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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012002
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】微弱電波送信機能付き信号表示装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/095 20060101AFI20240118BHJP
   G08G 1/005 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G08G1/095 F
G08G1/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114411
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】392002077
【氏名又は名称】松本 隆通
(72)【発明者】
【氏名】松本隆通
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA21
5H181BB04
5H181CC12
5H181FF25
5H181FF33
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL14
(57)【要約】
【課題】視覚障害者にとって歩行者用信号機などの表示は音や振動などの補助的支援が無ければその現示を確認することが困難であるが、スピーカーによる告知は騒音問題が起き、デジタル技術やスマートフォンを使用する手段には費用の問題と視覚障害者の利用困難があった。
【解決手段】歩行者用信号機などの信号表示装置と組み合わせることで、その信号現示内容を微弱電波に乗せた音としてFMラジオに向けて送信する機能を備えた信号表示装置に改善できるように、録音装置と、FM微弱電波送信装置と、それを駆動する電源装置を組み合わせた装置を開発したが、当微弱電波送信ユニットを駆動させるための電源及び駆動制御用信号として、信号表示装置の発光表示部から発せられる光エネルギー又は信号表示装置がその発光表示部を発光させるために供給する電源を供給元として利用することを特長とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号表示装置と組み合わせることで、その信号表示装置の現示内容を微弱電波に乗せた音としてFMラジオに向けて送信する機能を備えた信号表示装置に改善できるように、録音装置と、FM微弱電波送信装置と、それを駆動する電源装置を組み合わせた装置に関するものであり、当微弱電波送信ユニットを駆動させるための電源及び駆動制御用信号として、信号表示装置の発光表示部から発せられる光エネルギー、又は信号表示装置がその発光表示部を発光させるために供給する電源を、供給元として利用することを特長としているもの。
【請求項2】
組込み装置の電源装置として制御信号や電源の供給ルートを限定せずに請求項1の機能を有する信号表示装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者用信号機や踏切警報灯あるいは駅構内や見通しの悪い線路際で列車の接近を知らせる表示機など発光表示部により視覚に訴えて歩行者の安全を支援する情報機器 (以下信号表示装置と言う)と組み合わせることで、その信号表示装置の現示内容を微弱電波に乗せた音としてFMラジオ等の一般的なラジオ受信機に向けて送信する機能を備えた信号表示装置に改善できるように、録音装置と、FM微弱電波送信装置と、それを駆動する電源装置を組み合わせた装置(以下当微弱電波送信ユニットと言う)に関するものであり、当微弱電波送信ユニットを駆動させるための電源及び駆動制御用信号として、信号表示装置の発光表示部から発せられる光エネルギー、又は信号表示装置がその発光表示部を発光させるために供給する電源を、供給元として利用することを特長としている。
【0002】
但し、当微弱電波送信ユニットの概念を組込んだ信号表示装置を新規に生産する場合には、一般的に既存回路の解析や組立済の機器類を再分解する必要がないため、当該ユニットの制御信号や駆動用電源等の引き出し接続箇所を限定する必要はない。
【0003】
ここで言う歩行者用信号機とは、一般的に赤色と青又は緑色に塗り分けられた発光表示部に通行可否が分かるイラストが表示されている信号機を指すが、補助機能としてスピーカーにより信号が示す内容を音で告知する機能が付いているものについてはその内容を含む。
