IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧

特開2024-120295放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬
<>
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図1
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図2
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図3
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図4
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図5
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図6
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図7
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図8
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図9
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図10
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図11
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図12
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図13
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図14
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図15
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図16
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図17
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図18
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図19
  • 特開-放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120295
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/072 20060101AFI20240829BHJP
   C07K 5/093 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 5/113 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20240829BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240829BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20240829BHJP
   C07F 13/00 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
C07K5/072
C07K5/093
C07K5/113
C07K7/06
C07K7/08
A61K51/08 200
A61K51/08 100
A61P29/00
A61P19/08
A61P35/04
C07F5/00 H CSP
C07F13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026987
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 数馬
(72)【発明者】
【氏名】三代 憲司
(72)【発明者】
【氏名】淵上 剛志
(72)【発明者】
【氏名】宗兼 将之
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
4H048
4H050
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084NA14
4C084ZA08
4C084ZA96
4C084ZB26
4C085HH03
4C085KA09
4C085KA29
4C085KB82
4C085LL18
4C085LL20
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA11
4H045BA12
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045EA20
4H045FA33
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB20
4H048VA20
4H048VA30
4H048VA85
4H048VB10
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
4H050WB13
4H050WB14
4H050WB21
(57)【要約】
【解決課題】 99mTc-MDPや99mTc-HMDPに対して代替可能で、低コストで供給可能、かつ骨に対して高い蓄積を示す放射性同位元素含有化合物、およびそれを含み、各種骨イメージング剤や骨転移の疼痛緩和薬剤のような骨用医薬を提供する。
【解決手段】 放射性同位元素含有化合物は、放射性同位元素の原子と配位している酸素原子と窒素原子と硫黄原子との少なくとも何れかを複数有する配位子に、直接又はスペーサー基を介して、オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が結合している錯化合物、又はその錯化合物の薬学的に許容される塩である。具体的には、前記放射性同位元素が67Ga、68Ga、90Y、99mTc、177Lu、186Re、188Re、76Br、123I、131I及び211Atから選ばれる少なくとも何れかであって、前記配位子が、DOTA、HBED-CC、HINIC、及びMAG3から選ばれる少なくとも何れかである。骨用医薬は、この放射性同位元素含有化合物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性同位元素の原子と配位している酸素原子と窒素原子と硫黄原子との少なくとも何れかを複数有する配位子に、直接又はスペーサー基を介して、オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が結合している錯化合物、又はその錯化合物の薬学的に許容される塩であることを特徴とする放射性同位元素含有化合物。
【請求項2】
前記放射性同位元素が、67Ga、68Ga、90Y、99mTc、177Lu、186Re、188Re、76Br、123I、131I及び211Atから選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1に記載の放射性同位元素含有化合物。
【請求項3】
前記配位子が、DOTA、HBED-CC、HYNIC、及びMAG3から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1に記載の放射性同位元素含有化合物。
【請求項4】
前記放射性同位元素とそれに配位している前記配位子とが、67Ga、68Ga、90Y又は177LuとDOTA;67Ga又は68GaとHBED-CC;及び99mTcとHYNIC;99mTc、186Re又は188ReとMAG3から選ばれる組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の放射性同位元素含有化合物。
【請求項5】
前記錯化合物が、下記化学式(1)
【化1】
(式(1)中、nは2~14である。)で表されるGa錯化合物(67Ga-HBED-CC-(Gla))、又は下記化学式(2)
【化2】
(式(2)中、nは2~14である。)
で表されるTc錯化合物(99mTc-HYNIC-(Gla):nは上記に同じ)であることを特徴とする請求項4に記載の放射性同位元素含有化合物。
【請求項6】
前記錯化合物中、前記オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が、γ-カルボキシグルタミン酸の5~11分子のオリゴペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の放射性同位元素含有化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の放射性同位元素含有化合物を含むことを特徴とする骨用医薬。
【請求項8】
前記放射性同位元素が67Ga、68Ga、99mTc、76Br及び123Iから選ばれるイメージング核種であり、骨イメージング剤であることを特徴とする請求項7に記載の骨用医薬。
【請求項9】
前記放射性同位元素が90Y、177Lu、186Re、188Re、131I及び211Atから選ばれる治療核種であり、骨転移の疼痛緩和薬剤であることを特徴とする請求項7に記載の骨用医薬。
【請求項10】
オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)からなることを特徴とする骨用医薬キャリア中間体。
【請求項11】
放射性同位元素の原子と配位する酸素原子と窒素原子と硫黄原子との少なくとも何れかを複数有する配位子に、直接又はスペーサー基を介して、オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が結合していることを特徴とする骨用医薬前駆体。
【請求項12】
