(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120226
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】推定方法、制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
G03F7/20 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026879
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】中西 健二
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197AA22
2H197AA28
2H197CA07
2H197DA02
2H197DA03
2H197DA06
2H197DA09
2H197DB05
2H197HA02
2H197HA03
2H197HA04
(57)【要約】
【課題】キャリブレーションよりも短時間でレーザ照射位置のずれを低減し、キャリブレーションの間隔を伸ばす技術を提供する。
【解決手段】基材に対してレーザを照射する描画装置において、描画装置の温度分布を示す温度分布データを取得する工程と、温度分布データを学習済モデルに入力して学習済モデルから出力される露光結果を推定した推定露光結果を取得する推定工程と、推定露光結果からレーザ照射位置のひずみ量を算出するひずみ量算出工程とを行う。これにより、短時間でレーザの照射位置のひずみ量を推定できる。したがって、短時間でレーザの位置合わせを行うことができる。その結果、キャリブレーションの間隔を伸ばすことができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対してレーザを照射する描画装置において、レーザ照射位置のひずみ量を推定する推定方法であって、
a)前記描画装置の温度分布を示す温度分布データを取得する工程と、
b)前記温度分布データを学習済モデルに入力して、前記学習済モデルから出力される露光結果を推定した推定露光結果を取得する推定工程と、
c)前記推定露光結果から、レーザ照射位置のひずみ量を算出するひずみ量算出工程と、
を有する推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の推定方法であって、
d)前記工程a),b),c)の前に、前記温度分布データを入力変数とし、前記温度分布データに対応する露光結果データを教師データとして、機械学習により、前記露光結果予測を推定可能な前記学習済モデルを生成する学習工程
をさらに含む、推定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の推定方法であって、
前記工程a)において、サーモグラフィーカメラを用いて、前記温度分布データとして熱分布画像を撮影する、推定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の推定方法であって、
前記工程a)において、前記描画装置の複数箇所に設けられた複数の温度センサを用いて、前記温度分布データとして、前記複数の温度センサの計測値を取得する、推定方法。
【請求項5】
基材に対してレーザを照射する描画装置の制御方法であって、
P)請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の推定方法により、レーザ照射位置のひずみ量を推定する工程と、
Q)露光パターンを取得する工程と、
R)推定された前記ひずみ量に基づいて、前記露光パターンにおけるレーザ照射位置を補正した補正露光パターンを生成する工程と、
S)前記補正露光パターンに基づいて、前記基材に対してレーザを照射する工程と、
を有する、描画装置の制御方法。
【請求項6】
基材に対してレーザを照射する描画装置の制御装置であって、
前記描画装置の温度分布を示す温度分布データを学習済モデルに入力して、前記学習済モデルから出力される露光結果を推定した推定露光結果を取得する推定部と、
前記推定露光結果から、レーザ照射位置のひずみ量を算出するひずみ量算出部と、
算出された前記ひずみ量に基づいて、露光パターンにおけるレーザ照射位置を補正した補正露光パターンを生成する露光パターン補正部と、
