(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120173
(43)【公開日】2024-09-04
(54)【発明の名称】防水性縫製品の製造方法および防水性縫製品の接合構造
(51)【国際特許分類】
D06H 5/00 20060101AFI20240828BHJP
B29C 65/08 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
D06H5/00
B29C65/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025330
(22)【出願日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2023026788
(32)【優先日】2023-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023147165
(32)【優先日】2023-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506419179
【氏名又は名称】株式会社くればぁ
(74)【代理人】
【識別番号】100180057
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】石橋衣理
(72)【発明者】
【氏名】中河原四郎
【テーマコード(参考)】
3B154
4F211
【Fターム(参考)】
3B154AB19
3B154BA48
3B154BB28
3B154BB62
4F211AD08
4F211AD16
4F211AD19
4F211AD20
4F211AG01
4F211AG03
4F211TA01
4F211TA06
4F211TA15
4F211TC03
4F211TC09
4F211TD11
4F211TD12
4F211TN22
4F211TN80
4F211TQ05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】接合強度と防水性とを両立した防水性生地継ぎ合わせ品のより簡便かつ生産性の高い製造方法を提供する。
【解決手段】第1の防水性生地2の第1端部3と第2の防水性生地4の第2端部5とを接合して、水に曝されるおもてにくる面と水に曝されない裏にくる面とを有する防水性生地継ぎ合わせ品を製造する方法であって、第1の防水性生地と第2の防水性生地とを裏にくる面同士が対向するように重ね合わせて第1端部と第2端部とを揃える工程(S11)と、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部との接合部33を形成する工程(S12)と、第1の防水性生地または第2の防水性生地のおもてにくる面の側に接合部を片倒しする工程(S14)と、接合部を包囲資材36で覆う工程(S15)と、接合部から所定距離離れた位置で包囲資材と第1および第2の防水性生地とを超音波ウェルダーで溶着する工程(S16)とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とを接合して、水に曝されるおもて面と水に曝されない裏面とを有する防水性生地継ぎ合わせ品を製造する方法であって、
第1の防水性生地と第2の防水性生地とを裏にくる面同士が対向するように重ね合わせて第1端部と第2端部とを揃える工程(S11)と、
第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部との接合部を形成する工程(S12)と、
第1の防水性生地または第2の防水性生地のおもてにくる面の側に接合部を片倒しする工程(S14)と、
接合部を包囲資材で覆う工程(S15)と、
接合部から所定距離離れた位置で包囲資材と第1の防水性生地とを超音波ウェルダーで溶着する工程(S16-1)と、
接合部から所定距離離れた位置で包囲資材と第2の防水性生地とを超音波ウェルダーで溶着する工程(S16-2)とを含む防水性生地継ぎ合わせ品の製造方法。
【請求項2】
第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とを接合する工程(S12)は、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とをパイピング資材で包囲し、パイピング資材ごと接合することでパイピング部を形成するステップ(S12-1)を含む請求項1に記載の防水性生地継ぎ合わせ品の製造方法。
