(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120326
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】発泡断熱紙容器用シート、及び発泡断熱紙容器
(51)【国際特許分類】
B32B 27/10 20060101AFI20240829BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20240829BHJP
D21H 27/30 20060101ALI20240829BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20240829BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B5/24 101
D21H27/30 C
D21H27/00 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027046
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 創
(72)【発明者】
【氏名】紺屋本 博
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD06
3E086BA14
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4F100AK01C
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4L055EA04
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4L055EA16
4L055FA11
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】発泡性と成形加工性とに優れた発泡断熱紙容器用シートと、この発泡断熱紙容器用シートを用いた発泡断熱紙容器を提供すること。
【解決手段】紙基材と、該紙基材の一方の面上に形成された熱可塑性樹脂からなる未発泡層と、を有し、
前記紙基材が、多層紙を備え、
前記多層紙が、前記未発泡層に最も近い最外層と該最外層より平均繊維長の短い短繊維層を備え、前記最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L1が1.1mm以下であり、前記短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L2が0.85mm以下である発泡断熱紙容器用シートと、この発泡断熱紙容器用シートを用いた発泡断熱紙容器。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、該紙基材の一方の面上に形成された熱可塑性樹脂からなる未発泡層と、を有し、
前記紙基材が、多層紙を備え、
前記多層紙が、前記未発泡層に最も近い最外層と該最外層より離解後の平均繊維長の短い短繊維層を備え、
前記最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L1が1.1mm以下であり、
前記短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L2が0.85mm以下であることを特徴とする発泡断熱紙容器用シート。
【請求項2】
前記紙基材が、前記最外層上に水溶性樹脂層を備えることを特徴とする請求項1に記載の発泡断熱紙容器用シート。
【請求項3】
前記最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維幅W1が17.5μm以上21.2μm以下、前記短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維幅W2が17.0μm以上19.8μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡断熱紙容器用シート。
【請求項4】
前記最外層におけるN材配合率が0~20質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡断熱紙容器用シート。
【請求項5】
前記短繊維層におけるN材配合率が0~5質量%、抄紙ブローク配合率が20~80質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡断熱紙容器用シート。
【請求項6】
前記最外層と前記短繊維層との坪量比率(最外層/短繊維層)が、0.4以上1.1未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡断熱紙容器用シート。
【請求項7】
最外層と短繊維層の坪量の和が、130g/m2以上285g/m2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡断熱紙容器用シート。
【請求項8】
多層紙の坪量が、160g/m2以上380g/m2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡断熱紙容器用シート。
【請求項9】
胴部材および底板部材の少なくとも一方に発泡断熱紙を用いた発泡断熱紙容器であって、
