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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120319
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】車両駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/33 20160101AFI20240829BHJP
   H02K 11/225 20160101ALI20240829BHJP
   H02K 5/18 20060101ALI20240829BHJP
   H02K 5/20 20060101ALI20240829BHJP
   H02K 9/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H02K11/33
H02K11/225
H02K5/18
H02K5/20
H02K9/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027031
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正一
(72)【発明者】
【氏名】堀田 豊
【テーマコード(参考)】
5H605
5H609
5H611
【Fターム(参考)】
5H605AA01
5H605BB10
5H605CC01
5H605CC02
5H605DD12
5H605DD13
5H609BB03
5H609BB19
5H609PP16
5H609QQ04
5H609QQ05
5H609QQ23
5H609RR31
5H609RR58
5H611AA01
5H611AA09
5H611BB06
5H611PP07
5H611QQ03
5H611RR01
5H611TT01
5H611TT02
5H611UA04
(57)【要約】
【課題】回転電機及びインバータ装置をケースの共通の収容室内に収容する構成において、ケース内に回転角センサを効率的に配置する。
【解決手段】軸上にシャフト部を備えるロータ及びステータを有する回転電機と、回転電機に電気的に接続されるインバータ装置と、回転電機を制御する制御基板と、ロータの回転情報を取得する回転角センサと、回転電機、インバータ装置、及び制御基板を共通の収容室内に収容するケースとを備え、回転角センサは、制御基板の内層に実装されるセンサコイルと、シャフト部に設けられる被検出部とを備える、車両駆動装置が開示される。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸上にシャフト部を備えるロータ及びステータを有する回転電機と、
前記回転電機に電気的に接続されるインバータ装置と、
前記回転電機を制御する制御基板と、
前記ロータの回転情報を取得する回転角センサと、
前記回転電機、前記インバータ装置、及び前記制御基板を共通の収容室内に収容するケースとを備え、
前記回転角センサは、前記制御基板の内層に実装されるセンサコイルと、前記シャフト部に設けられる被検出部とを備える、車両駆動装置。
【請求項2】
前記制御基板は、前記センサコイルを形成する導体箔の厚みが、表面に形成される導体箔の厚みよりも厚い、請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項3】
前記センサコイルは、前記制御基板の複数の内層にわたって実装される、請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項4】
前記制御基板は、軸まわりに、かつ、軸方向で前記インバータ装置と前記回転電機との間に、配置され、軸方向で前記回転電機に対向する側に複数の電子部品が実装され
前記制御基板における前記回転電機に軸方向に対向する側に配置され、前記複数の電子部品のうちの少なくとも一部を覆うカバー部材と、
前記ケース内に配置され、前記制御基板における前記回転電機に軸方向に対向する側において、前記カバー部材の径方向外側に延在するモールド樹脂部とを更に備え、
前記カバー部材は、軸まわりの円環状の形態であり、径方向内側の端部が前記ケースに圧入固定され、
前記センサコイルは、軸方向に視て、前記制御基板における前記カバー部材が軸方向に当接する領域内に配置される、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の車両駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータのシャフト部の回転情報を取得する回転角センサを構成するために、軸方向端面に被検出部を設け、制御基板における被検出部に対向する位置に検出素子を設ける技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-075960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、モータが収容されるモータハウジングと制御基板が収容されるモータカバーとを備え、モータハウジングとモータカバーとの間に設けれ、シャフト部を支持する軸受を備えたヒートシンクによってモータハウジングとモータカバー内の収容室が2つに分割されている。その結果、ロータのシャフト部の軸方向端面に対して被検出部を設けることに起因して、軸方向の体格が大型化しやすいという問題がある。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、回転電機及びインバータ装置をケースの共通の収容室内に収容する構成において、ケース内に回転角センサを効率的に配置することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、軸上にシャフト部を備えるロータ及びステータを有する回転電機と、
前記回転電機に電気的に接続されるインバータ装置と、
前記回転電機を制御する制御基板と、
前記ロータの回転情報を取得する回転角センサと、
前記回転電機、前記インバータ装置、及び前記制御基板を共通の収容室内に収容するケースとを備え、
前記回転角センサは、前記制御基板の内層に実装されるセンサコイルと、前記シャフト部に設けられる被検出部とを備える、車両駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、回転電機及びインバータ装置をケースの共通の収容室内に収容する構成において、ケース内に回転角センサを効率的に配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】回転電機を含む電気回路の一例の概略図である。
図2】回転電機を含む車両用駆動システムのスケルトン図である。
図3A】本実施例による車両駆動装置の要部を概略的に示す断面図である。
図3B】本実施例による車両駆動装置の要部を概略的に示す断面図である。
