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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120425
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】動静脈圧測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20240829BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
A61B5/022 100A
A61B5/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027217
(22)【出願日】2023-02-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】518444613
【氏名又は名称】LaView株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100142918
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 貴志
(72)【発明者】
【氏名】益田 博之
(72)【発明者】
【氏名】松本 新吾
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA07
4C017AA08
4C017AC04
4C017AD01
4C017BC11
4C017FF08
(57)【要約】
【課題】より簡便な方法で血圧を測定することが可能な動静脈圧測定装置を提供する。
【解決手段】動静脈圧測定装置10は、圧力センサ34と、積算器42と、演算部441とを備える。圧力センサ34は、圧迫帯20の内部の圧力を検出する。積算器42は、圧迫帯20の内部に存在する空気の容量VAを検出する。演算部441は、圧迫帯20の内部から空気を排出させている際に圧力センサ34により検出される圧迫帯20の内部圧力Pと、積算器42により検出される圧迫帯20の空気容量VAとに基づいて被験者の血圧を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に装着された圧迫帯の内部に流体を流入することにより前記圧迫帯の内部の圧力を上昇させる流体流入部と、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出することにより前記圧迫帯の内部の圧力を低下させる流体排出部と、
前記圧迫帯の内部圧力を検出する圧力検出部と、
前記圧迫帯の内部に存在する前記流体の容量を検出する容量検出部と、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出させている際に前記圧力検出部により検出される前記圧迫帯の内部圧力と、前記容量検出部により検出される前記圧迫帯の流体容量とに基づいて前記被験者の血圧を演算する演算部と、を備える
動静脈圧測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記被験者の血圧として、前記被験者の静脈圧を演算する
請求項1に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記被験者の血圧として、前記被験者の動脈圧を演算する
請求項1に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記圧迫帯の内部圧力に対して前記圧迫帯の流体容量を一階微分した値である一次微分値を演算し、
前記一次微分値と前記圧迫帯の内部圧力とに基づいて前記被験者の血圧を演算する
請求項1に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記一次微分値が極大値を示したときの前記圧迫帯の内部圧力に基づいて前記被験者の血圧を演算する
請求項4に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項6】
前記一次微分値の推移を表示する表示部を更に備える
請求項4に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項7】
前記演算部は、
前記圧迫帯の内部圧力に対して前記圧迫帯の流体容量を二階微分した値である二次微分値を演算し、
前記二次微分値と前記圧迫帯の内部圧力とに基づいて前記被験者の血圧を演算する
請求項1に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記二次微分値がゼロクロスしたときの前記圧迫帯の内部圧力に基づいて前記被験者の血圧を演算する
請求項7に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項9】
前記演算部は、前記二次微分値が極小値を示したときの前記圧迫帯の内部圧力に基づいて前記被験者の血圧を演算する
請求項7に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項10】
前記二次微分値の推移を表示する表示部を更に備える
請求項7に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項11】
前記圧迫帯の内部から排出される前記流体の流量を検出する流量検出部を更に備え、
前記容量検出部は、前記流量検出部により検出される前記流体の流量の積算値に基づいて前記圧迫帯の流体容量を算出する
請求項1に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項12】
前記演算部は、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出させている際に前記圧力検出部により検出される前記圧迫帯の内部圧力と、前記容量検出部により検出される前記圧迫帯の流体容量とに基づいて、前記圧迫帯が装着されている前記被験者の部位に存在する管腔部が閉じた状態から開き始める時点である開口開始時点と、前記管腔部の開口が終了する時点である開口終了時点とを検出し、
前記開口開始時点で前記圧力検出部及び前記容量検出部によりそれぞれ検出される前記圧迫帯の第1内部圧力及び第1流体容量と、前記開口終了時点で前記圧力検出部及び前記容量検出部によりそれぞれ検出される前記圧迫帯の第2内部圧力及び第2流体容量とに基づいて、前記圧迫帯が装着されている前記被験者の部位に存在する前記管腔部の容量を更に演算する
