99F、W99H、W99Y、Y100AA、Y100AF、V102L、P98A、P98Y、P98S、P98D、P98Q、P98E、P98T、P98R、P98G、P98K、P98M、P98V、P98L、P98I、P98W、P98F、およびP98Hから選ばれるいずれか1つの置換により改変されたアミノ酸配列を含むVHを含む、前記1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
8.前記IgG部分が、配列番号6で表されるTfRのアミノ酸配列の352番目のAsp、355番目のSer、356番目のAsp、および358番目のLysから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基、並びに、365番目のMet、366番目のVal、および369番目のGluから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基を認識する、前記1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
9.前記IgG部分の重鎖定常領域が配列番号84または配列番号86で表されるアミノ酸配列を含む前記1~8のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
10.前記細胞表面抗原がEGFRまたはGPC3である、前記1~9のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
11.前記細胞表面抗原がEGFRである、前記1~10のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
12.前記N末端側ポリペプチドが前記細胞表面抗原に対する抗体のFab、Fab’、scFv、dsFvおよびVHHのいずれか1つである、前記1~11のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
13.前記N末端側ポリペプチドが、前記細胞表面抗原に対する抗体のFabである、前記1~12のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
14.前記N末端側ポリペプチドが、EGFRに対する抗体のFabであって、該抗体がそれぞれ配列番号60~62またはそれぞれ配列番号65~67で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、およびそれぞれ配列番号17~19で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLを含む抗体である、前記1~9のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
15.前記EGFRに対する抗体が、以下の(a)~(e)から選ばれる1の抗体である、前記14に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
(a)配列番号59または配列番号64で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
(b)配列番号110で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号111で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
(c)配列番号112で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号113で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
(d)配列番号114で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号115で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
(e)配列番号116で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号117で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
16.前記Fabの重鎖C末端が前記IgG部分の重鎖N末端に直接結合する、前記13~15のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
17.前記Fabの重鎖C末端がIgG部分の重鎖N末端にリンカーを介して結合する、前記13~15のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
18.上記リンカーのアミノ酸配列がIgGのヒンジ領域のアミノ酸配列の一部または全部からなる、前記17に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
19.前記Fabおよび前記IgG部分が同一のアミノ酸配列からなる軽鎖を含む前記13~18のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
20.前記1~19のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNA。
21.前記20に記載のDNAを含有する組換え体ベクター。
22.前記21に記載の組換え体ベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
23.前記22に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に前記1~19のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を生産蓄積させ、該培養物からバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を採取することを特徴とする前記1~19のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の製造方法。
24.前記1~19のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を有効成分として含有する、ヒトTfRおよび細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断薬。
25.ヒトTfRおよび細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患ががんである前記24に記載の治療薬および/または診断薬。
26.前記1~19のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いる、ヒトTfRおよび細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断方法。
27.ヒトTfRおよび細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患ががんである前記26に記載の方法。
28.ヒトTfRおよび細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断に使用するための、前記1~19のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
29.ヒトTfRおよび細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患ががんである前記28に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
30.ヒトTfRおよび細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断剤の製造のための、前記1~19のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の使用。
31.ヒトTfRおよび細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患ががんである前記30に記載の使用。
32.前記1~19のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む、ヒトTfRおよび細胞表面抗原の少なくとも一方を検出または測定するための試薬。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、TfRおよび細胞表面抗原に結合する新規なバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を含む治療および診断薬、該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を用いる治療および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定用試薬を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明のバイスペシフィック抗体の構造の一例を示す。図1(A)はN末端側ポリペプチドがFabであり、FabのVHを含むポリペプチドがIgG部分のN末端に結合しているバイスペシフィック抗体を表す。図1(B)はN末端側ポリペプチドがVHHであるバイスペシフィック抗体を表す。図1(C)はN末端側ポリペプチドがFabであり、FabのVLを含むポリペプチドがIgG部分のN末端に結合しているバイスペシフィック抗体を表す。
図2図2は各種がん細胞株における抗原発現量をフローサイトメトリーで評価した結果を表す。図2(A)~(C)はそれぞれ、OE21細胞、T.Tn細胞およびU-937細胞におけるEGFRの発現量をフローサイトメーターで評価した結果を示す。図2(D)~(F)はそれぞれ、OE21細胞、T.Tn細胞およびU-937細胞におけるTfRの発現量をフローサイトメーターで評価した結果を示す。縦軸は細胞数を、横軸は蛍光強度を表す。実線は抗TfR抗体または抗EGFR抗体の結合性、灰色で塗りつぶしたヒストグラムは陰性対照のアイソタイプ抗体の結合性を表す。
図3図3は肝がん細胞株における抗原発現量をフローサイトメトリーで評価した結果を表す。図3(A)~(C)はそれぞれ、HepG2細胞、HuH-7細胞およびHLE細胞におけるGPC3の発現量をフローサイトメーターで評価した結果を示す。図3(D)~(F)はそれぞれ、HepG2細胞、HuH-7細胞およびHLE細胞におけるTfR発現量をフローサイトメーターで評価した結果を示す。図3(G)~(I)はそれぞれ、HepG2細胞、HuH-7細胞、およびHLE細胞におけるEGFR発現量をフローサイトメーターで評価した結果を示す。縦軸は細胞数を、横軸は蛍光強度を表す。実線は抗GPC3抗体、抗TfR抗体または抗EGFR抗体の結合性、灰色で塗りつぶしたヒストグラムは陰性対照のアイソタイプ抗体または抗DNP抗体の結合性を表す。
図4図4(A)~(I)はOE21細胞に対する各抗体の結合性をフローサイトメーターで評価した結果を表す。縦軸は細胞数を、横軸は蛍光強度を表す。実線は抗EGFR抗体または抗TfR抗体の結合性、灰色で塗りつぶしたヒストグラムは陰性対照の二次抗体の結合性を表す。
図5図5はOE21細胞に対する各TfR抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。黒色の棒グラフがモノクローナル抗体のみを添加したときの結果、白色の棒グラフがクロスリンク抗体を添加してモノクローナル抗体を架橋したときの結果を表す。
図6図6はOE21細胞に対する各EGFR抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図7A図7AはOE21細胞に対する各種バイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図7B図7BはOE21細胞に対する各種バイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図7C図7CはOE21細胞に対する各種バイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図8A図8AはEGFRを発現するがん細胞株であるOE21に対するEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は、陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図8B図8BはEGFRを発現するがん細胞株であるT.Tnに対するEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は、陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図8C図8CはEGFRを発現するがん細胞株であるU-937に対するEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は、陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図9図9はHepG2細胞に対するGPC3―TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図10A図10AはGPC3を発現する肝がん細胞株であるHepG2に対するGPC3-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は、陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図10B図10BはGPC3を発現する肝がん細胞株であるHuH-7に対するGPC3-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は、陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図10C図10CはGPC3を発現する肝がん細胞株であるHLEに対するGPC3-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は、陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。
図11図11(A)~(E)はOE21細胞上のTfRとTfの結合に対する各抗体またはバイスペシフィック抗体の阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は細胞数を、横軸は蛍光強度を表す。細い実線は陰性対照添加後に蛍光標識したトランスフェリンを添加したときの結合活性、太い実線は抗体またはバイスペシフィック抗体添加後に蛍光標識したトランスフェリンを添加したときの結合活性、灰色で塗りつぶしたヒストグラムは蛍光標識したトランスフェリンを添加していない陰性対照を表す。
図12図12は、OE21細胞にEGFR-TfRバイスペシフィック抗体を添加した際のEGFR下流シグナルおよびTfR発現量に対する影響を、ウェスタンブロッティングにより評価した結果を表す。それぞれのバンドは、図の上部に記載の濃度で各バイスペシフィック抗体または抗体を添加したときの、図の右に記載の各タンパク質の発現量を表す。pEGFRはリン酸化されたEGFRタンパク質、AKTはEGFRの下流シグナルのタンパク質、pAKTはリン酸化されたAKTタンパク質、TFRCはTfRタンパク質、ACTBはβ-アクチンを示す。
図13図13(A)~(D)はEGFR-TfRバイスペシフィック抗体をOE21細胞に添加したときの細胞表面上のTfR発現量をフローサイトメーターで評価した結果を表す。縦軸は細胞数を、横軸は蛍光強度を表す。細い実線は陰性対照を添加して24時間培養後に蛍光標識したトランスフェリンを添加したときの結合活性、太い実線は、抗体またはバイスペシフィック抗体を添加して24時間培養後に蛍光標識したトランスフェリンを添加したときの結合活性、灰色で塗りつぶしたヒストグラムは、蛍光標識したトランスフェリンを添加していない陰性対照を表す。
図14図14はEGFR-TfRバイスペシフィック抗体をOE21細胞に添加したときの増殖阻害活性が鉄枯渇によるものか評価した結果を表す。縦軸は、PBSを添加し、FASを添加しない条件の陰性対照に対する生細胞中ATP量の相対値で示した、細胞の生存率を表す。黒色の棒グラフは抗体またはバイスペシフィック抗体のみを添加したとき、斜線の棒グラフが抗体またはバイスペシフィック抗体と共にFASを添加したときの生存率を表す。
図15図15はEGFR-TfRバイスペシフィック抗体をOE21細胞に添加したときの増殖阻害活性を評価した結果を表す。縦軸は、細胞がウェルに占める割合(%)を表す。黒色の棒グラフが抗体またはバイスペシフィック抗体存在下で7日間培養したとき、斜線の棒グラフが抗体またはバイスペシフィック抗体存在下で7日間培養し、培地交換により抗体を除いてさらに7日間培養したときの細胞がウェルに占める割合(%)を表す。
図16図16はEGFR-TfRバイスペシフィック抗体をGEMMに添加したときの増殖阻害活性を評価した結果を示す。縦軸はPBSを添加したときの生細胞中ATP量を100%としたときの生存率を表す。
図17A図17AはEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を示す。
図17B図17BはEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を示す。
図18図18(A)は実施例6で作製したEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の構造を示す模式図である。図18(B)は実施例23で作製したヘテロ二量体抗体の構造を示す模式図である。
図19A図19AはEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を示す。
図19B図19BはEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を示す。
図20図20は、がん細胞株に対する増殖阻害活性を指標として、EGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を示す。
図21図21はEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、TfRに結合するIgG部分のN末端側に、細胞表面抗原への抗原結合部位を有するポリペプチド(N末端側ポリペプチドとも言う)が直接またはリンカーを介して結合する、TfRおよび細胞表面抗原に結合するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片(以下、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片と記載する)に関する。
【0022】
本発明におけるTfRは、CD71、TFR1、TR、T9、p90、IMD46と同義として使用される。TfRとしては例えば、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)においてGenBank accession No.NP_003225または配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むヒトTfR、および配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むサルTfRなどが挙げられる。また、例えば、配列番号6、GenBank accession No.NP_003225または配列番号8に示されるアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつTfRの機能を有するポリペプチドが挙げられる。
【0023】
配列番号6、GenBank accession No.NP_003225 または配列番号8に示されるアミノ酸配列と通常70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、最も好ましくは95%、96%、97%、98%および99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつTfRの機能を有するポリペプチドも本発明のTfRに包含される。
【0024】
配列番号6、GenBank accession No.NP_003225または配列番号8に示されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、部位特異的変異導入法[Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、Nucleic Acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431(1985)、Proceeding of the National Academy of Sciences in USA, 82, 488 (1985)]などを用いて、例えば、配列番号6、GenBank accession No.NP_003225または配列番号8に示されるアミノ酸配列をコードするDNAに、部位特異的変異を導入することにより得ることができる。欠失、置換または付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは1個~数十個、例えば、1~20個、より好ましくは1個~数個、例えば、1~5個のアミノ酸である。
【0025】
TfRをコードする遺伝子としては、例えば、配列番号5またはGenBank accession No.NM_003234に示されるヒトTfRの塩基配列、および配列番号7に示されるサルTfRの塩基配列などが挙げられる。また、例えば配列番号5、GenBank accession No.NM_003234または配列番号7に示される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつTfRの機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、配列番号5、GenBank accession No.NM_003234または配列番号7に示される塩基配列と好ましくは60%以上の相同性を有する塩基配列、より好ましくは80%以上の相同性を有する塩基配列、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつTfRの機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、並びに配列番号5、GenBank accession No.NM_003234または配列番号7に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつTfRの機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子なども、本発明のTfRをコードする遺伝子に包含される。
【0026】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、例えば配列番号5またはGenBank accession No.NM_003234に示される塩基配列を有するDNAをプローブに用いた、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、サザンブロット・ハイブリダイゼーション法、またはDNAマイクロアレイ法などにより得られるハイブリダイズ可能なDNAを意味する。具体的には、ハイブリダイズしたコロニー若しくはプラーク由来のDNA、または該配列を有するPCR産物若しくはオリゴDNAを固定化したフィルターまたはスライドガラスを用いて、0.7~1.0mol/Lの塩化ナトリウム存在下、65℃にてハイブリダイゼーション[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University (1995)]を行った後、0.1~2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/L塩化ナトリウム、15mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターまたはスライドガラスを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。ハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えば、配列番号5またはGenBank accession No.NM_003234に示される塩基配列と好ましくは60%以上の相同性を有するDNA、より好ましくは80%以上の相同性を有するDNA、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。
【0027】
真核生物のタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列には、しばしば遺伝子の多型が認められる。本発明において用いられる遺伝子内に、このような多型によって塩基配列に小規模な変異を生じた遺伝子も、本発明のTfRをコードする遺伝子に包含される。
【0028】
本発明における相同性の数値は、特に明示した場合を除き、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であってよいが、塩基配列については、BLAST[J. Mol. Biol., 215, 403 (1990)]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値など、アミノ酸配列については、BLAST2[Nucleic Acids Research,25, 3389(1997)、Genome Research, 7, 649 (1997)、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Education/BLASTinfo/information3.html]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値などが挙げられる。
【0029】
デフォルトのパラメータとしては、G(Cost to open gap)が塩基配列の場合は5、アミノ酸配列の場合は11、-E(Cost to extend gap)が塩基配列の場合は2、アミノ酸配列の場合は1、-q(Penalty for nucleotide mismatch)が-3、-r(reward for nucleotide match)が1、-e(expect value)が10、-W(wordsize)が塩基配列の場合は11残基、アミノ酸配列の場合は3残基、-y[Dropoff(X)for blast extensions in bits]がblastn の場合は20、blastn以外のプログラムでは7、-X(X dropoff value for gapped alignment in bits)が15および-Z(final X dropoff value for gapped alignment in bits)がblastnの場合は50、blastn以外のプログラムでは25である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/html/blastcgihelp.html)。
【0030】
TfRのアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチドは、当業者に公知の方法によって作製することができ、例えば、配列番号6、GenBank accession No.NP_003225または配列番号8に示されるアミノ酸配列をコードするDNAの一部を欠失させ、これを含む発現ベクターを導入した形質転換体を培養することにより作製することができる。また、上記の方法で作製されるポリペプチドまたはDNAに基づいて、上記と同様の方法により、例えば、配列番号6、GenBank accession No.NP_003225または配列番号8に示されるアミノ酸配列の部分配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを得ることができる。さらに、TfRのアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド、またはTfRのアミノ酸配列の部分配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)法、t-ブチルオキシカルボニル(tBoc)法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0031】
本発明におけるTfRの細胞外領域としては、例えば、GenBank accession No.NP_003225に示されるヒトTfRのアミノ酸配列を公知の膜貫通領域予測プログラムSOSUI(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuiframe0.html)、TMHMM ver.2(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)またはExPASy Proteomics Server(http://Ca.expasy.org/)などを用いて予測された領域などが挙げられる。具体的には、配列番号2またはGenBank accession No.NP_003225の89番目~760番目に示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0032】
TfRの機能としては、細胞の生存、増殖に必須な鉄の取り込みが挙げられる。鉄とトランスフェリンの複合体がTfRに結合すると、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。エンドソーム内のpHが低下すると鉄がトランスフェリンから遊離し、DMT1を介して細胞質内に移行して、細胞増殖やエネルギー産生に利用される。鉄が遊離したトランスフェリンとTfRの複合体は通常分解されず、細胞表面まで再び移動することが知られている(文献:Yamashiro DJ et al., Cell 37 789-800, 1984)。
【0033】
TfRを発現する細胞は例えば、骨髄、胎盤細胞を始めとする多くの正常組織の細胞や、大腸がん、頭頸部がん、脳腫瘍、造血器腫瘍、肝臓がん、食道がんを始めとする多くの種類のがん細胞や、HT29、HSC-2、RAMOS、K562、HepG2、OE21、T.Tn、U-937、HuH-7、HLEなど多くのがん細胞株が挙げられる。
【0034】
本発明の細胞表面抗原は、がん細胞などの細胞膜上に発現するタンパク質やペプチド鎖等の抗原のうち、TfR以外のものをいう。本発明の細胞表面抗原としては、抗体などのタンパク質またはポリペプチドが結合できればどのようなものでもよいが、抗体などのタンパク質またはポリペプチドの結合により内在化および/または分解される細胞表面抗原が好ましい。また本発明の細胞表面抗原として、がん細胞や特定の疾患に関与する細胞集団において高発現しているタンパク質が好ましい。このような細胞表面抗原の好ましい例として、EGFR、GPC3などが挙げられる。
【0035】
本発明におけるEGFRは、ERBB、ERBB1、HER1、PIG61、MENA、NISBD2、SA7、c-Erb-1と同義として用いられる。
【0036】
EGFRとしては、例えば、GenBank accession No.NP005219若しくは配列番号14に示されるアミノ酸配列を含むヒトEGFR;GenBank accession No.XP_005549616.1に示されるアミノ酸配列を含むサルEGFRが挙げられる。また、例えば、配列番号14、NP005219またはGenBank accession No.XP_005549616.1に示されるアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつEGFRの機能を有するポリペプチドが挙げられる。
【0037】
配列番号14、NP005219またはGenBank accession No.XP_005549616.1に示されるアミノ酸配列と好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、最も好ましくは95%、96%、97%、98%および99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつEGFRの機能を有するポリペプチドも本発明のEGFRに包含される。
【0038】
配列番号14、NP005219またはGenBank accession No.XP_005549616.1に示されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、前述の部位特異的変異導入法などを用いて、例えば配列番号14、NP005219またはGenBank accession No.XP_005549616.1に示されるアミノ酸配列をコードするDNAに、部位特異的変異を導入することにより得ることができる。欠失、置換または付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは1個~数十個、例えば、1~20個、より好ましくは1個~数個、例えば、1~5個のアミノ酸である。
【0039】
本発明におけるEGFRをコードする遺伝子としては、例えば、Genbank accession No.NM_005228または配列番号13に示される塩基配列を含むヒトEGFRの遺伝子が挙げられる。
【0040】
また、例えば、配列番号13、Genbank accession No.NM_005228に示される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつEGFRの機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、配列番号13またはGenbank accession No.NM_005228に示される塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列、好ましくは80%以上の相同性を有する塩基配列、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつEGFRの機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、及び配列番号13またはGenbank accession No.NM_005228に示される塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつEGFRの機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子なども、本発明のEGFRをコードする遺伝子に含まれる。
【0041】
本発明におけるEGFRの細胞外領域としては、例えば、GenBank accession No.NP005219に示されるヒトEGFRのアミノ酸配列を公知の膜貫通領域予測プログラムSOSUI(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuiframe0.html)、TMHMM ver.2(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)またはExPASy Proteomics Server(http://Ca.expasy.org/)などを用いて予測された領域などが挙げられる。具体的には、配列番号10またはGenBank accession No.NP005219の25番目~645番目に示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0042】
EGFRの機能としては、例えばEGFとの受容体としての機能、EGFの結合後に二量体を形成し、Ras/Raf/MAPK経路、PI3K/Akt経路、Jak/STAT経路などのシグナルを介して、細胞増殖、生存、浸潤、遊走などを促進することが挙げられる。細胞膜上のEGFRは、EGFが結合することにより内在化し、エンドサイトーシスによりリソソームへ移行して分解されることが知られている(Ebner R et al., Cell Regul. 2 599-612, 1991)。
【0043】
EGFRを発現する細胞は例えば、皮膚、大腸、肺を始めとする正常組織の上皮細胞や、大腸がん、頭頸部がん、肺がん、食道がんを始めとする上皮がん細胞や、HT29、HSC-2、NCI-H1975、OE21、T.Tn、A431などのがん細胞株が挙げられる。
【0044】
本発明におけるGPC3は、DGSX、GTR2-2、MXR7、OCI-5、SDYS、SGB、SGBS、SGBS1と同義として用いられる。
【0045】
GPC3の機能としては、例えばWnt経路やFrizzled経路に関連するタンパク質と結合して、例えば肝臓がんなどの癌細胞の細胞分裂や増殖に関与することが挙げられる。
【0046】
GPC3としては、例えば、Genbank accession No.P51654に示されるアミノ酸配列を含むヒトGPC3が挙げられる。
【0047】
