(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120447
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
B60B 35/14 20060101AFI20240829BHJP
F16C 19/08 20060101ALI20240829BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B60B35/14 V
F16C19/08
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027253
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 晃
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA56
3J701BA77
3J701GA60
3J701XB03
3J701XB24
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】ハブボルトにかかる曲げモーメントを低減し、車輪用軸受装置の安全代の低下を抑制することができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】外方部材24と、内側軌道面29および車輪取付フランジ25を有するハブ輪31と、外径に内側軌道面30を有する内輪28と、から構成される内方部材と、内方部材と外方部材24のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列のボール32と、を備えた車輪用軸受装置1であって、車輪取付フランジ25は、ハブボルト35を挿入するボルト装着孔25bを有し、車輪取付フランジ25の外端面は、ブレーキロータ36の底壁部53に対して外端面側に倒れ角θ1をもって傾斜しており、車輪取付フランジ25の外端面が傾斜した状態において、ボルト装着孔25bの中心軸の車軸の軸線O方向に対する倒れ角θ2は、車輪取付フランジ25のブレーキロータ36の底壁部53に対する倒れ角θ1よりも小さい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
内側軌道面および車輪取付フランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結されて外径に内側軌道面を有する軌道面形成部材と、から構成される内方部材と、
前記内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置であって、
前記車輪取付フランジは、ボルトを挿入するボルト孔を有し、
前記車輪取付フランジの外端面は、前記ブレーキロータの当接面に対して外端面側に倒れ角θ1をもって傾斜しており、前記車輪取付フランジの外端面が傾斜した状態において、前記ボルト孔の中心軸の車軸方向に対する倒れ角θ2は、前記車輪取付フランジの外端面の前記ブレーキロータの当接面に対する倒れ角θ1よりも小さい、車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記車輪取付フランジの外端面が傾斜した状態において、前記車輪取付フランジの外端面の内径側の軸方向位置と外径側の軸方向位置との差が0.08mm以下である、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記車輪取付フランジの外端面は、前記ブレーキロータの当接面に対して外端面側に倒れ角θ1をもって傾斜しており、
前記車輪取付フランジの外端面が傾斜した状態において、前記ボルト孔の中心軸の車軸方向に対する倒れ角θ2は、前記車輪取付フランジの外端面の前記ブレーキロータの当接面に対する倒れ角θ1の1/2以下である、請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記車輪取付フランジの外端面は、前記ブレーキロータの当接面に対して外端面側に倒れ角θ1をもって傾斜しており、
前記車輪取付フランジの外端面が傾斜した状態において、前記ボルト孔の中心軸の倒れ角θ2は、0度である、請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、外方部材の内側に内方部材が配置され、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に転動部材が介装されている。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としている。
