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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120346
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】隊列走行制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/165 20200101AFI20240829BHJP
   B60W 30/182 20200101ALI20240829BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B60W30/165
B60W30/182
B60W30/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027082
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】項 警宇
(72)【発明者】
【氏名】仙波 快之
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA15
3D241BB01
3D241BB02
3D241BB06
3D241CC03
3D241CC08
3D241CC17
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DC02Z
3D241DC12Z
(57)【要約】
【課題】 短い車間距離を安定して維持できる隊列走行を実現する
【解決手段】システムは、隊列を構成する各車両に設けられ、隊列内の前方車との相対位置を測定する測定手段と、隊列を構成する各車両に設けられ、隊列内の前記前方車から速度と旋回曲率とを受信する通信手段と、隊列を構成する各車両に設けられ、測定された前記相対位置と、受信された速度とを用いて当該車両の速度を制御することで、前方車との車間距離を維持する第1制御手段と、隊列を構成する各車に設けられ、測定された相対位置と、受信された速度及び旋回曲率とを用いて当該車両の舵角を制御することで、前方車の走行軌道を追跡する第2制御手段とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両が隊列を形成して隊列走行するためのシステムであって、
前記隊列を構成する各車両に設けられ、前記隊列内の前方車との相対位置を測定する測定手段と、
前記隊列を構成する各車両に設けられ、前記隊列内の前記前方車から速度と旋回曲率とを受信する通信手段と、
前記隊列を構成する各車両に設けられ、測定された前記相対位置と、受信された前記速度とを用いて当該車両の速度を制御することで、前記前方車との車間距離を維持する第1制御手段と、
前記隊列を構成する各車に設けられ、測定された前記相対位置と、受信された前記速度及び前記旋回曲率とを用いて当該車両の舵角を制御することで、前記前方車の走行軌道を追跡する第2制御手段と、
を備える、システム。
【請求項2】
前記第1制御手段は、少なくとも停止モード、加速モード、減速モード及び定常モードを含む、複数の制御モードを選択的に実行するように構成されており、
前記停止モードでは、当該車両の前記速度がゼロに調整されるとともに、前記前方車との車間距離が所定の第1閾値距離以上となったときに前記加速モードに遷移し、
前記加速モードでは、当該車両の前記速度が所定の加速度で増速するとともに、前記前方車の前記速度が所定の第1閾値速度以下となったときは前記減速モードに遷移し、それ以外のときは前記前方車との速度差が所定の第1閾値速度差以下となったときに前記定常モードに遷移し、
前記定常モードでは、当該車両の前記速度が前記前方車の前記速度に応じて制御されるとともに、前記前方車の前記速度が所定の第2閾値速度以下となったときは前記減速モードに遷移し、それ以外のときは前記前方車との速度差が所定の第2閾値速度差以上となったときに前記加速モードに遷移し、