前記補正露光パターンに基づいて、前記基材に対してレーザを照射する描画実行部と、
を有する、制御装置。
【請求項7】
基材に対してレーザを照射する描画装置において、レーザ照射位置のひずみ量を推定する推定方法であって、
a)前記描画装置の温度分布を示す温度分布データを取得する工程と、
b)前記温度分布データを学習済モデルに入力して、前記学習済モデルから出力されるレーザ照射位置のひずみ量を取得する推定工程と、
を有する推定方法。
【請求項8】
基材に対してレーザを照射する描画装置の制御装置であって、
前記描画装置の温度分布を示す温度分布データを学習済モデルに入力して、前記学習済モデルから出力されるレーザ照射位置のひずみ量を取得する推定部と、
前記ひずみ量に基づいて、露光パターンにおけるレーザ照射位置を補正した補正露光パターンを生成する露光パターン補正部と、
前記補正露光パターンに基づいて、前記基材に対してレーザを照射する描画実行部と、
を有する、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ描画装置においてレーザ照射位置のひずみ量を推定する推定方法、レーザ描画装置の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レジストを塗布したガラス、プリント基板、ウェハ等の基材に対してレーザを照射し、パターン露光を行う描画装置が知られている。この種の描画装置では、先に形成された層や、基材上の穴などと正確に位置が合った露光をすることが求められる。しかしながら、装置各部の温度分布の変化によってレーザのドリフトが生じ、位置合わせ精度が悪化することがある。
【0003】
このようなレーザ照射位置のずれを補正するために、通常、一定期間ごとにキャリブレーションを行う。キャリブレーションでは、例えば、カメラを用いてレーザの照射位置を検出し、レーザの照射位置のずれを検出し、ずれ量に基づいてレーザ照射位置を補正する。レーザ照射位置のずれの補正方法については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザの位置合わせ精度を高水準に保つためには、頻繁にキャリブレーションを行うことが好ましい。しかしながら、キャリブレーションに時間を要すると、基材の製造タクトが悪化するという問題が生じる。このため、レーザ照射位置のずれを低減し、キャリブレーションの間隔を伸ばす技術が求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、キャリブレーションよりも短時間でレーザ照射位置のずれを低減し、キャリブレーションの間隔を伸ばす技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、基材に対してレーザを照射する描画装置において、レーザ照射位置のひずみ量を推定する推定方法であって、a)前記描画装置の温度分布を示す温度分布データを取得する工程と、b)前記温度分布データを学習済モデルに入力して、前記学習済モデルから出力される露光結果を推定した推定露光結果を取得する推定工程と、c)前記推定露光結果から、レーザ照射位置のひずみ量を算出するひずみ量算出工程と、を有する。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の推定方法であって、d)前記工程a),b),c)の前に、前記温度分布データを入力変数とし、前記温度分布データに対応する露光結果データを教師データとして、機械学習により、前記露光結果予測を推定可能な前記学習済モデルを生成する学習工程をさらに含む。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明の推定方法であって、前記工程a)において、サーモグラフィーカメラを用いて、前記温度分布データとして熱分布画像を撮影する。
【0010】
本願の第4発明は、第1発明の推定方法であって、前記工程a)において、前記描画装置の複数箇所に設けられた複数の温度センサを用いて、前記温度分布データとして、前記複数の温度センサの計測値を取得する。
【0011】
本願の第5発明は、基材に対してレーザを照射する描画装置の制御方法であって、P)第1発明ないし第4発明のいずれか一発明の推定方法により、レーザ照射位置のひずみ量を推定する工程と、Q)露光パターンを取得する工程と、R)推定された前記ひずみ量に基づいて、前記露光パターンにおけるレーザ照射位置を補正した補正露光パターンを生成する工程と、S)前記補正露光パターンに基づいて、前記基材に対してレーザを照射する工程と、を有する。
