(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120336
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】心理状態知覚支援システムおよび心理状態知覚支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 80/00 20180101AFI20240829BHJP
【FI】
G16H80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027067
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】523005209
【氏名又は名称】株式会社COMARU
(74)【代理人】
【識別番号】100174780
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 円香
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA13
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】推定された対象者の心理状態と、対象者自身が知覚している心理状態との異同の知覚を支援する心理状態知覚支援技術を提供する。
【解決手段】心理状態知覚支援システムAは、対象者の心理状態を表す複数の尺度の各々に対する評価値を取得する心理状態評価値取得部2と、評価値を可視化した可視化評価値情報を生成する可視化評価値情報生成部3と、可視化評価値情報を表示する可視化評価値情報表示部4と、対象者から、自身が知覚している心理状態である知覚心理状態を取得する知覚心理状態取得部5と、知覚心理状態を可視化した可視化知覚心理状態情報を生成する可視化知覚心理状態情報生成部6と、可視化評価値情報と可視化知覚心理状態情報とを表示する表示制御部7と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の心理状態を表す複数の尺度の各々に対する評価値を取得する心理状態評価値取得部と、
前記評価値を可視化した可視化評価値情報を生成する可視化評価値情報生成部と、
前記可視化評価値情報を表示する可視化評価値情報表示部と、
前記対象者から、自身が知覚している心理状態である知覚心理状態を取得する知覚心理状態取得部と、
前記知覚心理状態を可視化した可視化知覚心理状態情報を生成する可視化知覚心理状態情報生成部と、
前記可視化評価値情報と前記可視化知覚心理状態情報とを表示する表示制御部と、を備えた心理状態知覚支援システム。
【請求項2】
前記知覚心理状態取得部は、心理状態を複数の段階で表現した際のその複数の段階の各々を示す図形を表示させるとともに、前記対象者により選択された当該図形に対応する当該心理状態の段階を前記知覚心理状態として取得する請求項1記載の心理状態知覚支援システム。
【請求項3】
対象者の心理状態を表す複数の尺度の各々に対する評価値を取得する心理状態尺度取得機能と、
前記評価値を可視化した可視化評価値情報を生成する可視化評価値情報生成機能と、
前記可視化評価値情報を表示装置に表示させる可視化評価値情報表示機能と、
前記対象者から入力装置を介して、自身が知覚している心理状態である知覚心理状態を取得する知覚心理状態取得機能と、
前記知覚心理状態を可視化した可視化知覚心理状態情報を生成する可視化知覚心理状態情報生成機能と、
前記可視化評価値情報と前記可視化知覚心理状態情報とを表示装置に表示させる表示制御機能と、をコンピュータに実現させる心理状態知覚支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の心理状態の知覚を支援する心理状態知覚支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発達障害は身近でありながらも社会的には十分に認知されていなかった。しかしながら、近年、発達障害を持つ人(以下、発達障害者と称する)それぞれの特性を理解し、その特性に応じた支援を行うことで個々の能力を十分に発揮できることへの理解が進んでいる。また、発達障害者支援法等の支援のための法整備や発達障害者支援センター等の支援機関が設立される等、支援策が拡充されつつある。それに伴い、発達障害者の雇用も広がってきている。
【0003】