【請求項3】
第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とが裏合わせで接合された接合部と、
第1の防水性生地のおもてにくる面および第2の防水性生地のおもてにくる面に溶着されて接合部を覆い隠す包囲資材とを備えた防水性生地継ぎ合わせ品の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水性縫製品の製造方法および防水性縫製品の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防水性生地同士の継ぎ合わせには、大別すると(1)適宜接着剤を介してヒータ、高周波ウェルダー、超音波ウェルダー(超音波ミシン)等により溶着接合する方法と、(2)ミシンで縫合する方法とが提案されている。近年の(1)の方法の代表例としては、例えば、一方の生地のおもて面と他方の生地のうら面とを重ね合わせた部分に超音波ミシンの軌跡を2本平行に形成する方法がある(特許文献1)。(2)の方法の代表例としては、一方の防水性生地Aの縫合端部を折り返して、折り返し部内に他方の防水性生地Bを挿入し、3枚重ねの状態で一旦縫合し、次いで防水性生地Aを前記縫合端部の折り返し方法とは反対方向に折り返して4枚重ねの状態でさらに縫合する方法がある(特許文献2)。
【0003】
概して(1)の方法は接合強度が弱いという欠点がある一方、(2)の方法は、熱溶融性成分を含む縫合糸を用いて縫合し糸をアイロン溶融させた場合でも縫い目の孔の大きさを十分にカバーしきれず、縫い目から水が浸入したり、布と布とのわずかな隙間から毛細管現象によって水が浸入したりする欠点が存在する。これらの欠点を解決するため、様々な提案がなされている。
【0004】
例えば、一方の防水性生地と他方の防水性生地と片倒し縫いにより縫合するに際し、縫い目を形成する生地と生地との間、および、最上面に予め熱溶融性樹脂をさせて縫合し、最後に高周波ウェルダー等により熱溶融製樹脂を溶融させる方法が提案されている(特許文献3、特許文献4)。しかしながら、高周波ウェルダーは高価であるうえ、電気を流すことによって熱を発生する原理であるため、印付け等で鉛筆を使用した場合や微細な汚れ成分の混入があると、それらの成分と反応して発火するおそれがある。
【0005】
あらかじめホットメルトフィルム(D)(C)と防水加工生地(A)(B)との仮止め体(1)(2)を準備し、(B)(C)(A)(D)の順に積層して地縫いしてから(A)を片返しして(D)上に重ね合わせ、ステッチを行い、加熱ローラーで融着する方法が提案されている(特許文献5)。この方法は、多くの工程を経るため、生産効率の観点では課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-25220号公報
【特許文献2】特開平07-216727号公報
【特許文献3】特開平06-246076号公報
【特許文献4】特開平08-92868号公報
【特許文献5】特開2004-208824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記現状に鑑み、本発明は、接合強度と防水性とを両立した防水性縫製品または防水性生地継ぎ合わせ品のより簡便かつ生産性の高い製造方法および接合強度と防水性とを両立した防水性縫製品または防水性生地継ぎ合わせ品の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の1つの側面は、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とを接合して防水性縫製品を製造する方法であって、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とを防水性縫製品のおもてにくる面同士が対向するように重ね合わせる工程と、第1端部と第2端部とを超音波ウェルダーで溶着し溶着部を形成する工程と、第2の防水性生地の溶着面領域と反対側の面領域に熱溶融性樹脂シートを載置する工程と、第2の防水性生地の非溶着部を折り返して溶着部および熱溶融性樹脂シートを第2の防水性生地によって覆う工程と、非溶着部と熱溶融性樹脂シートと溶着部とを糸が横断貫通するように縫う工程と、熱溶融性樹脂シートを加熱し、溶融する工程とを含む防水性縫製品の製造方法である。