前記減速モードでは、当該車両の前記速度が所定の減速度で減速するとともに、前記前方車との速度差が所定の第3閾値速度差以上となったときは前記加速モードに遷移し、前記前方車との車間距離が所定の第2閾値距離以下となったときは前記停止モードへ遷移する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第2制御手段は、前記相対位置を用いて生成した前記前方車の軌道に、前記通信手段で受信された前記前方車の前記速度及び前記旋回曲率を重ね合わせて目標軌道を作成し、前記目標軌道から目標位置及び目標旋回曲率を決定するとともに、決定された前記目標位置及び前記目標旋回曲率に基づいて当該車両の舵角を制御する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記第2制御手段は、複数の舵角候補を記憶しており、それぞれの舵角候補で当該車両が走行したときの推定位置及び推定旋回曲率をそれぞれ計算し、前記推定位置及び前記推定旋回曲率が前記目標位置及び前記目標旋回曲率に最も近い舵角候補を選択する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記通信手段は、前記前方車から軌道パラメータをさらに受信可能であり、
前記第2制御手段は、前記目標軌道を作成するときに、受信された前記軌道パラメータに基づいて、前記目標軌道を前記前方車の走行軌道から横方向にオフセットさせる、請求項3又は4に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、複数の車両が隊列を形成して隊列走行するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、複数の車両が隊列を形成して隊列走行するためのシステムが開示されている。このシステムでは、先頭車両から隊列の全車両に位置を送信し、各車両は先頭車両との車間距離を安定化させることで、車間距離の発振現象を抑制するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-162282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の隊列走行において、前方車の軌道を追従することと、車間距離を維持することは重要なことである。この点に関して、自動車のように既定の車線を走行する車両の場合は、前者と後者とが別々の問題であることから、それぞれを別の手法で解決することができる。一方、歩行領域を走行するモビリティや、自律走行搬送ロボット(AMR)のように、既定の車線が存在しない車両の場合は、車間距離を維持する精度が軌道の追従性に影響を与える。例えば、車間距離が長くなったり、車間距離が安定しなかったりすると、軌道の追従精度が低下する。以上を鑑み、本明細書は、短い車間距離を安定して維持できる隊列走行を実現するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する技術は、複数の車両が隊列を形成して隊列走行するためのシステムに具現化される。ここでいう車両は、歩行領域を走行するモビリティや、自律走行搬送ロボットに限られず、エンジンやモータといった原動機を有する車両を広く意味し、そこには例えば一般的な自動車も含まれる。
【0006】
本技術の第1の態様において、システムは、前記隊列を構成する各車両に設けられ、前記隊列内の前方車との相対位置を測定する測定手段と、前記隊列を構成する各車両に設けられ、前記隊列内の前記前方車から速度と旋回曲率とを受信する通信手段と、前記隊列を構成する各車両に設けられ、測定された前記相対位置と、受信された前記速度とを用いて当該車両の速度を制御することで、前記前方車との車間距離を維持する第1制御手段と、前記隊列を構成する各車に設けられ、測定された前記相対位置と、受信された前記速度及び前記旋回曲率とを用いて当該車両の舵角を制御することで、前記前方車の走行軌道を追跡する第2制御手段と、を備えてもよい。なお、ここでいう「前方車」とは、隊列内において各車両の直前に位置する車両を意味する。また「当該車両」とは、上記の手段が搭載された個々の車両、即ち、各手段の制御対象である一の車両を意味する。
【0007】
短い車間距離を維持する上での課題は、前方車の挙動に対する応答性がある。例えば、応答性が高すぎると、車間距離に発振現象が生じてしまう。一方、応答性が低すぎると、車間距離が目標に対して大きくオーバーシュートして、目標とする車間距離に到達するまでの時間が長くなってしまう。この点に関して、本技術に係るシステムでは、車両間通信を利用することにより、各車両は、前方車の走行情報(特に、速度及び旋回曲率)を前方車から直接受信することができる。このような構成によると、各車両は、自ら測定した前方車との相対位置に、前方車から受信した走行情報を加味することにより、前方車の加減速に応じて自己の速度を適切に制御することができる。これにより、隊列を構成する各車両は、短い車間距離を安定して維持することが可能となる。
