IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スリーティー バイオサイエンシズ,インコーポレイテッドの特許一覧

特開2024-120036ヒト白血球抗原によって提示されるランダム化ペプチドライブラリー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120036
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ヒト白血球抗原によって提示されるランダム化ペプチドライブラリー
(51)【国際特許分類】
   C40B 40/10 20060101AFI20240827BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240827BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240827BHJP
   C07K 14/74 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 15/81 20060101ALN20240827BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C40B40/10
C12N1/19 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/12
C07K19/00
C07K14/74
C12N1/19
C40B40/10 ZNA
C12N15/81 100Z
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024099147
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2021536664の分割
【原出願日】2019-08-30
(31)【優先権主張番号】62/726,060
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521084518
【氏名又は名称】スリーティー バイオサイエンシズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジー,マーヴィン
(72)【発明者】
【氏名】シベナー,リア
(57)【要約】      (修正有)
【課題】T細胞受容体(TCR)およびそれらが認識するpHLAを同定する新しい方法を提供する。
【解決手段】複数のヒト白血球抗原(HLA)-抗原ポリペプチド複合体を含む抗原スクリーニングライブラリーであって、HLA-抗原ポリペプチド複合体は、(a)HLAポリペプチドと、(b)特定のアミノ酸配列を含み、かつHLAポリペプチドのペプチド結合溝に特異的に結合するために選択されるランダム化抗原ポリペプチドと、(c)β2-ミクログロブリンポリペプチドとを含む抗原スクリーニングライブラリーが記載されている。これらのライブラリーを使用して、選択されたT細胞受容体(TCR)と相互作用してそれを刺激することができる抗原ポリペプチドを決定することができる。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書または図面に実質的に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年8月31日に出願された米国仮出願第62/726,060号の利益を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
T細胞は感染および癌への応答に関与する適応免疫応答にとって極めて重要である。T細胞は外来病原体由来ならびに自己免疫の場合のように自己由来のタンパク質を認識する。これらのタンパク質の断片(例えばペプチド)はヒト白血球抗原(HLA)分子によって提示され、かつT細胞受容体(TCR)を介してT細胞によって認識される。
【0003】
主要組織適合性複合体(MHC)クラスIのHLA分子は、主として自己抗原などの細胞によって産生された内因性抗原だけでなくウイルスタンパク質由来のペプチドなどの外来細胞内抗原をもより小さいペプチドに処理することにより生成されたペプチドを提示する。ペプチドがHLAペプチド結合溝に結合すると、MHCクラスIのHLA分子はCD8+細胞傷害性T細胞と相互作用してそれを刺激する。MHCクラスIは3つの主要な遺伝子座A、BおよびCを有し、各遺伝子座は多くの対立遺伝子に分けられている。対立遺伝子は所与の遺伝子座にある遺伝子のDNA配列を指し、通常は少なくとも4桁の数(例えばA24:02)で表され、最初の文字は遺伝子座を示し、1番目の数字は対立遺伝子群(もしくは種類)を定め、2番目の数字は対立遺伝子群内の特異的タンパク質を定める。2番目および3番目の数字は付加することができ、それらはサイレントコーディングバリアントおよびノンコーディングバリアントをそれぞれ示す。
【0004】
特異的ペプチド-HLA複合体(pHLA)を認識するとT細胞は活性化された状態になり、(1)細胞傷害性になり、(2)サイトカインを分泌し、かつ/または(3)他の免疫細胞を動員することができる。外来もしくは自己ペプチド、HLA分子およびTCR間のこの複雑な相互作用は、免疫系が分子レベルで認識された病原体にどのように応答するかを特定する上で中核となる。免疫応答中のこの複雑な相互作用における最大の難問の1つは、認識されるペプチドの同一性に関するTCRの特異性を理解することである。TCRおよびそれらが認識するpHLAを同定する新しい方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本明細書におけるいくつかの実施形態では、複数のヒト白血球抗原(HLA)-抗原ポリペプチド複合体を含む抗原スクリーニングライブラリーであって、HLA-抗原ポリペプチド複合体は、(a)ペプチド結合溝を含むHLAポリペプチドと、(b)配列番号1~209のいずれか1つに示されているアミノ酸配列を含み、かつHLAポリペプチドのペプチド結合溝に特異的に結合するランダム化抗原ポリペプチドと、(c)ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドとを含む抗原スクリーニングライブラリーが提供される。
【0006】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEからなるリストから選択されるHLAポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEからなるリストから選択される少なくとも5、10、15、20または25種の異なるHLAポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびE HLAポリペプチドの全てを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、配列番号427~455のいずれか1つに示されているアミノ酸配列と少なくとも87.5%、90%、95%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含むHLAポリペプチドを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体は、少なくとも約10種の異なるランダム化抗原ポリペプチドを含む少なくとも約10種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、HLAポリペプチド、ランダム化抗原ポリペプチドおよびβ2-ミクログロブリンポリペプチドは単一のポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、単一のポリペプチドは第1の柔軟なポリペプチドリンカーおよび第2の柔軟なポリペプチドリンカーをさらに含む。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのN末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのN末端にある。これらの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーはHLAポリペプチドをランダム化抗原ポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーはHLAポリペプチドをβ2-ミクログロブリンポリペプチドから分離する。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのC末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのN末端にある。これらの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーはHLAポリペプチドをランダム化抗原ポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーはHLAポリペプチドをβ2-ミクログロブリンポリペプチドから分離する。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのN末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのC末端にある。これらの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーはランダム化抗原ポリペプチドをβ2-ミクログロブリンポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーはβ2-ミクログロブリンポリペプチドをHLAポリペプチドから分離する。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのC末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのC末端にある。これらの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーはHLAポリペプチドをβ2-ミクログロブリンポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーはランダム化抗原ポリペプチドをHLAポリペプチドから分離する。いくつかの実施形態では、β2-ミクログロブリンポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのC末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のランダム化抗原ポリペプチドのN末端にある。これらの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーはHLAポリペプチドをランダム化抗原ポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーはランダム化抗原ポリペプチドをβ2-ミクログロブリンポリペプチドから分離する。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンのC末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のランダム化抗原ポリペプチドのC末端にある。これらの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーはβ2-ミクログロブリンポリペプチドをランダム化抗原ポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーはランダム化抗原ポリペプチドをHLAポリペプチドから分離する。
【0010】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体の各HLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでいない。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでおらず、かつ複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでいる。いくつかの実施形態では、エピトープタグはFLAGタグ、c-Mycタグ、HIS-タグ、赤血球凝集素(HA)タグ、VSVgタグまたはV5タグを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、HLA-抗原複合体はそれぞれ膜テザリングドメインを含む。いくつかの実施形態では、膜テザリングドメインはAga2を含む。いくつかの実施形態では、本抗原スクリーニングライブラリーは複数の細胞で発現される。
【0012】
いくつかの実施形態では、複数の細胞は複数の酵母細胞である。いくつかの実施形態では、複数の酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のEBY100菌株の複数の酵母細胞である。
【0013】
いくつかの実施形態では、複数の細胞の各細胞は特異的HLA-抗原複合体を発現する。
【0014】
本明細書におけるいくつかの実施形態では、複数のヒト白血球抗原(HLA)-抗原ポリペプチド複合体を含む抗原スクリーニングライブラリーであって、HLA-抗原ポリペプチド複合体は、ペプチド結合溝を含むHLAポリペプチドと、配列番号1~209のいずれか1つに示されているアミノ酸配列を含み、かつHLAポリペプチドのペプチド結合溝に特異的に結合するランダム化抗原ポリペプチドとを含む抗原スクリーニングライブラリーが提供される。
【0015】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEからなるリストから選択されるHLAポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEからなるリストから選択される少なくとも5、10、15、20または25種の異なるHLAポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびE HLAポリペプチドの全てを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、配列番号427~455のいずれか1つに示されているアミノ酸配列と少なくとも87.5%、90%、95%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含むHLAポリペプチドを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体は、少なくとも約10種の異なるランダム化抗原ポリペプチドを含む少なくとも約10種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、HLAポリペプチド、ランダム化抗原ポリペプチドおよびβ2-ミクログロブリンポリペプチドは単一のポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、単一のポリペプチドは、HLAポリペプチドをランダム化抗原ポリペプチドから分離する第1の柔軟なポリペプチドリンカーをさらに含む。これらの実施形態のいくつかでは、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのN末端にある。これらの実施形態のいくつかでは、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのC末端にある。
【0019】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体の各HLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでいない。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでおらず、かつ複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでいる。いくつかの実施形態では、エピトープタグはFLAGタグ、c-Mycタグ、HIS-タグ、赤血球凝集素(HA)タグ、VSVgタグまたはV5タグを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、HLA-抗原複合体はそれぞれ膜テザリングドメインを含む。いくつかの実施形態では、膜テザリングドメインはAga2を含む。いくつかの実施形態では、本抗原スクリーニングライブラリーは複数の細胞で発現される。
【0021】
いくつかの実施形態では、複数の細胞は複数の酵母細胞である。いくつかの実施形態では、複数の酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエのEBY100菌株の複数の酵母細胞である。
【0022】
いくつかの実施形態では、複数の細胞の各細胞は特異的HLA-抗原複合体を発現する。
【0023】