斯かる方法によれば、工数が少なくなり、より簡便かつ生産性の高い製法により、接合強度と防水性とを両立した防水性縫製品が得られる。
【0009】
上記製造方法において、熱溶融性樹脂シートの幅は、溶着部の幅より小さいものであることが好ましい。斯かる構成によれば、シート幅が縫い孔を埋めるための最小限度となり、コスト低減が図れる。
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明の他の側面は、第1溶着部を備えた第1の防水性生地と、第1の防水性生地の第1溶着部上に溶着した第2溶着部および第2溶着部の上方に折り返された非溶着部を備えた第2の防水性生地と、第2溶着部と非溶着部との間に挟まれた熱溶融性樹脂層と、第2の防水性生地の非溶着部と熱溶融性樹脂層と第2溶着部と第1の防水性生地の第1溶着部とを貫通する貫通孔内に通された糸とを備え、第2の防水性生地の非溶着部にある貫通孔内に熱溶融性樹脂層の成分が浸入している防水性縫製品の接合構造である。斯かる構成によれば、貫通孔を経由して浸水するおそれが少なくなり、接合強度と防水性とを両立した防水性縫製品を得ることができる。
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明の他の側面は、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とを接合して、水に曝されるおもてにくる面と水に曝されない裏にくる面とを有する防水性生地継ぎ合わせ品を製造する方法であって、第1の防水性生地と第2の防水性生地とを裏にくる面同士が対向するように重ね合わせて第1端部と第2端部とを揃える工程(S11)と、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部との接合部を形成する工程(S12)と、第1の防水性生地または第2の防水性生地のおもてにくる面の側に接合部を片倒しする工程(S14)と、接合部を包囲資材で覆う工程(S15)と、接合部から所定距離離れた位置で包囲資材と第1の防水性生地とを超音波ウェルダーで溶着する工程(S16-1)と、接合部から所定距離離れた位置で包囲資材と第2の防水性生地とを超音波ウェルダーで溶着する工程(S16-2)とを含む防水性生地継ぎ合わせ品の製造方法である。
斯かる方法によれば、生地同士を引き離す方向(接合部または溶着部に対して垂直な方向)に働く力が、接合部と、超音波ウェルダーで溶着した部分とに分散することで一定程度の接合強度が確保できるうえ、包囲資材で覆われていることで一定程度の防水性を確保した防水性生地継ぎ合わせ品がより簡便かつ高い生産性で得られる。
【0012】
上記目的を達成するためになされた本発明の他の側面は、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とが裏合わせで接合された接合部と、第1の防水性生地のおもてにくる面および第2の防水性生地のおもてにくる面に溶着されて接合部を覆い隠す包囲資材とを備えた防水性生地継ぎ合わせ品の接合構造である。斯かる構成によれば、包囲資材があることで接合部に直接水がかかることはなく一定程度の防水性が確保できるうえ、生地同士を引き離す方向(接合部または溶着部に対して垂直な方向)に働く力が超音波ウェルダーで溶着した部分と接合部とに分散することで接合強度が保てる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工数が少なくなり、より簡便かつ生産性の高い製法により、接合強度と防水性とを両立した防水性縫製品または防水性生地継ぎ合わせ品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る製造方法の第1実施形態の模式図。
【
図2】本発明に係る製造方法の第2実施形態の模式図。
【
図3】本発明に係る防水性生地継ぎ合わせ品の接合構造が見やすいように上部のみ包囲資材を取り除いた写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本明細書で使用する用語の意義について説明する。