【0003】
また、内方部材には、アウター側端部に車輪取付フランジが設けられ、インナー側端部に円筒状小径段部が設けられる。車輪取付フランジには、ブレーキロータがハブボルトにより固定されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車輪取付フランジとブレーキロータの取付面とは、ハブボルトとナットの締結により固定されるが、この際車輪取付フランジ面の精度が悪いと、車輪取付フランジと比較して剛性値が低いブレーキロータの取付面が変形する。ブレーキロータの取付面が変形することにより、ブレーキロータのブレーキパッドと摺接する面とブレーキロータとの間の距離が不均一となり、面振れが発生することがあった。
【0006】
面振れが発生すると、ブレーキング時の振動(ブレーキジャダー)やブレーキロータの偏摩耗の発生原因となる。ブレーキジャダーは、運転者に対して不快な振動となるため抑える必要があった。
【0007】
車輪取付フランジ面の精度に関して、車輪取付フランジ面は、旋削加工後の熱処理や、組立後のハブボルト圧入時の変形により、車輪取付フランジ面がブレーキロータの取付面と反対方向に倒れる場合があった。また、完成品の車輪取付フランジ面精度の悪化を抑えるために、熱処理後であって軸受組立前に再度車輪取付フランジ面を旋削することがあるが、それでも所望の精度が得られない場合には、軸受組立後に車輪取付フランジ面を旋削する必要があった。
【0008】
製造工程後に車輪取付フランジ面がブレーキロータの取付面と反対側に倒伏することによって、ブレーキロータと車輪取付フランジ面とが内径側で接することとなる。この際、ハブボルト付近の外径側は、ブレーキロータと車輪取付フランジ面とが離隔してしまう。これにより、ハブボルトにナットを締結する際に、剛性値の低いブレーキロータの取付面が変形してしまう可能性がある。この変形によって、ブレーキロータのブレーキパッドと摺接する面とブレーキロータとの間の距離が不均一となり、面振れが発生することがあった。
【0009】
そこで、車輪取付フランジのブレーキロータの当接面に対してブレーキロータ側に倒伏させる場合があった。車輪取付フランジのフランジ面にハブボルト穴やタップ穴を加工する際には、ブレーキロータの当接面に対してブレーキロータ側に倒伏させる前に加工を行っていた。この場合、フランジ面の傾斜に合わせてハブボルト穴やタップ穴は、ハブフランジ面に対して、内径側へ傾斜する。ハブボルト穴やタップ穴はハブフランジ面に対して直交するように形成されているが、従来のハブフランジ面の倒れ角度であれば、ハブボルト穴やタップ穴の保持能力の低下は許容可能であった。
【0010】
しかし、近年車両の大型化によって、車輪用軸受装置も大型化し、ハブフランジ面の倒れ角度を大きくする場合がある。倒れ角度が大きくなると、ホイールナットやホイールボルトで締め付けたとき、軸芯に対し平行にしようとする応力から締結時点でハブボルト、ホイールボルトに曲げ応力が付加される。
【0011】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、ハブボルトにかかる曲げモーメントを低減し、車輪用軸受装置の安全代の低下を抑制することができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の発明は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
内側軌道面および車輪取付フランジを有するハブ輪と、前記ハブ輪に連結されて外径に内側軌道面を有する軌道面形成部材と、から構成される内方部材と、
前記内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置であって、
前記車輪取付フランジは、ボルトを挿入するボルト孔を有し、
前記車輪取付フランジの外端面は、前記ブレーキロータの当接面に対して外端面側に倒れ角θ1をもって傾斜しており、前記車輪取付フランジの外端面が傾斜した状態において、前記ボルト孔の中心軸の車軸方向に対する倒れ角θ2は、前記車輪取付フランジの外端面の前記ブレーキロータの当接面に対する倒れ角θ1よりも小さいものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ボルト孔の中心軸の車軸方向に対する倒れ角を、車輪取付フランジの前記ブレーキロータの当接面に対する倒れ角よりも小さくすることで、ハブボルトの締結時に、ハブボルトにかかる曲げモーメントを低減し、車輪用軸受装置の安全代の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】車輪用軸受装置の一実施形態における全体構成を示す断面図。