【0012】
本願の第6発明は、基材に対してレーザを照射する描画装置の制御装置であって、前記描画装置の温度分布を示す温度分布データを学習済モデルに入力して、前記学習済モデルから出力される露光結果を推定した推定露光結果を取得する推定部と、前記推定露光結果から、レーザ照射位置のひずみ量を算出するひずみ量算出部と、算出された前記ひずみ量に基づいて、露光パターンにおけるレーザ照射位置を補正した補正露光パターンを生成する露光パターン補正部と、前記補正露光パターンに基づいて、前記基材に対してレーザを照射する描画実行部と、を有する。
【0013】
本願の第7発明は、基材に対してレーザを照射する描画装置において、レーザ照射位置のひずみ量を推定する推定方法であって、a)前記描画装置の温度分布を示す温度分布データを取得する工程と、b)前記温度分布データを学習済モデルに入力して、前記学習済モデルから出力されるレーザ照射位置のひずみ量を取得する推定工程と、を有する。
【0014】
本願の第8発明は、基材に対してレーザを照射する描画装置の制御装置であって、前記描画装置の温度分布を示す温度分布データを学習済モデルに入力して、前記学習済モデルから出力されるレーザ照射位置のひずみ量を取得する推定部と、前記ひずみ量に基づいて、露光パターンにおけるレーザ照射位置を補正した補正露光パターンを生成する露光パターン補正部と、前記補正露光パターンに基づいて、前記基材に対してレーザを照射する描画実行部と、を有する、制御装置。
【発明の効果】
【0015】
本願の第1発明から第8発明によれば、学習済モデルを用いて、短時間でレーザの照射位置のひずみ量を推定できる。そして、このひずみ量を用いて、レーザの位置合わせを行うことにより、キャリブレーションの間隔を伸ばすことができる。
【0016】
特に、本願の第5発明および第6発明によれば、短時間でレーザの位置合わせ精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】制御部と描画装置内の各部との電気的接続を示したブロック図である。
【
図3】ひずみ量推定部および描画制御部の制御ブロック図である。
【
図4】学習処理の流れを示したフローチャートである。
【
図5】描画処理の流れを示したフローチャートである。
【
図6】一変形例に係るひずみ量推定部および描画制御部の制御ブロック図である。
【
図7】一変形例に係る学習用露光パターンと学習用露光結果の例を示す図である。
【
図8】他の変形例に係る描画処理の流れを示したフローチャートである。
【
図9】他の変形例に係るひずみ量推定部および描画制御部の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
<1.描画装置の構成>
以下では、本発明の一実施形態に係る描画装置1について、
図1および
図2を参照しつつ説明する。
図1は、描画装置1の斜視図である。
図2は、制御部10と、描画装置内の各部との電気的接続を示したブロック図である。
【0020】
この描画装置1は、空間変調された光を照射して、基材の上面に露光パターンを描画する装置である。本実施形態の描画装置1における描画対象の基材は、感光材料が塗布された半導体基板やガラス基板等の基板Wである。
図1および
図2に示すように、描画装置1は、搬送部20、フレーム30、描画処理部40、カメラ50、および制御部10を備える。描画装置1のうち、制御部10を除く搬送部20、フレーム30、描画処理部40およびカメラ50は、チャンバ(図示省略)内に収容されている。
【0021】
搬送部20は、基台21の上面において、平板状のステージ22を、略一定の姿勢で水平方向に搬送する装置である。搬送部20は、主走査機構23と、副走査機構24と、回転機構25(
図2参照)とを有する。主走査機構23は、ステージ22を水平方向の一方向である主走査方向に搬送するための機構である。副走査機構24は、ステージ22を水平方向のうち、主走査方向と直交する副走査方向に搬送するための機構である。基板Wは、ステージ22の上面に水平姿勢で保持され、ステージ22とともに主走査方向および副走査方向に移動する。回転機構25は、基台21に対するステージ22の鉛直軸周りの角度を調整することができる。