前記発泡断熱紙が、紙基材と、該紙基材の一方の面上に形成された熱可塑性樹脂からなる発泡層と、を有し、
前記紙基材が、前記発泡層に最も近い最外層と該最外層より離解後の平均繊維長の短い短繊維層を備え、
前記最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L1が1.1mm以下であり、
前記短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L2が0.85mm以下であることを特徴とする発泡断熱紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡断熱紙容器用シートと、このシートを用いた発泡断熱紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ファーストフード店やコンビニエンスストア、自動販売機などでコーヒー、緑茶、紅茶、あるいはスープなどの温飲料の容器、およびカップ入り即席ラーメンなどの容器として、断熱容器が使用されている。このような断熱容器として、一般的に、断熱性に優れた発泡ポリスチレン(EPS)製のものが用いられている。
近年、プラスチック廃棄物や地球温暖化等の環境問題に端を発して脱石油、脱プラスチックの風潮が高まっており、化石資源由来の樹脂材料や非生分解性の樹脂材料の使用量を極力低減することが望まれている。このような風潮下において、断熱容器についても、プラスチック使用量削減が望まれている。
【0003】
特許文献1には、容器胴部材及び底板部材からなる紙製容器において、容器胴部材の外壁面に低融点の熱可塑性樹脂フィルムをラミネートし、これを加熱することにより、基材である紙に含まれている水分の蒸気圧を利用して熱可塑性樹脂フィルムを凹凸に発泡させる断熱性を付与する技術が開示されている。また、特許文献2には、紙基材の少なくとも片面に発泡熱可塑性樹脂層を積層した断熱紙製容器用シートの製造方法において、紙基材に水溶性高分子を含む表面処理剤で表面処理を施す発泡性(断熱性)に優れた断熱紙製容器用シートの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-110439号公報
【特許文献2】特開2012-206384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙基材を用いる発泡断熱容器は、紙基材中の水分を加熱蒸発させて生じた水蒸気により熱可塑性樹脂層を発泡させて発泡層とし、この発泡層中の空気により断熱性が付与されている。熱可塑性樹脂層をより発泡させて断熱性を向上させるためには、紙基材中に適度な空隙が存在し、水蒸気が通りやすいことが好ましい。紙基材を構成するパルプの平均繊維長を長くすることにより、紙基材中の空隙を増やし発泡性(断熱性)を向上させることができるが、成形加工性が低下する(カップ成型時にカップ上部のトップカール部分が想定した形状にならない、もしくはシワが発生する)という問題がある。
本発明は、発泡性と成形加工性とに優れた発泡断熱紙容器用シートと、この発泡断熱紙容器用シートを用いた発泡断熱紙容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.紙基材と、該紙基材の一方の面上に形成された熱可塑性樹脂からなる未発泡層と、を有し、
前記紙基材が、多層紙を備え、
前記多層紙が、前記未発泡層に最も近い最外層と該最外層より離解後の平均繊維長の短い短繊維層を備え、
前記最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L1が1.1mm以下であり、
前記短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L2が0.85mm以下であることを特徴とする発泡断熱紙容器用シート。
2.前記紙基材が、前記最外層上に水溶性樹脂層を備えることを特徴とする1.に記載の発泡断熱紙容器用シート。
3.前記最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維幅W1が17.5μm以上21.2μm以下、前記短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維幅W2が17.0μm以上19.8μm以下であることを特徴とする1.または2.に記載の発泡断熱紙容器用シート。
4.前記最外層におけるN材配合率が0~20質量%であることを特徴とする1.または2.に記載の発泡断熱紙容器用シート。
5.前記短繊維層におけるN材配合率が0~5質量%、抄紙ブローク配合率が20~80質量%であることを特徴とする1.または2.に記載の発泡断熱紙容器用シート。
6.前記最外層と前記短繊維層との坪量比率(最外層/短繊維層)が、0.4以上1.1未満であることを特徴とする1.または2.に記載の発泡断熱紙容器用シート。
7.最外層と短繊維層の坪量の和が、130g/m2以上285g/m2以下であることを特徴とする1.または2.に記載の発泡断熱紙容器用シート。
8.多層紙の坪量が、160g/m2以上380g/m2以下であることを特徴とする1.または2.に記載の発泡断熱紙容器用シート。
9.胴部材および底板部材の少なくとも一方に発泡断熱紙を用いた発泡断熱紙容器であって、
