(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120276
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】移乗装置
(51)【国際特許分類】
A61G 7/14 20060101AFI20240829BHJP
A61G 7/12 20060101ALI20240829BHJP
A61G 5/14 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
A61G7/14
A61G7/12
A61G5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026951
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】322001716
【氏名又は名称】大佳株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(74)【代理人】
【識別番号】100146891
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正
【テーマコード(参考)】
4C040
【Fターム(参考)】
4C040AA08
4C040EE05
4C040HH02
4C040JJ08
4C040JJ09
(57)【要約】
【課題】 より容易に使用可能な移乗装置を提供する。
【解決手段】 移乗装置1は、支持構造体2と、持上げ機構と、を備え、持上げ機構は、支持構造体2に対して揺動可能な支持揺動部6と、支持揺動部6に支持されて使用者の上体を支持する上体支持部7と、を有する。上体支持部7は、使用者の胴体を支持するための支持本体71と、使用者の両脇を支持するための一対の脇支持部72と、使用者の両肘を支持するための一対の肘当部73と、を有する。持上げ機構Mが受入れ姿勢にあるときを基準として、一対の脇支持部72は、支持本体71の幅方向D2両側から後方に向かって延び、一対の肘当部73の各々は、一対の脇支持部72の幅方向D2両側に設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造体と、
受入れ姿勢から持上げ姿勢へ変位することで使用者の体を持ち上げる持上げ動作と、前記持上げ姿勢から前記受入れ姿勢へ変位することで前記使用者の体を下ろすための下降動作と、を実行する持上げ機構と、を備え、
前記持上げ機構は、前記支持構造体に対して揺動可能な支持揺動部と、前記支持揺動部に支持されて前記使用者の上体を支持する上体支持部と、を有し、
前記上体支持部は、前記使用者の胴体を支持するための支持本体と、前記使用者の両脇を支持するための一対の脇支持部と、前記使用者の両肘を支持するための一対の肘当部と、を有し、
前記受入れ姿勢を基準として、前記一対の脇支持部は、前記支持本体の幅方向両側から後方に向かって延び、前記一対の肘当部の各々は、前記一対の脇支持部の幅方向両側に設けられている移乗装置。
【請求項2】
前記受入れ姿勢を基準として、前記一対の肘当部の各々は、前記一対の脇支持部の各々に対して上下方向に位置調整可能である請求項1に記載の移乗装置。
【請求項3】
前記受入れ姿勢を基準として、上下方向に延びる一対の把持部を更に備え、前記一対の把持部の各々は前記一対の肘当部の前方部位に設けられている請求項1又は2に記載の移乗装置。
【請求項4】
前記受入れ姿勢を基準として、前記支持本体の上縁は、前記一対の脇支持部の上縁前端部よりも上方に位置する請求項1又は2に記載の移乗装置。
【請求項5】
前記持上げ機構は更に膝当てを備え、
前記支持揺動部は、前記支持構造体に対して揺動可能に連結された一対の支持アームを備え、
前記幅方向において、前記膝当ては前記一対の支持アームの間に位置する請求項1又は2に記載の移乗装置。
【請求項6】
前記支持構造体は、回転台と、前記回転台を水平方向へ回転自在に支持する支持台と、
前記幅方向における前記回転台の両側に設けられた一対の転倒防止部材と、を備え、
前記一対の転倒防止部材の各々は、上下方向に延びる支持軸を中心に前記回転台に対して閉位置と開位置の間を水平方向へ揺動可能であって、
