IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-歩行アシストシューズ 図1
  • 特開-歩行アシストシューズ 図2
  • 特開-歩行アシストシューズ 図3
  • 特開-歩行アシストシューズ 図4
  • 特開-歩行アシストシューズ 図5
  • 特開-歩行アシストシューズ 図6
  • 特開-歩行アシストシューズ 図7
  • 特開-歩行アシストシューズ 図8
  • 特開-歩行アシストシューズ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120134
(43)【公開日】2024-09-04
(54)【発明の名称】歩行アシストシューズ
(51)【国際特許分類】
   A43B 13/14 20060101AFI20240828BHJP
   A43B 13/18 20060101ALI20240828BHJP
   A43B 3/48 20220101ALN20240828BHJP
   A43B 3/40 20220101ALN20240828BHJP
   A43B 3/44 20220101ALN20240828BHJP
【FI】
A43B13/14 Z
A43B13/18
A43B3/48
A43B3/40
A43B3/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026796
(22)【出願日】2023-02-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 正克
(72)【発明者】
【氏名】清水 泰生
(72)【発明者】
【氏名】辻谷 孟勲
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050BA39
4F050BA40
4F050GA30
4F050HA56
4F050HA64
4F050HA73
4F050HA75
4F050JA01
(57)【要約】
【課題】加重により高さが変位する変位体を爪先方向の足底に備えることで歩行アシスト機能を実現する一方で、変位体の高さの変位を抑制する抑制手段を設けることで必要に応じて歩行アシスト機能を制限することについても可能にした歩行アシストシューズを提供する。
【解決手段】アウトソール3aは、着用者の足底の中心よりも爪先方向側の足底に対応して設けられた第1変位部材5と、着用者の足裏の中心付近(より具体的には土踏まずの位置付近)の足底に対応して設けられた第2変位部材6と、着用者の足底の中心よりも踵方向側の足底に対応して設けられたクッション部材7と、第1変位部材5及び第2変位部材6とクッション部材7との間の着用者の足底の位置に対応して設けられる案内支点8と、を有し、第1変位部材5及び第2変位部材6についてはソレノイド14、15の動作によって変位を抑制可能に構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の足底の中心よりも爪先方向側の足底に対応して設けられ、上方からの加重によってソール底面から頂上部までの高さが変位する変位体と、
前記変位体の高さの変位を抑制する抑制手段と、を有する歩行アシストシューズ。
【請求項2】
着用者の足底の中心よりも踵方向側の足底に対応して設けられた衝撃緩和体と、
前記変位体と前記衝撃緩和体との間の着用者の足底の位置に対応して設けられる案内支点と、を有し、
歩行時において着用者の爪先及び踵は前記案内支点を支点として上下動を繰り返す請求項1に記載の歩行アシストシューズ。
【請求項3】
着用者の歩行環境を取得する歩行環境取得手段と、
前記着用者の歩行環境に基づいて前記抑制手段の機能をオンまたはオフに制御する第1制御手段と、を有する請求項1又は請求項2に記載の歩行アシストシューズ。
【請求項4】
着用者の歩行速度を取得する歩行速度取得手段と、
