(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120410
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20240829BHJP
B60T 8/48 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B60T8/17 Z
B60T8/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027190
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英志
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246CA02
3D246DA01
3D246GA21
3D246GA23
3D246GA25
3D246GB01
3D246GB02
3D246GB04
3D246GB29
3D246GB30
3D246GB33
3D246GC14
3D246GC16
3D246HA38A
3D246HA47B
3D246JB28
3D246JB33
3D246LA15Z
3D246LA16Z
3D246LA33Z
3D246LA40Z
3D246LA42Z
3D246LA52Z
3D246LA59Z
3D246LA72Z
(57)【要約】 (修正有)
【課題】制動制御装置において、調圧弁の制御性能を向上すること。
【解決手段】制動制御装置は、流体ポンプを駆動する電気モータ、及び、流体ポンプの吐出圧を調整する調圧弁にて構成される液圧供給源と、液圧供給源とホイールシリンダとの間に設けられるインレット弁と、電気モータ、調圧弁、及び、インレット弁を制御するコントローラと、を備える。そして、コントローラは、電気モータの回転速度Naから演算される流体ポンプの吐出流量Qpに基づいて、調圧弁に流れる調圧弁流量Quを演算し、調圧弁流量Quに基づいて調圧弁を制御する。更に、コントローラは、インレット弁を通して液圧供給源からホイールシリンダに流れる制動液の流量をインレット弁流量Qiとして演算し、インレット弁流量Qiに基づいて調圧弁流量Quを決定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールシリンダのホイール圧を制御する車両の制動制御装置であって、
流体ポンプを駆動する電気モータ、及び、前記流体ポンプの吐出圧を調整する調圧弁にて構成される液圧供給源と、前記電気モータ、及び、前記調圧弁を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記電気モータの回転速度から演算される前記流体ポンプの吐出流量に基づいて、前記調圧弁に流れる調圧弁流量を演算し、前記調圧弁流量に基づいて前記調圧弁を制御する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載される車両の制動制御装置であって、
前記液圧供給源と前記ホイールシリンダとの間に設けられるインレット弁を備え、
前記コントローラは、前記インレット弁を制御するとともに、前記インレット弁を通して前記液圧供給源から前記ホイールシリンダに流れる制動液の流量をインレット弁流量として演算し、前記インレット弁流量に基づいて前記調圧弁流量を決定する、車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載される車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、前記インレット弁の作動状態に応じて、前記インレット弁流量を決定する、車両の制動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載される車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、前記ホイール圧、及び、前記ホイール圧の目標値である目標圧に基づいて、前記インレット弁流量を決定する、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車輪ブレーキの液圧制御精度、及び、その応答性を両立させるために、液圧供給源と車輪ブレーキとの間に設けられる液圧制御ユニット(「流体ユニット」ともいう)が流量に基づいて制御されることが記載されている。具体的には、特許文献1には、「目標流量によって液圧制御ユニット5の制御モードを定め、目標流量ならびに制御モードに基づいて前記レギュレータ弁7、入口弁9もしくは出口弁14の目標弁流量を演算する。制御モードならびに目標弁流量に基づいてポンプ18の目標吐出量を演算する。また、目標弁流量を用い、予め設定していた差圧-流量-電流の特性マップに従って制御電流を得るようにし、レギュレータ弁7および入口弁9では、流量が増大するのに応じて電流が小さくなる差圧-流量-電流の特性マップに従って制御電流が得られ、出口弁14では、流量が増大するのに応じて電流が大きくなる差圧-流量-電流の特性マップに従って制御電流が得られる。」旨が記載されている。つまり、特許文献1の装置では、レギュレータ弁7(「調圧弁」ともいう)等の目標弁流量に基づいて、流体ポンプの目標吐出量が決定される。そして、目標吐出量に基づいて、電気モータの回転数が制御される。更に、目標弁流量に基づいて、調圧弁等に供給される制御電流が決定される。
【0003】
上記の流体ユニットの課題について、
図4の時系列線図を参照して説明する。該課題は、目標弁流量と実際に流体ポンプから吐出される流量(即ち、実際の弁流量)とが一致しないことに起因する。
図4では、挙動安定制御(「安定化制御」ともいう)、トラクション制御等の制動制御が実行される状況が想定されている。時点t0にて、制動制御の実行が開始されるが、流体ポンプ、及び、電気モータは慣性を有するため、実際の弁流量は、目標弁流量から時間的に遅れて発生する。例えば、制動初期(即ち、電気モータの駆動開始時)には、弁流量の目標値は急速に増加する(
図4の状況(A)を参照)。しかしながら、電気モータの起動には時間遅れがあるため、弁流量の実際値は、その目標値に追従できない。時点t1の状況に着目すると、弁流量の目標値は値qtであるため、調圧弁の制御電流(「供給電流」ともいう)は、値qtに応じて決定される。しかし、実際の弁流量は値qaであるため、調圧弁には十分な流量が流れていない。結果、調圧弁の制御電流が、実際に必要な値に対して小さく決定されてしまい、十分な液圧を発生させることができない。
【0004】
また、上記の制動制御(安定化制御、トラクション制御等)では、車両(車体、車輪等)の運動状態に応じて、目標弁流量は時々刻々と変化する。これに伴い、流体ポンプが実際に吐出する流量も変化する。上記の時間遅れに起因して、調圧弁による液圧制御では誤差が生じ得る(
図4の状況(B)を参照)。例えば、目標弁流量(目標値)と実際の弁流量(実際値)との位相のズレ(即ち、位相差)が顕著になると、調圧弁の制御電流の増減が頻繁に繰り返されるため、液圧が振動的になることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題を鑑み、本発明の目的は、車両の制動制御装置において、調圧弁の制御性能が向上され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制動制御装置(SC)は、ホイールシリンダ(CW)のホイール圧(Pw)を制御するものであって、流体ポンプ(HP)を駆動する電気モータ(MT)、及び、前記流体ポンプ(HP)の吐出圧(Pp)を調整する調圧弁(UA)にて構成される液圧供給源(CA)と、前記電気モータ(MT)、及び、前記調圧弁(UA)を制御するコントローラ(ECU)と、を備える。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記電気モータ(MT)の回転速度(Na)から演算される前記流体ポンプ(HP)の吐出流量(Qp)に基づいて、前記調圧弁(UA)に流れる調圧弁流量(Qu)を演算し、前記調圧弁流量(Qu)に基づいて前記調圧弁(UA)を制御する。
【0008】
上記構成によれば、調圧弁流量Quの決定において、上記時間遅れ(位相差)の影響が排除されるので、吐出圧Ppの不足が回避されるるとともに、吐出圧Ppの変動が抑制される。結果、調圧弁UAの制御精度が良好に維持され、その制御性能が向上される。
