(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120417
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】トランジスタ保護装置、トランジスタ保護方法及び回路装置
(51)【国際特許分類】
H03F 1/52 20060101AFI20240829BHJP
H03F 3/21 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H03F1/52
H03F3/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027205
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000128094
【氏名又は名称】株式会社エヌエフホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】荒 弘一
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA15
5J500AC57
5J500AF01
5J500AH10
5J500AH19
5J500AH25
5J500AH29
5J500AK01
5J500AK05
5J500AK41
5J500AK51
5J500PF01
5J500PF06
5J500PG01
(57)【要約】
【課題】トランジスタに間歇的に損失電力が生じる場合において、定常的な損失電力が生じる場合よりも許容範囲が広いASOにおいてトランジスタを動作させること。
【解決手段】トランジスタ保護装置は、制限信号Stに応じてトランジスタMの損失電力が制限されるように入力信号Siを制限する入力信号制限部10と、素子電圧Vdsの電圧検出信号Svに基づいて、トランジスタMを直流時の第1ASO内で動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stを生成する制限信号生成部20と、入力信号SAiに基づいて、損失電力に応じた制限緩和信号Sr1を生成する制限緩和信号生成部30とを有し、制限信号生成部20は、制限緩和信号Sr1に応じて、第1ASOより許容範囲の広い第2ASO内でトランジスタを動作させつつ入力信号Siの制限を緩和するように制限信号Stを補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に応じて制御されるトランジスタを保護するトランジスタ保護装置であって、
前記トランジスタの安全動作領域には、
前記トランジスタが定常的に動作する場合の第1安全動作領域と、
前記トランジスタが間歇的に動作する場合の第2安全動作領域と
があり、
前記第2安全動作領域は、前記第1安全動作領域に比べて、前記トランジスタに流れる素子電流の許容範囲と前記トランジスタに生じる素子電圧の許容範囲との少なくとも一方が広くなっており、
制限信号に応じて前記入力信号を制限する入力信号制限部と、
前記素子電流を検出した電流検出信号、及び、前記素子電圧を検出した電圧検出信号の少なくとも一方に基づいて、前記トランジスタを前記第1安全動作領域内で動作させるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する制限信号生成部と、
前記トランジスタの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号に基づいて、前記トランジスタの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号を生成する制限緩和信号生成部とを有し、
前記制限信号生成部は、前記制限緩和信号に応じて、前記第2安全動作領域内で前記トランジスタを動作させつつ前記入力信号の制限を緩和するように前記制限信号を補正する、
トランジスタ保護装置。
【請求項2】
前記制限緩和信号生成部は、
前記所定の信号の低周波成分を所定の周波数特性により減衰させた交流信号を出力するハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタが出力する前記交流信号の振幅を検出し、検出した前記振幅に応じた前記制限緩和信号を出力する振幅検出部とを有する、
請求項1に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項3】
前記振幅検出部は、前記ハイパスフィルタが出力する前記交流信号のピークを検出するピーク検出部を含む、
請求項2に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項4】
前記振幅検出部は、前記ハイパスフィルタが出力する前記交流信号の絶対値を得る絶対値部を含み、
前記ピーク検出部は、前記絶対値部において得られた前記交流信号の絶対値のピークを検出する、
請求項3に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項5】
前記制限緩和信号生成部は、前記所定の信号に基づいて、前記トランジスタの間歇的な動作の周波数に対応した周波数を持つ所定の振幅のパルス信号を発生するパルス信号発生部を含み、
前記ハイパスフィルタは、前記パルス信号の低周波成分を所定の周波数特性により減衰させた前記交流信号を出力する、
請求項2に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項6】
前記制限信号生成部は、
前記トランジスタを前記第1安全動作領域内で動作させるように前記入力信号を制限する前記制限信号を、前記電圧検出信号及び前記電流検出信号の少なくとも一方に基づいて生成する信号生成部と、
前記信号生成部に入力される前記電圧検出信号及び/又は前記電流検出信号と、前記信号生成部において生成される前記制限信号との少なくとも一方を、前記制限緩和信号に応じて補正する補正部とを含む、
請求項1に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項7】
前記入力信号の変化量と、前記素子電流の変化量又は前記素子電圧の変化量とが比例関係にあり、
前記信号生成部は、
前記素子電流と前記比例関係にある前記入力信号を制限するための前記制限信号として、前記素子電圧に逆比例する前記制限信号を前記電圧検出信号に基づいて生成する第1逆比例演算部、及び、
前記素子電圧と前記比例関係にある前記入力信号を制限するための前記制限信号として、前記素子電流に逆比例する前記制限信号を前記電流検出信号に基づいて生成する第2逆比例演算部
のいずれか一方を含む、
請求項6に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項8】
前記信号生成部は、
前記素子電圧と当該素子電圧において前記第1安全動作領域内に含まれる上限の前記素子電流とを対応付ける所定の第1関数に従って、前記電圧検出信号が示す前記素子電圧と対応付けられた前記素子電流に制限されるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する第1関数演算部、及び、
前記素子電流と当該素子電流において前記第1安全動作領域内に含まれる上限の前記素子電圧とを対応付ける所定の第2関数に従って、前記電流検出信号が示す前記素子電流と対応付けられた前記素子電圧に制限されるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する第2関数演算部
のいずれか一方を含む、
請求項6に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項9】
前記補正部は、
前記動作状態に応じて前記素子電圧又は前記素子電流の見かけ上の検出値が小さくなるように、前記信号生成部に入力される前記電圧検出信号又は前記電流検出信号を前記制限緩和信号に応じて補正する演算を行う第1補正演算部と、
前記動作状態に応じて前記入力信号の制限を緩和する方向へ前記制限信号が変化するように、前記信号生成部において生成された前記制限信号を前記制限緩和信号に応じて補正する演算を行う第2補正演算部と
の少なくとも一方を含む、
請求項7又は請求項8に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項10】
前記信号生成部は、
前記電圧検出信号と前記電流検出信号とに基づいて、前記素子電圧と前記素子電流との積に応じた損失電力信号を生成する損失電力演算部と、
前記損失電力信号が示す前記トランジスタの損失電力と前記第1安全動作領域に含まれる前記トランジスタの上限の損失電力との誤差を増幅し、当該増幅した誤差に応じた前記制限信号を生成する誤差増幅部とを含む、
請求項6に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項11】
前記信号生成部は、
前記素子電圧と当該素子電圧において前記第1安全動作領域内に含まれる上限の前記素子電流とを対応付ける所定の第3関数に従って、前記電圧検出信号が示す前記素子電圧と対応付けられた前記素子電流を示す上限電流信号を生成する第3関数演算部、及び、前記素子電流と当該素子電流において前記第1安全動作領域内に含まれる上限の前記素子電圧とを対応付ける所定の第4関数に従って、前記電流検出信号が示す前記素子電流と対応付けられた前記素子電圧を示す上限電圧信号を生成する第4関数演算部のいずれか一方と、
前記上限電流信号が示す前記素子電流と前記電流検出信号が示す前記素子電流との誤差を増幅し、当該増幅した誤差に応じた前記制限信号を生成するか、又は、前記上限電圧信号が示す前記素子電圧と前記電圧検出信号が示す前記素子電圧との誤差を増幅し、当該増幅した誤差に応じた前記制限信号を生成する誤差増幅部とを含む、
請求項6に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項12】
前記補正部は、
前記動作状態に応じて前記素子電圧の見かけ上の検出値が小さくなるように、前記信号生成部に入力される前記電圧検出信号を前記制限緩和信号に応じて補正する演算を行う第3補正演算部と、
前記動作状態に応じて前記素子電流の見かけ上の検出値が小さくなるように、前記信号生成部に入力される前記電流検出信号を前記制限緩和信号に応じて補正する演算を行う第4補正演算部と
の少なくとも一方を含む、
請求項10又は請求項11に記載のトランジスタ保護装置。
【請求項13】
入力信号に応じて制御されるトランジスタを保護する方法であって、
前記トランジスタの安全動作領域には、
前記トランジスタが定常的に動作する場合の第1安全動作領域と、
前記トランジスタが間歇的に動作する場合の第2安全動作領域と
があり、
前記第2安全動作領域は、前記第1安全動作領域に比べて、前記トランジスタに流れる素子電流の許容範囲と前記トランジスタに生じる素子電圧の許容範囲との少なくとも一方が広くなっており、
制限信号に応じて前記入力信号を制限する入力信号制限工程と、
前記素子電流を検出した電流検出信号、及び、前記素子電圧を検出した電圧検出信号の少なくとも一方に基づいて、前記トランジスタを前記第1安全動作領域内で動作させるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する制限信号生成工程と、
前記トランジスタの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号に基づいて、前記トランジスタの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号を生成する制限緩和信号生成工程とを有し、
前記制限信号生成工程は、前記制限緩和信号に応じて、前記第2安全動作領域内で前記トランジスタを動作させつつ前記入力信号の制限を緩和するように前記制限信号を補正することを含む、
トランジスタ保護方法。
【請求項14】
入力信号に応じて制御されるトランジスタを含んだトランジスタ回路と、
前記トランジスタを保護するトランジスタ保護装置とを備え、
前記トランジスタの安全動作領域には、
前記トランジスタが定常的に動作する場合の第1安全動作領域と、
前記トランジスタが間歇的に動作する場合の第2安全動作領域と
があり、
前記第2安全動作領域は、前記第1安全動作領域に比べて、前記トランジスタに流れる素子電流の許容範囲と前記トランジスタに生じる素子電圧の許容範囲との少なくとも一方が広くなっており、
前記トランジスタ保護装置は、
制限信号に応じて前記入力信号を制限する入力信号制限部と、
前記素子電流を検出した電流検出信号、及び、前記素子電圧を検出した電圧検出信号の少なくとも一方に基づいて、前記トランジスタを前記第1安全動作領域内で動作させるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する制限信号生成部と、
前記トランジスタの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号に基づいて、前記トランジスタの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号を生成する制限緩和信号生成部とを有し、
前記制限信号生成部は、前記制限緩和信号に応じて、前記第2安全動作領域内で前記トランジスタを動作させつつ前記入力信号の制限を緩和するように前記制限信号を補正する、
回路装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全動作領域を超えて動作しないようにトランジスタを保護するトランジスタ保護装置、トランジスタ保護方法及び回路装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、増幅素子の電力損失が安全動作領域(以下、「ASO」と略記する場合がある。)を超過しないようにする方法が記載されている。この特許文献1の方法では、アナログ信号の割算器や掛算器を用いて取得された増幅素子の電力損失がASOと比較されて、電力損失がASOを超えないように増幅素子が保護される。しかしアナログ信号の割算器や掛算器はいずれも比較的特殊な回路のため高価であることや、高精度を得ることが困難であるという問題を有していた。また特許文献1のASO保護は、電力損失による制限(熱制限領域)を満たすように増幅素子を保護するものであるが、二次降伏領域の制限(S/B領域)、ドレイン電流の定格による制限(電流制限領域)、ドレイン・ソース間電圧の定格による制限(電圧制限領域)については保護することができなかった。
【0003】
特許文献2には、増幅素子の最大許容電力損失曲線に近似させた折れ線によって、増幅素子のASOを超過しないようにした保護方法等が示されている。しかしこの折れ線は、屈曲点2点による3本の折れ線にすぎず、増幅素子のASOを十分に利用できるようにはなっていなかった。
【0004】
非特許文献1には、パワーMOSFETについて、ASO(非特許文献1ではSOAと表記されている)の基本的な情報や、実際の放熱条件などに基づくASOのディレーティング方法について説明されている。本明細書では、非特許文献1に記載される基本的な情報についての説明を原則として省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-79505号公報
【特許文献2】特開平9-266412号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】パワーMOSFETの安全動作領域のディレーティング方法(ApplicationNote、東芝デバイス&ストレージ株式会社)https://toshiba.semicon-storage.com/info/application_note_ja_20180726_AKX00028.pdf?did=59472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電力増幅器の出力段等に使用されてきたトランジスタについて、製造中止により入手が困難になる状況が起り易くなってきている。そのため、許容損失や電流定格が従来よりも小さいトランジスタを用いることが求められている。このような問題の一つの解決方法として、ASOの使用可能領域を広く活用することが考えられる。
【0008】
トランジスタのASOは、直流電流により定常的に動作させる場合(以下、「直流動作」と称する場合がある)に比べて、パルス状の電流により間歇的に動作させる場合(以下、「間歇動作」と称する場合がある)の方が、電流と電圧の許容範囲が広くなる。そのため、パルス信号や短時間の信号を増幅して出力するときは、直流信号を増幅して出力するときよりも広いASOを利用することができる。しかしながら、上述した特許文献1や特許文献2に記載される方法は、直流動作時のASOに基づいた保護であるため、パルス信号や短時間の信号に対して許容される、より許容範囲の広いASOを活用するこができないという問題がある。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トランジスタが間歇的に動作する場合において、定常的に動作する場合よりも電流と電圧の許容範囲が広い安全動作領域においてトランジスタを動作させることができるトランジスタ保護装置、トランジスタ保護方法及び回路装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係るトランジスタ保護装置は、入力信号に応じて制御されるトランジスタを保護するトランジスタ保護装置であって、前記トランジスタの安全動作領域には、前記トランジスタが定常的に動作する場合の第1安全動作領域と、前記トランジスタが間歇的に動作する場合の第2安全動作領域とがあり、前記第2安全動作領域は、前記第1安全動作領域に比べて、前記トランジスタに流れる素子電流の許容範囲と前記トランジスタに生じる素子電圧の許容範囲との少なくとも一方が広くなっており、制限信号に応じて前記入力信号を制限する入力信号制限部と、前記素子電流を検出した電流検出信号、及び、前記素子電圧を検出した電圧検出信号の少なくとも一方に基づいて、前記トランジスタを前記第1安全動作領域内で動作させるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する制限信号生成部と、前記トランジスタの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号に基づいて、前記トランジスタの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号を生成する制限緩和信号生成部とを有し、前記制限信号生成部は、前記制限緩和信号に応じて、前記第2安全動作領域内で前記トランジスタを動作させつつ前記入力信号の制限を緩和するように前記制限信号を補正する、トランジスタ保護装置である。
