(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120292
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20240829BHJP
C23C 16/505 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H05H1/46 L
C23C16/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026982
(22)【出願日】2023-02-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】松尾 大輔
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA03
2G084AA04
2G084AA05
2G084BB05
2G084BB27
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD04
2G084DD12
2G084DD38
2G084DD55
2G084DD62
2G084DD63
2G084FF34
2G084FF38
2G084FF39
4K030AA06
4K030AA13
4K030AA14
4K030AA18
4K030BA29
4K030BA40
4K030BA44
4K030BB14
4K030CA17
4K030FA01
4K030FA10
4K030KA18
4K030KA30
4K030LA02
4K030LA18
(57)【要約】
【課題】真空容器の外部にアンテナを配置し、誘電体板とスリット板とを重ねて磁場透過窓を構成したプラズマ処理装置において、スリット板に形成されたスリットを覆うマスク部材の厚みを薄くし、かつ、熱膨張率が小さい材質をマスク部材に用いる。
【解決手段】真空容器1の外部に設けられたアンテナ2に高周波電流を流して真空容器1内にプラズマを発生させるプラズマ処理装置100であって、真空容器1のアンテナ2に臨む位置に形成された開口1xを塞ぐスリット板6と、スリット板6に形成された複数のスリット開口6xを真空容器1の外側から塞ぐ誘電体板7と、スリット開口6x毎に設けられ、スリット開口6xを真空容器1の内側から間隙を開けて覆う複数のマスク部材8と、複数のマスク部材8をスリット開口6x毎に対応して固定する固定機構9とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器の外部に設けられたアンテナに高周波電流を流して前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ処理装置であって、
前記真空容器の前記アンテナに臨む位置に形成された開口を塞ぐスリット板と、
前記スリット板に形成された複数のスリット開口を前記真空容器の外側から塞ぐ誘電体板と、
前記スリット開口毎に設けられ、前記スリット開口を前記真空容器の内側から間隙を開けて覆う複数のマスク部材と、
前記複数のマスク部材を前記スリット開口毎に対応して固定する固定機構とを備えるプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記スリット開口は、前記アンテナに交差する方向に長手方向を有する矩形状をなしており、
前記マスク部材は、前記スリット開口の長手方向における一方の端部から他方の端部に亘って設けられる長尺状をなすものであり、
前記固定機構は、
前記マスク部材を前記スリット板へ押さえる押え部材と、
前記押え部材又は前記スリット板に形成され、前記マスク部材の長手方向の端部と嵌り合う嵌合部とを備える請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記マスク部材は、前記スリット開口毎に複数備えられ、
前記スリット開口に複数備えられたマスク部材は、互いに間隙を空けて設けられて前記スリット開口を覆う請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記マスク部材は、前記アンテナの長手方向に沿って前記スリット開口毎に複数備えられ、長手方向の長さが互いに異なる長尺状をなしており、
前記スリット板の厚み方向において、前記真空容器の内側に向かうにつれて、長手方向に長い方のマスク部材が配置され、