このように、発達障害者を支援するための法律、支援機関、施策等が整備されつつあるが、最も重要なのが支援者や雇用先等(以下、支援者等と総称する)の対応である。上述したように、発達障害者の支援のためには、その個々の特性を理解することが非常に重要である。特に、個々の心理状態を把握し、その心理状態に応じた対応やケアが重要になってくる。そのため、支援者等が的確に発達障害者の特性を把握する必要がある。また、発達障害者自身も自らの心理状態を把握することで、支援者等とのより良い意思疎通ができる等により、より良い支援を受けることができる。
【0004】
例えば、特許文献1では、提示された複数の画像等の非言語情報から一つを選択させ、選択した非言語情報から連想される言語情報及び/又は感覚的情報を入力させ、それらからの分析結果を表示している。この特許文献1の技術では、分析結果を表示することにより、被験者の心理状態を理解する手がかりをつかむことができる。
【0005】
特許文献2では、取得した対象者の生体情報から対象者の精神状態の度合いを示すメンタル度を求め、メンタル度の分析結果を時系列で表示している。この特許文献2の技術では、メンタル度を2次元平面上の点として表し、その平面上で精神状態の種類をベクトルとして定義し、メンタル度をそのベクトル上に写像することにより、その精神状態の評価値を算出している。これを時系列で表示することにより、対象者は自身の精神状態の変化を知覚することができる。
【0006】
特許文献3では、取得した対象者の生体情報から対象者の心理状態を推定し、その心理状態を示す情報(心理状態情報)を提示する。対象者は提示された心理状態情報が妥当であるか否かの判断を入力する。そして、入力された判断に基づいて対象者の心理状態を決定し、出力する。この特許文献3の技術では、推定された心理状態が妥当であるか否かを判断し、その判断を受けて心理状態が決定されるため、心理状態の判定の信頼性を高めることができる。
【0007】
また、非特許文献1には、TMSと呼ばれる一時的な気分尺度の測定方法が提案され、その測定結果の妥当性が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-000154号公報
【特許文献2】特開2020-137895号公報
【特許文献3】特開2022-114906号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「一時的気分尺度(TMS)の妥当性」,徳田完二著,立命館人間科学研究,22,1-6,2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術では、例えば、分析結果を画像からの印象として、その印象の時系列の変化を提示することを挙げている。しかしながら、このような分析結果を時系列で表示したとしても、発達障害者や支援者等が発達障害者の心理状態を十分に理解することは困難である。
【0011】
これに対して、特許文献2の技術では、複数の精神状態の種類の各々に対して、評価値の時系列変化が提示されるため、特許文献1の技術に比べて、発達障害者や支援者等が発達障害者の心理状態を把握しやすいと考えられる。しかしながら、本発明の発明者は自身の支援経験から、ときとして分析された発達障害者の心理状態と発達障害者自身が知覚している心理状態との間にギャップがあり、そのギャップのために適切な支援が行えないという知見を得ており、特許文献2の技術ではこのような場合に対応することは困難である。
【0012】
一方、特許文献3の技術では、推定された心理状態に対して、対象者自身が妥当性を評価し、その評価に基づいて心理状態を決定しているため、推定された心理状態と対象者自身が知覚している心理状態とのギャップを小さくすることができる。しかしながら、特許文献3では、推定された心理状態の信頼性が低く、対象者が知覚している心理状態の信頼性が高いという前提にたっているため、自身の心理状態をうまく知覚できない発達障害者に対して適用することは困難である。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、推定された対象者の心理状態と、対象者自身が知覚している心理状態との異同の知覚を支援する心理状態知覚支援技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る、心理状態知覚支援システムは、対象者の心理状態を表す複数の尺度の各々に対する評価値を取得する心理状態評価値取得部と、前記評価値を可視化した可視化評価値情報を生成する可視化評価値情報生成部と、前記可視化評価値情報を表示する可視化評価値情報表示部と、前記対象者から、自身が知覚している心理状態である知覚心理状態を取得する知覚心理状態取得部と、前記知覚心理状態を可視化した可視化知覚心理状態情報を生成する可視化知覚心理状態情報生成部と、前記可視化評価値情報と前記可視化知覚心理状態情報とを表示する表示制御部と、を備えている。
【0015】
