(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120200
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】酸化物膜のパターン形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/306 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
H01L21/306 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026832
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】501425485
【氏名又は名称】株式会社 エイ・エス・エイ・ピイ
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100166833
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 直子
(72)【発明者】
【氏名】川江 健
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】後閑 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大澤 信
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA18
5F043AA37
5F043DD18
5F043DD19
5F043EE07
5F043EE08
(57)【要約】
【課題】 加工時間を短縮しつつも微細なパターンを高精度に形成でき、歩留まりを高めることが可能な、酸化物膜のパターン形成方法を提供する。
【解決手段】 本発明の酸化物膜のパターン形成方法は、基板1の表面に潮解性を有する材料による犠牲層5を所望のパターンで形成する工程と、基板1の表面に酸化物膜7を堆積する工程と、犠牲層5を水に浸漬する工程と、基板1の表面に高圧水流を噴射して犠牲層5を除去し、表面に酸化物膜7を選択的に残存させる工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に潮解性を有する材料による犠牲層を所望のパターンで形成する工程と、
前記基板の表面に酸化物膜を堆積する工程と、
前記犠牲層を水に浸漬する工程と、
前記基板の表面に高圧水流を噴射して前記犠牲層を除去し、該表面に前記酸化物膜を選択的に残存させる工程と、
を有することを特徴とする酸化物膜のパターン形成方法。
【請求項2】
前記酸化物膜は、導電性を有する膜である、
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化物膜のパターン形成方法。
【請求項3】
前記酸化物膜は、酸化ストロンチウムにより形成される膜である、
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化物膜のパターン形成方法。
【請求項4】
前記犠牲層は、非晶質酸化物層である、
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化物膜のパターン形成方法。
【請求項5】
前記非晶質酸化物層は非晶質酸化カルシウムにより形成される層である、
ことを特徴とする請求項4に記載の酸化物膜のパターン形成方法。
【請求項6】
前記酸化物膜は、強誘電特性、圧電特性、高温超電導特性および半導体特性の少なくともいずれかを有する膜である、
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化物膜のパターン形成方法。
【請求項7】
前記酸化物膜は、酸化ガリウム、チタン酸ジルコン酸鉛およびイットリウム系超伝導体のいずれかの材料により形成される膜である、
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化物膜のパターン形成方法。
【請求項8】
前記高圧水流を、5MPa~20MPaの圧力で噴射する、