本明細書におけるいくつかの実施形態では、複数の抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体を含む抗原スクリーニングライブラリーが提供される、抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体。これらの実施形態では、本抗原スクリーニングライブラリーは、配列番号1~209のいずれか1つに示されているアミノ酸配列を含み、かつHLAポリペプチドのペプチド結合溝に特異的に結合するランダム化抗原ポリペプチドと、ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドとをさらに含む。これらの実施形態では、本抗原スクリーニングライブラリーは1つ以上の酵母細胞によって構成的に発現され、かつペプチド結合溝を含む複数のHLAポリペプチドもさらに含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEからなるリストから選択されるHLAポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEからなるリストから選択される少なくとも5、10、15、20または25種の異なるHLAポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびE HLAポリペプチドの全てを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、配列番号427~455のいずれか1つに示されているアミノ酸配列と少なくとも87.5%、90%、95%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含むHLAポリペプチドを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、複数の抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体は、少なくとも約10種の異なるランダム化抗原ポリペプチドを含む少なくとも約10種の異なる抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドおよびβ2-ミクログロブリンポリペプチドは単一のポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、単一のポリペプチドは第1の柔軟なポリペプチドリンカーをさらに含む。これらの実施形態のいくつかでは、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのN末端にある。これらの実施形態のいくつかでは、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのC末端にある。
【0028】
いくつかの実施形態では、複数の抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体の各抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体はエピトープタグを含んでいない。いくつかの実施形態では、複数の抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体の少なくとも1つの抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体はエピトープタグを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでおらず、かつ複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでいる。いくつかの実施形態では、エピトープタグはFLAGタグ、c-Mycタグ、HIS-タグ、赤血球凝集素(HA)タグ、VSVgタグまたはV5タグを含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体はそれぞれ膜テザリングドメインを含む。いくつかの実施形態では、膜テザリングドメインはAga2を含む。いくつかの実施形態では、本抗原スクリーニングライブラリーは複数の細胞で発現される。
【0030】
いくつかの実施形態では、複数の細胞は複数の酵母細胞である。いくつかの実施形態では、複数の酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエのEBY100菌株の複数の酵母細胞である。
【0031】
いくつかの実施形態では、複数の細胞の各細胞は特異的抗原ポリペプチド-ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体を発現する。
【0032】
本明細書におけるいくつかの実施形態では、本技術に係る抗原スクリーニングライブラリーをコードする複数の核酸が提供される。
【0033】
いくつかの実施形態では、HLA-抗原複合体のHLAポリペプチドは、配列番号456~484のいずれか1つと少なくとも約85%、87.5%、90%、95%、97%、98%または99%相同な核酸によってコードされる。いくつかの実施形態では、HLA-抗原複合体のランダム化抗原ポリペプチドは配列番号210~426のいずれか1つに示されている核酸によってコードされる。
【0034】
いくつかの実施形態では、複数の核酸は複数の細胞によって発現される。
【0035】
本明細書におけるいくつかの実施形態では、本技術に係る抗原スクリーニングライブラリーを発現する複数の細胞が提供される。
【0036】
いくつかの実施形態では、複数の細胞は複数の酵母細胞である。いくつかの実施形態では、複数の酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエのEBY100菌株の複数の細胞である。いくつかの実施形態では、複数の細胞の各細胞は特異的HLA-抗原複合体をコードする複数の核酸の1つの核酸を含む。
【0037】
本明細書におけるいくつかの実施形態では、本技術に係る複数の細胞をT細胞受容体(TCR)と接触させることを含む抗原を選択する方法が提供される。
【0038】
いくつかの実施形態では、TCRは基板に固定化されている。いくつかの実施形態では、TCRは細胞によって発現される。
【0039】
いくつかの実施形態では、この選択を2、3、4または5サイクル繰り返す。
【0040】
いくつかの実施形態では、抗原はポリペプチド抗原である。いくつかの実施形態では、抗原は天然に生じないポリペプチド抗原である。いくつかの実施形態では、抗原はヒトにおいて天然に生じないポリペプチド抗原である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1A】本技術のいくつかの実施形態に係る酵母細胞に結合されるHLA抗原ポリペプチド構築物の概略図を示す。
図1B】本技術のいくつかの実施形態に係る細胞にテザリングされたHLA抗原ポリペプチド構築物の例示的かつ非限定的な実施形態を示す。
図2】本技術のいくつかの実施形態に係る特異的T細胞受容体と相互作用する特異的ランダム化抗原ポリペプチドを選択するためのプロセスの例示的かつ非限定的な図を示す。
図3A】例示的pYALベクターのマップである。
図3B】例示的pCTベクターのマップである。
図4】本技術のいくつかの実施形態に係る複数のアロタイプのための酵母表面でのペプチド-HLA(pHLA)発現のフローサイトメトリーによる特性評価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本明細書にはT細胞受容体(TCR)のためのポリペプチドリガンドの選択および/または同定にとって有用な抗原スクリーニングライブラリーが記載されている。多くの場合に本抗原スクリーニングライブラリーは、新規なTCR抗原および/または新規なエピトープであってもよい内因性TCR抗原および非内因性TCR抗原の両方を含むTCRリガンドとして、ヒトT細胞と相互作用し、かつそれを刺激することができるポリペプチド抗原を発見するために有用である。そのような新規な抗原および/または新規なエピトープは、少なくとも例えば消耗またはアネルギー化された状態になっている場合があるT細胞上の1つ以上のTCRを刺激し、かつ癌、腫瘍または慢性ウイルス感染に対する免疫応答を復活させるのに有用である。従って本開示は、HLAを介したペプチド認識に制限されるTCRの特異性および一般的な認識特性を決定するための所与のHLAの文脈における、ランダム化ペプチド抗原ライブラリーなどのペプチドライブラリーディスプレイを含む。
【0043】
本明細書に記載されている方法論を用いて発現されると、ランダム化ペプチド抗原ライブラリーは細胞の表面で発現されているHLA分子によって提示することができる。一般にこれらのHLA-抗原ポリペプチド複合体を提示する細胞は、宿主の免疫系の正常な抗原提示細胞ではなく、限定されるものではないが昆虫細胞、酵母細胞および細菌細胞などのHLA-抗原ポリペプチドをコードする核酸で容易に形質転換、トランスフェクト、形質導入および/または電気穿孔することができる細胞である。いくつかの実施形態では、本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーは酵母細胞によって発現される。少なくとも10、10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014または1015種の異なるポリペプチド抗原をコードするプラスミドの混合物および1種または複数種のいずれかの異なるHLA分子を酵母細胞に形質転換する。本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーによる形質転換後に、次いでHLA-抗原ポリペプチド複合体ライブラリーを発現する酵母細胞を、ベイトとして機能するTCRまたは1つ以上の抗原結合ドメインを有する他の巨大分子と接触させる。TCRは、(1)細胞によって発現させるか、あるいは(2)組換えにより産生し、かつ任意に多量体化し、かつ/またはビーズなどの固体構造上に、あるいはストレプトアビジンまたはストレプトアビジン結合デキストラン(選択試薬と呼ぶ)などのタンパク質足場を介して固定化させる。TCR選択試薬と相互作用するHLA-抗原ポリペプチド複合体を発現する細胞は適当なモダリティによって選択することができ、2、3、4、5、6、7回またはそれ以上の濃縮ラウンド後に(例えばサイクルで)、HLA-抗原ポリペプチド複合体をコードする核酸を濃縮された細胞から抽出することができ、濃縮されたポリペプチド抗原を決定するためにシークエンシングを行うことができる。濃縮されたポリペプチド抗原は所与のTCRと相互作用する構造的属性を定める。
【0044】
いくつかの実施形態では、本開示は複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む抗原スクリーニングライブラリーを含む。いくつかの実施形態では、HLA-抗原ポリペプチド複合体は、(a)ペプチド結合溝を含むHLAポリペプチドと、(b)配列番号1~194のいずれか1つに示されているアミノ酸配列を含み、かつHLAポリペプチドのペプチド結合溝に特異的に結合するために選択されるランダム化抗原ポリペプチドと、(c)ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドとを含む。本明細書では、ランダム化ペプチド抗原の誘導体およびそのライブラリー、その組成物、その医薬組成物およびその使用も提供される。本明細書では、本明細書に開示されている1つ以上のランダム化ペプチド抗原ライブラリーおよびその誘導体をコードする核酸配列、ならびに1つ以上の細胞において1つ以上のランダム化ペプチド抗原ライブラリー、そのペプチドおよびその誘導体を発現させるための方法も提供される。
【0045】
本明細書において提供される実施例に示されているように、ランダム化ペプチド抗原ライブラリーを設計した(実施例1)。これは核酸構築物(図1A)および酵母細胞などの細胞にテザリングされたペプチド構築物(図1B)を含む。pHLAの発現は酵母ディスプレイ(YD)系を用いて特性評価および検証した(実施例2)。これらのpHLAはTCRと相互作用することができ、相互作用が生じているか否かの決定は、本明細書に記載されている1つ以上のプロセスを用いて決定することができ、例えば図2に示されているようなプロセスを用いて行った。pHLAの発現はフローサイトメトリーによって検証し(実施例2、レベル1)、候補のアロタイプに合致するTCRを用いて本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーをスクリーニングすることによりさらに機能的に検証することができる(実施例2、レベル2)。
【0046】
本発明の以下の説明は単に本開示の様々な実施形態を例示するためのものである。従って考察されている具体的な修正は本開示の範囲に対する限界として解釈されるべきではない。本開示の範囲を逸脱することなく様々な均等形態、変更形態および修正形態を考案することができ、かつ当然ながらそのような同等の実施形態は本明細書に含めることができることは当業者に明らかであろう。
【0047】
本明細書に列挙されている全ての参考文献はそれら全体が参照により本明細書に組み込まれる。方法および装置は本明細書では例として提供されており、本開示を限定するものではない。
【0048】
特定の定義
以下の説明では、様々な実施形態の完全な理解を提供するためにいくつかの特定の詳細が示されている。但し当業者であれば、提供されている実施形態はこれらの詳細を含めることなく実施できることを理解するであろう。特に文脈から別の意味に解釈すべき場合を除き、本明細書およびそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、「~を含む(comprise)」という用語ならびに「~を含む(comprises)」および「~を含む(comprising)」などのその語尾変化は非限定的かつ包括的な意味で、すなわち「~を含むが、それ(ら)に限定されない」ものとして解釈されるべきである。本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されている単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「前記(その)(the)」は、その文脈が明らかにそうでないことを示していない限り複数の指示対象を含む。「または」という用語は一般にその文脈が明らかにそうでないことを示していない限り「および/または」を含む意味で用いられることにも留意すべきである。さらに本明細書において提供される見出しは単に便宜のためのものであり、特許請求されている実施形態の範囲または意味を解釈するものではない。
【0049】
「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語はアミノ酸残基のポリマーを指すために同義で使用され、かつ最小長さに限定されないが、アミノ酸残基の数が指定されている場合がある(例えば、9merは9つのアミノ酸残基である)。ポリペプチドは、天然および/または非天然アミノ酸残基を含むアミノ酸残基を含んでもよい。この用語はポリペプチドの発現後修飾、例えばグリコシル化、シアリル化、アセチル化およびリン酸化などを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ポリペプチドはタンパク質が所望の活性を維持する限り天然の配列に関して修飾を含んでいてもよい。これらの修飾は部位特異的突然変異誘発によるような意図的なものであってもよく、あるいはPCR増幅に起因するタンパク質またはエラーを産生する宿主の突然変異などによる偶発的なものであってもよい。
【0050】
「酸性残基」という用語は、酸性基を含む側鎖を有するDもしくはL体のアミノ酸残基を指す。例示的な酸性残基としてはDおよびEが挙げられる。
【0051】
「アミド残基」という用語は、酸性基のアミド誘導体を含む側鎖を有するDもしくはL体のアミノ酸を指す。例示的な残基としてはNおよびQが挙げられる。
【0052】
「芳香族残基」という用語は、芳香族基を含む側鎖を有するDもしくはL体のアミノ酸残基を指す。例示的な芳香族残基としてはF、YおよびWが挙げられる。
【0053】
「塩基性残基」という用語は、塩基性基を含む側鎖を有するDもしくはL体のアミノ酸残基を指す。例示的な塩基性残基としてはH、KおよびRが挙げられる。
【0054】
「親水性残基」という用語は、極性基を含む側鎖を有するDもしくはL体のアミノ酸残基を指す。例示的な親水性残基としてはC、S、T、NおよびQが挙げられる。
【0055】
「非機能性残基」という用語は、酸性基、塩基性基または芳香族基を欠く側鎖を有するDもしくはL体のアミノ酸残基を指す。例示的な非機能性アミノ酸残基としてはM、G、A、V、I、Lおよびノルロイシン(Nle)が挙げられる。
【0056】
「中性の疎水性残基」という用語は、塩基性基、酸性基または極性基を欠く側鎖を有するDもしくはL体のアミノ酸残基を指す。例示的な中性の疎水性アミノ酸残基としてはA、V、L、I、P、W、MおよびFが挙げられる。
【0057】
「極性の疎水性残基」という用語は、極性基を含む側鎖を有するDもしくはL体のアミノ酸残基を指す。例示的な極性の疎水性アミノ酸残基としてはT、G、S、Y、C、QおよびNが挙げられる。
【0058】
「疎水性残基」という用語は、塩基性基または酸性基を欠く側鎖を有するDもしくはL体のアミノ酸残基を指す。例示的な疎水性アミノ酸残基としてはA、V、L、I、P、W、M、F、T、G、S、Y、C、QおよびNが挙げられる。
【0059】
参照ポリペプチド配列に対する「配列同一性パーセント(%)」は、必要であれば最大配列同一性パーセントを達成するために配列をアライメントし、かつギャップを導入した後のどんな保存的置換も配列同一性の一部とみなすことのない参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の割合である。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するという目的のためのアライメントは、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアあるいは核酸配列のために適当な他のソフトウェアを用いる公知である様々な方法で達成することができる。比較される配列の長さ全体にわたって最大のアライメントを達成するために必要なアルゴリズムを含む、配列をアライメントするのに適当なパラメータを決定することができる。但し、本明細書における目的のためのアミノ酸配列同一性値%は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を用いて生成する。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはGenentech社によって構築され、そのソースコードは米国著作権局(ワシントン、20559)にユーザー文書と共に提出されており、ここでは米国著作権登録番号TXU510087で登録されている。ALIGN-2プログラムはGenentech社(カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)から公的に入手可能であるか、あるいはそのソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIX(登録商標)オペレーティングシステムで使用するためにコンパイルしなければならない。全ての配列比較パラメータはALIGN-2プログラムによって設定されており、変動しない。