放射性同位元素の原子と配位する酸素原子と窒素原子と硫黄原子との少なくとも何れかを複数有する配位子に、直接又はスペーサー基を介して、オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が結合している骨用医薬前駆体に、用時に前記放射性同位元素の原子を配位させ、錯化合物、又はその錯化合物の薬学的に許容される塩を含有する放射性同位元素含有化合物を、含有させた骨用医薬を調製することを特徴とする骨用医薬用時調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨イメージングや骨転移の疼痛緩和を可能にする放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、増殖因子を豊富に含むためがんにとって増殖しやすい環境であり、がんが転移しやすい組織である。Positron Emission Tomography (PET)やSingle Photon Emission Computed Tomography (SPECT)を用いた核医学診は、病巣部において形態変化に先行して起こる機能的変化を画像化することが可能な診断法であり、転移性骨腫瘍の早期の機能的変化を発見することができる。核医学検査において骨シンチグラフィ検査は頻度が高いものである。
【0003】
また、従来、臨床では99mTc-methylene diphosphonate ([99mTc]Tc-MDP)や99mTc-hydroxymethylene diphosphonate ([99mTc]Tc-HMDP)のように35年以上前に承認された薬剤が核医学検査に使用されている。
【0004】
上記以外の放射性核種を用いた骨造影剤として、DOTAで67Gaをキレートさせたアスパラギン酸誘導体[67Ga]Ga-DOTA-Dが開示されている(非特許文献1)。この非特許文献1は、アスパラギン酸の数n=11、14で、骨に対する高い蓄積があることを示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ogawa K, Ishizaki A, Takai K, Kitamura Y, Kiwada T, Shiba K, et al. (2013) Development of Novel Radiogallium-Labeled Bone Imaging Agents Using Oligo-Aspartic Acid Peptides as Carriers. PLoS ONE 8(12): e84335. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0084335
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、99mTc-MDPや99mTc-HMDPに関し、使用されている核種である99mTcのほとんどを海外からの輸入に頼っている。2009年には、カナダの原子炉が停止したことにより臨床使用が滞ったことがある。このため、99mTc-MDPや99mTc-HMDPは、安定供給に問題がある。
【0007】
また、アスパラギン酸誘導体[67Ga]Ga-DOTA-Dは、アスパラギン酸の数n=11、14で、特に骨に対する高い蓄積が示されているが、アスパラギン酸の数nが小さいものでは骨に対して十分に高い蓄積があるとはいえない。このため、アスパラギン酸が連続した長いペプチド鎖を合成する必要があり、その合成のために手間がかかるだけでなくコスト高となる問題がある。
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、99mTc-MDPや99mTc-HMDPに対して代替可能で、低コストで供給可能、かつ骨に対して高い蓄積を示す放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた本発明の放射性同位元素含有化合物は、放射性同位元素の原子と配位している酸素原子と窒素原子と硫黄原子との少なくとも何れかを複数有する配位子に、直接又はスペーサー基を介して、オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)(以下、γ-カルボキシグルタミン酸をGlaで示すこともある)が結合している錯化合物、又はその錯化合物の薬学的に許容される塩であることを特徴とする。
【0010】
この放射性同位元素含有化合物は、例えば、前記放射性同位元素が、67Ga、68Ga、90Y、99mTc、177Lu、186Re、188Re、76Br、123I、131I及び211Atから選ばれる少なくとも何れかであるというものである。
【0011】
この放射性同位元素含有化合物は、例えば、前記配位子が、DOTA、HBED-CC、HYNIC、及びMAG3から選ばれる少なくとも何れかであるというものである。
【0012】
この放射性同位元素含有化合物は、前記放射性同位元素とそれに配位している前記配位子とが、67Ga、68Ga、90Y又は177LuとDOTA;67Ga又は68GaとHBED-CC;99mTcとHYNIC;及び99mTc、186Re又は188ReとMAG3から選ばれる組み合わせであることが好ましい。
【0013】
この放射性同位元素含有化合物は、より具体的には、下記化学式(1)
【化1】
(式(1)中、nは2~14である。)で表されるGa錯化合物(67Ga-HBED-CC-(Gla):nは上記に同じ)、又は下記化学式(2)
【化2】
(式(2)中、nは2~14である。)
で表されるTc錯化合物(99mTc-HYNIC-(Gla):nは上記に同じ)が挙げられる。
【0014】
この放射性同位元素含有化合物は、前記錯化合物中、前記オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が、γ-カルボキシグルタミン酸の5~11分子のオリゴペプチドであることが好ましい。
【0015】
前記の目的を達成するためになされた本発明の骨用医薬は、前記放射性同位元素含有化合物を含むことを特徴としている。
【0016】
この骨用医薬は、前記放射性同位元素が67Ga、68Ga、99mTc、76Br及び123Iから選ばれるイメージング核種であり、骨イメージング剤であるというものであってもよい。
【0017】
この骨用医薬は、前記放射性同位元素が90Y、177Lu、186Re、188Re、131I及び211Atから選ばれる治療核種であり、骨転移の疼痛緩和薬剤であるというものであってもよい。
【0018】
前記の目的を達成するためになされた本発明の骨用医薬キャリア中間体は、オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)からなるものである。
【0019】
前記の目的を達成するためになされた本発明の骨用医薬前駆体は、放射性同位元素の原子と配位する酸素原子と窒素原子と硫黄原子との少なくとも何れかを複数有する配位子に、直接又はスペーサー基を介して、オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が結合しているというものである。
【0020】
前記の目的を達成するためになされた本発明の骨用医薬用時調製方法は、放射性同位元素の原子と配位する酸素原子と窒素原子と硫黄原子との少なくとも何れかを複数有する配位子に、直接又はスペーサー基を介して、オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が結合している骨用医薬前駆体に、用時に前記放射性同位元素の原子を配位させ、錯化合物、又はその錯化合物の薬学的に許容される塩を含有する放射性同位元素含有化合物を、含有させた骨用医薬を調製するというものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の骨用医薬キャリア中間体を用いた放射性同位元素含有化合物、及びそれを含む骨用医薬によれば、99mTc-MDPや99mTc-HMDPに対して代替可能で、実用的に供給可能で、かつ骨に対して高い蓄積を示しつつ骨以外の非標的組織には殆ど集積を示さず、転移性骨腫瘍など造骨活性が高い部位を標的として明瞭に画像診断する骨イメージング剤にしたり、骨転移の疼痛緩和薬剤にしたりすることができる。
【0022】
骨用医薬は、骨イメージング剤や骨転移の疼痛緩和薬剤として使用するに際し、骨用医薬前駆体に、用時に前記放射性同位元素を効率よく配位させて放射性同位元素含有化合物を必要に応じて用時に調製することにより、半減期が数時間~数日、乃至数週間程度の放射性同位元素の有効性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、TLC分析(薄層クロマトグラフィー分析)によって解析した[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)のRf値を示し、放射性核種により[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)が高純度で標識されていることを示すグラフである。
図2図2は、TLC分析によって解析した[67Ga]GaClのRf値を示し、[67Ga]GaClが薄層クロマトグラフィーで展開されない(ネガティブコントロール)ことを示すグラフである。
図3図3は、ハイドロキシアパタイトに対する[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)の結合実験の結果を示すグラフである。
図4図4は、ハイドロキシアパタイトに対する[67Ga]Ga-HBED-CC-(L-Glu)の結合実験の結果を示すグラフである。
図5】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、血液への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)の取り込み量を組織重量あたりの投与した放射能に対する割合(%dose/g)で示すグラフである。
図6】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、肝臓への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)の取り込み量を組織重量あたりの投与した放射能に対する割合(%dose/g)で示すグラフである。
