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特開2024-120064ヒト多能性幹細胞由来の神経幹細胞株の生成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120064
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞由来の神経幹細胞株の生成
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20240827BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20240827BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240827BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C12N5/0797
C12N5/10
A61K35/30
A61P25/00
A61P25/28
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024100613
(22)【出願日】2024-06-21
(62)【分割の表示】P 2022500601の分割
【原出願日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】19184630.2
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19219351.4
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】509091848
【氏名又は名称】ノヴォ ノルディスク アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フアン・カルロス・ビラエスクーサ・ラミレス
(72)【発明者】
【氏名】ウルリク・ドーン
(72)【発明者】
【氏名】シャルロット・ヴィンター・ベルテルセン
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、スケーラビリティを可能にし、非常に高純度の神経幹細胞(NSC)のGMP集団を提供するNSC株を取得するための方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、インビトロで多能性幹細胞(PSC)からNSC株を取得するための方法であって、PSCを単一細胞に解離させる工程と、懸濁培養においてPSCを培養する工程と、懸濁液中のPSCが、三次元細胞凝集体を自然発生的に形成することを可能にする工程と、それらを、NSCを含む神経外胚葉細胞からなる神経外胚葉球(neuroectodermal sphere(NECS))に分化させる工程と、任意選択的にNSCを解離させる工程と、NSCを基材上にプレーティングする工程と、NSCが神経ロゼットを形成することを可能にする工程と、NSCを維持および増殖させてNSC株を確立する工程と、を含む、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞(PSC)から神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、
・懸濁培養において前記PSCを、ROCKiおよび単一のSMAD阻害剤と接触させる工程、
・懸濁液中の前記PSCが、三次元細胞凝集体を自然発生的に形成することを可能にする工程、
・動的細胞培養懸濁液中で、前記三次元細胞凝集体が、約500μm未満の直径の神経外胚葉球(neuroectodermal sphere)に分化することを可能にする工程、
・前記神経外胚葉球が、神経ロゼットを形成することを可能にする工程であって、前記神経ロゼットが神経外胚葉細胞を含む、工程を含む、方法。
【請求項2】
前記神経ロゼットが、維持されて神経幹細胞(NSC)株へ増殖することが可能となる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経外胚葉細胞が、神経幹細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
インビトロで神経幹細胞を取得するための方法であって、
・PSCを単一細胞に解離させる工程、
・懸濁培養において前記PSCを、ROCKiおよび単一のSMAD阻害剤と接触させる工程、
・懸濁液中の前記PSCが、三次元細胞凝集体を自然発生的に形成することを可能にする工程、
・動的細胞培養懸濁液中で、前記三次元細胞凝集体が、500μm未満の直径の神経外胚葉球に分化することを可能にする工程、
・NECS含有神経外胚葉細胞を基材上にプレーティングするか、または任意選択的にNECS含有NSCを解離させる工程、
・前記NSCが、神経ロゼットを形成することを可能にし、前記NSCを維持および増殖させて、手動での採取および分離を必要とせずにNSC株を確立する工程を含む、方法。
【請求項5】
前記単一のSMAD阻害剤が、RepSoxまたはGW788388である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
RepSoxが、約20μM~約60μMの濃度であるか、またはGW788388が、約0.1ng/ml~約150ng/mlの濃度である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記神経幹細胞が、OTX2/PAX6またはSOX2/PAX6に対して少なくとも80%二重陽性である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記神経幹細胞が、OTX2/PAX6/SOX2に対して少なくとも80%三重陽性である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記神経幹細胞が、OTX2/PAX6/SOX2/FOXG1に対して少なくとも80%四重陽性である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
エクソソームなどの細胞外小胞を産生するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法に従って取得された神経幹細胞(NSC)株の、使用。
【請求項11】
医薬用の、請求項9に定義のエクソソーム。
【請求項12】
脳卒中、外傷性脳損傷、またはアルツハイマー病などの神経変性障害の治療に使用するための、請求項10に定義のエクソソーム。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって取得された、高純度の神経外胚葉細胞集団。
【請求項14】
医薬用の、神経細胞または神経膠細胞へのさらなる分化のための、請求項13に記載の高純度の神経外胚葉細胞集団。
【請求項15】
前記神経細胞もしくは神経膠細胞、または幹細胞に由来する組織もしくは器官を、それを必要とする対象に移植することによって前記神経変性障害の治療に使用するための、請求項14に定義の神経幹細胞または神経膠細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、幹細胞の分野に関し、より具体的には、高純度の神経幹細胞集団、ヒト胚性幹細胞などの多能性幹細胞に由来する神経幹細胞株などの神経幹細胞の、このような高純度の神経幹細胞由来株を取得するための方法に関する。さらに、本発明は、神経変性疾患の治療における使用のための医薬として使用するための、このような高純度の神経幹細胞株の使用、および脳卒中の治療のためのかかる神経幹細胞から取得されたエクソソームの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経幹細胞(NSC)は、ニューロンおよび神経膠細胞を生成する能力を有する自己再生多能性細胞である。NSCは、中枢神経系の正常な胚発生中に一時的に存在し、類似の細胞は、例えば、ヒト多能性幹細胞(hPSC)にも由来し得る。これまでに、hPSCを高純度で増殖可能なヒトNSCの集団に分化させるのに成功した効率的なプロトコルの開発のために、多大な努力がなされてきた。ヒトNSCへのhPSCの分化のための確立された方法は、胚様体と呼ばれる細胞凝集体の形成を介したものである。しかしながら、多くの現在のプロトコルは、例えば、非神経性同一性のサイドセルラーポピュレーションを含む、不均一な細胞集団をもたらす。したがって、NSCの手動選択(例えば、神経ロゼットの手動採取による)が必要であり、これは骨の折れる時間のかかるプロセスであり、それによってスケーラビリティが制限される。
【0003】
この数年間にわたって、脳梗塞を含む、脳損傷および神経変性を治療するために、NSC由来細胞外小胞(EV)およびエクソソームの使用が探索されてきた。細胞外小胞(EV)は、細胞から自然に放出される脂質二重層で区切られた粒子である。EVの直径は、物理的に可能な最小の単層のリポソームのサイズ(約20~30ナノメートル)に近いものから、10ミクロン以上の大きさまで幅があるが、EVの大部分は200nmよりも小さい。エクソソームは、ほとんどの細胞型によって放出されるナノスケールのEV(直径30~150nm)である(Colombo et al.,2014)。エクソソームは、その宿主細胞に由来するタンパク質、核酸、および脂質を含むことができ、細胞間コミュニケーションを促進し、レシピエント細胞機能を調節する様々な分子(カーゴ)を含有する(Robbins et al.,2016)。虚血性脳卒中療法のためのエクソソームの利用に関する最近の研究は、改善された機能的帰結を、マイクロRNA、DNA、脂質、タンパク質、RNAを含むそれらのカーゴに起因すると考えている(Chen and Chopp,2018)。これらの知見は、NSC由来エクソソームの適用が、脳卒中および外傷性脳損傷(TBI)を含む脳損傷の治療のための有望な新しい手段であり得ることを示唆している。
【0004】
いくつかの文書(Ruttachuk et al.2013、Watanabe et al.2007)では、ROCKiおよび/またはデュアルSMAD阻害(dual SMAD inhibition)を使用して、2D培養物中のhPSCからNSCを取得するための方法を開示するとされている(Qiuhong et al.2019、US2017/260501、Meixiang et al.2018)。これらの方法の一部では、純度を増加させるために、増殖前に解体する必要があり、すなわち、細胞の手動選択および単離を必要とする。これは時間とリソースを消費し、当該方法のスケーラビリティの能力を低下させる。
【0005】
本発明の目的は、前述の課題を克服すること、特に、スケーラビリティを可能にし、非常に高純度のNSCのGMP集団を提供するNSC株を取得するための方法を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の目的は、本発明の態様によって達成される。さらに、本発明はまた、例示的な実施形態の開示から明らかになるであろうさらなる課題を解決することができる。本発明の第一の態様では、インビトロで多能性幹細胞(PSC)からNSC株を取得するための方法であって、PSCを単一細胞に解離させる工程と、懸濁培養においてPSCを培養する工程と、懸濁液中のPSCが、三次元細胞凝集体を自然発生的に形成することを可能にする工程と、それらを、NSCを含む神経外胚葉細胞からなる神経外胚葉球(neuroectodermal sphere(NECS))に分化させる工程と、任意選択的にNSCを解離させる工程と、NSCを基材上にプレーティングする工程と、NSCが神経ロゼットを形成することを可能にする工程と、NSCを維持および増殖させてNSC株を確立する工程と、を含む、方法が提供される。
【0007】
PSCの神経誘導、およびそれに続くNSC株の生成および確立に使用されるプロトコルは、大まかに3つの主要段階に分けられる:神経外胚葉誘導およびNECS形成、NECSプレーティングおよびロゼット形成、ならびに最終的に細胞を増殖培地中でリプレーティングすることによるNSC株の確立。これらの主要段階に従うことによって、本発明者らは、高速かつ信頼性の高いNECSベースの分化プロトコルを可能にする方法を開発し、これは神経ロゼット形態を有する主に純粋で増殖可能なヒトNSC集団をもたらす。方法は、NSC株の分化および確立を促進する。10日後、本発明者らは、解離する準備ができている、2Dで明確で目に見える神経ロゼットを観察した。NSC株は、神経ロゼットが解離され、さらに3~4継代のためにリプレーティングされたときに確立される。大きな利点の1つは、手動による単離の、退屈で時間のかかる工程を回避できることである。本発明者らは、強制凝集することなく均一なNECSの形成を制御することにより、方法がこのような高純度を提供することが可能であると考えている。したがって、本発明者らは、PSCが自然発生的にNECSを形成することを可能にする工程が特に重要であることを見出した。自然発生的な形成は、部分的には、一旦プレーティングされると、高純度の、明確に画定された、均質な神経ロゼット集団をもたらすサイズを有するNECS集団を促進する。好ましい実施形態では、方法は、懸濁培養物を攪拌させる工程をさらに含む。本発明の発明者らは驚くべきことに、NECSの初回の非強制的形成後、培養物を攪拌させることで、直径サイズが500μm未満のNECSの集団の確立がさらに促進されることを発見した。さらに驚くべきことに、NECSのサイズを制御することによって、神経ロゼットの純度および形成を改善できることが見出された。好ましい実施形態では、NECSの直径は、NSCをプレーティングする工程の前に500μm未満である。
【0008】
一態様では、本発明は、多能性幹細胞(PSC)から神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、
・懸濁培養において当該PSCをROCKiおよび単一のSMAD阻害剤と接触させる工程、
・懸濁液中の当該PSCが、三次元細胞凝集体を自然発生的に形成することを可能にする工程、
・動的細胞培養懸濁液中で、当該三次元細胞凝集体が500μm未満の直径の神経外胚葉球(neuroectodermal sphere)に分化することを可能にする工程、
・当該神経外胚葉球が、神経ロゼットを形成することを可能にする工程であって、当該神経ロゼットが神経外胚葉細胞を含む工程を含む、方法に関する。
【0009】
一態様では、本発明は、多能性幹細胞(PSC)から神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、単一のSMAD阻害剤を含む培地中で当該PSCを培養する工程を含む、方法に関する。
【0010】
別の態様では、本発明は、多能性幹細胞から神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、単一のSMAD阻害剤を含む培地中で当該PSCを培養する工程を含み、当該単一のSMAD阻害剤は、RepSoxまたはGW788388である、方法に関する。
【0011】
一態様では、本発明は、多能性幹細胞から神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、単一のSMAD阻害剤を含む培地中で当該多能性幹細胞を培養する工程を含み、当該単一のSMAD阻害剤は、約20μM~約60μMの濃度のRepSoxである、方法に関する。
【0012】