【0004】
ここで言う踏切警報灯とは、列車が通過する方向を表示する列車進行方向指示器を含み、一般的に赤色灯の点滅あるいは常時点灯とそれに連動させた警報音発生装置を指す。
【0005】
ここで言う微弱電波とは、電波法の第4条第一項にある著しく微弱な電波であって、電波法施行規則第6条に定める無線設備から3メートル離れた電界強度が周波数別に定められた値以下の無線局を指し、FMラジオ放送帯ではその値は毎メートル500マイクロボルト以下のものであるが、更に隣接する送信機との混信を避け、あるいは電波到達距離を短くするために、適宜更に微弱とした電波、あるいは指向性アンテナによって電波の送出範囲を限定した電波を指す。
【0006】
ここで言う音とは、警報音や鳥の声などの擬音に加え、人によるアナウンス音声など、視覚障害者や外国語が理解できない人が、その内容を理解できるすべての音を指す。
【0007】
ここで言う一般的なラジオ受信機とは、周波数が合えば誰でもその放送内容が聞ける、いわゆるFMラジオやAMラジオを指すが、昨今のラジオ放送視聴環境を考慮すれば、補助的にインターネットなどのデジタル回線を経由した疑似ラジオ放送をスマートフォンでも音として直接視聴できる様にする装置を付加しても良い。
【背景技術】
【0008】
信号表示装置は道路歩行者や施設利用者にとっては命を守る大切な装置であるのだが、視覚障害者がその機能を利用するには視覚に訴える表示を補完するための音や振動などの情報(以下、安全歩行支援情報と言う)が必要である。
【0009】
視覚障害者の歩行支援システムなど、本出願分野に係る安全歩行支援情報を提供する装置(以下、安全歩行支援付加装置と言う)については後述の通り様々な方法や形態で既に展開、或いは出願、あるいは試験展開されているのだが、視覚障害者の利用拡大には結びついていない。
【0010】
信号表示以外の安全歩行支援付加装置例としては、RFIDと呼ばれる小型のデジタル通信素子や高度高額な機器類を視覚障害者誘導用ブロックと靴や白杖内に埋め込んで歩行車を誘導する考案(特許文献1及び2)や視覚障害者にとってその位置の特定が難しい二次元バーコード(非特許文献1,2,3及び4)の利用、GPSデータの活用(非特許文献5)、事前の膨大なデータ入力が前提のRFIDを路面の多ヵ所に埋め込み白杖内の機器でデータ処理することで視覚障害者に情報提供する考案(特許文献3)など、システム的に複雑となる大規模デジタル通信システムへの接続が前提の考案や、ツール提供者や運営者側にとって高額なシステム開発コストやランニングコストがかかるばかりでなく、利用者側の視覚障害者にとっても、画面の視認が操作の大部分を占めるので大変使いづらいスマートフォンの使用を前提に考えられていたり、情報受信装置として手軽に使えるアナログ波ラジオでは聞けないデジタルデータ通信が使われている考案など、健常者の視線で見れば多くの不便が解消される考案であるのだが視覚障害者にとっては真に扱いにくいものや改善の余地があるものが殆どを占める。
【0011】
横断歩道に関する安全歩行支援付加装置としては、灯火式信号機の点滅に合わせて横断歩道入口の振動板を加振又は停止させることによって視覚障害者も一般歩行者と同じく安全確実に横断歩道を利用することができるようにしたもの(特許文献4)や、歩行者用信号機の現示状態や歩行者の状況を把握してスピーカーにより擬音や音声でうっかり横断者に警告する装置(特許文献5)、信号機の点灯用電源や制御信号を利用して予め録音した様々な歩行支援内容をスピーカーで周囲に拡声告知する装置(特許文献6)など交通信号機用音響装置に関する多数の出願がなされているが、特許文献1では設置防水工事やメンテナンスの煩雑性、特許文献2及び同3では夜間の騒音問題や雑踏の中で聞こえにくい場合があるなど更なる検討や検証が必要な内容となっている。
【0012】
これを改善し、更に歩行者が横断中に蛇行しないように超指向特性をもつパラメトリックスピーカーの音響特性によって、横断歩道上の可聴範囲を視覚障害歩行者の横断歩道上のみにフォーカスし、音の聞こえてくる方向の情報を視覚障害歩行者に正確に伝達する横断歩道・対岸誘導システムを従来の音響信号機に常設する考案がなされているが、健常者にも聞こえてしまうことや多人数での横断時の音波遮蔽、あるいは反響による方向錯誤不安の発生、超指向性スピーカーの設置費用など、更なる検討が必要な内容となっている。(特許文献7)
【0013】
