(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120110
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】線維芽細胞増殖促進剤、SOD様活性剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/618 20150101AFI20240827BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240827BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20240827BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61K35/618
A61P43/00 107
A61P17/18
A61P17/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024106047
(22)【出願日】2024-07-01
(62)【分割の表示】P 2020016817の分割
【原出願日】2020-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000166959
【氏名又は名称】御木本製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(72)【発明者】
【氏名】服部 文弘
(72)【発明者】
【氏名】濱口 雅則
(72)【発明者】
【氏名】前山 薫
(72)【発明者】
【氏名】永井 清仁
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 誠
(72)【発明者】
【氏名】渡部 終五
(72)【発明者】
【氏名】安元 剛
(57)【要約】
【課題】
MITF遺伝子発現抑制、線維芽細胞増殖促進及びSOD様活性作用のある成分を提供する。
【解決手段】
アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物を有効成分とするMITF遺伝子発現抑制剤、線維芽細胞増殖促進剤及びSOD様活性剤。また、MITF遺伝子発現抑制剤、線維芽細胞増殖促進剤及びSOD様活性剤の製造方法として、真珠層を脱灰し、不溶部分から抽出した黄色系色素を分解することを特徴とする製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物を有効成分とする線維芽細胞増殖促進剤。
【請求項2】
アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物を有効成分とするSOD様活性剤。
【請求項3】
線維芽細胞増殖促進剤の製造方法であって、真珠層を脱灰し、不溶部分から抽出した黄色系色素を分解することを特徴とする製造方法。
【請求項4】
SOD様活性剤の製造方法であって、真珠層を脱灰し、不溶部分から抽出した黄色系色素を分解することを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物を有効成分とするMITF遺伝子発現抑制剤、線維芽細胞増殖促進剤及びSOD様活性剤であり、また、MITF遺伝子発現抑制剤、線維芽細胞増殖促進剤及びSOD様活性剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の組成は大きく三つに分類され、外層から表皮、真皮、皮下組織から形成されており、それぞれは身体の恒常維持、外界からの防御など、種々役割を担っている。
【0003】
[1.MITF遺伝子発現]
メラノサイトは皮膚表皮の基底層に存在しており、その細胞内にメラニン生成を担うメラノソームを有している。
MITF遺伝子(microphtalmia-associated transcription factor)は、メラノサイトの色素合成に関わるチロシナーゼならびにTRP1およびTRP2の転写制御を行う制御遺伝子である。しかしながら、単に色素合成に関わるのみならず、メラノサイトの分化、増殖、配置等、メラノサイトの活性全般に関与するマスター遺伝子として機能することが知られている。従って、MITF遺伝子の発現レベルはメラノサイト活性の総合的な指標となり、MITF遺伝子発現を抑制することができる物質を特定することにより、メラニン合成活性のみならずメラノサイトの活性を総合的に抑制することができる物質を特定できると考えられる。
【0004】
[2.線維芽細胞増殖]
また、皮膚真皮の機能は、外界からの衝撃を吸収するいわばクッションの役割を果たしている。このクッションの効果、すなわち、真皮の厚さ、柔軟性が失われると、しわ、たるみの発生が起こり、それは肌の悩みの一つとされる。
真皮の構成成分は主に、コラーゲン、エラスチン、および線維芽細胞でそのほとんどを占めており、コラーゲン、エラスチンの劣化、減少あるいは変性により、はりの消失、しわ、たるみの形成などの老化症状が現れる。健常な真皮中ではコラーゲンおよびエラスチンは古くなったものは吸収・排出される一方、新たにコラーゲンおよびエラスチンが線維芽細胞から生産され、一定した質および量を恒常的に保っている。しかし、年齢を重ねると、外的および内的な要因において、その恒常性は崩れることが知られており、線維芽細胞を増殖することにより、これらを緩和できると考えられる。
【0005】
[3.SOD様作用]
