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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120377
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】部分放電検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20240829BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20240829BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/34 D
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027131
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 一雄
(72)【発明者】
【氏名】大谷 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】浦田 信也
【テーマコード(参考)】
2G015
2G116
【Fターム(参考)】
2G015AA19
2G015BA04
2G015CA01
2G116BA01
2G116BB09
2G116BC02
(57)【要約】
【課題】部分放電を検出するセンサを追加することなくコイルの部分放電を検出する部分放電検出装置を提供する。
【解決手段】温度検出用のサーミスタ110bを備え、サーミスタ110bが出力する信号から第1周波数帯域の成分を抽出し、サーミスタ110bが出力する信号から第1周波数帯域より高周波数帯域である部分放電に対応する第2周波数帯域の成分を抽出し、第1周波数帯域の成分と第2周波数帯域の成分との両方に基づいてコイル110aにおいて発生した部分放電を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルの部分放電検出装置であって、
前記コイルは、温度検出用のサーミスタを備え、
前記サーミスタが出力する信号から第1周波数帯域の成分を抽出し、
前記サーミスタが出力する信号から高周波数帯域である部分放電に対応する第2周波数帯域の成分を抽出し、
前記第1周波数帯域の成分と前記第2周波数帯域の成分との両方に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電を検出することを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の部分放電検出装置であって、
前記サーミスタが出力する電圧から部分放電に対応する前記第2周波数帯域の成分を抽出する高域通過フィルタと、
前記高域通過フィルタの出力電圧が所定の基準値以上であるときにパルス信号を出力するパルス変換器と、を備え、
前記パルス信号に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電を検出することを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の部分放電検出装置であって、
前記サーミスタが出力する信号から前記第1周波数帯域の成分を抽出して、前記コイルの温度を示す温度信号を生成する温度検出回路を備え、
前記温度信号に応じて前記第2周波数帯域の成分を補正する信号強度閾値設定器を備え、補正された前記第2周波数帯域の成分に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電を検出することを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の部分放電検出装置であって、
前記コイルは、回転電機に備わり、
前記回転電機は、インバータによって回転制御され、
前記インバータのインバータ制御信号の立上りまたは立下りのタイミングに応じて、前記第1周波数帯域の成分と前記第2周波数帯域の成分との両方に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電の発生を判別する部分放電判別器を備えることを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項5】
請求項1に記載の部分放電検出装置であって、
前記コイルにおいて発生した部分放電を検出した場合、部分放電の発生の頻度に応じて前記コイルの絶縁劣化度を判定する絶縁劣化度判定器を備えることを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項6】
請求項1に記載の部分放電検出装置であって、
前記コイルにおいて発生した部分放電を検出した場合、前記コイルに流れるモータ電流に応じて前記コイルの絶縁劣化度を判定する絶縁劣化度判定器を備えることを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項7】
