(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120439
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】遅延回路、駆動装置、半導体装置および遅延方法
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20240829BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/16 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027239
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 大造
【テーマコード(参考)】
5H740
5J055
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BC01
5H740BC02
5H740HH05
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM08
5J055AX25
5J055BX16
5J055DX09
5J055EX07
5J055EY01
5J055EY12
5J055EY21
5J055EZ09
5J055EZ50
5J055FX06
5J055FX13
5J055FX33
5J055GX01
5J055GX02
5J055GX04
(57)【要約】
【課題】駆動電流を変更すると、スイッチング期間が変動してしまい、所望の動作波形を得られない場合がある。また、駆動電流を変更しない場合であっても、半導体素子の動作特性に個体ごとのバラつきがあると、個体ごとのスイッチング期間にバラつきが生じてしまい、やはり所望の動作波形を得られない場合がある。
【解決手段】制御信号を遅延させて半導体素子のゲート駆動回路に出力する遅延回路であって、前記制御信号の変化タイミングと、前記ゲート駆動回路から前記半導体素子のゲートに供給される駆動信号の変化タイミングとのタイムラグを、予め定められた基準時間に近づけるように前記制御信号を遅延させる遅延部を備える遅延回路が提供される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号を遅延させて半導体素子のゲート駆動回路に出力する遅延回路であって、
前記制御信号の変化タイミングと、前記ゲート駆動回路から前記半導体素子のゲートに供給される駆動信号の変化タイミングとのタイムラグを、予め定められた基準時間に近づけるように前記制御信号を遅延させる遅延部を備える遅延回路。
【請求項2】
前記基準時間と、前記タイムラグとの差分を算出する差分算出部と、
前記制御信号を遅延させる遅延時間を、前記差分に基づいて決定する遅延時間決定部と、
をさらに備え、
前記遅延部は、前記制御信号を前記遅延時間だけ遅延させる、請求項1に記載の遅延回路。
【請求項3】
前記遅延時間決定部は、決定済みの前記遅延時間から、前記差分算出部により新たに算出される前記差分に応じた値を引いて、新たな前記遅延時間を決定する、請求項2に記載の遅延回路。
【請求項4】
前記遅延時間決定部は、決定済みの前記遅延時間から、前記差分算出部により新たに算出される前記差分を引いて、新たな前記遅延時間を決定する、請求項3に記載の遅延回路。
【請求項5】
前記遅延時間決定部は、決定済みの前記遅延時間から、前記差分算出部により新たに算出される前記差分を1より大きい固定値で除算した時間を引いて、新たな前記遅延時間を決定する、請求項3に記載の遅延回路。
【請求項6】
前記遅延時間決定部は、
前記差分が正であることに応じて、決定済みの前記遅延時間を固定時間だけ減らし、
前記差分が負であることに応じて、決定済みの前記遅延時間を固定時間だけ増やす、請求項2に記載の遅延回路。
【請求項7】
前記遅延部は、
前記半導体素子をターンオンするための前記制御信号の変化タイミングを検出する第1検出部と、
前記半導体素子のターンオン期間における前記駆動信号の変化タイミングを検出する第2検出部と、
を有し、
前記半導体素子をターンオンするための前記制御信号の変化タイミングを遅延させる、請求項1に記載の遅延回路。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の遅延回路と、
前記遅延回路により遅延された制御信号に基づいて半導体素子のゲートを駆動するゲート駆動回路と、
を備える駆動装置。
【請求項9】
請求項8に記載の駆動装置と、
前記駆動装置の前記ゲート駆動回路により駆動される半導体素子と、
を備える半導体装置。
【請求項10】
制御信号を遅延させて半導体素子のゲート駆動回路に出力する遅延方法であって、
前記制御信号の変化タイミングと、前記ゲート駆動回路から前記半導体素子のゲートに供給される駆動信号の変化タイミングとのタイムラグを、予め定められた基準時間に近づけるように前記制御信号を遅延させる遅延段階を備える遅延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延回路、駆動装置、半導体装置および遅延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子を駆動する電流の大きさを変更することにより、スイッチングにおけるノイズや損失を抑える技術が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
特許文献1 特開2013-219633号公報
特許文献2 特開2019-110677号公報
特許文献3 特開2022-121267号公報
特許文献4 特開平10-337037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、駆動電流を変更すると、スイッチング期間が変動してしまい、所望の動作波形を得られない場合がある。また、駆動電流を変更しない場合であっても、半導体素子の動作特性に個体ごとのバラつきがあると、個体ごとのスイッチング期間にバラつきが生じてしまい、やはり所望の動作波形を得られない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、制御信号を遅延させて半導体素子のゲート駆動回路に出力する遅延回路であって、前記制御信号の変化タイミングと、前記ゲート駆動回路から前記半導体素子のゲートに供給される駆動信号の変化タイミングとのタイムラグを、予め定められた基準時間に近づけるように前記制御信号を遅延させる遅延部を備える遅延回路が提供される。
【0005】
上記の遅延回路においては、前記基準時間と、前記タイムラグとの差分を算出する差分算出部と、前記制御信号を遅延させる遅延時間を、前記差分に基づいて決定する遅延時間決定部と、をさらに備え、前記遅延部は、前記制御信号を前記遅延時間だけ遅延させてよい。
【0006】
上記の遅延回路においては、前記遅延時間決定部は、決定済みの前記遅延時間から、前記差分算出部により新たに算出される前記差分に応じた値を引いて、新たな前記遅延時間を決定してよい。