前記嵌合部は、前記アンテナの長手方向に沿って設けられ、各マスク部材の端部それぞれに嵌り合う複数の凹部をさらに備え、
前記複数の凹部の隣り合う部分が連通することによって形成される連通壁と、前記連通壁に対向して前記複数の凹部にそれぞれ設けられる対向壁とによって、前記スリット開口に複数備えられたマスク部材が挟まれる請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記スリット板と前記マスク部材との間隙内に、前記アンテナの長手方向に沿って移動する荷電粒子を遮蔽する遮蔽壁が設けられている請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いて被処理物を処理するプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンテナに高周波電流を流し、それによって生じる誘導電界によって誘導結合型のプラズマ(略称ICP)を発生させ、この誘導結合型のプラズマを用いて基板等の被処理物に処理を施すプラズマ処理装置が従来から提案されている。このようなプラズマ処理装置として、特許文献1には、アンテナを真空容器の外部に配置し、真空容器の側壁の開口を塞ぐように設けた磁場透過窓を通じてアンテナから生じた高周波磁場を真空容器内に透過させることで、真空容器内にプラズマを発生させるものが開示されている。
【0003】
この特許文献1のプラズマ処理装置は、真空容器の開口を塞ぐ金属製のスリット板と、スリット板に形成されたスリットを真空容器の外側から塞ぐ誘電体板とを備えるようにしている。このプラズマ処理装置では、金属製のスリット板と、このスリット板に重ね合わせた誘電体板とに磁場透過窓としての機能を担わせているので、誘電体板のみに磁場透過窓としての機能を担わせる場合に比べて磁場透過窓の厚みを小さくすることができる。これにより、アンテナから真空容器内までの距離を短くすることができ、アンテナから生じた高周波磁場を効率良く真空容器内に供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2020-188809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のプラズマ処理装置の構成では、スリット近傍に生成されたプラズマによる堆積物やスパッタ等による粒子の回り込みによる堆積物が誘電体板に堆積してしまい、そうした堆積物が導電性であると、スリットを形成する内側面が堆積物を介して導電してしまう。そうすると、アンテナから生じる高周波磁場により、スリット板にもアンテナの長手方向に沿った高周波電流が流れてしまい、スリット板や堆積物の発熱により誘電体板が加熱される。その結果、誘電体板の熱歪みが生じたり、誘電体板と堆積物との化学反応による強度低下が生じたりして、誘電体板が破損する恐れなどが生じる。
【0006】
このような問題に対処するため、上記特許文献1のプラズマ処理装置では、例えば、1枚の平板で構成されるマスク板によって、スリットを真空容器の内側から間隙を空けて覆うことが考えられる。このような構成であれば、スリット板に形成されたスリットをマスク板によって真空容器の内側から覆うことで、真空容器の内側から視て誘電体板が隠れるようにしているので、導電性の飛来物等が誘電体板に付着して汚染するのを防止できる。
【0007】
一方、上記のようなマスク板を備える場合、アンテナから発生した高周波磁場の透過率を低下させないように、マスク板の厚みはより薄い方が好ましい。しかしながら、上記のマスク板は1枚の平板であるので、薄く作製しようとするとマスク板にそりが発生して、マスク板が変形してしまう。
【0008】
また、生成したプラズマの熱又はプラズマによる被処理物からの輻射によって、マスク板が加熱されるので、マスク板が加熱によって変形することを防ぐために、マスク板の材質は、熱膨張率が小さいMo又はW等の重金属で形成されることが望ましい。一方、マスク板には、スリット板に形成されたスリットを覆う梁状領域の他に、磁場を透過させるスリットが梁状領域の間に形成されている。Mo又はWは切削加工することが難しいので、スリットを形成するようにマスク板を切削加工することは困難であり、また、そのようにマスク板を切削加工するにはコストもかかる。
【0009】