前記一対の転倒防止部材の各々は、前記閉位置においては前記幅方向に垂直な前後方向に沿って延び、前記開位置においては、前記前後方向に交差して延びる請求項1又は2に記載の移乗装置。
【請求項7】
前記支持構造体は、水平方向へ回転可能な回転部材と、前記回転部材と前記一対の転倒防止部材とを連結する一対の連結ロッドと、を更に備え、
前記回転部材が第1方向へ回転すると、前記一対の転倒防止部材は前記一対の連結ロッドに押されて前記開位置へ向かって揺動し、前記回転部材が前記第1方向とは逆の第2方向へ回転すると、前記一対の転倒防止部材は前記一対の連結ロッドにより引っ張られて前記閉位置へ向かって揺動する請求項6に記載の移乗装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、要介護者等がベッド等から車椅子等へ移るのに用いられる移乗装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、要介護者等(以下、「使用者」という。)をベッド等から車椅子等へ移すための移乗装置が種々提案されている。例えば、特許文献1に開示の移乗装置は、揺動可能な支持アームと、支持アームの両側に設けられた一対の膝当てと、支持アームの先端に装着された上体支持部と、を備える。使用者は、ベッド等に腰掛けた状態のまま両膝を膝当てに当て、上体支持部の支持本体に胴体を当てる。また、両脇を脇支持部に乗せ、両手で把持部を把持する。この状態で支持アームが前方に向けて揺動すると、使用者の身体全体がベッド等から持ち上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の移乗装置では、これを利用できる使用者が限定されるという問題があった。例えば、片麻痺等により腕が自由に動かせない使用者にとっては、腕を伸ばして両手で把持部を把持することが困難であった。また、片麻痺を患う人は両膝が閉じやすく、支持アームの両側に位置する膝当てに両膝を広げて当てるのは難しかった。更に、使用者の上体は主に両脇で支えられることから、両脇に負担がかかるという問題があった。
【0005】
また、上述の移乗装置は幅狭なコンパクトな設計となっていることから、比較的狭い場所での利用も可能であるが、その一方で使用者を乗せたまま走行させると横転する虞があった。
【0006】
本発明は、使用者がより容易に使用可能な移乗装置の提供を目的とする。
【0007】
本発明は、より転倒しにくい移乗装置の提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面にかかる移乗装置は、支持構造体と、受入れ姿勢から持上げ姿勢へ変位することで使用者の体を持ち上げる持上げ動作と、前記持上げ姿勢から前記受入れ姿勢へ変位することで前記使用者の体を下ろすための下降動作と、を実行する持上げ機構と、を備え、前記持上げ機構は、前記支持構造体に対して揺動可能な支持揺動部と、前記支持揺動部に支持されて前記使用者の上体を支持する上体支持部と、を有し、前記上体支持部は、前記使用者の胴体を支持するための支持本体と、前記使用者の両脇を支持するための一対の脇支持部と、前記使用者の両肘を支持するための一対の肘当部と、を有し、前記受入れ姿勢を基準として、前記一対の脇支持部は、前記支持本体の幅方向両側から後方に向かって延び、前記一対の肘当部の各々は、前記一対の脇支持部の前記幅方向両側に設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面にかかる移乗装置によれば、一対の肘当部が一対の脇支持部の幅方向両側に設けられているので、使用者は両腕を前方へ伸ばす必要がなく、例えば片麻痺により腕が自由に動かせない使用者でも当該移乗装置を利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る移乗装置の側面図であって、(a)はその持上げ機構が受入れ姿勢に位置づけられた状態を示し、(b)は持上げ機構が持上げ姿勢に位置づけられた状態を示す。
【
図2】
図1に示す移乗装置を斜め前方からみた斜視図であり、カバー体を省略して示す図。
【
図3】
図1に示す移乗装置の底面図であり、(a)は走行体が横向き状態にあり、転倒防止部材が閉位置にある状態を示し、(b)は走行体が下向き状態にあり、転倒防止部材が開位置にある状態を示す。
【