本発明におけるGPC3の細胞外領域としては、例えば、GenBank accession No.P51654に示されるヒトGPC3のアミノ酸配列を公知の膜貫通領域予測プログラムSOSUI(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuiframe0.html)、TMHMM ver.2(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)またはExPASy Proteomics Server(http://Ca.expasy.org/)などを用いて予測された領域などが挙げられる。具体的には、GenBank accession No.P51654の1番目~559番目に示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0048】
GPC3を発現する細胞は例えば、胎児期の肝臓の細胞や、肝臓がんなどのがん細胞、HepG2やHuH-7などのがん細胞株などが挙げられる。
【0049】
抗体とは、イムノグロブリンを構成する重鎖の可変領域および重鎖の定常領域、並びに軽鎖の可変領域および軽鎖の定常領域の全部または一部をコードする遺伝子(「抗体遺伝子」と称する)に由来するタンパク質である。本発明の抗体は、いずれのイムノグロブリンクラスおよびサブクラスを有する抗体または抗体断片をも包含する。
【0050】
重鎖(H鎖)とは、イムノグロブリン分子を構成する2種類のポリペプチドのうち、分子量が大きい方のポリペプチドを指す。重鎖は抗体のクラスとサブクラスを決定する。IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMは、それぞれα鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖およびμ鎖を重鎖として有し、重鎖の定常領域は異なるアミノ酸配列で特徴付けられる。軽鎖(L鎖)とは、イムノグロブリン分子を構成する2種類のポリペプチドのうち、分子量が小さい方のポリペプチドを指す。ヒトの抗体の場合、軽鎖にはκ鎖とλ鎖の2種類が存在する。
【0051】
可変領域(V領域)とは、通常は、イムノグロブリンのN末端側のアミノ酸配列内に存在する多様性に富んだ領域を指す。可変領域以外の部分は多様性の少ない構造をとることから、定常領域(C領域)と呼ばれる。重鎖と軽鎖の各可変領域は会合して抗原結合部位を形成し、抗原への抗体の結合特性を決定する。
【0052】
ヒトの抗体の重鎖では、可変領域はKabatらのEUインデックス(Kabat et al., Sequences of proteins of immunological interest, 1991 Fifth edition)における1番目から117番目までのアミノ酸配列に該当し、定常領域は118番目以降のアミノ酸配列に該当する。ヒトの抗体の軽鎖ではKabatらによる番号付け(Kabat numbering)における1番目から107番目までのアミノ酸配列が可変領域に該当し、108番目以降のアミノ酸配列が定常領域に該当する。以下、重鎖可変領域または軽鎖可変領域を、VHまたはVLと略記する。
【0053】
抗原結合部位は、抗体において抗原を認識し結合する部位であり、抗原決定基(エピトープ)と相補的な立体構造を形成する部位を指す。抗原結合部位は、抗原決定基との間に強い分子間相互作用を生じる。抗原結合部位は、少なくとも3つの相補性決定領域(CDR)を含むVHおよびVLにより構成される。ヒトの抗体の場合、VHおよびVLはそれぞれ3つのCDRを有する。これらのCDRを、それぞれN末端側から順番にCDR1、CDR2およびCDR3と称する。
【0054】
定常領域のうち、重鎖定常領域または軽鎖定常領域は、それぞれCHまたはCLと表記される。CHは、重鎖のサブクラスであるα鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖およびμ鎖によって分類される。CHは、N末端側より順に整列したCH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメインから構成され、CH2ドメインとCH3ドメインとを併せてFc領域という。一方、CLは、Cλ鎖およびCκ鎖とよばれる2つのサブクラスに分類される。
【0055】
モノクローナル抗体は、単一性(monoclonality)を保持した抗体産生細胞が分泌する抗体であり、単一のエピトープ(抗原決定基ともいう)を認識する。モノクローナル抗体分子同士は同一のアミノ酸配列(1次構造)を有し、単一の構造をとる。ポリクローナル抗体とは、異なるクローンの抗体産生細胞が分泌する抗体分子の集団をいう。オリゴクローナル抗体とは、複数の異なるモノクローナル抗体を混合した抗体分子の集団をいう。
【0056】
エピトープは、抗体が認識し、結合する抗原の構造部位をいう。エピトープとしては、例えば、モノクローナル抗体が認識し、結合する単一のアミノ酸配列、アミノ酸配列からなる立体構造、糖鎖が結合したアミノ酸配列および糖鎖が結合したアミノ酸配列からなる立体構造などが挙げられる。
【0057】
本発明におけるモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより産生される抗体、および抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により産生される遺伝子組換え抗体を挙げることができる。
【0058】
ハイブリドーマは、例えば、抗原を調製し、該抗原を免疫した動物より抗原特異性を有する抗体産生細胞を取得し、さらに、該抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させることによって、調製することができる。該ハイブリドーマを培養するか、または該ハイブリドーマを動物に投与して該ハイブリドーマを腹水癌化させ、該培養液または腹水を分離、精製することにより、所望のモノクローナル抗体を取得することができる。抗原を免疫する動物としては、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができるが、マウス、ラット、ハムスターおよびラビットなどが好適に用いられる。また、このような被免疫動物から抗体産生能を有する細胞を取得し、該細胞にin vitroで免疫を施した後に、骨髄腫細胞と融合して、ハイブリドーマを作製することもできる。
【0059】
本発明における遺伝子組換え抗体としては、例えば、組換えマウス抗体、組換えラット抗体、組換えハムスター抗体、組換えラビット抗体、ヒト型キメラ抗体(キメラ抗体ともいう)、ヒト化抗体(CDR移植抗体ともいう)およびヒト抗体などの、遺伝子組換え技術により製造される抗体が挙げられる。遺伝子組換え抗体においては、対象とする動物種や目的に応じて、どの動物種由来の重鎖および軽鎖の可変領域並びに定常領域を適用するかを決定することができる。例えば、対象とする動物種がヒトの場合には、可変領域をヒトまたはマウスなどの非ヒト動物由来とし、定常領域およびリンカーをヒト由来とすることができる。
【0060】
キメラ抗体とは、ヒト以外の動物(非ヒト動物)の抗体のVHおよびVLと、ヒト抗体のCHおよびCLとからなる抗体を指す。非ヒト動物としては、マウス、ラット、ハムスターおよびラビットなど、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。キメラ抗体は、モノクローナル抗体を生産する非ヒト動物由来のハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してキメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることによって、製造することができる。
【0061】
ヒト化抗体とは、非ヒト動物抗体のVHおよびVLのCDRをヒト抗体のVHおよびVLの対応するCDRに移植した抗体を指す。VHおよびVLのCDR以外の領域はフレームワーク領域(以下、FRと表記する)と称される。ヒト化抗体は、非ヒト動物抗体のVHのCDRのアミノ酸配列と任意のヒト抗体のVHのFRのアミノ酸配列からなるVHのアミノ酸配列をコードするcDNAと、非ヒト動物抗体のVLのCDRのアミノ酸配列と任意のヒト抗体のVLのFRのアミノ酸配列からなるVLのアミノ酸配列をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト化抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることによって、製造することができる。
【0062】
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーおよびヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体なども含まれる。
【0063】
ヒト体内に天然に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球にEBウイルスなどを感染させて不死化し、クローニングすることにより、該抗体を産生するリンパ球を培養し、該培養上清より該抗体を精製することにより取得することができる。
【0064】
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することにより、Fab、scFvなど抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として、所望の抗原結合活性を有する抗体断片を表面に発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、さらに、遺伝子工学的手法により2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へ変換することができる。
【0065】
ヒト抗体産生トランスジェニック動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組み込まれた動物を意味する。具体的には、例えば、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞をマウスの初期胚へ移植後、個体を発生させることにより、ヒト抗体産生トランスジェニックマウスを作製することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物由来のヒト抗体は、通常の非ヒト動物で行われているハイブリドーマ作製法を用いてハイブリドーマを取得し、培養することで、培養上清中に抗体を産生、蓄積させることにより調製できる。
【0066】
遺伝子組換え抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリンに属すればいかなるものでもよいが、human immunoglobulin G(hIgG)クラスのものが好ましい。さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3およびhIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、遺伝子組換え抗体のCLとしては、ヒトイムノグロブリンに属すればいずれのものでもよく、κクラスまたはλクラスのものを用いることができる。
【0067】
本発明において、バイスペシフィック抗体とは、異なる2種類のエピトープそれぞれに特異的に結合するポリペプチドまたはタンパク質をいう。バイスペシフィック抗体のそれぞれの抗原結合部位は、単一の抗原の異なるエピトープに結合してもよいし、異なる抗原に結合してもよい。
【0068】
本発明において、ポリペプチド、抗体もしくは該抗体断片またはバイスペシフィック抗体もしくは該バイスペシフィック抗体断片がEGFRまたはGPC3などの細胞表面抗原およびTfRのいずれか1つに結合することは、例えば、公知の免疫学的検出法、好ましくは蛍光細胞染色法等を用いて、評価したい細胞表面抗原またはTfRを発現した細胞と抗体との結合性を確認する方法により確認することができる。また、公知の免疫学的検出法[Monoclonal Antibodies - Principles and Practice, Third Edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などを組み合わせて用いることもできる。
【0069】
本発明において、EGFRもしくはGPC3などの細胞表面抗原またはTfRに結合する抗原結合部位は、EGFRもしくはGPC3などの細胞表面抗原またはTfRをそれぞれ特異的に認識し、結合するものであればいかなるものでもよい。例えば、抗体、リガンド、受容体、および天然に存在する相互作用分子など遺伝子組換え技術によって作製可能なポリペプチド、タンパク質分子およびその断片、並びに該タンパク質分子の低分子または天然物とのコンジュゲート体などいずれの形態であってもよい。
【0070】
また、抗原結合部位としては、抗体、リガンドおよび受容体など既知の結合分子の結合ドメインを利用して組換えた結合タンパク質でもよく、具体的には各抗原に結合する抗体のCDRを含む組換えタンパク質、CDRを含む抗体可変領域、抗体可変領域および各抗原に結合するリガンドの結合ドメインを含む組換えタンパク質などが挙げられる。なかでも、本発明においては、抗原結合部位は抗体の可変領域であることが好ましい。
【0071】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片としては、例えばTfRの内在化および/または分解活性を有するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が挙げられる。本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片としては、EGFRまたはGPC3などの細胞表面抗原を発現していない細胞にはTfRの内在化および/または分解活性を示さず、EGFRまたはGPC3などの細胞表面抗原を発現した細胞にのみTfRの内在化および/または分解活性を示すバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が好ましい。このようなバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、EGFRまたはGPC3などの細胞表面抗原を発現する、がん細胞などの病因細胞に選択的にTfRの内在化および/または分解活性を示すため、非特異的なTfRの内在化および/または分解に伴う副作用を生じない点で好ましい。
【0072】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が有するTfRの内在化および/または分解活性は、細胞上のEGFRまたはGPC3などの細胞表面抗原およびTfRの両方にバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が結合することにより、TfRを細胞表面抗原の内在化および/または分解経路に引き込み、内在化および/または分解を誘導する活性などをいう。
【0073】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、同一細胞上に発現しているEGFRまたはGPC3などの細胞表面抗原およびTfRに結合してもよいし、異なる細胞上に発現しているEGFRまたはGPC3などの細胞表面抗原およびTfRに結合してもよいが、同一細胞上に発現しているEGFRまたはGPC3などの細胞表面抗原およびTfRに結合するものが好ましい。
【0074】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片としては、TfRの内在化および/または分解を誘導することにより、標的とするEGFRまたはGPC3などの細胞表面抗原を発現している細胞の細胞死を誘導するものが好ましい。
【0075】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が有するTfRの内在化および/または分解活性は、例えばOE21、T.Tn、TE-8、U-937、HepG2、HuH-7およびHLEなどのTfRを発現する細胞の細胞表面および細胞内のTfRタンパク量、生存細胞数、細胞の増殖率、細胞の生存率または細胞の鉄の取込みなどを評価することにより確認することができる。
【0076】
すなわち、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片として、具体的には、EGFRまたはGPC3等の細胞表面抗原およびTfRの両方に結合したときに、TfRの分解を誘導するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片などが挙げられる。
【0077】
一分子のバイスペシフィック抗体が有する、ある抗原に対する結合ドメインの数を、結合の価数と呼ぶ。例えば、本発明において、一分子のバイスペシフィック抗体が、EGFRに結合する抗原結合部位およびTfRに結合する抗原結合部位を二つずつ有する場合、かかるバイスペシフィック抗体は、EGFRおよびTfRに、それぞれ二価で結合する。
【0078】
また、イムノグロブリンドメインまたはその断片を含むリンカーなど、適切なリンカーを介して結合させた複数の抗原結合部位を含む抗体も本発明のバイスペシフィック抗体に含まれる。
【0079】
本発明のバイスペシフィック抗体は、既存の作製技術([Nature Protocols, 9, 2450-2463 (2014)]、国際公開第1998/050431号、国際公開第2001/7734号、国際公開第2002/002773号および国際公開第2009/131239号)などにより作製することができる。
【0080】
本発明のバイスペシフィック抗体は、TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に、直接またはリンカーを介して、細胞表面抗原に対する結合能を有するポリペプチド(N末端側ポリペプチドとも言う)が結合している構造を有している。
【0081】
本発明において、イムノグロブリンドメインとは、イムノグロブリンに類似したアミノ酸配列を持ち、少なくとも2個のシステイン残基が存在する約100個のアミノ酸残基からなるペプチドを最小単位とする。本発明において、イムノグロブリンドメインは、上記の最小単位のイムノグロブリンドメインを複数含むポリペプチドをも包含する。イムノグロブリンドメインとしては、例えば、イムノグロブリン重鎖のVH、CH1、CH2およびCH3、並びにイムノグロブリン軽鎖のVLおよびCLなどが挙げられる。
【0082】
イムノグロブリンの動物種は特に限定されないが、ヒトであることが好ましい。また、イムノグロブリン重鎖の定常領域のサブクラスは、IgD、IgM、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2およびIgEのいずれでもよく、好ましくは、IgG由来およびIgM由来が挙げられる。また、イムノグロブリン軽鎖の定常領域のサブクラスは、κおよびλのいずれでもよい。
【0083】
また、イムノグロブリンドメインはイムノグロブリン以外のタンパク質にも存在し、例えば主要組織適合抗原(MHC)、CD1、B7およびT細胞受容体(TCR)などのイムノグロブリンスーパーファミリーに属するタンパク質が含むイムノグロブリンドメインが挙げられる。本発明のバイスペシフィック抗体に用いるイムノグロブリンドメインとしては、いずれのイムノグロブリンドメインも適用することができる。
【0084】
ヒトのIgGの場合、CH1は、EUインデックスで示される118番目から215番目のアミノ酸配列を有する領域を指す。同様に、CH2はKabatらのEUインデックスで示される231番目から340番目のアミノ酸配列を有する領域を、CH3はKabatらのEUインデックスで示される341番目から447番目のアミノ酸配列を有する領域を各々指す。CH1とCH2の間には、ヒンジ(蝶番)領域(以下ヒンジと記載することもある)と呼ばれる柔軟性に富んだアミノ酸領域が存在する。ヒンジ領域は、KabatらのEUインデックスで示される216番目から230番目のアミノ酸配列を有する領域を指す。
【0085】
CLは、ヒトの抗体のκ鎖の場合には、Kabat numberingで示される108番目から214番目のアミノ酸配列を有する領域を、λ鎖の場合には、108番目から215番目のアミノ酸配列を有する領域を各々指す。
【0086】
本発明のIgG型抗体とは、IgG部分とも言い、本発明のバイスペシフィック抗体を構成するIgGまたはFc部分を改変したIgGの部分構造を指し、1本の軽鎖および1本の重鎖からなるヘテロダイマーが2つ会合してなるヘテロテトラマー構造を有する。本発明のTfRに結合するIgG部分とは、TfRを認識するIgG部分、すなわちTfRの細胞外領域を特異的に認識し、かつ結合する機能を有するIgG部分をいう。
【0087】
前記IgGの重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のどのサブクラスでもよい。また、それらのアミノ酸配列の一部を欠失、付加、置換、および/または挿入してもよい。また、IgGの重鎖のCH1、ヒンジ、CH2およびCH3からなるアミノ酸配列の、全部または一部の断片を適宜組み合わせて用いることができる。また、それらのアミノ酸配列を部分的に欠損、または順番を入れ替えて使用することもできる。また、IgG部分に使用するIgGのサブクラスは特に限定されないが、IgG4、IgG4の重鎖定常領域の228番目のSer残基をProに、235番目のLeu残基をAsnにそれぞれ置換したIgG4変異体(以下、IgG4PEと記載する)、またはIgG4の重鎖定常領域の228番目のSer残基をProに、235番目のLeu残基をAsnに、および409番目のArg残基をLysにそれぞれ置換したIgG4変異体(以下、IgG4PE R409Kと記載する)であることが好ましい。
【0088】
例えば、重鎖の定常領域(N末端側から順にCH1―ヒンジ―CH2―CH3)が、配列番号86で表されるアミノ酸配列を含むIgG4PEからなるIgG部分や、配列番号84で表されるアミノ酸配列を含むIgG4PE R409KからなるIgG部分が好ましい。
【0089】
本発明のIgG部分に含まれる2つの可変領域は、同一の抗原を認識することが好ましい。また、同一の構造およびアミノ酸配列を有していることが好ましい。
【0090】
本発明において、細胞表面抗原に結合するN末端側ポリペプチドとは、本発明のバイスペシフィック抗体を構成する部分構造であり、IgG部分の重鎖または軽鎖のN末端側に存在し、各細胞表面抗原の細胞外領域を特異的に認識し、かつ結合するポリペプチドをいう。
【0091】
本発明のバイスペシフィック抗体は、N末端側ポリペプチドを、IgG部分を構成する2つのヘテロダイマー両方の重鎖または軽鎖のN末端に1つずつ有していてもよいし、一方のヘテロダイマーのN末端にのみ1つ有していても良いが、両方の重鎖または軽鎖のN末端に1つずつ有していることが好ましい。両方の重鎖または軽鎖のN末端に1つずつN末端側ポリペプチドを有している場合、それらは同一であっても異なっていてもよいが、同一のN末端側ポリペプチドであることが好ましい。
【0092】
本発明のN末端側ポリペプチドは、細胞表面抗原に対する抗原結合能を有していれば、単鎖であっても複数のポリペプチド鎖からなる多量体であってもよい。N末端側ポリペプチドとしては、例えば細胞表面抗原に対する抗体のFab、Fab’、scFv、dsFvおよびVHHが挙げられるが、FabまたはVHHであることが好ましい。 また、細胞表面抗原に対するリガンド分子やレセプター分子も同様に用いることができる。
【0093】
細胞表面抗原に対する抗体とは、それぞれ、各細胞表面抗原の細胞外領域を特異的に認識し、かつ結合するモノクローナル抗体をいう。例えば、抗EGFR抗体および抗GPC3抗体とは、それぞれEGFRおよびGPC3の細胞外領域を特異的に認識し、かつ結合するモノクローナル抗体をいう。
【0094】
本発明においてリンカーとは、IgG部分とN末端側ポリペプチドを結合させる分子構造であればどのようなものでもよいが、ペプチド鎖が好ましい。ペプチド鎖のアミノ酸配列としては、例えば、ES、ESKYG、ESKYGPP、GGGGS、もしくはGGGGSの繰返し配列からなるもの、または、抗体のヒンジ領域およびCH1ドメインなどの定常領域の一部もしくは全部の配列からなるものなどが挙げられる。
【0095】
本発明のバイスペシフィック抗体が、N末端側ポリペプチドとして細胞表面抗原に対する抗体のFabを有する場合、該Fabに含まれる軽鎖とIgG部分の軽鎖は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。また、軽鎖はλ鎖とκ鎖のいずれでもよいが、κ鎖であることが好ましい。
【0096】
本発明のバイスペシフィック抗体または該抗体断片を構成するアミノ酸配列において、1つ以上のアミノ酸残基が欠失、付加、置換または挿入され、かつ上述の抗体またはその抗体断片と同様な活性を有する抗体またはその抗体断片も、本発明のバイスペシフィック抗体またはその抗体断片に包含される。
【0097】
欠失、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸の数は1個以上でありその数は特に限定されないが、Molecular Cloning, The Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons(1987-1997)、Nucleic Acids Research, 10, 6487(1982)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 79, 6409(1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431(1985)、Proc. Natl. Acad. Sci USA, 82, 488(1985)などに記載の部位特異的変異導入法等の周知の技術により、欠失、置換、挿入若しくは付加できる程度の数である。例えば、通常1~数十個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個である。
【0098】
上記の本発明のバイスペシフィック抗体のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたとは、次のことを示す。同一配列中の任意、かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中において、1または複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入または付加があることを意味する。また、欠失、置換、挿入または付加が同時に生じる場合もあり、置換、挿入または付加されるアミノ酸残基は天然型と非天然型いずれの場合もある。
【0099】
天然型アミノ酸残基としては、例えば、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリンおよびL-システインなどが挙げられる。
【0100】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の好ましい例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
【0101】
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、O-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
【0102】
本発明のバイスペシフィック抗体または該抗体断片は、翻訳後修飾されたいかなるアミノ酸残基を含む抗体をも包含する。翻訳後修飾としては、例えば、H鎖のC末端におけるリジン残基の欠失[リジン・クリッピング(lysine clipping)]およびポリペプチドのN末端におけるグルタミン残基のピログルタミン(pyroGlu)への置換などが挙げられる[Beck et al, Analytical Chemistry, 85, 715-736(2013)]。
【0103】
本発明のバイスペシフィック抗体として具体的には、例えば下記(1)~(4)からなる群より選ばれる、いずれか一つのバイスペシフィック抗体などが挙げられる。
(1)細胞表面抗原に対する抗体の可変領域を含むFabおよびTfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、該FabがIgG部分の重鎖のN末端に直接結合するバイスペシフィック抗体、
(2)細胞表面抗原に対する抗体のVHのCDR1~3を含むVHおよびVLのCDR1~3を含むVLを含むFabならびにTfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、該FabがIgG部分の重鎖のN末端に直接結合するバイスペシフィック抗体、
(3)細胞表面抗原への抗体のVHおよびVLを含むFabならびにTfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、該FabがIgG部分の重鎖のN末端に直接結合するバイスペシフィック抗体、ならびに
(4)細胞表面抗原に結合するVHHおよびTfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、該VHHがIgG部分の重鎖のN末端に直接結合するバイスペシフィック抗体。
【0104】
上記(1)~(3)に記載のバイスペシフィック抗体は、TfRに結合するIgG部分のVLとFabのVLとが同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0105】
本発明のTfRに結合するIgG部分の一例として、それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに以下の1)~3)に示すCDR1~3を含むVHを含むTfRに結合するIgG部分が挙げられる。
1)配列番号32で表されるアミノ酸配列もしくは配列番号32で表されるアミノ酸配列から、2番目のチロシンのアラニンもしくはフェニルアラニンへの置換および3番目のスレオニンのアラニンもしくはグリシンへの置換から選ばれる少なくとも1つの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR1。
2)配列番号33で表されるアミノ酸配列もしくは配列番号33で表されるアミノ酸配列から、1番目のバリンのアラニンへの置換、2番目のイソロイシンのアラニンもしくはロイシンへの置換、7番目のバリンのグルタミン酸への置換、10番目のアスパラギン酸のアラニンへの置換および13番目のアスパラギン酸のプロリンへの置換から選ばれる少なくとも一つの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2。
3)配列番号34で表されるアミノ酸配列もしくは配列番号34で表されるアミノ酸配列から、3番目のグルタミンのアラニンもしくはアスパラギン酸への置換、4番目のプロリンの任意の天然アミノ酸への置換、5番目のトリプトファンのアラニン、フェニルアラニン、ヒスチジンもしくはチロシンへの置換、7番目のチロシンのアラニンもしくはフェニルアラニンへの置換および13番目のバリンのロイシンへの置換から選ばれる少なくとも1つの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3。4番目のプロリンの任意の天然アミノ酸への置換としては、例えば、アラニン、チロシン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、スレオニン、アルギニン、グリシン、リジン、メチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニンもしくはヒスチジンへの置換が挙げられる。
【0106】
本発明のTfRに結合するIgG部分は、それぞれ配列番号32、33および34で示されるVHのCDR1~3のアミノ酸配列およびそれぞれ配列番号17~19で示されるVLのCDR1~3のアミノ酸配列と、それぞれ少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%相同である、VHおよびVLのCDR1~3のアミノ酸配列を含むTfRに結合するIgG部分をも包含する。
【0107】
本発明のTfRに結合するIgG部分は、下記(ai)または(aii)に記載される抗体をも包含する。
(ai)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびにそれぞれ配列番号32、33および34で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVHを含む抗TfR抗体と、競合してTfRに結合するTfRに結合するIgG部分。
(aii)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびにそれぞれ配列番号32、33および34で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVHを含む抗TfR抗体と同じエピトープに結合するTfRに結合するIgG部分。
【0108】
本発明のTfRに結合するIgG部分は、下記(bi)または(bii)に記載される抗体をも包含する。
(bi)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびにそれぞれ配列番号42、43および44で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVHを含む抗TfR抗体と、競合してTfRに結合するIgG部分。
(bii)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびにそれぞれ配列番号42、43および44で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVHを含む抗TfR抗体と同じエピトープに結合する、TfRに結合するIgG部分。
【0109】
本発明のTfRに結合するIgG部分は、下記(ci)または(cii)に記載される抗体をも包含する。
(ci)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびにそれぞれ配列番号47、48および49で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVHを含む抗TfR抗体と、競合してTfRに結合するIgG部分。
(cii)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびにそれぞれ配列番号47、48および49で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVHを含む抗TfR抗体と同じエピトープに結合する、TfRに結合するIgG部分。
【0110】
本発明のTfRに結合するIgG部分の他の一例として、配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むVLおよび26、31、36、41、46または106で示されるアミノ酸配列を含むVHを含むTfRに結合するIgG部分が挙げられる。
【0111】
本発明のTfRに結合するIgG部分の一例として、それぞれ配列番号17~19で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVL、および、以下から選ばれる1のVHを含む、TfRに結合するIgG部分が挙げられる。
(a)それぞれ配列番号33および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR2および3、ならびに、配列番号32で表されるアミノ酸配列から、2番目のチロシンのアラニンまたはフェニルアラニンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR1を含むVH
(b)それぞれ配列番号33および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR2および3、ならびに、配列番号32で表されるアミノ酸配列から、3番目のスレオニンのアラニンまたはグリシンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR1を含むVH
(c)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、1番目のバリンのアラニンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(d)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、2番目のイソロイシンのアラニンまたはロイシンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(e)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、7番目のバリンのグルタミン酸への置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(f)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、10番目のアスパラギン酸のアラニンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(g)それぞれ配列番号32および34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および3、ならびに、配列番号33で表されるアミノ酸配列から、13番目のアスパラギン酸のプロリンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR2を含むVH