この構成では、対象者の心理状態に対する他者評価(心理状態を表す複数の尺度の各々に対する評価値)と自己評価(自身が知覚している心理状態)とが可視化されて表示されるため、対象者や支援者等はこれらの異同、異なっている場合にはその程度を知覚しやすくなる。
【0016】
本発明に係る心理状態知覚支援システムの好適な実施形態の一つでは、前記知覚心理状態取得部は、心理状態を複数の段階で表現した際のその複数の段階の各々を示す図形を表示させるとともに、前記対象者により選択された当該図形に対応する当該心理状態の段階を前記知覚心理状態として取得する。
【0017】
この構成では、対象者の心理状態を取得するに際して、それぞれの心理状態の段階に応じた図形が表示されるため、対象者は知覚している自身の心理状態を図形として捉えることができる。
【0018】
また、本発明は、心理状態知覚支援プログラムも権利対象としており、そのような心理状態知覚支援プログラムは、対象者の心理状態を表す複数の尺度の各々に対する評価値を取得する心理状態尺度取得機能と、前記評価値を可視化した可視化評価値情報を生成する可視化評価値情報生成機能と、前記可視化評価値情報を表示装置に表示させる可視化評価値情報表示機能と、前記対象者から入力装置を介して、自身が知覚している心理状態である知覚心理状態を取得する知覚心理状態取得機能と、前記知覚心理状態を可視化した可視化知覚心理状態情報を生成する可視化知覚心理状態情報生成機能と、前記可視化評価値情報と前記可視化知覚心理状態情報とを表示装置に表示させる表示制御機能と、をコンピュータに実現させる。
【0019】
当然ながら、このような心理状態知覚支援プログラムも上述した心理状態知覚支援システムと同様の付加的な特徴構成を付加することができ、同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】心理状態知覚支援システムの機能ブロック図である。
【
図2】TMSのアンケートフォームを示す図である。
【
図4】心理状態知覚支援システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】(a)視覚化評価値情報の画像例、(b)視覚化知覚心理状態情報の画像例である。
【
図8】クライアントサーバシステムとして構成した実施形態における心理状態知覚支援システムの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を用いて、本発明に係る心理状態知覚支援システムの実施形態を説明する。心理状態知覚支援システムは発達障害者(本発明における対象者の例)を雇用する企業や支援する支援機関等で用いられる場合を説明する。
【0022】
〔全体構成〕
図1は、本実施形態に係る心理状態知覚支援システムAの機能ブロック図である。本実施形態では、心理状態知覚支援システムAは汎用コンピュータであり、後述する機能部は、ハードウェアまたは、読み込まれた心理状態知覚支援プログラム(ソフトウェア)とハードウェアとが協働することにより構成されている。当然ながら、心理状態知覚支援システムAは専用のハードウェアのみによって構成しても構わない。
【0023】
図1に示すように、心理状態知覚支援システムAには、表示装置Bと入力装置Cとが接続されている。表示装置Bは通常のディスプレイであり、各種表示に使用される。また、入力装置Cはキーボードやマウス等であり、対象者からの入力等のインタラクションに使用される。心理状態知覚支援システムAをタブレット型コンピュータで構成した場合には、タッチパネル付きディスプレイが表示装置Bと入力装置Cとに相当する。
【0024】
本実施形態における心理状態知覚支援システムAは、制御部1,心理状態評価値取得部2,可視化評価値情報生成部3,可視化評価値情報表示部4,知覚心理状態取得部5,可視化知覚心理状態情報生成部6,表示制御部7,記録部8,認証部9を備えている。
【0025】
記録部8はHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記録媒体、または不揮発性記憶媒体とDBMS(Database Management System)とが協働して構成されており、心理状態知覚支援システムAの処理に必要なデータが記録されている。
【0026】
制御部1は、全体の処理の流れを制御等する機能部であり、主にCPU(Central Processing Unit)とソフトウェアとが協働して構成されている。
【0027】