前記発泡断熱紙が、紙基材と、該紙基材の一方の面上に形成された熱可塑性樹脂からなる発泡層と、を有し、
前記紙基材が、前記発泡層に最も近い最外層と該最外層より離解後の平均繊維長の短い短繊維層を備え、
前記最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L1が1.1mm以下であり、
前記短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L2が0.85mm以下であることを特徴とする発泡断熱紙容器。
【発明の効果】
【0007】
本発明の発泡断熱紙容器用シートは、未発泡層に最も近い層として、空隙の多い最外層を備え、水蒸気が通りやすいため、発泡性に優れており、断熱性に優れた発泡断熱紙容器を得ることができる。本発明の発泡断熱紙容器用シートは、多層紙を有し、この多層紙の最外層以外の層の少なくとも1つの層が短繊維層であることにより、カップ成型時にカップ上部のトップカール部分の形状不良やシワの発生を抑制でき、成形加工性を高く維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(発泡断熱紙容器用シート)
本発明の発泡断熱紙容器用シートは、紙基材と、この紙基材の一方の面上に形成された熱可塑性樹脂からなる未発泡層とを有する。
本発明の発泡断熱紙容器用シートが有する紙基材は、多層紙を備え、この多層紙は、未発泡層に最も近い最外層とこの最外層より離解後の平均繊維長の短い短繊維層を備える。最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L1は1.1mm以下であり、短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L2は0.85mm以下である。
【0009】
本発明において、平均繊維長と平均繊維幅は、長さ加重平均繊維長と長さ加重平均繊維幅を意味し、例えば、ABB株式会社製ファイバーテスターやバルメット株式会社製フラクショネータ等の画像解析装置や、光学顕微鏡、電子顕微鏡等を用いて繊維を観察することにより測定できる。
本明細書において、「A~B」(A、Bは数値)との表記は、A、Bの値を含む数値範囲、すなわち、A以上B以下を意味する。
【0010】
(紙基材)
本発明の紙基材は、多層紙を備え、この多層紙は、未発泡層に最も近い最外層とこの最外層より離解後の平均繊維長の短い短繊維層を備える。本発明で用いる多層紙は、最外層と短繊維層の少なくとも2層以上の紙層を有する。多層紙の紙層の数は制限されず、例えば、2層以上5層以下とすることができ、製造工程を簡略化する点から、4層以下が好ましく、3層以下がより好ましい。
【0011】
(多層紙)
多層紙は、最外層と、短繊維層と、任意の他層とを備える。最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L1は、1.1mm以下である。短繊維層は、最外層よりも離解後の平均繊維長が短く、その離解後の平均繊維長L2は0.85mm以下である。本発明の紙基材は、上記した特定の平均繊維長の関係を満足する多層紙を用いることにより、水蒸気がより均一に放出されやすく面内での発泡のバラツキが小さく、かつ、成形加工性を高く維持することができる。
【0012】
最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L1は1.1mm以下である。平均繊維長L1が1.1mmを超えると、折れ割れが起こりやすくなる。平均繊維長L1は、短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L2よりも長ければよいが、その下限は0.68mm以上が好ましく、0.70mm以上がより好ましく、0.72mm以上がさらに好ましく、0.74mm以上がよりさらに好ましい。
最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維幅W1は、17.5μm以上21.2μm以下であることが、均一な発泡、折れ割れ抑制の観点から好ましい。平均繊維幅W1は、17.7μm以上が好ましく、21.0μm以下が好ましい。
【0013】
短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L2は0.85mm以下である。平均繊維長L2が0.85mmを超えると、折れ割れが起こりやすくなる。平均繊維長L2は、最外層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長L1よりも短ければよいが、その下限は0.60mm以上程度である。
短繊維層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維幅W2は、17.0μm以上19.8μm以下であることが、折れ割れ抑制の観点から好ましい。平均繊維幅W2は、17.2μm以上が好ましく、19.4μm以下が好ましい。
【0014】
平均繊維長L1と平均繊維長L2との差(L1-L2)は、発泡性と加工適性のバランスの点から、0.005mm以上0.2mm以下であることが好ましく、0.01mm以上がより好ましく、0.18mm以下がより好ましく、0.16mm以下がさらに好ましい。