請求項1に記載の部分放電検出装置であって、
前記コイルにおいて発生した部分放電を検出したときに前記コイルの駆動電圧を制限することを特徴とする部分放電検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルの部分放電検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EVやHEVなどの動力源であるモータシステムは、バッテリー、インバータ、モータコントローラ、モータ等で構成されており、モータはインバータによって駆動されている。インバータは、高速にスイッチング動作を繰り返すことでモータ駆動に必要な正弦波電流を作り出している。この際、インバータの出力端子には、スイッチング動作の度にバッテリー電圧を超えるようなサージ電圧が発生している。このサージ電圧は、インバータとモータ間のケーブルを介してモータ内部まで伝搬してしまうので、瞬間的にバッテリー電圧以上の高電圧がモータのコイル間に加わることになる。このサージ電圧は、モータケーブルの配策、ケーブルの長さ、駆動条件などで異なり、サージ電圧は駆動電圧の1.3倍以上になることがある。このようなサージ電圧がモータのコイル間に加わるとコイル皮膜を介して部分放電と呼ばれる微小な放電が発生することが知られている。この部分放電が発生し続けるとコイル皮膜の浸食が伸展し、やがて絶縁破壊を招くことになる。部分放電を監視することは、コイル巻線に劣化が発生しているかどうか、また巻線が損傷する可能性が大きいかどうかを知るために重要である。
【0003】
このような背景から、モータの絶縁性能をオンラインで監視することが必要となってきている。特許文献1には、交流電源電圧が印加される部分放電検出対象設備の接地線に流れる電流を検出するアンテナ型センサを用い、検出電流から低周波成分を除去し、包絡線状信号に変換した信号と、電流センサにより検出された電源電流を入力として部分放電発生の有無を判断する部分放電検出装置が記載されている。特許文献2には、回転電機のフレーム内に設けられた部分放電センサからの検出信号を狭帯域フィルタで濾波し、ピーク検出回転電機の固定子巻線に印加される電圧周波数の各サイクルに安定して発生する最大部分放電レベルの強度を計測して表示する部分放電検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019―90693号公報
【特許文献2】特開2002―71742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の部分放電検出装置は、回転電機のコイル間で生じる部分放電を検出するため、高周波電流センサやRFアンテナを用いて検出する必要があり、何れの方法もセンサを回転電機内もしくはその近傍に別途設置しなければならないためコストアップにつながる。また、安定した感度を得るために設置場所が限定され、設置のために新たに回転電機のハウジングの追加工が必要となる。
【0006】
本発明の目的は、部分放電を検出するセンサを追加することなく、コイルの部分放電を検出可能にする部分放電検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、コイルの部分放電検出装置であって、前記コイルは、温度検出用のサーミスタを備え、前記サーミスタが出力する信号から第1周波数帯域の成分を抽出し、前記サーミスタが出力する信号から高周波数帯域である部分放電に対応する第2周波数帯域の成分を抽出し、前記第1周波数帯域の成分と前記第2周波数帯域の成分との両方に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電を検出することを特徴とする部分放電検出装置である。
【0008】
ここで、前記サーミスタが出力する電圧から部分放電に対応する前記第2周波数帯域の成分を抽出する高域通過フィルタと、前記高域通過フィルタの出力電圧が所定の基準値以上であるときにパルス信号を出力するパルス変換器と、を備え、前記パルス信号に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電を検出することが好適である。
【0009】
また、前記サーミスタが出力する信号から前記第1周波数帯域の成分を抽出して、前記コイルの温度を示す温度信号を生成する温度検出回路を備え、前記温度信号に応じて前記第2周波数帯域の成分を補正する信号強度閾値設定器を備え、補正された前記第2周波数帯域の成分に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電を検出することが好適である。
【0010】
また、前記コイルは、回転電機に備わり、前記回転電機は、インバータによって回転制御され、前記インバータのインバータ制御信号の立上りまたは立下りのタイミングに応じて、前記第1周波数帯域の成分と前記第2周波数帯域の成分との両方に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電の発生を判別する部分放電判別器を備えることが好適である。
