(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120188
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】医療デバイスおよびシャント形成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20240829BHJP
A61B 17/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
A61B18/14
A61B17/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114253
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】竹村 知晃
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK03
4C160KK04
4C160KK05
4C160KK36
4C160KK37
4C160KK70
4C160MM33
(57)【要約】
【課題】拡張体を生体組織に対して適切な角度で配置させることのできる医療デバイスおよびこれを用いたシャント形成方法を提供する。
【解決手段】拡張体21と、長尺なシャフト部20と、電極部22と、を備え、拡張体21は、拡張体21の拡張時に径方向内側に窪み、生体組織を受容可能な受容空間51bを画成する凹部51を有し、電極部22は、受容空間51bに面するように凹部51に沿って配置されており、 基端固定部31から凹部51の底部51aまでの軸方向に沿う長さが10mm~30mmであり、シャフト部20には、基端固定部31または基端固定部31より手元側位置を起点として、手元側に向かって一方向に屈曲する第1カーブ60と、第1カーブ60の基端または該基端より手元側位置を起点として、手元側に向かって第1カーブ60と反対方向に屈曲する第2カーブ62と、が形成される医療デバイス10である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に拡縮可能な拡張体と、
前記拡張体の基端が固定された基端固定部を有する長尺なシャフト部と、
前記拡張体に沿って設けられる電極部と、
を備え、
前記拡張体は、前記拡張体の拡張時に径方向内側に窪み、生体組織を受容可能な受容空間を画成する凹部を有し、
前記電極部は、前記受容空間に面するように前記凹部に沿って配置されており、
前記基端固定部から前記凹部の底部までの軸方向に沿う長さが10mm~30mmであり、
前記シャフト部には、前記基端固定部または前記基端固定部より手元側位置を起点として、手元側に向かって一方向に屈曲する第1カーブと、前記第1カーブの基端または該基端より手元側位置を起点として、手元側に向かって前記第1カーブと反対方向に屈曲する第2カーブと、が形成される医療デバイス。
【請求項2】
前記シャフト部は、前記第1カーブの曲げ角度をα(°)、前記第1カーブの曲げ半径をl(mm)、前記第2カーブの曲げ角度をβ(°)、前記第2カーブの曲げ半径をr(mm)、前記拡張体の軸方向長さをL(mm)として、
(l-lcos(α-β))+(r-rcosβ))≦15mm
Lsin45°+lsin(α-β)+lsinβ≦40mm
35°≦α-β≦55°
の関係を全て満たす請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記シャフト部は、生体内に挿入される前の状態において、予め前記第1カーブと前記第2カーブの形状を有している請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記シャフト部は屈曲操作部を有し、
前記シャフト部および前記拡張体を生体内に配置した状態で前記屈曲操作部を操作することで、前記シャフト部に前記第1カーブと前記第2カーブとが形成される請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記第1カーブと前記第2カーブは、前記拡張体を心房中隔に配置した状態で右心房内に配置される請求項1~4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
径方向に拡縮可能な拡張体と、前記拡張体の基端が固定された基端固定部を有する長尺なシャフト部と、前記拡張体に沿って設けられる電極部と、を備える医療デバイスを用いて卵円窩に右房と左房を連通するシャントを形成するシャント形成方法であって、
