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  • 特開-射出成形用金型及び成形方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012009
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】射出成形用金型及び成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/26 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B29C45/26
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022124380
(22)【出願日】2022-07-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】522309001
【氏名又は名称】株式会社アルコム
(72)【発明者】
【氏名】茄子川 直人
(72)【発明者】
【氏名】青澤 約
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK02
4F202CK35
4F202CM02
4F202CM03
(57)【要約】
【課題】 ガスベントの汚れ除去に関わる、金型のメンテナンスの頻度を低減し得る、射出成形用金型とそれを用いた成形方法を、抵コストで提供する。
【解決手段】 キャビティのゲート側に対向する位置にオーバーフローキャビティを設け、キャビティとオーバーフローキャビティを幅がが0.5~30.0mmで、高さが0.3~3.0mmの溝で連通させる。キャビティに充填される成形品と、溝とオーバーフローキャビティに充填されるオーバーフロー成形品は、冷却固化する前に、カットピンで切断し、カットピンはキャビティの内壁の一部を構成するので、成形品の切断痕は視認が困難となる。また、カットピンに対向する位置に設けられる固定側戻りピンには、凹部が設けれているので、溝の部分だけが切り離されて、金型の摺動部などに付着するのを防止でき、金型の開閉動作の支障とはならない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側と可動側を有する射出成型用金型において、前記可動側に、キャビティと、前記キャビティのゲートと略対向する位置の近傍に設けられてなるオーバーフローキャビティと、前記キャビティと前記オーバーフローキャビティを連通させる、幅が0.5~30.0mmで、高さが0.3~3.0mmの溝が設けられ、前記溝が配されてなる位置の前記キャビティに隣接する位置に、前記キャビティ内に形成される成形品と、前記溝と前記オーバーフローキャビティに充填されるオーバーフロー成形品を分離するためのカットピンが配され、前記固定側の前記カットピンに対向する位置に、前記カットピンを元の位置に戻すための固定側戻りピンが設けられ、前記固定側戻りピンには前記キャビティの反対側に凹部が設けられてなることを特徴とする、射出成形用金型。
【請求項2】
前記カットピンまたは前記固定側戻りピン少なくともいずれかの、前記キャビティに配された側の側面は、前記キャビティの内壁の一部を形成してなることを特徴とする、請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記キャビティの前記溝が配された面には、前記溝と前記キャビティの接続面よりも凹んだ凹部をを構成する段差が設けられてなることを特徴とする、請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
前記カットピンは、前記キャビティに充填された溶融高分子材料が固化しない温度で作動することを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の射出成形用金型を用いた、前記成形品の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用の金型に関し、特にガスベントの清掃に係る、メンテナンスの頻度を低減し得る、射出成形用の金型と、その金型を用いた成形方法に関するものである。
【0002】
射出成形は、加熱により溶融した、熱可塑性高分子材料を、金型に彫り込まれたキャビティと称される中空部に高圧で充填し、冷却固化して成形品を得るもので、高い生産性を有し、広汎に行われている。また一部では、熱硬化性の高分子材料の成形にも用いられている。
【0003】
射出成形においては、溶融高分子材料をキャビティ内に充填する際に、キャビティ内の空気や、高分子材料の加熱により発生するガスを、速やかに外部に排出する必要がある。このため、金型の固定側と可動側が接するパーティング面に、深さが数μmで、キャビティと外部を連通する、ガスベントと称する溝を設けるのが必須となっている。
【0004】
しかし、成形を継続していると、前記の溶融高分子材料に由来するガスが、凝縮、凝固して、ガスベントに付着し、甚だしい場合は、ガスベントが詰まり、ガスベントとしての機能を妨げるので、適宜清掃する必要があり、生産性低下の一因となっている。