騒音回避策として、スピーカーを使用する音響装置ではなく、近赤外線を使った指向性波受信機と指向性波送信機を使い視覚障害者を誘導するシステム(特許文献8)、LED式歩行者信号灯器からの光信号を整流してエネルギー変換し、スピーカーにより主音声で歩行者に伝達すると共に、方角や距離情報を補助音声で伝達するシステム(特許文献9)、可視光通信の送受信システムによって、通信波の到来方向を検知できる受信機を持つ視覚障害者に照射する送信機を立体的に配置することでカバーエリアの拡大など誘導性を改善した交通信号付加装置(特許文献10)があるが、特許文献8の考案は主音声をスピーカー等で伝達しつつ進行方向に関する信号の情報をデータで送信しそれを受信した装置の中で解析して音声として伝えるなど複雑な回路となっており、騒音問題対策も必要であり、特許文献9及び10については光を使う限り避けて通れない西日対策や、所持する照射方向検知機能付き指向性受信機の操作性や装置設置費用、あるいは反射波検知による誤認対策など改善の余地がある内容である。
【0014】
このほか、伝達する情報を記憶しておくメモリ部とその情報を送信する情報送信装置と情報送信装置からの送信信号を受信する指向性の高い受信部と、受信した情報の受信レベルに応じて信号を送信している情報送信装置までの距離を加味した情報を音声信号に変換する音声変換部と、変換された音声信号を発声するスピーカー部とからなる盲人用周辺情報伝達装置が考案されており、データベース化した情報を検索して音声化できるなどの利便拡張機能も提示されている。(参考文献11)
【0015】
具体的な電波の種類や形式、出力などの記載が無いので内容把握が難しく、装置構成図にアンテナの記号があるので概念的な電波形式の送受信装置を使って視覚障害者に情報を届ける仕組みの考案であると推定するのだが、指向性の高い受信部を視覚障害者が送信機に向ける難しさが想定されることや、情報を直接音声で送受信する方式ではないので、回路の複雑化が想定されるばかりでなく、一般的なラジオで受信することが想定されていないので汎用性に欠けるものとなっている。
【0016】
前もってメモリに記憶してある、 歩道に設けられたトランスミッタの設置地点に関する信号現示内容、又は道案内のデータを送信するトランスミッタと、受信したメモリデータの内容を音声に変換して出力する受信装置が考案されている。(参考文献12)
【0017】
この出願内容にはトランスミッタの具体的な周波数帯や電波の種類、送信データの形式、電波の出力などの記述が一切ないので再現性に乏しいものとなっているのだが、参考文献12の段落番号0004、同0009及び同0016に記述の通り通信機能を供えたICカードを受信機として使うとしているのであれば、これは一般的なラジオ受信機ではなく、RFIDやRFタグの如きデジタル技術を使い通信する送受信回路を有する受信機であることを示しており、同0015でも記述されている通り、この受信機に先ず取り込まれたデータは制御部によって音声に変換されるとあるので、トランスミッタから送られる時点では音声ではなくデータであると理解できる。
【0018】
記憶部と表現されるメモリには参考文献12の段落番号0014の通り、副信号などの最新更新データが格納されており、最寄りの信号の現示データや歩行者の持つICカードから送信される位置情報と信号機が持つ制御信号などと照らし合わせることで歩行の方向や信号表示の変化をトランスミッタから送信する仕組みとなっているので、信号機本体の中枢制御信号を扱うと共にマイクロコンピュータによる複雑な制御が必要な送信機となっていることが分かる。
【0019】
参考文献12の段落番号0012には単純なラジオ送信機に向けたシステムとも受け取れる表現があるが、いわゆるデジタル相互通信機能を持つICカードである非接触型の定期券にスピーカーを付けて受信させるとしていることから、この送受信形態は秘匿性のあるデジタルデータの遣り取りであると考えることが妥当である。
【0020】
よって、参考文献12の段落番号0018で単に受信したデータを音声変換したものを出力しても良いとする記述は、現在の位置情報を送信することができないので道案内機能が使えないが信号現示内容データを受信して音声に変換して出力することはできる装置として理解でき、受信が簡便な一般的なラジオに向けて信号現示内容を音として直接送信するものではないことが裏付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2003‐91794号公報
【特許文献2】特開平7‐334076号公報
【特許文献3】特開2019‐75024号公報
【特許文献4】公開実用昭和52‐‐‐71485
【特許文献5】公開実用平成2‐18199公報
【特許文献6】特開2008‐33534号公報