図4A】本実施例によるモータ駆動装置をX1側から視た斜視図である。
図4B】本実施例による制御基板を概略的に示す平面図である。
図5】車両駆動装置から回転電機及びモータケース等を取り外した状態を回転電機1側から示す斜視図である。
図5A図4Bに示す制御基板にカバー部材が配置された状態を概略的に示す平面図である。
図6】センサロータと制御基板上のセンシング部との関係を示すX2側からの軸方向視の図である。
図7図6におけるセンサロータを取り除いたときの、X2側からの軸方向視の図である。
図8】センサコイルの構成の説明図であり、図7のQ2部の拡大図である。
図9】本実施例による回転角センサのセンシング部とセンサロータとの関係を示す図である。
図10】本実施例によるセンサロータにおけるセンシング部と軸方向に対向する部分を、軸方向に視て示す図である。
図11】本実施例によるセンシング部により生成されるセンサ出力(電気信号)の波形を説明する概略図である。
図12】多層プリント基板である制御基板の層構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。また、図面では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
以下では、本実施例の車両駆動装置10の電気系(制御系)、及び、本実施例の車両駆動装置10を含む駆動システム全体を概説してから、本実施例の車両駆動装置10の詳細について説明する。
【0011】
[車両駆動装置の電気系]
図1は、回転電機1を含む電気回路200の一例の概略図である。図1には、制御装置500についても併せて示される。図1において、制御装置500に対応付けられた点線矢印は、情報(信号やデータ)のやり取りを表す。
【0012】
回転電機1は、制御装置500によるインバータINVの制御を介して駆動される。図1に示す電気回路200では、回転電機1は、電源VaにインバータINVを介して電気的に接続される。なお、インバータINVは、例えば、相ごとに、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nとにそれぞれパワースイッチング素子(例えばMOSFET:Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect TransistorやIGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor等)を備え、高電位側Pのパワースイッチング素子と低電位側Nのパワースイッチング素子とが上下アームを形成する。なお、インバータINVは、相ごとに、複数組の上下アームを備えてもよい。各パワースイッチング素子は、制御装置500による制御下で、所望の回転トルクが発生するようにPWM(Pulse Width Modulation)駆動されてよい。なお、電源Vaは、例えば比較的定格電圧の高いバッテリであり、例えばリチウムイオンバッテリや燃料電池等であってよい。
【0013】
本実施例では、図1に示す電気回路200のように、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nの間には、インバータINVに対して並列に、平滑コンデンサCが電気的に接続される。なお、平滑コンデンサCは、複数組、互いに並列に、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nの間に電気的に接続されてもよい。また、電源VaとインバータINVとの間にDC/DCコンバータが設けられてもよい。
【0014】
[駆動システム全体]
図2は、回転電機1を含む車両用駆動システム100のスケルトン図である。図2には、X方向と、X方向に沿ったX1側とX2側が定義されている。X方向は、第1軸A1の方向(以下、「軸方向」とも称する)に平行である。
【0015】
図2に示す例では、車両用駆動システム100は、車輪Wの駆動源となる回転電機1と、回転電機1と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に設けられた駆動伝達機構7と、を備える。駆動伝達機構7は、入力部材3と、カウンタギヤ機構4と、差動歯車機構5と、左右の出力部材61、62と、を備える。
【0016】
入力部材3は、入力軸31と、入力ギヤ32とを有する。入力軸31は、第1軸A1まわりに回転する回転部材である。入力ギヤ32は、回転電機1からの回転トルク(駆動力)をカウンタギヤ機構4に伝達するギヤである。入力ギヤ32は、入力部材3の入力軸31と一体的に回転するように、入力部材3の入力軸31に連結される。
【0017】
カウンタギヤ機構4は、動力伝達経路において、入力部材3と差動歯車機構5との間に配置される。カウンタギヤ機構4は、カウンタ軸41と、第1カウンタギヤ42と、第2カウンタギヤ43とを有する。
【0018】
カウンタ軸41は、第2軸A2まわりに回転する回転部材である。第2軸A2は、第1軸A1に平行に延在する。第1カウンタギヤ42は、カウンタギヤ機構4の入力要素である。第1カウンタギヤ42は、入力部材3の入力ギヤ32と噛み合う。第1カウンタギヤ42は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0019】
第2カウンタギヤ43は、カウンタギヤ機構4の出力要素である。本実施例では、一例として、第2カウンタギヤ43は、第1カウンタギヤ42よりも小径に形成される。第2カウンタギヤ43は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0020】
差動歯車機構5は、その回転軸心としての第3軸A3上に配置される。第3軸A3は、第1軸A1に平行に延在する。差動歯車機構5は、回転電機1の側から伝達される駆動力を、左右の出力部材61、62に分配する。差動歯車機構5は、差動入力ギヤ51を備え、差動入力ギヤ51は、カウンタギヤ機構4の第2カウンタギヤ43と噛み合う。また、差動歯車機構5は、差動ケース52を備え、差動ケース52内には、ピニオンシャフトや、ピニオンギヤ、左右のサイドギヤ等が収容される。左右のサイドギヤは、それぞれ、左右の出力部材61、62と一体的に回転するように連結される。
【0021】
左右の出力部材61、62のそれぞれは、左右の車輪Wに駆動連結される。左右の出力部材61、62のそれぞれは、差動歯車機構5によって分配された駆動力を車輪Wに伝達する。なお、左右の出力部材61、62は、2つ以上の部材により構成されてもよい。
【0022】
このようにして回転電機1は、駆動伝達機構7を介して車輪Wを駆動する。ただし、他の実施例では、回転電機1は、ホイールインモータとして、車輪内に配置されてもよい。この場合、車両用駆動システム100は、駆動伝達機構7を含まない構成であってよい。また、他の実施例では、駆動伝達機構7の一部又は全部を共用化する複数の回転電機1が設けられてもよい。
【0023】
[車両駆動装置の詳細]