一態様では、本発明は、多能性幹細胞から神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、単一のSMAD阻害剤を含む培地中で当該多能性幹細胞を培養する工程を含み、当該単一のSMAD阻害剤は、約0,1ng/ml~約150ng/mlの濃度のGW788388である、方法に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、PSCから神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、PSCを、形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダル(nodal)シグナル伝達経路の阻害剤と接触させる工程、およびPSCが神経外胚葉細胞に分化することを可能にする工程を含み、形質転換増殖因子(TGF)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害剤は、好ましくは、約0.1μM~約100μMの範囲の濃度のRepSoxである、方法に関する。本発明者らは驚くべきことに、特定の濃度のこの小分子が、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の同時阻害を必要としない場合でも、すなわち、PSCをNogginと接触させるなどの二重SMAD阻害を伴わずに、非常に高い効率でPSCの神経外胚葉系統への分化を促進することを見出した。これは、神経外胚葉系統への分化プロトコルを簡素化し、プロトコルのGMPコンプライアンスへの転換を容易にする。
【0014】
一態様では、本発明は、高純度の神経幹細胞集団に関し、当該神経幹細胞は、OTX2/PAX6またはPAX6/SOX2に対して少なくとも80%の二重陽性である。
【0015】
一態様では、本発明は、高純度の神経幹細胞集団に関し、当該神経幹細胞は、OTX2/PAX6/SOX2に対して少なくとも80%の三重陽性である。
【0016】
本発明の別の態様では、エクソソームを産生するための本発明のNSC株の使用が提供される。さらなる態様では、本発明の方法に従って取得されたNSC株からエクソソームを産生するための方法であって、NSCがエクソソームを産生することを可能にする工程およびエクソソームを単離する工程を含む、方法が提供される。
【0017】
本発明の別の態様は、特に脳卒中、外傷性脳損傷(TBI)およびアルツハイマー病などであるがこれらに限定されない神経変性障害および/または脳損傷の治療における使用のための、医薬として使用するためのエクソソームに関する。したがって、一実施形態では、神経変性障害は脳卒中である。別の実施形態では、神経変性障害は外傷性脳損傷(TBI)である。さらに別の実施形態では、神経変性障害はアルツハイマー病である。
【0018】
本発明の別の態様では、NSC株を維持および増殖させる方法であって、基材上でNSCを培養する工程と、NSCが神経ロゼットを再形成することを可能にする工程と、NSCを単一の懸濁液に解離させる工程と、NSCをROCK阻害剤と接触させる工程と、NSCを第2の基材上にリプレーティングする工程と、を含む、方法が提供される。本発明者らは驚くべきことに、各継代でNSCをROCK阻害剤と接触させることにより、ロゼット構造、形態、および神経前駆体組成物の複雑さが著しく維持されることを発見した。
【0019】
一態様では、本発明は、インビトロで神経幹細胞を取得するための方法であって、
・PSCを単一細胞に解離させる工程、
・懸濁培養において当該PSCをROCKiおよび単一のSMAD阻害剤と接触させる工程、
・懸濁液中のPSCが、三次元細胞凝集体を自発的に形成することを可能にする工程、
・動的細胞培養懸濁液中で、当該三次元細胞凝集体が、500μm未満の直径の神経外胚葉球に分化することを可能にする工程、
・NECS含有神経外胚葉細胞を基材上にプレーティングするか、または任意選択的にNECS含有NSCを解離させる工程、
・NSCが、神経ロゼットを形成することを可能にし、NSCを維持および増殖させて手動での採取および分離を必要とせずにNSC株を確立する工程を含む、方法に関する。
【0020】
別の態様では、本発明は、PSCからインビトロで神経幹細胞(NSC)株を取得するための方法であって、
・当該PSCを、単一細胞または約50個未満の細胞を含む凝集体に解離させる工程、
・当該取得された細胞を、動的懸濁培養で培養する工程、
・当該取得された細胞が、懸濁液中で自然発生的にNECSを形成し、さらにNSCを産生することを可能にする工程、
・NSCが、維持および増殖してNSC株を確立することを可能にする工程を含む、方法に関する。
【0021】
この最後の態様による方法の利点は、2Dまたは懸濁液中のいずれかで培養することによって、神経外胚葉系統の特定細胞へのさらなる分化のために容易に利用可能なNSCの迅速な提供である。
【0022】
前述の態様の好ましい実施形態では、PSCはhPSCであることが、出願全体に適用される。以下において、好ましい実施形態における生成物もヒト由来である。したがって、好ましい実施形態では、NSCおよびNSC株は、それぞれヒトNSCおよびNSC株である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実験プロトコルの概略図を示す。「試験された化合物」は、試験された小分子:SB431542、LDN、GW788388、RepSox、SB525334、LY2157299、TEW-7197またはLY2109761のいずれかを指す。「Y」は、10μM ROCKi(Y-27632)を意味する。
図2図2は、3日目に撮影された明視野顕微鏡写真を示し、振とうにより、NECSの均一性が向上することを明確に示している。スケールバー:200μm。
図3図3は、GW788388およびRepSoxを用いた培養からのNECSの形態を示す。小分子RepSoxは、明るい空洞を有するNECSの形成を誘導するのに対し、GW788388は、より暗く高密度のコアをもたらす。
図4図4は、プロセス中の異なる時点での懸濁液中のNECSおよび付着性NECSの明視野顕微鏡写真を示す。3日目に、いくつかのNECSが懸濁培養物中に形成される。2Dで播種後、8日目に多くのロゼットが、および10日目にいくつかの均一なロゼットが見られる。スケールバー:200μm(A、E)、100μm(F)、50μm(B、C、D)。
図5図5は、各神経ロゼットの中心(ルーメン)に位置するZO1タンパク質の頂端局在化を示す、RepSox(25μM)を使用した神経ロゼット形成の例を示す。すべての細胞は、神経前駆細胞マーカーのNestin(NES)に対して陽性であった。
図6図6は、GW788388とRepSoxの2つの化合物の比較を示す。細胞は、密着結合(tight junction)マーカーZO1に沿ってNSCマーカーNESで染色され、このため神経ロゼットおよび他の構造の可視化を可能にする。hESCをRepSoxで処理すると複数の神経ロゼットが観察されるが、GW788388では少数のロゼットしか観察されない。さらに、GW788388では、神経ロゼット非形成細胞が観察される。スケールバー:100μm。
図7図7および8は、密着結合ZO1に沿ってNSCマーカーNESで染色され、RepSox 0.25μM、2.5μM、25μM、および50μMでそれぞれDAPIで対比染色された細胞を示す。細胞の組織化は、RepSoxの量によって明らかに影響を受け、高用量は神経ロゼット形成を改善する。白色の矢印はNES陰性細胞を示す。
図8】上記参照。
図9図9および10は、RepSox 50μMを用いた生物学的複製間の神経ロゼットサイズの変化を示す。スケールバー:100μm。
図10】上記参照。
図11図11は、各複製のNECSのサイズ分布を示す。グラフは、50単位増分(μm)の相対的なNECS直径の間隔内にある、NECSの数(粒子数)を示す。
図12図12は、400μmを超えるNECSの効果を示す。すべての細胞(DAPI)がマーカーNESに対して陽性であるわけではない。
図13図13は、提示された方法によって生成されたNSC株の増殖可能性および集団の倍加時間(日数)を示す。さらに、線形回帰モデルをlog2変換したデータに適用して、NSCがいくつかの細胞継代を介して経時的にどのように増殖し、倍加するかを可視化した。
図14図14および15は、5継代後に神経ロゼット形成(NES/ZO-1)の保持を示す、確立されたNSC株の異なる継代培養を示す。さらに、すべての細胞がSOX2陽性であり、ほぼすべての細胞がPAX6およびOTX2陽性である。スケールバー:100μm。
図15】上記参照。
図16図16は、神経ロゼット形成(NES/ZO-1)の保持を示す、継代数12の確立されたNSC株を示す。さらに、すべての細胞がSOX2陽性であり、ほぼすべての細胞がPAX6およびOTX2陽性である。スケールバー:100および10μm。
図17図17は、12継代の確立されたNSC株が、神経ロゼット形成の保持を示し前のマーカーFOXG1およびOTX2に対して陽性であることを示す。スケールバー:100μm。
図18図18は、hESCと比較したNSCの相対的な遺伝子発現を示す。左軸は、2-ΔΔCt法によって計算されたhESCに対する相対的な倍率変化を示す。右軸は-ΔΔCtであり、提示された値は、hESC(ΔΔCt)±SDに正規化されたΔCtの平均である。25μM(n=5)、50μM(n=4)。遺伝子は、多能性、NSC、ならびにニューロン制限前駆細胞、前部(anterior)/前脳、中脳、および後部(posterior)/後脳に典型的なマーカーにグループ化される。統計検定は、有意水準がα=5%(p<0.01(**)およびp<0.001(***))のlog10(dCt)値で実行される。N.d.=検出せず、またはCt>35。
図19図19は、フローサイトメトリー(FACS)によって決定される2つの神経幹細胞マーカーPAX6およびOTX2について、3継代での二重陽性細胞の定量化を示す。PAX6/OTX2陽性細胞の割合は93.4%である。
図20図20は、フローサイトメトリー(FACS)によって決定された神経幹細胞マーカーPAX6、OTX2、およびSOX2、ならびに前脳メーカーFOXG1について、8継代での二重陽性細胞の定量化を示す。PAX6/OTX2、PAX6/FOXG1、およびPAX6/SOX2の割合は80%を超えている。
図21図21は、hESCおよびNSCの両方から収集された上清にエクソソームが存在することを示す。サイズ、タンパク質含量および粒子数は、hESCによって産生されるエクソソームとNSCによって産生されるエクソソームの間で異なる。NSCによって産生されるエクソソームの構造は、電子顕微鏡によって撮像される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
別段の記載がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実践は、別段の指示がない限り、当業者に公知の化学、生化学、生物物理学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学、および薬理学の従来の方法を用いる。
【0025】
すべての見出しおよび小見出しが、本明細書では便宜上使用されているだけであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。
【0026】
本明細書で提示する任意およびすべての例または例示的な語句(例えば「など(such as)」)の使用は、単に本発明をより明瞭にするという意図しかなく、別段の請求がない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中のいずれの語句も、特許請求されないいかなる要素も本発明の実施に必須であることを示すと解釈すべきではない。
【0027】
本出願全体を通して、細胞を分化するためのプロセスを指す場合の「方法」および「プロトコル」という用語は、互換的に使用され得る。本発明の方法は、典型的には、一連の工程によって定義される。本明細書で使用される場合、方法に関する「工程」という用語は、何かが取り組まれている、および/または動作が実施される段階として理解されるべきである。実施される工程および/または取り組んでいる工程が、同時および/または順次および/または連続的である場合が、当業者によって理解されるであろう。
【0028】
本明細書で使用される場合、「a」または「an」または「the」は、1つまたは複数を意味し得る。本明細書に別段の示唆がない限り、単数形で提示される用語は、複数の状況も含む。また、本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上のうちのいずれかおよびすべての可能な組み合わせ、ならびに代替(「または」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、かつそれらを包含する。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の特徴または特徴の組み合わせが除外または省略され得ることも企図する。
【0029】
本発明の細胞、化合物、または薬剤の量、用量、温度などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用される場合、「約」という用語は、指定された量の5%、1%、0.5%、またはさらには0.1%の変動を包含するよう意図される。本明細書で使用される場合、プロトコルに関する「日」という用語は、ある特定の工程を実施するための特定の時間を指す。
【0030】
一般的に、かつ別段の記載がない限り、「0日目」は、プロトコルの開始を指し、これは例えば、幹細胞をプレーティングすること、または幹細胞をインキュベーターに移すこと、または幹細胞の移植前に、現在の細胞培養培地中の幹細胞を化合物と接触させることによるが、これらに限定されない。典型的には、プロトコルの開始は、未分化幹細胞を別の細胞培養培地および/または容器に移すことにより、例えば、限定されないが、プレーティングもしくはインキュベートすることにより、および/または未分化幹細胞を、分化プロセスが開始されるような方法で未分化幹細胞に影響を及ぼす化合物と最初に接触させることによって、行われる。
【0031】
1日目、2日目などの「X日目」に言及する場合、これは、0日目のプロトコル開始に関連するものである。当業者は、別段の指定がない限り、ステップを実施するための正確な日時が変動し得ることを認識するであろう。したがって、「X日目」は、±10時間、±8時間、±6時間、±4時間、±2時間、または±1時間などの時間範囲を包含するよう意図される。
【0032】
本明細書で使用される場合、「約X日目~約Y日目から」というフレーズは、ある事象が開始される日を指す。このフレーズは、その事象が開始し得る日の間隔を提供する。例えば、「細胞が約3日目~約5日目に分化因子と接触する」場合、これは、すべての選択肢:「細胞が約3日目から分化因子と接触する」、「細胞が約4日目から分化因子と接触する」、および「細胞が約5日目から分化因子と接触する」を包含するものとして解釈される。したがって、このフレーズは、3日目~5日目の間にのみ起こる事象として解釈されるべきではない。これは、「約X日目~約Y日目まで」というフレーズに準用する。
【0033】
以下、本発明による方法は、非限定的な実施形態および実施例によってより詳細に記載される。PSCから神経幹細胞株を取得するための方法が提供される。したがって、方法は、幹細胞の使用において相殺される。
【0034】
「幹細胞」は、分化能および増殖能(特に自己再生能力)を有するが、分化能を維持する未分化細胞として理解されるべきである。幹細胞は、分化能に従って、多能性幹細胞(PSC)、多分化能性幹細胞、単能性幹細胞などの亜集団を含む。
【0035】