さらに、近年強力な酸化力を持つ活性酸素の生体への影響が懸念されているが、皮膚は体内に起因する酸素ストレスだけでなく、空気と接していることや紫外線に直接曝されていることで、活性酸素による影響が他の器官より遥かに大きいと言える。この酸化ストレスは皮膚に肌あれや過敏症、ひいては皮膚炎症疾患など種々の肌トラブルを引き起こす。よってこの活性酸素の生成を抑えることは、肌の悩みを軽減するに欠かせない要素となっている。
生体内において活性酸素を消去する機構にはいくつか解明されており、最初に生成される・O2
-(スーパーオキサイド)はSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)によって酵素的にH2O2とO2に不均化されることが判っている。しかしSOD量は加齢に伴って減少し、SOD量の減少によってスーパーオキサイドの濃度が上昇し障害をもたらすようになる。よってSODと同様の作用を持つ物質は皮膚における抗酸化剤として有効であると考えられる。
【0006】
[4.真珠養殖とアコヤガイ真珠層]
日本の各地で行われている真珠養殖は、主にアコヤガイ(Pinctada fucata)が母貝として用いられている。その養殖の目的は、宝石をつくることであるため、アコヤガイから宝石としての真珠を取り出した後、貝柱は食用として利用されるほかは、商品として流通しない真珠、貝殻、貝肉などが利用価値のないものとして廃棄される。こうした未利用資源には、まだ我々の知らない未知の価値ある物質が含まれている可能性がある。
アコヤガイ由来の真珠の色調には白色系、黄色系、青色系などがあり、それぞれ特徴的な色合いを示す。このうち、黄色系真珠の色は色素由来の色であることがわかっており、また、色素は一般的に抗酸化などの機能性を持ったものが多い。
そこで、アコヤガイの真珠層に含まれる黄色系色素に着目した。黄色系色素の構造として鉄含有カルサイトを含有することは明らかになっている(特許文献1)が、その他の構成成分は不明であり、また、生化学的諸性状についても不明であり、これを解明することにより有効な利用を目指した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、真珠養殖での廃棄物の有効利用を行い、MITF遺伝子発現を抑制する成分、線維芽細胞増殖を促進する成分及びSOD様活性作用のある成分を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、MITF遺伝子発現を抑制する成分、線維芽細胞増殖を促進する成分及びSOD様活性作用のある成分を得ることで様々な疾患に適用でき、真珠養殖での廃棄物の有効利用ができると考えた。
【0010】
また、真珠養殖での廃棄物のうち、アコヤガイの黄色系の真珠層に着目し、MITF遺伝子発現を抑制する成分、線維芽細胞増殖を促進する成分及びSOD様活性作用のある成分を探索したところ、アコヤガイの真珠層に含まれる黄色系色素の分解物がその効果を有することを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物を有効成分とするMITF遺伝子発現抑制剤、線維芽細胞増殖促進剤及びSOD様活性剤であり、また、MITF遺伝子発現抑制剤、線維芽細胞増殖促進剤及びSOD様活性剤の製造方法として、真珠層を脱灰し、不溶部分から抽出した黄色系色素を分解することを特徴とする製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、MITF遺伝子発現抑制剤、線維芽細胞増殖促進剤及びSOD様活性剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物(実施例-1)のMITF遺伝子発現抑制作用(確認試験-2)を示す図である。
【0014】
【
図2】アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物(実施例-1)の線維芽細胞増殖促進作用(確認試験-3)を示す図である。
【0015】
【
図3】アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物(実施例-1)のSOD様活性作用(確認試験-4)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物による、MITF遺伝子発現抑制作用、線維芽細胞増殖促進作用及びSOD様活性作用に関する。
【0017】
真珠、或いは貝殻真珠層の色は実体色と干渉色(構造色)によって決定される。実体色は真珠に含まれる黄色色素含量の多寡により決定され、黄色系と白色系の真珠に大きく分けられる。
黄色系アコヤ貝とは黄色系真珠を産する可能性があるアコヤ貝のことで、これを選別する方法は、貝殻の内面の真珠層を目視で観察すればよい。
選択された、真珠および/または黄色系アコヤ貝貝殻の処理として、真珠は核を取り除き、アコヤ貝貝殻は稜柱層より外層を取り除くことが望ましい。
稜柱層より外層を取り除く方法として、グラインダーを用いる方法、塩酸を用いる方法(特開昭62-120319号参照)や次亜塩素酸ソーダを用いる方法(特開2006-052183号参照)等が挙げられる。
【0018】
これを粉砕する。粉砕方法はカッターミル、ハンマーミル、ローラミル、クラッシャ、ロータリーカッタ、ボールミル、スクリーンミル、ジェットミル、サイクロンミル等を適宜組み合わせて色素の抽出に必要な大きさまで粉砕する。
【0019】
さらに、真珠や貝殻真珠層の粉末から色素を取り出して利用する。
これは色素のみ取り出す方法もあるが、脱灰のみを行い、コンキオリン等の有効物質を含んだまま色素を取り出し利用する方法もある。いずれにせよ、脱灰する必要がある。