図3A及び図3Bは、本実施例の車両駆動装置10の要部の断面図であり、図3Aは、油路2530を通る断面図であり、図3Bは、冷却水路2528を通る断面図である。
【0024】
車両駆動装置10は、上述した回転電機1と、ケース2と、モータ駆動装置8とを含む。
【0025】
車両駆動装置10は、車両用駆動システム100の一部として車両に搭載され、上述したように、車両を前進又は後退させる駆動力を生成する。なお、車両は、任意の形態であり、例えば4輪の自動車であってもよいし、バス、トラック、二輪車や建設機械等であってもよい。なお、車両駆動装置10は、他の駆動源(例えば内燃機関)とともに車両に搭載されてもよい。
【0026】
回転電機1は、ロータ310及びステータ320を有する。図3A及び図3Bには、回転電機1の軸方向一端側(X1側)の一部が示されている。回転電機1は、インナロータタイプであり、ステータ320がロータ310の径方向外側を囲繞するように設けられる。すなわち、ロータ310は、ステータ320の径方向内側に配置される。
【0027】
ロータ310は、ロータコア312と、シャフト部314とを備える。
【0028】
ロータコア312は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ロータコア312の内部には、永久磁石325が埋め込まれてよい。あるいは、永久磁石325は、ロータコア312の外周面に取り付けられてもよい。なお、永久磁石325の配列等は任意である。ロータコア312は、シャフト部314の外周面に固定され、シャフト部314と一体となって回転する。
【0029】
シャフト部314は、第1軸A1上に配置され、回転電機1の回転軸を第1軸A1上に画成する。シャフト部314は、ロータコア312が固定される部分よりもX1側において、ケース2のモータカバー252(後述)にベアリング240を介して回転可能に支持される。なお、シャフト部314は、回転電機1の軸方向他端側(X2側)において、ベアリング240に対応するベアリングを介してケース2に回転可能に支持される。このようにして、シャフト部314が軸方向両端で回転可能にケース2に支持されてよい。
【0030】
シャフト部314は、例えば中空管の形態であり、中空内部314Aを有する。中空内部314Aは、シャフト部314の軸方向の全長にわたり延在してよい。中空内部314Aは、軸心油路として機能することができる。この場合、シャフト部314は、ステータ320のコイルエンド部322A等に油を吐出する油孔が形成されてよい。
【0031】
ステータ320は、ステータコア321と、ステータコイル322とを備える。
【0032】
ステータコア321は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ステータコア321の内周部には、径方向内側に突出するティース(図示せず)が放射状に形成される。
【0033】
ステータコイル322は、例えば断面平角状又は断面円形状の導体に絶縁被膜が付与された形態であってよい。ステータコイル322は、ステータコア321のティース(図示せず)まわりに巻装される。なお、ステータコイル322は、例えば、1つ以上の並列関係で、Y結線で電気的に接続されてもよいし、Δ結線で電気的に接続されてもよい。
【0034】
ステータコイル322は、ステータコア321のスロットから軸方向外側に突出する部分であるコイルエンド部322Aを有する。以下の説明において、コイルエンド部322Aとは、特に言及しない限り、ステータコイル322の一部であって、ステータコア321の軸方向両側のそれぞれで周方向に沿って延在する部分のうちの、リード側である軸方向一端側(X1側)に沿って延在する部分を指す。
【0035】
ケース2は、例えばアルミ等により形成されてよい。ケース2は、例えば鋳造等により形成できる。ケース2は、複数のケース部材やカバー部材の組み合わせにより形成されてよい。この場合、ケース2は、一体的に結合される各部材を含み、当該各部材の形状や材質等は任意である。本実施例では、ケース2は、モータケース250と、モータカバー252とを含む。ケース2は、回転電機1及びモータ駆動装置8を収容する。また、図2に示した車両用駆動システム100の場合、ケース2は、図2に模式的に示すように、駆動伝達機構7を更に収容してもよい。
【0036】
モータケース250は、回転電機1を収容するモータ収容室SP1を形成する。なお、モータ収容室SP1は、回転電機1(及び/又は駆動伝達機構7)を冷却及び/又は潤滑するための油を含む油密空間であってよい。モータケース250は、回転電機1の径方向外側を囲繞する周壁部を有する形態である。モータケース250は、複数の部材を結合して実現されてもよい。また、モータケース250は、軸方向他端側(X2側)で、駆動伝達機構7を収容する他のケース部材に一体化されてよい。
【0037】
モータカバー252は、比較的高い伝熱性を有する材料(例えばアルミ)により形成される。モータカバー252は、モータケース250の軸方向一端側(X1側)に結合される。モータカバー252は、モータ収容室SP1における軸方向一端側(X1側)を覆うカバーの形態であり、回転電機1に軸方向に対向する。この場合、モータカバー252は、モータケース250の軸方向一端側(X1側)の開口部を完全に又は略完全に閉塞する態様で覆ってもよい。
【0038】
モータカバー252は、モータ駆動装置8を収容するインバータ収容室SP2を形成する。なお、インバータ収容室SP2の一部は、モータケース250により形成されてもよいし、逆に、モータ収容室SP1の一部は、モータカバー252により形成されてもよい。
【0039】
モータカバー252は、モータ駆動装置8を支持する。例えばモータ駆動装置8は、後述するモジュールの形態で、モータカバー252に取り付けられてもよい。これにより、モータカバー252にモータ駆動装置8の一部又は全体を組み付けてから、モータカバー252とモータケース250とを結合でき、モータ駆動装置8の組み付け性が向上する。
【0040】
モータカバー252には、ロータ310を回転可能に支持するベアリング240が設けられる。すなわち、モータカバー252は、ベアリング240を支持するベアリング支持部2524を有する。なお、ベアリング支持部2524とは、モータカバー252のうちの、ベアリング240が設けられる軸方向範囲の部分全体を指す。
【0041】
ベアリング240は、図3A及び図3Bに示すように、シャフト部314のX1側の端部における径方向外側に設けられる。具体的には、ベアリング240は、アウタレースの径方向外側がモータカバー252に支持され、インナレースの径方向内側がシャフト部314の外周面に支持される。なお、変形例では、逆に、ベアリング240は、インナレースの径方向内側がモータカバー252に支持され、アウタレースの径方向外側がシャフト部314の内周面に支持されてもよい。
【0042】