図7】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、腎臓への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)の取り込み量を組織重量あたりの投与した放射能に対する割合(%dose/g)で示すグラフである。
図8】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、骨への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nの取り込み量を組織重量あたりの投与した放射能に対する割合 (%dose/g)で示すグラフである。
図9】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、血液への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nの取り込み量に対する骨への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nの取り込み量の割合(0~1500倍)を示すグラフである。
図10】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、血液への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Glu)の取り込み量を組織重量あたりの投与した放射能に対する割合(%dose/g)で示すグラフである。
図11】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、肝臓への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Glu)の取り込み量を組織重量あたりの投与した放射能に対する割合(%dose/g)で示すグラフである。
図12】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、腎臓への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Glu)の取り込み量を組織重量あたりの投与した放射能に対する割合(%dose/g)で示すグラフである。
図13】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、骨への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Glu)の取り込み量を組織重量あたりの投与した放射能に対する割合(%dose/g)で示すグラフである。
図14】正常マウスにおける体内放射能分布実験において、血液への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Glu)の取り込み量に対する骨への[67Ga]Ga-HBED-CC-(Glu)の取り込み量の割合を示すグラフである。
図15】正常マウスに実施例3:[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)8を投与後180分経過後のSPECT/CT画像解析結果を示す図である。
図16】正常マウスに実施例1:[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)を投与後180分経過後のSPECT/CT画像解析結果を示す図である。
図17】正常マウスに比較例1:[67Ga]Ga-HBED-CC-(Glu)を投与後180分経過後のSPECT/CT画像解析結果を示す図である。
図18】正常マウスに参考例:[99mTc]Tc-MDPを投与後180分経過後のSPECT/CT画像解析結果を示す図である。
図19】ハイドロキシアパタイトとの親和性評価を示す図である。
図20】マウスへの[99mTc]Tc-HYNIC(tricine)(AcP)-(Gla)-OHを投与後180分経過後のSPECT/CT画像解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0025】
本発明を適用する放射性同位元素含有化合物は、67Ga、68Ga、90Y、99Tc、177Lu、186Re、188Re、76Br、123I、131I及び211Atから選ばれる放射性同位元素と配位(キレート)している酸素原子と窒素原子と硫黄原子との少なくとも何れかを複数有する配位子に直接、骨医薬用キャリア中間体であるオリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が結合、例えば共有結合、より具体的にはアミド結合をしている錯化合物からなる。
【0026】
放射性同位元素含有化合物は、射性同位元素と配位している配位子とオリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)とが、スペーサー基、例えばアミノ酸基、ペプチド基、エチレングリコール鎖基を介して結合していてもよく、その錯化合物の薬学的に許容される塩、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であってもよい。
【0027】
このオリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)は、2~14分子、好ましくは5~11分子のγ-カルボキシグルタミン酸が直接結合したオリゴマーであり、骨用医薬キャリア中間体、とりわけ骨イメージング剤用キャリア中間体や骨転移の疼痛緩和薬剤用キャリア中間体となるものである。用いられるγ-カルボキシグルタミン酸は、光学活性体であっても、ラセミ体(DL体)であってもよいが、オリゴアスパラギン酸を用いたアスパラギン酸誘導体[67Ga]Ga-DOTA-Dである場合にL体ペプチドでもD体ペプチドでも殆ど差が無かったのと同様に入手可能性の点からラセミ体で十分である。但し、光学活性体であれば、安価なγ-カルボキシ-L-グルタミン酸であることが好ましい。
【0028】
この放射性同位元素含有化合物を含む骨用医薬、例えば骨イメージング剤又は骨転移の疼痛緩和薬剤である骨用医薬のオリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が、骨親和性が高いことから、放射性同位体元素の原子と配位している配位子とを、骨へ輸送することができ、それによって、放射性同位体元素を放射性核種とし、骨造影に用いて例えば骨転移などを骨イメージング剤としてイメージングさせる診療に使用したり、骨転移の疼痛緩和薬剤として用いて治療に使用したりすることができる。
【0029】
骨に含まれているosteopontinやbone sialoproteinなどの非コラーゲンタンパク質には、アスパラギン酸やグルタミン酸といった酸性アミノ酸が多く含まれていることが知られている。これら酸性の必須アミノ酸オリゴマーが、骨の構成成分であるハイドロキシアパタイトに対する高い親和性に寄与しているということが近年の研究で明らかになった。
【0030】
放射性同位元素含有化合物は、骨へのさらなる集積を促進させるため、生体内においてハイドロキシアパタイトとの親和性が報告されている公知の酸性アミノ酸オリゴマーに代えて、γ-カルボキシグルタミン酸のオリゴマーを含むというものである。γ-カルボキシグルタミン酸は、一般的なタンパク質に認められない稀有な酸性アミノ酸の1つである。
【0031】
本願発明では、放射性同位体元素の原子と配位している配位子に、オリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)が結合していることにより、公知の酸性アミノ酸オリゴマーを用いた場合よりも、放射性同位体元素の原子ごと放射性同位元素含有化合物を骨に一層集積させることができた。
【0032】
放射性同位元素含有化合物は、骨イメージングや骨転移の疼痛緩和に用いるために、放射性核種をキレートする配位子を含む。このような配位子は、例えば、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、HBED-CC(N,N’-ビス-[2-ヒドロキシ-5-(カルボキシエチル)-ベンジル]-エチレンジアミン-N,N’-ジ酢酸)、HYNIC(6-ヒドラジノピリジン-3-カルボン酸)、MAG3(メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシン)のような配位子等がある。中でも、67Ga、68Ga、90Y又は177LuとDOTA;67Ga又は68GaとHBED-CC;及び99mTcとHYNIC;99mTc、186Re又は188ReとMAG3から選ばれる組み合わせが好ましい。とりわけ、前記の通り(67Ga-HBED-CC-(Gla))、99mTc-HYNIC-(Gla)が好ましい。
【0033】
骨イメージングには、67Gaや68GaとHBED-CCとのキレート、67Gaや68Gaや177Luや90YとDOTAとのキレート、99mTcや186Reや188ReとMAG3、99mTcとHYNICとのキレートが好ましいが、67Gaや68GaとHBED-CCとのキレートであると安定な錯体を形成し精製し易く半減期が68Gaで68分、67Gaで3.3日と比較的長くなお一層好ましい。
【0034】
放射性同位元素含有化合物は、骨イメージングに用いられるのに、Ga-HBED-CCとγ-カルボキシグルタミン酸が結合した化合物を用いることが好ましい。この化合物を適宜に調整して骨イメージング剤(骨造影剤)として用いることが好ましい。形成された放射性同位元素含有化合物(錯体)の有効性は、in vitroおよびin vivoにて評価することが望ましい。
【0035】
このような放射性同位元素含有化合物は、最も好ましい例として、下記化学式(1)
【化3】
で示されるGa錯化合物(式(1)中、nは2~14、好ましくは5~11である。)で表される化合物[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)である。