前記着用者の歩行速度に基づいて前記抑制手段の機能をオンまたはオフに制御する第2制御手段と、を有する請求項1又は請求項2に記載の歩行アシストシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の歩行をアシストする歩行アシストシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より着用者がシューズを履いて歩行する場合において着用者の歩行をアシスト(促進)する手段の一つとして、シューズのソール部分に例えばスプリング等の反発体を配置し、反発体の反発力を用いて足裏を揺動させることが行われている。例えば特開2010-246791号公報には、爪先側と踵側のソール部分に夫々クッションソールを配置し、更に踵側のクッションソールにはコイルスプリングを埋設し、コイルスプリングの反発力を使ってシーソーのような動きをさせ、踵側から爪先側への体重移動を補助する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-246791号公報(段落0019-0022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1のようなシーソー運動を用いた歩行アシスト機能は確かに着用者が歩行を行う場合においては有効な機能であるが、例えば着用者が立ち止まった状態でも踵に加重が生じればコイルスプリングの反発力が働くことでシーソー運動を引き起こし、立ち止まった際の体のバランスが不安定になる問題がある。
【0005】
また、立ち止まった状態以外にも例えば階段を昇降する場合、悪路を歩く場合、下り坂を下る場合などはシーソー運動によってかえって足の負担が増したり、バランスを崩すことも考えられる。
【0006】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、加重により高さが変位する変位体を爪先方向の足底に備えることで歩行アシスト機能を実現する一方で、変位体の高さの変位を抑制する抑制手段を設けることで必要に応じて歩行アシスト機能を制限することについても可能にした歩行アシストシューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明に係る歩行アシストシューズは、着用者の足底の中心よりも爪先方向側の足底に対応して設けられ、上方からの加重によってソール底面から頂上部までの高さが変位する変位体と、前記変位体の高さの変位を抑制する抑制手段と、を有する。
尚、「変位体」は、加重に応じて変位体の形状が変形する(潰れる)ことでソール底面から頂上部までの高さを変位しても良いし、変位体の形状は変化することなく加重に応じて変位体全体の位置が上下動することでソール底面から頂上部までの高さを変位しても良い。
【発明の効果】
【0008】
前記構成を有する本発明に係る歩行アシストシューズは、加重により高さが変位する変位体を爪先方向の足底に備えることで歩行アシスト機能を実現する一方で、変位体の高さの変位を抑制する抑制手段を設けることで必要に応じて歩行アシスト機能を制限することについても可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る歩行アシストシューズの概略構成図である。
図2】第1変位部材及び第2変位部材について説明した図である。
図3】第1変位部材及び第2変位部材が変位非抑制状態にある場合について説明した図である。
図4】第1変位部材及び第2変位部材が変位抑制状態にある場合について説明した図である。
図5】歩行アシストシューズにおけるシーソー動作による歩行アシスト機能を説明した図である。
図6】案内支点の位置と体重移動の態様の関係を示す模式図である。
図7】歩行アシストシューズの構成を示すブロック図である。
図8】本実施形態に係る歩行支援処理プログラムのフローチャートである。
図9】制御テーブルの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る歩行アシストシューズ1を具体化した実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、本実施形態に係る歩行アシストシューズ1の概略構成について図1を用いて説明する。図1は本実施形態に係る歩行アシストシューズ1の概略構成図である。尚、図1は右足の歩行アシストシューズ1のみを示すが、左足の歩行アシストシューズ1は左右対称で同一の構造を有するものとする。
【0011】