心理状態評価値取得部2は、対象者の心理状態を表す複数の尺度(以下、心理状態尺度と称する)に対する各々の評価値(以下、心理状態尺度評価値と称する)を取得する機能部である。本実施形態では、後述するように、心理状態尺度評価値は予め求められており、対象者を一意に特定可能な識別子(以下、対象者IDと称する)と関連付けられて、記録部8に記録されている。なお、この評価値は対象者の主観によるものではなく、客観的に求められるものである。例えば、対象者に対してアンケートを行い、その回答に基づいて算出された評価値を用いることができる。本実施形態では、後述するように、非特許文献1のTMSを用いて評価値を算出する。
【0028】
可視化評価値情報生成部3は、心理状態評価値取得部2により取得された心理状態尺度評価値を可視化した可視化評価値情報を生成する機能部である。可視化評価値情報は、本実施形態では心理状態尺度評価値をグラフ化した画像を用いるが、その他、対象者が心理状態尺度評価値を視覚により知覚できる情報であれば用いることができる。
【0029】
可視化評価値情報表示部4は、可視化評価値情報生成部3により生成された可視化評価値情報を表示装置Bに表示させる機能部である。対象者は、表示装置Bに表示された可視化評価値情報を見ることにより、他者が評価した自身の心理状態を知ることができる。
【0030】
知覚心理状態取得部5は、対象者自身が知覚している心理状態(知覚心理状態)を取得する機能部である。本実施形態では、知覚心理状態取得部5は以下の2つの機能を備えている。先ず1つは、心理状態を複数の段階で表現した場合の、その各々の段階に対応した図形(以下、心理状態図形と称する)を表示装置Bに表示させる機能である。なお、ここでの心理状態は、上述の心理状態尺度ではなく、全体的な心理状態、すなわち、複数の心理状態尺度を総合したものである。そして、もう1つは、入力装置Cを介して、対象者が選択した心理状態図形に対応する心理状態の段階を取得する機能である。本実施形態では、ここで取得された心理状態の段階が本発明における知覚心理状態に相当する。
【0031】
可視化知覚心理状態情報生成部6は、知覚心理状態取得部5により取得された知覚心理状態を可視化した可視化知覚心理状態情報を生成する。
【0032】
表示制御部7は、可視化評価値情報と可視化知覚心理状態情報とを表示装置Bに表示させる機能部である。
【0033】
認証部9は、心理状態知覚支援システムAを使用する対象者のユーザ認証を行う機能部である。本実施形態では、ユーザ認証に必要なデータは対象者IDとともに記録部8に記憶されている。
【0034】
〔心理状態尺度評価値〕
本実施形態では心理状態尺度評価値は非特許文献1のTMSを用いるため、TMSについて簡単に説明する。TMSでは心理状態尺度として「活気」,「疲労」,「怒り」,「抑鬱」,「緊張」,「混乱」の6つを採用している。対象者には
図2に示すアンケートフォームを用いて、「生き生きしている」,「疲れている」,「ふきげんだ」等のアンケート項目に対して「まったく当てはまらない」から「非常に当てはまる」までの5段階での評価を行ってもらう。このようなアンケート項目は18あり、それぞれの心理状態尺度には3つのアンケート項目が対応している。例えば、心理状態尺度「活気」には、1,7,13のアンケート項目が対応している。心理状態尺度とアンケートの項目番号の対応は
図3の集計表に示している。そして、
図3に示す集計表を用いて、心理状態尺度毎に、対応するアンケート項目の評価値を加算し、その心理状態尺度の評価値(心理状態尺度評価値)を算出する。算出された6つの心理状態尺度評価値は対象者IDと関連付けて記録部8に記憶しておく。
【0035】
〔処理の流れ〕
以下に、
図4のフローチャートを用いて本実施形態における心理状態知覚支援システムAの処理の流れを説明する。なお、処理全体の流れ等は制御部1により制御される。先ず、認証部9は表示装置Bにログイン情報を入力するためのフォーム等を表示し、対象者が入力装置Cを介して入力したログイン情報を取得する。ここでは、ログイン情報はログイン名とパスワードとするが、その他の情報を用いても構わない。認証部9は、取得したログイン情報と記録部8に記憶されているログイン情報とを照合することによりユーザ認証を行う(#01)。記録部8には、対象者IDとログイン情報とが関連付けて記録されているため、認証部9はその情報に基づいてユーザ認証が成功した対象者の対象者IDを特定する(#02)。
【0036】
対象者IDが特定されると、心理状態評価値取得部2は記録部8からその対象者IDに関連付けられて記憶されている心理状態尺度評価値を取得する(#03)。本実施形態では、記録部8のDBMSを介して対象者IDをキーとして心理状態尺度評価値を検索する。
【0037】
心理状態尺度評価値が取得されると、可視化評価値情報生成部3はその心理状態尺度評価値から可視化評価値情報を生成する(#04)。上述したように、本実施形態では可視化評価値情報として各々の心理状態尺度に対する心理状態尺度評価値をグラフ化したものを用いる。
