(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120208
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】コーヒーベリー病防除剤
(51)【国際特許分類】
A01N 63/22 20200101AFI20240829BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240829BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240829BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240829BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240829BHJP
A01N 37/46 20060101ALI20240829BHJP
C07K 14/32 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
A01N63/22
C12N15/31
C12P21/02 C
A01P1/00
A01P3/00
A01N37/46
C07K14/32 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026847
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】516357373
【氏名又は名称】原 富次郎
(71)【出願人】
【識別番号】522278578
【氏名又は名称】株式会社ワンネス
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】原 富次郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼塚 由美子
(72)【発明者】
【氏名】横田 健治
【テーマコード(参考)】
4B064
4H011
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC06
4B064CE08
4B064DA12
4H011AA01
4H011BB19
4H011BB21
4H011DH11
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA06
4H045FA74
4H045GA15
(57)【要約】
【課題】コーヒーベリー病の防除方法を提供する。
【解決手段】受領番号がNITE AP-03814であるバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)YAE51株の培養物若しくはその抽出物、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド若しくはその誘導体からなる抗糸状菌ポリペプチドを有効成分として含む、コレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受領番号がNITE AP-03814であるバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)YAE51株の培養物若しくはその抽出物、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド若しくはその誘導体からなる抗糸状菌ポリペプチドを有効成分として含む、コレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤。
【請求項2】
前記有効成分が、サーファクチン、フェンギシン、イツリン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される1又は2以上の環状リポペプチドを含む、請求項1に記載の生育阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤を含む、コーヒーベリー病防除剤。
【請求項4】
コーヒーノキと、請求項1又は2に記載のコレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤とを接触させることを含むコーヒーベリー病の防除方法。
【請求項5】
バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)YAE51株を培養する工程と、その培養上清を分画及び溶媒抽出する工程と、を含む請求項3に記載のコーヒーベリー病防除剤の製造方法。
【請求項6】
配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換された大腸菌を培養する工程と、その培養菌体からポリペプチドを回収する工程と、を含む請求項3に記載のコーヒーベリー病防除剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤及びそれを含むコーヒーベリー病防除剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー豆は熱帯性の作物であり、国際連合食糧農業機関(FAO)の統計によると、生豆の生産量は年間約400万トン、売上高は60億~120億ドルである。コーヒーには多くの種類があるが、アラビカ種とロブスタ種が経済的に重要な位置を占めており、アラビカ種のコーヒーが最も有名である。その重要性にもかかわらず、コーヒーの生産はしばしばコーヒーベリー病と呼ばれる病気によって制限されてきた。コーヒーベリー病(CBD:Coffee Berry Disease)はアラビカ種のコーヒーに多大な損失をもたらす病気である。ケニアで最初に報告され、現在ではアフリカ大陸のすべてのアラビカコーヒー生産国で見られる。子嚢菌門真菌の一種であるコレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)が病原であり、この真菌は、コーヒーノキの樹皮へ入り込んで胞子を増殖させ、コーヒーの果実や根に被害をもたらす。この病気に感染すると、コーヒーの幼実が落下するため収穫ができずに大きな損害をもたらすといわれている。
