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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120317
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】車両駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/33 20160101AFI20240829BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H02K11/33
H02K9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027029
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】六浦 圭太
(72)【発明者】
【氏名】江坂 宗一郎
【テーマコード(参考)】
5H609
5H611
【Fターム(参考)】
5H609BB03
5H609BB19
5H609PP02
5H609PP06
5H609QQ05
5H609QQ10
5H609QQ20
5H611AA09
5H611BB06
5H611TT01
5H611TT02
5H611UA04
5H611UB02
(57)【要約】
【課題】車両駆動装置の軸方向の体格低減を図りつつ、制御基板の変形(反り)を低減又は無くす。
【解決手段】ケースと、ケース内に配置され、軸上に回転軸を有し、油が供給される回転電機と、ケース内に配置され、軸まわりに円環状に延在し、回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置と、ケース内において、基板表面が軸方向に対して垂直になる向きで、軸まわりに配置され、インバータ装置を制御する制御基板と、ケース内に形成され、制御基板を封止するモールド樹脂部とを備え、制御基板は、高圧系の電子部品の配置領域と低圧系の電子部品の配置領域との間に絶縁領域を有するとともに、絶縁領域において軸方向に貫通するスリットを有し、モールド樹脂部は、スリット内に延在する部分を介して、制御基板の軸方向両側に延在する部分が一体化される、車両駆動装置が開示される。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケース内に配置され、軸上に回転軸を有し、油が供給される回転電機と、
前記ケース内に配置され、軸まわりに円環状に延在し、前記回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置と、
前記ケース内において、基板表面が軸方向に対して垂直になる向きで、軸まわりに配置され、前記インバータ装置を制御する制御基板と、
前記ケース内に形成され、前記制御基板を封止するモールド樹脂部とを備え、
前記制御基板は、高圧系の電子部品の配置領域と低圧系の電子部品の配置領域との間に絶縁領域を有するとともに、前記絶縁領域において軸方向に貫通するスリットを有し、
前記モールド樹脂部は、前記スリット内に延在する部分を介して、前記制御基板の軸方向両側に延在する部分が一体化される、車両駆動装置。
【請求項2】
前記ケースは、軸まわりの周壁部と、前記周壁部の軸方向端部から連続しかつ制御基板に軸方向に対向する壁部とを有し、前記壁部と前記周壁部とで形成される収容室内に、前記制御基板が配置され、
前記モールド樹脂部は、前記収容室における空間部を埋める態様で形成される、請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項3】
前記制御基板は、軸方向で前記インバータ装置と前記回転電機との間に配置され、かつ、軸方向で前記インバータ装置に対向する側に、1つ以上の電子部品が実装され、
前記モールド樹脂部は、前記1つ以上の電子部品を封止する、請求項1又は2に記載の車両駆動装置。
【請求項4】
前記制御基板は、軸方向で前記インバータ装置と前記回転電機との間に配置され、かつ、複数の電子部品が実装され、
前記モールド樹脂部の樹脂材料よりも弾性率の高い樹脂材料により形成され、前記複数の電子部品のうちの少なくとも1つの電子部品を包む態様で覆う緩衝部を更に備え、
前記モールド樹脂部は、前記緩衝部を介して前記少なくとも1つの電子部品を封止する、請求項1又は2に記載の車両駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機と、回転電機に電力を供給するインバータ装置と、軸方向でインバータ装置と回転電機との間に配置される制御基板と、インバータ装置まわりに延在するとともに制御基板全体を封止するモールド樹脂部とを備える車両駆動装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-138516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、軸方向でインバータ装置と回転電機との間に、ケースの隔壁部に代えて、制御基板を配置することで、車両駆動装置の軸方向の体格低減を図ることができるものの、制御基板の変形(反り)が生じやすいという問題がある。すなわち、油からの制御基板の保護等のために設けられるモールド樹脂の硬化収縮に起因して制御基板の変形(反り)が生じやすいという問題がある。このような制御基板の変形(反り)は、制御基板上に実装される電子部品や回路に好ましくない影響を与えうる。そして、このような制御基板の変形(反り)の影響は、制御基板のサイズが大型になるほど顕著となりうる。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、車両駆動装置の軸方向の体格低減を図りつつ、制御基板の変形(反り)を低減又は無くすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ケースと、