【0007】
上記の遅延回路においては、前記遅延時間決定部は、決定済みの前記遅延時間から、前記差分算出部により新たに算出される前記差分を引いて、新たな前記遅延時間を決定してよい。
【0008】
決定済みの前記遅延時間から、前記差分算出部により新たに算出される前記差分に応じた値を引いて、新たな前記遅延時間を決定する上記の遅延回路においては、前記遅延時間決定部は、決定済みの前記遅延時間から、前記差分算出部により新たに算出される前記差分を1より大きい固定値で除算した時間を引いて、新たな前記遅延時間を決定してよい。
【0009】
前記遅延部が前記制御信号を前記遅延時間だけ遅延させる上記何れかの遅延回路においては、前記遅延時間決定部は、前記差分が正であることに応じて、決定済みの前記遅延時間を固定時間だけ減らし、前記差分が負であることに応じて、決定済みの前記遅延時間を固定時間だけ増やしてよい。
【0010】
上記何れかの遅延回路においては、前記遅延部は、前記半導体素子をターンオンするための前記制御信号の変化タイミングを検出する第1検出部と、前記半導体素子のターンオン期間における前記駆動信号の変化タイミングを検出する第2検出部と、を有し、前記半導体素子をターンオンするための前記制御信号の変化タイミングを遅延させてよい。
【0011】
本発明の第2の態様においては、上記何れかの遅延回路と、前記遅延回路により遅延された制御信号に基づいて半導体素子のゲートを駆動するゲート駆動回路と、を備える駆動装置が提供される。
【0012】
本発明の第3の態様においては、上記の駆動装置と、前記駆動装置の前記ゲート駆動回路により駆動される半導体素子と、を備える半導体装置が提供される。
【0013】
本発明の第4の態様においては、制御信号を遅延させて半導体素子のゲート駆動回路に出力する遅延方法であって、前記制御信号の変化タイミングと、前記ゲート駆動回路から前記半導体素子のゲートに供給される駆動信号の変化タイミングとのタイムラグを、予め定められた基準時間に近づけるように前記制御信号を遅延させる遅延段階を備える遅延方法が提供される。
【0014】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】半導体装置1におけるIGBT21の動作温度と、ターンオン期間の長さとの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る半導体装置1を示す。半導体装置1は、いわゆるIPM(Intelligent Power Module)1であってよく、例えば産業用ロボットのジョイント、エレベータ、もしくは業務用エアコンに適用される電力変換装置であってよい。半導体装置1は、パワー半導体チップ2と、駆動装置3とを含んで構成される。なお、半導体装置1は電力変換装置のアームごとにパワー半導体チップ2および駆動装置3を含んでよく、本図では一例として、X相の交流電力を生成するパワー半導体チップ2および駆動装置3を示す。
【0018】
パワー半導体チップ2は、IGBT21と、ダイオード22とを有してよい。IGBT21およびダイオード22は同一のチップ内に形成されてよい。IGBT21は、半導体素子の一例であり、駆動装置3における後述のゲート駆動回路35により駆動される。IGBT21は、ゲート駆動回路35からゲートに印加される駆動信号VGEX(本実施形態においては一例としてゲート電圧の信号)に応じてオンし、コレクタからエミッタを通じて負荷(図示せず)に一定の電力を供給してよい。IGBT21のエミッタは、後述する駆動装置3のグランド線Gにも接続されてよい。
【0019】
ダイオード22は、パワー半導体チップ2内の領域のうち、IGBT21が形成される領域とは別の領域であって、IGBT21の温度検出に好適な領域に形成されてよい。ダイオード22のアノードは電源VCCに接続されるとともに駆動装置3に接続されてよく、カソードが接地されてよい。本実施形態においては一例として、パワー半導体チップ2には複数の直列なダイオード22が設けられおり、一端のダイオード22のアノードが電源VCCに接続されるとともに駆動装置3に接続され、他端のダイオード22のカソードが接地される。
【0020】
ダイオード22の電圧降下はパワー半導体チップ2の温度、ひいてはIGBT21の動作温度によって変動してよい。本実施形態では一例として、IGBT21の動作温度が低いほどダイオード22の電圧降下は大きくなってよく、IGBT21の動作温度が高いほどダイオード22の電圧降下は小さくなってよい。
【0021】
駆動装置3は、IGBT21の動作温度に応じてIGBT21を駆動する電流の大きさを変更する。駆動装置3は、温度検出部31と、スイッチ部34と、ゲート駆動回路35と、を有してよい。
【0022】
温度検出部31は、ダイオード22の両端電圧(本実施形態においては一例として直列に接続された複数のダイオード22の両端電圧)を検出してモニタリングすることでIGBT21の動作温度を検出する。温度検出部31は、第1のコンパレータ311と、第2のコンパレータ312と、第1のコンパレータ311の出力端に接続される第1のフィルタ回路313と、第2のコンパレータ312の出力端に接続される第2のフィルタ回路314と、ラッチ回路32と、選択回路33とを備える。
【0023】
第1のコンパレータ311は、反転入力端子がダイオード22のアノードに接続されてよく、非反転入力端子が基準電圧源Vref1のプラス端に接続されてよい。基準電圧源Vref1のマイナス端は接地されてよい。
【0024】
第2のコンパレータ312は、反転入力端子がダイオード22のアノードに接続されてよく、非反転入力端子が基準電圧源Vref2のプラス端に接続されてよい。基準電圧源Vref2のマイナス端は接地されてよい。
【0025】
第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の各反転入力端子とダイオード22のアノードとの間には素子保護用の抵抗R1が介在してよい。第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の各反転入力端子と、抵抗R1との間には、ダイオード22の両端から検出される電圧を安定化するべくキャパシタC1の一端が接続されてよい。キャパシタC1の他端は、接地されてよい。
【0026】
第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312は、それぞれダイオード22の両端電圧の値と、基準電圧源Vref1,Vref2の電圧値とを比較して、基準電圧源Vref1,Vref2の電圧値が大きければHレベルの出力信号を出力し、両端電圧の値が大きければLレベルの出力信号を出力してよい。
【0027】
基準電圧源Vref1と基準電圧源Vref2とのそれぞれの電圧値は、第1のコンパレータ311と、第2のコンパレータ312とのそれぞれの出力信号がIGBT21の別々の動作温度領域に対応するように別々の電圧値に設定されてよい。基準電圧源Vref1の電圧値はIGBT21の動作温度領域のうち、一の領域の温度に対応してよく、基準電圧源Vref2の電圧値はIGBT21の動作温度領域のうち、基準電圧源Vref1とは異なる領域の温度に対応してよい。本実施形態では一例として、基準電圧源Vref1,Vref2は、Vref1>Vref2となるように設定されている。これにより、第1のコンパレータ311が低温領域をカバーし、第2のコンパレータ312が高温領域をカバーしてよい。
