(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120119
(43)【公開日】2024-09-04
(54)【発明の名称】自在継手部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 3/40 20060101AFI20240828BHJP
B21K 1/14 20060101ALI20240828BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240828BHJP
C22C 38/44 20060101ALN20240828BHJP
C22C 38/48 20060101ALN20240828BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240828BHJP
【FI】
F16D3/40 Z
B21K1/14 A
C21D9/00 A
C22C38/44
C22C38/48
C22C38/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111927
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】320005154
【氏名又は名称】日本製鋼所M&E株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000150408
【氏名又は名称】株式会社ナジコ
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】橋 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】菊地 大輔
(72)【発明者】
【氏名】茂木 仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛志
【テーマコード(参考)】
4E087
4K042
【Fターム(参考)】
4E087CB01
4E087DB15
4E087HA22
4K042AA25
4K042BA04
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA13
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA04
4K042DC02
4K042DC03
(57)【要約】
【課題】十字軸の転動部等の自在継手部品の転動疲労寿命の延長を図る。
【解決手段】質量百分率で、C:0.10~0.30%未満、Si:0.05~0.30%未満、Mn:0.20~1.00%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Cr:1.50~2.00%、Mo:0.10~0.50%、Ni:2.50~4.00%、Al:0.01~0.03%、N:0.005~0.015%を有するNiCrMo鋼に対して熱間鍛造、焼準し、焼戻し後、800~930℃×1~100時間のγ化加熱処理を少なくとも1回行うことにより、JIS G0551に準拠した旧オーステナイト結晶粒度を7以上11以下とする自在継手部品の製造方法。前記熱間鍛造を行う前のNiCrMo鋼は、質量百分率で、Mo:0.10~0.30%未満を含有してもよい。前記自在継手部品は、自在継手を構成する十字軸の転動部を有する部品とすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で、C:0.10~0.30%未満、Si:0.05~0.30%未満、Mn:0.20~1.00%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Cr:1.50~2.00%、Mo:0.10~0.50%、Ni:2.50~4.00%、Al:0.01~0.03%、N:0.005~0.015%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するNiCrMo鋼に対して熱間鍛造、焼準し、焼戻し後、800~930℃×1~100時間のγ化加熱処理を少なくとも1回行うことにより、JIS G0551に準拠した旧オーステナイト結晶粒度を7以上11以下とすることを特徴とする自在継手部品の製造方法。
【請求項2】
前記熱間鍛造を行う前のNiCrMo鋼は、質量百分率で、Mo:0.10~0.30%未満を含有することを特徴とする請求項1に記載の自在継手部品の製造方法。
【請求項3】
前記熱間鍛造を行う前のNiCrMo鋼は、さらに質量百分率で、V:0.10%未満を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の自在継手部品の製造方法。
【請求項4】
前記熱間鍛造を行う前のNiCrMo鋼は、さらに質量百分率で、Nb:0.10%未満を含有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の自在継手部品の製造方法。
【請求項5】
前記自在継手部品は、自在継手を構成する十字軸の転動部を有する部品であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の自在継手部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自在継手の構成部品の製造方法に係り、特に自在継手部品の転動疲労寿命の延長を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自在継手は、軸芯の異なる駆動軸と従動軸とを連結するためにいられ、例えば、
図1及び