平均繊維幅W1と平均繊維幅W2との差(W1-W2)は、発泡性と加工適性のバランスの点から、0.2μm以上4.0μm以下であることが好ましく、0.3μm以上がより好ましく、3.0μm以下がより好ましい。
【0015】
多層紙の各紙層が含む製紙用繊維としては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未漂白パルプ(NUKP)、サルファイトパルプなどの化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、他の原紙製造時に発生した切れ端や不良品などの未使用の原紙を再離解した抄紙ブローク、脱墨パルプ、古紙パルプ、ケナフ、竹、麻などから得られた非木材繊維等の1種または2種以上を用いることができ、求める平均繊維長のものを選択するか、求める平均繊維長となるように2種以上を配合すればよい。これらの中で、異物混入のおそれの少ない、化学パルプ、抄紙ブロークが好ましく、化学パルプとしてはLBKPとNBKPが好ましい。なお、抄紙ブロークは、製造現場において一般的に利用されている原料であり、バージンバルプのときと比較して、平均繊維長は短く、ろ水度は低くなる。
【0016】
最外層は、平均繊維長L1と平均繊維幅W1を上記した範囲内に調整することが容易なため、最外層が含む全製紙用繊維に対するN材(針葉樹系パルプ)配合率が0~20質量%であることが好ましい。なお、上記したように、「0~20質量%」等の表記は、0を含む数値範囲を意味し、任意材料であり含まなくてもよい(0質量%)ことを意味する。 短繊維層は、平均繊維長L2と平均繊維幅W2を上記した範囲内に調整することが容易なため、短繊維層が含む全製紙用繊維に対するN材配合率が0~5質量%、抄紙ブローク配合率が20~80質量%であることが好ましい。
【0017】
多層紙は、少なくとも最外層と短繊維層の2層以上有し、かつ、最外層と短繊維層とが上記した離解後の平均繊維長の関係を満足すればよく、例えば、短繊維層を2層以上有することもでき、短繊維層に該当しない他層を有することもできる。
短繊維層を2層以上有する場合、各短繊維層の離解後の平均繊維長は、最外層から離れるほど短くなることが発泡性の点から好ましい。
短繊維層に該当しない他層を有する場合、他層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長は特に制限されず、例えば、0.5mm以上3.0mm以下とすることができ、短繊維層の平均繊維長L2より長くてもよく、最外層の平均繊維長L1と同程度であってもよく、最外層の平均繊維長L1より長くてもよい。他層の配置も特に制限されないが、多層紙の最外層と最内層を除く層は、離解後の平均繊維長が最外層から離れるほど短くなることが発泡性の点から好ましい。他層が多層紙の最内層である場合は、最内層が含む製紙用繊維の離解後の平均繊維長は特に制限されないが、成形加工性の点から、最外層の平均繊維長L1との差の絶対値が0.2mm以内であることが好ましく、0.1mm以内であることがより好ましい。
【0018】
多層紙は、紙層の間に澱粉層を有することが好ましい。澱粉層は、多層紙の紙層を抄き合わせる前に、対向する紙層の少なくとも一面に澱粉水溶液を噴霧することにより形成することができる。紙層の間に澱粉層を有する多層紙は、層間接着性が向上し、加工時に層間剥離が生じにくい。
澱粉としては、公知のものを用いることができ、例えば、カチオン化澱粉、ジカルボン酸エステル澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、エーテル化澱粉、アセチル化澱粉、酸化澱粉などの1種または2種以上を用いることができ、カチオン化澱粉、酸化澱粉が好ましい。
【0019】
本発明において、多層紙の製造方法は特に制限されず、例えば、各層ごとに製紙用繊維と任意の填料と内添薬品とを含む紙料をそれぞれ調製し、多層抄き抄紙機を用いて製造することができる。多層抄き抄紙機としては、長網型湿式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機等、公知の多層抄紙が可能な抄紙機を特に制限することなく用いることができる。また、必要に応じて、外添薬品による表面処理を行うことができる。
【0020】
多層紙の坪量は、160g/m2以上380g/m2以下が好ましい。坪量が160g/m2未満では、発泡に必要な水分が不足して十分に発泡しない場合があり、また、容器を手で把持したときに熱さを感じやすくなる。坪量が380g/m2を超えると、容器の成形加工性の低下などの問題が起こる場合がある。多層紙の坪量は、180g/m2以上がより好ましく、200g/m2以上がさらに好ましく、また、360g/m2以下がより好ましく、340g/m2以下がさらに好ましい。
【0021】
最外層と短繊維層の坪量の和は、130g/m2以上285g/m2以下が好ましい。最外層と短繊維層の坪量の和がこの範囲内であることにより、発泡断熱紙容器用シートの紙基材に適した発泡性と厚さとすることが容易となる。最外層と短繊維層の坪量の和は、140g/m2以上がより好ましく、150g/m2以上がさらに好ましく、270g/m2以下がより好ましく、250g/m2以下がさらに好ましい。
【0022】
最外層と短繊維層との坪量比率(最外層/短繊維層)は、0.4以上1.1未満が好ましい。この坪量比率が0.4未満では、水蒸気の通過性があまり向上せず、1.1以上では折れ割れが発生しやすくなる。この坪量比率は、0.45以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましく、1.05以下がより好ましく、1.0以下がさらに好ましい。