(h)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、3番目のグルタミンのアラニンまたはアスパラギン酸への置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(i)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、4番目のプロリンの任意の天然アミノ酸への置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(j)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、4番目のプロリンのアラニン、チロシン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、スレオニン、アルギニン、グリシン、リジン、メチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニンもしくはヒスチジンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(k)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、5番目のトリプトファンのアラニン、フェニルアラニン、ヒスチジンまたはチロシンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(l)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、7番目のチロシンのアラニンまたはフェニルアラニンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
(m)それぞれ配列番号32および33で表されるアミノ酸配列を含むCDR1および2、ならびに、配列番号34で表されるアミノ酸配列から、バリンのロイシンへの置換により改変されたアミノ酸配列を含むCDR3を含むVH
【0112】
本発明のTfRに結合するIgG部分の一例として、配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVL、ならびに配列番号31で表されるアミノ酸配列から、KabatらによるEUインデックス(以下、EUインデックス)により示されるY32A、Y32F、T33A、T33G、L45A、V48A、V50A、I51A、I51L、V55E、D58A、D61P、Q97A、Q97D、W99A、W99F、W99H、W99Y、Y100AA、Y100AF、V102L、およびP98の任意のアミノ酸への置換から選ばれる少なくとも1つの置換により改変されたアミノ酸配列を含むVHを含むTfRに結合するIgG部分が挙げられる。
【0113】
本発明のTfRに結合するIgG部分の一例として、配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVL、ならびに配列番号31で表されるアミノ酸配列から、EUインデックスにより示されるY32A、Y32F、T33A、T33G、L45A、V48A、V50A、I51A、I51L、V55E、D58A、D61P、Q97A、Q97D、W99A、W99F、W99H、W99Y、Y100AA、Y100AF、V102L、P98A、P98Y、P98S、P98D、P98Q、P98E、P98T、P98R、P98G、P98K、P98M、P98V、P98L、P98I、P98W、P98F、およびP98Hから選ばれるいずれか1つの置換により改変されたアミノ酸配列を含むVHを含むTfRに結合するIgG部分が挙げられる。
【0114】
本発明のTfRに結合するIgG部分の一例として、配列番号6で表されるTfRのアミノ酸配列の352番目のAsp、355番目のSer、356番目のAsp、および358番目のLysから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基、並びに、365番目のMet、366番目のVal、および369番目のGluから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基を認識するTfRに結合するIgG部分が挙げられる。該TfRに結合するIgG部分の一態様としては、例えば、352番目のAsp、355番目のSer、356番目のAspおよび358番目のLysのうち少なくとも2つのアミノ酸残基、並びに365番目のMet、366番目のValおよび369番目のGluのうち少なくとも2つのアミノ酸残基を認識するTfRに結合するIgG部分;352番目のAsp、355番目のSer、356番目のAspおよび358番目のLysから選ばれる少なくとも3つのアミノ酸残基、並びに365番目のMet、366番目のValおよび369番目のGluのすべてのアミノ酸残基を認識するTfRに結合するIgG部分;352番目のAsp、355番目のSer、356番目のAspおよび358番目のLysのすべてのアミノ酸残基、並びに365番目のMet、366番目のValおよび369番目のGluのすべてのアミノ酸残基を認識するTfRに結合するIgG部分;が挙げられる。
【0115】
本発明の抗EGFR抗体の一例として、それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに以下の(2a)~(2b)から選ばれるいずれか1つのVHを含む抗EGFR抗体が挙げられる。
(2a)それぞれ配列番号60、61および62で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH、
(2b)それぞれ配列番号65、66および67で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH。
【0116】
本発明の抗EGFR抗体は、上記(2a)~(2b)のいずれか1つに示されるVHのCDR1~3のアミノ酸配列およびそれぞれ配列番号17~19で示されるVLのCDR1~3のアミノ酸配列と、それぞれ少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%相同である、VHおよびVLのCDR1~3のアミノ酸配列を含む抗EGFR抗体をも包含する。
【0117】
本発明の抗EGFR抗体は、下記(i)または(ii)に記載される抗体をも包含する。
(i)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに上記(2a)~(2b)のいずれか1つに示されるVHを含む抗EGFR抗体と、競合してEGFRに結合する抗体。
(ii)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに上記(2a)~(2b)のいずれか1つに示されるVHを含む抗EGFR抗体と同じエピトープに結合する抗体。
【0118】
本発明の抗EGFR抗体の他の例として、以下の(a)~(e)から選ばれる1のバイスペシフィック抗体が挙げられる。
(a)配列番号59または配列番号64で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号16で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
(b)配列番号110で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号111で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
(c)配列番号112で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号113で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
(d)配列番号114で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号115で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
(e)配列番号116で表されるアミノ酸配列を含むVH、および配列番号117で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む抗体
【0119】
本発明の一態様として、N末端側ポリペプチドとTfRに結合するIgG部分を含み、該N末端側ポリペプチドがFabであり、該FabのVH-CH1のC末端が前記TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介して結合しているバイスペシフィック抗体も挙げられる。
【0120】
また、本発明の一態様として、N末端側ポリペプチドとTfRに結合するIgG部分を含み、該N末端側ポリペプチドがFabであり、該FabのVL-CLのC末端が前記TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介して結合しているバイスペシフィック抗体も挙げられる。
【0121】
本発明の一態様として、TfRに結合するIgG部分とEGFRに結合するN末端側ポリペプチドを含むバイスペシフィック抗体が挙げられる。
【0122】
本発明のバイスペシフィック抗体としてより具体的には、以下の(i)から(iv)で表されるバイスペシフィック抗体が挙げられる。
【0123】
(i)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびにそれぞれ配列番号60、61および62で表されるVHを含む、抗EGFR抗体のFabならびにそれぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVL、ならびに以下の(a)~(f)のいずれか1つのVHを含むTfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、
該TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介して該Fabが結合するバイスペシフィック抗体。
(a)それぞれ配列番号22、23および24で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(b)それぞれ配列番号27、28および29で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(c)それぞれ配列番号32、33および34で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(d)それぞれ配列番号37、38および39で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(e)それぞれ配列番号42、43および44で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(f)それぞれ配列番号47、48および49で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
【0124】
(ii)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびにそれぞれ配列番号65、66および67で表されるVHを含む、抗EGFR抗体のFabならびにそれぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVL、ならびに以下の(a)~(f)のいずれか1つのVHを含むTfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、
該TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介して該Fabが結合するバイスペシフィック抗体。
(a)それぞれ配列番号22、23および24で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(b)それぞれ配列番号27、28および29で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(c) それぞれ配列番号32、33および34で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(d)それぞれ配列番号37、38および39で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(e)それぞれ配列番号42、43および44で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(f)それぞれ配列番号47、48および49で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
【0125】
(iii)それぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびにそれぞれ配列番号70、71および72で表されるVHを含む、抗EGFR抗体のFabならびにそれぞれ配列番号17、18および19で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVL、ならびに以下の(a)~(f)のいずれか1つのVHを含むTfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、
該TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介して該Fabが結合するバイスペシフィック抗体。
(a)それぞれ配列番号22、23および24で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(b)それぞれ配列番号27、28および29で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(c)それぞれ配列番号32、33および34で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(d)それぞれ配列番号37、38および39で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(e)それぞれ配列番号42、43および44で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
(f)それぞれ配列番号47、48および49で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH
【0126】
(iv)配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むVLおよび配列番号59で示されるアミノ酸配列を含むVHを含む、抗EGFR抗体のFabならびに配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むVL、および配列番号21、26、31、36、41または46で示されるアミノ酸配列を含むVHを含む、TfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、
該TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介して該Fabが結合するバイスペシフィック抗体。
【0127】
(v)配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むVLおよび配列番号64で示されるアミノ酸配列を含むVHを含む、抗EGFR抗体のFabならびに配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むVL、および配列番号21、26、31、36、41または46で示されるアミノ酸配列を含むVHを含む、TfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、
該TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介して該Fabが結合するバイスペシフィック抗体。
【0128】
(vi)配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むVLおよび配列番号69で示されるアミノ酸配列を含むVHを含む、抗EGFR抗体のFabならびに配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むVL、および配列番号21、26、31、36、41または46で示されるアミノ酸配列を含むVHを含む、TfRに結合するIgG部分を含むバイスペシフィック抗体であって、
該TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介して該Fabが結合するバイスペシフィック抗体。
【0129】
上記(i)~(vi)で表されるバイスペシフィック抗体として、前記TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介して結合するのが前記FabのVH-CH1であってもVL-CLでもよいが、VH-CH1が好ましい。
【0130】
本発明の一態様として、TfRに結合するIgG部分の重鎖C末端に直接またはリンカーを介してN末端側ポリペプチドが結合するバイスペシフィック抗体であり、該TfRに結合するIgG部分の定常領域がIgG1、IgG4またはそれらの改変体であるバイスペシフィック抗体が挙げられる。本発明のさらに好ましい一態様としては、該TfRに結合するIgG部分の重鎖定常領域にIgG4PEまたはIgG4PE R409Kを含み、
該TfRに結合するIgG部分の重鎖N末端に直接またはリンカーを介してN末端側ポリペプチドが結合するバイスペシフィック抗体が挙げられる。
【0131】
本発明の一態様として、TfRに結合するIgG部分とEGFRに結合するN末端側ポリペプチドを含み、N末端側ポリペプチドがFabであり、FabがIgG部分の重鎖N末端にリンカーを介して結合しているバイスペシフィック抗体が挙げられる。更に好ましい一態様として、前記リンカーのアミノ酸配列がES、ESKYG、ESKYGPP、GGGGS、またはGGGGSの繰返し配列から選ばれる1つであるバイスペシフィック抗体が挙げられる。
【0132】
本発明のバイスペシフィック抗体の例として、E08-TfR1071またはE12-TfR1071が挙げられる。
【0133】
本発明のバイスペシフィック抗体または該抗体断片には、エフェクター活性を有する抗体または該抗体断片も包含される。
【0134】
エフェクター活性とは、抗体のFc領域を介して引き起こされる抗体依存性の細胞傷害活性を指し、例えば、抗体依存性細胞傷害活性(Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity activity;ADCC活性)、補体依存性細胞傷害活性(Complement-Dependent Cytotoxicity activity; CDC活性)、マクロファージや樹状細胞などの食細胞による抗体依存性貪食活性(Antibody-dependent cellular phagocytosis activity;ADCP活性)およびオプソニン効果などが挙げられる。
【0135】
本発明においてADCC活性およびCDC活性は、公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]を用いて測定することができる。
【0136】
ADCC活性とは、標的細胞上の抗原に結合した抗体が、抗体のFc領域を介して免疫細胞のFc受容体と結合することで免疫細胞(ナチュラルキラー細胞など)を活性化し、標的細胞を傷害する活性をいう。
【0137】
Fc受容体(FcR)は、抗体のFc領域に結合する受容体であり、抗体の結合によりさまざまなエフェクター活性を誘発する。各FcRは抗体のサブクラスに対応し、IgG、IgE、IgA、IgMはそれぞれFcγR、FcεR、FcαR、FcμRに特異的に結合する。さらにFcγRには、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)のサブタイプが存在し、それぞれのサブタイプにはFcγRIA、FcγRIB、FcγRIC、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIAおよびFcγRIIIBのアイソフォームが存在する。これらの異なるFcγRは異なる細胞上に存在する[Annu. Rev. Immunol. 9:457-492(1991)]。ヒトにおいては、FcγRIIIBは好中球に特異的に発現しており、FcγRIIIAは単球、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージおよび一部のT細胞に発現する。FcγRIIIAへの抗体の結合を介して、NK細胞依存的なADCC活性が誘発される。
【0138】
CDC活性とは、標的細胞上の抗原に結合した抗体が血液中の補体関連タンパク質群からなる一連のカスケード(補体活性化経路)を活性化し、標的細胞を傷害する活性をいう。また、補体の活性化により生じるタンパク質断片により、免疫細胞の遊走および活性化が誘導される。CDC活性のカスケードは、まずC1qがFc領域に結合し、次に2つのセリンプロテアーゼであるC1rおよびC1sと結合することで、C1複合体を形成し開始される。
【0139】
本発明のバイスペシフィック抗体または該抗体断片の抗原発現細胞に対するCDC活性、またはADCC活性は、公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]により評価することができる。
【0140】
本発明のバイスペシフィック抗体のエフェクター活性を制御する方法としては、抗体のFc領域(CH2およびCH3ドメインからなる定常領域)の297番目のアスパラギン(Asn)に結合するN-結合複合型糖鎖の還元末端に存在するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)にα-1,6結合するフコース(コアフコースともいう)の量を制御する方法(国際公開第2005/035586号、国際公開第2002/31140号および国際公開第00/61739号)や、抗体のFc領域のアミノ酸残基の改変により制御する方法(国際公開第00/42072号)などが知られている。
【0141】
バイスペシフィック抗体に付加するフコースの量を制御することで、抗体のADCC活性を増加または低下させることができる。例えば、抗体のFcに結合しているN-結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を低下させる方法として、α1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損した宿主細胞を用いてバイスペシフィック抗体を発現することで、高いADCCを有するバイスペシフィック抗体を取得することができる。一方、バイスペシフィック抗体のFcに結合しているN-結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を増加させる方法として、α1,6-フコース転移酵素遺伝子を導入した宿主細胞を用いて抗体を発現させることで、低いADCC活性を有するバイスペシフィック抗体を取得することができる。
【0142】
また、バイスペシフィック抗体のFc領域のアミノ酸残基を改変することでADCC活性やCDC活性を増加または低下させることができる。例えば、米国特許出願公開第2007/0148165号明細書に記載のFc領域のアミノ酸配列を用いることで、バイスペシフィック抗体のCDC活性を増加させることができる。また、米国特許第6,737,056号明細書、米国特許第7,297,775号明細書または米国特許第7,317,091号明細書などに記載のアミノ酸改変を行うことで、ADCC活性またはCDC活性を、増加させることも低下させることもできる。
【0143】
さらに、上述の方法を組み合わせることにより、エフェクター活性が制御されたバイスペシフィック抗体を取得してもよい。
【0144】
本発明のバイスペシフィック抗体の安定性は、精製過程や一定条件下で保存されたサンプルにおいて形成される凝集体(オリゴマー)量を測定することによって評価することができる。すなわち、同一条件下で凝集体量が低減する場合を、抗体の安定性が向上したものと評価する。凝集体量は、ゲルろ過クロマトグラフィーを含む適当なクロマトグラフィーを用いて凝集した抗体と凝集していない抗体とを分離することによって測定することができる。
【0145】
本発明のバイスペシフィック抗体の生産性は、抗体産生細胞から培養液中に産生される抗体量を測定することによって評価することができる。より具体的には、培養液から産生細胞を除いた培養上清に含まれる抗体の量をHPLC法やELISA法などの適当な方法で測定することによって評価することができる。
【0146】
本発明において、抗体断片とは、抗原結合部位を含み、該抗原に対する抗原結合活性を有するタンパク質である。例えばFab、Fab’、F(ab’)、scFv、Diabody、dsFv、VHHまたはCDRを含むペプチドなどが挙げられる。
【0147】
Fabは、IgG抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体とがジスルフィド結合(S-S結合)で結合した、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。VHおよびCH1を含むFabのH鎖を、VH-CH1と記載する。また、VLおよびCLを含むFabのL鎖をVL-CLと記載する。
【0148】
F(ab’)は、IgGをタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち(H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のS-S結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0149】
Fab’は、上記F(ab’)のヒンジ領域のS-S結合を切断した、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0150】
scFvは、1本のVHと1本のVLとを12残基以上の適当なペプチドリンカー(P)を用いて連結した、VH-P-VLまたはVL-P-VHポリペプチドであり、抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0151】
Diabodyは、抗原結合特異性の同じまたは異なるscFvが2量体を形成した抗体断片であり、同じ抗原に対する2価の抗原結合活性、または異なる抗原に対し各々特異的な抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0152】
dsFvは、VHおよびVL中の各1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを、該システイン残基間のS-S結合を介して結合させたものをいう。
【0153】
VHH(ナノボディともいう)は、VHH抗体における重鎖可変領域を指し、他のポリペプチドの存在なしで抗原に結合することができる。
【0154】
VHH抗体は、アルパカ等のラクダ科の動物およびサメ等の軟骨魚に存在する抗体であり、軽鎖とCH1がなく、重鎖のみからなる。
【0155】
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、CDR同士を直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることで作製することができる。CDRを含むペプチドは、本発明のバイスペシフィック抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法またはtBoc法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0156】
本発明において、バイスペシフィック抗体断片とは、本質的にバイスペシフィック抗体の部分構造からなり、2種類の抗原に対する抗原結合活性を有するバイスペシフィック抗体断片である。
【0157】
本発明のバイスペシフィック抗体のFcと抗体断片とが結合した融合タンパク質、該Fcと天然に存在するリガンドまたは受容体とが結合したFc融合タンパク質(イムノアドヘシンともいう)、および複数のFc領域を融合させたFc融合タンパク質等も本発明に包含される。また、抗体のエフェクター活性の増強または欠損、抗体の安定化、および血中半減期の制御を目的としたアミノ酸残基改変を含むFc領域も、本発明のバイスペシフィック抗体に用いることができる。
【0158】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片としては、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片に放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、タンパク質または抗体医薬などを化学的または遺伝子工学的に結合させた抗体の誘導体を包含する。
【0159】
本発明における抗体の誘導体は、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片のH鎖またはL鎖のN末端側或いはC末端側、該抗体またはその抗体断片中の適当な置換基或いは側鎖、さらには該抗体またはその抗体断片中の糖鎖などに、放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、免疫賦活剤、タンパク質または抗体医薬などを化学的手法[抗体工学入門、地人書館(1994)]により結合させることで製造することができる。
【0160】
また、本発明における抗体の誘導体は、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNAと、所望のタンパク質または抗体医薬をコードするDNAとを連結させて、発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを適当な宿主細胞へ導入し発現させる、遺伝子工学的手法により製造することができる。
【0161】
放射性同位元素としては、例えば、111In、131I、125I、90Y、64Cu、99Tc、77Luまたは211Atなどが挙げられる。放射性同位元素は、クロラミンT法などによって抗体に直接結合させることができる。また、放射性同位元素をキレートする物質を抗体に結合させてもよい。キレート剤としては、例えば、1-イソチオシアネートベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)などが挙げられる。
【0162】
低分子の薬剤としては、例えば、アルキル化剤、ニトロソウレア剤、代謝拮抗剤、抗生物質、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン療法剤、ホルモン拮抗剤、アロマターゼ阻害剤、P糖蛋白阻害剤、白金錯体誘導体、M期阻害剤若しくはキナーゼ阻害剤などの抗癌剤[臨床腫瘍学、癌と化学療法社(1996)]、ハイドロコーチゾン若しくはプレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン若しくはインドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート若しくはペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド若しくはアザチオプリンなどの免疫抑制剤またはマレイン酸クロルフェニラミン若しくはクレマシチンのような抗ヒスタミン剤などの抗炎症剤[炎症と抗炎症療法、医歯薬出版株式会社(1982)]などが挙げられる。
【0163】
抗癌剤としては、例えば、アミフォスチン(エチオール)、シスプラチン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)、ストレプトゾシン、シクロフォスファミド、イホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エピルビシン、ゲムシタビン(ゲムザール)、ダウノルビシン、プロカルバジン、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、5-フルオロウラシル、フルオロウラシル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、ダウノマイシン、ペプロマイシン、エストラムスチン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテア)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、10-ヒドロキシ-7-エチル-カンプトテシン(SN38)、フロクスウリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、メスナ、イリノテカン(CPT-11)、ノギテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、ヒドロキシカルバミド、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパラガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、ストレプトゾシン、タモキシフェン、ゴセレリン、リュープロレニン、フルタミド、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル、ハイドロコーチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ビンデシン、ニムスチン、セムスチン、カペシタビン、トムデックス、アザシチジン、UFT、オキザロプラチン、ゲフィチニブ(イレッサ)、イマチニブ(STI571)、エルロチニブ、FMS-like tyrosine kinase 3(Flt3)阻害剤、vascular endothelial growth facotr receptor(VEGFR)阻害剤、fibroblast growth factor receptor(FGFR)阻害剤、タルセバなどのepidermal growth factor receptor(EGFR)阻害剤、ラディシコール、17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、ラパマイシン、アムサクリン、オール-トランスレチノイン酸、サリドマイド、レナリドマイド、アナストロゾール、ファドロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、金チオマレート、D-ペニシラミン、ブシラミン、アザチオプリン、ミゾリビン、シクロスポリン、ラパマイシン、ヒドロコルチゾン、ベキサロテン(タルグレチン)、タモキシフェン、デキサメタゾン、プロゲスチン類、エストロゲン類、アナストロゾール(アリミデックス)、ロイプリン、アスピリン、インドメタシン、セレコキシブ、アザチオプリン、ペニシラミン、金チオマレート、マレイン酸クロルフェニラミン、クロロフェニラミン、クレマシチン、トレチノイン、ベキサロテン、砒素、ボルテゾミブ、アロプリノール、カリケアマイシン、イブリツモマブチウキセタン、タルグレチン、オゾガミン、クラリスロマシン、ロイコボリン、ケトコナゾール、アミノグルテチミド、スラミン、メトトレキセート若しくはメイタンシノイドまたはその誘導体などが挙げられる。
【0164】
低分子の薬剤と本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片とを結合させる方法としては、例えば、グルタールアルデヒドを介して薬剤と該抗体のアミノ基間を結合させる方法、または水溶性カルボジイミドを介して薬剤のアミノ基と該抗体のカルボキシル基とを結合させる方法などが挙げられる。
【0165】
高分子の薬剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、アルブミン、デキストラン、ポリオキシエチレン、スチレンマレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、またはヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどが挙げられる。これらの高分子化合物を本発明のバイスペシフィック抗体または抗体断片に結合させることにより、(1)化学的、物理的若しくは生物的な種々の因子に対する安定性の向上、(2)血中半減期の顕著な延長、または(3)免疫原性の消失若しくは抗体産生の抑制、などの効果が期待される[バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店(1993)]。
【0166】
例えば、PEGと本発明のバイスペシフィック抗体を結合させる方法としては、PEG化修飾試薬と反応させる方法などが挙げられる[バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店(1993)]。PEG化修飾試薬としては、リジンのε-アミノ基への修飾剤(日本国特開昭61-178926号公報)、アスパラギン酸およびグルタミン酸のカルボキシル基への修飾剤(日本国特開昭56-23587号公報)、またはアルギニンのグアニジノ基への修飾剤(日本国特開平2-117920号公報)などが挙げられる。
【0167】
免疫賦活剤としては、イムノアジュバントとして知られている天然物でもよく、具体例としては、免疫を亢進する薬剤が、β(1→3)グルカン(例えば、レンチナンまたはシゾフィラン)、またはαガラクトシルセラミド(KRN7000)などが挙げられる。
【0168】