【0009】
本発明に係る制動制御装置(SC)は、前記液圧供給源(CA)と前記ホイールシリンダ(CW)との間に設けられるインレット弁(VI)を備える。前記コントローラ(ECU)は、前記インレット弁(VI)を制御するとともに、前記インレット弁(VI)を通して前記液圧供給源(CA)から前記ホイールシリンダ(CW)に流れる制動液(BF)の流量をインレット弁流量(Qi)として演算し、前記インレット弁流量(Qi)に基づいて前記調圧弁流量(Qu)を決定する。例えば、前記コントローラ(ECU)は、前記インレット弁(VI)の作動状態に応じて、前記インレット弁流量(Qi)を決定する。また、前記コントローラ(ECU)は、前記ホイール圧(Pw)、及び、前記ホイール圧(Pw)の目標値である目標圧(Pt)に基づいて、前記インレット弁流量(Qi)を決定してもよい。上記構成によれば、調圧弁UAを流れる調圧弁流量Quが正確に求められるので、調圧弁UAの制御精度が、更に向上される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】制動制御装置SCの全体構成を説明するための概略図である。
【
図2】電気モータMTの制御を説明するためのブロック図である。
【
図3】調圧弁UAの制御を説明するためのブロック図である。
【0011】
<構成部材等の記号、及び、記号末尾の添字>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前後輪の何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。例えば、各車輪に設けられたホイールシリンダCWにおいて、「前輪ホイールシリンダCWf」、「後輪ホイールシリンダCWr」と表記される。更に、記号末尾の添字「f」、「r」は省略され得る。添字「f」、「r」が省略された場合には、各記号は総称を表す。例えば、「CW」は、車両の前後車輪に設けられたホイールシリンダの総称である。総称としての「CW」は、「CW(=CWf、CWr)」とも表記される。
【0012】
マスタシリンダCMからホイールシリンダCWに至るまでの流体路において、マスタシリンダCMに近い側(ホイールシリンダCWから遠い側)が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側(マスタシリンダCMから遠い側)が「下部」と称呼される。また、制動液BF(「作動液」ともいう)の循環流KNにおいて、流体ポンプHPの吐出部に近い側(吸入部から離れた側)が「上流側」と称呼され、流体ポンプHPの吸入部に近い側(吐出部から離れた側)が「下流側」と称呼される。
【0013】
マスタシリンダCM、流体ユニットHU、及び、ホイールシリンダCWは、流体路(HM、HK、HW等)にて接続される。更に、流体ユニットHU内では、各種構成要素(HP、UA等)が流体路にて接続される。ここで、「流体路」は、制動液BFを移動するための経路であり、配管、アクチュエータ内の流路、ホース等が該当する。以下の説明で、マスタ路HM、還流路HK、ホイール路HW、減圧路HG等は流体路である。
【0014】
各種制御においては、「目標値(Pt等)」に基づいて「実際値(Pw等)」が制御される。実際値には、「検出値」と「推定値」とが含まれる。検出値は、センサによって検出された実際値である。また、推定値は、各種状態量に基づいて推定された実際値である。
【0015】
<制動制御装置SCの全体構成>
図1の概略図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの実施形態について説明する。先ず、制動制御装置SCを搭載した車両全体について説明する。ここで、制動制御装置SCを搭載した車両は、他の車両(例えば、先行車両)と区別するため、「自車両」とも称呼される。
【0016】
車両には、加速操作部材(非図示)、制動操作部材BP、及び、操舵操作部材(非図示)が備えられる。加速操作部材(例えば、アクセルペダル)は、運転者が車両を加速するとともに、車両の走行速度Vx(「車体速度」ともいう)を制御するために操作する部材である。制動操作部材BP(例えば、ブレーキペダル)は、運転者が車両を減速するために操作する部材である。操舵操作部材(例えば、ステアリングホイール)は、運転者が車両を旋回させるために操作する部材である。
【0017】
車両には、走行制御装置(非図示)が備えられる。走行制御装置は、原動機、動力伝達機構、及び、走行制御用のコントローラ(単に、「走行コントローラ」ともいう)にて構成される。走行制御装置の原動機からは、加速操作部材の操作量Aaに応じて駆動トルクが出力される。原動機により発生された駆動トルクは、動力伝達機構を介して車輪WHに伝達される。これにより、車輪WHに駆動トルクTdが付与され、車輪WHにて駆動力Fdが発生される。また、走行制御装置では、制動制御装置SC、及び、運転支援装置SJのうちの少なくとも1つと協調して、駆動力Fdが調整される。
【0018】
車両には、運転支援装置SJが備えられる。運転支援装置SJでは、アダプティブクルーズ制御、衝突回避・被害軽減制御等が実行される。運転支援装置SJは、物体検出センサDZ、及び、運転支援用のコントローラECJ(単に、「運転支援コントローラ」ともいう)にて構成される。物体検出センサDZによって、自車両の前方に存在する物体(自車両の前方を走行する先行車両を含む)までの距離Dz(「相対距離」と称呼し、物体が先行車両である場合には「車間距離」ともいう)が検出される。例えば、物体検出センサDZとして、レーダセンサ、ミリ波センサ、画像センサ等が採用される。運転支援コントローラECJにて、物体検出センサDZの検出結果Dz(相対距離)に基づいて、自車両の目標加速度Gs(自車両の前後方向における車体加速度の目標値)が演算される。運転支援装置SJは、走行制御装置、及び、制動制御装置SCと、通信バスBSを介して接続されている。目標加速度Gsは、通信バスBSを介して、走行制御装置、制動制御装置SCに伝達される。そして、目標加速度Gsに応じて、走行制御装置、制動制御装置SCにより、駆動力Fd、制動力Fbが調整される。
【0019】
車両には、以下に列挙する各種センサが備えられる。例えば、これらセンサの検出信号(Ba等)は、制動制御用のコントローラECU(単に、「制動コントローラ」ともいう)に入力される。
- 加速操作部材の操作量Aa(加速操作量)を検出する加速操作量センサ(非図示)、制動操作部材BPの操作量Ba(制動操作量)を検出する制動操作量センサBA、及び、操舵操作部材の操作量Ha(操舵操作量であって、例えば、操舵角)を検出する操舵操作量センサ(非図示)。例えば、制動操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFP、及び、マスタ圧Pmを検出するマスタ圧センサPM(後述)のうちの少なくとも1つが採用される。
- 車輪WHの回転速度Vw(「車輪速度」ともいう)を検出する車輪速度センサVW。
- 車両(特に、車体)において、ヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサ(非図示)、前後加速度Gxを検出する前後加速度センサ(非図示)、及び、横加速度Gyを検出する横加速度センサ(非図示)。
【0020】
車両には、各種の自動加圧制御の指示を行うための指示スイッチ(非図示)、制動装置SX、ブレーキブースタBB、マスタリザーバRV、及び、マスタシリンダCMが備えられる。
【0021】
指示スイッチによって、走行制御装置、運転支援装置SJ、制動制御装置SC等に、アダプティブクルーズ制御、クロール制御等の実行が指示される。指示スイッチからの信号(「指示信号」ともいう)には、自動加圧制御の作動指示に加え、指示速度が含まれている。自動加圧制御では、車体速度Vxが指示速度に近付き、一致するように制御が実行される。
【0022】