【0011】
好適に、前記制限緩和信号生成部は、前記所定の信号の低周波成分を所定の周波数特性により減衰させた交流信号を出力するハイパスフィルタと、前記ハイパスフィルタが出力する前記交流信号の振幅を検出し、検出した前記振幅に応じた前記制限緩和信号を出力する振幅検出部とを有する。
【0012】
好適に、前記振幅検出部は、前記ハイパスフィルタが出力する前記交流信号のピークを検出するピーク検出部を含む。
【0013】
好適に、前記振幅検出部は、前記ハイパスフィルタが出力する前記交流信号の絶対値を得る絶対値部を含み、前記ピーク検出部は、前記絶対値部において得られた前記交流信号の絶対値のピークを検出する。
【0014】
好適に、前記制限緩和信号生成部は、前記所定の信号に基づいて、前記トランジスタの間歇的な動作の周波数に対応した周波数を持つ所定の振幅のパルス信号を発生するパルス信号発生部を含み、前記ハイパスフィルタは、前記パルス信号の低周波成分を所定の周波数特性により減衰させた前記交流信号を出力する。
【0015】
好適に、前記制限信号生成部は、前記トランジスタを前記第1安全動作領域内で動作させるように前記入力信号を制限する前記制限信号を、前記電圧検出信号及び前記電流検出信号の少なくとも一方に基づいて生成する信号生成部と、前記信号生成部に入力される前記電圧検出信号及び/又は前記電流検出信号と、前記信号生成部において生成される前記制限信号との少なくとも一方を、前記制限緩和信号に応じて補正する補正部とを含む。
【0016】
好適に、前記入力信号の変化量と、前記素子電流の変化量又は前記素子電圧の変化量とが比例関係にあり、前記信号生成部は、前記素子電流と前記比例関係にある前記入力信号を制限するための前記制限信号として、前記素子電圧に逆比例する前記制限信号を前記電圧検出信号に基づいて生成する第1逆比例演算部、及び、前記素子電圧と前記比例関係にある前記入力信号を制限するための前記制限信号として、前記素子電流に逆比例する前記制限信号を前記電流検出信号に基づいて生成する第2逆比例演算部のいずれか一方を含む。
【0017】
好適に、前記信号生成部は、前記素子電圧と当該素子電圧において前記第1安全動作領域内に含まれる上限の前記素子電流とを対応付ける所定の第1関数に従って、前記電圧検出信号が示す前記素子電圧と対応付けられた前記素子電流に制限されるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する第1関数演算部、及び、前記素子電流と当該素子電流において前記第1安全動作領域内に含まれる上限の前記素子電圧とを対応付ける所定の第2関数に従って、前記電流検出信号が示す前記素子電流と対応付けられた前記素子電圧に制限されるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する第2関数演算部のいずれか一方を含む。
【0018】
好適に、前記補正部は、前記動作状態に応じて前記素子電圧又は前記素子電流の見かけ上の検出値が小さくなるように、前記信号生成部に入力される前記電圧検出信号又は前記電流検出信号を前記制限緩和信号に応じて補正する演算を行う第1補正演算部と、前記動作状態に応じて前記入力信号の制限を緩和する方向へ前記制限信号が変化するように、前記信号生成部において生成された前記制限信号を前記制限緩和信号に応じて補正する演算を行う第2補正演算部との少なくとも一方を含む。
【0019】
好適に、前記信号生成部は、前記電圧検出信号と前記電流検出信号とに基づいて、前記素子電圧と前記素子電流との積に応じた損失電力信号を生成する損失電力演算部と、前記損失電力信号が示す前記トランジスタの損失電力と前記第1安全動作領域に含まれる前記トランジスタの上限の損失電力との誤差を増幅し、当該増幅した誤差に応じた前記制限信号を生成する誤差増幅部とを含む。
【0020】
好適に、前記信号生成部は、前記素子電圧と当該素子電圧において前記第1安全動作領域内に含まれる上限の前記素子電流とを対応付ける所定の第3関数に従って、前記電圧検出信号が示す前記素子電圧と対応付けられた前記素子電流を示す上限電流信号を生成する第3関数演算部、及び、前記素子電流と当該素子電流において前記第1安全動作領域内に含まれる上限の前記素子電圧とを対応付ける所定の第4関数に従って、前記電流検出信号が示す前記素子電流と対応付けられた前記素子電圧を示す上限電圧信号を生成する第4関数演算部のいずれか一方と、前記上限電流信号が示す前記素子電流と前記電流検出信号が示す前記素子電流との誤差を増幅し、当該増幅した誤差に応じた前記制限信号を生成するか、又は、前記上限電圧信号が示す前記素子電圧と前記電圧検出信号が示す前記素子電圧との誤差を増幅し、当該増幅した誤差に応じた前記制限信号を生成する誤差増幅部とを含む。
【0021】
好適に、前記補正部は、前記動作状態に応じて前記素子電圧の見かけ上の検出値が小さくなるように、前記信号生成部に入力される前記電圧検出信号を前記制限緩和信号に応じて補正する演算を行う第3補正演算部と、前記動作状態に応じて前記素子電流の見かけ上の検出値が小さくなるように、前記信号生成部に入力される前記電流検出信号を前記制限緩和信号に応じて補正する演算を行う第4補正演算部との少なくとも一方を含む。
【0022】
本発明の第2の態様に係るトランジスタ保護方法は、入力信号に応じて制御されるトランジスタを保護する方法であって、前記トランジスタの安全動作領域には、前記トランジスタが定常的に動作する場合の第1安全動作領域と、前記トランジスタが間歇的に動作する場合の第2安全動作領域とがあり、前記第2安全動作領域は、前記第1安全動作領域に比べて、前記トランジスタに流れる素子電流の許容範囲と前記トランジスタに生じる素子電圧の許容範囲との少なくとも一方が広くなっており、制限信号に応じて前記入力信号を制限する入力信号制限工程と、前記素子電流を検出した電流検出信号、及び、前記素子電圧を検出した電圧検出信号の少なくとも一方に基づいて、前記トランジスタを前記第1安全動作領域内で動作させるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する制限信号生成工程と、前記トランジスタの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号に基づいて、前記トランジスタの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号を生成する制限緩和信号生成工程とを有し、前記制限信号生成工程は、前記制限緩和信号に応じて、前記第2安全動作領域内で前記トランジスタを動作させつつ前記入力信号の制限を緩和するように前記制限信号を補正することを含む、トランジスタ保護方法である。
【0023】
本発明の第3の態様に係る回路装置は、入力信号に応じて制御されるトランジスタを含んだトランジスタ回路と、前記トランジスタを保護するトランジスタ保護装置とを備え、前記トランジスタの安全動作領域には、前記トランジスタが定常的に動作する場合の第1安全動作領域と、前記トランジスタが間歇的に動作する場合の第2安全動作領域とがあり、前記第2安全動作領域は、前記第1安全動作領域に比べて、前記トランジスタに流れる素子電流の許容範囲と前記トランジスタに生じる素子電圧の許容範囲との少なくとも一方が広くなっており、前記トランジスタ保護装置は、制限信号に応じて前記入力信号を制限する入力信号制限部と、前記素子電流を検出した電流検出信号、及び、前記素子電圧を検出した電圧検出信号の少なくとも一方に基づいて、前記トランジスタを前記第1安全動作領域内で動作させるように前記入力信号を制限する前記制限信号を生成する制限信号生成部と、前記トランジスタの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号に基づいて、前記トランジスタの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号を生成する制限緩和信号生成部とを有し、前記制限信号生成部は、前記制限緩和信号に応じて、前記第2安全動作領域内で前記トランジスタを動作させつつ前記入力信号の制限を緩和するように前記制限信号を補正する、回路装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、トランジスタが間歇的に動作する場合において、定常的に動作する場合よりも電流と電圧の許容範囲が広い安全動作領域においてトランジスタを動作させることができるトランジスタ保護装置、トランジスタ保護方法及び回路装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る回路装置の一例を示す図である。
【
図9】
図9A及び
図9Bは、直流動作時のASOと間歇動作時のASOの例を示す図である。
【
図10】
図10A及び
図10Bは、直流動作時のASOと比べて同じ電圧での電流の許容範囲を拡張する例を示す図である。
【
図11】
図11A及び
図11Bは、直流動作時のASOと比べて同じ電流での電圧の許容範囲を拡張する例を示す図である。
図11Cは、直流動作時のASOと比べて、同じ電圧での電流の許容範囲を拡張するとともに、同じ電流での電圧の許容範囲を拡張する例を示す図である。
【
図14】
図14は、制限緩和信号生成部の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、ハイ側とロー側においてハイパスフィルタを共有した制限緩和信号生成部の例を示す図である。
【
図20】
図20Aは、ハイ側とロー側においてハイパスフィルタと絶対値部を共有した制限緩和信号生成部の例を示す図である。
図20Bは、ハイ側とロー側においてハイパスフィルタと絶対値部とピーク検出部を共有した制限緩和信号生成部の例を示す図である。
【
図23】
図23は、第2実施形態に係る回路装置の一例を示す図である。
【
図27】
図27は、第3実施形態に係る回路装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<トランジスタの動作状態と安全動作領域(ASO)>
トランジスタのASOは、ドレイン・ソース間に生じる電圧とドレイン電流の関係として表され、一般的には下記の(a)から(d)のように定められている。(ここで、トランジスタとしてはFETを例示している。)
(a)第1のドレイン・ソース間電圧以下においては、ドレイン電流の定格による制限を受ける(電流制限領域)。
(b)第1のドレイン・ソース電圧以上においては、トランジスタの電力損失(=ドレイン・ソース間電圧×ドレイン電流)による制限を受ける(熱制限領域)。
(c)さらに第2のドレイン・ソース電圧以上においては、トランジスタの二次降伏領域の制限を受ける場合もある(S/B領域)。
(d)ドレイン・ソース間電圧が定格電圧まで大きくなると、定格電圧による制限を受ける(電圧制限領域)。
【0027】
そしてASOは通常、トランジスタのケース温度が所定の温度(25℃の場合が多い)の場合の定格として定められている。
【0028】
まずトランジスタが定常的に動作する場合(トランジスタにおいて定常的に電流が流れる直流動作の場合)、実際にトランジスタが動作する周囲温度や放熱能力によってディレーティングされて、当該トランジスタの直流動作時の実際のASOが決まる。これを第1ASOと称する。
【0029】
一方、トランジスタが間歇的に動作する場合(トランジスタにおいて間歇的に電流が流れる間歇動作の場合)は、通常、所定のパルス幅(一例として1ms)の単発パルスの場合の定格として定められている。実際にトランジスタが単発パルス以外の波形(一例として交流波形)で動作する場合は、パルス幅(一例として、上下対象の交流信号の半波の周期)とパルス周期(一例として交流信号の周波数の逆数)や、パルス幅をパルス周期で除した値であるデューティ比率によってディレーティングされる。さらに周囲温度や放熱能力によってディレーティングされることによって、当該トランジスタの間歇動作時の実際のASOが決まる。これを第2ASOと称する。第2ASOでは、ドレイン・ソース間電圧とドレイン電流の少なくとも一方が、第1ASOよりも大きくなっている。
【0030】
以上例示した、パルス幅、パルス周期、デューティ比率、周囲温度、放熱能力のような、ASOの広狭に影響を与えるトランジスタの間歇的な動作に関するパラメータやその状態を総称して、「動作状態」と称する場合がある。
【0031】
<第1実施形態>
以下、第1実施形態に係るトランジスタ保護装置を備えた回路装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る回路装置の一例を示す図である。本実施形態に係る回路装置は、入力信号Siに応じて制御される1以上のトランジスタを含んだ増幅器1と、増幅器1における出力段のトランジスタM及びM’をASO内で動作するように保護するトランジスタ保護装置2及び2’を有する。増幅器1は、本発明のトランジスタ回路の一例である。この回路装置では、間歇的に電力消費されるパルス信号や短時間の信号を増幅する場合に、直流時よりも電流と電圧の許容範囲が広いASOにおいてトランジスタM及びM’を動作させることができる。
【0032】
本明細書では、増幅器1の正側電源と出力の間のトランジスタやそれに関連する回路等を「ハイ側」と称し、増幅器1の負側電源と出力の間の増幅素子やそれに関連する回路等を「ロー側」と称する。以降に示す増幅器1の図において、ロー側に属する回路の符号やそれらの回路において入出力される信号の符号の末尾には「’」を付している。
【0033】
ロー側に属するトランジスタ保護装置2’は、ハイ側に属するトランジスタ保護装置2と基本的に対称な構成を有する。すなわち、ロー側のトランジスタM’を保護するトランジスタ保護装置2’は、ハイ側のトランジスタMを保護するトランジスタ保護装置2に対して、保護対象のトランジスタに流れる電流の向きが逆になるように、回路で扱われる一部の信号の極性を反転させたものである。そのため、本明細書ではハイ側を中心に説明し、ロー側の説明は、原則として省略する。なお実際の回路においては、ハイ側とロー側とで、信号のレベルや波形などが異なる場合があり、また各種の誤差による差異を生じる場合がある。
【0034】
以降の説明では、原則として電圧信号を例示しているが、必要に応じて電流信号を用いることもできる。また、原則として0Vを基準電位とすることを想定して例示しているが、必要に応じて他の電圧を基準電位とすることもできる。
【0035】
増幅器1は、入力信号Siを増幅した出力信号を生成して負荷RLに供給するアンプである。本実施形態において、増幅器1は、入力信号Siの変化量と出力電流Ioの変化量が比例関係にある定電流型の増幅器であり、負荷RLに出力電流Ioが流れることによって入力信号Siが出力電圧Voに変換される。定電流出力型の増幅器1は高い出力インピーダンスを有するが、増幅器1に対して適当な負帰還をかけることにより、全体として定電圧出力型の増幅器や定電力出力型の増幅器として動作させることも可能である。
【0036】
増幅器1の最終出力段のハイ側とロー側には、それぞれトランジスタM及びM’が設けられている。
図1の例において、ハイ側のトランジスタMはn型MOS-FETであり、ロー側のトランジスタM’もn型MOS-FETである。なおここでは、ハイ側・ロー側共にn型MOS-FETの例を示しているが、一方をp型としてコンプリメンタリー・プッシュプルとしてもよい。トランジスタM及びM’はプッシュプル増幅器を構成しており、一例として、入力信号Siが正の場合にはハイ側のトランジスタMが動作し、入力信号Siが負の場合にはロー側のトランジスタM’が動作する。実際には、入力信号Siが基準電位付近にあるとき、トランジスタM及びトランジスタM’にアイドル電流を流す場合もあるが、ここでは理解を容易にするために、アイドル電流がほとんど流れないものとする。この場合、出力電流Ioは、ハイ側のトランジスタMのドレイン電流Id又はとロー側のトランジスタM’のドレイン電流Id’のいずれかと同じになる(以下、「ドレイン電流」を「素子電流」と記す場合がある)。アイドル電流を流す場合、出力電流Ioは、ハイ側とロー側いずれかの動作しているトランジスタの素子電流から、アイドル電流を差し引いた値と同じである。増幅器1は、例えば、出力電流Ioが入力信号Siに比例する、式(1)のような入出力特性を備えている。
【0037】
Si = Io/G …(1)
【0038】
ここで式(1)の「G」は、増幅器1のコンダクタンスである。
増幅器1において、トランジスタM及びM’のドレイン・ソース間には、それぞれ電圧検出増幅器U1及びU1’が接続されており、各トランジスタのドレイン・ソース間電圧Vds及びVds’が検出される(以下、「ドレイン・ソース間電圧」を「素子電圧」と記す場合がある)。この電圧検出増幅器U1及びU1’の増幅利得をk1とすると、素子電圧Vdsを検出した電圧検出信号Sv及びSv’として「k1・Vds」が得られる。この電圧検出増幅器U1の出力はトランジスタ保護装置2の後述する制限信号生成部20に与えられている。
【0039】
なおここでは、電圧検出増幅器U1及びU1’によって、各トランジスタのドレイン・ソース間電圧Vds及びVds’を直接検出しているが、出力電圧Voを検出してドレイン・ソース間電圧Vds及びVds’を算出することによって検出することも可能である。例えばトランジスタMがソース抵抗やドレイン抵抗を備えない場合を考えると、ドレイン・ソース間電圧Vdsは、トランジスタMに接続されている正の電源電圧+Vと出力電圧Voの差として算出できる。
【0040】
ハイ側のトランジスタ保護装置2は、