前記ケース内に配置され、軸上に回転軸を有し、油が供給される回転電機と、
前記ケース内に配置され、軸まわりに円環状に延在し、前記回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置と、
前記ケース内において、基板表面が軸方向に対して垂直になる向きで、軸まわりに配置され、前記インバータ装置を制御する制御基板と、
前記ケース内に形成され、前記制御基板を封止するモールド樹脂部とを備え、
前記制御基板は、高圧系の電子部品の配置領域と低圧系の電子部品の配置領域との間に絶縁領域を有するとともに、前記絶縁領域において軸方向に貫通するスリットを有し、
前記モールド樹脂部は、前記スリット内に延在する部分を介して、前記制御基板の軸方向両側に延在する部分が一体化される、車両駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、車両駆動装置の軸方向の体格低減を図りつつ、制御基板の変形(反り)を低減又は無くすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】回転電機を含む電気回路の一例の概略図である。
図2】回転電機を含む車両用駆動システムのスケルトン図である。
図3A】本実施例による車両駆動装置の要部を概略的に示す断面図である。
図3B】本実施例による車両駆動装置の他の要部を概略的に示す断面図である。
図3C図3AのQ3部の拡大図である。
図4】本実施例によるモータ駆動装置をX1側から視た斜視図である。
図5】本実施例による制御基板を概略的に示す平面図である。
図6】本実施例によるモールド樹脂部の形成方法の説明図である。
図7A】本実施例によるモールド樹脂部に係る樹脂材料の流れの説明図(その1)である。
図7B】本実施例によるモールド樹脂部に係る樹脂材料の流れの説明図(その2)である。
図8A】比較例によるモールド樹脂部に係る樹脂材料の流れの説明図(その1)である。
図8B】比較例によるモールド樹脂部に係る樹脂材料の流れの説明図(その2)である
図9】実施例2による車両駆動装置の要部を概略的に示す断面図である。
図10図9のQ9部の拡大図である。
図11】実施例2による効果の説明図であり、緩衝部及びモールド樹脂部の形成方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。また、図面では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
以下では、本実施例の車両駆動装置10の電気系(制御系)、及び、本実施例の車両駆動装置10を含む駆動システム全体を概説してから、本実施例の車両駆動装置10の詳細について説明する。
【0011】
[車両駆動装置の電気系]
図1は、回転電機1を含む電気回路200の一例の概略図である。図1には、制御装置500についても併せて示される。図1において、制御装置500に対応付けられた点線矢印は、情報(信号やデータ)のやり取りを表す。
【0012】
回転電機1は、制御装置500によるインバータINVの制御を介して駆動される。図1に示す電気回路200では、回転電機1は、電源VaにインバータINVを介して電気的に接続される。なお、インバータINVは、例えば、相ごとに、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nとにそれぞれパワースイッチング素子(例えばMOSFET:Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect TransistorやIGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor等)を備え、高電位側Pのパワースイッチング素子と低電位側Nのパワースイッチング素子とが上下アームを形成する。なお、インバータINVは、相ごとに、複数組の上下アームを備えてもよい。各パワースイッチング素子は、制御装置500による制御下で、所望の回転トルクが発生するようにPWM(Pulse Width Modulation)駆動されてよい。なお、電源Vaは、例えば比較的定格電圧の高いバッテリであり、例えばリチウムイオンバッテリや燃料電池等であってよい。
【0013】
本実施例では、図1に示す電気回路200のように、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nの間には、インバータINVに対して並列に、平滑コンデンサCが電気的に接続される。なお、平滑コンデンサCは、複数組、互いに並列に、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nの間に電気的に接続されてもよい。また、電源VaとインバータINVとの間にDC/DCコンバータが設けられてもよい。
【0014】
[駆動システム全体]
図2は、回転電機1を含む車両用駆動システム100のスケルトン図である。図2には、X方向と、X方向に沿ったX1側とX2側が定義されている。X方向は、第1軸A1の方向(以下、「軸方向」とも称する)に平行である。
【0015】
図2に示す例では、車両用駆動システム100は、車輪Wの駆動源となる回転電機1と、回転電機1と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に設けられた駆動伝達機構7と、を備える。駆動伝達機構7は、入力部材3と、カウンタギヤ機構4と、差動歯車機構5と、左右の出力部材61、62と、を備える。