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化物膜のパターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物膜のパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強誘電体や圧電体、強磁性体、高温超伝導体、透明導電膜、ワイドギャップ半導体などの材料として、導電性、強誘電性、強磁性、高温超伝導性などを有する酸化物膜が用いられている。これらの酸化物膜は、化学反応しにくく融点が高いなど、化学耐性が高いため、反応性イオンエッチングやレジストリフトオフなどによるパターン形成が困難である。このためデバイスとして微細なパターンに加工するための技術開発が進められ、例えば、水リフトオフ法によって酸化物膜を所望のパターンに形成する技術が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1には、所望のパターンのアモルファス酸化カルシウム(a-CaO)層を犠牲層(マスク)として用い、この上に酸化物膜を堆積した後、純水に浸漬して犠牲層を除去(リフトオフ)し、酸化物膜を選択的に残存させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、犠牲層の除去(リフトオフ)に時間を要し、また、犠牲層の残渣も多い(除去が不十分である)ため歩留まりが悪い問題がある。このため、デバイスに適用し得る微細なパターン形成の技術としては、未だ確立したものとはいえず、研究開発の余地があった。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、加工時間を短縮しつつも微細なパターンを高精度に形成でき、歩留まりを高めることが可能な、酸化物膜のパターン形成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板の表面に潮解性を有する材料による犠牲層を所望のパターンで形成する工程と、前記基板の表面に酸化物膜を堆積する工程と、前記犠牲層を水に浸漬する工程と、前記基板の表面に高圧水流を噴射して前記犠牲層を除去し、該表面に前記酸化物膜を選択的に残存させる工程と、を有することを特徴とする酸化物膜のパターン形成方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加工時間を短縮しつつも微細なパターンを高精度に形成でき、歩留まりを高めることが可能な、酸化物膜のパターン形成方法を提供できる、という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のパターン形成方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】本実施形態のパターン形成方法の一例を時系列で示す模式図である。
【
図3】本実施形態のパターン形成方法の一例を時系列で示す模式図である。
【
図4】本実施形態による酸化物膜のパターニング結果を示す図である。
【
図5】従来方法による酸化物膜のパターニング結果を示す図である。
【
図6】本実施形態による酸化物膜のパターニング結果を示す図である。
【
図7】本実施形態により形成した酸化物膜のAFM観察結果を示す図である。
【
図8】従来方法により形成した酸化物膜のAFM観察結果を示す図である。
【
図9】(A)本実施形態により形成した酸化物膜のI-V特性を示す図である。(B) 本実施形態により形成した酸化物膜のXRDの結果を示す図である。
【
図10】本実施形態と従来方法を比較する表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態である酸化物膜のパターン形成方法の一例を示すフロー図である。
図1に示すように、本実施形態の酸化物膜のパターン形成方法は、犠牲層形成工程(ステップS01)と、酸化物膜堆積工程(ステップS03)と、犠牲層浸漬工程(ステップS05)と、犠牲層除去工程(ステップS07)を有する。
【0011】
以下、各工程について、
図2および
図3も参照して説明する。
図2および
図3は、本発明の実施形態である酸化物膜のパターン形成方法を時系列で模式的に示す図である。
【0012】
まず、犠牲層形成工程(
図1のステップS01)では、基板1の表面に犠牲層5を所望のパターンで形成する。
図2を参照して、ここでは一例として、レジスト層3のリフトオフにより犠牲層5をパターニングする場合を示す。
【0013】
図2(A)に示すように、基板1の全面にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ等により所望の形状(パターン)に残存させて犠牲層形成のマスクとなるレジスト層3を形成する。基板1は、一例として、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)単結晶基板(以下、単に「STO基板」と称する場合がある。)である。
【0014】
その後、