【0023】
(水溶性樹脂層)
本発明の紙基材は、多層紙の最外層上に水溶性樹脂層を備えることが好ましい。多層紙は、その表面に凹凸を有するが、最外層上に水溶性樹脂層を形成すると、水分が放出されやすい隙間の大きい部分には厚い皮膜、水分が放出されにくい隙間の小さい部分には薄い皮膜が形成され、水蒸気放出性の面内バラツキが小さくなる。そのため、水溶性樹脂層を備える紙基材を用いることにより、熱可塑性樹脂層をより均一に発泡させることができる。
水溶性樹脂層を形成する水溶性樹脂としては、造膜性を有する水溶性高分子であれば特に限定されるものではなく、澱粉、酸化澱粉、加工澱粉等の澱粉類、完全ケン化型ポリビニルアルコール、部分ケン化型ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロース等のセルロースエーテル類、ポリアクリルアミド等の1種または2種以上を用いることができる。また、水溶性樹脂層には、必要に応じて、耐水化剤、紙力増強剤、サイズ剤などを配合することができる。
【0024】
水溶性樹脂層を形成する方法は、特に限定されず、例えば、ロッドコーター、バーコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、スライドビードコーター、カレンダーサイズプレス、ゲートロールサイズプレス、2ロールあるいはメータリングブレード方式のサイズプレスコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター、ゲートロールコーター、キャレンダーによるニップコーター等の公知の塗工機により形成することができる。水溶性樹脂層を形成する場合は、塗工機は、多層抄き抄紙機とオンマシン/オフマシンのどちらでもよい。
【0025】
水溶性樹脂層の塗工量(固形分)は、片面当たり0.1g/m2以上3.0g/m2以下が好ましい。この程度の低塗工量で紙基材の表面を均一に処理するには、低濃度かつ低粘度の塗工液で表面処理することが必要であり、紙基材中の空隙を潰さずに維持させる必要があるため、2ロールサイズプレスコーターまたはゲートロールコーターを用いることが好ましい。
【0026】
(未発泡層)
本発明の発泡断熱紙容器用シートは、紙基材の最外層側の面上に熱可塑性樹脂からなる未発泡層を有する。
未発泡層を形成する熱可塑性樹脂は、積層が可能であり、かつ発泡可能であれば特に制限されず、結晶性樹脂、非結晶性樹脂のどちらの熱可塑性樹脂も使用することができる。結晶性樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、PPS樹脂等が例示可能である。非結晶性樹脂の例としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂、変性PPE、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)等が例示可能である。これらの熱可塑性樹脂は、単一の樹脂を単層で使用しても、複数の樹脂を複層で使用してもよいが、発泡性の点から単層であることが好ましい。
【0027】
本発明の未発泡層に使用する熱可塑性樹脂は、押出しラミネート適性および発泡性が優れることからポリエチレンが好ましい。ポリエチレンは、大きくは低密度ポリエチレン(密度:0.880~0.925g/cm3、融点:55℃~120℃)、中密度ポリエチレン(密度:0.925~0.940g/cm3、融点:115~130℃)、高密度ポリエチレン(密度:0.940~0.970g/cm3、融点:125~140℃)に区分される。本発明では、押出しラミネート適性および発泡性が特に優れることから、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0028】
未発泡層の厚さは、30μm以上80μm以下が好ましい。未発泡層の厚さが30μm未満では、十分な厚さの発泡層が形成されない場合があり、未発泡層の厚さが80μmを超えると均一な発泡が難しくなる場合がある。なお、本発明において、未発泡層は1層であってもよく、2層以上で構成してもよい。未発泡層を2層以上で構成する場合は、全ての未発泡層を合計した厚さを上記範囲とすることが好ましい。
【0029】
(水蒸気遮断層)
紙基材の最外層とは反対側の面(最内層)上に水蒸気遮断層を形成することができる。水蒸気遮断層は、発泡層形成時に蓋の役割を果たすものである。水蒸気遮断層により、多層紙中で生じた水蒸気の水蒸気遮断層側からの漏出が抑制され、そのほとんどを最外層側から噴出することができる。
水蒸気遮断層は、水蒸気の漏出(通過)を阻害するものであれば特に制限されず、例えば、未発泡層を形成する熱可塑性樹脂よりも高融点である熱可塑性樹脂からなる非発泡熱可塑性樹脂層や、水蒸気バリア性樹脂と必要に応じて顔料を含む水蒸気バリア塗工層が挙げられる。
【0030】
熱可塑性樹脂からなる未発泡層、及び非発泡熱可塑性樹脂層の積層方法は特に制限されず、押出しラミネート法、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の各種方法を適宜使用して積層すればよいが、紙基材と熱可塑性樹脂の密着性が良好なため、押出しラミネート法が好ましい。押出しラミネート法とは、紙基材上に、熱可塑性樹脂をTダイから溶融樹脂膜の状態で押出し、クーリングロールとこれに対向するニップロールとの間で冷却しつつ押圧・圧着する方法である。