【0008】
本技術の第2の態様では、上記した第1の態様に加えて、前記第1制御手段は、少なくとも停止モード、加速モード、減速モード及び定常モードを含む、複数の制御モードを選択的に実行するように構成されていてもよい。前記停止モードでは、当該車両の前記速度がゼロに調整される。そして、前記停止モードの実行中に、前記前方車との車間距離が所定の第1閾値距離以上になったときは、前記加速モードに遷移する。前記加速モードでは、当該車両の前記速度が、所定の加速度で増速する。そして、前記加速モードの実行中に、前記前方車の前記速度が所定の第1閾値速度以下となったときは、前記減速モードに遷移し、それ以外のときは、前記前方車との速度差が所定の第1閾値速度差以下のときに、前記定常モードに遷移する。
【0009】
前記定常モードでは、当該車両の前記速度が前記前方車の前記速度に応じて制御(例えばフィードバック制御)される。そして、前記定常モードの実行中に、前記前方車の前記速度が所定の第2閾値速度以下となったときは、前記減速モードに遷移し、それ以外のときは、前記前方車との速度差が所定の第2閾値速度差以上となったときに、前記加速モードに遷移する。前記減速モードでは、当該車両の前記速度が所定の減速度で減速する。そして、前記減速モードの実行中に、前記前方車との速度差が所定の第3閾値速度差以上となったときは前記加速モードに遷移し、前記前方車との車間距離が所定の第2閾値距離以下となったときは前記停止モードへ遷移する。
【0010】
上記の構成によると、前方車との車間距離と前方車の速度とに応じて、四つの制御モード(停止、加速、減速、定常)のなかから適切な制御モードが選択的に実行される。これにより、特に前方車の発進時や停止時における応答性が向上して、車間距離の発進やオーバーシュートを抑制することができる。また、各閾値を厳密に調整することによって、オーバーシュートの発生を実質的に排除することも可能である。加えて、停止時と走行時との間で目標とする車間距離を切り替える場合でも、停車する際に減速モードを利用することで、低速で走行しながら停止時の車間距離へ正確に合わせることができる。
【0011】
本技術の第3の態様では、上記した第1の態様又は第2の態様に加えて、前記第2制御手段が、前記相対位置を用いて生成した前記前方車の軌道に、前記通信手段で受信された前記前方車の前記速度及び前記旋回曲率を重ね合わせて目標軌道を作成し、前記目標軌道から目標位置及び目標旋回曲率を決定するとともに、決定された前記目標位置及び前記目標旋回曲率に基づいて当該車両の舵角を制御するように構成されてもよい。
【0012】
各車両が前方車の軌道を追従する精度を上げるためには、各車両が前方車の軌道を正しく取得して、正しい操舵角を計算する必要がある。この点に関して、上記した本技術の第3の態様では、前方車との相対位置のみではなく、前方車の旋回曲率を前方車から直接取得することで、目標軌道を正確に計算することができる。これにより、前方車の位置に向けて舵角を計算するのではなく、目標軌道上に目標位置と目標旋回曲率を設定し、その目標位置で目標旋回曲率になるように、車両の舵角を制御することが可能となる。従来の技術では、「目標位置には行けるが姿勢が異なる」といった事象が問題とされてきたが、本技術によればこのような問題が回避又は抑制される。
【0013】
本技術の第4の態様では、上記した第3の態様に加えて、前記第2制御手段は、複数の舵角候補を記憶していてもよい。そして、前記第2制御手段は、それぞれの舵角候補で走行したときの推定位置及び推定旋回曲率をそれぞれ計算し、前記推定位置及び前記推定旋回曲率が前記目標位置及び前記目標旋回曲率に最も近い舵角候補を選択するように構成されてもよい。
【0014】
目標軌道上に設定された目標位置及び目標旋回曲率に対して、適切な舵角を厳密に計算することは比較的に負荷が高い。そのため、高性能な計算機を採用することも考えられるが、コストの増大を招いてしまう。比較的に安価な汎用のマイコン等を採用するためには、計算を簡略化するための手法が必要となる。この点に関して、上記した本技術の第4の態様では、事前に複数の舵角候補が準備されている。そして、それぞれの舵角候補を採用した場合の推定位置及び推定旋回曲率がそれぞれ計算され、計算された推定値が目標値に最も近似する舵角候補が選択される。このような構成によると、比較的に少ない計算量でも適切な舵角を決定することができる。