図2(B)に示すように基板1の表面に犠牲層5を堆積する。犠牲層5は、潮解性を有する非晶質あるいは結晶質の層(水との反応により生成される物質が水に可溶な材料による層)であり、ここでは一例として堆積などにより成膜が可能な非晶質酸化物膜である。より具体的には、非晶質酸化物膜は非晶質酸化カルシウム(a-CaO)により形成される層である。ここでは一例として、パルスレーザーデポジション(Pulsed Laser Deposition:PLD)法を用い、室温にて基板1の表面(略全面)に非晶質酸化カルシウムを堆積し、犠牲層5を形成する。犠牲層5は、レジスト層3が設けられている部分にはその表面に堆積する。
【0015】
そして基板1をアセトンに浸漬し、レジスト層3を除去する。これにより
図2(C)に示すようにレジスト層3およびその上に堆積した犠牲層5が的に除去され、基板1表面に所望のパターンで犠牲層5が残存する(犠牲層5がパターニングされる)。
【0016】
次に、酸化物膜堆積工程(
図1に示すステップS03)では、基板1の表面に酸化物膜7を堆積する。この酸化物膜7は本実施形態におけるパターン形成の対象となる膜であり、例えば、導電性を有する膜である。より具体的には、酸化物膜は、酸化ストロンチウム(SrRuO
3、以下単に「SRO」と称する場合がある。)により形成される膜である。ここでは一例として、
図2(D)に示すように、PLD法を用い、高温の真空下にて基板1の表面(略全面)に酸化ストロンチウムを堆積し、酸化物膜7を形成する。酸化物膜7は、犠牲層5が設けられている部分にはその表面に堆積する。なお、
図2(D)では模式的に示しているが、犠牲層5は、酸化物膜7よりも十分厚い(例えば10倍以上)の膜厚で設けられる。
【0017】
次に、犠牲層浸漬工程(
図1に示すステップS05)では、犠牲層5を水(純水)浸漬し潮解させる。具体的に、
図3(A)に示すように、基板1を回転および微細振動(揺動)が可能なステージ9等の上に載置(固定)し、基板1表面に水を滴下する。水の滴下量は、その表面張力によって犠牲層5が十分に浸漬される程度とする。なお、ここでは一例として、水の表面張力によって犠牲層5を浸漬させているが、犠牲層5が十分に水に浸漬される状態であればこの例に限らず、例えば、水を貯留した水槽等の中に基板1を浸すようにしてもよい。
【0018】
犠牲層5を水に浸漬する時間は、例えば、10分以内、望ましくは5分以内、好適には1分~3分、より好適には2分程度である。この場合、基板1(ステージ9)を左右に揺らす(微小な振動を与える)と水と犠牲層5の反応が進み、好ましい。この工程により、犠牲層5(非晶質酸化カルシウム)と水の反応(a-CaO+H2O→Ca(OH)2)が進行する。
【0019】
なお、基板1の材質(例えば濡れ性)やサイズによって基板1の表面に水が留まりにくい場合は、水の滴下ではなく、水槽に基板1全体を浸すなどし、犠牲層5と水を反応させてもよい。浸漬時間(犠牲層5と水の反応時間)も基板1のサイズにより適宜選択され、例えば基板1のサイズが大きい場合には、5分~10分などであってもよい。浸漬時間はあるいは、少なくとも犠牲層5の上層部分(例えば全体の厚みの50%程度以上)に水酸化カルシウムが生成される程度の時間であってもよい。
【0020】
次に、犠牲層除去工程(
図1に示すステップS07)では、基板1の表面に高圧水流を噴射して犠牲層5を除去し、基板1表面に酸化物膜7を選択的に残存させる。具体的に、
図3(B)に示すように、基板1表面に対して略垂直方向から水(純水)を高圧で噴射する。このときステージ9は例えば回転(または揺動)させ、噴射ノズル11を基板1の面方向に移動させるようにして基板1表面の全体に概ね均等に高圧水流を噴射することが望ましい。高圧水流の圧力は、例えば1MPa~50MPa、望ましくは3MPa~30MPa、好適には5MPa~20MPaである。水の高圧噴射には、噴射ノズル11を基板1の面方向に水平移動させることが可能な装置、例えば、高圧ジェットリフトオフ装置などを用いることができる。高圧水流の圧力は、噴射ノズル11の移動速度(スキャンレート)に応じて適宜適切な圧力を選択する。高圧水流の噴射時間は、基板1のサイズ(噴射ノズル11をスキャンする面積)に応じて適宜選択され、犠牲層5がほぼ完全に除去できる時間とする。
【0021】
高圧水流の噴射により犠牲層5とその上の酸化物膜7が除去され、
図3(C)に示すように基板1表面に酸化物膜7が選択的に残存し、酸化物膜7を所望の形状にパターニングできる。
【0022】
特許文献1に記載の従来方法は、犠牲層に外的な応力を略与えずに概ね水への浸漬(のみ)で犠牲層を除去する方法である。これに対し本実施形態の方法は、犠牲層5を水と反応させた後、犠牲層5に高圧水流(水ジェット)を噴射し、外部からの応力を与えて犠牲層5を強制的に除去する。以下説明の便宜上、従来方法を「水浸漬法」といい、本実施形態の方法を「水ジェット法」という場合がある。本実施形態(水ジェット法)によれば、従来方法(水浸漬法)と比較して、酸化物膜7のパターニング時間を大幅に短縮することができる。