本発明は、かかる問題を一挙に解決するべくなされたものであり、真空容器の外部にアンテナを配置し、誘電体板とスリット板とを重ねて磁場透過窓を構成したプラズマ処理装置において、スリット板に形成されたスリットを覆うマスク部材の厚みを薄くし、かつ、熱膨張率が小さい材質をマスク部材に用いることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係るプラズマ処理装置は、真空容器の外部に設けられたアンテナに高周波電流を流して前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ処理装置であって、前記真空容器の前記アンテナに臨む位置に形成された開口を塞ぐスリット板と、前記スリット板に形成された複数のスリット開口を前記真空容器の外側から塞ぐ誘電体板と、前記スリット開口毎に設けられ、前記スリット開口を前記真空容器の内側から間隙を開けて覆う複数のマスク部材と、前記複数のマスク部材を前記スリット開口毎に対応して固定する固定機構とを備えることを特徴とする。
【0011】
このような構成であれば、スリット開口それぞれにマスク部材が設けられるので、スリット板を1枚の平板で覆うマスク板と比較して、各マスク部材の大きさが小さくなる。したがって、加工時にマスク部材にそりが発生しにくくなり、マスク部材の厚みを薄くすることができる。その結果、アンテナから発生した高周波磁場の透過率が低下することを抑制することができる。
また、マスク部材がスリット開口毎に設けられており、スリットを形成するようにマスク部材を切削加工する必要がないので、熱膨張率が小さいMo又はW等の重金属をマスク部材の材質に用いることができ、加熱によるマスク部材の変形を抑制することができる。
【0012】
前記スリット開口は、前記アンテナに交差する方向に長手方向を有する矩形状をなしており、前記マスク部材は、前記スリット開口の長手方向における一方の端部から他方の端部に亘って設けられる長尺状をなすものであり、前記固定機構は、前記マスク部材を前記スリット板へ押さえる押え部材と、前記押え部材又は前記スリット板に形成され、前記マスク部材の長手方向の端部と嵌り合う嵌合部とを備えるものが好ましい。
このような構成であれば、嵌合部によってマスク部材が位置決めされるので、押え部材がマスク部材を押さえた状態において、マスク部材がずれることを抑制することができる。また、マスク部材は、スリット開口の長手方向に亘って設けられるので、マスク部材をスリット開口に対応して固定することができ、導電性の飛来物等が誘電体板に付着して汚染することを防止できる。
【0013】
前記マスク部材は、前記スリット開口毎に複数備えられ、前記スリット開口に複数備えられたマスク部材は、互いに間隙を空けて設けられて前記スリット開口を覆うものが挙げられる。
このような構成であれば、スリット開口を1つのマスク部材で覆う場合と比較して、アンテナの長手方向に沿った各マスク部材の幅が小さくなるので、各マスク部材に生じる誘導電流を小さくでき、高周波磁場の透過率の低下をより抑えることができる。
また、複数のマスク部材は互いに間隙を空けて設けられるので、複数のマスク部材が互いに接触することによりアンテナに沿って生じ得るプラズマ密度のムラを抑制することができる。
【0014】
前記マスク部材は、前記アンテナの長手方向に沿って前記スリット開口毎に複数備えられ、長手方向の長さが互いに異なる長尺状をなしており、前記スリット板の厚み方向において、前記真空容器の内側に向かうにつれて、長手方向に長い方のマスク部材が配置され、前記嵌合部は、前記アンテナの長手方向に沿って設けられ、各マスク部材の端部それぞれに嵌り合う複数の凹部をさらに備え、前記複数の凹部の隣り合う部分が連通することによって形成される連通壁と、前記連通壁に対向して設けられる対向壁とによって、長手方向に長い方のマスク部材の端部を挟むように設けられるものが挙げられる。
このような構成であれば、各マスク部材は、連通壁及び対向壁によってアンテナの長手方向に対して固定されるので、各マスク部材がアンテナの長手方向にずれることを防止することができる。特に長手方向に長い方のマスク部材をスリット板に取り付ける場合、当該マスク部材がスリット板から脱落することを防ぐことができる。
また、複数の凹部の隣り合う部分が連通しているので、スリット開口毎に複数備えられたマスク部材は、真空容器の内側から視て、隙間なく設けられることとなる。したがって、スリット開口毎に複数備えられたマスク部材が、真空容器の内側から視て、誘電体板を隙間なく覆うので、導電性の飛来物等が誘電体板に付着して汚染するのを防止できる。