【0028】
ここで、IGBT21の動作温度と、第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の出力信号との関係について説明する。IGBT21の動作温度が低い場合は、一定電流を流したときのダイオード22の電圧降下は大きくてよい。従って、第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の各反転入力端子に入力される電圧値は基準電圧源Vre1,Vref2の電圧値よりも大きく、第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の出力信号は共にLレベルとなる。
【0029】
IGBT21の動作温度が高い場合は、一定電流を流したときのダイオード22の電圧降下は小さくてよい。従って、第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の反転入力端子に入力される電圧値は基準電圧源Vref1,Vref2の電圧値よりも小さく、第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の出力信号は共にHレベルとなる。
【0030】
IGBT21の動作温度が中間の温度である場合は、一定電流を流したときのダイオード22の電圧降下は中程度であってよい。従って、第1のコンパレータ311の反転入力端子に入力される電圧値は基準電圧源Vref1の電圧値よりも小さく、第1のコンパレータ311の出力信号はHレベルとなり、第2のコンパレータ312の反転入力端子に入力される電圧値は基準電圧源Vref2の電圧値よりも大きく、第2のコンパレータ312の出力電圧はLレベルとなる。
【0031】
第1のフィルタ回路313および第2のフィルタ回路314は、それぞれデジタルフィルタであってよく、所定の遅延を与えることで第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の出力信号に含まれる所定のノイズ成分を除去してよい。第1のフィルタ回路313は、その入力端が第1のコンパレータ311の出力端子に接続され、その出力端がラッチ回路32における後述の入力端L(低温側入力端Lとも称する)に接続されてよい。第2のフィルタ回路314は、その入力端が第2のコンパレータ312の出力端子に接続され、その出力端がラッチ回路32における後述の入力端H(高温側入力端Hとも称する)に接続されてよい。なお、図中では第1フィルタ回路313および第2のフィルタ回路314をそれぞれ複数段で構成した例を示しているが、フィルタの段数は任意であり、所望の効果を得られるように適宜の数としてよい。
【0032】
ラッチ回路32は、外部の制御回路4からの制御信号InXの変化(ここではIGBT21をターンオフさせる変化)を検出し、IGBT21がオフのタイミングで、第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312により検出されたIGBT21の動作温度をラッチする。ラッチ回路32は、低温側入力端Lおよび高温側入力端Hと、低温側出力端TLおよび高温側出力端THとを有してよい。ラッチ回路32は、第1のフィルタ回路313から低温側入力端Lに入力された信号の状態を保持して低温側出力端TLから出力し、第2のフィルタ回路314から高温側入力端Hに入力された信号の状態を保持して高温側出力端THから出力してよい。ラッチ回路32は、IGBT21をターンオフさせる制御信号InX(本実施形態では一例としてHレベルの信号)が外部の制御回路4から信号線Sを介して供給されるまで、先にHレベルの制御信号InXが入力されたタイミングにおける第1のフィルタ回路313および第2のフィルタ回路314からの出力信号の状態を保持してよい。つまり、IGBT21が一度オフしてから次にオフするまで、ラッチ回路32の出力は固定であってよい。
【0033】
選択回路33は、ラッチ回路32からの出力信号に応じてスイッチ部34における後述のスイッチSW1~SW3を選択的に導通させる信号をスイッチ部34に供給する。選択回路33は、3つの出力端VH,VM,VLを有してよい。
【0034】
選択回路33は、ラッチ回路32の低温側出力端TL,高温側出力端THからの信号がそれぞれLレベルであることに応じて、出力端VLからHレベルの信号を出力し、出力端VM,VHからLレベルの信号を出力してよい。これにより、IGBT21の動作温度が低い場合には、出力端VLのみからHレベルの信号が出力され、出力端VH,VMからLレベルの信号が出力される。
【0035】
選択回路33は、ラッチ回路32の低温側出力端TL,高温側出力端THからの信号がそれぞれHレベルであることに応じて、出力端VHからHレベルの信号を出力し、出力端VL,VMからLレベルの信号を出力してよい。これにより、IGBT21の動作温度が高い場合には、出力端VHのみからHレベルの信号が出力され、出力端VL,VMからLレベルの信号が出力される。
【0036】
選択回路33は、ラッチ回路32の低温側出力端TLがHレベルで高温側出力端THからの信号がLレベルであることに応じて、出力端VMからHレベルの信号を出力し、出力端VL,VHからLレベルの信号を出力してよい。これにより、IGBT21の動作温度が中間の温度である場合には、出力端VMのみからHレベルの信号が出力され、出力端VL,VHからLレベルの信号が出力される。
【0037】
スイッチ部34は、3つのスイッチSW1~SW3と、直列に接続されて抵抗分圧回路を形成する3つの抵抗R2~R4と、電圧源VCC2と、を備えてよく、選択回路33からの出力に応じてスイッチSW1~SW3の何れかを導通させてよい。抵抗R2~R4によって形成された抵抗分圧回路は、一端が電圧源VCC2に接続され、他端が抵抗R5を介してグランド線Gに接続されて接地されてよい。スイッチSW1~SW3は、それぞれ、例えばnチャネルMOSFETとpチャネルMOSFETとを並列に接続したCMOSスイッチから構成されてよい。
【0038】
スイッチSW1は、入力側が抵抗R2~4を介して電圧源VCC2に接続され、出力側が後述のゲート駆動回路35における差動増幅器351の非反転入力端子に接続されてよい。スイッチSW1は、第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の出力信号が共にLレベルの場合に導通するように選択回路33の出力端VLに接続されてよい。
【0039】
スイッチSW2は、入力側が抵抗R2を介して電圧源VCC2に接続され、出力側が差動増幅器351の非反転入力端子に接続されてよい。スイッチSW2は、第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の出力信号が共にHレベルの場合に導通するように選択回路33の出力端VHに接続されてよい。