【0016】
入力部材3は、入力軸31と、入力ギヤ32とを有する。入力軸31は、第1軸A1まわりに回転する回転部材である。入力ギヤ32は、回転電機1からの回転トルク(駆動力)をカウンタギヤ機構4に伝達するギヤである。入力ギヤ32は、入力部材3の入力軸31と一体的に回転するように、入力部材3の入力軸31に連結される。
【0017】
カウンタギヤ機構4は、動力伝達経路において、入力部材3と差動歯車機構5との間に配置される。カウンタギヤ機構4は、カウンタ軸41と、第1カウンタギヤ42と、第2カウンタギヤ43とを有する。
【0018】
カウンタ軸41は、第2軸A2まわりに回転する回転部材である。第2軸A2は、第1軸A1に平行に延在する。第1カウンタギヤ42は、カウンタギヤ機構4の入力要素である。第1カウンタギヤ42は、入力部材3の入力ギヤ32と噛み合う。第1カウンタギヤ42は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0019】
第2カウンタギヤ43は、カウンタギヤ機構4の出力要素である。本実施例では、一例として、第2カウンタギヤ43は、第1カウンタギヤ42よりも小径に形成される。第2カウンタギヤ43は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0020】
差動歯車機構5は、その回転軸心としての第3軸A3上に配置される。第3軸A3は、第1軸A1に平行に延在する。差動歯車機構5は、回転電機1の側から伝達される駆動力を、左右の出力部材61、62に分配する。差動歯車機構5は、差動入力ギヤ51を備え、差動入力ギヤ51は、カウンタギヤ機構4の第2カウンタギヤ43と噛み合う。また、差動歯車機構5は、差動ケース52を備え、差動ケース52内には、ピニオンシャフトや、ピニオンギヤ、左右のサイドギヤ等が収容される。左右のサイドギヤは、それぞれ、左右の出力部材61、62と一体的に回転するように連結される。
【0021】
左右の出力部材61、62のそれぞれは、左右の車輪Wに駆動連結される。左右の出力部材61、62のそれぞれは、差動歯車機構5によって分配された駆動力を車輪Wに伝達する。なお、左右の出力部材61、62は、2つ以上の部材により構成されてもよい。
【0022】
このようにして回転電機1は、駆動伝達機構7を介して車輪Wを駆動する。ただし、他の実施例では、回転電機1は、ホイールインモータとして、車輪内に配置されてもよい。この場合、車両用駆動システム100は、駆動伝達機構7を含まない構成であってよい。また、他の実施例では、駆動伝達機構7の一部又は全部を共用化する複数の回転電機1が設けられてもよい。
【0023】
[車両駆動装置の詳細]
図3A及び図3Bは、本実施例の車両駆動装置10の要部の断面図であり、図3Aは、締結具BTを通る断面図であり、図3Bは、締結具BT以外の部分を通る断面図である。図3Cは、図3AのQ3部の拡大図である。
【0024】
車両駆動装置10は、上述した回転電機1と、ケース2と、モータ駆動装置8とを含む。
【0025】
車両駆動装置10は、車両用駆動システム100の一部として車両に搭載され、上述したように、車両を前進又は後退させる駆動力を生成する。なお、車両は、任意の形態であり、例えば4輪の自動車であってもよいし、バス、トラック、二輪車や建設機械等であってもよい。なお、車両駆動装置10は、他の駆動源(例えば内燃機関)とともに車両に搭載されてもよい。
【0026】
回転電機1は、ロータ310及びステータ320を有する。図3A及び図3Bには、回転電機1の軸方向一端側(X1側)の一部が示されている。回転電機1は、インナロータタイプであり、ステータ320がロータ310の径方向外側を囲繞するように設けられる。すなわち、ロータ310は、ステータ320の径方向内側に配置される。
【0027】
ロータ310は、ロータコア312と、シャフト部314とを備える。
【0028】
ロータコア312は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ロータコア312の内部には、永久磁石325が埋め込まれてよい。あるいは、永久磁石325は、ロータコア312の外周面に取り付けられてもよい。なお、永久磁石325の配列等は任意である。ロータコア312は、シャフト部314の外周面に固定され、シャフト部314と一体となって回転する。
【0029】
シャフト部314は、第1軸A1上に配置され、回転電機1の回転軸を第1軸A1上に画成する。シャフト部314は、ロータコア312が固定される部分よりもX1側において、ケース2のモータカバー252(後述)にベアリング240を介して回転可能に支持される。なお、シャフト部314は、回転電機1の軸方向他端側(X2側)において、ベアリング240に対応するベアリングを介してケース2に回転可能に支持される。このようにして、シャフト部314が軸方向両端で回転可能にケース2に支持されてよい。
【0030】
シャフト部314は、例えば中空管の形態であり、中空内部314Aを有する。中空内部314Aは、シャフト部314の軸方向の全長にわたり延在してよい。中空内部314Aは、軸心油路として機能することができる。この場合、シャフト部314は、ステータ320のコイルエンド部322A等に油を吐出する油孔が形成されてよい。
【0031】
ステータ320は、ステータコア321と、ステータコイル322とを備える。
【0032】
ステータコア321は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ステータコア321の内周部には、径方向内側に突出するティース(図示せず)が放射状に形成される。