図5は本実施形態における可視化評価値情報であり、各々の心理状態尺度に対する心理状態尺度評価値をレーダーチャートとして表している。この図では、「活気」,「疲労」,「怒り」,「抑鬱」,「緊張」,「混乱」の心理状態尺度評価値はそれぞれ7,12,12,9,12,5である。
【0038】
可視化評価値情報が生成されると、可視化評価値情報表示部4は表示装置Bに可視化評価値情報として
図5のようなレーダーチャートを表示する(#05)。
【0039】
次に、知覚心理状態取得部5は心理状態図形を表示装置Bに表示させる(#06)。上述したように、心理状態図形は心理状態を複数の段階で表現した場合の、その各々の段階に対応した図形であり、対象者が視覚的に心理状態の段階を理解できるものである。本実施形態では、心理状態の段階の数は6(0~5)とし、心理状態図形として
図6に示すような充電式電子機器で用いられている充電状態を示す図形を採用している。この
図6の例では、それぞれの心理状態図形の下に対応するパーセンテージを表示したが、これに代えて、または、これとともに「全く元気がない」,「元気いっぱい」等の言葉を表示しても構わない。
【0040】
対象者はこの表示された複数の心理状態図形の中から、自分自身が知覚している心理状態に対応する心理状態図形を、入力装置Cを操作して選択する。心理状態図形を用いることにより、対象者は直感的に自身の心理状態に対応する心理状態の段階を選択することができる。特に、充電状態を示す図形は現在では非常に身近で使用され、馴染みがあるため、その図形が意味する内容を直感的に理解することができ、自身の心理状態の段階と対応させやすくなっている。対象者によって一つの心理状態図形が選択されると、知覚心理状態取得部5は選択された心理状態図形に対応する心理状態の段階(知覚心理状態)を特定し、取得する(#07)。例えば、右から2つめの心理状態図形(50%)が選択された場合には、知覚心理状態として、段階4が取得される。
【0041】
次に、可視化知覚心理状態情報生成部6は、知覚心理状態取得部5により取得された知覚心理状態を可視化した可視化知覚心理状態情報を生成する(#08)。本実施形態では、可視化知覚心理状態情報として知覚心理状態取得部5で用いた心理状態図形と同様に充電状態を示す図形を使用するが、他の図形を用いても構わない。知覚心理状態が段階4の場合には、例えば
図6の右から2つめの図形が生成される。
【0042】
そして、表示制御部7は、可視化評価値情報と可視化知覚心理状態情報とを表示装置Bに表示させる(#09)。ここでの表示は、対象者の心理状態に対する他者の認識(心理状態尺度評価値)と自身の認識(知覚心理状態)との異同を視覚的に知覚できやすいことが必要である。そのため、例えば、先ず
図7(b)に示すような可視化知覚心理状態情報を表示し、対象者がその可視化知覚心理状態情報に対して入力装置を用いて選択(クリックやタップ等)操作を行うと、
図7(a)に示すような可視化評価値情報の表示を行う。対象者はこのような表示を見ることにより、他者の自分の心理状態に対する認識と、自分自身が自分の心理状態に対する認識とが一致しているのか、異なっているのか、異なっている場合にはその差異の程度を直感的に理解しやすくなる。なお、可視化評価値情報を表示する際には、可視化知覚心理状態情報と並置しても構わないし、可視化知覚心理状態情報を非表示としても構わないが、上述の目的のためには前者が好ましい。また、初めから視覚化評価値情報と視覚化知覚心理状態情報とを並置して表示しても構わない。
【0043】
〔クライアントサーバシステムとして構成した実施形態〕
上述の実施形態では、心理状態知覚支援システムAを単一のコンピュータで構成したが、複数のコンピュータを用いて構成することもできる。
図8は、複数のコンピュータからなるクライアントサーバシステムとして構成した心理状態知覚支援システムAの機能ブロック図である。
図8において、
図1の機能部とほぼ同等の機能を有する機能部には同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。なお、
図8におけるコンピュータの構成や機能部の分散配置は一例であり、本発明の目的を達する限りにおいて適宜変更可能である。
【0044】
本実施形態では、サーバSと端末T1,T2とにより心理状態知覚支援システムAが構成されており、これらはLAN(Local Area Network)等の通信回線Nを介して接続されている。なお、端末T1は対象者が、端末T2は支援者等が使用することを想定している。
【0045】