【特許文献7】特開2008-040685公報
【特許文献8】特開2003-178391公報
【特許文献9】特開2008-117206公報
【特許文献10】特許6267946
【特許文献11】特開平09-212118公報
【特許文献12】実開平06-037995公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】リンクス株式会社 shiKAIホームページ
【非特許文献2】東京地下鉄株式会社 2021年1月18日 ニュースリリース
【非特許文献3】朝日新聞2021年5月15日夕刊「視覚障碍者向け誘導システム」
【非特許文献4】J-CASTニュース2021年7月10日「点字ブロックに二次元バーコード」
【非特許文献5】本田技研工業2021年6月11日ニュースリリース
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
前述の各考案や機器メーカー独自の改良等による信号表示装置や安全歩行支援付加装置は数多く実用化又は試験展開されているが、真にその利便享受者である視覚障害者に受け容れられておらず、後述の通り展開件数も増えていないので、視覚障害者にとっては大きな恐怖を抱えながら危険な状態で横断歩道を渡っている現状が浮き彫りになっている。
【0024】
その原因は後述の通り、騒音による周辺環境への配慮機運の高まりと、デジタルテクノロジーシステムが万人にとって万能の技術基盤であるかのごとく開発され投入されていることである。
【0025】
デジタルテクノロジーを使った種々のシステムは昨今の利便社会を支える技術として便利至極なものであり、家電製品との連動や各種データの管理など、スマートフォンの出現とこれの利用によって生活の利便レベルが大きく飛躍向上したことは称賛に値するのだが、視覚障害者にとっては下記の通り大変使いづらいものとなっている。
【0026】
デジタルテクノロジーを使う安全歩行支援情報の遣り取り手段として設定されている受信端末は殆どがスマートフォンや専用のデジタル受信機であるが、視覚障害者にとっては、端末代金と利用料など経済的負担が大きくなることのみならず、複雑な構造の機器は重くなり白杖を持つ手が塞がるなどの恐怖が生まれること、事前の煩雑な登録やアプリのインストールが必要になること、表示内容の認識が困難で指による操作感も無い画面操作が基本となっていること、など、様々な不都合があるので、簡便かつ安価に運用又は使用できる信号表示装置や安全歩行支援付加装置を考案することが課題であった。
【0027】
考案を、視覚障害者にとって、より使いやすく、より危険回避に貢献できる内容とする為に、視覚障害者が歩行移動する際の危険状況を調べてみた。
【0028】
八戸工業大学平成16年視覚障害者の歩行環境整備のための歩行事故全国調査結果によれば視覚障害者の事故の48%が衝突であり、最も多いのは自動車との衝突となっていることから、車道横断中の安全確保に向けた歩行支援策を強化する必要があることが分かる。
【0029】
国際道路交通事故データベース(IRTAD)と警察庁資料を基に国土交通省自動車局が作成した報告書でも、平成26年の交通事故死者数に占める歩行中の割合が概ね13から14%のアメリカ、ドイツ、フランス、24%のイギリス、など諸外国に対して日本では36%を占めており、わが国では歩行中に交通事故に遭い死亡する割合が突出して高いことが分かる。
【0030】
またこの報告書では、国内の人対四輪の死亡事故の大部分を占める直進中に発生する死亡事故の約7割が横断に関する歩行者側の違反とされているのだが、この内視覚障害者の割合は分からないものの、横断歩道や交差点以外の単路を横断中に事故に巻き込まれているとする報告と、視覚障害者等が車両の接近に気付くことができないことの危険性を指摘していることから、視覚障害者にとって道路の横断に関する行為に危険が多く潜んでいることは想像に難くない。
【0031】
これらの資料又は報告書などから視覚障害者が道路を横断する際に使う歩行者用信号機についてはその信号機の現示状況を簡便確実に伝えることが重要なので、先ずは現在展開中の信号表示装置の実体や既存技術を調べ、視覚障害者にとって真に受け入れられてもらえる仕組みを考え投入する必要がある。
【0032】
例えば、全国に約21万基ある(令和2年12月30日付毎日新聞)とされる歩行者用信号機であるが、この内歩行者用信号の青時間帯に音を出して横断歩行者に知らせるもの(視覚障害者用付加装置)は、令和3年3月末現在、全国で20,621基(警察庁交通局ホームページより、以下同)しか整備されておらず、これは僅か1割の設置進捗である。
