(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120138
(43)【公開日】2024-09-04
(54)【発明の名称】情報処理システム、情報処理方法及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/10 20190101AFI20240828BHJP
【FI】
G16C20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026801
(22)【出願日】2023-02-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優司
(72)【発明者】
【氏名】長谷 陽子
(57)【要約】 (修正有)
【課題】化学合成経路を特定する情報処理システム、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】方法は、反応元から生成物を生成する反応経路に関する化学反応ネットワークを取得し、実験データに基づき、第1の化学反応ネットワークに含まれる有向エッジから対象エッジを抽出し、抽出結果に基づき、消去エッジが存在するか否かを判定し、存在すると判定した場合、第1の化学反応ネットワークから消去エッジを消去し、第2の化学反応ネットワークに含まれるハイパーエッジのなかから、無向エッジと等価なハイパーエッジを抽出し、抽出した無向エッジと等価なハイパーエッジに接続される第1のノードと第2のノードとが、所定の量的関係を満たすか否かを判定し、満たす場合、第1のエッジ及び第2のエッジに対応する反応元と生成物とに対応するノードが互いに量的関係を満たす場合に、第1のノードと第2のノードとを統合することで第1の統合ノードを生成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理システムであって、
次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、
取得ステップでは、所定の反応元から生成物が生成される反応経路に関する情報を含む化学反応ネットワークを取得し、ここで、前記化学反応ネットワークは、前記反応元に対応する少なくとも1つの第1のノードと、前記生成物に対応する少なくとも1つの第2のノードと、前記第1のノードから前記第2のノードに向かって接続される有向エッジとを含み、
ノード統合ステップでは、前記化学反応ネットワークが前記有向エッジとして、前記第1のノードから前記第2のノードに向けて接続される第1のエッジと、当該第2のノードから当該第1のノードに向けて接続される第2のエッジとを含み、前記第1のエッジおよび前記第2のエッジに対応する前記反応元と前記生成物とに対応するノードが互いに量的関係を満たす場合に、前記第1のノードと前記第2のノードとを統合することにより第1の統合ノードを生成する、もの。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記取得ステップでは、さらに少なくとも1つの反応元および当該反応元から得られる少なくとも1つの生成物に関する実験データを取得し、
さらにエッジ消去ステップでは、前記実験データに含まれる、前記反応元に対応する前記第1のノードまたは前記生成物に対応する前記第2のノードに少なくとも接続される前記有向エッジである対象エッジのうち、前記実験データに含まれない前記反応元に対応する第1のノード、または前記実験データに含まれない前記生成物に対応する第2のノードに接続されている前記対象エッジの少なくとも1つを消去する、もの。
【請求項3】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記ノード統合ステップでは、前記化学反応ネットワークが第1の特定ノードと第2の特定ノードとを含む場合、前記第1の特定ノードと前記第2の特定ノードとを統合することにより第2の統合ノードを生成し、ここで、
前記第1の特定ノードは、第1の特定エッジに接続され、
前記第2の特定ノードは、第2の特定エッジに接続され、
前記第1の特定ノードとは異なる前記第1の特定エッジの接続先は、前記第2の特定ノードとは異なる前記第2の特定エッジの接続先に対して、前記第1の特定エッジによって表される化学反応式の量的関係を表す所定の判定条件を満たすように構成される、もの。
【請求項4】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
さらに終端ノード抽出ステップでは、前記化学反応ネットワークから終端ノードを抽出し、ここで、前記終端ノードは、前記第2のノードとなるように接続される有向エッジが存在し、前記第1のノードとなるように接続される有向エッジが存在しないノードである、もの。
【請求項5】
請求項4に記載の情報処理システムにおいて、
さらに終端ノード消去ステップでは、抽出された前記終端ノードのうちの少なくとも1つを消去する、もの。
【請求項6】
請求項4に記載の情報処理システムにおいて、
さらに指定ステップでは、抽出された前記終端ノードのうちの少なくとも1つに対する指定をユーザから受け付け、
さらに終端ノード消去ステップでは、抽出された前記終端ノードのうち、指定された前記終端ノードを消去する、もの。
【請求項7】
請求項5に記載の情報処理システムにおいて、
前記終端ノード消去ステップでは、さらに、消去される前記終端ノードが前記第2のノードとなるように接続される有向エッジを消去する、もの。
【請求項8】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
さらに特徴抽出ステップでは、前記化学反応ネットワークから予め定められた抽出条件を満たすノードおよび有向エッジによって構成される部分ネットワークを抽出し、ここで、前記抽出条件は、所定の化学反応プロセスに関与する反応元および生成物の量的関係に基づき規定される、もの。
【請求項9】
請求項8に記載の情報処理システムにおいて、
前記抽出条件は、前記化学反応プロセスとして自触媒サイクルに対応する自触媒条件を含む、もの。
【請求項10】
情報処理方法であって、
請求項1~請求項9の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを含む、方法。
【請求項11】
情報処理プログラムであって、
少なくとも1つのコンピュータに、請求項1~請求項9の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、情報処理方法及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、標的化合物を生成するための1つ以上の最適な合成経路を決定するための逆合成法が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の方法は、標的化合物を生成するための1つ以上の既存または新規の化学合成経路を特定するための計算方法であって、複数の既知の化学反応および/または複数の新規の化学反応を決定することであって、前記複数の新規の反応が、一般化された既知の化学変換から外挿される、決定することと、訓練された分類器に基づいて、前記複数の新規の化学反応から、複数の予測される化学反応を決定することであって、前記訓練された分類器が、所与の化学変換の例である、成功することが既知である複数の化学反応および失敗することが既知である複数の化学反応から導出されるデータで訓練されている、決定することと、前記複数の予測される化学反応および前記複数の既知の化学反応に基づいて、複数の化学反応を生成することであって、前記複数の化学反応の各化学転移が、1つの化合物の別の化合物への変換を表す、生成することと、少なくとも1つの標的化合物を決定することと、前記少なくとも1つの標的化合物に関連する複数の化学反応経路を決定することであって、各化学反応経路が、前記標的化合物を生成する前記複数の化学反応のうちの1つ以上の化学反応を含む、決定することと、前記標的化合物を生成するために特定された前記複数の化学反応経路から、1つ以上の最適な化学反応経路を決定することであって、前記1つ以上の最適な化学反応経路のうちの少なくとも1つが、少なくとも1つの既知の反応変換および少なくとも1つの予測される反応変換を含む、決定することと、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような化学合成経路を特定する手法には、未だ改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、情報処理システムが提供される。この情報処理システムでは、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備える。取得ステップでは、所定の反応元から生成物が生成される反応経路に関する情報を含む化学反応ネットワークを取得する。化学反応ネットワークは、反応元に対応する少なくとも1つの第1のノードと、生成物に対応する少なくとも1つの第2のノードと、第1のノードから第2のノードに向かって接続される有向エッジとを含む。ノード統合ステップでは、化学反応ネットワークが有向エッジとして、第1のノードから第2のノードに向けて接続される第1のエッジと、当該第2のノードから当該第1のノードに向けて接続される第2のエッジとを含み、第1のエッジおよび第2のエッジに対応する反応元と生成物とに対応するノードが互いに量的関係を満たす場合に、第1のノードと第2のノードとを統合することにより第1の統合ノードを生成する。