本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞」(PSC)とは、インビトロで培養することができ、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)に属する任意の細胞系統に分化する効力を有する幹細胞を指す。PSCは、受精卵、クローン胚、生殖幹細胞、組織中の幹細胞、体細胞などから誘導され得る。PSCの例としては、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性生殖細胞(EG細胞)などが含まれる。間葉系幹細胞(MSC)から取得されたミューズ細胞(多系統分化ストレス耐性細胞)、および生殖細胞(例えば、精巣)から産生される生殖細胞系列幹細胞(GS細胞)も、PSCの用語に包含される。したがって、本発明で使用される多能性幹細胞は、例えば、WO03/055992およびWO2007/042225に記載されているように、胚盤胞から調製される胚性幹細胞、または市販の細胞もしくは細胞株であり得る。ES細胞株はまた、子宮外胚を破壊することなく、かつ臨床転帰に影響を及ぼすことなく、単一割球から誘導することもできる(Chung et al.(2006)およびKlimanskaya et al.(2006))。
【0036】
本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞」(iPS細胞またはiPSCとしても知られる)という用語は、一般に再プログラミングとして知られるプロセスによって、成体細胞から直接生成され得るPSCのタイプを意味する。多能性関連遺伝子の特定のセットの産物の導入によって、成体細胞は、PSCに変換され得る。胚性幹細胞はまた、例えば、WO2003/046141に記載されるような単為生殖性物に由来してもよい。胚性幹細胞は、単一の割球から、または胚を破壊することなく取得された内部細胞塊を培養することによって産生され得る。胚性幹細胞は、所与の組織から入手可能であり、市販されている。本発明の方法および産生物は、好ましくは、hPSC、すなわち、iPSCまたは単為生殖性物を含む胚性幹細胞のいずれかに由来する幹細胞に基づく。
【0037】
本発明は、PSCからインビトロでNSC株を取得するための方法であって、
・PSCを単一細胞に解離させる工程、
・取得された細胞を懸濁培養で培養する工程、
・動的懸濁液中で当該取得された細胞が、NECSを自然発生的に形成することを可能にする工程と、当該NECSをNSCに分化させる工程と、基材上にNSCをプレーティングする工程または任意選択でNSCを解離させる工程、
・NSCが神経ロゼットを形成することを可能にする工程と、NSCを維持および増殖させてNSC株を確立する工程を含む、方法を提供する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「神経」という用語は、神経系を指す。本明細書で使用される場合、「神経細胞」という用語は、細胞型を模倣する細胞を指し、それは、当然ながら外胚葉の胚葉、より具体的には、神経外胚葉の一部であり、この用語は、早期神経前駆細胞から成熟した有糸分裂後ニューロンに至るまで、この胚葉内の発達の任意の段階にある細胞を包含することを意味する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「神経外胚葉細胞」という用語は、神経外胚葉系統に沿った発達中の任意の段階の細胞を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「神経幹細胞」(NSC)という用語は、無制限に、自己再生および増殖することができ、ニューロン、星状細胞およびオリゴデンドロサイトなどの神経細胞およびグリア細胞に最終的に分化し得る子孫細胞を生成する多能性細胞を指す。NSCの非幹細胞子孫は、神経前駆細胞と呼ばれる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「神経前駆体細胞(neural precursor cell)」および「神経前駆細胞(neural progenitor cell)」という用語は、互換的に使用されてもよく、神経幹細胞にさらに由来するが、広範な増殖能力は維持しない細胞を意味する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「神経幹細胞株」という用語は、神経ロゼット構造および、マーカーZO1、NES、SOX2、OTX2、およびPAX6を維持しながら少なくとも10継代、継代培養することができるNSCの集団を意味する。神経NSC株を取得するための方法を参照することによって、一つ以上のNSC株を確立することができることを意味する。本発明者らは、10日後すでに2Dで神経ロゼット形成を観察した。NSC株は、神経ロゼットが解離され、さらなる3~4継代にわたりリプレーティングされたときに確立される。以後、NSC株が確立したとみなされ、そこから、NSCを少なくとも10継代にわたり継代培養することができる。一実施形態では、NSC株は不死化されない、すなわち、一実施形態では、NSC株は100継代以下にわたり継代培養することができる。
【0043】
一実施形態では、本発明の確立されたNSC株は、3~4継代にわたり継代培養される。一実施形態では、本発明の確立されたNSC株は、10継代にわたり継代培養される。一実施形態では、本発明の確立されたNSC株は、20継代にわたり継代培養される。
【0044】
「インビトロ」という用語は、NSCがヒトまたは動物体の外部で提供され、維持されることを意味する。一実施形態では、NSCは非天然である。
【0045】
「非天然」という用語は、NSCが、ヒト起源を有し得るPSCに由来するが、自然界には存在しない人工構築物であることを意味する。一般に、幹細胞の分野では、人体の細胞にできるだけ似た細胞を提供することが目的であることが多い。しかしながら、成熟細胞が人体本来の天然細胞と区別できない程度まで、PSCが胚期および胎児期に受ける発達を模倣することは、可能とならないかもしれない。本質的に、本発明の一実施形態では、NSCは人工的である。
【0046】
本明細書で使用される場合、「人工」という用語は、自然界で天然に存在するが、天然に存在しない構築物に改変された材料を含み得る。これは、人体の細胞を模倣する非天然細胞に分化する、ヒト幹細胞を含む。好ましくは、NSCは幹細胞由来である。より好ましくは、NSCは、PSCに由来する幹細胞である。さらなる実施形態では、NSCは、ヒト胚性幹細胞(hESC)および/またはヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来する幹細胞である。
【0047】
PSCは、最初は単一細胞に解離される。本明細書で使用される場合、「単一細胞に解離する」という用語は、PSCを単一細胞懸濁液にすることを意味する。「単一細胞懸濁液」とは、細胞の単一細胞および/または典型的には約5個または6個未満の細胞の三次元の小さな凝集体が機能および増殖することを可能にする、細胞懸濁液または懸濁培養物を意味する。細胞を懸濁状態にする場合、細胞の大部分は基材または容器表面に付着しない。PSCを単一細胞懸濁液にするための任意の適切な手段を使用してもよい。当業者は、酵素的またはキレート化など、PSCを、単一細胞懸濁液にするためのいくつかの方法が存在することを容易に認識するであろう。一実施形態では、PSCは、0日目に単一細胞懸濁液に解離される。PSCを懸濁状態にすることは、細胞を、基材および/または細胞外基質からの細胞の相互の解離を促進する治療に供することを意味する。一実施形態では、PSCは、PSCをトリプシンおよび/またはTrypLE Selectなどの細胞解離剤と接触させることによって、単一細胞懸濁液に解離される。
【0048】
さらなる工程で、PSCを懸濁培養で培養する。本明細書で使用される場合、「懸濁培養」という用語は、単一細胞または細胞の凝集体が液体培地中に自由に浮遊していることを意味する。懸濁培養はまた、三次元培養と呼んでもよく、二つの用語は、本出願全体を通して互換的に使用され得る。したがって、PSCは、基材表面に付着されず、またはそうでなければ、細胞外基質などの足場内に固定されていない。しかしながら、懸濁培養中の一部の細胞が容器の表面に付着し得ることは十分に認識されている。懸濁培地を攪拌しないと、細胞は、重力によって最終的に容器の表面に定着する。
【0049】
「培養」という用語は、幹細胞が、制御された条件下で、一般に、それらの自然環境の外で連続的な手順として増殖するプロセスとして理解されるべきであり、これは、その様々な段階で細胞の生存率を維持するために、方法全体を通して使用され得る。対象となる細胞が、例えば、限定されないが、生体組織または胚から単離された後、それらは続いて、注意深く制御された条件下で維持される。これらの条件は、各細胞型によって異なるが、一般に、必須栄養素(アミノ酸、炭水化物、ビタミン、ミネラル)、増殖因子、ホルモン、およびガス(CO、O)を供給し、物理化学的環境(pH緩衝液、浸透圧、温度)を調節する培地を備えた適切な容器からなる。
【0050】
典型的には、幹細胞は、その現在の発生状態での生存能力に適した細胞培養培地で提供される。培養のための幹細胞を提供することは、通常、幹細胞を、新しい基材上に播種すること、またはインキュベーター中で懸濁することなどによって、異なる環境へと移すことを暗示する。当業者は、幹細胞がそのような移動に対して脆弱であり、手順が注意を必要とすること、および幹細胞を元の細胞培養培地中で維持することが、細胞培養培地を分化プロセスにより適した別の細胞培養培地で置き換える前に、細胞のより持続可能な移動を促進し得ることを認識するであろう。したがって、一実施形態では、0日目の細胞培養培地は、第1の細胞培養培地であり、細胞培養培地の少なくとも一部は、約1日目から第2の細胞培養培地で置き換えられる。
【0051】
本明細書で使用される場合、細胞培養培地、第1の細胞培養培地、および第2の細胞培養培地に関する「置き換える」という用語は、ある量の細胞培養培地が適切な手段によって取り出され、任意選択で、実質的に等量の細胞培養培地が添加されて、細胞培養培地の総量が実質的に同じままである、手順を意味する。「第1の細胞培養培地を除去すること」とは、第1の除去および第2の細胞培養培地の添加の後として理解され、その後の任意の後続の置き換えは、第1および第2の細胞培養培地の混合物の置き換えであり、混合物は、除去および添加される量に対応する比率である。したがって、順次除去では、第1の細胞培養培地は、第2の細胞培養培地によって連続的に希釈され、この手順を繰り返すことによって、細胞培養培地は最終的に、第1の細胞培養培地を実質的に含まないことになる。
【0052】
さらなる実施形態では、細胞培養培地は、化学的に定義され、かつ異種由来成分を含まない(xeno-free)。本明細書で使用される場合、細胞培養培地に関する「化学的に定義される」という用語は、化学構成成分のすべてが既知であるヒトまたは動物細胞のインビトロ細胞培養に適した増殖培地を意味する。化学的に定義された培地は、構成成分のすべてが特定され、それらの正確な濃度が既知でなければならないことを必要とする。
【0053】
本明細書で使用される場合、「異種由来成分を含まない」および「動物由来成分を含まない」という用語は、互換的に使用でき、かつ本発明によれば、任意の動物由来の構成成分を好ましくは完全に欠いていることを意味する。好ましい実施形態では、細胞培養培地はまた、フィーダーを含まない(feeder-free)。
【0054】
「フィーダーを含まない」および「フィーダー細胞を含まない」という用語は、互換的に使用されてもよく、そうでなければ培養幹細胞に栄養を与える目的で存在し得るヒトおよび動物細胞を欠いている培養系を指し、すなわち、フィーダー細胞は、それらが支持する幹細胞に代謝物を供給するが、増殖または分裂を意図する細胞ではない。
【0055】
本発明者らは、化学的に定義された「異種由来成分を含まない」および「フィーダー細胞を含まない」細胞培養環境を好むが、規制機関は、そのような基準に完全に準拠することなく、本発明による方法に基づいた医薬品および治療を承認し得る。本発明者らは、GMPおよびGTPの最高水準を遵守するよう努める。しかしながら、本発明は、そのような基準に限定されるものとして解釈されるべきではない。当業者は、本発明がそのような高い基準を固執することなく実施され得ることを容易に認識するであろう。
【0056】
一実施形態では、第1の細胞培養培地は、基材への移動時に幹細胞の生存能力を支持する任意の好適な細胞培養培地であってもよい。そのような細胞培養培地は市販されており、例えば、iPSおよびES幹細胞用のNutristem(登録商標)hPSC XF培地などのNutristem(登録商標)であり得る。したがって、一実施形態では、iPSおよびES幹細胞用のNutristem(登録商標)hPSC XF培地などのNutristem(登録商標)。
【0057】
一実施形態では、第2の細胞培養培地は、化学的に定義され、かつ異種由来成分を含まない。さらなる実施形態では、第2の細胞培養培地はまた、フィーダーを含まない。一実施形態では、第二の細胞培養培地は、GMEM、DMEM、またはDMEM/F12を含む。類似の培地は、同等に良好に機能し、容易に購入可能である。さらなる実施形態では、DMEM/F12は、N2および/またはB27で補充される。一実施形態では、N2の濃度は、約0.01%(v/v)~約5%(v/v)、好ましくは約0.5%(v/v)~約2.5%(v/v)。一実施形態では、B27の濃度は、約0.05%(v/v)~約1%(v/v)、好ましくは約0.1%(v/v)。
【0058】
一実施形態では、PSCを単一細胞懸濁液に解離させる工程で、PSCをROCK阻害剤と接触させる。
【0059】
ROCK阻害剤
Rho関連コイル状コイル含有キナーゼ(ROCK)は、RhoA低分子量GTPaseのエフェクターであり、セリン/トレオニンキナーゼのAGCファミリーに属する。ROCKキナーゼは、細胞の収縮、遊走、アポトーシス、生存、および増殖を含む多くの機能を有する。IRho関連、コイル状コイル含有プロテインキナーゼROCK阻害剤は、rhoキナーゼを標的とし阻害する一連の化合物である。本明細書で使用される場合、「Y-27632」は、CAS番号129830-38-2を有するトランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩を指す。
【0060】
一実施形態では、細胞培養培地は、ROCK阻害剤を含む。一実施形態では、ROCK阻害剤は、Y-27632またはTigerである。
【0061】
したがって、好ましい実施形態では、PSCが単一細胞懸濁液に解離されると同時に、PSCはROCK阻害剤と接触させる。一実施形態では、ROCK阻害剤の濃度は、約0.5μM~約50μM、好ましくは約5μM~約25μM、さらにより好ましくは約10μMである。一実施形態では、ROCK阻害剤の濃度は、約1日目から徐々に低下する。次いで、一実施形態では、PSCは、約0.5μM~約50μM、好ましくは約5μM~約25μM、さらにより好ましくは約10μMの濃度で、PSCを0日目に単一細胞懸濁液に解離させる工程から開始して、約1日間、ROCK阻害剤と接触させる。一実施形態では、ROCK阻害剤は、Y-27632である。
【0062】
方法は、単一細胞懸濁液中のPSCが、自然発生的にNECSを形成することを可能にする工程を含む。
【0063】
三次元細胞凝集体
本明細書で使用される場合、「三次元細胞凝集体」という用語は、単一細胞から形成される幹細胞のクラスター、または短期間、すなわち1~2日間、互いに付着した少数個の細胞の凝集体を意味する。三次元細胞凝集体は、細胞のごく少数のPSCおよび/またはごく少数の細胞分裂の間の初期細胞付着を介して形成され、分裂が継続するにつれて本質的に成長する。このプロセスでは、初期のPSC懸濁培養物はROCK阻害剤にさらされる。ROCKiの存在下で、PSCが自然発生的に三次元細胞凝集体を形成し、その後、NECSを形成するより大きな細胞凝集体を形成することを可能にする工程は、受動的な手順である。本明細書で使用される場合、三次元細胞凝集体の形成を指す場合の「自然発生的」という用語は、三次元細胞凝集体自体の形成が、PSCを単一細胞懸濁液にすることを除いて、いかなる手段によっても強制または促進されないことを意味する。
【0064】