【0033】
また、歩行者青信号の開始をチャイム等で横断歩行者に知らせるもの(音響式歩行者誘導付加装置)は3,569基、横断歩行者等が所持する端末装置等や反射シートが貼付された白杖を検出するなどして、信号の状態、横断開始時期等の音声情報を提供するもの(歩行者支援装置)は、534基(従来型PICS計396基、高度化PICS138基)で、歩行者用信号機全体に於ける設置率はまだまだ極めて小さなものにとどまっている。
【0034】
近年警察庁が主導してスマートフォンで信号状態の把握や青信号時間を延長できる高度化PICSなどの最新システムは様々な利便機能が提供されている反面、その多くが重くて画面操作が必要であるばかりでなく持ち歩き時に片方の手が塞がれて危険な状況も発生するスマートフォンの利用が前提となっており、更に専用のアプリを事前にインストールすることが必要であるなど、視覚障害者にとっては必ずしも利用しやすいシステムとは言えない要素を含んでいる。
【0035】
更に、音によって歩行者用信号の色が把握できる視覚障害者用付加装置が付いているにもかかわらず、近隣住民への騒音対策としてその8割超が夜間の音を切っている(毎日新聞2020年12月19日)状況もあり、視覚障害者が横断歩道を利用する際には大きな不安を持ちながら渡っている(毎日新聞2020年12月29日)実態が浮かび上がっている。
【0036】
道路を横断する視覚障害者にとって自動車近接判断材料の一つであるエンジン音についても、近年はエンジン本体や消音構造の改善、ハイブリッド化や電気自動車の普及に加えタイヤ音の改善により静かになっている。
【0037】
つまり、全国の歩行者用信号機の内、9割を超える横断歩道は、視覚障害者にとってその信号の色が音によって確認できず、更に最新システムも使いづらい状況になっているため、静かに近づいてくるかもしれない自動車に恐怖心を覚えながら歩道を渡らざるを得ない状況になっていると言える。
【0038】
一方、国土交通省が実施した平成29年度における駅ホームからの転落に関する状況分析や、令和2年1月以降短期間に3人が亡くなるなど視覚障害者の転落事故が相次いだことから同年10月、国土交通省として検討会を設置するなど視覚障害者の駅ホームからの転落防止策に力を入れ始めると共に、令和4年4月に奈良県大和郡山市の踏切で発生した視覚障害者の死亡事故を契機に、同6月9日に国土交通省から踏切内外への点字ブロック設置促進策(道路のバリアフリーに関する指針改定)が出されるなど、視覚障害者向けの踏切安全歩行支援ツールの投入機運も高まってきている。
【0039】
視覚障害者に向けた歩行支援ツールであると謳って昨今数多く試験展開、もしくは出願されている考案については、その殆どが複雑で秘匿性が高いデジタル技術を基盤として開発されているので、ツール提供者あるいは運営者側にとっては導入や運用のコストが高く、汎用性や拡張性、あるいは開放性が低くならざるを得ず、利用者側である視覚障害者にとってはその利便を享受するための様々な負担が大きく、利用しにくい内容となっている。
【0040】
以上、特許文献1から同12、及び非特許文献1から同5を分析及び考察したが、信号表示装置への視覚障害者向けの安全歩行支援付加装置として、騒音問題が発生するスピーカーによる音声案内方式やそれを新技術で補完する方式、秘匿性がある反面手軽に受信できないデジタルデータによる処理方式、重くて費用が嵩み操作が困難なスマートホンや専用の送受信機を使う方式となっているなど、装置提供者側と利用者側双方に大きな経済負担を強いる内容となっているばかりではなく、健常者にとっては便利至極に思えるデジタルテクノロジー機器であっても片手に白杖を持って歩く視覚障害者にとって非常に使いにくいものとなっているとの結論に至った。
【課題を解決するための手段】
【0041】
視覚障害者団体にヒアリングした結果、点字ブロックを利用して日常移動する視覚障害者に対する歩行支援策として最も効果があり優先して投入して欲しい内容は、歩行の安全に寄与する信号表示装置につき、その現示内容をスマートフォンを使わなくても良い方式で提供することであった。
【0042】
そこで、前述の各参考文献の様に最近の技術開発者が挙って開発するデジタルテクノロジーを活用するシステムではなく、アナログ式の微弱電波送信装置と、録音装置と電源装置を組み合わせた当微弱電波送信ユニットを考案したのだが、更なる特長的な構造として、その電源は、信号表示装置の発光表示器が表示する際の光をエネルギーとして発電するソーラーパネル、又は信号表示装置がその発光表示器を発光させるために供給する電源を当ユニットへの供給元としても使うことを特長とする電源装置とすれば、メーカー毎に異なる信号表示装置の制御信号を必要とせずに、信号現示内容に関する音などを、当該信号が表示されている間だけ、一般的な小型ラジオでも聞ける微弱電波に乗せて提供できるので、視覚障害者や、信号現示の状態を視認しても理解できない外国人などに向けた全く新しい情報提供手段として活用できると考えたものである。(図1)(図2