前記拡張体は、前記拡張体の拡張時に径方向内側に窪み、生体組織を受容可能な受容空間を画成する凹部を有し、
前記電極部は、前記受容空間に面するように前記凹部に沿って配置されており、
前記シャフト部は、前記基端固定部または前記基端固定部より手元側位置を起点として、手元側に向かって一方向に屈曲する第1カーブと、前記第1カーブの基端または該基端より手元側位置を起点として、手元側に向かって前記第1カーブと反対方向に屈曲する第2カーブと、を有し、
前記医療デバイスを下大静脈から前記右房内に挿入し、
前記右房内において、前記第1カーブを前記卵円窩から離れる方向に凸となるように配置した状態で、前記卵円窩に形成した孔に収縮した前記拡張体を挿入し、
前記孔内で前記拡張体を拡張させて、前記孔を取り囲む生体組織を前記凹部の前記受容空間に配置し、
前記孔の自然治癒による閉塞を阻害するように、前記電極部を用いて前記受容空間に配置された前記生体組織を焼灼する、シャント形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織にエネルギーを付与する医療デバイスおよびこれを用いたシャント形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスとして、生体内で拡縮する拡張体に電極部が配置され、電極部からの高周波電流により生体組織を焼灼するアブレーションによる治療を行うものが知られている。アブレーションによる治療の一つとして、心房中隔に対するシャント治療が知られている。シャント治療は、心不全患者に対し、上昇した心房圧の逃げ道となるシャント(穿刺孔)を心房中隔の卵円窩に形成し、心不全症状の緩和を可能にする。シャント治療では、経静脈アプローチで心房中隔にアクセスし、所望のサイズのシャントを形成する。このような医療デバイスは、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シャント治療を行う医療デバイスにおいて、拡張体は、拡張時に径方向内側に窪み、生体組織を受容可能な受容空間を画成する凹部を有する。前述の電極部は凹部に配置される。電極部から生体組織に対し十分なエネルギー付与を行うためには、凹部が周方向の全周に渡り、生体組織に対して密着する必要がある。
【0005】
拡張体が心房中隔の面方向に対して直角あるいはそれに近い角度で配置されると、凹部は全周に渡って生体組織に対し均等に接触することができる。拡張体が心房中隔に対し大きく傾斜して配置された場合、凹部の周方向一部の領域は生体組織に十分接触できなくなり、電極部からのエネルギー付与を十分に実施できないことで、シャントを狙い通りの径に形成できない可能性がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、拡張体を生体組織に対して適切な角度で配置させることのできる医療デバイスおよびこれを用いたシャント形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る医療デバイスは、径方向に拡縮可能な拡張体と、前記拡張体の基端が固定された基端固定部を有する長尺なシャフト部と、前記拡張体に沿って設けられる電極部と、を備え、前記拡張体は、前記拡張体の拡張時に径方向内側に窪み、生体組織を受容可能な受容空間を画成する凹部を有し、前記電極部は、前記受容空間に面するように前記凹部に沿って配置されており、 前記基端固定部から前記凹部の底部までの軸方向に沿う長さが10mm~30mmであり、前記シャフト部には、前記基端固定部または前記基端固定部より手元側位置を起点として、手元側に向かって一方向に屈曲する第1カーブと、前記第1カーブの基端または該基端より手元側位置を起点として、手元側に向かって前記第1カーブと反対方向に屈曲する第2カーブと、が形成される。
【0008】
上記目的を達成する本発明に係るシャント形成方法は、径方向に拡縮可能な拡張体と、前記拡張体の基端が固定された基端固定部を有する長尺なシャフト部と、前記拡張体に沿って設けられる電極部と、を備える医療デバイスを用いて卵円窩に右房と左房を連通するシャントを形成するシャント形成方法であって、前記拡張体は、前記拡張体の拡張時に径方向内側に窪み、生体組織を受容可能な受容空間を画成する凹部を有し、前記電極部は、前記受容空間に面するように前記凹部に沿って配置されており、前記シャフト部は、前記基端固定部または前記基端固定部より手元側位置を起点として、手元側に向かって一方向に屈曲する第1カーブと、前記第1カーブの基端または該基端より手元側位置を起点として、手元側に向かって前記第1カーブと反対方向に屈曲する第2カーブと、を有し、前記医療デバイスを下大静脈から前記右房内に挿入し、前記右房内において、前記第1カーブを前記卵円窩から離れる方向に凸となるように配置した状態で、前記卵円窩に形成した孔に収縮した前記拡張体を挿入し、前記孔内で前記拡張体を拡張させて、前記孔を取り囲む生体組織を前記凹部の前記受容空間に配置し、前記孔の自然治癒による閉塞を阻害するように、前記電極を用いて前記受容空間に配置された前記生体組織を焼灼する。