【0036】
本実施形態では、68Ga(半減期67.6分)の代替核種として、半減期が長く、取り扱いが容易な67Ga(半減期3.3日)を用いることが好ましい。
【0037】
放射性同位元素含有化合物は、[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)を例にすると、以下のようにして合成される。
まず、γ-カルボキシグルタミン酸の側鎖カルボキシ基がtBu基で保護され、N末端アミノ基がFmoc基(9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基)で保護されたアミノ酸誘導体を用いて、通常の固相合成によりジペプチド、更に同様にしてトリペプチドと順次伸長し、γ-カルボキシグルタミン酸ユニットが2~14ユニット結合したオリゴ(γ-カルボキシグルタミン酸)を骨イメージング用キャリア中間体として得る。次いで、脱Fmoc化した後、HBED-CC誘導体として公知の方法等の任意の方法で別途合成したHBED-CC-トリス(t-ブチルエステル)とアミド化し、酸性条件にて固相合成に用いた樹脂からの切り出し及び保護基の脱保護を行い、必要に応じカラムや液体クロマトグラフィーで精製し、骨イメージング剤前駆体にする。最後に、これへ用時に[67Ga]GaClを加えて、キレート化させて、放射性同位元素含有化合物にして、骨イメージング剤を得る。
なお、[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)に代えて、他の放射性同位元素-配位子からなる放射性同位元素含有化合物も同様にして合成することができる。
【0038】
骨用医薬である骨イメージング剤は、放射性同位元素含有化合物を生理食塩水へ溶解した水溶液にして、患者へ静脈内注射し、注射後5分間~3時間後、好ましくは1~3時間後に、SPECTもしくはPETカメラを用いて放射能分布を測定することにより、骨造影に用いることができる。とりわけ68Gaを放射性同位元素含有化合物に含有する場合はPET撮像ができることが重要なポイントである。
【0039】
骨用医薬として、骨イメージング剤の例を示したが、骨転移の疼痛緩和薬剤としては、90Yや177Luや186Reや188Reのような放射性同位元素とDOTA、MAG3のような配位子とのキレートを有する放射性同位元素含有化合物が好ましい。
【0040】
このような骨転移の疼痛緩和のための放射性同位元素と配位子とのキレートを有する放射性同位元素含有化合物は、[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)の例と同様にして、合成することができる。
【0041】
また、(67Ga-HBED-CC-(Gla))に代えて、骨転移の診断薬剤として、別な放射性同位元素含有化合物である99mTc-HYNIC-(Gla)(nは上記に同じ)で表されるTc錯化合物も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
このような骨転移の疼痛緩和薬剤は、例えば放射性同位元素含有化合物を生理食塩水へ溶解した水溶液にして、骨へのがん転移した患者に、静脈内注射することにより、疼痛緩和に用いることができる。
【実施例0043】
以下に、本発明を適用する放射性同位元素含有化合物を用いて骨用医薬とした実施例について、詳細に説明する。併せて本発明を適用外の比較例についても説明する。
【0044】
酸性アミノ酸としてγ-カルボキシグルタミン酸を含む化合物を合成し、それにGa-HBED-CCが結合した化合物を設計し、それらを実施例として評価した。また、骨イメージング剤としてのγ-カルボキシグルタミン酸を含む化合物の有効性を評価するため、同様の方法でGa-HBED-CCとL-グルタミン酸が結合した化合物の設計し、それらを比較例として評価した。
【0045】
(実施調製例1・実施例1)
1.Fmoc-Gla(OtBu)2-OH、HBED-CC-tris(tert-butyl ester)の合成
官能基を保護したFmoc-Gla(OtBu)2の合成、HBED-CC-tris(tert-butyl ester)の合成は、下記[化4]、[化5]のように行った。Fmoc-Gla(OtBu)2は当初L体が生成すると予想されたが、いずれかの合成の段階でラセミ化が起こったことから、その後の評価はラセミ体を用いて行った。
【0046】
(1)<Fmoc-Gla(OtBu)2の合成>
(1-1) [(Benzyloxy)carbonyl]serineの合成
水250 mL中にl-Serine (10.0 g, 0.1 mol)と炭酸水素ナトリウム (24.0 g, 0.3 mol)を加えた後、Benzyl chloroformate (16.2 mL, 0.1 mol: Z-Cl)を溶かしたDioxane (250 mL)を滴下して加えた。室温で24時間攪拌後、Dioxaneを減圧留去し、ジエチルエーテルで分液を行いZ-Clを除去した。0.5 M HClを加えて水層を酸性にし、酢酸エチルで目的物を抽出、濃縮を行い、目的物を得た。
【0047】
(1-2) Benzyl[benzyloxy(carbonyl)serinate]の合成
[(Benzyloxy)carbonyl]serine (10.0 g, 41.8 mmol)をDMF (20 mL)に溶かし、Cesium carbonate (13.6 g, 41.8 mmol)を加えて氷冷し、DMF (80 mL)にBenzyl bromide (5.9 mL, 50.2 mmol)を溶かした溶液を滴下して加えた。室温で24時間攪拌後、反応液に水を加え、Hexane:Ethyl acetate (1:1) (3 × 300 mL)で分液下した。有機層を脱水し、濃縮後、カラムクロマトグラフィーによって精製し、目的物を得た。
【0048】
(1-3) Benzyl N-[(benzyloxy)carbonyl]-O-(methylsulfonyl)serinateの合成
Benzyl[benzyloxy(carbonyl)serinate] (11.6 g, 35.2 mmol)をDichloromethane (140 mL)に溶かし、Trimethylamine (7.2 mL, 52.8 mmol)を加えた。溶液を窒素下で-20℃で攪拌しながら、Methanesulfonyl chloride(3.8 mL, 42.2 mmol)を加えて30分攪拌した。反応終了後、0.5 M HClを加えてクエンチし、分液後、Na2SO4で脱水を行い、濾過でNa2SO4を除去した後濃縮をした。目的物はカラムクロマトグラフィーで精製をした。
【0049】
(1-4) Benzyl 2-[[(benzyloxy)carbonyl]amino]-3-iodopropanoate の合成
Benzyl N-[(benzyloxy)carbonyl]-O-(methylsulfonyl)serinate (8.8 g, 21.6 mmol)のAcetone(50 mL)溶液を、NaI (4.8 g, 32.4 mmol)のAcetone(25 mL)懸濁液に滴下し、30℃で24時間攪拌した。酢酸エチルで分液し、飽和Na2S2O3水溶液 (2 × 100 mL)で洗浄後、有機層をNa2SO4で脱水を行い、濾過でNa2SO4を除去した後。その後カラムクロマトグラフィーによって目的物を精製した。
【0050】
(1-5) 3-Benzyl 1,1-di-tert-butyl 3-[[(Benzyloxy)carbonyl]amino]propane-1,1,3-tricarboxylateの合成
di-tert-butyl malonate (10.2 mL, 46.0 mmol)、NaH (60% dispersion in mineral oil, 0.9 g, 22.1 mmol)を氷冷したdry Tetrahydrofuranに混合し、1時間攪拌した。その後、Benzyl 2-[[(benzyloxy)carbonyl]amino]-3-iodopropanoate (8.0 g, 18.3 mmol)を溶かしたdry THF溶液を滴下し、窒素下、室温でさらに45分攪拌した。反応終了後、水を加えてクエンチし、Chloroform (3 × 120 mL)で分液した。有機層をNa2SO4で脱水し、濾過でNa2SO4を除去した後、濃縮し、その後カラムクロマトグラフィーによって目的物を精製した。
【0051】
(1-6) 2-Amino-5-(tert-butoxy)-4-(tert-butoxycarbonyl)-5-oxopentanoic acidの合成
3-Benzyl 1,1-di-tert-butyl 3-[[(Benzyloxy)carbonyl]amino]propane-1,1,3-tricarboxylate (5.2 g, 9.8 mmol)をdry Methanol (50 mL)に溶かし、20% Pd(OH)2/C (0.5 g)を加えて、水素下、室温で2時間攪拌した。セライトろ過後、溶液を濃縮して目的物を得た。
【0052】
(1-7) 2-[[[(9H-Fluoren-9-yl)methoxy]carbonyl]amino]-5-(tert-butoxy)-4-(tert-butoxycarbonyl)-5-oxopentanoic acid (Fmoc-Gla(OtBu)2-OH)の合成
2-Amino-5-(tert-butoxy)-4-(tert-butoxycarbonyl)-5-oxopentanoic acid (3.0g, 9.8 mmol)とNaHCO3 (2.5 g, 29.4 mmol)をAcetone (80 mL)に加えて、室温で2時間攪拌した。N-(9-Fluorenylmethoxycarbonyloxy)succinimide(Fmoc-OSu: 3.3 g, 9.8 mmol)をAcetone (20 mL)に加え、その溶液を混合し、24時間攪拌した。反応終了後、10% Citric acidを加えてpHを4にし、Ethyl acetate (3 × 120 mL)で分液した。有機層をNa2SO4で脱水し、濾過でNa2SO4を除去した後、濃縮し、その後カラムクロマトグラフィーによって目的物を精製した。
【0053】
【化4】
【0054】
