(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120397
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】魚粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 1/00 20060101AFI20240829BHJP
C12N 9/50 20060101ALI20240829BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C12P1/00 A
C12N9/50
C12P21/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027161
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】523066886
【氏名又は名称】株式会社リジェンワークス
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】沖村 智
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050LL02
4B064AG01
4B064CA21
4B064CB01
4B064CC01
4B064CC06
4B064CC13
4B064DA10
(57)【要約】
【課題】サメ類を原料とした魚粉を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の魚粉の製造方法は、サメ類の肉を粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程を経た部材にコラーゲンが分解されやすくなるようにタンパク質の構造を変化させる第1酵素を添加しつつ加熱撹拌して酵素反応させる予備酵素処理工程と、前記予備酵素処理工程を経た部材にタンパク質を分解する第2酵素を加えて撹拌し、減圧下で酵素反応させる酵素処理工程と、前記酵素処理工程を経た部材を更に加熱する酵素失活工程と、酵素失活工程を経た部材を減圧下で乾燥させる乾燥工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サメ類の肉を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程を経た部材に、コラーゲンが分解されやすくなるようにタンパク質の構造を変化させる第1酵素を添加しつつ加熱撹拌して酵素反応させる予備酵素処理工程と、
前記予備酵素処理工程を経た部材にタンパク質を分解する第2酵素を加えて撹拌し、減圧下で酵素反応させる酵素処理工程と、
前記酵素処理工程を経た部材を更に加熱する酵素失活工程と、
前記酵素失活工程を経た部材を減圧下で乾燥させる乾燥工程と
を備えることを特徴とする魚粉の製造方法。
【請求項2】
前記第1酵素はチオールプロテアーゼである
ことを特徴とする請求項1に記載の魚粉の製造方法。
【請求項3】
前記予備酵素処理工程において、前記第1酵素に加えて緩衝剤を加える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の魚粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサメ類を原料とした魚粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚粉すなわち魚類を原料とした粉末は、乾燥物としてあるいは更に粉砕された性状で各種食品の直接的あるいは間接的な材料として利用されている。また魚粉は、畜産業、漁業などにおける飼料としても有用な材料である。
【0003】
近年、魚粉の価格高騰などに対応するために、魚粉を高効率且つ低コストで製造する方法が求められている。
【0004】
例えば特許文献1には、魚粉の生産方法として、真空または減圧条件下にて、魚類の原料を撹拌および切断しながら乾燥する工程を用いてアジ、イワシなどの魚粉を生産する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、この減圧条件下での魚類の原料の乾燥という技術に着目し、サメ類を原料とした魚粉の製造を試みたところ、サメ類のコラーゲンの多さに起因して、コラーゲン成分が製造装置内に固着等する結果、減圧条件下での魚類の原料の乾燥が達成されず、魚粉の製造が良好にできないという問題に直面した。
【0007】
サメ類は一部の部位を除き、経時等によるアンモニア臭の発生などを理由として、市場での活用は低調であるが、動物性タンパク質の供給源として有用な材料である。
【0008】
発明者らは鋭意検討の結果、コラーゲン部分のタンパク質が分解されやすくなるように、タンパク質の構造を変化させるための所定の酵素処理を行ったうえで、タンパク質を分解する酵素処理を行い、これらの処理を経た部材を減圧条件下で乾燥させることで、良好な魚粉を製造できるとの新規な知見を得た。