【0033】
ステータコイル322は、例えば断面平角状又は断面円形状の導体に絶縁被膜が付与された形態であってよい。ステータコイル322は、ステータコア321のティース(図示せず)まわりに巻装される。なお、ステータコイル322は、例えば、1つ以上の並列関係で、Y結線で電気的に接続されてもよいし、Δ結線で電気的に接続されてもよい。
【0034】
ステータコイル322は、ステータコア321のスロットから軸方向外側に突出する部分であるコイルエンド部322Aを有する。以下の説明において、コイルエンド部322Aとは、特に言及しない限り、ステータコイル322の一部であって、ステータコア321の軸方向両側のそれぞれで周方向に沿って延在する部分のうちの、リード側である軸方向一端側(X1側)に沿って延在する部分を指す。
【0035】
ケース2は、例えばアルミ等により形成されてよい。ケース2は、例えば鋳造等により形成できる。ケース2は、複数のケース部材やカバー部材の組み合わせにより形成されてよい。この場合、ケース2は、一体的に結合される各部材を含み、当該各部材の形状や材質等は任意である。本実施例では、ケース2は、モータケース250と、モータカバー252とを含む。ケース2は、回転電機1及びモータ駆動装置8を収容する。また、図2に示した車両用駆動システム100の場合、ケース2は、図2に模式的に示すように、駆動伝達機構7を更に収容してもよい。
【0036】
モータケース250は、回転電機1を収容するモータ収容室SP1を形成する。なお、モータ収容室SP1は、回転電機1(及び/又は駆動伝達機構7)を冷却及び/又は潤滑するための油を含む油密空間であってよい。モータケース250は、回転電機1の径方向外側を囲繞する周壁部を有する形態である。モータケース250は、複数の部材を結合して実現されてもよい。また、モータケース250は、軸方向他端側(X2側)で、駆動伝達機構7を収容する他のケース部材に一体化されてよい。
【0037】
モータカバー252は、比較的高い伝熱性を有する材料(例えばアルミ)により形成される。モータカバー252は、モータケース250の軸方向一端側(X1側)に結合される。モータカバー252は、モータ収容室SP1における軸方向一端側(X1側)を覆うカバーの形態であり、回転電機1に軸方向に対向する。この場合、モータカバー252は、モータケース250の軸方向一端側(X1側)の開口部を完全に又は略完全に閉塞する態様で覆ってもよい。
【0038】
モータカバー252は、モータ駆動装置8を収容するインバータ収容室SP2を形成する。なお、インバータ収容室SP2の一部は、モータケース250により形成されてもよいし、逆に、モータ収容室SP1の一部は、モータカバー252により形成されてもよい。
【0039】
モータカバー252は、モータ駆動装置8を支持する。例えばモータ駆動装置8は、後述するモジュールの形態で、モータカバー252に取り付けられてもよい。これにより、モータカバー252にモータ駆動装置8の一部又は全体を組み付けてから、モータカバー252とモータケース250とを結合でき、モータ駆動装置8の組み付け性が向上する。
【0040】
モータカバー252には、ロータ310を回転可能に支持するベアリング240が設けられる。すなわち、モータカバー252は、ベアリング240を支持するベアリング支持部2524を有する。なお、ベアリング支持部2524とは、モータカバー252のうちの、ベアリング240が設けられる軸方向範囲の部分全体を指す。
【0041】
ベアリング240は、図3A及び図3Bに示すように、シャフト部314のX1側の端部における径方向外側に設けられる。具体的には、ベアリング240は、アウタレースの径方向外側がモータカバー252に支持され、インナレースの径方向内側がシャフト部314の外周面に支持される。なお、変形例では、逆に、ベアリング240は、インナレースの径方向内側がモータカバー252に支持され、アウタレースの径方向外側がシャフト部314の内周面に支持されてもよい。
【0042】
モータカバー252は、図3A及び図3Bに示すように、第1軸A1を中心とした円形状の底部2521と、底部2521の外周縁から軸方向他端側(X2側)へと突出する周壁部2522とを含み、底部2521と周壁部2522とが、インバータ収容室SP2を画成する。底部2521における軸方向他端側(X2側)の中央部(第1軸A1を中心とした部分)には、ベアリング支持部2524が設定される。
【0043】
インバータ収容室SP2は、樹脂により封止される。すなわち、モータカバー252は、好ましくは、伝熱性のモールド樹脂部2523を有する。この場合、モールド樹脂部2523は、後述するモータ駆動装置8を封止して支持する機能と、モータ収容室SP1内の油に対してモータ駆動装置8を保護する機能と、モータ駆動装置8からの熱をモータカバー252に伝達する機能を有することができる。なお、図3A及び図3Bでは、モールド樹脂部2523内に封止される要素(後述するインバータモジュール90等)の一部が透視で示されている。
【0044】
ここで、図3A及び図3Bを参照して、本実施例に適用可能な冷却構造の一例について説明する。以下では、径方向、軸方向及び周方向の各用語は、特に言及しない限り、第1軸A1に関する各方向である。すなわち、軸方向は、第1軸A1に平行な方向(第1軸A1と同軸の線に沿った方向を含む)であり、径方向は、第1軸A1を通りかつ第1軸A1に直交する方向であり、周方向は、第1軸A1に直交する任意の平面内における第1軸A1まわりの方向である。また、軸まわりとは、第1軸A1まわりを指す。
【0045】
