IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人国立高等専門学校機構の特許一覧 ▶ 有限会社坂本石灰工業所の特許一覧

特開2024-120215セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット
<>
  • 特開-セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット 図1
  • 特開-セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット 図2
  • 特開-セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット 図3
  • 特開-セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット 図4
  • 特開-セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット 図5
  • 特開-セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット 図6
  • 特開-セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット 図7
  • 特開-セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120215
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】セレン濃度の検出方法、セレン濃度の検出システム、検出材、および検出用キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20240829BHJP
   G01N 31/22 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G01N31/00 Z
G01N31/22 121D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026859
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】392012283
【氏名又は名称】有限会社坂本石灰工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】庄司 良
(72)【発明者】
【氏名】坂本 達宜
(72)【発明者】
【氏名】高木 泰憲
(72)【発明者】
【氏名】深浦 仁美
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA20
2G042BB20
2G042CA05
2G042CB03
2G042DA08
2G042FA11
2G042FB05
(57)【要約】
【課題】セレン濃度の検出方法等を提供する。
【解決手段】基材にメチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させた検出材と、セレン濃度の検出対象の被験液と、を接触させ被験材とする接触工程と、前記接触を開始した時間から、前記被験材の色が色見本の基準色になるまでの退色時間を計時する計時工程と、前記退色時間から、前記被験液のセレン濃度を判定する判定工程と、を有するセレン濃度の検出方法。基材にメチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させた検出材と、セレン濃度の検出対象の被験液と、を接触させた被験材が、前記被験材とするための接触を開始した時間から、色見本の基準色に到達するまでの時間を測定する計時手段と、前記退色時間から、前記被験液のセレン濃度を判定する判定手段と、を有するセレン濃度の検出システム。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にメチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させた検出材と、セレン濃度の検出対象の被験液と、を接触させ被験材とする接触工程と、
前記接触を開始した時間から、前記被験材の色が色見本の基準色になるまでの退色時間を計時する計時工程と、
前記退色時間から、前記被験液のセレン濃度を判定する判定工程と、を有するセレン濃度の検出方法。
【請求項2】
基材にメチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させた検出材と、セレン濃度の検出対象の被験液と、を接触させた被験材が、前記被験材とするための接触を開始した時間から、色見本の基準色に到達するまでの時間を測定する計時手段と、
前記退色時間から、前記被験液のセレン濃度を判定する判定手段と、を有するセレン濃度の検出システム。
【請求項3】
基材に、メチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させたセレン濃度の測定のための検出材。
【請求項4】
