(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120248
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】車載器、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 23/00 20060101AFI20240829BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240829BHJP
G01P 21/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G01C23/00 R
G08G1/00 D
G01P21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026916
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】河村 佳浩
(72)【発明者】
【氏名】酒井 一成
(72)【発明者】
【氏名】花房 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】水野 信也
(72)【発明者】
【氏名】大場 春佳
【テーマコード(参考)】
2F129
5H181
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129BB20
2F129BB26
2F129BB39
2F129BB55
2F129BB56
2F129CC07
5H181AA01
5H181BB12
5H181CC04
5H181FF04
5H181FF10
5H181FF27
5H181FF32
5H181LL06
(57)【要約】
【課題】加速度センサのゼロ点補正を理想的な環境下で実施できない場合でも、正確に、且つ、複雑な処理を要すること無く、坂道検出を実行する。
【解決手段】車載器は、加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出し坂道判定閾値との比較により坂道を判定する坂道検出機能を備える車載器であって、車両が走行する特定区間の勾配値を記憶する記憶部と、加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出する算出部と、算出部が特定区間を通過している車両の加速度に基づいて算出した勾配値と、記憶部に記憶された勾配値との差に応じて、坂道判定閾値を補正する閾値補正部とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出し坂道判定閾値との比較により坂道を判定する坂道検出機能を備える車載器であって、
車両が走行する特定区間の勾配値を記憶する記憶部と、
前記加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出する算出部と、
前記算出部が前記特定区間を通過している車両の加速度に基づいて算出した勾配値と、前記記憶部に記憶された勾配値との差に応じて、前記坂道判定閾値を補正する閾値補正部と
を備える車載器。
【請求項2】
前記閾値補正部は、前記算出部が前記特定区間を通過している車両の加速度に基づいて算出した勾配値と、前記記憶部に記憶された勾配値との差が閾値以上である場合に、前記坂道判定閾値を補正する請求項1に記載の車載器。
【請求項3】
前記記憶部が記憶する前記特定区間の勾配値は一定であり、
前記算出部は、前記特定区間を通過している車両の加速度に基づいて勾配値の平均値又は中央値を算出し、
前記閾値補正部は、前記算出部が算出した勾配値の平均値又は中央値と前記記憶部に記憶された勾配値との差に応じて、前記坂道判定閾値を補正する請求項1又は2に記載の車載器。
【請求項4】
加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出し坂道判定閾値との比較により坂道を判定する坂道検出機能を車載器に実行させるためのプログラムであって、
車両が走行する特定区間の勾配値を前記車載器が備える記憶部に記憶させる手順と、
前記加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出する手順と、
前記特定区間を通過している車両の加速度に基づいて算出された勾配値と、前記記憶部に記憶された勾配値との差に応じて、前記坂道判定閾値を補正する手順と