図1の例において、入力信号制限部10と、制限信号生成部20と、制限緩和信号生成部30を有する。またロー側のトランジスタ保護装置2’は、入力信号制限部10と、制限信号生成部20’と、制限緩和信号生成部30’を有する。
図1の例では、ハイ側のトランジスタ保護装置2とロー側の2’とにおいて入力信号制限部10が共有されている。
【0041】
[入力信号制限部10]
入力信号制限部10は、制限信号生成部20において生成されるハイ側の制限信号Stに応じて入力信号Siを制限し、トランジスタMに生じる電圧やトランジスタMに流れる電流を制限する。また入力信号制限部10は、制限信号生成部20’において生成されるロー側の制限信号St’に応じて入力信号Siを制限し、トランジスタM’に生じる電圧やトランジスタM’に流れる電流を制限する。入力信号制限部10において入力信号Siを制限して得られる入力信号Siが、増幅すべき信号として増幅器1に供給される。
【0042】
例えば入力信号制限部10は、制限信号Stに対応する信号レベルと、信号源3が生成した入力信号SAiとを比較し、入力信号SAiの正の振幅が制限信号Stに対応する信号レベルに達していない場合は、入力信号SAiをそのまま入力信号Siとして増幅器1に供給し、入力信号SAiの正の振幅が制限信号Stに対応する信号レベルを超えた場合は、制限信号Stに対応する信号レベルを入力信号Siとして増幅器1に供給する。また入力信号制限部10は、入力信号SAiの負の振幅が制限信号St’に対応する信号レベルに達していない場合は、入力信号SAiをそのまま入力信号Siとして増幅器1に供給し、入力信号SAiの負の振幅が制限信号St’に対応する信号レベルを超えた場合は、制限信号St’に対応する信号レベルを入力信号Siとして増幅器1に供給する。入力信号Siの振幅がハイ側の制限信号St及びロー側の制限信号St’の範囲内に制限されることにより、振幅が制限されていない入力信号SAiをそのまま増幅器1に供給する場合に比べて、トランジスタM及びM’の電圧や電流が抑えられる。
【0043】
図2Aは、入力信号制限部10の一例を示す図である。
図2Aに示す入力信号制限部10は、バッファアンプ111~114と、ダイオードD5及びD6と、抵抗R2とを有する。入力信号SAiがバッファアンプ111に入力され、バッファアンプ111の出力が抵抗R2を介してバッファアンプ114に入力され、バッファアンプ114から入力信号Siが出力される。抵抗R2とバッファアンプ114の入力とを接続するノードN3が、ダイオードD5のアノードに接続され、ダイオードD5のカソードにはバッファアンプ112を介して制限信号Stと同じ電圧が印加される。ダイオードD5のカソードがノードN3に接続され、ダイオードD6のアノードにはバッファアンプ113を介して制限信号St’と同じ電圧が印加される。
【0044】
入力信号SAiの正の電圧が制限信号Stより若干大きくなると、ダイオードD5が導通し、ノードN3の電圧がほぼ一定に保持される。入力信号SAiの負の電圧が制限信号Stより負方向へ若干大きくなると、ダイオードD6が導通し、ノードN3の電圧がほぼ一定に保持される。
【0045】
図2Aに示す入力信号制限部10では、入力信号Siの振幅が制限される場合、ダイオードD5,D6において順方向電圧降下が発生する。順方向電圧降下は、シリコンダイオードにおいて一般的に0.6V以上、ショットキーダイオードにおいて0.2V以上であり、ダイオードに流れる順方向電流や、半導体の温度によって変化する。そのため、
図2Bに示す入力信号制限部10は、例えば、順方向電圧降下による誤差を許容できる場合に使用してもよい。入力信号SAi、制限信号StやSt’のインピーダンスが十分に低いときは、対応するバッファアンプ111~113を省略してもよい。また入力信号Siを入力する増幅器1の入力インピーダンスが十分に大きい場合は、バッファアンプ114を省略してもよい。
【0046】
図2Bは、入力信号制限部10の他の一例を示す図である。
図2Bに示す入力信号制限部10は、オペアンプ121及び122と、バッファアンプ123と、抵抗R3~R7と、ダイオードD7及びD8とを有する。入力信号SAiが抵抗R3を介してバッファアンプ123の入力のノードN4に供給され、バッファアンプ123から入力信号Siが出力される。オペアンプ121の非反転入力端子には抵抗R6を介して制限信号Stが入力され、オペアンプ121の反転入力端子は抵抗R4を介してダイオードD7のアノードに接続され、オペアンプ121の出力端子はダイオードD7のカソードに接続される。オペアンプ122の非反転入力端子には抵抗R7を介して制限信号St’が入力され、オペアンプ122の反転入力端子は抵抗R5を介してダイオードD8のカソードに接続され、オペアンプ122の出力端子はダイオードD8のアノードに接続される。ダイオードD7のアノードとダイオードD8のカソードが、ノードN4に接続される。入力信号Siを入力する増幅器1の入力インピーダンスが十分に大きい場合は、バッファアンプ123を省略してもよい。
【0047】
図2Bに示す入力信号制限部10では、入力信号SAiの電圧が制限信号Stの電圧と制限信号St’の電圧との範囲内にあるとき、オペアンプ121の出力電圧が正方向に飽和してダイオードD7がオフするとともに、オペアンプ122の出力電圧が負方向に飽和してダイオードD8がオフする。この場合、入力信号SAiの電圧がそのまま入力信号Siとしてバッファアンプ123から出力される。入力信号SAiの正の電圧が制限信号Stの電圧に達すると、ダイオードD7が導通し、オペアンプの負帰還が働くことにより、ノードN4の電圧が制限信号Stの電圧と略等しくなる。そのため、入力信号SAiが制限信号Stの正電圧を超えた場合、入力信号Siの電圧は制限信号Stの電圧と略等しくなる。同様に、入力信号SAiが制限信号St’の負電圧を超えた場合、入力信号Siの電圧は制限信号St’の電圧と略等しくなる。
【0048】
図3Aは、入力信号制限部10の他の一例を示す図である。
図3Aに示す入力信号制限部10は、アナログ減算回路131及び132と、定電流源135及び136と、バッファアンプ133及び134と、接合型FETであるトランジスタQ1及びQ2と、ダイオードD9~D12とを有する。バッファアンプ133に入力信号SAiが入力され、バッファアンプ133の出力とバッファアンプ134の入力(ノードN5)との間にトランジスタQ1及びQ2の直列接続回路が挿入される。この直列接続回路において、トランジスタQ1のソースとトランジスタQ2のソースとを接続する経路には抵抗R8が挿入され、抵抗R8に生じる電圧がトランジスタQ1及びQ2のゲート・ソース間にそれぞれ印加される。定電流源135の電流によってダイオードD11に順方向電圧Vfが発生し、この順方向電圧Vfを制限信号Stの電圧から減算した電圧(St-Vf)がアナログ減算回路131により生成され、ダイオードD9のカソードに印加される。定電流源136の電流によってダイオードD12に順方向電圧Vf’(負電圧)が発生し、この順方向電圧Vf’を制限信号St’の電圧から減算した電圧(St’-Vf’)がアナログ減算回路132により生成され、ダイオードD10のアノードに印加される。ダイオードD9のアノードとダイオードD10のカソードが、それぞれノードN5に接続される。ダイオードD9~D12は特性の揃ったダイオードであり、近似した順方向電圧Vfを生じる。入力信号SAiのインピーダンスが十分に低いときは、対応するバッファアンプ133を省略してもよい。また入力信号Siを入力する増幅器1の入力インピーダンスが十分に大きい場合は、バッファアンプ134を省略してもよい。
【0049】
図3Aに示す入力信号制限部10では、トランジスタQ1及びQ2の直列接続回路によって双方向の定電流源が構成される。ダイオードD9及びダイオードD10がオフのとき、トランジスタQ1及びQ2の直列接続回路にほとんど電流が流れず、ノードN5の電流は入力信号SAiとほぼ等しくなる。そのため、入力信号SAiの電圧が制限信号Stの正電圧と制限信号St’の負電圧との間の範囲に含まれる場合、ダイオードD9及びダイオードD10がオフし、入力信号Siの電圧(ノードN5の電圧)は入力信号SAiと略等しくなる。入力信号SAiの電圧が制限信号Stの正電圧を僅かに超えると、ダイオードD9が導通し、トランジスタQ1及びQ2の直列接続回路に流れる一定の電流がダイオードD9に流れ、ダイオードD9の順方向電圧(≒Vf)が一定に保たれることにより、ノードN5の電圧が制限信号Stの正電圧に保たれる。そのため、入力信号SAiが制限信号Stの正電圧を超えた場合、入力信号Siの電圧は制限信号Stの電圧と略等しくなる。同様に、入力信号SAiが制限信号St’の負電圧を超えた場合、入力信号Siの電圧は制限信号St’の負電圧と略等しくなる。
【0050】
図3Bは、入力信号制限部10の他の一例を示す図である。
図3Bに示す入力信号制限部10は、電圧-電流変換器101及び102と、ダイオードD1~D4と、抵抗R1と、バッファアンプ103とを有する。ダイオードD1及びD2のアノードが接続され、電圧-電流変換器101からこのアノードへ正の電流Ipが流れ込む。電圧-電流変換器101は、制限信号Stに比例した電流Ipを発生する。ダイオードD3及びD4のカソードが接続され、このカソードから電圧-電流変換器102へ正の電流Ip’が引き込まれる。電圧-電流変換器102は、制限信号St’に比例した電流Ip’を発生する。ダイオードD1のカソードとダイオードD3のアノードとが接続され、この接続ノードN1に入力信号Siが入力される。ダイオードD2のカソードとダイオードD4のアノードとが接続され、この接続ノードN2と基準電位との間に抵抗R1が接続される。バッファアンプ103は、抵抗R1に生じる電圧を入力信号Siとして出力する。
【0051】
入力信号SAiの電圧が基準電位に近い正の電圧の場合、電流IpがダイオードD1とダイオードD2に振り分けられる一方、電流Ip’がダイオードD3に集中し、ダイオードD4がオフする。そのため、ノードN1の電圧とノードN2の電圧がほぼ等しくなり、入力信号SAiがそのまま入力信号Siとしてバッファアンプ103から出力される。抵抗R1の抵抗値を「R1」とすると、ノードN2の電圧が「Ip×R1」に達した場合、電流IpがダイオードD2に集中し、ダイオードD1がオフする。入力信号SAiの電圧が「Ip×R1」を超えても、入力信号Siの電圧は「Ip×R1」に制限される。同様に、入力信号SAiの電圧が基準電位に近い負の電圧の場合、入力信号SAiがそのまま入力信号Siとしてバッファアンプ103から出力され、入力信号SAiの負の電圧が「Ip’×R1」を超えた場合、入力信号Siの負の電圧は「Ip’×R1」に制限される。
【0052】
なお、制限信号St及びSt’が電流信号の場合、電圧-電流変換器101及び102を省略してもよい。この場合、制限信号Stの電流をそのままダイオードD1及びD2のアノードに流し込み、制限信号St’の電流をそのままダイオードD3及びD4のカソードから引き込んでもよい。また、入力信号Siを入力する増幅器1の入力インピーダンスが「R1」よりも十分に大きい場合は、バッファアンプ103を省略してもよい。
【0053】
[制限信号生成部20]
制限信号生成部20は、素子電圧Vdsを検出した電圧検出信号Svに基づいて、制限緩和信号Sr1が与えられないときに、トランジスタMを直流動作時の第1ASO内で動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stを生成する。
【0054】
第1ASOは、トランジスタ(M、M’)のケース温度などに応じて複数存在する場合があるが、以下の説明では単一の第1ASOを例示する。第2ASOは、第1ASOに比べて、トランジスタ(M、M’)に流れる素子電流Idの許容範囲とトランジスタ(M、M’)に生じる素子電圧Vdsの許容範囲との少なくとも一方が広くなっている。第2ASOは、トランジスタ(M、M’)のケース温度や間歇動作時のパルス幅、パルス周期やデューティ比率などに応じて複数存在する場合があるが、以下の説明では単一の第2ASOを例示する。
【0055】
本実施形態において、制限信号生成部20は、制限緩和信号生成部30により生成される制限緩和信号Sr1に応じて、制限信号Stによる入力信号Siの制限(トランジスタMを第1ASO内で動作させる制限)を緩和させるように制限信号Stを補正する。後述するように、制限緩和信号Sr1は、トランジスタMの動作状態に応じた信号であり、より具体的には、トランジスタMに流れる電流の大きさ、トランジスタMに生じる損失電力の大きさ、トランジスタMに印加される電圧やトランジスタMが動作する周波数などに応じた信号である。制限信号生成部20は、この制限緩和信号Sr1に応じて、第2ASO内でトランジスタMを動作させつつ入力信号Siの制限を緩和するように制限信号Stを補正する。例えば制限信号生成部20は、所定の周波数よりも低い領域(後述するハイパスフィルタ32のカットオフ周波数fc以下の周波数領域など)において、トランジスタMの間歇動作の周波数が低いほど入力信号Siを制限するように制限信号Stを補正し、直流動作では第1ASO内で動作するようにする。一方、所定の周波数よりも高い領域(後述するハイパスフィルタ32のカットオフ周波数fc以上の周波数領域など)においては、入力信号Siの制限を緩和するように制限信号Stを補正する。これにより、トランジスタMが間歇的に動作する場合(すなわち間歇動作の場合)には、第1ASOより許容範囲の広い第2ASO内でトランジスタMが動作するように入力信号Siの制限が緩和されるため、直流動作時の第1ASOに比べて素子電流Id及び素子電圧Vdsの許容範囲が拡張される。
【0056】
図4A~
図4Cは、本実施形態における制限信号生成部20の一例を示す図である。これらの図に示すように、制限信号生成部20は、信号生成部21と補正部22を有する。
【0057】
信号生成部21は、制限緩和信号Sr1が与えられないときに、トランジスタMを第1ASO内で動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stを、電圧検出信号Svに基づいて生成する。
【0058】
補正部22は、信号生成部21に入力される電圧検出信号Svと、信号生成部21において生成される制限信号Stとの少なくとも一方を、制限緩和信号Sr1に応じて補正する。
図4Aの例に示す補正部22は、信号生成部21に入力される電圧検出信号Svを補正する。
図4Bの例に示す補正部22は、信号生成部21において生成される制限信号Stを補正する。
図4Cの例に示す補正部22は、信号生成部21に入力される電圧検出信号Svと、信号生成部21において生成される制限信号Stとをそれぞれ補正する。
【0059】
(信号生成部21)
まず、
図4A~
図4Cに示す制限信号生成部20における信号生成部21について説明する。
【0060】
図5A及び
図5Bは、信号生成部21の一例を示す図である。
図5Aに示す信号生成部21は、第1逆比例演算部211を有する。第1逆比例演算部211は、式(1)に示すように素子電流Idと比例関係にある入力信号Siを制限するための制限信号(St、S21)として、素子電圧Vdsに逆比例する制限信号(St、S21)を電圧検出信号(Sv、S22)に基づいて生成する。
図4Aに示す制限信号生成部20の場合、第1逆比例演算部211は、補正部22が出力する電圧検出信号S22(電圧検出信号Svを補正部22により処理した後の信号)に基づいて制限信号Stを生成する。
図4Bに示す制限信号生成部20の場合、第1逆比例演算部211は、電圧検出増幅器U1から出力される電圧検出信号Svに基づいて、補正部22に入力する制限信号S21(制限信号Stを補正部22により処理する前の信号)を生成する。
図4Cに示す制限信号生成部20の場合、第1逆比例演算部211は、補正部22が出力する電圧検出信号S22に基づいて、補正部22に入力する制限信号S21を生成する。
【0061】
例えば
図5Bに示す第1逆比例演算部211は、入力Yに与えられる電圧k2を入力Xに与えられる電圧検出信号(Sv、S22)で割り算し、その割り算の結果に相当する電圧を出力Zに発生させる。この第1逆比例演算部211は、例えば、アナログ信号の割算器によって構成することが可能である。
【0062】
仮に、入力Xに与えられる電圧が電圧検出信号Svの電圧と同じであり(
図4Bの場合や、
図4A、
図4Cにおいて補正部22が電圧検出信号Svを補正せずに出力する場合)、前述のようにSv=k1/Vdsなので、出力Zに発生する電圧「Z」は次の式で表される。
【0063】
Z = k2/(k1・Vds)
= k/Vds …(2)
【0064】
式(2)においてk=k2/k1である。
ここで更に、第1逆比例演算部211の電圧Zがそのまま制限信号Stとして入力信号制限部10に与えられるものとする(
図4Aの場合や、
図4B、
図4Cにおいて補正部22が制限信号Stを補正せずに出力する場合)。この場合、入力信号SAiの電圧が制限信号Stの電圧(=Z)を超えると、増幅器1に与えられる入力信号Siの電圧は式(2)に示す電圧Zにクリップされる。前述のように出力電流Ioと素子電流Idは等しいので、入力信号Siが電圧Zの場合、式(1)と式(2)から次の式が成立する。
【0065】
k/Vds = Id/G …(3)
【0066】
式(3)を変形すると、トランジスタMの損失電力Pdは次の式で表される。
【0067】
Pd = Vds・Id
= k・G …(4)
【0068】
式(4)から、トランジスタMの損失電力Pdが、定数kとコンダクタンスGにより決まる一定の値になることが分かる。例えば電圧検出増幅器U1のゲインk1と定電流出力の増幅器1のコンダクタンスGが決まっている場合、第1逆比例演算部211の入力Yに適当な電圧k2を与えることにより、式(4)で表されるトランジスタMの損失電力Pdを所望の値に設定することができる。このように、式(4)で表される損失電力Pdを任意に設定できるため、第1ASOの損失電力の上限を満たすように式(4)の損失電力Pdを設定することで、第1ASOの損失電力の許容範囲(熱制限領域)で動作するようにトランジスタMを保護することが可能となる。
【0069】
なお、
図5A及び
図5Bに示す信号生成部21の第1逆比例演算部211では、ドレイン電流の定格による制限(電流制限領域)やドレイン・ソース間電圧の定格による制限(電圧制限領域)についての保護が考慮されていない。電流制限領域や電圧制限領域についての保護は、別途、従来の保護方式を併用するようにしてもよい。