モータカバー252は、図3A及び図3Bに示すように、第1軸A1を中心とした円形状の底部2521と、底部2521の外周縁から軸方向他端側(X2側)へと突出する周壁部2522とを含み、底部2521と周壁部2522とが、インバータ収容室SP2を画成する。底部2521における軸方向他端側(X2側)の中央部(第1軸A1を中心とした部分)には、ベアリング支持部2524が設定される。
【0043】
インバータ収容室SP2は、樹脂により封止される。すなわち、モータカバー252は、好ましくは、伝熱性のモールド樹脂部2523を有する。この場合、モールド樹脂部2523は、後述するモータ駆動装置8を封止して支持する機能と、モータ収容室SP1内の油に対してモータ駆動装置8を保護する機能と、モータ駆動装置8からの熱をモータカバー252に伝達する機能を有することができる。なお、図3A及び図3Bでは、モールド樹脂部2523内に封止される要素(後述するインバータモジュール90等)の一部が透視で示されている。
【0044】
ここで、図3A及び図3Bを参照して、本実施例に適用可能な冷却構造の一例について説明する。以下では、径方向、軸方向及び周方向の各用語は、特に言及しない限り、第1軸A1に関する各方向である。すなわち、軸方向は、第1軸A1に平行な方向(第1軸A1と同軸の線に沿った方向を含む)であり、径方向は、第1軸A1を通りかつ第1軸A1に直交する方向であり、周方向は、第1軸A1に直交する任意の平面内における第1軸A1まわりの方向である。また、軸まわりとは、第1軸A1まわりを指す。
【0045】
図3A及び図3Bに示す例では、冷却構造は、モータカバー252にそれぞれ形成される冷却水路2528及び油路2530(以下、「カバー油路2530」と称する)と、軸心油路を形成する中空内部314Aと、中空内部314Aに油を供給する軸心供給用の管状部材180と、上掛け油路を形成する管状部材181とを含む。
【0046】
冷却水路2528には、冷却水が流される。なお、冷却水は、例えばLLC(Long Life Coolant)を含む水であってよい。この場合、冷却水路2528を流れる冷却水は、車両に搭載されるラジエーター(図示せず)で放熱されることで、比較的低温に維持できる。
【0047】
冷却水路2528は、軸方向に視て任意の形態であってよく、例えば、円環状の形態であってもよいし、螺旋状の形態であってもよいし、径方向外側と内側に蛇行しながら周方向に沿って延在する形態であってもよい。なお、モータカバー252を中子等を用いて製造する場合は、冷却水路2528の形状等の自由度を高めることができる。
【0048】
カバー油路2530には、油が流れる。カバー油路2530には、図示しないオイルポンプから油が供給される。オイルポンプは、例えば駆動伝達機構7に連動する機械式であってよいし、電動式であってもよい。
【0049】
カバー油路2530は、径方向に視て、冷却水路2528とオーバラップしてもよい。この場合、カバー油路2530と冷却水路2528とが径方向に視てオーバラップしない場合に比べて、モータカバー252の厚み(軸方向の底部2521の厚み)の低減を図り、車両駆動装置10の軸方向の体格の低減を図ることができる。
【0050】
カバー油路2530に供給される油は、カバー油路2530を通ってから、管状部材180に供給される。管状部材180は、中空の管状の形態であり、内部が流路を形成する。管状部材180は、第1軸A1と同心状に、軸方向に延在し、軸方向の両端が開口されてよい。管状部材180は、図3Aに示すように、X1側でカバー油路2530(軸心側の出口部25302)に接続され、中空内部314A内までX2側に軸方向に延在し、X2側の端部の開口が中空内部314Aに連通する。
【0051】
管状部材180に供給される油は、軸心油路(中空内部314A)に供給される。中空内部314Aに供給された油は、ロータ310の回転時の遠心力の作用により、シャフト部314の内周面を伝って流れ、ロータコア312及びそれに伴い永久磁石325を径方向内側から冷却する。また、シャフト部314に径方向の油孔を形成して、径方向内側からコイルエンド部322A(図示しないX2側のコイルエンド部322Aも同様、以下同様)に向けて油を吐出することも可能である。この場合、コイルエンド部322Aを径方向内側から冷却できる。
【0052】
また、カバー油路2530に供給される油は、カバー油路2530を通ってから、管状部材181に供給される。管状部材181は、中空の管状の形態であり、内部が流路を形成する。管状部材181は、軸方向に視てステータ320よりも径方向外側において、軸方向に延在し、軸方向の両端が開口されてよい。
【0053】
管状部材181に供給された油は、重力の作用により、管状部材181に形成される径方向の油孔1810を介して、ステータ320に落下する。ステータ320に落下した油は、ステータ320の外周面等を伝って下方へと流れる。これにより、ステータ320を径方向外側から冷却できる。
【0054】
管状部材181の油孔1810は、例えば、コイルエンド部322Aに径方向で対向する油孔1810Aを含んでよい。これにより、コイルエンド部322Aを径方向外側から冷却できる。
【0055】
また、管状部材181の油孔1810は、ステータコア321の外周面に径方向で対向する油孔1810Bを含んでよい。これにより、ステータコア321(及びステータコイル322)を径方向外側から冷却できる。
【0056】
なお、ここでは、一例として、図3A及び図3Bを参照して特定の冷却構造について説明したが、冷却構造の構成の詳細は任意である。例えば、管状部材180及び/又は管状部材181等は省略されてもよい。あるいは、冷却水による冷却自体が省略されてもよい。
【0057】
図4Aは、モータ駆動装置8をX1側から視た斜視図である。図4Bは、制御基板84を概略的に示す平面図である。なお、図4Aでは、モータ駆動装置8のうちの制御基板84の図示は省略されている。
【0058】
モータ駆動装置8は、パワーモジュール80と、コンデンサモジュール82と、制御基板84とを含む。
【0059】
本実施例では、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、図4Aに示すように、複数の組(図4Aに示す例では、12組)をなして、周方向に沿って配置される。パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数は、回転電機1の仕様に応じて変化させる。基本的には、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数が増加すると、回転電機1の出力が大きくなる。従って、回転電機1の設計の際に、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数が異なる複数のバリエーションを設定できる。
【0060】
パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、好ましくは、複数の組のそれぞれにおいて、一体化された組立体の形態である。すなわち、各組のパワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、一体化されたインバータモジュール90(図3A及び図3B参照)を形成する。なお、図3A等に示す例では、インバータモジュール90は、その全体がモールド樹脂部2523が封止されるが、一部だけが露出する態様で封止されてもよい。
【0061】
インバータモジュール90のそれぞれにおいて、パワーモジュール80は同じ構成を有し、コンデンサモジュール82は同じ構成(電気的特性や形状等)を有する。これにより、インバータモジュール90ごとの交換や整備も可能であり、汎用性を高めることができる。本実施例では、インバータモジュール90のそれぞれにおいて、パワーモジュール80は、サブモジュール800と、放熱部材810とを含む(図3A及び図3B参照)。
【0062】
サブモジュール800のそれぞれは、インバータINV(図1参照)における一の相に係る上下アームを形成する。
【0063】
放熱部材810は、比較的高い伝熱性を有する材料(例えばアルミ)により形成される。本実施例では、放熱部材810は、中実のブロックの形態である。これにより、放熱部材810の熱容量を効率的に高めることができる。
【0064】
制御基板84は、後出の図5に良く示すように、径方向外側の部分が締結具BT1等によりモータカバー252に結合されることで、モータカバー252に支持される。制御基板84は、制御装置500(図1参照)の一部又は全体を形成する。なお、締結具BT1は、上述したモールド樹脂部2523に封止されてもよい。
【0065】
本実施例では、制御基板84は、後述するように多層プリント基板により形成される。制御基板84は、基板表面に対する法線方向が軸方向に沿う向きに配置される。これにより、制御基板84を軸方向の僅かな隙間を利用して配置できる。例えば、本実施例では、制御基板84は、図3A及び図3Bに示すように、軸方向で回転電機1とインバータモジュール90との間に配置されてよい。より詳細には、制御基板84は、軸方向で回転電機1のコイルエンド部322Aとパワーモジュール80及びコンデンサモジュール82との間に配置されてよい。これにより、デットスペースになりやすいスペースを利用した効率的な配置を実現できる。また、制御基板84は、軸方向に視て、コイルエンド部322Aにオーバラップする径方向位置まで径方向外側に延在できるので、制御基板84の面積(回路部形成範囲)の最大化を図ることができる。
【0066】
制御基板84は、好ましくは、図4Bに示すように、ロータ310のシャフト部314(図3A及び図3Bも参照)が通る中央孔84aを有する円環状の形態である。この場合、周方向に沿って配置された複数のパワーモジュール80のいずれに対してもその近傍に制御基板84を配置できる。これにより、パワーモジュール80のサブモジュール800を形成する各パワー半導体チップ(例えばパワースイッチング素子のゲート端子)と制御基板84の駆動回路(図示せず)との間の電気的な接続(図示せず)が容易となる。
【0067】
制御基板84は、図4Bに示すように、中央孔84aまわりに円環状の内径側の素子実装領域841と、内径側の素子実装領域841よりも径方向外側に円環状の外径側の素子実装領域842とを有する。外径側の素子実装領域842と内径側の素子実装領域841との間には、円環状の素子非実装領域843が形成されてよい。素子非実装領域843には、素子が配置されない平らな領域(基板自体の平らな表面領域)である。なお、素子非実装領域843は、外径側の素子実装領域842と内径側の素子実装領域841との間の絶縁領域として機能してもよい。この場合、制御基板84において、円環状の2つの領域(内径側の素子実装領域841及び外径側の素子実装領域842)のそれぞれに低圧系の回路と高圧系の回路とを共存させることができる。例えば、制御基板84における内径側の素子実装領域841には、電源Vaに係る高圧を扱う回路部や素子が配置されてよく、外径側の素子実装領域842には、制御装置500を実現するマイコン(マイクロコンピュータの略)等が配置されてよい。
【0068】
本実施例では、制御基板84において、例えば、外径側の素子実装領域842には、低圧系の電子部品503が設けられてもよい。また、内径側の素子実装領域841には、トランス502とともに、他の電子部品(例えばサブモジュール800のパワー半導体チップを駆動するための駆動回路等)が設けられる。トランス502は、ECU(Electronic Control Unit)に搭載の電源トランス部等であってよく、比較的細い導線(例えば銅線)を巻回した形態であってよい。なお、制御基板84には、モータ収容室SP1内の油を循環させる電動オイルポンプを駆動するための電子部品が実装されてもよい。
【0069】
なお、本実施例では、内径側の素子実装領域841は、軸方向に視て、円形の外形であるが、非円形の外形であってもよい。また、円環状の素子非実装領域843についても同様であり、軸方向に視て、外形が円形の形態であるが、外形が非円形の形態であってもよい。
【0070】
次に、前出の図3A図3B、及び図4Bとともに、図5を参照して、本実施例のカバー部材70と、それに関連した特徴的な構成について説明する。
【0071】
図5は、車両駆動装置10から回転電機1及びモータケース250等を取り外した状態を回転電機1側から示す斜視図である。図5では、見やすさのため、制御基板84にはハッチングが付与され、制御基板84よりもX1側の構成(モータ駆動装置8のインバータモジュール90のコンデンサモジュール82)が透視で示されている。図5Aは、図4Bに示す制御基板84にカバー部材70が配置された状態を概略的に示す平面図である。
【0072】
本実施例では、車両駆動装置10は、樹脂材料により形成されるカバー部材70を備える。カバー部材70は、制御基板84上の電子部品を覆うことで、当該電子部品に油(モータ収容室SP1内に流れる油等)が掛かるのを防止する機能を有する。
【0073】
具体的には、カバー部材70は、図3A図3B図5、及び図5Aに示すように、制御基板84におけるX2側(回転電機1に軸方向に対向する側)に配置される。カバー部材70は、制御基板84のX2側表面上に実装される複数の電子部品のうちの少なくとも一部を覆う。なお、変形例では、カバー部材70は、制御基板84のX2側表面上に実装される複数の電子部品すべてを覆ってもよい。
【0074】
カバー部材70は、好ましくは、図5及び図5Aに示すように、軸方向に視て、軸まわりの周方向全体にわたって延在する円環状の形態である。この場合、カバー部材70は、図3A及び図3Bに示すように、径方向内側の端部が、モータケース250に圧入固定されてよい。具体的には、カバー部材70の径方向内側の端部は、ベアリング240よりも径方向外側でベアリング支持部2524に圧入固定されることで、圧入固定部74を形成してよい。この場合、カバー部材70は、ベアリング240よりも径方向外側に延在することになるので、制御基板84よりもX1側にベアリング240を配置する場合でも組み付け性が向上する。すなわち、モータケース250にモータ駆動装置8やカバー部材70を組み付けた後に、モータケース250のベアリング支持部2524にベアリング240とともにシャフト部314(及び回転電機1)を組み付けることができる。