本明細書において「防水性生地継ぎ合わせ品」とは、特に防水性生地同士を継ぎ合わせた部分において、一定程度の耐水圧性が要求される継ぎ合わせ品を意味する。防水性生地継ぎ合わせ品は、全て溶着によって製造された製品であれば、防水性溶着品であり、縫製した部分が含まれる場合、防水性縫製品である。防水性生地継ぎ合わせ品は、全ての開口部が閉じられる防水袋であってもよいし、上から雨が降り込んでこない環境であれば、底面と周壁とを有し上部が開口した底面カバー付き遮水壁であってもよい。
本明細書において「防水性縫製品」とは、特に防水性生地同士を継ぎ合わせた部分において、一定程度の耐水圧性が要求される縫製品を意味する。継ぎ合わせ品または防水性縫製品で要求される耐水圧性は、想定する浸水被害の程度や用途により様々であるが、継ぎ合わせた部分において防水性生地自体の耐水圧の50%以上の耐水圧が得られるものであれば足りる。したがって、耐水圧1300mmの防水性生地を使用する場合、継ぎ合わせた部分において耐水圧650mmを確保できればよい。本明細書において、耐水圧は、JIS L 1092に定める耐水度試験(静水圧法)A法により得られた値である。
本明細書において「第1端部」および「第2端部」における「端部」とは、防水性生地において溶着または接合を見込む生地の一部分を意味する。ここでの生地の一部分は、溶着または接合を見込む面内の一定領域(面領域)のみならず、溶着または接合を見込む面領域とは反対側の面内の領域(反対面領域)、溶着または接合を見込む面領域と反対面領域とで挟まれた空間を含んでいる。端部は、場合によっては生地の縁を含んでいてもよく、生地の縁に沿った線は生地面に対して垂直な方向から見て直線でも曲線でもよい。
本明細書において「溶着部」とは、第1の防水性生地と第2の防水性生地が接する界面付近において熱が発生して局所的に溶融し、溶着が発生した第1の防水性生地と第2の防水性生地の一部分を指す。ここでの防水性生地の一部分は、第1の防水性生地および第2の防水性生地の溶着した界面領域(溶着面領域)のみならず、各生地における溶着面領域と反対側の面領域(反対面領域)、溶着面領域と各生地の反対面領域とで挟まれた空間を含んでいる。なお、「溶着部」であることは、その界面領域近傍が局所的な熱履歴を経ていることを偏光光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡画像から確認することで判別できる。
本明細書において「第2の防水性生地の非溶着部」とは、第2の防水性生地のうち、溶着部を形成していない一部分を意味する。
本明細書において「接合強度」は、JIS L 1096に準拠した引張強さ試験により評価される物性値を意味する。
本明細書において「水に曝される」とは、製品にしたときに常時または製品の性質上必然的に水に触れるか、または、水害時等に当初から触れるおそれがあるかもしくは想定されることをいう。したがって「水に曝されない」という場合であっても、当初は水に触れることは想定していないが、わずかな浸水や水の滲み出しによって結果的に水に触れることはありうる。
【0016】
以下本発明を実施するための形態について以下に適宜図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明の1つの側面は、第1の防水性生地2の第1端部3と第2の防水性生地4の第2端部5とを接合して、水に曝されるおもて面16と水に曝されない裏面18とを有する防水性縫製品1を製造する方法である。
本発明の製造方法は、第1の防水性生地2の第1端部3と第2の防水性生地4の第2端部5とを重ね合わせる工程(S1)を含む。ここで、防水性生地におもて面と裏面の区別がある場合、または、おもて面と裏面の区別がない場合のいずれかを問わず、第1の防水性生地2と第2の防水性生地4とは、水に曝される防水性縫製品1のおもてにくる面16同士が対向するように重なり合った状態で接合を見込む第1端部と第2端部とが揃っていると好ましい。ここでの第1端部および第2端部は、上で定義した通りであり、「第1端部と第2端部とを揃える」場合、各生地の裁断等にばらつき等がある都合、第1端部と第2端部とが必ずしも同じ端辺を有しているとは限らないことから、端辺(周縁)同士を揃える必要はないが、第1の防水性生地の接合を見込む領域と第2の防水性生地の接合を見込む領域とに重なり合う領域が1つ存在し、漏れのない幅継ぎができれば足りる。
第1の防水性生地2および第2の防水性生地4の素材としては、一定程度の耐水圧性を有する素材であれば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、フッ素繊維、アラミド繊維等のなかから互いに同種または異種の素材を特に限定されず使用することができるが、後述する(S2)以降の工程で溶着部7を形成することを考慮すると、同種の素材を使用することが好ましい。