タンパク質としては、例えば、NK細胞、マクロファージまたは好中球などの免疫担当細胞を活性化するサイトカイン若しくは増殖因子または毒素タンパク質などが挙げられる。
【0169】
サイトカインまたは増殖因子としては、例えば、インターフェロン(以下、IFNと記す)-α、IFN-β、IFN-γ、インターロイキン(以下、ILと記す)-2、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)などが挙げられる。
【0170】
毒素タンパク質としては、例えば、リシン、ジフテリアトキシンまたはONTAKなどが挙げられ、毒性を調節するためにタンパク質に変異を導入したタンパク毒素も含まれる。
【0171】
タンパク質または抗体医薬との融合抗体は、本発明のバイスペシフィック抗体または抗体断片をコードするcDNAにタンパク質をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物または真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0172】
上記抗体の誘導体を検出方法、定量方法、検出用試薬、定量用試薬または診断薬として使用する場合に、本発明のバイスペシフィック抗体またはその抗体断片に結合する薬剤としては、通常の免疫学的検出または測定法で用いられる標識体が挙げられる。標識体としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ若しくはルシフェラーゼなどの酵素、アクリジニウムエステル若しくはロフィンなどの発光物質、またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート(RITC)、Alexa(登録商標) Fluor 488、R-phycoerythrin(R-PE)などの蛍光物質などが挙げられる。
【0173】
本発明には、CDC活性またはADCC活性などの細胞傷害活性を有するバイスペシフィック抗体および該バイスペシフィック抗体断片が包含される。本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の抗原発現細胞に対するCDC活性またはADCC活性は公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373 (1993)]により評価することができる。
【0174】
また、本発明は、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原を特異的に認識し結合するバイスペシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片を含む組成物、または該バイスペシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片を有効成分として含有する、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の発現細胞が関与する疾患の治療薬に関する。
【0175】
TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患としては、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係している疾患であればいかなるものでもよいが、例えば、悪性腫瘍およびがんなどが挙げられる。
【0176】
本発明において、悪性腫瘍およびがんとしては、例えば、大腸がん、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、グリオーマ、悪性黒色腫(メラノーマ)、甲状腺がん、腎細胞がん、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胆管がん、食道がん、肝臓がん、頭頚部がん、皮膚がん、尿路がん、膀胱がん、前立腺がん、絨毛がん、咽頭がん、喉頭がん、中皮腫、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、膠芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫およびウィルムス腫瘍などが挙げられる。
【0177】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を含有する治療薬は、有効成分としての該バイスペシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが好ましい。
【0178】
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内または静脈内などの非経口投与が挙げられる。中でも、静脈内投与が好ましい。
【0179】
投与形態としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏またはテープ剤などが挙げられる。
【0180】
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢および体重などにより異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg~10mg/kgである。
【0181】
さらに、本発明は、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含有する、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方の免疫学的検出用若しくは測定用試薬、またはTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の発現細胞が関与する疾患の診断薬に関する。また、本発明は、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方の免疫学的検出用若しくは測定用方法、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の発現細胞が関与する疾患の治療方法、またはTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の発現細胞が関与する疾患の診断方法に関する。
【0182】
本発明においてTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方の量を検出または測定する方法としては、任意の公知の方法が挙げられる。例えば、免疫学的検出または測定方法などが挙げられる。
【0183】
免疫学的検出または測定方法とは、標識を施した抗原または抗体を用いて、抗体量または抗原量を検出または測定する方法である。免疫学的検出または測定方法としては、例えば、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIAまたはELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、発光免疫測定法(luminescent immunoassay)、ウェスタンブロット法または物理化学的手法などが挙げられる。
【0184】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いてTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が発現した細胞を検出または測定することにより、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の発現細胞が関与する疾患を診断することができる。
【0185】
TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が発現している細胞の検出には、公知の免疫学的検出法を用いることができるが、例えば、免疫沈降法、免疫細胞染色法、免疫組織染色法または蛍光抗体染色法などが挙げられる。また、例えば、FMAT8100HTSシステム(アプライドバイオシステム社製)などの蛍光抗体染色法なども挙げられる。
【0186】
本発明においてTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を検出または測定する対象となる生体試料としては、例えば、組織細胞、血液、血漿、血清、膵液、尿、糞便、組織液または培養液など、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が発現した細胞を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。
【0187】
本発明のバイスペシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を含有する診断薬は、目的とする診断方法に応じて、抗原抗体反応を行なうための試薬、該反応の検出用試薬を含んでもよい。抗原抗体反応を行なうための試薬としては、例えば、緩衝剤、塩などが挙げられる。
【0188】
検出用試薬としては、例えば、前記バイスペシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体に結合する標識された二次抗体、または標識に対応した基質などの通常の免疫学的検出または測定法に用いられる試薬が挙げられる。
【0189】
以下、本発明のバイスペシフィック抗体の作製方法、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の活性評価方法、並びに該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた疾患の治療方法および診断方法について具体的に記載する。
【0190】
1.モノクローナル抗体の作製方法
本発明におけるモノクローナル抗体の製造方法は、下記の作業工程を包含する。すなわち、(1)免疫原として使用する抗原の精製および細胞表面に抗原が過剰発現した細胞の作製の少なくとも一方、(2)抗原を動物に免疫した後、血液を採取しその抗体価を検定して脾臓などを摘出する時期を決定し、抗体産生細胞を調製する工程、(3)骨髄腫細胞(ミエローマ)の調製、(4)抗体産生細胞とミエローマとの細胞融合、(5)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群の選別、(6)ハイブリドーマ群からの単クローン(monoclonal)細胞の分離(クローニング)、(7)場合によっては、モノクローナル抗体を大量に製造するためのハイブリドーマの培養、またはハイブリドーマを移植した動物の飼育、(8)このようにして製造されたモノクローナル抗体の生理活性およびその抗原結合特異性の検討、または標識試薬としての特性の検定、などである。
【0191】
以下、本発明におけるTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原に結合するバイスペシフィック抗体を作製するために使用する、TfRに結合するモノクローナル抗体およびEGFR等の細胞表面抗原に結合するモノクローナル抗体の作製方法を上記の工程に沿って詳述する。該抗体の作製方法はこれに制限されず、例えば脾臓細胞以外の抗体産生細胞およびミエローマを使用することもできる。
【0192】
(1)抗原の精製
EGFR等の細胞表面抗原またはTfRを発現させた細胞は、EGFR等の細胞表面抗原またはTfRの全長またはその部分長をコードするcDNAを含む発現ベクターを、大腸菌、酵母、昆虫細胞または動物細胞などに導入することにより、得ることができる。また、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を多量に発現している各種ヒト腫瘍培養細胞またはヒト組織などからTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を精製し、抗原として使用することができる。また、該腫瘍培養細胞または該組織などをそのまま抗原として用いることもできる。さらに、Fmoc法またはtBoc法などの化学合成法によりEGFR等の細胞表面抗原またはTfRの部分配列を有する合成ペプチドを調製し、抗原に用いることもできる。
【0193】
本発明で用いられるEGFR等の細胞表面抗原またはTfRは、Molecular Cloning,A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)やCurrent Protocols In Molecular Biology, John Wiley & Sons(1987-1997)などに記載された方法などを用い、例えば以下の方法により、該EGFR等の細胞表面抗原またはTfRをコードするDNAを宿主細胞中で発現させることで製造することができる。
【0194】
EGFR等の細胞表面抗原またはTfRをコードする部分を含む完全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えベクターを作製する。上記完全長cDNAの代わりに、完全長cDNAをもとにして調製された、ポリペプチドをコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を用いてもよい。次に、得られた該組換えベクターを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、EGFR等の細胞表面抗原またはTfRを生産する形質転換体を得ることができる。
【0195】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞における自律複製または染色体中への組込みが可能で、かつEGFR等の細胞表面抗原またはTfRをコードするDNAを転写できる位置に適当なプロモーターを含有しているものであれば、いずれも用いることができる。
【0196】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌などのエシェリヒア属などに属する微生物、酵母、昆虫細胞または動物細胞など、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。
【0197】
大腸菌などの原核生物を宿主細胞として用いる場合、組換えベクターは、原核生物中で自律複製が可能であるとともに、プロモーター、リボソーム結合配列、EGFR等の細胞表面抗原またはTfRをコードする部分を含むDNA、並びに転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。また、該組換えベクターには、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。さらに、該組換えベクターは、プロモーターを制御する遺伝子を含んでもよい。
【0198】
該組換えベクターとしては、リボソーム結合配列であるシャイン・ダルガルノ配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば、6~18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
【0199】
また、該EGFR等の細胞表面抗原またはTfRをコードするDNAの塩基配列としては、宿主内での発現に最適なコドンとなるように塩基を置換することができ、これにより目的とするEGFR等の細胞表面抗原またはTfRの生産率を向上させることができる。
【0200】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(以上、ロシュ・ダイアグノスティックス社製)、pKK233-2(ファルマシア社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-8(キアゲン社製)、pKYP10(日本国特開昭58-110600号公報)、pKYP200[Agricultural Biological Chemistry, 48, 669(1984)]、pLSA1[Agric. Biol. Chem., 53, 277(1989)]、pGEL1[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4306(1985)]、pBluescript II SK(-)(ストラタジーン社製)、pTrs30[大腸菌JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製]、pTrs32[大腸菌JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製]、pGHA2[大腸菌IGHA2(FERM BP-400)より調製、日本国特開昭60-221091号公報]、pGKA2[大腸菌IGKA2(FERM BP-6798)より調製、日本国特開昭60-221091号公報]、pTerm2(米国特許第4,686,191号明細書、米国特許第4,939,094号明細書、米国特許第5,160,735号明細書)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400[J. Bacteriol., 172, 2392 (1990)]、pGEX(ファルマシア社製)、pETシステム(ノバジェン社製)またはpME18SFL3(東洋紡社製)などが挙げられる。
【0201】
プロモーターとしては、使用する宿主細胞中で機能するものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターまたはT7プロモーターなどの、大腸菌またはファージなどに由来するプロモーターが挙げられる。また、例えば、Ptrpを2つ直列させたタンデムプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーター、またはlet Iプロモーターなどの人為的に設計改変されたプロモーターなども挙げられる。
【0202】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌XL1-Blue、大腸菌XL2-Blue、大腸菌DH1、大腸菌MC1000、大腸菌KY3276、大腸菌W1485、大腸菌JM109、大腸菌HB101、大腸菌No.49、大腸菌W3110、大腸菌NY49、または大腸菌DH5αなどが挙げられる。
【0203】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、使用する宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110(1972)、Gene, 17, 107(1982)、Molecular & General Genetics, 168, 111(1979)]が挙げられる。
【0204】
動物細胞を宿主として用いる場合、発現ベクターとしては、動物細胞中で機能するものであればいずれも用いることができ、例えば、pcDNAI(インビトロジェン社製)、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107[日本国特開平3-22979号公報;Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、pAS3-3(日本国特開平2-227075号公報)、pCDM8[Nature, 329, 840 (1987)]、pcDNAI/Amp(インビトロジェン社製)、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103[J. Biochemistry, 101, 1307 (1987)]、pAGE210、pME18SFL3またはpKANTEX93(国際公開第97/10354号)などが挙げられる。
【0205】
プロモーターとしては、動物細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のimmediate early(IE)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーターまたはモロニーマウス白血病ウイルスのプロモーター若しくはエンハンサーが挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
【0206】
宿主細胞としては、例えば、ヒトバーキットリンパ腫細胞Namalwa、アフリカミドリザル腎臓由来細胞COS、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞CHO、またはヒト白血病細胞HBT5637(日本国特開昭63-000299号公報)などが挙げられる。
【0207】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、リン酸カルシウム法(日本国特開平2-227075号公報)、またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413(1987)]などが挙げられる。
【0208】
以上のようにして得られるEGFR等の細胞表面抗原またはTfRをコードするDNAを組み込んだ組換えベクターを保有する微生物、または動物細胞などに由来する形質転換体を培地中で培養し、培養物中に該TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、EGFR等の細胞表面抗原またはTfRを製造することができる。該形質転換体を培地中で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0209】
真核生物由来の細胞で発現させた場合には、糖または糖鎖が付加されたEGFR等の細胞表面抗原またはTfRを得ることができる。
【0210】
誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する際には、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドなどを、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはインドールアクリル酸などを、各々培地に添加してもよい。
【0211】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、例えば、一般に使用されているRPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association, 199, 519(1967)]、EagleのMEM培地[Science, 122, 501 (1952)]、ダルベッコ改変MEM培地[Virology, 8, 396(1959)]、199培地[Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 73, 1 (1950)]、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)培地、またはこれら培地に牛胎児血清(FBS)などを添加した培地などが挙げられる。培養は、通常pH6~8、30~40℃、5%CO存在下などの条件下で1~7日間行う。また、培養中に、必要に応じて、カナマイシン、ペニシリンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。
【0212】
EGFR等の細胞表面抗原またはTfRをコードする遺伝子の発現方法としては、直接発現以外に、分泌生産または融合タンパク質発現などの方法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)]を用いることができる。EGFR等の細胞表面抗原またはTfRの生産方法としては、例えば、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、または宿主細胞外膜上に生産させる方法が挙げられ、使用する宿主細胞や、生産させるEGFR等の細胞表面抗原またはTfRの構造を変えることにより、適切な方法を選択することができる。
【0213】
例えば、細胞外領域のアミノ酸配列をコードするDNAに、抗体のFc領域をコードするDNA、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)をコードするDNA、またはFLAGタグをコードするDNAまたはHistidineタグをコードするDNAなどを連結したDNAを作製して、発現し精製することで抗原融合タンパク質を作製することができる。具体的には、例えばEGFR等の細胞表面抗原またはTfRの細胞外領域をヒトIgGのFc領域に結合させたFc融合タンパク質、EGFR等の細胞表面抗原またはTfRの細胞外領域とグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質が挙げられる。
【0214】
EGFR等の細胞表面抗原またはTfRが宿主細胞内または宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法[J. Biol. Chem., 264, 17619 (1989)]、ロウらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 86, 8227 (1989)、Genes Develop., 4, 1288(1990)]、日本国特開平05-336963号公報、または国際公開第94/23021号などに記載の方法を用いることにより、EGFR等の細胞表面抗原またはTfRを宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。また、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子などを用いた遺伝子増幅系(日本国特開平2-227075号公報)を利用してEGFR等の細胞表面抗原またはTfRの生産量を上昇させることもできる。
【0215】
生産したEGFR等の細胞表面抗原またはTfRは、例えば、以下のようにして単離、精製することができる。
【0216】
EGFR等の細胞表面抗原またはTfRが細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後に細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、またはダイノミルなどを用いて細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離して得られる上清から、通常のタンパク質の単離精製法、すなわち溶媒抽出法、硫安などによる塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学社製)などのレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)などのレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロースなどのレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、または等電点電気泳動などの電気泳動法などの手法を、単独でまたは組み合わせて用いることで、精製タンパク質を得ることができる。
【0217】
EGFR等の細胞表面抗原またはTfRが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、上記と同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として該EGFR等の細胞表面抗原またはTfRの不溶体を回収する。回収した該EGFR等の細胞表面抗原またはTfRの不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈または透析することにより、該EGFR等の細胞表面抗原またはTfRを正常な立体構造に戻した後、上記と同様の単離精製法によりポリペプチドの精製タンパク質を得ることができる。
【0218】
EGFR等の細胞表面抗原またはTfRまたはその糖修飾体などの誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清において該EGFR等の細胞表面抗原またはTfR、またはその糖修飾体などの誘導体を回収することができる。該培養上清を上記と同様に遠心分離などの手法を用いて処理することにより、可溶性画分を取得し、該可溶性画分から上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製タンパク質を得ることができる。
【0219】
また、本発明において用いられるEGFR等の細胞表面抗原またはTfRは、Fmoc法またはtBoc法などの化学合成法によっても製造することができる。具体的には、例えば、アドバンストケムテック社製、パーキン・エルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジインストルメント社製、シンセセル-ベガ社製、パーセプチブ社製、または島津製作所社製などのペプチド合成機を利用して化学合成することができる。
【0220】
(2)抗体産生細胞の調製工程
マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ウシ、またはアルパカなどの動物に、(1)で得られる抗原を免疫して、その動物の脾臓、リンパ節または末梢血中の抗体産生細胞を採取する。また、動物としては、例えば、富塚らの文献[Tomizuka. et al., Proc Natl Acad Sci USA., 97、722,(2000)]に記載されているヒト由来抗体を産生するトランスジェニックマウス、免疫原性を高めるためにTfRまたはEGFR等の細胞表面抗原のコンディショナルノックアウトマウスなどが被免疫動物として挙げられる。
【0221】
免疫は、フロイントの完全アジュバント、または水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチンなどの適当なアジュバントとともに抗原を投与することにより行う。マウス免疫の際の免疫原投与法は、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射または足蹠注射などいずれでもよいが、腹腔内注射、足蹠注射または静脈内注射が好ましい。抗原が部分ペプチドである場合には、BSA(ウシ血清アルブミン)、またはKLH(Keyhole Limpet hemocyanin)などのキャリアタンパク質とのコンジュゲートを作製し、これを免疫原として用いる。
【0222】
抗原の投与は、1回目の投与の後、1~2週間おきに5~10回行う。各投与後3~7日目に眼底静脈叢より採血し、その血清の抗体価を酵素免疫測定法[Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]などを用いて測定する。免疫に用いた抗原に対し上記の血清が十分な抗体価を示した動物を、融合用抗体の産生細胞の供給源として用いれば、以後の操作の効果を高めることができる。
【0223】
抗原の最終投与後3~7日目に、免疫した動物より脾臓などの抗体産生細胞を含む組織を摘出し、抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞は、形質細胞およびその前駆細胞であるリンパ球であり、これは個体のいずれの部位から得てもよく、一般には脾臓、リンパ節、骨髄、扁桃、末梢血、またはこれらを適宜組み合わせたもの等から得ることができるが、脾臓細胞が最も一般的に用いられる。脾臓細胞を用いる場合には、脾臓を細断してほぐした後、遠心分離し、さらに赤血球を除去することにより、融合用抗体産生細胞を取得する。
【0224】
(3)ミエローマの調製工程
ミエローマとしては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物に由来する自己抗体産生能のない細胞を用いることが出来るが、一般的にはマウスから得られた株化細胞、例えば、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)ミエローマ細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)[Current Topics in Microbiology and Immunology, 18, 1(1978)]、P3-NS1/1-Ag41(NS-1)[European J. Immunology, 6, 511 (1976)]、SP2/0-Ag14(SP-2)[Nature, 276, 269(1978)]、P3-X63-Ag8653(653)[J. Immunology, 123, 1548 (1979)]、またはP3-X63-Ag8(X63)[Nature, 256, 495(1975)]などが用いられる。該細胞株は、適当な培地、例えば8-アザグアニン培地[グルタミン、2-メルカプトエタノール、ゲンタマイシン、FCSおよび8-アザグアニンを加えたRPMI-1640培地]、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;以下「IMDM」という)、またはダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;以下「DMEM」という)などの培地で継代培養する。細胞融合の3~4日前に上記の細胞株を正常培地(例えば、10% FCSを含むDMEM培地)で継代培養し、融合を行う当日に2×10個以上の細胞数を確保する。
【0225】
(4)細胞融合
(2)で得られる融合用抗体産生細胞と(3)で得られるミエローマ細胞を、Minimum Essential Medium(MEM)培地またはPBS(リン酸二ナトリウム1.83g、リン酸一カリウム0.21g、食塩7.65g、蒸留水1リットル、pH7.2)でよく洗浄し、融合用抗体産生細胞:ミエローマ細胞=5:1~10:1になるように混合し、遠心分離した後、上清を除く。沈澱した細胞集塊をよくほぐした後、ポリエチレングリコール-1000(PEG-1000)、MEM培地およびジメチルスルホキシドの混合液を、37℃にて攪拌しながら加える。さらに1~2分間毎にMEM培地1~2mLを数回加えた後、MEM培地を加えて全量が50mLになるようにする。遠心分離後、上清を除き、沈澱した細胞集塊を緩やかにほぐした後、HAT培地[ヒポキサンチン、チミジンおよびアミノプテリンを加えた正常培地]中に緩やかに細胞を懸濁する。この懸濁液を5%COインキュベーター中、37℃にて7~14日間培養する。
【0226】
また、以下の方法でも細胞融合を行うことができる。脾臓細胞とミエローマ細胞とを無血清培地(例えばDMEM)、またはリン酸緩衝生理食塩液(以下「リン酸緩衝液」という)でよく洗浄し、脾臓細胞とミエローマ細胞の細胞数の比が5:1~10:1程度になるように混合し、遠心分離する。上清を除去し、沈澱した細胞集塊をよくほぐした後、撹拌しながら1mLの50%(w/v)ポリエチレングリコール(分子量1000~4000)を含む無血清培地を滴下する。その後、10mLの無血清培地をゆっくりと加えた後、遠心分離する。再び上清を捨て、沈澱した細胞を適量のヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)液およびヒトインターロイキン-2(IL-2)を含む正常培地(以下、HAT培地という)中に懸濁して培養用プレート(以下、プレートという)の各ウェルに分注し、5%炭酸ガス存在下、37℃にて2週間程度培養する。途中適宜HAT培地を補う。
【0227】
(5)ハイブリドーマ群の選択
融合に用いたミエローマ細胞が8-アザグアニン耐性株である場合、すなわちヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)欠損株である場合は、融合しなかったミエローマ細胞およびミエローマ細胞同士の融合細胞は、HAT培地中では生存することができない。一方、抗体産生細胞同士の融合細胞および抗体産生細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマは、HAT培地中で生存することができるが、抗体産生細胞同士の融合細胞はやがて寿命に達する。したがって、HAT培地中での培養を続けることによって、抗体産生細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマのみが生き残り、結果的にハイブリドーマを取得することができる。
【0228】
コロニー状に生育してきたハイブリドーマについて、HAT培地からアミノプテリンを除いた培地(以下、HT培地という)への培地交換を行う。その後、培養上清の一部を採取し、後述する抗体価測定法を用いて、抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。抗体価の測定方法としては、例えば、放射性同位元素免疫定量法(RIA法)、固相酵素免疫定量法(ELISA法)、蛍光抗体法および受身血球凝集反応法など種々の公知技術が挙げられるが、検出感度、迅速性、正確性および操作の自動化の可能性などの観点から、RIA法またはELISA法が好ましい。
【0229】
抗体価を測定することにより、所望の抗体を産生することが判明したハイブリドーマを、別のプレートに移しクローニングを行う。このクローニング法としては、例えば、プレートの1ウェルに1個の細胞が含まれるように希釈して培養する限界希釈法、軟寒天培地中で培養しコロニーを回収する軟寒天法、マイクロマニュピレーターによって1個の細胞を単離する方法、セルソーターによって1個の細胞を単離する方法などが挙げられる。
【0230】
抗体価の認められたウェルについて、例えば限界希釈法によるクローニングを2~4回繰り返し、安定して抗体価の認められたものを、TfRまたはEGFR等の細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ株として選択する。