【0003】
一方、特定の微生物が分泌する物質が抗菌性を有することが知られており、例えば、バチルス属の細菌が生産、分泌する環状リポペプチドが、水稲伝染性糸状菌の生育を阻害したことが報告されている(例えば、特許文献1参照)。また、リゾクトニア・ソラニの分泌物質が、水稲伝染性糸状菌の菌糸生長阻害性や分生子形成阻害性を示すことが報告されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、リゾクトニア・ソラニD138株から分泌されるβ-1,3-グルカナーゼはエキソ型も含み、あるいはエンド型、エキソ型も含む両特性が、水稲伝染性糸状菌の生育阻害性を示すことが記載されている。しかしながら、これらの抗菌剤のコレトトリカム・カハワエに対する効果、さらにはコーヒーベリー病に対する防除効果は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Charlie Tran,Ian E Cock,Xiaojing Chen,Yunjiang Feng,Antimicrobial Bacillus: Metabolites and Their Mode of Action.Antibiotics(Basel).2022 Jan 12;11(1):88
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2017/150556
【特許文献2】特開2021-20864号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コレトトリカム・カハワエを被検菌として、その生育を阻害する物質を見出し、それによりコーヒーベリー病の防除剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、微生物が産生する特定の抗菌物質が、コーヒーノキのベリー病発症の原因とされるコレトトリカム属真菌の生育を効果的に阻害したという発見に基づく。すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
【0008】
(1)受領番号がNITE AP-03814であるバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)YAE51株の培養物若しくはその抽出物、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド若しくはその誘導体からなる抗糸状菌ポリペプチドを有効成分として含む、コレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤。
(2)有効成分が、サーファクチン、フェンギシン、イツリン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される1又は2以上の環状リポペプチドを含む、(1)に記載の生育阻害剤。
(3)(1)又は(2)に記載のコレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤を含む、コーヒーベリー病防除剤。
(4)コーヒーノキと、(1)又は(2)に記載のコレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤とを接触させることを含むコーヒーベリー病の防除方法。
(5)バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)YAE51株を培養する工程と、その培養上清を分画及び溶媒抽出する工程と、を含む(3)に記載のコーヒーベリー病防除剤の製造方法。
(6)配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換された大腸菌を培養する工程と、その培養菌体からポリペプチドを回収する工程と、を含む(3)に記載のコーヒーベリー病防除剤の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コレトトリカム・カハワエの生育阻害剤、及びそれを用いたコーヒーベリー病の防除剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、バチルス・サブチリスYAE51株の培養上清から精製した環状リポペプチド類(CLPs)精製標品のSDS-PAGEによる分析結果を示す。
【
図2】
図2は、アガー・ウェル法を用いて行った、被検菌コレトトリカム・カハワエに対するCLPsの抗菌活性の測定結果を示す。
【
図3】
図3は、アガー・ウェル法を用いて行った、被検菌コレトトリカム・カハワエに対するCLPsの用量依存的抗菌活性の測定結果を示す。
【
図4】
図4は、rDRHS-AFP発現ベクターのインサート及びその周辺配列である。
【
図5】
図5は、組換え大腸菌で発現させたrDRHS-AFPのSDS-PAGEによる分析結果を示す。
【
図6】
図6は、アガー・ウェル法を用いて行った、被検菌コレトトリカム・カハワエに対する組換え大腸菌で発現させたrDRHS-AFPの抗菌活性の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