図4】転倒防止部材及びその内部構造を示す図であって、(a)は平面透視図、(b)は側面透視図。
【
図5】
図1に示す移乗装置が備える調整機構の構造を説明する平面一部断面図。
【
図6】(a)は
図5におけるVIa-VIa線一部断面図、(b)は
図6(a)に示す状態から操作レバーが持ち上げられた状態を示す図。
【
図7】
図1に示す移乗装置の制御系を示すブロック図。
【
図8】
図1に示す移乗装置の使用方法を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る移乗装置について説明する。
図1及び
図2を参照して、本実施形態の移乗装置1は、床面Fに設置される支持構造体2と、支持構造体2に支持された持上げ機構Mと、支持構造体2及び持上げ機構Mの下方部位を部分的に覆うカバー部材Cと、持上げ機構Mの上方部位を部分的に覆う上カバー部材(図示せず)と、を備える。なお、
図1を除く図面においてカバー部材Cは省略されている。
【0012】
持上げ機構Mは持上げ動作と下降動作を行うものであり、持上げ動作では
図1(a)に示す受入れ姿勢から
図1(b)に示す持上げ姿勢へ変位することで使用者Pの体を持ち上げ、下降動作では
図1(b)に示す持上げ姿勢から
図1(a)に示す受入れ姿勢へ変位することで使用者Pの体を下ろす。
【0013】
図3を参照して、支持構造体2は、支持台21と、回転台22と、支持台21と回転台22とを回転自在に連結させる連結機構(図示せず)と、を備える。連結機構(図示せず)は、電動モータ20(
図7)からの駆動力により駆動されて、回転台22を支持台21に対して上下方向D1に延びる回転軸C1を中心に回転させる。
【0014】
支持台21は、プレート状の支持板21aと、支持板21aの底面に設けられたゴム等からなる複数の支持部21bと、を有し、支持部21bにより床面Fに支持される。回転台22は、上板22aと、上板22aの幅方向D2両縁から下方に延出する側板22bと、を有する。回転台22の後部には一対の後キャスタ26が設けられており、回転台22の後部は後キャスタ26を介して床面Fに支持される。
【0015】
支持構造体2は更に前後一対の走行体27,28と、走行体27,28を旋回させるための電動シリンダ29(
図7)と、を備える。前走行体27は左右一対のキャスタ27aと、これら一対のキャスタ27aを支持する前支持体27bと、を有し、前支持体27bは幅方向D2(左右方向)に延びる支持軸C2を中心に旋回可能に回転台22に支持されている。
【0016】
同様に、後走行体28は左右一対のキャスタ28aと、これら一対のキャスタ28aを支持する後支持体28bと、を有し、後支持体28bは幅方向D2に延びる支持軸C3を中心に旋回可能に回転台22に支持されている。
【0017】
電動シリンダ29(
図7)は前支持体27b及び後支持体28bに連結されており、電動シリンダ29(
図7)が所定方向に駆動すると、走行体27,28はそれぞれ支持軸C2,C3を中心に旋回する。すると、
図3(a)に示すように前支持体27b及び後支持体28bが横(前方及び後方)を向いた状態から
図3(b)に示す様に下を向いた状態となり、キャスタ27a,28aが下降位置まで下降する。これにより、キャスタ27a,28aは支持部21bの底面よりも下方に突出して床面Fに接地し、支持台21は床面Fから浮き上がり、キャスタ27a,28aを用いた移乗装置1の移動が可能になる。
【0018】
一方、電動シリンダ29が逆方向に駆動すると、走行体27,28はそれぞれ支持軸C2,C3を中心に逆方向に旋回し、
図3(a)に示すように前支持体27b及び後支持体28bが横(前方及び後方)を向いた状態へ戻り、キャスタ27a,28aは退避位置まで持ち上げられる。その結果、複数の支持部21bが床面Fに当接し、移乗装置1は床面Fに安定的に支持される。
【0019】
支持構造体2は更に転倒防止機構3を備える。転倒防止機構3は、回転台22の幅方向D2両側に設けられた一対の転倒防止部材31と、これら一対の転倒防止部材31を回転台22の側板22bに連結する一対の連結部材32と、回転部材33と、回転部材33と一対の転倒防止部材31とを連結する一対の連結ロッド34と、回転部材33を回転軸C4を中心に水平方向へ回転させる回転モータ30(
図7)と、を備える。各転倒防止部材31は、上下方向D1に延びる支持軸C5を中心に、