図3A及び図3Bに示す例では、冷却構造は、モータカバー252に形成される油路2530(以下、「カバー油路2530」と称する)と、軸心油路を形成する中空内部314Aと、中空内部314Aに油を供給する軸心供給用の管状部材180と、上掛け油路を形成する管状部材181とを含む。
【0046】
カバー油路2530に供給される油は、カバー油路2530を通ってから、管状部材180に供給される。管状部材180は、中空の管状の形態であり、内部が流路を形成する。管状部材180は、第1軸A1と同心状に、軸方向に延在し、軸方向の両端が開口されてよい。管状部材180は、図3Aに示すように、X1側でカバー油路2530(軸心側の出口部25302)に接続され、中空内部314A内までX2側に軸方向に延在し、X2側の端部の開口が中空内部314Aに連通する。
【0047】
管状部材180に供給される油は、軸心油路(中空内部314A)に供給される。中空内部314Aに供給された油は、ロータ310の回転時の遠心力の作用により、シャフト部314の内周面を伝って流れ、ロータコア312及びそれに伴い永久磁石325を径方向内側から冷却する。また、シャフト部314に径方向の油孔を形成して、径方向内側からコイルエンド部322A(図示しないX2側のコイルエンド部322Aも同様、以下同様)に向けて油を吐出することも可能である。この場合、コイルエンド部322Aを径方向内側から冷却できる。
【0048】
また、カバー油路2530に供給される油は、カバー油路2530を通ってから、管状部材181に供給される。管状部材181は、中空の管状の形態であり、内部が流路を形成する。管状部材181は、軸方向に視てステータ320よりも径方向外側において、軸方向に延在し、軸方向の両端が開口されてよい。
【0049】
管状部材181に供給された油は、重力の作用により、管状部材181に形成される径方向の油孔1810を介して、ステータ320に落下する。ステータ320に落下した油は、ステータ320の外周面等を伝って下方へと流れる。これにより、ステータ320を径方向外側から冷却できる。
【0050】
管状部材181の油孔1810は、例えば、コイルエンド部322Aに径方向で対向する油孔1810Aを含んでよい。これにより、コイルエンド部322Aを径方向外側から冷却できる。
【0051】
また、管状部材181の油孔1810は、ステータコア321の外周面に径方向で対向する油孔1810Bを含んでよい。これにより、ステータコア321(及びステータコイル322)を径方向外側から冷却できる。
【0052】
なお、ここでは、一例として、図3A及び図3Bを参照して特定の冷却構造について説明したが、冷却構造の構成の詳細は任意である。例えば、管状部材180及び/又は管状部材181等は省略されてもよい。あるいは、冷却水による冷却が組み合わせられてもよい。
【0053】
図4は、モータ駆動装置8をX1側から視た斜視図である。図5は、制御基板84をX2側から視て概略的に示す平面図である。なお、図4では、モータ駆動装置8のうちの制御基板84の図示は省略されている。
【0054】
モータ駆動装置8は、パワーモジュール80と、コンデンサモジュール82と、制御基板84とを含む。
【0055】
本実施例では、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、図4に示すように、複数の組(図4に示す例では、12組)をなして、周方向に沿って配置される。パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数は、回転電機1の仕様に応じて変化させる。基本的には、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数が増加すると、回転電機1の出力が大きくなる。従って、回転電機1の設計の際に、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数が異なる複数のバリエーションを設定できる。
【0056】
パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、好ましくは、複数の組のそれぞれにおいて、一体化された組立体の形態である。すなわち、各組のパワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、一体化されたインバータモジュール90(図3A及び図3B参照)を形成する。なお、図3A等に示す例では、インバータモジュール90は、その全体がモールド樹脂部2523により封止されるが、一部だけが露出する態様で封止されてもよい。
【0057】
インバータモジュール90のそれぞれにおいて、パワーモジュール80は同じ構成を有し、コンデンサモジュール82は同じ構成(電気的特性や形状等)を有する。これにより、インバータモジュール90ごとの交換や整備も可能であり、汎用性を高めることができる。本実施例では、インバータモジュール90のそれぞれにおいて、パワーモジュール80は、サブモジュール800と、放熱部材810とを含む(図3A及び図3B参照)。
【0058】
サブモジュール800のそれぞれは、インバータINV(図1参照)における一の相に係る上下アームを形成する。
【0059】
放熱部材810は、比較的高い伝熱性を有する材料(例えばアルミ)により形成される。本実施例では、放熱部材810は、中実のブロックの形態である。これにより、放熱部材810の熱容量を効率的に高めることができる。
【0060】
制御基板84は、径方向外側の部分が締結具BT(図3A参照)によりモータカバー252に結合されることで、モータカバー252に支持される。制御基板84は、制御装置500(図1参照)の一部又は全体を形成する。
【0061】