図1に示すように歩行アシストシューズ1は、着用者の足の甲や踵を覆う上方部分のアッパー2と、着用者の足底に当接する土台部分であるソール3とを基本的に有する。また、ソール3は、地面と直接触れる接地部分であるアウトソール3aと、アウトソール3aの上に置かれて着用者の足裏と接するインソール3bとを含む。尚、図1ではインソール3bは省略している。
【0012】
ここで、特にアウトソール3aには、着用者の足底の中心よりも爪先方向側の足底に対応して設けられた第1変位部材(変位体)5と、着用者の足裏の中心付近(より具体的には土踏まずの位置付近)の足底に対応して設けられた第2変位部材6と、着用者の足底の中心よりも踵方向側の足底に対応して設けられたクッション部材(衝撃緩和体)7と、第1変位部材5及び第2変位部材6とクッション部材7との間の着用者の足底の位置に対応して設けられる案内支点8と、入力された情報に基づいて各種の演算処理を行うとともにソレノイドなどのアクチュエーターの駆動制御を行う制御部9と、歩行アシストシューズ1の着用者が所持する通信端末との間で通信を行う通信デバイス10と、3軸(前後、左右、上下)の加速度並びに角速度を検出可能な6軸センサ11と、電源となるバッテリ19と、を更に有する。但し、制御部9、通信デバイス10、6軸センサ11及びバッテリ19については必ずしもソール3に配置する必要はなく、アッパー2に配置しても良い。
【0013】
以下に、先ず第1変位部材5及び第2変位部材6について図2を用いて説明する。尚、図2は第1変位部材5及び第2変位部材6を特に側方から示した模式図である。
ここで、第1変位部材5及び第2変位部材6は基本的に同一の構造を有しており、図2に示すようにアウトソール3aに形成された円筒状の内部空間3cに配置され、中空の円筒形状を有する外郭部材12と、外郭部材12の内部に配置されたコイルバネ13と、制御部9によって駆動制御されるアクチュエーターであるソレノイド14、15と、を有する。
【0014】
図2に示すように外郭部材12は内部空間3cにおいて上下方向に移動可能に支持されており(但し、後述のように変位抑制状態にある場合は除く)、上面がインソール3bと接する一方で、内部に配置されたコイルバネ13によって支えられており、上方から加重が生じていない状態(インソール3bの重量は十分小さいので無視できる)では外郭部材12の頂上部の高さはアウトソール3aの上面よりも高くなっている。即ち、インソール3bは第1変位部材5及び第2変位部材6によってアウトソール3aから浮き上がった状態に支持されることとなる。
【0015】
一方、ソレノイド14、15はアウトソール3aの内部空間3cの壁面に対して左右一対に配置されており、制御部9によって駆動制御され、内部に配置されたコイルに電流を流すことで可動鉄芯(プランジャ)を直線方向(図2の左右方向)に移動させることが可能となっている。そして、特に図2の下図のようにプランジャを内部空間3cの中心方向に突出させた状態では、突出したプランジャが外郭部材12と接触し、外郭部材12の上下方向の動き、即ち外郭部材12の高さの変位を抑制することが可能となっている。尚、図2に示す例では外郭部材12の下端とプランジャが接触することで外郭部材12の動きを抑制しているが、例えば外郭部材12の側面に挿入孔を形成し、挿入孔にプランジャが挿入されることで外郭部材12の動きを抑制するようにしても良い。また、ソレノイドの数は1のみ或いは3以上であっても良い。
【0016】
ここで、図3に示すようにソレノイド14、15によって外郭部材12の上下方向の動きが抑制されていない状態(変位非抑制状態)では、第1変位部材5及び第2変位部材6の上方から加重が生じると内部のコイルバネ13が収縮し、外郭部材12は下方に移動することとなる。それに伴って、ソール底面から外郭部材12の頂上部までの高さが低くなるように変位する。例えば図3に示すように外郭部材12の頂上部の高さがアウトソール3aの上面と同じ高さとなるまで最大で変位可能とする。尚、コイルバネ13は弾性部材であるので図3のように収縮すると弾性力によって変位方向と逆方向(持ち上げる方向)に力が働き、衝撃を緩和する機能も有する。また、加重が生じなくなるとコイルバネ13の弾性力によって外郭部材12は元の高さ(アウトソール3aの上面よりも高い位置)に戻ることとなる。
【0017】