【0060】
ALIGN-2がアミノ酸配列比較のために用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの所与のアミノ酸配列Bとのアミノ酸配列同一性%(代わりとして所与のアミノ酸配列Bと何%かのアミノ酸配列同一性を有するか含む所与のアミノ酸配列Aと表すことができる)は、100×分数X/Y(式中、XはAおよびBのそのプログラムのアライメントにおける配列アライメントプログラムALIGN-2による完全な一致としてスコア化されるアミノ酸残基の数であり、YはBにおけるアミノ酸残基の総数である)のように計算する。当然のことながらアミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さに等しくない場合、AのBに対するアミノ酸配列同一性%はBのAに対するアミノ酸配列同一性%とは等しくはならない。特段の記載がない限り、本明細書で使用される全てのアミノ酸配列同一性値%は、ALIGN-2コンピュータプログラムを用いて直前のパラグラフに記載されているように得る。
【0061】
本明細書で使用される「相同な」、「相同性」または「相同性パーセント」という用語は、参照配列に対する核酸配列を記述するために本明細書で使用される場合、Karlin&Altschul 1993において見られるように修正されているKarlin&Altschul 1990によって記述された式を用いて決定することができる。そのような式は、Altschul 1990の基本的な局所アライメント検索ツール(BLAST)プログラムに組み込まれている。配列の相同性パーセントは、本出願の出願日の時点で最新版のBLASTを用いて決定することができる。
【0062】
「T細胞受容体」(TCR)は、脊椎動物、例えば哺乳類の抗原/MHC結合ヘテロダイマータンパク質産物、すなわちヒトTCRα、β、γおよびδ鎖を含むTCR遺伝子複合体を指す。例えばヒトTCRβ遺伝子座の完全な配列はRowen 1996によって公表されているようにシークエンシングされており、ヒトTCR遺伝子座はシークエンシングおよび再シークエンシングされており、例えばMackelprang 2006を参照されたく、Arden 1995におけるT細胞受容体可変遺伝子セグメントファミリーの一般的な分析を参照されたく、それらのそれぞれの内容が本公報において提供および参照されている配列情報のために参照により特に本明細書に組み込まれる。
【0063】
「ベイト」は、本技術の抗原に結合するTCRまたは「1つ以上の抗原結合ドメインを有する他の巨大分子」を指す。1つ以上の抗原結合ドメインを有する他の巨大分子は、抗体、DARPinまたは、アプタマーなどの合成分子である。抗原結合ドメインは、本技術のHLA-ペプチド複合体のうちの1つ以上またはDNAおよびRNAなどの核酸などのペプチドに結合する。
【0064】
核酸またはポリヌクレオチドに関する「外因性」は、その核酸が組換え核酸構築物の一部であるかその自然環境に存在しないことを示す。例えば外因性核酸はある生物種から別の生物種の中に導入された配列、すなわち異種核酸であってもよい。典型的にはそのような外因性核酸は組換え核酸構築物を介して他の生物種の中に導入される。また外因性核酸は生物にとって天然のものであり、かつその生物の細胞の中に再導入された配列であってもよい。天然配列を含む外因性核酸は多くの場合、外因性核酸に連結された非天然配列、例えば組換え核酸構築物において天然配列に隣接している非天然制御配列の存在によって天然に生じる配列から区別することができる。また安定に形質転換された外因性核酸は典型的には天然配列が存在する位置以外の位置に組み込まれている。例えば遺伝的組換えを用いて外因性要素が構築物に付加されていてもよい。遺伝的組換えは、遺伝情報の新規なセットをコードするDNAの新しい分子を形成するためのDNA鎖の切断および再結合である。
【0065】
本明細書で使用される「約」という用語は10%の範囲内で規定された量に近い量を指す。
【0066】
HLA-抗原ポリペプチド複合体の構造的特性
複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体を含むランダム化ペプチド抗原ライブラリーなどの抗原スクリーニングライブラリーが本明細書に開示されている。本開示のHLA-抗原ポリペプチド複合体は最小限に少なくとも3つの構成要素、すなわち(a)ランダム化抗原ポリペプチド、(b)主要組織適合性クラスI(MHC I)のHLA分子、および(c)β2-ミクログロブリンを含む。いくつかの実施形態では、(a)のランダム化抗原ポリペプチドは、特異的種類のHLA分子に結合するためのアンカー残基として機能する少なくとも1つまたは複数の保存された残基を有してランダム化されている。例示的なものであって限定的なものではないが、ランダム化抗原ポリペプチド抗原およびそれらが会合するHLA型が表1に示されており、かつ配列番号1~194によって与えられており、表2に示されており、かつ配列番号195~209によって与えられている。いくつかの実施形態では、ランダム化ポリペプチド抗原は、限定されるものではないが配列番号1~194および配列番号195~209のいずれか1つに示されているアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも約70%、75%、80%、85%、87%、87.5%、90%、95%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%または100%同一の配列を含む。いくつかの実施形態では、ランダム化ポリペプチド抗原は、配列番号1~194および配列番号195~209のいずれか1つに示されている配列のいずれか1つと同一の配列を含む。本開示内では、配列番号1~194および配列番号195~209のいずれか1つのN末端から切断されたかC末端から切断された1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20または25個のアミノ酸を有するランダム化ポリペプチド抗原切断も想定される。いくつかの実施形態では、(b)のHLA分子はHLAポリペプチドであり、かつペプチド結合溝を含む。発現されるといくつかの実施形態では(a)のランダム化抗原ポリペプチドは、ペプチド結合溝において(b)のHLAポリペプチドに結合する。
【表1】
【表2】
【0067】
いくつかの実施形態では、本開示の抗原スクリーニングライブラリーは、少なくとも表4に提供されている、少なくとも限定されるものではないが配列番号210~411のヌクレオチド配列によってコードされる(b)ランダム化抗原ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、本開示の抗原スクリーニングライブラリーは、少なくとも表5に提供されている、少なくとも限定されるものではないが配列番号412~426のヌクレオチド配列によってコードされる(b)ランダム化抗原ポリペプチドを含む。(b)のランダム化抗原ポリペプチドをコードする核酸は縮重塩基配列によってコードされており、あらゆるアミノ酸を縮重塩基配列に対応する所与の位置においてコードするのを有効に可能にする。各ランダム化抗原ポリペプチドは、ランダム化抗原ポリペプチドが特定のHLA型とより効率的に相互作用するのを可能にする制限された縮重コードまたは特異的配列によってコードされる少なくとも1つの保存されたアンカー位置を有する。ランダム化抗原ポリペプチドごとに少なくとも1つの保存されたアンカー位置を有することにより、完全にランダム化された抗原ポリペプチドとのHLA複合体の形成と比較して、ランダム化抗原ポリペプチドとHLAとの複合体の形成の効率を高める。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドの1、2または3個のアミノ酸残基は一定である。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチド抗原は、限定されるものではないが配列番号210~411および配列番号412~426のいずれか1つに示されているアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも約70%、75%、80%、85%、87%、87.5%、90%、95%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%または100%同一である配列を含む。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチド抗原は、配列番号210~411および配列番号412~426のいずれか1つに示されている配列のいずれか1つと同一の配列を含む。本開示内では、配列番号210~411および配列番号412~426のいずれか1つのN末端から切断されたかC末端から切断された1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20または25個のアミノ酸を有するランダム化抗原ポリペプチドの抗原ポリペプチド切断も想定される。
【0068】
いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドのアミノ酸残基は2、3または4つの異なるアミノ酸によって異なる。例えば表1を参照すると、HLA-A2に結合するランダム化抗原ポリペプチドの2番目および最後の位置は、「ロイシンまたはメチオニン」および「ロイシン、メチオニンまたはバリン」をそれぞれ含む。
【0069】
上の表1および表2の中のアミノ酸配列はランダムなアミノ酸残基(‘X’)を含み、残基に位置する明示的に定められたアミノ酸をまとめてアンカー位置と呼ぶ。ライブラリー設計において指定されるアンカー位置は、例えば表3に示されているアミノ酸置換に基づいて変更することができる。当業者であれば、表1および表2のアミノ酸配列におけるX残基の可能な置換は限定されず、かつ本開示の範囲から逸脱することなくさらなる置換を含むことができることを理解するであろう。例えばアミノ酸置換を使用して、HLAの結合または本明細書に記載されているライブラリーのメンバーの制約または拡大に寄与するペプチド配列の重要な残基を同定することができる。
【0070】
保存的修飾によりそのような修飾がなされるペプチドの特性と同様の機能的および化学的特性を有するペプチドを産生する。対照的にペプチドの機能的および/または化学的特性における実質的な修飾は、(a)例えばシートもしくはヘリックス立体構造としての置換領域における分子骨格の構造、(b)標的部位における分子の電荷または疎水性、あるいは(c)分子のサイズを維持することに対するそれらの効果において著しく異なるアミノ酸配列における置換を選択することにより達成してもよい。
【0071】
例えば「保存的アミノ酸置換」は、その位置におけるアミノ酸残基の極性または電荷に対して影響が少ないか全く影響しないような天然アミノ酸残基の非天然残基による置換を含んでもよい。さらに「アラニンスキャニング突然変異誘発」(例えば、アラニンスキャニング突然変異誘発について考察しているMacLennan 1998およびSasaki&Sutoh 1998を参照)について以前に記載されているように、ポリペプチド内のあらゆる天然残基をアラニンで置換してもよい。
【0072】
所望のアミノ酸置換(保存的であるか非保存的であるかは問わない)は、そのような置換が望まれる際に当業者によって決定することができる。例示的なアミノ酸置換は表3に示されている。
【表3】
【0073】
特定の実施形態では、保存的アミノ酸置換は、典型的には生物系における合成ではなく化学的ペプチド合成によって組み込まれる天然に生じないアミノ酸残基も包含する。
【0074】
上記「特定の定義」の箇所に記載されているように、天然に生じる残基は配列の修飾のために有用であり得る共通の側鎖特性に基づいてクラスに分けてもよい。例えば非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーの別のクラスからのメンバーとの置換を含んでもよい。そのような置換された残基は、非ヒト相同分子種と相同なペプチドの領域の中または当該分子の非相同な領域の中に導入されていてもよい。また鎖配向に影響を与えるという目的のためにPまたはGを用いて修飾を行ってもよい。
【0075】
そのような修飾を行う際は、アミノ酸の疎水性指標を考慮してもよい。各アミノ酸にはそれらの疎水性および電荷特性に基づいて疎水性指標が割り当てられている。これらは、イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(-0.4)、トレオニン(-0.7)、セリン(-0.8)、トリプトファン(-0.9)、チロシン(-1.3)、プロリン(-1.6)、ヒスチジン(-3.2)、グルタミン酸(-3.5)、グルタミン(-3.5)、アスパラギン酸(-3.5)、アスパラギン(-3.5)、リジン(-3.9)およびアルギニン(-4.5)である。
【0076】
タンパク質に相互作用的な生物学的機能を与える際のアミノ酸疎水性指標の重要性は当該技術分野において理解されている(Kyte&Doolittle 1982)。特定のアミノ酸を同様の疎水性指標もしくはスコアを有する他のアミノ酸の代わりの用いてもよく、それが同様の生物活性をなお保持することは公知である。疎水性指標に基づいて置換を行う際は、その疎水性指標が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、それが±1以内であるものが特に好ましく、±0.5以内であるものがさらにより特に好ましい。
【0077】
親水性に基づいて同様のアミノ酸の置換を有効に行うことができることも当該技術分野において理解されている。その隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるようなタンパク質の最大局所平均親水性は、その免疫原性および抗原性すなわちタンパク質の生物学的特性と相関している。
【0078】
以下の親水性値:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、トレオニン(-0.4)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)、ヒスチジン(-0.5)、システイン(-1.0)、メチオニン(-1.3)、バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、チロシン(-2.3)、フェニルアラニン(-2.5)、トリプトファン(-3.4)がアミノ酸残基に割り当てられている。同様の親水性値に基づいて置換を行う際は、その親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、それが±1以内であるものが特に好ましく、±0.5以内であるものがさらにより特に好ましい。また親水性に基づいてエピトープを一次アミノ酸配列から同定してもよい。これらの領域を「エピトープのコア領域(epitopic core region)」ともいう。
【0079】
当業者であれば周知の技術を用いて上記配列に示されているポリペプチドの好適なバリアントを決定することができるであろう。活性を破壊することなく変化させることができる分子の好適な領域を特定するために、当業者であれば活性のために重要であると考えられていない領域を標的にすることができるであろう。例えば、同じ生物種または他の生物種からの同様の活性を有する同様のポリペプチドが公知である場合、当業者であればペプチドのアミノ酸配列を同様のペプチドと比較することができるであろう。そのような比較により、同様のポリペプチドの中で保存されている分子の残基および一部を同定することができる。当然のことながらそのような同様のペプチドに対して保存されていないペプチドの領域における変化はペプチドの生物活性および/または構造に悪影響を与える可能性は低い。当業者であれば、比較的保存された領域であっても活性を保持しながら化学的に類似したアミノ酸を天然に生じる残基の代わりに使用することができること(保存的アミノ酸残基置換)も知っている。従って生物活性または構造のために重要であり得る領域であっても、生物活性を破壊したりペプチド構造に悪影響を与えたりすることなく保存的アミノ酸置換に供することができる。
【0080】
さらに当業者であれば、活性または構造のために重要な同様のペプチドにおいて残基を同定する構造-機能研究を再考することができる。そのような比較を考慮して、同様のペプチドにおける活性または構造のために重要なアミノ酸残基に対応するペプチドにおけるアミノ酸残基の重要性を予測することができる。当業者であれば、ペプチドのそのような予測される重要なアミノ酸残基のために化学的に類似したアミノ酸置換を選択することができるであろう。
【0081】