請求項1に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項13】
前記演算部は、前記管腔部の容量と、前記第1内部圧力と、前記第2内部圧力とに基づいて血管のコンプライアンスを更に演算する
請求項12に記載の動静脈圧測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動静脈圧測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
循環血液量の過不足や、心機能の低下、ショック、脱水等の状況を把握するために、動脈及び静脈の穿刺やカテーテル等を用いて動脈圧や静脈圧が測定されることがある。下記の特許文献1に記載の測定装置では、被験者の血管内にカテーテルを挿入することにより被験者の中心静脈圧を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-173952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動脈及び静脈の圧情報を同時に収集するためには、特許文献1に記載の測定装置のように被験者の血管内にカテーテルを挿入するような侵襲的な測定方法が必要となるが、その測定のために専用の装置等が必要になるため、小規模の医院で採用することが困難であるという実情がある。また、観血的な測定となるため、血管損傷や塞栓症、また感染等の重篤な合併症の懸念も残り、患者の負担も大きい。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より簡便で安全な方法で血圧を測定することが可能な動静脈圧測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する動静脈圧測定装置は、流体流入部と、流体排出部と、圧力検出部と、容量検出部と、演算部と、を備える。流体流入部は、被験者に装着された圧迫帯の内部に流体を流入することにより圧迫帯の内部の圧力を上昇させる。流体排出部は、圧迫帯の内部から流体を排出することにより圧迫帯の内部の圧力を低下させる。圧力検出部は、圧迫帯の内部圧力を検出する。容量検出部は、圧迫帯の内部に存在する流体の容量を検出する。演算部は、圧迫帯の内部から流体を排出させている際に圧力検出部により検出される圧迫帯の内部圧力と、容量検出部により検出される圧迫帯の流体容量とに基づいて被験者の血圧を演算する。
【0006】
この構成によれば、被験者にカテーテル等を挿入することなく、すなわち非侵襲的に被験者の血圧を検出することができるため、より簡便で安全な方法で血圧を計測することが可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の動静脈圧測定装置によれば、より簡便で安全な方法で血圧を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の動静脈圧測定装置の概略構成を示すブロック図。
図2】圧迫帯から空気が排出されている際の圧迫帯の内部圧力に対する内部空気容量の推移を示すグラフ。
図3】圧迫帯から空気が排出されている際の圧迫帯の内部圧力に対する内部空気容量の推移を示すグラフ。
図4】圧迫帯から空気が排出されている際の圧迫帯の内部圧力に対する一次微分値の推移を示すグラフ。
図5】第1実施形態の制御装置により実行される処理の手順を示すフローチャート。
図6】第1実施形態の動静脈圧測定装置により計測された血圧の測定値と参考例の血圧の測定値とを比較して示すグラフ。
図7】圧迫帯から空気が排出されている際の圧迫帯の内部圧力と二次微分値との関係を示すグラフ。
図8】第2実施形態の制御装置により実行される処理の手順を示すフローチャート。
図9】圧迫帯から空気が排出されている際の圧迫帯の内部圧力に対する内部空気容量の推移を示すグラフ。
図10】圧迫帯から空気が排出されている際の経過時間に対する圧迫帯の内部圧力及び二次微分値のそれぞれの推移を比較して示すグラフ。
図11】圧迫帯から空気が排出されている際の経過時間に対する一次微分値及び二次微分値のそれぞれの推移を比較して示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、動静脈圧測定装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
<第1実施形態>
(動静脈圧測定装置の構成)
はじめに、動静脈圧測定装置の第1実施形態について説明する。図1に示される動静脈圧測定装置10は、被験者の末梢静脈圧を非侵襲的に測定することが可能な装置である。図1に示されるように、動静脈圧測定装置10は、圧迫帯20と、空気ポンプ30と、切替弁31と、流量センサ32と、比例弁33と、圧力センサ34とを備えている。
【0010】
圧迫帯20は、生体である人体の一部、具体的には上腕50に巻き付けられる袋状の部材である。圧迫帯20は「カフ」とも称される。圧迫帯20の内部には空気を供給することが可能である。圧迫帯20の内部に空気が供給されて圧迫帯の内部の圧力が高くなると、圧迫帯20が上腕50を圧迫する。圧迫帯20の内部から空気が排出されると、圧迫帯20による上腕50の圧迫が開放される。
【0011】
空気ポンプ30は配管35を通じて圧迫帯20に接続されている。空気ポンプ30は、配管35を通じて圧迫帯20に空気を圧送する。空気ポンプ30により圧迫帯20に圧送された空気が圧迫帯20の内部に供給されることにより、圧迫帯20の内圧が上昇する。このように、本実施形態では、空気が、圧迫帯20の内部に供給される流体に相当する。また、空気ポンプ30が、圧迫帯20の内部に空気を流入することにより圧迫帯20の内部の圧力を上昇させる流体流入部に相当する。
【0012】
配管35の途中には、空気ポンプ30の側から切替弁31、流量センサ32、及び比例弁33が順に配置されている。
切替弁31は、配管35を空気ポンプ30に接続する供給状態と、配管35を排出管36に接続する排出状態とを選択的に切り替える。切替弁31が供給状態である場合、空気ポンプ30から配管35を通じて圧迫帯20に空気が供給される。切替弁31が排出状態である場合、圧迫帯20の内部の空気が配管35及び排出管36を通じて外部に排出される。このように、本実施形態では、切替弁31が、圧迫帯20の内部から空気を排出することにより圧迫帯20の内部の圧力を低下させる流体排出部に相当する。
【0013】