防水性生地の素材は、異種素材の積層素材であっても、両面または片面に撥水加工、親水加工、傷防止コーティング等の表面加工が施されているものであってもよく、このようなものとしては例えば、おもてにくる面が撥水性、裏にくる面は親水性を有するポリアミド樹脂シートからなる素材を採用することができる。
防水性生地の厚さは、用途に応じて適宜選択されるが、通常0.05mm~0.5mmの範囲とすることができる。
【0017】
本発明の製造方法は、第1端部3と第2端部5とを超音波ウェルダーで溶着し溶着部7を形成する工程(S2)を含む。
超音波ウェルダーは、超音波振動するホーンとアンビル(受け治具)との間に複数枚の防水性生地を挟み、ホーンによる超音波振動と共に加圧力を付与することによって溶融させて溶着する機能を有するものであれば、超音波シーラー、超音波溶着機、超音波スリット装置、超音波スリッター、超音波シールカッター等と称して市販されているものを含めて使用することができる。アンビルの一種であるローラーの表面凹凸パターンとしては、ミシン目一列、ミシン目二列、ミシン目二列千鳥、三点千鳥、スカラップ、綾目、筋目模様などの表面凹凸パターンのほか、実用新案登録第3102345号に記載の表面凹凸パターン等任意のものを使用することができる。
なお、「超音波ウェルダーで溶着」したことは、第1端部3と第2端部5との界面領域8付近が局所的に熱履歴を経ていることを偏光光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡等で確認することで判別できる。
第1端部3と第2端部5の幅、即ち溶着部7の幅は、求められる接着強度や超音波ウェルダーの仕様にもよるが、通常3mm~10mmに設定することができる。
【0018】
本発明の製造方法は、第2の防水性生地4の溶着面領域8と反対側の面領域6に熱溶融性樹脂シート10を載置する工程(S3)を含む。
熱溶融性樹脂シートとしては、縫い孔に入り込むのに充分な目付量(例えば、12~100g/m2、好ましい下限は15g/m2、より好ましい下限は20g/m2)を有し、熱ローラーまたはアイロンによる接着が可能な温度域である80℃~230℃、なかでも中温(140~160℃)で溶融可能で、溶融した際に充分な流動性を有する樹脂で製造された両面熱融着シートが生産の簡便さの観点からは好ましい。第2の防水性生地との接着性に優れたものであればより好ましい。また後述する(S7)以降の工程で、熱溶融性樹脂シートが毛細管現象で貫通孔15内に吸い上げられることを考慮すると、第2の防水性生地の素材に対して濡れやすい(接触角が小さい)素材を使用することがさらに好ましい。
斯かる両面熱融着シートの代表例としては、特に限定されないが、例えば、スパンボンド不織布シート(例.東洋紡社製ダイナック)、メルトブローン不織布(例.KBセーレン社製エスパンシオーネ)、フィルム等が挙げられる。溶融可能な樹脂は、熱ローラーまたはアイロン接着が可能な温度域で縫い孔に流入する程度の流動性が生じる分子量を有するポリエステル系樹脂(例.ダイセルミライズ社製サーモライト、東洋紡社製ダイナックテープ)、ポリアミド系樹脂(例.東洋紡社製ダイナックテープ、日本バイリーン社製バイリーンEF-15またはMFスーパー接着シート)またはポリウレタン系樹脂(例.日清紡社製モビロンホットメルトフィルム、ダイセルミライズ社製サーモライト、KBセーレン社製エスパンシオーネFF)が好ましい。
【0019】
載置する熱溶融性樹脂シート10の幅は、溶着部7の幅より小さいことが好ましい。溶着部7の幅より大きくしても防水性向上には寄与が小さく、材料の無駄になるからである。熱溶融性樹脂シートの幅の好ましい上限は7mm、より好ましい上限は5mmに設定することができる。
【0020】
工程(S3)は、熱溶融性樹脂シート10と溶着部7とを仮止めまたは仮縫いするステップ(S3-1)を含んでいてもよい。斯かるステップを含むことで、後工程での熱溶融性樹脂シートの位置ずれを防ぐことができる。仮止めはまち針、クリップ、テープ等の従来公知の方法で行えばよく、仮縫いはしつけ糸で行えばよい。
【0021】
本発明の製造方法は、第2の防水性生地4の非溶着部9を折り返して(S4)溶着部7および熱溶融性樹脂シート10を覆う工程(S5)を含む。