を前記車載器に実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載器、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
加速度センサを用いた道路勾配検出機能を備える車載器として、検出された道路勾配に基づいて坂道と判定した場合に、エンジン過回転数の警報の発生を抑制するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、加速度センサを用いた道路勾配検出機能を備える車載器として、加速度センサのゼロ点補正機能を備えるものが知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、加速度センサのゼロ点補正処理を行う地点の実勾配を水準器で測定し、ゼロ点補正の補正値と実勾配との関係を示したテーブルを用いて、実勾配に応じたゼロ点補正を行うことが記載されている。
【0003】
また、車載器に備えられた加速度センサの校正方法として、列車が坂道で停車している時に、当該位置の勾配と加速度との関係を示した情報を用いて、加速度センサの測定値を補正する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。また、車載器に備えられた加速度センサの校正方法として、車両が坂道で走行している時に、サーバから取得する勾配と、加速度センサの測定値から求められる勾配との一致性に応じて、加速度センサの測定値を補正する方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-190232号公報
【特許文献2】特開2022-190463号公報
【特許文献3】特開2017-147825号公報
【特許文献4】特開2021-99374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車載器では、加速度センサのゼロ点補正に誤差が生じると道路勾配の検出結果に基づく坂道の判定に偏りが生じる。例えば、上り坂は緩勾配でも坂道と判定されるのに対して、下り坂は緩勾配では坂道と判定されず急勾配でなければ坂道と判定されない等の事態が生じ、坂道判定の信頼性が低下する。そのため、加速度センサのゼロ点補正の精度が重要となる。
【0006】
加速度センサのゼロ点補正の精度を確保するためには、車両を可能な限りに勾配がゼロ、且つ、凹凸の無い地点に移動させてゼロ点補正を行う必要がある。しかしながら、平らに舗装された一般的な駐車場の場合、路面に水勾配が設けられているうえに路面に窪みや凹凸や経時的な荒れが存在する。そのため、特許文献2に記載されているように路面の勾配を水準器で測定した場合、路面の勾配の測定値は、勾配の車両1台分の範囲でも測定位置によって変動する。従って、現状では、車両を可能な限りに勾配がゼロ、且つ、凹凸の無い地点に移動させてゼロ点補正を行うためには、車両検査場等の専用環境で行う必要があり、効率が悪い。
【0007】
他方で、車載器に備えられた加速度センサは、坂道判定機能以外に衝突検知等の他機能でも使用される。そのため、坂道判定機能の信頼性の向上を目的として加速度センサの測定値が補正されたり、加速度センサのゼロ点補正が行われたりする場合には、上記他機能の判定の基準値にズレが生じる。ここで、機能毎に加速度センサの測定値の補正を行うことも考えられるが、処理が複雑化する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、加速度センサのゼロ点補正を理想的な環境下で実施できない場合でも、正確に、且つ、複雑な処理を要することなく、坂道検出を実行できる車載器、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車載器は、加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出し坂道判定閾値との比較により坂道を判定する坂道検出機能を備える車載器であって、車両が走行する特定区間の勾配値を記憶する記憶部と、前記加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出する算出部と、前記算出部が前記特定区間を通過している車両の加速度に基づいて算出した勾配値と、前記記憶部に記憶された勾配値との差に応じて、前記坂道判定閾値を補正する閾値補正部とを備える。
【0010】