【0015】
前記プラズマ処理装置は、前記スリット板と前記マスク部材との間隙内に、前記アンテナの長手方向に沿って移動する荷電粒子を遮蔽する遮蔽壁が設けられているものが挙げられる。
このような構成であれば、間隙内におけるアンテナの長手方向に沿った荷電粒子の移動を遮蔽壁により抑制できるので、マスク部材とスリット板との間におけるプラズマの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、真空容器の外部にアンテナを配置し、誘電体板とスリット板とを重ねて磁場透過窓を構成したプラズマ処理装置において、スリット板に形成されたスリットを覆うマスク部材の厚みを薄くし、かつ、熱膨張率が小さい材質をマスク部材に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態のプラズマ処理装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図2】同実施形態における磁場透過窓付近の構成を真空容器の内側から見た斜視図。
【
図3】同実施形態における磁場透過窓付近の構成を示す分解斜視図。
【
図4】同実施形態における磁場透過窓付近の構成を真空容器の内側から視た平面図。
【
図5】(a)
図4におけるA-A線断面図、(b)A-A線断面図におけるB部を拡大した部分拡大図。
【
図7】その他の実施形態における磁場透過窓付近の構成を真空容器の内側から視た平面図。
【
図8】(a)
図7におけるA-A線断面図、(b)A-A線断面図におけるB部を拡大した部分拡大図。
【
図10】その他の実施形態における磁場透過窓付近の構成を真空容器の内側から視た平面図。
【
図11】(a)
図10におけるA-A線断面図、(b)押え部材を外した場合における、
図10のB部を拡大した部分拡大斜視図。
【
図12】その他の実施形態における、アンテナと固定機構との間をアンテナの長手方向に沿って切った場合の磁場透過窓付近の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に示すいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し又は誇張して模式的に描かれている場合がある。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0019】
<装置構成>
本実施形態のプラズマ処理装置100は、誘導結合型のプラズマPを用いて基板Oに処理を施すものである。ここで、基板Oは、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等である。また、基板Oに施す処理は、例えば、プラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0020】
なお、このプラズマ処理装置100は、プラズマCVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0021】
具体的にプラズマ処理装置100は、
図1に示すように、真空排気され且つガスが導入される真空容器1と、真空容器1の外部に設けられたアンテナ2と、アンテナ2に高周波を印加する高周波電源3とを備えたものである。かかる構成において、アンテナ2に高周波電源3から高周波を印加することによりアンテナ2には高周波電流IRが流れて、真空容器1内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0022】
真空容器1は、例えば金属製の容器であり、その壁(ここでは上壁1a)には、厚さ方向に貫通する開口1xが形成されている。この真空容器1は、ここでは電気的に接地されており、その内部は真空排気装置4によって真空排気される。
【0023】
また、真空容器1内には、例えば流量調整器(図示省略)や真空容器1に設けられた1又は複数のガス導入口11を経由して、ガスが導入される。ガスは、基板Oに施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVD法によって基板に膜形成を行う場合には、ガスは、原料ガス又はそれを希釈ガス(例えばH2)で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4の場合はSi膜を、SiH4+NH3の場合はSiN膜を、SiH4+O2の場合はSiO2膜を、SiF4+N2の場合はSiN:F膜(フッ素化シリコン窒化膜)を、それぞれ基板上に形成することができる。
