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特開2024-120040炭素繊維製多重波板とその製造方法および炭素繊維製多重波板を用いた炭素繊維製ソファーとその組立て方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120040
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】炭素繊維製多重波板とその製造方法および炭素繊維製多重波板を用いた炭素繊維製ソファーとその組立て方法
(51)【国際特許分類】
   A47C 5/00 20060101AFI20240827BHJP
   A47C 7/00 20060101ALI20240827BHJP
   A47C 7/16 20060101ALI20240827BHJP
   A47C 4/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A47C5/00 Z
A47C7/00 B
A47C7/16
A47C4/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024099189
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2020145138の分割
【原出願日】2020-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2019159136
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391022289
【氏名又は名称】マルイチセーリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124718
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 建
(74)【代理人】
【識別番号】100136216
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 恵美
(72)【発明者】
【氏名】川崎 和男
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸一
(57)【要約】      (修正有)
【課題】炭素繊維製多重波板を用いた炭素繊維製ソァーとその組み立て方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維製複合材積層板が10mm~15mmのピッチで波状に成形される炭素繊維製多重波板を用いた炭素繊維製ソファーは、前方基台52F及び後方基台52bから成る基台52と、背面パネル56と、座面パネル58と、左右のサイドパネル54R(L)とを含む。前方基台の前面には基準方向から90度以上120度以下の傾斜を有する前方パネル60Fが、後方基台の後面には基準方向から60度以上90度以下の傾斜を有する後方パネル60Bが形成される。左右のサイドパネルは前方基台及び後方基台の双方の側面に固定され、座面パネルは前方基台の上方に前方パネルと基準方向から30度未満の正の角度の傾斜を得るように、背面パネルは座面パネルの後端部及び後方パネルと基準方向から90度以上120度以下の傾斜を得るように固定される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
何れも平面状の前面、後面、左右の側面と底面とを夫々有する前方基台及び後方基台から成る基台と、背面パネルと、座面パネルと、左右のサイドパネルとを含み、該前方基台及び後方基台の底面を載置面に当接させて載置するソファーにおいて、
側面視で前記ソファーの後方から前方に向かう方向を載置面の基準方向として、基準方向から時計回りに、
前記前方基台の前面は、基準方向から90度以上120度以下の傾斜を有し、該傾斜に沿って該前面上に前方パネルが形成されており、
前記後方基台の後面は、基準方向から60度以上90度以下の傾斜を有し、該傾斜に沿って該後面上に後方パネルが形成されており、
前記左右のサイドパネルは、前記前方基台及び後方基台の双方の側面に固定され、
前記座面パネルは、前記前方基台の上方に、前記前方パネルと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、基準方向から時計回りに30度未満の正の角度の傾斜を得るように、前記左右のサイドパネル及び/又は該前方基台に固定され、
前記背面パネルは、前記座面パネルの後端部及び前記後方パネルと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、基準方向から時計回りに90度以上120度以下の傾斜を得るように、前記後方基台の前方からその上方を覆うように、前記左右のサイドパネル及び/又は該後方基台に固定されるソファーであって、
前記背面パネル、前記座面パネル、前記左右のサイドパネル、前記前方パネル及び前記後方パネルの全てのパネルが、
可撓性および樹脂浸透性を有する複数本の炭素繊維と、これを含侵するマトリックス樹脂と、を含有する可撓性を有するシート状プリプレグが複数枚積層されて形成される、表面と裏面とを有する炭素繊維製複合材積層板から成ることを特徴とする炭素繊維製ソファー。
【請求項2】
前記全てのパネルの内、少なくとも1つのパネルは、
前記炭素繊維製複合材積層板が10mm~15mmのピッチで波状に成形された炭素繊維製多重波板から成ることを特徴とする、請求項1に記載の炭素繊維製ソファー。
【請求項3】
前記前方基台及び後方基台は、炭素繊維製複合材により形成された、請求項1又は2に記載の炭素繊維製ソファー。
【請求項4】
前記前方基台の上方に、前記前方パネルと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、前記左右のサイドパネル及び/又は該前方基台に固定された前記座面パネルは、その前端部が該前方パネルより前方に突出していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の炭素繊維製ソファー。
【請求項5】
前記座面パネルの後端部及び前記後方パネルと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、前記後方基台の前方から上方を覆うように、前記左右のサイドパネル及び/又は該後方基台に固定される前記背面パネルは、その上端部が該後方パネルより上方に突出していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の炭素繊維製ソファー。
【請求項6】
左右の側面に前方挿入部を有する前方基台と、左右の側面に後方挿入部を有する後方基台と、背面パネルと、座面パネルと、左右のサイドパネルとを組み立ててなるソファーであって、
前記左右のサイドパネルは、
前記前方挿入部及び前記後方挿入部に夫々嵌合可能な前方挿入片及び後方挿入片を備えると共に、
座面パネルが略水平方向にスライド可能な座面ガイド片と、背面パネルが略鉛直方向にスライド可能な背面ガイド片、及びその下方に該背面パネルの下端を支持する背面挿入部とを有しており、
前記前方基台の左右の前方挿入部および前記後方基台の左右の後方挿入部に、それぞれ前記左右のサイドパネルの前方挿入片及び後方挿入片が嵌合され、
前記左右のサイドパネルの背面ガイド片に、前記背面パネルが案内されて前記背面挿入部に固定され、
前記左右のサイドパネルの座面ガイド片に、前記座面パネルが案内されて固定される、組立て可能な請求項1又は2に記載の炭素繊維製ソファー。
【請求項7】
請求項6に記載の炭素繊維製ソファーにおいて、
前記座面パネルが略水平方向にスライド可能な座面ガイド片は、前方が開放され、後方がストッパStにより閉鎖されて内部に空隙Spを有する中空体で、上方向に溝が切られてあり、前記左右のサイドパネルの該座面パネル側に取付片により取り付けられ、
前記座面パネルには、その下面に、前記座面ガイド片の空隙Spに嵌合するスライダSlが突出した座面スライド片が、該スライダSlが下方に突出するように取付片により取り付けられており、
前記座面パネルの下方に突出した前記スライダSlが、前記左右のサイドパネルに取り付けられた座面ガイド片の溝を介して前記中空体の空隙Spに前記ストッパStまで挿入されて嵌合され、
前記座面パネルが前記左右のサイドパネルに固定される、炭素繊維製ソファー。
【請求項8】
請求項6に記載の炭素繊維製ソファーにおいて、
前記背面パネルが略鉛直方向にスライド可能な背面ガイド片は、上方が開放され、下方がストッパStにより閉鎖されて内部に空隙Spを有する中空体で、前方に溝が切られてあり、該左右のサイドパネルの該座面パネル側に取付片により取り付けられ、
