(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120463
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】トロイダル型無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 15/38 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
F16H15/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027276
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】西田 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】向井 善也
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA03
3J051BA03
3J051BB02
3J051BD01
3J051BE09
3J051CA05
3J051CB07
3J051EA06
3J051EB01
3J051FA02
3J051FA10
(57)【要約】
【課題】押圧装置のカム板のカム面の摩耗を抑え、設計上必要な押付力を得ることができるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】本発明のトロイダル型無段変速機の押圧装置12のカム板7は、付勢部材8を収容する収容部7aを有するとともに、入力側ディスク2と出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に、収容部7aを径方向外側から形成する部位および収容部7aを径方向内側から形成する部位のいずれもが支持部材116に軸方向で当接されるようになっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、互いの内側面同士を対向させた状態で互いの相対回転を自在として前記入力軸と同心に配置された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、
前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されるパワーローラと、
前記入力側ディスクまたは前記出力側ディスクの前記内側面と反対側の外側面に配置されて、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとを互いに近づけるように前記入力側ディスクまたは前記出力側ディスクを軸方向へ押圧するとともに、前記入力軸と共に回転するカム板と、前記カム板と前記入力側ディスクまたは前記出力側ディスクの前記外側面との間で保持器により転動自在に保持された転動体とを有するローディングカム式の押圧装置と、
を備えるトロイダル型無段変速機において、
前記入力側ディスクおよび出力側ディスクと前記パワーローラとの当接部に予圧を付与する付勢部材と、
前記カム板を軸方向で支持する支持部材と、
を備え、
前記カム板は、前記付勢部材を収容する収容空間を形成する収容部を有するとともに、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に、前記収容部を径方向外側から形成する部位および収容部を径方向内側から形成する部位のいずれもが前記支持部材に軸方向で当接されるようになっていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記支持部材は、前記入力軸と前記カム板との間に介挿されてスラスト荷重を支承自在なアンギュラ型玉軸受の外輪部材および/または内輪部材であることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記付勢部材が皿ばねまたはコイルばねであることを特徴とする請求項1または2に記載のトロイダル型無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や航空機などで用いられるトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などに用いられる変速機として、例えば、ダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機が知られている。このダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、一例として、
図3および
図4に示されるように構成されている。すなわち、
図3に示されるように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転可能に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転可能に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置(ローディングカム機構)12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された中間壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
図3に示されるように、出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転可能に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これらの入力側ディスク2は入力軸1とともに回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(
図4参照)が回転可能に挟持されている。
【0005】
図3中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(
図3の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力(予圧)を付与する。
【0006】
図4は、
図3のA-A線に沿う断面図である。
図4に示されるように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、
図4においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(
図4の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸(ピボット軸)23の基端部を成す支持軸部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これらの各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部を成す枢支軸部23bの周囲には、各パワーローラ11がラジアルニードル軸受(後述するスラスト玉軸受24の内輪(パワーローラ11)に作用する押付荷重を受ける(ラジアル方向の荷重を支承する)針状ころ軸受;ケージ・アンド・ローラ)35を介して回転可能に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の支持軸部23aと枢支軸部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(
図4の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これらの支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(
