(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120117
(43)【公開日】2024-09-04
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/02 20060101AFI20240828BHJP
【FI】
B32B9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106575
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】521283498
【氏名又は名称】山口 一英
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】山口 一英
(72)【発明者】
【氏名】山口 英子
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AJ07B
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK04
4F100AK07
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100GB15
4F100JC00A
4F100JC00C
4F100JN01
4F100JN06
(57)【要約】
【課題】デンプンを含有することによる問題を一挙に解決し、さらに従来よりも格段に性能の優れた積層体を提供する。
【解決手段】デンプンを主成分とする基材と、前記基材の両面に直接積層された合成樹脂を含有する表面層とを備えることを特徴とする積層体とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンを主成分とする基材と、前記基材の両面に直接積層された合成樹脂を含有する表面層とを備えることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記基材が、高分子成分としてデンプンのみを含有するものである、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記積層体全体に対するデンプンの含有量が50質量%を超えて100質量%を超えない範囲である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記合成樹脂が軟質系のものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記合成樹脂が生分解性プラスチックである、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記合成樹脂がポリエチレン及び/又はポリプロピレンからなるものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプンを含有する積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境を考慮した生分解性素材として、例えば特許文献1に記載するように、デンプンを含有する接着層を備えた積層体が考えられている。
【0003】
前述した積層体は、前述した接着層を介して2枚の積層体を接着し内部に食品などを収容するパウチ等の容器を形成することを目的とするものである。そのため、この積層体によって形成される容器は、食品と直接触れる最内面が前記接着層によって形成されることとなる。このような容器に水分を含む食品を収容する場合には、前記接着面にある程度の耐水性が求められる。前記接着層に耐水性を与える方法としては、前記接着層をデンプンだけではなく、デンプンと合成樹脂との混合物によって形成する方法が考えられる。
【0004】
しかしながら、前述したように接着層などの樹脂層を、デンプンと合成樹脂とを混合して形成すると、デンプンと合成樹脂との反射率の違いによって樹脂層が白濁してしまい、透明性が求められる用途には使用しにくいという問題がある。また、環境負荷を小さくするために前記樹脂層におけるデンプンの含有量を向上させると、前記樹脂層の耐水性が低くなってしまうという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述したような課題に鑑みて本発明者が鋭意検討した結果、デンプンを含有することによる前述した問題を一挙に解決し、さらに従来よりも格段に性能の優れた積層体を作製することに成功して初めて完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る積層体は、デンプンを主成分とする基材と、前記基材の両面に直接積層された合成樹脂を含有する表面層とを備えるものである。
【0008】
このように構成した本発明によれば、デンプンを主成分とする基材と、合成樹脂を含有する表面層とを備えているので、求められる性質を前記表面層によって実現することができる。その結果、例えば、耐水性を持たせるため等の理由で、デンプンと合成樹脂とを混ぜる必要がなく、デンプンと合成樹脂とを混合することによる積層体の白濁を抑えることができる。
【0009】