前記背面パネルには、その裏面に、前記背面ガイド片の空隙Spに嵌合するスライダSlが突出した背面スライド片が、該スライダSlが後方に突出するように取付片により取り付けられており、
前記背面パネルの後方に突出した前記スライダSlが、前記左右のサイドパネルに取り付けられた背面ガイド片の溝を介して前記中空体の空隙Spに前記ストッパStまで挿入されて嵌合され、
前記左右のサイドパネルの背面挿入部に、前記背面パネルの下端が案内されて該背面挿入部に固定される、炭素繊維製ソファー。
【請求項9】
側面が四角形の四角柱であり、前面と後面、上面と底面を有して該前面に前記前方パネルが形成された前記前方基台と、
側面が三角形の三角柱であり、前面と後面と底面とを有して該後面に前記後方パネルが形成された後方基台とが、その接合部において一体成型された基台と、
下端近傍に嵌合部を有する前記背面パネルと、前記座面パネルと、前記左右のサイドパネルとを含む請求項1又は2に記載の炭素繊維製ソファーにおいて、
前記前方基台の上面は、基準方向から時計回りに30度未満の正の角度の傾斜が設けられ、
前記後方基台の前面は、基準方向から時計回りに90度以上120度以下の角度の傾斜が設けられ、
これら両基台が接合される前記接合部に、前記後方基台の前面の斜面に沿って、前記背面パネルの前記嵌合部を挿入可能な背面挿嵌部が形成されており、
前記左右のサイドパネルは、前記基台の側面に接着され、
前記座面パネルは、前記基台の上面に接着され、
前記背面パネルが、前記後方基台の前方斜面に沿って前記背面挿嵌部に挿入され、該背面パネルの嵌合部が該背面挿嵌部に着脱自在に嵌合される、炭素繊維製ソファー。
【請求項10】
前記前方パネル及び/又は前記後方パネルは、前記前方基台の前面及び/又は前記後方基台の後面に一体成型された、請求項9に記載の炭素繊維製ソファー。
【請求項11】
前記背面パネルは、前記嵌合部の左右幅が前記背面挿嵌部の左右幅に略一致し、該嵌合部の上方の左右幅が該嵌合部の左右幅より幅狭に形成されている、請求項9に記載の炭素繊維製ソファー。
【請求項12】
前記左右のサイドパネルが炭素繊維製多重波板により形成された請求項9に記載の炭素繊維製ソファーであって、
前記基台は、前記左右のサイドパネルが接着される側面の接着部分の少なくとも一部が、該左右のサイドパネルを形成する炭素繊維製多重波板の波のピッチと同ピッチの波型に成型された炭素繊維製ソファー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維製多重波板とその製造方法、および炭素繊維製多重波板を用いた炭素繊維製ソファーとその組立て方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維強化樹脂からなる炭素繊維製複合材料で構成された成形品の利用分野が、土木・建築、一般産業機械、エネルギー関連、輸送機器などの分野に広がっている。1970年代から、スポーツ用途で始まった炭素繊維の応用は、航空・宇宙用途で進展し、2000年代にはいると医療用X線診断器、自動車用圧縮天然ガス(CNG)タンク、土木・建築物の耐震補強などの産業用途の炭素繊維需要量がスポーツ用途、航空・宇宙用途の需要量を追い越した。
【0003】
炭素繊維の成形品は、例えば図24に示すような、炭素繊維に硬化性樹脂が含浸されたシート状プリプレグを中間基材として、シート状プリプレグを複数枚積層し硬化することにより作製される。その際に、プリプレグとして、強化繊維が一方向に配向したプリプレグを使用し、積層後の強化繊維の配置パターンが対称になるように複数枚積層した場合には、引張伸度がほぼ等方的になる擬似等方積層板が得られる。
【0004】
例えば、特許文献1には、「基準方向に対して0°に配向した炭素繊維、および樹脂を含有する0°配向層と、0°以外の方向に配向した炭素繊維、および樹脂を含有する厚さ0.044mm以下の1層以の他方向配向層とを備え、0°配向層および他方向配向層に含まれる炭素繊維は、単繊維の表面の最大高低差が30~70nm、平均凹凸度が4~10nm、単繊維の断面の長径と短径との比が1.02~1.10で、引張伸度が2.2%以上の繊維束である複合材料積層板」が開示されており、特許文献2の発明と同様、引張強度を高めた複合材料積層板を提供している。
【0005】
しかし、椅子の背凭れなど、反りを抑制したいものなどの用途に用いる場合は、複合材料積層板の剛性が不足することがあり、従来の製法により低コストで製造される複合材料積層板の剛性を更に高めた複合材料積層板の開発が望まれる。
【0006】
【特許文献1】特許第5821051号公報
【特許文献2】特許第5821052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、炭素繊維製複合材料を積層してなる平面状の板(炭素繊維製多重平板)より剛性が高く、同一の厚さでも歪の少ない炭素繊維製多重波板とその製造方法を提供すると共に、その使用例として、炭素繊維製多重波板を用いた炭素繊維製ソファーとその組立て方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る炭素繊維製多重波板は、可撓性および樹脂浸透性を有する複数本の炭素繊維と、これを含侵するマトリックス樹脂と、を含有する可撓性を有するシート状プリプレグが複数枚積層されて成る、表面と裏面とを有する炭素繊維製複合材積層板であって、
前記炭素繊維製複合材積層板が10mm~15mmのピッチで波状に成形されたことを特徴とする。
【0009】
なお、以下、本明細書で、複数の炭素繊維製複合材料を積層してなる積層板を「炭素繊維製複合材積層板」と呼ぶこととし、この「炭素繊維製複合材積層板」は、炭素繊維製複合材料を積層してなる平面状の炭素繊維製多重平板と波型面状の炭素繊維製多重波板とを含むものとする。
【0010】
本発明に係る炭素繊維製多重波板は、3層以上のシート状プリプレグが積層されており、最表面と最裏面のシート状プリプレグは、炭素繊維束からなる経糸と緯糸とが編まれて構成された織物であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る炭素繊維製多重波板は、最表面と最裏面の前記織物のシート状プリプレグに挟まれた1又は複数のシート状プリプレグは、各シート状プリプレグを構成する炭素繊維の繊維方向が一方向に配向された上記炭素繊維製多重波板であって、
前記1又は複数のシート状プリプレグの繊維方向が、それぞれ最表面及び最裏面の織物の経糸又は緯糸の方向と同一方向に配向されたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る炭素繊維製多重波板は、最表面と最裏面の前記織物のシート状プリプレグに複数のシート状プリプレグが挟まれており、該複数のシート状プリプレグの全ての繊維方向が一方向に配向された上記炭素繊維製多重波板であって、
前記複数のシート状プリプレグの繊維方向が、最表面及び最裏面の織物の経糸又は緯糸の方向と同一方向に配向されたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る炭素繊維製多重波板において、前記織物の組織は、平織、綾織、朱子織であってもよい。
【0014】
本発明に係る炭素繊維製ソファーは、何れも平面状の前面、後面、左右の側面と底面とを夫々有する前方基台及び後方基台から成る基台と、背面パネルと、座面パネルと、左右のサイドパネルとを含み、該前方基台及び後方基台の底面を載置面に当接させて載置するソファーにおいて、
側面視で前記ソファーの後方から前方に向かう方向を載置面の基準方向として、基準方向から時計回りに、前記前方基台の前面は、基準方向から90度以上120度以下の傾斜を有し、該傾斜に沿って該前面上に前方パネルが形成されており、前記後方基台の後面は、基準方向から60度以上90度以下の傾斜を有し、該傾斜に沿って該後面上に後方パネルが形成されており、前記左右のサイドパネルは、前記前方基台及び後方基台の双方の側面に固定され、前記座面パネルは、前記前方基台の上方に、前記前方パネルと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、基準方向から時計回りに30度未満の正の角度の傾斜を得るように、前記左右のサイドパネル及び/又は前記前方基台に固定され、前記背面パネルは、前記座面パネルの後端部及び前記後方パネルと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、基準方向から時計回りに90度以上120度以下の傾斜を得るように、前記後方基台の前方から上方を覆うように、前記左右のサイドパネル及び/又は前記後方基台に固定される、前記背面パネル、前記座面パネル、前記左右のサイドパネル、前記前方パネル及び前記後方パネルの全てのパネルが炭素繊維製複合材積層板から成る炭素繊維製ソファーであって、