【0070】
図6A及び
図6Bは、
図4A~
図4Cに示す制限信号生成部20における信号生成部21の他の一例を示す図である。
図6Aに示す信号生成部21は、第1関数演算部213を有する。第1関数演算部213は、入力信号制限部10において入力信号Siを制限するための制限信号(St、S21)を、所定の関数(第1関数F1)に従って生成する。ここで第1関数F1は、素子電圧Vdsと、当該素子電圧Vdsにおいて第1ASO内に含まれる上限の素子電流Idとを対応付ける関数である。すなわち第1関数F1は、素子電圧Vdsに関わる信号(Sv、S22)を、第1ASO内の上限の素子電流Idに関わる制限信号(St、S21)に変換する。第1関数演算部213は、この第1関数F1に従って、電圧検出信号(Sv、S22)が示す素子電圧Vdsと第1関数F1において対応付けられた素子電流Idに制限されるように入力信号Siを制限する制限信号Stを生成する。
図4Aに示す制限信号生成部20の場合、第1関数演算部213は、補正部22が出力する電圧検出信号S22に基づいて制限信号Stを生成する。
図4Bに示す制限信号生成部20の場合、第1関数演算部213は、電圧検出増幅器U1から出力される電圧検出信号Svに基づいて、補正部22に入力する制限信号S21を生成する。
図4Cに示す制限信号生成部20の場合、第1関数演算部213は、補正部22が出力する電圧検出信号S22に基づいて、補正部22に入力する制限信号S21を生成する。
【0071】
MOS-FETのASOは、例えば非特許文献1の
図3.2に示されるように、ドレイン・ソース間電圧と、それに対応するドレイン電流の制限値(超えることが許されない最大の電流値)との関係としてグラフに表される。第1関数演算部213は、このような第1ASOの素子電圧Vdsと素子電流Idとの関係を模擬する第1関数F1に従って制限信号(St、S21)を生成する。
【0072】
例えば
図6Bに示す第1関数演算部213は、入力Xに与えられる電圧検出信号(Sv、S22)を、電圧検出信号(Sv、S22)が示す素子電圧Vdsにおける上限の素子電流Idに相当する入力信号Siの信号レベルを持った制限信号(St、S21)に変換し、出力Zから出力する。この第1関数演算部213は、例えば、アナログ信号の演算を行う回路によって構成することが可能である。
【0073】
一例として、素子電圧Vdsが「V1」であり、電圧検出増幅器U1の電圧検出信号Svの電圧が「k1・V1」であった場合、第1関数演算部213は、第1関数F1に従って、素子電圧Vd=「V1」における上限の素子電流Id=「I1」に相当する入力信号Siの電圧「I1/G」を制限信号(St、S21)として出力Zから出力する。電圧「I1/G」が制限信号Stとして入力信号制限部10に与えられた場合、入力信号SAiの電圧が「I1/G」を超えると、入力信号Siの電圧は「I1/G」にクリップされる。前述のようにIo=Idなので、式(1)により、トランジスタMの素子電流Idは「I1」に制限される。すなわち、トランジスタMの素子電流Idは、第1関数F1において電圧「V1」に対応付けられた電流「I1」に制限される。従って、第1関数F1における素子電圧Vdsと素子電流Idとの関係が第1ASOに近似している場合、トランジスタMの素子電圧Vdsと素子電流Idは第1ASOの範囲内に制限されることになる。
【0074】
図6Bにおいて模式的に表されたグラフ(第1関数F1に対応するVds-Idのグラフ)は、ASOの電流制限領域と熱制限領域が含まれているが、ASOを近似する第1関数F1はこの例に限定されない。すなわち第1関数演算部213の第1関数F1は、ASOにおける電流制限領域、熱制限領域、S/B領域、電圧制限領域のうち、少なくとも一つの制限領域を近似するものであってよい。第1関数演算部213の第1関数F1が近似していない制限領域については、他の手段によってトランジスタMの保護を行ってもよい。なお、
図5A、
図5Bに示す第1逆比例演算部211は、第1ASOにおいて損失電力を一定に制限する熱制限領域を模擬したものであるため、第1関数演算部213の一例と考えることができる。
【0075】
図7Aは、
図6A及び
図6Bに示す第1関数演算部213の一例を示す図である。
図7Aに示す第1関数演算部213は、オペアンプ2131と、オフセット調整部2132と、抵抗R9~R20と、ダイオードD13~D19を有する。オペアンプ2131の非反転入力端子は基準電位に接続され、反転入力端子には抵抗R9を介して電圧検出信号(Sv、S22)が入力される。また、オペアンプ2131の反転入力端子は、抵抗R10を介して負電圧VSSに接続され、抵抗R19を介してオペアンプ2131の出力端子に接続され、更に、ショットキーダイオードであるダイオードD13~D16のアノードに接続される。ダイオードD13~D16のカソードは、それぞれ抵抗R13~R14を介して正電圧VDDに接続されるとともに、抵抗R15~R18を介してオペアンプ2131の出力端子に接続される。オフセット調整部2132は、オペアンプ2131から出力される信号のオフセット電圧や信号レベルの調整を行い、その調整後の信号を制限信号(St、S21)として後段の回路(入力信号制限部10)に出力する。
【0076】
抵抗R11と抵抗R15は、オペアンプ2131の出力電圧Vopと正電圧VDDとの間に直列接続された分圧回路を構成しており、この分圧回路により分圧された電圧V13がダイオードD13のカソードに印加される。出力電圧Vopが降下して所定の折れ点電圧を超えると、ダイオードD13が導通し、電圧V13が基準電圧に保持されるとともに、オペアンプ2131の出力端子と反転入力端子との間の負帰還経路に抵抗R15が挿入される。負帰還経路に抵抗R15が挿入されることで、入力電圧(Sv、S22)を出力電圧Vopへ増幅する増幅回路のゲインが低下する。同様に、出力電圧Vopが降下して異なる折れ点電圧に達する度に、電圧V14、V15、V16がそれぞれ基準電圧に保持され、抵抗R16、R17、R18がそれぞれ負帰還経路に挿入されて、増幅回路のゲインが低下する。その結果、入力電圧(Sv、S22)を出力電圧Vopへ変換する関数は、折れ線状のゲイン特性を示す関数になる。これにより、第1ASOの熱制限領域を近似する折れ線状の第1関数F1が実現される。
【0077】
図7Aの例に示す第1関数演算部213は、基本的にASOの熱制限領域やS/B領域を近似するものであるが、
図7A中に点線で示している2つの回路(ダイオードD17及びD18の回路、ダイオードD19及び抵抗R20の回路)のいずれかによって、さらにASOの電流制限領域を近似することも可能である。
【0078】
オペアンプ2131の出力端子と反転入力端子との間に接続されるツェナダイオードD17と通常のダイオードD18との直列回路は、入力電圧(Sv、S22)が電流制限領域に相当する電圧を超えたとき、出力電圧Vopを上限の素子電流Idに相当する電圧にクリップする。また、オペアンプ2131の出力に設けられるダイオードD19と抵抗R20の回路は、入力電圧(Sv、S22)が電流制限領域に相当する電圧を超えたとき、抵抗R20を介してオフセット調整部2132に出力される電圧を、上限の素子電流Idに相当する電圧にクリップする。
【0079】
図7Aに示す第1関数演算部213は一例であり、折れ線状や曲線状のゲイン特性を持つ種々の方式の回路を第1関数演算部213に適用可能である。また
図7Aの例では4本の折れ線を持つ第1関数F1によって第1ASOを近似しているが、第1関数F1はこれに限定されない。より多くの折れ線を持つ第1関数F1によって第1ASOを正確に近似してもよいし、許容できる場合には、より少ない折れ線を持つ第1関数F1によって第1ASOを近似してもよい。
【0080】
図8A及び
図8Bは、
図7Aに示す第1関数演算部213による第1ASOの折れ線近似の例を示す図である。太い点線は、第1ASOにおいて定められた素子電流Idの最大値と素子電圧Vdsとの関係を示し、細い実線は、
図7Aに示す第1関数演算部213によって設定される素子電流Idの最大値と素子電圧Vdsとの関係を示す。
図8Aのグラフは横軸と縦軸を共にリニアスケールで表示しており、
図8Bのグラフは横軸と縦軸を共に対数スケールで表示している。この例において、第1関数演算部213は熱制限領域の保護を行わず、電流制限領域とS/B領域の保護を行っている。
図8A及び
図8Bに示すように、第1関数演算部213によって設定される折れ線状の制限領域は第1ASOの制限領域と概ね重なっており、第1関数演算部213の折れ線状の第1関数F1によって第1ASOの制限領域を適切に近似できることが分かる。さらに高度な近似が必要な場合は、前述のように、第1関数F1の折れ線数を増やせばよい。
【0081】
図7Bは、
図6A及び
図6Bに示す第1関数演算部213の他の一例を示す図であり、第1関数F1の処理をデジタル的に実現する例を示す。
図7Bに示す第1関数演算部213は、A/D変換器2133と、データ変換部2134と、D/A変換器2135とを有する。
【0082】
A/D変換器2133は、アナログの電圧検出信号(Sv、S22)をデジタル信号に変換する。A/D変換器2133の入力側には、電圧検出信号(Sv、S22)をA/D変換器2133の入力に適する信号に変換するためのシグナルコンディショニング回路が設けられていてもよい。
【0083】
D/A変換器2135は、データ変換部2134において得られたデータ(素子電流Idの制限値)をアナログの制限信号(St、S21)に変換する。D/A変換器2135の出力側には、D/A変換器2135の出力を適切な制限信号(St、S21)に変換するためのシグナルコンディショニング回路が設けられていてもよい。
【0084】
データ変換部2134は、A/D変換器2133においてデジタル信号に変換された素子電圧Vdsのデータを、制限信号(St、S21)に対応するデータ(素子電流Idの制限値を示すデータ)に変換する。データ変換部2134は、例えば、データ変換用のデータテーブルを記憶したメモリを用いて構成することができる。データテーブルは、例えば、素子電圧Vdsのデータに対応するメモリのアドレスに、この素子電圧Vdsにおける素子電流Idの制限値を示すデータを格納させたものである。この場合、データ変換部2134は、A/D変換器2133から出力される素子電圧Vdsのデータに対応したメモリのアドレスを生成し、生成したアドレスに格納される素子電流Idの制限値をメモリから読み出して出力する。
【0085】
なお、データ変換部2134は、上述のようなメモリを用いる手段に限らず、デジタル回路を用いた演算手段や、プログラムに従って処理を実行する処理手段など、デジタル的にデータを処理して入力データを所望の出力データに変換する任意の手段を用いて構成することができる。
【0086】
(補正部22)
次に、
図4A~
図4Cに示す制限信号生成部20における補正部22について説明する。まず、第1ASOによる素子電流Id及び素子電圧Vdsの許容範囲を拡張する幾つかのパターンを示し、各パターンを実現する制限信号Stの補正方法を説明する。
【0087】
図9A及び
図9Bは、直流動作時の第1ASOと間歇動作時の第2ASOの例を示す図である。
図9Aは、横軸と縦軸を共に対数スケールで表示しており、
図9Bは、横軸と縦軸を共にリニアスケールで表示している。説明を容易にするために、これらのグラフに表されるASOは、ドレイン電流定格による制限である電流制限領域と、トランジスタの許容損失による制限である熱制限領域のみを含んでおり、他の制限領域は省略されている。
図9Aと
図9Bの下側のプロットは直流動作時の第1ASOを示しており、上側のプロットは間歇動作時の第2ASOを示している。上側のプロットの水平部分は、電流制限領域においてパルスに対して許容される第2ASOであり、一例として直流動作時の3倍のドレイン電流が許容されている。上側のプロットの右下がり部分は、熱制限領域において所定の短時間(例えば1ms)に対して許容される第2ASOであり、一例として直流動作時の6倍のドレイン電流が許容されている。第1ASOを示す下側のプロットと第2ASOを示す上側のプロットの間の領域が、制限信号Stの補正によって素子電流Id及び素子電圧Vdsの許容範囲が拡張される領域である。以下の説明では、制限信号Stの補正によって素子電流Id及び素子電圧Vdsの許容範囲が第1ASOより拡張することを、単に「許容範囲の拡張」と記す場合がある。
【0088】
図10A、
図10B、
図11A~
図11Cは、第1ASOと第2ASOの一例を示す図であり、許容範囲の拡張を実現する幾つかのパターンを示す。各図において、左側のグラフの目盛りは対数スケールであり、右側のグラフの目盛りリニアスケールである。また、各グラフの下側のプロットは直流動作時の第1ASOを示し、上側のプロットは間歇動作時の第2ASOを示す。各グラフの点線のプロットは、制限信号Stの補正によって第1ASOよりも拡張された素子電流Id及び素子電圧Vdsの許容範囲を示す。
【0089】
図10A及び
図10Bは、直流動作時の第1ASOと比べて同じ素子電圧Vdsでの素子電流Idの許容範囲を拡張する例を示す図である。
【0090】
図10Aは、制限信号Stによる入力信号Siの制限を緩和することによって、直流動作時の2.5倍の素子電流Idを許容するようにした例を示している。素子電圧Vdsが100V以下の場合、直流動作時の第1ASOにおいて素子電流Idの制限値が2Aであるのに対し、この例では2.5倍の5Aの素子電流Idを許容するようになっている。また素子電圧Vdsが100V以上の場合も、この例では同様に2.5倍の素子電流Idを許容するようになっている。この結果、
図10Aの左のグラフ(対数スケール)において、点線のプロットが表す素子電流Idの許容範囲が第1ASOに対して上方向に平行移動している。なお制限信号Stの大きさは、第2ASOに相当する3倍の素子電流Idである6Aを超えないように制限されている。
【0091】
図10Bは、制限信号Stによる入力信号Siの制限を緩和することによって、直流動作時よりも3A大きい素子電流Idを許容するようにした例を示している。素子電圧Vdsが100V以下の場合、直流動作時の第1ASOにおいて素子電流Idの制限値が2Aであるのに対し、この例では、3A増の5Aの素子電流Idを許容するようになっている。素子電圧Vdsが100V以上の場合も、この例では同様に3A増の素子電流Idを許容するようになっている。この結果、
図10Bの右のグラフ(リニアスケール)において、点線のプロットが表す素子電流Idの許容範囲が第1ASOに対して上方向に平行移動している。
【0092】
図10Bの左のグラフでは、Vdsが3百数十Vよりも高いとき、点線のプロットが第2ASOの上限を超えてしまうことがわかる。すなわち、入力信号Siの制限値に一定の値を加える方法では、利用できる素子電圧Vdsの範囲に制限を受けることがある。従って、この方法は、例えば300V以下という制限を守れば適切に利用できる。
【0093】
図11A及び
図11Bは、直流動作時の第1ASOと比べて同じ素子電流Idでの素子電圧Vdsの許容範囲を拡張する例を示す図である。
【0094】
図11Aは、制限信号Stによる入力信号Siの制限を緩和することによって、直流動作時の2.5倍の素子電圧Vdsを許容するようにした例を示している。素子電流Idが2Aの場合、直流動作時の第1ASOにおいて素子電圧Vdsの制限値が100Vであるのに対し、この例では、2.5倍の250Vの素子電圧Vdsを許容するようになっている。素子電流Idが2A以下の場合も、この例では同様に2.5倍の素子電圧Vdsを許容するようになっている。この結果、
図11Aの左のグラフ(対数スケール)において、点線のプロットが表す素子電圧Vdsの許容範囲が第1ASOに対して右方向に平行移動している。なお制限信号Stの大きさは、第2ASOに相当する5倍の素子電圧Vdsを超えないように制限されている。
【0095】
図11Bは、制限信号Stによる入力信号Siの制限を緩和することによって、直流動作時よりも150V高い素子電圧Vdsを許容するようにした例を示している。素子電流Idが2Aの場合、直流動作時の第1ASOにおいて素子電圧Vdsの制限値が100Vであるのに対し、この例では、150V増の250Vの素子電圧Vdsを許容するようになっている。素子電流Idが2A以下の場合も、この例では同様に150V増の素子電圧Vdsを許容するようになっている。この結果、
図11Bの右のグラフ(リニアスケール)において、点線のプロットが表す素子電圧Vdsの許容範囲が第1ASOに対して右方向に平行移動している。なお制限信号Stの大きさは、第2ASOに相当する素子電圧Vdsを超えないように制限されている。
【0096】
上述した
図10A、
図10B、
図11A及び
図11Bは、許容範囲の拡張を実現するパターンとして、
(1)素子電流Idの制限値を定数倍に増やす
(2)素子電流Idの制限値を定数値だけ増やす
(3)素子電圧Vdsの制限値を定数倍に増やす
(4)素子電圧Vdsの制限値を定数値だけ増やす
という4つのパターンを例示するものであるが、本実施形態ではこれら以外のパターンも可能である。例えば、4つのパターンにおける2以上のパターンを組み合わせた方法により、許容範囲の拡張を実現してもよい。
【0097】
図11Cは、直流動作時のASOと比べて、同じ素子電圧Vdsでの素子電流Idの許容範囲を拡張するとともに、同じ素子電流Idでの素子電圧Vdsの許容範囲を拡張する例を示す図である。
図11Cは、上述した(1)と(3)のパターンを組み合わせた方法により素子電流Id及び素子電圧Vdsの許容範囲を拡張する例を示す。すなわち、この例では、第1ASOに比べて2.5倍の素子電流Id及び2.5倍の素子電圧Vdsを許容するようになっている。
図11Cは、
図10Aや
図11Aに比べて、素子電流Id及び素子電圧Vdsの許容範囲が第2ASOに近づいている。なお制限信号Stの大きさは、第2ASOに相当する素子電流Idや素子電圧Vdsを超えないように制限されている。
このように、素子電流Id、素子電圧Vdsの制限値を拡張する倍率や増分値を適当な値に調整することにより、素子電流Id及び素子電圧Vdsの許容範囲を第2ASOに近づけることができる。
【0098】
図12A~
図12Cは、
図4A及び