【0007】
このような構成によれば、よりよい化学合成経路を特定する手法を提供すること等ができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】プロセッサ23が備える機能部の一例を示す図である。
【
図5】情報処理システム1において実行される情報処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】実験データD1の構造の一例を示す図である。
【
図7】情報処理による化学反応ネットワークの変遷の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0010】
ところで、本実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0011】
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0または1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、または量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0012】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、およびメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0013】
1.ハードウェア構成
本節では、ハードウェア構成について説明する。
【0014】
<情報処理システム1>
図1は、情報処理システム1を表す構成図である。情報処理システム1は、情報処理装置2と、ユーザ端末3とを備える。情報処理装置2と、ユーザ端末3とは、電気通信回線を通じて通信可能に構成されている。一実施形態において、情報処理システム1とは、1つまたはそれ以上の装置または構成要素からなるものである。仮に例えば、情報処理装置2のみからなる場合であれば、情報処理システム1は、情報処理装置2となりうる。以下、これらの構成要素について説明する。
【0015】
<情報処理装置2>
図2は、情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。情報処理装置2は、通信部21と、記憶部22と、プロセッサ23とを備え、これらの構成要素が情報処理装置2の内部において通信バス20を介して電気的に接続されている。各構成要素についてさらに説明する。
【0016】
通信部21は、USB、IEEE1394、Thunderbolt(登録商標)、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいものの、無線LANネットワーク通信、3G/LTE/5G等のモバイル通信、BLUETOOTH(登録商標)通信等を必要に応じて含めてもよい。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。すなわち、情報処理装置2は、通信部21およびネットワークを介して、外部から種々の情報を通信してもよい。
【0017】
記憶部22は、前述の記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えば、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラム等を記憶するソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。記憶部22は、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラムや変数等を記憶している。
【0018】
プロセッサ23は、情報処理装置2に関連する全体動作の処理・制御を行う。プロセッサ23は、例えば不図示の中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。プロセッサ23は、記憶部22に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、情報処理装置2に係る種々の機能を実現する。すなわち、記憶部22に記憶されているソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアの一例であるプロセッサ23によって具体的に実現されることで、プロセッサ23に含まれる各機能部として実行されうる。これらについては、次節においてさらに詳述する。なお、プロセッサ23は単一であることに限定されず、機能ごとに複数のプロセッサ23を有するように実施してもよい。またそれらの組合せであってもよい。
【0019】
<ユーザ端末3>
図3は、ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。ユーザ端末3は、通信部31と、記憶部32と、プロセッサ33と、表示部34と、HMIデバイス35とを備え、これらの構成要素がユーザ端末3の内部において通信バス30を介して電気的に接続されている。通信部31、記憶部32およびプロセッサ33の説明は、情報処理装置2における各部の説明と同様のため省略する。
【0020】
表示部34は、ユーザ端末3筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。表示部34は、ユーザが操作可能なグラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface:GUI)の画面を表示する。これは例えば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示デバイスを、ユーザ端末3の種類に応じて使い分けて実施することが好ましい。
【0021】
HMIデバイス35は、ヒューマン・マシン・インターフェースデバイスである。HMIデバイス35は、ユーザ端末3の筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。例えば、HMIデバイス35は、表示部34と一体となってタッチパネルとして実施されてもよい。タッチパネルであれば、ユーザは、タップ操作、スワイプ操作等を入力することができる。もちろん、タッチパネルに代えて、スイッチボタン、マウス、QWERTYキーボード、音声認識装置、ジェスチャ検出装置、視線検出装置、生体信号検出装置、撮像装置などを採用してもよい。すなわち、HMIデバイス35がユーザによってなされた操作入力を受け付ける。HMIデバイス35は、応答として、通信バス30を介し操作入力に対応する信号をプロセッサ33に転送する。プロセッサ33が必要に応じて所定の制御や演算を実行しうる。HMIデバイス35は、ユーザからの入力を受付可能に構成されている入力部を含むともいえる。
【0022】
2.情報処理装置2の機能構成
図4は、プロセッサ23が備える機能部の一例を示す図である。
図4に示すように、プロセッサ23は、取得部231と、消去部232と、統合部233と、指定部234と、抽出部235とを備える。本節では、これらの機能部の概要を説明する。各機能部の詳細は、後述の情報処理と合わせて説明される。
【0023】