(2)<HBED‐CC‐tris(tert-butyl ester)の合成>
(2-1) Methyl 3-(4-hydroxyphenyl)propanoateの合成
3-(4-Hydroxyphenyl)propanoic acid (7.0 g, 42 mmol)をdry MeOH 50 mLに溶かし、硫酸4.6 mLを滴下し、24時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去してその後水を加えた。ジクロロメタン (30 mL×3)で分液後、有機層を5% NaHCO3 (30 mL×2)で洗浄した。有機層をNa2SO4で脱水し、濾過でNa2SO4を除去した後、濃縮してカラムクロマトグラフィーで目的物を精製した。
【0055】
(2-2) Methyl 3-(3-formyl-4-hydroxyphenyl)propanoateの合成
Methyl 3-(4-hydroxyphenyl)propanoate (6.6 g, 36.8 mmol)、paraformaldehyde (8.8 g, 294.5 mmol)、MgSO4 (7.0 g, 73.6 mmol)をAnhydrous acetonitrile (100 mL)に加えて懸濁させ、TEA (14.9 g, 147.2 mmol)を滴下した後、4時間還流をした。反応終了後、水を加え、5 % HClを滴下してpHを酸性にした。トルエン(50 mL×3)で分液後、有機層を飽和食塩水(50 mL×2)で洗浄した。有機層をNa2SO4で脱水し、濾過でNa2SO4を除去した後、濃縮し、カラムクロマトグラフィーによって目的物を精製した。
【0056】
(2-3) tert-Butyl (2-aminoethyl)carbamateの合成
Ethylenediamine (16.7 mL, 250 mmol)とDi-tert-Butyl dicarbonate (5.5 g, 25 mmol)をそれぞれ190 mLと50 mLのジクロロメタンに溶かした後、混合して12時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去し、飽和Na2CO3水溶液を加えた。ジクロロメタン (10 mL×3)で分液後、Na2SO4で有機相の脱水を行い、濾過でNa2SO4を除去した後、窒素ガスで濃縮して目的物を得た。得られた目的物は更なる精製を行わず次の反応に用いた。
【0057】
(2-4) Methyl (E)-3-(3-(((2-((tert-butoxycarbonyl)amino)ethyl)imino)methyl)-4-hydroxyphenyl)propanoateの合成
Methyl 3-(3-formyl-4-hydroxyphenyl)propanoate (3.6 g, 17.3 mmol)とtert-Butyl (2-aminoethyl)carbamate (3.05 g, 19.0 mmol)をジクロロメタン(10 mL)に溶かし、MgSO4を加えて室温で24時間攪拌した。反応終了後、ろ過によりMgSO4を取り除き、溶媒を留去して目的物を得た。得られた目的物は更なる精製を行わず次の反応に用いた。
【0058】
(2-5) Methyl 3-(3-(((2-((tert-butoxycarbonyl)amino)ethyl)amino)methyl)-4-hydroxyphenyl)propanoateの合成
Methyl (E)-3-(3-(((2-((tert-butoxycarbonyl)amino)ethyl)imino)methyl)-4-hydroxyphenyl)propanoate (6.54 g, 19.0 mmol)とsodium borohydride (1.8 g, 47.6 mmol)を氷冷し、そこに2,2,2-Trifluoroethanol (45 mL)を滴下し、室温で1時間攪拌した。反応終了後、水を加えてクエンチし、ジクロロメタン (30 mL×3)で分液した。有機層をNa2SO4で脱水し、濾過でNa2SO4を除去した後、濃縮して目的物を得た。得られた目的物は更なる精製を行わず次の反応に用いた。
【0059】
(2-6) Methyl 3-(3-(((2-aminoethyl)amino)methyl)-4-hydroxyphenyl)propanoateの合成
Methyl 3-(3-(((2-((tert-butoxycarbonyl)amino)ethyl)amino)methyl)-4-hydroxyphenyl)propanoate (7.14 g, 20.3 mmol)に4.0 M HCl を含むEthyl acetate (100 mL)を加えて15分攪拌した。反応終了後、減圧ろ過により溶液を除いて目的物を得た。
【0060】
(2-7) tert-Butyl 3-(4-hydroxyphenyl)propanoateの合成
3-(4-Hydroxyphenyl)propanoic acid (4.5 g, 27 mmol)をDry DMF (25 mL)に溶かし、Carbonyldiimidazole (4.6 g, 28.4 mmol)を加えて40℃で4時間攪拌した。1,8-diazabicyclo [5.4.0]undec-7-ene (8.2 g, 54 mmol)とtert-Butyl alcohol (5.0 g, 67.5 mmol)を溶液に加え、65℃で48時間還流した。反応終了後、水を加えてクエンチし、Hexane:Ethyl acetate =1:1 (30 mL×3)で分液した。有機層を水で洗浄し、Na2SO4で脱水し、濾過でNa2SO4を除去した後、濃縮した。カラムクロマトグラフィーにより目的物を精製した。
【0061】
(2-8) tert-Butyl 3-(3-formyl-4-hydroxyphenyl)propanoateの合成
tert-Butyl 3-(4-hydroxyphenyl)propanoate (2.5 g, 11.3 mmol)、 Paraformaldehyde (2.7 g, 90 mmol)、MgSO4 (2.14 g, 22.5 mmol)をAnhydrous acetonitrile (50 mL)に加えて懸濁させ、TEA (4.56 g, 45 mmol)を滴下した後、4時間還流をした。反応終了後、水を加え、5 % HClを滴下してpHを酸性にした。トルエン(30 mL×3)で分液後、有機層を飽和食塩水(30 mL×2)で洗浄した。有機層をNa2SO4で脱水し、濾過でNa2SO4を除去した後、濃縮し、カラムクロマトグラフィーによって目的物を精製した。
【0062】
(2-9) tert-Butyl (E)-3-(4-hydroxy-3-(((2-((2-hydroxy-5-(3-methoxy-3-oxopropyl)benzyl)amino)ethyl)imino)methyl)phenyl)propanoateの合成
tert-Butyl 3-(3-formyl-4-hydroxyphenyl)propanoate (1.5 g, 6.1 mmol)とMethyl 3-(3-(((2-aminoethyl)amino)methyl)-4-hydroxyphenyl)propanoate (2.2 g, 6.7 mmol)をそれぞれジクロロメタンに溶かし、その後混合して液量を25 mLにした。TEA (2.5 g, 24.4 mmol)を滴下した後MgSO4を加え、窒素下で2時間攪拌した。反応終了後、減圧ろ過によりMgSO4を除き、溶液を濃縮して目的物を得た。得られた目的物は更なる精製を行わず次の反応に用いた。
【0063】
(2-10) tert-Butyl 3-(4-hydroxy-3-(((2-((2-hydroxy-5-(3-methoxy-3-oxopropyl)benzyl)amino)ethyl)amino)methyl)phenyl)propanoateの合成
tert-Butyl (E)-3-(4-hydroxy-3-(((2-((2-hydroxy-5-(3-methoxy-3-oxopropyl)benzyl)amino)ethyl)imino)methyl)phenyl)propanoate (2.86 g, 5.9 mmol) とsodium borohydride (0.6 g, 14.8 mmol)を氷冷し、そこに2,2,2-Trifluoroethanol (25 mL)を滴下し、室温で1時間攪拌した。反応終了後、水を加えてクエンチし、ジクロロメタン (30 mL×3)で分液した。有機層をNa2SO4で脱水し、濾過でNa2SO4を除去した後、濃縮して目的物を得た。得られた目的物は更なる精製を行わず次の反応に用いた。
【0064】
(2-11) tert-Butyl 3-(3-(((2-(tert-butoxy)-2-oxoethyl)(2-((2-(tert-butoxy)-2-oxoethyl)(2-hydroxy-5-(3-methoxy-3-oxopropyl)benzyl)amino)ethyl)amino)methyl)-4-hydroxyphenyl)propanoateの合成
tert-Butyl 3-(4-hydroxy-3-(((2-((2-hydroxy-5-(3-methoxy-3-oxopropyl)benzyl)amino)ethyl)amino)methyl)phenyl)propanoate (4.26 g, 8.75 mmol)とNa2CO3 (3.7 g, 35 mmol)をAcetonitrile (25 mL)に懸濁させた。tert-Butyl bromoacetate (3.42 g, 17.5 mmol)を加えて11時間還流した。反応終了後、室温に戻してNa2CO3を減圧ろ過により除き、溶液を濃縮して目的物を得た。得られた目的物は更なる精製を行わず次の反応に用いた。
【0065】
(2-12) 3-(3-(((2-(tert-Butoxy)-2-oxoethyl)(2-((2-(tert-butoxy)-2-oxoethyl)(5-(3-(tert-butoxy)-3-oxopropyl)-2-hydroxybenzyl)amino)ethyl)amino)methyl)-4-hydroxyphenyl)propanoic acidの合成