【0043】
録音装置に、発光表示機器のそれぞれにつき、表示時の状態に関連する音などを前もって録音しておけば、電源が入った時、つまり当該表示器が表示状態になった時に、予め広告してある周波数でその録音内容がFMラジオで直接音として聞ける。
【0044】
つまり、本考案は信号現示の内容を当微弱電波送信ユニットとして音での情報を受信者に届ける際の装置起動や終了の制御方法として、信号機本体や踏切設備に関する様々な種類の制御信号を使うことなく、発光表示器が発光する際の光エネルギーを利用、又は発光表示器を発光させるための給電回路からの電源到来有無を利用することで実現していることを特長としている。
【0045】
但し、新規生産の信号表示装置については各製造会社にとっては自社回路の把握ができ、制御信号取り出しが容易な為、当微弱電波送信ユニット概念の装置を組み込む場合には、電源装置相当部分の起電手段として必ずしもソーラーパネルの使用や信号発光用の電源を利用する必要はない。(図3
【発明の効果】
【0046】
視覚障害者にとって視認が困難な信号表示装置、あるいは視認できたとしてもその表示が示す内容が理解できない外国人が見る信号表示装置につき、その現示内容を深夜帯であっても時刻と騒音問題を気にすることなくFMラジオで聞くことができる。
【0047】
アナログ式のFMラジオはスマートホンを含むデジタル式の受信機に比べ回路が単純でデジタル処理も無いので電気的消耗が比較的少なく小形軽量の汎用電池を使用することができ、受信機本体もポケットに入れたり耳掛け式としても苦にならない程度に軽く生産でき、また傍受防止のための暗号なども電波に入っていないので、周波数さえ合えば受信の人数制限なく、誰でも無料で聞けるので、片手に白杖を持って歩く視覚障害者をはじめ、外国からの持ち込みラジオを持つ人にとっても手軽な受信機である。
【0048】
信号表示装置本体の制御信号を必要とせず、表示機器が表示稼働しているときのみ電波が発射されるので、メーカーや製造時期毎に異なる制御信号の解析が不要となり設置場所毎に異なる仕様の既存の表示機器にも簡単に当微弱電波送信ユニットを追加装着できる。(図3)
【0049】
使用する電波が微弱電波なので、多数の送信周波数を設定する必要はなく、可聴範囲に係る電波出力を隣接の当微弱電波送信ユニットと重複しない様に設定あるいは設置すれば、全国で最低1種類の周波数を事前広告しておけば最低限の機能は提供できる利点がある。
【0050】
FMラジオを持って居れば、電車移動などの際には災害や娯楽などの公共放送を聞くことができるので安全歩行支援情報を聞くためだけに何らかの受信端末を持つ必要がない。
【0051】
当微弱電波送信ユニットは表示機器それぞれにつき複数個取り付けることも可能であり、あるいは1つの電源装置を共有して複数の録音装置と複数の送信周波数での送信ができる微弱電波送信装置を持たせれば、予め広告してある周波数毎に、例えばAチャンネルは日本語、Bチャンネルは英語、Cチャンネルは中国語、Dチャンネルは信号現示内容に関係なく近隣の避難場所や観光案内を流すなど、様々な内容を録音して送信することが可能となるので、視覚障害者のみならず訪日外国人への案内など、様々な分野で情報提供ができる。
【0052】
踏切警報灯と列車進行方向指示器が組になっている警報装置の場合は、例えば1編成の列車通過後に別方向からも列車が来ることを放送できるなど、警報効果を増すことができる。(図5
【0053】
予め踏切内である旨を録音した当微弱電波送信ユニットを踏切警報灯から電源部を延長して踏切内に設置すれば、視覚障害者が踏切内を歩行中に列車が近接し踏切警報器が作動した場合に自分が踏切内に居ることが分かる内容の放送がなされて居れば迅速な退避行為に移ることができ危険回避に有効である。(図5)
【0054】
商用電源を降圧整流した電源線を張り巡らせ、人感センサーと連動させれば、高価な案内説明システムが導入できない美術館等にも展示品の説明用として当微弱電波送信ユニットの応用設置が可能であり、特に視覚障害者用の造形展示がある美術館や博物館では人が近づいた時に説明文言の最初から再生されるので常時放送式と較べて有効となる。(図6
【0055】