制動装置SX(=SXf、SXr)は、回転部材KT(例えば、ブレーキディスク)、及び、ブレーキキャリパ(非図示)にて構成される。回転部材KT(=KTf、KTr)は、車両の車輪WH(=WHf、WHr)に固定される。ブレーキキャリパは、回転部材KTを挟み込むように設けられる。ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられる。制動装置SXでは、ホイールシリンダCW内の制動液BFの圧力(「ホイール圧Pw」という)に応じて、車輪WHに制動トルクTbが付与され、車輪WHにて制動力Fbが発生される。具体的には、ホイール圧Pwによって、摩擦部材(非図示、例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体で回転するように固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTbが付与される。その結果、車輪WHは制動力Fbを発生する。
【0023】
ブレーキブースタBBによって、制動操作部材BPの操作力Fpが軽減される。ブレーキブースタBBとして、負圧型、或いは、電動型のものが採用される。
【0024】
マスタリザーバ(「大気圧リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクである。マスタリザーバRVの内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタシリンダCM内のプライマリマスタピストンPGは、制動操作部材BPに、ブレーキロッド等を介して、機械的に接続されている。マスタシリンダCMとして、タンデム型のものが採用される。マスタシリンダCMの内部は、プライマリ、セカンダリマスタピストンPG、PHによって、2つの液圧室Rm(=Rmf、Rmr)に区画されている。制動操作部材BPが操作されていない場合には、マスタシリンダCMの前輪、後輪液圧室Rmf、Rmr(「マスタ室」ともいう)とマスタリザーバRVとは連通している。マスタシリンダCMからホイールシリンダCWに至る制動系統BK内で制動液BFが不足している場合には、マスタリザーバRVからマスタ室Rmに、制動液BFが補給される。
【0025】
制動操作部材BPが操作されると、マスタシリンダCM内のマスタピストンPG、PHが、前進方向(マスタ室Rmの体積が減少する方向)に押され、マスタ室Rmは、マスタリザーバRVから遮断される。更に、制動操作部材BPの操作が増加されると、マスタピストンPG、PHは前進方向に移動され、制動液BF(作動流体)は、マスタシリンダCMから排出(圧送)される。制動操作部材BPの操作が減少されると、マスタピストンPG、PHは後退方向(マスタ室Rmの体積が増加する方向)に移動され、制動液BFはマスタシリンダCMに向けて戻される。
【0026】
≪制動制御装置SC≫
車両には、制動制御装置SCが備えられる。制動制御装置SCでは、2系統の制動系統BK(即ち、前輪、駆輪制動系統BKf、BKr)として、前後型(「II型」ともいう)のものが採用される。制動制御装置SCは、流体ユニットHU、及び、制動コントローラECUにて構成される。
【0027】
流体ユニットHUは、マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間に設けられる。マスタシリンダCM(特に、マスタ室Rm)と流体ユニットHUとは、前輪、後輪マスタ路HMf、HMr(=HM、流体路)にて接続される。また、流体ユニットHUとホイールシリンダCWとは、前輪、後輪ホイール路HWf、HWr(=HW、流体路)にて接続される。流体ユニットHUは、電気モータMT、流体ポンプHP、調圧弁UA、調圧リザーバRC、マスタ圧センサPM、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOにて構成される。
【0028】
電気モータMTによって、流体ポンプHPが駆動される。電気モータMTとして、3相ブラシレスモータが採用される。流体ポンプHPにおいて、吐出部と吸入部とが、前輪、後輪還流路HKf、HKr(=HK、流体路)にて接続される。還流路HKには、流体ポンプHPの吸入部の近傍にて、前輪、後輪調圧リザーバRCf、RCr(=RC)が設けられる。更に、還流路HKには、前輪、後輪調圧弁UAf、UAr(=UA)が設けられる。調圧弁UA(電磁弁)は、常開型のリニア弁(「差圧弁」、「比例弁」ともいう)である。
【0029】
電気モータMTが回転駆動されると、流体ポンプHPは、調圧弁UAの上部(マスタシリンダCMに近い側)から制動液BFを吸い込み、調圧弁UAの下部(ホイールシリンダCWに近い側)に制動液BFを吐出する。これにより、還流路HKには、流体ポンプHP、調圧弁UA、及び、調圧リザーバRCを含む、制動液BFの循環流KN(即ち、循環する制動液BFの流れ)が発生する。調圧弁UAによって制動液BFの循環流KNが絞られると、オリフィス効果によって、調圧弁UAの下部の液圧Pp(流体ポンプHPの吐出部の液圧であるため「吐出圧」ともいう)が、調圧弁UAの上部の液圧Pm(マスタ圧、流体ポンプHPの吸入部の液圧であるため「吸入圧」ともいう)から増加される。つまり、流体ユニットHUは、ホイール圧Pw(=Pwf、Pwr)を、マスタ圧Pm(=Pmf、Pmr)から増加することが可能である。流体ユニットHUにおいて、電気モータMT、流体ポンプHP、及び、調圧弁UAは「液圧供給源CA」と称呼される。液圧供給源CAによって、制動操作部材BPの操作がない場合(即ち、「Ba=0」の場合)であっても、ホイールシリンダCWのホイール圧Pw(結果、制動トルクTb)を自動的に増加する自動加圧制御(後述)が実行される。
【0030】
調圧弁UAf、UArの上部には、マスタ室Rmf、Rmrの液圧Pmf、Pmr(「マスタ圧」ともいう)を検出するよう、マスタ圧センサPMf、PMr(=PM)が設けられる。マスタ圧センサPM(=PMf、PMr)は制動操作量センサBAに相当し、マスタ圧Pm(=Pmf、Pmr)は制動操作量Baに相当する。なお、前輪マスタ圧Pmfと後輪マスタ圧Pmrは実質的に等しいため、前輪、後輪マスタ液圧センサPMf、PMrのうちの何れか1つは省略することができる。
【0031】
還流路HK(=HKf、HKr)には、調圧弁UAの下部(流体ポンプHPの吐出部と調圧弁UAとの間)にて、2つに分岐されたホイール路HW(=HWf、HWr)が接続される。また、ホイール路HW(=HWf、HWr)は、ホイールシリンダCW(=CWf、CWr)に接続される。つまり、前輪系統BKfでは、2つの前輪ホイール路HWfの夫々にホイールシリンダCWfが接続される。同様に、後輪系統BKrでは、2つの後輪ホイール路HWrの夫々に後輪ホイールシリンダCWrが接続される。液圧供給源CAによって調整された吐出圧Ppは、ホイール圧Pwとして、ホイールシリンダCWの夫々に供給可能である。
【0032】
ホイール路HWには、常開型のオン・オフ弁(電磁弁)であるインレット弁VIが設けられる。つまり、インレット弁VIは、液圧供給源CAとホイールシリンダCWとの間に設けられる。ホイール路HWは、減圧路HGを介して、調圧リザーバRCに接続される。そして、減圧路HGには、常閉型のオン・オフ弁(電磁弁)であるアウトレット弁VOが設けられる。インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOの個別制御によって、ホイール圧Pwが、ホイールシリンダCW毎に別々に調整され得る。
【0033】
ホイール圧Pwを減少するためには、インレット弁VIが閉弁され、アウトレット弁VOが開弁される。ホイールシリンダCWへの制動液BFの流入が阻止されるとともに、ホイールシリンダCW内の制動液BFが調圧リザーバRCに流出するので、ホイール圧Pwは減少される。ホイール圧Pwを増加するためには、インレット弁VIが開弁され、アウトレット弁VOが閉弁される。制動液BFの調圧リザーバRCへの流出が阻止され、吐出圧PpがホイールシリンダCWに供給されるので、ホイール圧Pwが増加される。ホイール圧Pwを保持するためには、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOが共に閉弁される。ホイールシリンダCWは流体的に封止されるので、ホイール圧Pwが一定に維持される。
【0034】
流体ユニットHUは、制動コントローラECUによって制御される。制動コントローラECUは、マイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DRにて構成される。コントローラECUは、車載の通信バスBSを介して、信号(検出値、演算値等)を共有するよう、他のコントローラ(ECJ等)とネットワーク接続されている。例えば、制動コントローラECUから、運転支援コントローラECJには、車体速度Vxが送信される。一方、運転支援コントローラECJから、制動コントローラECUには、自動加圧制御を実行するための目標加速度Gsが送信される。