取得部231は、ユーザ端末3または他のデバイスからの情報を取得可能に構成される。取得部231は、記憶部22の少なくとも一部であるストレージ領域に記憶されている種々の情報を読み出し、読み出された情報を記憶部22の少なくとも一部である作業領域に書き込むことで、種々の情報を取得可能に構成されている。ストレージ領域とは、例えば、記憶部22のうち、SSD等のストレージデバイスとして実施される領域である。作業領域とは、例えば、RAM等のメモリとして実施される領域である。なお、取得部231による取得は、プロセッサ23に含まれる各機能部の出力結果を取得することを含む。
【0024】
消去部232は、種々の情報に基づき、化学反応ネットワークに含まれるノードやハイパーエッジなどを消去するように構成される。化学反応ネットワークの詳細は後述される。
【0025】
統合部233は、種々の情報に基づき、所定の条件を満たすノードやハイパーエッジなどを統合するように構成される。
【0026】
指定部234は、ユーザからの指定を受け付けるように構成される。当該指定は、例えば、所定の条件を満たすノードやハイパーエッジの指定などを含み得る。
【0027】
抽出部235は、種々の情報に基づき、化学反応ネットワークに含まれるノードやハイパーエッジのなかから所定の条件をみたすものを抽出するように構成される。
【0028】
3.情報処理について
本節では、前述した情報処理システム1において実行される情報処理について説明する。
【0029】
3.1.情報処理の流れについて
図5は、情報処理システム1において実行される情報処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、当該情報処理は、図示されない任意の例外処理を含みうる。例外処理は、当該情報処理の中断や、各処理の省略を含む。当該情報処理にて行われる選択または入力は、ユーザによる操作に基づくものでも、ユーザの操作に依らず自動で行われるものでもよい。
【0030】
[ステップS1]
まず、ステップS1にて、取得部231は、所定の反応元から生成物が生成される反応経路に関する化学反応ネットワークを取得する。ここでは説明の便宜上、ステップS1にて取得された化学反応ネットワークを第1の化学反応ネットワークA(または初期化学反応ネットワークA)という。本実施形態では、取得部231は、さらに少なくとも1つの反応元および当該反応元から得られる少なくとも1つの生成物に関する実験データD1を取得する。
【0031】
<化学反応ネットワーク>
化学反応ネットワークは、反応元と、当該反応元を反応させることによって得られる生成物との対応関係を示すデータ構造であり、これらの反応元と生成物との対応関係は、化学反応の反応経路として化学的には記述される。このような化学反応ネットワークは、数学的にはグラフネットワークを用いて記述可能である。化学反応ネットワークは、1つの化学式によって表現可能な物質を表すノードと、有向エッジとを含む。当該ノードは、反応元に対応する少なくとも1つの第1のノードと、生成物に対応する少なくとも1つの第2のノードとを含む。有向エッジは、第1のノードから第2のノードに向かって接続される。なお、1つのノードは、有向エッジによる他のノードとの接続関係に応じて、第1のノードとしても第2のノードとしても機能し得る。反応元および生成物は、単体であっても化合物であってもよい。有向エッジに接続される第1のノードおよび第2のノードの数はそれぞれ1つに限られず、複数であってもよい。本実施形態では、2以上の反応元または2以上の生成物を含む化学反応の反応経路を表現するために、化学反応ネットワークは、ハイパーグラフネットワークを用いて記述される。この場合、当該反応経路を表現するエッジは、ハイパーエッジとして規定される。
【0032】
以下の説明では、グラフネットワークを用いて数学的に記述される化学反応ネットワークを、記号Gを用いてハイパーグラフG(または化学反応ネットワークG)と表記することがある。ノードとして記述される物質を、記号v_i(iは物質の種類を示す添字であり、自然数である。)を用いてノードv_iと表記することがある。上記反応経路を表現する有向ハイパーエッジを、例えば、記号e等を用いてハイパーエッジeと表記することがある。また、当該ハイパーエッジeに対応する反応経路を、単に反応経路eということがある。上述したノードv_iの集合を、記号Vを用いてノード集合Vと表記することがある。また、反応経路を表すハイパーエッジeの集合を、記号Eを用いてハイパーエッジ集合Eと表記することがある。また、各ハイパーエッジeの反応元となるノードv_iを記号T(e)(または単にT)を用いてハイパーエッジの始点T(e)と表記し、各ハイパーエッジeの生成物となるノードv_iを記号H(e)(または単にH)を用いてハイパーエッジの終点H(e)と表記することがある。
【0033】
ハイパーグラフGは、ノード集合Vとハイパーエッジ集合Eとを要素とする集合(V,E)として定義することが可能である。また、ハイパーエッジ集合Eの要素であるハイパーエッジeには、係数dに基づく以下のような化学量論的反応式が与えられている。
【数1】
【0034】
v_iは、化合物を示すノードを示し、Nは、ハイパーグラフGに含まれるノード集合Vの要素数|V|を示す。当該ノード集合Vの要素数は、ハイパーグラフGによって表現される化学反応ネットワーク内の化合物の数に相当する。係数d_tは、ある反応経路eに対して生成物との関係に基づき、反応元となるノードv_iごとに設定されている。係数d_hは、ある反応経路eに対して反応元との関係に基づき、生成物となるノードv_iごとに設定されている。係数d_t,d_hは、それぞれ非負の実数であり、反応経路eのなかでの化学量論的性質等から予め設定されている。
【0035】
ここで、上述した数1に示される関係に基づき係数d_t,d_hを設定する方法の一例について説明する。例えば、4種類の化合物A,B,C,Dを含む化学反応ネットワーク、すなわちN=4の場合、各化合物A~Dに対してそれぞれ異なるi(i=1,2,3,4)が割り当てられる。この場合、例えば、反応元A+2(反応元B)→生成物Cという化学反応に対応する反応経路eに対してi番目の化合物の係数d_t(i,e)は、当該化学反応式における左辺の量的関係を示す値となり、i番目の化合物の係数d_h(i,e)は、当該化学反応式における右辺の量的関係を示す値となるように設定される。具体的には、d_t(1,e)=1、d_t(2,e)=2、d_t(3,e)=0、d_t(4,e)=0、d_h(1,e)=0、d_h(2,e)=0、d_h(3,e)=1、d_h(4,e)=0となる。このように係数d_t,d_hを規定することにより、上記左辺の値は、反応経路eにて消費される反応元の総物質量を示し、上記右辺の値は、反応経路eにて生成される生成物の総物質量を示す。
【0036】
<実験データD1>
次に、取得される実験データD1の一例について説明する。
図6は、実験データD1の構造の一例を示す図である。実験データD1は、ある反応元を所定の実験条件のもとで反応させ、生成物を得た実験結果に関する情報を示す。実験データD1の取得態様は任意であり、所定の外部データベースDB1からの取得であっても、ユーザからの入力に基づく取得であってもよい。本実施形態では、実験データD1は、3つの反応元(反応元A~C)を反応させることにより2つの生成物(生成物D,E)を生成した実験の結果を示す。
図6に示されるように、実験データD1は、反応元データD11と、生成物データD12と、実験条件データD13と、を含む。
【0037】
反応元データD11は、反応元A~Cに関する情報を示し、例えば、反応元A~Cの組成式(または化学構造式)に関する情報と、反応前の質量(すなわち、実験開始前の質量)と、反応後の質量(すなわち、実験終了後の質量)とを含む。なお、プロセッサ23は、反応元データD11の組成式に基づき、反応前の質量および反応後の質量のそれぞれを、物質量に換算することが可能である。また、反応元データD11は、予め、これらの質量が物質量に換算した値を格納していてもよい。また、質量は、濃度、密度、質量比など、単位体積や単位質量等の所定の単位あたりの量に換算された値として格納されていてもよい。
【0038】
生成物データD12は、生成物D,Eに関する情報を示し、例えば、生成物D,Eの組成式(または化学構造式)に関する情報と、反応前の質量(すなわち、実験開始前の質量)と、反応後の質量(すなわち、実験終了後の質量)とを含む。なお、プロセッサ23は、反応元データD11の組成式に基づき、反応前の質量および反応後の質量のそれぞれを、物質量に換算することが可能である。また、反応元データD11は、予め、これらの質量が物質量に換算した値を格納していてもよい。本実施形態では、生成物D,Eは反応前には投入されていなかったものとして、0としてある。また、本実施形態では、反応元A~Cは、反応後も観測されている。この場合、反応元A~Cは、生成物A~Cでもある。