【0040】
スイッチSW3は、入力側が抵抗R2~R3を介して電圧源VCC2に接続され、出力側が差動増幅器351の非反転入力端子に接続されてよい。スイッチSW3は、第1のコンパレータ311の出力信号がHレベルで、第2のコンパレータ312の出力信号がLレベルの場合に導通するように選択回路33の出力端VMに接続されてよい。
【0041】
抵抗R2~R4による抵抗分圧回路により、スイッチSW1が導通した場合(本実施形態では一例としてIGBT21の動作温度が低い場合)には、差動増幅器351の非反転入力端子に最も低い電圧が印加されてよい。第2のスイッチSW2が導通した場合(本実施形態では一例としてIGBT21の動作温度が高い場合)には、差動増幅器351の非反転入力端子に最も高い電圧が印加されてよい。第3のスイッチSW3が導通した場合(本実施形態では一例としてIGBT21の動作温度が中間の場合)には、差動増幅器351の非反転入力端子に最も低い電圧と最も高い電圧との間の中間の電圧が印加されてよい。抵抗R2~R4のそれぞれの抵抗値は、所望の抵抗分圧効果が得られるように適宜設定されてよい。
【0042】
ゲート駆動回路35は、制御信号InXに基づいてIGBT21のゲートを駆動する。ゲート駆動回路35は、IGBT21の動作温度に応じてIGBT21を駆動する電流の大きさを変更して、IGBT21の駆動能力を調整する。ゲート駆動回路35は、差動増幅器351と、ターンオン用のMOSFET352,354と、ターンオフ用のMOSFET353と、電源VCCと、電源VCCに接続されてカレントミラー回路357を形成するP型MOSFET355、356と、抵抗R6とを有してよい。
【0043】
差動増幅器351は、非反転入力端子がスイッチ部34の出力端子に接続されてよく、反転入力端子は抵抗R6を介してグランド線Gに接続され、接地されてよい。差動増幅器351の出力端子には、ターンオン用のMOSFET352のゲートが接続されてよい。これにより、差動増幅器351は、スイッチ部34からの出力電圧を増幅してMOSFET352のゲートに供給してよい。MOSFET352はN型であってよく、ドレインがカレントミラー回路357を介して電源VCCに接続され、ソースが抵抗R6およびグランド線Gを介して接地されてよい。カレントミラー回路357は、入力端子がターンオン用のMOSFET352のドレインに接続され、出力端子がIGBT21のゲートに接続されてよい。これにより、スイッチ部34から出力されて差動増幅器351により増幅された電圧によってMOSFET352のゲートが駆動されてよく、当該電圧に応じた定電流がカレントミラー回路357からIGBT21のゲートに流入する。よって、IGBT21のゲートに流入する電流は、ダイオード22の両端電圧が大きくなるに従って、つまり、IGBT21の動作温度が低くなるに従って増加してよく、ダイオード22の両端電圧が小さくなるに従って、つまり、IGBT21の動作温度が高くなるに従って減少してよい。
【0044】
MOSFET352のゲートには、ターンオン用のMOSFET354のドレインが接続されてよい。ターンオン用のMOSFET354は、ソースがグランド線Gを介して接地されてよく、ゲートが信号線Sに接続されてよい。これにより、信号線Sを介してHレベルの制御信号InXがMOSFET354のゲートに供給されることで、MOSFET354はターンオンされ、MOSFET352のゲート電圧を引き下げてMOSFET352をターンオフする。一方、信号線Sを介してLレベルの制御信号InXがMOSFET354のゲートに供給されることで、MOSFET354はターンオフされ、その結果、差動増幅器351から供給される電圧によりMOSFET352がターンオンされ、カレントミラー回路357からIGBT21のゲートに定電流が流れてIGBT21がターンオンする。
【0045】
ターンオフ用のMOSFET353は、N型であってよい。ターンオフ用のMOSFET353は、カレントミラー回路357を介して電源VCCに接続されるとともに、IGBT21のゲートに接続されてよい。MOSFET353のソースは、グランド線Gを介して接地されてよい。MOSFET353のゲートは信号線Sに接続されてよい。これにより、信号線Sを介してHレベルの制御信号InXがゲートに供給されることでMOSFET353はターンオンされ、IGBT21のゲートに蓄積された電荷を引き抜いてIGBT21をターンオフする。一方、信号線Sを介してLレベルの制御信号InXがゲートに印加されることでMOSFET353はターンオフされ、IGBT21のゲートとグランドとの間の導通を遮断する。なお、MOSFET353のゲートに供給される制御信号InXと、上記のラッチ回路32に供給される制御信号InXとは同一であるので、IGBT21がオフするタイミングと、IGBT21の動作温度を示す信号をラッチ回路32がラッチするタイミングとは略一致してよい。以上のゲート駆動回路35は、上述の特許文献1,2に記載されたものであってよい。
【0046】
(動作)
次に、以上のような半導体装置1の動作について、選択回路33及びラッチ回路32の動作に重点をおいて説明する。
【0047】
温度検出部31において、第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312の反転入力端子には、ダイオード22の両端電圧が印加される。両端電圧はIGBT21の動作温度に応じた電圧であってよい。これにより、IGBT21の動作温度と、基準電圧源Vref1,Vref2からの電圧値に応じた温度との高低に応じた信号が第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312から出力されてよい。第1のコンパレータ311および第2のコンパレータ312からの出力信号は、第1のフィルタ回路313および第2のフィルタ回路314を介して、ラッチ回路32の低温側入力端L及び高温側入力端Hに入力されてよい。
【0048】
ラッチ回路32は、IGBT21をターンオフする制御信号InX(本実施形態では一例としてHレベルの信号)が外部の制御回路4から供給されることに応じて低温側入力端Lおよび高温側入力端Hへの入力信号を取り込み、各入力信号のレベルを保持する。ラッチ回路32は、内部に保持した各レベルの信号を低温側出力端TLおよび高温側出力端THから出力する。
【0049】
選択回路33は、ラッチ回路32の低温側出力端TLおよび高温側出力端THから出力される信号レベルの組み合わせに応じて、出力端VH,VM,VLの何れかからスイッチ部34にHレベルの信号を出力する。
【0050】
スイッチ部34は、選択回路33から供給される信号に応じて、スイッチSW1~SW3の何れかを導通させ、導通したスイッチに応じた電圧をゲート駆動回路35の差動増幅器351に印加する。これにより、IGBT21の動作温度に応じて選択回路33およびスイッチ部34により選択された電圧値が差動増幅器351により増幅されてMOSFET352に印加される。
【0051】