図3(a)に示す閉位置と
図3(b)に示す開位置の間を回転台22に対して揺動可能とされている。
【0020】
図4を参照して、各転倒防止部材31は、枠体31Aと、枠体31Aに収容保持されたリンク機構4と、枠体31Aに装着されたキャスタ部材31Bと、を備え、キャスタ部材31Bは、水平方向に延びる支持軸31bを介して点線で示す上方位置と実線で示す下方位置との間を枠体31Aに対して揺動可能に構成されている。
【0021】
リンク機構4は、上下方向D1に延びる支持軸41,42,43と、支持軸41と支持軸42を連結する連結部材44と、支持軸42と支持軸43とを連結する連結部材45と、支持軸43に連結されたスライドロッド46と、スライドロッド46に外嵌する付勢バネ47と、スライドロッド46の後端とキャスタ部材31Bとを連結する連結部材48と、スライドロッド46をスライド可能に保持する保持部材49と、を備える。
【0022】
支持軸41は枠体31Aに回転自在に装着されている。連結部材44の前端及び後端は支持軸41及び支持軸42にそれぞれ旋回自在に連結され、連結部材45の前端及び後端は支持軸42及び支持軸43にそれぞれ旋回自在に連結されている。また、
図3及び
図4に示す様に、連結ロッド34の先端は支持軸42に旋回自在に連結されている。
【0023】
連結部材48の前端部及び後端部は、それぞれ水平方向に延びる支持軸49A,49Bを中心にスライドロッド46の後端及びキャスタ部材31Bに揺動自在に連結されている。スライドロッド46は段部を有し、付勢バネ47はスライドロッド46の段部と保持部材49の間に設けられ、スライドロッド46を前方へ付勢している。これにより、
図3(a)に示す様に転倒防止部材31が閉じた状態においては、
図3(a)及び
図4(a)において点線で示す様に、連結部材44と連結部材45とは平面視においてへの字状に折れ曲がった配列となる。
【0024】
この状態から回転部材33が
図3(a)に示す位置から矢印A1方向(第1方向)へ回転すると、連結ロッド34により支持軸42が外方へ向けて押され、転倒防止部材31全体が開位置へ向けて支持軸C5を中心に旋回する。転倒防止部材31が
図3(b)に示す開位置まで旋回すると、転倒防止部材31はストッパ(図示せず)に当接し、転倒防止部材31の更なる旋回が防止される。この状態で更に回転部材33が矢印A1方向へ回転すると、付勢バネ47の付勢力に抗して連結部材44と連結部材45とは直線状に押し延ばされ、スライドロッド46が後方へスライドする。すると、キャスタ部材31Bは支持軸31bを中心に
図4(b)に点線で示す上方位置から実線で示す下方位置へ揺動する。
【0025】
反対に、回転部材33が
図3(b)に示す位置から矢印A1方向とは反対の矢印A2方向(第2方向)へ回転すると、連結ロッド34により支持軸42が引っ張られ、連結部材44と連結部材45とは平面視においてへの字状の配列へ戻る。これにより付勢バネ47の付勢力によってスライドロッド46は前方へスライドし、連結部材48は前方へ引っ張られてキャスタ部材31Bを
図4(b)に実線で示す下方位置から点線で示す上方位置へ支持軸31bを中心に揺動させる。回転部材33が更に矢印A2方向へ回転すると、連結ロッド34により引っ張られて転倒防止部材31全体が支持軸C5を中心に
図3(a)に示す閉位置まで旋回する。なお、
図4(b)においては、連結部材44と連結部材45とがへの字状に折れ曲がった状態と直線状に引き延ばされた状態とを重ねて図示している。
【0026】
そして、キャスタ部材31Bが下方位置にあるとき、キャスタ部材31Bの下端は枠体31Aの下縁よりも下方に位置する一方で、下降位置に位置づけられたキャスタ27a,28aの下端よりも上方に位置する。よって、キャスタ部材31Bは常には床面Fに当接しないが、移乗装置1が左右に傾いた際には何れか一方のキャスタ部材31Bが床面Fに当接することで、移乗装置1が転倒するのを防止する。
【0027】
次に、持上げ機構Mについて詳述する。
図1及び
図2を参照して、持ち上げ機構Mは、支持構造体2の回転台22に支持軸C6を中心に揺動自在に支持された支持揺動部6と、支持揺動部6の先端に支持軸C7を中心に揺動自在に支持された上体支持部7と、支持揺動部6により支持された膝当てKと、を備え、膝当てKは移乗装置1の幅方向D2中央部に配置されている。そして、支持揺動部6が支持軸C6(第1支持軸)を中心に前方(