折り返し工程(S4)における折り返しの程度としては、折り返したときになるべく空洞13ができないように、また材料の無駄が生じないように非溶着部9と溶着部7との境界ぎりぎりで折り返せばよい。
溶着部7および熱溶融性樹脂シート10を覆う工程(S5)は、第2の防水性生地4の湾曲部14にくせを付けるステップを含んでいてもよい。湾曲部14へのくせ付けは指で行ってもよいし、軽くアイロンをかけてもよい。
【0022】
本発明の製造方法は、非溶着部9と熱溶融性樹脂シート10と溶着部7とを糸12が横断貫通するように縫う工程(S6)を含む。
糸は、各層の一体性の指標の少なくとも1つ(例えば引張強度)を向上させ、次工程の熱溶融性樹脂シート10の加熱工程の前後で物理的な変化を起こさない糸を採用することが好ましく、手縫い糸、ミシン糸等の縫糸であっても、モノフィラメントであってもよいが生産性の観点から、ミシン糸でミシン縫いを採用することが好ましい。糸の素材は、綿、絹、麻、合成繊維等が挙げられ、モノフィラメントの素材は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、フッ素繊維、アラミド繊維等の非水溶性モノフィラメントが挙げられる。糸はその表面に撥水加工、親水加工、傷防止コーティング等の表面加工が施されているものであってもよいが、ここでの表面加工は、熱溶融性樹脂シート10のぬれ性を高めるための加工であることが好ましい。
ミシン糸の番手としては、60番手~90番手、ミシン針番としては、9番~11番のなかから適切な組み合わせを採用することができる。
【0023】
本発明の製造方法は、熱溶融性樹脂シート10を加熱し、溶融する工程(S7)を含む。加熱溶融は、上述のようにアイロンを用いて行うことが一般的であり、温度域である80℃~230℃、なかでも中温(140~160℃)で行う。加熱面は、伝熱距離の観点から第2の防水性生地の縫い目に沿った面が好ましいが、併せてまたは代替的に第1の防水性生地の縫い目に沿った面を加熱することも許容される。加熱溶融の時間は、熱溶融性樹脂シートが昇温により充分な流動性を生じ、毛細管現象で貫通孔15内に吸い上げられ貫通孔15内を閉塞する程度に設定することが好ましい。
【0024】
以上に述べた本発明に係る製造方法によって得られたか否かによらず、第1溶着部を備えた第1の防水性生地と、第1の防水性生地の第1溶着部上に溶着した第2溶着部および第2溶着部の上方に折り返された非溶着部を備えた第2の防水性生地と、第2溶着部と非溶着部との間に挟まれた熱溶融性樹脂層と、第2の防水性生地の非溶着部と熱溶融性樹脂層と第2溶着部と第1の防水性生地の第1溶着部とを貫通する貫通孔内に通された糸とを備え、第2の防水性生地の非溶着部にある貫通孔内に熱溶融性樹脂層の成分が浸入している防水性縫製品の接合構造も本発明に含まれる。本発明の防水性縫製品の接合構造においては、熱溶融性樹脂層の成分が第2の防水性生地の第2溶着部に浸入しているものであることがより好ましい。
【0025】
(第2実施形態)
本発明の他の側面は、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とを接合して、水に曝されるおもて面と水に曝されない裏面とを有する防水性生地継ぎ合わせ品を製造する方法である。
本発明の製造方法は、第1の防水性生地と第2の防水性生地とを裏にくる面同士が対向するように重ね合わせて第1端部と第2端部とを揃える工程(S11)を含む。ここでの第1端部および第2端部は、上で定義した通りであり、「第1端部と第2端部とを揃える」場合、各生地の裁断等にばらつき等がある都合、第1端部と第2端部とが必ずしも同じ端辺を有しているとは限らないことから、端辺(周縁)同士を揃える必要はないが、第1の防水性生地の接合を見込む領域と第2の防水性生地の接合を見込む領域とに重なり合う領域が1つ存在し、漏れのない幅継ぎができれば足りる。
【0026】
本発明の製造方法は、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とを接合する工程(S12)を含む。