制御基板84は、例えば多層プリント基板により形成されてもよい。制御基板84は、基板表面に対する法線方向が軸方向に沿う向きに配置される。これにより、制御基板84を軸方向の僅かな隙間を利用して配置でき、車両駆動装置10の軸方向の体格の低減を図ることができる。例えば、本実施例では、制御基板84は、図3A及び図3Bに示すように、軸方向で回転電機1とインバータモジュール90との間に配置されてよい。より詳細には、制御基板84は、軸方向で回転電機1のコイルエンド部322Aとパワーモジュール80及びコンデンサモジュール82との間に配置されてよい。これにより、デッドスペースになりやすいスペースを利用した効率的な配置を実現できる。また、制御基板84は、軸方向に視て、コイルエンド部322Aにオーバラップする径方向位置又はコンデンサモジュール82にオーバラップする径方向位置まで径方向外側に延在できるので、制御基板84の面積(回路形成範囲)の最大化を図ることができる。
【0062】
制御基板84は、好ましくは、図5に示すように、ロータ310のシャフト部314(図3A及び図3Bも参照)が通る中央孔84aを有する円環状の形態である。この場合、周方向に沿って配置された複数のパワーモジュール80のいずれに対してもその近傍に制御基板84を配置できる。これにより、パワーモジュール80のサブモジュール800を形成する各パワー半導体チップ(例えばパワースイッチング素子のゲート端子)と制御基板84の駆動回路(図示せず)との間の電気的な接続(図示せず)が容易となる。
【0063】
制御基板84は、図5に示すように、中央孔84aまわりに円環状の高圧系領域841と、高圧系領域841よりも径方向外側に円環状の低圧系領域842とを有する。低圧系領域842と高圧系領域841との間には、円環状の絶縁領域843が形成されてよい。絶縁領域843には、素子及び配線が配置されない平らな領域(基板自体の平らな表面領域)である。なお、絶縁領域843は、低圧系領域842と高圧系領域841との間の絶縁領域として機能してもよい。この場合、制御基板84において、低圧系の回路と高圧系の回路とを共存させることができる。例えば、制御基板84における高圧系領域841には、電源Vaに係る高圧を扱う回路部や素子が配置されてよく、低圧系領域842には、制御装置500を実現するマイコン(マイクロコンピュータの略)等が配置されてよい。
【0064】
本実施例では、制御基板84において、例えば、低圧系領域842には、低圧系の電子部品503が設けられてもよい。また、高圧系領域841には、トランス502とともに、他の電子部品(例えばサブモジュール800のパワー半導体チップを駆動するための駆動回路等)が設けられる。トランス502は、絶縁トランス等であってよく、比較的細い導線(例えば銅線)を巻回した形態であってよい。なお、制御基板84には、モータ収容室SP1内の油を循環させる電動オイルポンプを駆動するための電子部品が実装されてもよい。
【0065】
また、本実施例では、図3A等に示すように、制御基板84には、回転電機1に対向する側の表面だけでなく、インバータモジュール90に対向する側の表面にも、電子部品504が実装される。ただし、変形例では、制御基板84には、インバータモジュール90に対向する側に、他の電子部品やトランス502等が更に配置されてもよい。
【0066】
なお、本実施例では、高圧系領域841は、軸方向に視て、円形の外形であるが、非円形の外形であってもよい。また、円環状の絶縁領域843についても同様であり、軸方向に視て、外形が円形の形態であるが、外形が非円形の形態であってもよい。また、高圧系領域841及び/又は低圧系領域842は、複数、分離して配置されてもよく、その場合、絶縁領域843は、高圧系領域841及び低圧系領域842の間に、適宜、設定されてよい。
【0067】
本実施例では、制御基板84は、絶縁領域843において、軸方向に貫通するスリット848を有する。
【0068】
スリット848の形態(軸方向に視た形態)や数、配置パターン等は、任意である。ただし、スリット848は、制御基板84に形成されうるビアのような貫通孔よりも有意に大きい。例えば、スリット848は、図5に示すように、円弧状の形態であってよく、第1軸A1まわりに等間隔に配置されてもよい。また、図5に示す例では、スリット848は、トランス502の径方向外側に位置付けられているが、他の位置に配置されてもよい。
【0069】
スリット848内には、上述したモールド樹脂部2523の一部が延在する。具体的には、モールド樹脂部2523は、インバータ側の樹脂部25231と、モータ側の樹脂部25232と、スリット内樹脂部25233とを含む。インバータ側の樹脂部25231は、軸方向で制御基板84とモータカバー252との間に延在し、インバータモジュール90を封止する。モータ側の樹脂部25232は、軸方向で制御基板84と回転電機1との間(制御基板84のX2側)に延在し、制御基板84におけるX2側の電子部品であるトランス502や電子部品503を封止する。そして、スリット内樹脂部25233は、スリット848内に延在しつつ、インバータ側の樹脂部25231とモータ側の樹脂部25232とにそれぞれ連続する。すなわち、スリット内樹脂部25233は、インバータ側の樹脂部25231とモータ側の樹脂部25232とを一体化させる。なお、モールド樹脂部2523は、スリット内樹脂部25233に加えて、インバータ側の樹脂部25231とモータ側の樹脂部25232とを一体化させる他の部分を有してもよい。例えば、モールド樹脂部2523は、制御基板84の径方向内側縁部から径方向内側に延在する部分及び/又は制御基板84の径方向外側縁部から径方向外側に延在する部分を有してもよい。
【0070】