【0231】
(6)モノクローナル抗体の調製
プリスタン処理[2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン(Pristane)0.5mLを腹腔内投与し、2週間飼育する]した8~10週令のマウスまたはヌードマウスに、(5)で得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを腹腔内に注射する。10~21日でハイブリドーマは腹水癌化する。このマウスから腹水を採取し、遠心分離して固形分を除去後、40~50%硫酸アンモニウムで塩析し、カプリル酸沈殿法、DEAE-セファロースカラム、プロテインAカラムまたはゲル濾過カラムによる精製を行い、IgGまたはIgM画分を集め、精製モノクローナル抗体とする。また、同系統のマウス(例えば、BALB/c)若しくはNu/Nuマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等の腹腔内で該ハイブリドーマを増殖させることにより、TfRまたはEGFR等の細胞表面抗原に結合するモノクローナル抗体を大量に含む腹水を得ることができる。
【0232】
(5)で得られたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、10%FBS添加を添加したRPMI1640培地などで培養した後、遠心分離により上清を除き、GIT培地、または5%ダイゴGF21を添加したHybridoma SFM培地等に懸濁し、フラスコ培養、スピナー培養またはバック培養などにより3~7日間培養する。得られた細胞懸濁液を遠心分離し、得られた上清よりプロテインAカラムまたはプロテインGカラムによる精製を行ない、IgG画分を集め、精製モノクローナル抗体を得ることもできる。精製の簡便な方法としては、市販のモノクローナル抗体精製キット(例えば、MAbTrap GIIキット;アマシャムファルマシアバイオテク社製)等を利用することもできる。
【0233】
抗体のサブクラスの決定は、サブクラスタイピングキットを用いて酵素免疫測定法により行う。蛋白量の定量は、ローリー法および280nmにおける吸光度[1.4(OD280)=イムノグロブリン1mg/mL]より算出する方法により行うことができる。
【0234】
(7)TfRまたはEGFR等の細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体の結合アッセイ
TfRまたはEGFR等の細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体の結合活性は、オクテルロニー(Ouchterlony)法、ELISA法、RIA法、フローサイトメトリー法(FCM)または表面プラズモン共鳴法(SPR)などのバインディングアッセイ系により測定することができる。
【0235】
オクテルロニー法は簡便ではあるが、抗体の濃度が低い場合には濃縮操作が必要である。一方、ELISA法またはRIA法を用いた場合は、培養上清をそのまま抗原吸着固相と反応させ、さらに二次抗体として各種イムノグロブリンアイソタイプ、サブクラスに対応する抗体を用いることにより、抗体のアイソタイプ、サブクラスを同定すると共に、抗体の結合活性を測定することが可能である。
【0236】
手順の具体例としては、精製または部分精製した組換えEGFR等の細胞表面抗原またはTfRをELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係なタンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)によりブロッキングを行う。ELISAプレートをphosphate buffer saline(PBS)および0.05% Tween20を含むPBS(Tween-PBS)などで洗浄後、段階希釈した第1抗体(例えばマウス血清、培養上清など)を反応させ、プレートに固定化された抗原へ抗体を結合させる。次に、第2抗体としてビオチン、酵素(horse radish peroxidase;HRP、alkaline phosphatase;ALPなど)、化学発光物質または放射線化合物などで標識した抗イムノグロブリン抗体を分注して、プレートに結合した第1抗体に第2抗体を反応させる。Tween-PBSでよく洗浄した後、第2抗体の標識物質に応じた反応を行い、標的抗原に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を選択する。
【0237】
FCM法では、抗体の抗原発現細胞に対する結合活性を測定することができる[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]。抗体が細胞膜上に発現している膜タンパク質抗原に結合することは、当該抗体が天然に存在する抗原の立体構造を認識し、結合することを意味する。
【0238】
SPR法としては、Biacoreによるkinetics解析が挙げられる。例えば、Biacore T100を用い、抗原と被験物質との間の結合におけるkineticsを測定し、その結果を機器付属の解析ソフトウェアで解析をする。手順の具体例としては、抗マウスIgG抗体をセンサーチップCM5にアミンカップリング法により固定した後、ハイブリドーマ培養上清または精製モノクローナル抗体などの被験物質を流して適当量を結合させ、さらに濃度既知の複数濃度の抗原を流して、結合および解離を測定する。次に、得られたデータについて、機器付属のソフトウェアを用いて1:1バインディングモデルによるkinetics解析を行い、各種パラメータを取得する。または、EGFR等の細胞表面抗原またはTfRをセンサーチップ上に、例えばアミンカップリング法により固定した後、濃度既知の複数濃度の精製モノクローナル抗体を流して、結合および解離を測定する。得られたデータについて、機器付属のソフトウェアを用いてバイバレントバインディングモデルによるkinetics解析を行い、各種パラメータを取得する。
【0239】
また、本発明において、TfRまたはEGFR等の細胞表面抗原に対する抗体と競合してTfRまたはEGFR等の細胞表面抗原に結合する抗体は、上述のバインディングアッセイ系に被験抗体を共存させて反応させることにより、選択することができる。すなわち、被検抗体を加えた時に抗原との結合が阻害される抗体をスクリーニングすることにより、TfRまたはEGFR等の細胞表面抗原への結合について、前記で取得した抗体と競合する抗体を得ることができる。
【0240】
(8)TfRまたはEGFR等の細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体のエピトープの同定
本発明において、抗体が認識し結合するエピトープの同定は以下のようにして行うことができる。
【0241】
例えば、抗原の部分欠損体、種間で異なるアミノ酸残基を改変した変異体、または特定のドメインを改変した変異体を作製し、該欠損体または変異体に対する抗体の反応性が低下すれば、欠損部位またはアミノ酸改変部位が該抗体のエピトープであることが明らかになる。このような抗原の部分欠損体および変異体は、適当な宿主細胞、例えば大腸菌、酵母、植物細胞または哺乳動物細胞などを用いて、分泌タンパク質として取得してもよいし、宿主細胞の細胞膜上に発現させて抗原発現細胞として調製してもよい。膜型抗原の場合は、抗原の立体構造を保持したまま発現させるために、宿主細胞の膜上に発現させることが好ましい。また、抗原の1次構造または立体構造を模倣した合成ペプチドを作製し、抗体の反応性を確認することもできる。合成ペプチドは、公知のペプチド合成技術を用いて、その分子の様々な部分ペプチドを作製する方法等が挙げられる。
【0242】
例えば、ヒトおよびマウスのTfRまたはEGFR等の細胞表面抗原の細胞外領域について、各領域を構成するドメインを適宜組み合わせたキメラタンパク質を作製し、該タンパク質に対する抗体の反応性を確認することで、抗体のエピトープを同定することができる。その後、さらに細かく、その対応部分のオリゴペプチド、または該ペプチドの変異体等を、当業者に周知のオリゴペプチド合成技術を用いて種々合成し、該ペプチドに対する抗体の反応性を確認することでエピトープを特定することができる。多種類のオリゴペプチドを得るための簡便な方法として、市販のキット[例えば、SPOTsキット(ジェノシス・バイオテクノロジーズ社製)、マルチピン合成法を用いた一連のマルチピン・ペプチド合成キット(カイロン社製)等]を利用することもできる。
【0243】
TfRまたはEGFR等の細胞表面抗原に結合する抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体は、上述のバインティングアッセイ系で得た抗体のエピトープを同定し、該エピトープの部分的な合成ペプチド、該エピトープの立体構造を模した合成ペプチド、または該エピトープの組換え体等を作製し、免疫することで取得することができる。
【0244】
例えば、エピトープが膜タンパク質であれば、全細胞外領域または一部の細胞外ドメインを、適当なタグ、例えば、FLAGタグ、Histidineタグ、GSTタンパク質または抗体Fc領域などに連結した組換え融合タンパク質を作製し、該組換えタンパク質を免疫することで、より効率的に該エピトープ特異的な抗体を作製することができる。
【0245】
2.遺伝子組換え抗体の作製
遺伝子組換え抗体の作製例として、P. J. Delves., ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES., 1997 WILEY、P. Shepherd and C. Dean. Monoclonal Antibodies., 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESSおよびJ. W. Goding., Monoclonal Antibodies:principles and practice., 1993 ACADEMIC PRESSなどに概説されているが、以下にキメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体の作製方法を示す。また、遺伝子組換えマウス、ラット、ハムスターおよびラビット抗体についても、同様の方法で作製することができる。
【0246】
(1)ハイブリドーマからのモノクローナル抗体のV領域をコードするcDNAの取得
モノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAの取得は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0247】
まず、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマよりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。次に、合成したcDNAをファージまたはプラスミドなどのベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、抗体のC領域部分またはV領域部分をコードするDNAをプローブとして用いて、VHまたはVLをコードするcDNAを有する組換えファージまたは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。単離した組換えファージまたは組換えプラスミド内のVHまたはVLの全塩基配列を決定し、当該塩基配列よりVHまたはVLの全アミノ酸配列を推定する。
【0248】
ハイブリドーマの作製に用いる非ヒト動物としては、マウス、ラット、ハムスターまたはウサギなどを用いるが、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなる動物も用いることができる。
【0249】
ハイブリドーマからの全RNAの調製には、チオシアン酸グアニジン-トリフルオロ酢酸セシウム法[Methods in Enzymol., 154, 3 (1987)]、またはRNA easy kit(キアゲン社製)などのキットなどを用いる。
【0250】
全RNAからのmRNAの調製には、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]、またはOligo-dT30<Super>mRNA Purification Kit(タカラバイオ社製)などのキットなどを用いる。また、Fast Track mRNA Isolation Kit(インビトロジェン社製)またはQuickPrep mRNA Purification Kit(ファルマシア社製)などのキットを用いて、mRNAを調製することもできる。
【0251】
cDNAの合成およびcDNAライブラリーの作製には、公知の方法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1, John Wiley & Sons(1987-1997)]またはSuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(インビトロジェン社製)若しくはZAP-cDNA Synthesis Kit(ストラタジーン社製)などのキットなどを用いる。
【0252】
cDNAライブラリーの作製の際に、ハイブリドーマから抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターとしては、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。
【0253】
例えば、ZAP Express[Strategies, 5, 58(1992)]、pBluescript II SK(+)[Nucleic Acids Research, 17, 9494(1989)]、λZAPII(Stratagene社製)、λgt10、λgt11[DNA Cloning: A Practical Approach, I, 49(1985)]、Lambda BlueMid(クローンテック社製)、λExCell、pT7T3-18U(ファルマシア社製)、pcD2[Mol. Cell. Biol., 3, 280(1983)]またはpUC18[Gene, 33, 103(1985)]などを用いる。
【0254】
ファージまたはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌には、該cDNAライブラリーを導入、発現および維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1-Blue MRF’[Strategies, 5, 81(1992)]、C600[Genetics, 39, 440(1954)]、Y1088、Y1090[Science, 222, 778(1983)]、NM522[J. Mol. Biol., 166, 1(1983)]、K802[J. Mol. Biol., 16, 118(1966)]、またはJM105[Gene, 38, 275(1985)]などを用いる。
【0255】
cDNAライブラリーからの非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAクローンの選択には、アイソトープ若しくは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法、またはプラーク・ハイブリダイゼーション法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]などを用いる。
【0256】
また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNAまたはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction法[以下、PCR法と表記する、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition , Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1, John Wiley & Sons(1987-1997)]を行うことにより、VHまたはVLをコードするcDNAを調製することもできる。
【0257】
選択されたcDNAを、適当な制限酵素などで切断した後、pBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法などにより該cDNAの塩基配列を決定する。例えば、ジデオキシ法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74, 5463(1977)]などの反応を行った後、A.L.F.DNAシークエンサー(ファルマシア社製)などの塩基配列自動分析装置などを用いて解析する。
【0258】
決定した全塩基配列からVHおよびVLの全アミノ酸配列をそれぞれ推定し、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]と比較することにより、取得したcDNAが、分泌シグナル配列を含めて抗体のVHおよびVL各々の完全なアミノ酸配列をコードしているか否かを確認する。
【0259】
分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVL各々の完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]と比較することにより、分泌シグナル配列の長さおよびN末端アミノ酸配列を推定することができ、さらにそれらが属するサブグループを同定することができる。
【0260】
また、VHおよびVLの各CDRのアミノ酸配列は、既知の抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]と比較することによって推定することができる。
【0261】
また、得られたVHおよびVLの完全なアミノ酸配列について、例えば、SWISS-PROTまたはPIR-Proteinなどの任意のデータベースを用いてBLAST法[J. Mol. Biol., 215, 403(1990)]などによる相同性検索を行うことで、当該VHおよびVLの完全なアミノ酸配列が新規なものであるか否かを確認することができる。
【0262】
(2)遺伝子組換え抗体発現用ベクターの構築
遺伝子組換え抗体発現用ベクターは、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のCHおよびCLの少なくとも一方をコードするDNAをクローニングすることにより構築することができる。
【0263】
ヒト抗体のC領域としては、任意のヒト抗体のCHおよびCLを用いることができ、例えば、ヒト抗体のγ1サブクラスのCHおよびκクラスのCLなどを用いることができる。ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAとしてはcDNAを用いるが、エキソンとイントロンからなる染色体DNAを用いることもできる。
【0264】
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組み込んで発現できるものであれば、いかなるものでも用いることができ、例えば、pAGE107[Cytotechnol., 3, 133 (1990)]、pAGE103[J. Biochem., 101, 1307(1987)]、pHSG274[Gene, 27, 223 (1984)]、pKCR[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 1527 (1981)]、pSG1bd2-4[Cytotechnol., 4, 173 (1990)]、またはpSE1UK1Sed1-3[Cytotechnol., 13, 79 (1993)]、INPEP4(Biogen-IDEC社製)、N5KG1val(米国特許第6,001,358号明細書)、N5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)、N5KG2ベクター(国際公開第2003/033538号に記載)、トランスポゾンベクター(国際公開第2010/143698号)などを用いることができる。
【0265】
動物細胞用発現ベクターのプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーター[J. Biochem., 101, 1307 (1987)]、モロニーマウス白血病ウイルスLTR
[Biochem. Biophys. Res. Commun., 149, 960 (1987)]、CMVプロモーター(米国特許第5,168,062号明細書)または免疫グロブリンH鎖のプロモーター[Cell, 41, 479 (1985)]とエンハンサー[Cell, 33, 717(1983)]などを用いることができる。
【0266】
遺伝子組換え抗体の発現には、ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、細胞内における抗体H鎖およびL鎖の発現量の均衡性などの観点から、抗体H鎖およびL鎖の両遺伝子を搭載したベクター(タンデム型ベクター)[J. Immunol. Methods, 167, 271 (1994)]を用いるが、抗体H鎖とL鎖の各遺伝子を別々に搭載した複数のベクター(セパレート型ベクター)を組み合わせて用いることもできる。
【0267】
タンデム型の遺伝子組換え抗体発現用ベクターとしては、pKANTEX93(国際公開第97/10354号)、pEE18[Hybridoma, 17, 559(1998)]、N5KG1val(米国特許第6,001,358号明細書)、N5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)、N5KG2ベクター(国際公開第2003/033538号に記載)、Tol2トランスポゾンベクター(国際公開第2010/143698号)などを用いる。
【0268】
(3)キメラ抗体発現ベクターの構築
(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター内のヒト抗体のCHまたはCLをコードする遺伝子の各々の上流に、(1)で得られる非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAを各々クローニングすることで、キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
【0269】
まず、非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAの3’末端側と、ヒト抗体のCHまたはCLの5’末端側とを連結するために、連結部分の塩基配列が適切なアミノ酸をコードし、かつ適当な制限酵素認識配列になるように設計したVHおよびVLのcDNAを作製する。次に、作製したVHおよびVLのcDNAを、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター内のヒト抗体のCHまたはCLをコードする遺伝子の各々の上流に、それらが適切な形で発現する様にそれぞれクローニングし、キメラ抗体発現ベクターを構築する。
【0270】
また、非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAを、適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAを用いてPCR法によりそれぞれ増幅し、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターにクローニングすることで、キメラ抗体発現ベクターを構築することもできる。
【0271】
(4)ヒト化抗体のV領域をコードするcDNAの作製
ヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAは、以下のようにして作製することができる。まず、(1)で得られる非ヒト抗体のVHまたはVLのCDRのアミノ酸配列を移植するヒト抗体のVHまたはVLのフレームワーク領域(以下、FRと表記する)のアミノ酸配列をそれぞれ選択する。
【0272】
選択するFRのアミノ酸配列には、ヒト抗体由来のものであればいずれのものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のFRのアミノ酸配列、またはヒト抗体のFRの各サブグループの共通アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]などを用いる。抗体の結合活性の低下を抑えるために、元の非ヒト抗体のVHまたはVLのFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(60%以上)を有するヒトFRのアミノ酸配列を選択する。
【0273】
次に、選択したヒト抗体のVHまたはVLのFRのアミノ酸配列に、元の非ヒト抗体のCDRのアミノ酸配列をそれぞれ移植し、ヒト化抗体のVHまたはVLのアミノ酸配列をそれぞれ設計する。設計したアミノ酸配列を、抗体遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]を考慮してDNA配列に変換することで、ヒト化抗体のVHまたはVLのcDNA配列をそれぞれ設計する。
【0274】
設計したcDNA配列に基づき、100~150塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR反応を行う。この場合、PCR反応における反応効率および合成可能なDNA長の観点から、好ましくはH鎖およびL鎖に対し各々4~6本の合成DNAを設計する。また、可変領域全長の合成DNAを合成して用いることもできる。
【0275】
さらに、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターに、容易にヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAをクローニングすることができる。PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにそれぞれクローニングし、(1)に記載の方法と同様の方法により塩基配列を決定し、所望のヒト化抗体のVHまたはVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するプラスミドを取得する。
【0276】
(5)ヒト化抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト化抗体は、非ヒト抗体のVHおよびVLのCDRのみをヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元の非ヒト抗体に比べて低下する[BIO/TECHNOLOGY, 9, 266(1991)]。そのため、ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列のうち、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基、CDRのアミノ酸残基と相互作用するアミノ酸残基、および抗体の立体構造を維持し間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらのアミノ酸残基を元の非ヒト抗体のアミノ酸残基に置換することにより、低下したヒト化抗体の抗原結合活性を上昇させることができる。
【0277】
抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を同定するために、X線結晶解析[J. Mol. Biol., 112, 535(1977)]またはコンピューターモデリング[Protein Engineering, 7, 1501(1994)]などを用いることにより、抗体の立体構造の構築および解析を行うことができる。また、それぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討することを繰り返し、試行錯誤することで、必要な抗原結合活性を有する改変ヒト化抗体を取得できる。
【0278】
ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸残基は、改変用合成DNAを用いて(4)に記載のPCR反応を行うことにより、改変することができる。PCR反応後の増幅産物について、(1)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的とする改変が施されたことを確認する。
【0279】
(6)ヒト化抗体発現ベクターの構築
(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、構築したヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAをそれぞれクローニングし、ヒト化抗体発現ベクターを構築することができる。
【0280】
例えば、(4)および(5)で得られるヒト化抗体のVHまたはVLを構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター内のヒト抗体のCHまたはCLをコードする各遺伝子の上流に、それらが適切な形で発現するようにそれぞれクローニングする。
【0281】
(7)ヒト抗体発現ベクターの構築
ヒト抗体を産生する動物を被免疫動物として用いて、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立した場合には、(1)において、ヒト抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列およびcDNA配列を得ることができる。そこで、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、(1)で得たヒト抗体のVHまたはVLをコードする遺伝子をそれぞれクローニングすることで、ヒト抗体発現ベクターを構築することができる。
【0282】
(8)遺伝子組換え抗体の一過性発現
(3)、(6)および(7)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター、またはそれらを改変した発現ベクターを用いて遺伝子組換え抗体を一過性に発現させ、得られた多種類の遺伝子組換え抗体の抗原結合活性を効率的に評価することができる。
【0283】
発現ベクターを導入する宿主細胞には、遺伝子組換え抗体を発現できる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができるが、例えばCOS-7細胞[American Type Culture Collection(ATCC)番号:CRL1651]を用いる。COS-7細胞への発現ベクターの導入には、DEAE-デキストラン法[Methods in Nucleic Acids Res., CRC press(1991)]、またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413(1987)]などを用いる。
【0284】
発現ベクターの導入後、培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量および抗原結合活性を、酵素免疫抗体法[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などを用いて測定する。
【0285】
(9)遺伝子組換え抗体の安定的発現株の取得と遺伝子組換え抗体の調製
(3)、(6)および(7)で得られた遺伝子組換え抗体発現ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより遺伝子組換え抗体を安定的に発現する形質転換株を得ることができる。
【0286】
宿主細胞への発現ベクターの導入としては、例えば、エレクトロポレーション法[日本国特開平2-257891号公報、Cytotechnology, 3, 133(1990)]、カルシウムイオン方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などが挙げられる。また、後述の動物に遺伝子を導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、ES細胞にエレクトロポレーションやリポフェクション法を用いて遺伝子を導入する方法、および核移植法などが挙げられる。
【0287】
遺伝子組換え抗体発現ベクターを導入する宿主細胞としては、遺伝子組換え抗体を発現させることができる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。例えば、マウスSP2/0-Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63-Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、チャイニーズハムスターCHO-K1細胞(ATCC CCL-61)、DUKXB11(ATCC CCL-9096)、Pro-5細胞(ATCC CCL-1781)、CHO-S細胞(Life Technologies、Cat No.11619)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)が欠損したCHO細胞(CHO/DG44細胞)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216(1980)]、レクチン耐性を獲得したLec13細胞[Somatic Cell and Molecular genetics, 12, 55(1986)]、α1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第2005/035586号、国際公開第02/31140号)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC番号:CRL1662)などを用いる。
【0288】
また、細胞内糖ヌクレオチドGDP-フコースの合成に関与する酵素などのタンパク質、N-グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素などのタンパク質、または細胞内糖ヌクレオチドGDP-フコースのゴルジ体への輸送に関与するタンパク質などの活性が低下または欠失した宿主細胞、例えばα1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第2005/035586号、国際公開第02/31140号)などを用いることもできる。
【0289】
発現ベクターの導入後、遺伝子組換え抗体を安定的に発現する形質転換株を、G418硫酸塩(以下、G418と表記する)などの薬剤を含む動物細胞培養用培地で培養することにより選択する(日本国特開平2-257891号公報)。
【0290】
動物細胞培養用培地には、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX-CELL301培地(ジェイアールエイチ社製)、EX-CELL302培地(ジェイアールエイチ社製)、EX-CELL325培地(ジェイアールエイチ社製)、IMDM培地(インビトロジェン社製)若しくはHybridoma SFM培地(インビトロジェン社製)、またはこれらの培地にFBSなどの各種添加物を添加した培地などを用いる。得られた形質転換株を培地中で培養することで、培養上清中に遺伝子組換え抗体を発現、蓄積させる。培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量および抗原結合活性はELISA法などにより測定することができる。また、DHFR増幅系(日本国特開平2-257891号公報)などを利用して、形質転換株の産生する遺伝子組換え抗体の発現量を上昇させることができる。
【0291】
遺伝子組換え抗体は、形質転換株の培養上清よりプロテインAカラムを用いて精製することができる[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]。また、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーおよび限外濾過など、タンパク質の精製で用いられる方法を組み合わせて精製することもできる。
【0292】
精製した遺伝子組換え抗体のH鎖、L鎖または抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法[Nature, 227, 680(1970)]、またはウェスタンブロッティング法[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]など用いて測定することができる。
【0293】
3.バイスペシフィック抗体の設計
本発明のバイスペシフィック抗体は、N末端側ポリペプチドとIgG部分とをそれぞれ設計し、それらを連結させたバイスペシフィック抗体を設計することによって作製することができる。
【0294】
3-1.IgG部分の設計
IgG部分は、上記1.に記載の方法を用いてモノクローナル抗体を取得し、各抗体のCDRおよび可変領域のcDNA配列を上記2.に記載の方法を用いて決定し、抗体のCDRまたは可変領域を含むIgG部分を設計することにより得ることができる。
【0295】
3-2.N末端側ポリペプチドの設計
N末端側ポリペプチドに、抗体のCDRまたは可変領域が含まれる場合、上記1.および2.に記載の方法で、抗体のCDRまたは可変領域のDNA配列を決定し、それらを含むN末端側ポリペプチドを設計することによって作製することができる。このようなN末端側ポリペプチドとしては、scFvなどのようにVHとVLを直接もしくは適当なリンカーを介して結合させた1本鎖のもの、FabおよびdsFvなどのように2本鎖で発現させ、発現後にS-S結合するよう設計したもの、またはVHHなども用いることができる。N末端側ポリペプチドの抗原結合活性は、上記方法で評価し、抗原結合活性を保持しているものを選択することができる。