流量センサ32は、配管35を流れる空気の流量を検出するとともに、検出された空気の流量に応じた信号を出力する。空気ポンプ30から配管35を通じて圧迫帯20に空気が供給されている場合、流量センサ32は、圧迫帯20の内部に供給される空気の流量である空気供給量を検出する。圧迫帯20から配管35及び排出管36を通じて空気が排出されている場合、流量センサ32は、圧迫帯20の内部から排出される空気の流量である空気排出量を検出する。本実施形態では、流量センサ32が流量検出部に相当する。
【0014】
比例弁33は、空気ポンプ30から配管35を通じて圧迫帯20の内部に空気が供給されている際には、圧迫帯20に供給される空気の流量を調整する。比例弁33は、圧迫帯20の内部から配管35及び排出管36を通じて空気が排出されている際には、圧迫帯20から排出される空気の流量を調整する。
【0015】
圧力センサ34は、配管35における比例弁33と圧迫帯20との間の途中から分岐する分岐管37に設けられている。圧力センサ34は、比例弁33と圧迫帯20との間の途中部分における配管35内の空気の圧力、換言すれば圧迫帯20の内部圧力を検出する。このように、本実施形態では、圧力センサ34が、圧迫帯20の内部圧力を検出する圧力検出部に相当する。
【0016】
図1に示されるように、動静脈圧測定装置10は、A/Dコンバータ40,41と、積算器42と、フィルタ回路43と、制御装置44と、表示装置45とを更に備えている。
A/Dコンバータ40には流量センサ32の出力信号が取り込まれている。A/Dコンバータ40は、流量センサ32の出力信号をアナログ信号からデジタル値に所定の周期で変換する。変換されたデジタル値は、流量センサ32により検出される空気の流量、換言すれば配管35を流れる空気流量の値を示すものである。A/Dコンバータ40は、変換された空気流量のデジタル値を積算器42に出力する。以下では、A/Dコンバータ40により変換された空気流量Qのデジタル値を「配管35の空気流量Qの検出値」とも称する。
【0017】
A/Dコンバータ41には圧力センサ34の出力信号が取り込まれている。A/Dコンバータ41は、圧力センサ34の出力信号をアナログ信号からデジタル値に所定の周期で変換する。変換されたデジタル値は、圧力センサ34により検出された空気の圧力、換言すれば圧迫帯20の内部圧力の値を示すものである。A/Dコンバータ40は、変換された圧迫帯20の内部圧力のデジタル値をフィルタ回路43に出力する。以下では、A/Dコンバータ40により変換された圧迫帯20の内部圧力のデジタル値を「圧迫帯20の内部圧力Pの検出値」とも称する。
【0018】
積算器42は、A/Dコンバータ40から逐次出力される配管35の空気流量Qの検出値を積算することにより、圧迫帯20の内部に存在する空気の体積である空気容量VAを演算する。例えば、積算器42は、空気ポンプ30から圧迫帯20への空気の供給を開始した時点から、その空気の供給を停止した時点までにA/Dコンバータ40から逐次出力される配管35の空気流量Qの検出値を積算することにより圧迫帯20の空気容量VAを演算する。圧迫帯20への空気の供給を開始した時点としては、例えば切替弁31を供給状態に切り替え、且つ空気ポンプ30を作動させた時点が用いられる。圧迫帯20への空気の供給を停止した時点としては、例えば空気ポンプ30を停止した時点が用いられる。積算器42は、圧迫帯20への空気の供給が終了した時点での圧迫帯20の空気容量VAを最大空気容量Vmaxとして保持する。
【0019】
一方、積算器42は、圧迫帯20からの空気の排出を開始した時点からA/Dコンバータ40から逐次出力される配管35の空気流量Qの検出値を積算するとともに、その積算値を最大空気容量Vmaxから減算することにより、現在の圧迫帯20の空気容量VAの推定値を演算する。圧迫帯20からの空気の排出を開始した時点としては、例えば切替弁31を排出状態に切り替えた時点が用いられる。
【0020】
このように、本実施形態の積算器42は、圧迫帯20に空気が供給されているときだけでなく、圧迫帯20から空気が排出されているときにも圧迫帯20の内部の空気容量VAを演算する。積算器42は、演算された圧迫帯20の現在の空気容量VAの情報を制御装置44に出力する。このように、本実施形態では、積算器42が、圧迫帯20の内部に存在する空気の容量を検出する容量検出部に相当する。
【0021】
フィルタ回路43は、A/Dコンバータ41から逐次出力される圧迫帯20の内部圧力Pの検出値を平滑化するとともに、平滑化された内部圧力Pの検出値を制御装置44に出力する。
制御装置44は、CPUや記憶装置等を有するマイクロコンピュータを中心に構成されている。制御装置44は、その記憶装置に記憶されるプログラムを実行することにより実現される機能的な構成として、圧力調整部440と、演算部441と、表示部442とを備えている。
【0022】
圧力調整部440は、空気ポンプ30、切替弁31、及び比例弁33等の動作を制御することにより圧迫帯20の内圧を変化させる。例えば、圧力調整部440は、切替弁31を供給状態に切り替えた後に空気ポンプ30を作動させることにより圧迫帯20の内部圧力を所定圧力まで上昇させる。その際、圧力調整部440は、比例弁33を制御することにより、圧迫帯20に供給される空気の流量を調整する。例えば、圧力調整部440は、単位時間当たりに一定流量の空気が圧迫帯20に供給されるように比例弁33を制御する。その後、圧力調整部440は、空気ポンプ30を停止させた後に切替弁31を排出状態に切り替えることにより圧迫帯20の内部圧力を低下させる。その際、圧力調整部440は、比例弁33を制御することにより、圧迫帯20から排出される空気の流量を調整する。例えば、圧力調整部440は、単位時間当たりに一定流量の空気が圧迫帯20から排出されるように比例弁33を制御する。
【0023】
演算部441は、圧迫帯20からの空気の排出を開始した時点から、具体的には切替弁31が供給状態から排出状態に切り替わった時点から、積算器42により算出される圧迫帯20の空気容量VAと、フィルタ回路43により算出される圧迫帯20の内部圧力とを監視する。演算部441は、圧迫帯20の内部圧力に対して圧迫帯20の空気容量VAを一階微分した値である一次微分値を演算するとともに、この一次微分値に基づいて、圧迫帯20により圧迫された上腕50の血管が圧平状態から開口状態に変化したか否かを判断する。演算部441は、圧迫帯20により圧迫された上腕50の血管が圧平状態から開口状態に変化したことを検出すると、その時点でフィルタ回路43により算出されている圧迫帯20の内部圧力を被験者の静脈圧として算出する。
【0024】
表示部442は、演算部441により演算された被験者の静脈圧の情報等を表示装置45に表示する。表示装置45は液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等である。