請求項3に記載の検出材と、退色時間の基準色を含む色見本と、を含むセレン濃度の検出用キット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセレン濃度の検出方法に関する。また、セレン濃度の検出システムに関する。また、セレン濃度を検出するための検出材や、検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは原子番号34、原子量78.96の元素であり、酸化状態は-2、0、+2、+4、+6がある。セレンの化学的性質のうち、環境中での移動や毒性、欠乏を生じる原因として、酸化状態による化学的性質の差が挙げられ、+6価の酸化状態にあるセレンはアルカリ性の酸化的条件下では安定となる。一方、酸性の還元的条件下では元素状であるセレンとセレン化物が生成しやすい。
【0003】
セレンはガラスや陶磁器、顔料、薬剤および殺虫剤に用いられる。顔料としてのセレンの使用量は化学工業におけるセレンの使用量のうちの大半を占める。特にオレンジ、赤、栗色のスルホセレン化カドミウム顔料は、日光や熱に暴露しても安定性があり、プラスチック、ペイント等の着色に使用されている。一方、殺虫剤としてのセレンは殺ダニ剤として有効ではあったが、これに耐性のある種のダニが現れたことで殺ダニ剤としての使用が減少した。また、セレンはセレン酸塩として葉に散布したり土壌に混ぜることで昆虫に有害な量のセレンを植物に含ませることができた。しかし、植物中のセレン残留物により起こりうる健康への悪影響により、現在は使用を禁止されている。
【0004】
自然界のセレンは岩石および土壌中にわずかに存在しており、地殻中の平均濃度は0.03~0.8ppmと推定されている。これらの採鉱および選鉱の作業や石炭等の燃焼、製錬および精錬作業によりセレンは大気、土壌、水中などに排出される。土壌中のセレンは土壌のpHによって形態が変化し、酸性土壌では亜セレン酸塩として、塩基性土壌中では酸化され、非常に溶けやすいセレン酸塩として存在する。セレン酸塩のような可溶性のセレン化合物は植物の生長に影響し、一部の穀類作物においては、セレン酸塩障害として白化現象を生じる。
【0005】
セレンの摂取による影響は植物だけではなく動物にも当てはまる。動物のセレンの過剰摂取によるセレン中毒では血管症状が最も顕著に現れ、あらゆる臓器にうっ血が確認されている。また、人が高濃度のセレンを含む植物を摂取し、セレンを過剰に体内に取り入れた場合も同様にセレン中毒を引き起こし、慢性皮膚炎や脱毛、爪の変色および脆弱化といった中毒症状が現れる。工業環境中で発生したセレン化水素による中毒症状も報告されており、主に気道粘膜の刺激やめまいなどが報告されている。セレン化水素の毒性は低濃度でも確認され、空気中濃度が0.001mg/Lであっても嗅覚疲労の原因となる。
【0006】
セレンの検出法はヒ素と同様に水素化物の発生に加えて数種類の分析機器を用いる方法が主なものとなる。また、公定法では3、3’-ジアミノベンジジン(DAB)吸光光度法がある。これはセレンを水酸化鉄と共沈させて分離し、DABと錯形成させ、ベンゼンで抽出して吸光度を測定する方法である。また簡易法として、2、3’-ジアミノナフタレン(DAN)の蛍光を測定する方法があり、鉄鋼中に含まれるセレンの測定方法に採用されている。
【0007】
本発明者らは、環境汚染物質の検出等を行うための検出材を開示している。たとえば、特許文献1は、環境汚染物質の有無を評価する検出材であって、基材に発色剤溶液を担持させてなり、前記基材が吸収する発色剤溶液量が前記基材の重量に対して150重量%以上100,000重量%以下であることを特徴とする検出材等を開示している。
【0008】
特許文献2は、検出材を内包させた包装構造を有する検出用具であり、前記包装構造の第一の面として懸濁物質の通過を抑制し通液性を有する多孔質材の層を有し、前記包装構造の第二の面として透明樹脂製の透明層を有し、第一の面と第二の面との周囲に接着部を有する包装構造である検出用具等を開示している。
【0009】
特許文献3は、ホワイトカーボンに発色剤を担持させた試薬担持ホワイトカーボンと、吸水性樹脂とを含有する検出材等を開示している。
【0010】
特許文献4は、ヒドロキシエチルセルロースを、塩基性水溶液中で、エチレングリコールジグリシジルエーテルと架橋反応させてゲル剤を得る合成工程と、前記ゲル剤を担持剤として、発色剤を担持させて、発色試験に用いる検出材を得る担持工程と、を有する、土壌中または水中の環境汚染物質の検出材の製造方法等を開示している。
【0011】
非特許文献1は、特許文献1~4等にもかかる、土壌中の有害重金属イオンの高分子樹脂による吸着-呈色物質との反応による見えない汚染を見える化-について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第6288669号公報
【特許文献2】特許第6292647号公報
【特許文献3】特許第6662524号公報
【特許文献4】特許第7120589号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】分離技術 第51巻第1号 p.19-25(分離技術会発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のようにセレンも自然界に由来するものや各種事情で環境汚染物質として検出対象とされる場合がある。本発明者らは、特許文献1~4や、非特許文献1の技術を利用して、シアン検出法と同様にメチレンブルーを高吸水性樹脂に担持し、定量が可能であるか検討した。その結果、セレンは、典型的な検出材として利用されているメチレンブルーを用いると、濃度を目視で判別しにくい要素があり、他の環境汚染物質の検出と異なり特異的な管理が重要であった。