tert-Butyl 3-(3-(((2-(tert-butoxy)-2-oxoethyl)(2-((2-(tert-butoxy)-2-oxoethyl)(2-hydroxy-5-(3-methoxy-3-oxopropyl)benzyl)amino)ethyl)amino)methyl)-4-hydroxyphenyl)propanoate をメタノール(15 mL)に溶かし、水を10 mL滴下した。2.5 M NaOHを6 mL滴下し、18時間攪拌をした。反応終了後、氷冷下で0.5 M HCLを加えてpHを5にし、酢酸エチル (30 mL×3)で分液をした。有機層を脱水、濃縮をし、カラムクロマトグラフィーによって目的物を精製した。
【0066】
【化5】
【0067】
2.試薬・機器
2-Chlorotrityl chloride resinは渡辺化学工業 (Hiroshima, Japan)、1-Hydroxybenzotriazole monohydrate、1,3-Diisopropylcarbodiimide (DIPCI)は国産化学(Tokyo, Japan)、Trifluoroacetic acid (TFA)、Triisopropylsilane (TIS)は東京化成 (Tokyo, Japan)、N,N-Dimethylformamide (DMF)は和光純薬 (Osaka, Japan)、Fmoc-L-Glu(OtBu)-OHはAmBeed (Illinois, USA)より購入した。その他試薬はナカライテスク(Kyoto, Japan)より購入した。試薬はすべて特級試薬を用いた。[67Ga]GaCl3は日本メジフィジックス(Tokyo, Japan)より供給を受けた。逆相HPLCには送液ユニットLC-20AD、カラムオーブンCTO-10A、吸光度検出器SPD-10A (島津製作所, Kyoto, Japan)を用いた。逆相HPLCのカラムのCosmosil 5C18-AR-II (4.6×150 mm及び10×150 mm)はナカライテスクより購入した。エレクトロンスプレーイオン化質量測定装置(ESI-MS)にはJMS-T100TD (JEOL, Tokyo, Japan)を用い、放射線測定装置オートウェルガンマシステムはAccuFLEX gamma ARC-7010 (日立アロカメディカル, Tokyo, Japan)を用いた。薄層クロマトグラフィー (TLC)はシリカゲルプレートArt 5553 (Merck, Barmstadt, Germany)を用いて、展開溶媒としてMeCN:H2O=1:1を用いた。
【0068】
3.逆相HPLCによる分析と精製
逆相HPLCによる分析は以下の方法で行った。
【0069】
(A) 5C18 AR-II(10×150 mm)を使用し、移動相を0.1%のTFAを含有する水:メタノール 85:15から20分間で60:40へ変換するグラディエント法にて流速4.0 mL/minの条件で行った。
【0070】
(B) 5C18 AR- II(10×150 mm)を使用し、移動相を0.1%のTFAを含有する水:メタノール 80:20から20分間で40:60へ変換するグラディエント法にて流速4.0 mL/minの条件で行った。
【0071】
4.[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)n (n = 2, 5, 8, 11, 14)の合成
(1) 2-Chlorotrityl chloride resinへのFmoc-Gla(OtBu)2-OHの導入
2-Chlorotrityl chloride resin (31.1 mg, 0.05 mmol)に対して、ジクロロメタン1 mL、Fmoc-Gla(OtBu)2-OH (106 mg, 0.2mmol)、Diisopropylethylamine (19 μL, 0.1 mmol)を加え室温で5分攪拌し、その後さらにDiisopropylethylamine (10 μL, 0.05 mmol)を加え室温で2時間攪拌した。次にメタノール1 mLを加え20分間反応させた後、N,N-Dimethylformamide (DMF)で洗浄し、Fmoc-Gla(OtBu)2-OHを導入した。
【0072】
(2) <[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)n (n = 2, 5, 8, 11, 14)の合成>
以下に示すように、Fmoc基の脱保護と、側鎖を保護したFmoc-Gla(OtBu)2-OHの縮合反応を繰返すことで保護ペプチドを伸長した。
(2-1) Fmoc基の保護 :
20% Piperidine / DMFを加え、15分間室温で攪拌した。反応終了後、洗浄液が中性になるまでDMFで洗浄した。
【0073】
(2-2) 側鎖保護 Fmoc-Gla(OtBu)2-OHの縮合反応 :
Fmoc基を脱離した保護ペプチド樹脂 (0.05 mmol)に側鎖を保護したFmoc-Gla(OtBu)2-OH (66 mg, 0.125 mmol)とDMF 1.0 mL、1-Hydroxybenzotriazole monohydrate (0.125 mmol, 19.5 mg)を加え、1,3-Diisopropylcarbodiimide (0.125 mmol, 19.5 μL)をさらに加え、室温で1.5時間攪拌した。DMFで洗浄した後、樹脂の一部を用いてKaiser testを行い、陰性を示すまで縮合反応を繰返した。
【0074】
(2-3) HBED-CC-tris(tert-butyl ester)の結合
樹脂上で保護ペプチド鎖を構築した後、上述の方法と同様に、20% Piperidine / DMF処理によってFmoc基を脱離し、その後DMF中でHBED-CC-tris(tert-butyl ester) (0.125 mmol, 88.0 mg)と1-Hydroxybenzotriazole monohydrate (0.125 mmol, 19.5 mg)を加え、1,3-Diisopropylcarbodiimide (0.125 mmol, 19.5 μL)をさらに加え、室温で1.5時間攪拌し、結合させた。
【0075】
(2-4) HBED-CC結合ペプチド鎖からの遊離と酸感受性側鎖保護基の脱離
HBED-CC-tris(tert-butyl ester)の結合した保護ペプチド樹脂 (0.05 mmol)にTrifluoroacetic acid (TFA) (1.9 mL)、Triisopropylsilane (0.1 mL)を順次加えた後、室温で2時間攪拌した。樹脂を除いた後、反応溶液にジエチルエーテルを加え、粗生成物を析出させた後、遠心分離を行い上清を除いた。残存したジエチルエーテルは窒素ガスで留去した。これを真空乾燥することで、白色固体を得た。その後、水に再溶解させ、逆相HPLCにて精製することによりHBED-CC-(Gla)nを白色固体として得た。
【0076】
(2-5) 逆相HPLCでの精製
逆相HPLCでの精製は(A)の条件で行った。
HBED-CC-(Gla)2-OH 保持時間 13.7分 収率 9.1%
MS (ESI+) calcd for C38H46N4O20 ([M+H]+): 879.3 found 879.0
HBED-CC-(Gla)5-OH 保持時間 11.3分 収率 54.4%
MS (ESI+) calcd for C56H67N7O35 ([M+H]+): 1398.4 found 1398.8
HBED-CC-(Gla)8-OH 保持時間 9.1分 収率 22.7%
MS (ESI+) calcd for C74H88N10O50 ([M+H]+): 1917.5 found 958.9
HBED-CC-(Gla)11-OH 保持時間 8.3分 収率 21.7%
MS (ESI+) calcd for C92H109N13O65 ([M+H]+): 2437.6 found 1218.9
HBED-CC-(Gla)14-OH 保持時間 7.8分 収率 14.7%
MS (ESI+) calcd for C110H130N16O80 ([M+H]+): 2956.7 found 1478.4
【0077】
(2-6) 67Ga標識化合物の合成
HBED-CC-(Gla)nを50 μgを1 M HEPES buffer (pH = 5) 80 μLに溶解させた後、[67Ga]GaCl3 20 μLを加え、80℃で10分間加熱し、[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nを精製することなく放射化学的純度95%以上で得た。標識化合物の分析は、TLC (MeCN:H2O=1:1) にて行った。目的物はRf = 0.8~0.9に見られた。図1に結果を示す。図1に示すように、[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nを精製することなく、放射化学的収率、純度ともに95%以上で得られたことを確認した。
なお、図2は、[67Ga]GaCl3のTLC分析をした結果であるが、[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nに不純物として混入しうる化合物のTLCのRf値を確認するためのものであり、[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nとRf値がかぶらないことを確認した。
【0078】
(2-7) 67Ga標識化合物の分析
[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nを逆相HPLCで分析した。 5C18 AR-II(4.6×150 mm)を使用し、移動相を10 mmol/L Tetrabutylammonium Hydroxideを含有する水:エタノール 60:40から20分間で40:60へ変換するグラディエント法にて流速1.0 mL/minの条件で行った。
67Ga-HBED-CC-(Gla)2-OH 保持時間 5.0分
67Ga-HBED-CC-(Gla)5-OH 保持時間 5.5分
67Ga-HBED-CC-(Gla)8-OH 保持時間 5.7分
67Ga-HBED-CC-(Gla)11-OH 保持時間 6.0分
67Ga-HBED-CC-(Gla)14-OH 保持時間 7.0分