図4Cに示す補正部22における第1補正演算部221の一例を示す図である。
図4A及び
図4Cに示す補正部22は、第1補正演算部221を有する。第1補正演算部221は、トランジスタMの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号Sr1を入力し、トランジスタMの動作状態に応じて素子電圧Vdsの見かけ上の検出値が小さくなるように、信号生成部21に入力される電圧検出信号Svを制限緩和信号Sr1に応じて補正する演算を行う。すなわち第1補正演算部221は、電圧検出信号Svを制限緩和信号Sr1に応じて補正し、この補正により生成した電圧検出信号S22を電圧検出信号Svの代わりに信号生成部21へ入力する。
【0099】
図12Aに示す第1補正演算部221は、入力Xに与えられた電圧検出信号Svを、入力Yに与えられた制限緩和信号Sr1に応じた値を持つ補正係数A1(Sr1)により割り算し、その割り算の結果を出力Zから電圧検出信号S22(電圧検出信号Svの代わりの信号)として出力する。
【0100】
補正係数A1(Sr1)は、例えば、制限緩和信号Sr1を変数として単調に増加する関数である。これにより、制限緩和信号Sr1が大きくなるほど電圧検出信号S22が小さくなり、素子電圧Vdsの見かけ上の検出値が小さくなる。また補正係数A1(Sr1)は、制限緩和信号Sr1が無信号(ゼロ)に近づくと、その値が1に近づく関数である。そして補正係数A1(Sr1)が1になると、電圧検出信号Svがそのまま電圧検出信号S22として出力される。
【0101】
制限緩和信号Sr1が大きくなるのは下記の(5)や(6)の場合であり、制限緩和信号Sr1が無信号(ゼロ)に近づくのは下記の(7)や(8)の場合である。(以下同様。)
(5)後述の制限緩和信号生成部30の入力信号SAiの交流振幅が大きくなった場合。(ただし、後述のパルス信号発生部31を備える場合を除く。)
(6)後述のハイパスフィルタ32のカットオフ周波数よりも低い周波数範囲内において、トランジスタMが動作する周波数が高くなった場合。
(7)後述の制限緩和信号生成部30の入力信号SAiの交流振幅がゼロ(無信号)に近づいた場合。(ただし、後述のパルス信号発生部31を備える場合を除く。)
(8)後述のハイパスフィルタ32のカットオフ周波数よりも低い周波数範囲において、トランジスタMが動作する周波数がゼロ(直流)に近づいた場合。
【0102】
図12Aに示す第1補正演算部221によれば、トランジスタMが定常的に動作する場合(周波数がゼロの場合)、補正係数A1(Sr1)が1になり、電圧検出信号Svがそのまま電圧検出信号S22として出力される(すなわち、電圧検出信号Svの補正が行われない)。一方、トランジスタMが間歇的に動作する場合は、電圧検出信号S22が示す素子電圧Vdsの見かけ上の検出値が本当の検出値の「1/A1(Sr1)」倍になる。一例として、Sr1が変化することによって補正係数A1(Sr1)が「2.5」に変化したときを考えると、素子電圧Vdsの本当の検出値が250Vであったとしても、電圧検出信号S22が示す見かけ上の検出値は100Vになり、信号生成部21はこの見かけ上の検出値(=100V)に対応した制限信号Stを生成することになる。これは、同じ素子電流Idに対する素子電圧Vdsの制限値が2.5倍に拡張される
図11Aの例に相当する。このように、
図12Aに示す第1補正演算部221を用いることによって、同じ素子電流Idに対する素子電圧Vdsの制限値を定数倍に増やす(3)のパターンが実現される。
【0103】
図12Bに示す第1補正演算部221は、入力Xに与えられた電圧検出信号Svから、入力Yに与えられた制限緩和信号Sr1に応じた値を持つ補正係数B1(Sr1)を減算し、その減算の結果を出力Zから電圧検出信号S22(電圧検出信号Svの代わりの信号)として出力する。
【0104】
補正係数B1(Sr1)は、例えば、制限緩和信号Sr1を変数として単調に増加する関数である。これにより、制限緩和信号Sr1が大きくなるほど電圧検出信号S22が小さくなり、素子電圧Vdsの見かけ上の検出値が小さくなる。また補正係数B1(Sr1)は、制限緩和信号Sr1が無信号(ゼロ)に近づくと、その値が0に近づく関数である。そして補正係数B1(Sr1)が0になると、電圧検出信号Svがそのまま電圧検出信号S22として出力される。
【0105】
図12Bに示す第1補正演算部221によれば、トランジスタMが定常的に動作する場合、補正係数B1(Sr1)が0になり、電圧検出信号Svがそのまま電圧検出信号S22として出力される。一方、トランジスタMが間歇的に動作する場合は、電圧検出信号S22が示す素子電圧Vdsの見かけ上の検出値が本当の検出値に比べて「B1(Sr1)」だけ小さい値になる。一例として、Sr1が変化することによって補正係数B1(Sr1)が示す素子電圧Vdsの電圧増加分が「150」に変化したときを考えると、素子電圧Vdsの本当の検出値が250Vであったとしても、電圧検出信号S22が示す見かけ上の検出値は100Vになり、信号生成部21はこの見かけ上の検出値(=100V)に対応した制限信号Stを生成することになる。これは、同じ素子電流Idに対する素子電圧Vdsの制限値が150Vだけ拡張される
図11Bの例に相当する。このように、
図12Aに示す第1補正演算部221を用いることによって、同じ素子電流Idに対する素子電圧Vdsの制限値を定数値だけ増やす(4)のパターンが実現される。ただし、素子電圧Vdsの検出値よりも「B1(Sr1)」が大きくなったときは、電圧検出信号S22が示す素子電圧Vdsの見かけ上の検出値は、負の値にならず0になるものとする。
【0106】
図12Cに示す第1補正演算部221は、上述した
図12A及び
図12Bに示す第1補正演算部221を組み合わせたものである。すなわち、
図12Cに示す第1補正演算部221は、入力Xに与えられた電圧検出信号Svを、入力Yに与えられた制限緩和信号Sr1に応じた値を持つ補正係数A1(Sr1)により割り算し、その割り算の結果から、入力Yに与えられた制限緩和信号Sr1に応じた値を持つ補正係数B1(Sr1)を減算し、その減算の結果を出力Zから電圧検出信号S22(電圧検出信号Svの代わりの信号)として出力する。
【0107】
図12Cに示す第1補正演算部221によれば、トランジスタMが定常的に動作する場合、補正係数A1(Sr1)が1になるとともに補正係数B1(Sr1)が0になり、電圧検出信号Svがそのまま電圧検出信号S22として出力される。一方、トランジスタMが間歇的に動作する場合は、電圧検出信号S22が示す素子電圧Vdsの見かけ上の検出値が本当の検出値に比べて小さい値になる。すなわち、電圧検出信号S22が示す素子電圧Vdsの見かけ上の検出値が、本当の検出値の「1/A1(Sr1)」倍より補正係数B1(Sr1)だけ小さい値になる。
図12Cに示す第1補正演算部221を用いることによって、(3)と(4)のパターンを組み合わせた許容範囲の拡張が実現される。
【0108】
図13A~
図13Cは、
図4B及び
図4Cに示す補正部22における第2補正演算部222の一例を示す図である。
図4B及び
図4Cに示す補正部22は、第2補正演算部222を有する。第2補正演算部222は、トランジスタMの動作状態に応じた制限緩和信号Sr1を入力し、トランジスタMの動作状態に応じて入力信号Siの制限を緩和する方向へ制限信号Stが変化するように、信号生成部21において生成された制限信号Stを制限緩和信号Sr1に応じて補正する演算を行う。すなわち第2補正演算部222は、信号生成部21において生成された制限信号S21を制限緩和信号Sr1に応じて補正し、この補正後の信号を制限信号Stとして出力する。
【0109】
図13Aに示す第2補正演算部222は、入力Xに与えられた信号生成部21の制限信号S21(制限信号Stの補正前の信号)に対して、入力Yに与えられた制限緩和信号Sr1に応じた値を持つ補正係数A2(Sr1)を乗算し、その乗算結果の積を出力Zから制限信号Stとして出力する。
【0110】
補正係数A2(Sr1)は、例えば、制限緩和信号Sr1を変数として単調に増加する関数である。これにより、制限緩和信号Sr1が大きくなるほど制限信号Stが大きくなり、入力信号制限部10においてクリップされる入力信号Siのレベルが大きくなるため、入力信号Siの制限が緩和される。また補正係数A2(Sr1)は、制限緩和信号Sr1が無信号(ゼロ)に近づくと、その値が1に近づく関数である。そして補正係数A2(Sr1)が1になると、信号生成部21の制限信号S21がそのまま制限信号Stとして出力される。
【0111】
図13Aに示す第1補正演算部221によれば、トランジスタMが定常的に動作する場合、補正係数A2(Sr1)が1になり、信号生成部21の制限信号S21がそのまま制限信号Stとして出力される(すなわち、制限信号Stの補正が行われない)。一方、トランジスタMが間歇的に動作する場合は、信号生成部21が生成する制限信号S21に比べて「A2(Sr1)」倍の制限信号Stが出力される。一例として、制限緩和信号Sr1が変化することによって補正係数A2(Sr1)が「2.5」に変化したときを考えると、トランジスタMが定常的に動作する場合に比べて制限信号Stが「2.5」倍になり、同じ素子電圧Vdsにおいて許容される素子電流Idが「2.5」倍に拡張される。これは、同じ素子電圧Vdsに対する素子電流Idの制限値が2.5倍に拡張される
図10Aの例に相当する。このように、
図13Aに示す第2補正演算部222を用いることによって、同じ素子電圧Vdsに対する素子電流Idの制限値を定数倍に増やす(1)のパターンが実現される。
【0112】
図13Bに示す第2補正演算部222は、入力Xに与えられた信号生成部21の制限信号S21(制限信号Stの補正前の信号)に対して、入力Yに与えられた制限緩和信号Sr1に応じた値を持つ補正係数B2(Sr1)を加算し、その加算結果を出力Zから制限信号Stとして出力する。
【0113】
補正係数B2(Sr1)は、例えば、制限緩和信号Sr1を変数として単調に増加する関数である。これにより、制限緩和信号Sr1が大きくなるほど制限信号Stが大きくなり、入力信号制限部10においてクリップされる入力信号Siのレベルが大きくなるため、入力信号Siの制限が緩和される。また補正係数B2(Sr1)は、制限緩和信号Sr1が無信号(ゼロ)に近づくと、その値が0に近づく関数である。そして補正係数B2(Sr1)が0になると、信号生成部21の制限信号S21がそのまま制限信号Stとして出力される。
【0114】
図13Bに示す第1補正演算部221によれば、トランジスタMが定常的に動作する場合、補正係数B2(Sr1)が0になり、信号生成部21の制限信号S21がそのまま制限信号Stとして出力される(すなわち、制限信号Stの補正が行われない)。一方、トランジスタMが間歇的に動作する場合は、信号生成部21が生成する制限信号S21に比べて「B2(Sr1)」だけ大きい制限信号Stが出力される。一例として、制限緩和信号Sr1が変化することによって補正係数B2(Sr1)が示す入力信号Siの増加分が素子電流Idの3Aの増加に相当するように変化したときを考えると、トランジスタMが定常的に動作する場合に比べて素子電流Idの制限値が3Aだけ大きくなる。これは、同じ素子電圧Vdsに対する素子電流Idの許容範囲が3A大きくなる
図10Bの例に相当する。このように、
図13Bに示す第2補正演算部222を用いることによって、同じ素子電圧Vdsに対する素子電流Idの制限値を定数値だけ増やす(2)のパターンが実現される。
【0115】
図13Cに示す第2補正演算部222は、上述した
図13A及び
図13Bに示す第2補正演算部222を組み合わせたものである。すなわち、
図13Cに示す第1補正演算部221は、入力Xに与えられた信号生成部21の制限信号S21に対して、入力Yに与えられた制限緩和信号Sr1に応じた値を持つ補正係数A2(Sr1)を乗算し、その乗算結果の積に対して、入力Yに与えられた制限緩和信号Sr1に応じた値を持つ補正係数B2(Sr1)を加算し、その加算の結果を出力Zから制限信号Stとして出力する。
【0116】
図13Cに示す第2補正演算部222によれば、トランジスタMが定常的に動作する場合、補正係数A2(Sr1)が1になるとともに補正係数B2(Sr1)が0になり、信号生成部21の制限信号S21がそのまま制限信号Stとして出力される。一方、トランジスタMが間歇的に動作する場合は、信号生成部21の制限信号S21に比べて大きな制限信号Stが出力され、入力信号Siの制限(一例としてトランジスタMの損失電力を抑えるための制限)が緩和される。
図13Cに示す第2補正演算部222を用いることによって、(1)と(2)のパターンを組み合わせた許容範囲の拡張が実現される。
【0117】
上述した
図12A~
図12Cに示す第1補正演算部221及び
図13A~
図13Cに示す第2補正演算部222は、それぞれの演算機能を果たす任意のアナログ演算回路により実現可能である。また、
図7Bに示す第1関数演算部213のように入力信号をA/D変換器によってデジタル信号に変換することにより、第1補正演算部221の演算機能の少なくとも一部を任意のデジタル回路(ロジック回路、プロセッサなど)によって実現してもよい。
【0118】
[制限緩和信号生成部30]
制限緩和信号生成部30は、トランジスタMの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号に基づいて、トランジスタMの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号Sr1を生成する。
【0119】
トランジスタMの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号は、例えば信号源3が発生する入力信号SAi、入力信号SAiに基づいて入力信号制限部10から出力される入力信号Si、素子電圧Vdsを検出した電圧検出信号Sv、素子電流Idを検出した電流検出信号Sc、増幅器1の出力電圧Vo、増幅器1の出力電流Ioなどが挙げられる。トランジスタMの損失電力を直接検出するセンサがある場合には、そのセンサにより検出された信号を所定の信号として制限緩和信号生成部30に与えてもよい。
【0120】
図14は、制限緩和信号生成部30の一例を示す図である。
図14に示す制限緩和信号生成部30は、ハイパスフィルタ32と振幅検出部33を有する。
【0121】
(ハイパスフィルタ32)
ハイパスフィルタ32は、トランジスタMの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号(
図14の例では入力信号SAi)を入力し、当該所定の信号の低周波成分を所定の周波数特性により減衰させた交流信号S32を出力する。
【0122】
第2ASOの電流制限領域、熱制限領域やS/B領域は、例えばパルス幅が10msや1msなどの所定の短時間の動作の場合に、第1ASOよりも大きな許容範囲を持つ。例えば50Hzの正負対称の信号の場合、ハイ側のトランジスタMとロー側のトランジスタM’がそれぞれ10msの導通を20msごとに繰り返すので、直流時の第1ASOよりも許容範囲の大きい第2ASOを利用できる。ハイパスフィルタ32によって得られる交流信号S32は、第2ASOの許容範囲に関わる損失電力の周波数の情報を含んでいる。
【0123】
なお、ハイパスフィルタ32の周波数特性は、例えば、トランジスタMの間歇動作の周波数と、この周波数に応じて第2ASOの許容範囲が第1ASOの許容範囲より拡張される度合との関係に基づいて決定される。
【0124】
例えばハイパスフィルタ32は、直流ではゲインがゼロになり、カットオフ周波数fcより低い周波数帯域では周波数が低くなるほどゲインが小さくなり、カットオフ周波数fcより高い周波数帯域では概ね一定のゲインを持つ。この場合、ハイパスフィルタ32から出力される交流信号S32は、カットオフ周波数fcより低い周波数帯域では周波数が低くなるほど振幅が小さくなることによって第1ASOに近づき、カットオフ周波数fcより高い周波数帯域では概ね一定の振幅を持つ。ハイパスフィルタ32のカットオフ周波数fcは、一例として、第2ASOの定格として示されている間歇動作時のパルス幅を目安とすることができる。
【0125】
図15A~
図15Eは、ハイパスフィルタ32の一例を示す図である。
図15Aに示すハイパスフィルタ32は、キャパシタC1と抵抗R21による回路である。キャパシタC1の一端に入力信号SAiが入力され、キャパシタC1の他端が抵抗R21を介して基準電位に接続され、このキャパシタC1の他端から交流信号S32が出力される。
図15Bに示すハイパスフィルタ32は、
図15Aに示すハイパスフィルタ32において抵抗R21が設けられた経路にインダクタL1が挿入されたものである。
図15Cに示すハイパスフィルタ32は、
図15Aに示すハイパスフィルタ32における抵抗R21をインダクタL1に置き換えたものである。
図15A~
図15Cに示す回路は1段のみであるが、2段以上の回路を縦続接続してもよいし、複数種類の異なる回路を縦続接続してもよい。また、必要に応じて入力や出力にバッファアンプを追加することも可能である。
【0126】
図15D及び
図15Eは、オペアンプ321を用いたハイパスフィルタ32の例を示す。
図15Dに示すハイパスフィルタ32は、オペアンプ321とキャパシタC2と抵抗R22を有する。キャパシタC2の一端に入力信号SAiが入力され、キャパシタC2の他端がオペアンプ321の反転入力端子に接続される。オペアンプ321の反転入力端子と出力端子との間に抵抗R22が接続され、非反転入力端子が基準電位に接続される。オペアンプ321の出力端子から交流信号S32が出力される。
図15Eに示すハイパスフィルタ32は、
図15Dに示すハイパスフィルタ32においてキャパシタC2が設けられた経路に抵抗R23が挿入されている。オペアンプを用いたハイパスフィルタ(アクティブフィルタ)には、この他、正帰還型、サレンキー型等の様々な回路方式が存在しており、自由に選択・採用することが可能である。これらも、複数を直列に組み合わせることもでき、異なる回路を直列に組み合わせることも自由である。また、
図15A~
図15Cの回路と組み合わせることも自由である。ハイパスフィルタ32の次数、回路形式や肩特性などは、実際の回路に適するものを、適宜選択すればよい。
【0127】