ゲート駆動回路35は、IGBT21をターンオフする制御信号InX(本実施形態では一例としてHレベルの信号)が制御回路4から供給されることに応じて、MOSFET353がターンオンされてIGBT21のゲート電荷を引き抜き、IGBT21をターンオフする。また、MOSFET354がターンオンされてMOSFET352のゲート電圧を引き下げてMOSFET352をターンオフする。そして、IGBT21をターンオンする制御信号InX(本実施形態では一例としてLレベルの信号)が制御回路4から供給されることに応じてMOSFET354がターンオフされる結果、差動増幅器351から印加される電圧によりMOSFET352がターンオンされてカレントミラー回路357からIGBT21のゲートに定電流が流されてIGBT21がターンオンされる。
【0052】
以上の半導体装置1によれば、IGBT21の動作温度に応じてIGBT21を駆動する電流の大きさを変更するので、IGBT21のスイッチングノイズ、例えばターンオン時のノイズを低減することができる。しかしながら、動作温度に応じてIGBT21を駆動する電流の大きさを変更すると、IGBT21のターンオン期間の長さが変化してしまい、所望の動作波形を得られない場合がある。特に、交流電力の相ごとに別々のIGBT21を用いて電力変換を行う場合には、交流波形が相ごとに異なってしまう場合がある。また、動作温度に応じてIGBT21を駆動する電流の大きさを変更しない場合であっても、IGBT21の動作特性に個体ごとのバラつきがあると、IGBT21のターンオン期間の長さにバラつきが生じてしまい、所望の動作波形を得られない場合がある。このような問題を改善するべく、後述の第2実施形態における半導体装置1Aでは、ターンオン期間のバラつきを低減する。
【0053】
図2は、半導体装置1におけるIGBT21の動作温度と、ターンオン期間の長さとの関係を示す。図中の縦軸はターンオン期間の長さを示し、横軸はIGBT21の動作温度を示す。図中の温度TLは第1のコンパレータ311によりカバーされる低温領域の上限温度であってよく、温度THは第2のコンパレータ312によりカバーされる高温領域の下限温度であってよい。本実施形態に係る半導体装置1においては、IGBT21の動作温度TL,THを境にIGBT21の駆動電流の大きさを切り替えるため、動作温度TL,THそれぞれの前後でターンオン期間が非連続に変化し得る。例えば、図中では、動作温度が温度TLより低い点aと、温度TLより高い点bとでターンオン期間が非連続となっている。
【0054】
図3は、ターンオン期間のバラつきを示す。図中の縦軸は、制御回路4から駆動装置3に供給される制御信号InX、ゲート駆動回路35からIGBT21に供給される駆動信号(ここではゲート電圧)VGEX、および、IGBT21のドレイン電流Idを示し、横軸は時間を示す。また、図中の期間Taは、ターンオン期間のうち、制御信号InXが基準値を超えて変化したタイミングから、駆動信号VGEXが変化を開始したタイミングまでのタイムラグを示す。図中の期間Tbは、ターンオン期間のうち、駆動信号VGEXが変化を開始したタイミングからIGBTが定常オン状態となるまでの標準的な期間を示し、期間Tb_a,Tb_bは
図2の点a,bに対応する期間を示す。半導体装置1においては、IGBT21の動作温度に応じて期間Tbが異なることを主な原因として、ターンオン期間が異なり得る。
【0055】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る半導体装置1Aを示す。本実施形態における半導体装置1Aは駆動装置3Aを備える。駆動装置3Aは、制御信号InXを遅延させてIGBT21のゲート駆動回路35Aに出力する遅延回路5と、遅延回路5により遅延された制御信号InX_dに基づいてIGBT21のゲートを駆動するゲート駆動回路35Aとを有する。ゲート駆動回路35Aの構成は上述の実施形態におけるゲート駆動回路35と同様であってよい。
【0056】
遅延回路5は、制御回路4とゲート駆動回路35Aとの間で信号線Sに設けられてよい。なお、ラッチ回路32は、遅延回路5と制御回路4との間で信号線Sに接続されてもよいし、遅延回路5とゲート駆動回路35Aとの間で信号線Sに接続されてもよい。
【0057】
図5は、遅延回路5を示す。遅延回路5は、遅延部51と、基準時間記憶部52と、差分算出部53と、遅延時間決定部54とを有する。
【0058】
遅延部51は、制御信号InXの変化タイミングと、駆動信号VGEXの変化タイミングとのタイムラグΔTを、予め定められた基準時間Ref_Aに近づけるように制御信号InXを遅延させる。基準時間Ref_Aは、IGBT21の理想的なターンオン期間の長さに応じた時間であってよく、任意に設定されてよい。遅延部51は、制御信号InXを後述の遅延時間T_delayだけ遅延させてよい。遅延部51は、IGBT21をターンオンするための制御信号InXの変化タイミング(本実施形態においては一例として立下りの変化タイミング)を遅延させてよく、IGBT21をターンオフするための制御信号InXの変化タイミングは遅延させなくてよい。遅延部51は、第1検出部511と、第2検出部512と、制御回路513と、発振回路514と、カウンタ回路515と、出力部516とを有する。
【0059】
第1検出部511は、IGBT21をターンオンするための制御信号InXの変化タイミングを検出する。本実施形態に係る制御信号InXはLレベルに立下ることでIGBT21のターンオンを指示するため、第1検出部511は、制御信号InXがLレベルに立下る変化タイミングを検出してよい。第1検出部511は、制御信号InXが閾値を跨いで変化するタイミングを検出してもよいし、制御信号InXが閾値に達するタイミングを検出してもよい。第1検出部511は、非反転入力端子に基準電圧Vref3が入力され、反転入力端子に制御信号InXが入力されるコンパレータを含んでよい。第1検出部511は、制御信号InXが基準電圧Vref3より小さくなることに応じてHレベルとなり、制御信号InXが基準電圧Vref3より大きくなることに応じてLレベルとなる信号(信号InXenとも称する)を制御回路513、カウンタ回路515および遅延時間決定部54に供給してよい。基準電圧Vref3は、制御信号InXのLレベルの信号値と、Hレベルの信号値との間で任意に設定されてよい。
【0060】
第2検出部512は、IGBT21のターンオン期間における駆動信号VGEXの変化タイミングを検出する。IGBT21のターンオン期間とは、IGBT21をターンオンするための制御信号InXの変化タイミングから、IGBT21がオン状態となるまでの期間であってよく、本実施形態においては一例として、制御信号InXの立下りタイミングから、IGBT21のコレクタ電流が定常オン状態の90%となるまでの期間であってよい。駆動信号VGEXは、ゲート駆動回路35AからIGBT21のゲートに供給される電圧信号であってよく、IGBT21のゲート電圧であってよい。
【0061】