図1における反時計回り)へ揺動すると、上体支持部7及び膝当てKは前方斜め上方に向かって上昇し、支持揺動部6が後方(
図1における時計回り)へ揺動すると、上体支持部7及び膝当てKは後斜め下方に向かって下降する。
【0028】
より具体的に、支持揺動部6は、左右一対の支持アーム61と、これら一対の支持アーム61の間に掛け渡された連結板部材62,64と、を備える。一対の支持アーム61は幅方向D2に延びる支持軸C6を中心に、回転台22に対して
図1(a)に示す後端位置と
図1(b)に示す前端位置との間を前後方向D3へ揺動自在であり、各支持アーム61の下部は直線状に延び、その上部は下部に対して斜め後方及び幅方向D2中央に向けて傾斜して延びている。幅方向D2において、膝当てKは、このように構成された一対の支持アーム61の間に配置されており、支持部材63を介して連結板部材64により支持されている。
【0029】
上体支持部7は、
図1(a)に示す受入れ姿勢を基準として(以下同様に、「前」「後」「上」「下」と言うときは、
図1(a)に示す受入れ姿勢を基準とする。)、平面状の支持本体71と、一対の脇支持部72と、一対の脇支持部72の幅方向D2両側に設けられた一対の肘当部73と、一対の肘当部73に設けられた一対の把持部74と、支持本体71に取り付けられた支持枠75と、肘当部73を脇支持部72に対して高さ調整可能に支持する左右一対の調整機構76(
図5)と、を備える(
図5には一方の調整機構76のみ示す)。
【0030】
支持本体71は、前面71a及び後面71bを有し、支持本体71の後面71bが使用者Pの胴体を受け入れる胴体支持面71bとして機能する。一対の脇支持部72は、支持本体71の幅方向D2両側から後方に向かって延出し、その上縁は後斜め上方に向かって傾斜して延びている。また、支持本体71の上縁は、脇支持部72の上縁前端部よりも上方に位置している。
【0031】
肘当部73は前後方向D3に延びると共に、脇支持部72に対して上下方向D1(高さ方向)へ位置調整可能になっている。把持部74は、肘当部73の前方部位に設けられ、肘当部73から上方に向かって起立する。支持枠75は支持本体71の表面71aに装着されている。また、支持枠75は、幅方向D2に延びる支持軸C7を中心に連結板部材62に揺動可能に取り付けられている。
【0032】
図5及び
図6を参照して、各調整機構76は、上下方向D1に延出する一対のガイドレールR1と、一対のガイドレールR1にスライド可能に支持されたスライド部材S1と、一対のガイドレールR1の間に配置されてスライド部材S1に対して進退可能に設けられた一対のロック部材R2と、一対のロック部材R2を保持する一対の保持部材R3と、操作レバーR4と、を備える。
【0033】
ガイドレールR1及び保持部材R3は脇支持部72の内部に設けられている。スライド部材S1は、スライド部S11と、スライド部S11に装着された被係止部材S12と、を備える。スライド部S11は、ガイドレールR1にスライド自在に装着されて上下方向D1に延びるスライド本体S11aと、スライド本体S11aの下端から幅方向D2外方に向かって延びる延出部S11bと、を有し、全体としてL字形状を有する。また、延出部S11bは肘当部73の内部まで延びて肘当部73を支持し、肘当部73はスライド部材S1に支持されてスライド部材S1と一体的にガイドレールR1(即ち脇支持部72)に対して上下方向D1へスライド移動可能とされている。
【0034】
被係止部材S12には複数個の孔Hが上下方向D1に間隔を空けて設けられ、スライド本体S11aの前後方向D3内面に装着されている。ロック部材R2は保持部材R3により前後方向D3にスライド可能に保持され、付勢バネR21により対応の被係止部材S12へ向けて付勢されている。また、ロック部材R2の先端には係止部R22が設けられ、係止部R22の下面は被係止部材S12に向かうに従い斜め上方へ延びる傾斜面とされている。
【0035】
操作レバーR4は、作用部R41と、作用部R41に連結された操作部R42と、を備える。作用部R41は、上下方向D1に延びる一対の係合部R41aを有する。ロック部材R2には更に貫通孔R23が設けられており、各係合部R41aの先端は貫通孔R23に挿通されている。また、係合部R41aの前後方向D3内面は、下方に向かうに従い内側に向かって傾斜している。