【0039】
実験条件データD13は、上記反応元A~Cから生成物D,Eを得るための化学反応を起こすために行った実験の条件に関する情報を含み、例えば、実験時間、実験温度、当該反応物が晒される雰囲気である実験雰囲気などを含む。なお、上記実験データD1の形式はあくまで一例であり、反応元または生成物を特定可能であれば任意である。
【0040】
[ステップS2]
図5に戻り、次に、処理がステップS2に進み、抽出部235は、実験データD1に基づき、第1の化学反応ネットワークAに含まれる有向エッジのなかから対象エッジを抽出する。対象エッジは、実験データD1に含まれる、反応元に対応する第1のノードまたは生成物に対応する第2のノードに少なくとも接続される有向エッジである。このような構成によれば、化学反応ネットワーク内の実験データと整合しない反応経路を表すエッジを消去することで、化学反応ネットワークを簡略化しつつその信頼性を向上することができる。
【0041】
例えば、上記実験の結果として、n種類の化合物v_1,v_2,...v_nが生成物として得られたことを示す実験データD1が得られたとし、当該化合物の集合{v_1,v_2,...v_n}を集合D_iとして定義する。なお、ここでの添字iは、実験データD1が複数存在する場合における実験データD1のそれぞれを示す。プロセッサ23は、化学反応ネットワークに含まれる任意のハイパーエッジeに対して、ハイパーエッジ集合T(e)を抽出し、以下の条件に基づき、当該抽出されたハイパーエッジ集合が集合D_iに含まれるか否かを判定する。
【数2】
【0042】
抽出部235は、このような条件を満たすハイパーエッジ集合T(e)に含まれるハイパーエッジeを、対象エッジとして抽出する。その後、消去部232は、所定の消去条件に基づき、対象エッジのなかから消去エッジを特定する。例えば、プロセッサ23は、抽出された対象エッジとしてのハイパーエッジeのうち、以下の条件を満たすものを消去エッジとして特定する。
【数3】
【0043】
V_Aは、第1の化学反応ネットワークAのノード集合である。この条件は、あるハイパーエッジeの終点の集合(すなわちハイパーエッジeで表される化学反応の全生成物)が、第1の化学反応ネットワークAのノード集合(すなわち、化学反応ネットワークに含まれる全化学物質)のうち、実験データD1に含まれる化学物質以外のものを含む場合に満たされる。したがって、上記条件を満たす対象エッジ(ハイパーエッジe)は、実験データD1では得られない生成物が得られた反応経路を示すものであり、実験事実に矛盾する可能性がある。
【0044】
[ステップS3、ステップS4]
次に、処理がステップS3に進み、プロセッサ23は、ステップS2での抽出結果に基づき、消去エッジが存在するか否かを判定する。消去エッジが存在すると判定された場合、処理がステップS4に進み、消去部232は、第1の化学反応ネットワークAから消去エッジを消去する。これにより、第2の化学反応ネットワークBが生成される。言い換えれば、消去部232は、抽出された対象エッジのうち、実験データに含まれない生成物に対応する第2のノードに接続されている対象エッジの少なくとも1つを消去する。このようなステップS2~ステップS4の処理は、エッジ消去ステップにおける処理の一例である。その後、処理がステップS5に進む。一方、消去エッジが存在しないと判定された場合、ステップS4の処理が省略され、処理がステップS5に進む。この場合、便宜上、以下の処理において第1の化学反応ネットワークAを第2の化学反応ネットワークBとして取り扱う。すなわち、ステップS2またはステップS3の処理が行われた化学反応ネットワークを、第2の化学反応ネットワークとして取り扱う。
【0045】
[ステップS5]
ステップS5にて、プロセッサ23は、第2の化学反応ネットワークBに含まれるハイパーエッジeのなかから、無向エッジと等価なハイパーエッジを抽出する。無向エッジは、あるエッジの始点と終点が可逆であるエッジであり、互いが始点と終点を入れ替えても等価な双方向エッジともいえる。無向エッジと等価であるか否かを判定するための条件は任意であるが、例えばプロセッサ23は、以下の条件を満たす2つのハイパーエッジe_a,e_bのセットを、無向エッジに変換可能なハイパーエッジであると判定する。
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【0046】
以下、説明の便宜上、上記2つのハイパーエッジe_a,e_bのそれぞれを、第1のエッジe_a、第2のエッジe_bという。また、説明の便宜上、ここでは第1のエッジe_aの始点を第1のノードといい{v_j}と表され、第1のエッジe_aの終点を第2のノードといい{v_k}と表される。すなわち、第1のエッジe_aは、有向エッジとして第1のノード{v_j}から第2のノード{v_k}に向けて接続される。上記条件が満たされる場合、第1のエッジe_aの始点と第2のエッジe_bの終点とが一致し、第1のエッジe_aの終点と第2のエッジe_bの始点とが一致する。したがって、上記条件が満たされる場合、第2の化学反応ネットワークBは、有向エッジとして上記第1のエッジe_aと、当該第2のノード{v_k}から当該第1のノード{v_j}に向けて接続される第2のエッジe_bとを含む。
【0047】
<ステップS6、ステップS7>
次に、処理がステップS6に進み、プロセッサ23は、抽出された無向エッジと等価なハイパーエッジ(すなわち、第1のエッジe_aと第2のエッジe_b)に接続される第1のノードと第2のノードとが、所定の量的関係を満たすか否かを判定する。量的関係を満たすと判定された場合、処理がステップS7に進み、統合部233は、第1のエッジe_aおよび第2のエッジe_bに対応する反応元と生成物とに対応するノード(すなわち第1のノード{v_j}および第2のノード{v_k})が互いに量的関係を満たす場合に、第1のノードと第2のノードとを統合することにより第1の統合ノードを生成する。このような構成によれば、第1のノード{v_j}と第2のノード{v_k}によって化学反応上は同様の性質を有する物質に対応するノードを削減することができるため、化学反応ネットワークの簡略化を図ることができる。これにより、プロセッサ23は、第2の化学反応ネットワークBから第3の化学反応ネットワークCを生成する。
【0048】
上記量的関係を表す条件は、例えば、係数d_t,d_hを用いた以下の関係式を用いて規定される。これらの係数d_t,d_hは、上述した数1における関係式を満たすように構成されている。
【数8】
【数9】
【0049】
上記量的関係は、反応前後で同一の量的関係を有することから、例えば反応元と生成物とが互いに異性体の関係を有し、当該2つのエッジe_a,e_bが双方向の異性化に対応する化学反応を表す場合に用いられる。なお、上記関係式はあくまで一例であり、反応元と生成物との量的関係を表す関係式は対象となる系に応じて適宜設計可能である。
【0050】
なお、ステップS6にて量的関係を満たす第1のエッジe_aと第2のエッジe_bが存在しないと判定された場合、ステップS7の処理が省略され、処理がステップS8に進む。以下、説明の便宜上、ステップS6の判定が行われた化学反応ネットワークを総称して第3の化学反応ネットワークCという。
【0051】
<ステップS8>
ステップS8にて、プロセッサ23は、第3の化学反応ネットワークCがノードとして、第1の特定ノードと第2の特定ノードとを含むか否かを判定する。第1の特定ノードは、第1の特定エッジに接続されるノードであり、第2の特定ノードは、第2の特定エッジに接続されるノードである。第1の特定ノードとは異なる第1の特定エッジの接続先は、第2の特定ノードとは異なる第2の特定エッジの接続先に対して、第1の特定エッジによって表される化学反応式の量的関係を表す所定の判定条件を満たすように構成される。具体的には、プロセッサ23は、任意のハイパーエッジe(本実施形態における第1の特定エッジに相当する。)に対して下記の条件を満たすハイパーエッジe'(本実施形態における第2の特定エッジに相当する。)が存在するような2つのノードv_k,v_jが存在するか否かを判定する。ここでは、ノードv_kを第1の特定ノードと、ノードv_jを第2の特定ノードとして表記する。
【数10】