接合する方法としては、糸による手縫いまたはミシン縫い、超音波ウェルダーによる溶着、高周波ウェルダーによる溶着、ミシン縫い後の加熱ローラーによる溶着等、いずれの方法を採用することも可能である。ここでの糸は上述したものが挙げられる。なおここでの「接合」は、手縫いやミシン縫いを許容することから明白なように、防水性生地同士や後述する防水性生地とパイピング資材との物理的に完全な接合(密着)や化学的に完全な接合(融着等)を要求するものではなく、物理的または化学的に一部が分離して空間がある場合であってもよい。接合する面は、おもて面同士(おもて合わせ)、裏面同士(裏合わせ)、一方がおもて面で他方が裏面のいずれであってもよい。
【0027】
上記工程(S12)は、第1の防水性生地の第1端部と第2の防水性生地の第2端部とをパイピング資材34で包囲し、パイピング資材ごと接合することでパイピング部33を形成するステップ(S12-1)を含んでいてよい。本ステップを含まない場合、他の工程における「パイピング部」は「接合部」と読み替えるものとする。
パイピング資材としては、両折りまたはふちどりタイプの市販のバイアステープを好適に採用することができる。
【0028】
本発明の製造方法は、第1の防水性生地および第2の防水性生地をパイピング部が上に来るように拡げる工程(S13)を含んでいてもよい。ここでの「パイピング部が上に来るように拡げる」には、作業台に載せたときにパイピング部を視認し得る側に向ければ足りる。すなわち、第1の防水性生地と第2の防水性生地とは作業台に載せたときにおもてにくる面全体を視認し得る必要はなく、パイピング部が視認し得るものであれば足りる。
【0029】
本発明の製造方法は、第1の防水性生地または第2の防水性生地のおもてにくる面の側にパイピング部を片倒しする工程(S14)を含む。パイピング部の片倒しは、結果として片倒しされた状態になっていれば足りるのであって、第1の防水性生地および第2の防水性生地をパイピング部が上に来るように拡げてから片倒しする必要はなく、第2の防水性生地をパイピング部が上に来るように拡げてから、第1の防水性生地を上に来るように折り曲げることで結果として片倒しされた状態になっていれば足りる。片倒しのくせ付け、即ち折り曲げは、指で行ってもよいし、軽くアイロンをかけてもよい。
【0030】
本発明の製造方法は、パイピング部を包囲資材で覆う工程(S15)を含む。
包囲資材は、第1の防水性生地と第2の防水性生地との継ぎ目を覆うカバーであり、防水性を有するものを好適に採用しうるが、通常防水性生地と同じ生地が使用される。包囲資材は、(S12-1)で形成されるパイピング部に防水性がない場合にも、全体的にみて生地自体の防水性と遜色ない防水性を確保できるように使用されるものである。
【0031】
本発明の製造方法は、接合部から所定距離離れた位置で包囲資材と第1の防水性生地とを超音波ウェルダーで溶着する工程(S16-1)および接合部から所定距離離れた位置で包囲資材と第2の防水性生地とを超音波ウェルダーで溶着する工程(S16-2)を含む。
所定距離離れた位置で溶着することから、接合部が直線状に形成されている場合は、その直線と平行に溶着部37が形成されることになり、接合部が曲線状に形成されている場合は、その曲線から等間隔離間した曲線上(その曲線の法線上で接合部から所定距離離れた位置)に溶着部が形成されることになる。
超音波ウェルダー、ローラーの表面凹凸パターン等については(S2)に関して上述した事項が同様に適用される。
【0032】
本発明の製造方法は、上述した工程(S11)乃至S(16-2)の中から必須の工程を含んでいれば足りるのであって、工程の順序は問わない。
したがって、例えば(S11)→(S12)→(S16-1)→(S14)→(S15)→(S16-2)の順に行っても、
(S11)→(S12)→(S14)→(S15)→(S16-1)→(S16-2)の順に行っても、
(S11)→(S12)→(S13)→(S14)→(S15)→(S16-2)→(S16-1)の順に行ってもよい。
【実施例0033】
製造例1
防水性生地としておもてにくる面が撥水性、裏にくる面は親水性を有するポリエステル樹脂シートからなる厚さ0.1mmの防水シート(くればぁ社製)を2枚用意し、第1の防水シートの第1端部と第2の防水シートの第2端部とをおもてにくる面同士が対向するように重ね合わせた。次に第1端部と第2端部とをあやめ柄の表面凹凸パターンを有する幅5mmのホーンを備えた超音波ウェルダー(精電舎電子工業社製)で溶着し、溶着部を形成した。次に、第2の防水性生地の裏面側における溶着部の上に、熱溶融性樹脂シートとしてポリアミド系樹脂のスパンボンド不織布からなるアイロン接着用両面熱融着テープ(品名:ダイナックテープ、渡邊布帛工業社製)を3mm幅に裁断して載せ、まち針で仮止めしてから第2の防水性生地の非溶着部を折り返して熱溶融性樹脂シートを挟み込み、ポリエステル樹脂製ミシン糸(番手90番手、帝人社製)、ミシン針(針番9番、オルガン針社製)を使って縫いピッチ(ミシン針孔の間隔)を2.5mmとして非溶着部と熱溶融性樹脂シートと溶着部とを糸が横断貫通するようにロックミシンで縫い合わせた。その後、第2の防水性生地の側から縫い目に沿って中温140℃、スチームなしでアイロン掛けすることで、両面熱融着テープを溶融させ、防水性縫製品を得た。