【0075】
カバー部材70は、好ましくは、X2側に突出する突出部位71を有することで、軸方向で制御基板84との間に空間部SP7を形成する。空間部SP7には、制御基板84上に実装される複数の電子部品のうちの一部が配置される。具体的には、空間部SP7には、制御基板84上の内径側の素子実装領域841上の電子部品(例えばトランス502)が配置される。なお、空間部SP7には、制御基板84上の内径側の素子実装領域841上のすべての電子部品が配置されてもよいし、制御基板84上の内径側の素子実装領域841上の一部の電子部品だけが配置されてもよい。
【0076】
カバー部材70の突出部位71は、上述した空間部SP7を形成する機能を有するとともに、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料が注入時に、制御基板84のX2側の表面を伝ってベアリング240等に径方向内側へと流れるのを防止する機能をも有する。本実施例では、モールド樹脂部2523は、制御基板84のX2側の表面上にも延在し、突出部位71の径方向外側まわりに延在する。製造時、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料は、軸方向を上下方向としかつX1側を下側とした姿勢のモータケース250に対して、モータ駆動装置8の一部(例えばインバータモジュール90)を組み付けた後に注入されてよい。この際、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料は、軸方向でX2側へと突出部位71を越えない態様で、注入されてよい。これにより、制御基板84のX2側の表面のうちの、カバー部材70の突出部位71よりも径方向外側にも、モールド樹脂部2523を形成できる。この結果、モールド樹脂部2523により制御基板84上の外径側の素子実装領域842上の電子部品を封止できる。以下では、モールド樹脂部2523のうちの、軸方向で制御基板84とモータカバー252との間に延在する樹脂部を、インバータ側の樹脂部25231とも称し、それ以外の樹脂部(制御基板84のX2側に延在する樹脂部)をモータ側の樹脂部25232とも称する。
【0077】
ところで、本実施例では、上述したように、制御基板84上にモールド樹脂部2523が延在する。モールド樹脂部2523は、制御基板84上の電子部品を封止することで、モータ収容室SP1内の油が制御基板84上の電子部品に掛かるのを防止できる。
【0078】
しかしながら、モールド樹脂部2523は、制御基板84上の電子部品の一部とは線膨張係数が有意に異なりうるため、線膨張係数差に起因した熱応力を電子部品に発生させる要因となりうる。特に、比較的繊細な導線を有するトランス502のような電子部品は、モールド樹脂部2523により封止されると、熱応力に起因してダメージを受けやすい傾向がある。
【0079】
この点、本実施例によれば、カバー部材70を設けることで、制御基板84のX2側の表面上の一部(例えば外径側の素子実装領域842上)にモールド樹脂部2523を延在させつつ、モールド樹脂部2523が延在しない空間部SP7を形成できる。これにより、モールド樹脂部2523との間で線膨張係数に有意差がある要素(例えば露出した銅線)を有する電子部品を、空間部SP7内に配置することで、当該電子部品を、油から保護するとともに、熱応力から保護することができる。すなわち、本実施例によれば、カバー部材70を設けることで、モールド樹脂部2523で封止された場合に熱応力に起因してダメージを受けやすい電子部品を、適切に保護できる。また、制御基板84における回転電機1のコイルエンド部322A近傍に配置されることに起因して電子部品が受けやすい熱衝撃に対しても、空間部SP7により低減できる。なお、このような観点から、空間部SP7に配置される電子部品は、トランス502等、モールド樹脂部2523で封止された場合に熱応力に起因してダメージを受けやすい電子部品であることが好適となる。
【0080】
本実施例において、カバー部材70は、好ましくは、径方向外側において、軸まわりの全周にわたって、制御基板84に軸方向に対向する軸方向の端面72を有する。この際、制御基板84に軸方向に対向する軸方向の端面72は、円環状のカバー部材70の全周にわたって形成されてよい。この場合、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料の注入時に、樹脂材料が空間部SP7に侵入する可能性を低減できる。この可能性を更に低減するために、カバー部材70の軸方向の端面72と制御基板84との間に、シール部材(図示せず)が配置されてもよい。この場合、カバー部材70の軸方向の端面72と制御基板84との間に僅かな隙間が発生しうる場合でも、樹脂材料が空間部SP7に侵入する可能性を低減できる。このような構成は、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料の粘性が低い場合に特に好適である。
【0081】
また、カバー部材70の軸方向の端面72は、制御基板84における素子非実装領域843に軸方向で対向又は当接してよい。素子非実装領域843は、電子部品が実装されていないがゆえに、平らな表面を有する。従って、カバー部材70の軸方向の端面72が制御基板84における素子非実装領域843に軸方向で対向又は当接することで、カバー部材70の端面72と制御基板84との間の密着性(すなわち空間部SP7への樹脂材料の侵入に対する防御性)を高めることができる。
【0082】
ところで、制御基板84のX2側の表面は、軸方向で回転電機1に対して比較的近い位置で対向するので、回転電機1から受熱しやすくなる。この点、かかる受熱を低減するために、モールド樹脂部2523のうちの、モータ側の樹脂部25232は、比較的高い断熱性を有してもよい。他方、モールド樹脂部2523のうちの、インバータ側の樹脂部25231は、インバータモジュール90からの熱を効率的に冷却水路2528等の冷却水へと伝達すべく、比較的高い熱伝導性を有することが望ましい。従って、本実施例において、モールド樹脂部2523は、好ましくは、異なる2種類の樹脂材料により形成される。その際、2種類の樹脂材料は、インバータ側の樹脂部25231がモータ側の樹脂部25232よりも熱伝導性が高く、かつ、モータ側の樹脂部25232がインバータ側の樹脂部25231よりも断熱性が高くなるように、選択されてよい。例えば、インバータ側の樹脂部25231は、比較的高い伝熱性を有するフィラーを含む樹脂材料により形成されるのに対して、モータ側の樹脂部25232は、かかるフィラーを含まない樹脂材料により形成されてもよい。この場合、インバータ側の樹脂部25231は、モータカバー252への制御基板84の組み付け前(ただし、インバータモジュール90の組み付け後)に形成されてもよい。また、モータ側の樹脂部25232は、モータカバー252へのモータ駆動装置8の組み付け後に形成されてもよい。