従って、変位非抑制状態では例えば着用者の歩行に伴って爪先側に体重移動し、第1変位部材5及び第2変位部材6に対して着用者の足底からの荷重が加わると、第1変位部材5及び第2変位部材6は沈み込んで徐々に高さが低くなることとなる。また、コイルバネ13の弾性によって衝撃を緩和する機能も有する。その一方で、爪先側が沈み込むことで案内支点8の高さよりも足の爪先の位置が低くなり、案内支点8を支点としたシーソー動作により踵を上方に持ち上げる力が働くので、後述のように歩行アシストを促すことが可能となる。
【0018】
尚、踵を持ち上げる速度やタイミングについてはコイルバネ13の種類や形状(即ちばね定数)を変えることによって適宜調整することが可能である。また、案内支点8の位置によっても調整可能である。例えばコイルバネ13のばね定数が小さければ加重に対して第1変位部材5及び第2変位部材6はより速く沈みこむこととなるので、踵を持ち上げるタイミングが早くなることとなる。
【0019】
また、第1変位部材5と第2変位部材6とは基本的に同一の構造を有するが、外郭部材12の大きさやコイルバネ13の種類(即ち加重なしでの外郭部材12の頂上部までの高さや沈み込む速度)については第1変位部材5と第2変位部材6とで異なるようにしても良い。例えば、爪先側に位置する第1変位部材5について第2変位部材6よりも大きいばね定数のコイルバネを用いるようにしても良い。
【0020】
一方、図4に示すようにソレノイド14、15によって外郭部材12の上下方向の動きが抑制されている状態(変位抑制状態)では、第1変位部材5及び第2変位部材6の上方から加重が生じたとしても外郭部材12の下方向への移動がプランジャによって妨げられるので、コイルバネ13は収縮せず、外郭部材12も移動しない。但し、衝撃を緩和する目的で変位抑制状態において多少の下方向への移動(少なくとも変位非抑制状態よりは小さくする)については許容しても良い。
【0021】
従って、変位抑制状態では例えば着用者の歩行に伴って爪先側に体重移動し、第1変位部材5及び第2変位部材6に対して着用者の足底からの荷重が加わったとしても、第1変位部材5及び第2変位部材6は基本的に高さが変位しないので、爪先側が沈み込むこともなく踵を上方に持ち上げる力も働かない。或いは働いたとしても変位非抑制状態に比べてると極めて小さい。従って、後述のような歩行アシスト機能は基本的には生じない。
【0022】
尚、上述した第1変位部材5、第2変位部材6についてはソール3の内部に空間を設けて配置することとするが、アウトソール3aとインソール3bとの間(アウトソール3aの上面)に配置するようにしても良い。また、本実施形態では外郭部材12内部にコイルバネ13を配置しているが、変位に対する反発性(即ち復元力)を有する部材であればコイルバネ13以外であっても良く、例えばコイルバネ13の代わりにゴム、エアバッグ、ウレタンフォーム、シリコン、スポンジ、ゲル素材、綿などを配置しても良い。また、ソレノイド14、15についても外郭部材12の変位を抑制できる手段であればソレノイド以外を用いても良く、例えばモータとカムで構成しても良い。
【0023】
一方、歩行アシストシューズ1の踵部分に位置するクッション部材7は、図1に示すようにアウトソール3aの上面に配置され、靴の踵部分の形状に合わせた形状を有する。例えば、エアバッグ、ウレタンフォーム、シリコン、スポンジ、ゲル素材、綿などで形成し、外部からの荷重、より具体的には上方に位置する着用者の足底からの荷重が加わることによって形状が変化する。具体的には、上方から荷重が加わることによって上下方向に潰されて衝撃を緩和する機能を有する。また、バネやゴムのような変位に対する反発性(即ち復元力)を有する部材としても良い。
【0024】
また、本実施形態では第1変位部材5や第2変位部材6よりもクッション部材7の方がより足底と当接する面積が大きく、一方で第1変位部材5や第2変位部材6よりもクッション部材7の方が荷重の生じていない状態でのソール底面から頂上部までの高さがより高い形状とするが、同じ高さとしても良い。
【0025】
一方、案内支点8は、第1変位部材5及び第2変位部材6とクッション部材7との間の着用者の足底の位置に対応して設けられ、図1に示すように靴の横幅方向と平行に軸方向が位置する略円柱形状を有する。但し、案内支点8の形状については適宜変更することが可能であり、後述のように足裏のシーソー動作を行う際に支点となることができる形状であれば良い。例えば四角柱形状や三角柱形状であっても良い。また、案内支点8は足裏からの加重がかかった状態でシーソー動作の始点となる必要があることから加重が生じても変形し難い比較的硬質の材料(例えばポリエチレンやポリスチレンなどの樹脂材料)で形成されることとするが、一方でエアバッグ、ウレタンフォーム、シリコンなどのある程度の衝撃を緩和する機能についても備える軟質の材料としても良い。