脱灰の方法は、塩酸、酢酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸等の無機酸、有機酸、キレート剤の1種または2種以上を用いて炭酸カルシウムを溶解させ、不溶部分を集め、この不溶部分を利用する。
【0020】
これをさらに精製する。無機酸、有機酸から選択される1種以上の酸の水溶液、または親水性有機溶媒、或いは水と1種以上の親水性有機溶媒の混合溶媒で抽出する。酸は各種利用できるが、その後工程で酸を除去する場合が多いので、除去しやすい塩酸がよく利用される。親水性有機溶媒は例示すればメタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。尚、抽出操作は1回のみの操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶媒を添加し、抽出操作を施すこともできるし、抽出溶媒を複数回抽出原料に接触させることも可能である。この方法により黄色系色素が得られる。
【0021】
得られた黄色系色素を分解する。無機酸、有機酸又は酵素から選択される1種以上を用いて分解する。これらを混合して用いることもできる。抽出に無機酸を用いた場合、同種の無機酸で分解することもできるし、異種の無機酸を用いることもできる。同種の無機酸を用いる場合、抽出に用いた濃度より高濃度で分解を行う。
【0022】
必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭等の精製処理を加えても良く、エバポレーターのような減圧濃縮装置や加熱による溶媒除去などにより、濃縮することもできる。
また、この抽出物を合成吸着剤(ダイヤイオンHP20やセパビースSP825、アンバーライトXAD4、MCIgelCHP20Pなど)やデキストラン樹脂(セファデックスLH-20など)、限外濾過等を用いてさらに精製することも可能である。
【0023】
なお、白色系など、他の色調のアコヤガイからの黄色系色素も利用できる。
【実施例0024】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0025】
実施例-1
アコヤガイから真珠、貝肉を取り除いた貝殻の中から、黄色味を濃く発色した真珠層の貝殻と黄色味の少ない真珠層の貝殻を選別し、黄色系の貝殻をバレル研磨機で粗研磨貝殻を得た。その後、グラインダーで稜柱層を除去し、粉砕して、貝殻真珠層粉末を得た。この粉末を0.5M EDTA溶液(pH8.0)で脱灰後の残渣をさらに90%アセトンで抽出した残渣を得た。得られた残渣を1N 塩酸メタノールに溶解し、抽出液を水酸化ナトリウムで中和すると、黄色色素が沈殿した。この沈殿物を水等で洗浄後、凍結乾燥し黄色系色素を得た。
【0026】
黄色系色素を6N塩酸に溶解し、120℃で72時間保持し、黄色系色素分解物を得た。
【0027】
確認試験-1
黄色系色素又は黄色系色素分解物の粉末1gを1mLの溶媒に加え、溶解性を確認した(温度:25℃)。
【0028】
確認試験-1より、分解前の黄色系色素はエタノール、メタノール、アセトン及び水に不溶だったが、分解物は前記溶媒に可溶であった。結果を表1に示した。
【0029】
【表1】
アコヤガイ由来の黄色系色素及びその分解物(実施例-1)の各種溶媒に対する溶解性(確認試験-1)を示す表である。
【0030】
確認試験-2
ヒトメラノサイトを6well-plateへ4.8×104cell/wellし24時間後に、添加剤を含まない培地にて24時間培養した。その後IBMXを500μMを含む培地へ黄色系色素分解物を各濃度になるように加えたものを試験培地として、細胞へ曝露し3日間培養した。3日後に細胞を破砕しRNAを抽出、逆転写してリアルタイムPCRで発現量を測定した。
使用機器:Applied Biosystems 7500 リアルタイムPCRシステム
使用細胞:ヒトメラノサイト(クラボウ製)
【0031】
確認試験-2より、アコヤガイ由来の黄色系色素分解物(実施例-1)についてMITF遺伝子発現抑制作用(確認試験-2)が確認できた。結果を
図1に示した。
【0032】
確認試験-3
線維芽細胞を24 ウェルプレートに 1.6×103 cells/well になるように播種した。培地(DMEM) で調製した試験品溶液 1ml に交換し5日間培養した。その後、培養液を排除し、MTT 溶液 0.3 ml を添加し、4 時間培養した。その後0.04 N HCl を含む 2-プロパノール 0.3 ml を加え、プレートシェーカーで 5 分間振とうし、プレートリーダーにて 540 nm(対照 630nm)の吸光度を測定した。
使用細胞:ヒト線維芽細胞(クラボウ)
【0033】
確認試験-3より、アコヤガイ由来の黄色系色素分解物(実施例-1)について線維芽細胞増殖促進作用(確認試験-3)が確認できた。結果を
図2に示した。
【0034】
確認試験-4
試験方法:SODテストワコー(和光純薬社製)のプロトコールに従い、SOD様活性を求めた。
【0035】
確認試験-4より、アコヤガイ由来の黄色系色素分解物(実施例-1)についてSOD様活性作用(確認試験-4)が確認できた。結果を
図3に示した。
【0036】
アコヤガイ由来の黄色系色素の分解物をそのまま外用剤としても利用できるが、これに他の原料を配合して外用剤を作成することも可能である。
【0037】
黄色系色素分解物はエタノールや水に可溶で、外用剤に一般的に配合される原料との相溶性が良く、扱いやすい物質であることが示唆された。また、天然由来の黄色色素としての機能もあり、熱に対して安定であることがわかった。