また、前述した表面層の素材によっては、従来の積層体よりも耐水性を大幅に向上させることも可能である。また、表面層の組成を工夫することによって、酸やアルカリにも強い積層体を作製することも可能である。
【0010】
前記基材の両面に表面層が積層されているので、デンプン特有のにおいが抑えられる。そのため、この積層体を食品などの容器として使用する場合にも、積層体に含有されるデンプンのにおいが移る心配がない。
【0011】
前記基材と該基材の両面に積層された表面層とを備えた積層体とすることによって、従来の積層体よりも強度を向上させることができる。
【0012】
積層体全体に対するデンプンの含有量を従来よりも多くすることが可能であるので、持続可能な素材として非常に魅力的なものとすることができる。
【0013】
基材と表面層とが別々の層に含有されているので、これらを分離すればリサイクルがしやすいという利点もある。
【0014】
さらに、基材と表面層との間に接着層を備えないので、より環境にやさしい積層体とすることができる。
【0015】
前記基材が、高分子成分としてデンプンのみを含有するものであることが好ましい。
また、前記積層体全体に対するデンプンの含有量が50質量%を超えて100質量%を超えない範囲であるものとすることが好ましい。
【0016】
製造をできるだけ容易にするためには、前記表面層が、軟質性の合成樹脂からなるものとすることが好ましい。
前記軟質性の合成樹脂が、生分解性プラスチックであるものとすれば、より環境にやさしい素材にすることができる。
前記生分解性プラスチックの具体例としては、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンからなるものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
デンプンを含有することによる問題を一挙に解決し、さらに従来よりも格段に性能の優れた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層体の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る積層体の性質に関する実験データを示す図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る積層体の性質に関する実験データを示す図である。
【
図4】本発明の一実施例に係る積層体の性質に関する実験データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明について、例を挙げてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0020】
本実施形態に係る積層体100は、
図1に示すように、デンプンを含有する基材1と、該基材1の両面に積層された合成樹脂を含有する表面層2とを備えるものである。
【0021】
前記基材1は、デンプンを主成分とするものであれば特に限定されないが、合成樹脂を含まず高分子成分としてデンプンのみを含有するものであることが好ましい。なお、本明細書において主成分とは、基材1全体の50質量%以上を占める成分を指し、80質量%以上より好ましくは90質量%以上を占める成分のことを意味する。
使用するデンプンの種類は目的に応じて適宜変更が可能であり、天然のデンプンを使用するようにしてもよいし、天然のデンプンを化学的に変性させた変性デンプンを用いるものとしても良い。環境への負荷をできるだけ減らすために、トウモロコシ、キャッサバ、馬鈴薯などの植物由来のデンプンを用いることが好ましい。デンプンは1種類のみを使用しても良いし、複数種類を併用しても良い。
基材1には、例えば、グリセリンなどの添加剤が適宜添加されていてもよい。基材1中のグリセリンの含有量は、例えば、10質量%以上50質量%未満であることが好ましい。
【0022】
積層体100全体に対して基材1が占める割合は50質量%を超え、100質量%よりも小さいものであることが好ましく、51質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
基材1の厚みは積層体100の使用用途によって適宜変更可能である。例えば、1μm以上1000μm以下、より好ましくは10μm以上100μm以下、特に好ましくは20μm以上80μm以下のシートやフィルム状のものとしてもよいし、1mmを超える板状のものとしてもよい。
【0023】
表面層2は、合成樹脂を含有するものであり、例えば、インフレーション法によって成形しやすい、軟質系の合成樹脂を含有するものであることが好ましい。表面層の性質をコントロールしやすいという観点から、表面層は、合成樹脂を主成分とするものであることがより好ましく、合成樹脂からなるものであることが特に好ましい。このような合成樹脂の例としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン等を挙げることができるが、求める性質により他の様々な合成樹脂を使用することが可能である。表面層には、前述したような合成樹脂を1種類のみ使用するものとしてもよいし、複数種類の合成樹脂を併用するものとしてもよい。環境へのより一層の配慮のために、前記合成樹脂として、生分解性プラスチックを使用するものとしてもよい。