(振幅検出部33)
振幅検出部33は、ハイパスフィルタ32が出力する交流信号S32の振幅を検出し、検出した振幅に応じた制限緩和信号Sr1を出力する。制限信号生成部20の入力インピーダンスが低い場合には、振幅検出部33の出力にバッファアンプを追加して、バッファアンプの出力を制限緩和信号Sr1としてもよい。(以下同様。)振幅検出部33は、
図14の例において、ハイパスフィルタ32が出力する交流信号S32のピークを検出するピーク検出部332を有する。例えばハイ側のピーク検出部332は、トランジスタMに素子電流Idが流れる期間における交流信号S32の正のピークを検出する。
【0128】
図16Aは、ピーク検出部332の一例を示す図である。
図16Aに示すピーク検出部332は、ダイオードD20と、抵抗R24及びR25と、キャパシタC3とを有する。キャパシタC3の一端が抵抗R24を介してダイオードD20のカソードに接続され、キャパシタC3の他端が基準電位に接続される。抵抗R25は、キャパシタC3に並列に接続される。ダイオードD20のアノードにハイパスフィルタ32からの交流信号S32が入力され、キャパシタC3に生じる電圧が制限緩和信号Sr1として出力される。
【0129】
図16Aに示すピーク検出部332では、交流信号S32の正のピークに応じた電圧がキャパシタC3に保持され、制限緩和信号Sr1として出力される。抵抗R24は、ダイオードD20からキャパシタC3に流れるピーク電流を抑制するものであり、ピーク電流が問題にならないレベルであれば、抵抗R24を省略してダイオードD20をキャパシタCC3に直結することが可能である。キャパシタC3に保持されるピーク電圧(制限緩和信号Sr1)は、キャパシタC3と抵抗R25の時定数に応じた速度で低下する。この時定数は、例えば、交流信号S32のパルス幅(トランジスタMの間歇動作のパルス幅)が所定の時間幅より大きい場合に、キャパシタC3の電圧が十分減衰する(制限緩和信号Sr1による入力信号Siの緩和が行われなくなる)ように設定してもよい。これにより、トランジスタMの間歇動作のパルス幅が大きくなり、第1ASOと第2ASOとの差が小さくなる場合に、制限緩和信号Sr1による入力信号Siの緩和が行われなくなるようにして、トランジスタMの保護をすることができる。
【0130】
図16Bは、ロー側の制限緩和信号生成部30’におけるピーク検出部332’の一例を示す図である。ロー側のピーク検出部332’は、例えばロー側のハイパスフィルタ32’が出力する交流信号S32’の負のピークを検出する。すなわち、ロー側のピーク検出部332’は、トランジスタM’に素子電流Id’が流れる期間において、交流信号S32’のピーク(負のピーク)を検出する。
図16Bに示すロー側のピーク検出部332’は、ダイオードD20’と、抵抗R24’及びR25’と、キャパシタC3’とを有する。キャパシタC3’の一端が抵抗R24’を介してダイオードD20’のアノードに接続され、キャパシタC3’の他端が基準電位に接続される。抵抗R25’は、キャパシタC3’に並列に接続される。ダイオードD20’のアノードにハイパスフィルタ32’からの交流信号S32’が入力され、キャパシタC3’に生じる電圧が制限緩和信号Sr1’として出力される。
【0131】
図16Bに示すロー側のピーク検出部332’では、交流信号S32の負のピークに応じた電圧がキャパシタC3’に保持され、制限緩和信号Sr1’として出力される。このピーク電圧(制限緩和信号Sr1’)は、キャパシタC3’と抵抗R25’の時定数に応じた速度で低下する。
【0132】
なお、
図16Aに示すハイ側のピーク検出部332は正のピークを検出し、
図16Bに示すロー側のピーク検出部332’は負のピークを検出することから、入力する交流信号S32、S32’を共通化してもよい。例えば
図17に示すように、ハイ側の制限緩和信号生成部30とロー側の制限緩和信号生成部30’とでハイパスフィルタ32を共有し、共通の交流信号S32をハイ側のピーク検出部332とロー側のピーク検出部332’にそれぞれ供給してもよい。
【0133】
図18は、振幅検出部33の他の一例を示す図である。
図18に示す振幅検出部33は、上述したピーク検出部332に加えて、絶対値部331を有する。絶対値部331は、ハイパスフィルタ32が出力する交流信号S32の絶対値を得る回路であり、交流信号S32における負の信号を正側に折り返した絶対値信号S331を出力する。ピーク検出部332は、絶対値部331において得られた交流信号S32の絶対値(絶対値信号S331)のピークを検出する。
【0134】
絶対値部331を持たない
図14に示す振幅検出部33の場合、交流信号S32の周波数が比較的低いとき、交流信号S32の正のピークが到来する1周期の間でピーク検出部332が保持しているピーク値(=制限緩和信号Sr1)の減少幅が大きくなる。例えば
図16Aに示すピーク検出部332を有する振幅検出部33の場合、キャパシタC3と抵抗R25の時定数に応じた速度で制限緩和信号Sr1が減少し、交流信号S32の周波数が低くなるほどこの減少幅が大きくなる。
図18に示す振幅検出部33では、交流信号S32の正のピークが到来する1周期の途中で、交流信号S32の負のピークに対応する正のピークがピーク検出部332に入力されるため、制限緩和信号Sr1の減少が抑制される。これにより、制限緩和信号Sr1の減少幅が大きくなり過ぎて、入力信号Siの緩和が十分でなくなり、素子電圧Vds及び素子電流Idの許容範囲が狭くなることを回避できる。
【0135】
図19Aは、絶対値部331の一例を示す図であり、交流信号S32を全波整流する回路の例を示す。
図19Aに示す絶対値部331は、オペアンプ3310及び3311と、ダイオードD21及びD22と、抵抗R26~R30とを有する。オペアンプ3310の反転入力端子は、抵抗R26を介して交流信号S32を入力されるとともに、ダイオードD21のカソードに接続される。ダイオードD21のアノードはオペアンプ3310の出力端子に接続されるとともに、ダイオードD22のカソードに接続される。ダイオードD22のアノードは、抵抗R27を介してオペアンプ3310の反転入力端子に接続される。オペアンプ3311の反転入力端子は、抵抗R29を介して交流信号S32を入力され、抵抗R28を介してダイオードD22のアノードに接続されるとともに、抵抗R30を介してオペアンプ3311の出力端子に接続される。オペアンプ3310及び3311の非反転入力端子は、それぞれ基準電位に接続される。オペアンプ3311の出力端子から絶対値信号S331が出力される。
【0136】
交流信号S32の電圧が正の場合、ダイオードD22がオンするとともにダイオードD21がオフするため、ダイオードD22のアノードには交流信号S32に比例した負の電圧が生じる。抵抗R26及びR27の抵抗値が等しいものとすると、ダイオードD22のアノードに生じる負の電圧は、交流信号S32の正の電圧と絶対値が等しい。交流信号S32の電圧が負の場合、ダイオードD22がオフするとともにダイオードD21がオンするため、ダイオードD22のアノードの電圧は基準電位と等しくなる。従って、ダイオードD22のアノードに生じる信号は、交流信号S32の正の半波整流信号を負側に折り返したものと等しくなる。抵抗R28~R30とオペアンプ3311は加算回路を構成しており、ダイオードD22のアノードに生じる信号と交流信号S32とを加算して信号レベルを反転したものを絶対値信号S331として出力する。ここで、抵抗R28の抵抗値が抵抗R29の抵抗値の半分になっているものとすると、絶対値信号S331は、ダイオードD22のアノードに生じる信号を2倍したものと交流信号S32とを加算して信号レベルを反転したものになる。交流信号S32の正の期間において、ダイオードD22のアノードに生じる負の半端整流信号を2倍にして交流信号S32と加算し、加算結果の信号レベルを判定させると、絶対値信号S331は交流信号S32と概ね等しくなる。交流信号S32の正の期間において、ダイオードD22のアノードに生じる基準電圧を2倍にして交流信号S32と加算し、加算結果の信号レベルを反転させると、絶対値信号S331は交流信号S32を正側に折り返したものと概ね等しくなる。従って、絶対値信号S331は、交流信号S32を全波整流した信号になる。
【0137】
図19Bは、絶対値部331の他の一例を示す図であり、交流信号S32を全波整流する回路の例を示す。
図19Bに示す絶対値部331は、オペアンプ3312と、差分増幅回路3313と、ダイオードD23~D26と、抵抗R31及びR32とを有する。抵抗R32の一端にダイオードD23及びD24のアノードが接続され、抵抗R32の他端にダイオードD25及びD26のカソードが接続される。オペアンプ3312の反転入力端子にダイオードD23のカソードとダイオードD25のアノードが接続されるとともに、抵抗R31を介して交流信号S32が入力される。オペアンプ3312の出力端子にはダイオードD24のカソードとダイオードD26のアノードが接続される。差分増幅回路3313は、抵抗R32の両端に生じる電圧を増幅し、交流信号S32を全波整流した絶対値信号S331として出力する。
【0138】
図19Bに示す絶対値部331では、交流信号S32が正の時にダイオードD25及びダイオードD24がオンするとともに他のダイオードがオフし、交流信号S32が負の時にダイオードD26及びダイオードD23がオンするとともに他のダイオードがオフする。抵抗R32には一方向に電流が流れるため、抵抗R32に生じる電圧は交流信号S32を全波整流した信号になる。従って、差分増幅回路3313が出力する絶対値信号S331は、交流信号S32を全波整流した信号になる。
【0139】
なお、ハイ側の制限緩和信号生成部30におけるハイパスフィルタ32と絶対値部331は、例えば
図20Aに示すように、ロー側の制限緩和信号生成部30’と共有させてもよい。
図20Aの例において、ロー側の制限緩和信号生成部30’は、ハイ側の制限緩和信号生成部30で生成された絶対値信号S331の信号レベルを反転させる反転アンプ333と、反転アンプ333により負側に反転された絶対値信号S331’の負のピークを検出するピーク検出部332’を有する。ピーク検出部332’は、既に説明したものと同じであり、例えば
図16Bに示すような構成を有する。
【0140】
図20Aの例において、ピーク検出部332において検出される絶対値信号S331の正のピークと、ピーク検出部332’において検出される絶対値信号S331’の負のピークとは、絶対値が等しい。従って、例えば
図20Bに示すように、ロー側の制限緩和信号生成部30’は、ハイ側の制限緩和信号生成部30で生成される制限緩和信号Sr1の信号レベルを反転させたものをロー側の制限緩和信号Sr1’として出力してもよい。
図20Bの例において、ロー側の制限緩和信号生成部30’は、ハイ側の制限緩和信号Sr1の信号レベルを反転させる反転アンプ334を有しており、ハイパスフィルタ32、絶対値部331及びピーク検出部332をハイ側の制限緩和信号生成部30と共有している。
【0141】
図21Aと
図21Bは、制限緩和信号生成部30の入出力波形の一例を示している。各波形の中央の点線は、各波形の基準電位を示している。
図21Aの下から2番めのトレースは入力信号SAiであり、500Hzの方形波を例示している。
図21Aの上から2番めのトレースは、ハイパスフィルタ32の交流信号S32をピーク検出部332(
図14)に入力した場合に得られる制限緩和信号Sr1の波形を示す。点線で示されている基準電位は、直流時における第1ASOを示している。制限緩和信号Sr1の波形には、入力信号SAiの方形波の立ち上がり時に正のパルスが発生しており、第1ASOに対して許容範囲が拡張している。前述のように、容量負荷のときは立ち上がり時に大きな電流が流れるので、そのときに許容範囲の拡張が行われるように動作している。そしてこのパルスは、1ms以内にほぼ収束しているので、1msのパルスにおける第2ASOを超えないように動作していることがわかる。
図21Aの下端のトレースは、ハイパスフィルタ32の交流信号S32をピーク検出部332’(
図16B)に入力した場合に得られる制限緩和信号Sr1’の波形を示す。
図21Aの上端のトレースは、
図14Bのように、ハイパスフィルタ32の交流信号S32を絶対値部331により全波整流してからピーク検出部332(
図16A)に入力した場合に得られる制限緩和信号Sr1の波形を示す。基本的な効果等は、
図21Aの上から2番めのトレースと同様である。
【0142】
図21Bの4つのトレースが示す波形は、それぞれ
図21Aの4つのトレースが示す波形と同じであり、入力信号SAi(下から2番目のトレース)が5kHzの方形波である場合の波形をそれぞれ示す。5kHzの方形波の周期は0.2msであり、1msよりも短いので、1msのパルスにおける第2ASOを超えない範囲で常に許容範囲の拡張が実施されるように動作していることがわかる。
【0143】
図22は、制限緩和信号生成部30の更に他の一例を示す図である。
図22に示す制限緩和信号生成部30は、
図14や
図18に示す制限緩和信号生成部30と同様なハイパスフィルタ32及び振幅検出部33を有するとともに、パルス信号発生部31を有する。
【0144】
パルス信号発生部31は、トランジスタMの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号(
図14の例では入力信号SAi)に基づいて、トランジスタMの間歇的な動作の周波数に対応した周波数を持つ所定の振幅のパルス信号S31を発生する。例えばパルス信号発生部31は、トランジスタMにおいて素子電流Idが流れる期間にローレベルとなり、トランジスタMにおいて素子電流Idが流れない期間にハイレベルとなるパルス信号S31を入力信号SAiに基づいて生成する。このようなパルス信号S31は、例えば、基準電位付近にしきい値を持つコンパレータを用いて生成することができる。
なお、コンパレータのしきい値付近を何回もよぎるような波形や、パルス振幅変調(PAM)波形などでは、入力信号SAiの基本波よりも高い周波数でコンパレータが動作し、パルス信号S31の周波数が基本波周波数よりも高く見える場合が生じうる。このような場合は、コンパレータにヒステリシスを持たせたり、変調周波数を除去するフィルタを併用したりすることも可能である。
ハイパスフィルタ32は、パルス信号発生部31が発生したパルス信号S31の低周波成分を所定の周波数特性により減衰させた交流信号S32を出力する。
【0145】
この変形例によれば、振幅検出部33において検出される交流信号S32の振幅が、主としてトランジスタMの間歇的な動作の周波数に応じた信号になり、入力信号SAiの振幅の影響を受け難くなる。すなわち、パルス信号発生部31を有しない場合は、トランジスタMの動作状態が第1ASOを越えようとしたときに、必要な大きさと必要な時間だけ、第2ASOに近づく。これに対してパルス信号発生部31を有する場合は、ハイパスフィルタのカットオフ周波数よりも高い周波数のときは、常に、第2ASOに近づくように動作する。
【0146】
また、トランジスタMにおいて素子電流Idが流れる期間と素子電流Idが流れない期間とでレベルが反転するようにパルス信号S31を生成することにより、素子電流Idに直流成分と交流成分が含まれている場合、素子電流Idが流れ続けている状態(間歇的にゼロにならない状態)ではパルス信号を発生させないようにすることができる。
【0147】
以上説明したように、本実施形態によれば、入力信号制限部10において、増幅器1のトランジスタMに生じる損失電力などが制限されるように、増幅器1への入力信号Siが制限信号Stに応じて制限される。制限信号生成部20では、電圧検出信号Svに応じて、トランジスタMを第1ASOで動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stが生成される。また制限緩和信号生成部30では、トランジスタMの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号(例えば入力信号SAi)に基づいて、トランジスタMの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号Sr1が生成される。そして制限信号生成部20では、制限緩和信号Sr1に応じて、第2ASO内でトランジスタMを動作させつつ入力信号Siの制限を緩和するように、制限信号Stが補正される。特に制限信号生成部20では、トランジスタMの間歇動作の周波数が低いほど入力信号Siを制限するように制限信号Stが補正される。これにより、トランジスタMが間歇的に動作する場合においては、定常的に動作する場合よりも素子電流Idと素子電圧Vdsの許容範囲が広い第2ASOにおいてトランジスタを動作させることが可能となる。従って、より大きな電力を増幅できる増幅器を、より小型、軽量、低コストで実現できる。
【0148】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図23は、第2実施形態に係る回路装置の一例を示す図である。
図23に示す回路装置は、先に説明した
図1に示す回路装置と同様に、入力信号Siに応じて制御される1以上のトランジスタを含んだ増幅器1と、増幅器1における出力段のトランジスタM及びM’をASO内で動作するように保護するトランジスタ保護装置2A及び2A’を有する。
【0149】
先に説明した
図1に示す回路装置の増幅器1では、入力信号Siの変化量と素子電流Id(=出力電流Io)の変化量とが比例関係にあったが、
図23に示す回路装置における増幅器1では、入力信号Siの変化量と素子電圧Vdsの変化量とが比例関係にある。例えば、
図23に示す回路装置の増幅器1は、素子電圧Vdsの変化量が出力電圧Voの負の変化量に一致していてもよく、この場合、入力信号Siに比例した出力電圧Voを出力する定電圧出力型の増幅器1であってもよい。定電圧出力型の増幅器1は低い出力インピーダンスを有するが、増幅器1に対して適当な負帰還をかけることにより、全体として定電流出力型の増幅器や定電力出力型の増幅器として動作させることも可能である。
【0150】
図23に示す回路装置の増幅器1において、最終出力段のトランジスタM、M’の構成は、