【0036】
かかる構成により、操作レバーR4が
図6(a)に示す下端位置にあるときは、付勢ばねR21により付勢されたロック部材R2の係止部R22は、被係止部材S12の何れかの孔H内に位置づけられる。これにより、スライド部材S1(及び肘当部73)のロック部材R2(及び脇支持部72)に対する下方への移動が阻止される。一方、肘当部73(即ち、スライド部材S1)が脇支持部72(即ち、ロック部材R2)に対して上方向へ押されると、ロック部材R2は被係止部材S12により付勢バネR21の付勢力に抗して内側へ押され、係止部R22は孔Hから外れ、肘当部73(スライド部材S1)の脇支持部72(ロック部材R2)に対する上方向への移動が許容される。
【0037】
また、操作レバーR4の係合部R41aの内面は、下方に向かうに従い内側に向かって傾斜していることから、操作レバーR4を
図6(a)に示す位置から
図6(b)に示す位置へ持ち上げると、ロック部材R2は操作レバーR4の係合部R41aにより引っ張られるようにして前後方向D3内側へスライドし、ロック部材R2の係止部R22は孔Hから外れ、スライド部材S1(肘当部73)は自重により落下し、ロック部材R3(脇支持部72)に対して下方へ移動する。
【0038】
よって、肘当部73を脇支持部72に対して上方へ位置調整しようとするときは、使用者は肘当部73を上方へ持ち上げるようにすれば良く、肘当部73を脇支持部72に対して下方へ位置調整しようとするときは、使用者は操作レバーR4を上方向へスライド操作させれば良い。
【0039】
図1及び
図2を参照して、持上げ機構Mは更に、第1揺動機構8と、第2揺動機構9を備える。第1揺動機構8は、支持揺動部6を回転台22に対して支持軸C6を中心に揺動させるものであり、本実施形態では左右一対の電動シリンダ81と、左右一対の連結機構82と、を備える。電動シリンダ81は、電動モータ(図示せず)と、回転台22に対して揺動可能に支持された駆動部81bと、出力部81cと、を備え、出力部81cは連結機構82を介して支持アーム61に連結されている。電動モータ(図示せず)が所定方向に駆動すると、出力部81cが駆動部81bに対して収縮し、これにより支持アーム61(支持揺動部6)を支持軸C6を中心に前方へ揺動させる。一方、電動モータ(図示せず)が逆方向に駆動すると、出力部81cが駆動部81bに対して伸張し、これにより支持アーム61(支持揺動部6)を後方へ揺動させる。
【0040】
第2揺動機構9は、上体支持部7を支持揺動部6に対して支持軸C7を中心に揺動させるものであり、本実施形態では電動シリンダ91を備える。電動シリンダ91は支持揺動部6に搭載され、電動モータ91aと、駆動部91bと、出力部91cと、を備える。出力部91cの先端は上体支持部7(支持枠75)に支持軸C8を中心に旋回自在に連結されている。支持軸C8は支持軸C7よりも上方に位置して幅方向D2に延びている。電動モータ91aが所定方向に駆動すると、出力部91cは駆動部91bに対して収縮し、これにより上体支持部7は支持軸C7を中心に前端位置へ向けて前方へ揺動し、電動モータ91aが逆方向に駆動すると、出力部91cは駆動部91bに対して伸張し、これにより上体支持部7は支持軸C7を中心に後端位置へ向けて後方へ揺動する。
【0041】
図7を参照して、移乗装置1は更に、操作部100と、制御部200と、を備える。操作部100には操作者により操作される上ボタンB1、下ボタンB2、右ボタンB3、左ボタンB4が設けられ、これらボタンB1~B4を介した操作者による入力操作に応じた信号を制御部200へ無線又は有線で送信する。なお、操作部100を操作する操作者は使用者P自身又は使用者Pを介護する介護者である。
【0042】
制御部200は、種々の駆動プログラムを記憶したメモリ201を有し、操作部100からの信号に基づいて電動モータ20,30及び電動シリンダ29,81,91を駆動制御する。
【0043】
より具体的に、