(血圧の演算原理)
次に、演算部441による血圧の演算原理について説明する。
【0025】
圧迫帯20に空気を供給することにより圧迫帯20の内部圧力が上昇して、圧迫帯20の内部圧力が被験者の血圧よりも高くなると、血管が圧迫帯20により押しつぶされた圧平状態となる。その後、圧迫帯20から空気を排出すると圧迫帯20の内部圧力Pと内部容積Vは例えば図2に示されるように変化する。
【0026】
図2に矢印で示されるように、圧迫帯20から空気が排出されると、圧迫帯20の内部圧力P及び内部容積Vは徐々に減少していく。そして、圧迫帯20の内部圧力Pが血圧よりも低くなると、図2に示されるように血管Bが圧平状態から開口状態へと遷移する。血管Bが開口する際に血管Bの体積が増加するため、それにより圧迫帯20に対して外側に押し広げる力が働く。これにより圧迫帯20の内部容積Vがより大きく減少する。例えば図2に示されるように圧迫帯20の内部圧力Pが「P10」まで低下した際に血管Bが圧平状態から開口状態に遷移したとすると、圧迫帯20の内部圧力P及び内部容積Vとの関係は図2に実線で示されるように変化する。実線で示される圧迫帯20の内部圧力Pに対する内部容積Vの変化は、図中に一点鎖線で示される内部圧力Pに対する内部容積Vの変化よりも大きくなる。一点鎖線は、血管Bが圧平状態であるとき、換言すれば圧迫帯20の内部圧力Pが「P10」よりも大きいときの圧迫帯20の内部圧力P及び内部容積Vとの関係を外挿したものである。
【0027】
図3は、図2における二点鎖線の部分を拡大して示したものである。圧迫帯20から空気が排出されている際には、圧迫帯20の内部容積Vが減少するとともに、圧迫帯20の内部圧力Pも減少する。そして、圧迫帯20の内部圧力Pが「P10」まで低下した際に血管が開口し始めたとすると、血管により圧迫帯20が押し広げられることにより、圧迫帯20の内部容積Vがより大きく減少する一方、圧迫帯20の内部圧力Pが一瞬だけ上昇する。そのため、図3に示されるように、圧迫帯20の内部圧力Pは「P10」から「P11」まで一瞬増加した後、再び減少に転じる。したがって、この圧迫帯20の内部圧力Pの変化を検出することができれば、血管が圧平状態から開口状態に遷移したか否かを精度良く検出することが可能である。但し、被験者の静脈圧を測定する場合、圧迫帯20の内部圧力Pの変化は非常に微少であるため、その変化を検出し難いという課題がある。
【0028】
一方、圧迫帯20の内部圧力Pの変化量に対する内部容積Vの変化量、換言すれば内部圧力Pに対する内部容積Vの一次微分値dV/dPを用いれば、圧迫帯20の内部圧力Pの変化を強調することができるため、血管が圧平状態から開口状態に遷移したか否かを、より確実に検出することが可能である。しかしながら、圧迫帯20の内部容積Vは直接検出することは困難である。そこで、本実施形態の動静脈圧測定装置10では、圧迫帯20の内部容積Vの変化量に代えて、圧迫帯20の空気容量VAの変化量を用いることにより、血管が圧平状態から開口状態に遷移したか否かを判断するようにしている。圧迫帯20の内部容積Vの変化量に代えて圧迫帯20の空気容量VAの変化量を用いることができる理由は以下の通りである。
【0029】
まず、圧迫帯20の内部圧力P、内部容積V、及び圧迫帯20の内部の空気質量mは以下の式f1の関係を有している。なお、式f1において、「R」は気体定数であり、「T」は圧迫帯20の内部の温度である。
P×V=m×R×T (f1)
この式f1の両辺を内部圧力Pで微分すると、以下の式f2を得ることができる。
【0030】
dV/dP=R×T×{(dm/dP)/P-m/P} (f2)
内部圧力Pが十分小さいと仮定すると、一次微分値dV/dPは以下の式f3のように近似することができる。
【0031】
dV/dP≒(R×T/P)(dm/dP) (f3)
式f3から明らかなように、内部圧力Pの変化量に対する内部容積Vの変化量は、内部圧力Pの変化量に対する圧迫帯20の内部の空気質量mの変化量として求めることが可能である。圧迫帯20の内部の空気質量mは圧迫帯20の空気容量VAと相関関係を有している。結果的に、内部圧力Pの変化量に対する内部容積Vの変化量は、内部圧力Pの変化量に対する圧迫帯20の空気容量VAの変化量として求めることが可能である。
【0032】
図4は、圧迫帯20から空気が排出されている際の圧迫帯20の内部圧力Pに対する空気容量VAの一次微分値dVA/dPを求めた上で、その一次微分値dVA/dPを縦軸とし、内部圧力Pを横軸として、それらの関係を示したグラフである。図4に示されるように、一次微分値dVA/dPは、内部圧力Pが「P11」を示したときに、すなわち血管が圧平状態から開口状態へ遷移した際に極大値を示す。したがって、一次微分値dVA/dPが極大値を示したときの内部圧力Pを用いれば、被験者の血圧を検出することが可能である。
【0033】
(制御装置により実行される処理の流れ)
次に、図5を参照して、上記の原理を利用して制御装置44により実行される静脈圧の測定処理の具体的な手順について説明する。なお、制御装置44は、図5に示される処理を所定の周期で繰り返し実行している。
【0034】
図5に示されるように、制御装置44の演算部441は、まず、圧迫帯20からの空気の排出が開始されたか否かを判断する(ステップS10)。演算部441は、例えば切替弁31が供給状態である場合、圧迫帯20からの空気の排出が開始されていないと判断して(ステップS10:NO)、図5に示される処理を一旦終了する。
【0035】
演算部441は、切替弁31が排出状態に切り替えられた場合、圧迫帯20からの空気の排出が開始されたと判断する(ステップS10:YES)。この場合、演算部441は、積算器42から圧迫帯20の現在の空気容量VAの情報を取得するとともに(ステップS11)、フィルタ回路43から圧迫帯20の現在の内部圧力Pの情報を取得する(ステップS12)。そして、演算部441は、一次微分値dVA/dPを演算して(ステップS13)、演算された一次微分値dVA/dPが極大値を示したか否かを判断する(ステップS14)。演算部441は、一次微分値dVA/dPが極大値を示していない場合(ステップS14:NO)、ステップS11の処理に戻り、圧迫帯20の空気容量VA及び内部圧力Pの取得、及び一次微分値dVA/dPの演算を継続する。
【0036】
演算部441は、一次微分値dVA/dPが極大値を示した場合(ステップS14:YES)、そのときの内部圧力Pに基づいて被験者の血圧を検出する(ステップS15)。そして、表示部442は、演算部441により検出された被験者の血圧を表示装置45に表示する(ステップS16)。
【0037】
(作用及び効果)