<有効成分>
本発明の1つの実施形態に係る、コレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤は、有効成分として、受領番号がNITE AP-03814であるバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)YAE51株の培養物若しくはその抽出物、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド若しくはその誘導体からなる抗糸状菌ポリペプチドを含む。以下、各有効成分について詳細に説明する。
【0013】
(バチルス・サブチリスYAE51株の培養物)
本実施形態に係るバチルス・サブチリスYAE51株は、山形県内で取得した有機肥料を単離源にし、E5寒天培地によりシングルコロニー分離法により単離された菌株である(特許文献1参照)。このバチルス・サブチリスYAE51株は、令和5年(2023年)1月31日(原寄託日)付で独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、122号室)に寄託されている。受領番号は、NITE AP-03814である(以下、本菌株を「YAE51株」と称する)。
【0014】
YAE51株の培養方法について、培地は、特に制限されず、例えば、特許文献1に記載のE5液体培地又はその固体培地、コーンミール液体培地又はその固体培地(Fluka社製、カタログ番号:42347-500G-F)、LB液体培地又はその固体培地、ポテトデキストロース液体培地又はその固体培地等が使用できる。培養温度は、特に制限されず、例えば、25~55℃、25~35℃、45~55℃である。YAE51株の培養において、培養時のpHは、特に限定されず、例えば、pH4.5~7.5の範囲、pH6.5~7.5の範囲、pH4.5~5.5の範囲である。この培養は、例えば、好気的条件下で行ってもよく、嫌気的条件下で行ってもよい。好気的条件又は嫌気的条件は、特に制限されず、従来公知の方法を用いて設定できる。また、培養時の光条件は、特に制限されず、例えば、暗黒条件でもよく、照明条件でもよい。
【0015】
培養時間は、特に制限されず、例えば、YAE51株の増殖が定常期に達するまでであってもよい。YAE51株の増殖が、約72時間以内に定常期に達する培養条件下の場合、培養時間は、例えば、72時間であってもよい。
【0016】
上記YAE51株の培養物は、特に制限されず、例えば、YAE51株の菌体若しくは培養上清、又はそれらの処理物等があげられる。この処理物は、特に制限されず、例えば、濃縮物、乾燥物、凍結乾燥物、溶媒処理物、界面活性剤処理物、酵素処理物、タンパク質分画物、超音波処理物、磨砕処理物、精製物等があげられる。また、これらの混合物でもよい。混合物は、特に制限されず、任意の組み合わせおよび比率で混合した混合物とすることができる。
【0017】
有効成分は、これらの培養物からさらに抽出及び/又は精製した抽出物であってもよい。バチルス属の細菌が生産する種々の抗菌性化合物、及びその作用機序が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。それらの抗菌性化合物の中でも、YAE51株は、サーファクチン、フェンギシン、及びイツリン等の環状リポペプチド類(以下、「CLPs」と称する場合がある。)を生産、分泌するが、これら以外の抗菌物質を含んでいてもよい(特許文献1参照)。CLPsの分子量は、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で測定することができる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、YAE51株の培養物の抽出物は、サーファクチン、フェンギシン、イツリン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される1又は2以上の環状リポペプチドを含む。一実施形態において、サーファクチン又はその誘導体は、C13~C16の長さで変動する鎖を有するβ-ヒドロキシ脂肪酸に連結されたいくつかのアミノ酸からなる。これらの化合物は、サブチリス(subtilis)、アミロリケファシエンス(amyloliquefaciens)、コアグランス(coagulans)、プミルス(pumilus)及びリケニホルミス(licheniformis)などのバチルス属から得ることができる。サーファクチンの誘導体には、エスペリン(esperin)、リケナイシン、及びプミラシジンなどがある。
【0019】
イツリン又はその誘導体は、いくつかのアミノ酸からなり、β-アミノ脂肪酸に連結されている。このリポペプチド類の脂肪酸鎖の長さは、C14~C17で変動する。これらの化合物は、サブチリス(subtilis)、アミロリケファシエンス(amyloliquefaciens)等のバチルス属の細菌から得ることができる。本実施形態のイツリン又はその誘導体には、次の化合物:バシロマイシンD、バシロマイシンF、バシロマイシンL、バシロマイシンLC(バシロペプチンとも称される)、マイコスブチリン、イツリンA、イツリンAL、及びイツリンCなどがある。
【0020】
一実施形態では、フェンギシン又はその誘導体は、C14~C18の長さで変動する脂肪酸鎖を有するβ-ヒドロキシ脂肪酸に連結されている10個のアミノ酸からなる。これらの化合物は、スブチリス(subtilis)、アミロリケファシエンス(amyloliquefaciens)、セレウス(cereus)及びチューリンギエンシス(thuringiensis)などのバシラス属の細菌から、及びストレプトマイセス属(Streptomyces sp.)の細菌から得ることができる。フェンギシン又はその誘導体には、フェンギシンA、フェンギシンB、プリパスタチンA、プリパスタチンBなどがある。