本実施形態では、サーバSと端末T1とにより上述の実施形態の処理が分担されている。そのため、図に示すように、上述の実施形態における心理状態知覚支援システムAの各機能部は、サーバSと端末T1とに分散配置されている。具体的には、サーバSは、制御部1,心理状態評価値取得部2,可視化評価値情報生成部3,可視化知覚心理状態情報生成部6,記録部8,認証部9を備えている。一方、端末T1は、対象者が使用することを想定しており、制御部1,可視化評価値情報表示部4,知覚心理状態取得部5,表示制御部7,認証部9を備えている。
【0046】
このように、機能部をサーバSと端末T1との分散配置したことにより、処理も以下のようにサーバSと端末T1と分散される。具体的には、ユーザ認証処理(#01)は、端末T1における認証部9がログイン情報を取得し、そのログイン情報をサーバSに送信し、サーバSの認証部9がログイン情報の照合を行っている。また、サーバSで生成された可視化評価値情報は端末T1に送信され、端末T1の可視化評価値情報表示部4により表示装置Bへの表示が行われる。同様に、サーバSで生成された可視化知覚心理状態情報も端末T1に送信され、端末T1の表示制御部により表示装置Bに表示される。なお、本実施形態では、サーバSで生成された可視化評価値情報と可視化知覚心理状態情報とは、対象者IDと関連付けられて記録部8に記録される。
【0047】
一方、支援者等が使用する端末T2の基本機能は対象者の可視化評価値情報と可視化知覚心理状態情報との閲覧であるため、その機能に必要な機能部のみを備えている。具体的には、端末T2は、制御部1,表示制御部7,認証部9のみを備えている。なお、端末T2におけるユーザ認証処理は、支援者等自身の認証処理である。そのため、サーバSの記録部8には支援者等のログイン情報が記録されている。また、上述の実施形態や本実施形態における端末T1でのユーザ認証ではログイン情報から対象者IDを特定することができたが、端末T2ではユーザ認証処理からは対象者IDを特定することができない。そのため、端末T2ではユーザ認証が完了すると、制御部1による支援者等とのインタラクションにより、支援者等が閲覧を希望する対象者を特定可能な情報の取得が行われ、その情報がサーバSに送信され、サーバSにおいて対象者IDの特定が行われる。なお、対象者を特定可能な情報が対象者IDでない場合には、サーバSの記録部8に対象者を特定可能な情報と対象者IDとを関連付けて記録させておく必要がある。
【0048】
このようにして対象者IDが特定されると、その対象者IDに関連付けられてサーバSの記録部8に記録されている可視化評価値情報と可視化知覚心理状態情報とが取得され、端末T2に送信される。そして、端末T2において表示制御部により可視化評価値情報と可視化知覚心理状態情報とが表示装置Bに表示される。
【0049】
支援者等が対象者の可視化評価値情報と可視化知覚心理状態情報とを閲覧することにより、対象者の心理状態についての他者評価と自己評価とを確認し、その異同を知覚しやすくなる。これにより、対象者のそのときどきの心理状態だけでなく、対象者の自己の心理状態の知覚傾向をも把握することができ、それぞれの対象者に適した支援に繋げることができる。また、心理状態知覚支援システムAを通して複数の支援者等が対象者に対して共通の理解を深めることができ、より良い支援に繋げることができる。
【0050】
このように、本発明に係る心理状態知覚支援システムAを用いることにより、対象者は自身の心理状態を客観的に知覚するとともに、心理状態についての他者評価と自己評価との異同を知覚しやすくなる。また、支援者等も対象者の心理状態や自己の心理の知覚傾向を把握することができ、それに応じた支援策を施すことにより、それぞれの対象者に適した支援を行うことができる。
【0051】
〔別実施形態〕
(1)上述の実施形態では、予め対象者がTMSのアンケート項目に回答し、そこから算出された心理状態評価値を記録部8に記録しておいたが、心理状態知覚支援システムAにおいてTMSのアンケート項目への回答および心理状態評価値の算出を行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、発達障害者の心理状態の知覚支援、特に、心理状態に対する他者評価と自己評価との異同を知覚するのを支援する技術に利用することができる。このような技術を用いることにより、発達障害者の支援施設や雇用先等における支援者等が、発達障害者それぞれの心理状態や心理状態をどのように知覚しているのかを把握し、それぞれに応じた支援に繋げることができる。
【符号の説明】
【0053】
A:心理状態知覚支援システム
B:表示装置
C:入力装置
S:サーバ(心理状態知覚支援システム)
T1:端末(心理状態知覚支援システム)
T2:端末(心理状態知覚支援システム)
2:心理状態評価値取得部
3:可視化評価値情報生成部
4:可視化評価値情報表示部
5:知覚心理状態取得部
6:可視化知覚心理状態情報生成部
7:表示制御部