【0015】
かかる状況下、本発明は、セレン濃度を検出する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0017】
<1> 基材にメチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させた検出材と、セレン濃度の検出対象の被験液と、を接触させ被験材とする接触工程と、前記接触を開始した時間から、前記被験材の色が色見本の基準色になるまでの退色時間を計時する計時工程と、前記退色時間から、前記被験液のセレン濃度を判定する判定工程と、を有するセレン濃度の検出方法。
<2> 基材にメチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させた検出材と、セレン濃度の検出対象の被験液と、を接触させた被験材が、前記被験材とするための接触を開始した時間から、色見本の基準色に到達するまでの時間を測定する計時手段と、
前記退色時間から、前記被験液のセレン濃度を判定する判定手段と、を有するセレン濃度の検出システム。
<3> 基材に、メチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させたセレン濃度の測定のための検出材。
<4> 前記<3>に記載の検出材と、退色時間の基準色を含む色見本と、を含むセレン濃度の検出用キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、セレン濃度を簡易に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の検出方法の実施形態にかかるフロー図である。
図2】本発明の検出システムの概要図である。
図3】実施例の観察結果を示す図である。
図4】実施例の観察結果を示すグラフである。
図5】実施例の観察結果を示す図である。
図6】実施例の観察結果を示すグラフである。
図7】実施例の観察結果を示す図である。
図8】実施例の観察結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0021】
[本発明の検出方法]
本発明の検出方法は、基材にメチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させた検出材と、セレン濃度の検出対象の被験液と、を接触させ被験材とする接触工程と、前記接触を開始した時間から、前記被験材の色が色見本の基準色になるまでの退色時間を計時する計時工程と、前記退色時間から、前記被験液のセレン濃度を判定する判定工程と、を有するセレン濃度の検出方法である。
【0022】
[本発明の検出システム]
本発明検出システムは、基材にメチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させた検出材と、セレン濃度の検出対象の被験液と、を接触させた被験材が、前記被験材とするための接触を開始した時間から、色見本の基準色に到達するまでの時間を測定する計時手段と、前記退色時間から、前記被験液のセレン濃度を判定する判定手段と、を有するセレン濃度の検出システムである。
【0023】
[本発明の検出材]
本発明の検出材は、基材に、メチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させたセレン濃度の測定のための検出材である。
【0024】
[本発明の検出用キット]
本発明の検出用キットは、基材に、メチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させたセレン濃度の測定のための検出材と、退色時間の基準色を含む色見本と、を含むセレン濃度の検出用キットである。
【0025】
なお、本願において本発明の検出システムにより本発明の検出方法を行うこともでき、本発明の検出材や本発明の検出用キットは、本発明の検出方法や本発明の検出システムに利用することができる。本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0026】
本発明者らは、セレン濃度を容易に検出できる方法を検討した。メチレンブルーを担持させた検出材に、セレンを含む被験液を接触させると、発色が生じる。しかし、セレン濃度に関わらず、強い発色が生じて、濃度を判断しにくいことが分かった。一方で、接触させてから時間経過に伴い、退色が生じていた。この退色時間を、セレン濃度ごとに計測した結果、退色時間とセレン濃度は相関性があることを見出した。また、この退色時間は、数秒~数百秒程度の間に生じるため、色の変化を十分に区別しながら短時間で把握できるものであることを見出した。この特性を利用して、検出時間に基づく回帰式を用いれば、被験液のセレン濃度を検出できることを見出した。本発明はかかる知見に基づく。
【0027】
[本発明の検出方法のフロー]
図1は、本発明の検出方法の実施形態のフロー図である。ステップS11は、検出材と、被験液を接触させる工程である。ステップS21は、被験材の退色時間を測定する工程である。ステップS31は、退色時間からセレン濃度を判定する工程である。判定結果のセレン濃度は、適宜、表示等される。
