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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120451
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20240829BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240829BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240829BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027257
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 駿
(72)【発明者】
【氏名】小山 修平
(72)【発明者】
【氏名】四本 賢佑
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ12
5H029CJ16
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】二次電池を使用したときに、電池セル内のガス発生を抑制可能な二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の二次電池の製造方法は、下記を含む:
正極、負極、及び電解液を含む電池セルを準備すること、
前記電池セルを少なくとも一回、初期充電すること、
所定の高温域で、前記初期充電後の前記電池セルを高温エージング処理すること、
室温より高い温度かつ前記電解液の沸点未満の温度域で、前記高温エージング処理後の前記電池セル内部のガス抜きを行うこと、及び
室温より高い温度かつ前記電解液の沸点未満の温度域で、前記ガス抜き後の前記電池セルを密閉封止すること。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及び電解液を含む電池セルを準備すること、
前記電池セルを少なくとも一回、初期充電すること、
所定の高温域で、前記初期充電後の前記電池セルを高温エージング処理すること、
室温より高い温度かつ前記電解液の沸点未満の温度域で、前記高温エージング処理後の前記電池セル内部のガス抜きを行うこと、及び、
室温より高い温度かつ前記電解液の沸点未満の温度域で、前記ガス抜き後の前記電池セルを密閉封止すること、
を含む、二次電池の製造方法。
【請求項2】
40~85℃の温度域で、前記ガス抜きを行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
40~85℃の温度域で、前記ガス抜き後の前記電池セルを密閉封止する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
40~85℃の温度域で、前記電池セルを高温エージング処理する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記二次電池が、非水電解液を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、車両搭載用の電源、又はパソコン若しくは携帯端末等の電源として、重要性が高まっている。このような二次電池は、典型的には、正極、負極、及び電解液を含む電池セルを準備し、その電池セルを初期充電した後、さらに、それを高温エージング処理して製造される。
【0003】
高温エージング処理は、正極、負極、及び電解液を安定化、特に、負極表面にSEI(Solid Electrolyte Interface:固体電解質界面)被膜を形成して、容量及び出力等の電池性能を安定化する。また、高温エージング処理によって、電池の微小短絡を促進して、電圧不良セルを検知することができる。
【0004】
初期充電及び高温エージング処理によって、電池セル内にはガスが発生し、そのガスは、正極と負極で構成される電極体に滞留する。そうすると、電池セル内の内部圧力が上昇し、電極の拘束力が低下して、二次電池の性能が低下する。そのため、従来から、初期充電及び高温エージング処理で発生するガスに関し、種々の試みがなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、高温エージング処理後に、電池セルを低電圧域まで放電させ、その低電圧域で電池セルを放置することによって、電極体にガスが滞留している部位への電解液の浸透を促進する、非水電解液二次電池の製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、電池セルを高温エージング処理した後に、室温かつ減圧下で電池セル内のガス抜きを行い、次いで、電池セルを密閉封止する、非水電解液二次電池の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-090806号公報