事前の通信プロトコル開示などの調整が必要となるが、当微弱電波送信ユニットの内、記憶装置を、警察庁主導で展開中の高度化PICSが近距離デジタル通信形式の電波でスマートフォンに送る音声信号あるいはデータを受信解析の後、その内容を音声として微弱電波送信装置に送る構造とすれば、高度化PICSに対応した信号設備の現示や稼働に関する情報がFMラジオで聞けるようになる。(図7
【0056】
当微弱電波送信ユニットの概念につき、新規に生産される信号表示装置についてはその装置内部で使われるデジタルデータを制御信号として使い、予め各種用意してある安全歩行支援情報に係る音を選択送信する回路とすれば更に良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1図1は、本発明の基板構成概念図である。
図2図2は、本発明の微弱電波送信ユニット概念図である。
図3図3は、既存型歩行者用信号機に当微弱電波送信ユニットを付加した概念図である。
図4図4は、従来型と当微弱電波送信ユニットを組込んだ新型の概念図である。
図5図5は、踏切施設への当微弱電波送信ユニット設置例である。
図6図6は 美術館等への当微弱電波送信ユニット設置例である。
図7図7は 拡張基板を付加して高度化PICSに対応させる運用案である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
既存の信号表示装置につき、その信号現示内容をFMラジオで聞ける信号表示装置に改善する為に考案した、録音装置と、FM微弱電波送信装置と、それを駆動する電源装置を組み合わせた装置であり、当装置を駆動させるための電源及び駆動制御用信号として、信号表示装置の発光表示部から発せられる光エネルギー、又は信号表示装置がその発光表示部を発光させるために供給する電源を、供給元として利用することを特長とするが、新規に生産する信号表示装置につき、現示内容が送信機能によってFMラジオ、あるいは要求によりスマートフォンで音として聞ける様にした装備仕様となるのであれば、装置駆動のための電源や制御信号の調達源は問わないものである。
【0059】
4辺に横断歩道がある交差点における歩行者用信号機を当微弱電波送信ユニット付きの仕様とした場合、指向性の送信アンテナを使用しても隣の信号現示内容を受信する可能性があるので、提供するアナウンスには渡るべき歩道の方向やその歩道が結ぶ方角、あるいは渡り切るまでの距離など視覚障害者が判断できる内容を必ず含ませることで誤認を回避する。
【実施例0060】
当微弱電波送信ユニットは図1の通り、高価なデジタル処理部品や複雑な制御回路を持たない、単純なアナログ回路であり、既存の信号表示装置回路への組み込みに際しても簡単に組み込める。
【実施例0061】
当微弱電波送信ユニットは図2の通り、簡単な装置部品で構成されるのでユニット自体も小形で簡単に作れ、設置場所についての制約は少ない。
【実施例0062】
当微弱電波送信ユニット10は小形で電源を必要としない運用が可能であるため、既に設置された従来型の歩行者用信号装置に付加する場合には、図3の様に直射日光の影響を受けずに発光表示機器の光を受けることができる場所に当ユニットを設置するだけで表示器の発光を駆動信号として安全歩行支援情報を音としてFM微弱電波11に乗せて送信し始める。
【0063】
例えば赤灯が点灯している場合には「A地点とB地点を結ぶC方向の歩行者用信号は現在赤です」と放送する。
【0064】
例えば青灯が点灯している場合には「A地点とB地点を結ぶC方向の歩行者用信号は現在青です。渡り切るまでの歩道の距離は概ね10メートルです」などと放送する。
【0065】
視覚障害者が別の歩道と間違えて渡る危険を防止したり、渡り切るまでの距離感を把握するために、発光表示器に向けて設置した電源装置からの配線を延長して、録音装置と微弱電波送信装置の部分を歩道中央部に設置しておき「ここはA地点とB地点を結ぶC方向の歩道のほぼ中央地点です」などと放送する。
【0066】
西日が激しいなどの理由で発光表示器からの光が受け取りにくい場合には、スイッチ8を外部電源側に切り替えた後、図3の下段図の様に制御ボックス14から供給される発光表示器表示用電源線15を分岐し、引き込み線7として電圧整合処理の後に当微弱電波送信ユニットの電源及び制御信号として使うこともできる。
【実施例0067】
図4は既存型信号表示装置のメーカーが、当微弱電波送信ユニットの概念を組み込み、微弱電波送信機能付き信号表示装置として生産した場合の新旧比較概念図である。
【0068】