【0024】
この真空容器1の内部には、基板Oを保持する基板ホルダ5が設けられている。この例のように、基板ホルダ5にバイアス電源12からバイアス電圧を印加するようにしても良い。バイアス電圧は、例えば負の直流電圧、負のバイアス電圧等であるが、これに限られるものではない。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマP中の正イオンが基板Oに入射する時のエネルギーを制御して、基板Oの表面に形成される膜の結晶化度の制御等を行うことができる。基板ホルダ5内に、基板Oを加熱するヒータ51を設けておいても良い。
【0025】
アンテナ2は、
図1に示すように、真空容器1に形成された開口1xに臨むように配置されている。なお、アンテナ2の本数は1本に限らず、複数本のアンテナ2を設けても良い。
【0026】
高周波電源3は、整合回路31を介してアンテナ2に高周波電流IRを流すことができる。高周波の周波数は例えば一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではなく適宜変更してもよい。
【0027】
このプラズマ処理装置100は、真空容器1の壁(上壁1a)に形成された開口1xを真空容器1の外側から塞ぐスリット板6と、スリット板6に形成されたスリット開口6xを真空容器1の外側から塞ぐ誘電体板7と、スリット開口6x毎に設けられ、各スリット開口6xを真空容器1の内側から間隙Gを空けて覆う複数のマスク部材8と、複数のマスク部材8をスリット開口毎に対応して固定する固定機構9とをさらに備える。
【0028】
スリット板6は、アンテナ2から生じた高周波磁場を真空容器1内に透過させるとともに、真空容器1の外部から真空容器1の内部への電界の入り込みを防ぐものである。具体的にこのスリット板6は平板状をなしており、その厚さ方向に貫通してなるスリット開口6xが複数形成される。スリット開口6xは、アンテナ2に交差する方向に長手方向を有する矩形状をなすものである。このスリット板6は、後述する誘電体板7よりも機械強度が高いことが好ましく、誘電体板7よりも厚み寸法が大きいことが好ましい。複数のスリット開口6xは、厚さ方向から視て、互いに平行であって、かつ、アンテナ2に交差するように(具体的には直交するように)形成されている。すなわち、複数のスリット開口6xの間には、各スリット開口6xに平行な梁状領域6zが形成されている。複数のスリット開口6xはいずれも同形状(具体的には平面視矩形状)であり、アンテナ2の長手方向に沿った長さ(幅)は、例えば5mm以上30mm以下であるがこれに限らない。
【0029】
より具体的に説明すると、スリット板6は、例えばCu、Al、Zn、Ni、Sn、Si、Ti、Fe、Cr、Nb、C、Mo、W又はCoを含む群から選択される1種の金属又はそれらの合金(例えばステンレス合金、アルミニウム合金等)等の金属材料を圧延加工(例えば冷間圧延や熱間圧延)などにより製造したものであり、例えば厚みが約5mmのものである。ただし、製造方法や厚みはこれに限らず仕様に応じて適宜変更して構わない。
【0030】
このスリット板6は、平面視において真空容器の開口1xよりも大きいものであり、上壁1aに支持された状態で開口1xを塞いでいる。スリット板6と上壁1aとの間には、Oリングやガスケット等のシール部材S(
図1参照)が介在しており、これらの間は真空シールされている。
【0031】
誘電体板7は、スリット板6において真空容器1の外側を向く外向き面61(真空容器1の内部を向く内向き面の裏面)に設けられて、スリット板6のスリット開口6xを塞ぐものである。
【0032】
誘電体板7は、全体が誘電体物質で構成された平板状をなすものであり、例えばアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、石英ガラス、無アルカリガラス等の無機材料、フッ素樹脂(例えばテフロン)等の樹脂材料等からなる。なお、誘電損を低減する観点から、誘電体板7を構成する材料は、誘電正接が0.01以下のものが好ましく、0.005以下のものがより好ましい。
【0033】