【特許文献2】特開2008-027741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に開示された製造方法で得られた二次電池は、それが高温で使用されると、電池セル内に、再度、ガスが発生し、電池セル内の内部圧力が上昇し、電極の拘束力が低下して、二次電池の性能が低下することがあった。
【0009】
このことから、二次電池を高温で使用したときに、電池セル内のガス発生を抑制する必要がある、という課題を、本発明者らは見出した。
【0010】
本開示は、上記課題を解決するためになされたもので、二次電池を使用したときに、電池セル内のガス発生を抑制可能な二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、本開示の二次電池の製造方法を完成させた。その態様は、次のとおりである。
〈1〉正極、負極、及び電解液を含む電池セルを準備すること、
前記電池セルを少なくとも一回、初期充電すること、
所定の高温域で、前記初期充電後の前記電池セルを高温エージング処理すること、
室温より高い温度かつ前記電解液の沸点未満の温度域で、前記高温エージング処理後の前記電池セル内部のガス抜きを行うこと、及び、
室温より高い温度かつ前記電解液の沸点未満の温度域で、前記ガス抜き後の前記電池セルを密閉封止すること、
を含む、二次電池の製造方法。
〈2〉40~85℃の温度域で、前記ガス抜きを行う、〈1〉項に記載の製造方法。
〈3〉40~85℃の温度域で、前記ガス抜き後の前記電池セルを密閉封止する、〈1〉又は〈2〉項に記載の製造方法。
〈4〉40~85℃の温度域で、前記電池セルを高温エージング処理する、〈1〉又は〈2〉項に記載の製造方法。
〈5〉前記二次電池が、非水電解液を含む、〈1〉又は〈2〉項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示の二次電池の製造方法によれば、室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域で、電池セル内部のガス抜きを行い、かつ、室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域で、電池セルを密閉封止する。これにより、電解液内に溶解して残留するガス量を低減することができる。その結果、二次電池を高温で使用したときに、電池セル内のガス発生を抑制可能な二次電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示の二次電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、従来の二次電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、実験に用いた密閉容器の縦断面の概要を示す説明図である。
図4図4は、密閉容器内の圧力と密閉容器の温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の二次電池の製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本開示の二次電池の製造方法を限定するものではない。
【0015】
理論に拘束されないが、本開示により、二次電池を使用したときに、電池セル内のガス発生を抑制可能な二次電池の製造方法を供給することができる理由について、図面を用いて説明する。図1は、本開示の二次電池の製造方法(以下、「本開示の製造方法」ということがある。)の一例を示すフローチャートである。図2は、従来の二次電池の製造方法(以下、「従来の製造方法」ということがある。)の一例を示すフローチャートである。
【0016】
図1に示した本開示の製造方法、及び図2に示した従来の製造方法のいずれも、初期充電及び高温エージング処理の後に、電池セル内をガス抜きし、それを密閉封止する。
【0017】
しかし、図2に示した従来の製造方法で得られた二次電池においては、それを高温で使用すると、電池セル内でガスが発生する。そして、電池セル内の内部圧力が上昇し、電極の拘束力が低下して、二次電池の性能が低下する。これは、図2に示したように、電池セルを高温エージング処理し、それを室温まで冷却した後に、電池セル内のガス抜きを行うためであると考えられる。初期充電及び高温エージング処理で発生するガスの一部は、電解液に溶解する。電解液の温度が低下すると、電解液への発生ガスの溶解度が増加するため、高温エージング処理後に、電池セルを室温まで冷却すると、電解液への発生ガス溶解量が増加する。ガス抜きをしても、電解液中に溶解したガスは除去されずに残留する。そして、電解液の温度が上昇すると、電解液への発生ガスの溶解度が低下するため、電池セルを二次電池として高温で使用すると、電解液中に溶解していたガスが、電池セル内に再度発生する。
【0018】