当業者は、同様のポリペプチドにおけるその構造に関連して3次元構造およびアミノ酸配列を分析することもできる。その情報を考慮して当業者であれば、その3次元構造に関するペプチドのアミノ酸残基のアライメントを予測することができるであろう。当業者であれば、タンパク質の表面にあることが予測されるアミノ酸残基は他の分子との重要な相互作用に関与している場合があるため、そのような残基に対して過激な変化を行わないことを選択することができるであろう。さらに当業者であれば、各所望のアミノ酸残基において単一のアミノ酸置換を含む試験バリアントを作製することができるであろう。次いで、当業者に公知の活性アッセイを用いてそのバリアントをスクリーニングすることができる。そのようなデータを使用して好適なバリアントに関する情報を収集することができる。例えば、特定のアミノ酸残基への変化により破壊された望ましくない低下した活性、すなわち好適でない活性が生じたことを発見した場合、そのような変化を有するバリアントは回避されるであろう。言い換えると、そのような日常的な実験から収集された情報に基づいて当業者は、単独または他の突然変異と組み合わせたさらなる置換を回避すべきアミノ酸を容易に決定することができる。
【0082】
多くの科学的文献は二次構造の予測に専念してきた(例えば、Moult 1996;Chou&Fasman 1974a;Chou&Fasman 1974b;Chou&Fasman 1978a;Chou&Fasman 1978b;およびChou&Fasman 1979を参照)。さらに、二次構造を予測するのを補助するためのコンピュータプログラムが現在入手可能である。二次構造を予測する1つの方法は相同性モデリングに基づいている。例えば、30%超の配列同一性または40%超の類似性を有する2つのポリペプチドまたはタンパク質は同様の構造的トポロジーを有することが多い。タンパク質構造データベース(PDB)の最近の発展により、ポリペプチドまたはタンパク質の構造内の潜在的な折り畳みの数を含む二次構造の予測可能性が向上している(Holm&Sander 1999)。所与のポリペプチドまたはタンパク質には限られた数の折り畳みが存在すること、および構造の臨界数が解明されると構造予測は劇的に正確性が増すことが示唆されている(Brenner 1997)。
【0083】
二次構造を予測するさらなる方法としては「スレッディング法」(Jones 1997;Sippl&Flockner 1996)、「プロファイル分析」(Bowie 1991;Gribskov 1987; Gribskov 1990)、および「進化的関連解析(evolutionary linkage)」(Holm&Sander 1999;Brenner 1997)が挙げられる。
【表4】
【表5】
【0084】
ランダム化抗原ポリペプチドの利点の1つは、縮重塩基コードを有する単一の核酸が大量の異なるランダム化抗原ポリペプチドを潜在的に発現させることができ、これにより任意の1つのスクリーニング実験により特定のTCRと相互作用する1つ以上のランダム化抗原ポリペプチドを同定する機会が高まるという点にある。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドをコードする核酸は、少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×1010、少なくとも1×1011、少なくとも1×1012、少なくとも1×1013、少なくとも1×1014または少なくとも1×1015種の異なるランダム化ポリペプチド抗原をコードすることができる。
【0085】
HLA分子の結合溝の中に結合するペプチド抗原は一般に制限された長さ範囲である。クラスIのHLA分子に結合するポリペプチドの大部分は8、9、10または11アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、HLA分子に結合し、かつ本開示のHLA-抗原ポリペプチド複合体を形成するランダム化抗原ポリペプチドは8~11アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは8~10アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは8アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは9アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは10アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドは11アミノ酸長である。
【0086】
本明細書に記載されているHLA-抗原ポリペプチド複合体の別の構成要素は、HLAポリペプチドなどのHLA分子である。本開示の目的のために、HLA分子はクラスI主要組織適合性分子である。いくつかの実施形態では、本開示のHLA-抗原ポリペプチド複合体(HLA-抗原複合体)の複数のHLAポリペプチドは、以下の遺伝子座および対立遺伝子:A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEのいずれかを含むことができる。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体の中の各HLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEからなるHLAポリペプチドの群から選択されるHLAポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEからなるHLAポリペプチドの群から選択される少なくとも5、10、15、20または25種の異なるHLAポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、複数のHLA-抗原複合体は、A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEからなるHLAポリペプチドの群の中のHLAポリペプチドの全てを含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、HLA-抗原ポリペプチド複合体のHLAポリペプチドのアミノ酸配列は、表6に示されているアミノ酸配列のいずれかを含むことができる。いくつかの実施形態ではHLAポリペプチドは、限定されるものではないが配列番号427~455のいずれか1つに示されているアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも約70%、75%、80%、85%、87%、87.5%、90%、95%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%または100%同一のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態ではHLAポリペプチドは、配列番号427~455のいずれか1つに示されている配列のいずれか1つと同一のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、ペプチド結合溝を含むHLAポリペプチドの一部は配列番号251~279のいずれか1つと同一であり、かつ非ペプチド結合溝残基は配列番号427~455のいずれか1つと少なくとも約70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、95%、97%、98%、99%または100%同一である。本開示内では、配列番号427~455のいずれか1つのN末端から切断されたかC末端から切断された1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20または25個のアミノ酸を有するHLAポリペプチド切断も想定される。
【表6】
【0088】
HLA-抗原ポリペプチド複合体のHLAポリペプチドは表7に示されているいずれかの核酸によってコードすることができる。いくつかの実施形態では、HLAポリペプチドは、少なくとも限定されるものではないが配列番号456~484などの表7に列挙されている核酸配列のいずれか1つと少なくとも約90%、95%、97%、98%、99%または100%相同な核酸配列によってコードされる。いくつかの実施形態では、HLAポリペプチドは配列番号456~484のいずれか1つに示されている配列と同一の核酸配列によってコードされる。
【表7】
【0089】
いくつかの実施形態では、本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーの複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体は少なくとも約10種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む。10種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体の構成要素はまとめて少なくとも約10種の異なるランダム化抗原ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーの複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体は少なくとも約10種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む。10種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体の構成要素はまとめて少なくとも約10種の異なるランダム化抗原ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーの複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体は少なくとも約10種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む。10種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体の構成要素はまとめて少なくとも約10種の異なるランダム化抗原ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーの複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体は少なくとも約1011種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む。1011種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体の構成要素はまとめて少なくとも約1011種の異なるランダム化抗原ポリペプチドを含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーの複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体は、細胞の表面でHLA-抗原ポリペプチド複合体と相互作用して安定化するβ2-ミクログロブリンポリペプチドをさらに含む。ヒトβ2-ミクログロブリンポリペプチドのアミノ酸配列は、NCBI参照配列NP_004039に示されている。いくつかの実施形態では、本開示のヒトβ2-ミクログロブリンポリペプチドアミノ酸配列は、NCBI参照配列NP_004039として開示されているヒトβ2-ミクログロブリンポリペプチドと少なくとも約90%、95%、97%、98%または99%同一のアミノ酸配列を有するヒトβ2-ミクログロブリンポリペプチドの機能的な天然に生じるバリアントである。
【0091】
本開示は複数のHLA-抗原ポリペプチドの抗原スクリーニングライブラリーも含み、ここではβ2-ミクログロブリンは細胞によって構成的に発現される。いくつかの実施形態では、β2-ミクログロブリンは第1の核酸によってコードされ、ランダム化抗原ポリペプチドは第2の核酸によってコードされ、かつHLAポリペプチドは第3の核酸によってコードされる。他の実施形態では、β2-ミクログロブリンは第1の核酸によってコードされ、かつランダム化抗原ポリペプチドおよびHLAポリペプチドは第2の核酸によってコードされる。第1の核酸によってコードされる場合、β2-ミクログロブリンは第2の核酸または第3の核酸の前後で細胞の中に形質導入、トランスフェクトまたは形質転換することができる。
【0092】
本開示のいくつかの実施形態では、β2-ミクログロブリンを当業者に公知の技術を用いて本抗原スクリーニングライブラリーのランダム化抗原ポリペプチドの少なくとも1つに融合させる。これらの実施形態では、HLAポリペプチドは本抗原スクリーニングライブラリーの構成要素であってもそうでなくてもよい。本開示の他の実施形態では、HLAポリペプチドの少なくとも1つを当業者に公知の技術を用いて本抗原スクリーニングライブラリーのランダム化抗原ポリペプチドの少なくとも1つに融合させる。これらの実施形態では、β2-ミクログロブリンは、ランダム化抗原ポリペプチドおよびHLAポリペプチドなどの本抗原スクリーニングライブラリーの他の構成要素を発現するように形質導入、トランスフェクトまたは形質転換されている細胞によって発現させることができる。本明細書に記載されている他の実施形態と同様に、β2-ミクログロブリンは細胞によって構成的に発現される。これらの実施形態のいくつかでは、当該細胞は酵母細胞である。他の実施形態では、β2-ミクログロブリンは、ランダム化抗原ポリペプチドおよびHLAポリペプチドなどの本抗原スクリーニングライブラリーの他の構成要素を発現するように形質導入、トランスフェクトまたは形質転換されている細胞よって発現されない。これらの実施形態のいくつかでは、当該細胞は哺乳類の細胞である。
【0093】
本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーのHLA-抗原ポリペプチド複合体の(a)ランダム化抗原ポリペプチド、(b)MHC IのHLA分子および(c)β2-ミクログロブリン特徴に加えて、本開示のHLA-抗原ポリペプチド複合体は(d)シグナル配列、(e)(a)、(b)または(c)のいずれかまたは全ての間のポリペプチドリンカー、(f)膜テザリングドメイン、および任意に(g)FLAGタグ、c-Mycタグ、His-タグ、赤血球凝集素(HA)タグ、VSVgタグ、V5タグ、AU1タグ、AU5タグ、Glu-Gluタグ、OLLASタグ、T7タグ、S-TagHSVタグ、KT3タグ、TK15タグ、Fcタグ、Xpressタグ、Tyタグ、Strepタグ、NEタグ、Eタグ、C-タグおよび/またはAviTagなどのエピトープタグをさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、HLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでいない。但しいくつかの実施形態では、本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーの複数のHLA-抗原複合体のそれぞれの少なくとも1つまたは複数は、エピトープに特異的な抗体を用いたHLA-抗原複合体の少なくとも1つの発現の確認を可能にするエピトープタグを含む。いくつかの実施形態では、本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーの複数のHLA-抗原複合体のそれぞれはエピトープタグを含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、膜テザリングドメインは、膜テザリングドメインをHLA-抗原ポリペプチド複合体の1つ以上の他の特徴((a)~(e)および(g))から分離するポリペプチドリンカーを含む。いくつかの実施形態では、HLA-抗原ポリペプチド複合体の特徴((a)~(g))は単一のポリペプチドとして発現される。いくつかの実施形態では、(b)HLA分子(例えばHLAポリペプチド)、(a)ランダム化抗原ポリペプチド、および(c)β2-ミクログロブリンポリペプチドは単一のポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、(b)HLAポリペプチドおよび(a)ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチドとして発現され、(c)β2-ミクログロブリンは別々に発現される。例えば(c)β2-ミクログロブリンは、(a)ランダム化抗原ポリペプチドおよび(b)HLAポリペプチドを発現する同じ核酸によってコードされる別個のポリペプチドから供給するか、別個の核酸から供給するか、あるいは当該細胞によって内因的に産生させることができる。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドはHLAポリペプチドのN末端にあり、かつHLAポリペプチドはβ2-ミクログロブリンポリペプチドのN末端にある。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドはHLAポリペプチドのC末端にあり、かつHLAポリペプチドはβ2-ミクログロブリンポリペプチドのN末端にある。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドはHLAポリペプチドのN末端にあり、かつHLAポリペプチドはβ2-ミクログロブリンポリペプチドのC末端にある。いくつかの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドはHLAポリペプチドのC末端にあり、かつHLAポリペプチドはβ2-ミクログロブリンポリペプチドのC末端にある。
【0095】