本実施形態に係るIGBT21のターンオン期間において駆動信号VGEXはIGBT21をターンオンするべくLレベルからHレベルに立上がるため、第2検出部512は、駆動信号VGEXがHレベルに立上がる変化タイミングを検出してよい。第2検出部512は、ターンオン期間内で検出可能な任意の変化タイミングを検出してよい。第2検出部512は、駆動信号VGEXが閾値を跨いで変化するタイミングを検出してもよいし、駆動信号VGEXが閾値に達するタイミングを検出してもよい。第2検出部512は、反転入力端子に基準電圧Vref4が入力され、非反転入力端子に駆動信号VGEXが入力されるコンパレータを含んでよい。第2検出部512は、駆動信号VGEXが基準電圧Vref4より大きくなることに応じてHレベルとなり、駆動信号VGEXが基準電圧Vref4より小さくなることに応じてLレベルとなる信号を制御回路513に供給してよい。基準電圧Vref4は、駆動信号VGEXのLレベルの信号値と、Hレベルの信号値との間で任意に設定されてよい。一例として、基準電圧Vref4はIGBT21の閾値電圧に設定されてもよいし、ミラー電圧に設定されてもよい。
【0062】
制御回路513は、第1検出部511からの信号がHレベルとなることに応じて立上るSTART信号と、第2検出部512からの信号がHレベルとなることに応じて立上るEND信号とを出力してよい。制御回路513は、START信号およびEND信号をそれぞれカウンタ回路515に供給してよい。
【0063】
なお、本実施形態においては一例として、START信号を立上り直後に立下るパルス信号として説明するが、第1検出部511からの信号がHレベルとなることに応じて立上り、第1検出部511からの信号がLレベルとなることに応じて立下る信号としてもよい。同様に、END信号を立上り直後に立下るパルス信号として説明するが、第2検出部512からの信号がHレベルとなることに応じて立上り、第2検出部512からの信号がLレベルとなることに応じて立下る信号としてもよい。
【0064】
発振回路514は、クロック信号CLKを出力する。発振回路514はカウンタ回路515にクロック信号CLKを供給してよい。
【0065】
カウンタ回路515は、クロック信号の立上りまたは立下りの少なくとも一方をカウントする。カウンタ回路515は、制御回路513からのSTART信号が立上がることに応じてカウントを開始し、END信号が立上ることに応じてカウントを終了してよい。カウンタ回路515によるカウント終了時点でのカウント値CNTは、制御信号InXの変化タイミングと、駆動信号VGEXの変化タイミングとのタイムラグΔTを示してよく、本実施形態においては一例として制御信号InXが基準電圧Vref3を下回った変化タイミングから、駆動信号VGEXが基準電圧Vref4を上回った変化タイミングまでの間隔を示してよい。カウンタ回路515は、END信号が供給されることに応じて、当該時点でのカウント値CNT、つまりタイムラグΔTを示すカウント値CNTを差分算出部53に供給してよい。これに加えて、カウンタ回路515は、逐次、カウント値CNTを出力部516に供給してよい。カウンタ回路515は、一例として8ビットカウンタであってよい。カウンタ回路515は、第1検出部511からの信号InXenが立下ることに応じてリセットされてよい。
【0066】
出力部516は、制御信号InXを遅延した制御信号InX_dを、ゲート駆動回路35Aに出力する。制御信号InX_dは、IGBT21をターンオンするための制御信号InXの変化タイミング(本実施形態においては一例として立下りの変化タイミング)を遅延させた信号であってよい。制御信号InX_dは、予め定められた基準時間Ref_AにタイムラグΔTを近づけるように制御信号InXを遅延させた信号であってよい。
【0067】
出力部516は、後述の遅延時間決定部54により決定される遅延時間T_delay(本実施形態においては一例として遅延時間T_delayの時間長に対応するクロック信号CLKのカウント値)を取得してよい。出力部516は、IGBT21をターンオンするための制御信号InXの立下り後にカウンタ回路515から逐次、供給されるカウント値CNTが遅延時間T_delayに達したことに応じて、制御信号InX_dを立下げてよい。これにより、制御信号InXの立下りはカウント値CNTが遅延時間T_delayに達するまで遅延されて、つまり遅延時間T_delayだけ遅延されて、制御信号InX_dの立下りとして出力されてよい。
【0068】
基準時間記憶部52は、基準時間Ref_Aを記憶する。本実施形態においては一例として基準時間記憶部52は、基準時間Ref_Aとして、当該基準時間Ref_Aの時間長に対応するクロック信号CLKのカウント値、つまり基準時間Ref_Aの時間長を発振回路514のクロック周波数で割った値を記憶してよい。基準時間記憶部52に記憶された基準時間Ref_Aは差分算出部53に供給されてよい。
【0069】
差分算出部53は、基準時間Ref_Aと、タイムラグΔTとの差分Ref_Bを算出する。差分算出部53は、基準時間記憶部52に記憶された基準時間Ref_A(本実施形態においては一例として基準時間Ref_Aの時間長に対応するカウント値)からタイムラグΔT(本実施形態においては一例としてタイムラグΔTの時間長に対応するカウント値)を引いて差分Ref_Bを算出してよい。差分算出部53は、算出した差分Ref_Bを遅延時間決定部54に供給してよい。
【0070】
遅延時間決定部54は、制御信号InXを遅延させる遅延時間T_delayを、差分Ref_Bに基づいて決定する。遅延時間決定部54は、決定済みの遅延時間T_delayから、差分算出部53により新たに算出される差分Ref_Bに応じた値を引いて、新たな遅延時間T_delayを決定してよい。本実施形態においては一例として、遅延時間決定部54は、決定済みの遅延時間T_delayから、差分算出部53により新たに算出される差分Ref_Bそのものを引いて、新たな遅延時間T_delayを決定してよい。決定済みの遅延時間T_delayとは、IGBT21の前回以前のスイッチング周期において決定された遅延時間T_delayであってよい。このようにして遅延時間T_delayが決定されることにより、新たなスイッチング周期においては、遅延部51によって基準時間Ref_AとタイムラグΔTとの差分Ref_Bが小さくなるように、つまり、タイムラグΔTが基準時間Ref_Aに近づくように、制御信号InXが遅延されることとなる。
【0071】
遅延時間決定部54は、遅延時間T_delayとして、当該遅延時間T_delayの時間長に対応するクロック信号CLKのカウント値、つまり遅延時間T_delayの時間長を発振回路514のクロック周波数で割った値を決定してよい。遅延時間決定部54は、決定済みの遅延時間T_delayを蓄積記憶してよく、決定済みの遅延時間T_delayを用いて新たな遅延時間T_delayを決定してよい。決定された遅延時間T_delayは、次以降のスイッチング周期で遅延部51が制御信号InXを遅延させるのに用いられてよい。遅延時間決定部54は、決定された遅延時間T_delayを遅延部51の出力部516に供給してよい。
【0072】