前記全てのパネルの内、少なくとも1つのパネルが前記炭素繊維製多重波板から成ることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る炭素繊維製ソファーにおいて、前記前方基台及び後方基台は、炭素繊維製複合材により形成されてもよい。
【0016】
本発明に係る炭素繊維製ソファーは、前記前方基台の上方に、前記前方パネルと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、前記左右のサイドパネル及び/又は前記前方基台に固定された前記座面パネルは、その前端部が該前方パネルより前方に突出していることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る炭素繊維製ソファーは、前記座面パネルの後端部及び前記後方パネルと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、前記後方基台の前方から上方を覆うように、前記左右のサイドパネル及び/又は前記後方基台に固定される前記背面パネルは、その上端部が該後方パネルより上方に突出していることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る炭素繊維製ソファーは、左右の側面に前方挿入部を有する前方基台と、左右の側面に後方挿入部を有する後方基台と、背面パネルと、座面パネルと、左右のサイドパネルとを組み立ててなるソファーであって、
前記左右のサイドパネルは、前記前方挿入部及び前記後方挿入部に夫々嵌合可能な前方挿入片及び後方挿入片を備えると共に、座面パネルが略水平方向にスライド可能な座面ガイド片と、背面パネルが略鉛直方向にスライド可能な背面ガイド片、及びその下方に該背面パネルの下端を支持する背面挿入部とを有しており、前記前方基台の左右の前方挿入部および前記後方基台の左右の後方挿入部に、それぞれ前記左右のサイドパネルの前方挿入片及び後方挿入片が嵌合され、前記左右のサイドパネルの背面ガイド片に、前記背面パネルが案内されて前記背面挿入部に固定され、前記左右のサイドパネルの座面ガイド片に、前記座面パネルが案内されて固定される。
【0019】
本発明に係る炭素繊維製ソファーは、上記炭素繊維製ソファーにおいて、
前記座面パネルが略水平方向にスライド可能な座面ガイド片は、前方が開放され、後方がストッパStにより閉鎖されて内部に空隙Spを有する中空体で、上方向に溝が切られてあり、前記左右のサイドパネルの該座面パネル側に取付片により取り付けられ、前記座面パネルには、その下面に、前記座面ガイド片の空隙Spに嵌合するスライダSlが突出した座面スライド片が、該スライダSlが下方に突出するように取付片により取り付けられており、前記座面パネルの下方に突出した前記スライダSlが、前記左右のサイドパネルに取り付けられた座面ガイド片の溝を介して前記中空体の空隙Spに前記ストッパStまで挿入されて嵌合され、前記座面パネルが前記前記左右のサイドパネルに固定される。
【0020】
本発明に係る炭素繊維製ソファーは、上記炭素繊維製ソファーにおいて、
前記背面パネルが略鉛直方向にスライド可能な背面ガイド片は、上方が開放され、下方がストッパStにより閉鎖されて内部に空隙Spを有する中空体で、前方に溝が切られてあり、該左右のサイドパネルの該座面パネル側に取付片により取り付けられ、前記背面パネルには、その裏面に、前記背面ガイド片の空隙Spに嵌合するスライダSlが突出した背面スライド片が、該スライダSlが後方に突出するように取付片により取り付けられており、前記背面パネルの後方に突出した前記スライダSlが、前記左右のサイドパネルに取り付けられた背面ガイド片の溝を介して前記中空体の空隙Spに前記ストッパStまで挿入されて嵌合され、前記左右のサイドパネルの背面挿入部に、前記背面パネルの下端が案内されて該背面挿入部に固定される。
【0021】
本発明に係る炭素繊維製ソファーは、側面が四角形の四角柱であり、前面と後面、上面と底面を有して該前面に前記前方パネルが形成された前記前方基台と、側面が三角形の三角柱であり、前面と後面と底面とを有して該後面に前記後方パネルが形成された後方基台とが、その接合部において一体成型された基台と、下端近傍に嵌合部を有する前記背面パネルと、前記座面パネルと、前記左右のサイドパネルとを含む上記炭素繊維製ソファーにおいて、
前記前方基台の上面は、基準方向から時計回りに30度未満の正の角度の傾斜が設けられ、前記後方基台の前面は、基準方向から時計回りに90度以上120度以下の角度の傾斜が設けられ、これら両基台が接合される前記接合部に、前記後方基台の前面の斜面に沿って、前記背面パネルの前記嵌合部を挿入可能な背面挿嵌部が形成されており、前記左右のサイドパネルは、前記基台の側面に接着され、前記座面パネルは、前記基台の上面に接着され、前記背面パネルが、前記後方基台の前方斜面に沿って前記背面挿嵌部に挿入され、該背面パネルの嵌合部が該背面挿嵌部に着脱自在に嵌合される。
【0022】
本発明に係る炭素繊維製ソファーにおいて、前記前方パネル及び/又は前記後方パネルは、前記前方基台の前面及び/又は前記後方基台の後面に一体成型されてもよい。
【0023】
本発明に係る炭素繊維製ソファーにおいて、前記背面パネルは、前記嵌合部の左右幅が前記背面挿嵌部の左右幅に略一致し、該嵌合部の上方の左右幅が該嵌合部の左右幅より幅狭に形成され得る。
【0024】
本発明に係る炭素繊維製ソファーは、前記左右のサイドパネルが炭素繊維製多重波板により形成された上記炭素繊維製ソファーであって、前記基台は、前記左右のサイドパネルが接着される側面の接着部分の少なくとも一部が、該左右のサイドパネルを形成する炭素繊維製多重波板の波のピッチと同ピッチの波型に成型されてもよい。
【0025】
本発明に係る炭素繊維製ソファーの組立て方法は、
(1)左右の側面に前方挿入部を有する前方基台および左右の側面に後方挿入部を有する後方基台とを準備するステップと、
(2)何れのパネルも炭素繊維製多重波板からなる背面パネルと、座面パネルとを準備するステップと、
(3)炭素繊維製多重波板からなり、前記前方挿入部及び前記後方挿入部に夫々嵌合可能な前方挿入片及び後方挿入片を備えると共に、前記座面パネルが略水平方向にスライド可能な座面ガイド片と、前記背面パネルが略鉛直方向にスライド可能な背面ガイド片、及びその下方に該背面パネルの下端を支持する背面挿入部とを備える左右のサイドパネルを準備するステップと、
(4)前記前方基台の左右の前方挿入部および前記後方基台の左右の後方挿入部に、それぞれ前記左右のサイドパネルの前方挿入片及び後方挿入片を嵌合させるステップと、
(5)前記背面パネルを前記左右のサイドパネルの背面ガイド片に案内させて前記背面挿入部に固定すると共に、
前記座面パネルを前記左右のサイドパネルの座面ガイド片に案内させて固定するステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る炭素繊維製多重波板は、シート状プリプレグを複数枚積層し、10mm~15mmのピッチで波状に成形したので、炭素繊維製複合材積層板としての柔軟性を保ちつつも、波方向と垂直方向の剛性が従来の平板上の炭素繊維製複合材積層板より高く、同一の厚さでも破壊強度がより高い炭素繊維製のパネルを提供することができる。なお、「剛性」は、弾力性と略同義であり、硬さや柔らかさ(柔軟性)を表す語である。また、「破壊強度」は、以下「破壊強さ」あるいは単に「強度」又は「強さ」ともいい、炭素繊維製複合材積層板などに引っ張り力や曲げ応力等の外力を加えた場合に、この外力に対して破壊されずに堪え得る強さをいう。
【0027】
本発明に係る炭素繊維製ソファーは、基台、背面パネル、座面パネル、左右のサイドパネルから構成され、基台の全面と後面に形成する前方パネルと後方パネルを含めて全てのパネルを炭素繊維製複合材積層板から形成することにより、軽量かつ高強度のソファーを実現することができる。すなわち、軽量で高強度の炭素繊維製複合材料を全体に用いるため、耐重量特性を維持したまま、従来のソファーの1/10~1/15程度に軽量化することができる。
【0028】
更に、上記全てのパネルの内、少なくとも1つのパネルを炭素繊維製多重波板から形成することにより、より剛性が高く、破壊強度の高い炭素繊維製ソファーを提供することができる。すなわち、上記本発明の炭素繊維製多重波板を、例えば背面パネルと座面パネルに使用して炭素繊維製複合材積層板から成る基台に固定すれば、背面板と座面板の強度が高く、適切な反り又は撓みの背凭れと座面のソファーを提供することができる。
【0029】
また、本発明に係る炭素繊維製ソファーは、側面視で当該ソファーの後方から前方に向かう方向を載置面の基準方向として、基準方向から時計回りに、前方基台の前面は90度以上120度以下の傾斜を、後方基台の後面は60度以上90度以下の傾斜を、座面パネルは30度未満の正の角度の傾斜を、背面パネルは90度以上120度以下の傾斜を、夫々得るように構成されると共に、全ての外観が炭素繊維製複合材積層板から構成されることも相俟って、優美さ、豪華さを醸し出すと共に座り心地が良く疲れにくいソファーを提供することができる。