【0035】
制動コントローラECUには、加速操作量Aa、制動操作量Ba、操舵操作量Ha、車輪速度Vw、ヨーレイトYr、前後加速度Gx、横加速度Gy、目標加速度Gs、マスタ圧Pm等の信号が入力される。各種信号に応じて、制動コントローラECUにより、流体ユニットHUの電気モータMT、及び、電磁弁UA、VI、VOが制御される。駆動回路DRには、電気モータMT(例えば、3相ブラシレスモータ)を駆動するよう、スイッチング素子(例えば、MOS-FET)にてHブリッジ回路(「インバータ回路」ともいう)が構成される。また、駆動回路DRには、各種電磁弁(UA等)を駆動するよう、スイッチング素子が備えられる。マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTの駆動信号Mt、調圧弁UAの駆動信号Ua、インレット弁VIの駆動信号Vi、及び、アウトレット弁VOの駆動信号Voが演算される。そして、駆動信号(Ua等)に応じて、電気モータMT、及び、電磁弁UA、VI、VOへの供給電流が、駆動回路DRによって制御される。
【0036】
<制動制御装置SCにて実行される自動加圧制御>
車両では、制動制御装置SCによって、各種の自動加圧制御が実行される。「自動加圧制御」は、運転者による制動操作部材BPの操作とは独立して(即ち、制動操作がない場合でも)、ホイール圧Pwを自動的に増加し、制動力Fb(及び/又は、駆動力Fd)を制御する。列挙される自動加圧制御は公知であるため、以下、簡単に説明する。なお、制動制御装置SCでは、列挙される全ての自動加圧制御が実行される必要はなく、これらのうちの少なくとも1つが実行される。
【0037】
≪横滑り防止制御≫
「横滑り防止制御(Electronic Stability Control)」は、車両が旋回する際に、車両の方向安定性を向上させる。横滑り防止制御は、「車両挙動安定化制御」とも称呼される。車両挙動安定化制御(単に、「安定化制御ともいう」)では、車輪速度Vw、ヨーレイトYr、横加速度Gy、操舵操作量Ha等に基づいて、車両横滑り等の不安定挙動(即ち、過度のオーバステア、アンダステア)が検出される。そして、不安定挙動が抑制されるように、発動機の出力が低減され、車両減速が行われる。また、制動操作部材BPの操作とは独立、且つ、各車輪WHにおいて個別に、ホイール圧Pwが発生され、調整される。安定化制御では、自動加圧の実行により、制動力Fbの発生及び調整が行われ、車両(特に、車体)にヨーイングモーメントが付与される。結果、車両挙動の安定化が図られる。
【0038】
≪トラクション制御≫
「トラクション制御は、加速操作部材が操作される場合(例えば、車両の発進時、加速時)に、駆動車輪の空転を防止する。車両を発進する際、或いは、加速する際に、駆動車輪の駆動トルクTdが、該車輪と路面との間で発生可能な摩擦力より大きい場合には、車輪WHの空転(即ち、ホイールスピン)が発生する。トラクション制御では、車体速度Vxと車輪速度Vwとの比較に基づいて、車輪WHの空転が検出される。そして、該空転が抑制されるよう、発動機の出力が低減される。加えて、空転している車輪WHに対して、ホイール圧Pwが増加されて、空転が抑制される。トラクション制御では、自動加圧の実行により、車輪WHの空転が防止され、駆動力Fdの発生が促進される。結果、車両の発進性能、加速性能が向上される。
【0039】
≪クロール制御≫
「クロール制御」は、未舗装路(「オフロード」とも称呼され、例えば、砂地、ダート、岩石路、泥濘路)等で車体速度Vxを低速(一定速度)に維持する。クロール制御では、加速操作部材(アクセルペダル)、及び、制動操作部材BP(ブレーキペダル)が操作されなくても、車体速度Vxが設定車速vc(所定値)で維持されるよう、駆動力Fd、及び、制動力Fbが制御される。詳細には、クロール制御では、指示スイッチからの信号によって、その実行と設定車速vcが指示される。そして、車体速度Vxが一定の低速度vc(設定速度)に一致し、維持されるよう、走行制御装置により原動機の出力が調整される。加えて、制動制御装置SCにより各車輪WHのホイール圧Pwが個別に調整される。クロール制御では、自動加圧の実行により車輪WHの空転及びロックが防止される。なお、クロール制御には、降坂路を設定速度vcで降ることができるダウンヒルアシスト制御(「ヒルディセント制御」ともいう)が含まれる。ダウンヒルアシスト制御では、自動加圧の実行により車体速度Vxが設定車速vcに維持される。
【0040】
≪アダプティブクルーズ制御≫
「アダプティブクルーズ制御(単に、「クルーズ制御」ともいう)」は、自車両の前方に先行車両が存在しない場合には、予め設定された速度va(設定速度)で自車両を定速で走行させる。一方、クルーズ制御は、先行車両が存在する場合には、予め設定された車間距離da(設定距離)を維持しながら先行車両に追従するように自車両を加速、又は、減速するものである。アダプティブクルーズ制御では、指示スイッチからの信号によって、その実行、設定車速va、及び、設定距離daが指示される。運転支援装置SJでは、アダプティブクルーズ制御用の目標加速度Gsが決定される。そして、制動制御装置SCでは、該目標加速度Gsに応じた自動加圧の実行により車間距離Dzが設定距離daに維持される。
【0041】
≪衝突回避・被害軽減制御≫
「衝突回避・被害軽減制御(「プリクラッシュ制動制御」、或いは、「緊急制動制御」ともいう)」は、自車両と衝突する可能性が高い障害物(先行車両等)が存在する場合に自動的に制動力Fbを発生させる。緊急制動制御によって、物体と自車両との衝突が回避され得る。或いは、該衝突が回避できない場合であっても、その被害が軽減される。運転支援装置SJでは、緊急制動制御用の目標加速度Gsが決定される。そして、制動制御装置SCでは、該目標加速度Gsに応じた自動加圧の実行により自車両が急減速される。結果、自車両と紹介物との衝突が回避、又は、衝突時の被害が軽減される。
【0042】
なお、アンチロックブレーキ制御では、車輪ロックが防止されるよう、ホイール圧Pwが一旦減少され、車輪ロックが収まった後、ホイール圧Pwが元に戻るように増加される。また、アンチロックブレーキ制御は、制動操作部材BPの操作に伴って実行される。このため、自動加圧制御には、アンチロックブレーキ制御は含まれない。
【0043】
<電気モータMTの制御>
図2のブロック図を参照して、電気モータMT(例えば、ブラシレスモータ)の駆動制御(特に、回転速度の制御)について説明する。電気モータMTは、ホイール圧Pwを、マスタ圧Pmから増加するための動力源である。電気モータMTは、上述した各種の自動加圧制御に必要な循環流KNの流量に基づいて制御される。なお、「流量」は、単位時間当りの液量(体積)の変化を表している。
【0044】
電気モータMTの駆動制御は、目標圧演算ブロックPT、系統圧演算ブロックPK、目標液量演算ブロックRT、目標流量演算ブロックQT、目標回転速度演算ブロックNT、及び、回転速度フィードバック制御ブロックNFにて構成される。これらの演算処理は、制動コントローラECUのマイクロプロセッサMPにて実行される。
【0045】
目標圧演算ブロックPTにて、加速操作量Aa、制動操作量Ba、操舵操作量Ha、車輪速度Vw、ヨーレイトYr、前後加速度Gx、横加速度Gy、目標加速度Gs、マスタ圧Pm等の各種信号に基づいて、自動加圧制御に必要とされる目標圧Ptが演算される。「目標圧Pt」は、ホイール圧Pw(実際値)に対応する目標値であり、ホイールシリンダCW毎に決定される。
【0046】
自動加圧制御として、安定化制御(横滑り防止制御)が実行される場合には、車両挙動を安定化できるよう、操舵操作量Ha、制動操作量Ba、車体速度Vx(車輪速度Vwから算出)、ヨーレイトYr、横加速度Gy等に基づいて、各車輪WHで個別に目標圧Ptが演算される。例えば、オーバステア挙動を抑制するためには、車両の旋回外側前輪に対応する目標圧Ptが他の車輪に対する目標圧Ptよりも相対的に大きく決定される。これにより、旋回方向に対して外向きに作用するヨーイングモーメントが形成され、安定化が図られる。一方、アンダステア挙動を抑制するためには、車両の後輪(特に、旋回内側)に対応する目標圧Ptが他の車輪に対する目標圧Ptよりも相対的に大きく決定される。これにより、旋回方向に対して内向きに作用するヨーイングモーメントが形成され、アンダステアが抑制される。