【0028】
[検出システム10]
図2は、本発明の検出システムの実施形態の概要図である。検出システム10は、計時手段41と、判定手段42とを有する。検出システム10は、色見本20と被験材収容部21とを有する試験器具2を用いる。試験器具2の被験材収容部21等は撮像手段3で撮像される。撮像された被験材収容部21等の像は、計時手段41や判定手段42を有する制御手段4で、退色時間の計時やセレン濃度の判定などが行われる。これらの情報や処理結果、処理のためのプログラム等は、適宜、制御手段4等に接続された記憶手段5に記憶されている。セレン濃度などの判定結果は、適宜、表示手段6に表示することができる。
【0029】
[基材]
基材は、発色剤溶液を担持させておく材料である。吸水性や親水性の材料を用いることができる。基材は、例えば、ホワイトカーボンや、吸水性樹脂、HECゲルなどを用いることができる。HECゲルは、ヒドロキシエチルセルロースとエチレングリコールジグリシジルエーテルとを架橋させたゲル剤の略称である。基材は、このHECゲルを用いることがより好ましい。HECゲルは、発色剤溶液として用いるメチレンブルー等に対しても安定であり、発色試験前後の取り扱いやすさや、発色の視認性などに特に優れている。
【0030】
吸水性樹脂は、吸水性を有する高分子である。吸水性樹脂としては、セルロース-アクリロニトリルグラフト共重合体やカルボキシメチルセルロース架橋体等のセルロース系のものや、ポリビニルアルコール架橋体やポリビニルアルコール吸水ゲル凍結・解凍エラストマーのようなポリビニルアルコール系のもの、アクリル酸とナトリウム・ビニルアルコール共重合体やポリアクリル酸ナトリウム架橋体等のアクリル酸系のもの、N-置換アクリルアミド架橋体等のアクリルアミド系のもの、ポリアルキレンオキサイド系のものが挙げられる。より具体的には、変性ポリアルキレンオキサイド/ノニオン型熱可塑性吸水樹脂、アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物等が好ましく用いられる。
【0031】
[発色剤溶液]
発色剤溶液は、メチレンブルーを含む溶液である。発色剤溶液は、基材に吸収させて、発色剤であるメチレンブルーなどを基材に担持させるために用いる。発色剤溶液の媒質とする液体は、水や、適宜、他の緩衝用の成分などを混合したものを用いることができる。
【0032】
[メチレンブルー]
メチレンブルーは、IUPAC名が、3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジニウムクロリドの物質である。発色剤溶液におけるメチレンブルー濃度は、検出材への担持量などをもとに設定する。水等の媒質への溶解性などを考慮して、発色剤溶液としては、0.1g/L~0.5g/L程度とすることができる。
【0033】
メチレンブルーの構造式を下記する。メチレンブルーは分子量が373.90であり、水やエタノールに可溶な青銅色の粉末である。水に対する溶解度は43.6g/Lであり、水中での最大吸収波長は609μm、668μmである。
【0034】
【化1】
【0035】
本来メチレンブルー(MB)は青色を呈するが、硫化物イオンによる還元により無色の還元型メチレンブルー(HMB)が生じる。メチレンブルーの還元反応の概要を式(1)に示す。
【0036】
2MB+S2-+2H2O → 2HMB+2OH-+S 式(1)
【0037】
硫黄と硫化物イオンは式(2)のように結合し、硫黄-硫黄陰イオンが生成される。また系中にセレンが存在した場合、同様にセレンも硫化物イオンと結合し、式(3)に示す反応によってセレン-硫黄陰イオンが生成される。
【0038】
S + S2- → [S-S]2- 式(2)
【0039】
Se + S2- → [Se-S]2- 式(3)
【0040】
式(2)、(3)式により得られた硫黄-硫黄陰イオンおよびセレン-硫黄陰イオンは水存在下でメチレンブルーを還元する。
【0041】
2MB+[S-S]2-+2H2O → 2HMB+2OH-+2S 式(4)
【0042】
2MB+[Se-S]2-+2H2O → 2HMB+2OH-+Se+S 式(5)
【0043】
式(4)は、メチレンブルーの硫化物イオンによる還元反応である。また、式(5)の反応において、セレンの状態が元に戻っていることから、セレンはメチレンブルーの還元の触媒であり、硫化物イオン濃度が一定である場合、セレン濃度によって還元型メチレンブルーの生成速度が決定される。これらのことからセレン濃度とメチレンブルーの退色時間は相関性があり、メチレンブルーの退色時間より未知のセレン濃度を決定できる。
【0044】
[検出材]
検出材は、基材にメチレンブルーを含む発色剤溶液を担持させたものである。検出材は、発色剤溶液を吸収させたままで用いてもよいし、適宜、発色剤溶液等に由来する水などの液を乾燥などして除去しておいてもよい。検出材は、基材の吸水性や、想定される被験液の液量とセレン濃度に対する退色時間などに応じて、適宜設定できる。検出材は、特に、セレン存在下で発色や退色が生じるメチレンブルー濃度を主な設計指標とすることができる。検出材のメチレンブルー濃度は、メチレンブルー三水和物の場合、検出材あたりのメチレンブルー濃度として、0.05~10mg/gや、0.1~5mg/g程度、0.2~3mg/g程度とすることができる。
【0045】