【0030】
このような本発明に係る炭素繊維製ソファーにおいて、前方基台の上方に配置する座面パネルを、上記前方パネルと僅少な隙間を設けて固定することにより、パネル間の擦れによる擦音の発生を防止することができる。そして、この座面パネルの前端部を前方パネルより前方に突出させることにより、弾力性を備えて柔らかいこの前端部が座る人の膝裏が当接して、適度な反り・撓みを生ずるため、体格に応じて座位置を極端にずらしたり姿勢を崩すことなく快適な座位置と姿勢を確保することができ、疲れにくく快適な座り心地を提供することができる。
【0031】
同様に、後方基台の前方から上方を覆うように配置する背面パネルを、座面パネルの後端部及び前記後方パネルと僅少な隙間を設けて固定することにより、パネル間の擦れによる擦音の発生を防止することができる。そして、背面パネルの上端部を後方パネルより上方に突出させることにより、弾力性を備えて柔らかい背面パネルの上端部が適度な反り・撓みを生じるため、疲れにくい快適な座り心地を提供することができる。
【0032】
このような本発明に係る炭素繊維製ソファーの一例である組立て可能な炭素繊維製ソファーは、前方基台、後方基台、背面パネル、座面パネル、左右のサイドパネルの全ての構成要素を、組立て、解体自在なノックダウン方式としたため、解体して携帯することができる。解体した全重量は5~6Kgと非常に軽量で、航空機などでの輸送コストを大幅に抑制することができる。
【0033】
さらに、別の例に係る固定式炭素繊維製ソファーは、前方基台と後方基台とをその接合部において一体成型して1つの基台とし、この接合部に背面パネルの嵌合部を挿入可能な背面挿嵌部を形成して、背面パネルのみが背面挿嵌部に着脱自在に嵌合される構成としたので、ソファー全体の安定性と強度を高めることができる。すなわち、左右のサイドパネルを基台の側面に接着し、座面パネルを基台の上面に固定したので、高い安定性と強度を得ることができる。
【0034】
また、固定式炭素繊維製ソファーは、背面パネルにおいて、上記嵌合部の左右幅を背面挿嵌部の左右幅に略一致させ、当該嵌合部の上方の左右幅を嵌合部の左右幅より幅狭に形成することにより、背面パネルと左右のサイドパネルの接触を回避して、パネル間の擦れによる擦音の発生を防止することができる。
【0035】
さらに、左右のサイドパネルが炭素繊維製多重波板により形成された炭素繊維製ソファーでは、左右のサイドパネルが接着される基台側面の接着部分の少なくとも一部を、左右のサイドパネルを形成する炭素繊維製多重波板の波のピッチと同ピッチの波型に成型することにより、左右のサイドパネルと基台間の接着面積を増大させて、両者を強固に接着することができる。
【0036】
このような本発明に係る固定式炭素繊維製ソファーの試作品について、岐阜県生活技術研究所において耐久性試験を行ったところ、座面と背凭れについて十分な耐久性があるとの結果を得た。また、この本発明に係る固定式炭素繊維製ソファーの試作品について、福井県工業技術センターにて剛性試験及びシミュレーションを行ったところ、100Kg弱(約97Kg)の人間が座っても、強度的に安全であり、座面パネルの前部は6~10cmほどの変位が生じ、背面パネルの上部は約10cmほどの変位が生じて、両パネルの安全性を確保しつつ十分な反り又は撓みが生じることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明に係る炭素繊維製多重波板の断面図。
図2】織物のシート状プリプレグの平面及び断面模式図。
図3】本発明に係る炭素繊維製ソファーの側面透視図。
図4】本発明に係る炭素繊維製ソファーの斜視透視図。
図5】本発明に係る炭素繊維製ソファーの斜視写真図。
図6】実施例に係る組立式炭素繊維製ソファーにおけるサイドパネルの側面図。
図7】実施例に係る組立式炭素繊維製ソファーにおける右サイドパネルの正面図。
図8】実施例に係る組立式炭素繊維製ソファーにおける、(a)座面パネルの正面図、(b)座面パネルの側面パイプから座面パネルの下面に取り付けられた座面スライド片の側面図。
図9】実施例に係る組立式炭素繊維製ソファーを構成する座面パネル又はサイドパネルに取り付けられる、座面ガイド片又は背面ガイド片の、(a)平面図、(b)A-A断面図、(c)B-B断面図。
図10】実施例に係る組立式炭素繊維製ソファーを構成する背面パネルの下端を支持する背面挿入部の、(a)正面図、(b)側面図、(c)A-A平面図。
図11】実施例に係る組立式炭素繊維製ソファーを構成する背面パネルの、(a)背面図、(b)側面図、(c)背面スライド片の平面図。
図12】実施例に係る組立式炭素繊維製ソファーにおいて座面パネル又は背面パネル又はサイドパネルに取り付けられるスライド片とガイド片の断面図。
図13】実施例に係る組立式炭素繊維製ソファーの側面透視図。
図14(a)】他の実施例に係る固定式炭素繊維製ソファーの側面透視図。
図14(b)】他の実施例に係る固定式炭素繊維製ソファーを構成する基台の側面図。
図15】(a)本発明に係る炭素繊維製ソファーの背面パネルの正面図、及び、(b)背面パネルの嵌合部の正面拡大図。
図16(a)】実施例に係る固定式炭素繊維製ソファーの炭素繊維製多重波板から成るサイドパネルの側面模式図。
図16(b)】実施例に係る固定式炭素繊維製ソファーの側面全体を波型とした基台の側面模式図。
図16(c)】実施例に係る固定式炭素繊維製ソファーの側面の一部を波型とした基台の側面模式図。
図17】実施例に係る固定式炭素繊維製ソファーの、側面に波型を有する基台を作製するための型の斜視図。
図18】(a)実施例に係る固定式炭素繊維製ソファーの底面の斜視写真図、(b)他の実施例に係る固定式炭素繊維製ソファーの底面の斜視写真図。
図19】本発明に係る炭素繊維製ソファーの背面パネルに、荷重330N(33.7Kg)を一様に加える特定の位置を示す、(a)背面パネルの正面模式図、(b)炭素繊維製ソファーの3dCADによる斜視図。
図20】本発明に係る炭素繊維製ソファーの座面パネルに、荷重950N(96.9Kg)を一様に加える特定の位置を示す、(a)座面パネルの正面模式図、(b)炭素繊維製ソファーの3dCADによる斜視図(全面に荷重の場合)、(c)炭素繊維製ソファーの3dCADによる斜視図(前方のみに荷重の場合)。
図21】本発明に係る炭素繊維製ソファーの背面パネルと座面パネルの特定位置に夫々330N(33.7Kg)と950N(96.9Kg)荷重を一様に加えたシミュレーション結果を表す炭素繊維製ソファーの3dCADによる斜視図であって、(a)背面パネルの変位を表す斜視図、(b)座面パネルの変位を表す斜視図(全面に荷重の場合)、(c)座面パネルの変位を表す斜視図(前方のみに荷重の場合)。
図22】本実施例に係る炭素繊維製ソファーの、(a)座面の静的強度試験の様子を表す斜視図、(b)背凭れの静的強度試験の様子を表す斜視図、(c)座面及び背凭れの耐久性試験の様子を表す斜視図。
図23】本発明に係る炭素繊維製多重波板の製造工程を表すフロー図。
図24】プリプレグの斜視模式図。
図25】実施例に係る曲げ撓み(mm)に対する試験力(N)のグラフ図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る、(1)炭素繊維製多重波板、(2)炭素繊維製多重波板の製造方法、(3)炭素繊維製多重波板を用いた炭素繊維製ソファー、および、(4)炭素繊維製ソファーの組立て方法について、実施形態及び実施例を用いて説明する。なお、以下各図面を通して同一の構成要素には同一の符号を使用するものとする。

(1)炭素繊維製多重波板
【0039】
(炭素繊維製多重波板)
本発明に係る炭素繊維製多重波板1は、可撓性および樹脂浸透性を有する複数本の炭素繊維4と、これを含侵するマトリックス樹脂6と、を含有する可撓性を有するシート状プリプレグ2(図24参照)が、図1のように複数枚積層されて成形された、表面と裏面とを有する炭素繊維製複合材積層板である。そして、本発明の炭素繊維製多重波板1は、この炭素繊維製複合材積層板が、10mm~15mmのピッチで波状に成形されていることを特徴とする。
【0040】
例えば、市販のポリカ波板は、鉄板小波タイプ(32波板)、スレート小波タイプ(63波板)、鉄板大波タイプ(76波板)、スレート大波タイプ(130波板)などに分類され、そのピッチは、夫々32mm、63mm、76mm、130mmであり、これらポリカ波板と比べても、本発明の炭素繊維製多重波板1のピッチは非常に小さく、成形困難である。
【0041】
シート状プリプレグ2は、例えば図24に一方向性のシート状プリプレグ2を示すように、可撓性および樹脂浸透性を有する複数本の炭素繊維4が、マトリックス樹脂6に含侵されている。シート状プリプレグ2の厚さは、例えば0.1mm、目付量は40g/mであるが、厚さ、目付量はこれらに限られず適宜に設定することができる。