図1に示す回路装置の増幅器1と同様である。第1実施形態と同様に、第2実施形態においても、トランジスタM及びトランジスタM’にはアイドル電流が流れないものとする。この場合、出力電流Ioは、ハイ側のトランジスタMの素子電流Id又はロー側のトランジスタM’の素子電流Id’のいずれか一方と同じである。
【0151】
図23の増幅器1において、トランジスタM及びM’の各ドレインには電流検出増幅器U2及びU2’が接続されており、トランジスタM及びM’の素子電流Id及びId’が検出される。電流検出増幅器U2及びU2’の増幅利得をk3とすると、素子電流Idを検出した電圧として「k3・Id」が得られる。この電流検出増幅器U2の出力はトランジスタ保護装置2Aの後述する制限信号生成部20Aに与えられている。
【0152】
図23に示すトランジスタ保護装置2Aは、入力信号制限部10と、制限信号生成部20Aと、制限緩和信号生成部30を有する。入力信号制限部10と制限緩和信号生成部30は、既に説明した
図1に示す同一符号の構成要素と同じであるため、ここでは制限信号生成部20Aについて説明する。
【0153】
[制限信号生成部20A]
制限信号生成部20Aは、素子電流Idを検出した電流検出信号Scに基づいて、トランジスタMを第1ASO内で動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stを生成する。
【0154】
また制限信号生成部20Aは、制限緩和信号生成部30により生成される制限緩和信号Sr1に応じて、第2ASO前内でトランジスタMを動作させつつ入力信号Siの制限(トランジスタMの損失電力を抑えるための制限)を緩和するように制限信号Stを補正する。特に制限信号生成部20Aは、トランジスタMの損失電力が高いほど入力信号Siの制限を緩和するように制限信号Stを補正する。
【0155】
図24A~
図24Cは、本実施形態における制限信号生成部20Aの一例を示す図である。これらの図に示すように、制限信号生成部20Aは、信号生成部21Aと補正部22Aを有する。
【0156】
信号生成部21Aは、トランジスタMを第1ASO内で動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stを、電流検出信号Scに基づいて生成する。
【0157】
補正部22Aは、信号生成部21Aに入力される電流検出信号Scと、信号生成部21Aにおいて生成される制限信号Stとの少なくとも一方を、制限緩和信号Sr1に応じて補正する。
図24Aの例に示す補正部22Aは、信号生成部21Aに入力される電流検出信号Scを補正する。
図24Bの例に示す補正部22Aは、信号生成部21Aにおいて生成される制限信号Stを補正する。
図24Cの例に示す補正部22Aは、信号生成部21Aに入力される電流検出信号Scと、信号生成部21Aにおいて生成される制限信号Stとをそれぞれ補正する。
【0158】
(信号生成部21A)
まず、
図24A~
図24Cに示す制限信号生成部20Aにおける信号生成部21Aについて説明する。
【0159】
図25A及び
図25Bは、信号生成部21Aの一例を示す図である。
図25Aに示す信号生成部21Aは、第2逆比例演算部212を有する。第2逆比例演算部212は、素子電圧Vdsと比例関係にある入力信号Siを制限するための制限信号(St、S21)として、素子電圧Vdsに逆比例する制限信号(St、S21)を電流検出信号(Sc、S22)に基づいて生成する。
図24Aに示す制限信号生成部20Aの場合、第2逆比例演算部212は、補正部22Aが出力する電流検出信号S22(電流検出信号Scを補正部22Aにより処理した後の信号)に基づいて制限信号Stを生成する。
図24Bに示す制限信号生成部20Aの場合、第2逆比例演算部212は、電流検出増幅器U2から出力される電流検出信号Scに基づいて、補正部22Aに入力する制限信号S21(制限信号Stを補正部22Aにより処理する前の信号)を生成する。
図24Cに示す制限信号生成部20の場合、第2逆比例演算部212は、補正部22Aが出力する電流検出信号S22に基づいて、補正部22Aに入力する制限信号S21を生成する。
【0160】
例えば
図25Bに示す第2逆比例演算部212は、入力Xに与えられる電流検出信号(Sc、S22)を入力Y1に与えられる電圧k2で割り算し、その割り算の結果に相当する電圧を入力Y2に与えられる電圧vddから減算し、その減算の結果に相当する電圧を出力Zに発生させる。第2逆比例演算部212は、例えば、アナログ信号の割算器と減算器によって構成することが可能である。
【0161】
仮に、入力Xに与えられる電圧が電流検出信号Scの電圧と同じであり(
図24Bの場合や、
図24A、
図24Cにおいて補正部22が電圧検出信号Svを補正せずに出力する場合)、電流検出増幅器U2のゲインを「k3」とすると、出力Zに発生する電圧「Z」は次の式で表される。
【0162】
Z = vdd-k2/(k3・Id)
= vdd-k/Id …(5)
【0163】
式(2)においてk=k2/k3である。
ここで更に、第2逆比例演算部212の電圧Zがそのまま制限信号Stとして入力信号制限部10に与えられるものとする(
図24Aの場合や、
図24B、
図24Cにおいて補正部22が制限信号Stを補正せずに出力する場合)。この場合、入力信号SAiの電圧が制限信号Stの電圧(=Z)を超えると、増幅器1に与えられる入力信号Siの電圧は式(5)に示す電圧Zにクリップされる。入力信号Siが電圧Zの場合、式(5)から次の式が成立する。
【0164】
k/Id = vdd-Si
= vdd-Vo/A …(6)
【0165】
式(6)の「A」は、増幅器1において入力信号Siの電圧を出力電圧Voに増幅するゲインを示す。
【0166】
ここで、増幅器1の出力がトランジスタMを介して、トランジスタMの正の電源電圧VDDに接続されており、vdd=VDD/Aとする。この場合、(6)式は次のように表される。
【0167】
k/Id = (VDD-Vo)/A
= Vds/A …(7)
【0168】
式(7)を変形すると、トランジスタMの損失電力Pdは次の式で表される。
【0169】
Pd = Vds・Id
= k・A …(8)
【0170】
式(8)から、トランジスタMの損失電力Pdが、定数kとゲインAにより決まる一定の値になることが分かる。例えば電流検出増幅器U2のゲインk3と増幅器1のゲインAが決まっている場合、第2逆比例演算部212の入力Y1に適当な電圧k2を与えることにより、式(8)で表されるトランジスタMの損失電力Pdを所望の値に設定することができる。このように、式(8)で表される損失電力Pdを任意に設定できるため、第1ASOの損失電力の上限を満たすように式(8)の損失電力Pdを設定することで、第1ASOの損失電力の許容範囲(熱制限領域)で動作するようにトランジスタMを保護することが可能となる。
【0171】
なお、
図25A及び
図25Bに示す信号生成部21Aの第2逆比例演算部212では、ドレイン電流の定格による制限(電流制限領域)やドレイン・ソース間電圧の定格による制限(電圧制限領域)についての保護が考慮されていない。電流制限領域や電圧制限領域についての保護は、別途、従来の保護方式を併用するようにしてもよい。
【0172】
図26A及び
図26Bは、
図24A~
図24Cに示す制限信号生成部20Aにおける信号生成部21Aの他の一例を示す図である。
図26Aに示す信号生成部21Aは、第2関数演算部214を有する。第2関数演算部214は、入力信号制限部10において入力信号Siを制限するための制限信号(St、S21)を、所定の関数(第2関数F2)に従って生成する。ここで第2関数F2は、素子電流Idと、当該素子電流Idにおいて第1ASO内に含まれる上限の素子電圧Vdsとを対応付ける関数である。すなわち第2関数F2は、素子電流Idに関わる信号(Sc、S22)を、第1ASO内の上限の素子電圧Vdsに関わる制限信号(St、S21)に変換する。第2関数演算部214は、この第2関数F2に従って、電流検出信号(Sc、S22)が示す素子電流Idと第2関数F2において対応付けられた素子電圧Vdsに制限されるように入力信号Siを制限する制限信号Stを生成する。
図24Aに示す制限信号生成部20Aの場合、第2関数演算部214は、補正部22Aが出力する電流検出信号S22に基づいて制限信号Stを生成する。
図24Bに示す制限信号生成部20Aの場合、第2関数演算部214は、電流検出増幅器U2から出力される電流検出信号Scに基づいて、補正部22Aに入力する制限信号S21を生成する。
図24Cに示す制限信号生成部20Aの場合、第2関数演算部214は、補正部22Aが出力する電流検出信号S22に基づいて、補正部22Aに入力する制限信号S21を生成する。
【0173】
第2関数演算部214は、第1ASOの素子電流Idと素子電圧Vdsとの関係から導かれる入力信号Siを模擬する第2関数F2に従って制限信号(St、S21)を生成する。
【0174】
例えば
図26Bに示す第2関数演算部214は、入力Xに与えられる電流検出信号(Sc、S22)を、この電流検出信号(Sc、S22)が示す素子電流Idにおける上限の素子電圧Vdsと電源電圧VDDとの差(VDD-Vds=Vo)に相当する入力信号Siの信号レベルを持った制限信号(St、S21)に変換し、出力Zから出力する。この第2関数演算部214は、例えば、アナログ信号の演算を行う回路によって構成することが可能である。
【0175】
一例として、素子電流Idが「I1」であり、電流検出増幅器U2の電流検出信号Scの電圧が「k3・I1」であった場合、第2関数演算部214は、第2関数F2に従って、素子電流Id=「I1」における上限の素子電圧Vds=「V1」を電源電圧VDDから引いた差の電圧(VDD-V1=Vo)に相当する入力信号Siの電圧「V1/A」を制限信号(St、S21)として出力Zから出力する。電圧「V1/A」が制限信号Stとして入力信号制限部10に与えられた場合、入力信号SAiの電圧が「V1/A」を超えると、入力信号Siの電圧は「V1/A」にクリップされる。これにより、出力電圧Voが「V1」に制限され、トランジスタMの素子電圧Vdsが「VDD-V1」に制限される。すなわち、トランジスタMの素子電圧Vdsは、第2関数F2において電流「I1」に対応付けられた電圧「V1」と電源電圧VDDとの差「VDD-V1」に制限される。従って、第2関数F2における素子電流Idと素子電圧Vdsとの関係が第1ASOに近似している場合、トランジスタMの素子電流Idと素子電圧Vdsは第1ASOの範囲内に制限されることになる。
【0176】
第2関数演算部214の第2関数F2は、ASOにおける電流制限領域、熱制限領域、S/B領域、電圧制限領域のうち、少なくとも一つの制限領域を近似するものであってよい。第2関数演算部214の第2関数F2が近似していない制限領域については、他の手段によってトランジスタMの保護を行ってもよい。なお、
図25A、
図25Bに示す第2逆比例演算部212は、第1ASOにおいて損失電力を一定に制限する熱制限領域を模擬したものであるため、第2関数演算部214の一例と考えることができる。
【0177】
図26Bに示す第2関数演算部214は、例えば
図7Aに示す第1関数演算部213と同様な折れ線近似関数を実現するアナログ演算回路によって構成してもよいし、少なくとも一部を
図7Bに示す第1関数演算部213のようなデジタル回路によって構成してもよい。
【0178】
(補正部22A)
図24A及び
図24Cに示す補正部22Aは、第1補正演算部221Aを有する。第1補正演算部221Aは、トランジスタMの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号Sr1を入力し、トランジスタMの動作状態に応じて素子電流Idの見かけ上の検出値が小さくなるように、信号生成部21Aに入力される電流検出信号Scを制限緩和信号Sr1に応じて補正する演算を行う。すなわち第1補正演算部221Aは、電流検出信号Scを制限緩和信号Sr1に応じて補正し、この補正により生成した電流検出信号S22を電流検出信号Scの代わりに信号生成部21Aへ入力する。
【0179】
第1補正演算部221Aは、例えば、既に説明した
図12A~
図12Cに示す第1補正演算部221と同様な構成を有する。すなわち、第1補正演算部221Aは、
図12A~
図12Cに示す第1補正演算部221における入力Xへ電圧検出信号Svの代わりに電流検出信号Scを入力したものであってもよい。
【0180】
また、
図24B及び
図24Cに示す補正部22Aは、第2補正演算部222Aを有する。第2補正演算部222Aは、トランジスタMの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号Sr1を入力し、トランジスタMの動作状態に応じて入力信号Siの制限を緩和する方向へ制限信号Stが変化するように、信号生成部21Aにおいて生成された制限信号Stを制限緩和信号Sr1に応じて補正する演算を行う。すなわち第2補正演算部222Aは、信号生成部21Aにおいて生成された制限信号S21を制限緩和信号Sr1に応じて補正し、この補正後の信号を制限信号Stとして出力する。第2補正演算部222は、例えば、既に説明した
図13A~
図13Cに示す第2補正演算部222と同様な構成を有する。
【0181】
以上説明したように、本実施形態によれば、入力信号制限部10において、増幅器1のトランジスタMに生じる損失電力などが制限されるように、増幅器1への入力信号Siが制限信号Stに応じて制限される。制限信号生成部20では、電流検出信号Scに応じて、トランジスタMを第1ASOで動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stが生成される。また制限緩和信号生成部30では、トランジスタMに生じる損失電力などの変化に関わる所定の信号(例えば入力信号SAi)に基づいて、トランジスタMの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号Sr1が生成される。そして制限信号生成部20では、制限緩和信号Sr1に応じて、第2ASO内でトランジスタMを動作させつつ入力信号Siの制限を緩和するように、制限信号Stが補正される。これにより、トランジスタMが間歇的に動作する場合においては、定常的に動作する場合よりも素子電流Idと素子電圧Vdsの許容範囲が広い第2ASOにおいてトランジスタを動作させることが可能となる。
【0182】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図27は、第3実施形態に係る回路装置の一例を示す図である。
図27に示す回路装置は、先に説明した
図1に示す回路装置と同様に、入力信号Siに応じて制御される1以上のトランジスタを含んだ増幅器1と、増幅器1における出力段のトランジスタM及びM’をASO内で動作するように保護するトランジスタ保護装置2B及び2B’を有する。
【0183】
先に説明した
図1に示す回路装置の増幅器1では、入力信号Siの変化量と素子電流Id(=出力電流Io)の変化量とが比例関係にあり、
図19に示す増幅器1では、入力信号Siの変化量と素子電圧Vdsの変化量とが比例関係にあったが、本実施形態の
図27に示す回路装置おける増幅器1では、これらの比例関係の有無について限定がない。すなわち、
図27に示す回路装置における増幅器1は、定電流出力型であってもよいし、定電圧出力型であってもよいし、定電力出力型であってもよい。
【0184】
図27の増幅器1において、トランジスタM及びM’のドレイン・ソース間には、それぞれ電圧検出増幅器U1及びU1’が接続されており、各トランジスタの素子電圧Vds及びVds’が検出される。また
図27の増幅器1において、トランジスタM及びM’の各ドレインには電流検出増幅器U2及びU2’が接続されており、トランジスタM及びM’の素子電流Id及びId’が検出される。
【0185】
なおここでは、電圧検出増幅器U1及びU1’によって、各トランジスタのドレイン・ソース間電圧Vds及びVds’を直接検出しているが、出力電圧Voを検出してドレイン・ソース間電圧Vds及びVds’を算出することによって検出することも可能である。例えばトランジスタMがソース抵抗やドレイン抵抗を備えない場合を考えると、ドレイン・ソース間電圧Vdsは、トランジスタMに接続されている正の電源電圧+Vと出力電圧Voの差として算出できる。また、増幅器1が定電圧出力型のときは、入力信号Siを検出し、増幅率(一定値)を乗ずることによって出力電圧Voを算出することによってドレイン・ソース間電圧Vdsを算出することも可能である。また、トランジスタMがソース抵抗やドレイン抵抗を備えている場合は、検出された素子電流Idと抵抗値を乗じて電圧に換算して差し引けばよい。
【0186】
図27に示すトランジスタ保護装置2Bは、入力信号制限部10と、制限信号生成部20Bと、制限緩和信号生成部30を有する。入力信号制限部10と制限緩和信号生成部30は、既に説明した
図1に示す同一符号の構成要素と同じであるため、ここでは制限信号生成部20Bについて説明する。
【0187】
[制限信号生成部20B]
制限信号生成部20Bは、素子電圧Vdsを検出した電圧検出信号Svと、素子電流Idを検出した電流検出信号Scとに基づいて、制限緩和信号Sr1が与えられないときに、トランジスタMを第1ASO内で動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stを生成する。
【0188】
また制限信号生成部20Bは、制限緩和信号生成部30により生成される制限緩和信号Sr1に応じて、第2ASO内でトランジスタMを動作させつつ入力信号Siの制限(トランジスタMの損失電力などを抑えるための制限)を緩和するように制限信号Stを補正する。
【0189】
図28A~
図28Cは、本実施形態における制限信号生成部20Bの一例を示す図である。これらの図に示すように、制限信号生成部20Bは、信号生成部21Bと補正部22Bを有する。
【0190】
信号生成部21Bは、制限緩和信号Sr1が与えられないときに、トランジスタMを第1ASO内で動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stを、電圧検出信号Svと電流検出信号Scに基づいて生成する。
【0191】