【0011】
また、前記コイルにおいて発生した部分放電を検出した場合、部分放電の発生の頻度に応じて前記コイルの絶縁劣化度を判定する絶縁劣化度判定器を備えることが好適である。
【0012】
また、前記コイルにおいて発生した部分放電を検出した場合、前記コイルに流れるモータ電流に応じて前記コイルの絶縁劣化度を判定する絶縁劣化度判定器を備えることが好適である。
【0013】
また、前記コイルにおいて発生した部分放電を検出したときに前記コイルの駆動電圧を制限することが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る部分放電検出装置は、コイルに具備されている温度計測用のサーミスタを用いて、別途にセンサを追加することなく、コイルの部分放電の検出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施の形態における部分放電検出装置の構成を示す図である。
図2】絶縁材の誘電率及び誘電損率の周波数依存性を示す模式図である。
図3】絶縁材の誘電率及び誘電損率の温度依存性を示す模式図である。
図4】部分放電開始電圧の温度依存性の例を示す図である。
図5】インバータの出力電圧と回転電機に流れる電流との関係を示す図である。
図6】サージを重畳させたパルス電圧の波形の例を示す図である。
図7】サーミスタで検出した部分放電の波形の観測例を示す図である。
図8】第2の実施の形態における部分放電検出装置の構成を示す図である。
図9】第3の実施の形態における部分放電検出装置の構成を示す図である。
図10】第4の実施の形態における部分放電検出装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施の形態>
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明において、具体的な形状、材料、方向、数値等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等に合わせて適宜変更することができる。また、以下で説明する実施形態及び変形例の構成要素を選択的に組み合わせることは当初から想定されている。
【0017】
第1の実施の形態における部分放電検出装置100は、図1に示すように、回転電機110、インバータ112及びモータコントローラ114に接続される。部分放電検出装置100は、回転電機110に備わるコイル110aに生ずる可能性がある部分放電を検出する。
【0018】
回転電機110は、複数のコイル110aを備える。回転電機110は、インバータ112の出力電圧により駆動される。回転電機110は、例えば、電気自動車やハイブリッド電気自動車等に搭載される。
【0019】
回転電機110は、筐体内にサーミスタ110bを具備している。サーミスタ110bは筐体内温度の検出に使用される。サーミスタ110bは、回転電機110の内部温度に比例した電圧信号を出力する。すなわち、サーミスタ110bは、コイル110aの温度に応じた温度を電圧信号として出力する。
【0020】
インバータ112は、これに限定されるものではないが、PWM制御や1パルス制御によって出力電圧が制御される。インバータ112は、例えばパワースイッチング素子が直列に接続されたアームを並列に3つ接続した3相インバータ回路で構成される。インバータ112は、モータコントローラ114から出力されるインバータ制御信号によりオン/オフ制御される。インバータ112を構成するスイッチング素子がオン/オフすることで、回転電機110のコイル110aに電圧が印加されてコイル110aに正弦波電流が流れる。
【0021】
モータコントローラ114は、インバータ112にインバータ制御信号を出力する。インバータ制御信号は、例えば、PWM制御信号である。後述するようにモータコントローラ114は、後述する温度検出回路10の出力や部分放電判別器16からの出力を受けて、回転電機110の出力を制御する。
【0022】
なお、本実施の形態では、回転電機110をモータとしており、モータコントローラ114を設けた構成を例としているが、回転電機110を発電機とした場合にはジェネレータコントローラとしてもよい。
【0023】
電気自動車やハイブリッド電気自動車の動力源等として使用される回転電機110においては、インバータ112のスイッチング素子のオン・オフの切り替え動作を高速に繰り返すことで回転電機110の駆動に必要な正弦波電流を作り出している。この場合、インバータ112の出力端子には、スイッチング動作の度にバッテリー電圧を超えるようなサージ電圧が重畳し、当該サージ電圧がインバータ112と回転電機110の間のケーブルを介してモータ内部まで伝搬して瞬間的にバッテリー電圧以上の高電圧がコイル110a間にも加わる。