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した医療デバイスおよびシャント形成方法は、シャフト部を、下大静脈から第2カーブによって一旦拡張体が配置される心房中隔と反対側に屈曲し、第1カーブによって心房中隔側に屈曲するように配置できるので、拡張体を心房中隔に対し垂直に近い角度に配置できる。これにより、凹部を周方向の全周に渡って生体組織に密着させ、所望サイズのシャント形成を確実に実施できる。
【0010】
前記シャフト部は、前記第1カーブの曲げ角度をα(°)、前記第1カーブの曲げ半径をl(mm)、前記第2カーブの曲げ角度をβ(°)、前記第2カーブの曲げ半径をr(mm)、前記拡張体の軸方向長さをL(mm)として、
(l-lcos(α-β))+(r-rcosβ))≦15mm
Lsin45°+lsin(α-β)+lsinβ≦40mm
35°≦α-β≦55°
の関係を全て満たすようにしてもよい。これにより、拡張体を下大静脈から心房中隔に向かわせることで、確実に心房中隔に対し適切な角度で配置することができる。
【0011】
前記シャフト部は、生体内に挿入される前の状態において、予め前記第1カーブと前記第2カーブの形状を有しているようにしてもよい。これにより、シャフト部を目的部位まで挿入するだけで、拡張体を確実に適切な角度に配置できる。
【0012】
前記シャフト部は屈曲操作部を有し、前記シャフト部および前記拡張体を生体内に配置した状態で前記屈曲操作部を操作することで、前記シャフト部に前記第1カーブと前記第2カーブとが形成されるようにしてもよい。これにより、屈曲操作部の操作により、拡張体を確実に適切な角度に配置できる。
【0013】
前記第1カーブと前記第2カーブは、前記拡張体を心房中隔に配置した状態で右心房内に配置されるようにしてもよい。これにより、下大静脈から延びるシャフト部が、右心房内で2方向に屈曲し、拡張体を心房中隔に対し確実に垂直に近い角度に配置できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る医療デバイスの全体構成を表した正面図である。
【
図4】シャフト部の先端部および拡張体の拡大図である。
【
図5】拡張体を心房中隔に配置した状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
【
図6】医療デバイスを用いた処置のフローチャートである。
【
図7】
図6のS2の状態を表した図であって、(a)は心房中隔を断面で表したバルーン付近の拡大図、(b)は穿刺孔の形状を表す心房中隔の断面図である。
【
図8】
図6のS3の状態を表した図であって、(a)は心房中隔を断面で表し、収納シース内を透視状に表した拡張体付近の拡大図、(b)は穿刺孔に収納シースが挿通された状態の心房中隔の断面図である。
【
図9】拡張体が収納された収納シースを穿刺孔に配置した状態における心臓の断面図である。
【
図10】収納シースから拡張体の先端側を露出させた状態における心臓の断面図である。
【
図11】先端側が露出した拡張体を心房中隔に当接させた状態における心房中隔を断面で表した拡張体付近の拡大図である。
【
図12】拡張体の全体を露出させた状態における心房中隔を断面で表した拡張体付近の拡大図である。
【
図13】シャフト部に第1カーブと第2カーブを形成した状態における心房中隔を断面で表した拡張体付近の拡大図である。
【
図14】
図6のS4の状態を表した図であって、穿刺孔を拡張体で拡張させた状態の心房中隔の断面図である。
【
図15】
図6のS5の状態を表した図であって、心房中隔を断面で表した拡張体付近の拡大図である。
【
図16】第1変形例に係るシャフト部と拡張体の拡大図である。
【
図17】第2変形例に係るシャフト部と拡張体の拡大図である。
【
図18】第3変形例に係るシャフト部と拡張体の拡大図であって、(a)はシャフト部の変形前の状態を表す図、(b)はシャフト部の変形後の状態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書では、医療デバイス10の生体内腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0016】