【0296】
4.バイスペシフィック抗体の作製
4-1.軽鎖共通型バイスペシフィック抗体の作製
N末端側ポリペプチドがFabであり、該FabとIgG部分の軽鎖が共通であるバイスペシフィック抗体は、具体的に以下のように作製することができる。
【0297】
N末端側ポリペプチドのVH-CH1とIgG部分のVHを連結したポリペプチドをコードするDNAを合成すると共に、各抗体のVLをコードするDNAを合成し、これらのDNAを上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに組み込み、当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、作製することができる。IgG部分とN末端側ポリペプチドがリンカーを介して結合している場合、そのリンカー配列をコードするDNAも含めて合成する。
【0298】
4-2.N末端側ポリペプチドにCDRを含む、軽鎖非共通型バイスペシフィック抗体の作製
(1)N末端側ポリペプチドがFabである軽鎖非共通型バイスペシフィック抗体は、具体的に以下のように作製することができる。
N末端側ポリペプチドのVL-CLとIgG部分のVHを連結したポリペプチドをコードするDNA、N末端側ポリペプチドのVH-CH1をコードするDNA、およびIgG部分のVLをコードするDNAを合成し、これらのDNAを上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに組み込み、当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、作製することができる。IgG部分とN末端側ポリペプチドがリンカーを介して結合している場合、そのリンカー配列をコードするDNAも含めて合成する。
【0299】
(2)N末端側ポリペプチドがVHHであるバイスペシフィック抗体は、具体的には以下のように作製することができる。
VHHとIgG部分のVHを連結したポリペプチドをコードするDNA、およびIgG部分のVLをコードするDNAを合成し、これらのDNAを上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに組み込み、当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、作製することができる。該VHHとIgG部分がリンカーを介して結合している場合、そのリンカー配列をコードするDNAも含めて合成する。
【0300】
(3)N末端側ポリペプチドがscFv、dsFvまたはCDRを含む上記(1)、(2)以外のポリペプチドであるバイスペシフィック抗体は、具体的には以下のように作製することができる。
N末端側ポリペプチドが1本鎖の場合は、N末端側ポリペプチドをコードするDNAとIgG部分のVHをコードするDNAとを連結したDNAを合成する。N末端側ポリペプチドが2つの一本鎖ポリペプチドからなる会合体の場合は、N末端側ポリペプチドを構成する一方の一本鎖ポリペプチドを、IgG部分のVHをコードするDNAと連結して合成するとともに、N末端側ポリペプチドを構成するもう一方の本鎖ポリペプチドをコードするDNAも合成する。また、IgG部分のVLをコードするDNAも合成する。IgG部分とN末端側ポリペプチドがリンカーを介して結合している場合、そのリンカー配列をコードするDNAも含めて合成する。これらのDNAを上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに組み込み、当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、作製することができる。
【0301】
4-3.N末端側ポリペプチドが上記以外であるバイスペシフィック抗体の作製
N末端側ポリペプチドが上記以外のポリペプチドである場合、本発明のバイスペシフィック抗体は具体的には以下のように作製することができる。
N末端側ポリペプチドが1本鎖の場合は、N末端側ポリペプチドをコードするDNAとIgG部分のVHをコードするDNAとを連結したDNAを合成する。N末端側ポリペプチドが2本以上の一本鎖ポリペプチドからなる会合体の場合は、N末端側ポリペプチドを構成するうちの1本の一本鎖ポリペプチドを、IgG部分のVHをコードするDNAと連結して合成するとともに、N末端側ポリペプチドを構成する残りの一本鎖ポリペプチドをコードするDNAも合成する。また、IgG部分のVLをコードするDNAも合成する。IgG部分とN末端側ポリペプチドがリンカーを介して結合している場合、そのリンカー配列をコードするDNAも含めて合成する。これらのDNAを上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに組み込み、当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、作製することができる。
【0302】
これらのDNAを上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに組み込み、当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、作製することができる。IgG部分とN末端側ポリペプチドがリンカーを介して結合している場合、そのリンカー配列をコードするDNAも含めて合成する。
【0303】
抗原結合部位は、上記1.に記載のハイブリドーマを用いた方法の他、Phage Display法、Yeast display法などの技術により単離し、取得することが出来る[Emmanuelle Laffy et al., Human Antibodies 14, 33-55, (2005)]。
【0304】
また、複数のVHと単一のVLから成るバイスペシフィック抗体(軽鎖共通型バイスペシフィック抗体ともいう)を作製する場合には、バイスペシフィック抗体に含まれる各抗原結合部位が各々の特異的抗原に反応するように、ファージディスプレイ法等を用いたスクリーニングを行い、単一のVLに最も適した各々のVHを選択する。
【0305】
具体的には、まず、上記1.に記載の方法を用いて、第1の抗原で動物を免疫してその脾臓からハイブリドーマを作製し、第1の抗原結合部位をコードするDNA配列をクローニングする。次に、第2の抗原で動物を免疫して、その脾臓からcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーからPCRによりVHのアミノ酸配列をコードするDNAを取得する。
【0306】
続いて、第2の抗原の免疫で得られたVHと第1の抗原結合部位のVLとを連結したscFvを発現するファージライブラリーを作製し、該ファージライブラリーを用いたパニングにより、第2の抗原に特異的に結合するscFvを提示したファージを選択する。選択したファージから、第2の抗原結合部位のVHのアミノ酸配列をコードするDNA配列をクローニングする。
【0307】
さらに、N末端側ポリペプチドがFabの場合は、第1の抗原結合部位のVHと第2の抗原結合部位のVHとを、CH1またはCH1およびリンカーが連結してなるポリペプチドのアミノ酸配列をコードするDNA配列を設計し、該DNA配列と単一のVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列とを、例えば上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに挿入することにより、本発明のバイスペシフィック抗体の発現ベクターを構築することができる。
【0308】
5.本発明のバイスペシフィック抗体またはその抗体断片の活性評価
精製したバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の活性評価は、以下のように行うことができる。
【0309】
TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を発現した細胞株に対する本発明のバイスペシフィック抗体の結合活性は、前述の1.(7)記載のバインディングアッセイ系を用いて測定することができる。
【0310】
TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を発現した細胞に対するCDC活性、またはADCC活性は公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]により測定することができる。
【0311】
本発明のバイスペシフィック抗体の抗細胞活性(増殖阻害活性ともいう)は次の方法で測定することができる。例えば、細胞を96穴プレートに播種し、抗体を添加して一定期間培養した後に、WST-8試薬(Dojindo社製)を反応させ、プレートリーダーにより450nmの吸光度を測定することにより、細胞の生存率を測定する。
【0312】
TfRまたはEGFR等の細胞表面抗原から細胞内へのシグナル伝達は、細胞内のタンパク質のリン酸化をウェスタンブロットなどにより検出することにより評価することができる。
【0313】
6.本発明のバイスペシフィック抗体またはその抗体断片を用いた疾患の治療方法
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の発現細胞が関与する疾患の治療に用いることができる。TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患としては、例えば、悪性腫瘍およびがんなどが挙げられる。
【0314】
悪性腫瘍およびがんとしては、例えば、大腸がん、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、グリオーマ、悪性黒色腫(メラノーマ)、甲状腺がん、腎細胞がん、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胆管がん、食道がん、肝臓がん、頭頚部がん、扁平上皮癌、皮膚がん、尿路がん、膀胱がん、前立腺がん、絨毛がん、咽頭がん、喉頭がん、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、膠芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫およびウィルムス腫瘍などが挙げられる。
【0315】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を含有する治療薬は、有効成分としての該抗体若しくは該抗体断片、またはこれらの誘導体のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の方法により製造した医薬製剤として提供される。
【0316】
投与経路としては、例えば、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内若しくは静脈内などの非経口投与が挙げられる。投与形態としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏またはテープ剤などが挙げられる。各種製剤は、通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、浸潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、着色料、香味剤、および安定化剤などを用いて常法により製造することができる。
【0317】
賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット、結晶セルロース、滅菌水、エタノール、グリセロール、生理食塩水および緩衝液などが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、澱粉、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、炭酸マグネシウムおよび合成ケイ酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0318】
結合剤としては、例えば、メチルセルロースまたはその塩、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロースおよびポリビニルピロリドンなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコールおよび硬化植物油などが挙げられる。
【0319】
安定化剤としては、例えば、アルギニン、ヒスチジン、リジン、メチオニンなどのアミノ酸、ヒト血清アルブミン、ゼラチン、デキストラン40、メチルセルロース、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0320】
その他の添加剤としては、例えば、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硝酸ソーダおよびリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0321】
経口投与に適当な製剤としては、例えば、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などが挙げられる。
【0322】
乳剤またはシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール若しくは果糖などの糖類、ポリエチレングリコール若しくはプロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油若しくは大豆油などの油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、またはストロベリーフレーバー若しくはペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造される。
【0323】
カプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖若しくはマンニトールなどの賦形剤、デンプン若しくはアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム若しくはタルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース若しくはゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、またはグリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造される。
【0324】
非経口投与に適当な製剤としては、例えば、注射剤、座剤または噴霧剤などが挙げられる。注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、またはその両者の混合物からなる担体などを用いて製造される。
【0325】
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸などの担体を用いて製造される。噴霧剤は、受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片を微細な粒子として分散させ、吸収を容易にさせる担体などを用いて製造される。担体としては、例えば、乳糖またはグリセリンなどが挙げられる。また、エアロゾルまたはドライパウダーとして製造することもできる。さらに、上記非経口剤においても、経口投与に適当な製剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0326】
本発明のバイスペシフィック抗体の有効量と適切な希釈剤および薬理学的に使用し得るキャリアとの組合せとして投与される有効量は、1回につき体重1kgあたり0.0001mg~100mgであり、2日から8週間間隔で投与される。
【0327】
7.本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた疾患の診断方法
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いて、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が発現した細胞を検出または測定することにより、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の発現細胞が関与する疾患を診断することができる。
【0328】
TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患である悪性腫瘍またはがんの診断は、例えば、以下のようにTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を検出または測定して行うことができる。
【0329】
まず、複数の健常者の生体から採取した生体試料について、本発明のバイスペシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を用い、下記の免疫学的手法を用いて、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方の検出または測定を行い、健常者の生体試料中のTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方の存在量を調べる。
【0330】
次に、被験者の生体試料中についても同様にTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方の存在量を調べ、その存在量を健常者の存在量と比較する。被験者のTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方の存在量が健常者と比較して増加している場合には、該被験者はがんであると診断される。その他のTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が関係する疾患の診断についても、同様の方法で診断できる。
【0331】
免疫学的手法とは、標識を施した抗原または抗体を用いて、抗体量または抗原量を検出または測定する方法である。例えば、放射性物質標識免疫抗体法、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、ウェスタンブロット法または物理化学的手法などが挙げられる。
【0332】
放射性物質標識免疫抗体法としては、例えば、抗原または抗原を発現した細胞などに、本発明のバイスペシフィック抗体または該抗体断片を反応させ、さらに放射線標識を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、シンチレーションカウンターなどで測定する方法が挙げられる。
【0333】
酵素免疫測定法としては、例えば、抗原または抗原を発現した細胞などに、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を反応させ、さらに標識を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、発色色素を吸光光度計で測定する方法が挙げられる。例えば、サンドイッチELISA法などが挙げられる。
【0334】
酵素免疫測定法で用いる標識体としては、公知の酵素標識[酵素免疫測定法、医学書院(1987)]を用いることができる。例えば、アルカリフォスファターゼ標識、ペルオキシダーゼ標識、ルシフェラーゼ標識、またはビオチン標識などを用いる。
【0335】
サンドイッチELISA法は、固相に抗体を結合させた後、検出または測定対象である抗原をトラップさせ、トラップされた抗原に第2の抗体を反応させる方法である。該ELISA法では、検出または測定したい抗原に結合する抗体または抗体断片であって、抗原結合部位の異なる2種類の抗体を準備し、そのうち、第1の抗体または抗体断片をあらかじめプレート(例えば、96穴プレート)に吸着させ、次に第2の抗体または抗体断片をFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼなどの酵素、またはビオチンなどで標識しておく。上記の抗体が吸着したプレートに、生体内から分離された細胞若しくはその破砕液、組織若しくはその破砕液、細胞培養上清、血清、胸水、腹水、または眼液などを反応させた後、標識した抗体または抗体断片を反応させ、標識物質に応じた検出反応を行う。濃度既知の抗原を段階的に希釈して作製した検量線より、被験サンプル中の抗原濃度を算出する。
【0336】
サンドイッチELISA法に用いる抗体としては、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれを用いてもよく、Fab、Fab’、またはF(ab)などの抗体断片を用いてもよい。サンドイッチELISA法で用いる2種類の抗体の組み合わせとしては、異なるエピトープに結合するモノクローナル抗体または該抗体断片の組み合わせでもよいし、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体またはその抗体断片との組み合わせでもよい。
【0337】
蛍光免疫測定法としては、例えば、文献[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third edition,Academic Press(1996)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などに記載された方法で測定する。蛍光免疫測定法で用いる標識体としては、公知の蛍光標識[蛍光抗体法、ソフトサイエンス社(1983)]を用いることができる。例えば、FITCまたはRITCなどを用いる。
【0338】
発光免疫測定法としては、例えば、文献[生物発光と化学発光 臨床検査42、廣川書店(1998)]などに記載された方法で測定する。発光免疫測定法で用いる標識体としては、公知の発光体標識が挙げられ、例えば、アクリジニウムエステルまたはロフィンなどを用いる。
【0339】
ウェスタンブロット法としては、抗原または抗原を発現した細胞などをSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)-PAGE[Antibodies - A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]で分画した後、該ゲルをポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜またはニトロセルロース膜にブロッティングし、該膜に抗原に結合する抗体または抗体断片を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼなどの酵素標識、またはビオチン標識などを施した抗IgG抗体またはその抗体断片を反応させた後、該標識を可視化することによって測定する。一例を以下に示す。
【0340】
まず、所望のアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現している細胞や組織を溶解し、還元条件下でレーンあたりのタンパク量として0.1~30μgをSDS-PAGE法により泳動する。次に、泳動されたタンパク質をPVDF膜にトランスファーし1~10%BSAを含むPBS(以下、BSA-PBSと表記する)に室温で30分間反応させブロッキング操作を行う。ここで本発明のバイスペシフィック抗体を反応させ、0.05~0.1%のTween-20を含むPBS(Tween-PBS)で洗浄し、ペルオキシダーゼ標識したヤギ抗マウスIgGを室温で2時間反応させる。Tween-PBSで洗浄し、ECL Western Blotting Detection Reagents(アマシャム社製)などを用いて該抗体が結合したバンドを検出することにより、抗原を検出する。ウェスタンブロッティングでの検出に用いられる抗体としては、天然型の立体構造を保持していないポリペプチドに結合できる抗体が用いられる。
【0341】
物理化学的手法としては、例えば、抗原であるTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方と本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片とを結合させることにより、凝集体を形成させて、該凝集体を検出する。この他に物理化学的手法として、毛細管法、一次元免疫拡散法、免疫比濁法またはラテックス免疫比濁法[臨床検査法提要、金原出版(1998)]などを用いることもできる。
【0342】
ラテックス免疫比濁法では、抗体または抗原を感作させた粒径0.1~1μm程度のポリスチレンラテックスなどの担体を用い、対応する抗原または抗体により抗原抗体反応を起こさせると、反応液中の散乱光は増加し、透過光は減少する。この変化を吸光度または積分球濁度として検出することにより、被験サンプル中の抗原濃度などを測定する。
【0343】
一方、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方が発現している細胞の検出または測定には、公知の免疫学的検出法を用いることができるが、好ましくは免疫沈降法、免疫細胞染色法、免疫組織染色法または蛍光抗体染色法などを用いる。
【0344】
免疫沈降法としては、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を発現した細胞などを本発明のバイスペシフィック抗体またはその抗体断片と反応させた後、プロテインGセファロースなどのイムノグロブリンに特異的な結合能を有する担体を加えて、抗原抗体複合体を沈降させる。
【0345】
または、以下のような方法によっても行なうことができる。まず、ELISA用96穴プレートに本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を固相化した後、BSA-PBSによりブロッキングする。次に、BSA-PBSを捨てPBSでよく洗浄した後、TfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を発現している細胞や組織の溶解液を反応させる。よく洗浄した後のプレートより、免疫沈降物をSDS-PAGE用サンプルバッファーで抽出し、上記のウェスタンブロッティングにより検出する。
【0346】
免疫細胞染色法または免疫組織染色法とは、抗原を発現した細胞または組織などを、場合によっては抗体の透過性を良くするために界面活性剤やメタノールなどで処理した後、本発明のバイスペシフィック抗体と反応させ、さらにFITCなどの蛍光標識、ペルオキシダーゼなどの酵素標識またはビオチン標識などを施した抗イムノグロブリン抗体またはその結合断片と反応させた後、該標識を可視化し、顕微鏡にて顕鏡する方法である。また、蛍光標識の抗体と細胞を反応させ、フローサイトメーターにて解析する蛍光抗体染色法[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition, Academic Press (1996)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]により検出を行うことができる。特に、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、蛍光抗体染色法により、細胞膜上に発現しているTfRおよびEGFR等の細胞表面抗原の少なくとも一方を検出することができる。
【0347】
また、蛍光抗体染色法のうち、FMAT8100HTSシステム(アプライドバイオシステム社製)などを用いた場合には、形成された抗体-抗原複合体と、抗体-抗原複合体の形成に関与していない遊離の抗体または抗原とを分離することなく、抗原量または抗体量を測定することができる。
【実施例0348】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0349】
[実施例1]可溶性ヒトおよびサルTfR抗原ならびに可溶性ヒト、サルEGFR抗原の調製1.ヒトTfRおよびサルTfRの可溶性抗原の調製
N末端にFLAG-Fcが付加されたヒトおよびサルTfRの細胞外ドメインタンパク質をそれぞれ以下に記載する方法で作製した。ヒトTfR細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号1に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号2に、サルTfR細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号3に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0350】
(1)FLAG-Fc-ヒトTfRおよびFLAG-Fc-サルTfRベクターの作製
ヒトTfR遺伝子配列(Genbank Accession Number:NM_003234.2、配列番号5;該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号6に示す)を基に配列番号1で示される塩基配列からなるヒトTfRの細胞外ドメインの遺伝子断片を合成した。
【0351】
FLAG-tagおよびヒトIgGのFc領域を含むINPEP4ベクター(Biogen-IDEC社製)を制限酵素BamHIおよびKpnIで消化し、配列番号1で示される塩基配列挿入して、FLAG-Fc-ヒトTfR発現ベクターを作製した。
【0352】
同様の方法で、サルTfRの遺伝子配列(配列番号7;該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号8に示す)を基に配列番号3で示される塩基配列からなるサルTfRの細胞外ドメインの遺伝子断片を含むFLAG-Fc-サルTfR発現ベクターを作製した。
【0353】
(2)FLAG-Fc-ヒトTfRおよびFLAG-Fc-サルTfRタンパク質の作製 FreeStyle(商標) 293 Expression System (Thermo Fisher社製)を用いて、1-(1)で作製したFLAG-Fc-ヒトTfR発現ベクターをHEK293細胞に導入して培養し、一過性発現系でタンパク質を発現させた。ベクター導入5日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(Millipore社製)で濾過した。
【0354】
この培養上清をProtein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いてアフィニティー精製を行った。プロテインAに吸着させた抗体を、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水[D-PBS(-) without Ca and Mg,liquid;以下D-PBS(-)と記載する。ナカライテスク社製]にて洗浄し、100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)により溶出して、2MTris-HCl(pH8.5)を含むチューブに回収した。
【0355】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いた限外ろ過により、D-PBS(-)に置換した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターMillex-Gv(Millipore社製)でろ過滅菌し、FLAG-Fc-ヒトTfRタンパク質を作製した。同様の方法で、1-(1)で作製したFLAG-Fc-サルTfR発現ベクターを用い、FLAG-Fc-サルTfRタンパク質を作製した。取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて算出した。
【0356】
2.ヒトEGFRおよびサルEGFRの可溶性抗原の調製
C末端にFLAG-FcまたはGSTが付加されたヒトまたはサルEGFRの細胞外ドメインタンパク質をそれぞれ以下に記載する方法で作製した。ヒトEGFRのシグナル配列および細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号9に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号10に、サルEGFRのシグナル配列および細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号11に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0357】
ヒトEGFR遺伝子配列(Genbank Accession Number:NM_005228.4、配列番号13;該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号14に示す)を基に配列番号9で示される塩基配列からなるヒトEGFRの細胞外ドメインの遺伝子断片を合成した。同様にして配列番号11で示される塩基配列からなるサルEGFRの細胞外ドメインの遺伝子断片を合成した。1-(1)および(2)に記載の方法と同様にして、ヒトおよびサルEGFR-FLAG-Fcタンパク質ならびにヒトおよびサルEGFR-GSTタンパク質をそれぞれ得た。
【0358】
取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用い算出した。
【0359】
[実施例2]ヒト又はサルTfR膜発現CHO細胞の作製
pKANTEX(米国特許第6423511号明細書に記載)に配列番号5に示すヒトTfR遺伝子をクローニングし、膜発現用ヒトTfR発現ベクターpKANTEX-ヒトTfR fullを得た。
【0360】
取得した発現ベクターpKANTEX-ヒトTfR fullをCHO細胞に導入して培養し、一過性発現系でタンパク質を発現させた。遺伝子導入後、シングルセルクローニングし、ヒトTfFR/CHO細胞を得た。
【0361】
同様の方法で配列番号7に示すサルTfR遺伝子をクローニングし、サルTfR/CHO細胞を得た。
【0362】
Carblxyl fluorescein succininidyl ester(CFSE)染色された細胞の調製は以下の方法でおこなった。ヒトTfFR/CHO細胞、サルTfR/CHO細胞を0.02%EDTA-PBS(ナカライテスク社)で剥離して回収した後、CFSE(Sigma-Aldrich社)を最終濃度が0.2μMになるように添加して室温で10分間反応させた後、10%ウシ胎仔血清含有D-PBS(-)(ナカライテスク社)を添加して37℃で10分間インキュベートした。反応後の細胞を遠心分離した後、0.02%EDTA、0.05%NaNを含有した1%BSA-PBS(ナカライテスク社)で洗浄した。得られたCFSE染色細胞はセルバンカー1(日本全薬工業社)にて凍結保存した。
【0363】
[実施例3]ヒト抗体産生動物への免疫
ヒトTfR、ヒトEGFRに対するモノクローナル抗体を取得するために、ヒト抗体産生動物にアジュバントで混合したFLAG-Fc-ヒトTfR、ヒトEGFR-FLAG-Fcを計4~5回免疫した。被免疫動物から血清を回収し、ヒトTfR、ヒトEGFRに対する結合活性をELISAにより解析し、抗体価が上がっていることを確認した。
【0364】
[実施例4]抗TfR抗体の取得
1.軽鎖がA27のTfR免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーの作製
免疫動物から得られた脾臓細胞または末梢血単核細胞(peripheral blood mononuculear cell;PBMC)からRNeasy Mini kit(QIAGEN社製)を用いてRNAを抽出し、SMARTer RACE cDNA増幅キット(Clontech社製)にてcDNAを増幅し、さらにPCRにてVH遺伝子断片を増幅させた。該VH遺伝子断片およびヒトの抗体germ-line配列であり、配列番号15で示される塩基配列からなるA27配列をファージミドpCANTAB 5E(Amersham Pharmacia社製)に挿入し、大腸菌TG1(Lucigen社製)を形質転換してプラスミドを得た。
【0365】
なお、A27配列は配列番号16で示されるアミノ酸配列からなる、ヒト抗体の軽鎖可変領域(VL)をコードしており、該VLのCDR1、2および3(それぞれLCDR1、2および3とも表す)のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号17、18および19で示される。
【0366】
得られたプラスミドをVCSM13 Interference Resistant Helper Phage(Agilent Technologies社製)に感染させることで、A27配列からなるVL遺伝子を有し、VH遺伝子がライブラリー化されたTfR免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを得た。
【0367】
2.軽鎖がA27の抗TfRモノクローナル抗体の取得
このTfR免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを用いて、下記のファージディスプレイ法により、A27にコードされるVLを有する抗TfRモノクローナル抗体を取得した。
【0368】
(1)タンパク質固層化チューブを用いたタンパク質パニング