【0024】
図2及び図3は、コイル110aの絶縁被膜材に用いられる誘電体の誘電率ε’と誘電損率ε”の周波数特性と温度特性を示す模式図である。図2及び図3において、誘電体の誘電率ε’を実線で示し、誘電体の誘電損率ε”を破線で示している。
【0025】
誘電率ε’は、誘電体に電場を加えた際に単位電場に対して分極により発生する電荷の大きさを表す値で、この誘電率が高いほど単位電場に対して発生する電荷が大きくなる。したがって、誘電体に交流電場を加えた場合、誘電率ε’が高いほど電力消費が大きくなり、その電力消費量が誘電損率ε”となる。誘電損率ε”は、周波数特性、温度特性のいずれの場合にも特定の周波数fm又は特定の温度Tmで極大となる。また、誘電率ε’は、この極大点を中心として増減を示す特性を示す。
【0026】
絶縁耐力が求められる材料の場合、誘電率ε’は小さいことが望ましい。しかしながら、図3に示すように、誘電率ε’は環境の温度の上昇に伴い増加する傾向を示す。すなわち、温度の上昇に伴って絶縁材の絶縁耐力は低下する。このように、誘電体の温度特性と絶縁耐力は密接に関係しており、部分放電が開始する電圧は温度の影響を受ける。すなわち、常温に対して温度が異なると部分放電特性も異なる。具体的には、部分放電開始電圧は、図4に示すように環境温度の増加に伴い低下する特性を示す。
【0027】
図5は、インバータ112の出力電圧(パルス幅)と回転電機110のコイル110aに流れる電流の関係を示す。インバータ112の出力電圧幅を変調することによって、回転電機110の出力電流が制御されている。
【0028】
部分放電検出装置100は、温度検出回路10、信号強度閾値設定器11、高域通過フィルタ12、パルス変換器14、部分放電判別器16及びPWMエッジ検出器18を含んで構成される。部分放電検出装置100は、サーミスタ110bが出力する信号から部分放電に対応する高周波数帯域の高周波成分を抽出し、サーミスタ110bが出力する信号から当該高周波成分より低周波数帯域の低周波成分を抽出し、低周波成分と高周波成分との両方に基づいてコイル110aにおいて発生した部分放電を検出する。
【0029】
温度検出回路10は、サーミスタ110bと接続される。温度検出回路10は、サーミスタ110bから出力された電圧信号から高周波成分を除去して回転電機110の筐体内の温度を示す温度信号として出力する。温度検出回路10は、例えば、サーミスタ110bから出力された電圧信号から第1周波数帯域である10Hz以下程度の周波数帯域の信号のみを温度信号として出力する。温度信号は、モータコントローラ114及び部分放電判別器16へ入力される。
【0030】
なお、モータコントローラ114は、温度検出回路10から温度信号を受けて、インバータ112の制御信号を変調する。例えば、温度が所定値を超えた場合、回転電機110の回転数を落とすようにインバータ112への制御信号を生成する。ただし、モータコントローラ114の制御はこれに限定されるものではない。
【0031】
高域通過フィルタ12は、サーミスタ110bと接続される。高域通過フィルタ12は、サーミスタ110bから出力された電圧信号から高周波成分のみを通過させてコイル110aの誘電体の誘電率に関する情報を含む信号として出力する。高域通過フィルタ12は、例えば、サーミスタ110bから出力された電圧信号から第2周波数帯域である10MHz以上数100MHz以下程度の周波数帯域の信号を検出信号として出力する。すなわち、高域通過フィルタ12は、部分放電による電磁波の高周波成分をサーミスタ110bの電圧信号より抽出する。
【0032】
信号強度閾値設定器11は、温度検出回路10と接続される。信号強度閾値設定器11は、温度検出回路から出力された温度信号に基づいて、図4に示したように部分放電開始電圧の温度特性より定めた信号強度閾値を設定する。
【0033】
部分放電発生時には、コイル110aに発生する電磁波がサーミスタ110bに伝搬する。サーミスタ110bは、電磁波を吸収するときに発生する熱による抵抗変化によって高周波の電圧変化を発生する。高域通過フィルタ12は、サーミスタ110bの出力電圧に含まれる部分放電に特有の高周波成分を通過させてパルス変換器14に出力する。
【0034】
パルス変換器14は、高域通過フィルタ12の信号強度閾値設定器11が出力する信号強度閾値以上の出力電圧を抽出し、パルス信号として出力する。パルス変換器14によって、高域通過フィルタ12から出力された検出信号から波高値を得ることができる。パルス変換器14は、コンパレータ14a及びパルス検出器14bを含んで構成することができる。コンパレータ14aは、高域通過フィルタ12から出力された検出信号が信号強度閾値設定器11より出力された信号強度閾値より大きい信号を検出する。すなわち、コンパレータ14aは、高域通過フィルタ12から出力された検出信号が信号強度閾値設定器11より出力された信号強度閾値より大きいときに検出信号をそのまま出力し、信号強度閾値より小さいときには信号を出力しない。パルス検出器14bは、コンパレータ14aから出力された信号の波高値を検出して出力する。検出された波高値は、部分放電判別器16へ入力される。