一実施形態では、三次元細胞凝集体は、24時間のPSCのROCKiへの曝露後に形成される。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、最初の24時間のPSCのROCKiへの曝露後に形成される。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、少なくとも24時間のPSCのROCKiへの曝露後に形成される。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、約1~3日間のPSCのROCKiへの曝露後に形成される。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、約2~3日間のPSCのROCKiへの曝露後に形成される。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、約1日間のPSCのROCKiへの曝露後に形成される。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、約2日間のPSCのROCKiへの曝露後に形成される。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、約3日間のPSCのROCKiへの曝露後に形成される。
【0065】
神経外胚葉球
本明細書で使用される場合、「神経外胚葉球」(NECS)という用語は、細胞分裂によりサイズが大きくなり、同時に数日間、すなわち5~6日間神経外胚葉の運命に分化した三次元細胞凝集体を意味する。本発明の方法によると、NECSの細胞は、初期の小さな三次元細胞凝集体を形成する際に、発生から神経外胚葉系統に向けられる。NECSは、成熟期に応じて神経外胚葉細胞、NSC、および神経ロゼットを形成するNSCが含まれる。NECSは、細胞の細胞分裂を介して形成され、分裂が続くにつれて本質的に増殖する。したがって、一実施形態では、PSCは有糸分裂を介して実質的にNECSを形成する。本明細書で使用される場合、「有糸分裂」という用語は、染色体の数が維持される遺伝的に同一の細胞を生じさせる細胞分裂を指す。本発明による方法において、NECSは、分化しながら分割されるPSCによって形成される。したがって、NECSは、最初にPSCを含み、これらの細胞が分裂し、分化すると、分化幹細胞を含むNECSを形成する。PSCが自然発生的に小さな細胞凝集体を形成し、その後、より大きなNECSを形成することを可能にする工程は、受動的な手順である。本明細書で使用される場合、NECSの形成を指す場合の「自然発生的」という用語は、NECS自体の形成が、PSCを単一細胞懸濁液にすることを除いて、いかなる手段によっても強制または促進されないことを意味する。自然発生的な形成は、細胞の活発な凝集とは反対であり、これは、円錐形状のウェルまたは液滴において細胞を一緒にクラスター化することによって促進され得る。本明細書で使用される場合、当該「自然発生的」形成は、「非強制的」形成または「受動的」形成とも呼ばれうる。したがって、一実施形態では、NECSは、強制的な凝集なしに形成することを可能にする。好ましい実施形態では、NECSは、細胞懸濁液中で自然発生的に形成され得る。任意の特定の理論に束じられるものではないが、NECSの自然発生的形成は、一部はPSCの増殖によるものであり、おそらくは、1つ以上のNECSの自然発生的凝集によるものであると考えられる。
【0066】
一実施形態では、三次元細胞凝集体は、さらに5日間、自然発生的にNECSを形成することを可能とする。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、少なくともさらに5日間、自然発生的にNECSを形成することを可能とする。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、さらに3~8日間、自然発生的にNECSを形成することを可能とする。一実施形態では、三次元細胞凝集体は、さらに3~10日間、自然発生的にNECSを形成することを可能とする。
【0067】
懸濁培養
一実施形態では、方法は、懸濁培養物を攪拌させて、動的細胞培養懸濁液を作製する工程をさらに含む。本明細書で使用される場合、「攪拌」という用語は、懸濁培養を維持する目的で、細胞培養培地の動きを提供することを意味する。攪拌は、適切な任意の手段によって提供されてもよい。一実施形態では、懸濁培養物は、振とうすることによって攪拌させる。さらなる実施形態では、懸濁培養物は、約5rpm~約80rpm、好ましくは約20rpm~約70rpm、より好ましくは約40rpm~約60rpmの速度で攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、約30rpm~約100rpm、好ましくは約40rpm~約90rpm、より好ましくは50rpm~約80rpmの速度で攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、約5rpm~約80rpm、好ましくは約20rpm~約70rpm、より好ましくは約40rpm~約60rpmの速度で攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、約50rpm~約80rpmの速度で攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、約60rpm~約70rpmの速度で攪拌される。好ましい実施形態では、懸濁培養物は、ROCK阻害剤の濃度を徐々に低下させ始めるときに攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、約0日目、1日目、2日目、または3日目から攪拌され、好ましくは懸濁培養物は、約1日目から攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、NECSをプレーティングする工程まで攪拌される。
【0068】
本発明の方法は、PSCをNSCに分化させる工程を含む。PSCが分化することを可能にすることは、実施される別個の最終ステップとして解釈されるべきではない。当業者は、本明細書で使用される場合、「分化する」および「分化」という用語が、細胞が未分化状態から分化状態に、未成熟状態からあまり未成熟ではない状態に、または未成熟状態から成熟状態に進行するプロセスを指し、これは方法が実行され、細胞が分化を促進する様々な要因に曝されるときに継続的に発生することを容易に理解するであろう。これは、例えば、NSCに分化するPSCであるがこれに限定されない。細胞相互作用および成熟における変化は、細胞が未分化細胞のマーカーを損失するまたは分化した細胞のマーカーを獲得するときに生じる。単一マーカーの損失または獲得は、細胞が「成熟または完全に分化」されたことを示し得る。
【0069】
好ましい実施形態では、PSCのNSCへの分化は、0日目に開始される。これは、PSCのNSCへの分化が、PSCを単一細胞懸濁液に解離させた直後に開始されることを意味する。
【0070】
一実施形態では、PSCは、TGFβR1/ALK5受容体の阻害剤と接触させる。本明細書で使用される場合、細胞を培養することに関する「接触」という用語は、「接触した」細胞を生成するために、例えば、特定の化合物を細胞に近づけることによって、細胞を特定の化合物に曝露することを意味する。接触は、任意の好適な手段を使用して達成され得る。接触の非限定的な例は、化合物を細胞の細胞培養培地に添加することによる。細胞の接触は、細胞および特定の化合物が近接している限り、例えば、化合物が細胞培養培地中に好適な濃度で存在する限り、起こるものと想定される。「細胞をXと接触させる」とは、「Xを含む細胞培養培地で細胞を培養する」と同義とみなされ得る。本明細書で使用される場合、シグナル伝達標的またはシグナル伝達標的経路の阻害に関する「阻害剤」という用語は、未処置の細胞または処置された細胞もしくは組織を阻害しない化合物で処置された細胞と比較した場合に、特定の分化結果など(例えば、デフォルトの細胞型分化を促進する活性シグナル伝達経路を抑制し、それによって非デフォルトの細胞型への分化を誘導する)、結果として生じる標的分子または標的化合物または標的プロセスに干渉する(すなわち、低減または排除または抑制する)化合物を指す。
【0071】
本明細書で使用される場合、「OTX2」は、オルソデンティクルホメオボックス2(Orthodenticle Homeobox 2)遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、神経前駆細胞を含む胚発生中の前脳構造のマーカーである。
【0072】
本明細書で使用される場合、「PAX6」は、「ペアードボックス6(Paired Box 6)」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、神経前駆細胞を含む胚発生中の前脳構造のマーカーである。
【0073】
本明細書で使用される場合、「SOX2」は、「SRYボックス転写因子2(SRY-Box Transcription Factor 2)」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、神経前駆細胞のマーカーである。
【0074】
本明細書で使用される場合、「FOXG1」は、「フォークヘッドボックスG1(Forkhead Box G1)」遺伝子、転写物またはタンパク質を指し、胚発生中の前脳細胞のマーカーである。
【0075】
本明細書で使用される場合、「ZO1」または「TJP1」は、「タイトジャンクションタンパク質1(Tight Junction Protein 1)」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、タイトジャンクションアダプタータンパク質として作用する。これは、神経ロゼットの頂端部分であるルーメンを定義するために使用される。
【0076】
一実施形態では、本発明は、神経幹細胞を取得するための方法に関し、細胞の少なくとも80%が、PAX6およびOTX2を共発現する。
【0077】
一実施形態では、本発明は、神経幹細胞を取得するための方法に関し、細胞の少なくとも85%が、PAX6およびOTX2を共発現する。
【0078】
一実施形態では、本発明は、神経幹細胞を取得するための方法に関し、細胞の少なくとも90%が、PAX6およびOTX2を共発現する。
【0079】
一実施形態では、本発明は、神経幹細胞を取得するための方法に関し、細胞の約93%が、PAX6およびOTX2を共発現する。
【0080】
一実施形態では、本発明は、神経幹細胞を取得するための方法に関し、細胞の少なくとも80%が、PAX6、SOX2およびOTX2を共発現する。
【0081】
一実施形態では、本発明は、神経幹細胞を取得するための方法に関し、細胞の少なくとも85%が、PAX6、SOX2およびOTX2を共発現する。
【0082】
一実施形態では、本発明は、神経幹細胞を取得するための方法に関し、細胞の少なくとも90%が、PAX6、SOX2およびOTX2を共発現する。
【0083】
一実施形態では、本発明は、神経幹細胞を取得するための方法に関し、細胞の約93%が、PAX6、SOX2およびOTX2を共発現する。
【0084】
Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達経路の阻害剤
本明細書で使用される場合、「Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達経路の阻害剤」は、Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達経路を特異的に阻害する化合物を指す。Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達の阻害剤の例は、GW788388、LDN-193189、LY2157299、LY364947、NOGGIN、RepSox、SB431542、およびTEW-7197を含む群から選択されてもよい。
【0085】
本明細書で使用される場合、「GW788388」は、小分子化学名N-(オキサン-4-イル)-4-[4-(5-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン-2-イル]ベンズアミド、およびCAS番号:452342-67-5を意味する。
【0086】
本明細書で使用される場合、「LDN-193189」は、IUPAC名4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン、およびCAS番号:1062368-24-4の化合物を意味する。
【0087】
本明細書で使用される場合、「LY2157299」は、強力なTGFβ受容体I(TGFβRI)阻害剤であり、代替名ガルニセルチブ、および化学名4-[2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル]キノリン-6-カルボキサミド、ならびにCAS番号:700874-72-2である、小分子を意味する。
【0088】
本明細書で使用される場合、「LY364947」は、IUPAC名4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、およびCAS番号396129-53-6の化合物を意味する。
【0089】
本明細書で使用される場合、「NOGGIN」は、骨形成タンパク質-4(B MP 4)などのシグナル伝達タンパク質の形質転換増殖因子-ベータ(TGF-β)スーパーファミリーのメンバーに結合し、それを不活性化する、分泌されたホモ二量体糖タンパク質を示す。NOGGINは典型的には、グリコシル化、ジスルフィド結合二量体としてヒト細胞内で発現される65kDaのタンパク質である。
【0090】
本明細書で使用される場合、「RepSox」は、TGF-βRIの強力で選択的な阻害剤であり、代替名E-616452、SJN 2511、ALK5阻害剤II、および化学名2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、ならびにCAS番号446859-33-2である、小分子を意味する。
【0091】
本明細書で使用される場合、「SB431542」は、化学名4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド、およびCAS番号:301836-41-9の化合物を意味する。
【0092】
本明細書で使用される場合、「TEW-7197」は、代替名バクトセルチブおよび化学名2-フルオロ-N-[[5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-([1,2,4]トリアゾロ[1,5-a]ピリジン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル]メチル]アニリン、ならびにCAS番号:1352608-82-2の、小分子を意味する。
【0093】
多能性幹細胞(PSC)からインビトロで神経幹細胞(NSC)株を取得する方法。
【0094】
一実施形態では、PSCは、単一のSMAD阻害剤と接触させるか、または単一のSMAD阻害剤を含む培地中で培養される。一実施形態では、PSCは、RepSoxと接触させるか、またはRepSoxを含む培地中で培養される。一実施形態では、PSCは、GW788388と接触させるか、またはGW788388を含む培地中で培養される。
【0095】
一実施形態では、RepSoxの濃度は、約1μM~約200μM、好ましくは約10μM~約100μM、より好ましくは約20μM~約80μM、より好ましくは約30μM~約70μM、より好ましくは約40μM~約60μM、さらにより好ましくは約45μM~約55μMである。
【0096】
特定の実施形態では、PSCは、約50μMの濃度でRepSoxと接触させる。
【0097】