本発明のプログラムは、加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出し坂道判定閾値との比較により坂道を判定する坂道検出機能を車載器に実行させるためのプログラムであって、車両が走行する特定区間の勾配値を前記車載器が備える記憶部に記憶させる手順と、前記加速度センサにより測定される車両の加速度に基づいて勾配値を算出する手順と、前記特定区間を通過している車両の加速度に基づいて算出された勾配値と、前記記憶部に記憶された勾配値との差に応じて、前記坂道判定閾値を補正する手順とを前記車載器に実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加速度センサのゼロ点補正を理想的な環境下で実施できない場合でも、正確に、且つ、複雑な処理を要することなく、坂道検出を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る車載器の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すCPUが実行する坂道検出機能の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図1に示す加速度センサを用いた勾配値θ(%)の算出方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、坂道判定閾値の補正方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用される。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る車載器10の構成を示すブロック図である。この図に示す車載器10は、デジタルタコグラフ、又はデジタルタコグラフの機能を併せ持つドライブレコーダー等の運行記録装置であり、運行管理の対象の車両に搭載される。この車載器10は、運行データ、車両の走行に関するイベント等を記録する機能(以下、記録機能)を備える。運行データとしては、出入庫時刻、走行距離、走行時間、走行速度等が挙げられる。また、イベントとしては、速度オーバー、急発進、急減速、下り坂のフットブレーキ41の多用、エンジン過回転数等が挙げられる。
【0015】
ここで、車両が上り坂を走行する際には、無謀運転に該当しない場合であっても、エンジン回転数が上昇する。また、車両が下り坂を走行する際に、ギアを落としエンジンブレーキを効かせてフットブレーキ41の多用を防止する適正運転を行った場合であっても、エンジン回転数が上昇する。そこで、本実施形態の車載器10は、加速度センサ1の測定値に基づいて坂道を検出する機能(以下、坂道検出機能)を備え、上り坂及び下り坂の検知時には、エンジン過回転数の記録を抑制する。これにより、本実施形態の車載器10は、エンジン過回転数についての評価を適正化する。
【0016】
また、車載器10の坂道検出機能は、加速度センサ1の測定値に基づいて道路の勾配値を算出し、算出した勾配値と坂道判定閾値とを比較し、算出した勾配値が坂道判定閾値を超える場合に坂道を検出する。そのため、加速度センサ1にゼロ点のズレ(以下、オフセット誤差)がある場合には、勾配値の算出結果に誤差が生じ、何ら対策を施さなければ、上り坂と下り坂との一方が検出され易く、上り坂と下り坂との他方が検出され難くなる(即ち、上り坂と下り坂との判定が偏る)事態が生じる。そこで、本実施形態の車載器10は、勾配値の算出結果の誤差に応じて坂道判定閾値を補正する自動校正機能を実行する。
【0017】
車載器10は、CPU(Central Processing Unit)11と、メモリ12と、各種センサ等から出力された信号が入力されるインターフェース(以下、I/F)13と、GPS(Global Positioning System)受信器14とを備える。また、車載器10は、カードインターフェース(以下、カードI/F)15と、通信部16と、リアルタイムクロック(以下、RTC)17とを備える。
【0018】
CPU11は、車載器10の各部の制御を司り、特に、上記の記録機能、坂道検出機能、及び自動校正機能等を実行する。CPU11は、算出部111と、閾値補正部112とを備える。算出部111は、加速度センサ1の測定値に基づいて道路の勾配値を算出する。また、閾値補正部112は、算出部111により算出された勾配値に応じて坂道判定閾値を補正する。なお、算出部111、及び閾値補正部112の処理の詳細については後述する。
【0019】
メモリ12は、CPU11が実行するプログラムを格納する不揮発性メモリである。CPU11が実行するプログラムとしては、上記の記録機能、坂道検出機能、及び自動校正機能を実行するためのプログラムに加え、イベント発生時に音声や映像等により警報する警報機能を実行するためのプログラム等が挙げられる。