【0079】
【化6】
【0080】
(比較調製例・比較例)
5.<[67Ga]Ga-HBED-CC-(L-Glu)n (n = 2, 5, 8, 11, 14) の合成>
(1-1) 縮合反応
Fmoc基を脱離した保護ペプチド樹脂 (0.05 mmol)に側鎖を保護したFmoc-l-Glu(OtBu)-OH (53 mg, 0.125 mmol)とDMF 1.0 mL、1-Hydroxybenzotriazole monohydrate (0.125 mmol, 19.5 mg)を加え、1,3-Diisopropylcarbodiimide (0.125 mmol, 19.5 μL)をさらに加え、室温で1.5時間攪拌した。DMFで洗浄した後、樹脂の一部を用いてKaiser testを行い、陰性を示すまで縮合反応を繰返した。
【0081】
(1-2) HBED-CC-tris(tert-butyl ester)の結合
樹脂上で保護ペプチド鎖を構築した後、上述の方法と同様に、20% Piperidine / DMF処理によってFmoc基を脱離し、その後DMF中でHBED-CC-tris(tert-butyl ester) (0.125 mmol, 88.0 mg)と1-Hydroxybenzotriazole monohydrate (0.125 mmol, 19.5 mg)を加え、1,3-Diisopropylcarbodiimide (0.125 mmol, 19.5 μL)をさらに加え、室温で1.5時間攪拌し、結合させた。
【0082】
(1-3) HBED-CC結合ペプチド鎖からの遊離と酸感受性側鎖保護基の脱離
HBED-CC-tris(tert-butyl ester)の結合した保護ペプチド樹脂 (0.05 mmol)にTrifluoroacetic acid (TFA) (1.9 mL)、Triisopropylsilane (0.1 mL)を順次加えた後、室温で2時間攪拌した。樹脂を除いた後、反応溶液にジエチルエーテルを加え、粗生成物を析出させた後、遠心分離を行い上清を除いた。残存したジエチルエーテルは窒素ガスで留去した。これを真空乾燥することで、白色固体を得た。その後、水に再溶解させ、逆相HPLCにて精製することによりHBED-CC-(l-Glu)nを白色固体として得た。
【0083】
(1-4) 逆相HPLCでの精製
逆相HPLCでの精製は(B)の条件で行った。
HBED-CC-(l-Glu)2-OH 保持時間 10.2分 収率 24.0%
MS (ESI+) calcd for C36H46N4O16 ([M+H]+): 791.3 found 791.1
HBED-CC-(l-Glu)5-OH 保持時間 10.5分 収率 5.1%
MS (ESI+) calcd for C51H67N7O25 ([M+H]+): 1178.4 found 1178.1
HBED-CC-(l-Glu)8-OH 保持時間 10.8分 収率 6.5%
MS (ESI+) calcd for C66H88N10O34 ([M+2H]2+): 1566.6 found 783.3
HBED-CC-(l-Glu)11-OH 保持時間 11.0分 収率 3.2%
MS (ESI+) calcd for C81H109N13O43 ([M+3H]3+): 1954.7 found 977.4
HBED-CC-(l-Glu)14-OH 保持時間 11.4分 収率 2.9%
MS (ESI+) calcd for C96H130N16O52 ([M+3H]3+): 2342.8 found 1171.1
【0084】
(1-5) 67Ga標識化合物の作製
HBED-CC-(l-Glu)nを50 μgを1 M HEPES buffer (pH = 5) 80 μLに溶解させた後、[67Ga]GaCl3 20 μLを加え、80℃で10分間加熱し、[67Ga]Ga-HBED-CC-( l-Glu)nを精製することなく放射化学的純度95%以上で得た。標識化合物の分析は、TLC (MeCN:H2O=1:1) にて行った。目的物はRf = 0.8~0.9に見られた。
【0085】
(1-6)HPLC分析
[67Ga]Ga-HBED-CC-(l-Glu)nを逆相HPLCで分析した。 5C18 AR-II(4.6×150 mm)を使用し、移動相を10 mmol/L Tetrabutylammonium Hydroxideを含有する水:エタノール 60:40から20分間で40:60へ変換するグラディエント法にて流速1.0 mL/minの条件で行った。
67Ga-HBED-CC-(l-Glu)2-OH 保持時間 4.5分
67Ga-HBED-CC-(l-Glu)5-OH 保持時間 5.0分
67Ga-HBED-CC-(l-Glu)8-OH 保持時間 9.7分
67Ga-HBED-CC-(l-Glu)11-OH 保持時間 10.8分
67Ga-HBED-CC-(l-Glu)14-OH 保持時間 11.4分
[67Ga]Ga-HBED-CC-(L-Glu)nについても同様に、放射化学的収率、純度ともに95%以上で得られたことを確認した。
【0086】
【化7】
【0087】
6.ハイドロキシアパタイトとの親和性の評価
得られた[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nに関し、骨イメージング剤前駆体HBED-CC-(Gla)nにつき、実施例1:HBED-CC-(Gla)2、実施例2:HBED-CC-(Gla)5、実施例3:HBED-CC-(Gla)8、実施例4:HBED-CC-(Gla)11、実施例5:HBED-CC-(Gla)14として評価を行った。同様に、得られた[67Ga]Ga-HBED-CC-(L-Glu)nに関し、比較例1:HBED-CC-(L-Glu)2、比較例2:HBED-CC-(L-Glu)5、比較例3:HBED-CC-(L-Glu)8、比較例4:HBED-CC-(L-Glu)11、比較例5:HBED-CC-(L-Glu)14として評価を行った。また、従来から臨床で用いられてきた99mTc-MDPを参考例として評価を行った。
【0088】
ハイドロキシアパタイトを1 mg/mL, 2.5 mg/mL, 10 mg/mL, 25 mg/mLの濃度でTris/HCl-buffered saline (150 nM NaCl, 50mM Tris-HCl, pH 7.4)に懸濁させて200 μLの懸濁液を作製した。そこに、リガンドであるHBED-CC-(Gla)nの濃度が1.95×10-5 mmol/mLになるように調製した[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)n-OH溶液200 μLを加え、1時間振とうした後、10,000gで5分間遠心分離を行い、上清の放射能を測定し、以下の式によりハイドロキシアパタイトに結合している放射能の割合を求めた。また、ハイドロキシアパタイトを加えずに同様の実験を行い、コントロールとした。同様に、γ-カルボキシグルタミン酸と結合していない[67Ga]Ga-HBED-CCについても同様の実験を行い、コントロールとした。
ハイドロキシアパタイトへの結合率 (%)は、以下で計算した。
ハイドロキシアパタイトへの結合率 (%) = (1 - [サンプルの上清の放射能/コントロールの放射能]) × 100
【0089】
同様に[67Ga]Ga-HBED-CC-(L-Glu)nについても評価を行った。結果を、図4に示す。[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nはGlaの残基数が少ない化合物(実施例1、実施例2)でも高い結合を示した。
【0090】
7.正常マウスにおける体内放射能分布実験
6週齢、雄、ddYマウス (日本SLC)に、実施例1~5の[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nをそれぞれ尾静脈投与した。投与後10分、60分、180分で屠殺、各臓器、血液又は骨を摘出し、各臓器、血液又は骨の重量と放射能を測定した。各臓器、血液又は骨への化合物の取り込み量は組織重量あたりの投与した放射能に対する割合 (%dose/g)で示した。それぞれの化合物について、マウス1匹あたりに投与した放射能は約37 kBqで統一した。
同様に比較例1~5の[67Ga]Ga-HBED-CC-(L-Glu)nについても評価を行った。
【0091】
実施例1~5の[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)n ( n = 2, 5, 8, 11, 14 )のノーマルマウスにおける体内放射能分布実験の結果を図5図9に示す。合成した化合物の骨への集積は、Glaの残基数が2個から8個までは残基数に依存して増加したが、11個と14個では8個よりも減少した。非特許文献1に記載の[67Ga]Ga-DOTA-(L-Asp)n と比較して、少ない残基数でも骨への集積が見られ、全体的に集積が増加した。また、今回合成した化合物は他の主要な臓器にはほとんど集積せず(図6参照)、図7に示すように腎臓から速やかにクリアランスされた。
【0092】
8.マウスにおけるSPECT撮像
6週齢、雄、ddYマウス (日本SLC)に、放射能量10.7 MBqの実施例1:[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)2、実施例3:[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)8、比較例1:[67Ga]Ga-HBED-CC-(L-Glu)2を尾静脈投与した。投与180分後の化合物の体内分布の様子をSPECT撮像で確認した。撮像時間は1時間とし、撮像後67Ga由来のエネルギーについて再構成を行い、MIP画像を作成した。各臓器への化合物の取り込み量は組織重量あたりの投与した放射能に対する割合 (%dose/g)で示した。参考例として、現在臨床で用いられている[99mTc]Tc-MDPのSPECT撮像を行った。結果を図15図18に示す。
【0093】