【
図2】一実施形態における車輪用軸受装置およびブレーキロータを示す断面図。
【
図3】一実施形態における変形した車輪取付フランジを有する車輪用軸受装置およびブレーキロータを示す断面図。
【
図4】一実施形態における倒れ角を設定した車輪取付フランジを有する車輪用軸受装置およびブレーキロータを示す断面図。
【
図5】一実施形態における倒れ角を設定した車輪取付フランジを示す拡大断面図であって、(A)ボルト装着孔の倒れ角θ2を0′より大きくした場合を示す図、(B)ボルト装着孔の倒れ角θ2を0′とした場合を示す図。
【
図6】一実施形態における倒れ角を設定した車輪取付フランジを示す拡大断面図であって、(A)ボルト締結孔の倒れ角θ2を0′より大きくした場合を示す図、(B)ボルト締結孔の倒れ角θ2を0′とした場合を示す図。
【
図7】一実施形態に係る車輪取付フランジの倒れ角の測定の際に、台座に載置した車輪用軸受装置を示す断面図。
【
図8】一実施形態に係る車輪取付フランジの倒れ角の測定の際に、台座に載置したハブ輪を示す断面図。
【
図9】第二実施形態における車輪用軸受装置を示す上部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、
図1から
図2を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0016】
図1に示す実施形態の車輪用軸受装置1は、内周に複列の軌道面21、22を一体に設け、外周に車体取付用フランジ23を一体に有する外方部材24と、車輪取付フランジ25及び軌道面21と対向する軌道面29を備えたハブ輪31と、ハブ輪31の円筒状小径段部31aの外径に圧入された軌道面形成部材である内輪28とから構成される内方部材と、外方部材24とハブ輪31のそれぞれの軌道面間に介在する複列の転動体であるボール32と、ハブ輪31と外方部材24との間に介在し、複列の転動体である複数のボール32を各列に円周方向等間隔に支持する保持器33と、を備える。軌道面形成部材である内輪28の外径には、外方部材24の軌道面22に対向する軌道面30を形成している。また、アウター側の軌道面21と対向する軌道面29をハブ輪31の外径に直接形成した構造を有する。
【0017】
内輪28と外方部材24の両端には、外部からの異物の侵入や内部に充填したグリースの漏出を防止するためにシール34を装着している。ハブ輪31の車輪取付フランジ25の円周方向等間隔位置に車輪ホイールを固定するためのハブボルト35が取り付けられている。また、ハブ輪31の車輪取付フランジ25には、ブレーキロータ36がハブボルト35により固定されている。さらに、外方部材24の車体取付用フランジ23には、ナックル(図示せず)を介して車体の懸架装置が取り付けられている。
【0018】
ハブ輪31は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持する。ハブ輪31は、略円筒状に形成され、例えば、S53C等の中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪31のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部31aが設けられている。ハブ輪31のアウター側端部には、車輪取付フランジ25が一体的に設けられている。車輪取付フランジ25には、ハブ輪31とブレーキロータ36とを締結するためのハブボルト35が圧入されている。
【0019】
内輪28は、ハブ輪31の小径段部31aに圧入されている。内輪28の外周面には、アウター側の軌道面22と対向する軌道面30が設けられている。
【0020】
転動体である複数のボール32は、保持器33によって保持されることにより構成されている。インナー側のボール32の列は、内輪28の軌道面30と、外方部材24のインナー側の軌道面22との間に転動自在に挟まれている。アウター側のボール32の列は、ハブ輪31の軌道面29と、外方部材24のアウター側の軌道面21との間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側のボール32の列とアウター側のボール32の列とは、外方部材24と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。外方部材24は、インナー側のボール32の列およびアウター側のボール32の列を介してハブ輪31および内輪28を回転可能に支持している。