ヒトTfR(BBI Solutions社製)を固相化し、SuperBlock Blockig Buffer(Thermo Fisher社製)を用いてヒトTfRが結合していない部位をブロックしたMAXISORP STARTUBE(NUNC社製)と、ヒト抗体M13ファージライブラリーを室温下で1~2時間反応させ、D-PBS(-)および0.1% Tween20含有PBS(以下PBS-Tと記載する。和光純薬工業社製)でそれぞれ3回洗浄後に0.1MのGly-HCl(pH2.2)でファージを溶出し、溶出液を2MのTris-HCl(pH8.5)で中和した。
【0369】
(2)膜発現ヒトTfRまたはサルTfR発現CHO細胞パニング
CHO細胞にヒト抗体M13ファージライブラリーを氷上で30分間反応させ、遠心分離により細胞を除いた上清を回収してCHO細胞と反応後のファージ溶液を調製した。このファージ液と、実施例1で取得したCFSE染色されたヒトTfR/CHOを氷上で30分間~1時間反応させた後、遠心分離により上清を除去した。5%ウシ胎仔血清、1mMのEDTAおよび0.1%NaNを含有したD-PBS(-)(以下SMバッファーと記載する)で洗浄を複数回繰り返し行った後、1次抗体として抗M13抗体(GEヘルスケア社)を加えて氷上で30分間反応させた。遠心分離により上清を除去し、SMバッファーによる洗浄を複数回繰り返し行った後、2次抗体としてAPC標識Goat抗mouse IgG(H+L)抗体(Southern Biotech社)を加えて氷上で30分間反応させた。遠心分離により上清を除去し、SMバッファーによる洗浄を複数回繰り返し行った後、7-aminoactinomycin D(AAD)(BD Biosciences社)を添加し、氷上で10分間反応させた後、フローサイトメーター(BDバイオサイエンス社、FACS AriaIII)で7-AAD陰性の生細胞画分かつCFSE陽性の抗原発現細胞画分のソーティングをおこなった。なお、抗原発現細胞結合ファージの濃縮が確認できたラウンドにおいては上記に加えてさらにAPC陽性のファージ結合画分をソートした。ソートされた細胞から0.1MのGly-HCl(pH2.2)でファージを溶出し、溶出液を2MのTris-HCl(pH8.5)で中和した。
【0370】
サル/CHO細胞を用いた細胞パニングも同様の方法でおこなった。溶出したファージは、TG1コンピテントセルに感染させ、ファージを増幅した。上記(1)または(2)の操作を2回または3回繰り返し、ヒトTfRに特異的に結合するscFvを提示したファージを濃縮した。濃縮されたファージをTG1に感染させ、SOBAGプレート(2.0% トリプトン、0.5% Yeast extract、0.05% NaCl、2.0% グルコース、10mM MgCl、100μg/mL アンピシリン、1.5% アガー)に播種してコロニーを形成させた。
【0371】
コロニーを植菌して培養後、VCSM13 Interference Resistant Helper Phageを感染させて、再度培養することで単クローンのファージを得た。得られた単クローンのファージを用いて、フローサイトメトリー(Millipore社、Guava Easy Cyte HT)にてヒトおよびサルTfRのいずれにも結合するクローンを選択した。
【0372】
フローサイトメトリーは、実施例2のヒトまたはサルTfR/CHOにファージクローンを加えておこなった。4℃下で30分間反応させた後、各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した。
【0373】
ELISAは、単クローン化したファージのTfR反応性を確認するために行った。具体的には、抗原タンパク質を固相化した96ウェルイムノプレート(Nunc社)に、10%ブロックエース(大日本製薬株式会社製)含有PBS-Tで希釈したファージ溶液を添加し、室温で1時間反応させた後、PBS-Tで洗浄し、1%BSA-PBSで希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼで標識された抗M13抗体(GEヘルスケア社製)を添加し、室温で1時間反応させることにより行った。プレートを、PBS-Tで洗浄後、TMB発色基質液(DAKO社製)を加え、室温下で反応させ、2NのHCl溶液を加えて発色反応を止め、波長450nm(参照波長570nm)での吸光度をプレートリーダー(Emax;Molecular Devices社)で測定した。
【0374】
ヒトおよびサルTfRのいずれにも結合したクローンについて、配列解析を行い、A27にコードされるVLを有する抗TfR抗体を取得した。表1に、取得したそれぞれの抗TfR抗体のVHをコードする全塩基配列および当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列、およびVHのCDR1~3(以下ではHCDR1~3と記載することもある)のアミノ酸配列の配列番号を示す。なお、表中の「―」は配列情報を記載していないことを示す。
【0375】
【表1】
【0376】
3.軽鎖がA27以外の抗TfR抗体の取得
(1)細胞融合によるハイブリドーマ作製
マウスミエローマ細胞株 P3-U1(P3X63Ag8U.1、ATCC CRL-1597)をエスクロンクローニングメディウム(エーディア社)で培養して無血清馴化したのち、細胞融合の親株として用いた。被免疫動物の脾臓を無菌的に採取しRED BLOOD CELL LYSING BUFFER(Sigma-Aldrich社)で溶血後、PBSで2回洗浄し、脾細胞とP3-U1の細胞数が、脾臓細胞:P3-U1=8:1になるよう混合し、遠心分離(1200rpm、5分間)した。
【0377】
得られた沈殿画分の細胞群をよくほぐした後、攪拌しながら37℃にて1gのポリエチレングリコール-1000(PEG-1000、純正化学社)、1mLのMEM培地(ナカライテスク社)および0.35mLのジメチルスルホキシド(Sigma-Aldrich社)の混液を0.5mL加え、そこに1分間毎に1mLのMEM培地を5回加えた後、MEM培地を加えて全量が50mLになるようにした。
【0378】
細胞懸濁液を遠心分離(900rpm、5分間)し、得られた沈澱画分の細胞をゆるやかにほぐした後、HAT SUPPLEMENT(Thermo Fisher Scientific社)を添加したエスクロンクローニングメディウムで脾臓細胞の濃度が1.5×10細胞/9mLとなるように懸濁した。事前に96ウェル培養用プレートにはHAT添加クローニングメディウムを100μL/ウェルで分注しておき、そこへ細胞懸濁液を100μL/ウェルずつ分注し、COインキュベーター(5%CO、37℃)で8~10日間培養した。
【0379】
(2)ハイブリドーマのスクリーニング
ハイブリドーマ培養上清に含まれる抗体のTfRへの結合活性をELISAで評価した。被験サンプルにはハイブリドーマ培養上清を使用し、測定は上記2.(2)と同様の手順で実施した。
【0380】
(3)ハイブリドーマのサブクローニング
スクリーニングで陽性であったウェルの細胞についてサブクローニングを行い、クローニングメディウム中で約7~10日間培養した。
【0381】
(4)抗体可変領域遺伝子のクローニングと配列決定
クローニングしたハイブリドーマからRneasy mini kit(Qiagen社)を用いてトータルRNAを抽出し、5’-RACE法により抗体遺伝子を増幅させた。RACE用cDNAの合成にはSMARTer RACE Kit(Clontech社)を用いた。増幅させた抗体可変領域断片を、TOPO TA cloning(Invitrogen社)を用いてクローニングして該DNA断片の塩基配列を確認した。
【0382】
取得された抗TfR抗体のうち、クローン2230の重鎖および軽鎖の可変領域をコードする塩基配列から推定されるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号53および配列番号54に示す。
【0383】
4.取得した抗TfR抗体を発現するベクターの構築
取得した抗TfR抗体の遺伝子が組み込まれた可溶性IgGの発現ベクターをそれぞれ作製した。まず、共通のVLをコードするA27遺伝子をN5KG4PE(IDEC Pharmaceuticals)またはN5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)にサブクローニングした。
【0384】
その後、VH遺伝子をN5KG4PEまたはN5KG4PE R409Kにサブクローニングして、ヒトIgG4PEの定常領域またはヒトIgG4PE R409Kの定常領域をもつ抗TfRモノクローナル抗体の発現ベクターを得た。
【0385】
また、国際公開第2012/153707号に記載された、TfR中和抗体である抗TfRモノクローナル抗体TfR434およびTfR435を抗TfR抗体の陽性対照抗体として使用するため、発現ベクターを作製した。TfR434およびTfR435のVHのアミノ酸配列を配列番号55および56に、VLのアミノ酸配列を配列番号57にそれぞれ示す。
【0386】
TfR435のVHおよびVLをコードする遺伝子を合成し、N5KG1ベクター(国際公開第2003/033538号に記載)にサブクローニングして、ヒトIgG1の定常領域をもつ抗TfRモノクローナル抗体TfR435の発現ベクターを得た。
【0387】
以降、モノクローナル抗体はクローン名で記載する。
【0388】
[実施例5]細胞表面抗原に対する抗体の取得
(1)EGFR抗体の作製
1.EGFR免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーの作製
実施例4の1.と同様の方法により、A27配列からなるVL遺伝子または抗TfR抗体2230のVL遺伝子を有し、VH遺伝子がライブラリー化されたEGFR免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを得た。
【0389】
2.抗EGFR抗体の取得
実施例1で取得したヒトEGFR-FcまたはサルEGFR-Fcを固相化し、SuperBlock Blockig Buffer(Thermo Fisher社製)を用いて抗原が結合していない部位をブロックしたMAXISORP STARTUBE(NUNC社製)と、EGFR免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを用い、実施例4の2と同様の方法によりヒトEGFR及びサルEGFRに特異的に結合するscFvを提示したファージを単クローン化した。
【0390】
この操作を3回~5回繰り返し、ヒト及びサルEGFR―Fcに特異的に結合するscFvを提示したファージを濃縮した。
【0391】
ヒト及びサルEGFR-Fcを特異的に認識するクローンの確認はELISA法でおこなった。ELISAは、実施例1のヒトまたはサルEGFR-Fcを固相化し、実施例4と同様の方法でおこなった。
【0392】
ヒト及びサルEGFRのいずれにも結合したクローンの中から、アフィニティーがCetuximabと同等程度に高かった以下の3クローンを選択した。この3クローンの配列解析を行い、A27にコードされるVLを有する抗EGFR抗体を取得した。表1と同様の表示方法で、各抗EGFR抗体のVHの配列情報を表2に示す。
【0393】
【表2】
【0394】
同様に抗TfR抗体2230と同じVLを有する抗EGFR抗体を取得した。取得された抗EGFR抗体のうち、クローンKME07、KME09およびKME11の重鎖の可変領域をコードする塩基配列から推定されるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号73、配列番号74および配列番号75に示す。
【0395】
取得した抗EGFR抗体の遺伝子が組み込まれた可溶性IgGの発現ベクターを実施例4と同様の方法で、それぞれ作製した。定常領域は、ヒトIgG4PEまたはヒトIgG4PE R409Kの定常領域を用いた。
【0396】
また、抗EGFR抗体の陽性対照抗体として、国際公開第1996/040210号に記載された抗EGFRモノクローナル抗体C225の可変領域をもつ抗体(以下Cetuximabと記載する)を作製した。CetuximabのVHのアミノ酸配列を配列番号76に示す。また、CetuximabのVLのアミノ酸配列を配列番号77に示す。
【0397】
CetuximabのVHおよびVLをコードする遺伝子を合成し、実施例4と同様の方法でN5KG1ベクターにサブクローニングし、ヒトIgG1の定常領域をもつCetuximabの発現ベクターを得た。
【0398】
(2)抗Glypican-3抗体の作製
国際公開第2012/145469号に記載された抗Glypican-3モノクローナル抗体HN3の可変領域をもつ抗体を作製した。HN3のVHのアミノ酸配列を配列番号78に示す。HN3のVHをコードする遺伝子を合成し、実施例4と同様の方法で、N5KG4PE R409Kにサブクローニングし、ヒトIgG4PE R409Kの定常領域をもつ抗Glypican-3モノクローナル抗体HN3の発現ベクターを得た。
【0399】
[実施例6]TfRおよび細胞表面抗原に結合するバイスペシフィック抗体の発現ベクターの構築
図1(A)に記載する構造を有する、ヒト及びサルTfRならびにヒト及びサルEGFRに結合するバイスペシフィック抗体を以下の方法で作製した。図1(A)~(C)において、N末端側ポリペプチドに含まれるVHをVH1、C末端側のIgG部分に含まれるVHをVH2という。バイスペシフィック抗体の形状には国際公開第2009/131239号に記載の形状を採用した。
【0400】
VH1およびVH2は実施例4もしくは実施例5で得られた抗体のVHのいずれかであり、VH1とVH2は異なる抗原に対する抗体のVHである。
【0401】
以下の記載では、N末端側ポリペプチドとIgG型抗体がリンカーを介して結合している場合、該リンカーのアミノ酸配列をコードする遺伝子をリンカー遺伝子と称する。
以下の工程で作製されるバイスペシフィック抗体のリンカー配列としては、IgG4のヒンジ領域の一部(ES(配列番号79)、ESKYG(配列番号80)およびESKYGPP(配列番号81)など)を連結させたもの、あるいはGSリンカー(GGGGS(配列番号82)やGGGGSの3回繰り返し配列)を用いた。また、IgG部分の重鎖定常領域として、IgG4PEまたは国際公開第2006/033386号記載のIgG4PE R409Kの重鎖定常領域(塩基配列を配列番号83、アミノ酸配列を配列番号84で示す)を用いた。
【0402】
以降、抗EGFR抗体の可変領域をN末端側ポリペプチドに含み、抗TfR抗体の可変領域をIgG部分に含むバイスペシフィック抗体をEGFR-TfRバイスペシフィック抗体と記載する。また、例えば抗EGFR抗体E12の可変領域および、抗TfR抗体TfR1071の可変領域を含むEGFR-TfRバイスペシフィック抗体をE12-TfR1071と記載する。同様に、抗TfR抗体の可変領域をN末端側ポリペプチドに含み、抗EGFR抗体の可変領域をIgG部分に含むバイスペシフィック抗体をTfR-EGFRバイスペシフィック抗体と記載する。
【0403】
また、例えば抗TfR抗体TfR1071の可変領域および抗EGFR抗体E12の可変領域を含むTfR-EGFRバイスペシフィック抗体をTfR1071-E12と記載する。N末端側ポリペプチドとIgG部分の間にリンカーを有する抗体を、EGFR-リンカー-TfRバイスペシフィック抗体と記載する。
【0404】
また、例えば抗EGFR抗体E08の可変領域、抗TfR抗体TfR1071の可変領域およびリンカーとしてESを有するEGFR-リンカー-TfRバイスペシフィック抗体を、E08-ES-TfR1071と記載する。なお、本表記方法においては、GSリンカー(配列番号82)はGS、GSリンカーを三回繰り返した配列はGS3と記載する。
【0405】
当該バイスペシフィック抗体の名称、構造、リンカー、当該抗体作製に使用した抗TfR抗体のクローン名および細胞表面抗原に対する抗体のクローン名を表3に示す。なお、表中の「-」はリンカーを使用しておらず該当する配列がないことを示す。
【0406】
【表3】
【0407】
1.軽鎖共通型バイスペシフィック抗体の発現ベクターの作製
表3に記載されたバイスペシフィック抗体のうち、図1(A)に示す軽鎖共通型バイスペシフィック抗体発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。
【0408】
まず、共通のVLをコードするA27遺伝子をN5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)にサブクローニングした。
【0409】
その後、ヒトIgG4のCH1と同じアミノ酸配列をコードし使用コドンを変更した遺伝子(配列番号85)を鋳型として、KOD-Plus-Ver.2(TOYOBO社)を用いて、PCRにより該遺伝子断片を増幅させた。同様の方法で、実施例4または実施例5で取得した抗体のVH遺伝子を鋳型として、VH2部分の遺伝子断片を増幅させた。
この二つの遺伝子断片を実施例4または実施例5で取得した抗体の発現ベクターのVH1とIgG部分のCH1の間にサブクローニングして、バイスペシフィック抗体発現ベクターを得た。
【0410】
2.軽鎖非共通型バイスペシフィック抗体の発現ベクターの作製
表3に記載されたバイスペシフィック抗体のうち、軽鎖非共通型バイスペシフィック抗体について、発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。
【0411】
図1(B)に示す抗体は1種類のベクターで構成される。まず、VLをコードするA27遺伝子をヒトIgG4PE R409Kの定常領域をコードする塩基配列を含むpCI-OtCAG-G4PE R409Kベクターにサブクローニングした。
【0412】
本ベクターをpCI-A27と記載する。pCI-OtCAG_hG4PE R409Kベクターが有する定常領域配列は、ヒトIgG4の重鎖定常領域のEU-indexにおける228番目のSer残基をProに、235番目のLeu残基をGluに、および409番目のArg残基をLysにそれぞれ置換したIgG4変異体[以下、IgG4PE R409K(国際公開第2006/033386号)と記載する]の重鎖定常領域である。
【0413】
なおこれらのベクターは、Promega社pCIベクターを共通主骨格としてヒト抗体遺伝子を発現させるために必要な制限酵素サイトを導入し、全合成によって作製されたベクターである。
【0414】
その後、実施例5で取得した抗体のVH遺伝子、リンカーがある場合にはリンカーの遺伝子、実施例4で取得した抗TfR抗体のVH遺伝子を連結したポリペプチドの塩基配列を全合成したものをpCI-A27にサブクローニングして、発現ベクターを得た。
【0415】
[実施例7]TfRに結合するモノクローナル抗体、細胞表面抗原に結合するモノクローナル抗体およびバイスペシフィック抗体の調製
実施例4から実施例6で抗体発現ベクターにサブクローニングした抗TfRモノクローナル抗体、細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体、および両抗原に対する結合部位を有するバイスペシフィック抗体を下記の方法でそれぞれ発現させ、精製した。
【0416】
抗体発現ベクターをExpi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社)によりExpi293細胞に共遺伝子導入し、12~16時間後にTransfection Enhancerを添加して、一過性発現系で抗体またはバイスペシフィック抗体を発現させた。
【0417】
ベクター導入4~7日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(Millipore製)で濾過した後、Protein A樹脂(MabSelect SuRe、GEヘルスケア社)を用いて抗体をアフィニティー精製した。洗浄液としてD-PBS(-)を用いた。Protein Aに吸着させた抗体またはバイスペシフィック抗体を、100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)により溶出し、2MのTris-HCl緩衝液(pH8.5)を含むチューブに回収した。
【0418】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いて濃縮し、Nap Column(GEヘルスケア社製)を用いてD-PBS(-)へ緩衝液を置換した。さらに、単量体を精製する場合には、AKTA FPLC(GEヘルスケア社製)およびSuperdex High-performance Columns(GEヘルスケア社製)を用いて、該抗体またはバイスペシフィック抗体溶液より単量体画分を分取した。AKTAシステム孔径0.22μmのメンブランフィルター(Millex-GV、MILLIPORE社製)でろ過滅菌することにより精製抗体または精製バイスペシフィック抗体を得た。
【0419】
こうして得られた抗体溶液またはバイスペシフィック抗体溶液の波長280nmの吸光度を測定し、各抗体またはバイスペシフィック抗体のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて、精製抗体または精製バイスペシフィック抗体の濃度を算出した。
【0420】
[実施例8]ビアコアによるバイスペシフィック抗体の抗原に対する結合性の評価
実施例7で得られたEGFR-TfRバイスペシフィック抗体のヒトTfRおよびサルTfRならびにヒトEGFRおよびサルEGFRそれぞれに対する結合活性と種交差性を確認することを目的として、実施例1で作製したFLAG-Fc-ヒトTfR、FLAG-Fc-サルTfR、ヒトEGFR-GSTおよびサルEGFR-GSTを用いて、表面プラズモン共鳴法(SPR法)による結合性試験を実施した。測定機器として、BiacoreT100(GEヘルスケア社製)を使用した。
【0421】
Anti-human IgG antibodyを、Human Antibody Capture Kit(GEヘルスケア社製)を用いて、添付文書に従いCM5センサーチップ(GEヘルスケア社製)に固定化した。フローセルに、1~3μg/mLに調製した被験バイスペシフィック抗体を10μL/minの流速で10秒間添加した。
【0422】
次いで、アナライトとして1または9nMより5段階に3倍希釈した抗原タンパク質溶液(0.1%BSAを含むHBS-EP+(GEヘルスケア社製)で希釈)をそれぞれ30μL/minの流速で添加し、各バイスペシフィック抗体とアナライトとの結合反応を2分間、解離反応を10分間測定した。
【0423】
測定はシングルサイクルカイネティクス法で行った。得られたセンサーグラムを、Bia Evaluation Software(GEヘルスケア社製)を用いて解析し、各抗体の速度論定数を算出した。
【0424】
算出された各バイスペシフィック抗体のヒトおよびサルEGFRそれぞれに対する解離定数[kd/ka=KD]ならびにヒト抗原に対する解離定数をサル抗原に対する解離定数で割った値を表4に示す。表中のN/Aは、測定していなことを示す。
【0425】
【表4】
【0426】
表4に示す通り、EGFR-TfRバイスペシフィック抗体のヒトTfRおよびサルTfRに対するK値は、10-8~10-9Mオーダーであった。EGFR-TfRバイスペシフィック抗体はサルTfRに対するK値がヒトTfRに対するK値の1/10~10倍の間にあり、ヒトTfRとサルTfRの種交差性があることが示された。
【0427】
同様に、EGFR-TfRバイスペシフィック抗体のヒトEGFRおよびサルEGFRに対するK値は、10-9M~10-10Mオーダーであった。サルEGFRに対するK値がヒトEGFRに対するK値の1/10~10倍の間にあり、ヒトEGFRとサルEGFRの種交差性があることが示された。
【0428】
[実施例9]フローサイトメーターによるがん細胞の抗原発現量の測定及び取得抗体の結合性評価
各種がん細胞株における各種抗原発現量を、以下の手順に従いfluoresence activated cell sorting(FACS)法により評価した。評価にはPE標識抗ヒトCD71抗体(BD Pharmingen社)および、AlexaFluor488標識抗EGFR抗体(SantaCruz社)を用いた。
【0429】
各種がん細胞株におけるTfRおよびEGFRの発現量の評価は以下のように行った。
【0430】
OE21細胞を、1×10cells/mLの濃度で0.1% NaN、1% FBS含有D-PBS(-)のStaining Buffer(SB)に懸濁し、100μL/wellで96穴丸底プレート(ファルコン社製)に分注した。遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)の後、上清を除去し、ペレットへPE標識抗ヒトCD71抗体またはAlexaFluor488標識抗EGFR抗体を加え、氷温下30分間インキュベートした。SBで2回洗浄した後、SBに懸濁し、フローサイトメーターFACS CANTO II(BD社製)で各細胞の蛍光強度を測定した。同様にして、T.Tn細胞、U-937細胞、HepG2細胞、HuH-7細胞およびHLE細胞におけるTfR発現をそれぞれ評価した。
【0431】
同様に、HepG2細胞、HuH-7細胞およびHLE細胞におけるGPC3の発現量も評価した。具体的には、上記と同様にして細胞を調製し、一次抗体としてHN3抗体を使用した後、二次抗体としてAlexa Fluor(登録商標) 488 goat anti-human IgG(H+L)(Molecular Probes社)を加え、氷温下30分間インキュベートして同様の方法で蛍光強度を測定した。
【0432】
陰性対照にはMol Immunol. 1996 Jun;33(9):759-68.に記載のDNP-1抗体のVLおよびVH(GenBankアクセッションNo.:VL U16688、VH U116687)をコードするベクターを用い、国際公開第2006/033386号の実施例5記載の方法に準じて作製したIgG4抗体R409K変異体(以下抗DNP抗体と記載する)およびPBSを使用した。
【0433】
図2(A)~(C)はそれぞれOE21細胞、T.Tn細胞およびU-937細胞におけるEGFRの発現量をフローサイトメーターで評価した結果を示す。また、図2(D)~(G)はそれぞれOE21細胞、T.Tn細胞およびU-937細胞におけるTfRの発現量をフローサイトメーターで評価した結果を示す。図2に示すように、OE21細胞はEGFR高発現、T.Tn細胞はEGFR中発現、U-937細胞はEGFR低発現であった。
【0434】
図3(A)~(C)はそれぞれHepG2細胞、HuH-7細胞およびHLE細胞におけるGPC3の発現量をフローサイトメーターで評価した結果を示す。また、図3(D)~(F)はそれぞれHepG2細胞、HuH-7細胞およびHLE細胞におけるTfR発現量をフローサイトメーターで評価した結果を示す。図3に示すように、HepG2細胞はGPC3高発現、HuH-7細胞はGPC3中発現、HLE細胞はGPC3陰性であった。また、HepG2細胞、HuH-7細胞、HLE細胞いずれもEGFR低発現であった。
【0435】
図2および図3に示すように、がん細胞株におけるTfRの発現はどの細胞株もおおむね変わらず、低発現から中発現であった。
【0436】
次に、実施例4および実施例5で得られた抗TfR抗体および抗EGFR抗体のOE21細胞に対する結合性をフローサイトメトリーにより確認した。図4(A)~(I)は、それぞれE08、E12、E17、KME07、KME09、KME11、TfR1071、2230、およびT14の結果を示す。
【0437】
その結果、抗EGFR抗体のうち、KME11についてのみOE21細胞に対する結合が確認できなかった。KME11は、実施例5に記載した通り、可溶性EGFRタンパク質に結合する抗体として選択されたが、上記結果より細胞表面の膜型EGFRには結合しないことが示された。また、抗TfR抗体のうち、T14についてのみOE21細胞への結合が確認できなかった。T14は、実施例4に記載した通りELISAにより可溶性TfRタンパク質に結合する抗体として選択されたが、上記結果より、細胞表面の膜型TfRには結合しないことが示された。
【0438】
[実施例10]抗TfR抗体の増殖阻害活性の評価
がん細胞株に対する増殖阻害活性を指標として、実施例4で得られたTfRモノクローナル抗体の増殖阻害活性を以下のように評価した。
【0439】
1×10cellsのOE21細胞を平底96wellプレート(ファルコン社製)に播種し、10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で希釈した被験抗体を終濃度1μg/mlとなるように添加し、37℃、5.0%炭酸ガス下で4~6日間培養した後、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent CellVialbility Assay(Promega社)を添加して、蛍光強度をマイクロプレートリーダー(1420 ARVO マルチラベルカウンター:WALLAC社製)で測定した。各条件において、6つの独立したウェルを用いて評価し、平均値を算出した。得られた蛍光強度の値は、各ウェルの生細胞中ATP量を反映している。陰性対照として抗DNP抗体を用いた。
【0440】
また、被験抗体と共に抗ヒトIgGポリクローナル抗体(Sigma社)(以下クロスリンク抗体とも記載する)を10μg/mL加えて、被験抗体を架橋させる条件でも評価した。それぞれの抗体についての評価結果を図5に示す。被験抗体のうち、モノクローナル抗体単独では増殖阻害活性を示さなかった抗体を、TfR非中和抗体として選択した。
【0441】
また、クロスリンク抗体を添加して被験抗体2分子を架橋すると、増殖阻害活性を示すクローン(TfR1071、TfR4016、cyno186、cyno292、2230)と示さないクローン(PSM4072、TfR1007、cyno163)が確認された。
【0442】
[実施例11]細胞表面抗原に対する抗体の増殖阻害活性の評価
がん細胞株に対する増殖阻害活性を指標として、実施例5で得られた細胞表面抗原に対する抗体の増殖阻害活性を以下のように評価した。
【0443】
1×10cellsのOE21細胞を平底96wellプレート(ファルコン社製)に播種し、10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で各種濃度に希釈した被験抗体を添加し、37℃、5.0%炭酸ガス下で4~6日間培養した後、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent CellVialbility Assay(Promega社)を添加して、蛍光強度をマイクロプレートリーダー(1420 ARVO マルチラベルカウンター:WALLAC社製)で測定した。各条件において、3つの独立したウェルを用いて評価し、平均値を算出した。得られた蛍光強度の値は、各ウェルの生細胞中ATP量を反映している。陰性対照として抗DNP抗体を用いた。
【0444】
抗EGFR抗体の増殖阻害活性の評価にはOE21細胞を用いた。OE21細胞に対する結果を図6に示す。図6に示すように、CetuximabおよびクローンE08は強い増殖阻害活性を、E17は弱い増殖阻害活性を示し、クローンE12は増殖阻害活性を示さなかった。この結果は、それぞれの抗体のEGF中和活性を反映していると考えられる。
【0445】
[実施例12]バイスペシフィック抗体の増殖阻害活性の評価
がん細胞株に対する増殖阻害活性を指標として、実施例6で得られたバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を以下のように評価した。
【0446】
1×10cellsのがん細胞を平底96wellプレート(ファルコン社製)に播種し、10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で各種濃度に希釈した被験抗体を添加し、37℃、5.0%炭酸ガス下で4~6日間培養した後、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent CellVialbility Assay(Promega社)を添加して、蛍光強度をマイクロプレートリーダー(1420 ARVO マルチラベルカウンター:WALLAC社製)で測定した。各条件において、3つの独立したウェルを用いて評価し、平均値を算出した。得られた蛍光強度の値は、各ウェルの生細胞中ATP量を反映している。陰性対照として抗DNP抗体を用いた。
【0447】
バイスペシフィック抗体の増殖阻害活性の評価にはOE21細胞を用いた。抗EGFR抗体E08の可変領域を有するバイスペシフィック抗体、抗EGFR抗体E12の可変領域を有するバイスペシフィック抗体、および抗TfR抗体2230の可変領域を有するバイスペシフィック抗体に関する評価結果をそれぞれ図7A~Cに示す。
【0448】
図7Aに示すように、実施例10においてクロスリンク抗体で架橋したときに増殖阻害活性があったクローン(TfR1071など)の可変領域をIgG部分側に配置し、抗EGFR抗体の可変領域をN末端側ポリペプチド側に配置したとき、強い増殖阻害活性を示した。その際、リンカーとしてIgG4のヒンジ領域のアミノ酸配列の一部(ES、ESKYGまたはESKYGPP)を用いた場合も同様に増殖阻害活性を示した。一方で、
抗TfR抗体の可変領域をN末端側ポリペプチドに含むバイスペシフィック抗体は、ほとんど増殖阻害活性を示さなかった。
【0449】
なお、実施例9の結果の通り、抗TfR抗体T14は細胞表面のTfRに反応しないため、E08-T14およびT14-E08が示す増殖阻害活性は、純粋にE08由来のEGFRシグナル阻害活性(実施例11)に由来するものと考えられる。
【0450】
また、図7Bに示すように、実施例10においてクロスリンク抗体で架橋したときに増殖阻害活性を示したクローン(R327、TfR1071、TfR4016、cyno186およびcyno292)の可変領域をIgG部分に含むバイスペシフィック抗体は、クロスリンク抗体で架橋しても増殖阻害活性を示さなかったクローン(PSM4072、TfR1007およびcyno163)の可変領域をIgG部分に含むバイスペシフィック抗体にくらべ、増殖阻害活性が強かった。
【0451】
抗TfR抗体2230の可変領域を有するバイスペシフィック抗体については、図7Cに示すように、KME07-2230、KME09-2230、KME11-2230が増殖阻害活性を示した。実施例9に示すように、KME11は細胞上のEGFRに結合しないことから、バイスペシフィック抗体KME11-2230はEGFR非依存的に細胞増殖阻害活性を発揮することが明らかになった。このような特性を持つクローンは、骨髄細胞などEGFR陰性でTfR陽性である正常細胞への毒性が懸念される。
【0452】
以上の結果から、R327、TfR1071、TfR4016、cyno186、cyno292のような、単独では増殖阻害活性を示さず、架橋すると増殖阻害活性を示す抗TfR抗体の可変領域を、IgG部分に有するバイスペシフィック抗体は、細胞表面抗原選択的に強い増殖阻害活性を示すことが示された。またバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性はリンカーの有無に影響を受けないことが示された。
【0453】
次に、EGFR-TfRバイスペシフィック抗体による増殖阻害活性とEGFR発現量の関係を検証するため、EGFR発現量が異なる細胞株を用いて、実施例6で得られたバイスペシフィック抗体E12-TfR1071の増殖阻害活性を評価した。実施例9の結果から、EGFR高発現の細胞としてOE21細胞を、中発現の細胞としてT.Tn細胞を、低発現の細胞としてU-937細胞を用いた。図8A~Cに示すように、E12-TfR1071はOE21細胞に対しては強い増殖阻害活性を、T.Tn細胞に対しては中程度の増殖阻害活性を示すが、U-937細胞に対しては増殖阻害活性を示さなかった。このことから、E12-TfR1071はEGFR発現量依存的に増殖阻害活性を示すことが分かった。
【0454】
各種GPC3-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性の評価にはHepG2細胞を用いた。図9に示すように、HN3-TfR1071、HN3-GS-TfR1071およびHN3-GS3-TfR1071は非常に強い増殖阻害活性を示した。
【0455】
GPC3-TfRバイスペシフィック抗体による増殖阻害活性とGPC3発現量の関係を検証するため、GPC3発現量が異なる細胞株を用いて、実施例6で得られたバイスペシフィック抗体HN3-TfR1071の増殖阻害活性を実施例10と同様の方法で評価した。
【0456】
実施例9に示すようにGPC3高発現の細胞としてHepG2細胞を用いた結果を図10A、中発現の細胞としてHuH-7細胞を用いた結果を図10B、陰性の細胞としてHLE細胞を用いた結果を図10Cに示す。図10A~Cに示すように、HN3-TfR1071は、GPC3高発現のHepG2細胞に対しては強い増殖阻害活性を、GPC3中発現のHuH-7細胞に対しては中程度の増殖阻害活性を示したが、GPC3陰性のHLE細胞に対しては増殖阻害活性を示さなかった。このことから、HN3-TfR1071はGPC3発現量依存的に増殖阻害活性を示すことが分かった。
【0457】
また、EGFR以外の細胞表面抗原に対しても、抗TfR抗体の可変領域をIgG部分に有するバイスペシフィック抗体は、細胞表面抗原依存的に強い細胞増殖阻害活性を示すことが明らかとなった。
【0458】
[実施例13]TfRとトランスフェリンに対する抗TfR抗体およびバイスペシフィック抗体の結合阻害活性
バイスペシフィック抗体のがん細胞に対する増殖阻害活性の作用機序を明らかにするため、EGFR-TfRバイスペシフィック抗体が、がん細胞上のTfRとトランスフェリンの結合を阻害するかフローサイトメーターを用いて以下のように評価した。
【0459】
1×10cellsのOE21細胞をU底96wellプレート(ファルコン社製)に10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で播種し、10μg/mlの被験抗体を添加し、氷上で1時間静置した後、Alexa Fluor488標識マウストランスフェリン(Jackson ImmunoResearch社)を添加してさらに氷上で1時間静置した。SBで2回洗浄した後、SBに懸濁し、実施例9と同様にフローサイトメーターで各細胞の蛍光強度を測定した。