【0042】
また、本発明の炭素繊維製多重波板1は、3層以上のシート状プリプレグ2が積層されており、最表面と最裏面のシート状プリプレグ2は、炭素繊維4が結束された炭素繊維束5からなる経糸と緯糸とが編まれて構成された織物のシート状プリプレグ3(以下、「織物3」とも記す)であることを特徴とする。この織物3の組織は、図2(a)~(c)に示すように、平織、綾織、朱子織などであってよいが、経糸と緯糸とが編まれた織物であれば特に限定されず、紋織などであってもよい。最表面と最裏面のシート状プリプレグ2を織物のシート状プリプレグ3とすることで、本発明の炭素繊維製多重波板1の意匠性を高め、美観を備えることができる。
【0043】
そして、この最表面と最裏面の織物のシート状プリプレグ3に挟まれた1又は複数のシート状プリプレグ2は、各シート状プリプレグ2を構成する炭素繊維4の繊維方向が一方向に配向されているのが好ましい。更に、この1又は複数のシート状プリプレグ2の繊維方向は、それぞれ最表面及び最裏面の織物3の経糸又は緯糸の方向と同一方向に配向されているのが望ましい。
【0044】
さらに、本発明の炭素繊維製多重波板1は、最表面と最裏面の織物のシート状プリプレグ3に複数のシート状プリプレグ2が挟まれており、複数のシート状プリプレグ2の全ての繊維方向が一方向に配向されているのが好適である。そして、この複数のシート状プリプレグ2の繊維方向は、最表面及び最裏面の織物3の経糸又は緯糸の方向と同一方向に配向されているのが望ましい。

(2)炭素繊維製多重波板の製造方法
【0045】
以下に、図23を用いて、本発明に係る炭素繊維製多重波板1の製造方法について説明する。なお、この炭素繊維製多重波板1の製造方法は一例であり、本発明に係る炭素繊維製多重波板1の製造方法がこれに限定される趣旨ではない。
【0046】
(1)まず、積層するシート状プリプレグ2を選択し、夫々を所定のサイズにカットする。
(2)カットした複数のシート状プリプレグ2を積層し、その積層体からなるプリフォームを形成する。
(3)シート状プリプレグ2の積層体からなるプリフォームを、上下から凹凸状成形冶具で挟んで凹凸を形成する。
(4)プリフォームを、これを挟持する凹凸状成形冶具ごとバッグフィルムで覆い、シール材を用いて周囲をシールし、バッグフィルム内部を真空に引いて減圧する。
(5)バッグフィルムで覆われた凹凸状成形冶具ごと、プリフォームをオートクレーブに入れ、加熱・加圧する。
【0047】
[凹凸形成工程]
工程(3)において、凹凸状成形冶具を構成する上下の型は、プリフォームに当接する内面が10mm~15mmのピッチからなる波形であり、上下の型でプリフォームを圧することにより、プリフォームを10mm~15mm内の所望のピッチからなる波形に成形することができる。
【0048】
工程(4)において、プリフォームの外表面に凹部を形成する際、変形させ易くするために、プリフォームをあらかじめ加熱しておくことが好ましい。この加熱はプリフォームが軟化しさえすればよく、例えば、50℃~120℃で好適に行うことができる。プリフォーム(シート状プリプレグ2の積層体)を加熱すれば50℃以上であれば樹脂を十分に軟化させることができ、120℃以下であれば成形前に樹脂が硬化しない。
【0049】
[圧縮工程]
工程(5)において、オートクレーブを用いて熱と圧力を加え成形し、成形体を得る。凹凸状成形冶具に挟持されたプリフォーム(シート状プリプレグ2の積層体)は、凹凸状成形冶具ごとバッグフィルム内で真空引きされ、オートクレーブ内で圧力される。成形圧は1MPa以上が好ましい。成形圧が1MPa以上であれば、高い密度の成形体を得ることができる。特に、成形圧に上限はないが、熱を加えて第1バインダを軟化させているため、10MPaの圧力をかければ十分な成形体の密度を得ることができる。
【0050】
上記加圧成形工程において十分に圧力を上げた後、加熱し、シート状プリプレグ2内に含まれる熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂6を溶融硬化させることが好ましい。これにより、成形体が変形しないように形状を固定化させることができる。マトリックス樹脂6の硬化温度は、例えば一般に150℃以上で行うことが出来る。温度が高ければ高いほど熱硬化性樹脂の硬化が進行する。前記の成形工程をオートクレーブで行う場合等、成形工程で充分に加熱できれば、硬化工程は成形工程と同時に行うこともできる。硬化温度の上限は特にないが、200℃の温度をかければ熱硬化性樹脂を十分に硬化させることができる。
【0051】
以上の(1)~(5)の工程を経て、10mm~15mm内の所望のピッチで波状に成形された本発明に係る炭素繊維製多重波板1を得ることができる。
【実施例0052】
炭素繊維製多重波板1と炭素繊維製多重平板の剛性を、曲げ実験により比較した。実験方法として、JISK7074の4点曲げ試験を用いた。また、曲げ試験用資料片として、いずれも約15mm×100mmの炭素繊維製多重波板1と炭素繊維製多重平板を3枚ずつ用意した。測定した炭素繊維製多重平板の平均サイズは、厚み1.161mm、幅14.965mmであった。また、測定した炭素繊維製多重波板1の平均サイズは、厚み1.135mm、幅14.979mmであった。なお、炭素繊維製多重波板1は、最表面と最裏面のシート状プリプレグを綾織3とし、3枚の一方向性シート状プリプレグ2を、3枚すべての繊維方向が綾織3の経糸又は緯糸の方向と同一となるように綾織3間に挟持させた。炭素繊維製多重平板は、5枚すべての繊維方向を揃えた炭素繊維製複合材積層板とした。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
実験結果として、図25のグラフを得た。左が5重波板の試料片1~3についての、右が5重平板の試料片についての、撓み(mm)に対する試験力(N)の測定結果である。左線の傾きの平均は、844(N/mm)、右線の傾きの平均は、102(N/mm)であった。従って、8.27倍、炭素繊維製多重波板1が炭素繊維製多重平板より曲がりにくいことが分かる。
【0056】
また、最大点試験力については、上表より、波板の最大点試験力は、861.913(N)~88(Kg重)、平板の最大点試験力は、630.53(N)~64(Kg重)である。従って、波板を曲げ破壊するには、平板の1.37倍の力が必要であることが分かる。
【0057】
さらに最大点応力については、上表より、波板の最大点応力は、2144.09(MPa)~219×10(Kg重/mm)、平板の最大点応力は、1499.42(MPa)~153×10(Kg重/mm)であることから、波板を曲げ破壊するには、最大点試験力と同様、平板の1.37倍の曲げ応力が必要であることが分かる。なお、本実施例では4点曲げ試験を行ったため、曲げ破壊強さσと、曲げ弾性率Eは、以下の式で求めた。
【数1】
【数2】
σ:曲げ破壊強さ又は曲げ強さ(MPa){Kgf/mm
E:曲げ弾性率(MPa){Kgf/mm
P:破壊時荷重又は最大荷重(N){Kgf}
L:支点間距離
b:試験片の幅(mm)
h:試験片の厚さ(mm)
δ:撓み(mm)

(3)炭素繊維製多重波板を用いた炭素繊維製ソファー50
【0058】
以上説明したように、炭素繊維製多重波板1は耐久性と強度に優れ、軽量であるので、家具を始めとした構造物の構成要素として広く利用されることが期待できる。以下、その一例として、炭素繊維製多重波板1を使用した炭素繊維製ソファーの実施形態といくつかの実施例について説明する。なお、炭素繊維製ソファーに関する図において、以下、当該ソファーに坐した場合の上下前後左右を、当該ソファーの上下前後左右として記すものとする。
【0059】
(炭素繊維製ソファー50)
図5にその写真図を示す本発明に係る炭素繊維製ソファー50は、基台52と、背面パネル56と、座面パネル58と、左右のサイドパネル54(54L、54R)とを構成要素として含む。ここで、基台52は、何れも平面状の前面(52Ff、52Bf)、後面(52Fb、52Bb)、左右の側面52s(52Fs、52Bs)と底面52d(52Fd、52Bd)を夫々有する前方基台52F及び後方基台52Bから成る(図3参照)。なお、前方基台52F及び後方基台52Bの形状は、上記各面があれば特に限定されるわけではなく、図3のように上面(52Fu、52Bu)などが存在する形状であってもよい。
【0060】
図3は、前方基台52F及び後方基台52Bの底面52d(52Fd、52Bd)を載置面に当接させて載置する本発明に係る炭素繊維製ソファー50の側面透視図である。以下の説明においては、図3に示すように、側面視で炭素繊維製ソファー50の後方から前方に向かう方向を載置面の基準方向として、この基準方向から時計回りに角度を測ることとする。以下、本発明の炭素繊維製ソファー50の上記構成要素とその構成について、主として図3を用いて説明する。