【0022】
フレーム30は、基台21の上方において、描画処理部40を保持するための構造である。フレーム30は、一対の支柱部31と架橋部32とを有する。一対の支柱部31は、副走査方向に間隔をあけて立設されている。各支柱部31は、基台21の上面から上方へ向けて延びる。架橋部32は、2本の支柱部31の上端部の間において、副走査方向に延びる。基板Wを保持したステージ22は、一対の支柱部31の間、かつ、架橋部32の下方を通過する。
【0023】
描画処理部40は、2つの光学ヘッド41を有する。2つの光学ヘッド41は、副走査方向に間隔をあけて、架橋部32に固定される。また、描画処理部40は、図示しない照明光学系およびレーザ発振器と、レーザ駆動部42(
図2参照)を有する。照明光学系、レーザ発振器、およびレーザ駆動部42は、例えば、架橋部32の内部空間に収容される。レーザ駆動部42は、レーザ発振器と電気的に接続されている。レーザ駆動部42を動作させると、レーザ発振器からパルス光が出射される。そして、レーザ発振器から出射されたパルス光が、照明光学系を介して光学ヘッド41へ導入される。
【0024】
光学ヘッド41の内部には、空間変調器を含む光学系が設けられている。光学ヘッド41へ導入されたパルス光は、空間変調器により所定のパターンに変調されて、基板Wの上面に照射される。これにより、基板Wの上面に塗布されたレジスト等の感光材料が露光される。
【0025】
カメラ50は、描画装置1の温度分布を画像として取得することができるサーモグラフィーカメラである。カメラ50は、温度分布データHmとして、熱分布画像を撮影する。本実施形態では、カメラ50は、1つの描画装置1に対して1台であるが、1つの描画装置1に対して2台以上のカメラ50が備えられていてもよい。
【0026】
カメラ50の撮影範囲(温度分布計測範囲)は、描画装置1の全体を含むことが好ましい。なお、カメラ50の撮影範囲は、少なくとも、基板Wと、基板Wが載置されるステージ22と、発熱箇所であるレーザ発振器およびレーザ駆動部42とを含むことが好ましい。
【0027】
制御部10は、描画装置1の各部を動作制御するための手段である。制御部10は、描画装置1の制御装置としての役割を果たす。
図1中に概念的に示すように、制御部10は、CPU等のプロセッサ101、RAM等のメモリ102、およびハードディスクドライブ等の記憶部103を有するコンピュータにより構成されている。記憶部103には、描画装置1を動作制御するためのコンピュータプログラムPが記憶されている。
【0028】
また、
図2に示すように、制御部10は、搬送部20の主走査機構23、副走査機構24おおよび回転機構25と、描画処理部40の光学ヘッド41およびレーザ駆動部42と、カメラ50と、電気的に接続されている。制御部10は、記憶部103に記憶されたコンピュータプログラムPやデータDをメモリ102に読み出し、当該コンピュータプログラムPおよびデータDに基づいて、プロセッサ101が演算処理を行うことにより、描画装置1内の上記各部を動作制御する。これにより、描画装置1における描画処理が進行する。
【0029】
制御部10は、搬送制御部91、ひずみ量推定部92、および描画制御部93を有する。ひずみ量推定部92、搬送制御部91、および描画制御部93の各機能は、制御部10を構成するコンピュータのプロセッサ101が、コンピュータプログラムPに従って動作することにより、実現される。
【0030】
搬送制御部91は、搬送部20の各部を制御する。搬送制御部91は、描画処理中、基板Wを予め決められた通りに搬送する。
【0031】
図3は、ひずみ量推定部92および描画制御部93の制御ブロック図である。
図3に示すように、ひずみ量推定部92は、カメラ50から入力される温度分布データHmに基づいて、レーザ照射位置のひずみ量を推定する。具体的には、ひずみ量推定部92は、学習部81、推定部82、および、ひずみ量算出部83を有する。
【0032】
学習部81は、推定部82においてひずみ量の推定に用いられる機械学習モデルの学習を行い、学習済モデルMを作成する。学習部81における機械学習モデルの学習工程を行うにあたり、予め、カメラ50の取得した学習用温度分布データHtと、学習用露光パターンPtと、当該学習用温度分布データHt取得直後に学習用露光パターンPtを描画装置1によって描画した基板Wを撮影した学習用露光結果Rtとを準備する。なお、学習用露光結果Rtの撮影は、描画装置1外の撮像装置を用いて撮影したものである。