【0015】
本技術の第5の態様では、上記した第3の態様又は第4の態様に加えて、前記通信手段が、前記前方車から軌道パラメータをさらに受信可能であってもよい。そして、前記第2制御手段は、前記目標軌道を作成するときに、受信された前記軌道パラメータに基づいて、前記目標軌道を前記前方車の走行軌道から横方向にオフセットさせるように構成されてもよい。
【0016】
隊列が走行方向に沿って複数列に並ぶ場合、旋回時に内側に位置する列と外側に位置する列との間では,旋回半径と要求速度が互いに相違する。さらには内側に位置する列では、目標とする車間距離についても変更する必要がある。そのため、複数列で追従する各車両は、これらの情報を獲得して自己の走行を制御する必要がある。この点に関して、上記した本技術に係る第5の態様では、各車両が後続車に軌道パラメータと呼ばれる指標(数値)を送信し、それを受信した追従車両は、その軌道パラメータを用いて各自の旋回曲率、速度、車間距離を計算し、さらに最高速度、最高加速度を計算してもよい。このような構成によると、追従車両は、自己が位置する列に応じて適切な制御目標値を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例の複数の車両10を隊列走行させるシステムを示す。
図2】制御装置20が実行する四つの制御モードを示す。
図3】四つの制御モードで制御された車間距離の経時的変化を示す。
図4】旋回する第1車両10Aに追従する第2車両10Bを示す。
図5】前方車の走行軌道に対する追従者の走行軌道の偏差を示す。
図6】第1車両10Aに二列で追従する第2車両10B及び第3車両10Cを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、本技術の一実施例である複数の車両10を隊列走行させるシステムについて説明する。複数の車両10は、特に限定されないが、歩行領域を走行するモビリティや、自律走行搬送ロボットであり、隊列を形成しながら走行することができる。但し、複数の車両10は、これらの車両に限られず、エンジンやモータといった原動機を有する各種の車両であってよく、例えば一般的な自動車であってもよい。
【0019】
複数の車両10は、先頭を走行する第1車両10Aと、第1車両10Aに追従して走行する第2車両10Bと、第2車両10Bに追従して走行する第3車両10Cとが含まれる。なお、隊列走行する複数の車両10の数については、特に限定されない。各々の車両10は、車体12と、複数の車輪14f、14rとを備える。なお、車輪14f、14rの数についても特に限定されない。一例ではあるが、本実施例の車両10は、一つの前車輪14fと、二つの後車輪14rとを備える。前車輪14fは操舵輪となっており、二つの後車輪14rは駆動輪となっている。
【0020】
各々の車両10は、走行用モータ16と、操舵用モータ18と、それらのモータ16、18を制御する制御装置20とをさらに備える。走行用モータ16は、後車輪14rに接続されており、後車輪14を駆動することができる。走行用モータ16は、例えばインホイールモータであってよいが、その形態については特に限定されない。操舵用モータ18は、前車輪14fを操回転可能に支持するハブに接続されており、前車輪14fを操舵することができる。制御装置20は、走行用モータ16を制御することで、車両10の速度を制御することができる。また、制御装置20は、操舵用モータ18を制御することで、車両10の舵角(旋回曲率)を制御することができる。ここで、本実施例における走行用モータ16及び制御装置20は、本技術における「第1制御手段」の一例である。また、操舵用モータ18及び制御装置20は、本技術における「第2制御手段」の一例である。
【0021】
各々の車両10は、カメラ22と、無線通信機24と、基準ランプ26とを備える。カメラ22は、例えば双眼のカメラであって、前方を走行する他の車両10(前方車)を撮影する。カメラ22は、制御装置20に接続されており、カメラ22による撮影画像は、制御装置20へ入力される。制御装置20は、カメラ22による撮影画像を処理することで、前方車との相対位置を測定することができる。無線通信機24は、他の車両10に搭載された他の無線通信機24との間で、無線通信経路を確立する。無線通信機24は、制御装置20に接続されている。制御装置20は、無線通信機24を介して、他の車両10の制御装置20と無線通信することができる。本実施例における制御装置20及び無線通信機24は、本技術における「通信手段」の一例である。