一実施形態では、PSCは、0日目からRepSoxと接触させる。0日目にPSCをRepSoxと接触させることにより、細胞が懸濁状態になると細胞の分化が開始される。したがって、NECSを形成することを可能にされた細胞はすでに、NSCになることに向けた分化の初期段階に入っている。より具体的な実施形態では、PSCは、0日目からNSCを増殖させる工程までRepSoxと接触させる。
【0098】
一実施形態では、PSCは、0日目からGW788388と接触させる。0日目にPSCをGW788388と接触させることにより、細胞を懸濁状態になると細胞の分化が開始される。したがって、NECSを形成することを可能にされた細胞はすでに、NSCになることに向けた分化の初期段階に入っている。より具体的な実施形態では、PSCは、0日目からNSCを増殖させる工程までGW788388と接触させる。
【0099】
一実施形態では、本発明は、神経幹細胞を取得するための方法に関し、当該方法は、手動による採取および単離を必要とせずに、細胞の80%超がOTX2/PAX6/SOX2陽性であるNSCを産生するための単一のSMAD阻害剤を含む。
【0100】
別の実施形態では、多能性幹細胞を、RepSoxまたはGW788388であるSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させ、手動での採取および単離を必要とせずに、細胞の80%超がOTX2/PAX6/SOX2であるNSCを産生する。
【0101】
発明者らは、これらSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤を、手動での採取および単離を必要とせずに、より均質で、細胞の80%超がOTX2/PAX6/SOX2である、NSCの集団を提供するものとして特定した。
【0102】
本発明者らは、これらSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤を、より均質または高純度であり、細胞の80%超がOTX2/PAX6またはPAX6/SOX2二重陽性である、NSCの集団を提供するものとして特定した。本発明者らは、これらSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤を、手動での採取および単離を必要とせずに、より均質または高純度であり、細胞の80%超がOTX2/PAX6またはPAX6/SOX2二重陽性である、NSCの集団を提供するものとして特定した。
【0103】
発明者らは驚くべきことに、SMADタンパク質シグナル伝達の単一阻害が、アップスケーリングに適したNSCの集団を提供することを発見した。
【0104】
一実施形態では、本発明は、例えば限定されないが、フラスコ、タンクおよび/またはバイオリアクターにアップスケーリングするための方法を提供する。
【0105】
別の実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達の単一の阻害剤は、約0.25μM~約200μM、好ましくは約10μM~約150μM、より好ましくは約15μM~約100μM、さらにより好ましくは約20μM~約75μMの濃度のRepSOXである。
【0106】
別の実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達の単一の阻害剤は、約0.1ng/ml~約150ng/ml、好ましくは約10ng/ml~約90ng/ml、より好ましくは約20ng/ml~約80ng/ml、さらにより好ましくは約40ng/ml~約75ng/mlの濃度のGW788388である。
【0107】
方法による任意選択のステップでは、自然発生的に形成されるNECSのNSCは、基材上にプレーティングする前に解離され得る。ただし、NECSは直接プレーティングできるため、この工程は必要ない。したがって、以下のプレーティングの記述において、NECSを解離させる任意の工程が準用されて行われる場合、NECSをプレーティングすることへの言及を同様に適用することができる。
【0108】
方法は、基材上に懸濁液中のNSCをプレーティングする工程を含む。「プレーティング」という用語は、好適な基材上にNECSを分布させることを意味する。当業者は、幹細胞を基材上に移すための適切な技術を知っているであろう。NECSを基材上で培養することは、二次元培養とも呼ばれ得る。懸濁培養から二次元培養への移行は、生存可能条件を維持するために細胞の継続的な培養を意味する。
【0109】
本明細書で使用される場合、「基材」という用語は、幹細胞の増殖を可能にし、その上にコーティングが提供され得る表面として理解されるべきである。これは、ウェルプレートおよびビーズであってもよいが、これらに限定されない。当業者は、細胞を培養するための好適な基材を容易に認識し、これらは市販されている。典型的な基材としては、細胞培養処理済みマルチウェルプレート、例えば、Scientific(商標)Nunc(商標)細胞培養処理済みマルチウェルプレートが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の実施形態によれば、NECSは、細胞外基質でコーティングされた基材上にプレーティングされる。
【0110】
「細胞外基質」という用語は、細胞表面受容体との相互作用に関与する細胞外分子を意味し、したがって、付着、増殖、遊走、および分化などの細胞挙動を調節するか、または機械的支持の機能を果たす。一実施形態では、コーティングされた基材上のコーティングは、ラミニンおよび/またはフィブロネクチンおよび/またはビトロネクチンおよび/またはコラーゲンを含む。
【0111】
一実施形態では、本発明のNSCは、細胞外小胞を調製するために使用される。
【0112】
本明細書で使用される場合、プレート上のコーティングに関する「ラミニン」という用語は、アルファ鎖、ベータ鎖、およびガンマ鎖と呼ばれる3つのサブユニットからなるヘテロ三量体分子を指す。本明細書では、ヒトラミニンへの言及が行われる。5種類の鎖(アルファ1~アルファ5)、3種類のベータ鎖(ベータ1~ベータ3)、および3種類のガンマ鎖(ガンマ1~ガンマ3)が既知であり、これらの鎖の様々な組み合わせは、少なくとも12種類のラミニンアイソフォームを生じさせる。例えば、「ラミニンアルファ5ベータ1ガンマ1」は、本明細書において「ラミニン-511」と称される。同じことが他のアイソフォームにも適用される。ラミニンを指す場合の「その断片」は、無傷のラミニンの一部を意味する。例えば、ラミニン-511のE8断片は、ヒト胚性幹細胞に強く付着することがわかっている。ラミニンおよびその断片は、Biolamina ABまたはNippi Inc.などの企業から市販されている。
【0113】
本明細書で使用される場合、プレート上のコーティングに関する「フィブロネクチン」という用語は、インテグリンと呼ばれる膜貫通受容体タンパク質に結合する細胞外基質の高分子量(約440kDa)糖タンパク質を指す。インテグリンと同様に、フィブロネクチンは、コラーゲン、フィブリン、およびヘパラン硫酸プロテオグリカン(例えば、シンデカン)などの細胞外基質構成成分に結合する。
【0114】
本明細書で使用される場合、プレート上のコーティングに関する「ビトロネクチン」という用語は、血清、細胞外基質、および骨に豊富に見られるヘモペキシンファミリーの糖タンパク質を指す。
【0115】
本明細書で使用される場合、プレート上のコーティングに関する「コラーゲン」という用語は、動物体の様々な結合組織内の細胞外空間における構造タンパク質を指す。結合組織の主要構成成分として、これは、哺乳動物において最も豊富なタンパク質であり、全身タンパク質含量の25%~35%を占める。コラーゲンは、一緒に巻かれて三重らせんを形成して、細長いフィブリルを形成するアミノ酸からなる。
【0116】
好ましい実施形態では、細胞外基質は、ラミニンまたはその断片を含み、好ましくは、ラミニン-511およびラミニン-521からなる群から選択される。別の実施形態では、ラミニンまたはその断片は、ラミニン-511およびラミニン-521の組み合わせである。一実施形態では、細胞外基質は、ラミニン-511および/またはラミニン-521、ならびに1つ以上のさらなるラミニン(複数可)を含む。一実施形態では、ラミニンは、無傷のラミニンタンパク質である。別の実施形態では、ラミニンは、無傷のラミニンタンパク質の断片である。さらなる実施形態では、ラミニンの濃度は、約0.001μg/cm~約50μg/cm、好ましくは約0.1μg/cm~約25μg/cm、より好ましくは約0.1μg/cm~10μg/cm、より好ましくは約0.1μg/cm~約5、より好ましくは約0.25μg/cm~約1μg/cm、さらにより好ましくは約0.5μg/cmである。
【0117】
一実施形態では、NSCを含有するNECSをプレーティングする工程の前に少なくとも90%のNECSが、500μm未満の直径を有し、好ましくは、NSCを含有するNECSをプレーティングする工程の前にNECSが、500μm未満の直径を有する。一実施形態では、NSCを含有するNECSをプレーティングする工程の前に少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%のNECSが、400μm未満の直径を有し、好ましくは、NSCを含有するNECSをプレーティングする工程の前に少なくとも80%のNECSが、400μm未満の直径を有し、より好ましくは、NSCを含有するNECSをプレーティングする工程の前に少なくとも90%のNECSが、400μm未満の直径を有する。一実施形態では、NSCを含有するNECSをプレーティングする工程の前に少なくとも50%、60%、70%、80%、90%のNECSが、300μm未満の直径を有し、好ましくは、NSCを含有するNECSをプレーティングする工程の前に少なくとも80%のNECSが、300μm未満の直径を有する。好ましい実施形態では、NSCを含有するNECSをプレーティングする工程の前に少なくとも90%のNECSが、500μm未満の直径を有し、好ましくは、NSCを含有するNECSをプレーティングする工程の前にNECSが、500μm未満の直径を有する。
【0118】
さらなる実施形態では、NSCを含有するNECSの少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%がマーカーSOX2を発現する時に、NECSはプレーティングされる。
【0119】
神経ロゼット
本明細書で使用される場合、「神経ロゼット」という用語は、神経外胚葉細胞およびNSCの自己形成組織を指し、円様形態を有する神経外胚葉細胞およびNSCのクラスターが中心から放射状に増殖する。いかなる特定の理論にも束じられるものではないが、神経ロゼットの形成は、培養中のNSCの固有の発達特性であり、二次元培養において容易に視覚化される。神経ロゼットは、二次元培養物にプレーティングする前にNECSに存在する可能性があるが、視覚化するのはより困難である。本発明によれば、NSCの放射状配置は、神経外胚葉細胞の生存可能条件を提供するだけでなく、神経系統に沿って細胞を維持し促進するために必要な要因を提供するという条件とともに、細胞自体によって実質的に形成される。当業者は、懸濁培養中のNECSにおいて、神経ロゼット形成がすでに行われ得ることを認識するであろう。ただし、神経ロゼット形成は、二次元基材上に形成することを可能にすると、容易に観察可能である。
【0120】
方法は、神経幹細胞(NSC)株を確立するためにNSCを維持および増殖させる工程を含む。本明細書で使用される場合、「維持する」および「維持」という用語は、互換的に使用されてもよく、細胞を生存可能かつ増殖性を維持する培養条件を提供することを指す。本明細書で使用される場合、「増殖する」および「増殖」という用語は、互換的に使用されてもよく、細胞集団の増殖を指し、すなわち、NSCが、それらが連続的に成長および分裂することを可能にする条件が提供される。一実施形態では、NSCを増殖させる工程は、NSCを単一細胞懸濁液に解離させる工程、NSCをROCK阻害剤と接触させる工程、第2の基材上に単一細胞懸濁液中のNSCをリプレーティングする工程、およびNSCが神経ロゼットを再形成することを可能にする工程を、さらに含む。さらなる実施形態では、神経幹細胞(NSC)株の維持および増殖させるために工程が繰り返される。一実施形態では、NSCは、NSCをトリプシンまたはTrypLE Selectなどの細胞解離剤と接触させることによって、単一細胞懸濁液に解離される。一実施形態では、ROCK阻害剤の濃度は、約0.5μM~約50μM、好ましくは約5μM~約25μMである。一実施形態では、ROCK阻害剤は、Y-27632である。
【0121】
方法の一実施形態において、PSCは、約5日間~約15日間、好ましくは約7日間~約13日間、より好ましくは約9日間~約11日間、好ましくは約10日間でも、分化することが可能である。さらに、一実施形態では、NSCは、約4日後~約15日後、好ましくは約5日後~約10日後、より好ましくは約5日後~約8日後、さらにより好ましくは約6日後にプレーティングされる。さらなる実施形態では、NSCを維持および増殖させる工程は、NSCをプレーティングしてから約1日~約8日後、好ましくは、NSCをプレーティングしてから約3日~約5日後、より好ましくは、NSCをプレーティングしてから4日後に開始される。
【0122】
好ましい実施形態では、方法は、神経ロゼットを単離する工程を含まない。本明細書で使用される場合、「神経ロゼットを単離する」という用語は、適切に形成され、さらなる増殖に対して実行可能であると考えられる神経ロゼットを識別することを意味する。こうした識別は、特定のマーカーの分析によって促進されてよく、単離は、顕微鏡下での手動採取によって促進されてもよい。しかしながら、本方法は、神経ロゼットを単離する別個の工程を必要としない。したがって、好ましい実施形態では、方法は、NSCを維持および増殖させるために神経ロゼットを手動で選択する工程を含まない。したがって、実質的にすべての形成された神経ロゼットが維持可能かつ増殖可能であり、好ましい実施形態では、実質的にすべての形成された神経ロゼットが維持および増殖させられることになる。「実質的にすべて」とは、一部の神経ロゼットが実行可能ではなく、したがって維持可能かつ増殖可能ではないことを意味する。
【0123】
用語「高純度な」神経幹細胞集団は、細胞の80%超がOTX2/PAX6二重陽性またはPAX6/SOX2二重陽性であり、手動の採取および単離を必要としない、均質なNSC集団を意味する。
【0124】
一実施形態では、本発明の方法によって取得されるNSCは、OTX2/PAX6またはPAX6/SOX2に対して80%の二重陽性である。
【0125】
一実施形態では、本発明の方法によって取得されるNSCは、手動での採取および単離を必要とせずに、OTX2/PAX6またはPAX6/SOX2に対して80%の二重陽性である。
【0126】
一実施形態では、本発明の方法によって取得されるNSCは、OTX2/PAX6またはPAX6/SOX2に対して少なくとも80%の二重陽性である。
【0127】
一実施形態では、本発明の方法によって取得されるNSCは、OTX2/PAX6/SOX2に対して少なくとも80%の三重陽性である。
【0128】
一実施形態では、本発明の方法によって取得されるNSCは、OTX2/PAX6/SOX2/FOXG1に対して少なくとも80%の四重陽性である。
【0129】
本発明の別の態様は、PSCをRepSoxと接触させ、PSCが神経外胚葉細胞に分化することを可能にする工程を含む、PSCから神経外胚葉細胞を誘導する方法に関する。一実施形態では、神経外胚葉細胞はNSCである。好ましい実施形態では、RepSoxの濃度は、約10μM、20μM、30μM、40μM、または45μMよりも高く、好ましくは約20μMよりも高い。さらに、好ましい実施形態では、RepSoxの濃度は、約200μM、150μM、100μM、80μM、または60μM未満、好ましくは約70μM未満である。一実施形態では、RepSoxの濃度は、約1μM~約200μM、好ましくは約10μM~約100μM、より好ましくは約20μM~約80μM、より好ましくは約30μM~約70μM、より好ましくは約40μM~約60μM、さらにより好ましくは約45μM~約55μMである。特定の実施形態では、PSCは、約50μMの濃度でRepSoxと接触させる。