図1(a)に示す様に持上げ機構Mが受入れ姿勢にある状態で上ボタンB1が押されると、制御部200はメモリ201から駆動プログラムを読み出して持上げ制御を行い、持上げ機構Mに持上げ動作を実行させる。この持上げ制御ではまず、電動シリンダ81を制御して出力部81cの収縮を開始する。これにより支持揺動部6が前方に向かって揺動し始める。そして、支持揺動部6が前方に所定角度だけ揺動して上体支持部7が所定量だけ上昇すると、電動シリンダ91を制御して出力部91の収縮も開始する。これにより、支持揺動部6が前方に揺動しつつ上体支持部7も支持軸C7を中心に前方へ揺動する。そして、支持揺動部6が所定の前端位置に到達した時点で電動シリンダ81の制御を終了し、また上体支持部7が所定の前方位置に到達した時点で電動シリンダ91の制御を終了する。
【0044】
一方、
図1(b)に示す様に持上げ機構Mが持上げ姿勢にある状態で下ボタンB2が押されると、制御部200はメモリ201から駆動プログラムを読み出して下降制御を行い、持上げ機構Mに下降動作を実行させる。この下降制御ではまず、電動シリンダ81,91を制御してそれぞれの出力部81c,91cの伸張を開始する。これにより支持揺動部6,上体支持部7が後方に向かった揺動を開始する。そして、電動シリンダ91の出力部91cが最長となり、上体支持部7が直立姿勢になると、制御部200は電動シリンダ91を制御して出力部91cの収縮を開始させる。これにより、上体支持部7の直立姿勢が維持されたまま支持揺動部6の後方への揺動が継続される。そして、
図1(b)に示す様に支持揺動部6が所定の後端位置に到達すると、電動シリンダ81の出力部81cの伸張及び電動シリンダ91の出力部91cの収縮を停止させる。
【0045】
なお、上述した持上げ制御及び下降制御はそれぞれ、操作者が上ボタンB1及び下ボタンB2を押圧し続けている間のみ実行され、途中で上ボタンB1又は下ボタンB2の押圧が解除されると持上げ制御及び下降制御はその時点で中断され、上ボタンB1又は下ボタンB2の押圧が再開されると、持上げ制御及び下降制御も再開される。
【0046】
また、持上げ機構Mが持上げ姿勢にある状態で上ボタンB1が長押し(例えば、2秒長押し)されると、制御部200は電動シリンダ29を制御して上述のように走行体27,28を下向きへ旋回させてキャスタ27a,28aを下降位置へ下降させて支持台21を床面Fから持ち上げると共に、電動モータ30を制御して回転部材33を所定量だけ矢印A1方向へ回転させる。これにより、転倒防止部材31が開位置へ位置づけられると共に、キャスタ部材31Bが下方位置へ位置づけられる。このとき、回転部材33の回転は、電動シリンダ29による走行体27,28の旋回開始から所定時間(例えば、2秒)経過後に開始する。即ち、転倒防止部材31の揺動は、走行体27,28の旋回開始よりも遅れたタイミングで開始する。これは、キャスタ部材31Bを床面Fに接触させないためである。
【0047】
転倒防止部材31が開位置に位置づけられている状態で下ボタンB2が押されると、制御部200は電動モータ30を制御して回転部材33を所定量だけ矢印A2方向へ回転させて、キャスタ部材31B及び転倒防止部材31をそれぞれ上方位置及び閉位置へ位置づける。この状態で再度下ボタンB2が押された場合には、制御部200は電動シリンダ29を制御して走行体27,28を旋回させてキャスタ27a,28aを退避位置まで上昇させ、これにより支持台21は下降して床面Fに当接する。一方、これに代えて上ボタンB1が押された場合には、制御部200は電動モータ30を制御してキャスタ部材31B及び転倒防止部材31をそれぞれ下方位置及び開位置へ戻す。
【0048】
また、転倒防止部材31が開位置に位置づけられている状態で下ボタンB2が長押しされると、制御部200は電動モータ30を制御して回転部材33を所定量だけ矢印A2方向へ回転させてキャスタ部材31B及び転倒防止部材31をそれぞれ上方位置及び閉位置へ位置づけると共に、電動シリンダ29を制御して走行体27,28を旋回させてキャスタ27a,28aを退避位置まで上昇させ、これにより支持台21は下降して床面Fに当接する。
【0049】
更に、右ボタンB3又は左ボタンB4が押されると、制御部200は電動モータ20を制御して回転台22を支持台21に対して平面視において反時計回り又は時計回りに90度旋回させて自動停止させる。なお、右ボタンB3又は左ボタンB2が押されたままでも、90度旋回すると自動停止する。よって、例えば180度旋回させたい場合には、右ボタンB3又は左ボタンB2を90度毎に2度押せば良い。また、回転台22は、回転角度90°より手前(約15°)から減速動作に入り、ボタンB3,B4が離されていても90°角度位置まで旋回して自動停止する。