以上のように、本実施形態の動静脈圧測定装置10は、空気ポンプ30と、切替弁31と、圧力センサ34と、積算器42と、演算部441とを備える。空気ポンプ30は、被験者に装着された圧迫帯20の内部に空気を流入することにより圧迫帯20の内部の圧力を上昇させる。切替弁31は、圧迫帯20の内部から空気を排出することにより圧迫帯20の内部の圧力を低下させる。圧力センサ34は、圧迫帯20の内部の圧力を検出する。積算器42は、圧迫帯20の内部に存在する空気の容量VAを検出する。演算部441は、圧迫帯20の内部から空気を排出させている際に圧力センサ34により検出される圧迫帯20の内部圧力Pと、積算器42により検出される圧迫帯20の空気容量VAとに基づいて被験者の血圧を検出する。
【0038】
この構成によれば、被験者にカテーテル等を挿入することなく、すなわち非侵襲的に被験者の血圧を検出することができる。また、上記の方法により血圧を測定することにより、動脈圧と比較して血圧の小さい静脈圧を計測することが可能となるため、より簡便な方法で静脈圧を測定することが可能である。
【0039】
また、本実施形態の動静脈圧測定装置10は、カテーテルを被験者に挿入して静脈血管の圧力を圧力センサにより直接測定した場合と略同程度の精度で被験者の血圧を計測することが可能である。図6は、本実施形態の動静脈圧測定装置10により検出された被験者の静脈圧の測定値と、カテーテルを用いて静脈圧を直接測定した場合の測定値との関係を示したものである。図6では、本実施形態の動静脈圧測定装置10により検出された被験者の静脈圧の測定値が「本実施形態の測定値y」として縦軸に記載され、カテーテルを用いて静脈圧を直接測定した場合の測定値が「参考例の測定値x」として横軸に記載されている。図6では、血圧の測定を複数回行った際の参考例の測定値xに対する本実施形態の測定値yが点でそれぞれ示されている。
【0040】
図6に示されるグラフでは、本実施形態の測定値yと参考例の測定値xとの関係が一致する場合、すなわち「x=y」を満たす関数が実線m10で示されている。図6に示される複数の点の近似式を求めたところ、破線m11で示されるような直線となった。破線m11は実線m10と略一致していることが分かる。したがって、本実施形態の動静脈圧測定装置10を用いれば、カテーテルを用いて静脈圧を直接測定した場合と略同程度の精度で被験者の血圧を測定することが可能である。
【0041】
演算部441は、圧迫帯20の内部圧力Pに対して空気容量VAを一階微分した値である一次微分値dVA/dPを演算する。演算部441は、この一次微分値dVA/dPと圧迫帯20の内部圧力Pとに基づいて、より具体的には一次微分値dVA/dPが極大値を示したときの内部圧力Pに基づいて被験者の血圧を演算する。
【0042】
この構成によれば、圧迫帯20の内部圧力Pの変化を検出し易くなるため、より精度良く被験者の血圧を検出することが可能となる。
動静脈圧測定装置10は流量センサ32を更に備える。流量センサ32は、圧迫帯20の内部から排出される空気の流量を検出する。積算器42は、圧迫帯20の内部から空気の排出を開始した時点から流量センサ32により検出される空気の流量の積算値に基づいて、圧迫帯20の空気容量VAを算出する。
【0043】
この構成によれば、圧迫帯20の空気容量VAを精度良く算出することが可能となる。
<第2実施形態>
次に、動静脈圧測定装置10の第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態の動静脈圧測定装置10との相違点を中心に説明する。
【0044】
(動静脈圧測定装置の構成)
本実施形態の動静脈圧測定装置10では、一次微分値dVA/dPに代えて、圧迫帯20の内部圧力Pに対して空気容量VAを二階微分した値である二次微分値dVA/dPを用いることにより、血管が圧平状態から開口状態に遷移したか否かを検出する。
【0045】
図7は、圧迫帯20から空気が排出されている際の圧迫帯20の内部圧力Pに対する空気容量VAの二次微分値dVA/dPを求めた上で、その二次微分値dVA/dPを縦軸とし、内部圧力Pを横軸として、それらの関係を示したグラフである。図7に示されるように、二次微分値dVA/dPは、内部圧力Pが「P11」を示したときに、すなわち血管が圧平状態から開口状態に遷移した際に正の値から負の値に向かって変化してゼロの値を示す。換言すれば、二次微分値dVA/dPはゼロクロスする。したがって、二次微分値dVA/dPがゼロクロスしたときの内部圧力Pを用いれば、被験者の血圧を検出することが可能である。
【0046】
(制御装置により実行される処理の流れ)
図8は、本実施形態の制御装置44により実行される静脈圧の測定処理の具体的な手順を示したものである。なお、図8に示される各処理のうち、図5に示される処理と同一の処理には同一の符号を付すことにより重複する説明は割愛する。
【0047】
図8に示されるように、制御装置44の演算部441は、ステップS12の処理に続いて、二次微分値dVA/dPを演算して(ステップS20)、演算された二次微分値dVA/dPがゼロクロスしたか否かを判断する(ステップS21)。演算部441は、二次微分値dVA/dPがゼロクロスしていない場合(ステップS21:NO)、ステップS11の処理に戻る。一方、演算部441は、二次微分値dVA/dPがゼロクロスした場合(ステップS21:YES)、ステップS15以降の処理を実行する。
【0048】
(作用及び効果)
以上のように、本実施形態の動静脈圧測定装置10では、演算部441が、圧迫帯20の内部圧力Pに対して空気容量VAを二階微分した値である二次微分値dVA/dPを演算する。演算部441は、二次微分値dVA/dPと圧迫帯20の内部圧力Pとに基づいて、より具体的には二次微分値dVA/dPがゼロクロスしたときの内部圧力Pに基づいて被験者の血圧を演算する。
【0049】
この構成によれば、圧迫帯20の内部圧力Pの変化を検出し易くなるため、より精度良く被験者の血圧を検出することが可能となる。
(変形例)
被験者の血管の状態等によっては、血管が圧平状態から開口状態に遷移する時点が、二次微分値dVA/dPがゼロクロスした時点からずれる可能性がある。そこで、例えば図7に示されるグラフにおいて二次微分値dVA/dPが極小値を示したときの内部圧力P12や、二次微分値dVA/dPが極大値を示したときの内部圧力P13に基づいて被験者の血圧を検出してもよい。
【0050】
<第3実施形態>
次に、動静脈圧測定装置10の第3実施形態について説明する。以下、第1実施形態の動静脈圧測定装置10との相違点を中心に説明する。
(動静脈圧測定装置の構成)
本実施形態の動静脈圧測定装置10は、圧迫帯20により押しつぶされている静脈等の管腔部の容量を更に演算する。