【0021】
(抗糸状菌ポリペプチド)
本発明の一実施形態に係る有効成分は、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)D138株が分泌する抗糸状菌ポリペプチドであり、分子量約10kDaの二重相同配列の抗真菌ポリペプチド(DRHS-AFP:Double-Repeating Homologous Sequence Antifungal Polypeptide)として知られている(GenBank受入番号:BDO47269)。その成熟ポリペプチドは以下のアミノ酸配列を有する。なお、特定のアミノ酸配列等を「有する(having)」ポリペプチドとは、当該アミノ酸配列等「からなる(consisting of)」ポリペプチド、及び当該アミノ酸配列等を「含む(comprising)」ポリペプチドを含む。また、本明細書において、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシ末端)である。
【0022】
N末端側 ETSYGNPDLVTDQGNRFKLNFGSTDGHPNACPGHYICYISKNGAQHGDVSLGNPDDFVDEGNRWRLNYGSTDGHPNACPGHYICYISK(配列番号1)
【0023】
本明細書において、「抗糸状菌ポリペプチド」とは、抗糸状菌活性を有するポリペプチドを意味し、この抗糸状菌活性は、糸状菌に対する静菌活性及び殺菌活性のいずれであってもよい。例えば、糸状菌の菌糸の伸長阻害又は抑制、糸状菌の分生子形成阻害又は抑制、及び糸状菌の菌糸体の形成阻害又は抑制等のいずれを意味してもよい。本明細書において、糸状菌とは、真菌門または変形菌門に属する真核生物で、真菌門には担子菌亜門、子嚢菌亜門、不完全菌亜門、接合菌亜門及び鞭毛菌亜門(卵菌類)が含まれ、細胞壁はキチン・グルカンまたはセルロース・グルカンからなり、糸状、分岐を持つ栄養体を形成し、胞子を形成する顕微鏡的大きさの微生物である。コーヒーベリー病の病原菌であるコレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)は、典型的な糸状菌である。
【0024】
本実施形態に係るポリペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、付加、及び/又は置換された相同性を有するポリペプチドであっても、抗糸状菌活性を有するものは包含する。本明細書において、「1~数個のアミノ酸が欠失、付加、及び/又は置換されているポリペプチド」という場合、それらのアミノ酸の個数は、そのポリペプチドが抗糸状菌活性を有する限りは特に限定されないが、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1個、2個若しくは3個である。欠失、付加、及び/又は置換されている場所は、ペプチドの末端であっても、中間であってもよく、1ヶ所であっても2ヶ所以上であってもよい。
【0025】
このような上記アミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、付加、及び/又は置換されたアミノ酸配列として、上記アミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の同一性を有しているものが挙げられる。
【0026】
本実施形態に係るポリペプチドは、本発明の課題を解決するものである限り、その種々の誘導体、及び/又は修飾体も包含する。ポリペプチドの誘導体とは、アミノ酸置換、欠失、又は挿入により変化したアミノ酸配列を有するポリペプチド、糖鎖付加、糖鎖欠失、非天然アミノ酸挿入、リング挿入、メチル残基のような化学的修飾、タンパク質分解断片並びに欠失断片を含む。これらのポリペプチド誘導体は、天然に存在することができ、又は天然に存在しなくてもよい。天然に存在しない誘導体は、当技術分野で公知の突然変異誘発技術を使用して産生することができる。ポリペプチド誘導体は、官能側鎖基の反応により化学的に誘導体化された1つ以上の残基を有するポリペプチドを含む。同様に、20個の標準アミノ酸の1つ以上の天然に存在するアミノ酸誘導体を含有するそれらのペプチドも、「誘導体」に含まれる。例えば、4-ヒドロキシプロリンをプロリンの代わりに使用することができ、5-ヒドロキシリジンをリジンの代わりに使用することができ、3-メチルヒスチジンをヒスチジンの代わりに使用することができ、ホモセリンをセリンの代わりに使用することができ、及びオルニチンをリジンの代わりに使用することができる。
【0027】
修飾体とは、本実施形態のポリペプチドに、化学的又は生物学的な修飾が施されてなるものを意味する。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N-結合またはO-結合糖鎖の化学修飾体等が含まれる。化学的修飾体に含まれる化学部分としては、ポリエチレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコールコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを例示することができる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N-結合またはO-結合への糖鎖付加、N末またはC末のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによりN末にメチオニン残基が付加したもの、遺伝子組換えによりタグ等他のペプチドが付加された融合体等が含まれる。また、酵素標識体、蛍光標識体、アフィニティ標識体もかかる修飾物の意味に含まれる。