(a)ランダム化抗原ポリペプチド、(b)主要組織適合性クラスI(MHC I)のHLA分子、および(c)β2-ミクログロブリンは、第1の柔軟なポリペプチドリンカー、第2の柔軟なポリペプチドリンカー、第3の柔軟なポリペプチドリンカー、第4の柔軟なポリペプチドリンカー、第5の柔軟なポリペプチドリンカー、またはそれ以外の柔軟なポリペプチドリンカーなどの少なくとも1つの柔軟なポリペプチドリンカーによって分離させることができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの柔軟なポリペプチドリンカーは約3~約100アミノ酸残基長、約5~約80アミノ酸残基長、約10~約70アミノ酸残基長、約3~約100アミノ酸残基長、約20~約60アミノ酸残基長の範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、当該リンカーは約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100アミノ酸残基長であってもよい。いくつかの実施形態では、当該リンカーは、式(GGGGS)(式中、Xは1、2、3、4、5、6、7、8、9または10である)のグリシンリンカーまたはGly-Serリンカーであってもよい。いくつかの実施形態では、当該リンカーは好適にはトロンビン切断部位などのプロテアーゼ切断部位を含むことができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーのHLA-抗原ポリペプチド複合体は、HLA-抗原ポリペプチド複合体を分泌経路を介して細胞表面に導くシグナルポリペプチドを含む。このシグナルペプチドは小胞体において切断され、細胞表面に位置している場合はHLA-抗原ポリペプチド複合体によって発現されない。シグナル配列は、内因性HLAリーダー配列または免疫グロブリンリーダー配列などの異なる分泌もしくは膜貫通分子から移入された異種リーダー配列などの任意の好適な配列であってもよい。
【0097】
HLA-抗原ポリペプチド複合体は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)タンパク質からのアンカードメインおよび/または内部反復を有する酵母タンパク質(PIRタンパク質)からのドメインなどの膜テザリングドメインをさらに含む。この膜テザリングドメインは、膜貫通ドメインまたは細胞表面タンパク質と相互作用するドメインを含むことができる。いくつかの実施形態では、膜テザリングドメインは、酵母Aga2、Cwp1p、Cwp2p、Aga1p、Tip1p、Flo1p、Sed1p、YCR89wおよびTir1pからなる群から選択されるGPIタンパク質および/または酵母Pir1p、Pir2p、Pir3p、Pir4pおよびPir5pからなる群から選択されるPIRタンパク質の少なくとも1つのアンカードメインを含む。膜ドメインテザリングの非限定的な例は図1Bに提供されている。
【0098】
他の実施形態では、複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体の本抗原スクリーニングライブラリーの構成要素は2つ以上のポリペプチドとして発現され、かつ複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体の本抗原スクリーニングライブラリーの構成要素を互いから分離する切断配列を含む。例えば、ランダム化ペプチド抗原は切断配列によってHLAポリペプチドおよび/またはベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドから分離されている。別の例として、HLAペプチドはヌクレオチドでコード化された切断配列によってベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドから分離されている。いくつかの実施形態では、本抗原スクリーニングライブラリーの構成要素は2つ以上の切断配列によって分離されている。好適な切断配列は当業者に公知であり、限定されるものではないが、自己切断ペプチド(P2A、T2A、F2AおよびE2A)、タンパク質切断部位(3C部位、トロンビン部位、TEV部位、因子Xa部位およびEKT部位)ならびに配列内リボソーム進入部位(IRES)が挙げられる。
【0099】
いくつかの実施形態では、本抗原スクリーニングライブラリーおよび/またはHLA-抗原ポリペプチド複合体は、本明細書に記載されている核酸で容易にトランスフェクト、形質導入、電気穿孔または形質転換することができる1つ以上の細胞によって発現させることができる。いくつかの実施形態では、本抗原スクリーニングライブラリーおよび/またはHLA-抗原ポリペプチド複合体は複数の細胞で発現される。いくつかの実施形態では、複数の細胞の各細胞は、HLA-抗原ポリペプチド複合体の特異的HLA-抗原複合体および/または本抗原スクリーニングライブラリーの別の構成要素を発現する。いくつかの実施形態では、核酸または複数の核酸は本抗原スクリーニングライブラリーおよび/またはHLA-抗原ポリペプチド複合体をコードする。いくつかの実施形態では、本抗原スクリーニングライブラリーおよび/またはHLA-抗原ポリペプチド複合体は原核細胞を含む。いくつかの実施形態では、HLA-抗原ポリペプチド複合体を発現する細胞は真核細胞を含む。いくつかの実施形態では、真核細胞は酵母細胞を含む。いくつかの実施形態では、酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエの細胞である。いくつかの実施形態では、サッカロマイセス・セレビシエは菌株EBY100のものである。サッカロマイセス・セレビシエの核酸による形質転換は、その効率が少なくとも10、10、10または1010種の形質転換体を産生するのに十分である限り標準的な方法によって達成することができる。
【0100】
上記本抗原スクリーニングライブラリーの複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体に加えて、本技術は、上記のものとは異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を有する少なくとも2つまたはそれ以上の抗原スクリーニングライブラリーも含む。いくつかの実施形態では、HLA-抗原ポリペプチド複合体は、上記複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体よりも少ない構成要素および/またはそれとは異なる少なくとも1つの構成要素を有する。例えばいくつかの実施形態では、HLA-抗原ポリペプチド複合体は、(a)ペプチド結合溝を有するHLAポリペプチド、および(b)HLAポリペプチドのペプチド結合溝に特異的に結合する配列番号1~209のいずれか1つに示されているアミノ酸配列を含むランダム化抗原ポリペプチドも含むことができる。これらの実施形態では、HLAポリペプチドおよびランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチドを含む。またこれらの実施形態では、単一のポリペプチドは、HLAポリペプチドをランダム化抗原ポリペプチドから分離する第1の柔軟なポリペプチドリンカーをさらに含む。第1の柔軟なポリペプチドリンカーによって分離された単一のポリペプチドで発現された場合、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのN末端にあるか、あるいはランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのC末端にある。
【0101】
別の例として、いくつかの実施形態では、本技術の抗原スクリーニングライブラリーは、(a)1つ以上の酵母細胞によって構成的に発現され、かつペプチド結合溝を含むHLAポリペプチドと、(b)複数のベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド-抗原ポリペプチド複合体とを含む。これらの実施形態では、複数のベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド複合体は、配列番号1~209のいずれか1つに示されているアミノ酸配列を含み、かつHLAポリペプチドのペプチド結合溝に特異的に結合するランダム化抗原ポリペプチドと、(c)ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドとを含む。これらの実施形態では、ランダム化抗原ポリペプチドおよびβ2-ミクログロブリンポリペプチドは単一のポリペプチドを含む。またこれらの実施形態では、単一のポリペプチドは、ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドをランダム化抗原ポリペプチドから分離する第1の柔軟なポリペプチドリンカーをさらに含む。第1の柔軟なポリペプチドリンカーによって分離された単一のポリペプチドで発現された場合、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドのN末端にあるか、あるいはランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドのC末端にある。
【0102】
HLA-抗原ポリペプチド複合体をコードする核酸
本抗原スクリーニングライブラリーのHLA-抗原ポリペプチド複合体をコードする核酸も本明細書に開示されている。本開示のHLA-抗原ポリペプチド複合体をコードする核酸は最小限に、(a)ランダム化抗原ポリペプチド、(b)MHC IのHLA分子、および(c)β2-ミクログロブリンをコードする。1つ以上の核酸によってコードされる本ランダム化ペプチド抗原ライブラリーのHLA-抗原ポリペプチド複合体の(a)ランダム化抗原ポリペプチド、(b)MHC IのHLA分子および(c)β2-ミクログロブリン特徴に加えて、本開示のHLA-抗原ポリペプチド複合体は、(d)シグナル配列、(e)(a)、(b)または(c)のいずれかまたは全ての間のポリペプチドリンカー、(f)膜テザリングドメイン、および任意に(g)FLAGタグ、c-Mycタグ、HIS-タグ、赤血球凝集素タグ、VSVgタグ、V5タグ、AU1タグ、AU5タグ、Glu-Gluタグ、OLLASタグ、T7タグ、S-タグ、HSVタグ、KT3タグ、TK15タグ、Fcタグ、Xpressタグ、Tyタグ、Strepタグ、NEタグ、Eタグ、C-タグおよび/またはAviTagなどのエピトープタグをコードする核酸をさらに含む(図1Aおよび図1B)。
【0103】
いくつかの実施形態では、(f)膜テザリングドメインをコードする核酸は、(e)膜テザリングドメインをHLA-抗原ポリペプチド複合体の他の特徴から分離する1つ以上のポリペプチドリンカーをさらにコードしてもよい。いくつかの実施形態では、当該核酸は、全ての3つの特徴が単一の核酸上でコードされる場合、(a)HLAポリペプチドを(b)ランダム化抗原ポリペプチドおよび(c)β2-ミクログロブリンポリペプチドから分離する1つ以上の柔軟なポリペプチドリンカーをコードする。
【0104】
いくつかの実施形態では、単一のポリペプチドをコードする核酸は、第1の柔軟なポリペプチドリンカーおよび第2の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチドをさらに含み、ここでは第1の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、HLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、ランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をβ2-ミクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離する。いくつかの実施形態では発現されると、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのN末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのN末端にある。
【0105】
いくつかの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、HLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、HLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をβ2-ミクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離する。いくつかの実施形態では発現されると、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのC末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのN末端にある。
【0106】
いくつかの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、HLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、HLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をβ2-ミクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離する。いくつかの実施形態では発現されると、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのN末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのC末端にある。
【0107】
いくつかの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、ランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をβ2-ミクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、β2-ミクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をHLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離する。いくつかの実施形態では発現されると、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのC末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンポリペプチドのC末端にある。
【0108】
いくつかの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、HLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をβ2-ミクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、ランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をHLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離する。いくつかの実施形態では発現されると、β2-ミクログロブリンポリペプチドは単一のポリペプチド上のHLAポリペプチドのC末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のランダム化抗原ポリペプチドのN末端にある。
【0109】
いくつかの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、HLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、ランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をβ2-ミクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離する。いくつかの実施形態では発現されると、ランダム化抗原ポリペプチドは単一のポリペプチド上のβ2-ミクログロブリンのC末端にあり、かつHLAポリペプチドは単一のポリペプチド上のランダム化抗原ポリペプチドのC末端にある。いくつかの実施形態では、第1の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、β2-ミクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列は、ランダム化抗原ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をHLAポリペプチドをコードするヌクレオチド配列から分離する。
【0110】
他の実施形態では、複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体の本抗原スクリーニングライブラリーの構成要素は単一の核酸によってコードされるにも関わらず2種以上のポリペプチドとして発現される。これらの実施形態では、ヌクレオチドコード化切断配列は複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体の本抗原スクリーニングライブラリーの構成要素を互いから分離する。例えば発現されるとランダム化ペプチド抗原は、切断配列によってHLAポリペプチドおよび/またはベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドから分離される。別の例として、発現されるとHLAペプチドは、ヌクレオチドコード化切断配列によってベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチドから分離される。これらの実施形態では、HLAポリペプチドの一部は複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体の本抗原スクリーニングライブラリーの他の構成要素とは別々に発現され、別々に発現された場合、細胞内のHLA-抗原ポリペプチド複合体の他の構成要素と自然に対をなす。