【0009】
本発明は上記の新規な知見に基づいてなされたものであり、サメ類を原料とした魚粉を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明は、
サメ類の肉を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程を経た部材に、コラーゲンが分解されやすくなるようにタンパク質の構造を変化させる第1酵素を添加しつつ加熱撹拌して酵素反応させる予備酵素処理工程と、
前記予備酵素処理工程を経た部材にタンパク質を分解する第2酵素を加えて撹拌し、減圧下で酵素反応させる酵素処理工程と、
前記酵素処理工程を経た部材を更に加熱する酵素失活工程と、
前記酵素失活工程を経た部材を減圧下で乾燥させる乾燥工程と
を備えることを特徴とする魚粉の製造方法である。
【0011】
サメ類を原料とする魚粉の製造にあたって、減圧下で酵素反応を行うことでタンパク質の比較的低温での分解が可能となり、それが高品質な魚粉の高効率且つ低コストな製造につながる。その酵素反応に先んじてコラーゲンが分解されやすいタンパク質構造にしておくことによって、魚粉製造の効率をより向上させることができる。
【0012】
ここで、第1酵素はチオールプロテアーゼであることが好ましい。
【0013】
そのような態様とすることで、酵素処理工程におけるコラーゲン分解の効率が向上する。
【0014】
また、予備酵素処理工程においては、第1酵素に加えて緩衝剤を加えることが好ましい。
【0015】
このことによって予備酵素処理工程が中性からアルカリ性の状態となり、第1酵素によるタンパク質の構造変化が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による魚粉の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明におけるサメ類とは、サメ目のネズミザメ上目あるいはツノザメ上目のいずれかに属する魚類であり、具体的には、例えばヨシキリザメのほか、ネコザメ、ホオジロザメ、シュモクザメなどが挙げられる。また、サメ類の肉とは、生のあるいは冷凍のサメ類のヒレ以外の部分をいう。
【0018】
粉砕工程(
図1/S11)は、サメ類の肉を粉砕する工程である。粉砕方法は必要に応じて公知の諸方法を採用すればよく、粉砕するサイズにも特に制限はないが、次工程を考慮して混合撹拌しやすいサイズまで粉砕すればよい。
【0019】
予備酵素処理工程(
図1/S13)では、粉砕工程(
図1/S11)を経た部材に、コラーゲンが分解されやすくなるようにタンパク質の構造を変化させる第1酵素を添加しつつ加熱撹拌して酵素反応させる。加熱撹拌に際しては、必要に応じて加水を行っても構わない。
【0020】
ここで第1酵素としては、コラーゲンが分解されやすくなるようにタンパク質の構造を変化させる種々の酵素が用いられてよいが、チオールプロテアーゼが好ましく、特にパパイン、フィシン、ブロメラインなどが好ましい。また、コラゲナーゼも第1酵素として採用可能である。第1酵素の添加量は、粉砕工程(
図1/S11)を経た部材の重量に対して0.2~15wt%であることが好ましい。
【0021】
また予備酵素処理工程(
図1/S13)では、粉砕工程(
図1/S11)を経た部材にpH調整剤としての緩衝剤を加えてもよい。緩衝剤としては公知の材料が採用可能であり、例えば、酢酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、乳酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどから選択すればよい。
【0022】
予備酵素処理工程(
図1/S13)は60℃以下で1~3時間、pHを7~9程度として行なうことが好ましい。
【0023】
予備酵素処理工程(
図1/S13)を経た部材は必要に応じて、更に加熱して第1酵素を失活させても構わない(予備酵素失活工程(
図1/S15))。
【0024】
予備酵素失活工程(
図1/S15)を行う場合は70~90℃、0.5~3分間程度行うことが好ましくその後自然放冷等の方法にて冷却される。
【0025】
予備酵素処理工程(
図1/S13)および予備酵素失活工程(
図1/S15)は、減圧乾燥器などの、減圧可能な処理機器内で行っても構わないが、予備酵素失活工程(
図1/S15)後に部材の液体成分などを分離した方が以降の工程において好ましい場合は、減圧可能な処理機器以外の装置内にて処理した後、遠心分離法などの方法にて部材を固液分離し、固体分濃度を調整しても構わない(固液分離工程(
図1/S16))。
【0026】
予備酵素処理工程(
図1/S13)(および予備酵素失活工程(
図1/S15))を経た部材は、必要に応じて加水されて減圧可能な処理機器に投入され、タンパク質を分解する第2酵素を加えて撹拌し、減圧下で酵素反応させる(酵素処理工程(
図1/S17))。
【0027】