【0028】
本実施形態に係るポリペプチドの製造は、種々の宿主生物および宿主細胞中においての好適な核酸コンストラクトの異種発現によりなされてもよい。必要な遺伝子操作の方法は、Sambrook and Russell 2001 Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NJに記載されている。原核生物のシステム(例えば、大腸菌)又は真核生物のシステム(例えば、昆虫細胞、植物細胞、または哺乳動物細胞)を用いることができる。
【0029】
(発現ベクター)
本実施形態に係るポリペプチドは、発現されるべき目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び当該ポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含む発現ベクターにより製造することができる。「目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」とは、配列番号1のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドであれば任意に設計することができる。好ましい実施形態では、以下の配列番号2で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドである。この配列は、GenBank等のデータベースに受入番号LC719494として登録されているmRNA(cDNA)のうち成熟タンパク質をコードする配列である。
【0030】
5’-GAGACGTCATACGGCAATCCCGACTTGGTAACTGACCAGGGCAATCGCTTCAAGCTCAACTTTGGCAGCACCGACGGCCACCCGAACGCGTGTCCCGGACACTACATCTGCTACATCTCAAAGAACGGAGCCCAACATGGCGACGTCTCTCTCGGCAATCCCGACGACTTTGTAGATGAGGGCAACCGTTGGCGCCTGAACTATGGTAGCACCGATGGACACCCGAACGCCTGCCCTGGACACTACATCTGCTATATCAGCAAG-3’(配列番号2)
【0031】
「プロモーターがポリヌクレオチドに機能的に連結されている」とは、プロモーターが、その制御下にあるポリヌクレオチド自体の発現又はポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現を可能とするように、該遺伝子をコードするポリヌクレオチドに結合していることを意味する。
【0032】
本実施形態の発現ベクターのバックボーンとしては、所定の細胞で目的の物質を産生できるものであれば特に制限されないが、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターが挙げられる。発現ベクターを医薬として用いる場合、哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0033】
宿主細胞として原核生物細胞を用いる場合、原核生物細胞を宿主細胞として利用可能な発現ベクターが用いられ得る。このような発現ベクターは、例えば、プロモーター-オペレーター領域、開始コドン、本実施形態のポリペプチド又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド、終止コドン、ターミネーター領域、複製起点等のエレメントを含み得る。細菌中で本発明のポリペプチドを発現させるためのプロモーター-オペレーター領域は、プロモーター、オペレーター及びShine-Dalgarno(SD)配列を含むものである。これらのエレメントについては、自体公知のものを用いることができる。
【0034】
また、宿主細胞として真核生物細胞を用いる場合、真核生物細胞を宿主細胞として利用可能な発現ベクターが用いられ得る。この場合、使用されるプロモーターは、哺乳動物等の真核生物で機能し得るものであれば特に制限されない。ポリペプチドの発現を目的とする場合、このようなプロモーターとしては、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ-アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。ポリヌクレオチドの発現を目的とする場合、プロモーターは、polIIIプロモーター(例、tRNAプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター)であり得る。
【0035】
本発明の発現ベクターはさらに、転写開始及び転写終結のための部位、及び転写領域において翻訳に必要とされ得るリボソーム結合部位、複製起点並びに選択マーカー遺伝子(例、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、スペクチノマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール)などを含み得る。本発明の発現ベクターは、自体公知の方法により作製できる(例えば、上掲のMolecular Cloningなど参照)。
【0036】
あるいは本実施形態に係るポリペプチドは、化学的ペプチド合成法によって製造することができる。これは、例えばB.Merrifieldに従う公知の固相法の使用を含み得る。合成は、FmocまたはBoc保護基戦略を用いて、自動ペプチド合成装置の助けを借りるかまたは手作業で行われ得る。より小さな断片を後から繋ぎ合わせることでポリペプチドを合成することができる。
【0037】
(コレトトリカム・カハワエの生育阻害剤)