【0051】
図9は、圧迫帯20の内部圧力Pの低下に伴って静脈等の管腔部が開口する際、圧迫帯20の内部圧力Pに対する内部容積Vの推移を示したグラフである。図8では、管腔部が圧平状態から開口を開始した時点の内部圧力Pが「P20」で示され、管腔部の開口が終了した時点の内部圧力Pが「P21」で示されている。
【0052】
内部圧力PがP20からP21まで変化する際、圧迫帯20の内部圧力Pと内部容積Vとの関係は、管腔部が開口する速度に応じて例えば矢印m20や矢印m21で示されるように変化する。具体的には、管腔部が開口する速度が遅い場合、圧迫帯20の内部圧力Pに対して内部容積Vは矢印m20に示されるように変化する。一方、管腔部が開口する速度が速い場合、圧迫帯20の内部圧力Pに対して内部容積Vは矢印m21に示されるように変化する。
【0053】
圧迫帯20の内部圧力Pに対して内部容積Vが矢印m20で示されるように変化する場合、内部圧力Pが「P20」から変化し始めたときに二次微分値dVA/dPは正の値を示す。これに対して、圧迫帯20の内部圧力Pに対して内部容積Vが矢印m21で示されるように変化する場合、内部圧力Pが「P20」から変化し始めたときに二次微分値dVA/dPは負の値を一旦示した後に正の値へと変化する。したがって、内部圧力Pが「P20」から変化し始めたときに二次微分値dVA/dPが正の値を示した場合には管腔部の開口速度が遅いと判断することができ、また二次微分値dVA/dPが負の値を示した場合には管腔部の開口速度が速いと判断することができる。このように、内部圧力Pが「P20」から変化し始めたときの二次微分値dVA/dPの符号に基づいて管腔部の開口速度を判断することが可能である。
【0054】
また、管腔部が開口を開始した時点の内部圧力Pである「P20」と、管腔部の開口が終了した時点の内部圧力Pである「P21」との差が小さくなるほど、一次微分値dVA/dPの絶対値が大きくなる。したがって、一次微分値dVA/dPの絶対値に基づいて、管腔部が開口を開始した時点から開口を終了した時点までの速度等の情報、換言すれば管腔部の開口過程の情報を得ることが可能である。
【0055】
さらに、管腔部が開口を開始した時点の内部圧力Pである「P20」と、管腔部の開口が終了した時点の内部圧力Pである「P21」とから、以下の式f4に基づいて、圧迫帯20により圧迫されている管腔部の容量VLを演算することが可能である。なお、式f4において、「V20」は、内部圧力P20が検出された時点の圧迫帯20の内部容積を示し、「V21」は、内部圧力P21が検出された時点の圧迫帯20の内部容積を示す。
【0056】
VL=V20-V21 (f4)
この式f4は、上記f1を用いることにより以下の式f5のように変形することができる。なお、式f5において、「m20」は、管腔部が開口を開始した時点の圧迫帯20の内部の空気質量を示し、「m21」は、管腔部の開口が終了した時点の圧迫帯20の内部の空気質量を示す。
【0057】
VL={(m20/P20)-(m21/P21)}×R×T (f5)
上述の通り、圧迫帯20の内部の空気質量mは圧迫帯20の空気容量VAと相関関係を有している。そのため、管腔部が開口を開始した時点の圧迫帯20の内部の空気質量m20に代えて、管腔部が開口を開始した時点の圧迫帯20の空気容量VA20を用いることが可能である。また、管腔部の開口が終了した時点の圧迫帯20の内部の空気質量m21に代えて、管腔部の開口が終了した時点の圧迫帯20の空気容量VA20を用いることが可能である。
【0058】
一方、管腔部が開口を開始した時点、及び管腔部の開口が終了した時点は、二次微分値dVA/dPを用いることにより検出することが可能である。例えば、二次微分値dVA/dPは、図7に示されるように変化する。この場合、管腔部が開口を開始する時点t10では、二次微分値dVA/dPがゼロから負の方向に大きく変化する。そのため、二次微分値dVA/dPがゼロから負の方向に大きく変化することに基づいて、管腔部が開口を開始したと判断することが可能である。また、二次微分値dVA/dPが負の値から正の値に変化した後にゼロを示した時点t11では、管腔部の開口が終了した状態となる。そのため、二次微分値dVA/dPがゼロクロスした後にゼロを示すことに基づいて、管腔部の開口が終了したと判断することが可能である。
【0059】
(制御装置により実行される処理の流れ)
制御装置44は上記の原理を利用して管腔部の容量VLを演算する。
具体的には、図1に破線で示されるように、動静脈圧測定装置10には、温度センサ46と、A/Dコンバータ47とが更に設けられている。温度センサ46は、配管35を流れる空気の温度を検出するとともに、検出された空気の温度に応じた信号を出力する。A/Dコンバータ47は、温度センサ46の出力信号をアナログ信号からデジタル値に変換するとともに、変換されたデジタル値を制御装置44に送信する。
【0060】
制御装置44の演算部441は、A/Dコンバータ47から送信されるデジタル値に基づいて、配管35を流れる空気の温度Tの情報を取得する。
また、演算部441は、二次微分値dVA/dPが負の方向に所定値を超えて変化したときに積算器42により演算された圧迫帯20の空気容量VAを、管腔部が開口を開始した時点の圧迫帯20の空気容量VA20として記憶する。また、演算部441は、二次微分値dVA/dPが負の方向に所定値を超えて変化したときにフィルタ回路43により演算された圧迫帯20の内部圧力Pを、管腔部が開口を開始した時点の圧迫帯20の内部圧力P20として記憶する。本実施形態では、内部圧力P20が第1内部圧力に相当し、空気容量VA20が第1流体容量に相当する。
【0061】
さらに、演算部441は、二次微分値dVA/dPがゼロクロスした後にゼロを示したときに積算器42により演算された圧迫帯20の空気容量VAを、管腔部の開口が終了した時点の圧迫帯20の空気容量VA21として記憶する。また、演算部441は、二次微分値dVA/dPがゼロクロスした後にゼロを示したときにフィルタ回路43により演算された圧迫帯20の内部圧力Pを、管腔部の開口が終了した時点の圧迫帯20の内部圧力P21として記憶する。本実施形態では、内部圧力P21が第2内部圧力に相当し、空気容量VA21が第2流体容量に相当する。
【0062】
そして、演算部441は、演算された内部圧力P20,P21、空気容量VA20,VA21、及び空気の温度Tに基づいて管腔部の容量VLを演算する。制御装置44の表示部442は、演算部441により演算された管腔部の容量VLの情報を表示装置45に表示する。
【0063】
(作用及び効果)