補正部22Bは、信号生成部21Bに入力される電流検出信号Scと、信号生成部21Bに入力される電圧検出信号Svとの少なくとも一方を、制限緩和信号Sr1に応じて補正する。
図28Aの例に示す補正部22Bは、信号生成部21Bに入力される電圧検出信号Svと、信号生成部21Bに入力される電流検出信号Scをそれぞれ補正する。
図28Bの例に示す補正部22Bは、信号生成部21Bに入力される電圧検出信号Svを補正する。
図28Cの例に示す補正部22Bは、信号生成部21Bに入力される電流検出信号Scを補正する。
【0192】
(信号生成部21B)
まず、
図28A~
図28Cに示す制限信号生成部20Bにおける信号生成部21Bについて説明する。
【0193】
図29Aは、信号生成部21Bの一例を示す図である。
図29Aに示す信号生成部21Bは、損失電力演算部215と誤差増幅部216を有する。
【0194】
損失電力演算部215は、電圧検出信号(Sv、S22v)と電流検出信号(Sc、S22c)とに基づいて、素子電圧Vdsと素子電流Idとの積に応じた損失電力信号Spdを生成する。
図28Aに示す制限信号生成部20Bの場合、損失電力演算部215は、補正部22Bが出力する電圧検出信号S22v(電圧検出信号Svを補正部22Bにより処理した後の信号)と、補正部22Bが出力する電流検出信号S22c(電流検出信号Scを補正部22Bにより処理した後の信号)とに基づいて損失電力信号Spdを生成する。
図28Bに示す制限信号生成部20Bの場合、損失電力演算部215は、補正部22Bが出力する電圧検出信号S22vと、電流検出増幅器U2から出力される電流検出信号Scとに基づいて損失電力信号Spdを生成する。
図28Cに示す制限信号生成部20Bの場合、損失電力演算部215は、電圧検出増幅器U1から出力される電圧検出信号Svと、補正部22Bが出力する電流検出信号S22cとに基づいて損失電力信号Spdを生成する。
【0195】
誤差増幅部216は、損失電力信号Spdが示すトランジスタMの損失電力と第1ASOに含まれるトランジスタMの上限の損失電力との誤差を増幅し、当該増幅した誤差に応じた制限信号Stを生成する。例えば誤差増幅部216は、第1ASOに含まれる上限の損失電力を示す一定の信号Vrと損失電力信号Spdとの差を増幅し信号を制限信号Stとして出力する。
【0196】
ここで、補正部22Bにより電圧検出信号Svや電流検出信号Scが補正されていない場合を考える。この場合、損失電力演算部215は、電圧検出増幅器U1から出力される電圧検出信号Svの電圧「k1・Vds」を入力Xに与えられ、電流検出増幅器U2から出力される電流検出信号Scの電圧「k3・Id」を入力Yに与えられるため、出力Zから出力する損失電力信号Spdの電圧は次式のようになる。
Z = k1・k3・Vds・Id …(10)
【0197】
損失電力演算部215の損失電力信号Spdは、誤差増幅部216の反転入力端子に入力され、誤差増幅部216の非反転入力端子には信号Vrが入力される。誤差増幅部216の増幅率をk4とし、信号Vrの電圧をVrとすると、誤差増幅部216が出力する制限信号Stの電圧は次式で表される。
St = k4・(Vr-k1・k3・Vds・Id) …(9)
【0198】
第1ASOに含まれる上限の損失電力を「Pd」(=Vds・Id)とした場合、電圧Vrは次の式で与えられる。
Vr = k1・k3・Pd …(10)
【0199】
誤差増幅部216の増幅率k4が十分に大きい場合、「k1・k3・Vds・Id」が「Vr」より小さければ、制限信号Stの電圧が大きくなり、入力信号Siに対して制限が加わる信号レベルが高くなるため、入力信号SAiがそのまま入力信号Siとして増幅器1に入力される。一方、「k1・k3・Vds・Id」が「Vr」より僅かに大きくなると、制限信号Stの電圧が小さくなり、入力信号制限部10において入力信号Siの信号レベルが制限されて、「k1・k3・Vds・Id」が小さくなる。これにより、「k1・k3・Vds・Id」が「Vr」とほぼ等しくなるように、入力信号Siの信号レベルが制限される。これにより、トランジスタMの損失電力(=Vds・Id)が、第1ASOに含まれる上限の損失電力Pdで制限される。これは、別の言い方をすると、トランジスタMの損失電力に比例する値(k1・k3・Vds・Id)が、所定の電圧Vrに近づくように負帰還がかけられていると言うこともできる。
【0200】
なお、ドレイン電流定格による制限(電流制限領域)やドレイン・ソース間電圧の制限領域については、従来の保護方式を併用することによって保護してもよい。
【0201】
図29Bは、信号生成部21Bの他の一例を示す図である。
図29Bに示す信号生成部21Bは、第3関数演算部217と誤差増幅部219を有する。
【0202】
第3関数演算部217は、素子電圧Vdsと当該素子電圧Vdsにおいて第1ASO内に含まれる上限の素子電流Idとを対応付ける所定の第3関数F3に従って、電圧検出信号Svが示す素子電圧Vdsと対応付けられた素子電流Idを示す上限電流信号Scxを生成する。
図28A及び
図28Bに示す制限信号生成部20Bの場合、第3関数演算部217は、補正部22Bが出力する電圧検出信号S22vに応じた上限電流信号Scxを生成する。
図28Cに示す制限信号生成部20Bの場合、第3関数演算部217は、電圧検出増幅器U1から出力される電圧検出信号Svに応じた上限電流信号Scxを生成する。
【0203】
図29Bに示す第3関数演算部217は、例えば
図7Aに示す第1関数演算部213と同様な折れ線近似関数を実現するアナログ演算回路によって構成してもよいし、少なくとも一部を
図7Bに示す第1関数演算部213のようなデジタル回路によって構成してもよい。
【0204】
誤差増幅部219は、上限電流信号Scxが示す素子電流Idと電流検出信号Scが示す素子電流Idとの誤差を増幅し、当該増幅した誤差に応じた制限信号Stを生成する。例えば誤差増幅部219は、上限電流信号Scxと電流検出信号Scとの差を増幅した信号を制限信号Stとして出力する。
図28A及び28Cに示す制限信号生成部20Bの場合、誤差増幅部219は、第3関数演算部217が出力する上限電流信号Scxと、補正部22Bが出力する電流検出信号S22cとの差を増幅する。
図28Bに示す制限信号生成部20Bの場合、誤差増幅部219は、第3関数演算部217が出力する上限電流信号Scxと、電流検出増幅器U2から出力される電流検出信号Scとの差を増幅する。
【0205】
ここで、補正部22Bにより電圧検出信号Svや電流検出信号Scが補正されていない場合を考える。この場合、第3関数演算部217は、所定の第3関数F3に従って、電圧検出信号Svが示す素子電圧Vdsに対応した素子電流Idを示す上限電流信号Scxを出力する。第3関数F3は、素子電圧Vdsと、この素子電圧Vdsにおいて第1ASO内に含まれる上限の素子電流Idとを対応付ける関数であるため、上限電流信号Scxは、電圧検出信号Svが示す素子電圧Vdsにおいて第1ASO内に含まれる上限の素子電流Idに対応した信号である。誤差増幅部219は、この上限電流信号Scxから、素子電流Idを示す電流検出信号Scを減算して増幅し、制限信号Stとして出力する。従って、検出した素子電流Idが、第3関数F3に従って得られた上限の素子電流Idより小さい場合、上限電流信号Scxから電流検出信号Scを減算した信号が正になる。ここで、誤差増幅部219のゲインが十分に大きいものとすると、制限信号Stの電圧が大きくなり、入力信号Siに対して制限が加わる信号レベルが高くなるため、入力信号SAiがそのまま入力信号Siとして増幅器1に入力される。一方、検出した素子電流Idが、第3関数F3に従って得られた上限の素子電流Idより僅かに大きくなると、制限信号Stの電圧が小さくなり、入力信号制限部10において入力信号Siの信号レベルが制限されて、電流検出信号Scが小さくなる。これにより、電流検出信号Scが上限電流信号Scxと略等しくなり、素子電流Idが第1ASOの許容範囲に制限される。これは、別の言い方をすると、制限緩和信号Sr1が与えられないときに、トランジスタMの素子電流Idが第1ASOの許容範囲に収まるように負帰還がかけられていると言うこともできる。
【0206】
図29Bにおいて模式的に表されたグラフ(第3関数に対応するVds-Idのグラフ)では、ASOの電流制限領域と熱制限領域が含まれているが、ASOを近似する第3関数F3はこの例に限定されない。すなわち第3関数演算部217の第3関数F3は、ASOにおける電流制限領域、熱制限領域、S/B領域、電圧制限領域のうち、少なくとも一つの制限領域を近似するものであってよい。第3関数演算部217の第3関数F3が近似していない制限領域については、他の手段によってトランジスタMの保護を行ってもよい。
【0207】
図29Cは、信号生成部21Bの更に他の一例を示す図である。
図29Cに示す信号生成部21Bは、第4関数演算部218と誤差増幅部220を有する。
【0208】
第4関数演算部218は、素子電流Idと当該素子電流Idにおいて第1ASO内に含まれる上限の素子電圧Vdsとを対応付ける所定の第4関数F4に従って、電流検出信号Scが示す素子電流Idと対応付けられた素子電圧Vdsを示す上限電圧信号Svxを生成する。
図28A及び
図28Cに示す制限信号生成部20Bの場合、第4関数演算部218は、補正部22Bが出力する電流検出信号S22cに応じた上限電圧信号Svxを生成する。
図28Bに示す制限信号生成部20Bの場合、第4関数演算部218は、電流検出増幅器U2から出力される電流検出信号Scに応じた上限電圧信号Svxを生成する。
【0209】
図29Cに示す第4関数演算部218は、例えば
図7Aに示す第1関数演算部213と同様な折れ線近似関数を実現するアナログ演算回路によって構成してもよいし、少なくとも一部を
図7Bに示す第1関数演算部213のようなデジタル回路によって構成してもよい。
【0210】
誤差増幅部220は、上限電圧信号Svxが示す素子電圧Vdsと電圧検出信号Svが示す素子電圧Vdsとの誤差を増幅し、当該増幅した誤差に応じた制限信号Stを生成する。例えば誤差増幅部220は、上限電圧信号Svxと電圧検出信号Svとの差を増幅した信号を制限信号Stとして出力する。
図28A及び24Bに示す制限信号生成部20Bの場合、誤差増幅部220は、第4関数演算部218が出力する上限電圧信号Svxと、補正部22Bが出力する電圧検出信号S22vとの差を増幅する。
図28Cに示す制限信号生成部20Bの場合、誤差増幅部220は、第4関数演算部218が出力する上限電圧信号Svxと、電圧検出増幅器U1から出力される電圧検出信号Svとの差を増幅する。
【0211】
ここで、補正部22Bにより電圧検出信号Svや電流検出信号Scが補正されていない場合を考える。この場合、第4関数演算部218は、所定の第4関数F4に従って、電流検出信号Scが示す素子電流Idに対応した素子電圧Vdsを示す上限電圧信号Svxを出力する。第4関数F4は、素子電流Idと、この素子電流Idにおいて第1ASO内に含まれる上限の素子電圧Vdsとを対応付ける関数であるため、上限電圧信号Svxは、電流検出信号Scが示す素子電流Idにおいて第1ASO内に含まれる上限の素子電圧Vdsに対応した信号である。誤差増幅部220は、この上限電圧信号Svxから、素子電圧Vdsを示す電圧検出信号Svを減算して増幅し、制限信号Stとして出力する。従って、検出した素子電圧Vdsが、第4関数F4に従って得られた上限の素子電圧Vdsより小さい場合、上限電圧信号Svxから電圧検出信号Svを減算した信号が正になる。ここで、誤差増幅部220のゲインが十分に大きいものとすると、制限信号Stの電圧が大きくなり、入力信号Siに対して制限が加わる信号レベルが高くなるため、入力信号SAiがそのまま入力信号Siとして増幅器1に入力される。一方、検出した素子電圧Vdsが、第4関数F4に従って得られた上限の素子電圧Vdsより僅かに大きくなると、制限信号Stの電圧が小さくなり、入力信号制限部10において入力信号Siの信号レベルが制限されて、電圧検出信号Svが小さくなる。これにより、電圧検出信号Svが上限電圧信号Svxと略等しくなり、素子電圧Vdsが第1ASOの許容範囲に制限される。これは、別の言い方をすると、制限緩和信号Sr1が与えられないときに、トランジスタMの素子電圧Vdsが第1ASOの許容範囲に収まるように負帰還がかけられていると言うこともできる。
【0212】
第4関数演算部218の第4関数F4は、ASOにおける電流制限領域、熱制限領域、S/B領域、電圧制限領域のうち、少なくとも一つの制限領域を近似するものであってよい。第4関数演算部218の第4関数F4が近似していない制限領域については、他の手段によってトランジスタMの保護を行ってもよい。
【0213】
(補正部22B)
図28A及び
図28Bに示す補正部22Bは、第3補正演算部223を有する。第3補正演算部223は、トランジスタMの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号Sr1を入力し、トランジスタMの動作状態に応じて素子電圧Vdsの見かけ上の検出値が小さくなるように、信号生成部21Bに入力される電圧検出信号Svを制限緩和信号Sr1に応じて補正する演算を行う。すなわち第3補正演算部223は、電圧検出信号Svを制限緩和信号Sr1に応じて補正し、この補正により生成した電圧検出信号S22vを電圧検出信号Svの代わりに信号生成部21Bへ入力する。
【0214】
図30A~
図30Cは、
図28A及び
図28Bに示す補正部22Bにおける第3補正演算部223の一例を示す図である。
図30A~
図30Cに示す第3補正演算部223は、例えば、既に説明した
図12A~
図12Cに示す第1補正演算部221と同様な構成を有する。すなわち、第3補正演算部223は、
図12A~
図12Cに示す第1補正演算部221における信号S22を電圧検出信号S22vとして信号生成部21Bに入力したものであってもよい。
【0215】
図28A及び
図28Cに示す補正部22Bは、第4補正演算部224を有する。第4補正演算部224は、トランジスタMの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号Sr1を入力し、トランジスタMの動作状態に応じて素子電流Idの見かけ上の検出値が小さくなるように、信号生成部21Bに入力される電流検出信号Scを制限緩和信号Sr1に応じて補正する演算を行う。すなわち第4補正演算部224は、電流検出信号Scを制限緩和信号Sr1に応じて補正し、この補正により生成した電流検出信号S22cを電流検出信号Scの代わりに信号生成部21Bへ入力する。
【0216】
図31A~
図31Cは、
図28A及び
図28Cに示す補正部22Bにおける第4補正演算部224の一例を示す図である。
図31A~
図31Cに示す第4補正演算部224は、例えば、既に説明した
図12A~
図12Cに示す第1補正演算部221と同様な構成を有する。すなわち、第3補正演算部223は、
図12A~
図12Cに示す第1補正演算部221における入力Xへ電圧検出信号Svの代わりに電流検出信号Scを入力し、信号S22を電圧検出信号S22vとして信号生成部21Bに入力したものであってもよい。
【0217】
以上説明したように、本実施形態によれば、入力信号制限部10において、増幅器1のトランジスタMに生じる損失電力などが制限されるように、増幅器1への入力信号Siが制限信号Stに応じて制限される。制限信号生成部20Bでは、電圧検出信号Svと電流検出信号Scとに応じて、トランジスタMを第1ASO内で動作させるように入力信号Siを制限する制限信号Stが生成される。また制限緩和信号生成部30では、トランジスタMの間歇的な動作に応じて変化する所定の信号(例えば入力信号SAi)に基づいて、トランジスタMの間歇的な動作の動作状態に応じた制限緩和信号Sr1が生成される。そして制限信号生成部20Bでは、制限緩和信号Sr1に応じて、第2ASO内でトランジスタMを動作させつつ入力信号Siの制限を緩和するように、制限信号Stが補正される。これにより、トランジスタMが間歇的に動作する場合は、定常的に動作する場合よりも素子電流Idと素子電圧Vdsの許容範囲が広い第2ASOにおいてトランジスタを動作させることが可能となる。
【0218】
上記の実施形態では、信号源3から入力信号制限部10へ入力信号SAiが入力される例を挙げたが、本発明はこの例に限定されない。本発明の他の実施形態では、信号源に入力信号制限部が含まれていてもよく、信号源に与えられた信号波形の情報(周波数、振幅などの設定値)を入力信号として入力信号制限部が制限してもよい。その場合、与えられた信号波形の情報(入力信号)に基づいて、制限緩和信号生成部が制限緩和信号を生成してもよい。
【0219】
上記の実施形態では、線形増幅器(リニアアンプ)に用いられるトランジスタを保護する場合を例に挙げているが、スイッチング動作をするトランジスタを保護する場合についても本発明は適用可能である。
【0220】
上記の実施形態では、増幅器としてプッシュプル回路を例に挙げたが、その他の回路方式の増幅器(シングル回路など)にも本発明は適用可能である。
【0221】
上記の実施形態で、増幅器をトランジスタ回路として備えた回路装置の例を挙げたが、本発明は増幅器以外のトランジスタ回路(電子負荷装置など)を備えた回路装置にも適用可能である。
【0222】
上記の実施形態の説明では、トランジスタの一例としてMOS-FETを挙げているが、GaNFET、SiCFET、バイポーラトランジスタなど、様々な種類のトランジスタを保護する場合にも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0223】
1…増幅器、2、2A、2B…トランジスタ保護装置、10…入力信号制限部、20、20A、20B…制限信号生成部、21、21A、21B…信号生成部、211…第1逆比例演算部、212…第2逆比例演算部、213…第1関数演算部、214…第2関数演算部、215…損失電力演算部、216、218、219…誤差増幅部、217…第3関数演算部、218…第4関数演算部、22、22A、22B…補正部22、221…第1補正演算部、222…第2補正演算部、223…第3補正演算部、224…第4補正演算部、30…制限緩和信号生成部、31…パルス信号発生部、32…ハイパスフィルタ、33…振幅検出部、331…絶対値部、332…ピーク検出部