【0023】
具体的に、基板のサイズが2mm×7mmの試料の場合、水浸漬法では、上記の犠牲層浸漬工程に対応する工程では基板を水槽内に15分間浸漬させ、犠牲層除去工程に対応する工程では、水槽内で更に15分~25分間、超音波洗浄を行って犠牲層を除去していた。この結果、犠牲層浸漬工程の開始から犠牲層除去工程の完了までの総時間は、30分以上必要であった。
【0024】
一方、本実施形態の水ジェット法では、基板1のサイズ、犠牲層5および酸化物膜7の形成条件(材料、形成方法および膜厚)が水浸漬法と同じ場合、犠牲層浸漬工程の開始から犠牲層除去工程の完了までの総時間は、約5分~10分程度であり、水浸漬法と比較して大幅に短縮することができる。
【0025】
このように、本実施形態において、短時間の浸漬と高圧水流で犠牲層5が除去できる理由については不確定ではあるが、以下のように考察される。
【0026】
まず、犠牲層浸漬工程により非晶質酸化カルシウムと水が反応し、水酸化カルシウムが生成される。水酸化カルシウムの一部は水に溶けるが、水や大気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムも生成される。ところで、炭酸カルシウムの生成過程の中間段階でゲル状凝集体である非晶質炭酸カルシウムが生成することが知られており、上記の犠牲層浸漬工程においても同様のゲル状凝集体が生成され、保護膜のように犠牲層5を覆っていると推測される。
【0027】
ここまでは従来方法(水浸漬法)でも同様であると考えられるが、水浸漬法では犠牲層に直接的な応力を与えることなく、浸漬による犠牲層の潮解と超音波洗浄(微小振動)によりゲル状凝集体を略自然に剥離(遊離)させていた。このため、犠牲層の除去に時間がかかり、また犠牲層を高精度に(再現性良く)除去することが困難であった。
【0028】
一方、本実施形態によれば、犠牲層5を覆うゲル状凝集体を高圧水流により除去することで下層の水酸化カルシウムを露出させ、強制的に水や大気に触れさせることが可能となる。これにより上記のゲル状凝集体の生成と除去が繰り返される。あるいは、犠牲層浸漬工程において非晶質酸化カルシウムと水の反応が十分でない場合であっても非晶質酸化カルシウムが露出することで水と反応させることができ、水酸化カルシウムが生成され、上記反応が繰り返される。
【0029】
つまり本実施形態では、犠牲層5を覆うゲル状凝集体を高圧水流により強制的に除去しつつ、水酸化カルシウムあるいは非晶質酸化カルシウムが水と接触する機会を増やすことが可能となる。これにより水浸漬法と比較して短時間で犠牲層5を除去することができ、また、酸化物膜7の選択的な除去(残存)を高精度に再現性良く実現できる。
【0030】
以上、本実施形態では、酸化物膜7として導電性を有する膜を例に説明した。しかしこれに限らず、酸化物膜7は、例えば、強誘電特性、圧電特性、高温超電導特性および半導体特性の少なくともいずれかを有する膜であってもよい。具体的には、酸化物膜7は、例えば、酸化ガリウム(Ga2O3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)およびイットリウム系超伝導体(YBa2Cu3O7-X)のいずれかの材料により形成される膜であってもよい。
【0031】
また、犠牲層5は、レジスト層3のリフトオフに限らず、ドライエッチング(例えば、反応性イオンエッチング)やウェットエッチング等によりパターニングしてもよい。
【0032】
また、基板1は、犠牲層除去工程における高圧水流の圧力(例えば、20Mpa程度など)に耐え得る厚みを有する基板であればSTO基板に限らない。基板1の厚みは例えば0.1mm以上であることが望ましく、例えば、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)などの半導体基板であってもよいし、銅(Cu)やアルミニウム(Al)などを主成分とする金属基板であってもよい。また、上記以外の材料の基板であってもよい。
【0033】
また、犠牲層は、潮解性を有する結晶質あるいは非晶質の層であればよい。犠牲層は、例えば、アルミン酸ストロンチウム(Strontium aluminate:Sr3Al2O6)の層であってもよいし、あるいは非晶質の酸化マグネシウムの層であってもよい。
【0034】
<実験例>
以下、本実施形態の方法(水ジェット法)によって酸化物膜7をパターニングした実験の結果を示す。また適宜、従来方法(水浸漬法)によって酸化物膜をパターニングした結果を比較例として示す。
【0035】
(本実施形態の試料)