本実施形態の有効成分は、コレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae)の生育阻害剤として使用できる。コレトトリカム・カハワエは、アラビカコーヒー(Coffea arabica)、ロブスタコーヒー(Coffea canephora)、リベリアコーヒーツリー(Coffea liberica)、キンマ(Areca catechu)、ミカン(Citrus reticulata)、ミニトマト(Cyphomandra betacea)及びリンゴ(Malus domestica)などの宿主に感染する。感染は、つぼみから熟した果実、時には葉に至るまで、植物のあらゆる段階で起こりうる。コレトトリカム・カハワエの特徴は、最も感染しやすい開花後4~14週間の緑色の果実に感染する能力である。果実の感染には、「活動性」と「腐敗性」と呼ばれる2つの異なる症状がある。活動性病変の一般的な症状は、暗褐色でわずかにくぼんだ斑点で、最初は小さく、やがて面積が拡大し、果実全体が黒くなることである。その結果、果肉は褐色で硬くもろくなり、果実の表面は滑らかなままになる。湿度の高い条件下では、病斑上の結実構造からピンク色の胞子塊が発生することがあるが、年月とともに白色化する。「腐敗性」病変は、若い果実と成熟した果実の両方に、コルク状の、淡い褐色の、わずかに陥没した病変が見られる。これらの病変は、果実が熟し始めるまで停滞し、菌が成長するためのより有益な環境を作り出す。
【0038】
コレトトリカム・カハワエの生育阻害剤は、常法に従って、製造することができる。すなわち、本実施形態の生育阻害剤は、有効成分として、YAE51株の培養物若しくはその抽出物、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、若しくはその誘導体からなる抗糸状菌ポリペプチドの少なくとも1種を含む限り、他の有効成分を含むことができる。さらに、担体を混合して用いることができ、必要に応じて、例えば、界面活性剤、湿潤剤、固着剤、増粘剤、防菌防黴剤、着色剤、安定剤などの製剤用補助剤を添加して、常法に従って、適時、例えば、粒剤、水和剤、フロアブル剤、顆粒水和剤、粉剤、乳剤などに製剤化することができる。あるいは、上記有効成分を産生する微生物菌体(YAE51株やDRHS-AFPを発現する組み換え微生物など)を使用した微生物農薬という形態であってもよい。
【0039】
本実施形態の組成物における有効成分の含有量は、通常、重量比で、0.005~99%の範囲であり、好ましくは、0.1~90%の範囲であり、さらに好ましくは、0.3~80%の範囲である。本実施形態の組成物における有効成分の含有量は、製剤形態によっても異なり、適宜選択されるが、通常、粉剤では、0.01~30重量%であり、水和剤では、0.1~80重量%であり、粒剤では、0.5~25重量%であり、乳剤では、2~50重量%であり、フロアブル製剤では、1~50重量%であり、ドライフロアブル製剤では、1~80重量%である。
【0040】
(コーヒーベリー病防除剤)
コレトトリカム・カハワエは、コーヒーベリー病(CBD)を引き起こす糸状菌性植物病原体である。本病害は、アフリカ大陸におけるアラビカコーヒーの生産を妨げる主要な要因の1つと考えられている。コーヒーベリー病は、点状に暗黒壊死を起こし、コーヒーの緑の果実が早期に落下してしまうものである。高湿度、比較的暖かい温度、高い標高は、病害の形成に理想的であると考えられる。
【0041】
コレトトリカム・カハワエの多環性の病害サイクルは、分生子生産、分散、発芽及び感染のための雨や水に大きく依存している。感染のタイミングは、季節と降雨量によって制御されている。アフリカのコーヒー生産地では、長雨と短雨の2シーズンにわたって雨が降り、その間に比較的乾燥した天候が続く。長雨は初回開花を促し、その結果、初感染を引き起こす。短雨は二次開花を誘発するが、CBDの深刻な感染には寄与しない。CBDの主要な接種源は、ミイラ化した果実や小枝の樹皮と考えられている。胞子はゼラチン状の被膜に覆われており、雨天時には膨張して胞子を飛散させやすい。胞子は風雨によって樹木や枝の間を横方向に飛散するが、局所的な下方向への移動が典型的な接種の動きである。胞子は風雨によって樹木や枝の間に横方向に分散されるが、局所的な下方向への移動が典型的な接種性の移動である。長距離・中距離の一般的な飛散経路は鳥やコーヒーの収穫者、時には昆虫である。コーヒーベリー病は非常に深刻化しやすく、有効な防除手段がないため、南米など他の大陸のコーヒー生産地に広がり、壊滅的な結果をもたらすことが懸念されている。しかし、現在のところ、この病気はアフリカの標高が高く、相対湿度の高い地域でのみ流行している。
【0042】
本実施形態のコーヒーベリー病防除剤(以下、「防除剤」と称することもある。)は、前述のように、コレトトリカム・カハワエの生育阻害剤を含み、その製造方法や有効成分の含有量は上述した通りである。
【0043】
本実施形態の防除剤の剤形は、特に制限されず、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、等の固形剤、液剤、乳剤等があげられる。本実施形態の防除剤は、例えば、公知の農薬を含んでもよい。公知の農薬は、例えば、生物学的農薬、化学的農薬でもよい。前記生物学的農薬は、例えば、抗菌活性、殺虫活性、殺菌活性、除草活性、植物成長調節活性、昆虫忌避活性等の活性を有する微生物(例えば、細菌、真菌)を含む農薬である。また、前記化学的農薬は、例えば、抗菌物質、殺虫物質、殺菌物質、除草物質、植物成長調節物質、昆虫忌避物質等があげられる。
【0044】