検出材を作製するときの基材と、発色剤溶液との混合比は、基材の吸水性や、メチレンブルー濃度等に応じて設定できる。例えば、発色剤溶液:基材の質量比(発色剤溶液/基材)を、1~50や、2~30、5~25程度とすることができる。
【0046】
検出材を製造するとき、発色剤溶液を基材に吸収させた後、そのまま、湿潤状態のゲル状などの状態で用いてもよい。または、吸液させた後に、容器などに拡げて、乾燥などで水分を除去し、その後、粉砕等して細粒化するなどして用いることができる。
【0047】
なお、本発明に用いる検出材の作製にあたっては、適宜、特許第6288669号公報や、特許第6292647号公報、特許第6662524号公報、特許第7120589号公報などの基材に相当する材料や、基材等を収容する容器等を参照することができる。
【0048】
[被験液]
被験液は、セレン濃度の検出対象となる検査対象の液である。被験液は、検査対象が液体の場合、そのまま使用してもよい。また、土壌などに含まれるセレン濃度等を検出する場合は、測定対象の土壌などのものを水に分散させて、水中にセレン等を溶出させて被験液とすることができる。
【0049】
被験液のセレン濃度は、1ppm以下や、0.1ppm以下、0.05ppm以下程度のとき、特に退色時間が、数十秒程度となり、退色時間を測定しやすくなるため、セレン濃度の検出が行いやすい。このため、被験液におけるセレン濃度が高い場合、段階的に希釈しておくなどして、被験液とすることができる。
【0050】
[調整液(コンディショナー液)]
被験液を調整するにあたっては、外乱因子の影響を抑えるためなどの目的のために、調整液などを利用することができる。外乱因子を抑える手法としては、EDTAなどのキレート剤を添加して、陽イオンなどセレン以外の夾雑物質の影響を排除することなどができる。調整液の例としては、塩化鉄(III)六水和物と、EDTA・2Na二水和物、トリエタノールアミン、蒸留水を混合して調製したものなどを用いることができる。より具体的な調整液の調整例としては、塩化鉄(III)六水和物0.2415g、EDTA・2Na二水和物0.138g、トリエタノールアミン0.25mL、蒸留水で全量50mLとしたものなどを利用することができる。
【0051】
調整液を用いる場合、前述した被験液を被験液の原液として、これに調整液を混合したものを、実際に検出材と接触させる工程等に使用する被験液として用いる。
【0052】
[接触]
接触工程は、検出材に、被験液を接触させる工程である。検出材と、被験液との量比(検出材:被験液)は、検出材が吸収できる被験液量などに合わせて適宜設定でき、検出材を配置した容器に合わせた液量とすることができる。
【0053】
[被験材]
被験材は、検出材と、被験液とを接触させた状態のものをいう。この被験材は、検出材のメチレンブルーと、被験液に含まれるセレンとによって、退色が生じ、その退色時間で、被験液に含まれるセレン濃度を特定することができる。このため、被験材の退色時間を把握することが重要となる。
【0054】
被験材においては、メチレンブルー濃度が、退色時間の測定を安定して行うための主な管理要素とすることができる。このため、被験材(検出材+被験液の容量)におけるメチレンブルー濃度は、0.01~0.5mg/mLが好ましく、0.02~0.30mg/mLがより好ましく、0.05~0.20mg/mLとすることがさらに好ましい。このような濃度となるように、想定される使用時にあわせて、検出材の各調整工程を設定することができる。また、被験材とするために接触させるときは、検出材と、被験液を秤量して用いてもよいし、あらかじめこのような濃度とするための量比を達成しやすい容器などを用いてもよい。
【0055】
[被験材収容部]
被験材を調製するにあたって、適量の検出材を収容し、被験材とするための被験液を適量含んだ状態とするために、被験材収容部を用いることが好ましい。この被験材収容部は、検出材を予め収容したものとしておくことができる。また、被験材収容部は、被験材とするために適量の被験液を収容する容量としたり、被験液を入れる量の目安となる目盛り線を設けておくことができる。また、被験材収容部は、目視や、撮像等をしやすいように、透明部を有する容器を用いることが好ましい。また、被験液が、土壌等を含むもののとき、固形物などが侵入しにくいようにフィルタ部を通して、被験液が収容される形状とすることもできる。この被験材収容部は、図2に示す試験器具2の被験材収容部21のように、色見本に並べるように配置しておくことができる。
【0056】
[計時]
計時工程は、被験液と検出材とを接触させた被験材とした状態の接触を開始した時間から、被験材の色が色見本の基準色になるまでの退色時間を計時する工程である。また、計時手段は、この開始時間から、退色時間までの時間を計時する手段である。退色時間は、色見本と比べて観察しながらストップウォッチなどを用いて測定してもよい。または、ビデオカメラなどを用いて、少なくとも数秒置きなどに画像を抽出しておき、その画像を色見本と比較してもよい。また、色見本との対比は、目視で行ってもよいし、画像検出手段で人の判断によらずに測定してもよい。
【0057】
[色見本・基準色]