【0021】
車輪用軸受装置1においては、外方部材24と、内方部材であるハブ輪31および内輪28と、インナー側のボール32の列と、アウター側のボール32の列とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
【0022】
また、ハブ輪31の車輪取付フランジ25の外端面25a(アウター側の端面)には、ホイール(図示省略)およびブレーキロータ36が装着される短筒状のパイロット部41が突設されている。なお、パイロット部41は、第1部41aと第2部41bとからなり、第1部41aにホイールが外嵌され、第2部41bにブレーキロータ36が外嵌される。また、ハブ輪31の車輪取付フランジ25にはボルト装着孔25bが設けられて、ホイールおよびブレーキロータ36をこの車輪取付フランジ25に固定するためのハブボルト35がこのボルト装着孔25bに装着される。
【0023】
ブレーキロータ36は、ブレーキキャリパに支持されたブレーキパッド(図示省略)に当接するディスク部51と、ディスク部51の内径側端部からアウター側に凹むように形成されたハット部52とを有している。ディスク部51およびハット部52は一体形成されている。
【0024】
ハット部52は、径方向に延在する底壁部53と、底壁部53の外周縁部に連結され、円筒状の内径面を有する外周部54とで構成され、軸線Oを中心とする円筒状の内空領域を区画する。底壁部53は、外周部54よりも内径側に位置する内径領域に相当する。ディスク部51は、外周部54よりも外径側に位置する外径領域に相当する。
【0025】
ハット部52の底壁部53には複数の貫通孔が設けられており、上記したハブボルト35は、車輪取付フランジ25のボルト装着孔25bとこの貫通孔とを貫通する。
図2に示されるように、車輪取付フランジ25の最大外径は、ディスク部51の外周部54の直径よりも小さい。
【0026】
車輪取付フランジ25のボルト装着孔25bと前記貫通孔とを貫通したハブボルト35の先端にはナット37が螺嵌される。ナット37を締めることにより、底壁部53のインナー側当接面と、車輪取付フランジ25の外端面25aとが密着する。ナット37を締める前に、車輪取付フランジ25の外端面25aがブレーキロータ36と反対側に倒れていると、
図3に示すように、車輪取付フランジ25とブレーキロータ36との間に角度θ0の隙間が生じる。この状態で、ナット37を締めると、相対的に剛性の低いブレーキロータ36が、車輪取付フランジ25の外端面25a側へ移動変形する。これにより、ブレーキロータ36のディスク部51とブレーキパッドとの間隔が不均一になり、ブレーキジャダーが発生する。
【0027】
そこで
図4に示すように、車輪取付フランジ25をアウター側へ傾斜させるものである。すなわち、車輪取付フランジ25のハブフランジ面を形成する外端面25aをブレーキロータ36の当接面である底壁部53に対して外端面25a側に倒れ角θ1をもって傾斜するように形成するものである。ここで、外端面25aの底壁部53に対する倒れ角をθ1とする。倒れ角θ1とは、外端面25aの底壁部53に対する相対的な倒伏角度であり、本実施形態においては、底壁部53は、取付時において軸線O方向と直交するように位置しているため、言い換えれば、倒れ角θ1は、軸線Oと直交した直線に対する倒伏角度となる。なお、底壁部53は、取付時において軸線O方向と直交しない場合もあり、その場合は、底壁部53に対する相対的な倒伏角度となるので、軸線O方向と直交した直線との角度よりも大きいまたは小さいものとなる。
【0028】
そして、本発明の一実施形態においては、ボルト孔であるボルト装着孔25bの倒れ角θ2が、倒れ角θ1よりも小さくなることを特徴とする。倒れ角θ2とは、ボルト装着孔25bの中心軸O2の軸線O方向に対する相対的な倒伏角度である。言い換えれば、ボルト装着孔25bは、軸線Oと平行に形成されるパイロット部41の外周面に対して倒れ角θ2だけ倒伏した角度で形成されることとなる。
【0029】
倒れ角θ2は、0°以上であり、20′より小さくなるように形成されている。
すなわち、