そこで、図1に示したように、本開示の製造方法では、室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域で、電池セル内部のガス抜きを行い、その後、室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域で、電池セルを密閉封止する。このようにすると、ガス抜き時に、電解液への発生ガスの溶解度が増加しないため、電解液中に発生ガスが溶解することを抑制することができる。その結果、電池セルを二次電池として高温で使用したときに、電解液中に溶解していたガスが、電池セル内に再度発生することを抑制することができる。これにより、電池セルを二次電池として高温で使用したときに、電池セル内の内部圧力が上昇し、電極の拘束力が低下して、二次電池の性能が低下することを抑制することができる。
【0019】
次に、これまでに説明した内容を検証するために行った実験について説明する。図3は、実験に用いた密閉容器の縦断面の概要を示す説明図である。図4は、密閉容器内の圧力と密閉容器の温度との関係を示すグラフである。
【0020】
図3に示したように、密閉容器10の上端には、圧力計20が備えられている。密閉容器10の内部には、電解液30が装入されている。密閉容器10の内部において、電解液30の上部には空間40が設けられている。電解液30の体積は50cmであり、空間40の体積は90cmであった。圧力計20は、空間40の圧力を測定する。
【0021】
電解液30には、予め、二酸化炭素(CO)ガスを充分に溶解しておいた。本開示の製造方法では、初期充電及び高温エージング処理で、典型的には、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO)ガス、若しくは炭化水素ガス(例えば、メタン(CH)ガス又はエタン(C)ガス)又はこれらの組み合わせが発生する。これらのうち、二酸化炭素(CO)ガスは、電解液に含まれる有機溶媒に溶解し易いため、電解液30に予め溶解しておくガスとして、二酸化炭素(CO)ガスを用いた。
【0022】
密閉容器10を恒温槽に装入して加熱し、恒温槽の温度が各設定温度に到達し、電解液30の温度が恒温槽の各設定温度と同一になるのに充分な時間が経過してから、空間40の圧力を測定した。図4は、温度と圧力の関係を示すグラフである。圧力は、室温時の圧力を0としたときの相対圧力である。
【0023】
図4に示したように、温度の上昇に伴い、圧力が増加した。図4において、記号Aで示した圧力上昇は、温度上昇による、電解液30中の有機溶媒の蒸気圧上昇であり、記号Bで示した圧力上昇は、温度上昇による圧力上昇であり、そして、記号Cで示した圧力上昇は、温度上昇に伴って溶解度が低下して、電解液30に溶解している二酸化炭素(CO)ガスが、空間40に放出(脱気)されることによって生じた圧力上昇である。本開示の製造方法では、電解液30に溶解している二酸化炭素(CO)ガスが、空間40に放出(脱気)される温度域、すなわち、室温より高い温度かつ前記電解液の沸点未満の温度域で、電池セル内部のガス抜きし、その電池セルを密閉封止する。これにより、電解液内に溶解して残留するガス量を低減することができ、その結果、二次電池を高温で使用したときに、電池セル内のガス発生を抑制することができる。
【0024】
これまで説明してきた知見等によって完成された、本開示の製造方法の構成要件を、次に説明する。
【0025】
《製造方法》
本開示の製造方法は、二次電池の製造方法であり、本明細書において、「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス全般を意味し、非水電解液二次電池及びリチウムイオン二次電池等の所謂蓄電池並びに電気二重層キャパシタ等を含む。「非水電解液二次電池」とは、非水電解液を備えた電池を意味し、「非水電解質」は、典型的には、非水溶媒中に支持塩(支持電解質)を含む電解液である。「リチウムイオン二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間のリチウムイオンの移動により充放電する二次電池を意味する。正極、負極、正負極、及び/又は電極とは、集電体及び電極活物質を備える二次電池の構成要素を意味する。「集電体」とは、充電時には電池セルの外部から電力を取り入れ、充電時には電池セルの内部から電力を取り出す、二次電池の構成要素を意味する。「電極活物質」とは、電荷担体となる化学種(リチウムイオン二次電池ではリチウムイオン)を可逆的に吸蔵及び放出し得る材料を意味する。「室温」とは、特に断りのない限り、20℃を意味する。
【0026】
本開示の製造方法は、電池セル準備工程、初期充電工程、高温エージング処理工程、ガス抜き工程、及び密閉封止工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0027】
〈電池セル準備工程〉
正極、負極、及び電解液を含む電池セルを準備する。準備方法としては、典型的には、室温域で、正極及び負極を容器に収容し、その容器内に電解液を注入して、電解液を正極及び負極に含浸する。電解液を注入した後、例えば、容器内を減圧して、正極及び負極への電界液の含浸を促進してもよい。容器に特に制限はなく、例えば、ラミネート容器及び缶容器等が挙げられる。容器は、次の初期充電工程に備え、容器の開口部を仮封止しておくことが好ましい。仮封止の方法は、後述する密閉封止の方法に準じてよいし、容器がラミネート容器の場合には、その開口部を、クリップ等を用いて仮封止してもよいし、容器が缶容器の場合には、その開口部に蓋をして、缶容器と蓋を仮溶接してもよい。