【0035】
部分放電判別器16は、パルス変換器14から出力された波高値を示す信号を受けて、回転電機110において部分放電が発生したか否かを判別する。部分放電判別器16は、温度検出回路10において検出された温度信号、及びパルス変換器14から入力された波高値を受けて部分放電であるかどうかを判別する。すなわち、回転電機110の温度に応じて部分放電開始電圧は変化するので、部分放電判別器16における部分放電開始電圧の判別が正しく行われるように温度検出回路10において検出された温度信号に応じてパルス変換器14から出力された波高値を補正する。図4に示したように、一般的には、環境温度が高くなるにつれて絶縁材の部分放電開始電圧は低くなるので、温度検出回路10において検出された温度が高くなるにつれて信号強度閾値を高くするように補正を行うことが好適である。なお、補正の具体的な手段は特に限定されるものではない。
【0036】
また、部分放電判別器16は、インバータ112のスイッチング素子のオン/オフのタイミングを検出するPWMエッジ検出器18からインバータ112のスイッチング素子のオン/オフのタイミングを示す信号を受ける。PWMエッジ検出器18は、インバータ112の制御信号の位相反転時(電圧の反転時)に基づいてインバータ112のスイッチング素子のオン/オフのタイミングを検知することができる。部分放電は、サージ電圧の絶対値及び電圧変化率が大きいほど発生しやすい。すなわち、インバータ112の出力電圧波形のパルスの立上り又は立下り毎、換言すると、インバータ112のスイッチングのオン又はオフのタイミングで発生する可能性が高い。したがって、部分放電判別器16は、インバータ112のスイッチング素子のオン/オフのタイミングから所定の期間内においてパルス変換器14から入力された波高値が所定の基準値以上である場合に回転電機110において部分放電が発生したと判別する。
【0037】
部分放電判別器16における部分放電の判別結果を示す信号はモータコントローラ114へ出力される。モータコントローラ114は、部分放電判別器16から部分放電の判別結果を受けて、部分放電が発生していると判別されているときには回転電機110のコイル110aに流れる電流を正常時より小さくするようにインバータ112を制御するようにしてもよい。
【0038】
図6は、インバータ112が出力するパルス電圧にサージを重畳させたときのパルス電圧波形の例を示す。インバータ112の出力電圧の立上りと立下りのタイミングでサージ電圧が重畳されている。
【0039】
図7は、図6に示した電圧波形を平角線に印加したときの電圧の立下りにおけるRFアンテナとサーミスタ110bの高域通過フィルタ後の出力電圧波形である。RFアンテナによる電圧波形は、従来手法として比較のために示している。
【0040】
図7に示すように、RFアンテナの出力電圧波形においては、サージ電圧のピーク付近で振幅の大きな電圧が発生している。すなわち、従来手法では、RFアンテナに大きな出力電圧が観測されるので部分放電の検出が可能である。
【0041】
サーミスタ110bの出力電圧波形においては、サージ電圧のリンギングに同期するように高周波が重畳された電圧が発生する。この高周波電圧は、RFアンテナの出力電圧と同様に、サージ電圧のピーク値付近のタイミングにおいて振幅が最も大きい。そこで、サーミスタ110bの出力電圧からリンギングの周波数より高い高周波成分を抽出することで部分放電を検出することが可能である。
【0042】
部分放電検出装置100では、回転電機110のコイル110aでの部分放電の発生により生じる高周波の電圧・電流・光・音波・電磁波のうち、電磁波吸収時に発生する熱をサーミスタ110bの抵抗変化として捉え、高域通過フィルタ12において回転電機110の温度信号に相当する周波数領域より高い周波域領域から部分放電時の電磁波に相当する高周波成分を抽出する。そして、高域通過フィルタ12から出力された信号の波高値をパルス変換器14において抽出し、部分放電判別器16において当該波高値に基づいて部分放電が発生したか否かを判別する。
【0043】
これにより、部分放電検出装置100は、RFアンテナや高周波電流センサ等を別途設けることなく、回転電機110に従来から設けられているサーミスタ110bを用いて部分放電を検出することができる。
【0044】
さらに、部分放電検出装置100では、部分放電判別器16において温度検出回路10において検出された温度に応じて信号強度閾値設定器11の信号強度閾値を補正することで部分放電の開始電圧の温度による影響を低減させている。これによって、回転電機110の温度の影響を低減しつつ、環境温度に応じて変化する部分放電をより正確に検出することができる。
【0045】
<第2の実施の形態>