【数11】
【0052】
なお、E_cは、第3の化学反応ネットワークCに含まれるハイパーエッジ集合Eを表す。プロセッサ23は、このような条件を満たす2つのノードv_k,v_jのそれぞれが、第1の特定ノードおよび第2の特定ノードであると判定する。本実施形態では、プロセッサ23は、上記条件を満たすノードv_kを第1の特定ノード、ノードv_jを第2の特定ノードであると判定する。言い換えれば、プロセッサ23は、上記判定条件を満たす2つのノードが存在する場合に、第3の化学反応ネットワークCがノードとして、第1の特定ノードと第2の特定ノードとを含むと判定する。上記判定条件は、第1の特定ノードv_kに対応する生成物を生成する全ての反応経路eの集合と、第2の特定ノードv_jに対応する生成物を生成する全ての反応経路e'の集合とが互いに互いを含むような包含関係を示している。そのため、数10および数11の両方が満たされていることは、2つの集合が等しいことを意味する。すなわち、上記判定条件を満たす場合、これらの第1の特定ノードv_kと第2の特定ノードv_jとは化学反応ネットワーク上では同一の化合物を示すことを意味する。したがって、これらの2つの特定ノードを統合することで、情報量を保ったまま化学反応ネットワークをより簡易にすることができる。本実施形態では、当該判定条件は、数11によって、jとkとを置換した場合にも、数10と同様の関係が成り立つように規定されている。これにより、より精度良く、類似する第1の特定ノードと第2の特定ノードを見つけ出すことができる。第3の化学反応ネットワークCがこのような特定ノードが3つ以上含む場合、上記2つの特定ノードを1つに統合する処理を繰り返すことにより、最終的に複数の特定ノードを1つに統合する。
【0053】
なお、判定条件の規定方法はこれに限られず任意であり、例えば、以下の条件であってもよい。
【数12】
【数13】
【0054】
また、数10および数12を判定条件としてもよい。さらに、判定条件は、上記のようにある物質を全て消費するような反応プロセスを表すものに限られず、係数d_t,d_hを用いた量的関係を満たす条件式を含んでいてもよい。
【0055】
<ステップS9>
ステップS8の判定の結果、化学反応ネットワークが第1の特定ノードと第2の特定ノードとを含むと判定された場合、処理がステップS9に進み、統合部233は、第1の特定ノードと第2の特定ノードとを統合することにより第2の統合ノードを生成する。これにより、プロセッサ23は、第3の化学反応ネットワークから、第4の化学反応ネットワークDを生成する。このような構成によれば、ある反応元または生成物に接続されるエッジの接続先が化学反応上等価なものである場合に、異なる複数のノードを統合することができる。したがって、化学反応ネットワークをより簡略化することができる。その後、処理がステップS10に進む。なお、ステップS8の判定の結果、化学反応ネットワークが第1の特定ノードと第2の特定ノードとを含まないと判定された場合、ステップS9の処理が省略され、処理がステップS10に進む。以下、説明の便宜上、ステップS8の判定が行われた化学反応ネットワークを総称して第4の化学反応ネットワークDという。
【0056】
<ステップS10>
ステップS10において、抽出部235は、第4の化学反応ネットワークDから終端ノードを抽出する。終端ノードは、第2のノードとなるように接続される有向エッジが存在し、第1のノードとなるように接続される有向エッジが存在しないノードである。このような構成によれば、所定の化学反応によって生成された生成物が他の化学反応によって反応元として機能しないという、化学反応上不自然な化学物質が、終端ノードとして特定される。そのため、化学反応ネットワークの信頼性を向上することができる。終端ノードは、第2のノードとして化学反応によって生成されるが、第1のノードとして化学反応によって消費されない物質を意味する。特に、化学反応ネットワークに含まれる反応経路の中から、自己触媒サイクル等の循環的な反応経路に注目する場合、このような循環的な反応経路に対して終端ノードは関与しない。そのため、このような終端ノードを消去する処理は、第4の化学反応ネットワークDから循環的な反応経路を抽出する場合に、特に有用となる。本実施形態では、抽出部235は、例えば、以下の条件を満たすノードv_jを終端ノードの候補として抽出する。
【数14】
【0057】
E_Dは、第4の化学反応ネットワークDのハイパーエッジ集合Eを示す。その後、上記条件に基づき抽出された終端ノードの候補v_jが以下の条件を満たすものを、終端ノードとして抽出する。
【数15】
【0058】
本実施形態では、抽出部235は、これらの条件を満たすハイパーエッジeを、当該終端ノードv_jとともに消去可能な終端エッジとして、終端ノードv_jと関連付けて抽出する。
【0059】
<ステップS11>
次に、処理がステップS11に進み、指定部234は、抽出された終端ノードのうちの少なくとも1つに対する指定をユーザから受け付ける。当該指定は、例えば、HMIデバイス35を通じて行われる。
【0060】
<ステップS12>
次に、処理がステップS12に進み、消去部232は、抽出された終端ノードv_jのうち、ステップS11にて指定された終端ノードを消去する。これにより、プロセッサ23は、第4の化学反応ネットワークDから第5の化学反応ネットワークEを生成する。このような構成によれば、ユーザは、反応元、生成物、およびこれらが関与する化学反応の性質に応じて、抽出された終端ノードのうち、消去する必要がある終端ノードを指定することで、より信頼性の高い化学反応ネットワークを得ることができる。本実施形態では、消去部232は、さらに、消去される終端ノードが第2のノードとなるように接続される有効エッジを消去する。言い換えれば、消去部232は、消去される終端ノードに接続される有向エッジを消去する。このような構成によれば、化学反応ネットワークの簡易化をさらに促進することができる。また、このような有向エッジを消去することにより、当該有効エッジに接続されていた第1のノードが終端ノードとなる可能性がある。この場合、処理がステップS10に戻り、抽出部235が再度終端ノードの抽出を行い、その後、ステップS11以降の処理が行われてもよい。なお、このように、消去部232は、終端ノードおよび当該ノードが第2のノードとなるように接続される有効エッジが消去されたことにより連鎖的に終端ノードとして抽出されるノードを、ユーザの指定によらず消去してもよい。これにより、ユーザにとっての利便性が向上する。
【0061】
<ステップS13>
次に、処理がステップS13に進み、プロセッサ23は、第5の化学反応ネットワークEに含まれる部分ネットワークのうち、予め定められた抽出条件を満たす部分ネットワークが存在するか否かを判定する。部分ネットワークは、化学反応ネットワークに含まれるノードおよび有向エッジによって構成される部分集合として定義される。抽出条件は、所定の化学反応プロセスに関与する反応元および生成物の量的関係に基づき規定される。抽出条件は、当該化学反応プロセスの性質を表す条件ともいえる。ここでは、部分ネットワークを構成するノードの集合(すなわち、第5の化学反応ネットワークに含まれるノード集合V_Eのうち、抽出条件を満たす部分集合)をVと表記し、部分ネットワークを構成するハイパーエッジ集合(すなわち、第5の化学反応ネットワークに含まれるハイパーエッジ集合E_Eのうち、抽出条件を満たす部分集合)をEと表記する。このような抽出条件を満たす部分ネットワークが存在するとき、これらのノード集合Vとハイパーエッジ集合Eとによって構成される集合(V,E)をグラフ構造的特徴という。このようなグラフ構造的特徴は、全探索や所定のアルゴリズムなど、任意の手法を用いて探索可能である。本実施形態では、抽出条件を以下のような手順で規定する。
【0062】
まず、プロセッサ23は、原料(すなわち反応元)となる化合物を定め、当該化合物に対応するノードfと表記する。次に、プロセッサ23は、ハイパーエッジ集合Eとノードfを用いて、以下の条件を満たすノード集合Wを定義する。
【数16】
【0063】
そして、ノード集合Wがハイパーエッジ集合Eとの関係で以下の条件を満たすとき、これらのセットである(W(E,f),E)をサイクルと定義する。
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【0064】