【0083】
次に、図5等とともに図6以降を参照して、上述した実施例における回転角センサ900の好ましい構成について説明する。
【0084】
図6は、センサロータ91と制御基板84上のセンシング部92との関係を示すX2側からの軸方向視の図であり、図7は、制御基板84上のセンシング部92をX2側からの軸方向視の平面図である。図8は、センサコイル921の構成の説明図であり、図7のQ2部の拡大図である。図9は、制御基板84の断面構成の一例を示す概略図である。図8図6及び図7も同様)では、制御基板84の内層のセンサコイル921は、説明上、透視図で示している。
【0085】
回転角センサ900は、センサロータ91と、センシング部92とを含む。
【0086】
センサロータ91は、導体により形成され、ロータ310と一体に回転する。センサロータ91は、図6に示すように、第1軸A1を中心とした円形状の中心孔911を有する円環状の形態である。センサロータ91は、その中心孔911にシャフト部314が通されることで、シャフト部314とともに回転するように取り付けられてよい。例えば、シャフト部314に径方向の凹部又は凸部が形成され、センサロータ91の中心孔911の内周縁に、シャフト部314の径方向の凹部又は凸部に嵌合する径方向の凸部又は凹部が形成されてもよい。
【0087】
センサロータ91は、周期的に変化する外径を有する。これにより、センサロータ91は、センシング部92と軸方向に対向する周方向位置での外径が、ロータ310の回転角度が所定角度変化するごとに周期的に変化する。所定角度は、設計時に、磁極数等に応じて適宜決定されてよい。本実施例では、センサロータ91は、1周あたり、4つの径方向の凸部と凹部とを交互に有する。この場合、センサロータ91は、センシング部92と軸方向に対向する周方向位置での外径が、ロータ310の回転角度が90度変化するごとに周期的に変化する。
【0088】
なお、変形例では、センサロータ91は、周期的に変化する外径に代えて又は加えて、周期的に変化する厚み(軸方向の厚み)を有してもよい。この場合、センサロータ91は、センシング部92と軸方向に対向する周方向位置での厚みが、ロータ310の回転角度が所定角度変化するごとに周期的に変化する。
【0089】
センシング部92は、制御基板84に実装されてなる。これにより、センシング部92と制御装置500との間の配線を、制御基板84内の配線により容易に実現できるとともに、センシング部92と制御装置500との間の配線長の短縮を図ることができる。
【0090】
センシング部92は、センサロータ91に軸方向に対向しつつ近接するように配置される。制御基板84は、図6に示すように、軸方向に視て円弧状であってよく、センシング部92は、制御基板84の全周のうちの一部の周区間のみに延在してよい。本実施例では、制御基板84は、中央孔84aの周縁部において、径方向内側に突出したセンサ形成領域840(図5A)を有し、センサ形成領域840にセンシング部92(図5には図示せず、図7等参照)が実装される。なお、センサ形成領域840は、制御基板84の中央孔84aの一部を形成しつつ、図5Aに示すように、他の周方向部位よりも径方向内側に延在する。これにより、センシング部92をシャフト部314に径方向で近接させることができ、センサロータ91の小径化を図ることができる。ただし、変形例では、中央孔84aは円形であり、センシング部92は、円形の中央孔84aまわりに形成されてもよい。
【0091】
センシング部92は、渦電流を利用して、ロータ310の回転角度を検出する。図9から図11は、センシング部92による検出原理の説明図である。図9は、回転角センサ900のセンシング部92とセンサロータ91との関係を示す図であり、図10は、センサロータ91におけるセンシング部92と軸方向に対向する部分を、軸方向に視て示す図である。図11は、センシング部92により生成されるセンサ出力(電気信号)の波形を説明する概略図である。図11では、横軸にロータ310の回転角度を取り、縦軸にセンサ出力の大きさを取り、センシング部92により生成されるセンサ出力(電気信号)の時系列波形が模式的に示されている。なお、図11では、ロータ310の回転角度における所定角度(本実施例では90度)分の時系列波形が模式的に示されている。図12は、多層プリント基板である制御基板84の層構造を示す概略図である。
【0092】
センシング部92は、図6から図8に示すように、センサコイル921及び処理回路部922を含む。なお、処理回路部922の機能の一部又は全部は、外部の制御装置(図示せず)により実現されてもよい。
【0093】
センサコイル921は、例えば図9に示すように、制御基板84の両側の表面に形成されてもよい。なお、変形例では、センサコイル921は、制御基板84の両側の表面に代えて又は加えて、制御基板84の内層に形成されてもよい。センサコイル921は、例えばプリントされた導体により形成されてよい。センサコイル921は、X方向に平行な中心軸Oまわりに巻回されてなる。
【0094】
センサコイル921は、周方向に沿って複数個設けられてよい。例えば、センサコイル921は、図8に示すように、4組、周方向に沿って配置されてもよい。
【0095】
本実施例では、センサコイル921は、多層プリント基板である制御基板84の内層に形成される。図12に示す例では、制御基板84は、6層のパターン層8401から8406を有する。制御基板84は、内層に係るパターン層8402から8405が、表面側のパターン層(すなわち1層目のパターン層8401と6層目のパターン層8406)よりも厚み(銅箔厚)が厚い。例えば、表面側のパターン層(すなわち1層目のパターン層8401と6層目のパターン層8406)の厚みは、18μmであるのに対して、内層に係るパターン層8402から8405の厚みは、35μmである。この場合、センサコイル921は、比較的厚いパターン層に形成できるので、必要な断面積を確保するためのパターン幅を、比較的小さくすることができる。すなわち、厚みが比較的大きくなる分だけ、パターン幅を小さくできる。その結果、軸方向に視たときの制御基板84におけるセンサコイル921の実装面積の低減を図ることができる。
【0096】
センサコイル921は、好ましくは、内層に係るパターン層8402から8405のうちの2つ以上のパターン層に形成される。例えば、センサコイル921は、両側の表面に最も近い内層であるパターン層8402及びパターン層8405に形成されてもよい。この場合、パターン層8402及びパターン層8405にそれぞれ形成されるコイルパターンは、軸方向に視て、同心状であり、互いに重なる形態であってよい。この場合、内層に係るパターン層8402から8405のうちの1つの層に形成される場合に比べて、センサコイル921の厚みを実質的に2倍にできるので、各パターン層におけるパターン幅を、比較的小さくすることができる。その結果、軸方向に視たときの制御基板84におけるセンサコイル921の実装面積の更なる低減を図ることができる。