以下の実施形態における医療デバイスは、患者の心臓Hの心房中隔HAに形成された穿刺孔Hhを拡張し、さらに拡張した穿刺孔Hhをその大きさに維持する維持処置を行うことができるように構成されている。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の医療デバイス10は、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられる拡張体21と、シャフト部20の基端部に設けられる手元操作部23とを有している。拡張体21には、前述の維持処置を行うためのエネルギー伝達要素である電極部22が設けられる。
【0018】
シャフト部20は、拡張体21の基端が固定される基端固定部31と、拡張体21の先端が固定される先端固定部33とを含む先端軸部30を有している。先端軸部30は、拡張体21の内側を、拡張体21の基端部から先端部まで延びている。
【0019】
シャフト部20は、最外周部に設けられる収納シース25を有している。拡張体21は、収納シース25に対して軸方向に進退移動可能である。収納シース25は、シャフト部20の先端側に移動した状態で、その内部に拡張体21を収納することができる。拡張体21を収納した状態から、収納シース25を基端側に移動させることで、拡張体21を露出させることができる。
【0020】
シャフト部20の内部には、牽引シャフト26が配置されている。牽引シャフト26は、手元操作部23より基端側から拡張体21より先端側に渡って設けられ、シャフト部20の先端部から突出して拡張体21の先端部に接続されており、シャフト部20に対して摺動可能となっている。牽引シャフト26の先端部は、先端部材35に固定されている。
【0021】
牽引シャフト26の先端部が固定されている先端部材35は、拡張体21には固定されていなくてよい。これにより、先端部材35は、牽引シャフト26がシャフト部20に対して基端方向に摺動することにより、拡張体21に対しシャフト部20の軸心に沿って圧縮力を及ぼすことができる。また、拡張体21を収納シース25に収納する際、先端部材35を拡張体21から先端側に離すことによって、拡張体21の延伸方向への移動が容易になり、収納性を向上させることができる。
【0022】
手元操作部23は、術者が把持する筐体40と、術者が回転操作可能な操作ダイヤル41と、操作ダイヤル41の回転に連動して動作する変換機構42とを有している。牽引シャフト26は、手元操作部23の内部において、変換機構42に保持されている。変換機構42は、操作ダイヤル41の回転に伴い、保持する牽引シャフト26を軸方向に沿って進退移動させることができる。変換機構42としては、例えばラックピニオン機構を用いることができる。
【0023】
シャフト部20は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されるのが好ましい。そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリイミド、PEEK、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が挙げられる。
【0024】
牽引シャフト26は、例えば、ニッケル-チタン合金、銅-亜鉛合金等の超弾性合金、ステンレス鋼等の金属材料、比較的剛性の高い樹脂材料などの長尺状の線材で形成することができる。
【0025】
先端部材35は、例えば、ニッケル-チタン合金、銅-亜鉛合金等の超弾性合金、ステンレス鋼等の金属材料、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料またはこれらの混合物、あるいは2種以上の高分子材料の多層チューブ等で形成することができる。
【0026】
拡張体21についてより詳細に説明する。
図2、3に示すように、拡張体21は、周方向に複数の線材部50を有している。線材部50は、長さ方向に沿って分岐、合流することで、網目状の構造を形成している。これにより、拡張体21は径方向に拡縮可能である。線材部50の基端部は、基端固定部31から先端側に延出している。線材部50の先端部は、先端固定部33の基端部から基端側に延出している。線材部50は、軸方向の両端部から中央部に向かって、径方向に大きくなるように傾斜している。また、線材部50は、軸方向中央部に、拡張体21の径方向内側に窪んだ凹部51を有する。凹部51の径方向において最も内側の部分は底部51aである。凹部51により、拡張体21の拡張時に生体組織を受容可能な受容空間51bが画成される。
【0027】