ここでは誘電体板7の板厚をスリット板6の板厚よりも小さくしているが、これに限定されず、例えば真空容器1を真空排気した状態において、スリット開口6xから受ける真空容器1の内外の差圧に耐え得る強度を備えれば良く、スリット開口6xの数や長さ等の仕様に応じて適宜設定されてよい。ただし、アンテナ2と真空容器1との間の距離を短くする観点からは薄い方が好ましい。
【0034】
かかる構成により、スリット板6及び誘電体板7は、アンテナ2から発生した磁場を透過させる磁場透過窓Wとして機能を担う。すなわち、高周波電源3からアンテナ2に高周波を印加すると、アンテナ2から発生した高周波磁場が、スリット板6及び誘電体板7からなる磁場透過窓Wを透過して真空容器1内に形成(供給)される。これにより、真空容器1内の空間に誘導電界が発生し、誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0035】
然して、マスク部材8は、スリット板6において真空容器1の内側を向く内向き面62(真空容器1の内部を向く内向き面の裏面)に設けられて、スリット板6のスリット開口6xを覆うものである。
【0036】
具体的には、
図2~
図6に示すように、マスク部材8は、スリット開口6xの長手方向における一方の端部6x1から他方の端部6x2に亘って設けられる長尺状をなしており、本実施形態において、マスク部材8は、アンテナ2に交差する方向に長手方向を有する矩形平板状をなす。より詳細には、マスク部材8の長手方向の長さは、スリット開口6xの長手方向の長さよりも長く、アンテナ2の長手方向に沿ったマスク部材8の長さ(幅)は、アンテナ2の長手方向に沿ったスリット開口6xの幅と略同一である。
【0037】
また、マスク部材8は、スリット板6の厚さ方向から見てスリット開口6xと平行に設けられて、スリット開口6xの略全体を覆っている。なお、マスク部材8は、スリット開口6xの一部を覆うように形成されていてもよい。また、磁場の透過率を向上させる観点からマスク部材8の幅は狭い程好ましく、例えば10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。
【0038】
さらに、複数のマスク部材8は、アンテナ2の長手方向から視て互いに平行に設けられる。ここでは、各マスク部材8は、アンテナ2に交差するように(具体的には直交するように)設けられ、互いに同一の平板状をなしている。また、各マスク部材8は、スリット板6の厚み方向から視て各スリット開口6xと平行に設けられて、各マスク部材8が各スリット開口6xの略全部を覆っている。
【0039】
その上、マスク部材8は、例えばMo又はWといった熱膨張率が小さい重金属又はそれらの合金等の金属材料により構成されている。マスク部材8の厚みは、スリット板6の厚みより小さいことが好ましく、例えば約5mm以下のものである。ただし、マスク部材8の厚みはこれに限らず仕様に応じて適宜変更して構わない。
【0040】
固定機構9は、各マスク部材8が各スリット開口6xを覆うように、各マスク部材8を位置決めして固定するものである。具体的には、
図2~
図6に示すように、固定機構9は、スリット板6に形成され、マスク部材8の長手方向の端部と嵌り合う嵌合部91と、マスク部材8をスリット板6へ押さえる押え部材92とを備える。
【0041】
嵌合部91は、スリット板6の内向き面62に形成され、スリット開口6xの両端部6x1、6x2に対応して設けられる。本実施形態において、嵌合部91は、直方体の一部をなす凹部で構成され、嵌合部91を構成する凹部は、アンテナ2の長手方向に沿った長手方向を有している。具体的には、嵌合部91の長手方向の長さは、アンテナ2の長手方向に沿ったマスク部材8の長さ(幅)と略同一である。また、凹部の長手方向を構成する一辺は、スリット開口6xの両端部6x1、6x2の真空容器1の内側の辺と略一致している。さらに、複数の嵌合部91は、アンテナ2の長手方向に沿って設けられ、アンテナ2の長手方向に沿った梁状領域6zの長さ(幅)だけ互いに平行に離れて設けられる。
【0042】
また、本実施形態において、嵌合部91には、マスク部材8が載置される載置面91aが形成される。具体的には、載置面91aが内向き面62よりも真空容器1の内側に設けられることによって、各マスク部材8は、各スリット開口6xを真空容器1の内側から間隙Gを開けて覆っている。これにより、アンテナ2に沿ってマスク部材8及びスリット板に生じる誘導電流を小さくでき、高周波磁場の透過率の低下を効率よく抑制できる。なお、マスク部材8の外向き面とスリット板6の内向き面62との間隙Gの寸法は、5mm以下の値に設定されているのが好ましい。