【0033】
学習部81は、学習用温度分布データHtおよび学習用露光パターンPtを入力変数とし、当該学習用温度分布データHtに対応する学習用露光結果Rtを教師データとして、機械学習により学習済モデルMを生成する。この学習済モデルMは、カメラ50から入力される温度分布データHmと露光パターンPiとを入力すると、その温度分布における露光パターンPiの露光結果を推定可能であり、推定露光結果D1を出力する。
【0034】
推定部82は、学習部81により生成された学習済モデルMを有する。推定部82は、カメラ50から入力される温度分布データHmを学習済モデルMに入力し、学習済モデルMから出力された推定露光結果D1をひずみ量算出部83へと引き渡す。
【0035】
ひずみ量算出部83は、露光パターンPiと、推定露光結果D1とから、レーザ照射位置のひずみ量D2を算出する。ひずみ量D2は、露光パターンPiと比較して、推定露光結果D1の各部においてどの方向にどれだけひずみが生じているかを算出したものである。例えば、ひずみ量D2は、露光パターンPiの所定の基準座標に対応する箇所のそれぞれについて、推定露光結果D1における座標と露光パターンPiにおける座標との差をベクトル量で算出したベクトルマップとして算出される。ひずみ量算出部83は、算出したひずみ量D2を描画制御部93へと引き渡す。
【0036】
描画制御部93は、露光パターン補正部71と、描画実行部72とを有する。
【0037】
露光パターン補正部71は、ひずみ量推定部92のひずみ量算出部83から引き渡されたひずみ量D2に基づいて、露光パターンPiを補正し、補正露光パターンPoを生成する。露光パターン補正部71は、例えば、露光パターンPiを、座標毎に、ひずみ量D2をキャンセルする方向に変形させて補正露光パターンPoを生成する。そして、露光パターン補正部71は、補正露光パターンPoを描画実行部72へと引き渡す。
【0038】
描画実行部72は、補正露光パターンPoに従って、描画処理部40の動作制御を行って、基板Wに対してレーザ照射を実施し、基板Wの上面に露光パターンPiと同等のパターンを描画する。このとき、描画処理部40が補正露光パターンPo通りのパターンを基板Wの上面に描画しようとすると、描画処理部40から基板Wへ向かうレーザ光に算出したひずみ量D2と同程度のドリフトが生じることにより、結果的に、基板Wの上面には露光パターンPiに近似したパターンが描画される。
【0039】
描画装置1の稼働時には、搬送制御部91による搬送部20の動作と、描画実行部72による描画処理部40の動作とが連動して行われる。具体的には、光学ヘッド41による露光と、搬送部20による基板Wの搬送とが、繰り返し実行される。より具体的には、副走査機構24によりステージ22を副走査方向に搬送しつつ、光学ヘッド41からのパルス光の照射を行うことにより、副走査方向に延びる帯状の領域(スワス)に露光を行った後、主走査機構23によりステージ22を主走査方向に1スワス分だけ搬送する。描画装置1は、このような副走査方向の露光と、主走査方向のステージ22の搬送とを繰り返すことにより、基板Wの上面全体にパターンを描画する。
【0040】
<2.機械学習モデルの学習処理について>
続いて、上述した学習部81において実行される機械学習モデルの学習処理について、説明する。
図4は、学習処理の流れを示すフローチャートである。この学習処理は、製品となる基板Wへのパターン露光処理よりも前に、実行される。
【0041】
図4に示すように、学習処理を行うときには、制御部10は、まず、カメラ50に、基板Wをセットした描画装置1の温度分布を示す学習用温度分布データHtを取得させる(ステップS101)。そして、制御部10は、その後できるだけ迅速に(当該学習用温度分布データHtの取得からから描画装置1における温度分布が変化しないうちに)、学習用露光パターンPtを基板Wの上面に描画する(ステップS102)。その後、ステップS102で描画を行った基板Wの上面を撮影し、学習用露光結果Rtを取得する(ステップS103)。
【0042】
学習処理の始めにおいて、すなわち、続いて行われる機械学習モデルの学習工程(ステップS104~S105)を初めて行う前に、ステップS101~S103を複数回行い、学習用温度分布データHt、学習用露光パターンPt、および学習用露光結果Rtを含む学習用データセットを複数組取得しておいてもよい。その場合、学習用露光パターンPtが同じ学習用データセットが複数組があってもよい。なお、複数種類の学習用露光パターンPtについて、それぞれの学習用露光パターンPtに対して複数組の学習用データセットがあってもよい。