【0130】
本発明の別の態様は、PSCをGW788388と接触させ、PSCが神経外胚葉細胞に分化することを可能にする工程を含む、PSCから神経外胚葉細胞を誘導する方法に関する。一実施形態では、神経外胚葉細胞はNSCである。好ましい実施形態では、GW788388の濃度は、約0.1ng/ml、0.5ng/ml、1ng/ml、3ng/ml、または5ng/mlより高く、好ましくは約10ng/mlよりも高い。さらに、好ましい実施形態では、GW788388の濃度は、約100ng/ml、80ng/ml、60ng/ml、40ng/ml、または20ng/ml未満、好ましくは約10ng/ml未満である。別の実施形態では、GW788388の濃度は、約0.1ng/ml~約150ng/ml、好ましくは約10ng/ml~約90ng/ml、より好ましくは約20ng/ml~約80ng/ml、さらにより好ましくは約40ng/ml~約75ng/mlの濃度である。1つの特定の実施形態では、PSCは、約10ng/mlの濃度でGW788388と接触させる。
【0131】
一実施形態では、PSCは、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の阻害剤とは接触させない。具体的には、一実施形態では、PSCはNogginとは接触させない。
【0132】
本発明のさらなる実施形態は、エクソソームを生成するための第1の態様の方法に従って取得されたNSC株の使用に関する。したがって、本発明の一態様は、先行する実施形態のいずれか1つに記載の方法に従って取得されたNSC株からエクソソームを産生するための方法であって、NSCがエクソソームを産生することを可能にする工程と、エクソソームを単離する工程と、を含む、方法に関する。さらに、一態様では、前述の方法に従って取得されたエクソソームが提供される。
【0133】
エクソソーム
本明細書で使用される場合、「エクソソーム」という用語は、様々な細胞タイプから分泌される膜構造を有する小さな小胞またはナノスケールの小胞(30~150nmの直径)を指す。典型的には、細胞は、エンドサイトーシス起源の小さな膜結合小胞としてエクソソームを産生し、その後、多胞体と形質膜の融合後に細胞外環境に放出される。エクソソームは、体または生物系内の様々な場所との間で分子の運び手として作用し得る。エクソソームは、核酸(例えば、DNA、mRNA、miRNA)、タンパク質、および/または他の生体分子などの分子を含んでもよく、その分子は、エクソソームの表面、膜、および/または内部に存在し得る。
【0134】
一実施形態では、本発明のエクソソームは、少なくとも80%の細胞が、OTX2/PAX6またはPAX6/SOX2に対して二重陽性であるNSCから取得される。
【0135】
一実施形態では、本発明のエクソソームは、少なくとも80%の細胞が、OTX2/PAX6/SOX2に対して三重陽性であるNSCから取得される。
【0136】
一実施形態では、本発明のエクソソームは、少なくとも80%の細胞が、OTX2/PAX6/SOX2/FOXG1に対して四重陽性であるNSCから取得される。
【0137】
さらなる態様は、医薬として使用するための本発明によるエクソソームに関する。一実施形態では、エクソソームは、神経変性障害の治療に使用するためのものである。一実施形態では、神経変性障害は脳卒中である。一実施形態では、神経変性障害は外傷性脳損傷(TBI)である。一実施形態では、神経変性障害はアルツハイマー病である。
【0138】
一実施形態では、本発明は、静脈内注射、鼻腔内送達、またはくも膜下腔内投与のために、少なくとも80%の細胞がOTX2/PAX6/SOX2に対して三重陽性であるNSCに由来するエクソソームに関する。
【0139】
一実施形態では、本発明は、静脈内注射、鼻腔内送達、またはくも膜下腔内投与のために、本発明の方法によって取得されたNSCに由来するエクソソームに関する。
【0140】
動的細胞培養懸濁液
懸濁培養バイオリアクターは、制御されかつ再現可能な培養システムでの幹細胞および/またはその子孫の大規模な増殖および分化を可能にする。これらのシステムは、温度、pH、および酸素濃度などの条件が監視および制御できる均質な培養環境を提供する。さらに、これらのシステムは、一貫した培養条件下で、かつ培養変動性を最小限にして、多数の細胞の産生を可能にする。
【0141】
さらなる実施形態では、動的細胞培養物は、約5rpm~約80rpm、好ましくは約20rpm~約70rpm、より好ましくは約40rpm~約60rpmの速度で攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、約30rpm~約100rpm、好ましくは約40rpm~約90rpm、より好ましくは50rpm~約80rpmの速度で攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、約5rpm~約80rpm、好ましくは約20rpm~約70rpm、より好ましくは約40rpm~約60rpmの速度で攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、約50rpm~約80pmの速度で攪拌される。一実施形態では、懸濁培養物は、約60rpm~約70rpmの速度で攪拌される。
【0142】
培養培地/組成物
微生物または細胞の増殖を支持するように設計された固体、液体、または半固体。さまざまな種類の商業用培地が、さまざまな種類の細胞を増殖させるために使用される。
【0143】
本発明の別の態様では、NSC株を維持および増殖させる方法であって、基材上でNSCを培養する工程と、NSCが神経ロゼットを再形成することを可能にする工程と、NSCを単一細胞懸濁液に解離させる工程と、NSCをROCK阻害剤と接触させる工程と、NSCを第2の基材上にリプレーティングする工程と、を含む、方法が提供されている。「第2の基材」という用語は、基材が、第1の基材と同一であってもよいことを意味する。第2の基材は、細胞外基質などの同じまたは異なるコーティングを有してもよい。好ましい実施形態では、NSCが神経ロゼットを再形成することを可能にする工程において、NSCはまた、NSCを単一細胞懸濁液に解離させる工程の前に、コンフルエンシーに到達することも可能にされる。「コンフルエンシー」という用語は、培養培地中の細胞の増殖の尺度として解釈され、基本的には培養容器の被覆度を指す。本明細書で使用される場合、100%コンフルエンシーは、例えば、皿が細胞によって実質的に覆われることを意味する。一実施形態では、NSCは、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%のコンフルエンシーに到達することが可能である。好ましくは、NSCは、100%のコンフルエンシーに到達することが可能である。本明細書で使用される場合、NSC株の維持および増殖させる方法に従って工程を実施することは、継代と呼ばれる。実施形態では、少なくとも3継代、好ましくは少なくとも5継代、より好ましくは少なくとも10継代、さらにより好ましい少なくとも15継代について、NSC株を維持し、増殖させるために工程が繰り返される。通常、最初の3継代が最も重要である。一部は、初期の3~4継代後のみに確立された株を指す場合がある。
【0144】
さらなる実施形態では、NSC株を維持および増殖させるために工程が繰り返される。一実施形態では、ROCK阻害剤は、Y-27632である。一実施形態では、ROCK阻害剤の濃度は、約0.5μM~約50μM、好ましくは約5μM~約25μM、さらにより好ましくは約10μMである。
【0145】
最終的な態様では、PSCからインビトロで神経幹細胞を取得するための方法であって、PSCを、単一細胞または約50個未満の細胞を含む凝集体に解離させる工程と、懸濁培養でPSCを培養する工程と、懸濁液中のPSCが自然発生的にNECSを形成することを可能にする工程と、PSCを神経幹細胞に分化させる工程と、を含む、方法が開示される。
【0146】
一実施形態では、凝集体は、40個未満の細胞、好ましくは30個未満の細胞、より好ましくは20個未満の細胞、さらにより好ましくは10個未満の細胞を含む。一実施形態では、NSCは、懸濁培養中でプレーティングまたは維持されてもよく、および/またはさらに分化されてもよい。当業者は、所望の最終生成物に応じて、さらなる分化のための確立されたプロトコルを容易に認識するであろう。
【0147】
特定の実施形態
本発明は、以下の非限定的な実施形態によってさらに説明される。
1.多能性幹細胞(PSC)から神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、
・懸濁培養において当該PSCを、ROCKiおよび単一のSMAD阻害剤と接触させる工程、
・懸濁液中の当該PSCが、三次元細胞凝集体を自然発生的に形成することを可能にする工程、
・動的細胞培養懸濁液中で、当該三次元細胞凝集体が、500μm未満の直径の神経外胚葉球に分化することを可能にする工程、
・当該神経外胚葉球が、神経ロゼットを形成することを可能にする工程であって、前記神経ロゼットが神経外胚葉細胞を含む、工程を含む、方法。
2.当該神経ロゼットが、維持されて神経幹細胞(NSC)株へ増殖することを可能にされる、実施形態1に記載の方法。
3.単一のSMAD阻害剤が、RepSoxまたはGW788388である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
4.RepSoxが、約20μM~約60μMの濃度にあるか、またはGW788388が、約0.1ng/ml~約20ng/mlの濃度にある、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
5.当該神経外胚葉細胞が神経幹細胞である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
6.当該神経幹細胞が、OTX2/PAX6に対して少なくとも80%二重陽性である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
7.当該神経幹細胞が、PAX6/SOX2に対して少なくとも80%二重陽性である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
8.当該神経幹細胞が、OTX2/PAX6/SOX2に対して少なくとも80%三重陽性である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
9.当該神経幹細胞が、OTX2/PAX6/SOX2/FOXG1に対して少なくとも80%四重陽性である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
10.インビトロ神経幹細胞を取得するための方法であって、
・PSCを単一細胞に解離させる工程、
・懸濁培養において当該PSCを、ROCKiおよび単一のSMAD阻害剤と接触させる工程、
・懸濁液中のPSCが、三次元細胞凝集体を自然発生的に形成することを可能にする工程、
・動的細胞培養懸濁液中で、当該三次元細胞凝集体が、500μm未満の直径の神経外胚葉球に分化することを可能にする工程、
・NECS含有神経外胚葉細胞を基材上にプレーティングするか、または任意選択的にNECS含有NSCを解離させる工程、
・NSCが、神経ロゼットを形成することを可能にし、NSCを維持および増殖させて手動での採取および分離を必要とせずにNSC株を確立する工程を含む、方法。
11.PSCが、0日目に単一細胞に解離される、先行する実施形態に記載の方法。
12.PSCが、PSCをトリプシンおよび/またはTrypLE Selectなどの細胞解離剤と接触させることによって単一細胞に解離される、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
13.ROCK阻害剤の濃度が、約0.5μM~約50μM、好ましくは約5μM~約25μM、さらにより好ましくは約10μMである、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
14.ROCK阻害剤が、Y-27632である、実施形態7または13に記載の方法。
15.PSCが、約0.5μM~約50μM、好ましくは約5μM~約25μM、さらにより好ましくは約10μMの濃度で、0日目にPSCを単一細胞懸濁液に解離させる工程の後、約1日間、ROCK阻害剤と接触させる、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
16.ROCK阻害剤の濃度が、約1日目から徐々に低下する、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
17.懸濁培養物を攪拌させる工程をさらに含む、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
18.懸濁培養物が、約0日目、1日目、2日目、または3日目から攪拌され、好ましくは、懸濁培養物が約1日目から攪拌される、実施形態17に記載の方法。
19.懸濁培養物が、NSCをプレーティングする工程まで攪拌される、実施形態17または18に記載の方法。
20.懸濁培養物が、ROCK阻害剤の濃度を徐々に低下させ始めるときに攪拌される、実施形態16および17に記載の方法。
21.懸濁培養物が、振とうによって攪拌される、実施形態17~20のいずれか一つに記載の方法。
22.懸濁培養物が、約5rpm~約80rpm、好ましくは約20rpm~約70rpm、より好ましくは約40rpm~約60rpmの速度で攪拌される、実施形態17または21に記載の方法。
23.PSCが、増殖および自然凝集を介して、NECSを実質的に形成する、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
24.NECSをプレーティングする工程の前に少なくとも90%のNECSが、500μm未満の直径を有し、好ましくは、NSCをプレーティングする工程の前にNECSが、500μm未満の直径を有する。先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
25.NSCをプレーティングする工程の前に少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%のNECSが、400μm未満の直径を有し、好ましくは、NSCをプレーティングする工程の前に少なくとも80%のNECSが、400μm未満の直径を有し、より好ましくは、NSCをプレーティングする工程の前に少なくとも90%のNSCが、400μm未満の直径を有する、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
26.NSCをプレーティングする工程の前に少なくとも50%、60%、70%、80%、90%のNECSが、300μm未満の直径を有し、好ましくは、NSCをプレーティングする工程の前に少なくとも80%のNECSが、300μm未満の直径を有する、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
27.PSCのNSCへの分化が、0日目に開始される、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
28.PSCのNSCへの分化が、PSCを単一細胞懸濁液に解離させた直後に開始される、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
29.PSCが、RepSoxなどのTGFβR1/ALK5受容体の阻害剤と接触する、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