凹部51は、底部51aの基端から径方向外側に延びる基端側起立部52と、底部51aの先端から径方向外側に延びる先端側起立部53とを有している。牽引シャフト26がシャフト部20に対して基端方向に摺動して、拡張体21に圧縮力がかかると、先端側起立部53と基端側起立部52とは、互いに近づき、受容空間51bに受容した生体組織に両者が密着する。基端側起立部52には、受容空間51bに面するように凹部51に沿って電極部22が配置される。先端側起立部53は、底部51aの近傍から二股に分かれて径方向外側に延びる外縁部55と、2本の外縁部55の間に配置される背当て部56とを有している。なお、電極部22は、先端側起立部53に配置されてもよい。
【0028】
拡張体21を形成する線材部50は、1本の金属製円筒部材をレーザーカット等することで形成することができる。線材部50は、金属材料で形成することができる。この金属材料としては、例えば、チタン系(Ti-Ni、Ti-Pd、Ti-Nb-Sn等)の合金、銅系の合金、ステンレス鋼、βチタン鋼、Co-Cr合金を用いることができる。なお、ニッケルチタン合金等のバネ性を有する合金等を用いるとよりよい。ただし、線材部50の材料はこれらに限られず、その他の材料で形成してもよい。
【0029】
電極部22は、絶縁性被覆材で被覆された導線(図示しない)により外部装置であるエネルギー供給装置(図示しない)に接続される。エネルギー供給装置から導線を介して2つの電極部22間に高周波電圧が印加され、これらの間にエネルギーが付与される。
【0030】
次に、シャフト部20の先端部の形状について説明する。
図4に示すように、シャフト部20は、拡張体21の基端固定部31の位置を起点として、手元側に向かって一方向に屈曲する第1カーブ60と、第1カーブ60の基端位置を起点として、手元側に向かって第1カーブ60と反対方向に屈曲する第2カーブ62とを有するように、予め形状付けされている。第1カーブ60と第2カーブ62により、シャフト部20は、略S字状に屈曲した形状を有する。ここで、第1カーブ60の曲げ角度をα(°)、第1カーブ60の曲げ半径をl(mm)、第2カーブ62の曲げ角度をβ(°)、第2カーブ62の曲げ半径をr(mm)、拡張体21の軸方向長さをL(mm)とする。
【0031】
凹部51の内側に形成される空間の直径は、4mm以上確保する必要があり、拡張体21の軸方向長さLの半分L/2の長さが10mm未満であると、拡張体21の自己拡張力が収納シース25に収納できる限度を超えることとなる。また、L/2が30mmを超えると、シャフト部20の第1カーブ60の曲げ半径lを小さくする必要があり、シャフト部20を収納した収納シース25がキンクする可能性がある。このため、拡張体21は、L/2の長さが10mm~30mmの範囲となるように形成される。また、L/2の長さは、より好ましくは15mm~25mmに設定される。これにより、シャフト部20の曲げ角度が小さく、曲げ半径を大きくできるので、医療デバイス10を送達する際における収納シース25のキンク等のリスクを低減でき、また、収納シース25に収納しやすい自己拡張力の拡張体21とすることができる。
【0032】
図5に示すように、下大静脈Ivから右心房HRa内に進入した拡張体21は、心房中隔HAの卵円窩の位置に形成された穿刺孔Hhに配置されて維持処置を行う。このとき、右心房HRa内においてシャフト部20は、拡張体21を有する先端側から手元側に向かい、第1カーブ60が卵円窩から離れる方向に凸となるように配置され、第1カーブ60と反対方向に屈曲する第2カーブ62を経て下大静脈Iv内に達する。シャフト部20は、第1カーブ60と反対方向に屈曲する第2カーブ62を有することで、第1カーブ60は、右心房HRaのうち心房中隔HAと対向する後壁寄りを通るので、第1カーブ60の曲げ半径を大きくすることができる。これにより、拡張体21を心房中隔HAに対して垂直に近い角度で配置することができる。
【0033】
第1カーブ60と第2カーブ62の曲げ半径および曲げ角度は、使用される心臓の大きさや形状等に応じて、任意に設定することができるが、下記(1)~(3)の全ての関係を満たすように設定することが望ましい。これにより、拡張体21を下大静脈Ivから心房中隔HAに向かわせることで、確実に心房中隔HAに対し適切な角度で配置することができる。
(l-lcos(α-β))+(r-rcosβ))≦15mm (1)
Lsin45°+lsin(α-β)+lsinβ≦40mm (2)
35°≦α-β≦55° (3)
【0034】
医療デバイス10を使用した処置方法について説明する。本実施形態の処置方法は、心不全(左心不全)に罹患した患者に対して行われる。より具体的には、