【0043】
続いて、学習部81は、ステップS101~S103で取得した学習用データセットを用いて機械学習モデルの機械学習を行う(ステップS104~S105)。具体的には、学習部81は、機械学習モデルに、学習用温度分布データHtおよび学習用露光パターンPtを入力変数とし、学習用露光結果Rtを教師データとして入力する(ステップS104)。その後、学習部81は、教師あり機械学習プログラムにより機械学習を行い、機械学習モデルのパラメータ調整を行う(ステップS105)。
【0044】
その後、学習部81は、再度パラメータ調整を行うか否かを判断する(ステップS106)。ステップS106における判断条件は、例えば、同じ学習用データセットについてパラメータ調整工程S105を所定の回数繰り返したか否かとする。
【0045】
そして、パラメータ調整工程S105を所定の回数繰り返していないと判断した場合(ステップS106:Yes)、学習部81は、同じ学習用データセットについてパラメータの再調整が必要であると判断し、ステップS105を再度行う。
【0046】
一方、同じ学習用データセットについてパラメータ調整工程S105を所定の回数繰り返したと判断した場合、学習部81は、続いて、所定の終了条件を満たすか否かを判断する(ステップS107)。終了条件は、例えば、推定露光結果と教師データとの差が、予め設定された閾値よりも小さくなること、とすればよい。
【0047】
所定の終了条件を満たしていないと判断した場合(ステップS107:No)、制御部10は、ステップS101へ戻り、新たな学習用データセットを取得し(ステップS101~S103)、当該学習用データセットを用いて機械学習を行う(ステップS104~S106)。このとき、予め複数の学習用データセットを取得していた場合には、ステップS101~S103を省略することができる。
【0048】
また、所定の終了条件を満たしたと判断した場合(ステップS107:Yes)、制御部10は、機械学習モデルの学習処理を終了する。これにより、入力された温度分布データと露光パターンに基づいて、その温度分布において露光パターンを描画したときの露光結果を精度良く推定できる、学習済モデルMが生成される。学習部81は、生成された学習済モデルMを、推定部82へ提供する。
【0049】
<3.描画処理について>
次に、本発明の一実施形態に係る描画装置1の描画処理について、
図5を参照しつつ説明する。
図5は、描画装置1の描画処理の流れを示したフローチャートである。
【0050】
描画装置1では、描画処理を繰り返すうちに、装置各部において、温度分布の変化を初めとして種々の条件が変化することにより、レーザ照射位置にずれが生じ、位置合わせ精度が悪化することがある。このため、この描画装置1では、キャリブレーションよりも短時間で実施可能な学習済モデルMを用いたレーザ照射位置の補正を行うことで、定期的なキャリブレーションの頻度を低減させることができる。その結果、各基板Wに対する描画処理の平均的なタクトが向上する。
【0051】
図5に示す描画処理の前には、予め、上述の学習処理が行われ、学習済モデルMが生成されている。描画処理では、まず、カメラ50が温度分布データHmを取得する(ステップS201)。そして、カメラ50は、温度分布データHmを、ひずみ量推定部92の推定部82に引き渡す。
【0052】
一方、推定部82には、基板W上に描画する露光パターンPiが入力される。そして、推定部82は、温度分布データHmと露光パターンPiとを学習済モデルMへ入力し、推定露光結果D1を出力させる(ステップS202)。推定部82は、学習済モデルMの出力した推定露光結果D1をひずみ量算出部83に引き渡す。
【0053】
ひずみ量算出部83は、推定露光結果D1と露光パターンPiとを比較して、レーザ照射位置のひずみ量D2を算出する(ステップS203)。ひずみ量D2は、露光パターンPiと比較して、推定露光結果D1の各部においてどの方向にどれだけひずみが生じているかを算出したものである。ひずみ量算出部83は、例えば、露光パターンPiの所定の基準座標に対応する箇所のそれぞれについて、推定露光結果D1における座標と露光パターンPiにおける座標との差をベクトル量で算出したベクトルマップとしてひずみ量D2を算出する。ひずみ量算出部83は、算出したひずみ量D2を描画制御部93へと引き渡す。