図8は、第2の実施の形態における部分放電検出装置120の構成を示す。第1の実施の形態における部分放電検出装置100と同様に、部分放電検出装置120は、回転電機110、インバータ112及びモータコントローラ114に接続される。部分放電検出装置120は、回転電機110に備わるコイル110aに生ずる可能性がある部分放電を検出する。
【0046】
部分放電検出装置120では、部分放電検出装置100の構成に加えて、部分放電電流検出器20、メモリ22及び絶縁劣化度判定器24が設けられている。部分放電検出装置100に含まれる温度検出回路10、信号強度閾値設定器11、高域通過フィルタ12、パルス変換器14、部分放電判別器16及びPWMエッジ検出器18については機能が異なる部分を除いて説明を省略する。
【0047】
部分放電判別器16は、部分放電を検出すると部分放電が発生したことを示す信号を出力する。部分放電判別器16から出力された部分放電が発生したことを示す信号はメモリ22に記憶される。
【0048】
部分放電電流検出器20には、部分放電判別器16から出力された信号と、インバータ112から得られるモータ電流値が入力される。部分放電電流検出器20は、部分放電判別器16から信号が入力されたときのモータ電流値をメモリ22に記憶させる。すなわち、部分放電電流検出器20は、部分放電が発生しているときの回転電機110に流れる電流値をメモリ22に記憶させる。また、部分放電電流検出器20は、部分放電判別器16から信号が入力されると当該信号及びそのタイミングにおいて回転電機110に流れているモータ電流値を示す信号を絶縁劣化度判定器24に出力する。
【0049】
絶縁劣化度判定器24は、部分放電電流検出器20から信号が入力されたタイミング、又は予め設定した期間毎に、メモリ22に記憶されたモータ電流値のデータに基づいて回転電機110の絶縁劣化度を判定する。回転電機110の絶縁劣化度は、例えば、部分放電の発生頻度や部分放電発生時のモータ電流の変化率に応じて判定することができる。具体的には、部分放電の発生頻度が高くなるほど回転電機110の絶縁の劣化がより進行していると判定することができる。また、部分放電が発生したときのモータ電流値が小さいほど、回転電機110の絶縁の劣化が進行したと判定することができる。なお、部分放電の発生頻度や部分放電発生時のモータ電流の変化率は、部分放電電流検出器20から信号を入力する度に毎回演算してもよいし、算出した値をメモリ22に記憶しておいて部分放電が検出される都度更新するように構成してもよい。また、絶縁劣化度は、所定の劣化しきい値を超えるか否かの判定結果としてもよいし、絶縁の劣化の程度を複数のレベルで示した判定結果としてもよい。
【0050】
第2の実施形態の部分放電検出装置120によれば、部分放電の発生頻度や部分放電が発生したときのモータ電流値の変化率の値に基づいて絶縁劣化度の進行を判断することができる。これによって、絶縁劣化度が許容レベルの範囲にあるか否かを判断することができる。
【0051】
また、許容レベルの範囲を超えたと判断した場合には、警告信号を出力するなどして、絶縁劣化が許容範囲を超えたことを報知する、又はモータ出力を制限するなどの構成を採ることができる。例えば、回転電機110内のコイル110aの絶縁性能が劣化している旨を報知するように構成することが好ましい。報知の一例としては、電気自動車やハイブリッド電気自動車の場合には、フロントパネルにコイル110aの絶縁劣化を示すアラーム等を表示させる、又は電気自動車やハイブリッド電気自動車から無線ネットワークを介してディーラに情報を送信するなどしてもよい。報知を受けたユーザやディーラは必要な処置をとることができる。ただし、報知の例はこれら限定されるものではない。
【0052】
<第3の実施の形態>
図9は、第3の実施の形態における部分放電検出装置122の構成を示す。部分放電検出装置122は、第2の実施形態の部分放電検出装置100に加えて、モータ駆動上限電圧設定器26をさらに備える。
【0053】
モータ駆動上限電圧設定器26は、絶縁劣化度判定器24の絶縁劣化度の出力を受けて、モータコントローラ114に対してモータ駆動上限電圧を設定する。例えば、絶縁劣化度判定器24は、絶縁劣化が進行したと判定した場合にモータ駆動上限電圧設定器26に対して劣化度判定信号を出力する。モータ駆動上限電圧設定器26は、劣化度判定信号を受信すると、モータコントローラ114に電圧制限信号を出力する。モータコントローラ114は、モータ駆動上限電圧設定器26から電圧制限信号を受けると、当該電圧制限信号で示されるモータ駆動上限電圧にモータ駆動電圧の上限値を制限するようにインバータ112を制御する。これによって、回転電機110における部分放電の発生を抑制することができる。
【0054】
また、絶縁劣化度判定器24が絶縁劣化度を複数レベルで判定している場合には、モータ駆動上限電圧設定器26は絶縁劣化度のレベルに応じたモータ駆動上限電圧となるように電圧制限信号を出力するようにしてもよい。なお、絶縁劣化度判定器24の動作は例示であり、絶縁劣化度に応じてモータ駆動上限電圧を設定する方法を限定するものではない。
【0055】
<第4の実施の形態>