【0034】
製造例2
防水性生地としておもてにくる面が撥水性、裏にくる面は親水性を有するポリエステル樹脂シートからなる厚さ0.1mmの防水生地(くればぁ社製)を2枚用意し、第1の防水生地の第1端部と第2の防水生地の第2端部とを裏にくる面同士が対向するように重ね合わせて、両折りタイプに加工したバイアステープ(加工元:(株)コロナバイアス社)で挟み、ポリエステル樹脂製ミシン糸(番手90番手、帝人社製)、ミシン針(針番9番、オルガン針社製)を使って縫いピッチ(ミシン針孔の間隔)を2.5mmとして縫合することでパイピング部を形成しつつ継ぎ合わせた。次に、第1の防水性生地または第2の防水性生地のおもてにくる面の側にパイピング部を片倒しして癖付けした。さらに片倒しした接合部は、継ぎ合わせ対象と同じ材料の防水シート片(幅6cm、くればぁ社製)からなる包囲資材でおもてにくる面がおもてになるように覆った。
最後にパイピング部の基部(根元の部分)から左右2cm離れた位置で、包囲資材と継ぎ合わせた防水性生地とを超音波ウェルダー(型番:KYM900RW、精電舎電子工業社製、ローラーの表面凹凸パターン:綾目柄、溶着部の幅:6mm)を用いて、超音波振幅75~80、UP MOTOR15、LOW MOTOR15の条件で溶着することで、防水性生地継ぎ合わせ品を得た。
【0035】
(破断試験)
製造例2で得られた防水性生地継ぎ合わせ品について、直線状の縫目(パイピングの縫目)線に対して左右対称になるように横幅50mm×縦幅400mmに裁断した試験片(ここでの縫目線に対する布目の角度は0°または90°方向)を6枚用意した。このときいずれの試験片も、パイピングの縫目線が面積を2等分するように裁断した。
JIS L 1096A法(カットストリップ法)に定める繊維製品の縫目強さ試験方法に準拠し、測定環境20℃、相対湿度65%で、引張試験機(AG-20kNXDplus、島津製作所製)を用いて、クランプ間距離が200mmで、縫目線が上下のつかみ部分から等距離になるように掴み、両生地を引き離す方向に引張速度200mm/minで引っ張り,縫目が最初に切断したときの引張強さを有効数字3桁まで測定し,同時に縫目切断時の伸びを1mmまで測定した結果、5回試行の平均値で247Nであった。
【表1】
【0036】
(耐水圧試験)
製造例2で得られた防水性生地継ぎ合わせ品について、直線状の縫目(パイピングの縫い目)線に対して左右対称になるように縦200mm×横200mmに裁断した試験片を5枚用意した。耐水度試験装置(Textile Water Resistance Tester、大栄科学精器製作所製)のサンプル台に試験片のおもて側が水に当たるように取り付け、JIS L 1092に定める耐水度試験(静水圧法)A法に準拠して水準装置の水位を100mm/minの速さで上昇させて、試験片の裏側に3か所から水が出たときの水位をmm単位で測定した。5回の平均値を測定したところ、測定可能範囲(1600mm)以上であった。これは同条件で行った同試験法で既に得ていた防水性生地自体の耐水圧値(1331mm)の100%以上に相当することがわかった。
【0037】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記実施形態に説明される構成のすべてが本発明の必須要件であるとは限らない。本発明は、その技術的思想を逸脱しない範囲において、異なる実施形態で開示された要素同士を組み合わせること等を含めて、種々の改変形態を採り得る。
本発明に係る製造方法は、複数の防水性生地の幅継ぎ等に好適に使用可能であり、防水性縫製品の大物化が可能になることで、業務用冷蔵庫、発電機、ポンプ、家財、電化製品、工作機械、農業用機械、自家用車やヘリコプター等の浸水からの保護が必要な高価な財物全体を覆うことが可能となり、防水シートの用途拡大をもたらすことから産業上の利用可能性は大である。