【0047】
自動加圧制御として、トラクション制御が実行される場合には、駆動車輪の空転を抑制するよう、車輪速度Vw等に基づいて、目標圧Ptが演算される。車両の左右に配置される駆動車輪は、差動装置(デファレンシャルギヤ)を介して接続されている。トラクション制御によって駆動車輪の空転が防止されることにより、走行制御装置から駆動車輪に確実に駆動力Fdが伝達される。なお、トラクション制御は、発進時を含む車両の加速中に作動されるので、該制御の実行時には、制動操作部材BPは操作されていない(即ち、「Ba=0」である)。
【0048】
トラクション制御と同様に、自動加圧制御として、クロール制御が実行される場合には、駆動車輪の空転を抑制するよう、車輪速度Vw等に基づいて、目標圧Ptが演算される。更に、クロール制御では、車体速度Vxが一定の低速度vc(設定速度)に維持されるように、駆動力Fd、及び、制動力Fbが調整される。このため、クロール制御では、状況に応じて、車輪ロックが抑制されるように目標圧Ptが決定される。なお、クロール制御は、制動操作部材BPが操作されると停止されるので、該制御の実行時には「Ba=0」である。
【0049】
自動加圧制御として、クルーズ制御が実行される場合には、設定された車間距離daが維持されるよう、目標加速度Gsに基づいて、目標圧Ptが演算される。クルーズ制御も、制動操作部材BPが操作されると停止されるので、該制御の実行時には「Ba=0」である。また、自動加圧制御として、緊急制動制御が実行される場合には、障害物との衝突回避等が行われるよう、制動操作量Ba、及び、目標加速度Gsに基づいて、目標圧Ptが演算される。なお、制動操作部材BPが操作されていても、緊急制動制御は実行される。ここで、安定化制御、トラクション制御、クロール制御では、目標圧Ptは車輪WH毎に異なるが、クルーズ制御、緊急制動制御では、目標圧Ptは全ての車輪WHで同じに決定され得る。
【0050】
系統圧演算ブロックPKにて、目標圧Pt(=Ptf、Ptr)に基づいて、系統圧Pk(=Pkf、Pkr)が演算される。「系統圧Pk」は、前輪、後輪制動系統BKf、BKrにおいて、自動加圧制御の実行に要求される吐出圧Pp(実際値)に対応する目標値である。従って、系統圧Pkは、制動系統BK(=BKf、BKr)で個別に決定される。具体的には、制動系統BKの夫々において、2つの目標圧Pt(即ち、左右車輪に対応する目標圧Pt)のうちで大きい方(即ち、最大値)が、系統圧Pkとして決定される(即ち、「Pk=MAX(Pt)」)。
【0051】
目標圧Ptが系統圧Pkに等しい車輪WH(特に、ホイールシリンダCW)では、ホイール圧Pwは、目標圧Ptに近付き、一致するよう、調圧弁UAのみによって調整される。一方、目標圧Ptが系統圧Pkよりも小さい車輪WH(特に、ホイールシリンダCW)では、ホイール圧Pwは、目標圧Ptに近付き、一致するよう、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOによって調整される。
【0052】
系統圧演算ブロックPKでは、2つの目標圧Ptのうちの最大値に所定圧peが加算されて、系統圧Pkが決定されてもよい(即ち、「Pk=MAX(Pt)+pe」)。ここで、「所定圧pe」は、予め設定された所定値(定数)である。何れにしても、系統圧Pkは、目標圧Ptの最大値に基づいて決定される。なお、所定圧peが加算される構成では、全ての車輪WH(特に、ホイールシリンダCW)では、目標圧Ptが系統圧Pkよりも小さくなるので、ホイール圧Pwは、目標圧Ptに近付き、一致するよう、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOによって調整される。
【0053】
目標液量演算ブロックRTにて、マスタ圧Pm(=Pmf、Pmr)、及び、系統圧Pk(=Pkf、Pkr)に基づいて、目標液量Rt(=Rtf、Rtr)が演算される。「目標液量Rt」は、制動系統BK(=BKf、BKr)の夫々において、系統圧Pkを達成するために、ホイールシリンダCWに供給されるべき制動液BFの量(体積)である。目標液量演算ブロックRTでは、マスタ圧Pm、及び、予め設定された演算マップZrtに基づいて、実液量Rmが演算される。「実液量Rm」は、液圧を「0(ゼロ)」からマスタ圧Pmにまで増加するために、既にホイールシリンダCWに供給された液量(推定値)である。ここで、「演算マップZrt」は、制動装置SXによって費やされる液量(ブレーキキャリパ、摩擦部材等の剛性によって消費される液量であり、「消費液量」ともいう)とホイール圧Pwとの関係である。該関係(即ち、演算マップZrt)は、「消費液量特性」と称呼される。
【0054】
更に、目標液量演算ブロックRTでは、系統圧Pk、及び、予め設定された演算マップZrt(消費液量特性)に基づいて、要求液量Rwが演算される。「要求液量Rw」は、液圧を「0(ゼロ)」から系統圧Pkにまで増加するために必要な液量(推定値)である。そして、要求液量Rw、及び、実液量Rmに基づいて、要求液量Rwと実液量Rmとの差が、目標液量Rtとして演算される。(即ち、「Rt=Rw-Rm」)。「目標液量Rt」は、液圧をマスタ圧Pmから系統圧Pkにまで増加するために必要な液量である。つまり、目標液量Rtに相当する分の液量がホイールシリンダCWに向けて移動されることで、吐出圧Ppは、マスタ圧Pmから系統圧Pkにまで増加される。
【0055】
目標流量演算ブロックQTにて、目標液量Rt(=Rtf、Rtr)に基づいて、目標流量Qt(=Qtf、Qtr)が演算される。具体的には、目標液量Rtが時間微分されて、目標流量Qtが決定される(即ち、「Qt=d(Rt)/dt」)。「目標流量Qt」は、制動系統BK(=BKf、BKr)の夫々において、系統圧Pk(目標値)を達成するために必要な流量である。
【0056】
目標回転速度演算ブロックNTにて、目標流量Qt(=Qtf、Qtr)に基づいて、目標回転速度Ntが演算される。「目標回転速度Nt」は、電気モータMTの回転速度Na(実際値)に対応する目標値である。具体的には、流体ポンプHP(=HPf、HPr)の吐出量(1回転毎に排出される制動液BFの体積)に基づいて、制動系統BK(=BKf、BKr)の夫々についての要求回転速度Ns(=Nsf、Nsr)が演算される。要求回転速度Nsには、平滑化の処理(即ち、フィルタ処理)が施される。平準化処理により、要求回転速度Nsから高周波ノイズが除去されるとともに、時間的な変動が低減される。そして、平滑化処理後の2つの要求回転速度Nsのうちの大きい方(即ち、最大値)が、目標回転速度Ntとして演算される。ここで、目標回転速度Ntは、目標流量Qtが大きいほど、大きくなるように決定される。
【0057】
目標回転速度Ntには、調圧弁UAの最低流量、及び、電気モータMTの最低回転速度が考慮される。「最低流量」は、調圧弁UAが機能するために最低限必要な流量である。また、「最低回転速度」は、電気モータMTが安定して回転できる速度の最小値である。最低流量、及び、最低回転速度が考慮されて、目標回転速度Ntには、下限回転速度nt(予め設定された所定値)が設けられる。つまり、目標回転速度Ntが下限回転速度nt以上の場合には、下限回転速度ntによる制限は行われず、演算された目標回転速度Ntがそのまま用いられる。一方、目標回転速度Ntが下限回転速度nt未満である場合には、目標回転速度Ntは下限回転速度ntに決定される。
【0058】
回転速度フィードバック制御ブロックNFにて、目標回転速度Nt(目標値)、及び、モータ回転速度Na(実際値)に基づいて、モータ回転速度Naが、目標回転速度Ntに近付き、一致するようにベクトル制御が実行される。詳細には、回転速度フィードバック制御ブロックNFでは、モータ回転角Ka、及び、モータ電流Im(U相、V相、W相電流Imu、Imv、Imwの総称)に基づいて、d軸、q軸に係る目標電圧Vdt、Vqtが演算される。そして、目標電圧Vdt、Vqtに基づいて、駆動回路DRのスイッチング素子を駆動するためのモータ駆動信号Mtが演算される。
【0059】