以上の遅延回路5によれば、ゲート駆動回路35Aに対する制御信号InXの変化タイミングから、IGBT21のゲートに供給される駆動信号VGEXの変化タイミングまでのタイムラグΔTを基準時間Ref_Aに近づけるように制御信号InXが遅延されてゲート駆動回路35Aに出力されるこれにより、制御信号InXの変化タイミングから駆動信号VGEXの変化タイミングまでのタイムラグΔTが基準時間Ref_Aに近づく。従って、IGBT21の動作特性に個体ごとのバラつきがある場合や、IGBT21の動作温度に応じてIGBT21の駆動電流を変更する場合であっても、スイッチングの期間を一定の時間に近づけて、所望の動作波形を得ることができる。
【0073】
また、基準時間Ref_Aと、タイムラグΔTとの差分Ref_Bに基づいて遅延時間T_delayが決定され、決定された遅延時間T_delayだけ制御信号InXが遅延されるので、タイムラグΔTを確実に基準時間Ref_Aに近づけることができる。
【0074】
また、決定済みの遅延時間T_delayから新たな差分Ref_Bに応じた値を引いて、新たな遅延時間T_delayが決定されるので、差分Ref_Bを小さくするように遅延時間T_delayが決定される。従って、タイムラグΔTをいっそう確実に基準時間Ref_Aに近づけることができる。
【0075】
また、決定済みの遅延時間T_delayから新たな差分Ref_Bそのものを引いて新たな遅延時間T_delayが決定されるので、差分Ref_Bを無くすように遅延時間T_delayが決定される。従って、タイムラグΔTをいっそう確実に基準時間Ref_Aに近づけることができる。
【0076】
また、IGBT21をターンオンするための制御信号InXの変化タイミングが遅延するので、IGBT21のターンオン期間を一定の時間に近づけて、所望の動作波形を得ることができる。
【0077】
図6は、遅延回路5Aの動作を示す。遅延回路5Aは、ステップS11~S21の処理を行うことにより制御信号InXを遅延させてIGBT21のゲート駆動回路35Aに出力する。
【0078】
ステップS11において第1検出部511は、制御信号InXの変化タイミングを検出する。第1検出部511は、IGBT21をターンオンするための変化タイミングを検出してよい。本実施形態においては一例として第1検出部511は、制御信号InXが基準電圧Vref3より小さくなる変化タイミングを検出してよい。
【0079】
そして、ステップS13~S21において遅延回路5は、制御信号InXの変化タイミングと、駆動信号VGEXの変化タイミングとのタイムラグΔTを基準時間Ref_Aに近づけるように制御信号InXを遅延させる。すなわち、ステップS13において出力部516は、ステップS11で検出した変化タイミングから、後述のステップS21において遅延時間決定部54により既に決定された遅延時間T_delayが経過するタイミングで制御信号InX_dを変化させる。これにより、遅延された制御信号InX_dに基づいてゲート駆動回路35AがIGBT21を駆動する。ステップS21が未だ行われておらず、遅延時間T_delayが決定されていない場合には、出力部516は、予め設定された初期値を遅延時間T_delayとして用いてよい。
【0080】
ステップS15において第2検出部512は、駆動信号VGEXの変化タイミングを検出する。第2検出部512は、IGBT21のターンオン期間における駆動信号VGEXの変化タイミングを検出してよい。本実施形態においては一例として第2検出部512は、駆動信号VGEXが基準電圧Vref4より大きくなる変化タイミングを検出してよい。
【0081】
ステップS17においてカウンタ回路515は、ステップS11で検出された制御信号InXの変化タイミングと、ステップS15で検出された駆動信号VGEXの変化タイミングとのタイムラグΔTを検出する。
【0082】
ステップS19において差分算出部53は、予め定められた基準時間Ref_Aと、タイムラグΔTとの差分Ref_Bを算出する。
【0083】
ステップS21において遅延時間決定部54は、差分Ref_Bに基づいて遅延時間T_delayを新たに決定する。遅延時間決定部54は、前回のステップS21により決定した遅延時間T_delayから、ステップS19により新たに算出された差分Ref_Bそのものを引いて、新たな遅延時間T_delayとしてよい。ステップS21の処理が終了したら、上述のステップS11に処理が移行してよい。
【0084】
図7は、駆動装置3の動作波形を示す。図中の縦軸は制御信号InX、駆動信号VGEX、START信号、END信号、クロック信号CLK、信号InXen、および、制御信号InX_dを示し、横軸は時間、カウント値、タイムラグΔT、基準時間Rref_A、差分Ref_B、および、遅延時間T_delayなどを示す。
【0085】
制御信号InXが立下り、時点t10において閾値電圧Vref3よりも低くなったことが第1検出部511により検出されると、制御回路513からSTART信号が出力されてカウンタ回路515によるカウントが開始する。
【0086】
時点t11においてカウント値が500となり、既に決定されている遅延時間T_delay(ここでは500)に達すると、出力部516が制御信号InX_dを立下げる。これにより、IGBT21をターンオンするための制御信号InXの変化が遅延して制御信号InX_dの変化として出力され、ゲート駆動回路35AによるIGBT21のターンオン動作が開始する。
【0087】
時点t15において駆動信号VGEXが閾値電圧Vref4よりも高くなったことが第2検出部512により検出されると、制御回路513からEND信号が出力されてカウンタ回路515がカウントを終了し、時点t10から時点t15までのタイムラグΔTを示すカウント値(ここでは1100)が出力される。これにより、基準時間Ref_A(本動作例では1000)と、タイムラグΔT(ここでは1100)との差分Ref_B(ここでは100)が差分算出部53により算出される。また、決定済みの遅延時間T_delay(ここでは500)から差分Ref_b(ここでは100)が引かれて新たな遅延時間T_delay(ここでは400)が決定される。なお、IGBT21は、時点t11~後述の時点t19の何れかの時点でオン状態となってよい。
【0088】
そして、時点t19において制御信号InXが立上ることに応じてカウンタ回路515がリセットされる。また、出力部516が制御信号InX_dを立上げる。これにより、ゲート駆動回路35AによるIGBT21のターンオフ動作が開始する。IGBT21は、時点t19~後述の時点t20の何れかの時点でオフ状態となってよい。
【0089】
同様にして、制御信号InXが立下り、時点t20において閾値電圧Vref3よりも低くなったことが第1検出部511により検出されると、制御回路513からSTART信号が出力されてカウンタ回路515によるカウントが開始する。
【0090】
時点t21においてカウント値が400となり、既に決定されている遅延時間T_delay(ここでは400)に達すると、出力部516が制御信号InX_dを立下げる。これにより、IGBT21をターンオンするための制御信号InXの変化が遅延して制御信号InX_dの変化として出力され、ゲート駆動回路35AによるIGBT21のターンオン動作が開始する。