【0111】
いくつかの実施形態では、HLA-抗原複合体のランダム化抗原ポリペプチドは配列番号210~411のいずれか1つに示されている核酸によってコードされる。いくつかの実施形態では、HLA-抗原複合体のHLAポリペプチドは配列番号210~411のいずれか1つと少なくとも70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、95%、97%、98%、99%または100%相同な核酸によってコードされる。いくつかの実施形態では、HLA-抗原複合体のランダム化抗原ポリペプチドは配列番号412~426のいずれか1つに示されている核酸によってコードされる。いくつかの実施形態では、HLA-抗原複合体のHLAポリペプチドは配列番号280~308のいずれか1つと少なくとも70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、95%、97%、98%、99%または100%相同な核酸によってコードされる。いくつかの実施形態では、配列番号210~411および412~426の核酸の1つ以上などの当該核酸の1つ以上は複数の細胞によって発現される。いくつかの実施形態では、複数の細胞の各細胞はHLA-抗原複合体をコードする核酸を含む。いくつかの実施形態では、複数の細胞は複数の酵母細胞である。いくつかの実施形態では、複数の酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエのEBY100菌株の複数の細胞である。
【0112】
HLA-抗原ポリペプチド複合体の1種以上の構成要素をコードする核酸は外因性核酸または外因性ベクターなどの核酸またはベクターにより複数の細胞に送達することができる。好適な外因性核酸および外因性ベクターとしては、プラスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、トランスポゾンおよびウイルスベクターが挙げられる。これらの外因性核酸および外因性ベクターは、HLA-抗原ポリペプチド複合体の1種以上の構成要素をコードする核酸の複製を可能にし、細胞または他の生物の一部がHLA-抗原ポリペプチド複合体の1種以上の構成要素をコードする核酸を発現するのを可能にするための抗生物質選択を可能にする構成要素、HLA-抗原ポリペプチド複合体の1種以上の構成要素をコードする核酸を発現している酵母形質転換体を選択するための酵母の独立栄養を補う遺伝子、HLA-抗原ポリペプチド複合体の原核生物もしくは真核生物発現のためのプロモーターまたはエンハンサー、ポリアデニル化部位、あるいは形質転換された細胞の可視化を可能にするマーカー遺伝子をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、本開示のHLA-抗原ポリペプチド複合体をコードする核酸を含む核酸は誘導プロモーターを含む。
【0113】
HLA-抗原ポリペプチド複合体およびそのような複合体をコードする核酸を使用する方法は最小限に、HLA-抗原ポリペプチド複合体を発現する複数の細胞などの1つ以上の細胞をTCRと接触させる工程と、TCRと相互作用する1つ以上の細胞を選択する工程とを含む。選択は、例えばTCRと相互作用するHLA-抗原ポリペプチド複合体を発現している1つ以上の細胞を捕捉するための「パニング工程」においてTCRを使用し、かつTCRと相互作用しないHLA-抗原ポリペプチド複合体を発現していない1つ以上の細胞などのあらゆる相互作用していない細胞を洗い流すことにより行うことができる。TCRと相互作用したランダム化抗原ポリペプチドのアミノ酸配列を明らかにするために、相互作用している細胞からの核酸を回収してシークエンシングすることができる。さらなる選択ラウンドのためにこれらの核酸を1つ以上の異なる細胞の中に再トランスフェクト、形質転換または形質導入することができる。1、2、3、4、5回またはそれ以上の回数などの任意の回数の選択ラウンドのために(例えばサイクルで)この方法を繰り返して、TCRと強力に相互作用するHLA-抗原ポリペプチド複合体を濃縮することができる。
【0114】
本開示において使用することができるシークエンシングプラットフォームとしては、限定されるものではないが、パイロシークエンシング、SBS(sequencing-by-synthesis)法、1分子シークエンシング、第2世代シークエンシング、ナノポアシークエンシング、ライゲーションによるシークエンシングまたはハイブリダイゼーションによるシークエンシングが挙げられる。好ましいシークエンシングプラットフォームは、Illumina社(RNA-Seq)およびHelicos社(Digital Gene Expressionすなわち「DGE」)から市販されているものである。「次世代」シークエンシング法としては、限定されるものではないが、以下の会社によって商品化されているものが挙げられる:1)454/Roche Lifesciences社(限定されるものではないが、Margulies 2005ならびに米国特許第7,244,559号、第7,335,762号、第7,211,390号、第7,244,567号、第7,264,929号および第7,323,305号に記載されている方法および装置が挙げられる)、2)Helicos Biosciences社(マサチューセッツ州ケンブリッジ)(米国特許第7,501,245号、第7,491,498号および第7,276,720号ならびに米国特許出願公開第2006/0024711号、第2009/0061439号、第2008/0087826号、第2006/0286566号、第2006/0024711号、第2006/0024678号、第2008/0213770号および第2008/0103058号に記載されているようなもの)、3)Applied Biosystems社(例えば、SOLiDシークエンシング)、4)Dover Systems社(例えば、Polonator G.007シークエンシング)、5)Illumina社(米国特許第5,750,341号、第6,306,597号および第5,969,119号に記載されているようなもの)、6)Pacific Biosciences社(米国特許第7,462,452号、第7,476,504号、第7,405,281号、第7,170,050号、第7,462,468号、第7,476,503号、第7,315,019号、第7,302,146号および第7,313,308号ならびに米国特許出願公開第2009/0029385号、第2009/0068655号、第2009/0024331号および第2008/0206764号に記載されているようなもの)。
【0115】
方法
本開示のHLA-抗原ポリペプチド複合体を使用して特異的TCRなどのTCRに結合する抗原を選択または濃縮する方法が本明細書に記載されている。いくつかの実施形態では本方法は、トランスジェニックHLA-抗原ポリペプチド酵母細胞ライブラリーなどの1つ以上のトランスジェニックHLA-抗原ポリペプチド細胞ライブラリーを用いてHLA抗原ポリペプチド複合体を発現する複数の細胞などの1つ以上の細胞をTCRと接触させる工程を含む抗原を選択する工程を含む。本明細書に記載されている方法は、1つ以上のトランスジェニックHLA-抗原ポリペプチド酵母細胞ライブラリーを構築するための方法を含む。
【0116】
1つ以上のトランスジェニックHLA-抗原ポリペプチド酵母細胞ライブラリーの構築後に、本方法は、栄養欠乏酵母培地によりそれぞれがHLA-抗原ポリペプチドの少なくとも1つを発現している増殖中の酵母細胞の1つ以上の培養物の限定された希釈を含む限界希釈法を用いて1つ以上のトランスジェニックHLA-抗原ポリペプチド酵母細胞ライブラリーを検証する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、本方法は、希釈した酵母培養物からの酵母を計数し、かつ少なくとも約10、10、10または10種の固有のHLA-抗原ポリペプチド配列(例えばクローン)の多様性によりHLA-抗原ポリペプチド酵母細胞ライブラリーを推定する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、酵母細胞によるエピトープタグの発現を測定して10、10、10または10種のクローンのいずれかが酵母細胞表面に提示されるか否かを決定する。例えばエピトープタグの発現は複数の酵母細胞における総HLA-抗原ポリペプチド発現の代替値として決定することができ、かつ発現パーセントを計算することができる。いくつかの実施形態では、発現パーセントはHLA-抗原ポリペプチド配列ライブラリーに対する特定のHLA-抗原ポリペプチドを発現している酵母細胞の数の推定値である。
【0117】
図2を参照すると、酵母などの複数の細胞201を本開示のHLA-抗原ポリペプチド複合体をコードする複数の核酸202で形質転換、トランスフェクトまたは電気穿孔することができる。HLA-抗原ペプチド複合体をコードする複数の核酸を発現している複数の細胞をトランスジェニックHLA-抗原ポリペプチド細胞ライブラリー203と呼ぶ。トランスジェニックHLA-抗原ポリペプチド細胞ライブラリー203を細胞増殖により拡張し、複数の細胞によるHLA-抗原ポリペプチド複合体204の発現を当該技術分野で知られている方法、例えばガラクトース、ラクトースまたはイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)によって誘導させる。TCRと相互作用するHLA-抗原ポリペプチド複合体を発現している細胞をそのTCR205を用いてポジティブ選択する。いくつかの実施形態では、TCRは基板に固定化されている。いくつかの実施形態では、TCRは1つの細胞または複数の細胞によって発現される。図2に示されているこの選択プロセスは、TCRと相互作用する1つもしくは少ない数のHLA-抗原ポリペプチド複合体に到達するために、1、2、3、4、5回またはそれ以上の回数などの任意の回数の選択ラウンドのために繰り返すことができる。いくつかの実施形態では、HLA-抗原ポリペプチド複合体はポリペプチド抗原を含む。いくつかの実施形態では、ポリペプチド抗原はヒトにおいて天然に生じないポリペプチド抗原などの天然に生じないポリペプチド抗原である。各選択ラウンド後または最終選択ラウンド後に選択された細胞205から抽出された核酸に対して、ディープシークエンシングまたは次世代シークエンシング反応を行うことができる。
【0118】
いくつかの実施形態では、図2に示されているような本開示の方法を用いて少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×10、少なくとも1×1010、少なくとも1×1011、少なくとも1×1012、少なくとも1×1013、少なくとも1×1014または少なくとも1×1015種超の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体をスクリーニングする。いくつかの実施形態では、本開示の方法により10、10、10、10、9、8、7、6、5、4、3または2種未満の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を同定する。いくつかの実施形態では、1、2、3、4または5回の選択ラウンド後に残っている90%、95%、97%、98%または99%超のHLA-抗原ポリペプチド複合体は、10、9、8、7、6、5、4、3または2種未満の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む。いくつかの実施形態では、1、2、3、4または5回の選択ラウンド後に残っている90%、95%、97%、98%または99%超のHLA-抗原ポリペプチド複合体は、HLA-抗原ポリペプチド複合体内に10、9、8、7、6、5、4、3または2種未満の異なる抗原ポリペプチド配列を含む。いくつかの実施形態では、1、2、3、4または5回の選択ラウンド後に残っている90%、95%、97%、98%または99%超のHLA-抗原ポリペプチド複合体は単一のHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む。いくつかの実施形態では、1、2、3、4または5回の選択ラウンド後に残っている90%、95%、97%、98%または99%超のHLA-抗原ポリペプチド複合体は、単一のHLA-抗原ポリペプチド複合体内に単一抗原ポリペプチド配列を含む。
【0119】
本明細書に記載されているHLA-抗原ポリペプチド配列ライブラリーなどのナイーブ酵母ライブラリーの発現は最小限に、HLA-A1(Gee 2018b)によって提示される単一長さ9merのペプチドのために抗原ポリペプチド配列ライブラリー内の総抗原ポリペプチド配列の約15%を発現し、かつHLA-A2(Gee 2018a)によって提示される混合長さのペプチド(例えば、8mer、9mer、10mer、11mer、12mer)を有する抗原ポリペプチド配列ライブラリーにおいて約5%未満の単一長さのペプチド(例えば8mer)を発現する。8mer長さのペプチドを有する抗原ポリペプチド配列ライブラリーの約5%未満の単一長さの発現にも関わらず、単離されたTCRはインビトロでの共培養アッセイ(Gee 2018a)において、TCRを刺激した抗原ポリペプチド配列ライブラリーからの8mer抗原を標的にする。これらの抗原ポリペプチド配列ライブラリーをスクリーニングし、公知の特異性のTCRに対するペプチドを単離する(Gee 2018a)。機能的ライブラリーのために必要な最小レベルの発現はまだ決定されていないが、データは15%未満の発現により本明細書に記載されている方法を用いた場合に有用な抗原ポリペプチド配列ライブラリーを得ることができることを示している。
【0120】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、TCRと相互作用するポリペプチド抗原を同定する工程をさらに含む。例えばポリペプチド抗原と相互作用しているTCRを決定するための方法は、以下の工程のいずれかを含むことができる。
1.作製およびHLA-抗原ポリペプチド複合体構築物の設計:いくつかの実施形態では工程(1)は、限定されるものではないが、1つ以上のDNA構築物を作製することおよび/または天然に生じるタンパク質配列、合成タンパク質配列またはそれらの組み合わせを有する1つ以上のHLAポリペプチドを提示するための設計を含む。
2.酵母発現によるHLA-抗原ポリペプチド複合体構築物の試験発現:いくつかの実施形態では工程(2)は、限定されるものではないが、1つ以上の電気もしくは化学的にコンピテントな酵母をHLAポリペプチドなどの目的のHLAを含む単一のペプチドまたはペプチドのライブラリーをコードするプラスミドで形質転換することを含む。プラスミドは、Aga2のN末端から酵母タンパク質を提示するように単一のペプチド構築物またはペプチド構築物のライブラリーのために設計する。いくつかの実施形態では発現確認は、エピトープタグ(例えば、V5、VSVg、c-Myc、HA)の抗体染色、あるいは単一のペプチド-HLA構築物またはペプチド-HLA構築物のライブラリーを提示している酵母の蛍光性TCRテトラマー、ダイマーもしくはデキストラマー染色を含むことができる。
3.HLA提示のための任意の検証工程:いくつかの実施形態では工程(3)は、限定されるものではないが、工程(2)の単一のペプチド-HLA構築物またはペプチド-HLA構築物のライブラリーを提示している酵母のエピトープタグまたは蛍光性TCRテトラマー、ダイマーもしくはデキストラマー染色の抗体ベースの染色を含む。いくつかの実施形態では検証は、公知の特異性を有するTCRによりペプチド-HLA構築物を染色すること、あるいはHLAによって提示される多様なペプチドライブラリーを選択することも含むことができる。
4.提示のためにHLAを再設計するための任意の工程:いくつかの実施形態では工程(4)は、限定されるものではないが、変異性ポリメラーゼによるランダム突然変異誘発、その後の化学的および/または電気的にコンピテントな酵母の中への電気穿孔を含む。本技術の1つのライブラリーおよび/または複数のライブラリーを発現している酵母細胞は、目的のTCRに基づく磁気細胞分離(MACS)または蛍光活性化細胞分類(FACS)による細胞分離により選択する。いくつかの実施形態では、単離された酵母クローンをシークエンシングまたはディープシークエンシングして、目的の抗原性ペプチドを適切に提示するあらゆる機能的HLA突然変異体を同定する。いくつかの実施形態では、構築物またはライブラリーが不適切に提示されている場合に工程(4)を含める。
5.ペプチド-HLAライブラリーの作製:いくつかの実施形態では工程(5)は、限定されるものではないが、ランダムコード化ペプチドリガンドまたは明示的コード化ペプチドリガンドを含む。例えばランダムコード化ペプチドリガンドまたは明示的コード化ペプチドリガンドは、各HLA対立遺伝子が呈することができるそのペプチドへの嗜好に基づいて各HLA対立遺伝子のために一意的に設計されている。いくつかの実施形態では工程(5)は、1つ以上のポリメラーゼ連鎖反応から遺伝物質を生成することも含む。
6.目的のTCRによるペプチド-HLAライブラリーの選択:いくつかの実施形態では工程(6)は、限定されるものではないが、繰り返しのMACSベースもしくはFACSベースの選択を含む。例えば目的のTCRまたは1つ以上の抗原結合ドメインを有する他の巨大分子はベイトとして機能し、磁気ビーズ、ストレプトアビジン、デキストランまたは多量体化のために適した他の基板上で多量体化することができる。いくつかの実施形態では、1回以上の選択ラウンドからの結果は、TCRにより1つ以上の酵母細胞を物理的に単離することを含む。単離後に酵母を増殖させ、タンパク質発現のために再誘導する。これらの繰り返しのラウンドにより結合している酵母集団を濃縮する。