【0020】
メモリ12は、上記の自動校正機能を実行する際に用いられる校正情報を格納する。ここで、詳細は後述するが、自動校正機能は、車両が特定区間を走行する際に実行される。この特定区間についての情報(以下、特定区間情報)が、校正情報に含まれる。特定区間情報としては、当該特定区間の始点のGPS位置、当該特定区間の終点のGPS位置、当該特定区間の勾配値が挙げられる。
【0021】
I/F13には、加速度センサ1、エンジン回転数センサ2、車速センサ3、ブレーキスイッチ4、ハンディテンキー(以下、H/T)5、車載カメラ6、スイッチユニット(以下、SWU)7、ナビゲーションシステム8等が接続されている。
【0022】
加速度センサ1は、車両進行方向の加速度を検知して加速度信号をI/F13に出力する。また、エンジン回転数センサ2は、車両のエンジン回転数を検知して回転数信号をI/F13に出力する。また、車速センサ3は、車両の速度を検知して車速信号をI/F13に出力する。また、ブレーキスイッチ4は、運転者のフットブレーキ41の操作を検知してブレーキ信号をI/F13に出力する。
【0023】
H/T5は、出庫ボタン、自動校正機能のON/OFFボタン等の各種ボタン(図示省略)が配置されており、操作入力信号をI/F13に出力する。車載カメラ6は、車両の前方等を撮影して画像信号をI/F13に出力する。また、SWU7は、出庫ボタン、入庫ボタン、自動校正機能のON/OFFボタン等の各種ボタン(図示省略)が配置されており、操作入力信号をI/F13に出力する。さらに、ナビゲーションシステム8は、地図情報をI/F13に出力する。ここで、地図情報には、道路の勾配値が含まれる。
【0024】
GPS受信器14は、GPSアンテナ141に接続されており、GPS衛星(図示省略)から発信されたGPS信号を受信する。このGPS信号は、GPS位置情報と、GPS時刻情報とを含む。
【0025】
カードI/F15には、メモリカード等の外部記録媒体151が着脱される。カードI/F15に接続された外部記録媒体151には、運行データとイベントとが記録される。なお、外部記録媒体151に上記の校正情報を格納してもよい。
【0026】
通信部16は、広域通信網を介して、サーバや事務所パソコン(共に図示省略)と通信する。RTC17は、GPS受信器14が受信したGPS時刻情報に基づいて、現在時刻を計時する。
【0027】
図2は、
図1に示すCPU11が実行する坂道検出機能の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示すように、CPU11は、坂道検出機能の実行中、ステップS1~S6の処理を繰り返す。
【0028】
CPU11は、自動校正機能がONであるか否かを判定する(ステップS1)。自動校正機能のON/OFFは、H/T5、SWU7、又は車載器10の本体に配置されたボタン等により設定できる。ステップS1において肯定判定がされた場合にはステップS2に移行し、ステップS1において否定判定がされた場合にはステップS6に移行する。
【0029】
CPU11は、運行中の車両が上記の特定区間を通過中であるか否かを判定する(ステップS2)。具体的には、CPU11は、GPS受信器14が受信したGPS位置情報とメモリ12に格納された特定区間情報に含まれる特定区間の始点及び終点の位置情報とを比較し、運行中の車両の現在位置が特定区間内であるか否かを判定する。ステップS2において肯定判定がされた場合にステップS3に移行し、ステップS2において否定判定がされた場合にステップS6に移行する。
【0030】
ここで、特定区間は、運行中の車両が一定速度で頻繁に通過する区間が好ましい。また、特定区間は、勾配値が一定距離に亘って一定である区間が好ましい。また、特定区間は、凹凸が一定距離に亘って無い区間が好ましい。さらに、一定距離は、数十m程度が好ましい。
【0031】
CPU11(算出部111)は、運行中の車両が特定区間を通過している間、加速度センサ1の測定値に基づいて特定区間の勾配値を算出する(ステップS3)。CPU11(算出部111)は、運行中の車両が特定区間を通過している間、勾配値の算出を継続し、運行中の車両が特定区間を通過した後、勾配値の平均値を算出する。
【0032】
図3は、
図1に示す加速度センサ1を用いた勾配値S(%)の算出方法を説明するための図である。この図に示すように、運行中の車両が勾配値S(%)の坂道を走行する時、勾配値S(%)は、下記(1)式により算出される。