【0091】
時点t25において駆動信号VGEXが閾値電圧Vref4よりも高くなったことが第2検出部512により検出されると、制御回路513からEND信号が出力されてカウンタ回路515がカウントを終了し、時点t20から時点t25までのタイムラグΔTを示すカウント値(ここでは950)が出力される。これにより、基準時間Ref_A(本動作例では1000)と、タイムラグΔT(ここでは950)との差分Ref_B(ここでは-50)が差分算出部53により算出される。また、決定済みの遅延時間T_delay(ここでは400)から差分Ref_b(ここでは-50)が引かれて新たな遅延時間T_delay(ここでは450)が決定される。なお、IGBT21は、時点21~後述の時点t29の何れかの時点でオン状態となってよい。
【0092】
そして、時点t29において制御信号InXが立上ることに応じてカウンタ回路515がリセットされる。また、出力部516が制御信号InX_dを立上げる。これにより、ゲート駆動回路35AによるIGBT21のターンオフ動作が開始する。IGBT21は、時点t29~後述の時点t30の何れかの時点でオフ状態となってよい。
【0093】
同様にして、制御信号InXが立下り、時点t30において閾値電圧Vref3よりも低くなったことが第1検出部511により検出されると、制御回路513からSTART信号が出力されてカウンタ回路515によるカウントが開始する。
【0094】
時点t31においてカウント値が450となり、既に決定されている遅延時間T_delay(ここでは450)に達すると、出力部516が制御信号InX_dを立下げる。これにより、IGBT21をターンオンするための制御信号InXの変化が遅延して制御信号InX_dの変化として出力され、ゲート駆動回路35AによるIGBT21のターンオン動作が開始する。
【0095】
時点t35において駆動信号VGEXが閾値電圧Vref4よりも高くなったことが第2検出部512により検出されると、制御回路513からEND信号が出力されてカウンタ回路515がカウントを終了し、時点t30から時点t35までのタイムラグΔTを示すカウント値(ここでは1000)が出力される。これにより、基準時間Ref_A(本動作例では1000)と、タイムラグΔT(ここでは1000)との差分Ref_B(ここでは0)が差分算出部53により算出される。また、決定済みの遅延時間T_delay(ここでは450)から差分Ref_b(ここでは0)が引かれて新たな遅延時間T_delay(ここでは450)が決定される。なお、IGBT21は、時点t31より後の何れかの時点でオン状態となってよい。
【0096】
なお、上記の実施形態においては、遅延時間決定部54はIGBT21のターンオンが行われる毎に遅延時間T_delayを決定することとして説明したが、1より大きい基準回数のターンオンが行われる毎に遅延時間T_delayを決定してもよい。この場合に、遅延時間決定部54は、一のターンオン期間(一例として直近の一のターンオン期間)で検出されたタイムラグΔTを元に遅延時間T_delayを決定してもよいし、複数のターンオン期間(一例として直近の複数のターンオン期間)で検出されたタイムラグΔTの平均値を元に遅延時間T_delayを決定してもよい。
【0097】
また、遅延時間決定部54は決定済みの遅延時間T_delayから、差分算出部53により新たに算出される差分Ref_Bそのものを引いて、新たな遅延時間T_delayを決定することとして説明したが、他の手法により遅延時間T_delayを決定してもよい。例えば、遅延時間決定部54は、決定済みの遅延時間T_delayから、差分算出部53により新たに算出される差分Ref_Bを1より大きい固定値で除算した時間を引いて、新たな遅延時間T_delayを決定してもよい。一例として、遅延時間決定部54は、(新たな遅延時間T_delay)=(決定済みの遅延時間T_delay)-(差分Ref_B)/2によって遅延時間T_delayを決定してよい。これにより、遅延時間T_delayがスイッチングごとに大きく変動してしまうのを防止することができる。
【0098】
また、遅延時間決定部54は決定済みの遅延時間T_delayから新たな差分Ref_Bに応じた値を引いて、新たな遅延時間T_delayを決定することとして説明したが、他の手法により遅延時間T_delayを決定してもよい。例えば、遅延時間決定部54は、差分Ref_Bが正であることに応じて、決定済みの遅延時間T_delayを固定時間だけ減らし、差分Ref_Bが負であることに応じて、決定済みの遅延時間T_delayを固定時間だけ増やして、新たな遅延時間T_delayとしてよい。固定時間は任意の長さであってよい。この場合には、遅延時間T_delayがスイッチングごとに大きく変動してしまうのを防止することができる。
【0099】
また、遅延回路5はIGBT21をターンオンするための制御信号InXの変化タイミングを遅延させることとして説明したが、これに加えて、または、これに代えて、IGBT21をターンオフするための制御信号InXの変化タイミングを遅延させてもよい。
【0100】
また、遅延回路5は基準時間記憶部52と、差分算出部53と、遅延時間決定部54とを有することとして説明したが、遅延部51によってタイムラグΔTを基準時間Ref_Aに近づけるように制御信号InXを遅延させる限りにおいて、これらの何れかを有しなくてもよい。また、遅延部51は、制御回路513、発振回路514、カウンタ回路515および出力部516を有することとして説明したが、これらの何れかを有しなくてもよい。
【0101】
また、IGBT21がダイオード22と共にパワー半導体チップ2内に形成されることとして説明したが、ダイオード22と分離して形成されてもよい。
【0102】
また、半導体素子をIGBT21として説明したが、MOSFETなど、他の半導体素子としてもよい。
【0103】
また、駆動装置3Aは温度検出部31およびスイッチ部34を有することとして説明したが、これらを有しなくてもよい。この場合には、駆動装置3Aは、IGBT21の動作温度によらずIGBT21の駆動電流を一定としてよい。
【0104】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0105】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0106】
1 半導体装置
2 パワー半導体チップ
3 駆動装置
4 制御回路
5 遅延回路
21 IGBT
22 ダイオード
31 温度検出部
32 ラッチ回路
33 選択回路
34 スイッチ部
35 ゲート駆動回路
51 遅延部
52 基準時間記憶部
53 差分算出部
54 遅延時間決定部
311 コンパレータ
312 コンパレータ
313 フィルタ回路
314 フィルタ回路
351 差動増幅器
352 MOSFET
353 MOSFET
354 MOSFET
355 P型MOSFET
356 P型MOSFET
357 カレントミラー回路
511 第1検出部
512 第2検出部
513 制御回路
514 発振回路
515 カウンタ回路
516 出力部