【0005】
このような課題への解決策として、特許文献1には、キャビティとガスベントとを備える金型を用いて、80℃以上の金型温度T℃で熱可塑性樹脂組成物を射出成形することを含む、成形品の製造方法であって、該射出成形時に、該ガスベント部にて捕集されるガスの総量をc;該ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量をa;該ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量をb;(ここで、a、bおよびcの単位は、μg/熱可塑性樹脂組成物1gである。)としたときに、特定の計算式にて表されるガス焼け発生リスクdの値を、35以下にすることを特徴とする、製造方法が開示されている。
【0006】
しかし、ここに開示されている方法では、真空ポンプなどの機材や、取り回しのための部品が必要であり、金型の構造の複雑化や、それに伴うコスト増に繋がるという問題がある。
【先行技術文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-079945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の課題は、前述の金型のメンテナンスの頻度を低減し得る、射出成形用金型とそれを用いた成形方法を、抵コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題の解決のため、射出成形用金型の構造を、鋭意再検討した結果、なされたものである。
【0010】
本発明の一態様に係る射出成形用金型は、固定側と可動側を有する射出成型用金型において、前記可動側に、キャビティと、前記キャビティのゲートと略対向する位置の近傍に設けられてなるオーバーフローキャビティと、前記キャビティと前記オーバーフローキャビティを連通させる、幅が0.5~30.0mmで、高さが0.3~3.0mmの溝が設けられ、前記溝が配されてなる位置の前記キャビティに隣接する位置に、前記キャビティ内に形成される成形品と、前記溝と前記オーバーフローキャビティに充填されるオーバーフロー成形品を分離するためのカットピンが配され、前記固定側の前記カットピンに対向する位置に、前記カットピンを元の位置に戻すための固定側戻りピンが設けられ、前記固定側戻りピンには前記キャビティの反対側に凹部が設けられてなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る射出成形用金型は、前記カットピンまたは前記固定側戻りピン少なくともいずれかの、前記キャビティに配された側の側面が、前記キャビティの内壁の一部を形成してなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る射出成形用金型は、前記キャビティの前記溝が配された面には、前記溝と前記キャビティの接続面よりも凹んだ凹部を構成する段差が設けられてなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る射出成形用金型を用いた成形方法は、前記カットピンが、前記キャビティに充填された溶融高分子材料が固化しない温度で作動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る射出成形用金型においては、溶融高分子材料が充填されるキャビティの、ゲートと略対向する位置に、通常のガスベントよりも断面積が大きい溝を介して、オーバーフローキャビティが、配されているので、通常のガスベントを有する射出成形用金型に比較すると、ガスベントの清掃のためのメンテナンスの頻度を低減することができる。
【0015】
また、この溝は、通常のガスベントよりも断面積が大きいので、溶融高分子材料が充填され、溝に連通するオーバーフローキャビティに充填される溶融高分子材料とともに、オーバーフロー成形品の一部となるが、本発明に係る射出成形用金型では、成形品が固化してエジェクトされる前に、カットピンにより切断されるので、成形品とは別個にエジェクトされる。
【0016】
しかも、カットピンはキャビティの側壁の一部を構成する構造であり、成形品が固化する前に切断するので、成形品の表面の切断痕は、容易に視認できない程度とすることが可能である。なお、溝の幅を0.5mm~30.0mm、高さを0.3mm~3.0mmと限定したのは、幅が0.5mm未満、高さ0.3mm未満では、溝を設ける効果が不十分となり、幅が30mmを超え、高さが3.0mmを超えると、カットピンによる切断が困難となるからである。
【0017】
また、カットピンと対向する位置には、キャビティの反対側に凹部が設けられた、固定側戻りピンが配されている。この固定側戻りピンは、溝を切断するために突き出したカットピンを元の位置に戻す機能が付与されているが、凹部が設けられているために、溝の部分だけが切り離されて、金型の摺動部などに付着するのを防止できる。このような対策を施さない場合、型開き成形品エジェクトの際に、切り離された溝部の材料がカットピンに付着したまま、次の型締め動作を行い、金型を破損する危険が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】 本発明に係る射出成型金型の一例の全体の断面図