【0031】
押出しラミネート法の操業条件、即ち、熱可塑性樹脂の溶融温度、積層速度等は、使用する熱可塑性樹脂の種類や装置により適宜設定すればよく特に制限されないが、一般に、溶融温度は200~350℃程度、積層速度は50~200m/分程度である。また、ニップロールとしては硬度70度以上(JIS K-6253)のものを使用し、クーリングロールとこれに対向するニップロールによる押圧・圧着は、線圧15kgf/cm以上で行うことが好ましい。
さらに、本発明では、未発泡層を積層する場合、未発泡層同士の接着性を向上させるため未発泡層間に接着性樹脂層を挟む、あるいは、紙基材と未発泡層の接着性を向上させるためコロナ処理、オゾン処理等を行うなどしてもよい。
【0032】
・発泡断熱紙容器
本発明の発泡断熱紙容器用シートを用いて容器を成形した後、加熱して未発泡層を発泡させて発泡層とすることにより、発泡断熱紙容器とすることができる。本発明の発泡断熱紙容器の形状は特に制限されないが、少なくとも胴部材と底板部材とを有するカップ状が好ましい。なお、本発明の発泡断熱紙容器は、その外表面が発泡して微細な凹凸が形成され、独特の風合いを有しているため、断熱性が要求されない小物やギフト等の包装容器等としても用いることもできる。
【0033】
胴部材と底板部材とを有するカップ状の容器の成形方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。本発明の発泡断熱紙容器用シートは、胴部材と底板部材の少なくとも一方に用いることができるが、手が触れやすい胴部材に用いることが好ましく、胴部材と底板部材の両方に用いることがより好ましい。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例により詳述するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
製紙用繊維の平均繊維長と平均繊維幅は、ABB株式会社製ファイバーテスターで測定した。
カナダ標準ろ水度(C.S.F.)は、JIS P8121に準じて測定した。
【0035】
・製紙用繊維
L材(広葉樹系パルプ)A(LBKP:平均繊維長0.76mm、平均繊維幅17.9μm、ろ水度360ml)
L材B(LBKP:平均繊維長0.65mm、平均繊維幅16.8μm、ろ水度350ml)
N材(NBKP:平均繊維長2.01mm、平均繊維幅21.7μm、ろ水度:540ml)
抄紙ブローク(平均繊維長0.70~0.76mm、平均繊維幅17.0~17.9μm、ろ水度250~350ml)
【0036】
「実施例1」
L材A100質量部に、サイズ剤(対製紙用繊維0.7質量%)、内添澱粉(対製紙用繊維0.4質量%)、PAM(対製紙用繊維0.1質量%)を添加し、最外層用紙料を得た。
L材A60質量部と抄紙ブローク40質量部に、サイズ剤(対製紙用繊維0.7質量%)を添加し、中間層用紙料を得た。
最内層には最外層用紙料を用い、各紙層間に澱粉を吹き付けながら抄き合わせ、最内層(他層)/中間層(短繊維層)/最外層の3層からなる多層紙を得た。
【0037】
得られた多層紙に、2ロールサイズプレスコーターを用いてポリビニルアルコールを両面で0.4g/m2になるように塗工・乾燥して、水溶性樹脂層を形成して、紙基材を得た。
紙基材の一方の面上に、熱可塑性樹脂(低密度ポリエチレン、融点108℃)を厚さ70μmとなるように340℃の溶融温度で押出し、この溶融熱可塑性樹脂と多層紙とをクーリングロールと硬度70度のニップロールを用いて、線圧15kgf/cmで押圧・圧着し、未発泡層を形成した。また、紙基材の他方の面上に非発泡熱可塑性樹脂(中密度ポリエチレン、融点128℃)を厚さ40μmとなるように、320℃の溶融温度で押出しラミネートして水蒸気遮断層を形成し、発泡断熱紙容器用シートを得た。
【0038】
「実施例2」
中間層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A20質量部と抄紙ブローク80質量部とした以外は実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして、発泡断熱紙容器用シートを得た。
「実施例3」
最外層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A90質量部とN材10質量部、中間層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A65質量部と抄紙ブローク35質量部とした以外は実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして発泡断熱紙容器用シートを得た。
「実施例4」
最外層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A80質量部とN材20質量部、中間層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A75質量部とN材5質量部と抄紙ブローク20質量部とし、紙層の設定坪量を変更した以外は実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして、発泡断熱紙容器用シートを得た。