【0026】
そして、上記第1変位部材5、第2変位部材6、クッション部材7及び案内支点8を備えた歩行アシストシューズ1では、第1変位部材5及び第2変位部材6が図3に示す変位非抑制状態にある場合については、歩行時において着用者の爪先及び踵が案内支点8を支点として上下動を繰り返すシーソー運動を行うこととなる。例えば図5は歩行アシストシューズ1を着用して歩行する際の着用者の足底の動きを示す模式図である。
【0027】
ここで、一般的に人が歩行する場合には、足底が地面に接地した際に先ず踵部分に体重がかかり、その後に爪先方向に徐々に体重移動し、最終的には体重のかかっている爪先部分が地面から離れるという流れが繰り返される。図5に示すように足底が地面に接地すると先ず踵部分に体重がかかり、クッション部材7が上下方向に潰れて足裏にかかる衝撃を緩和する。この時のクッション部材7の沈み込み量と沈み込み速度についてはクッション部材7の高さや材質によって調整可能である。その後に、歩行者の足底は案内支点8を支点にして爪先方向に徐々に体重移動する。そして、体重移動によって爪先側にある第1変位部材5及び第2変位部材6に徐々に荷重が生じて沈み込む一方、案内支点8を支点としたシーソー動作によって逆に踵を持ち上げる(歩行アシスト)が行われることとなる。この時の第1変位部材5と第2変位部材6の沈み込み量や速度、即ち踵の持ち上げ速度や量(アシスト量)については、前述したように第1変位部材5及び第2変位部材6のコイルバネ13の形状や種類によって調整可能である。
【0028】
また、案内支点8の位置を調整することによって踵側から爪先側への体重移動の速度を調整することも可能である。例えば、図6に示すように案内支点8が爪先方向側に位置すると、足底接地時の踵側から爪先側への体重移動が遅れる、即ち着用者の歩行時に第1変位部材5や第2変位部材6に荷重が加わるタイミング(踵の押し上げのタイミング)が遅れることとなる。一方、案内支点8が踵方向側に位置すると、足底接地時の踵側から爪先側への体重移動が速くなる、即ち着用者の歩行時に第1変位部材5や第2変位部材6に荷重が加わるタイミング(踵の押し上げのタイミング)が早くなることとなる。尚、案内支点8の位置については着用者によって手動で変更可能にしても良い。
【0029】
また、本実施形態では上記シーソー動作の踵の持ち上げによる歩行アシストに加えて、歩行時の足底の沈み込み量を一般的なシューズに比べて増やすことができる(足底の最下到達点が従来より地面に近くなる)ので、歩行時の位置エネルギが増加することとなる。その結果、運動エネルギについても増加し、歩幅が広くなって歩行姿勢の改善を促すことも期待できる。
【0030】
一方、制御部9は、歩行アシストシューズ1の全体の制御を行う電子制御ユニットであり、演算装置及び制御装置としてのCPUや各種の演算処理を行うにあたってワーキングメモリとして使用されるRAM等を備えている。ここで、図7は歩行アシストシューズ1のブロック図を示した図である。
【0031】
図7に示すように制御部9は上述した第1変位部材5及び第2変位部材6が備えるソレノイド14、15と接続されており、制御信号を送信することによって各ソレノイド14、15の制御(即ち図2に示す変位抑制状態と変位非抑制状態との切り替え)が可能である。尚、第1変位部材5に対する変位抑制状態と変位非抑制状態との切り替えと、第2変位部材6に対する変位抑制状態と変位非抑制状態との切り替えはそれぞれ個別に行うことが可能である。例えば一方のみ変位抑制状態で他方を変位非抑制状態とすることも可能である。
【0032】
また、通信デバイス10は、例えばBluetooth(登録商標)等の無線通信を行うためのデバイスであり、歩行アシストシューズ1の着用者が所持する通信端末20でペアリングの設定を行うことにより、歩行アシストシューズ1と通信端末20との間で通信を行うことが可能となっている。
【0033】
尚、通信端末20については、通信機能を有する端末であればよく、スマートフォン以外にタブレット型端末、パーソナルコンピュータ等であっても良い。