図2図1における破線で囲んだ部分Aの拡大図
図3図2における破線で囲んだ部分Bの拡大図
図4】 エジェクトされる前の、溝がカットされていない状態の、オーバーフロー成形品と成形品が一体化した状態を示す斜視図
図5】 キャビティの溝が配される位置が異なる例を示す図
【0019】
次に、具体的な図を参照しながら、本発明に係る射出成形用金型と、その金型を用いた成形方法の実施の形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る射出成型金型の一例の全体の断面図である。また、図2は、図1における破線で囲んだ部分Aの拡大図であり、図1(a)は、ランナー1からサブマリンゲート2を経由して、キャビティ3に溶融高分子材料が充填され、さらに、キャビティ3から溝4を経由して、オーバーフローキャビティ6まで溶融高分子材料が充填された状態を示す。
【0021】
本発明に係る射出成形の工程においては、図1(b)に示したように、溶融高分子材料が充填された直後の十分冷却固化する前に、カットピン8が、図における上の方向に作動し、溝5に充填された溶融高分子材料と、キャビティ3に充填された溶融高分子材料、つまり成形品が分離される。また、ここに示した例では、キャビティ3の固定側戻りピン7が配された側には、図4に符号13で示した段差11が形成されているので、固定側戻りピン7とキャビティ3の側面が接することはないが、段差11がない場合は、固定側戻りピン7のキャビティ3側の面が、キャビティ3の内壁の一部を構成するように設計する必要がある。
【0022】
図3は、図2における破線で囲まれた部分Bの拡大図で、溝4の端部がカット部12で、成形品と分離されている状態を示す。また、図4は、エジェクトされる前の、溝14がカットされていない状態の、オーバーフロー成形品と成形品が一体化した状態を示す斜視図である。オーバーフロー成形品15を、原料のプラスチックのペレットと同程度の大きさとすることで、そのままリサイクル材として使用できる。
【0023】
その後、エジェクタースリーブ9により、成形品がキャビティの3の外部に突き出され、同時に、溝部4とオーバーフローキャビティ6に充填されたオーバーフロー成形品が、エジェクターピン10a、10bの作動により外部に突き出され、固定側戻りピン7が、図示していない抑えバネにより定位置に戻る。
【0024】
図1において、カットピン8の図における右側の面は、キャビティ3の図における縦方向の外周の左側の面の下方の一部と接しているが、これはカットピン8の図における右側の面が、キャビティ3の外周の一部を構成しているためである。このような構造と、成形体が固化する前に、溝を切断することによる相乗効果で、成形品の溝の切断痕は、目視では視認が困難な程度になる。
【0025】
また図2に示したように、固定側戻りピンのカットピン8と対向する側には、凹部5が設けられているため、溝4に充填された材料のみが分離することなく、オーバーフローキャビティの部分と一体に突き出されるので、次の型締め動作の際の、金型の破損を未然に防止することができる。
【0026】
図5は、キャビティ19の溝20が配される位置が、図1に示したとは例とは異なる例を示す図である。図5こおいて、17はランナー、18はサブマリンゲート、19はキャビティ。20は溝、21は凹部、22はオーバーフローキャビティ、23は固定側戻りピン、24はカットピン、25,26a,26bはエジェクターピンである。この場合は、カットピン24が、キャビティ19の内壁の一部を構成する構造となる。
【0027】
以上に説明したように、本発明によれば、射出成形金型のガスベントの汚れの除去に関わるメンテナンスの頻度が可能となり、生産性向上に寄与する射出成形用金型とそれを用いた成形方法を提供できる。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1,17・・・ランナー 2,18・・・サブマリンゲート
3,19・・・キャビティ 4,14,20・・・溝
5,21・・・凹部
6,15,22・・・オーバーフローキャビティ
7,23・・・固定側戻りピン
8,24・・・カットピン
9,10a,10b,25,26a,26b・・・エジェクターピン
11,13・・・段差部
12・・・カット部 27・・・パーティング面
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
固定側と可動側を有する射出成型用金型において、前記可動側に、キャビティと、前記キャビティのゲートと対向する位置に設けられてなるオーバーフローキャビティと、前記キャビティと前記オーバーフローキャビティを連通させる、幅が0.5~30.0mmで、高さが0.3~3.0mmの溝が設けられ、前記溝が配されてなる位置の前記キャビティに隣接する位置に、前記キャビティ内に形成される成形品と、前記溝と前記オーバーフローキャビティに充填されるオーバーフロー成形品を分離するためのカットピンが配され、前記固定側の前記カットピンに対向する位置に、前記カットピンを元の位置に戻すための固定側戻りピンが設けられ、前記固定側戻りピンには前記キャビティの反対側に凹部が設けられてなることを特徴とする、射出成形用金型。