この場合、必ずしも既存信号表示装置への簡便な付加手段を重視する必要はなく、自社商品の制御回路や電源部から当ユニット部に共用線16で制御信号や電源を供給する設計とすることで、作動がより確実になり、あるいは制御信号を利用して予め録音装置部分に多種用意してある安全歩行支援情報から選択した音を送信する、より高機能な、一体構造の信号表示装置として市場展開できる。
【実施例0069】
視覚障害者の命を奪う事故が頻発し、国土交通省とし2022年6月に踏切内外への点字ブロック設置を促す指針を発表したが、踏切を渡る途中で警報機が鳴動した場合、自分のいる位置が踏切を渡り切った位置か踏切内なのか迷い、命の危険が迫る場合がある。
【0070】
図5は踏切警報灯と連動させた当微弱電波送信ユニットの設置例である。
【0071】
赤色灯の点滅によって当微弱電波送信ユニットが発する電波も断続することを回避するために2灯相互点滅式の場合には発電パネルを2か所に増設して灯火切り替わり時にも安定した送信を実現するための電源平滑回路、1灯点滅式の場合には短時間の電源断を補完するコンデンサ及び電源平滑回路、を追加している。
【0072】
列車進行方向指示器が設置されて居ればこれを駆動用電源と制御信号として使用し、例えば「E方向からF方向に向かう列車が通過します。G方向からH方向に向かう列車が通過します」などと放送する。
【0073】
実施例3の段落番号0067同様に、電源装置から電源線を延長した録音装置と微弱電波送信装置を踏切構内にも設けておけば、例えば「踏切の中間地点付近です。警報機が鳴り始めてから遮断機が下りるまで10秒ありますから慌てずに渡り切ってください」などと放送する。
【実施例0074】
図6は高額な専用の案内システムを導入できない美術館や視覚障害者向け造形展示コーナーを持つ展示場などに当微弱電波送信ユニット10を応用設置する例である。
【0075】
壁面内外に張り巡らせた電源配線17と、人感センサー18と、当微弱電波送信ユニット10の組み合わせで設置しておけば、来館者や利用者は展示物の前に来た時にその展示物関連の内容をFMラジオで説明文の冒頭部分から聞くことが出来る。
【実施例0076】
近距離デジタル通信技術によって交差点や信号の情報をスマートフォンに送信したり、スマートフォンの操作により青信号の時間を延長することができる便利なシステムが高度化PICS信号システムであるのだが、当システムに関する報道や視覚障害者団体からのヒアリングなどから、スマートフォンを持っていないか、重いスマートフォンを持ちたくないのか、予め対応するアプリを導入していないか、スマートフォンの操作が困難か、などと考えられる様々な理由で普及が進んでいない。
【0077】
図7はこのPICSシステムについての通信プロトコル開示や音声データ抽出システムなどへの事前開発がなされた場合の一部機能を改善する概念図であり、当微弱電波送信ユニット10にデジタル情報を受信して解析する装置12を付加して、送信装置20からデジタル通信21で送られる情報をFM微弱電波11に変換して送ることができる様に考えたものである。
【0078】
図7-1は視覚障害者が横断歩道を利用したい時に押すための押し釦スイッチ19の電源等を利用して当微弱電波送信ユニットを駆動させてボタン位置やその種類に関する情報を微弱電波11として放送している概念図であり、例えば「横断歩道に向かって右の、音がするところの電柱脇にスイッチが2個あり、上が視覚障害者用で昼間は音響が出て、下が青信号時間が45秒と少し長くなる車いす用です」と放送する。
【0079】
図7-2は歩行者用信号が青になり、PICS送信装置20が信号の現示などにつきデジタル通信21で最新の内容を送信している際に、その内容を受信・解析して、その音をFM微弱電波11として再送信すると同時に、電源部から延長した録音装置と当微弱電波送信装置を横断歩道中間点付近に設置した当微弱電波送信ユニットから歩道の情報や中間地点である旨を放送している概念図である。
【符号の説明】
【0080】
1 録音装置
2 微弱電波送信装置
3 電源装置
4 マイク及び更新用インターフェイス
5 指向性送信アンテナ
6 ソーラーパネル
7 電源引き込み線
8 切り換えスイッチ
9 レンズ
10 当微弱電波送信ユニット
11 FM微弱電波による音での案内
12 機能拡張用のデジタル情報受信解析装置
13 FMラジオ
14 信号制御ボックス
15 表示器表示用電源線
16 共用線
17 電源配線
18 人感センサー
19 押し釦スイッチ
20 PICS送信装置
21 デジタル通信
22 アース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7