【0460】
図11(A)~(D)にはそれぞれ、Cetuximab、TfR1071、E08-TfR1071、E12-TfR1071、およびTfR435の結果を示した。その結果、陽性対照のTfR中和抗体TfR435はトランスフェリンとTfRの結合を阻害したが、TfR抗体TfR1071ならびに、EGFR-TfRバイスペシフィック抗体E08-TfR1071およびE12-TfR1071はいずれも陰性対象のCetuximabと同様に、トランスフェリンとTfRの結合を阻害しなかった。
【0461】
この結果から、本発明のEGFR-TfRバイスペシフィック抗体にはTfR中和活性はなく、細胞表面上のTfRとトランスフェリンの結合を阻害しないことが示された。
【0462】
[実施例14]EGFR-TfRバイスペシフィック抗体の薬効発揮メカニズム検証(細胞内EGFR量、TfR量、EGFR下流シグナル)
バイスペシフィック抗体のがん細胞に対する増殖阻害活性の作用機序を明らかにするため、がん細胞にEGFR-TfRバイスペシフィック抗体を添加したときの、EGFRの下流シグナル、およびTfRタンパク質の量への影響をウェスタンブロッティングにより以下のように評価した。
【0463】
1×106cellsのOE21細胞を平底6wellプレート(ファルコン社製)に10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で播種し、被験抗体を添加して、37℃、5.0%炭酸ガス下で24時間培養した。その後、氷上に静置し、PBS(-)で1回洗浄後、Protease/Phosphatase Inhibitor Cocktail(CSTジャパン社)含有RIPAバッファー(Thermo Fisher社)を添加し、セルスクレイパー(社)を用いて溶解液を回収した。
【0464】
回収した溶解液を遠心分離(15000rpm、4℃、5分間)した後、上清を回収し、上清の一部を用いてPierce 660nm Protein Assay Kit(Thermo Fisher社)で上清中のタンパク質濃度を定量した。上清に試料緩衝液(SDS-PAGE用、6倍濃縮、還元剤含有。ナカライテスク社)を添加し、タンパク質10μg分の容量をポリアクリルアミド既製ゲル(ATTO社)にロードし、電気泳動装置(ATTO社)で25~80分間泳動した。
【0465】
電気泳動のスタンダードとしてはプレステインタンパク質サイズマーカーIII(Wako社)を使用した。電気泳動したゲルをろ紙(ATTO社)、メンブレン(ATTO社)と共にブロッター(ATTO社)にセットし、ゲル1枚につき125mAで1時間ブロッティングをおこなった。ブロッティング後のメンブレンはブロッキング緩衝液(PIERCE社)を用いて室温で1時間または4℃で一晩振とうした。
【0466】
各種タンパク質の一次抗体(ビオチン化抗Akt抗体、ビオチン化抗Phospho-Akt抗体、ビオチン化抗EGFR抗体、ビオチン化抗Phospho-EGFR抗体およびウサギ抗CD71抗体;全てCell Signaling Trechnology社)をそれぞれメンブレンに添加して室温で1時間または4℃で一晩振とうした。
【0467】
TBS-T(Wako社)で3回洗浄した後、各一次抗体に対する二次抗体(Streptoavidin抗体-HRPまたは抗ウサギIgG抗体-HRP;Cell Signaling Trechnology社)を添加して室温で1時間振とうした。TBS-Tで3回洗浄した後、ECL Prime Western Blotting Detection Regent(GEヘルスケア社)を添加し、Amersham Imager 600(GEヘルスケア社)で検出した。
【0468】
図12に示すように、E08-TfR1071添加によりリン酸化されたEGFRおよびリン酸化されたAKTは、陽性対照のCetuximabと同様に減少したが、E12-TfR1071添加では減少が見られなかった。一方で、TfRタンパク質の量はE08-TfR1071およびE12-TfR1071の添加により減少したが、Cetuximabでは減少しなかった。
【0469】
この結果から、E08-TfR1071にはEGFRシグナル阻害活性およびTfR分解活性があり、E12-TfR1071にはEGFRシグナル阻害活性はなくTfR分解活性のみがあることが示された。
【0470】
[実施例15]EGFR-TfRバイスペシフィック抗体のTfR発現への影響評価
バイスペシフィック抗体のがん細胞に対する増殖阻害活性の作用機序を明らかにするため、EGFR-TfRバイスペシフィック抗体が細胞膜上のTfR発現量に影響するか以下のように評価した。
【0471】
1×10cellsのOE21細胞を平底6wellプレート(ファルコン社製)に10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で播種し、10μg/mlの被験抗体を添加し、37℃で24時間インキュベートした。その後、実施例9と同様に細胞を剥離し、Transferrin from human serum, Alexa Fluor 488 conjugate(Molecular Probes社)を5μg/mL添加して4℃で30分間静置し、実施例9と同様に洗浄した後、フローサイトメーターで各細胞の蛍光強度を指標に細胞表面上に結合したトランスフェリン量を測定した。
【0472】
図13(A)~(D)には、それぞれCetuximab、TfR1071抗体、E08-TfR1071バイスペシフィック抗体、およびE12-TfR1071バイスペシフィック抗体の結果を示した。図13に示すように、TfR1071抗体を添加したときは細胞表面上に結合したトランスフェリンの量が減少しなかったのに対して、EGFR-TfRバイスペシフィック抗体を添加したときは細胞表面上に結合したトランスフェリンの量が減少した。
【0473】
これらの結果から、本発明のEGFR-TfRバイスペシフィック抗体のTfRを介した増殖阻害活性は、がん細胞のTfRタンパク質を分解し、細胞表面上のTfRを減少させることに起因することが示された。
【0474】
[実施例16]EGFR-TfRバイスペシフィック抗体の鉄取り込みへの影響評価
EGFR-TfRバイスペシフィック抗体のがん細胞に対する増殖阻害活性に鉄が関係しているか確認するため、以下のように評価した。
【0475】
1×10cellsのOE21細胞を平底96wellプレート(ファルコン社製)に10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で播種し、被験抗体と共にFerric Ammonium Sulfate(ナカライ社。以下FASと記載する)を最終濃度が10μMになるように添加し、37℃、5.0%炭酸ガス下で4~6日間培養した後、実施例10と同様の方法で生細胞中ATP量を測定した。
【0476】
図14に示すように、FAS未添加条件下において、Cetuximab、TfR中和抗体TfR435またはバイスペシフィック抗体E12-TfR1071の添加により細胞の増殖が阻害された。一方で、FASを添加すると、Cetuximabの増殖阻害活性には影響がなかったが、TfR中和抗体TfR435、バイスペシフィック抗体E12-TfR1071の増殖阻害活性は失われた。
【0477】
FAS添加により、TfRを介さない経路で細胞内に鉄を供給できるようになる。よって、FASを添加した条件下では、TfR中和抗体によるTfR阻害やEGFR-TfRバイスペシフィック抗体によるTfR分解に伴う鉄枯渇状態が解除され、TfRに起因する増殖阻害活性が失われる。一方で、EGFRのシグナル阻害による増殖阻害活性はFAS添加による鉄供給でも解除されない。したがって、E12-TfR1071の増殖阻害活性はEGFRのシグナル阻害ではなく、TfR中和抗体と同様に、細胞内に鉄が供給されないことが原因であることが示された。
【0478】
[実施例17]EGFR-TfRバイスペシフィック抗体とEGFRシグナル阻害剤の薬効比較
EGFRシグナル阻害とTfR阻害、2つの増殖阻害メカニズム間の活性を比較するため、IncuCyte(Sartorius社)を用いて評価した。
【0479】
1×10cellsのOE21細胞を平底96wellプレート(社製)に10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で播種し、同培地で10μg/mlに希釈した被験抗体を添加し、IncuCyteで2時間おきに1wellあたり3視野を撮影する設定で、37℃で5日間インキュベートした。培地交換を行い、10μg/mlの被験抗体を添加し、同様の方法でさらに2日間インキュベートした。その後、さらに培地交換を行い、被験抗体を添加せず、同様の方法で7日間インキュベートした。測定終了後、各撮影ポイントで細胞がウェルに占める割合をIncuCyteのソフトウェアで解析した。
【0480】
図15に示すとおり、Cetuximabを添加した条件では抗体を除去すると増殖が再開したが、バイスペシフィック抗体E08-TfR1071もしくはE12-TfR1071を添加した条件では、抗体除去後も細胞の再増殖は見られなかった。TfR中和抗体であるTfR435を添加した条件では、抗体除去後も細胞増殖阻害活性は認められたが、細胞増殖が再開する傾向が見られ、TfRの分解を誘導するE08-TfR1071もしくはE12-TfR1071の方がバイスペシフィック抗体除去後も強い増殖阻害活性を維持することが示唆された。
【0481】
この結果から、TfR阻害はEGFRシグナル阻害と比べて、阻害剤の除去後も細胞増殖阻害活性が維持されることが示された。
【0482】
[実施例18]EGFR-TfRバイスペシフィック抗体のヒト骨髄細胞への影響
バイスペシフィック抗体E08-TfR1071およびE12-TfR1071の正常ヒト骨髄細胞(EGFR陰性、TfR陽性)に対する影響を確認するため、以下のように評価した。
【0483】
7500cellsのヒト骨髄細胞(AllCells社)を96wellプレート(ファルコン社製)にStemSpan(商標) SFEMII(STEMCELL Technologies社)で播種し、被験抗体を添加して、37℃、5.0%炭酸ガス下で5日間培養した後、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent CellVialbility Assay(Promega社)を添加して、蛍光強度をマイクロプレートリーダー(1420 ARVO マルチラベルカウンター:WALLAC社製)で測定した。各条件において、2つの独立したウェルを用いて評価し、平均値を算出した。得られた蛍光強度の値は、各ウェルの生細胞中ATP量を反映している。
【0484】
なお、ヒト骨髄細胞をMature multipotential hematopoietic stem cell(以下GEMMと記載する)に分化誘導するため、培養時にRecombinant Human SCF(Peprotech社)を最終濃度50ng/mLで、Human IL-3(Miltenyi Biotec社)を最終濃度10ng/mLで、Human IL-6(Sigma-Aldrich社)を最終濃度20ng/mLで、Human GM-CSF(Miltenyi Biotec社)を最終濃度20ng/mLで、G-CSF(Miltenyi Biotec社)を最終濃度20ng/mLで、Human Flt3-Ligand(Miltenyi Biotec社)を最終濃度50ng/mLで、エリスロポエチン(協和発酵キリン社)を最終濃度3U/mLで、およびHuman TPO(Miltenyi Biotec社)を最終濃度30ng/mLで添加した。
【0485】
図16に示すように、TfR中和抗体TfR435は増殖阻害活性を示したのに対して、バイスペシフィック抗体E08-TfR1071およびE12-TfR1071はいずれも増殖阻害活性を示さなかった。
【0486】
この結果から、本発明のバイスペシフィック抗体はTfRを発現している正常骨髄細胞に対して増殖阻害活性を示さないことが確認された。よって、本発明のバイスペシフィック抗体はTfR中和抗体に比べて骨髄毒性が低減していることが期待される。
【0487】
[実施例19]アミノ酸改変したEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性
TfR1071のVHのアミノ酸を改変したE12-TfR1071バイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を、OE21細胞を用いて実施例12と同様の方法で評価した。まず、アミノ酸改変したEGFR-TfRバイスペシフィック抗体を以下のように作製した。アミノ酸改変(アミノ酸置換とも言う)したバイスペシフィック抗体の発現ベクターは、E12-TfR1071の発現ベクターにおいて、置換前のアミノ酸をコードする塩基配列を、置換後のアミノ酸をコードする塩基配列に置き換えたベクターを、実施例6に記載の方法に準じて作製した。アミノ酸改変したバイスペシフィック抗体の発現および調製は、実施例7に記載の方法に準じて行った。アミノ酸改変したバイスペシフィック抗体としては、以下のものを作製した。
【0488】
(TfR1071改変体)
Y32A、Y32F、T33A、T33G、L45A、V48A、V50A、I51A、I51L、N52A-A、N52A-D、V55E、D58A、D61P、Q97A、Q97D、P98A、W99A、W99F、W99H、W99Y、Y100A-A、Y100A-F、V102L、P98Y、P98S、P98D、P98Q、P98E、P98T、P98R、P98G、P98K、P98M、P98V、P98L、P98I、P98W、P98F、P98H
【0489】
上記記号は、それぞれのTfR1071改変体に含まれるアミノ酸置換を示し、[置換前のアミノ酸残基の1文字表記][EUインデックスで示したTfR1071のVH(配列番号31)におけるアミノ酸残基の部位][置換後のアミノ酸残基の1文字表記]を表す。以降、アミノ酸置換を同様に表記する。
【0490】
例えば、Y32AはEUインデックスにおける32番目のアミノ酸残基Y(チロシン)をA(アラニン)に置換したことを意味する。また、52A、100Aはそれぞれ、EUインデックスにおいて「52番目と53番目の間」、「100番目と101番目の間」のアミノ酸残基を意味する枝番である。例えば、N52A-DはEUインデックスにおける52A番目のアミノ酸残基をNからAに置換したことを、Y100A-AはEUインデックスにおける100A番目のアミノ酸残基をYからAに置換したことを意味する。
【0491】
1×10cellsのがん細胞を平底96wellプレート(ファルコン社製)に播種し、10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で各種濃度に希釈した被験抗体を添加し、37℃、5.0%炭酸ガス下で4~6日間培養した後、Cell Counting Kit-8(Dojindo社)を添加して、吸光度をマイクロプレートリーダー(1420 ARVO マルチラベルカウンター:WALLAC社製)で測定した。各条件において、3つの独立したウェルを用いて評価し、平均値を算出した。得られた蛍光強度の値は、各ウェルの生細胞数を反映している。陰性対照として抗DNP抗体を用いた。上記バイスペシフィック抗体の増殖阻害活性に関する評価結果をそれぞれ図17A、Bに示す。
【0492】
図17A、Bに示すように、クローンTfR1071のN52A-AおよびN52A-D改変体では増殖阻害活性が見られなくなり、V55E、W99AおよびW99H改変体は増殖阻害活性がやや低下したが、それ以外の改変体は改変前と同等の強い増殖阻害活性を示した
【0493】
この結果から、本発明のバイスペシフィック抗体E12-TfR1071において、N52が増殖阻害活性の発揮に重要であることが示された。また、P98については様々な他のアミノ酸に置換しても同等の増殖阻害活性を示し、他の任意の天然アミノ酸に置換可能であることが示唆された。
【0494】
[実施例20]抗TfR抗体のエピトープ同定
抗TfR抗体1071のエピトープを以下のように同定した。
国際公開第2014/189973号に記載されている配列情報から、ヒトTfRのApicalドメインに結合する抗TfR抗体15G11v5、7A4v15、および16F6v4、ならびにProtease-likeドメインを認識する抗TfR抗体7G7v1を実施例7に記載した方法と同様にして作製した。
【0495】
実施例1に記載したヒトTfRの細胞外ドメインタンパク質を作製した。また、ヒトTfRの細胞外ドメインのうち、ApicalドメインまたはProtease-likeドメインをマウスTfR(GenBank accession No.NP_001344227に示されるアミノ酸配列または配列番号87に示されるアミノ酸を含む)の対応ドメインに置換したキメラタンパク質を作製した。具体的には、これらのアミノ酸配列をコードする塩基配列を、Hisタグが導入されたpCI-OtCMVベクターにサブクローニングして、タンパク質発現ベクターを得た。タンパク質発現ベクターを用いて、実施例1に記載の方法により、それぞれのタンパク質にHisタグが付加されたHis-huTfR、huTfR with mouse apical domain(配列番号88)、及びhuTfR with mouse protease-like domain(配列番号89)を得た。
【0496】
His-huTfRは、Hisタグ付きヒトTfR細胞外ドメインを、huTfR with mouse apical domainは、Apicalドメインがマウスの対応配列に置換されたHisタグ付きヒトTfR細胞外ドメインを、huTfR with mouse protease-like domainは、Protease-likeドメインがマウスの対応配列に置換されたHisタグ付きヒトTfR細胞外ドメインを示す。
【0497】
同様にして、ヒトTfRのApicalドメインの一部のアミノ酸残基を、マウスTfRの対応するアミノ酸残基に置換した、キメラTfR A01~A16を作製した。表5に作製したキメラTfRを、配列番号90~105にそれぞれのアミノ酸配列を示す。
【0498】
表5では、各々のキメラタンパク質においてアミノ酸置換の部位を表している。例えば、A01のQ285K-T286N-T362Sは、配列番号6で表されるヒトTfRのアミノ酸配列において、285番目のアミノ酸をQからKに、286番目のアミノ酸をTからNに、および362番目のアミノ酸をTからSに置換したことを意味する。A08のV210のように、対応するマウスアミノ酸がない場合はアミノ酸を欠失させた。
【0499】
【表5】
【0500】
次に、各種TfR抗体のエピトープ解析を行った。まず、本発明で作製した抗TfR抗体の、実施例2で作成したヒトTfR/CHOおよび実施例2と同様にして作成したマウスTfR/CHOへの反応性を、実施例9と同様の方法でフローサイトメトリーにより解析した。その結果、R327、TfR1071、cyno186、cyno292および2230はいずれもヒトTfRには結合したが、マウスTfRには結合しなかった。また、15G11v5、7A4v15、16F6v4、及び7G7v1はマウスには交差しないことが知られている(国際公開第2014/189973号)。
【0501】
更に、上記で作製した各種キメラTfRに対する抗TfR抗体の結合活性をELISAにより解析し、抗TfR抗体の結合ドメイン及び認識エピトープを同定した。あるキメラTfRに対して結合活性が失われた場合、そのキメラTfRにおいて置換したアミノ酸残基をエピトープと同定した。
【0502】
ELISAは以下の方法で行った。抗原タンパク質を固相化した96ウェルイムノプレート(Nunc社)に、1%(w/v)BSA-PBS(-)pH7.0 without KCl(以下ブロッキング液と記載する。ナカライテスク社)を添加し室温下でブロッキングした後、同溶液で希釈した抗TfR抗体を添加し室温で1時間反応させた。その後、0.05%(w/v)-tPBS(1x)without KCl(pH7.2)(以下洗浄液と記載する。ナカライテスク社)で洗浄し、ブロッキング液で希釈したAnti-Human IgG(Fc) Goat IgG Fab‘’-HRP(IBL社)を添加し、室温で1時間反応させた後、洗浄液で洗浄し、1-Step(登録商標)Ultra TMB-ELISA Substrate Solution(Thermo社)を加え、室温下で反応させ、5NのHCl溶液を加えて発色反応を止め、波長450nm(参照波長570nm)での吸光度をプレートリーダー(EPOCH2:Bio Tek社)で測定した。
【0503】
結果を表6に示す。表中のN/Aは、データを取得していないことを示す。また、波長450nmの吸光度から参照波長570nmの吸光度を引いた値を各種抗原タンパク質に対する結合活性とみなし、各種キメラTfRに対する結合活性をHis-huTfRに対する結合活性で割った値が0.5以上のときに++、0.2以上0.5未満のときに+、0.2未満のときに-と表記した。
【0504】
【表6】
【0505】
この結果から、T14、R327、TfR1071、cyno186、cyno292、15G11v5、7A4v15、および16F6v4はApicalドメインを、2230および7G7v1はProtease-likeドメインを認識していることが示された。また、Apicalドメインを認識している抗体の中で、T14はA05のアミノ酸置換部位を、R327、TfR1007、TfR1071およびcyno292はA02およびA07のアミノ酸置換部位を、cyno186はA02、A07およびA14のアミノ酸置換部位を、15G11v5はA02、A03、およびA04のアミノ酸置換部位を、7A4v15および16F6v4はA02のアミノ酸置換部位を認識していることが示された。
【0506】
TfR1071の認識するアミノ酸残基は、A02およびA07でアミノ酸置換した部位であることが示された。よって、TfR1071の認識するアミノ酸残基は、D352、S355、D356、K358、M365、V366、およびE369の7アミノ酸残基であることが示唆された。R327、TfR1007、およびcyno292についても同様のことが言える。
【0507】
[実施例21]抗TfR抗体のエピトープとEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性
本発明のバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性とTfRに結合するIgG部分の可変領域のエピトープの関連性を解析するため、エピトープの異なる各種抗TfR抗体でE12-TfRバイスペシフィック抗体を作製し、増殖阻害活性を評価した。
【0508】
抗TfR抗体15G11v5、7A4v15、16F6v4および7G7v1と抗EGFR抗体E12とは軽鎖が異なるため、図18(A)に示すような構造のバイスペシフィック抗体を、実施例6に記載の方法で作製した。実施例8と同様にして、Penta-His Antibody(Qiagen社)をCM5センサーチップに固定化して、His-huTfRを添加後、アナライトとして各バイスペシフィック抗体のTfRに対する結合活性を測定し、作製した各種バイスペシフィック抗体の速度論定数を算出した。結果を表7に示す。
【0509】
【表7】
【0510】
表7に示すように、作製されたバイスペシフィック抗体はどれもTfRに強く結合することがわかった。
【0511】
得られたバイスペシフィック抗体のOE21に対する増殖阻害活性を、実施例19と同様の方法で評価した結果を図19AおよびBに示す。
【0512】
図19AおよびBに示すように、R327、TfR1007、TfR1071、cyno186およびcyno292を用いたEGFR-TfRバイスペシフィック抗体は、その他のバイスペシフィック抗体よりも最大活性が強かった。この結果及び実施例20の結果から、エピトープがA02およびA07のアミノ酸置換部位であるR327、TfR1007、TfR1071、およびcyno292、ならびにエピトープがA02、A07、およびA14のアミノ酸置換部位であるcyno186を用いたバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性が高いことがわかった。よって、A02およびA07のアミノ酸置換部位をエピトープに含むことが、高い増殖阻害活性に重要だということが示された。
【0513】
また、図19Aに示すように、A02およびA07のアミノ酸置換部位をエピトープに含むバイスペシフィック抗体の中でも、TfR1071およびR327を用いたバイスペシフィック抗体が最も低濃度から高い活性を示しており、これらのクローンの中でも特にTfR1071およびR327が優れていることが示された。
【0514】
[実施例22]各種抗EGFR抗体とTfR1071を用いたEGFR-TfRバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性
バイスペシフィック抗体の増殖阻害活性にTfR1071が重要であるか確認するため、上市されているEGFR阻害活性のある抗EGFR抗体とTfR抗体TfR1071でEGFR-TfRバイスペシフィック抗体を作製し、増殖阻害活性を評価した。
【0515】
抗EGFR抗体(Cetuximab、Panitumumab、Necitumumab、Nimotuzumab)とTfR抗体TfR1071のバイスペシフィック抗体を、実施例6に記載の方法と同様にして作製した。Cetuximab、Panitumumab、Necitumumab、Nimotuzumabの可変領域の配列は、それぞれ国際公開第1996/040210号、国際公開第1998/050433号、国際公開第2011/116387号、米国特許出願公開第2012/0308576号明細書に記載のものを用いた。作製したバイスペシフィック抗体の構造の模式図を図1(c)に示す。
【0516】
がん細胞株に対する増殖阻害活性を指標として、得られたバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性を実施例20と同様にして評価した結果を図20に示す。
【0517】
図20に示すように、TfR1071のCDRを有するEGFR-TfRバイスペシフィック抗体は、いずれの抗EGFR抗体の可変領域を有していても強い増殖阻害活性を示した。
【0518】
この結果から、IgG部分にTfR1071のCDRを有することが、本発明のバイスペシフィック抗体の高い増殖阻害活性に重要であることが示唆された。
【0519】
[実施例23]ヘテロ二量体型のバイスペシフィック抗体との増殖阻害活性の比較
本発明のバイスペシフィック抗体の増殖阻害活性において、TfRとEGFRに結合する価数の影響を解析するため、抗EGFR抗体E12と抗TfR抗体TfR1071の抗原結合ドメインをそれぞれ一つずつ有するヘテロ二量体型バイスペシフィック抗体(以下ヘテロ二量体抗体と記載する。)を作製し、増殖阻害活性を評価した。図18(B)に、作製したヘテロ二量体抗体の構造の模式図を示す。
【0520】
特許文献(米国特許出願公開第2014/0348839号明細書)に記載の方法でE12とTfR1071の抗原結合ドメインをそれぞれ一つずつ有するバイスペシフィック抗体Hetero E12-TfR1071を作製し、実施例11と同様の方法で増殖阻害活性を評価した。結果を図21に示す。
【0521】
図21に示すように、Hetero E12-TfR1071はE12-TfR1071に比べて増殖阻害の最大活性および比活性ともに弱いことが分かった。この結果から、TfRとEGFRに対する価数がそれぞれ1価であるヘテロ二量体抗体に比べ、それぞれ2価である本発明のバイスペシフィック抗体は強い増殖阻害活性を有することが示された。
【0522】
[実施例24]E12-TfR1071YEバイスペシフィック抗体のTfR結合活性
TfR1071のVH配列(配列番号31)の1番目のアミノ酸をY(チロシン)からE(グルタミン酸)に置換したVH配列(配列番号106)を有する、E12-TfR1071YEバイスペシフィック抗体を、常法により作製した。実施例20に記載の方法と同様にして、ELISAによりヒトTfRタンパク質への結合活性を解析した。その結果、E12-TfR1071YEはE12-TfR1071と同等の結合活性を示した
【0523】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2018年12月28日付けで出願された日本特許出願(特願2018-248334)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【配列表フリーテキスト】
【0524】
配列番号1:ヒトTfR細胞外ドメインの塩基配列
配列番号2:ヒトTfR細胞外ドメインのアミノ酸配列
配列番号3:サルTfR細胞外ドメインの塩基配列
配列番号4:サルTfR細胞外ドメインのアミノ酸配列
配列番号5:ヒトTfRの塩基配列
配列番号6:ヒトTfRのアミノ酸配列
配列番号7:カニクイザルTfRの塩基配列
配列番号8:カニクイザルTfRのアミノ酸配列
配列番号9:ヒトEGFR細胞外ドメインの塩基配列(シグナル配列を含む)
配列番号10:ヒトEGFR細胞外ドメインのアミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号11:サルEGFR細胞外ドメインの塩基配列(シグナル配列を含む)
配列番号12:サルEGFR細胞外ドメインのアミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号13:ヒトEGFRの塩基配列
配列番号14:ヒトEGFRのアミノ酸配列
配列番号15:A27 VLの塩基配列
配列番号16:A27 VLのアミノ酸配列
配列番号17:A27 LCDR1のアミノ酸配列
配列番号18:A27 LCDR2のアミノ酸配列
配列番号19:A27 LCDR3のアミノ酸配列
配列番号20:PSM4072 VHの塩基配列
配列番号21:PSM4072 VHのアミノ酸配列
配列番号22:PSM4072 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号23:PSM4072 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号24:PSM4072 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号25:R327 VHの塩基配列
配列番号26:R327 VHのアミノ酸配列
配列番号27:R327 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号28:R327 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号29:R327 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号30:TfR1071 VHの塩基配列
配列番号31:TfR1071 VHのアミノ酸配列
配列番号32:TfR1071 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号33:TfR1071 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号34:TfR1071 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号35:TfR4016 VHの塩基配列
配列番号36:TfR4016 VHのアミノ酸配列
配列番号37:TfR4016 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号38:TfR4016 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号39:TfR4016 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号40:cyno186 VHの塩基配列
配列番号41:cyno186 VHのアミノ酸配列
配列番号42:cyno186 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号43:cyno186 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号44:cyno186 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号45:cyno292 VHの塩基配列
配列番号46:cyno292 VHのアミノ酸配列
配列番号47:cyno292 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号48:cyno292 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号49:cyno292 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号50:TfR1007 VHのアミノ酸配列
配列番号51:cyno163 VHのアミノ酸配列
配列番号52:2230 VHのアミノ酸配列
配列番号53:2230 VLのアミノ酸配列
配列番号54:T14 VHのアミノ酸配列
配列番号55:TfR434 VHのアミノ酸配列
配列番号56:TfR435 VHのアミノ酸配列
配列番号57:TfR434、435 VLのアミノ酸配列
配列番号58:E08 VHの塩基配列
配列番号59:E08 VHのアミノ酸配列
配列番号60:E08 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号61:E08 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号62:E08 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号63:E12 VHの塩基配列
配列番号64:E12 VHのアミノ酸配列
配列番号65:E12 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号66:E12 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号67:E12 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号68:E17 VHの塩基配列
配列番号69:E17 VHのアミノ酸配列
配列番号70:E17 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号71:E17 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号72:E17 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号73:KME07 VHのアミノ酸配列
配列番号74:KME09 VHのアミノ酸配列
配列番号75:KME11 VHのアミノ酸配列
配列番号76:Cetuximab VHのアミノ酸配列
配列番号77:Cetuximab VLのアミノ酸配列
配列番号78:HN3 VHのアミノ酸配列
配列番号79:リンカーのアミノ酸配列
配列番号80:リンカーのアミノ酸配列
配列番号81:リンカーのアミノ酸配列
配列番号82:リンカーのアミノ酸配列
配列番号83:IgG4PE R409K 定常領域の塩基配列
配列番号84:IgG4PE R409K 定常領域のアミノ酸配列
配列番号85:IgG4 CH1の改変コドンの塩基配列
配列番号86:IgG4PE 定常領域のアミノ酸配列
配列番号87:マウスTfRのアミノ酸配列
配列番号88:ヒトTfR細胞外ドメインのApicalドメインマウスキメラ体のアミノ酸配列
配列番号89:ヒトTfR細胞外ドメインのProtease-likeドメインマウスキメラ体のアミノ酸配列
配列番号90:A01のアミノ酸配列
配列番号91:A02のアミノ酸配列
配列番号92:A03のアミノ酸配列
配列番号93:A04のアミノ酸配列
配列番号94:A05のアミノ酸配列
配列番号95:A06のアミノ酸配列
配列番号96:A07のアミノ酸配列
配列番号97:A08のアミノ酸配列
配列番号98:A09のアミノ酸配列
配列番号99:A10のアミノ酸配列
配列番号100:A11のアミノ酸配列
配列番号101:A12のアミノ酸配列
配列番号102:A13のアミノ酸配列
配列番号103:A14のアミノ酸配列
配列番号104:A15のアミノ酸配列
配列番号105:A16のアミノ酸配列
配列番号106:TfR1071 EVQLで始まるVHのアミノ酸配列
配列番号107:TfR1007 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号108:TfR1007 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号109:TfR1007 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号110:Cetuximab VHのアミノ酸配列
配列番号111:Cetuximab VLのアミノ酸配列
配列番号112:Panitumumab VHのアミノ酸配列
配列番号113:Panitumumab VLのアミノ酸配列
配列番号114:Necitumumab VHのアミノ酸配列
配列番号115:Necitumumab VLのアミノ酸配列
配列番号116:Nimotuzumab VHのアミノ酸配列
配列番号117:Nimotuzumab VLのアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18
図19A
図19B
図20
図21
【配列表】
2024119984000001.xml