セレン存在下で、メチレンブルーは、接触直後は、濃い青色に着色する。他方、詳細は前述した作用機序にもあるように、セレンの触媒作用と考えられる現象により退色して、水色となる。なお、さらに時間経過すると、黄色がかった色となる。着色時の濃い青色と、退色時の水色とは、いずれも青系統の色ではあるが、退色時は明るい水色となることから十分に区別できる色である。この退色時の色は、基準色として扱う色見本をあらかじめ準備しておき、その色見本と、目視や画像検出手段などで比較して、色見本相当になった時間を特定する。
【0058】
[試験器具]
これらの被験材収容部2や色見本は、図2に示す試験器具2のような構成としたものとすることができる。試験器具2は、本発明を行うための構成で、検出材を収容し被験液を容れることで被験材とする被験材収容部21と、色見本20を組み合わせたものである。
【0059】
[撮像]
退色時間の測定にあたっては、検出システム10に示すように、試験器具2と、試験器具2を撮像する撮像手段3を用いて撮像し録画した情報を用いることができる。試験器具2は、被験材収容部21に検出材を収容したものを用いることができる、そして、この試験器具2に被験液を加えて接触させる。被験材収容部21には、色見本などを隣接して配置しておき、観察環境下の照度などの影響を修正しやすい状況で撮像することが好ましい。撮像手段3は、専用のビデオカメラなどを用いてもよいし、スマートフォンなどの携帯端末に用いられているカメラなどを用いてもよい。
【0060】
退色時間は、温度の影響を受ける場合があるが、一般的な使用環境として想定される10~30℃程度の範囲では、その退色時間に与える影響は限定的なものとなる。一方、極端に低温の場合や、高温とした場合、温度の影響も受ける可能性がある。このため、本発明の検出方法等を行うにあたっては、特に、退色時間の測定が完了するまでの間は、被験材の周辺温度を、設定温度を±10℃以内や、±5℃以内程度で管理した範囲としておくことが好ましい。具体的な温度は、15~35℃程度や、20~30℃程度で管理して接触させて計時することが好ましい。
【0061】
[判定]
判定工程は、色見本と比較した退色時間から、被験液のセレン濃度を判定する工程である。また、判定手段は、この判定を行う手段である。この判定は、退色時間と、セレン濃度とを早見表のようにしておき、退色時間から、セレン濃度を特定してもよいし、回帰式にあてはめて濃度を特定するものとしてもよい。
【0062】
[回帰式等]
退色時間と、セレン濃度とには、退色時間を第一の軸(例えばX軸)、セレン濃度を第二の軸(例えばY軸)としたときに、セレン濃度を対数で表示したときに、直線関係が見られる。このことを利用して、「セレン濃度=f・e^(a・退色時間)」(f、aは、係数)のような回帰式をあらかじめ取得しておき、この回帰式にあてはめてセレン濃度を測定することができる。また、退色時間と濃度の早見表とする場合も、同様の処理を行ったものを時間に換算したものとしておいてもよいし、基準液濃度に対応する時間を測定や、測定結果から補完等したものを単に表としてまとめたものなどを用いてもよい。
【0063】
[基準液による回帰式の作成]
回帰式の作成にあたっては、あらかじめ、セレンを含有する基準液を用いて、検出材に接触させたときの退色時間を測定することができる。基準液を用いた回帰式の作成にあたっては、次のような試験液などを用いることができる。例えば、まず、所定の濃度のNa2S水溶液を調整する。この液は、硫化ナトリウムと、亜硫酸ナトリウムとを、水酸化ナトリウムで溶解させる。次に、セレン濃度を段階的に設定したセレン水溶液(検液)にホルムアルデヒド、コンディショナー溶液、Na2S水溶液を添加する。そして、この液を静置させて被験液とする。この被験液を、検出材と接触させる。そして、その退色時間を測定して、退色時間とセレン濃度の相関性を把握して、この相関性にかかる回帰式を作成する。
【0064】
[表示]
回帰式等を用いて算出等により判定されたセレン濃度(Se濃度)は、表示手段6(図2参照)等に適宜表示することができる。この表示は、具体的な濃度を数値で目視できるように示してもよいし、濃度を読み上げるものでもよい。または、所定の管理濃度の閾値を定めておき、その濃度を超える場合、警告が音や視覚的情報などで通知されるものとしてもよい。
【0065】
本発明を実施するにあたっては、適切な検出材があれば、退色時間は各種普及している周知の計時手段などを利用することができる。このため、本発明は、その検出方法等の実施のために必要な、検出材そのものとして提供することもできる。また、さらには、検出材と、退色時間の基準色を含む色見本と、を含むセレン濃度の検出用キットとして提供することもできる。これらは、さらに好適に併用される、前述した調整液や、退色時間と濃度の早見表、試験用のプレート等となる台、撮像するときの背景用の台紙などを適宜組み合わせたものとすることもできる。
【0066】
また、適宜、パーソナルコンピュータや、スマートフォン等を利用したアプリケーションソフトや、クラウドなども併用するようなソフトやシステム等の携帯も含むものとして実施することもできる。
【0067】
[操作フロー例]
前述した内容にもかかる本発明を実施するフローの一例を説明する。
1.検出材の作製
(1)メチレンブルー三水和物0.05gを超純水340gで溶解させる。
(2)メチレンブルー溶液全量をHECゲル20gに吸水させる。
(3)容器に広げ、乾燥機で乾燥させ、ミキサーで細粒化する。
(4)メチレンブルー三水和物2.5mg/g-HECゲルが得られる。
【0068】
2.検出法(メチレンブルー還元法)