【0028】
正極は、典型的には、帯状の正極シートであり、帯状の正極集電体及び正極活物質層を備えている。正極集電体として、例えば、正極に適する金属箔(例えば、アルミニウム箔)を用いてよい。帯状の正極シートの態様では、正極集電体は、正極集電体の長手方向に直交する幅方向の一方の端部に、正極活物質層が形成されていない正極活物質層非形成部を有していてよい。他方の端部には、実質的に正極活物質層非形成部が設けられないように、正極活物質層が形成されていてよい。
【0029】
正極活物質層は、正極活物質及び導電材やバインダを含有していてよい。正極活物質としては、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)、LiNiO(リチウムニッケル酸化物)、LiCoO(リチウムコバルト酸化物)、及び/又はLiMn(リチウムマンガン酸化物)等のリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。導電材として、例えば、アセチレンブラック(AB)等の粉末状カーボンブラック材料を混合することができる。また、正極活物質と導電材の他に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダを添加することができる。
【0030】
負極は、典型的には、帯状の負極シートであり、帯状の負極集電体及び負極活物質層を備えている。負極集電体として、例えば、負極に適する金属箔(例えば、銅箔)を用いてよい。帯状の負極シートの態様では、負極集電体は、負極集電体の長手方向に直交する幅方向の一方の端部に、負極活物質層が形成されていない負極活物質層非形成部を有していてよい。また、他方の端部には、実質的に負極活物質層非形成部が設けられないように負極活物質層が形成されていてよい。
【0031】
負極活物質層は、負極活物質やバインダを含有していてよい。負極活物質としては、例えば、グラファイトカーボン、及び/又はアモルファスカーボン等の炭素系材料が挙げられる。また、負極活物質の他に、スチレンブタジエンラバー(SBR)等のバインダを添加することができる。さらに、負極活物質及びバインダの他に、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を添加することができる。
【0032】
帯状の正極シート及び正極シートの態様では、電極体は、正極活物質層と負極活物質層との間にセパレータを介在させつつ、正極活物質層と負極活物質層とを重ね、かつ、捲回した電極体(捲回電極体)であってよい。また、捲回電極体の捲回軸方向において、正極集電体と負極集電体とは、互いの電極活物質層非形成部が捲回軸方向の反対側に突出するように、配置されていてよい。そして、負極活物質層の幅が正極活物質層の幅よりも広いことが好ましい。この場合、負極活物質層は、捲回電極体の捲回軸方向(幅方向)において、正極活物質層に対向している部位(対向部位)と、正極活物質層に対向していない部位(非対向部位)とを有していてよい。
【0033】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る多孔質樹脂シートが挙げられる。
【0034】
非水電解液は、典型的には、非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有している。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及び/又はエチルメチルカーボネート等が挙げられる。また、支持塩としては、例えば、LiPF等のリチウム塩が挙げられる。一例として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(例えば質量比1:1)にLiPFを約1モル/リットルの濃度で含有させた非水電解液が挙げられる。
【0035】
〈初期充電工程〉
準備した電池セルを、少なくとも一回、初期充電する。初期充電とは、室温域で所定の電圧値まで電池セルを充電することを意味する。典型的には、電池セルの正極(正極端子)と負極(負極端子)の間に外部電源を接続し、所定の電圧まで充電(典型的には、定電流定電圧充電)を行う。初期充電での室温域とは、典型的には、室温とされる温度領域をいい、20℃±15℃を意味する。初期充電において、電池セルが曝される温度としては、例えば、5℃~35℃の温度域から選択することができ、好ましくは20℃~30℃である。
【0036】