コーヒーベリー病防除剤の使用対象は、特に制限されないが、例えば、コーヒーノキの植物体、この植物体を栽培する土壌、水等の培地があげられる。コーヒーノキの植物体に使用する場合、この農薬を接触させる位置は、特に制限されず、植物個体全体でもよいし、植物個体の部分でもよい。植物個体の部分は、例えば、器官、組織、細胞または栄養繁殖体等があげられ、いずれでもよい。器官は、例えば、花弁、花冠、花、葉、種子、果実、茎、根等があげられる。
【0045】
防除剤の使用量および使用回数は、特に制限されず、例えば、使用対象に応じて適宜設定できる。本実施形態の防除剤は、例えば、一般的な使用方法により、使用できる。使用方法は、例えば、防除剤を手で直接散布する方法、背負い式散粒機、パイプ散粒機、空中散粒機、動力散粒機、育苗箱用散粒機、多口ホース散粒機を用いて散粒する方法等があげられる。また、本実施形態の農薬が液剤の場合、農薬は、例えば、背負い式散布機、動力散布機、スプリンクラー、トラクター等に搭載される型の散布機、多口ホース散布機等の散布機を用いて散布できる。
【0046】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例0047】
[実施例1]環状リポペプチド抽出物の調製と抗菌活性の評価
(バチルス・サブチリスYAE51株の培養とCLPsの精製)
200mLのLB培地を1Lの羽根つき三角フラスコに入れ、121℃、20分間の条件で、オートクレーブ滅菌した。このLB培地の組成は、1%Bacto(商標)Trypton(Becton Dickinson社製、カタログ番号:211705)、0.5%Bacto(商標)Yeast Extract、0.5%NaCl(和光純薬工業社製:カタログ番号:191-01665)とした。バチルス・サブチリスYAE51株をLB培地に播種し、振盪回転数120rpm、30℃の条件下で、48時間培養した。
【0048】
培養後、8000×gの条件下で20分間遠心した。つぎに、上清を回収することで、菌体を除去後、この上清に終濃度が、30%となるように、硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製:カタログ番号:013-03433)をゆっくりと撹拌しながら添加した。つぎに、4℃の条件下で、1時間穏やかに撹拌し、さらに、10000×gの条件下で20分間遠心し、析出した物質(沈殿)を回収した。
【0049】
回収した沈殿を、2mLの20mM Tris-HCl(pH8.0)で溶解し、粗精製試料を調製した。この粗精製試料を、セルロースチューブ18/32(エーディア社製、カタログ番号:UC18-32-100)内に導入し、1Lの透析液中で脱塩(以下、「透析」ともいう。)し、粗精製抗菌物質溶液を得た。透析液は、20mM Tris-HCl(pH8.0)緩衝液とした。透析処理は、4℃の条件下で、一晩継続して行なった。また、透析処理中、2回、透析液を交換した。
【0050】
つぎに、粗精製抗菌物質溶液をブタノール抽出し、ブタノール層を回収した。ブタノールを乾固して得られた残渣をメタノールに溶解して精製標品とした。精製標品は-20℃で保存した。タンパク質の定量は、Quick Startプロテインアッセイキット(バイオラッド・ラボラトリーズ社)を用い、ウシ血清アルブミンを標準品としたBradford法によりおこなった。
【0051】
メタノールに溶解した精製標品を、予め重量を微量天秤で計測したチューブに移した。これに窒素ガスを吹き付けて、完全に溶媒を除去し、乾固させた後、重量を測定した。チューブの重量を差し引いて、CLPsの重量を算出し、2mg/mLとなるように、再度メタノールに溶解した。このメタノール溶液から1μg、5μg及び10μgのCLPs精製標品を用いて15%アガロースゲル電気泳動で分析した結果を
図1に示す。
【0052】
図1に示したように、CLPs精製標品は、10kDa以下の分子量でCBB染色され、HPLC分析によりサーファクチン、フェンギシン及びイツリン等を含むことが確認された。
【0053】
(生育阻害性の評価)
コレトトリカム・カハワエの生育阻害性の評価は、アガー・ウェル法を用いておこなった。本法における指標菌には、独立行政法人農業生物資源研究所から分与を受けたコレトトリカム・カハワエMAFF410176株を使用し、培地はポテトデキストロース寒天培地(以下、「PDA」とする)を用いた。
【0054】
アガー・ウェル法に使用する培地は、直径9cmの滅菌シャーレに、滅菌したPDAを20mLずつ分注して固化させた後、外径約7mmの滅菌ガラス管を用いてシャーレ中心よりウェル端が2cmの距離になるように4か所開穴し(以下、「PDAアッセイプレート」とする)、これを使用するまで4℃で保存した。上記で調製したCLPsのメタノール溶液(2mg/mL)をメタノールで2倍段階希釈し、PDAアッセイプレートのウェルへ50μLずつ添加した。コントロールとしては、メタノールのみをウェルへ50μL添加した。各試料をウェルへ添加した後、PDAアッセイプレートの中心部に、あらかじめPDAプレートで培養した被検菌を寒天ごと5mm角に切り出してのせ、25℃で5日間静置培養した。各試料の菌糸生長阻害作用の有無は、ウェル端と生育した菌糸との距離を実体顕微鏡下で定規を使用して計測し、コントロールと比較して評価した。
【0055】
その結果を
図2及び
図3に示す。
図2において、A~Iの各ウェルに添加したCLPsの量は以下のとおりである。
【表1】
【0056】
図2の白三角は、生育阻害が確認された位置を示す。
図3は、それぞれのCLPs量について3回測定した結果(n=3)、総CLPsによる被検菌株の阻止距離の平均値と標準偏差をプロットしたものである。
【0057】
図2に示したように、総CLPsは、調査した0.391~100μgの範囲でコレトトリカム・カハワエの生育を阻害した。また、
図3に示したように、総CLPsは用量依存的にもコレトトリカム・カハワエの生育を阻害した。
【0058】