モータ回転角Kaは、電気モータMTに設けられた回転角センサKAによって検出される。更に、モータ回転角Kaに基づいて、それが時間微分されて、モータ回転速度Naが演算される。モータ電流Imは、駆動回路DRに設けられたモータ電流センサIMによって検出される。
【0060】
電気モータMTとして、回転角センサKAを持たない電気モータ(「センサレスモータ」ともいう)が採用され得る。センサレスモータでは、モータ電流Imに基づいて、モータ回転速度Naが推定される。更に、推定されたモータ回転速度Naに基づいて、それが時間積分されて、モータ回転角Kaが演算される。なお、センサレスモータにおけるベクトル制御が、「センサレス制御」とも称呼される。何れにしても、回転速度フィードバック制御ブロックNFでは、モータ回転速度Naに係るフィードバック制御が実行される。
【0061】
<調圧弁UAの制御>
図3のブロック図を参照して、調圧弁UAの駆動制御について説明する。調圧弁UAによって、還流路HKにて発生する制動液BFの循環流KNが絞られることで、ホイール圧Pwは、マスタ圧Pmから増加される。調圧弁UAの駆動制御は、目標差圧演算ブロックST、吐出流量演算ブロックQP、インレット弁流量演算ブロックQI、調圧弁流量演算ブロックQU、目標電流演算ブロックIT、及び、電流フィードバック制御ブロックIFにて構成される。これらの演算処理は、制動コントローラECUのマイクロプロセッサMPにて実行される。
【0062】
目標差圧演算ブロックSTにて、系統圧Pk(=Pkf、Pkr)、及び、マスタ圧Pm(=Pmf、Pmr)に基づいて、目標差圧St(=Stf、Str)が演算される。「目標差圧St」は、調圧弁UAにより発生されるべきマスタ圧Pm(実際値)と吐出圧Pp(実際値)との差圧(液圧差の実際値)に対応する目標値である。換言すれば、調圧弁UAにより吸入圧Pm(マスタ圧)と吐出圧Ppとの間で液圧差が発生されるが、目標差圧Stは該液圧差の目標値である。目標差圧Stは、制動系統BK(=BKf、BKr)の夫々で、系統圧Pk(吐出圧Ppの目標値)からマスタ圧Pm(実際値)が減算されて、決定される。
【0063】
吐出流量演算ブロックQPにて、モータ回転速度Na(実際値)に基づいて、吐出流量Qp(=Qpf、Qpr)が演算される。「吐出流量Qp」は、流体ポンプHPが実際に吐出している制動液BFの流量(実際値)である。従って、流体ポンプHP(=HPf、HPr)の1回転当りの吐出量に、モータ回転速度Naが乗算されて、吐出流量Qp(=Qpf、Qpr)が決定される。
【0064】
インレット弁流量演算ブロックQIにて、インレット弁流量Qi(=Qif、Qir)が演算される。「インレット弁流量Qi」は、インレット弁VI(=VIf、VIr)を通過して、液圧供給源CAからホイールシリンダCWに流入する制動液BFの流量(実際値)である。制動制御装置SCには複数のインレット弁VIが含まれるが、1つのインレット弁VIを流れる制動液BFの流量(即ち、単位時間当りの体積)がインレット弁流量Qiである。換言すれば、インレット弁流量Qiは、1つのインレット弁VIの上部から、該インレット弁VIに接続されるホイールシリンダCWに流れる制動液BFの流量である。インレット弁流量Qiは、インレット弁VIの夫々について演算される。
【0065】
インレット弁流量Qiは、インレット弁VI(=VIf、VIr)の作動状態に応じて決定される。ここで、「作動状態」は、「インレット弁VIが作動しているか、否か」、「作動している場合には、その開弁駆動の状態」を表す。例えば、インレット弁VIの作動状態は、インレット弁VIの駆動信号Vi(=Vif、Vir)に基づいて決定される。インレット弁VIの作動状態は、以下の3通りに分けられる。
【0066】
(1)インレット弁VIの非作動時におけるインレット弁流量Qi
インレット弁VIの非作動状態(即ち、インレット弁VIへの供給電流Iiが「0(ゼロ)」の状態)は、該当するホイールシリンダCWにおいて、目標圧Ptと系統圧Pkとが等しい場合である(即ち、「Pk=Pt」)。該状態では、ホイール圧Pwは、調圧弁UAのみによって調整される。このとき、インレット弁VIは、全開状態を継続し、オリフィスとして作用する。このため、インレット弁VIをオリフィスとして考慮し、吐出圧Ppとホイール圧Pwとの液圧差hPpに基づいて、インレット弁流量Qi(推定値)が演算される。これは、液圧差hPpとインレット弁流量Qiとの関係が既知であり、演算マップとして設定できることに因る。なお、吐出圧Pp、及び、ホイール圧Pwには、これらの推定値が用いられる。また、吐出圧Ppを検出する吐出圧センサ、ホイール圧Pwを検出するホイール圧センサが備えられる構成であれば、これらセンサの検出値が用いられてもよい。何れにしても、インレット弁VIの非作動時には、吐出圧Ppとホイール圧Pwとの液圧差hPpに応じて、インレット弁流量Qiが演算される。
【0067】
(2)インレット弁VIの作動時におけるインレット弁流量Qi
インレット弁VIが作動している状態(即ち、インレット弁VIに電流Iiが供給されている状態)には、保持作動状態と増圧作動状態との2つの状態が含まれる。なお、インレット弁VIの作動時は、目標圧Ptが系統圧Pkよりも小さい場合である(即ち、「Pt<Pk」)。
【0068】
(2-a)保持作動状態におけるインレット弁流量Qi
保持作動状態は、該当するホイールシリンダCWにおいて、目標圧Ptが系統圧Pkよりも小さく、且つ、ホイール圧Pwが目標圧Pt以上である場合である(即ち、「Pk>Pt、Pw≧Pt」)。保持作動が実行されるインレット弁VIでは、供給電流Iiが連続的に供給されるので、インレット弁VIは全閉状態を継続する。従って、保持作動状態では、インレット弁流量Qiは「0(ゼロ)」である。なお、保持作動状態において、「Pw=Pt」の場合にはアウトレット弁VOは閉弁され、「Pw>Pt」の場合にはアウトレット弁VOは開弁される。
【0069】
(2-b)増圧作動状態におけるインレット弁流量Qi
増圧作動状態は、該当するホイールシリンダCWにおいて、目標圧Ptが系統圧Pkよりも小さく、且つ、ホイール圧Pwが目標圧Pt未満である場合である(即ち、「Pk>Pt、Pw<Pt」)。増圧作動が実行されるインレット弁VIでは、閉弁(通電)と開弁(非通電)とが繰り返される。増圧作動により、制動液BFが、液圧供給源CAからホイールシリンダCWに段階的に流入されるので、ホイール圧Pwは、吐出圧Ppに向けて徐々に増加される。増圧作動状態では、開弁時間と閉弁時間との関係(例えば、一周期における開弁時間の割合)に基づいて、インレット弁流量Qi(推定値)が決定される。また、目標圧Pt、及び、ホイール圧Pwに基づいて、インレット弁流量Qi(推定値)が演算されてもよい。具体的には、上述した演算マップZrt(消費液量特性)を参照し、ホイール圧Pwに基づいて、液圧を「0(ゼロ)」からホイール圧Pwにまで増加するために、既にホイールシリンダCWに供給された液量Rjが演算される。同様に、目標圧Pt、及び、演算マップZrtに基づいて、液圧を「0」から目標圧Ptにまで増加するために必要な液量Rsが演算される。そして、これらの差hR(=Rs-Rj)が時間微分されて、インレット弁流量Qiが決定される(即ち、「Qi=d(hR)/dt」)。上述したように、何れにしても、インレット弁流量演算ブロックQIでは、インレット弁VIの作動状態に基づいて、インレット弁流量Qiが決定される。
【0070】
インレット弁VIの作動状態は、目標圧Pt、系統圧Pk、及び、ホイール圧Pwに基づいて決定される。また、系統圧Pkは、目標圧Ptに基づいて決定される。このため、インレット弁流量演算ブロックQIでは、インレット弁流量Qi(推定値)が、目標圧Pt、及び、ホイール圧Pwに基づいて決定されてもよい。具体的には、ホイール圧Pwが目標圧Pt以上のホイールシリンダCWに対応するインレット弁VIでは、インレット弁流量Qiは「0(ゼロ)」に決定される。一方、ホイール圧Pwが目標圧Pt未満のホイールシリンダCWに対応するインレット弁VIでは、ホイールシリンダCWに制動液BFの供給が必要になるので、上記(2-b)の演算と同様に、目標圧Pt、ホイール圧Pw、及び、消費液量特性Zrtに基づいて、インレット弁流量Qiが演算される。ここで、「Pw<Pt」の場合には、「Pt<Pk」の場合だけでなく、「Pt=Pk」の場合が含まれる。そして、「Pt=Pk」の場合には、インレット弁VIの全開状態におけるオリフィス効果が、インレット弁流量Qiの流量制限(その最大値の制限)によって考慮される。