積層体100全体に対する表面層2の含有割合は、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
表面層2は、例えば、後述するインフレーション成形などによって接着層を介することなく、基材1の両面に直接積層されており、基材1の両面全体を隙間なく覆うように形成されていることが特に好ましい。
表面層2の厚みは、積層体100における基材1との含有割合に応じて適宜変更することが可能であるが、例えば、1μm以上の厚みがあれば、積層体100に耐水性、防臭性及びその他の機能を与えるなど、その機能を十分に果たすことができる。
表面層2は、本実施形態において積層体100の最外層を形成するものであるが、使用用途等によってはこの表面層2の上にさらに保護層などの別の層を設けるようにしてもよい。
【0024】
本実施形態に係る積層体100は、基材1を形成する基材材料と表面層2を形成する表面層材料をそれぞれ同時に押し出す共押出しを利用したインフレーション成形によって製造することができる。このインフレーション成形に適した基材材料としては、例えば、前述したように高分子成分としてデンプンのみを含有し、添加剤としてグリセリンを含有するものを挙げることができる。このような基材材料としては、例えば、特許第359955号に記載されているような加水分解縮重合デンプンを含有するものが特に好ましい。インフレーション成形のより具体的な方法としては、例えば、インフレーション成形装置において基材材料と、該基材材料をその両面から挟むように押し出された表面層材料とを膨張時に一体化させることができるように、リング状のダイを同心円状に3重に並べて配置するものを挙げることができる。このようにインフレーション成形をすることによって基材1と表面層2との間に接着剤層を備えることなく、基材1の両面に表面層2を積層することができる。
【0025】
本実施形態に係る積層体100は、液体、固体を問わず様々な物品の包装や廃棄用の容器や袋等として広く使用することが可能である。また、容器や袋だけに留まらず、従来ポリエチレンなどのプラスチック素材が用いられている様々な製品について、代替プラスチック素材の代替として使用することが可能である。一例としては、傘の生地(傘地)やビニール手袋、レインコートや医療用ガウンなどの生地としても使用することができる。
【実施例0026】
本発明に係る積層体について、以下に具体的な例を挙げて説明する。
この実施例においては、本発明に係る積層体について、その透明度、引張強度、ガスバリア性などを評価した。
実施例1及び実施例2としては、加水分解縮重合デンプンとグリセリンとからなる基材の表面にポリエチレンからなる表面層をインフレーション形成によって直接積層した積層体を使用した。従来例1及び従来例2としては、実施例1及び2で使用している基材材料25質量%とポリエチレン75%とを混合して100質量%とした混合物からなる樹脂シートを用いた。また、比較対象として、実施例1及び実施例2に使用したものと同じ素材及び厚みの、基材のみ又は表面層のみからなる樹脂シートもサンプルとして用いた。
【0027】
それぞれのサンプルについて、ヘイズ値、全光線透過率、平行線透過率、拡散(散乱)光成分を調べた結果を
図2に示す。測定条件はすべてのサンプルにおいて同一のものとした。
この結果から、本発明に係る積層体である実施例1及び実施例2においては、デンプンと合成樹脂とを混合した従来例1及び従来例2に比べて、透明度が非常に高いことが分かる。また、基材のみ、表面層のみの場合に比べても同等又はそれ以上の透明度を実現できていることが確認できた。
【0028】
次に引張強度について調べた結果を
図3に示す。サンプルとしては
図2と同じものを使用した。この
図3の結果から、本発明に係る積層体である実施例1及び実施例2は、従来例1及び従来例2に比べても強度が十分に高いことが分かる。また、実施例1及び実施例2は、基材のみの場合や表面層のみの場合に比べても強度が十分に高いことが分かった。
【0029】
さらに、ガスバリア性について調べた結果を
図4に示す。なお、この実験で使用している従来例3は基材材料10質量%とポリエチレン90質量%との混合物からなるシートである。従来例4は基材材料20質量%とポリエチレン80質量%との混合物からなるシートである。従来例5は基材材料30質量%とポリエチレン70質量%の混合物からなるシートである。従来例6は基材材料51質量%とポリエチレン49質量%との混合物からなるシートである。
図4の結果から、本発明に係る積層体である実施例1のガスバリア性は、従来例3~6に比べて非常に高いものとなっていることが分かった。
【0030】
さらに前述した実施例1及び実施例2によれば、積層体の表面をポリエチレンからなる表面層で覆っているために、十分な耐水性を発揮させることができることも確かめられている。
以上に述べたように、本発明に係る積層体によれば、デンプンを含有することによる従来の問題点を一挙に解決し、さらに従来よりも格段に性能の優れたデンプン含有積層体を作製することができることが分かった。
【0031】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。