【0061】
(基台)
本発明の炭素繊維製ソファー50において、前方基台52Fの前面52Ffは、基準方向から90度以上120度以下の傾斜を有し、この傾斜に沿って前面52Ff上に前方パネル60Fが形成されている。また、後方基台52Bの後面52Bbは、基準方向から60度以上90度以下の傾斜を有し、この傾斜に沿って後面52Bb上に後方パネル60Bが形成されている。
【0062】
(サイドパネル)
次に、左右のサイドパネル54(54L、54R)は、前方基台52F及び後方基台52Bの双方の側面52s(52Fs、52Bs)に固定される。左右のサイドパネル54(54L、54R)の上端には、安全及び装飾等のため、両端にパイプ蓋部22(図8(a)参照)を取り付けた断面円形状のパイプ20を取り付けるのが望ましい。パイプ20は、その長手方向に沿って直線状の切込みを設けており、この切込みにサイドパネル54等のパネルの端部を挿入してパネルの端部に固定することができる。
【0063】
(座面パネル)
また、座面パネル58は、前方基台52Fの上方に、前方パネル60Fと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、基準方向から時計回りに30度未満の正の角度の傾斜を得るように、左右のサイドパネル54(54L、54R)及び/又は前方基台52Fに固定される。座面パネル58の前端及び後端にもパイプ20を取り付ければ、剥き出しの座面パネル58の端部が物や人に接触して損傷を与える危険を回避することができる。
【0064】
(背面パネル)
更に、背面パネル56は、座面パネル58の後端部及び後方パネル60Bと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、基準方向から時計回りに90度以上120度以下の傾斜を得るように、後方基台52Bの前方から上方を覆うように、左右のサイドパネル54(54L、54R)及び/又は後方基台52Bに固定される。背面パネル56は、図15(a)のように、背凭れ部56Qと嵌合部56Rを有し、背凭れ部56Qの上端に枕部56Pを接続するのが好ましい。枕部56Pの上端と下端にパイプ20を取り付け、その下端に取り付けたパイプ20により枕部56Pを接続してもよい。
【0065】
(材料)
このような構成の本発明に係る炭素繊維製ソファー50において、背面パネル56、座面パネル58、左右のサイドパネル54(54L、54R)、前方パネル60F及び後方パネル60Bの全てのパネルは、炭素繊維製複合材積層板から形成されるのが望ましい。そして、本発明に係る炭素繊維製ソファー50は、これら全てのパネルの内、少なくとも1つのパネルが炭素繊維製多重波板1から成ることを特徴とする。
【0066】
本発明に係る炭素繊維製ソファー50において、前方基台52F及び後方基台52Bは、炭素繊維製複合材料により形成されてもよいが、外観に影響しないため、低コストのガラス繊維など他の材料で形成してもよい。
【0067】
(特徴)
また、本発明に係る炭素繊維製ソファー50において、座面パネル58は、上述のように、前方基台52Fの上方に、前方パネル60Fと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、左右のサイドパネル54(54L、54R)及び/又は前方基台52Fに固定されるが、その前端部が前方パネル60Fより前方に突出していることを特徴とする。この座面パネル58の突出した前端部は、炭素繊維製ソファー50に座る人の膝裏が当接する部分であり、この前端部は従来の椅子やソファーにはなかった弾力性を備えている。この弾力性により、座面パネル58の前端部は、炭素繊維製ソファー50に腰掛ける人の体格や姿勢に応じて撓むことができる。そのため、本発明に係る炭素繊維製ソファー50は、従来のソファ―の座部前端部が殆ど撓まず固定されているために、小柄な人が浅く腰掛けざるを得ず、却って姿勢を崩して安らぐことができないといった問題点を解消することができる。このような座面パネル58の弾力度は、座る人間が感じる座面の硬さ・柔らかさに関係しており、柔らかい炭素繊維製多重平板を選んだり、硬めの炭素繊維製多重波板1を選んだりして、使用する人の好みに応じて炭素繊維製複合材積層板を予め選択することができる。
【0068】
また、背面パネル56についても上述のように、座面パネル58の後端部及び後方パネル60Bと僅少な隙間を設けて、あるいは当接して、後方基台52Bの前方から上方を覆うように、左右のサイドパネル54(54L、54R)及び/又は後方基台52Bに固定されるが、本発明に係る炭素繊維製ソファー50は、その上端部が後方パネル60Bより上方に突出していることを特徴とする。この後方パネル60Bについても、使用する人の好みに応じて、柔らかい炭素繊維製多重平板と、硬めの本発明の炭素繊維製多重波板1とを予め選択することができる。

(3-1)組立て可能な炭素繊維製ソファー(ノックダウン式の炭素繊維製ソファー)
【実施例0069】
本実施例2では、全ての構成要素を組立・解体自在な、組立て可能な炭素繊維製ソファー50A(ノックダウン式炭素繊維製ソファー)について説明する。
【0070】
その側面透視図を図13に、斜視透視図を図4に、斜視写真図を図5に示すように、本実施例に係る炭素繊維製ソファー50Aは、左右の側面52Fsに前方挿入部523Fを有する前方基台52Fと、左右の側面52Bsに後方挿入部523Bを有する後方基台52Bと、何れのパネルも炭素繊維製多重波板1からなる背面パネル56と、座面パネル58と、左右のサイドパネル54(54L、54R)とを組み立ててなるソファーである。本実施例の炭素繊維製ソファー50Aは、前方基台52Fと後方基台52Bも炭素繊維製多重波板1及び/又は炭素繊維製多重平板を使用するのが好ましい。
【0071】
本実施例に係る炭素繊維製ソファー50Aにおいて、左右のサイドパネル54(54L、54R)は、図6のように、前方基台52F及び後方基台52Bに取り付けられた前方挿入部523F及び後方挿入部523B(図13参照)に夫々嵌合可能な前方挿入片541F及び後方挿入片541Bを備える。また、座面パネル58が略水平方向にスライド可能な座面ガイド片543(543F、543B)と、背面パネル56が略鉛直方向にスライド可能な背面ガイド片545、及びその下方に背面パネル56の下端(嵌合部56R)を支持する背面挿入部547とを有している。
【0072】
そして、前方基台52Fの左右の前方挿入部523Fおよび後方基台52Bの左右の後方挿入部523Bに、それぞれ左右のサイドパネル54(54L、54R)の前方挿入片541F及び後方挿入片541Bが嵌合され、前方基台52Fと後方基台52Bに左右のサイドパネル54(54L、54R)が固定される(図13参照)。このように、基台52(前方基台52F及び後方基台52B)に左右のサイドパネル54(54L、54R)を固定した状態で、背面パネル56と座面パネル58とを取り付けるのが好ましい。
【0073】
すなわち、左右のサイドパネルサイドパネル54(54L、54R)の背面ガイド片545に、背面パネル56が案内されて背面挿入部547に固定され、左右のサイドパネル54(54L、54R)の座面ガイド片543(543F、543B)に、座面パネル58が案内されて、図13(及び図5)のように本実施例に係る炭素繊維製ソファー50Aを組立てることができる。このような組立て可能な炭素繊維製ソファー50Aは、容易に前方基台52F、後方基台52Bと、背面パネル56、座面パネル58、左右のサイドパネル54(54L、54R)に分解することができる。
【0074】
(座面パネル)
図6図13に示す炭素繊維製ソファー1において、座面パネル58が略水平方向にスライド可能な座面ガイド片543は、例えば前方座面ガイド片543Fと後方座面ガイド片543Bとを、図7のように左右のサイドパネル54(54L、54R)の座面パネル58側に、取付片542により取り付けることができる。座面ガイド片543(543F、543B)は、図7図9(a)~(c)のように、前方が開放され、後方がストッパStにより閉鎖されて内部に空隙Spを有する中空体で、上方向に溝が切られている。
【0075】
一方、座面パネル58には、図8(a)、(b)のように、その下面に、座面ガイド片543(543F、543B)の空隙Spに嵌合するスライダSlが突出した座面スライド片581(前方座面スライド片581F、後方座面スライド片581B)が、スライダSlが下方に突出するように取付片542により取り付けられる。そして、座面パネル58の下方に突出したスライダSlが、左右のサイドパネル54(54L、54R)に取り付けられた座面ガイド片543の溝を介して中空体の空隙SpにストッパStまで挿入されて嵌合される。すなわち、左右のサイドパネル54(54L、54R)の座面ガイド片543(543F、543B)に、座面パネル58の座面スライド片581(前方座面スライド片581F、後方座面スライド片581B)が嵌合され、固定される(図12参照)。