次に、プロセッサ23は、上記条件に基づき定義されるサイクルに対して、化学反応プロセスを表す抽出条件を設定する。本実施形態の抽出条件は、化学反応プロセスとして自触媒サイクルに対応する自触媒条件を含む。このような構成によれば、化学反応ネットワークの解釈性をより向上させることができる。触媒条件は、例えば以下の条件によって表現可能である。例えば、抽出条件は、以下のように定義され、プロセッサ23は、上記サイクル(W(E,f),E)が以下の条件を満たす場合、当該サイクル(W(E,f),E)を自触媒サイクルと特定する。
【数21】
【数22】
【数23】
【数24】
【0065】
ここで、i_*は、v_i=fとなるiである。上記の不等式は、|E|個のz(e)の値に関する線形不等式である。そのため、プロセッサ23は、線形計画問題のソルバー等を用いることで、上記z(e)が存在するか否かを判別することができる。すなわち、プロセッサ23は、上記線形不等式によって表される抽出条件に基づき、各サイクル(W(E,f),E)が自触媒サイクルであるか否かを判別することができる。なお、ある(V,E)に対して、その部分集合でかつ次触媒サイクルとなるものの集合をA(V,E,f)と表記する。
【0066】
最後に、自触媒サイクル(W(E,f),E)が以下の条件を満たすとき、プロセッサ23は、当該自触媒サイクルを最小自触媒サイクルと定義する。当該条件は、最小自触媒条件といい、上記自触媒条件の一部とも解釈することもできる。
【数25】
【0067】
<ステップS14>
その後、抽出条件を満たす部分ネットワークが存在すると判定された場合、処理がステップS14に進み、抽出部235は、当該部分ネットワークを抽出する。すなわち、抽出部235は、第5の化学反応ネットワークEから上記抽出条件を満たすノードおよび有向エッジによって構成される部分ネットワークを抽出する。このような構成によれば、化学反応ネットワークの解釈性を向上させることができる。なお、プロセッサ23は、抽出された部分ネットワークに関する情報を、表示部34を通じてユーザに対して提示してもよい。
【0068】
以上をまとめると、情報処理システム1は、次の各部がなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備える。取得部231は、所定の反応元から生成物が生成される反応経路に関する情報を含む化学反応ネットワークを取得する。化学反応ネットワークは、反応元に対応する少なくとも1つの第1のノードと、生成物に対応する少なくとも1つの第2のノードと、第1のノードから第2のノードに向かって接続される有向エッジとを含む。統合部233は、化学反応ネットワークが有向エッジとして、第1のノードから第2のノードに向けて接続される第1のエッジと、当該第2のノードから当該第1のノードに向けて接続される第2のエッジとを含み、第1のエッジおよび第2のエッジに対応する反応元と生成物とに対応するノードが互いに量的関係を満たす場合に、第1のノードと第2のノードとを統合することにより第1の統合ノードを生成する。
【0069】
このような構成によれば、例えば、第1のノードと第2のノードによって化学反応上、同様の性質を有する物質に関する情報を削減することができるため、化学反応ネットワークの簡略化を図ることができる。
【0070】
3.2.化学反応ネットワークの変遷の一例について
本節では、上記情報処理による化学反応ネットワークの変遷の一例について説明する。
図7は、情報処理による化学反応ネットワークの変遷の一例を示す図である。本節で扱う化学反応ネットワークは、アルドール反応、レトロアルドール反応、および異性化という3種類の反応経路を含む。第1の化学反応ネットワークAが、7のノードC1,C2,C3a,C3b,C4a,C4b,C5と、10のハイパーエッジe1~e10とを含む。ハイパーエッジe1~e10は、アルドール反応、レトロアルドール反応、異性化の三種類の反応経路を表現するように上記ノードC1,C2,C3a,C3b,C4a,C4b,C5間を接続する。各ノードのCi(i=1~5)に含まれる数字は、ノードによって表される化合物の炭素数を示す。また、各ノードを表すC3a,C3b、およびC4a,C4bのように、数字のインデックスが同一でアルファベットのインデックスaとbが異なる場合、これらは同一の炭素の異性体を表す。
【0071】
このようなノードC1,C2,C3a,C3b,C4a,C4b,C5を用いた場合、アルドール反応は、以下の2つの条件のうちの少なくとも1つを満たすハイパーエッジeとして表される。ただし、ハイパーエッジeは、化学反応ネットワークに含まれるハイパーエッジ集合Eに属する。
【数26】
【数27】
【0072】
レトロアルドール反応は、以下の2つの条件のうちの少なくとも1つを満たすハイパーエッジeとして表される。ただし、ハイパーエッジeは、化学反応ネットワークに含まれるハイパーエッジ集合Eに属する。
【数28】
【数29】
【0073】
異性化は、以下の2つの条件をそれぞれ満たす2つのハイパーエッジe_1,e_2として表される。ただし、2つのハイパーエッジe_1,e_2のそれぞれは、化学反応ネットワークに含まれるハイパーエッジ集合Eに属する。
【数30】
【数31】
【0074】
図7中では、アルドール反応に対応するハイパーエッジが、四角によって示される中継点を経由する実線によって示される。一方、
図7中では、アルドール反応に対応するハイパーエッジと当該ハイパーエッジに対して逆方向に接続されるレトロアルドール反応に対応するハイパーエッジとにより構成されるペア、および逆方向の異性化を表す2つのハイパーエッジにより構成されるペアが、四角によって示される中継点を経由する破線によって示される。破線によって示されるハイパーエッジのペアは、ハイパーエッジの始点と終点とを入れ替え可能な双方向または無向のハイパーエッジと等価となる。
【0075】
本実施形態では、第1の化学反応ネットワークは、10の(有向の)ハイパーエッジe1~e10を有する。第1のハイパーエッジe1は、始点としてのノードC1,C2から終点としてのノードC3aに接続されている。第2のハイパーエッジe2は、始点としてのノードC1,C3aから、終点としてのノードC4aに接続されている。第3のハイパーエッジe3は、始点としてのノードC1,C2から終点としてのノードC3bに接続されている。第4のハイパーエッジe4は、始点としてのノードC1,C3bから終点としてのノードC4bに接続されている。
【0076】
第5のハイパーエッジe5は、始点としてのノードC2から終点としてのノードC4bに接続されており、ノードC2に対応する2つの物質がノードC4bに対応する1つの物質となるようなアルドール反応を示す。第6のハイパーエッジe6は、始点としてのノードC4bから終点としてのノードC2に接続されており、ノードC4bに対応する1つの物質がノードC2に対応する2つの物質となるようなレトロアルドール反応を示す。第5のハイパーエッジe5と第6のハイパーエッジe6とがペアとなることで、当該ペアが双方向性を発現する。
【0077】
第7のハイパーエッジe7は、始点としてのノードC1,C4bから終点としてのノードC5に接続されている。第8のハイパーエッジe8は、始点としてのノードC5から終点としてのノードC1,C4bに接続されている。第7のハイパーエッジe7と第8のハイパーエッジe8とがペアとなることで、当該ペアが双方向性を発現する。
【0078】
第9のハイパーエッジe9は、始点としてのノードC4aから終点としてのノードC4bに接続されており、ノードC4aに対応する物質の異性化を示す。第10のハイパーエッジe10は、始点としてのノードC4bから終点としてのノードC4aに接続されており、ノードC4bに対応する物質の異性化を示す。第9のハイパーエッジe9と第10のハイパーエッジe10とがペアとなることで、当該ペアが双方向性を発現する。
【0079】
このように構成される第1の化学反応ネットワークAが、上記情報処理によって第2の化学反応ネットワークB、第3の化学反応ネットワークC、第4の化学反応ネットワークD、第5の化学反応ネットワークEと順に変遷し、更新される。なお、
図7では説明の便宜上、直前の化学反応ネットワークと異なる部分に対してのみ番号を付して、直前の化学反応ネットワークと共通の部分に関しては、直前、あるいはそれ以前の化学反応ネットワークの番号を参照されたい。
【0080】