【0071】
調圧弁流量演算ブロックQUにて、吐出流量Qp(=Qpf、Qpr)、及び、インレット弁流量Qi(=Qif、Qir)に基づいて、調圧弁流量Qu(=Quf、Qur)が演算される。「調圧弁流量Qu」は、調圧弁UA(=UAf、UAr)を通過する制動液BFの流量(実際値であり、推定値)である。流体ポンプHPが吐出する制動液BFの流量は、循環流KNとして、還流路HKを循環する分の流量(即ち、調圧弁流量Qu)と、ホイールシリンダCWに移動される分の流量(即ち、インレット弁流量Qi)と、に分けられる。このため、調圧弁流量Quは、吐出流量Qp、及び、インレット弁流量Qiに基づいて演算される。
【0072】
詳細には、前輪制動系統BKfには、2つの前輪インレット弁VIfが含まれる。前輪インレット弁流量Qifは、2つの前輪インレット弁VIfを通過する流量Qifの和として考慮される。同様に、後輪制動系統BKrにも、2つの後輪インレット弁VIrが含まれるが、後輪インレット弁流量Qirは、それらを通過する流量Qirの和として考慮される。従って、調圧弁流量Qu(=Quf、Qur)は、吐出流量Qp(=Qpf、Qpr)から、インレット弁流量Qi(=Qif、Qir)の和ΣQi(=ΣQif、ΣQir)が減算されることにより決定される(即ち、「Quf=Qpf-ΣQif、Qur=Qpr-ΣQir」)。
【0073】
目標電流演算ブロックITにて、目標差圧St(=Stf、Str)、調圧弁流量Qu(=Quf、Qur)、及び、予め設定された演算マップZitに基づいて、目標電流It(=Itf、Itr)が演算される。「目標電流It」は、調圧弁UAに供給される電流Ia(実際値)に対応する目標値である。具体的には、演算マップZitに応じて、目標差圧Stの増加に伴って目標電流Itが増加し、目標差圧Stの減少に伴って目標電流Itが減少するように決定される。また、演算マップZitに応じて、調圧弁流量Quの増加に伴って目標電流Itが減少し、調圧弁流量Quの減少に伴って目標電流Itが増加するように決定される。
【0074】
換言すれば、目標電流演算ブロックITでは、目標差圧Stが大きい場合には、目標差圧Stが小さい場合に比較して、目標電流Itは大きくなるように演算される。逆に、目標差圧Stが小さい場合には、目標差圧Stが大きい場合に比較して、目標電流Itは小さくなるように演算される。また、調圧弁流量Quが大きい場合には、調圧弁流量Quが小さい場合に比較して、目標電流Itは小さくなるように演算される。逆に、調圧弁流量Quが小さい場合には、調圧弁流量Quが大きい場合に比較して、目標電流Itは大きくなるように演算される。
【0075】
電流フィードバック制御ブロックIFにて、目標電流It(目標値)、及び、供給電流Ia(実際値)に基づいて、供給電流Ia(=Iaf、Iar)が、目標電流It(=Itf、Itr)に近付き、一致するように調圧弁駆動信号Ua(=Uaf、Uar)が決定される。そして、駆動信号Uaに基づいて、調圧弁UA用のスイッチング素子が制御されることにより、調圧弁UA(=UAf、UAr)が駆動される。供給電流Iaは、駆動回路DRに設けられた調圧弁電流センサIA(=IAf、IAr)によって検出される。電流フィードバック制御ブロックIFでは、「It>Ia」であれば、供給電流Iaが増加するように駆動信号Uaが決定される。一方、「It<Ia」であれば、供給電流Iaが減少するように駆動信号Uaが決定される。
【0076】
制動制御装置SCでは、電気モータMTの実際の回転速度Naに基づいて、調圧弁流量Quが決定される。ここで、回転角センサKAを備える電気モータMTでは、モータ回転速度Naは、回転角センサKAによって検出されたモータ回転角Ka(検出値)に基づいて決定される。また、回転角センサKAを備えない電気モータMT(所謂、センサレスモータ)では、モータ回転速度Na(推定値)は、モータ電流センサIMによって検出されたモータ電流Imに基づいて決定される。何れにしても、調圧弁流量Quは、流体ポンプHPが実際に吐出している流量Qpに応じて決定される。調圧弁UAの制御において、目標値ではなく、実際値(即ち、吐出流量Qp)が用いられるので、電気モータMT、流体ポンプHP等の慣性に起因する時間遅れの影響が排除される。結果、調圧弁UAに必要とされる電流Iaが供給されるので、吐出圧Ppの不足が抑制される。加えて、供給電流Iaの頻繁な増加・減少が抑制されるので、吐出圧Ppが振動的になることが回避され、安定化される。即ち、調圧弁UAの制御性能が向上される。
【0077】
更に、制動制御装置SCでは、調圧弁流量Quの演算において、インレット弁VIを通して、液圧供給源CAからホイールシリンダCWに流れる制動液BFの流量Qi(インレット弁流量)が考慮される。制動系統BKの各々において、2つのホイール圧Pwが目標圧Pt以上である場合には、流体ポンプHPが吐出する流量Qp(吐出流量)の全量は、調圧弁流量Quとして、還流路HK内を循環する。しかしながら、少なくとも1つのホイールシリンダCWにおいて、ホイール圧Pwが目標圧Ptよりも小さい場合には、ホイール圧Pwを目標圧Ptに一致させるために、吐出流量Qpの一部が、液圧供給源CAからホイールシリンダCWに供給される。そこで、制動制御装置SCでは、液圧供給源CAからホイールシリンダCWに移動される制動液BFの流量が、インレット弁流量Qiとして求められる。そして、吐出流量Qpからインレット弁流量Qiが差し引かれることで、調圧弁流量Quが演算される。調圧弁流量Quの決定において、ホイールシリンダCWに流れ込む流量(インレット弁流量Qi)が考慮されるため、調圧弁流量Quが正確に把握される。結果、調圧弁UAの制御精度が、更に向上される。
【0078】
例えば、制動制御装置SCでは、インレット弁流量Qiは、インレット弁VIの作動状態(例えば、インレット弁VIの駆動信号Vi)に基づいて決定される。具体的には、インレット弁VIの作動状態が、非作動時、保持作動時、及び、増圧作動時の3つに分類されて、夫々の場合について異なる演算により、インレット弁流量Qiが決定される。また、インレット弁流量Qiは、目標圧Pt、及び、ホイール圧Pwに基づいて演算されてもよい。該演算では、制動装置SX(ブレーキキャリパ、摩擦部材等)の剛性による消費液量特性Zrt(液圧と液量との関係)が参酌されるとともに、インレット弁VIのオリフィス特性(全開時)が考慮される。
【0079】
<他の実施形態>
以下、制動制御装置SCの他の実施形態について説明する。他の実施形態でも、上記同様の効果(調圧弁UAの制御性能の向上等)を奏する。
【0080】
上記の実施形態では、2つの制動系統として、前後型の構成が採用された。これに代えて、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)の制動系統が採用され得る。該構成では、マスタシリンダCM内に形成された2つの液圧室のうちで、一方が右前輪ホイールシリンダ、左後輪ホイールシリンダに接続され、他方が左前輪ホイールシリンダ、右後輪ホイールシリンダに接続される。
【0081】
上記の実施形態では、制動装置SXとして、ディスク型のものが採用された。これに代えて、制動装置SXとして、ドラム型のものが採用される。ドラム型制動装置SXでは、車輪WHに固定される回転部材KTはブレーキドラムであり、摩擦部材はブレーキシューに張り付けられたブレーキライニングである。
【0082】
上記の実施形態では、電気モータMTを備える流体ユニットHUが、マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間に設けられた。これに代えて、特開2020-032833号公報に示されるように、流体ユニットHUが、マスタピストンPGを押圧するように構成されてもよい(該公報の調圧ユニットYAを参照)。具体的には、ブレーキブースタBBが省略され、マスタピストンPGの制動操作部材BPの側に液圧室が設けられる。そして、該液圧室に吐出圧Ppが供給される。
【0083】