7.ディープシークエンシングおよびデータ分析:このプロセスは、酵母ライブラリーの遺伝情報を抽出し、選択し、かつ選択されたライブラリーからのペプチドの性質を同定するために産物をシークエンシングすることを含むことができる。次いでこれらのデータを分析してTCRの潜在的標的を同定し、かつ/またはTCRの特異性に関する予測を行うためにアルゴリズムの中に提供する。
【0121】
T細胞受容体(TCR)
本明細書に記載されているトランスジェニックHLA-抗原ポリペプチド細胞ライブラリーおよびHLA-抗原ポリペプチド複合体の抗原は、所与のTCRと共に使用することができる。例えばTCRまたは1つ以上の抗原結合ドメインを有する他の巨大分子はポジティブセレクターすなわちベイトであり、抗原(例えばHLA-抗原ポリペプチド複合体)に結合すると、その同種抗原を同定する。本明細書に記載されているTCRは天然または外因性(例えば組換え型)であり、かつ一次T細胞、不死化T細胞または非T細胞などの細胞によって発現させることができる。いくつかの実施形態では、TCRはカラム、ポリスチレンプレートまたはマルチウェルプレートのウェルまたはビーズなどの固体担体上に固定化されている。いくつかの実施形態では、TCRはビーズ上に固定化された複数のTCRとして多量体化されている。例えばTCRは、限定されるものではないが磁気ビーズ、ストレプトアビジンまたはデキストラン上に多量体化させることができる。
【0122】
いくつかの実施形態では、TCRは目的のTCRの少なくとも1つまたは複数の結合するドメイン、例えばTCRα/β、TCRγ/δを含む可溶性タンパク質である。可溶性タンパク質は一本鎖またはヘテロダイマーであってもよい。いくつかの実施形態では可溶性TCRは、1つのポリペプチドのC末端におけるビオチンアクセプターペプチド配列の付加によって修飾されている。アクセプターペプチドにおけるビオチン化後にTCRを多量体化させるか、ビオチン結合パートナー、例えばアビジン、ストレプトアビジン、トラプタビジン(traptavidin)、ニュートラアビジンなどに結合させることにより基板に追加することができる。いくつかの実施形態では、ビオチン結合パートナーは検出可能なラベル、例えば蛍光体、質量ラベルなどを含むことができ、あるいは粒子、例えば常磁性粒子に結合させることができる。TCRに結合されたリガンドの選択は、当該技術分野で知られているようなフローサイトメトリーおよび磁気選択などにより行うことができる。
【0123】
参照により本明細書に組み込まれる上記材料および/またはあらゆる他の材料が本開示と矛盾する場合、本開示が優先される。
【0124】
以下の実施例は本開示の技術のさらなる代表的な実施形態を提供する。
【実施例0125】
以下の実施例は本技術の実施形態をさらに例示するために提供されており、本技術の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。特定の実施形態またはその特徴が言及されている場合、それは単に例示のためのものであり、特に記載がない限り本技術を限定するものではない。当業者であれば、本発明力を行使せず、かつ本技術の範囲から逸脱することなく同等の手段を開発することができるであろう。当然のことながら本技術の境界内に留まっている限り、本明細書に記載されている手順において多くの変形を行うことができる。そのような変形は本開示の技術の範囲内に含まれることが意図されている。従って本開示の技術の実施形態は以下の代表的な実施例に記載されている。
【0126】
実施例1:抗原ポリペプチドライブラリーの設計
本実施例は、ポリペプチド抗原HLA複合体と共に使用するための本開示の抗原ライブラリーの設計について説明する。各HLA対立遺伝子のためにアンカー残基を設計および選択するための例示的なアルゴリズムは以下のとおりであり、www.IEDB.org/:などのウェブサイトからのエピトープリガンドに結合する公知のHLAのデータを使用する。
【0127】
工程1:数百のペプチドまたは数千のペプチドを含み得る所与の対立遺伝子に結合するポリペプチドのリストをダウンロードする。
【0128】
工程2:ダウンロードした公知のペプチドに基づくペプチドの位置ごとに残基の頻度行列を構築する。
【0129】
工程3:各位置における上位4つの残基のカットオフを使用することにより、ライブラリー設計のために「アンカー」の組成を選択する。
【0130】
実施例2:pHLAライブラリーの電気穿孔
本実施例は、酵母細胞を全てのHLAアロタイプを有し、かつアミノ酸長8~11(8mer~11mer)のペプチドを使用している本開示の例示的な抗原ライブラリーをコードする核酸で電気穿孔する工程について記載している。本実施例では、酵母細胞をHLA-抗原ポリペプチド複合体の抗原ライブラリー(pHLAライブラリー)をコードする核酸で電気穿孔した。
【0131】
酵母表面でのpHLAの発現のための電気穿孔方法は以下のとおりである。
【0132】
0日目:
1.増殖中の酵母培養物を拡張するために3つの2.5Lバッフル付フラスコおよび1つの250mLバッフル付フラスコを高圧滅菌する。
2.バクトペプトン、グルコースおよび酵母抽出物を含む酵母ペプトンデキストロース培地(YPD)を調製する。
3.2つのEBY100酵母培養物5mlを調製して30℃で一晩振盪させる。
4.HindIII、NheIまたはNheIおよびBamHIにより消化されるpYAL_3Tプラスミド(10μg)の制限酵素ならびに配列番号210~411のライブラリーを含むインサート(50μg)を調製する。pYAL_3Tベクター(配列番号485)はpCTベクター(配列番号486;Invitrogen社)の誘導体であり(表8)、それらのマップは図3Aおよび図3Bに提供されている。pYAL_3TおよびpCTの特徴は表9および表10にそれぞれ含まれている。pYAL_3Tは少なくともpHLAライブラリーのC末端にある提示タンパク質足場(Aga2)の配向、ヒトのB2Mの付加および連結リンカーによってpCTとは異なる。pYAL_3Tについては記載されている(Gee 2018a)。
【表8】
【表9】
【表10】
【0133】
1日目:2つの酵母培養物のそれぞれ100μlを5mLの新鮮なYPDに添加することにより0日目の工程3からの2つの酵母培養物を継代し、30℃で一晩振盪させる。
【0134】
2日目:
1.1日目からの一晩培養物の光学濃度(OD)を測定する。
2.2.5Lバッフル付フラスコ中のYPDを用いて、工程1からのOD0.3の酵母培養物300mLにより新しい培養物を調製する。
3.3mLの1M Tris(pH8.0)/1M 1,4-ジチオスレイトール(DTT)を調製する。
4.15mLの2M酢酸リチウム(LiAc)/10mM Tris、1mM EDTA(TE)を調製する
5.培養物を1.6~2.0のODまで増殖させる。
6.3mLのTris/DTTを添加する。
7.15mLの2M LiAc/TEを添加する。
8.225毎分回転数(rpm)で振盪しながら培養物を30℃で15分間増殖させる。
9.培養物を3000×gで3分間遠心分離する。
10.そのペレットを50mLの冷たいE緩衝液の中に再懸濁する。
11.工程10からの懸濁液を3000×gおよび4℃で3分間遠心分離する。
12.工程10および工程11を2回繰り返す。
13.残留する緩衝液を除去する。
14.ペレットを600μLのE緩衝液に再懸濁する。
15.0日目の工程4からの50μgのインサートおよび10μgの消化したプラスミドを添加し、緩衝液、インサート、プラスミドおよび酵母の総体積を約1mLにしなければならない。
16.工程15からの150μLの懸濁液を氷冷した2mmギャップの電気穿孔用キュベットの中に等分する。
17.各キュベットを2.5kVで電気穿孔する。時定数は3~4msでなければならない。
18.3つの1mL体積の冷たいYPDを添加し、次いで総体積をYPDにより200mLにする。
19.電気穿孔した酵母を250mLバッフル付フラスコ内で30℃および225rpmで1時間培養する。
20.培養物を3500×gで3分間遠心分離して酵母細胞ペレットを形成し、上澄みをデカントし、酵母細胞ペレットを10mLのSDCAA(pH4.5のアミノ酸を含まないが硫酸アンモニウム、クエン酸ナトリウムおよびクエン酸一水和物を含む酵母ニトロゲンベースも含むデキストロースカザミノ酸)の中に再懸濁する。
【0135】
2日目:力価を決定する
1.990μLのSDCAAを4つのエッペンドルフ管のそれぞれに添加する。
2.上記工程20からの10μLを990μLのSDCAAを含む1つの管に添加する。
3.100μLの10溶液を990μLのSDCAAのみを含む管の中にピペットで移す。
4.100μLの10溶液を990μLのSDCAAのみを含む管の中にピペットで移す。
5.100μLの10溶液を990μLのSDCAAのみを含む管の中にピペットで移す。
6.工程2~5における100μLの各希釈物を別個のSDCAAプレートの上に広げ、30℃で3日間インキュベートする。プレート上のコロニーを計数して力価を決定する。工程2からの計数したコロニーはライブラリー×10の多様性を表す。工程3からの計数したコロニーはライブラリー×10の多様性を表す。工程4からの計数したコロニーはライブラリー×10の多様性を表す。工程5からの計数したコロニーはライブラリー×10の多様性を表す。
7.490mLのpH4.5のSDCAAを工程20からの残りの細胞懸濁液に添加し、30℃で一晩培養する。
【0136】
3日目:24時間後に工程8からの継代のODを測定する。そのODは少なくとも5でなければならない。総体積が500mLのSDCAAにおいて培養物をODが1になるまで継代する。
【0137】
4日目:総体積が500mLのSDCAAにおいてODが1になるまで細胞を継代する。
【0138】
5日目:2日目からの工程18を行ってから72時間後に、SGCAA(pH4.5のアミノ酸を含まないが硫酸アンモニウム、クエン酸ナトリウムおよびクエン酸一水和物を含む酵母ニトロゲンベースも含むガラクトースカザミノ酸)を誘導する。
【0139】
レシピ:
1)E緩衝液、500ml
-0.6gのトリス塩基
-91.09gのソルビトール(1M)
-500mlの最終体積までddHO中に73.50mgのCaCl(1mM;1Mの原液を調製することを考慮)(pH7.5まで)。0.22μmの膜で濾過
2)1M Tris/1M DTT、3ml
-3mlの1M Tris(pH8.0)中に0.462gの1,4-ジチオスレイトール(濾過によって滅菌)
3)2M LiAc/TE溶液(15ml)
-10mLのTE(10mM Tris、1mM EDTA)中に1.98gのLiAc(濾過によって滅菌)
【0140】
実施例3:pHLA発現の特性評価
本実施例は、実施例2の電気穿孔した酵母細胞表面でのHLA-抗原ポリペプチド複合体の発現を特性評価する工程について説明する。これらの発現測定は、酵母細胞の表面に提示されたペプチド-MHCのレベルを決定し、かつランダム酵母ディスプレイライブラリーの機能性を示すためのFACS分析を含む。酵母表面でのpHLAの発現についての特性評価方法は以下のとおりである。
【0141】
材料
1.実施例2からの酵母ライブラリー
2.PBSM(1×PBS、1g/Lのウシ血清アルブミン、EDTA、pH7.4;濾過済)
3.抗myc(FITC蛍光体結合)抗体
4.96ウェルのU底プレート
任意:
5.抗V5(647蛍光体結合)抗体
6.抗HA(BV421蛍光体結合)抗体
7.抗VSV(PE蛍光体結合)抗体
【0142】
細胞の調製
1.NanoDropで酵母培養物の光学濃度を測定する。0~1のOD600の読み取りは1:20の培養物:SDCAA希釈で20℃で2~3日間誘導した培養物では線形範囲にある。
2.酵母培養物の試料を96ウェルプレートのウェルの中に移す。約10のOD600を有する酵母培養物の場合は25μLの培養物を使用する。単色および染色されていない対照を含める。
3.PBSMを200μlの最終体積まで各ウェルに添加する。
4.96ウェルプレートを2500×gで2分間遠心分離する。
5.上澄みを除去する。
【0143】
染色細胞
1.各細胞ペレットを100μlのPBSMに再懸濁する。
2.必要に応じて1μlの抗体を添加する。
3.光から保護された状態(例えば暗い状態)で4℃で30分間インキュベートする。
【0144】
細胞の洗浄およびpHLA発現の決定
1.96ウェルプレートを2500×gで2分間遠心分離する。
2.上澄みを除去する。
3.各ペレットを200μlのPBSMに再懸濁する。
4.96ウェルプレートを2500×gで2分間遠心分離する。
5.上澄みを除去する。
6.各ペレットを200μlのPBSMに再懸濁する。
7.CytoFlexを用いて各ウェル内の試料を分析する。
【0145】
結果:HLA-抗原ポリペプチド複合体(配列番号8、11、14、18、21+24、28、32、36、40~44、47、50、53、56、65、75、69、77+80、89、95、99、102+106、108、111+114、117+120、124および125のペプチド)の発現をフローサイトメトリーにより決定し、それが図4に示されている。HLA-抗原ポリペプチド複合体によって発現されるエピトープタグを標的にする抗体を使用して電気穿孔した酵母細胞を染色した。FITC-A染色はc-Mycタグを発現しているHLA-抗原ポリペプチド複合体に対応している。抗体-エピトープタグの結合をpHLA発現を決定するためのプロキシとして使用し、それは図4に示されているように配列番号56の場合の8.99%から配列番号177+180の場合の26.3%の発現までの範囲であった。
【0146】
実施例4:pHLA発現の機能的検証
本実施例は、候補TCRにより実施例2の電気穿孔した酵母細胞表面でのpHLAの発現を機能的に検証する工程について説明する。候補TCRがアロタイプに合致している場合にpHLAの期待される標的抗原を最大6つのライブラリーから同定することができる。酵母表面でのpHLAの発現の機能的検証方法は以下のとおりである:
【0147】
本明細書に開示されているようなHLA-抗原ポリペプチド配列ライブラリーは最小限に、HLA-A1(Gee 2018b)によって提示される単一長さ9merのペプチドの場合は約25%の総抗原ポリペプチド配列を発現し、かつHLA-A2(Gee 2018a)によって提示される混合長さのペプチド(例えば、8mer、9mer、10mer、11mer)の場合は約5%未満の単一長さのペプチド(例えば8mer)を発現する。8mer長さのペプチドを有するHLA-抗原ポリペプチド配列の約5%未満の単一長さのペプチドの発現にも関わらず、目的の単離されたTCRはHLA-抗原ポリペプチド複合体からの8merの抗原を標的にする。目的の単離されたこれらのTCRは、インビトロ共培養アッセイにおいて1つ以上のHLA-抗原ポリペプチド複合体によって刺激された(Gee 2018a;その中の図5Cおよび図7Aを参照)。HLA-抗原ポリペプチドライブラリーをスクリーニングし、公知の特異性のTCRに結合するペプチドを単離した(Gee 2018a)。本開示の機能的HLA-抗原ポリペプチドライブラリーのために必要な最小レベルの発現はまだ決定されていないが、データは15%未満の発現により本明細書に記載されている方法を用いた場合に有用なHLA-抗原ポリペプチドライブラリーを得ることができることを示している。
【0148】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に図示および記載されているが、そのような実施形態は単なる一例として提供されていることが当業者には明らかであろう。本発明から逸脱することなく数多くの変形、変更および置換を当業者は思いつくであろう。当然のことながら本明細書に記載されている本発明の実施形態に対する様々な代替形態を本発明を実施する際に用いてもよい。
【0149】
本明細書において参照されている全ての公報、特許出願、発行特許およびそれ以外の文献は、個々の公報、特許出願、発行特許またはそれ以外の文献の内容全体が参照により組み込まれるために具体的かつ個々に示されているかのように参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる本文に含まれている定義は本開示における定義と矛盾する場合には除外される。
【0150】
参考文献
Altschulら.“Basic local alignment search tool(基本的な局所アライメント検索ツール).”J Mol Biol 215(3):403-410(1990)
Altschul&Karlin.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoring schemes(一般的なスコア化スキームを使用して分子配列特徴の統計的有意性を評価するための方法).”Proc Natl Acad Sci USA 87(6):2264-2268(1990)
Altschul&Karlin.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences(分子配列における複数の高スコアセグメントのためのアプリケーションおよび統計).”Proc Natl Acad Sci USA 90(12):5873-5877(1993)
Ardenら.“Human T-cell receptor variable gene segment families(ヒトT細胞受容体可変遺伝子セグメントファミリー).”Immunogenetics 42(6):455-500(1995)
Bowieら.“A method to identify protein sequences that fold into a known three-dimensional structure(公知の3次元構造に折り畳まれるタンパク質配列を同定するための方法).”Science 253(5016):164-170(1991)
Brennerら.“Population statistics of protein structures: lessons from structural classifications(タンパク質構造の人口統計:構造的分類からのレッスン).”Curr Opin Struct Biol 7(3):369-376(1997)