【0076】
(背面パネル)
図13(及び図5)のように組み立てられた炭素繊維製ソファー1において、背面パネル56が略鉛直方向にスライド可能な背面ガイド片545は、左右のサイドパネル54(54L、54R)の後方上側に、座面ガイド片543と同様、取付片542により取り付けることができる(図6参照)。このような背面ガイド片545は、座面ガイド片543(543F、543B)と同様に、図9(a)~(c)のように前方が開放され、後方がストッパStにより閉鎖されて内部に空隙Spを有する中空体で、上方に溝が切られている構成であってよい。
【0077】
また、左右のサイドパネル54(54L、54R)の後方下側には、背面挿入部547が設けられているが(図6参照)、この背面挿入部547も背面ガイド片545と同構成とし、これと同様に、左右のサイドパネル54(54L、54R)に取付片542により取り付けてもよい。しかし、本実施例においては、背面挿入部547を、図10(a)~(c)に示すように背面パネル56(嵌合部56R)の下端を直接挿入する構成とし、左右のサイドパネル54(54L、54R)に取付板部を直接取り付けて、背面パネル56(嵌合部56R)の下端が直接背面挿入部547の溝部に案内されて嵌合・固定される構成としている。
【0078】
一方、背面パネル56には、図11(a)~(c)に示すように、その後方面に、背面ガイド片545等の空隙Spに嵌合するスライダSlが突出した背面スライド片561が、スライダSlが後方に突出するように取付片542により取り付けられる。そして、背面パネル56の後方に突出したスライダSlが、左右のサイドパネル54(54L、54R)に取り付けられた背面ガイド片545の溝を介して中空体の空隙SpにストッパStまで挿入されて嵌合される。そしてこれと同時に、上述のように、背面パネル56(嵌合部56R)の下端が直接背面挿入部547の溝部に案内されて嵌合・固定される。
【0079】
以上、本実施例2の炭素繊維製ソファー50Aについて説明したが、本発明に係る炭素繊維製ソファー50は、この実施例50Aに限定されない。実施例2に係る炭素繊維製ソファー50Aは、前方基台52Fと後方基台52B、背面パネル56、座面パネル58、左右のサイドパネル54(54L、54R)とが、組立て・解体自在なノックダウン式のソファーとしたが、安定性を増すために、以下に説明する実施例3のように、前方基台52Fと後方基台52B、座面パネル58、左右のサイドパネル54(54L、54R)とを全て接着剤等で固着して一体化し、背面パネル56のみを挿入、引抜き可能なように構成してもよい。

(3-2)固定式炭素繊維製ソファー50B
【実施例0080】
本実施例3では、背面パネル56以外の構成要素を固定した炭素繊維製ソファー50Bについて説明する。
【0081】
本実施例に係る炭素繊維製ソファー50Bは、上述した炭素繊維製ソファー50、50Aと同様、図14(a)のように、基台52と、背面パネル56と、座面パネル58と、左右のサイドパネル54(54L、54R)とを構成要素として含む。背面パネル56は、下端近傍に嵌合部56Rを有する。また、本実施例の炭素繊維製ソファー50Bにおいて、左右のサイドパネル54(54L、54R)は、図16(a)のように、炭素繊維製多重波板1により形成される。なお、図16(a)において、サイドパネル54の縦線は、炭素繊維製多重波板1の波の凸部又は凹部を表す。
【0082】
本実施例の炭素繊維製ソファー50Bでは、基台52は、図14(b)に示すように、前方基台52Fと後方基台52Bとが、その接合部において一体成型される。前方基台52Fは、側面52Fsが四角形の四角柱であり、前面52Ffと後面52Fb、上面52Fuと底面52Fdを有して前面52Ffに前方パネル60Fが形成される。また、後方基台52Bは、側面52Bsが三角形の三角柱であり、前面52Bfと後面52Bbと底面52Bdとを有して後面52Bbに後方パネル60Bが形成される。このような基台52は、図17のような型を用いることにより、一体成型することができる。
【0083】
なお、図18(a)、(b)に示すように、軽量化のため、基台52の内部を空洞とするのが好ましい。底面52d(52Fd、52Bd)を図18(a)のように基台52の両側面52s、前面52Ff、後面52Bbと連結する枠のみとすれば、より軽量とすることができるが、図18(b)のように、前方基台52Fと後方基台52Bとの接合部に補助枠を設けて底面52d(52Fd、52Bd)を強化してもよい。
【0084】
基台52において、前方パネル60F及び/又は後方パネル60Bは、前方基台52Fの前面52Ff及び/又は後方基台52Bの後面52Bbに接着剤で貼付等されてもよいが、一体成型されるのが好ましい。
【0085】
この基台52を構成する前方基台52Fの上面52Fuは、基準方向から時計回りに30度未満の正の角度の傾斜が設けられ、また、後方基台52Bの前面52Bfは、基準方向から時計回りに90度以上120度以下の角度の傾斜が設けられる(図14(b)参照)。
【0086】
本実施例の炭素繊維製ソファー50Bにおいては、これら両基台が接合される接合部に、後方基台52Bの前面52Bfの斜面に沿って、背面パネル56の嵌合部56Rを挿入可能な背面挿嵌部53が形成されている(図14(a)、(b)参照)。そして、背面パネル56が、後方基台52Bの前方斜面(前面52Bf)に沿って背面挿嵌部53に挿入され、背面パネル56の嵌合部56Rが背面挿嵌部53に着脱自在に嵌合される。
【0087】
また、本実施例の炭素繊維製ソファー50Bにおいて、左右のサイドパネル54(54L、54R)は、基台52の側面52s(52Fs、52Bs)に接着され、座面パネル58は、基台52の上面52Fuに接着される。サイドパネル54及び/又は座面パネル58の基台52への固定は、接着剤による接着以外にもボルトなどによる固定も可能であるが、外観の美しさを保つため、本実施例の炭素繊維製ソファー50Bでは接着剤により固定する。
【0088】
本実施例の炭素繊維製ソファー50Bにおいて、背面パネル56は、嵌合部56Rの左右幅が背面挿嵌部53の左右幅に略一致し、これより上方の背凭れ部56Qの左右幅が嵌合部56Rの左右幅より幅狭に形成されるのが望ましい(図15(a)、(b)参照)。背面パネル56の背凭れ部56Qの左右の縁は、左右のサイドパネル54(54L、54R)と接触すると擦音が発生するので、背面パネル56をこのような形状とすることにより、この擦音の発生を防止することができる。
【0089】
また、基台52は、左右のサイドパネル54(54L、54R)が接着される側面52s(52Fs、52Bs)の接着部分の少なくとも一部を、左右のサイドパネル54(54L、54R)を形成する炭素繊維製多重波板1の波のピッチ(図16(a)、図15(a)参照)と同ピッチの波型に成型するのが望ましい。図16(b)は、接着部分の全てが炭素繊維製多重波板1の波のピッチと同ピッチの波型に成型された基台52の側面図であり、図16(c)は、接着部分の一部が炭素繊維製多重波板1の波のピッチと同ピッチの波型に成型された基台52の側面図である。このように基台52の側面52s(52Fs、52Bs)の接着部分を炭素繊維製多重波板1の波のピッチと同ピッチの波型として。サイドパネル54と基台52の側面52sの凸部と凹部、凹部と凸部を一致させることにより、左右のサイドパネル54(54L、54R)と基台52間の接着面積を増大させ、両者を強固に接着することができる。なお、このような側面52s(52Fs、52Bs)の接着部分の少なくとも一部が波型の基台52は、図17のような側部が波型の型を製作し(型内部の左側側面参照))、この型を上述した製造方法に用いることにより一体成型することができる。

(3-3)固定式炭素繊維製ソファー50Bの試験及びシミュレーション
【0090】
以下の実施例4、実施例5に、上述した固定式炭素繊維製ソファー50Bを用いて行った強度試験及び耐久試験、シミュレーションについて説明する。
【実施例0091】
[炭素繊維製ソファーの強度試験及び耐久試験]
岐阜県生活技術研究所において、本実施例の炭素繊維製ソファー50Bの強度試験及び耐久試験を行った。以下の強度試験(1)、(2)及び耐久試験(3)に関する説明において、「座面」は座面パネル58を、「背凭れ」は背面パネル56を指す。
【0092】
(方法)
(1)座面の静的強度試験[JlS S 1203 7.1試験区分4準拠]
負荷位置決めジグによって決まる座面負荷位置に、座面当て板を介して 1,600N(約163kgf)の垂直荷重を10回(保持時間10秒)加えた(図22(a)参照)。試験後、各部の異常の有無を調べた。
(2)背凭れの静的強度試験[JIS S 1203 7.2試験区分4準拠]