【0034】
また、6軸センサ11は、3軸(前後、左右、上下)の加速度と同じく3軸の角速度の計6軸の慣性力を検出することが可能なセンサである。尚、本実施形態において制御部9は特に6軸センサ11の検出結果を用いて着用者の歩行環境と歩行速度を取得し、取得した歩行環境と歩行速度に基づいて第1変位部材5と第2変位部材6について変位抑制状態と変位非抑制状態の切り替えを行う。詳細については後述する。
【0035】
また、バッテリ19は、上述した制御部9、通信デバイス10、6軸センサ11、ソレノイド14、15等の各電子部品の電源として用いられる蓄電池であり、例えばリチウムイオン電池或いはニッケル水素電池等が用いられる。尚、バッテリ19は例えば図示しない充電器を用いて充電可能とするが、歩行アシストシューズ1にバッテリ19を充電するための手段(例えばソーラー充電器)を別途備えるようにしても良い。また、歩行アシストシューズ1の電源としてはバッテリ19の代わりにボタン電池などの小型の1次電池を用いても良い。
【0036】
続いて、上記構成を有する本実施形態に係る歩行アシストシューズ1において制御部9が実行する歩行支援処理プログラムについて図8に基づき説明する。図8は本実施形態に係る歩行支援処理プログラムのフローチャートである。ここで、歩行支援処理プログラムは、歩行アシストシューズ1の電源がONされた後に実行され、着用者の歩行環境と歩行速度に基づいて歩行アシスト機能のオンオフの切り替えを行うプログラムである。また、以下の図8にフローチャートで示されるプログラムは、制御部9が備えているメモリ等に記憶されており、CPU等の演算処理装置により実行される。
【0037】
先ず、ステップ(以下、Sと略記する)1において制御部9は、通信デバイス10を動作し、Bluetooth等の通信手段によって歩行アシストシューズ1を着用する着用者が所持する通信端末20との間で通信可能な状態に接続する。特に、右足の歩行アシストシューズ1と左足の歩行アシストシューズ1のそれぞれについて通信可能な状態に接続する。尚、通信を行う際に必要な識別情報(例えばアドレス等)についてはメモリに記憶されている。
【0038】
続いて、S2において制御部9は、通信可能に接続された通信端末20から現在のアシストモードを取得する。ここで、通信端末20には歩行アシストシューズ1に関する設定を行う専用のアプリケーションプログラムがインストールされていることを前提とし、アプリケーションプログラム内で着用者は“アシストモード”を設定する。この“アシストモード”は例えば『ノーマル』、『スポーツ』、『マニュアル』などがあり、前記S2において制御部9はアプリケーションプログラムにおいて設定された“アシストモード”を無線通信によって取得することが可能となる。但し、アシストモードについては前回の設定をメモリに記憶しておき、前回の設定を流用するようにしても良い。その場合には毎回の通信端末20との通信は不要である。
【0039】
ここで、上記“アシストモード”の内、『マニュアル』については、後述のような着用者の歩行環境と歩行速度に基づく制御は行わず、着用者の操作によって歩行アシスト機能のオンオフの切り替えを行うモードである。
一方、上記“アシストモード”の内、『ノーマル』については、着用者の歩行環境と歩行速度に基づく制御を行う。具体的には、6軸センサ11により着用者の歩行環境と歩行速度を取得し、予めメモリなどに記憶されたテーブルに従って、歩行アシスト機能のオンオフの切り替えを行うモードである。
更に、上記“アシストモード”の内、『スポーツ』については、後述のような着用者の歩行環境と歩行速度に基づく制御は行わず、基本的に歩行アシスト機能は常にオン状態とする。但し、着用者が停止した状態に限っては歩行アシスト機能をオフに切り替えても良い。
【0040】
続いて、S3において制御部9は、6軸センサ11の検出結果に基づいて着用者の歩行環境と歩行速度を取得する。6軸センサ11は3軸(前後、左右、上下)の加速度と同じく3軸の角速度を検出することが可能なセンサであり、制御部9はこれらの加速度及び角速度の値及び変位態様に基づいて、着用者の現在の歩行環境について「停止中(移動速度=0)」、「上り坂の移動」、「下り坂の移動」、「悪路の移動」、「階段の昇降」、「歩行(移動速度>0で前記いずれにも該当しない)」のいずれに該当するかを取得する。また、着用者の歩行速度として「低速(3km/h未満)」、「中速(3km/h以上6km/h未満)」、「高速(6km/h以上)」のいずれに該当するかを取得する。尚、歩行速度の区分は着用者の年齢や性別によって変えても良い。