(1)コンディショナー溶液の調整:塩化鉄(III)六水和物0.2415g、EDTA・2Na二水和物0.138g、トリエタノールアミン0.25mL、蒸留水で全量50mLとする。
(2)0.65mol/LのNa2S水溶液の調整:硫化ナトリウム0.504g、亜硫酸ナトリウム0.480g、0.4mol/Lを水酸化ナトリウム10mLで溶解させる。
(3)セレン水溶液(検液)6.5mLにホルムアルデヒド0.5mL、コンディショナー溶液2.5mL、Na2S水溶液0.25mLを添加する。
(4)30秒静置させて被験液とする。
(5)検出材に被験液を添加する。
(6)退色までの時間を測定する。
(7)退色時間を予め準備した回帰式にあてはめて濃度を判断する。
なお、動画撮影はメチレンブルー添加前から行う。そして、必要な範囲の情報を取り出して利用することができる。
以上の操作により、被験液のセレン濃度を特定することができる。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]検出材の作製
メチレンブルーをHECゲルに担持させた検出材を以下のように作製した。
【0071】
[HECゲルの製造]
HECゲルの原料として、以下のものを利用した。
・ヒドロキシエチルセルロース:富士フィルム和光純薬製「ヒドロキシエチルセルロース」CodeNo.08-0193
・エチレングリコールジグリシジルエーテル(EDGE):東京化成工業製「EthyleneGlycolDiglycidylEther(mixture)」製品コードE0342
【0072】
以下の製造フローでHECゲルを製造した。
1)水酸化ナトリウム溶液1000mLにヒドロキシエチルセルロース200gを溶解させる。
2)EDGE27.7mLを添加し、20分以上撹拌する。
3)60℃に設定した恒温器中で静置して架橋反応させる。
4)試料をヘラで粗砕したあと、粉砕機で細かく砕く。
5)水酸化ナトリウムを抜くために、中性になるまで洗浄する。
6)試料をバットに移し、乾燥させる。
7)乾燥試料を粉砕したものをHECゲルとした。
【0073】
[メチレンブルー溶液の担持]
メチレンブルー三水和物を蒸留水で溶解し、0.5g/Lメチレンブルー溶液とする。この溶液25mLを高吸水性樹脂(HECゲル)に加え、よく混合して吸液させて、これをセレンの検出材としてアルミホイルで遮光し、冷蔵庫内で保存したものを基に、以下の検出材(1)、(2)を得た。
「検出材(1)(湿潤状態)」メチレンブルー溶液を吸液させて保存した湿潤状態のままのものを用いた。
「検出材(2)(乾燥状態)」メチレンブルー溶液を吸液させて乾燥させたものを用いた。
【0074】
[実施例2]検出材とセレンを含有する被験液による被験材の退色観察
HECゲルにメチレンブルーを担持させたセレンの検出材と、セレンを含有する被験液とを混合した時の、退色性を評価した。操作性や、退色時間の視認性等を考慮して、実施例1で作製したHECゲルにメチレンブルーを担持させた検出材を用いた。
【0075】
[コンディショナー溶液]
次に試薬の調製として、コンディショナー溶液、0.65mol/LのNa2S溶液、0~10ppmセレン標準液を調製した。コンディショナー溶液は塩化鉄(III)六水和物0.0241g、EDTA・2Na二水和物0.138g、トリエタノールアミン0.25mLを蒸留水で溶解し、50mLメスフラスコで定容した。
【0076】
[標準液]
0.65mol/LのNa2S溶液は、硫化ナトリウム0.504g、亜硫酸ナトリウム0.480gを0.4mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液10mLに溶解して調製した。0~10ppmセレン標準液は、亜セレン酸ナトリウム0.0233gを蒸留水で溶解し、100mLメスフラスコで定容し、10ppmセレン標準液とした。
【0077】
[希釈]
また、10ppmセレン標準液を適宜蒸留水で希釈することにより、0ppm、0.001ppm、0.01ppm、0.1ppm、1.0ppmセレン標準液を調製した。
【0078】
[試料溶液]
0~10ppmに調製したセレン標準液2.6mLにホルムアルデヒド0.4mL、コンディショナー溶液1.0mL、0.65mol/LのNa2S溶液0.2mLを順に加え、これを試料溶液とした。
【0079】
[実施例2-1]
検出材(1)(湿潤状態)をセレン検出材として用いて、セレンを含有する試料溶液と接触したときの退色性を評価した。
【0080】
[時間の測定]
0.65mol/LのNa2S溶液を加えてから30秒後に試料溶液約2.6mLを、「セレン検出材2g(検出材(1))」に加え、セレン検出材が退色する様子をスマートフォンのカメラで撮影した。撮影した映像から、試料溶液を検出材に加えた時点を始めとし、被験材の色が退色するまでの時間を測定した。なお、遠沈管を用いて評価したものであり、混合後の遠沈管内での被験材におけるメチレンブルー濃度は、約0.142mg/mLである。
【0081】
[結果、考察]
セレン濃度とメチレンブルーの退色の様子を図3に示す。図3や、後述する図5図7において、横軸はセレン標準液のセレン濃度(ppm)であり、縦軸は時間(秒・s)であり、対応する部分に撮像した像を並べている。接触直後の被験材は、濃い青である。退色時間はセレン検出材の約9割が白っぽく退色した時間を退色時間とした。図3より、セレン濃度が高くなると退色時間が短くなっていることが分かった。セレン検出材の退色はやや斑に起こることや、徐々に色が退色することも確認された。なお、図3では、退色が確認された時点で撮像を完了しているため、退色後の状態を撮像しなかった部分は欠測としている。