Chou&Fasman.“Prediction of protein conformation(タンパク質立体構造の予測).”Biochemistry 13(2):222-245(1974a)
Chou&Fasman.“Conformational parameters for amino acids in helical, beta-sheet, and random coil regions calculated from proteins(タンパク質から計算されるヘリックス、βシートおよびランダムコイル領域におけるアミノ酸のための立体構造パラメータ).”Biochemistry 113(2):211-222(1974b)
Chou&Fasman.“Prediction of the secondary structure of proteins from their amino acid sequence(それらのアミノ酸配列からのタンパク質の二次構造の予測).”Adv Enzymol Relat Areas Mol Biol 47:45-148(1978a)
Chou&Fasman.“Empirical predictions of protein conformation(タンパク質立体構造の経験的予測).”Annu Rev Biochem 47:251-276(1978b)
Chou&Fasman.“Prediction of beta-turns(βターンの予測).”Biophys J 26:367-384(1979)
Geeら.“Antigen identification for orphan T cell receptors expressed on tumor-infiltrating lymphocytes(腫瘍に浸潤するリンパ球で発現されるオーファンT細胞受容体のための抗原の同定).”Cell 172(3):549-563(2018a)
Geeら.“Facile method for screening clinical T cell receptors for off-target peptide-HLA reactivity(オフターゲットのペプチド-HLA反応性のために臨床的T細胞受容体をスクリーニングするための容易な方法).”bioRxiv 472480(2018b)
Gribskovら.“Profile analysis: detection of distantly related proteins(プロファイル分析:遠縁のタンパク質の検出).”Proc Natl Acad Sci USA 84(13):4355-4358(1987)
Gribskovら.“Profile analysis(プロファイル分析).”Methods Enzymol 183:146-159(1990)
Holm&Sander.“Protein folds and families: sequence and structure alignments(タンパク質の折り畳みおよびファミリー:配列および構造アライメント).”Nucleic Acids Res 27(1):244-247(1999)
Jones.“Progress in protein structure prediction(タンパク質構造予測における進歩).”Curr Opin Struct Biol 7(3):377-87(1997)
Jonesら.“Engineering and Characterization of a Stabilized α1/α2 Module of the Class I Major Histocompatibility Complex Product L(クラスI主要組織適合性複合体産物Lの安定化されたα1/α2モジュールの設計および特性評価).”J.of Biol.Chem.281(35):25734-25744(2006)
Kotsiouら.“Properties and Applications of Single-Chain Major Histocompatibility Complex Class I Molecule(単鎖主要組織適合性複合体クラスI分子の特性および用途).”Antioxid.Redox Signal.15(3):645-655(2011)
Kyte&Doolittle.“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein(タンパク質の疎水性特性を示すための単純な方法).”J Mol Biol 157(1):105-132(1982)
Mackelprangら.“Sequence diversity, natural selection and linkage disequilibrium in the human T cell receptor alpha/delta locus(ヒトのT細胞受容体α/δ遺伝子座における配列多様性、自然淘汰および連鎖不平衡).”Hum Genet 119(3):255-266(2006)
MacLennanら.“Structure-function relationships in the Ca(2+)-binding and translocation domain of SERCA1: physiological correlates in Brody disease(SERCA1のCa(2+)結合およびトランス位置ドメインにおける構造-機能関係:Brody病における生理学的相関物).”Acta Physiol Scand Suppl 643:55-67(1998)
Marguliesら.“Genome sequencing in microfabricated high-density picolitre reactors(微細加工された高密度ピコリットル反応器におけるゲノムシークエンシング).”Nature 437(7057):376-380(2005)
Mottezら.“Cells Expressing a Major Histocompatibility Complex Class I Molecule with a Single Covalently Bound Peptide Are Highly Immunogenic(単一の共有結合的に結合されたペプチドにより主要組織適合性複合体クラスI分子を発現している細胞は高度に免疫原性である).”J.Exp.Med.181:493-502(1995)
Moult.“The current state of the art in protein structure prediction(タンパク質構造予測における現在の最新技術).”Curr Opin Biotechnol 7(4):422-427(1996)
Pandeyら.“Current strategies for protein production and purification enabling membrane protein structural biology(膜タンパク質構造生物学を可能にするタンパク質産生および精製のための現在の戦略).”Biochem Cell Biol.94(6)507-527(2016)
Rowenら.“The complete 685-kilobase DNA sequence of the human beta T cell receptor locus(ヒトのベータT細胞受容体遺伝子座の完全な685キロベースDNA配列).”Science 272(5269):1755-1762(1996)
Sasaki&Sutoh.“Structure-mutation analysis of the ATPase site of Dictyostelium discoideum myosin II(キイロタマホコリカビミオシンIIのATPアーゼ部位の構造突然変異分析).”Adv Biophys 35:1-24(1998)
Sippl&Flockner.“Threading thrills and threats(スレッディング法のスリルと脅威).”Structure 4(1):15-19(1996)
Tafuroら.“Reconstitution of Antigen Presentation in HLA Class I-Negative Cancer Cells with Peptide-β2m Fusion Molecules(ペプチド-β2m融合分子によるHLAクラスI陰性の癌細胞における抗原提示の再構成).”Eur.J.Immunol.31:440-449(2001)
Whiteら.“Soluble Class I MHC with β2-Microglobulin Covalently Linked Peptides: Specific Binding to a T Cell Hybridoma(β2-ミクログロブリンに共有結合したペプチドを含む可溶性クラスIのMHC:T細胞ハイブリドーマへの特異的結合).”J.Immunol.162:2671-2676(1999)
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
【配列表】
2024120036000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-07-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のヒト白血球抗原(HLA)-抗原ポリペプチド複合体を含む抗原スクリーニングライブラリーであって、前記HLA-抗原ポリペプチド複合体は、
a)ペプチド結合溝を含むHLAポリペプチドと、
b)配列番号1~209のいずれか1つに示されているアミノ酸配列を含み、かつ前記HLAポリペプチドの前記ペプチド結合溝に特異的に結合するランダム化抗原ポリペプチドと、
c)ベータ2(β2)ミクログロブリンポリペプチド
を含み、
前記複数のHLA-抗原複合体は、配列番号427~455のいずれか1つに示されているアミノ酸配列と少なくとも95%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含かつ
前記複数のHLA-抗原複合体は、
A3、A11、A23、A24、A26、A30、A31、A33、A68、B7、B8、B15、B27、B40、B44、B51、B53、B57、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8およびEの各HLAポリペプチドを含む、抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項2】
前記複数のHLA-抗原ポリペプチド複合体は、少なくとも約10種の異なるランダム化抗原ポリペプチドを含む少なくとも約10種の異なるHLA-抗原ポリペプチド複合体を含む、請求項1に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項3】
前記HLAポリペプチド、前記ランダム化抗原ポリペプチドおよび前記β2-ミクログロブリンポリペプチドは、単一のポリペプチドを含む、請求項1または2に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項4】
前記単一のポリペプチドは、第1の柔軟なポリペプチドリンカーおよび第2の柔軟なポリペプチドリンカーをさらに含む、請求項に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項5】
前記ランダム化抗原ポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記HLAポリペプチドのN末端にあり、かつ前記HLAポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記β2-ミクログロブリンポリペプチドのN末端にあり、任意に、前記第1の柔軟なポリペプチドリンカーは前記HLAポリペプチドを前記ランダム化抗原ポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーは前記HLAポリペプチドを前記β2-ミクログロブリンポリペプチドから分離するか、
前記ランダム化抗原ポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記HLAポリペプチドのC末端にあり、かつ前記HLAポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記β2-ミクログロブリンポリペプチドのN末端にあり、任意に、前記第1の柔軟なポリペプチドリンカーは前記HLAポリペプチドを前記ランダム化抗原ポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーは前記HLAポリペプチドを前記β2-ミクログロブリンポリペプチドから分離するか、
前記ランダム化抗原ポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記HLAポリペプチドのN末端にあり、かつ前記HLAポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記β2-ミクログロブリンポリペプチドのC末端にあり、任意に、前記第1の柔軟なポリペプチドリンカーは前記ランダム化抗原ポリペプチドを前記β2-ミクログロブリンポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーは前記β2-ミクログロブリンポリペプチドを前記HLAポリペプチドから分離するか、
前記ランダム化抗原ポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記HLAポリペプチドのC末端にあり、かつ前記HLAポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記β2-ミクログロブリンポリペプチドのC末端にあり、任意に、前記第1の柔軟なポリペプチドリンカーは前記HLAポリペプチドを前記β2-ミクログロブリンポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーは前記ランダム化抗原ポリペプチドを前記HLAポリペプチドから分離するか、
前記β2-ミクログロブリンポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記HLAポリペプチドのC末端にあり、かつ前記HLAポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記ランダム化抗原ポリペプチドのN末端にあり、任意に、前記第1の柔軟なポリペプチドリンカーは前記HLAポリペプチドを前記ランダム化抗原ポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーは前記ランダム化抗原ポリペプチドを前記β2-ミクログロブリンポリペプチドから分離するか、または、
前記ランダム化抗原ポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記β2-ミクログロブリンのC末端にあり、かつ前記HLAポリペプチドは前記単一のポリペプチド上の前記ランダム化抗原ポリペプチドのC末端にあり、任意に、前記第1の柔軟なポリペプチドリンカーは前記β2-ミクログロブリンポリペプチドを前記ランダム化抗原ポリペプチドから分離し、かつ第2の柔軟なポリペプチドリンカーは前記ランダム化抗原ポリペプチドを前記HLAポリペプチドから分離する、請求項に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項6】
前記複数のHLA-抗原複合体の各HLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでいないか、
前記複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含むか、または、
前記複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでおらず、かつ前記複数のHLA-抗原複合体の少なくとも1つのHLA-抗原複合体はエピトープタグを含んでいる、請求項1~のいずれか1項に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項7】
前記エピトープタグはFLAGタグ、c-Mycタグ、HIS-タグ、赤血球凝集素(HA)タグ、VSVgタグまたはV5タグを含む、請求項に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項8】
前記HLA-抗原複合体はそれぞれ膜テザリングドメインを含み、任意に、前記膜テザリングドメインはAga2を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項9】
前記抗原スクリーニングライブラリーは複数の細胞で発現される、請求項1~のいずれか1項に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項10】
前記複数の細胞は複数の酵母細胞である、請求項に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項11】
前記複数の酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のEBY100菌株の複数の酵母細胞である、請求項10に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【請求項12】
前記複数の細胞の各細胞は特異的HLA-抗原複合体を発現する、請求項10または11に記載の抗原スクリーニングライブラリー。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2024120036000001.xml