図5(A)にしめすように、外端面25aの底壁部53に対する倒れ角θ1は、20′~30′程度に設定されているため、倒れ角θ2は、倒れ角θ1よりも小さくなる。また、倒れ角θ2が0°以上であり、20′より小さくなるとは、言い換えれば、外端面25aの外径側端部P1と内径側端部P2との軸方向の位置の差が0.08mm以下となることを意味する。このように構成することにより、ハブボルト35によって、ハブ輪31とブレーキロータ36とを締結したときに、ハブボルト35にかかる曲げモーメントが低減される。
【0030】
また、
図5(B)にしめすように、倒れ角θ2は、0°としてもよい。倒れ角θ2が0°である場合、車軸の軸線O方向と平行である。このように構成することにより、ボルト装着孔25bの軸方向が軸心と平行になるため、ハブボルト35をボルト装着孔25bに圧入して、ハブボルト35によって、ハブ輪31とブレーキロータ36とを締結したときに、曲げモーメントがかからない。したがって、ハブボルト35への応力が軽減され、ブレーキロータ36のディスク部51とブレーキパッドとの間隔を均一に保ち、ブレーキジャダーの発生を抑制することができる。また、ハブボルト35への応力が軽減されることにより、車輪用軸受装置1の安全代の低下を抑制することができる。
【0031】
また、別の実施形態として、
図6に示すように、ボルト装着孔25bのかわりに、ボルト締結孔25dを形成する構成としてもよい。ボルト締結孔25dは、その内面に雌ネジ部を有しておりホイールボルト(図示省略)を締結することにより、固定するものである。
【0032】
図6に示すように、ホイールボルト用のボルト孔であるボルト締結孔25dの倒れ角θ2が、倒れ角θ1よりも小さくなることを特徴とする。倒れ角θ2とは、ボルト締結孔25dの中心軸O2の車軸の軸線O方向に対する相対的な倒伏角度である。
【0033】
倒れ角θ2は、0°以上であり、20′より小さくなるように形成されている。
すなわち、
図6(A)にしめすように、外端面25aの底壁部53に対する倒れ角θ1は、20′~30′程度に設定されているため、倒れ角θ2は、倒れ角θ1よりも小さくなる。また、倒れ角θ2が0°以上であり、20′より小さくなるとは、言い換えれば、外端面25aの外径側端部P1と内径側端部P2との軸方向の位置の差が0.08mm以下となることを意味する。このように構成することにより、ホイールボルトによって、ハブ輪31とブレーキロータ36とを締結したときに、ホイールボルトにかかる曲げモーメントが低減される。
【0034】
また、
図6(B)にしめすように、倒れ角θ2は、0°としてもよい。倒れ角θ2が0°である場合、車軸の軸線O方向と平行である。このように構成することにより、ボルト締結孔25dの軸方向が軸心と平行になるため、ホイールボルトをボルト締結孔25dに螺合して、ホイールボルトによって、ハブ輪31とブレーキロータ36とを締結したときに、曲げモーメントがかからない。したがって、ホイールボルトへの応力が軽減され、ブレーキロータ36のディスク部51とブレーキパッドとの間隔を均一に保ち、ブレーキジャダーの発生を抑制することができる。また、ホイールボルトへの応力が軽減されることにより、車輪用軸受装置1の安全代の低下を抑制することができる。
【0035】
次に、外端面25aの底壁部53に対する倒れ角θ1の測定方法について説明する。
図7に示すように、車輪用軸受装置1を組み立てた状態において倒れ角θ1を測定する場合は、台座61に、車輪用軸受装置1のインナー側端面を下方にして載置する。台座61は、凹部62から上方に突出し、車体取付用フランジ23を支持する外縁部63を備える。
台座61に車輪用軸受装置1を載置した際に上面となる車輪取付フランジ25の外端面25aの任意の二か所の位置を計測する。任意の二か所については、離れた位置にあるほど傾きの測定精度が高くなるため、二か所の車輪用軸受装置の径方向の位置が離れているほうが望ましい。例えば、一の測定箇所を外径側端部P1に設定し、他の測定箇所を内径側であってパイロット部41との連結箇所に設けられたR面が終了する内径側端部P2に設定する。これにより、車輪用軸受装置1を組み立てた状態において倒れ角θ1を精度良く測定することが可能となる。また、車輪用軸受装置1を分解することなく出荷前に倒れ角θ1を測定することができる。
【0036】
また、
図8に示すように、倒れ角θ1を測定する場合は、台座61に、ハブ輪31のインナー側端面を下方にして載置してもよい。台座61は、凹部62から上方に突出し、ハブ輪31の小径段部31aのアウター側端面を支持する外縁部63を備える。