上記の実施形態では、インレット弁VIとして、常開型のオン・オフ電磁弁が採用された。これに代えて、インレット弁VIとして、常開型のリニア電磁弁が採用されてもよい。リニア弁が採用される構成であっても、インレット弁流量Qiは、インレット弁VIの作動状態に応じて決定される。しかし、該構成では、増圧駆動状態において、インレット弁流量Qiの決定方法が、オン・オフ弁が採用される構成に対して相違する。即ち、オン・オフ弁の構成では、インレット弁VIの駆動制御における一周期に対する開弁時間に基づいてインレット弁流量Qiが決定された。これに対し、リニア弁の構成では、インレット弁VIへの供給電流Ii(即ち、リニア弁の開弁量)に基づいてインレット弁流量Qiが決定される。
【0084】
上記の実施形態では、目標圧Ptに基づいて、目標回転速度Ntが決定された。これに代えて、目標回転速度Ntは、一定回転速度naとして決定されてもよい。また、目標回転速度Ntは、2つの異なる第1、第2回転速度nb、nc(一定値)を用いて、2段階で決定され得る。具体的には、自動加圧制御の実行開始から所定時間taの期間(
図4の状況(A)に相当)は、目標回転速度Ntが一定の第1回転速度nbに決定される。自動加圧制御の実行開始から所定時間taを経過した後(
図4の状況(B)に相当)、目標回転速度Ntは、第1回転速度nbよりも小さい第2回転速度ncに決定される(即ち、「nc<nb」の関係)。ここで、回転速度na、nb、nc、及び、所定時間taは、予め設定された所定値(定数)である。該構成でも、モータ回転速度Naが、目標回転速度Ntに近付き、一致するように、電気モータMTは制御される。なお、該構成(回転速度一定によるモータ制御)では、目標値に対する実際値の時間遅れの影響による液圧変動は生じない。しかしながら、自動加圧制御の実行開始時(即ち、制動初期)の該時間遅れによる吐出圧Ppの不足は解消される。
【0085】
上記の実施形態では、目標回転速度Nt(結果、モータ回転速度Na)が滑らかになるよう、要求回転速度Nsに平滑化処理が行われた。平滑化処理は、モータ回転速度Naを制御するための状態変数Mj(「制御変数」ともいう)の何れかにおいて実行され得る。「制御変数Mj」は、モータ回転速度Naを制御するための変数である。つまり、制御変数Mj(「制御パラメータ」ともいう)」は、目標圧Ptから目標回転速度Ntに至るまでの各種演算に用いられる状態量(変数)である。例えば、制御変数Mjには、目標圧Pt、系統圧Pk、目標液量Rt、目標流量Qt、及び、目標回転速度Ntのうちの少なくとも1つが採用される。制動制御装置SCでは、制御変数Mjが平滑化処理(即ち、フィルタ処理)により平滑化される。ここで、平滑化処理には、ローパスフィルタ、及び、移動平均フィルタの少なくとも1つが用いられる。平滑化処理により、モータ回転速度Naが円滑化されるので、吐出流量Qpの変動が抑制される。結果、吐出圧Ppの不必要な変化が防止される。
【0086】
<制動制御装置SCの実施形態のまとめ>
制動制御装置SCの実施形態についてまとめる。制動制御装置SCは、ホイールシリンダCWのホイール圧Pwを制御する。制動制御装置SCには、「流体ポンプHPを駆動する電気モータMT、及び、流体ポンプHPの吐出圧Ppを調整する調圧弁UAにて構成される液圧供給源CA」と、「電気モータMT、及び、調圧弁UAを制御するコントローラECU」と、が備えられる。
【0087】
制動制御装置SCでは、コントローラECUにより、電気モータMTの回転速度Naに基づいて、流体ポンプHPの吐出流量Qpが演算される。また、ポンプ吐出流量Qpに基づいて、調圧弁UAに流れる調圧弁流量Quが演算される。そして、調圧弁流量Quに基づいて、調圧弁UAが制御される。詳細には、調圧弁流量Quに基づいて、調圧弁流量Quが大きいほど、調圧弁UAの供給電流Iaに係る目標値It(目標電流)が小さくなるように決定される。逆に、調圧弁流量Quが小さいほど、目標電流Itが大きくなるように決定される。つまり、目標電流Itは、調圧弁流量Quが小さい場合には、調圧弁流量Quが大きい場合に比較して、大きく決定される。そして、供給電流Ia(調圧弁電流センサIAの検出値)が、目標電流Itに近付き、一致するように、駆動回路DRのスイッチング素子が駆動される。
【0088】
制動制御装置SCでは、電気モータMTの実際のモータ回転速度Na(結果、流体ポンプHPが実際に吐出している流量Qp)に基づいて、調圧弁流量Quが決定される。このため、調圧弁流量Quの決定において、流量における目標値と実際値と間の時間遅れ(位相差)の影響が含まれない。調圧弁UAの制御電流Iaが相対的に小さく決定されることがないので、吐出圧Ppの不足が防止される。また、位相差に起因して、供給電流Iaの増加・減少が高頻度で繰り返されることが回避されるので、吐出圧Ppの変動が抑制される。結果、調圧弁UAの制御精度が良好に維持され、その制御性能が向上される。
【0089】
制動制御装置SCには、液圧供給源CAとホイールシリンダとの間にインレット弁VIが設けられる。インレット弁VIは、コントローラECUによって制御される。また、コントローラECUにより、インレット弁VIを通して液圧供給源CAからホイールシリンダCWに流れる制動液BFの流量が、インレット弁流量Qiとして演算される。そして、吐出流量Qp、及び、インレット弁流量Qiに基づいて、吐出流量Qpからインレット弁流量Qiが減算されることにより、調圧弁流量Quが決定される。
【0090】
例えば、インレット弁流量Qiは、インレット弁VIの作動状態に応じて決定される。具体的には、インレット弁VIが継続的に全開である場合には、インレット弁VIのオリフィス効果が考慮され、吐出圧Pp、及び、ホイール圧Pwに基づいて、インレット弁流量Qiが演算される。インレット弁VIが継続的に閉弁される場合には、インレット弁流量Qiは「0(ゼロ)」に決定される。また、インレット弁VIにて開弁・閉弁が繰り返される場合には、目標圧Pt、ホイール圧Pw、及び、演算マップZrtに基づいて、インレット弁流量Qiが演算される。或いは、インレット弁VIの開弁時間、及び、閉弁時間に基づいて、インレット弁流量Qiが決定されてもよい。最終的には、同一の制動系統BKに含まれるインレット弁流量Qiが合計されて、吐出流量Qpから該合計値ΣQiが差し引かれることで、制動系統BKの夫々で、調圧弁流量Quが求められる。
【0091】
また、インレット弁VIの作動状態は、目標圧Ptとホイール圧Pwとの大小関係に基づいて決定されるので、インレット弁流量Qiは、目標圧Pt、及び、ホイール圧Pwに基づいて決定されてもよい。詳細には、ホイール圧Pwが目標圧Pt以上である場合には、インレット弁流量Qiは「0(ゼロ)」に決定される。また、ホイール圧Pwが目標圧Pt未満である場合には、目標圧Pt、ホイール圧Pw、及び、演算マップZrtに基づいて、インレット弁流量Qiが演算される。同様に、同一の制動系統BKのインレット弁流量Qiの合計値ΣQiに基づいて、制動系統BKの夫々で、調圧弁流量Quが演算される。
【0092】
インレット弁流量Qihが「0」であれば、流体ポンプHPの吐出流量Qpの全ては還流路HK内を循環する。このため、調圧弁流量Quと吐出流量Qpとは等しい(即ち、「Qu=Qp」)。しかしながら、ホイール圧Pwが増加される場合には、液圧供給源CAからホイールシリンダCWへの制動液BFの移動が必要になる(即ち、「Qu<Qp」)。制動制御装置SCでは、調圧弁流量Quの演算において、液圧供給源CAからインレット弁VIを通してホイールシリンダCWに移動される制動液BFの流量Qi(インレット弁流量)が考慮される。これにより、調圧弁UAを流れる調圧弁流量Quが正確に求められるので、調圧弁UAの制御精度が、更に向上される。
【符号の説明】
【0093】
SC…制動制御装置、BP…制動操作部材、CM…マスタシリンダ、CW…ホイールシリンダ、HU…流体ユニット、ECU…制動コントローラ、MT…電気モータ(3相ブラシレスモータ)、HP…流体ポンプ、UA…調圧弁、Pm…マスタ圧(実際値)、Pw…ホイール圧(実際値)、Pp…吐出圧(実際値)、Pt…目標圧(Pwに対応する目標値)、Pk…系統圧(Ppに対応する目標値)、St…目標差圧(PpとPmとの差圧に対応する目標値)、Im…モータ電流(実際値)、Na…モータ回転速度(実際値)、Nt…目標回転速度(Naに対応する目標値)、Rt…目標液量(Ptを達成するためにCWに向けて移動すべきBFの体積)、Qt…目標流量(単位時間当りのRt)、Ia…供給電流(実際値)、It…目標電流(Iaに対する目標値)、Qu…調圧弁流量(UAを実際に通過する流量)、Qp…吐出流量(HPから実際に吐出される流量)、Qi…インレット弁流量(VIを実際に通過する流量)。