図5に示すように、心臓Hの左心室の心筋が肥大化してスティッフネス(硬さ)が増すことで、左心房HLaの血圧が高まる慢性心不全に罹患した患者に対して行われる処置の方法である。
【0035】
図6に示すように、まず、心房中隔HAに穿刺孔Hhが作成される(S1)。術者は、穿刺孔Hhの形成に際し、ガイディングシースおよびダイレータが組み合わされたイントロデューサを心房中隔HA付近まで送達する。イントロデューサは、例えば、下大静脈Ivを介して右心房HRaに送達することができる。また、イントロデューサの送達は、ガイドワイヤを使用して行うことができる。術者は、ダイレータにガイドワイヤを挿通し、ガイドワイヤに沿わせて、イントロデューサを送達させることができる。なお、生体に対するイントロデューサの挿入、ガイドワイヤの挿入等は、血管導入用のイントロデューサを用いるなど、公知の方法で行うことができる。
【0036】
術者は、右心房HRa側から左心房HLa側に向かって、穿刺デバイス(図示しない)を貫通させ、穿刺孔Hhを形成する。穿刺デバイスは、ダイレータに挿通させて心房中隔HAまで送達する。
【0037】
次に、術者は、予め挿入されたガイドワイヤ11に沿って、バルーンカテーテル100を心房中隔HA付近に送達する。
図7に示すように、バルーンカテーテル100は、シャフト部101の先端部にバルーン102を有している。バルーン102を心房中隔HAに配置したら、
図7(a)に示すように径方向に拡張させ、穿刺孔Hhを押し広げる(S2)。この際、穿刺孔Hhは、中隔組織の繊維の影響により、繊維に沿う方向については拡張したバルーン102の最大径と同等まで拡張するが、それ以外の方向には拡張しにくいため、
図7(b)に示すように細長い形状となる。
【0038】
次に、医療デバイス10を下大静脈Ivから右心房HRaを経て心房中隔HA付近に送達し、拡張体21を穿刺孔Hhの位置に配置する(S3)。医療デバイス10の送達時には、ガイドワイヤは用いられないが、拍動下で安定的に操作するためにガイドワイヤを用いてもよい。
【0039】
医療デバイス10の先端部は、心房中隔HAを貫通して、左心房HLaに達するようにする。また、
図8(a)に示すように、医療デバイス10の挿入の際、拡張体21は、収納シース25に収納された状態となっている。なお、本図と
図11~13、15において拡張体21は形状を簡略化して示している。
図8(b)に示すように、穿刺孔Hhがバルーン102により押し広げられていることで、収納シース25を穿刺孔Hhに挿通させることができる。拡張体21およびシャフト部20を内部に収納した収納シース25は、
図9に示すように、下大静脈Ivから心房中隔HAに向かって延びるため、収納シース25の先端部は、心房中隔HAの垂直方向に対して傾斜した状態となる。
【0040】
次に、収納シース25を基端側に移動させ、拡張体21のうち先端側の半分程度を収納シース25の外部に露出させ、左心房HLa内で拡張させる。この段階でも、
図10に示すように、収納シース25は心房中隔HAの垂直方向に対して傾斜した状態となっている。続いて、医療デバイス10の全体を基端側に移動させ、
図11に示すように、拡張体21の先端側起立部53を心房中隔HAに当接させる。この際、拡張体21の軸方向は、心房中隔HAの垂直方向に対して傾斜しているため、拡張体21の下側が心房中隔HAに当接していない状態となる。この状態から、収納シース25を基端側に移動させることで、
図12に示すように、拡張体21の全体が収納シース25の外部に露出し、拡張する。この段階においても、拡張体21の軸方向が心房中隔HAの垂直方向に対して傾斜していることから、拡張体21の上側の基端側起立部52が心房中隔HAに当接せず、電極部22の一部は生体組織から大きく離れた状態となる。また、心房中隔HAの下側は、拡張体21の基端側起立部52によって、左心房HLa側に押し込まれた状態となる。
【0041】
次に、
図5に示すように、収納シース25の先端部が下大静脈Ivの入口付近に配置されるように、基端側に移動させることにより、収納シース25から露出したシャフト部20が、右心房HRa内において第1カーブ60と第2カーブ62とを形成する。シャフト部20を、第1カーブ60が卵円窩から離れる方向に凸となるように配置することで、
図13に示すように拡張体21を心房中隔HAに対して垂直に近い角度で配置できる。これによって、拡張体21の受容空間51bに穿刺孔Hhを取り囲む生体組織を受容する(S4)。
【0042】
図14に示すように、拡張体21が拡張することにより、穿刺孔Hhは、周方向に沿ってほぼ均等な径を有するように拡張される。拡張体21は、穿刺孔Hhの形状を変化させるが、最大径は拡張しない。このため、穿刺孔Hhの最大径は、S2においてバルーン102で拡張された穿刺孔Hhにおける長軸方向の径と同等である。