【0043】
より具体的に説明すると、嵌合部91は、スリット板6と同種の材質で構成されており、例えばCu、Al、Zn、Ni、Sn、Si、Ti、Fe、Cr、Nb、C、Mo、W又はCoを含む群から選択される1種の金属又はそれらの合金(例えばステンレス合金、アルミニウム合金等)等の金属材料を圧延加工(例えば冷間圧延や熱間圧延)などにより製造したものである。ただし、嵌合部91は、スリット板6と同種の材質で構成されていなくともよい。
【0044】
押え部材92は、アンテナ2の長手方向に沿った長尺状をなし、マスク部材8を押さえた状態において嵌合部91と嵌り合うものである。具体的に押え部材92には、嵌合部91を構成する凹部と嵌り合う凸部921が、押え部材92の長手方向に沿って複数形成され、アンテナ2の長手方向に沿った梁状領域6zの長さ(幅)だけ互いに平行に離れて設けられる。本実施形態において、凸部921は、アンテナ2の長手方向に沿って延びる直方体状をなしており、凸部921において、アンテナ2の長手方向に沿った長さ及びアンテナ2と交差する方向の長さは、それぞれ嵌合部91の凹部の長手方向及び短手方向の長さと略同一である。
【0045】
なおこの実施形態では、スリット板6には水等の冷却媒体が流れる流路6cが形成されている(又は設けられている。)。この流路6cは、固定機構9の近傍にアンテナ2の長手方向に沿って形成されている。ここでは、流路6cは、スリット板6の厚み方向に沿って固定機構9の直上に位置するように形成されている。
【0046】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態のプラズマ処理装置100によれば、スリット板6を1枚の平板で覆うマスク板と比較して、スリット開口6xそれぞれにマスク部材8が設けられるので、各マスク部材8の大きさが小さくなる。したがって、マスク部材8にそりが発生しにくくなり、マスク部材8の厚みを薄く加工することができる。その結果、アンテナ2から発生した高周波磁場の透過率が低下することを抑制することができる。
また、各マスク部材8がスリット開口6x毎に設けられており、スリットを形成するようにマスク部材8を切削加工する必要がないので、熱膨張率が小さいMo又はW等の重金属をマスク部材8の材質に用いることができ、加熱によるマスク部材8の変形を抑制することができる。
【0047】
さらに、本実施形態のプラズマ処理装置100によれば、嵌合部91によってマスク部材8が位置決めされるので、押え部材92がマスク部材8を押さえた状態において、マスク部材8がずれることを抑制することができる。また、マスク部材8は、スリット開口6xの長手方向に亘って設けられるので、マスク部材8をスリット開口6xに対応して固定することができ、導電性の飛来物等が誘電体板に付着して汚染することを防止できる。
【0048】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0049】
本実施形態において、マスク部材8の形状は矩形平板状であったが、マスク部材8の形状は、柱状その他の長尺状であってもよい。
【0050】
本実施形態において、嵌合部91は、スリット板6に形成されるものであったが、嵌合部91は、押え部材92に形成されていてもよい。
【0051】
他の実施形態のプラズマ処理装置100では、
図7~
図9に示すように、マスク部材8がスリット開口6x毎に複数備えられ、スリット開口6xに複数備えられたマスク部材8は、互いにずれて設けられてスリット開口6xを覆うようにしてもよい。この場合、固定機構9によって、各マスク部材8は、アンテナ2の長手方向に沿って互いにずれて設けられるとともに、スリット板6の厚み方向から視ても互いに間隙G‘を空けて設けられる。なお、各マスク部材8は、アンテナ2の長手方向又はスリット板6の厚さ方向から視て互いに重複していてもよく、重複してなくてもよい。また各マスク部材8間の間隙G’の大きさは特に限定されない。さらに、
図7~
図9では、スリット開口6xごとに2つのマスク部材8が設けられているが、スリット開口6xごとに設けられるマスク部材8の個数は3つ以上であってもよい。
【0052】