投与180分後のSPECT画像より、図16に示すように、実施例1:[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)2は骨へ高集積し、特に関節部分に際だって高い集積を示すことが確認された。図15に示すように、実施例3:[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)8はさらに高い集積を示し、図18に示す参考例:[99mTc]Tc-MDPと同等の骨イメージング効果を示した。図17に示すように、比較例1:[67Ga]Ga-HBED-CC-(L-Glu)2は、上記体内放射能分布実験と同様に骨への集積は見られなかった。
【0094】
9.考察
[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nの合成について、67Ga標識は放射化学的収率、放射化学的純度はともに十分に高く、HBED-CCが67Gaを標識する配位子として優れていると考えられる。
【0095】
In vitroにおけるハイドロキシアパタイトとの結合親和性実験について、過去に酸性アミノ酸の残基数が増えるに従ってハイドロキシアパタイトへの結合親和性も上昇するという報告があった。発明者らは、オリゴγ-カルボキシグルタミン酸の残基数を増やすことでハイドロキシアパタイトへの薬剤の結合親和性が上昇すると推測した。実験の結果、驚くべきことに、Gla残基数が少ない化合物でも、ハイドロキシアパタイトへの親和性が見られた。Glaはカルボキシ基が豊富なため、残基数が少なくてもハイドロキシアパタイトとの結合には十分であると考えられる。
【0096】
マウス体内放射能分布実験の結果、[67Ga]Ga-HBED-CC-(Gla)nは投与後速やかに骨へ集積し、骨以外の非標的組織への集積は少なく、速やかにクリアランスされた。また、非標的組織への集積は、Glaの残基数が多いほど高く、非特許文献1とは異なった傾向にあることが示唆された。非特許文献1ではL-Aspの残基数の増加に伴って疎水性が増加したが、本実施例ではGlaの増加に伴って親水性が増加しており、これが要因として考えられる。また、化合物の立体構造や分子量が増加すると免疫細胞に異物として取り込まれやすくなることが知られており、これも要因として考えられる。合成した化合物の骨への集積は、残基数が2個から8個(実施例1~3)までは、残基数が増えるに従って増加したが、11個、14個(実施例4、5)では8個より減少した。また、Glaの残基数が多いほど、非標的組織への集積が高い結果が得られている。このため、残基数が増加しても残基数が11個、14個の時には骨への集積が増加しなかったと考えられる。In vitroの結果において、残基数が8個(実施例3)のものよりも11個、14個(実施例4、5)の化合物の方が高い親和性を示したことからも、他の臓器への集積が骨への集積に関係していると考えられる。
【0097】
(調製実施例2・実施例2
【化8】
【0098】
4.[99mTc]Tc-HYNIC(tricine)(AcP)-(Gla)5-OHの合成
(1) 2-Chlorotrityl chloride resinへのFmoc-Gla(OtBu)2-OHの導入
2-Chlorotrityl chloride resin (31.1 mg, 0.05 mmol)に対して、ジクロロメタン1 mL、Fmoc-Gla(OtBu)2-OH (106 mg, 0.2mmol)、Diisopropylethylamine (19 μL, 0.1 mmol)を加え室温で5分攪拌し、その後さらにDiisopropylethylamine (10 μL, 0.05 mmol)を加え室温で2時間攪拌した。次にメタノール1 mLを加え20分間反応させた後、Dimethylformamide (DMF)で洗浄し、Fmoc-Gla(OtBu)2-OHを導入した。
【0099】
(2) <[99mTc]Tc-HYNIC(tricine)(AcP)-(Gla)5-OHの合成>
以下に示すように、Fmoc基の脱保護と、側鎖を保護したFmoc-Gla(OtBu)2-OHの縮合反応を繰返すことで保護ペプチドを伸長した。
(2-1) Fmoc基の保護 :
20% Piperidine / DMFを加え、15分間室温で攪拌した。反応終了後、洗浄液が中性になるまでDMFで洗浄した。
【0100】
(2-2) 側鎖保護 Fmoc-Gla(OtBu)2-OHの縮合反応 :
Fmoc基を脱離した保護ペプチド樹脂 (0.05 mmol)に側鎖を保護したFmoc-Gla(OtBu)2-OH (66 mg, 0.125 mmol)とDMF 1.0 mL、1-Hydroxybenzotriazole monohydrate (0.125 mmol, 19.5 mg)を加え、1,3-Diisopropylcarbodiimide (0.125 mmol, 19.5 μL)をさらに加え、室温で1.5時間攪拌した。DMFで洗浄した後、樹脂の一部を用いてKaiser testを行い、陰性を示すまで縮合反応を繰返した。
【0101】
(2-3) 2,5-Dioxopyrrolidin-1-yl 6-(2-(tert-butoxycarbonyl)hydrazineyl)nicotinateの結合
樹脂上で保護ペプチド鎖(n = 5)を構築した後、上述の方法と同様に、20% Piperidine / DMF処理によってFmoc基を脱離し、その後DMF中で2,5-dioxopyrrolidin-1-yl 6-(2-(tert-butoxycarbonyl)hydrazineyl)nicotinate (0.125 mmol, 43.8 mg)と1-Hydroxybenzotriazole monohydrate (0.125 mmol, 19.5 mg)を加え、1,3-Diisopropylcarbodiimide (0.125 mmol, 19.5 μL)をさらに加え、室温で1.5時間攪拌し、結合させた。
【0102】
(2-4) 2,5-Dioxopyrrolidin-1-yl 6-(2-(tert-butoxycarbonyl)hydrazineyl)nicotinate結合ペプチド鎖からの遊離と酸感受性側鎖保護基の脱離
2,5-Dioxopyrrolidin-1-yl 6-(2-(tert-butoxycarbonyl)hydrazineyl)nicotinateの結合した保護ペプチド樹脂 (0.05 mmol)にTFA (1.9 mL)、Triisopropylsilane (0.1 mL)を順次加えた後、室温で2時間攪拌した。樹脂を除いた後、反応溶液にジエチルエーテルを加え、粗生成物を析出させた後、遠心分離を行い上清を除いた。残存したジエチルエーテルは窒素ガスで留去した。これを真空乾燥することで、白色固体を得た。その後、水に再溶解させ、逆相HPLCにて精製することによりHYNIC-(Gla)5-OHを白色固体として得た。
【0103】
(2-5) 99mTc標識化合物の精製
HYNIC-(Gla)5-OH, Tricine, Tin(II) chlorideを3-Acetylpyridineに溶解させた後、[99mTc]TcO4 -を加え、90℃で35分間加熱した後、[99mTc]Tc-HYNIC(tricine)(AcP)-(Gla)5-OHを逆相HPLCで精製した。 5C18 AR-II(4.6×150 mm)を使用し、移動相を0.1% TFAを含有する水:メタノール 90:10から20分間で80:20へ変換するグラディエント法にて流速1.0 mL/minの条件で行った。以下の保持時間で標識化合物が得られ、放射化学的収率86.6%、放射化学的純度98.1%で合成した。
[99mTc]Tc-HYNIC(tricine)(AcP)-(Gla)5-OH 保持時間 13.0分
【0104】
(3)ハイドロキシアパタイトとの親和性の評価
ハイドロキシアパタイトを1 mg/mL, 2.5 mg/mL, 10 mg/mL, 25 mg/mLの濃度でTris/HCl-buffered saline (150 nM NaCl, 50mM Tris-HCl, pH 7.4)に懸濁させて200 μLの懸濁液を作製した。そこに、リガンドであるHYNIC-(Gla)5-OHの濃度が1.95×10-5 mmol/mLになるように調製した[99mTc]Tc-HYNIC(tricine)(AcP)-(Gla)5-OH溶液200 μLを加え、1時間振とうした後、10,000gで5分間遠心分離を行い、上清の放射能を測定し、以下の式によりハイドロキシアパタイトに結合している放射能の割合を求めた。また、ハイドロキシアパタイトを加えずに同様の実験を行い、コントロールとした。結果は、図19に示した。
ハイドロキシアパタイトへの結合率 (%)は、以下で計算した。
ハイドロキシアパタイトへの結合率 (%) = (1 - [サンプルの上清の放射能/コントロールの放射能]) × 100
【0105】
(4)正常マウスにおける体内放射能分布実験
6週齢、雄、ddYマウス (日本SLC)に、[99mTc]Tc-HYNIC(tricine)(AcP)-(Gla)5-OHを尾静脈投与した。投与後10分、60分、180分で屠殺、各臓器、血液又は骨を摘出し、各臓器、血液又は骨の重量と放射能を測定した。各臓器、血液又は骨への化合物の取り込み量は組織重量あたりの投与した放射能に対する割合 (%dose/g)で示した。
【0106】
(5)マウスにおけるSPECT撮像
6週齢、雄、ddYマウス (日本SLC)に、放射能量37 MBqの[99mTc]Tc-HYNIC(tricine)(AcP)-(Gla)5-OHを尾静脈投与した。投与180分後の化合物の体内分布の様子をSPECT撮像で確認した。撮像時間は1時間とし、撮像後67Ga由来のエネルギーについて再構成を行い、MIP画像を作成した。各臓器への化合物の取り込み量は組織重量あたりの投与した放射能に対する割合 (%dose/g)で示した(図20)。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の化合物およびその化合物を含む骨イメージング剤は、骨のイメージングに有用である。本発明の化合物およびその化合物を含む骨イメージング剤は、病巣部において形態変化に先行して起こる機能的変化を画像化することが可能であり、転移性骨腫瘍の早期に現れる機能的変化の発見に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20