【0054】
続いて、描画制御部93の露光パターン補正部71は、ひずみ量D2に基づいて、露光パターンPiを補正し、補正露光パターンPoを生成する(ステップS204)。露光パターン補正部71は、例えば、露光パターンPiを、座標毎に、ひずみ量D2をキャンセルする方向に変形させて補正露光パターンPoを生成する。そして、露光パターン補正部71は、補正露光パターンPoを描画実行部72へと引き渡す。
【0055】
そして、描画実行部72は、補正露光パターンPoに従って、描画処理部40の動作制御を行って、基板Wに対してレーザ照射を実施し、基板Wの上面に露光パターンPiと同等のパターンを描画する(ステップS205)。
【0056】
このように、本実施形態の描画装置1は、温度分布データHmに基づいてレーザ照射位置のひずみ量を推定し、露光パターンPiを補正する。これにより、補正を行わない場合と比べて所望の露光パターンPiに近似したパターンを基板Wに描画することができる。
【0057】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0058】
<4-1.変形例1>
図6は、一変形例に係る描画装置における、ひずみ量推定部92および描画制御部93の制御ブロック図である。
図7は、
図6の例の学習用露光パターンPtと、学習用露光結果Rtの例を示す図である。
図6の変形例では、学習時だけでなく、製品製造時の描画処理においても、ひずみ量推定部92におけるレーザ照射位置のひずみ量D2の推定に、露光パターンPiでなく、学習用露光パターンPtを使用する。
【0059】
このとき使用される学習用露光パターンPtは、
図7(a)に示されるように、基板W上に規則的にレーザ照射を行うものである。
図7(b)および
図7(c)はそれぞれ、
図7(a)の学習用露光パターンPtの露光結果である学習用露光結果Rtの例である。このように、規則的な学習用露光パターンPtであれば、ひずみ量D2の算出を行いやすい。
【0060】
製品製造時の描画処理において、推定部82は、カメラ50から入力される温度分布データHmと、学習用露光パターンPtとを学習済モデルMに入力し、推定露光結果D1を得る。そして、ひずみ量算出部83は、学習用露光パターンPtと、推定露光結果D1とから、レーザ照射位置のひずみ量D2を算出する。ひずみ量算出部83は、算出したひずみ量D2を描画制御部93へと引き渡す。
【0061】
図6の例のように、ひずみ量D2の推定を行うために、必ずしも今から露光を行う露光パターンPiを使用しなくてもよい。
【0062】
また、上記の実施形態および変形例では、学習済モデルMの入力変数が温度分布データおよび露光パターンであり、出力が推定露光結果であったが、本発明はこれに限られない。学習済モデルMの入力変数は温度分布データのみであり、出力が推定ひずみ量であってもよい。その場合、学習済モデルMの学習処理において、学習済モデルMの入力変数を温度分布データとし、教師データを、学習用露光パターンPtと学習用露光結果Rtとから予め算出した学習用ひずみ量とすればよい。
【0063】
<4-2.変形例2>
図8は、他の変形例に係る描画処理の流れを示すフローチャートである。
図8の例では、温度分布データHmに基づいてひずみ量推定部92推定したひずみ量D2に基づいて、キャリブレーションのタイミングを決定する。
【0064】
図8の例の描画処理では、制御部10は、まず、上記の実施形態の描画処理と同様に、温度分布データの取得(ステップS201)、推定露光結果D1の出力(ステップS202)、およびひずみ量D2の算出(ステップS203)を行う。
【0065】
そして、その後、制御部10は、ひずみ量D2に基づいて、キャリブレーションが必要であるか否かを判断する(ステップS211)。ステップS211における判断条件は、例えば、基板W全体におけるひずみ量D2の合計値が所定の合計閾値よりも大きい場合や、基板W上の各部におけるひずみ量D2について、所定の部分閾値よりも大きいものがある場合に、キャリブレーションが必要であると判断する。
【0066】
キャリブレーションが必要でないと判断した場合(ステップS211:No)、描画処理を続行し、補正露光パターンを生成し(ステップS204)、基板Wに対するレーザ照射を行って(ステップS205)、描画処理を完了する。