【0050】
次に、移乗装置1の使用方法について説明する。ここでは、
図8に示す様に使用者Pが移乗元のベッドBから移乗先である車椅子Wへ移る場合を例に説明する。
図1(a)及び
図8を参照して、先ず、持上げ機構Mを受入れ状態とし、使用者PはベッドBに腰掛けたまま両足を回転台22の後部に載置し、両膝を膝当てKに当接させる。
【0051】
次に、使用者Pは上体支持部7の支持本体71の胴体支持面71bに胴体を当てるようにして両脇を脇支持部72の上縁に乗せ、両肘を肘当部73に当てる。このとき、必要に応じて肘当部73の高さ位置を調整する。
【0052】
また、使用者Pは、可能であれば両手又は片手で把持部74を把持することもできるし、把持部73を把持することなく両手又は片手を肘当部74に乗せておくこともできる。このとき、支持本体71は直立姿勢にあるので、使用者Pは腰を前方に曲げなくても、支持本体71の胴体支持面71bに胴体を預け、両脇を脇支持部72に乗せることができる。
【0053】
そして、上ボタンB1が押されると、上述した持上げ制御が実行される。即ち、まず支持揺動部6のみが前方に向けて揺動を開始し、これにより使用者Pの腰がベッドBから僅かに浮き上がる。その後に上体支持部7の前方への揺動が開始され、使用者Pの身体全体がベッドBから持ち上げられる。そして、持上げ機構Mが持上げ状態になると、支持揺動部6及び上体支持部7の揺動が停止する。
【0054】
次に右ボタンB3が押されると、電動モータ20が回動し、回転台22が支持台21に対して反時計回りに90度旋回して自動停止する。このとき、回転台22の後部は一対の後キャスタ26により支持されているので、支持体22の旋回移動がスムーズに行われる。
【0055】
その後、下ボタンB2が押されると、上述した下降制御が実行され、支持揺動部6と上体支持部7と膝当てKの後方への揺動が開始し、使用者Pの身体が下降し始める。そして、上体支持部7が直立姿勢に達し、これに伴い使用者Pの上体が直立状態になると、電動シリンダ91の出力軸91cは収縮を開始し、これにより上体支持部7(使用者Pの上体)の直立姿勢が維持されたまま下降する。そして、使用者Pの腰が車椅子Wの座面に着いたタイミングで下ボタンB2を離すと、支持揺動部6及び上体支持部7の揺動が停止する。
【0056】
このように、本実施形態に係る移乗装置1によれば、使用者P(移乗者)の上体は両脇に加えて両肘によっても支えられるので、使用者Pの身体にかかる負担を軽減することができる。また、使用者Pは移乗装置1を使用する際に両腕を広げたり伸ばしたりする必要がないため、片麻痺等により腕が自由に動かせなくても移乗装置1を容易に利用することができる。更に、肘当部73は高さ調整が可能であるから、体格の異なる使用者Pにも対応できる。
【0057】
更に、支持本体71の上縁は、脇支持部72の上縁前端部よりも上方に位置しているから、支持本体71の上縁と脇支持部72の上縁前端部の高さ位置が同一の場合と比較して、胴体支持面71bで使用者Pの胴体をより広い面積で支えることができ、使用者Pの身体にかかる負担を軽減できる。
【0058】
更に、転倒防止機構3を開位置へ位置づけておけば、使用者Pを乗せたままキャスタ27a、28aを用いて移乗装置1を走行(移動)させても、移乗装置1が横転するのを防止でき、使用者Pは安心・安全に移乗装置1を利用することができ、また介護者の労力も軽減できる。更に、転倒防止部材31を閉位置へ位置づければ、比較的狭い空間であっても移乗装置1を用いて使用者Pを移乗させることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態に係る移乗装置について添付の図面を参照して説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形、修正が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 移乗装置
2 支持構造体
M 持上げ機構
3 転倒防止機構
31 転倒防止部材
33 回転台
6 支持揺動部
7 上体支持部
71 支持本体
72 脇支持部
73 肘当部
K 膝当て
P 使用者(移乗者)
C6 支持軸