この構成により、スリット開口6xを1つのマスク部材8で覆う場合と比較して、アンテナ2の長手方向に沿った各マスク部材8の幅が小さくなるので、各マスク部材8に生じる誘導電流を小さくでき、高周波磁場の透過率の低下をより抑えることができる。また、複数のマスク部材8が互いに間隙G’を空けて設けられるので、複数のマスク部材8が互いに接触することによりアンテナ2に沿って生じ得るプラズマ密度のムラを抑制することができる。
【0053】
また、他の実施形態のプラズマ処理装置100では、
図10及び
図11に示すように、マスク部材8が、アンテナ2の長手方向に沿ってスリット開口6x毎に複数備えられ、長手方向の長さが互いに異なる長尺状をなしており、スリット板6の厚み方向において、真空容器1の内側に向かうにつれて、長手方向に長い方のマスク部材8’が配置されるようにしてもよい。この場合、嵌合部91は、アンテナ2の長手方向に沿って設けられ、各マスク部材8の端部それぞれに嵌り合う複数の凹部をさらに備え、複数の凹部の隣り合う部分が連通することによって形成される連通壁w1と、連通壁w1に対向して設けられる対向壁w2とによって、長手方向に長い方のマスク部材8’の端部を挟むように設けられるようにしてもよい。
【0054】
この実施形態において、嵌合部91は、長手方向に短い方のマスク部材8と嵌り合う第1凹部911と、長手方向に長い方のマスク部材8’と嵌り合う第2凹部912とを備える。第1凹部911は、第2凹部912よりもスリット開口6xの端部6x1、6x2の近くに設けられ、マスク部材8が載置される第1凹部911の載置面は、スリット板6の厚み方向から視て、スリット板6の内向き面62とマスク部材8’が載置される第2凹部912の載置面との間に形成される。また、第1凹部911及び第2凹部912は互いに隣接して設けられることによって連通壁w1が形成され、第2凹部912には、連通壁w1と対向する対向壁w2が形成される。連通壁w1及び対向壁w2は、マスク部材8’の短手方向の長さと略同一だけ互いに平行に離れて設けられる。
【0055】
この構成により、各マスク部材8をスリット板6に取り付ける場合、各マスク部材8、8’は、連通壁w1及び対向壁w2によって固定されるので、各マスク部材8、8’がアンテナ2の長手方向にずれることを防止することができる。特に、長手方向に長い方のマスク部材8’をスリット板6に取り付ける場合に、当該マスク部材8’がスリット板6から脱落することを防ぐことができる。
また、第1凹部911及び第2凹部912の隣り合う部分が連通しているので、スリット開口6x毎に複数備えられたマスク部材8、8’は、真空容器1の内側から視て、隙間なく設けられることとなる。したがって、スリット開口6x毎に複数備えられたマスク部材8、8’が、真空容器1の内側から視て、誘電体板7を隙間なく覆うので、導電性の飛来物等が誘電体板7に付着して汚染するのを防止できる。
【0056】
また他の実施形態のプラズマ処理装置100では、スリット板6とマスク部材8との間隙G内に、アンテナ2の長手方向に沿って移動する荷電粒子を遮蔽する遮蔽壁SWが設けられていてもよい。この遮蔽壁SWは、アンテナ2の長手方向に対して交差する(具体的には直交する)ように形成された壁面を有してよい。アンテナ2の長手方向から視て、遮蔽壁SWは間隙Gの全部又は一部を遮蔽するように形成されてよい。そしてこの遮蔽壁SWは、アンテナ2の長手方向に沿って複数設けられてもよい。複数の遮蔽壁SWは互いに平行であり、アンテナ2の長手方向に沿って一定の間隔(ピッチ)で設けられているのが好ましい。アンテナ2の長手方向に沿った複数の遮蔽壁SW間の間隔(ピッチ)は、スリット板6のスリット開口6x間の間隔と等しくてもよく、異なっていてもよい。
【0057】
具体的には、例えば
図12に示すように、スリット板6の梁状領域6zの内向き面に、マスク部材8の外向き面81に向かって間隙G内に突き出す突出部6pが形成されており、この突出部6pにより遮蔽壁SWが構成されてもよい。または、マスク部材8の外向き面81に、スリット板6の内向き面62に向かって間隙G内に突き出す突出部が形成されており、この突出部により遮蔽壁SWが構成されてもよい。
【0058】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0059】
100・・・プラズマ処理装置
O ・・・基板
P ・・・誘導結合プラズマ
2 ・・・真空容器
3 ・・・アンテナ
6 ・・・スリット板
6x ・・・スリット開口
7 ・・・誘電体板
8 ・・・マスク部材
9 ・・・固定機構
91 ・・・嵌合部
92 ・・・押え部材
W ・・・磁場透過窓
S ・・・シール