図2に示すように、十字軸2と、十字軸2の各軸に設けられる軸受3と、十字軸2及び軸受3を介して互いに回動自在に結合される一対のヨーク4、5と、各々の軸受を覆うベアリングキャップ6とを2組ずつ備え、これらをチューブ8で連結して構成される。一対のヨーク4、5の各々とベアリングキャップ6とはボルト7で締結される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図3に示すように、特に製鉄所等で使用される大型の自在継手1では、軸受3のコロ軸3aに当接する十字軸2の転動部2a等に大きな応力が加わり、長期間使用することが困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたものであって、十字軸の転動部等の自在継手部品の転動疲労寿命の延長を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る自在継手部品の製造方法は、質量百分率で、C:0.10~0.30%未満、Si:0.05~0.30%未満、Mn:0.20~1.00%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Cr:1.50~2.00%、Mo:0.10~0.50%、Ni:2.50~4.00%、Al:0.01~0.03%、N:0.005~0.015%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するNiCrMo鋼に対して熱間鍛造、焼準し、焼戻し後、800~930℃×1~100時間のγ化加熱処理を少なくとも1回行うことにより、JIS G0551に準拠した旧オーステナイト結晶粒度を7以上11以下とすることを特徴とする。本発明によれば、従来品に比較して転動疲労寿命を略々2倍とすることができる。
【0007】
前記熱間鍛造を行う前のNiCrMo鋼は、質量百分率で、Mo:0.10~0.30%未満を含有してもよい。
【0008】
また、前記熱間鍛造を行う前のNiCrMo鋼は、さらに質量百分率で、V:0.10%未満を含有してもよい。
【0009】
さらに、前記熱間鍛造を行う前のNiCrMo鋼は、さらに質量百分率で、Nb:0.10%未満を含有してもよい。
【0010】
上記自在継手部品の製造方法は、自在継手を構成する十字軸の転動部を有する部品に適用することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、自在継手部品の転動疲労寿命の延長を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明及び従来の自在継手の全体構造の一例を示す概略図である。
【
図3】
図1の自在継手における軸受部分の断面図である。
【
図4】転動疲労寿命の試験装置を示す概略図である。
【
図5】本発明の実施例及び比較例の転動疲労寿命試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
本発明に係る自在継手部品の製造方法は、質量百分率で、C:0.10~0.30%未満、Si:0.05~0.30%未満、Mn:0.20~1.00%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Cr:1.50~2.00%、Mo:0.10~0.50%(より好ましくは、Mo:0.10~0.30%未満)、Ni:2.50~4.00%、Al:0.01~0.03%、N:0.005~0.015%を有するNiCrMo鋼に対して熱間鍛造、焼準し、焼戻し後、800~930℃×1~100時間のγ化加熱処理を少なくとも1回行うことにより、JIS G0551に準拠した旧オーステナイト結晶粒度を7以上11以下とすることを特徴とする。上記NiCrMo鋼は、前記組成に、さらに質量百分率で、V:0.10%未満を含有してもよく、さらに質量百分率で、Nb:0.10%未満を含有してもよい。
【0015】
上記NiCrMo鋼において、Cはマトリクス中に固溶し、固溶強度を与えると共に、他の合金元素と合金炭化物を形成し、マトリクス中に析出することで目的となる強度の増加をもたらすため、0. 1 %以上添加する。しかし、多すぎると加工性や靱性の低下を招くため、その範囲を0.10~0.30%未満に限定する。
【0016】
本発明のNiCrMo鋼は、調質後において、マルテンサイト組織又はベイナイト組織又はこれらの混合組織を有する。調質(焼入れ)の際に、加熱後、800~200℃までの平均冷却速度が50℃/分以下でも上記組織を形成することができる。
【0017】
本発明は、肉厚部材であるために熱処理中の中心部の昇温速度が200℃/時間以下となってしまうNiCrMo鋼製の肉厚部材に好適に適用される。例えば、肉厚が100mm以上の部材が挙げられる。
【0018】
最終γ化処理は、800℃~930℃で行うことができる。例えば100時間を超えて保持しても、結晶粒はほとんど粗大化しないため、調質温度は狙いの機械的特性や部材の肉厚等に応じて、この温度範囲内で自由に選択できる。
【0019】
本発明のNiCrMo鋼は、結晶粒径において、鍛鋼部材の一般的な熱間鍛造、熱処理(焼準し、焼戻し)工程後、少なくとも1回のγ化処理でJIS G0551に準拠した結晶粒度が7以上11以下となり、細粒化された組織によって強度が向上し、優れた靱性、疲労特性をもたらし、従来品に比較して転動疲労寿命を略々2倍とすることができる。
【0020】
以下、本発明の試験例について説明する。
【0021】
本発明の実施例及び比較例として表1に示す化学組成を有するNiCrMo鋼に対して熱間鍛造、焼準し、焼戻し後、800~930℃×1~100時間のγ化加熱処理を1回行い、JIS G0551に準拠した旧オーステナイト結晶粒度を8.5とした。
【0022】
【0023】
図4は、本試験に用いた転動疲労寿命試験装置を示す。この試験装置11は、ギヤボックス12、13と、トルクローダ14と、トルクセンサ-15と、モータ16と、ベルト17等を備える。この試験装置11に、
図3に示した転動部2aを有する十字軸2に上記実施例及び比較例の各々の供試体を用い、2本の自在継手1を一定の回転数で回転させつつトルクを負荷し、供試体の転動部分に剥離が生じた時間から転動疲労寿命を評価した。その結果を
図5に示す。
【0024】
図5の横軸は試験時間(h)、縦軸は累積破損確率(%)を示し、両軸とも対数スケールで表している。このグラフより、実施例は比較例の2倍以上の転動疲労寿命を有することが判る。
【符号の説明】
【0025】
1 自在継手
2 十字軸
2a 転動部
3 軸受
3a コロ軸
4、5 ヨーク
6 ベアリングキャップ
7 ボルト
8 チューブ