図10は、第4の実施の形態における部分放電検出装置124の構成を示す。部分放電検出装置124は、第1の実施形態の部分放電検出装置100におけるPWMエッジ検出器18の入力を変更し、遅延回路28をさらに設けた構成としたものである。
【0056】
本実施の形態では、PWMエッジ検出器18は、モータコントローラ114によるインバータ112のスイッチング制御信号に基づいてインバータ112のスイッチング素子のオン/オフのタイミングを検知して部分放電判別器16へ出力する。ここで、遅延回路28は、モータコントローラ114のスイッチング制御信号の出力を受けて、当該スイッチング制御信号を遅延させてPWMエッジ検出器18へ出力する。遅延回路28は、モータコントローラ114のスイッチング制御信号がインバータ112に入力されてから、インバータ112において実際にスイッチング素子がオン/オフされるまでの時間を遅らせる。
【0057】
インバータ112の線間電圧は高電圧であり、インバータ112の前段にDC/DCコンバータが設けられている場合、第1の実施形態の部分放電検出装置100の構成ではPWMエッジ検出器18の構成が複雑となる。本実施の形態における部分放電検出装置124では、モータコントローラ114のスイッチング制御信号を用いることによって、PWMエッジ検出器18の構成を簡素化することができる。
【0058】
なお、第2の実施の形態の部分放電検出装置120及び第3の実施の形態における部分放電検出装置122においても同様の構成を適用することが可能である。
【0059】
[発明の構成]
[構成1]
コイルの部分放電検出装置であって、
前記コイルは、温度検出用のサーミスタを備え、
前記サーミスタが出力する信号から第1周波数帯域の成分を抽出し、
前記サーミスタが出力する信号から高周波数帯域である部分放電に対応する第2周波数帯域の成分を抽出し、
前記第1周波数帯域の成分と前記第2周波数帯域の成分との両方に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電を検出することを特徴とする部分放電検出装置。
[構成2]
構成1に記載の部分放電検出装置であって、
前記サーミスタが出力する電圧から部分放電に対応する前記第2周波数帯域の成分を抽出する高域通過フィルタと、
前記高域通過フィルタの出力電圧が所定の基準値以上であるときにパルス信号を出力するパルス変換器と、を備え、
前記パルス信号に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電を検出することを特徴とする部分放電検出装置。
[構成3]
構成1又は2に記載の部分放電検出装置であって、
前記サーミスタが出力する信号から前記第1周波数帯域の成分を抽出して、前記コイルの温度を示す温度信号を生成する温度検出回路を備え、
前記温度信号に応じて前記第2周波数帯域の成分を補正する信号強度閾値設定器を備え、補正された前記第2周波数帯域の成分に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電を検出することを特徴とする部分放電検出装置。
[構成4]
構成1~3のいずれか1項に記載の部分放電検出装置であって、
前記コイルは、回転電機に備わり、
前記回転電機は、インバータによって回転制御され、
前記インバータのインバータ制御信号の立上りまたは立下りのタイミングに応じて、前記第1周波数帯域の成分と前記第2周波数帯域の成分との両方に基づいて前記コイルにおいて発生した部分放電の発生を判別する部分放電判別器を備えることを特徴とする部分放電検出装置。
[構成5]
構成1~4のいずれか1項に記載の部分放電検出装置であって、
前記コイルにおいて発生した部分放電を検出した場合、部分放電の発生の頻度に応じて前記コイルの絶縁劣化度を判定する絶縁劣化度判定器を備えることを特徴とする部分放電検出装置。
[構成6]
構成1~4のいずれか1項に記載の部分放電検出装置であって、
前記コイルにおいて発生した部分放電を検出した場合、前記コイルに流れるモータ電流に応じて前記コイルの絶縁劣化度を判定する絶縁劣化度判定器を備えることを特徴とする部分放電検出装置。
[構成7]
構成1~6のいずれか1項に記載の部分放電検出装置であって、
前記コイルにおいて発生した部分放電を検出したときに前記コイルの駆動電圧を制限することを特徴とする部分放電検出装置。
【符号の説明】
【0060】
10 温度検出回路、11 信号強度閾値設定器、12 高域通過フィルタ、14 パルス変換器、14a コンパレータ、14b パルス検出器、16 部分放電判別器、18 PWMエッジ検出器、20 部分放電電流検出器、22 メモリ、24 絶縁劣化度判定器、26 モータ駆動上限電圧設定器、28 遅延回路、100,120,122,124 部分放電検出装置、110 回転電機、110a コイル、110b サーミスタ、112 インバータ、114 モータコントローラ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10