以上のように、本実施形態の動静脈圧測定装置10では、演算部441が、圧迫帯20内の圧力を低下させている際に圧力センサ34により検出される圧迫帯20の内部圧力Pと、積算器42により演算される圧迫帯20の空気容量VAとに基づいて、圧迫帯20により装着されている被験者の部位に存在する管腔部が閉じられた状態から開き始める時点である開口開始時点と、管腔部の開口が終了する時点である開口終了時点とを検出する。また、演算部441は、開口開始時点で圧力センサ34及び積算器42によりそれぞれ検出される圧迫帯20の第1内部圧力P20及び第1空気容量VA20と、開口終了時点で圧力センサ34及び積算器42によりそれぞれ検出される圧迫帯20の第2内部圧力P21及び第2空気容量VA21とに基づいて、圧迫帯20が装着されている被験者の部位に存在する管腔部の容量VLを演算する。
【0064】
この構成によれば、被験者の管腔部の容量VLの情報を更に取得することが可能となる。また、表示装置45を見ることにより管腔部の容量VLを把握することもできるため、被験者の血液量の情報を更に認知することが可能となる。
<第4実施形態>
次に、動静脈圧測定装置10の第4実施形態について説明する。以下、第1実施形態の動静脈圧測定装置10との相違点を中心に説明する。
【0065】
(動静脈圧測定装置の構成)
本実施形態の動静脈圧測定装置10は、血管の弾性を示すコンプライアンスの情報を更に演算する。
具体的には、血管のコンプライアンスVCは以下の式f6により演算することが可能である。なお、式f6において、「ΔV」は、血管が圧平状態から開口状態に遷移する際の圧迫帯20の内部容積Vの変化量を示し、「ΔP」は、血管が圧平状態から開口状態に遷移する際の圧迫帯の内部圧力Pの変化量を示す。
【0066】
VC=ΔV/ΔP (f6)
血管が圧平状態から開口状態に遷移する際の圧迫帯20の内部容積の変化量ΔV及び圧迫帯20の内部圧力の変化量ΔPは、第3実施形態で説明した、管腔部が開口を開始した時点における圧迫帯20の内部容積V20及び内部圧力P20、並びに管腔部の開口が終了した時点における圧迫帯20の内部容積V21及び内部圧力P21を用いて以下の式f7,f8に示されるように演算することができる。
【0067】
ΔV=V20-V21 (f7)
ΔP=P20-P21 (f8)
式f7に示される圧迫帯20の内部容積の変化量ΔVとしては、上記の式f4に示される管腔部の容量VLを用いることができる。すなわち、圧迫帯20の内部容積の変化量ΔVは、上記のf5により演算可能である。
【0068】
(制御装置により実行される処理の流れ)
制御装置44の演算部441は、上記の式f5を用いることにより、圧迫帯20の内部容積の変化量ΔVを演算する。また、演算部441は、管腔部が開口を開始した時点で検出された圧迫帯の内部圧力P20、及び管腔部の開口が終了した時点における圧迫帯20の内部圧力P21から上記の式f8を用いることにより、圧迫帯20の内部圧力の変化量ΔPを演算する。そして、演算部441は、演算された圧迫帯20の内部容積の変化量ΔV及び内部圧力の変化量ΔPから上記の式f6に基づいて血管のコンプライアンスVCを演算する。制御装置44の表示部442は、演算部441により演算された血管のコンプライアンスVCの情報を表示装置45に表示する。
【0069】
(作用及び効果)
以上のように、本実施形態の動静脈圧測定装置10では、演算部441が、管腔部の容量VLと、圧迫帯20の第1内部圧力P20と、圧迫帯20の第2内部圧力P21とに基づいて血管のコンプライアンスVCを演算する。
【0070】
この構成によれば、被験者の血管のコンプライアンスVCの情報を更に取得することが可能となる。また、表示装置45を見ることにより被験者の血管のコンプライアンスVCを把握することができるため、より正確に血管の状態を知ることが可能となる。
<第5実施形態>
次に、動静脈圧測定装置10の第5実施形態について説明する。以下、第1実施形態の動静脈圧測定装置10との相違点を中心に説明する。
【0071】
(動静脈圧測定装置の構成)
本実施形態の動静脈圧測定装置10は被験者の呼吸の状態を表示装置45に更に表示する。
発明者らの実験によると、上記の二次微分値dVA/dPは、血液の脈動の影響ではなく、被験者の呼吸の影響により振動することが確認されている。具体的には、二次微分値dVA/dPの時間的な推移と、動脈の脈動に伴う圧迫帯20の内部圧力Pの推移とを実験的に計測したところ、図10に示されるようなグラフを得ることができた。図10では、二次微分値dVA/dPの時間的な推移が実線で示され、動脈の脈動に伴う圧迫帯20の内部圧力Pの推移が一点鎖線で示されている。図10から明らかなように、二次微分値dVA/dPの時間的な変化と、動脈の脈動に伴う圧迫帯20の内部圧力Pの時間的な変化との間には相関関係が存在しない。
【0072】
一方、二次微分値dVA/dPの時間的な変化の周期性から、二次微分値dVA/dPの時間的な変化には被験者の呼吸が影響しているものと考えられる。これは、例えば静脈は右心房及び右心室から肺動脈を通じて肺に繋がっているため、呼吸による肺内の圧力変化が肺動脈圧の変化をもたらし、静脈圧にも影響を与えているためであると考えられる。一次微分値dVA/dPも同様に被験者の呼吸の影響を受けて振動することが確認されている。
【0073】
(制御装置により実行される処理の流れ)
本実施形態の表示部442は、図11に実線で示されるような二次微分値dVA/dPの推移を表示装置45に表示する。また、表示部442は、二次微分値dVA/dPに基づいて圧迫帯20の内部圧力Pから被験者の血圧を決定した場合、被験者の血圧を決定したときの圧迫帯20の内部圧力P及び二次微分値dVA/dPのそれぞれの値を視認可能に表示する。
【0074】
なお、表示部442は、同様に、図11に一点鎖線で示されるような一次微分値dVA/dPの推移、及び被験者の血圧を決定したときの圧迫帯20の内部圧力P及び一次微分値dVA/dPの値を表示装置45に表示してもよい。
(作用及び効果)
以上のように、本実施形態の動静脈圧測定装置10では、表示部442が、一次微分値dVA/dPの推移、又は二次微分値dVA/dPの推移を更に表示する。
【0075】
この構成によれば、例えば被験者の血圧の状態を測定している医療関係者は、表示装置45に表示される一次微分値dVA/dP又は二次微分値dVA/dPの推移を確認することにより、被験者の呼吸の状態に対して血圧が適切に検出されたか否かを確認することが可能となる。
【0076】
なお、仮に医療関係者が、被験者の血圧が検出されたタイミングが適切でないと判断した場合に、被験者の血圧として用いるべき圧迫帯20の内部圧力Pの決定値を修正できるようにしてもよい。これにより、医療関係者は、一次微分値dVA/dP又は二次微分値dVA/dPの実際の推移を確認しながら、圧迫帯20の内部圧力Pの決定値を任意に変更することができるため、より精度良く被験者の血圧を測定することが可能となる。