【0043】
術者は、受容空間51bが生体組織を受容した状態で操作部23を操作し、牽引シャフト26を基端側に移動させる。これにより、
図15に示すように、拡張体21は先端部材35によって圧縮方向に牽引されることで軸方向に圧縮され、心房中隔HAは基端側起立部52と先端側起立部53によって把持され、電極部22が生体組織に押し付けられる(S5)。
【0044】
拡張体21は、シャフト部20が第1カーブ60と第2カーブ62とを有していることで、心房中隔HAに対して垂直に近い角度に配置されているので、全ての電極部22を生体組織に対して均等に押し付けることができる。
【0045】
穿刺孔Hhを拡張させたら、術者は、血行動態の確認を行う(S6)。術者は、
図5に示すように、下大静脈Iv経由で右心房HRaに対し、血行動態確認用デバイス120を送達する。血行動態確認用デバイス120としては、例えば、公知のエコーカテーテルを使用することができる。術者は、血行動態確認用デバイス120で取得されたエコー画像を、ディスプレイ等の表示装置に表示させ、その表示結果に基づいて穿刺孔Hhを通る血液量を確認することができる。
【0046】
次に、術者は、穿刺孔Hhの自然治癒による閉塞を阻害し、その大きさを維持するために維持処置を行う(S7)。維持処置では、電極部22を通して穿刺孔Hhの縁部に高周波エネルギーを付与することにより、穿刺孔Hhの縁部を高周波エネルギーによって焼灼(加熱焼灼)する。高周波エネルギーは、周方向に隣接する一対の電極部22間に電圧を印加することで付与される。
【0047】
電極部22を通して穿刺孔Hhの縁部付近の生体組織が焼灼されると、縁部付近には生体組織が変性した変性部が形成される。変性部における生体組織は弾性を失った状態となるため、穿刺孔Hhは拡張体21により押し広げられた際の形状を維持できる。
【0048】
維持処置後に術者は、再度血行動態を確認し(S8)、穿刺孔Hhを通る血液量が所望の量となっている場合、拡張体21を縮径させ、収納シース25に収納した上で、穿刺孔Hhから抜去する。さらに、医療デバイス10全体を生体外に抜去し、処置を終了する。
【0049】
前述のように、シャフト部20の第1カーブ60と第2カーブ62の形状は、前記(1)~(3)の条件を満たす一定の範囲で任意に設定できる。
図16に示すように、第1カーブ60の曲げ半径lを最小とし、第2カーブ62の曲げ半径rを最大とした形状から、
図17に示すように、第1カーブ60の曲げ半径lを最大とし、第2カーブ62の曲げ半径rを最小とした形状まで、変更することができる。
【0050】
また、第1カーブ60は、シャフト部20の基端固定部31より手元側位置を起点として屈曲していてもよい。また、第2カーブ62は、第1カーブ60の基端より手元側位置を起点として屈曲していてもよい。
【0051】
シャフト部20の第1カーブ60と第2カーブ62は、予め形成されていなくてもよく、生体内で形成されるようにしてもよい。
図18(a)に示すように、シャフト部20は直線状であり、シャフト部20を屈曲させるための屈曲操作部70を有する。屈曲操作部70は、シャフト部20に固定される先端側リング71および基端側リング73と、先端部が先端側リング71に固定される第1ワイヤ72と、先端部が基端側リング73に固定される第2ワイヤ74と、を有している。第1ワイヤ72と第2ワイヤ74は、シャフト部20の周方向において互いに反対側の位置に固定される。また、第1ワイヤ72と第2ワイヤ74は、いずれも手元部まで延びている。
【0052】
拡張体21を心房中隔HAまで送達した上で、
図18(b)に示すように、手元側から第1ワイヤ72と第2ワイヤ74とを引くように操作することで、シャフト部20は先端側リング71の位置と基端側リング73の位置をそれぞれ起点に屈曲する。先端側リング71の位置を起点に屈曲したシャフト部20は、第1カーブ60を形成する。基端側リング73の位置を起点に屈曲したシャフト部20は、第1カーブ60と反対方向に屈曲して第2カーブ62を形成する。これにより、拡張体21を心房中隔HAに対して垂直に近い角度で配置できる。なお、第1ワイヤ72と第2ワイヤ74は、同時に引いてもよいし、順次引くようにしてもよい。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る医療デバイス10は、径方向に拡縮可能な拡張体21と、拡張体21の基端が固定された基端固定部31を有する長尺なシャフト部20と、拡張体21に沿って設けられる電極部22と、を備え、拡張体21は、拡張体21の拡張時に径方向内側に窪み、生体組織を受容可能な受容空間51bを画成する凹部51を有し、電極部22は、受容空間51bに面するように凹部51に沿って配置されており、 基端固定部31から凹部51の底部51aまでの軸方向に沿う長さが10mm~30mmであり、シャフト部20には、基端固定部31または基端固定部31より手元側位置を起点として、手元側に向かって一方向に屈曲する第1カーブ60と、第1カーブ60の基端または該基端より手元側位置を起点として、手元側に向かって第1カーブ60と反対方向に屈曲する第2カーブ62と、が形成される。