【0039】
「実施例5」
紙層の設定坪量を変更した以外は、実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして発泡断熱紙容器用シートを得た。
「実施例6」
紙層の設定坪量を変更した以外は、実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして発泡断熱紙容器用シートを得た。
「実施例7」
紙層の設定坪量を変更した以外は、実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして発泡断熱紙容器用シートを得た。
【0040】
「比較例1」
最外層用紙料の製紙用繊維の配合をL材B100質量部とし、紙層の設定坪量を変更した以外は実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして、発泡断熱紙容器用シートを得た。
「比較例2」
最外層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A80質量部とN材20質量部、中間層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A80質量部とN材10質量部と抄紙ブローク10質量部とし、紙層の設定坪量を変更した以外は実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして、発泡断熱紙容器用シートを得た。
「比較例3」
中間層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A70質量部とN材10質量部と抄紙ブローク20質量部とし、紙層の設定坪量を変更した以外は実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして、発泡断熱紙容器用シートを得た。
【0041】
「比較例4」
最外層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A60質量部とN材40質量部、中間層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A55質量部と抄紙ブローク45質量部とし、紙層の設定坪量を変更した以外は実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして、発泡断熱紙容器用シートを得た。
「比較例5」
最外層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A50質量部と抄紙ブローク50質量部、中間層用紙料の製紙用繊維の配合をL材A65質量部と抄紙ブローク35質量部とし、紙層の設定坪量を変更した以外は実施例1と同様にして、多層紙を得た。
この多層紙を用いて、実施例1と同様にして、発泡断熱紙容器用シートを得た。
【0042】
「比較例6」
実施例1の最外層用紙料を用い、単層の原紙を得た。
この原紙を用いて、実施例1と同様にして、発泡断熱紙容器用シートを得た。
「比較例7」
L材A60質量部と抄紙ブローク40質量部とした以外は、比較例6と同様にして、発泡断熱紙容器用シートを得た。
【0043】
実施例、比較例で得られた発泡断熱紙容器用シートについて、以下の測定、評価を行った。結果を表1に示す。
<離解後の平均繊維長と平均繊維幅>
得られた多層紙を、20℃±5℃で30分以上水に浸けた後、手で各紙層を分離した。各紙層のパルプ絶乾分25gに、水(20℃±5℃)を加えて1,200gにメスアップし、Tappi離解機で30分間離解し、離解原料サンプルを得た。
得られた離解原料サンプルについて、ABB株式会社製ファイバーテスターを用いて、平均繊維長と平均繊維幅を測定した。
<発泡性(美麗性)>
得られた発泡断熱紙容器用シートから1辺100mmの正方形の試験片を切り出し、熱風を使用して、加熱温度115℃、加熱時間6分間で未発泡層を発泡させて発泡層とした。
発泡後の発泡層の表面を目視で観察し、以下の基準で発泡性(美麗性)を評価した。
◎:発泡性は良好で、発泡は特に均一である。
○:発泡性に問題はなく、発泡は均一である。
×:発泡性に劣り、発泡にムラがある。
【0044】
<加工適性>
発泡断熱紙容器用シートを胴部材、底板部材とするカップ(胴部成型後の底部径66mm、上部径95mm、高さ107mm。底板部材は直径68mm(胴部材底部から10mmにはめ込みシールする)。トップカール部分は直径3mmの円形に成型の上シールする。)を1,000個以上成型した際の成型不良(トップカール部分の形状不良やシワの発生)の発生率を評価した。
◎:成型時に成型不良の発生がほとんどない(0.3%未満)。
○:成型時の成型不良の発生率は少ない(1.0%未満)。
×:成型時に成型不良が発生することが多い(1.0%以上)。
【0045】
【0046】
本発明である実施例1~7で得られた発泡断熱紙容器用シートは、発泡性、加工適性に優れていた。
比較例1、5より、平均繊維長L1が平均繊維長L2よりも短い場合に、発泡性が低下することが確かめられた。
比較例2~4より、中間層または最外層の離解パルプの繊維長が長くなりすぎると、加工適性が低下することが確かめられた。