【0041】
その後、S4において制御部9は、前記S2で取得したアシストモードの種類と、前記S3で取得した着用者の歩行環境及び歩行速度に基づいて、歩行アシスト機能をオンするかオフするか、即ち第1変位部材5及び第2変位部材6について変位抑制状態と変位非抑制状態のいずれにするかを判定する。前述したように第1変位部材5及び第2変位部材6について変位抑制状態とすれば歩行アシスト機能はオフされ、変位非抑制状態とすれば歩行アシスト機能はオンされることとなる。尚、本実施形態では基本的に第1変位部材5と第2変位部材6は同じ状態に制御するが、異なる状態(例えば一方のみ変位抑制状態で他方を変位非抑制状態)に制御することも可能である。
【0042】
そして、前述したように前記S2で取得したアシストモードが『マニュアル』である場合については、着用者の歩行環境及び歩行速度は関係なく着用者の操作によって第1変位部材5及び第2変位部材6について変位抑制状態と変位非抑制状態のいずれにするかを決定する。具体的には、着用者は通信端末20のアプリケーションプログラムにおいてアシストモードを『マニュアル』に設定した場合に、併せて現時点での歩行アシスト機能をオンするかオフするかについても選択することが可能である。制御部9は通信端末20からそれらの設定情報を取得することで前記S4の判定を行う。
【0043】
また、前述したように前記S2で取得したアシストモードが『スポーツ』である場合については、着用者の歩行環境及び歩行速度は関係なく第1変位部材5及び第2変位部材6について常に変位非抑制状態にすると判定する。但し、着用者の現在の歩行環境が「停止中(移動速度=0)」である場合については例外的に変位抑制状態にすると判定しても良い。
【0044】
一方で前述したように前記S2で取得したアシストモードが『ノーマル』である場合については、前記S3で取得した着用者の歩行環境と歩行速度と予めメモリなどに記憶されたテーブルとに従ってS4の判定を行う。ここで、図9は前記S4の判定を行う際に参照される制御テーブルの一例である。図9に示す制御テーブルでは、歩行環境と歩行速度の組み合わせに対して変位抑制状態と変位非抑制状態のいずれにするかが紐づけられている。例えば、着用者の歩行環境が「停止中(移動速度=0)」に対しては変位抑制状態が紐づけられている。また、着用者の歩行環境が「歩行中」で「低速(3km/h未満)」に対しては変位抑制状態が紐づけられている。また、着用者の歩行環境が「歩行中」で「中速(3km/h以上6km/h未満)」及び「高速(6km/h以上)」に対しては変位非抑制状態が紐づけられている。また、着用者の歩行環境が「上り坂の移動」に対しては歩行速度に関わらず変位非抑制状態が紐づけられている。また、着用者の歩行環境が「下り坂の移動」、「悪路の移動」、「階段の昇降」に対しては歩行速度に関わらず変位抑制状態が紐づけられている。
【0045】
ここで、例えが歩行アシストシューズ1の着用者が立ち止まっている状態において前述した図5に示すシーソー動作による歩行アシストを行うと、立ち止まった際の体のバランスが不安定になる問題がある。従って、歩行アシストを行わない変位抑制状態を選択する。また、歩行アシストシューズ1の着用者が歩行中であっても特に低速で移動している状態体では歩行者が意図的にゆっくり歩くことを選択していることが予想され、歩行を促す歩行アシスト機能の実行は着用者にとってかえって煩わしいものとなる。従って、歩行アシストを行わない変位抑制状態を選択する。また、歩行アシストシューズ1の着用者が下り坂を下っている状態において前述した図5に示すシーソー動作による歩行アシストを行うと、かえって足の負担が増す問題がある。従って、歩行アシストを行わない変位抑制状態を選択する。また、歩行アシストシューズ1の着用者が悪路や階段を移動している状態において前述した図5に示すシーソー動作による歩行アシストを行うと、バランスを崩すことが考えられる。従って、歩行アシストを行わない変位抑制状態を選択する。
【0046】