【数1】
【数2】
【0033】
図2に示すように、CPU11(閾値補正部112)は、メモリ12に格納された特定区間の勾配値(以下、登録値)とステップS3で算出された勾配値の平均値(以下、検出値)とを比較し、登録値と検出値との差が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS4)。当該閾値は、勾配値の検出誤差が坂道判定の精度に及ぼす影響を考慮して設定されており、例えば、±0.5%である。即ち、勾配値の検出誤差の影響による坂道判定の精度の低下が許容範囲を超えるような場合には、ステップS4において肯定判定がされてステップS5に移行する。他方で、勾配値の検出誤差の影響による坂道判定の精度の低下が許容範囲内であるような場合には、ステップS4において否定判定がされてステップS6に移行する。
【0034】
CPU11(閾値補正部112)は、特定区間の勾配の登録値と検出値との差が閾値以上である場合、坂道判定閾値を、登録値と検出値との差に対応する分だけ変化させる(ステップS5)。
【0035】
図4は、坂道判定閾値の補正方法を説明するためのグラフである。このグラフには、加速度センサ1にオフセット誤差が無い場合の勾配の検出値と、加速度センサ1にオフセット誤差が有る場合の勾配の検出値とが示されている。また、このグラフには、加速度センサ1にオフセット誤差が無い場合の勾配の理論値が示されている。
【0036】
図4のグラフに示すように、加速度センサ1にオフセット誤差が無い場合の勾配の検出値は、勾配の理論値(例えば、図示するように+1%)を中心に増減を繰り返す。この場合、勾配の検出値の2区間移動平均は、勾配の理論値に対して近似する。それに対して、加速度センサ1にオフセット誤差が有る場合の勾配の検出値は、勾配の理論値に対して差がある勾配値(例えば、図示するように+1.5%)を中心に増減を繰り返す。この場合、勾配の検出値の2区間移動平均と勾配の理論値との間に差(例えば+0.5%)が生じる。
【0037】
そこで、本実施形態では、CPU11(閾値補正部112)が、特定区間の勾配の登録値と検出値との差に対応する分だけ、坂道判定閾値を補正する。例えば、上り坂の坂道判定閾値が+3.5%である場合に、勾配の登録値と検出値との差が+0.5%であれば、上り坂の坂道判定閾値を+4.0%に補正する。また、下り坂の坂道判定閾値が-3.5%である場合に、勾配の登録値と検出値との差が+0.5%であれば、下り坂の坂道判定閾値を-3.0%に補正する。
【0038】
図2に示すように、自動校正機能がOFFである場合(ステップS1でNO)には、CPU11は、特定区間の通過の有無にかかわらず、坂道判定閾値を補正することなく、坂道判定を行う(ステップS6)。他方で、自動校正機能がONであり(ステップS1でYES)、運行中の車両が特定区間を走行し(ステップS2でYES)、特定区間の勾配の登録値と検出値との差が閾値以上である場合(ステップS4でYES)には、CPU11は、補正した坂道判定閾値を用いて坂道判定を行う(ステップS6)。
【0039】
ステップS6において、CPU11は、車両の運行中、所定距離(例えば10m)毎に、勾配の検出値と坂道判定閾値(例えば±3.5%)とを比較し、勾配の検出値が、所定回数(例えば5回)連続で坂道判定閾値を超える場合に、坂道と判定する。具体的には、CPU11は、勾配の正の検出値と正の坂道判定閾値とを比較し、勾配の正の検出値が所定回数連続で正の坂道判定閾値を超える場合に、上り坂と判定する。他方で、CPU11は、勾配の負の検出値と負の坂道判定閾値とを比較し、勾配の負の検出値が所定回数連続で負の坂道判定閾値を下回る場合に、下り坂と判定する。この際、ステップS4において坂道判定閾値が補正されている場合、CPU11は、勾配の正の検出値と補正後の正の坂道判定閾値(例えば+4.0%)とを比較し、勾配の負の検出値と補正後の負の坂道判定閾値(例えば-3.0%)とを比較する。
【0040】
CPU11は、車両の運行中、ステップS1~S6の処理を繰り返して実行し、ステップS6において上り坂及び下り坂と判定した場合に、上記の記録機能におけるエンジン過回転数の判定閾値を低下させることにより、エンジン過回転数の記録を抑制する。他方で、CPU11は、ステップS6において上り坂及び下り坂と判定しなかった場合には、エンジン過回転数の判定閾値を補正することなく、エンジン過回転数の判定及び記録を実行する。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の車載器10では、車両が走行する特定区間の勾配値(登録値)がメモリ12に記憶されている。また、CPU11の算出部111が、特定区間を通過している運行中の車両の加速度に基づいて特定区間の勾配値を算出する。そして、CPU11の閾値補正部112が、算出部111が特定区間を通過している運行中の車両の加速度に基づいて算出した勾配値と、メモリ12に記憶された勾配値との差に応じて、坂道判定閾値を補正する。