【0022】
基準ランプ26は、例えばLEDといった発光体であって、車両10において基準となる位置に設けられている。前述したように、制御装置20は、カメラ22による撮影画像を処理することで、前方車との相対位置を測定する。このとき、制御装置20は、撮影された基準ランプ26の位置を、前方車の位置として測定する。そして、自車に設けられた基準ランプ26と、前方車に設けられた基準ランプ26との相対位置を、前方車との相対位置として算出する。このような構成によると、前方車との相対位置を正確に測定することができる。但し、基準ランプ26については、必ずしも必要とされない。
【0023】
次に、複数の車両10が、進行方向に沿って一列で隊列走行する場合を説明する。複数の車両10が隊列走行する場合、先頭車である第1車両10Aは、ユーザ又はコンピュータ等に指令に応じて、自由に走行する。あるいは、第1車両10Aは、予め記憶している所定の走行プログラムに沿って走行してもよい。追従車である第2車両10B及び第3車両10Cは、それぞれの前方車である第1車両10A又は第2車両10Bに追従して走行する。
【0024】
車両10の隊列走行では、各々の車両10が、前方車の軌道を追従することと、前方車との車間距離を維持することが重要となる。特に、車間距離が長くなったり、車間距離が安定しなかったりすると、軌道の追従精度が低下する。本実施例では、車間距離の目標値Dfbが予め設定されており、それを維持するように各車両10は自己の速度を制御する。なお、車間距離の目標値Dfbとして、停止時についてはD1(例えば0.5m)が設定されており、走行時にはD2(例えば1.0m)が設定されている。
【0025】
各々の車両10は、自己の速度Vf及び旋回曲率Kfを追従車に送信し、当該追従車は、前方車から送信された速度Vf及び旋回曲率Kfを受信する。例えば、第1車両10Aは第2車両10Bへ自己の速度Vf及び旋回曲率Kfを送信し、第2車両10Bは第1車両10Aから送信された速度Vf及び旋回曲率Kfを受信する。このとき、他の任意の情報が併せて送受信されてもよい。各々の車両10では、制御装置20が、前方車との車間距離が目標値Dfbに維持されるように、当該車両10の速度及び加速度を制御する。この車間距離に係る制御では、測定された前方車との相対位置(即ち、実測された車間距離)と、受信された前方車の速度Vfとを用いて、目標とする速度及び加速度が計算される。このときの制御方式については特に限定されない。一例ではあるが、本実施例における制御装置20は、リッカチ方程式を用いた演算プログラムにより、目標とする速度及び加速度を計算するように構成されている。
【0026】
しかしながら、前方車が発進又は停止するときは、前方車との車間距離に発振が生じたり、前方車との車間距離が目標値Dfbに対してオーバーシュートしたりするおそれがある。この点に関して、図2図3に示すように、本実施例における制御装置20は、停止モード、加速モード、減速モード及び定常モードを含む、複数の制御モードを選択的に実行するように構成されている。通常、先頭車両が停止、発進、加速、定速、減速、停止という一連の走行を実行した場合、制御装置20の制御モードは、停止モード、加速モード、定常モード、減速モード、停止モードの順で遷移する(図3参照)。以下、四つの制御モードについて詳細に説明する。
【0027】
停止モードでは、制御装置20が、車両10の目標速度をゼロに調整する。そして、停止モードの実行中に、前方車との車間距離が所定の第1閾値距離D1+d1以上となった場合、制御装置20は加速モードに遷移する(図2中の矢印A1参照)。特に限定されないが、第1閾値距離D1+d1は、停止時における車間距離の目標値D1に応じて設定されており、例えば0.6mとすることができる。
【0028】
加速モードでは、制御装置20が、車両10の速度を所定の加速度で増速させる。特に限定されないが、所定の加速度は、例えば1.0m/sとすることができる。そして、加速モードの実行中に、前方車の速度Vfが所定の第1閾値速度以下となった場合、制御装置20は減速モードに遷移する(図2中の矢印A2参照)。特に限定されないが、第1閾値速度は、例えば0.3m/sとすることができる。それ以外であって、かつ、前方車との速度差が所定の第1閾値速度差以下となった場合、制御装置20は定常モードに遷移する(図2中の矢印A3参照)。特に限定されないが、第1閾値速度差は、例えば0.2m/sとすることができる。