本実施例では、スリット848は、絶縁領域843に設けられる。絶縁領域843は、元来、高圧系領域841と低圧系領域842との間の絶縁距離を確保すべく、素子や回路が実装されない領域である。従って、絶縁領域843内のスリット848は、制御基板84における素子や回路の実装可能な範囲を低減することなく形成できる。
【0071】
次に、図6以降を参照して、本実施例によるモールド樹脂部2523の形成方法とともに、本実施例の効果(主に、スリット848を有する制御基板84に関連した効果)について説明する。
【0072】
図6は、本実施例によるモールド樹脂部2523の形成方法の説明図である。図7A及び図7Bは、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料70の流れの説明図であり、図6に示す断面図を概略化した断面図である。
【0073】
本実施例によるモールド樹脂部2523は、モータカバー252に、モータ駆動装置8(インバータモジュール90及び制御基板84等)を組み付けた状態で、X方向を上下方向としかつX1側を下側とした姿勢で、形成される。具体的には、図6に矢印R6で示すように、制御基板84の上側から樹脂材料70を流し込むことで形成される。なお、樹脂材料70は、任意であるが、熱硬化性樹脂材料であってよく、例えばエポキシ系の樹脂材料であってよい。
【0074】
樹脂材料70は、図7Aに模式的に示すように、自重により、制御基板84の上側の表面上を伝って水平方向に広がりつつ、インバータ収容室SP2のうちの制御基板84の下側の空間へと流れる。この際、樹脂材料70は、図7Aに示すように、制御基板84の径方向外側の縁部外側からのルート(矢印R71参照)と、スリット848を通るルート(矢印R72参照)と、制御基板84の径方向内側の縁部外側からのルート(矢印R73参照)により、制御基板84の下側の空間へと流れる。そして、図7Bに示すように、インバータ収容室SP2に係る空間部を樹脂材料70が埋めると、樹脂材料70の注入(モールド成形)が完了となる。このようにしてインバータ収容室SP2に充填される樹脂材料70が加熱により硬化されることで、モールド樹脂部2523が形成される。
【0075】
ここで、比較例と対比して本実施例の効果について説明する。図8A及び図8Bは、比較例による車両駆動装置10’の概略図であり、図7A及び図7Bに対応する図である。
【0076】
比較例による制御基板84’は、本実施例による制御基板84に対して、スリット848を有さない点だけが異なる。
【0077】
比較例の場合、樹脂材料70は、図8Aに示すように、自重により、制御基板84’の上側の表面上を伝って水平方向に広がりつつ、制御基板84’の径方向外側の縁部外側及び径方向内側の縁部外側から、インバータ収容室SP2のうちの制御基板84’の下側の空間へと流れる(矢印R71、R73参照)。しかしながら、比較例の場合、制御基板84’の下側の空間への流れるルートが、制御基板84’の径方向外側の縁部外側からのルートと径方向内側の縁部外側からのルートとに限定されるので、制御基板84’の下側への樹脂材料70の回り込みが抑制される。この結果、図8Bに模式的に示すように、制御基板84’の下側の表面に、ボイド71’(空気溜まり)が発生しやすくなる。ボイド71’が発生すると、樹脂材料70の熱硬化時の熱に起因して膨張し、ボイド71’周辺の電子部品(例えば、図8Aでは、制御基板84’の下側の電子部品504)に応力が発生しやすくなる。かかる応力が発生すると、電子部品504にダメージを与えるおそれがある。
【0078】
これに対して、本実施例によれば、図7A及び図7Bを参照して上述したように、樹脂材料70は、スリット848を通るルート(矢印R72参照)を介して、制御基板84の下側への樹脂材料70の回り込みが容易となる。その結果、上述した比較例において生じる問題点(ボイド71’に起因した問題点)を低減又は無くすことができる。なお、スリット848の位置は、上述したように任意であるが、電子部品504の近傍にスリット848が配置される場合、電子部品504の近傍にボイド71’が形成される可能性を効果的に低減できる。
【0079】
また、比較例の場合、制御基板84’は、スリット848を有さないので、樹脂材料70の熱硬化時の収縮(硬化収縮)に起因して、制御基板84’の変形(反り)が生じやすいという問題がある。具体的には、図8Bに示す断面視では、制御基板84’が変形すると、当該変形による変位量は、制御基板84’の長さL8が大きい分だけ大きくなりやすい。例えば、角度αだけ反りが生じる場合、反りに起因した最大の変位量(基板平面に対する面直方向の変位量)は、長さL8に比例する。制御基板84’の反りが過大となると、制御基板84’上の電子部品や配線に、有意な応力が発生するおそれがある。
【0080】
これに対して、本実施例によれば、制御基板84は、上述したように、スリット848を有し、かつ、スリット848内にスリット内樹脂部25233が形成される。その結果、上述した比較例において生じる問題点(反りに起因した問題点)を低減又は無くすことができる。具体的には、本実施例によれば、スリット848内にスリット内樹脂部25233が形成されるので、制御基板84における変形領域をスリット内樹脂部25233により分断できる。すなわち、図7Bに示す断面視では、制御基板84が変形すると、当該変形による変位量は、長さL71,L72が比較的小さいため、小さくて済む。これにより、制御基板84上の電子部品(トランス502等)や配線に、有意な応力が発生する可能性を低減できる。このような効果は、制御基板84が比較的大型である場合(長さL71、L72の合計が比較的大きい場合)に顕著である。このようにして、本実施例によれば、車両駆動装置10の軸方向の体格低減を図りつつ、制御基板84の変形(反り)を低減又は無くすことができる。