【0042】
これによって、車両検査場等の加速度センサ1のゼロ点補正を実施する理想的な環境では加速度センサ1のゼロ点補正を実施できないような状況下においても、坂道判定の精度を確保することが可能になる。また、加速度センサ1は、坂道判定機能以外に衝突検知等の他機能でも使用されるのに対して、加速度センサ1の測定値の補正が行われないため、他機能の判定の基準値にズレが生じることを回避できる。さらに、機能毎に加速度センサ1の補正を行うような複雑な処理も回避できる。
【0043】
また、加速度センサ1のオフセット誤差は、気温等の環境や振動等の車両状態の影響で生じる場合があるのに対して、環境や車両状態等の影響を含んだ状態で坂道判定閾値の補正が実施される。これにより、運行時の環境や車両状態等の影響にかかわらず坂道判定の精度を確保できる。
【0044】
また、加速度センサ1のオフセット誤差に対して坂道判定閾値の補正により坂道判定の精度を確保できることにより、加速度センサ1のオフセット誤差の許容範囲が拡大する。従って、オフセット誤差の少ない高精度、高コストな加速度センサ1を要することなく、また、加速度センサ1の校正用の他のセンサを追加することなく、坂道判定の精度を確保できる。
【0045】
また、上り坂及び下り坂の判定を適正に実行できることにより、エンジン過回転数の判定を適正に実行できる。
【0046】
また、本実施形態の車載器10では、CPU11の閾値補正部112が、算出部111が特定区間を運行中の車両の加速度に基づいて算出した勾配値と、メモリ12に記憶された勾配値との差が閾値以上である場合に、坂道判定閾値を補正する。これにより、加速度センサ1のオフセット誤差の影響による坂道判定の精度の低下が許容範囲を超える場合に限り、坂道判定閾値の補正を実行することが可能になり、過度な処理負担が生じることを回避できる。
【0047】
また、本実施形態の車載器10では、メモリ12が記憶する特定区間の勾配値(登録値)は一定であり、CPU11の算出部111は、特定区間を運行中の車両の加速度に基づいて勾配値の平均値を算出する。そして、CPU11の閾値補正部112は、算出部111が算出した勾配値の平均値とメモリ12に記憶された勾配値との差に応じて、坂道判定閾値を補正する。即ち、運行中の車両が特定区間を通過している間に算出される勾配値を平滑化し、平滑化した勾配値に基づいて坂道判定閾値を補正する。これによって、特定区間のある一地点における勾配値の算出結果に基づいて坂道判定閾値を補正する場合に比して、坂道判定の信頼性を向上できる。
【0048】
以上、上述の実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0049】
例えば、上述の実施形態では、閾値補正部112が、算出部111が特定区間を運行中の車両の加速度に基づいて算出した勾配値と、メモリ12に記憶された勾配値との差が閾値以上である場合に、坂道判定閾値を補正する。しかしながら、閾値補正部112が、算出部111が特定区間を運行中の車両の加速度に基づいて算出した勾配値と、メモリ12に記憶された勾配値との差の大きさにかかわらず、当該差に対応する分だけ坂道判定閾値を補正するようにしてもよい。
【0050】
また、上述の実施形態では、算出部111が、特定区間を運行中の車両の加速度に基づいて勾配値の平均値を算出し、閾値補正部112が、算出部111が算出した勾配値の平均値とメモリ12に記憶された勾配値との差に応じて、坂道判定閾値を補正する。しかしながら、算出部111が、特定区間を運行中の車両の加速度に基づいて勾配値の中央値を算出し、閾値補正部112が、算出部111が算出した勾配値の中央値とメモリ12に記憶された勾配値との差に応じて、坂道判定閾値を補正するようにしてもよい。
【0051】
さらに、上述の実施形態では、加速度センサ1が車載器10に設けられている。しかしながら、加速度センサ1は、車載されていればよく、車載器10とは異なる車載器に設けられていてもよく、あるいは、車両に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 :加速度センサ
10 :車載器
12 :メモリ(記憶部)
111 :算出部
112 :閾値補正部