【0097】
処理回路部922は、センサコイル921への通電によりセンサロータ91に渦電流を発生させる。具体的には、図9に模式的に示すように、センサコイル921が通電されると、センサコイル921を貫く磁束B1が発生する。センサコイル921を貫く磁束B1は、センサコイル921に軸方向に対向するセンサロータ91の表面に接触すると、センサロータ91の表面に渦電流が発生する。図10には、渦電流の発生態様が矢印Ieで模式的に示されている。なお、図10においては特定の向きの渦電流が模式的に示されているが、渦電流の向きは、センサコイル921を流れる電流の向きに応じて決まる。渦電流は、磁束B1を減らす磁束を発生させる向きに生じる。従って、渦電流に起因して、磁束B1を減らす磁束B2(図示せず)が発生する。磁束B2の大きさは、渦電流の大きさに比例する。渦電流の大きさは、センサコイル921に軸方向に対向するセンサロータ91の部位の表面積が増加するほど大きくなる。本実施例では、上述したようにセンサロータ91は、周期的に変化する外径を有するので、センサコイル921に軸方向に対向するセンサロータ91の部位の表面積は、ロータ310の回転角度が変化すると変化する。より具体的には、センサコイル921に軸方向に対向するセンサロータ91の部位の表面積は、ロータ310の回転角度が変化すると、正弦波状に変化する。このため、本実施例では、センシング部92により生成されるセンサ出力(電気信号)の時系列波形は、図11に示すように、ロータ310の回転角度が90度変化するごとに、1周期の正弦波を描く。従って、このようなセンサ出力(電気信号)に基づいて、ロータ310の回転角度を検出できる。
【0098】
このように本実施例によれば、回転角センサ900は、制御装置500を形成する制御基板84上にセンシング部92が実装されるので、他の基板にセンシング部92が実装される場合に比べて、基板数を低減し、効率的な構成を実現できる。特に、互いに連通し合うモータ収容室SP1及びインバータ収容室SP2に回転電機1及びインバータモジュール90が配置される構成(すなわち回転電機1及びインバータモジュール90をケース2の共通の収容室内に収容する構成)では、軸方向で回転電機1及びインバータモジュール90の間の空間がデットスペースとなりやすい。従って、かかるデットスペースとなりやすい空間を利用して、制御基板84及び回転角センサ900の効率的な配置を実現できる。
【0099】
また、本実施例によれば、回転角センサ900は、図3A及び図3Bに示すように、軸方向でベアリング240(又はベアリング支持部2524)と回転電機1との間に配置されるので、デットスペースとなりやすい空間を利用した効率的な配置を実現できる。この結果、車両駆動装置10の軸方向の体格の低減を図ることができる。
【0100】
また、本実施例によれば、回転角センサ900は、平板状のセンサロータ91を利用して形成されるので、軸方向の搭載スペースも比較的小さくて済む。また、センサロータ91自体は安価に形成できるので、低コスト化を図ることができる。
【0101】
ここで、再度、図3A図3B、及び図4Bとともに、図5を参照して、制御基板84上のセンシング部92とカバー部材70との関係について説明する。
【0102】
ところで、本実施例において、制御基板84は、上述したように、径方向外側の部分が締結具BT1によりモータカバー252に結合されるのに対して、径方向内側の部分は、モータカバー252に直接的に結合されない。従って、制御基板84は、径方向内側の部分が、径方向外側の部分よりも、軸方向の位置安定性が低くなりやすい。この点、本実施例のように、上述したようにインバータモジュール90のセンシング部92が制御基板84の径方向内側の部分に配置される構成では、センシング部92の軸方向の位置安定性が低くなりやすい。センシング部92の軸方向の位置安定性が低くなると、インバータモジュール90からのセンサ情報の信頼性が低下しやすくなる。
【0103】
そこで、本実施例において、カバー部材70は、好ましくは、制御基板84の径方向内側端部と軸方向に当接する。カバー部材70は、上述したように、径方向内側の端部(圧入固定部74)がモータカバー252に圧入固定される。従って、かかるカバー部材70が制御基板84の径方向内側の端部と軸方向に当接することで、制御基板84の径方向内側の部分の軸方向X2側への変位を抑制でき、制御基板84の径方向内側の部分の位置安定性を高めることができる。この場合、カバー部材70は、制御基板84の径方向内側端部として、制御基板84上のセンシング部92の少なくとも一部(例えばセンサコイル921)に軸方向に当接してもよい。本実施例では、カバー部材70は、突出部位71よりも径方向内側の部位75が、制御基板84のセンサ形成領域840に軸方向に当接する。この場合も、カバー部材70は、樹脂材料により形成できるので、上述した回転角センサ900のセンサ情報を得るための渦電流の発生を阻害することもない。また、本実施例によれば、上述したようにセンサコイル921が制御基板84の内層に実装されるので、カバー部材70との接触(例えば軸方向の押圧力を伴う接触)に起因してセンサコイル921がダメージを受ける可能性も大幅に低減できる。換言すると、本実施例によれば、カバー部材70により制御基板84の位置精度(及びそれに伴うセンサコイル921の位置精度)を高めつつ、センサコイル921を適切に保護できる。なお、カバー部材70の径方向内側の部位75は、制御基板84の径方向内側端部に対して、周方向全周にわたって軸方向に当接してもよいし、周方向の一部(例えばセンサコイル921が配置される周方向範囲)だけに軸方向に当接してもよい。
【0104】
なお、本実施例では、制御基板84の径方向内側の部分は、ベアリング支持部2524の軸方向X2側の端面に対して軸方向に離間しているが、ベアリング支持部2524の軸方向X2側の端面に対して軸方向に当接されてもよい。
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0105】
10・・・車両駆動装置、1・・・回転電機、2・・・ケース、310・・・ロータ、314・・・シャフト部、320・・・ステータ、84・・・制御基板、8402、8405・・・パターン層(内層)、502・・・トランス(電子部品)、503・・・電子部品、70・・・カバー部材、89・・・ブロック組立体(インバータ装置)、900・・・回転角センサ、91・・・センサロータ(被検出部)、921・・・センサコイル(コイル)、2523・・・モールド樹脂部、SP1・・・モータ収容室(共通の収容室、SP2・・・インバータ収容室(共通の収容室)
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図5A
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12