基板1は、SrTiO3(STO)基板(サイズは、2mm×7mm)を採用した。その表面に犠牲層5として非晶質酸化カルシウムをPLD法(室温)により400nm堆積し、所望の形状にパターニングした。その後、酸化物膜7としてSROをPLD法(真空、750℃)により20nm堆積した。基板1表面に水(純水)を滴下し、ステージ9を左右に振動させながら2分間浸漬した。その後、基板1表面に高圧ジェットリフトオフ装置による高圧水流(水圧:8Mpa、スキャンレートは2mm/sec)を2分噴射した。これにより犠牲層5を除去し、所望の形状の酸化物膜7を選択的に残存させた。
【0036】
図4は、本実施形態の試料を示す写真である。
図4(A)~同図(C)が犠牲層5の除去前の状態であり、
図4(D)~同図(F)が高圧水流を噴射後(犠牲層除去工程の完了後)の状態である。
図4において淡色(明色)に見える部分が酸化物膜7である。
図4(D)~同図(F)に示すように酸化物膜7は、所望のパターンに選択的に残存させることができた。また、高圧水流の噴射による酸化物膜7の意図しない剥離(破壊)は生じなかった。
【0037】
図5は、比較例として水浸漬法により酸化物膜をパターニングした試料を示す写真である。基板,犠牲層および酸化物膜は
図4の場合と同条件で形成し、犠牲層浸漬工程に対応する処理時間を同程度とした。すなわち、犠牲層および酸化物膜を形成した基板を、水(純水)を貯留した水槽に2分間浸漬した。その後、基板全体を10分間超音波洗浄した。
【0038】
図5(A)~同図(C)が犠牲層5の除去前の状態であり、
図5(D)~同図(F)が10分間の超音波洗浄後の状態である。淡色(明色)に見える部分が酸化物膜7である。
図5(D)~同図(F)に示すように、本実施形態と同等の浸漬時間(2分間)では、その後10分間の超音波洗浄を行っても犠牲層を除去することができなかった。つまり、水ジェット法では犠牲層浸漬工程における浸漬時間が2分間であっても犠牲層5の除去が可能であることから、2分間で犠牲層5と水の反応はある程度進行していると考えられ、この点は水浸漬法においても同様と考えられる。一方、水浸漬方法ではその後に10分間の超音波洗浄では犠牲層の除去ができないことから、高圧水流(水ジェット)の噴射が犠牲層5の除去に有効であることがわかる。
【0039】
図6は、本実施形態の別の試料を示す写真である。
図6(A)、同図(B)は5μmのライン&スペースで犠牲層5のパターンを形成したものであり、同図(A)が犠牲層5の除去前の状態であり、
図6(B)が犠牲層除去工程の完了後の状態である。淡色(明色)に見える部分が酸化物膜7である。水浸漬法では、微細なパターン、特に
図6(A)の中央の格子部分のように、周囲を犠牲層5で囲まれた部分などにおいては超音波洗浄をしても犠牲層の流動が少なく、酸化物膜のパターニングが非常に困難であったが、本実施形態によれば
図6(B)に示すように微細なパターンであっても良好に形成できた。
【0040】
図6(C)および同図(D)は本実施形態のさらに別の試料を示す写真である。
図6(C)は幅Wが10μmのライン(1)、5μmのライン(2)と、2μmのライン(3)、(4)の酸化物膜7をそれぞれパターニングする試料であり、犠牲層5の除去前の状態である。
図6(D)は、犠牲層除去工程の完了後の、2μmのラインの拡大図である。
【0041】
水浸漬法では、コーナー部分(例えば、
図6(D)の丸印部分など)において犠牲層が除去しきれない問題があったが、本実施形態によれば同図(D)に示すようにコーナー部分においても犠牲層5が十分に除去された。また、2μmの微細なラインであっても高圧水流による破壊はなく、高精度な微細加工が可能であった。
【0042】
図7は、
図6(D)に示す犠牲層5を除去した後のライン部分について、酸化物膜7(SRO)と基板1(STO)の境界を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)で観察したラインプロファイルである。
図7(A)が酸化物膜7(SRO)と基板1(STO)の境界を含む20μm四方の領域を平面視した写真である。同図(B)が同図(A)のラインR部分のプロファイルであり、同図(C)が同図(A)のラインG部分のプロファイルである。
図7(B),同図(C)のいずれも、縦軸が高さ(膜厚)[nm]であり、横軸が酸化物膜7(SRO)上の基準位置からの距離[μm]である。
【0043】
図8は、比較例であり、水浸漬法による酸化物膜のパターニングの結果を示す。この試料は、STO基板の表面に犠牲層として非晶質酸化カルシウムをPLD法(室温)により400nm堆積し、
図6(D)と同様の形状にパターニングした。その後、酸化物膜としてSROをPLD法(真空、750℃)により20nm堆積した。そして基板全体を水槽に15分間浸漬した。その後、基板全体を15分間超音波洗浄し、犠牲層を除去した。