[実施例2]遺伝子組換え型10kDa抗糸状菌ポリペプチド(リコンビナントDRHS-AFP、rDRHS-AFP)の発現系構築と組換えタンパク質による糸状菌生育阻害活性
(rDRHS-AFP発現用プラスミドの構築)
rDRHS-AFP発現用のプラスミドは、市販のタンパク質発現用ベクターであるpET-15b(Novagen社;T7プロモーター制御、アンピシリン耐性)を基に構築した。
【0059】
まず、特許文献2に記載されたふすまを固体培地とした培養方法に従ってリゾクトニア・ソラニD138株を培養した。本培養9日目の菌糸が生育したふすま培養物から、MN Bead Tubes Type C及びNucleoSpin(登録商標)RNA Plant and Fungi キット(いずれもMACHEREY-NAGEL社製)を用い、製造販売元の指示書に従ってRNA溶液を調製した。このRNA0.98μgと、SMARTer(登録商標)RACE5’/3’Kit(Takara Bio USA社製)を用いて、3’-RACE-Ready 1st-strand cDNAを指示書に従い合成した。
【0060】
88アミノ酸残基の成熟タンパク質のN末端に開始メチオニンを付加したrDRHS-AFP遺伝子とその下流域を含むDNA断片を、以下の条件のPCRで増幅した。上記で合成した3’-RACE-Ready cDNAを鋳型とし、プライマーiFpET_p10(Met)-Fw(配列番号3)とiFp10(end-2)_pET-Rv(配列番号4)を使用して、反応条件[94℃、1分間→(94℃、30秒→72℃、2分間)を5サイクル→(94℃、30秒→70℃、30秒→72℃、2分間)を5サイクル→(94℃、30秒→68℃、30秒→72℃、2分間)を25サイクル]でPCRを実施した。得られた約300bpのDNA断片をNucleoSpin Gel & PCR Clean-up Kit(MACHEREY-NAGEL社製)を使用して精製した後、制限酵素NcoI及びNdeIで切断したpET-15bベクターに、In-Fusion HD Cloning Kit(Clonthech社製)を用いてクローニングした。これにより、成熟タンパク質88残基に開始メチオニン残基が付加されたrDRHS-AFP発現用プラスミドpEp10を得た。
図4及び配列番号5にrDRHS-AFP発現ベクターのインサート及びその周辺配列を示す。また、rDRHS-AFP発現ベクターにコードされているポリペプチドのアミノ酸配列を
図4及び配列番号6に示す。
【0061】
プライマーiFpET_p10(Met)-Fw:
5’-(AGGAGATATACCATG)GAGACGTCATACGGCAATCCCGA-3’(配列番号3)(下線:制限酵素NcoI認識配列、この配列内のATGは開始メチオニンコドン)
【0062】
プライマーiFp10(end-2)_pET-Rv:
5’-(GGATCCTCGAGCATA)TGGAAACTGCGGGAAATGACGAGTT-3’(配列番号4)(下線:制限酵素NdeI認識配列)
【0063】
配列番号3および配列番号4において、括弧で括った配列はIn-Fusionクローニングに必要な15塩基の配列を示した。
【0064】
(大腸菌での組換えタンパク質の発現)
上記で作製したプラスミドpEp10で形質転換した大腸菌BL21(DE3)株を、アンピシリン(最終濃度100μg/mL)を添加した20mLの2×YT培地(1.6%トリプトン、1.0%酵母エキス、0.5%NaCl)で、温度30℃、120rpmで培養した。波長660nmにおける濁度O.D.660が1~1.1となったところで培養液に最終濃度0.2mMとなるようにイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、90分間培養を継続して組換えタンパク質を発現誘導させた。その後、5000×g、6℃、10分間の遠心分離により菌体を回収し、-80℃に保存した。
【0065】
(rDRHS-AFPによる抗真菌活性の評価)
上記「大腸菌での組換えタンパク質の発現」で-80℃に保存した菌体を、O.D.660=20となるように20mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)に再懸濁し、超音波発生機UD-211(トミー工業社製)を使用して超音波破砕した。菌体破砕液を3000×g、6℃、10分間遠心分離し、得られた上清を0.2μmのフィルターで濾過滅菌した溶液(以下、「ライセート」という。)を用いて、SDS-PAGEによる分析及びコレトトリカム・カハワエの生育阻害活性を測定した。
【0066】
図5は、上記ライセートを2.5μL、5μL又は10μL用いてSDS-PAGEを行った結果である。約10kDaの分子量の位置に、用量依存的にポリペプチドのバンドが検出された。抗真菌活性の評価方法は、上記[実施例1]に記載した、PDAアッセイプレートを使用したアガー・ウェル法により行った。ただし、中心からウェル端までの距離は3cmとなるようにした。被検糸状菌としてコレトトリカム・カハワエMAFF410176株を使用した結果を、
図6に示した。
【0067】
図6のPDAアッセイプレートにおいて、pEp10形質転換株のライセートに、菌糸生長阻害活性を確認できた(
図6のB、C、D)。また、それぞれのウェルに最も近い部分の生育菌糸先端の様子を位相差顕微鏡で観察したところ、コントロールの20mMの酢酸ナトリウム緩衝液を添加したウェル近くでは、菌糸が良く伸長していたのに対し(
図6のA)、pEp10形質転換株破砕液上清を添加したウェル近くにおいては、菌糸の伸長が阻害されている様子が観察された(
図6のB)。
【0068】
これらの結果から、大腸菌で発現させたrDRHS-AFPが、コレトトリカム・カハワエの生長阻害活性を有することが確認できた。