【0029】
定常モードでは、制御装置20が、前方車の速度Vfに応じて、車両10の速度を制御(例えばフィードバック制御)する。この場合、前述したように、車両10の目標とする速度及び加速度は、リッカチ方程式を用いた演算プログラムによって計算されてもよい。そして、定常モードの実行中に、前方車の速度Vfが所定の第2閾値速度以下となった場合、制御装置20は減速モードに遷移する(図2中の矢印A4参照)。特に限定されないが、第2閾値速度は、前出の第1閾値速度と同じであってよく、例えば0.3m/sとすることができる。それ以外であって、かつ、前方車との速度差が所定の第2閾値速度差以上となった場合、制御装置20は加速モードに遷移する(図2中の矢印A5参照)。特に限定されないが、第2閾値速度差は、前出の第1閾値速度差と同じであってよく、例えば0.2m/sとすることができる。
【0030】
減速モードでは、制御装置20が、車両の速度を所定の減速度で減速する。特に限定されないが、所定の減速度は、例えば1.0m/sとすることができる。また、減速モードでは、車両10の目標速度も設定される。特に限定されないが、この目標速度は、前記した第1閾値速度又は第2閾値速度と同じであってよく、例えば0.3m/sとすることができる。そして、減速モードの実行中に、前方車との速度差が所定の第3閾値速度差以上となった場合、制御装置20は加速モードに遷移する(図2中の矢印A6参照)。特に限定されないが、特に限定されないが、第3閾値速度差は、前出の第1閾値速度差及び/又は第2閾値速度差と同じであってよく、例えば0.2m/sとすることができる。あるいは、減速モードの実行中に、前方車との車間距離が所定の第2閾値距離D1+d2以下となった場合、制御装置20は停止モードへ遷移する(図2中の矢印A6参照)。特に限定されないが、第2閾値距離D1+d2は、前出の第1閾値距離D1+d1と同じく、停止時における車間距離の目標値D1に応じて設定されている。但し、第2閾値距離D1+d2は、第1閾値距離D1+d1と異なる値であってもよく、例えば0.55mとすることができる。
【0031】
上記の構成によると、前方車との車間距離と前方車の速度とに応じて、四つの制御モード(停止、加速、減速、定常)のなかから適切な制御モードが選択的に実行される。これにより、前方車の発進時や停止時における応答性が向上して、目標とする車間距離に対してオーバーシュートすることを抑制することができる。また、各閾値を厳密に調整することによって、オーバーシュートの発生を実質的に排除することも可能である。加えて、停止時と走行時との間で車間距離の目標値Dfbを切り替える場合でも(即ち、図3におけるD1とD2)、停車する際に減速モードを利用することで、低速で走行しながら車間距離を停止時の目標値D1へ正確に合わせることができる。
【0032】
上記した車間距離の制御と並行して、各々の車両10では、制御装置20が、車両10の舵角を制御することによって、当該車両10が前方車の走行軌道を追跡する。この舵角の制御では、測定された前方車との相対位置(即ち、実測された車間距離)と、受信された前方車の速度Vfと、受信された前方車の旋回曲率Kfとを用いて、目標とする舵角が決定される。
【0033】
詳しくは、図4に示すように、制御装置20は、測定された相対位置を用いて前方車の軌道を生成するとともに、受信された前方車の速度Vf及び旋回曲率Kfを重ね合わせることによって目標軌道を作成する。そして、作成した目標軌道上に、所定時間後(例えば0.5秒後)の目標位置p及び目標旋回曲率kを決定する。そして、制御装置20は、決定された目標位置p及び目標旋回曲率kに基づいて、車両10の舵角を制御する。このように、前方車との相対位置のみではなく、前方車の旋回曲率を前方車から直接取得することで、目標軌道を正確に計算することができる。これにより、前方車の位置に向けて舵角を計算するのではなく、目標軌道上に目標位置と目標旋回曲率を設定し、その目標位置で目標旋回曲率となるように、車両の舵角を制御することが可能となる。その結果、図5に示すように、前方車が旋回する場合でも、車両10の軌道がオーバーシュートして、前方車の軌道から大きく逸脱することを避けることができる。なお、図4中に示す従来のデータは、前方車の旋回曲率Kfを考慮することなく、単に前方車の位置に向けて舵角を計算した場合の例を示す。
【0034】