【0044】
そして、
図7と同様の箇所について、酸化物膜(SRO)と基板(STO)の境界を原子間力顕微鏡で観察したラインプロファイルである。
図8(A)が酸化物膜(SRO)と基板(STO)の境界を含む20μm四方の領域を平面視した写真である。同図(B)が同図(A)のラインR部分のプロファイルであり、同図(C)が同図(A)のラインG部分のプロファイルである。
図8(B),同図(C)のいずれも、縦軸が高さ(膜厚)[nm]であり、横軸が酸化物膜(SRO)上の基準位置からの距離[μm]である。
【0045】
図7(B)、
図7(C)と
図8(B)、
図8(C)から明らかなように、水ジェット法の場合、基板1(STO)上の厚みが4nm以下であり、水浸漬法と比較してパターニング後の基板1の上には犠牲層5の残渣が大幅に少なく、より平滑性が得られていることがわかる。
【0046】
図9は、本実施形態の酸化物膜7の結晶性の劣化を検討した結果である。
図9(A)は水ジェット法によりパターニングした酸化物膜7と水浸漬法により形成した酸化物膜のI-V特性を比較した図である。具体的には、水ジェット法と水浸漬法によりそれぞれ同様の酸化物膜のパターンを形成し、抵抗を測定した。
図9(A)はその測定結果を示すグラフであり、縦軸が電流密度[mA/μm
2]、横軸が電圧[V]である。
図9(A)において破線が水浸漬法により形成した酸化物膜のI-V特性であり、実線が水ジェット法により形成した酸化物膜7のI-V特性である。
【0047】
導体である酸化物膜7に結晶性の劣化があると、導電性の低下、抵抗率の増加につながる傾向にある。しかしながら、
図9(A)から明らかなように水ジェット法により形成した酸化物膜7はI-V特性の線形成は維持され、水浸漬法と比較して抵抗率が増加する傾向は生じていないといえる。
【0048】
図9(B)は、
図9(A)で用いた酸化物膜のパターンをX線回折法(XRD:X-ray Diffraction)により解析した結果である。破線が水浸漬法により形成した酸化物膜の解析結果であり、実線が水ジェット法により形成した酸化物膜7の解析結果である。横軸は回折角度(2θ)[deg]であり、縦軸は回折X線強度[cps]である。
【0049】
結晶性が劣化すると、ピーク強度が弱くなる(ピークがなだらかになる)が、水ジェット法では少なくとも基板(STO)と重畳していない部分(
図9(B)の黒矢印部分)において、水浸漬法と比較して同等のピーク強度が維持できている。
図9(A)の結果も合わせて検討すると、水ジェット法により形成(パターニング)した酸化物膜7の結晶性の劣化はないといえる。
【0050】
図10は、水ジェット法による酸化物膜7のパターン形成方法と水浸漬法の場合との比較をまとめた表である。
【0051】
まず、パターン形成に要する処理時間(具体的には、犠牲層浸漬工程の開始から犠牲層除去工程の完了までの処理時間)は、水浸漬法では30分~40分であったのに対し、本実施形態の水ジェット法では5分~10分に短縮できる。
【0052】
また、犠牲層除去工程後における犠牲層の除去の程度を比較すると、水浸漬法では特に基板の端部付近に残渣が見られ、基板全体に渡って犠牲層を除去できたとは言えない状況であった。これに対し本実施形態の水ジェット法では基板1のほぼ全体に渡り残渣なく、犠牲層5の除去が可能であった。
【0053】
また、酸化物膜のパターンが所望通りに形成できる割合(成功率)は、水浸漬法では基板の中央付近に限る(基板の面積にして全体の50%程度となる中央領域での判定に限り、基板周端部は残渣があるものも含む)と60%~70%であった。つまり、10枚の基板中6,7枚は、それぞれの基板の中央領域に限り所望のパターニングが得られた。これに対し、本実施形態の水ジェット法ではほぼ100%(試験したの全ての基板1)において、それぞれ基板1のほぼ全面に渡り、酸化物膜7のパターンが所望通りに形成できた。
【0054】
以上、本実施形態の酸化物膜のパターン形成方法によれば、加工時間の短縮と歩留まりの向上によりプロセス効率を高めることができ、また微細なパターンであっても高精度に再現性良く形成することができる。
【0055】
尚、本発明に係る酸化物膜のパターン形成方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の酸化物膜のパターン形成方法は、強誘電体、圧電体、磁性体、高温超電導体などのデバイス加工の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 基板
3 レジスト層
5 犠牲層
7 酸化物膜
9 ステージ
11 噴射ノズル