そして、前記S4において第1変位部材5及び第2変位部材6について変位抑制状態とすると判定された場合(S4:YES)には、図4に示すようにソレノイド14、15のプランジャを内部空間3cの中心方向に突出させ、突出したプランジャによって外郭部材12の上下方向の動き、即ち外郭部材12の高さの変位を抑制するように制御する(S5)。それによって、図5に示すシーソー動作による歩行アシスト機能が制限されることとなる。
【0047】
一方、前記S4において第1変位部材5及び第2変位部材6について変位非抑制状態とすると判定された場合(S4:NO)には、図3に示すようにソレノイド14、15のプランジャを収容し、外郭部材12の上下方向の動きを妨げないように制御する(S6)。それによって、図5に示すシーソー動作による歩行アシスト機能が実施されることとなる。
【0048】
以上詳細に説明した通り、本実施形態に係る歩行アシストシューズ1によれば、着用者の足底の中心よりも爪先方向側の足底に対応して設けられ、上方からの加重によってソール底面から頂上部までの高さが変位する第1変位部材5と、第1変位部材5の高さの変位を抑制する抑制手段としてソレノイド14、15を有するので、加重により高さが変位する変位体を爪先方向の足底に備えることで歩行アシスト機能を実現する一方で、変位体の高さの変位を抑制する抑制手段を設けることで必要に応じて歩行アシスト機能を制限することについても可能となる。
また、着用者の足底の中心よりも踵方向側の足底に対応して設けられたクッション部材7と、第1変位部材5とクッション部材7との間の着用者の足底の位置に対応して設けられる案内支点8と、を有し、歩行時において着用者の爪先及び踵は案内支点8を支点として上下動を繰り返すので、特に案内支点8を支点としたシーソー運動によって効果的な歩行アシスト機能を実現する一方で、抑制手段を設けることで必要に応じてシーソー運動が行われることを制限することが可能となる。
また、第1変位部材5と案内支点8の間の着用者の足底の位置に対応して設けられ、上方からの加重によってソール底面から頂上部までの高さが変位する第2変位部材6を有するので、複数の変位部材を用いてより効果的な歩行アシスト機能を実現することが可能となる。
また、着用者の歩行環境を取得し(S3)、着用者の歩行環境に基づいて抑制手段の機能をオンまたはオフに制御する(S4~S6)ので、着用者の歩行環境に合わせて歩行アシスト機能の実行を制御することが可能となる。
また、着用者の歩行速度を取得し(S3)、着用者の歩行速度に基づいて抑制手段の機能をオンまたはオフに制御する(S4~S6)ので、着用者の歩行速度に合わせて歩行アシスト機能の実行を制御することが可能となる。
【0049】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば本実施形態では着用者の足底の中心よりも爪先方向側の足底に対応して設けられた第1変位部材5と、着用者の足裏の中心付近(より具体的には土踏まずの位置付近)の足底に対応して設けられた第2変位部材6を夫々有しているが、第2変位部材6については省略しても良い。
【0050】
また、本実施形態ではアシストモードが『ノーマル』である場合については、着用者の歩行環境と歩行速度とに基づいて歩行アシスト機能のオンオフを切り替えているが、着用者の歩行環境のみに基づいて歩行アシスト機能のオンオフの切り替えを行っても良い。或いは着用者の歩行速度のみに基づいて歩行アシスト機能のオンオフの切り替えを行っても良い。
【0051】
また、本実施形態では第1変位部材5及び第2変位部材6の変位を抑制する手段としてソレノイド14、15を設けているが、第1変位部材5及び第2変位部材6の変位を抑制できる手段であればソレノイド以外を用いても良く、例えばモータとカムを用いて第1変位部材5及び第2変位部材6の変位を抑制するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0052】
1…歩行アシストシューズ、2…アッパー、3…ソール、5…第1変位部材、6…第2変位部材、7…クッション部材、8…案内支点、9…制御部、10…通信デバイス、11…6軸センサ、12…外郭部材、13…コイルバネ、14,15…ソレノイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9