30.PSCが、GW788388などのTGFβ2型受容体/ALK5受容体の阻害剤と接触する、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
31.RepSoxの濃度が、約1μM~約200μM、好ましくは約10μM~約100μM、より好ましくは約20μM~約80μM、より好ましくは約30μM~約70μM、より好ましくは約40μM~約60μM、より好ましくは約45μM~約55μM、さらにより好ましくは約50μMである、実施形態29に記載の方法。
32.PSCが、0日目からNSCを増殖させる工程までRepSoxと接触する、実施形態29~31のいずれか一つに記載の方法。
33.NSCが、細胞外基質を含む基材上にプレーティングされる、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
34.細胞外基質が、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、およびラミニン、またはこれらの組み合わせ、および/またはこれらの断片からなる群から選択される、実施形態33に記載の方法。
35.細胞外基質が、ラミニンである、実施形態34に記載の方法。
36.ラミニンが、ラミニン-521およびラミニン-511、またはこれらの組み合わせ、またはこれらの断片からなる群から選択される、実施形態35に記載の方法。
37.PSCが、約5~約15日間、好ましくは約10日間、分化することが可能である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
38.NSCが、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%のNSCがマーカーSOX2を発現する時に、プレーティングされる、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
39.当該神経幹細胞が、OTX2/PAX6に対して少なくとも80%二重陽性である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
40.当該神経幹細胞が、PAX6/SOX2に対して少なくとも80%二重陽性である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
41.当該神経幹細胞が、OTX2/PAX6/SOX2に対して少なくとも80%三重陽性である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
42.当該神経幹細胞が、OTX2/PAX6/SOX2/FOXG1に対して少なくとも80%四重陽性である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
43.NSCが、約4日後~約15日後、好ましくは約5日後~約10日後、より好ましくは約5日後~約8日後、さらにより好ましくは約6日後にプレーティングされる、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
44.NSCを維持および増殖させる工程が、NSCをプレーティングしてから約3日~約8日後、好ましくは、NSCをプレーティングしてから約3日~約5日後、より好ましくは、NSCをプレーティングしてから4日後に開始される、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。。
45.方法が、神経ロゼットを単離する工程を含まない、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
46.方法が、NSCを維持および増殖させるために神経ロゼットを手動で選択する工程を含まない、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
47.実質的にすべての形成された神経ロゼットが、維持可能であり、増殖可能である、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
48.実質的にすべての形成された神経ロゼットが、維持および増殖させられる、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
49.PSCが、0日目から1日目まで、第1の細胞培養培地で培養される、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
50.第1の細胞培養培地が、Nutristemである、実施形態49に記載の方法。
51.PSCが、1日目から第2の細胞培養培地で培養される、実施形態49または50に記載の方法。
52.第2の細胞培養培地が、DMEM/F12である、実施形態51に記載の方法。
53.1日目からの細胞培養培地が、約0.1%(v/v)~約5%(v/v)、好ましくは約0.5%(v/v)~約2.5%(v/v)、より好ましくは約1%(v/v)の濃度のN2サプリメントを含む、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
54.NSCが、約0.01%(v/v)~約5%(v/v)、好ましくは約0.5%(v/v)~約2.5%(v/v)、より好ましくは約0.1%(v/v)の濃度でB27を含む細胞培養培地で維持および増殖される、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
55.NSCを増殖させる工程が、
-プレーティングされたNSCを単一細胞懸濁液に解離させる工程、
-NSCをROCK阻害剤と接触させる工程、
-第2の基材上に単一細胞懸濁液中のNSCをリプレーティングする工程、および
-NSCが神経ロゼットを再形成することを可能にする工程をさらに含む、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法。
56.神経幹細胞(NSC)株の維持および増殖させるために、さらなる工程が繰り返される、実施形態55に記載の方法。
57.NSCが、NSCをトリプシンおよび/またはTrypLE Selectなどの細胞解離剤と接触させることによって、単一細胞懸濁液に解離される、実施形態55または56に記載の方法。
58.ROCK阻害剤の濃度が、約0.5μM~約50μM、好ましくは約5μM~約25μM、さらにより好ましくは約10μMである、実施形態55~57のいずれか一つに記載の方法。
59.ROCK阻害剤が、Y-27632である、実施形態55~58のいずれか一つに記載の方法。
60.多能性幹細胞(PSC)から神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、
-PSCをRepSoxと接触させる工程、および
-PSCが神経外胚葉細胞に分化することを可能にする工程を含む、方法。
61.神経外胚葉細胞が、神経幹細胞(NSC)である、実施形態60に記載の方法。
62.RepSoxの濃度が、約10μM、20μM、30μM、40μM、好ましくは約40μMよりも高い、実施形態60または61に記載の方法。
63.RepSoxの濃度が、約200μM未満、150μM未満、100μM未満、90μM未満、80μM未満、70μM未満、60μM未満、好ましくは60μM未満である、実施形態60~62のいずれか一つに記載の方法。
64.RepSoxの濃度が、約1μM~約200μM、好ましくは約10μM~約100μM、より好ましくは約20μM~約80μM、より好ましくは約30μM~約70μM、より好ましくは約40μM~約60μM、より好ましくは約45μM~約55μM、さらにより好ましくは約50μMである、実施形態60~63のいずれか一つに記載の方法。
65.PSCが、BMP阻害剤と接触しない、実施形態60~64のいずれか一つに記載の方法。
66.PSCが、Nogginと接触しない、実施形態60~64のいずれか一つに記載の方法。
67.PSCが、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の阻害剤と接触しない、実施形態60~65のいずれか一つに記載の方法。
68.細胞外小胞を産生するための、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法に従って取得された神経幹細胞(NSC)株の、使用。
69.実施形態1~59のいずれか一つに記載の方法に従って取得された神経幹細胞(NSC)株からエクソソームを作製する方法であって、
-NSCが細胞外小胞を産生することを可能にする工程、および
-細胞外小胞を単離する工程を含む、方法。
エクソソームを産生するための、先行する実施形態のいずれか一つに記載の方法に従って取得された神経幹細胞(NSC)株の、使用。
70.実施形態1~59のいずれか一つに記載の方法に従って取得された神経幹細胞(NSC)株からエクソソームを作製する方法であって、
-NSCがエクソソームを産生することを可能にする工程、および
-エクソソームを単離する工程を含む、方法。
71.実施形態0に記載の方法に従って取得された、エクソソーム。
72.医薬として使用するための実施形態71に記載のエクソソーム。
73.神経変性障害の治療に使用するための、実施形態72に記載のエクソソーム。
74.神経変性障害が、脳卒中、外傷性脳損傷(TBI)、およびアルツハイマー病から選択される、実施形態73に記載のエクソソーム。
75.神経幹細胞(NSC)株を維持および増殖させるための方法であって、
-基材上でNSCを培養する工程、
-NSCが神経ロゼットを再形成することを可能にする工程、
-NSCを単一細胞懸濁液に解離させる工程、
-NSCをROCK阻害剤と接触させる工程、および
-第2の基材上にNSCをリプレーティングする工程を含む、方法。
76.神経幹細胞(NSC)株を少なくとも5継代、好ましくは少なくとも10継代維持および増殖させるために、工程が繰り返される、実施形態75に記載の方法。
77.、NSCを単一細胞懸濁液に解離する工程の前に、NSCがコンフルエンシーに到達することが可能である、実施形態75または76に記載の方法。
78.NSCが、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%のコンフルエンシーに、好ましくは少なくとも90%のコンフルエンシーに到達することが可能である、実施形態77に記載の方法。
79.ROCK阻害剤の濃度が、約0.5μM~約50μM、好ましくは約5μM~約25μM、さらにより好ましくは約10μMである、実施形態75~78のいずれか一つに記載の方法。
80.ROCK阻害剤が、Y-27632である、実施形態75~79のいずれか一つに記載の方法。
81.多能性幹細胞(PSC)からインビトロで神経幹細胞を取得するための方法であって、
-PSCを、単一細胞または約50個未満の細胞を含む凝集体に解離させる工程、
-懸濁培養で前記PSCを培養する工程、
-懸濁液中のPSCが(NECS)を自然発生的に形成することを可能にする工程、および
-PSCを神経幹細胞に分化させる工程を含む、方法。
82.凝集体が、40個未満の細胞、好ましくは30個未満の細胞、より好ましくは20個未満の細胞、さらにより好ましくは10個未満の細胞を含む、実施形態81に記載の方法。
83.NSCが、懸濁培養物中でプレーティングまたは維持されてもよく、および/またはさらに分化されてもよい、実施形態81または82に記載の方法。
84.実施形態1~67のいずれか一つに記載の方法によって取得された、高純度の神経外胚葉細胞集団。
85.医薬として使用するための神経細胞または神経膠細胞へのさらなる分化のための、実施形態84に記載の高純度の神経外胚葉細胞集団。
86.当該神経細胞もしくは神経膠細胞、または幹細胞に由来する組織もしくは器官を、それを必要とする対象に移植することによって神経変性障害の治療に使用するための、実施形態85に記載の神経幹細胞または神経膠細胞。
87.組織または臓器を再生および/または修復および/または構築するためのキットであって、当該キットが、
i.デバイスと
ii.神経細胞もしくは神経膠細胞へのさらなる分化のための、実施形態10~12による神経外胚葉細胞集団、または実施形態7~9のエクソソームもしくはエクソソーム集団と、
iii.生体適合性の足場またはマトリックスと、
iv.少なくとも1つの増殖因子またはその機能的断片と、
v.ROCK阻害剤および/またはRepSoxまたはGW788388などの単一のSMAD阻害剤からなる群から選択される薬剤と、
任意選択的に、任意の細胞培養またはそれに由来する組織もしくは臓器を含む細胞を、調製、維持、および/または使用するための指示書と、を含む、キット。
【0148】
本発明は、以下の非限定的実施形態によってなおさらに説明される。
89.多能性幹細胞(PSC)からインビトロで神経幹細胞(NSC)株を取得するための方法であって、
-PSCを単一細胞に解離させる工程、
-懸濁培養物中で前記PSCを培養する工程、
-懸濁液中のPSCが(NECS)を自然発生的に形成することを可能にする工程、
-PSCをNSCに分化させる工程、
-任意選択でNSCを解離させる工程、
-基材上にNSCをプレーティングする工程、
-NSCが神経ロゼットを形成することを可能にする工程、および
-NSCを維持および増殖させてNSC株を確立する工程を含む、方法。
90.PSCが、PSCを単一細胞懸濁液にする工程でROCK阻害剤と接触する、実施形態89に記載の方法。
91.懸濁培養物を攪拌させる工程をさらに含む、実施形態89~90に記載の方法。
92.懸濁培養物が、約1日目から攪拌される、実施形態91に記載の方法。
93.PSCが、増殖および/または非強制的凝集によってNECSを形成する、実施形態89~92に記載の方法。
94.NECSをプレーティングする工程の前に、NECSが500μm未満の直径を有する、実施形態89~92に記載の方法。
95.PSCが、約1μm~約100μmの濃度のRepSoxと接触する、実施形態89~94に記載の方法。
96.NSCを増殖させる工程が、
-プレーティングされたNSCを単一細胞懸濁液に解離させる工程、
-NSCをROCK阻害剤と接触させる工程、
-第2の基材上に単一細胞懸濁液中のNSCをリプレーティングする工程、および
-NSCが神経ロゼットを再形成することを可能にする工程をさらに含む、実施形態89~95に記載の方法。
97.神経幹細胞(NSC)株を少なくとも10継代維持および増殖させるために、NSCを増殖させるさらなる工程が繰り返される、実施形態96に記載の方法。
98.細胞外小胞を産生するための、実施形態89~97のいずれか一つに記載の方法に従って取得された神経幹細胞(NSC)株の、使用。
99.エクソソームを産生するための、実施形態89~97のいずれか一つに記載の方法に従って取得された神経幹細胞(NSC)株の、使用。
100.多能性幹細胞(PSC)から神経外胚葉細胞を取得するための方法であって、
-PSCをRepSoxと接触させる工程、および
-PSCが神経外胚葉細胞に分化することを可能にする工程を含み、
RepSoxの濃度が、約40μM~約60μMである、方法。
101.神経外胚葉細胞が、神経幹細胞(NSC)である、実施形態100に記載の方法。
102.PSCが、Nogginと接触しない、実施形態100または101に記載の方法。
103.神経幹細胞(NSC)株を維持および増殖させる方法であって、
-基材上でNSCを培養する工程、
-NSCが神経ロゼットを再形成することを可能にする工程、
-NSCを単一の懸濁液にする工程、
-NSCをROCK阻害剤と接触させる工程、および
-第2の基材上にNSCをリプレーティングする工程を含み、
これらの工程が少なくとも10継代にわたって繰り返される、方法。
104.ROCK阻害剤の濃度が、約0.5μM~約50μMである、実施形態90~95および103のいずれか一つに記載の方法。
【実施例0149】
以下は、本発明を実施するためのプロトコルの非限定的な例である。
【0150】
略語リスト
サイクル閾値(CT)値、
DMEM/F12(ダルベッコ変法イーグル培地/ハムF-12培地)