【0077】
<他の実施形態>
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
例えば、各実施形態の動静脈圧測定装置10は、被験者の静脈圧を測定する場合に限らず、被験者の動脈圧を測定する際に用いてもよい。また、動静脈圧測定装置10は静脈圧及び動脈圧を同時に測定してもよい。
【0078】
本実施形態は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0079】
10:動静脈圧測定装置、20:圧迫帯、30:空気ポンプ(流体流入部)、31:切替弁(流体排出部)、32:流量センサ(流量検出部)、34:圧力センサ(圧力検出部)、42:積算器(容量検出部)、441:演算部、442:表示部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2024-05-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に装着された圧迫帯の内部に流体を流入することにより前記圧迫帯の内部の圧力を上昇させる流体流入部と、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出することにより前記圧迫帯の内部の圧力を低下させる流体排出部と、
前記圧迫帯の内部圧力を検出する圧力検出部と、
前記圧迫帯の内部に存在する前記流体の容量を検出する容量検出部と、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出させている際に前記圧力検出部により検出される前記圧迫帯の内部圧力と、前記容量検出部により検出される前記圧迫帯の流体容量とに基づいて前記被験者の血圧を演算する演算部と、を備え
前記演算部は、
前記圧迫帯の流体容量を前記圧迫帯の内部圧力で一階微分した値である一次微分値を演算し、
前記一次微分値が極大値を示したときの前記圧迫帯の内部圧力に基づいて前記被験者の血圧を演算する
動静脈圧測定装置。
【請求項2】
前記一次微分値の推移を表示する表示部を更に備える
請求項に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項3】
被験者に装着された圧迫帯の内部に流体を流入することにより前記圧迫帯の内部の圧力を上昇させる流体流入部と、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出することにより前記圧迫帯の内部の圧力を低下させる流体排出部と、
前記圧迫帯の内部圧力を検出する圧力検出部と、
前記圧迫帯の内部に存在する前記流体の容量を検出する容量検出部と、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出させている際に前記圧力検出部により検出される前記圧迫帯の内部圧力と、前記容量検出部により検出される前記圧迫帯の流体容量とに基づいて前記被験者の血圧を演算する演算部と、を備え、
前記演算部は、
記圧迫帯の流体容量を前記圧迫帯の内部圧力で二階微分した値である二次微分値を演算し、
前記二次微分値がゼロクロスしたときの前記圧迫帯の内部圧力に基づいて前記被験者の血圧を演算する
静脈圧測定装置。
【請求項4】
被験者に装着された圧迫帯の内部に流体を流入することにより前記圧迫帯の内部の圧力を上昇させる流体流入部と、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出することにより前記圧迫帯の内部の圧力を低下させる流体排出部と、
前記圧迫帯の内部圧力を検出する圧力検出部と、
前記圧迫帯の内部に存在する前記流体の容量を検出する容量検出部と、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出させている際に前記圧力検出部により検出される前記圧迫帯の内部圧力と、前記容量検出部により検出される前記圧迫帯の流体容量とに基づいて前記被験者の血圧を演算する演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記圧迫帯の流体容量を前記圧迫帯の内部圧力で二階微分した値である二次微分値を演算し、
前記二次微分値が極小値又は極大値を示したときの前記圧迫帯の内部圧力に基づいて前記被験者の血圧を演算する
静脈圧測定装置。
【請求項5】
前記二次微分値の推移を表示する表示部を更に備える
請求項3又は4に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記被験者の血圧として、前記被験者の静脈圧を演算する
請求項1、3、4のいずれか一項に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記被験者の血圧として、前記被験者の動脈圧を演算する
請求項1、3、4のいずれか一項に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項8】
前記圧迫帯の内部から排出される前記流体の流量を検出する流量検出部を更に備え、
前記容量検出部は、前記流量検出部により検出される前記流体の流量の積算値に基づいて前記圧迫帯の流体容量を算出する
請求項1、3、4のいずれか一項に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項9】
前記演算部は、
前記圧迫帯の内部から前記流体を排出させている際に前記圧力検出部により検出される前記圧迫帯の内部圧力と、前記容量検出部により検出される前記圧迫帯の流体容量とに基づいて、前記圧迫帯が装着されている前記被験者の部位に存在する管腔部が閉じた状態から開き始める時点である開口開始時点と、前記管腔部の開口が終了する時点である開口終了時点とを検出し、
前記開口開始時点で前記圧力検出部及び前記容量検出部によりそれぞれ検出される前記圧迫帯の第1内部圧力及び第1流体容量と、前記開口終了時点で前記圧力検出部及び前記容量検出部によりそれぞれ検出される前記圧迫帯の第2内部圧力及び第2流体容量とに基づいて、前記圧迫帯が装着されている前記被験者の部位に存在する前記管腔部の容量を更に演算する
請求項1、3、4のいずれか一項に記載の動静脈圧測定装置。
【請求項10】
前記演算部は、前記管腔部の容量と、前記第1内部圧力と、前記第2内部圧力とに基づいて血管のコンプライアンスを更に演算する
請求項に記載の動静脈圧測定装置。