但し、目標軌道上に設定された目標位置及び目標旋回曲率に対して、適切な舵角を厳密に計算することは比較的に負荷が高い。この点に関して、本実施例の制御装置20では、事前に複数の舵角候補が準備されている。制御装置20は、それぞれの舵角候補を採用した場合の推定位置pe及び推定旋回曲率keをそれぞれ計算し、計算された推定値(pe,ke)が目標値(p,k)に最も近似する舵角候補を選択する。このような構成によると、比較的に少ない計算量でも、適切な舵角を決定することができる。そのため、制御装置20には、高性能な計算機を採用する必要がなく。比較的に安価な汎用のマイコン等を採用することができる。
【0035】
次に、図6を参照して、複数の車両10が、進行方向に沿って二列で隊列走行する場合を説明する。特に、ここで説明する隊列走行では、一台の前方車(第1車両10A)の後方で、二台の追従車(第2車両10B及び第3車両10C)が二列に並んで走行する。隊列が走行方向に沿って複数列に並ぶ場合、旋回時に内側に位置する列と外側に位置する列との間では,旋回半径と要求速度が互いに相違する。さらには内側に位置する列では、目標とする車間距離についても変更する必要がある。そのため、複数列で追従する各車両10B、10Cは、これらの情報を獲得して、自己の走行を制御する必要がある。
【0036】
上記の点に関して、本実施例の制御装置20は、前方車から軌道パラメータαをさらに受信することができる。そして、制御装置20は、前記した目標軌道を作成するときに、受信された軌道パラメータに基づいて、目標軌道を前方車の走行軌道から横方向にオフセットさせることができる。軌道パラメータαは、α=Kf・(c-0.5)・2wの式で記述される指標である。ここで、Kfは前方車の旋回曲率であり、wは二つの列の間隔を示す。cは、追従列の内側と外側とで異なるパラメータである。また、式中の0.5は固定パラメータであって、追従列の数に応じて変更される。従って、外側に位置する第2車両10Bの場合、軌道パラメータα1は、α=Kf・(-0.5)・2wとなり、内側に位置する第3車両10Cの場合、軌道パラメータα2は、α=Kf・(0.5)・2wとなる。
【0037】
前方車の走行軌道に対して追従車の目標軌道がオフセットされた場合、追従車の目標とすべき速度や旋回曲率も、前方車の速度及び旋回曲率に対して補正する必要がある。そこで、図6に示すように、第2車両10Bでは、軌道パラメータα1を受信した制御装置20が、前方車から受信した速度Vf及び旋回曲率Kfや、車間距離の目標値Dfbを、軌道パラメータα1を用いて補正する。加えて、制御装置20は、予め設定された最高速度Vmxや最高加速度Amxについても、軌道パラメータα1を用いて補正する。これにより、外側の列を走行する第2車両10Bでは、外側にオフセットされた目標軌道に対応する各指標V1、Kf1、Dfb1、Vmx1、Amx1が得られることで、当該車両10Bの走行が正しく制御される。なお、第2車両10Bの後方には、一又は複数の他の車両が、一列又は複数列で追従してもよい。
【0038】
同様に、第3車両10Cでは、軌道パラメータα2を受信した制御装置20が、前方車から受信した速度Vf及び旋回曲率Kf、車間距離の目標値Dfb、及び、予め設定された最高速度Vmxや最高加速度Amxを、軌道パラメータα2を用いて補正する。これにより、内側の列を走行する第3車両10Cでは、内側にオフセットされた目標軌道に対応する各指標V1、Kf1、Dfb1、Vmx1、Amx1が得られることで、当該車両10Cの走行が正しく制御される。なお、第3車両10Cの後方においても、一又は複数の他の車両が、一列又は複数列で追従してもよい。
【0039】
以上のように、本実施例のシステムでは、車両間通信を利用することにより、各車両10は、前方車の走行情報(特に、速度及び旋回曲率)を前方車から直接受信することができる。このような構成によると、各車両10は、自ら測定した前方車との相対位置に、前方車から受信した走行情報を加味することで、例えば前方車が加減速する場合でも、自己の走行を適切に制御することができる。これにより、隊列を構成する各車両は、短い車間距離を安定して維持することが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
10、10A、10B、10C:車両、12:車体、 14f、14r:車輪、 16:走行用モータ、 18:操舵用モータ、 20:制御装置、 22:カメラ、 24:無線通信機、 26:基準ランプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6