炭素繊維製ソファー50Bが後方へ移動しないように後脚をストッパに当てる。負荷位置決めジグによって決まる背凭れ負荷位置に、背凭れ当て板を介して760N(約78kgf)の荷重を背凭れに対して垂直に10回(保持時間10秒)加えた(図22(b)参照)。なお、釣り合わせのため、負荷位置決めジグによって決まる座面負荷位置に、1,600N(約163kgf)の垂直荷重を加えた。試験後、各部の異常の有無を調べた。
(3)座面及び背凭れの耐久性試験[JIS S 1203 7.5-6試験区分4準拠]
炭素繊維製ソファー50Bが後方へ移動しないように後脚をストッパに当てる。負荷位置決肖ジグによって決まる座面負荷位置に、座面当て板を介して950N(約97Kgf)の垂直荷重を毎分24サイクルの速さで100,000回加えた。同時に、負荷位置決めジグによって決まる背凭れ負荷位置に、背凭れ当て板を介して330N(約34kgf)の荷重を背凭れに対して垂直に毎分24サイクルの速さで100,000回加えた(図22(c)参照)。試験後、各部の異常の有無を調べた。
【0093】
(試験結果)
上記(1)の座面の静的強度試験、(2)の背凭れの静的強度試験、(3)の座面及び背凭れの耐久性試験について、夫々岐阜県生活技術研究所において試験を行い、岐阜県生活技術研究所から以下の試験結果を得た。
(1)座面の静的強度試験[JlS S 1203 7.1試験区分4準拠]
使用上支障のある破損、変形、緩み、外れはみられなかった。
(2)背凭れの静的強度試験[JlS S 1203 7.2試験区分4準拠]
使用上支障のある破損、変形、緩み、外れはみられなかった。
(3)座面及び背凭れの耐久性試験[JlS S 1203 7.5-6試験区分4準拠]
使用上支障のある破損、変形、緩み、外れはみられなかった。
【実施例0094】
[カーボン製ソファーの強度シミュレーション]
固定式炭素繊維製ソファー50Bの各部の強度及び変位についてシミュレーションを行った。本シミュレーションでは、3dCADによる設計図を作製し、実施例1で説明した炭素繊維製多重波板1と炭素繊維製多重平板の剛性試験の結果から得た数値を用いて、福井県工業技術センターにてシミュレーションを行った。
【0095】
(1)カーボン製ソファー
表1にその材料(炭素繊維製複合材積層板(炭素繊維製多重波板))の厚さを示すCF製ソファーについて、シミュレーションを行った。基台を含めて全ての構成要素が炭素繊維製複合材積層板製であり、背面パネルとサイドパネルは炭素繊維製多重波板を使用して成型されている。
【0096】
【表3】
【0097】
(2)シミュレーション
背面パネルと座面パネルとへ加えた荷重と位置を以下に示す。
(2-1)荷重を加える位置
図19(a)、(b)に示すように、背面パネルの特定の位置に、荷重330N(33.7Kg)を一様に加えた。また、図20(a)~(c)に示すように、座面パネルの特定の位置に、荷重950N(96.9Kg)を一様に加えた。
(2-1-1)背面パネルへの荷重
●位置:背面パネルへは、枕部継ぎ目位置から下方100mmの矩形部に荷重を加えた(図19(a)、(b)参照)。
●荷重:330N(33.7Kg)
(2-1-2)座面パネルへの荷重
●位置:座面パネルへは、全体(図20(b)参照)と前方(図20(c)参照)に荷重を加えた(図20(a)~(c)参照)。
●荷重:950N(96.9Kg)
【0098】
上記方法で行ったシミュレーション結果を以下に示す。
(3)シミュレーション結果
(3-1)背面パネルに330N印加した場合
背面パネルに330N(約33.7Kg)印加した場合
・破断応力が約1000MPaのところ、背面パネルに発生する歪応力は100MPa程度で安全であることが分かった。
・枕部上端の変位が最大となり、約10cmであった(図21(a))参照)。
(3-2)座面パネルに950N印加した場合
(3-2A)座面パネルの全体に950N(約97Kg)を印加した場合
・破断応力が約1000MPaのところ、座面パネルに発生する歪応力は200MPa程度で安全であることが分かった。
・座面パネル最前部中央の変位が最大となり、約6.3cmであった(図21(b))参照)。
(3-2B)座面パネルの前方に950N(約97Kg)を印加した場合
・破断応力が約1000MPaのところ、座面パネルに発生する歪応力は400MPa程度で安全であることが分かった。
・座面パネル最前部中央の変位が最大となり、約11cmであった(図21(c))参照)。
【0099】
以上のシミュレーション結果から、本発明に係る固定式炭素繊維製ソファー50Bに、100Kg弱(約97Kg)の人間が座っても、強度的に安全であり、座面パネルの前部は6~10cmほどの変位が生じ、座面パネルの上部は約10cmほどの変位が生じて、十分な反り又は撓みが生じることが確認できた。

(4)炭素繊維製ソファーの組立て方法
【0100】
本発明(実施例2)に係る炭素繊維製ソファー50Aの組立て方法は、
(1)左右の側面52Fsに前方挿入部523Fを有する前方基台52Fおよび左右の側面52Bsに後方挿入部523Bを有する後方基台52Bとを準備するステップと、
(2)何れのパネルも炭素繊維製多重波板からなる背面パネル56と、座面パネル58とを準備するステップと、
(3)炭素繊維製多重波板からなり、前方挿入部523F及び後方挿入部523Bに夫々嵌合可能な前方挿入片541F及び後方挿入片541Bを備えると共に、座面パネル58が略水平方向にスライド可能な座面ガイド片543と、背面パネル56が略鉛直方向にスライド可能な背面ガイド片545、及びその下方に背面パネル56の下端を支持する背面挿入部547とを備える左右のサイドパネル54(54L、54R)を準備するステップと、
(4)前方基台52Fの左右の前方挿入部523Fおよび後方基台52Bの左右の後方挿入部523Bに、それぞれ左右のサイドパネル54(54L、54R)の前方挿入片541F及び後方挿入片541Bを嵌合させるステップと、
(5)背面パネル56を左右のサイドパネル54(54L、54R)の背面ガイド片545に案内させて背面挿入部547に固定すると共に、
座面パネル58を左右のサイドパネル54(54L、54R)の座面ガイド片543に案内させて固定するステップと、
を含む。
【0101】
以上、本発明に係る炭素繊維製多重波板、炭素繊維製多重波板の製造方法、炭素繊維製多重波板を用いた炭素繊維製ソファー、および、炭素繊維製ソファーの組立て方法について説明したが、本発明は上記実施形態や実施例に限定されるものではない。本発明に係る炭素繊維製ソファーを構成する炭素繊維製プリプレグの種類等は特に限定されず、炭素繊維製複合材積層板は熱硬化性、熱可塑性の種類を問わない。そして、プリプレグと炭素繊維製複合材積層板の寸法、厚さ、プリプレグを重ねる枚数なども適宜変更可能である。また、本発明に係る炭素繊維製多重波板を構成する炭素繊維やマトリクスの材料、材質なども時代に応じて変遷するものであり、特に限定されることなく時代に応じて適宜変更することができる。
【0102】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係る炭素繊維製多重波板は、家具を始めとした構造物の構成要素として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1:本発明に係る炭素繊維製多重波板
2:シート状プリプレグ
3:織物(のシート状プリプレグ)
4:炭素繊維
5:炭素繊維束
6:マトリックス樹脂
20:パイプ
22:パイプ蓋部
50:(ノックダウン式の)炭素繊維製ソファー
50A、50B:(固定式の)炭素繊維製ソファー
52:基台
52s:側面
52d:底面
52F:前方基台
52Ff、52Fb:(前方基台の)前面、後面
52Fu、52Fd:(前方基台の)上面、底面
52Fs:(前方基台の)側面
523F:前方挿入部
52B:後方基台
52Bf、52Bb:(後方基台の)前面、後面
52Bu、52Bd:(後方基台の)上面、底面
52Bs:(後方基台の)側面
523B:後方挿入部
53:背面挿嵌部
54:サイドパネル
54L:左サイドパネル
54R:右サイドパネル
541:挿入片
541F:前方挿入片
541B:後方挿入片
542:取付片
543:座面ガイド片
543F:前方座面ガイド片
543B:後方座面ガイド片
545:背面ガイド片
547:背面挿入部
56:背面パネル
56P:枕部
56Q:背凭れ部
56R:嵌合部
561:背面スライド片
58:座面パネル
581:座面スライド片
581F:前方座面スライド片
581B:後方座面スライド片
60F:前方パネル
60B:後方パネル

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14(a)】
図14(b)】
図15
図16(a)】
図16(b)】
図16(c)】
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25