【0054】
また、本実施形態に係るシャント形成方法は、径方向に拡縮可能な拡張体21と、拡張体21の基端が固定された基端固定部31を有する長尺なシャフト部20と、拡張体21に沿って設けられる電極部22と、を備える医療デバイス10を用いて卵円窩に右房と左房を連通するシャントを形成するシャント形成方法であって、拡張体21は、拡張体21の拡張時に径方向内側に窪み、生体組織を受容可能な受容空間51bを画成する凹部51を有し、電極部22は、受容空間51bに面するように凹部51に沿って配置されており、シャフト部20は、基端固定部31または基端固定部31より手元側位置を起点として、手元側に向かって一方向に屈曲する第1カーブ60と、第1カーブ60の基端または該基端より手元側位置を起点として、手元側に向かって第1カーブ60と反対方向に屈曲する第2カーブ62と、を有し、医療デバイス10を下大静脈から右房内に挿入し、右房内において、第1カーブ60を卵円窩から離れる方向に凸となるように配置した状態で、卵円窩に形成した孔に収縮した拡張体21を挿入し、孔内で拡張体21を拡張させて、孔を取り囲む生体組織を凹部51の受容空間51bに配置し、孔の自然治癒による閉塞を阻害するように、電極を用いて受容空間51bに配置された生体組織を焼灼する。
【0055】
このように構成した医療デバイス10およびシャント形成方法は、シャフト部20を、下大静脈から第2カーブ62によって一旦拡張体21が配置される心房中隔と反対側に屈曲し、第1カーブ60によって心房中隔側に屈曲するように配置できるので、拡張体21を心房中隔に対し垂直に近い角度に配置できる。これにより、凹部51を周方向の全周に渡って生体組織に密着させ、所望サイズのシャント形成を確実に実施できる。
【0056】
シャフト部20は、第1カーブ60の曲げ角度をα(°)、第1カーブ60の曲げ半径をl(mm)、第2カーブ62の曲げ角度をβ(°)、第2カーブ62の曲げ半径をr(mm)、拡張体21の軸方向長さをL(mm)として、
(l-lcos(α-β))+(r-rcosβ))≦15mm
Lsin45°+lsin(α-β)+lsinβ≦40mm
35°≦α-β≦55°
の関係を全て満たすようにしてもよい。これにより、拡張体21を下大静脈から心房中隔に向かわせることで、確実に心房中隔に対し適切な角度で配置することができる。
【0057】
シャフト部20は、生体内に挿入される前の状態において、予め第1カーブ60と第2カーブ62の形状を有しているようにしてもよい。これにより、シャフト部20を目的部位まで挿入するだけで、拡張体21を確実に適切な角度に配置できる。
【0058】
シャフト部20は屈曲操作部70を有し、シャフト部20および拡張体21を生体内に配置した状態で屈曲操作部70を操作することで、シャフト部20に第1カーブ60と第2カーブ62とが形成されるようにしてもよい。これにより、屈曲操作部70の操作によって拡張体21を確実に適切な角度に配置できる。
【0059】
第1カーブ60と第2カーブ62は、拡張体21を心房中隔に配置した状態で右心房内に配置されるようにしてもよい。これにより、下大静脈から延びるシャフト部20が、右心房内で2方向に屈曲し、拡張体21を心房中隔に対し確実に垂直に近い角度に配置できる。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 医療デバイス
11 ガイドワイヤ
20 シャフト部
21 拡張体
22 電極部
23 手元操作部
25 収納シース
26 牽引シャフト
30 先端軸部
31 基端固定部
33 先端固定部
35 先端部材
40 筐体
41 操作ダイヤル
42 変換機構
50 線材部
51 凹部
51a 底部
51b 受容空間
52 基端側起立部
53 先端側起立部
55 外縁部
56 背当て部
56a 受け面
57 腕部
57a 屈曲部
60 第1カーブ
62 第2カーブ
70 屈曲操作部
71 先端側リング
72 第1ワイヤ
73 基端側リング
74 第2ワイヤ