本実施形態では、まず取得部231は、ステップS1にて生成物としてノードC5に対応する物質が得られたという実験データD1(すなわちD_1={C_5})を取得したとする。この場合、ノードC5に対応する物質からノードC1,C4bに対応する物質が生成される反応経路が生じていないと考えられる。したがって、抽出部235は、ステップS2にてこのような反応経路に対応する第8のハイパーエッジe8を消去エッジとして抽出し、ステップS4にて消去部232が第8のハイパーエッジe8を消去する。これにより、第7のハイパーエッジe7と第8のハイパーエッジe8とのペアが解消される。その結果、プロセッサ23は、第1の化学反応ネットワークAから消去エッジとしての第8のハイパーエッジe8が削除された、第2の化学反応ネットワークBを生成する。
【0081】
次に、抽出部235は、ステップS5にて、第2の化学反応ネットワークBに含まれるハイパーエッジe1~e7,e9,e10のなかから、無向エッジと等価なハイパーエッジを抽出する。本実施形態では、抽出部235は、このようなハイパーエッジとして、アルドール反応とレトロアルドール反応の双方を有する第5のハイパーエッジe5と第6のハイパーエッジe6とのペア、および、双方的な異性化に対応する第9のハイパーエッジe9と第10のハイパーエッジe10とのペアを抽出する。
【0082】
次に、プロセッサ23は、ステップS6にて、抽出されたハイパーエッジのノードが上記量的関係を満たすか否かを判定する。ここでは、第9のハイパーエッジe9と第10のハイパーエッジe10とのペアのノードC4a,C4bのみが上記量的関係を満たす。そのため、統合部233は、ステップS7にて、第1のノードとしてのノードC4aと、第2のノードとしてのノードC4bとを統合することにより、第1の統合ノードとしてノードC4aを生成する。このとき、消去部232は、これらの2つのノードC4a,C4bを接続していたハイパーエッジe9,e10を消去し、統合部233は、第5のハイパーエッジe5と第6のハイパーエッジe6とのペアの接続先であったノードC4bをノードC4aに変更する。なお、このようなノードの生成は、第1のノードまたは第2のノードのいずれか一方を消去することにより実現されていてもよい。その結果、プロセッサ23は、第3の化学反応ネットワークCを生成する。
【0083】
次に、プロセッサ23は、ステップS8にて、第3の化学反応ネットワークCが第1の特定ノードと第2の特定ノードとを含むか否かを判定する。本実施形態では、ノードC3a,C3bが数10および数11によって表される判定条件を満たすような関係性を有するため、プロセッサ23は、第3の化学反応ネットワークCが第1の特定ノードとしてのノードC3aと第2の特定ノードとしてのノードC3bとを含むと判定する。そのため、プロセッサ23は、ステップS9にて、これらのノードC3a,C3bを統合することにより、第2の統合ノードとしてのノードC3aを生成する。これに伴い、統合部233は、ノードC3bに接続されていた第3のハイパーエッジe3を、第1のハイパーエッジe1に統合し、第3のハイパーエッジe3を消去する。
【0084】
次に、抽出部235は、ステップS10にて終端ノードとしてノードC5を抽出する。その後、ステップS11にてユーザが抽出されたノードC5を指定することにより、消去部232は、ステップS12にて当該ノードC5を終端ノードとして消去する。これに伴い、消去部232は、ノードC5に接続されていた第7のハイパーエッジe7を消去する。これにより、プロセッサ23は、第5の化学反応ネットワークEを生成する。第5の化学反応ネットワークは、4のノードC1,C2,C3a,C4aと、4のハイパーエッジe1,e2,e5,e6を含み、そのノードの数およびハイパーエッジの数は、第1の化学反応ネットワークAのものに比べて半分以下となっている。このことから、当該情報処理が化学反応ネットワークの簡略化を実現していることが裏付けられる。
【0085】
その後、抽出部235は、第5の化学反応ネットワークEから、抽出条件としての自触媒条件に基づき、自触媒サイクル、および最小自触媒サイクルを構成する部分ネットワークを抽出する。本実施形態では、プロセッサ23は、当該抽出結果を表示部34に表示させ、ユーザに提示する。このとき、本情報処理によって最終的な化学反応ネットワーク(第5の化学反応ネットワークE)を、当該抽出結果と一覧可能な態様で表示させてもよい。これにより、ユーザによる抽出結果の妥当性の判断の際に、化学反応ネットワークを参照しやすくすることができる。本実施形態において、抽出部235は、自触媒サイクルの抽出結果として、第1のハイパーエッジe1、第2のハイパーエッジe2、第5のハイパーエッジe5、および第6のハイパーエッジe6を表示部34に表示させ、最小自触媒サイクルの抽出結果として、第1のハイパーエッジe1、第2のハイパーエッジe2、および第5のハイパーエッジe5を表示部34に表示させる。その表示態様は任意であるが、プロセッサ23は、例えば、各ハイパーエッジの始点および終点を表示することにより、当該ハイパーエッジの詳細を把握しやすい態様で表示させる。このような情報は、ユーザ端末3の表示部34または他のデバイスを介して、ユーザに提示可能である。かかる場合、例えば、プロセッサ23は、画面、静止画または動画を含む画像、アイコン、メッセージ等の視覚情報を、ユーザ端末3の表示部34に表示させるように制御する。プロセッサ23は、視覚情報をユーザ端末3に表示させるためのレンダリング情報だけを生成してもよい。なお、プロセッサ23は、ユーザ端末3または他のデバイスユーザを介さずに、出力された情報をユーザに対して提示してもよい。
【0086】
4.その他
上記情報処理システム1の態様はあくまで一例であり、これに限られない。
【0087】
上記情報処理の各ステップにて行われる処理の順序は任意であり、各ステップの処理の結果、ノードまたはエッジの消去または統合が行われる化学反応ネットワークも任意である。各ステップの処理(特にノードまたはエッジの消去または統合)は、一連の情報処理によって行われる必要はなく、それぞれ単独で行われてもよい。また、各ステップにて行われる処理は、一連の情報処理のなかで複数回行われてもよい。複数回行われる同一の処理は連続して繰り返し行われても、これらの処理の間に他の処理を介在させてもよい。
【0088】
上述した抽出条件は、自触媒条件を含むものに限られない。例えば、抽出条件は、ある反応元およびある生成物に基づき、当該反応元から生成物に至るまで量的関係を満たす反応経路が存在する場合に、抽出部235が当該反応経路に対応する有向エッジの集合を部分ネットワークとして抽出するように設定されていてもよい。このような構成によれば、ユーザは、所望の原料(反応元)から所望の生成物(特に最終生成物)を得るための反応経路を把握しやすくなる。そのため、触媒設計など反応経路の改良等に関して、ユーザに対して種々の着想を与えやすくなる。また、抽出条件は、指定された実験条件が化学反応ネットワークに含まれる反応経路を経由させるために必要な活性化エネルギーを上回るように設定されていることを含んでもよい。また、抽出条件は、化学反応ネットワークに含まれる第1のノード、第2のノード、および有向エッジの少なくとも1つに対して課せられる条件として規定されていてもよい。
【0089】
ステップS2において、消去部232は、実験データD1に含まれない反応元に対応する第1のノードに接続されている対象エッジの少なくとも1つを消去してもよい。すなわち、消去部232は、実験データD1に反応元として用いられていない物質が関与している反応経路を表すハイパーエッジeを消去してもよい。要は、消去部232は、対象エッジのうち、実験データD1に含まれない反応元に対応する第1のノードまたは実験データに含まれない生成物に対応する第2のノードに接続されている対象エッジの少なくとも1つを消去する。これにより、より実験データD1と矛盾する可能性のある反応経路を化学反応ネットワークから消去することで、化学反応ネットワークの信頼性を向上することができる。
【0090】
上記終端ノードv_jの消去は、ユーザの指定に基づいて行われなくてもよい。要は、消去部232は、抽出された終端ノードのうちの少なくとも1つを消去すればよい。このような構成によれば、化学反応ネットワークの信頼性を向上しつつ、化学反応ネットワークの簡略化を図ることができる。また、当該終端ノードの消去は、情報処理装置2によって自動的に行われなくてもよく、ユーザによって手動で行われてもよい。
【0091】
情報処理装置2は、オンプレミス形態であってもよく、クラウド形態であってもよい。クラウド形態の情報処理装置2としては、例えば、SaaS(Software as a Service)、クラウドコンピューティングという形態で、上述の機能や処理を提供してもよい。