第2酵素としては、魚類のタンパク質(すなわち、予備酵素処理工程にてコラーゲンが分解されやすい状態とした後のタンパク質)を分解できるものであればいずれの酵素でも構わないが、プロテアーゼ、特に酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼが好ましく、また、スミチームAP、スミチームFP(新日本化学工業株式会社)、プロテアックス、酸性プロテアーゼUF「アマノ」SD、プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム株式会社)といった酵素などを用いてもよい。(「スミチーム」、「プロテアックス」は登録商標。)ここで、第2酵素として使用する酵素を適宜選択することによって、魚粉製品の栄養成分、臭い、味などに様々な特性を与えることができる。第2酵素の添加量は、予備酵素処理工程(
図1/S13)を経て必要に応じて加水された部材の重量に対して0.05~5wt%であることが好ましい。
【0028】
酵素処理工程(
図1/S17)は60℃以下で1~3時間、装置内の圧力をゲージ圧で-85kPa以下として行うことが好ましい。また、pHは特に調整する必要はなく、2~9程度として行なわれる。
【0029】
酵素処理工程(
図1/S17)を経た部材は更に加熱して第2酵素を失活させる(酵素失活工程(
図1/S19))。
【0030】
酵素失活工程(
図1/S19)は60~80℃、3~15分間程度行うことが好ましくその後自然放冷等の方法にて冷却される。
【0031】
酵素失活工程(
図1/S19)を経た部材は減圧下で撹拌されながら乾燥される(乾燥工程(
図1/S21))。乾燥時間は投入された部材の重量などに依存する。乾燥温度は、35~70℃、装置内の圧力をゲージ圧で-85kPa以下として乾燥を行うことが好ましく、乾燥温度は35~40℃であることがより好ましい。
【0032】
以下、図面を参照して、本発明のサメ類を原料とした魚粉の製造方法の一実施形態について説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例)
解凍したヨシキリザメのフィレ肉100kgを粗切断してスーパーミキサーに投入し、100rpmで1分間、その後500rpmで1分間処理して粉砕した(
図1/S11)。
【0034】
粉砕したヨシキリザメのフィレ肉を開放の加熱容器に移し、同量の水を加え、チオールプロテアーゼ(2kg)及び緩衝剤(pH調整剤)として炭酸水素ナトリウムを加え、約50℃に調整して2時間加熱撹拌した(
図1/S13)。その際のpHはおよそ8であった。
【0035】
その後、加熱容器を80℃で1分間保持してチオールプロテアーゼの失活を行い(
図1/S15)、得られた流動体の部材を減圧乾燥機に投入した。
【0036】
その後、第2酵素としての酸性プロテアーゼを200g加え、約55℃に調整して3時間加熱撹拌した(
図1/S17)。その際の減圧乾燥機内の圧力はゲージ圧で-88~-98kPaであった。
【0037】
3時間の加熱撹拌後に、減圧乾燥機内を70℃に調整して10分間加熱し(
図1/S19)、その後冷却させた。その間も減圧乾燥機内は同様の減圧が維持されたままで部材の撹拌を続け、5時間後に14.3kgのサメ類の魚粉を得た(
図1/S21)。
【0038】
(比較例)
実施例において、予備酵素処理工程(
図1/S13)および予備酵素失活工程(
図1/S15)を省いた以外は同様にサメ類の肉の処理を行ったところ、乾燥工程(
図1/S21)においてコラーゲン成分が減圧乾燥機内壁に固着し、魚粉を得ることはできなかった。
【0039】
このように、本発明によれば、減圧条件下でのサメ類の原料の乾燥に先んじて所定の酵素処理を行うことでコラーゲン部分のタンパク質の構造を変化させ、その後のタンパク質を分解する酵素処理においてコラーゲンを容易に分解できるようにしたため、それらの処理を経た部材を減圧条件下で乾燥させることによる良好な魚粉の製造が可能となった。
【0040】
なお、上記の実施例では、酵素失活工程(
図1/S19)を経た部材は減圧下で撹拌されながら乾燥する方法(乾燥工程(
図1/S21))のみを用いたが、必要な魚粉の形態、性状によっては、更に熱風乾燥などの方法で追乾燥工程を行っても構わない。
【0041】
また、上記の実施例では、予備酵素失活工程(
図1/S15)を行っているが、当該工程は必要に応じて行えばよい。すなわち例えば、第1酵素が、酵素処理工程における第2酵素の酵素反応の妨げとならないことがあらかじめ分かっている場合においては、予備酵素失活工程(
図1/S15)は省略されてよい。この場合において第1酵素は、酵素失活工程(
図1/S19)において、第2酵素とともに失活される。
【0042】
さらに、上記の実施例では、フィレ肉をサメ類の肉として用いた場合について説明したが、内臓、尾、頭、皮又は骨等を含むいわゆる「アラ」をサメ類の肉として用いてもよい。
【0043】
また、得られた魚粉について更に、用途に合わせて粉砕・分級加工などを行ってもよい。