医薬品製造品質管理基準(Good manufacturing practice)(GMP)、
細胞・組織医薬品品質管理基準(Good tissue practices)(GTP)、
ヒト胚性幹細胞(hESC)、
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)、
ヒト多能性幹細胞(hPSC)、
ヒト組換えラミニン(hrLN)
ラミニン(LN)、
神経幹細胞(NSC)
神経外胚葉球(NECS)
オルソデンティクルホメオボックス2(OTX2)、
ペアボックス6(PAX6)、
多能性幹細胞(PSC)
リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
Rho関連多重コイル含有キナーゼ(ROCK)、
Rho関連多重コイル含有キナーゼの阻害剤(ROCKi)、
Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)、
【0151】
一般的な調製方法
hESCの培養
内部で生成されたhESC株を、5%COインキュベーターにおいて37℃で、NutriStem hPSC XF培地(Biological Industries)中のヒト組換えラミニン(hrLN)コーティングプレート(Biolaminin 521 LN、Biolamina)上に維持し、3~5日毎に1:10~1:20の比率で酵素的に継代した。継代のために、コンフルエント培養物を、カルシウムおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1回洗浄し、TrypLE Select(GIBCO、Thermo Fisher Scientific)を用いて5分間、37℃でインキュベートした。次いで、酵素を慎重に除去し、細胞を、穏やかにピペットで移すことによって新鮮なNutriStem hPSC XF培地中に収集して、単一細胞懸濁液を得て、必要な体積を新鮮なhrLN-521コーティングされた皿上にプレーティングした。継代後、培地を、新鮮な予熱したNutriStem hPSC XF培地で置き換え、毎日交換した。
【0152】
実施例1:NECSおよびロゼット形成のための分化プロトコル
PSCの神経誘導、およびそれに続く生成とNSC株の確立に使用される実験プロトコルは、大まかに3つの主要段階に分けられる:神経外胚葉誘導およびNECS形成、NECSプレーティングおよびロゼット形成、ならびに最終的に細胞を増殖培地中でリプレーティングすることによるNSC株の確立。プロトコルを図1に概略的に示す。
50~90%のコンフルエントなhESCをPBS-/-で洗浄し、TrypLE(商標)Select(Gibco)を用いて37℃でおよそ5分間、単層培養物から解離させて、単一細胞懸濁液を得た。hESCの単一細胞懸濁液を、10μM ROCKi(Y-27632)で補充されたNutriStem(登録商標)中に再懸濁し、標準として1mL当たり1×10-2×10細胞の細胞密度の1mLを、12ウェルプレートの1つの単一ウェル(約3.5cm)に播種した(0日目)。
【0153】
1日目に、培地の約50%を、20U/mLのペニシリン-ストレプトマイシン、1%のN-2サプリメント(Gibco(商標))、および異なる濃度のGW788388またはRepSoxをROCKiなしで補充したDMEM/F12 GlutaMAX(商標)サプリメント(Gibco(商標))からなるNECS培地と交換した。環状のNECS形成を開始するため、プレートを1~6日目から、様々な速度、タイムスロット、レベルおよび角度で、Multi Bio 3D Mini-shaker(BioSan)に配置した。一例として、一つの最適な状態は以下のとおりである、
-速度:40~60rpm
-角度(回転角度):240~360度、10~15秒
-振動(揺動角度):5度、3~5秒。
【0154】
NECS培地は、培地の半分を除去し、新鮮な培地を追加することによって毎日交換された。静的培養と動的培養との比較を図2に示し、動的条件によって形成される小さく均一な構造を示す。RepSox条件とGW788388条件を比較すると、RepSoxを用いた処理はより透明なNECSを生成し、密度の低い三次元構造を示している(図3)。動的条件で6日後、すべてのNECSを収集し、ラミニンをコーティングした48ウェルプレート上に2Dでプレーティングした。コーティングについては、1:50天然マウスラミニン(L2020-1MG、シグマアルドリッチ、1mg/ml)は良好であったが、ラミニンのタイプはLN-521またはLN-511(BioLamina)にも拡張することができる。7日目から10日目まで、2Dで付着した状態で、すべての培地を除去し、細胞を新鮮なNECS培地で再供給した。異なる工程の例を図4に示し、3日後(動的懸濁液)、8日後(2Dの神経ロゼット)、および10日後(単一細胞解離前)の画像を示すことができる。神経ロゼットは、RepSox条件で10日目まではっきりと見え(図5を参照)、細胞はNES陽性であり、各神経ロゼットは陽性のZO1ルーメンを示した。
【0155】
ここで使用した特定の細胞hESC株では、RepSoxの効果は、GWと比較して神経ロゼット構造の形成に優れているようである(図6)。図7および8に示されるように、25μMおよび50μMのRepSoxの濃度が、NES陽性細胞および各ロゼットの中心に位置するZO1を有する神経ロゼットの均質集団を取得するのに最適であった。濃度が低いほど、明確な効果はなかった。図9および10は、50μMのRepSoxを用いて神経ロゼットを生成するための4つの独立した実験(r1~4)を示し、記載方法の再現性を示している。
【0156】
結論として、NSCは、単一のSMAD阻害剤RepSoxを用いて、非常に効果的かつ再現性の高い方法で効率的に産生することができる。SMAD阻害剤GW788388を使用できる可能性がある。
【0157】
実施例2:神経ロゼットを産生するためのNECSサイズの推定
図9および10に示す4つの独立した実験について、6日目にNECS収集し、穏やかに再懸濁し、200μLのNECS懸濁培養物の試料を200μLのPBS中で希釈した。直径、サイズ分布、NECS数、および真円度を決定した。例えば、Biorep(登録商標)Islet Counterおよびその関連ソフトウェア(Biorep Technologies)を使用した。BioRep(登録商標)は、個々の島(islet)の面積を計算するデジタル画像分析にかけられる高解像度画像によって島を定量化する。次いで、計算された面積を、個々の直径(d=2(A/π)1/2)および50μmの増分群分類による試料のサイズ分布を含む、島のいくつかの特性を推定するために使用する(Buchwald et al.,2016)。
【0158】
測定前に、試料を8の字に移動させて、凝集体を分散させ、最適な検出ができるようにした。さらに、すべてのNECSがソフトウェアによって自動的に検出されない場合、選択ツールを用いてデータに明確に除外されたNECSが追加された。
【0159】
NECSの直径を50μmのビンに分類し、図形的分布(figurative distribution)を評価することによって、NECSの均質性を調べた(図11)。グラフに示すように、400μm未満のNECS直径は、すべての細胞がNES陽性であった神経ロゼットの形成において同様の影響を及ぼした。例えば、静的培養によって取得されたより大きな直径は、悪影響を及ぼし、NES陰性細胞の一部を産生した(図12)。
【0160】
結論として、NECSの直径サイズは、細胞純度に強力かつ直接的な影響を及ぼし、400μm未満がNSCの高い均質集団を取得するための理想的なサイズである。
【0161】
実施例3:NSC株の増殖と確立
10日目に、神経ロゼットは完全に規定された。細胞をPBS-/-で洗浄し、予熱したTrypLE(商標)Select(37℃)で処理し、37℃で5~10分間インキュベートした。細胞を、予熱された規定されたトリプシン阻害剤(GibcoからのDTI)中に穏やかに再懸濁し、20U/mLのペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)、1%N-2サプリメント(Gibco(商標))、および10μmのROCKi(Y-27632)で補充されたDMEM/F12 GlutaMAX(商標)サプリメント(Gibco(商標))からなる「洗浄培地」に移し、これを3分間、1200rpmで遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、ペレットを、10μM ROCKi(Y-27632)で補充された、20U/mLのペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)、1%N-2サプリメント(Gibco(商標))、10μg/L bFGF、10μg/L EGF、1% B-27サプリメント(Gibco(商標))で補充されたDMEM/F12 GlutaMAX(商標)サプリメント(Gibco(商標))からなる神経増殖培地に再懸濁した。次に、細胞懸濁液を、1:50の天然マウスラミニン(L2020-1MG、Sigma-Aldrich、1mg/ml)でコーティングされた培養プレートに播種した。
【0162】
このプロセスを、1日1回、次の2~4日間繰り返した。その後、細胞をTrypLE(商標)Selectで洗浄し、室温で2~4分間インキュベートする、より穏やかな解離法が実施され、次いでDTI中に再懸濁した。残りの工程は、上述の方法と同じ方法に従った。分割ごとに、NSCはウェルで分配され、これは2倍の培養領域、すなわち1:2の分割にほぼ対応していた。NSCは、ロゼットを形成する前に分割されなかった。通常、NSCがロゼットを形成するには2~3日かかる。NSCが分割されなかった日には、培地を除去し、新たに調製された培地をROCKi(Y-27632)なしで添加した。
【0163】
継代数ナンバリングは、培養を6ウェル形式に増殖させた時、すなわち、この場合、9日間にわたって5分割した後に開始された。
【0164】
10日目に成功したロゼット形成後、細胞を解離させ、NSC株を確立するためにリプレーティングした。NSCを36日間にわたって増殖させ、約3~4日の倍加時間で、1×10個の細胞から1×10個の細胞を超えて比例的に増殖させ、継続的な拡張性を示した(図13)。解離後、NSCはロゼット形成傾向を維持し、NSCマーカーNES、PAX6、OTX2、およびSOX2の発現を維持した(図14~15)。すべての細胞はSOX2陽性であった。ZO-1の顕著な中心/ルーメン局在を有する典型的なロゼット様構造は、いくつかの継代培養後に保持され、複数の小さな均一なロゼットが観察された(図14および15、継代数5との比較)。解離後のロゼット形成傾向を維持するこれらのNSCの能力は、図16にも見られ、継代数12に対応する。NSCは、NESに対して陽性であり、ルーメン内のZO1位置を有する複数の神経ロゼットを形成する(図16)。さらに、NSCは、NSCマーカーPAX6およびSOX2を含む神経マーカーも継続的に発現していた。
【0165】
凍結保存の場合、細胞は解離され、上述のように単離される。次いで、細胞をSTEM-CELLBANKER(登録商標)(Zenoaq)中に再懸濁し、-80℃で24時間保存してから、バイアルをNタンクに移す。
【0166】
NSCは、前部マーカーFOXG1およびOTX2について継代12で依然として陽性であり(図17)、前部(前脳)の同一性を示す。この同一性はまたmRNAレベルで分析し、25および50μMのRepSoxで生成された2つの株を比較した(図18)。
【0167】
フローサイトメトリー解析は、この方法で生成された細胞の80%超が、継代3でPAX6マーカーおよびOTX2マーカーに対して二重陽性であったことを示した(図19)。
【0168】
フローサイトメトリー解析は、この方法で生成された細胞の80%超が、継代8でPAX6/OTX2、PAX6/FOXG1、PAX6/SOX2マーカーに対して二重陽性であったことを示した(図20)。
【0169】
収集されたデータは、主要なNSC特性を保持する純粋で増殖可能な細胞株が、二重陽性PAX6/OTX2およびPAX6/SOX2または三重陽性PAX6/OTX2/SOX2に対して80%超の高い割合を保持しながら、我々のプロトコルに従って生成され得ることを示す。
【0170】
実施例4:様々なSMAD阻害剤の比較
表1は、試験された様々な化合物および濃度のスコアを示す。測定されたパラメータは、細胞死、ロゼット形成、2Dでの単層形成、ロゼット構造で形成された上皮の厚さ、およびサイドポピュレーションの非存在(すべての細胞がNESおよびOTX2陽性である)、すなわち細胞集団の純度であった。
【0171】
以下のパラメータを評価し、以下でさらに詳細に説明した。
細胞死:DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)染色によりモニターされる。核濃縮(Pyknosis)、または核凝縮(karyopyknosis)は、壊死またはアポトーシスを受けている細胞の核内のクロマチンの不可逆的な縮合である。蛍光顕微鏡下での目視検査後、0のスコアは、核濃縮核の数が多く、3のスコアは、核濃縮核の数が少ないことを表す。
【0172】
ロゼット数:DAPI、ZO1、およびNES染色によってモニターされる。蛍光顕微鏡下での目視検査後、0のスコアは、神経ロゼット核の数が少なく、3のスコアは、ロゼットの数が多いことを示す。
【0173】
単層形成:明視野およびDAPI染色によってモニターされる。顕微鏡下での目視検査後、3のスコアは、NECS付着後の細胞の平坦な単層を表す。
【0174】
ロゼット円柱上皮の厚さ:DAPI染色によりモニターされる。蛍光顕微鏡下での目視検査後、3のスコアは、神経ロゼットのより広くより厚い円柱上皮を表す。
【0175】
サイドポピュレーション:NESおよびOTX2の特異的染色によってモニターされる。蛍光顕微鏡下での目視検査後、6のスコアはNES陰性細胞の検出がないことを表す。NES陰性細胞のない条件においてのみ、OTX2集団を評価した。これらの場合、3のスコアは、OTX2陰性細胞の検出がないことを表す。
【0176】
以下の化合物および濃度を試験し、前述のパラメータに従って評価した:
-SB431542 10μM
-SB431542+LDN 10μM+10μM
-GW 788388、濃度10ng/mlおよび0.1ng/ml
-RepSox、用量25μMおよび0.25μM
-SB525334、用量10μMおよび0.1μM
-LY2157299、用量10μM
-TEW-7197、用量10μM
-LY2109761、用量2μM
-対照 任意のSMAD阻害剤で未処理
【0177】
実施例5:エクソソーム収集
PAX6/OTX2/SOX2およびhESCに対する三重陽性NSCの少なくとも80%の集団由来の上清を収集し、4℃で1500gで10分間遠心分離して細胞を除去した。ペレットを廃棄し、上清を新しい収集管に移し、エクソソームの精製のために超遠心分離するまで-80Cで保存した。図21は、hESCおよびNSCの両方から収集された上清に存在するエクソソームの分析を示す。サイズ、タンパク質含量および粒子数は、hESCによって産生されるエクソソームとNSCによって産生されるエクソソームの間で異なる。NSCによって産生されるエクソソームの構造は、電子顕微鏡によって画像化される。このデータは、PAX6/OTX2/SOX2に対する三重陽性NSCの少なくとも80%の集団が、エクソソームを生成できることを示している。
【表1】
【0178】
本発明のある特定の特徴が本明細書に例示および記載されているが、ここで、多くの修正、置換、変更、および均等物が当業者に想到されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、本発明の真の精神の範囲内にあるこうしたすべての修正および変更を網羅することを意図していることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【外国語明細書】