【0082】
また、セレン濃度と図3の退色時間の関係についてセレン濃度を対数軸として近似直線を作成した結果、図4のような近似直線を得た。図4の近似直線のR2値は0.9942であり、直線性が得られた。これらの結果より、高吸水性樹脂にメチレンブルーを担持した場合でもセレンの定量は可能であるが、退色時間の測定に数秒から十数秒の誤差が生じる可能性がある。
【0083】
[実施例2-2]
検出材(2)(乾燥状態)を、セレン乾燥検出材として用いて、セレンを含有する試料溶液と接触したときの退色性を評価した。
【0084】
[時間の測定]
0.65mol/LのNa2S溶液を加えてから30秒後に試料溶液を、「セレン乾燥検出材0.2g(検出材(2))」に加えた被験材が退色する様子をスマートフォンのカメラで撮影した。撮影した映像から、試料溶液を検出材に加えた時点を始めとし、被験材の色が退色するまでの時間を測定した。なお、遠沈管を用いて評価したものであり、混合後の遠沈管内での被験材におけるメチレンブルー濃度は、約0.119mg/mLである。
【0085】
次にセレン濃度と、被験材の退色の様子を図5に示す。図5より、検出材(2)を用いると、退色の状態にムラがなく、退色時間を測定しやすくなった。一方、退色時間が全体的に短くなり、特にセレン濃度が1.0ppm以上であった場合、高吸水性樹脂が溶液を完全に吸液する前に退色が終了する可能性があり、退色時間を把握しにくい部分があった。しかし、セレン濃度1.0ppmは環境基準値である0.01ppmを大幅に超えるため、適宜希釈して測定すればよいため定量に大きな影響は無いと考える。
【0086】
また、セレン濃度と図5の退色時間の関係を、セレン濃度(Se Conc)を対数軸として近似直線を作成した結果、図6左側の(a)のような近似直線を得た。図6(a)の近似直線のR2値は0.9853であり、直線性が得られた。また、先述した通り、セレン濃度が1.0ppm以上の場合、正確な退色時間を測定しにくいため、セレン濃度の範囲を0.001~0.1ppmとし、退色時間との関係を確認したところ、図6右側の(b)のような近似直線を得た。図6(b)の近似直線のR2値は0.9884であり、直線性を得た。これらの結果より、検出材(1)と検出材(2)を比較すると乾燥状態の検出材(2)の方が正確な退色時間を測定しやすいと言える。
【0087】
[実施例3]・セレン汚染土壌中のセレン濃度の定量
亜セレン酸ナトリウム0.0549gを蒸留水で溶解し、25mLメスフラスコで定容し、1000ppmセレン標準液とした。
これを適宜真砂土に加え、それぞれ、50mg/kg、100mg/kg、200mg/kgのセレン模擬汚染土壌を作製した。
これらの土壌を環境省告示46号試験に則って溶出を行い、得られた溶出液を用いて、同様の実験を行った。本実験ではセレン乾燥検出材のみを使用し、退色時間を測定した。
【0088】
・セレン汚染土壌中のセレン検出
セレン土壌溶出液を添加したセレン乾燥検出材の退色の様子を図7に示す。図7より、セレン含有量が200mg/kgの汚染土壌溶出液を添加した検出材(2)は、高吸水性樹脂が溶液を完全に吸液する前に退色が終了するため、正確な退色時間を測定しにくかった。
【0089】
また、セレン含有量と図7の退色時間の関係についてセレン含有量を対数軸として近似直線を作成した結果、図8のような近似直線を得た。図8より得られた近似直線のR2値は0.9987であるため、水溶液中のセレン定量と同様に退色時間とセレン含有量に相関性が見られた。これらの結果より、土壌中のセレン検出において、水溶液中のセレン定量と同様の検出方法で定量が可能であり、共存イオンによる影響は見られないと言える。
【0090】
メチレンブルーの還元反応を利用したセレンの簡易定量において、メチレンブルーを高吸水性樹脂に担持し、セレン標準液を添加することでメチレンブルーの退色時間によるセレンの定量が可能となり、環境基準値である0.01ppmの検出が可能であった。また、セレン汚染土壌中のセレン検出においても、水溶液中のセレン定量と同様に検出、定量が可能であることが示唆された。
【0091】
以上のように、溶液のセレン(Se)の定量において、メチレンブルーを担持したHECゲルを用いて、検出材とした。検出材を2.0g測り取り、Se溶液を添加した。セレン濃度が1.0ppmより濃度が高くなると、退色時間が非常に速い。しかし、溶出量基準値である0.01ppmより濃度が高い場合、退色時間が30秒未満になるため、退色時間の基準を30秒とすることでSe濃度が基準値であるか否かを判断しやすくなると考える。検出材の退色時間とSe濃度の関係は、決定係数が1に近い近似直線が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、セレン濃度の検出に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0093】
10 検出システム
2 試験器具
20 色見本
21 被験材収容部
3 撮像手段
4 制御手段
41 計時手段
42 判定手段
5 記憶手段
6 表示手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8