台座61にハブ輪31を載置した際に上面となる車輪取付フランジ25の外端面25aの任意の二か所の位置を計測する。任意の二か所については、離れた位置にあるほど傾きの測定精度が高くなるため、二か所の車輪用軸受装置1の径方向の位置が離れているほうが望ましい。例えば、一の測定箇所を外径側端部P1に設定し、他の測定箇所を内径側であってパイロット部41との連結箇所に設けられたR面が終了する内径側端部P2に設定する。これにより、ハブ輪31の製造時に倒れ角θ1を精度良く測定することが可能となる。
【0037】
以上のように、内周に複列の外側軌道面21、22を有する外方部材24と、内側軌道面29および車輪取付フランジ25を有するハブ輪31と、ハブ輪31に連結されて外径に内側軌道面30を有する内輪28と、から構成される内方部材と、内方部材と外方部材24のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体であるボール32と、を備えた車輪用軸受装置1であって、車輪取付フランジ25は、ハブボルト35を挿入するボルト孔であるボルト装着孔25bを有し、車輪取付フランジ25は、ブレーキロータ36の当接面である底壁部53に対して傾斜しており、車輪取付フランジ25が傾斜した状態において、ボルト装着孔25bの車軸の軸線O方向に対する倒れ角θ2は、車輪取付フランジ25のブレーキロータ36の底壁部53に対する倒れ角θ1よりも小さいものである。
このように構成することにより、ハブボルト35によって、ハブ輪31とブレーキロータ36とを締結したときに、ハブボルト35にかかる曲げモーメントが低減される。
【0038】
また、車輪取付フランジ25の外端面が傾斜した状態において、フランジの外端面25aの外径側端部P1と内径側端部P2との軸方向の位置の差が0.08mm以下となる。
このように構成することにより、ハブボルト35によって、ハブ輪31とブレーキロータ36とを締結したときに、ハブボルト35にかかる曲げモーメントが低減される。
【0039】
また、車輪取付フランジ25の外端面は、ブレーキロータ36の底壁部53に対して外端面側に倒れ角θ1をもって傾斜しており、車輪取付フランジ25の外端面が傾斜した状態において、ボルト装着孔25bの中心軸O2の車軸方向に対する倒れ角θ2は、車輪取付フランジ25のブレーキロータの底壁部53に対する倒れ角θ1の1/2以下であることが望ましい。
このように構成することにより、ハブボルト35によって、ハブ輪31とブレーキロータ36とを締結したときに、ハブボルト35にかかる曲げモーメントが低減される。
【0040】
また、車輪取付フランジ25の外端面は、ブレーキロータ36の底壁部53に対して外端面側に倒れ角θ1をもって傾斜しており、車輪取付フランジ25の外端面が傾斜した状態においてボルト装着孔25bの中心軸O2の倒れ角は、0度である。
このように構成することにより、ハブボルト35への応力が軽減され、ブレーキロータ36のディスク部51とブレーキパッドとの間隔を均一に保ち、ブレーキジャダーの発生を抑制することができる。
【0041】
また、別の実施形態として、軌道面形成部材として、内輪28ではなく、外径に軌道面を有するCVJの外側継手部材61を採用してもよい。
図9に示すように、外側継手部材61の外径には軌道面22に対向する軌道面62を形成している。外側継手部材61は、ステム部63とマウス部64とからなり、軌道面62は、マウス部64のアウター側端部外径に設けられている。ステム部63の外周面とハブ輪31の内径とはスプライン嵌合によって回動不能に固定されている。
【0042】
また、ハブ輪31の車輪取付フランジ25にはボルト装着孔25bが設けられて、ホイールおよびブレーキロータ36をこの車輪取付フランジ25に固定するためのハブボルト35がこのボルト装着孔25bに装着される。
【0043】
なお、本実施形態では、車輪用軸受装置1は、ハブ輪31の外周にアウター側のボール32の列の内側転走面30が形成されている第三世代構造の車輪用軸受装置1として構成されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明は、ハブ輪31に一対の内輪が圧入固定された第二世代構造であっても良い。
【符号の説明】
【0044】
1 車輪用軸受装置
21 軌道面
22 軌道面
24 外方部材
25 車輪取付フランジ
28 内輪
29 軌道面
30 軌道面
31 ハブ輪
31a 小径段部
32 ボール(転動体)
33 保持器
35 ハブボルト
36 ブレーキロータ
37 ナット
51 ディスク部
52 ハット部
53 底壁部