【0067】
一方、キャリブレーションが必要であると判断した場合(ステップS211:Yes)、制御部10は、描画処理を中断し、キャリブレーションを行う(ステップS212)。キャリブレーションを行うと、キャリブレーション前からレーザ照射位置が変更される。このため、キャリブレーション後に、再度学習処理を行う(ステップS213)。そして、その後、ステップS201へ戻り、通常の描画処理を再開する。
【0068】
図8の例のように、推定したひずみ量を、キャリブレーションを行うタイミングを決定するのに用いてもよい。なお、
図8の例では、ひずみ量D2が判断条件に合った場合に、描画処理を中断してキャリブレーションを行ったが、本発明はこれに限られない。ひずみ量D2が判断条件に合った場合に、実行中の描画処理の終了後に、キャリブレーションを行ってもよい。
【0069】
<4-3.変形例3>
図9は、他の変形例に係る描画装置における、ひずみ量推定部92aおよび描画制御部93の制御ブロック図である。
図9の変形例では、学習済モデルMaが、温度分布データHmと露光パターンPiとを入力すると、その温度分布における露光パターンPiの露光結果における推定ひずみ量D2’を直接出力する。このため、
図9の例では、ひずみ量推定部92aは、ひずみ量算出部を有していない。このようなひずみ量推定部92aは、学習部81aと、推定部82aとを有する。なお、
図9の例の描画制御部93は、上記の実施形態における描画制御部93と同等である。
【0070】
学習部81aは、推定部82aにおいてひずみ量の推定に用いられる機械学習モデルの学習を行い、学習済モデルMaを作成する。学習部81aにおける機械学習モデルの学習工程を行うにあたり、予め、カメラ50の取得した学習用温度分布データHtと、学習用露光パターンPtを準備する。また、当該学習用温度分布データHt取得直後に学習用露光パターンPtを描画装置1によって描画した基板Wにおける露光パターンの各位置におけるひずみ量を計測して、学習用露光結果Rt’とする。なお、学習用露光結果Rt’は、例えば、学習用露光パターンを描画した基板Wを、描画装置1外の撮像装置を用いて撮影し、その撮影画像から算出されてもよい。また、学習用露光結果Rt’は、例えば、学習用露光パターンを描画した基板Wにおいて露光パターンの各位置を、ユーザが直接計測して取得してもよい。
【0071】
学習部81aは、学習用温度分布データHtおよび学習用露光パターンPtを入力変数とし、当該学習用温度分布データHtに対応するひずみ量の計測結果である学習用露光結果Rt’を教師データとして、機械学習により学習済モデルMaを生成する。この学習済モデルMは、カメラ50から入力される温度分布データHmと露光パターンPiとを入力すると、その温度分布における露光パターンPiの露光結果におけるひずみ量を推定可能であり、推定ひずみ量D2’を出力する。
【0072】
推定部82aは、学習部81aにより生成された学習済モデルMaを有する。推定部82aは、カメラ50から入力される温度分布データHmを学習済モデルMに入力し、学習済モデルMから出力された推定ひずみ量D2’を描画制御部93の露光パターン補正部71へと引き渡す。
【0073】
このように、推定部82aの有する学習済みモデルMaの出力は、ひずみ量を直接推定したものであってもよい。これにより、上記の実施形態のひずみ量算出部83に相当する構成を省略することができる。
【0074】
<4-4.その他の変形例>
また、上記の実施形態では、温度分布データは、サーモグラフィーカメラを用いて撮影した熱分布画像であったが、本発明はこれに限られない。温度分布データは、描画装置の複数個所に設けられた複数の温度センサの計測値であってもよい。
【0075】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 描画装置
10 制御部
40 描画処理部
50 カメラ
71 露光パターン補正部
72 描画実行部
81,81a 学習部
82,82a 推定部
83 ひずみ量算出部
92,92a ひずみ量推定部
93 描画制御部
D1 推定露光結果
D2,D2’ ひずみ量
Hm 温度分布データ
Ht 学習用温度分布データ
M,Ma 学習済モデル
Pi 露光パターン
Po 補正露光パターン
Pt 学習用露光パターン
Rt,Rt’ 学習用露光結果
W 基板