【0081】
次に、図9から図11を参照して、他の実施例について説明する。以下では、区別のため、上述した実施例を、「実施例1」と称し、図9以降の他の実施例を、「実施例2」とも称する。実施例2に関して、上述した実施例1と同一であってよい構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する場合がある。
【0082】
図9は、実施例2による車両駆動装置10Aの要部を概略的に示す断面図である。図10は、図9のQ9部の拡大図である。
【0083】
実施例2による車両駆動装置10Aは、上述した実施例1による車両駆動装置10に対して、制御基板84が制御基板84Aで置換され、かつ、後述する緩衝部89が設けられる点が異なる。
【0084】
制御基板84Aは、制御基板84に対して、スリット848が設けられない点が異なる。ただし、変形例では、制御基板84Aは、制御基板84と同様、スリット848を有してもよい。これに伴い、本実施例のモールド樹脂部2523Aは、上述した実施例1によるモールド樹脂部2523に対して、スリット内樹脂部25233を有さない点が主に異なる。
【0085】
本実施例では、制御基板84A上の複数の電子部品のうちの、少なくとも1つは、緩衝部89により覆われる。すなわち、緩衝部89は、制御基板84A上の複数の電子部品のうちの、少なくとも1つを包みこむ態様で覆う。本実施例では、一例として、制御基板84A上の複数の電子部品のうちの、パワーモジュール80に対向する側に配置される電子部品504が緩衝部89により覆われる。ただし、変形例では、緩衝部89により覆われる電子部品は、任意であり、例えばトランス502等を含んでよい。
【0086】
緩衝部89は、モールド樹脂部2523Aの樹脂材料よりも弾性率の高い樹脂材料により形成される。例えば、モールド樹脂部2523Aは、エポキシ系の樹脂材料により形成されるのに対して、緩衝部89は、アクリル酸エステルを主成分とした無溶剤タイプの紫外線硬化性の樹脂材料により形成されてもよい。当該樹脂材料は、硬化後において、比較的広い温度範囲(例えば-40℃~120℃)にわたってゴム弾性を保つことができる。なお、緩衝部89に係る樹脂材料は、粘度が95Pa・s程度であってよく、伸び率180%程度であってよく、貯蔵弾性率E’=2.1×10Pa程度であってよい。
【0087】
図11は、実施例2による効果の説明図であり、緩衝部89及びモールド樹脂部2523Aの形成方法を示す説明図である。
【0088】
本実施例では、図11の状態ST110に示すように、まず、制御基板84A上の電子部品504に対して、緩衝部89に係る樹脂材料71をポッティングする。この際、電子部品504全体が包み込まれるように樹脂材料71がポッティングされてよい。ついで、樹脂材料71が硬化(例えば紫外線の照射により硬化)される。なお、このようなポッティング及び硬化工程は、制御基板84Aをモータカバー252に組み付ける前に実行されてよい。あるいは、緩衝部89が制御基板84AのX2側の電子部品であるトランス502や電子部品503に対して設けられる場合、このようなポッティング及び硬化工程は、制御基板84Aをモータカバー252に組み付けた後に実行されてもよい。ついで、図7A及び図7Bを参照して上述したように、実施例1と同様、樹脂材料70が注入され、樹脂材料70が硬化され、インバータ側の樹脂部25231を含むモールド樹脂部2523が形成される。
【0089】
本実施例によれば、図10の状態ST112で矢印R11にて模式的に示すように、樹脂材料70が硬化収縮する際に、緩衝部89が弾性変形することで、電子部品504に生じる応力を低減又は無くすことができる。この結果、電子部品504を適切に保護できる。
【0090】
なお、本実施例では、上述した実施例1とは異なり、スリット848が設けられないので、図8Bを参照して上述した比較例と同様、ボイド(図8Bのボイド71’参照)が形成されるおそれがある。しかしながら、かかるボイドが形成される場合でも、緩衝部89により電子部品504を適切に保護できる。すなわち、熱によりボイドが膨張した場合でも、緩衝部89が弾性変形することで、電子部品504に生じる応力を低減又は無くすことができる。
【0091】
なお、本実施例において、緩衝部89は、トランス502や他の任意の電子部品に対して設けられてもよい。特にトランス502は、比較的繊細な導線を有するため、モールド樹脂部2523Aにより封止されると、熱応力に起因してダメージを受けやすい傾向があるためである。
【0092】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
10、10A・・・車両駆動装置、1・・・回転電機、2・・・ケース、2521・・・底部(壁部)、2522・・・周壁部、90・・・インバータモジュール(インバータ装置)、80・・・パワーモジュール(スイッチングモジュール)、82・・・コンデンサモジュール(平滑コンデンサ)、2523、2523A・・・モールド樹脂部、25231、25232・・・樹脂部(制御基板の軸方向両側に延在する部分)、25233・・・スリット内樹脂部(スリットを通る部分)、84、84A・・・制御基板、841・・・高圧系領域(高圧系の電子部品の配置領域)、842・・・低圧系領域(低圧系の電子部品の配置領域)、843・・・絶縁領域、848・・・スリット、89・・・緩衝部、502・・・トランス(電子部品)、503、504・・・電子部品、SP2・・・インバータ収容室(収容室)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11