初期充電において、正負極端子間の電圧(典型的には最高到達電圧)は、用いる活物質及び/又は非水溶媒の種類等により異なり、適宜決定できる。正負極端子間の電圧は、例えば、電池セルのSOC(State of Charge:充電深度)が満充電時(典型的には電池の定格容量)の約80%以上(典型的には、90~105%)の範囲にあるときに示し得る電圧範囲にしてよい。例えば、4.2Vで満充電となる電池では、約3.8~4.2Vの範囲に調整することが好ましい。初期充電での充電レートは、従来周知の電池セルを初期充電するときに一般的に採用され得る充電レートと同様でよい。例えば、0.1~10Cであってよい。初期充電は一回でもよいが、例えば、放電処理を挟んで二回以上繰り返し行ってもよい。
【0037】
〈高温エージング処理〉
所定の高温域で、初期充電後の電池セルを高温エージング処理する。高温エージング処理とは、初期充電を終えた電池セルを、所定の高温域で一定時間保持(典型的には安置)することを意味する。このように電池セルを高温域で保持することにより、外部から電池セル内に金属異物が混入した場合であっても、その金属異物を金属イオンとして溶解して、負極上に金属(合金を含む)として生成及び成長させ、電極内で微小な内部短絡を発生させることができる。そして、放電の際に、その内部短絡を検知することによって、異物混入による短絡セルを発見することができる。
【0038】
高温エージング処理において、電池セルの保持温度は、例えば、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、又は60℃以上であってよく、85℃以下、80℃以下、75℃以下、又は70℃以下であってよい。保持温度が40℃以上であれば、金属異物の溶解が不十分になることはない。一方、保持温度が85℃以下であれば、電池セルの構成要素、特に正極活物質及び負極活物質に損傷を与えることはない。
【0039】
高温エージング処理において、その処理時間は、電池セルの大きさ及び/又は質量等を考慮し、適宜決定してよい。処理時間は、処理開始(昇温開始)から、例えば、5時間以上、10時間以上、30時間以上、50時間以上、70時間以上、100時間以上、130時間以上、又は150時間以上であってよく、250時間以下、230時間以下、200時間以下、又は180時間以下であってよい。処理時間が5時間以上であれば、保持温度に到達するまでの時間が問題になることはなく、かつ、高温エージング処理の効果を確保することができる。高温エージング処理の確保の観点からは、処理時間は100時間以上が好ましく、150時間以上がより好ましい。一方、処理時間が250時間以下であれば、高温エージング処理の効果が飽和しているのにもかかわらず、無駄に処理を続行することが少ない。この観点からは、処理時間は200時間以下が好ましく、180時間以下がより好ましい。
【0040】
高温エージング処理をするために、電池セルを加熱する手段としては、例えば、恒温槽及び/又は赤外線ヒーター等を適宜用いることができる。
【0041】
〈ガス抜き〉
室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域で、高温エージング処理後の電池セル内部のガス抜きを行う。これにより、初期充電及び高温エージング処理で発生したガスが、電解液中に溶解して残留するガス量を低減することができる。
【0042】
ガス抜き温度は、室温より高い温度であれば、電解液中に溶解して残留するガス量を少しでも低減することができる。二次電池の構成要素、特に、正極活物質及び負極活物質並びに電解液の性能が劣化しない限りにおいて、ガス抜き温度は、高い方がよい。ガス抜き温度は、ガス抜きを行う雰囲気温度であり、ガス抜き温度と二次電池の構成要素の温度が概ね同一になる時間にわたって、ガス抜きすることが好ましい。
【0043】
室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域で、高温エージング処理後の電池セル内部のガス抜きを行えば、ガス抜きの前に、電池セルを冷却してもよいし、冷却しなくてもよい。ガス抜きの前に電池セルを冷却して、電解液への発生ガスの溶解度が一旦向上しても、ガス抜きの時点で、電解液への発生ガスの溶解度が低下していれば、電解液中に溶解して残留するガス量を低減できるためである。電池セルを冷却する工数と、再度、室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域に電池セルを加熱する工数及びエネルギーとを省略する観点からは、ガス抜きの前に電池セルを冷却しないことが好ましい。
【0044】
電解液中に溶解して残留するガス量を低減する観点からは、ガス抜き温度は、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、又は60℃以上が好ましい。一方、二次電池の構成要素のうち、電解液が高温で最も劣化し易いため、ガス抜き温度は、電解液の沸点未満である必要がある。二次電池の構成要素の性能劣化を極力回避する観点からは、ガス抜き温度は、85℃以下、80℃以下、75℃以下、又は70℃以下が好ましい。
【0045】
ガス抜き方法としては、典型的には、初期充電のために仮密閉封止してある容器を、大気解放することが挙げられる。減圧雰囲気中で、容器の仮密閉封を解除してもよい。減圧雰囲気中で容器の仮密閉封を解除すると、電極と活物質層との隙間、あるいは、正極と負極との隙間に滞留しているガスも排除することができ、好ましい。