【0092】
上記実施形態では、情報処理装置2が種々の記憶・制御を行ったが、情報処理装置2に代えて、複数の外部装置が用いられてもよい。すなわち、種々の情報やプログラムは、ブロックチェーン技術等を用いて複数の外部装置に分散して記憶されてもよい。
【0093】
上記実施形態は、情報処理システム1に限定されず、情報処理方法であっても、情報処理プログラムであってもよい。情報処理方法は、情報処理システム1の各ステップを含む。情報処理プログラムは、少なくとも1つのコンピュータに、情報処理システム1の各ステップを実行させる。
【0094】
上記情報処理システム1等は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0095】
(1)情報処理システムであって、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、取得ステップでは、所定の反応元から生成物が生成される反応経路に関する情報を含む化学反応ネットワークを取得し、ここで、前記化学反応ネットワークは、前記反応元に対応する少なくとも1つの第1のノードと、前記生成物に対応する少なくとも1つの第2のノードと、前記第1のノードから前記第2のノードに向かって接続される有向エッジとを含み、ノード統合ステップでは、前記化学反応ネットワークが前記有向エッジとして、前記第1のノードから前記第2のノードに向けて接続される第1のエッジと、当該第2のノードから当該第1のノードに向けて接続される第2のエッジとを含み、前記第1のエッジおよび前記第2のエッジに対応する前記反応元と前記生成物とに対応するノードが互いに量的関係を満たす場合に、前記第1のノードと前記第2のノードとを統合することにより第1の統合ノードを生成する、もの。
【0096】
このような構成によれば、第1のノードと第2のノードによって化学反応上、同様の性質を有する物質に関する情報を削減することができるため、化学反応ネットワークの簡略化を図ることができる。
【0097】
(2)上記(1)に記載の情報処理システムにおいて、前記取得ステップでは、さらに少なくとも1つの反応元および当該反応元から得られる少なくとも1つの生成物に関する実験データを取得し、さらにエッジ消去ステップでは、前記実験データに含まれる、前記反応元に対応する前記第1のノードまたは前記生成物に対応する前記第2のノードに少なくとも接続される前記有向エッジである対象エッジのうち、前記実験データに含まれない前記反応元に対応する第1のノード、または前記実験データに含まれない前記生成物に対応する第2のノードに接続されている前記対象エッジの少なくとも1つを消去する、もの。
【0098】
このような構成によれば、化学反応ネットワーク内の実験データと整合しない反応経路を表すエッジを消去することで、化学反応ネットワークを簡略化しつつその信頼性を向上することができる。
【0099】
(3)上記(1)または(2)に記載の情報処理システムにおいて、前記ノード統合ステップでは、前記化学反応ネットワークが第1の特定ノードと第2の特定ノードとを含む場合、前記第1の特定ノードと前記第2の特定ノードとを統合することにより第2の統合ノードを生成し、ここで、前記第1の特定ノードは、第1の特定エッジに接続され、前記第2の特定ノードは、第2の特定エッジに接続され、前記第1の特定ノードとは異なる前記第1の特定エッジの接続先は、前記第2の特定ノードとは異なる前記第2の特定エッジの接続先に対して、前記第1の特定エッジによって表される化学反応式の量的関係を表す所定の判定条件を満たすように構成される、もの。
【0100】
このような構成によれば、ある反応元または生成物に接続されるエッジの接続先が化学反応上類似なものである場合に、異なる複数のノードを統合することができる。したがって、化学反応ネットワークをより簡略化することができる。
【0101】
(4)上記(1)~(3)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、さらに終端ノード抽出ステップでは、前記化学反応ネットワークから終端ノードを抽出し、ここで、前記終端ノードは、前記第2のノードとなるように接続される有向エッジが存在し、前記第1のノードとなるように接続される有向エッジが存在しないノードである、もの。
【0102】
このような構成によれば、所定の化学反応によって生成された生成物が他の化学反応によって反応元として機能しないという、化学反応上不自然な化学物質が、終端ノードとして特定される。そのため、化学反応ネットワークの信頼性を向上することができる。
【0103】
(5)上記(4)に記載の情報処理システムにおいて、さらに終端ノード消去ステップでは、抽出された前記終端ノードのうちの少なくとも1つを消去する、もの。
【0104】
このような構成によれば、化学反応ネットワークの信頼性を向上しつつ、化学反応ネットワークの簡略化を図ることができる。
【0105】
(6)上記(4)または(5)に記載の情報処理システムにおいて、さらに指定ステップでは、抽出された前記終端ノードのうちの少なくとも1つに対する指定をユーザから受け付け、さらに終端ノード消去ステップでは、抽出された前記終端ノードのうち、指定された前記終端ノードを消去する、もの。
【0106】
このような構成によれば、ユーザは、反応元、生成物、およびこれらが関与する化学反応の性質に応じて、抽出された終端ノードのうち、消去する必要がある終端ノードを指定することで、より信頼性の高い化学反応ネットワークを得ることができる。
【0107】
(7)上記(5)または(6)に記載の情報処理システムにおいて、前記終端ノード消去ステップでは、さらに、消去される前記終端ノードが前記第2のノードとなるように接続される有向エッジを消去する、もの。
【0108】
このような構成によれば、化学反応ネットワークの簡易化をさらに促進することができる。
【0109】
(8)上記(1)~(7)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、さらに特徴抽出ステップでは、前記化学反応ネットワークから予め定められた抽出条件を満たすノードおよび有向エッジによって構成される部分ネットワークを抽出し、ここで、前記抽出条件は、所定の化学反応プロセスに関与する反応元および生成物の量的関係に基づき規定される、もの。
【0110】
このような構成によれば、化学反応ネットワークの解釈性を向上させることができる。
【0111】
(9)上記(8)に記載の情報処理システムにおいて、前記抽出条件は、前記化学反応プロセスとして自触媒サイクルに対応する自触媒条件を含む、もの。
【0112】
このような構成によれば、化学反応ネットワークの解釈性をより向上させることができる。
【0113】
(10)情報処理方法であって、上記(1)~(9)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを含む、方法。
【0114】
このような構成によれば、化学反応ネットワークの簡略化を図ることができる。
【0115】
(11)情報処理プログラムであって、少なくとも1つのコンピュータに、上記(1)~(9)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
【0116】
このような構成によれば、化学反応ネットワークの簡略化を図ることができる。
もちろん、この限りではない。
【0117】
最後に、本開示に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0118】
1 :情報処理システム
2 :情報処理装置
20 :通信バス
21 :通信部
22 :記憶部
23 :プロセッサ
231 :取得部
232 :消去部
233 :統合部
234 :指定部
235 :抽出部
3 :ユーザ端末
30 :通信バス
31 :通信部
32 :記憶部
33 :プロセッサ
34 :表示部
35 :HMIデバイス
C1 :ノード
C2 :ノード
C3 :ノード
C3a :ノード
C3b :ノード
C4a :ノード
C4b :ノード
C5 :ノード
D1 :実験データ
D11 :反応元データ
D12 :生成物データ
D13 :実験条件データ
DB1 :外部データベース
e1 :ハイパーエッジ
e2 :ハイパーエッジ
e3 :ハイパーエッジ
e4 :ハイパーエッジ
e5 :ハイパーエッジ
e6 :ハイパーエッジ
e7 :ハイパーエッジ
e8 :ハイパーエッジ
e9 :ハイパーエッジ
e10 :ハイパーエッジ