【0046】
〈密閉封止工程〉
室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域で、ガス抜き後の電池セルを密閉封止する。これにより、初期充電及び高温エージング処理で発生したガスのうち、ガス抜き後にも電池セル内に僅かに残留しているガスが存在している場合でも、そのガスが電解液中に再溶解することを抑制できる。電池セルを密閉封止した後は、典型的には、室温程度まで、電池セルを冷却する。
【0047】
室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域で、ガス抜き後の電池セルを密閉封止すれば、密閉封止の前に、電池セルを冷却してもよいし、冷却しなくてもよい。密閉封止の前に電池セルを冷却して、電解液への発生ガスの溶解度が一旦向上しても、密閉封止の時点で、電解液への発生ガスの溶解度が低下していれば、電解液中に再溶解して残留するガス量を低減できるためである。電池セルを冷却する工数と、再度、室温より高い温度かつ電解液の沸点未満の温度域に電池セルを加熱する工数及びエネルギーとを省略する観点からは、ガス抜きの前に電池セルを冷却しないことが好ましい。
【0048】
ガスの再溶解を回避する観点からは、密閉封止温度は、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、又は60℃以上が好ましい。一方、二次電池の構成要素のうち、電解液が高温で最も劣化し易く、密閉封止温度は、電解液の沸点未満である必要がある。二次電池の構成要素の性能劣化を極力回避する観点からは、ガス抜き温度は、85℃以下、80℃以下、75℃以下、又は70℃以下が好ましい。
【0049】
電池セルの密閉封止方法は、電池セルの容器の種類等によって、適宜決定すればよい。容器に特に制限はなく、例えば、ラミネート容器及び缶容器等が挙げられる。
【0050】
ラミネート容器を用いる場合、ラミネート容器の外側から、拘束治具を用いて、電極を拘束し、正極集電体、正極活物質層、負極集電体、及び負極活物質層の相互密着性を高め、二次電池の性能を向上することができる。しかし、拘束治具を用いると、単位体積あたりに占める電池セルの体積が相対的に減少し、その結果、電池容量が減少する。そのため、拘束治具を用いずに、ラミネート容器の内部を負圧にして、ラミネート容器外側の大気圧との差圧で電極を拘束する方法が採用されている。このように差圧を利用する場合、電解液中にガスが残留して、二次電池が高温で使用されたときに、電池セル内(ラミネート容器内)にガスが発生すると、電極の拘束力が低下する。したがって、差圧を利用する二次電池を製造する場合には、本開示の製造方法は、特に有用である。
【0051】
電池セルの密閉封止方法としては、容器が樹脂製の場合には、例えば、容器の開口部を溶着して、容器を密閉封止することが挙げられる。容器が金属製(合金製を含む)の場合には、例えば、容器の開口部を溶接して、容器を密閉封止することが挙げられる。
【0052】
《変形》
これまで説明してきたこと以外でも、本開示の製造方法は、特許請求の範囲に記載した内容の範囲内で種々の変形を加えることができる。
【0053】
例えば、高温エージング処理後の電池セルを室温域に冷却して、電池セルを自己放電させた後、室温より高い温度かつ前記電解液の沸点未満の温度域に、再度、電池セルを加熱して、ガス抜きをしてもよい。
【0054】
「自己放電」とは、初期充電及び高温エージング処理済の電池セルを、室温域で放置して、一定時間自己放電させることを意味する。自己放電後の電圧降下量(放置前後の電圧差)を計測することにより、例えば、製造条件に由来する何らかの影響(例えば、高温エージング処理)に起因した内部短絡の有無を把握することができる。すなわち、内部短絡が生じている電池は、一定時間放置すると自己放電量が大きくなるため、電圧降下量も大きくなる。そのため、電圧降下量に基づいて、電池に内部短絡が生じているか否かを判断することができる。
【0055】
例えば、内部短絡の有無の判定基準となる閾値を予め設定しておき、電圧降下量がその閾値を超えた場合に、その電池セルを「内部短絡あり」と判定し、電圧降下量が閾値以下の場合にその電池セルを「内部短絡なし」と判定することができる。このような判定結果に基づいて「内部短絡あり」と判定された電池セルを排除することができる。
【0056】
自己放電時に電池セルが曝される温度としては、室温域であればよく、例えば、5℃以上、10℃以上、又は15℃以上であってよく、35℃以下、30℃以下、又は25℃以下であってよい。好ましくは、15℃~25℃である。自己放電時の放置時間は、36時間以上、42時間以上、48時間以上、54時間以上、又は60時間以上であってよく、200時間以下、180時間以下、150時間以下、又は120時間以下であってよい。好ましくは48時間~150時間であり、特に好ましくは60時間~120時間である。
【符号の説明】
【0057】
10 密閉容器
20 圧力計
30 電解液
40 空間
図1
図2
図3
図4