図4の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ(シリンダボディ)31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の枢支軸部23bが支持軸部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(
図4で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、ローディングカム式の押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面(大端面)11bとトラニオン15の支持板部16の内側面16aとの間には、パワーローラ11の外側面11bの側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これらの各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(転動体)26,26と、これらの各転動体26,26を転動可能に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道面24aは各パワーローラ11の外側面11bに、外輪軌道面24bは各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面16aと外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらのパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の支持軸部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(
図4の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これらの各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これらの各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とにより、各トラニオン15,15を、これらのトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、ローディングカム式の押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、さらに、これら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これらの各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、
図4の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
【0015】
その結果、これらの各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0016】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれらの各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の支持軸部23a,23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0017】
ところで、トラクションドライブするための軸力(トラクション力を発生させるために必要な押付力)を発生させるローディングカム機構である前述した押圧装置12は、従来から様々な構成形態のものが知られている(例えば、特許文献1参照)が、例えば
図5に示される構成例では、入力軸1と共に回転する前述したカム板(カムフランジ)7と、カム板7と入力側ディスク2(
図5の左側の入力側ディスク2)との間で保持器12aにより転動自在に保持された複数個のカムローラ(転動体)12bとから構成されており、入力側ディスク2を出力側ディスク4に向け弾性的に押圧しつつ、この入力側ディスク2を回転駆動自在としている。
【0018】
また、カム板7の片側面(
図5の左側面)には、円周方向に亙る凹凸であるカム面113が形成され、入力側ディスク2の外側面(
図5の右側面)にも、同様の形状を有するカム面114が形成されている。また、入力軸1の端部に嵌着されて背面が入力軸1に螺合されたナット90に突き当てられている内側ベアリング支持部材(内輪部材)119の片側面には、アンギュラ型の内輪軌道115が形成されており、この内輪軌道115と、外側ベアリング支持部材(外輪部材)116の内周面に形成されたアンギュラ型の外輪軌道117との間には、複数個の玉118が介挿されている。すなわち、ベアリング支持部材(内外輪部材)116,119と玉118は、入力軸1とカム板7との間に介挿されてスラスト荷重を支承自在なアンギュラ型の玉軸受120を構成している。なお、カム板7を支持する入力軸1の外周部位の段部と内側ベアリング支持部材119との間の隙間にはシム190が介挿されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
図5に示される前述した押圧装置12では、一般に、ディスク2,3同士の間で動力(トルク)の伝達が行なわれていない無負荷時や伝達トルクが小さく押圧力が小さい初期動作時においては、カム板7とアンギュラ型玉軸受120の外側ベアリング支持部材116との間に隙間Cが存在している。そのため、伝達トルクが増大するにつれて、カムがねじれて、カム板7が隙間Cを狭めるように軸方向に移動し、最終的に、カム板7と外側ベアリング支持部材116とが当接することになる。
【0021】
ここで、カム板7には、各ディスク2,3の凹面2a,3aとパワーローラ11の周面11aとの当接部に押圧力(予圧)を付与する前述した皿ばね8を収容するための収容空間を形成する収容部7aが径方向内側に形成されていることから、カム板7は、中実肉厚で剛性の高い(したがって、変形し難い)径方向外側部分7Aと、収容部7aの存在に起因して中空を成すことにより剛性の低い(したがって、変形し易い)径方向内側部分7Bとを伴うことになる。そのため、前述したようにカム板7と外側ベアリング支持部材116とが当接し、
図7の(a)に示されるようにトラクションドライブにより伝達されるトルクTが増大することにより軸力Faが大きくなるにつれて、カム板7は、
図5に矢印で示されるようにその変形量が径方向外側部分7Aよりも径方向内側部分7Bで大きくなる。そして、このように径方向内側ほど変形量が大きくなると、カムローラ12bとカム板7のカム面113との間で生じる滑りが大きくなり、結果として、カム面113が摩耗(フレッチング摩耗)するようになる。
【0022】
また、このようにしてカム面113が摩耗すると、カム面113が削れることによりカム面113の傾斜度合いも大きくなる。すなわち、カム面113の傾きの大きさを表わすパラメータであるローディングカム機構のカムリードLd(Ld=2πT/Fa)の値が大きくなる。したがって、同一のトルクTが作用した際の押付力(軸力Fa)は、摩耗前よりも減少することになり、そのため、設計上必要な押付力を発揮することができなくなる虞がある。これは、一般に、カムローラ12bがカム面113に沿って転げ上がることでトルクTとともに軸力Faが増大するが、
図7の(b)に示されるようにカム面113にフレッチング摩耗Wが生じると(カム面113の傾き(カムリードLd)が増大すると)、それに起因してカムローラ12bがカム面113をうまく転げ上がることができなくなることから、トルクTが増大しても軸力Faが増えないためである。
【0023】
すなわち、トラクションドライブを可能にするために必要なトルクTと軸力Faとの理想的な関係を示す
図6の曲線L1に対し、カム面113にフレッチング摩耗Wが生じた場合の実際の軸力Fa(=2πT/ld)は、実線のラインL2で示されるように、カム板7と外側ベアリング支持部材116との間に隙間Cが生じている皿ばね領域では、ラインL2の水平部L21で示されるように皿ばね8の予圧を維持し、カム板7と外側ベアリング支持部材116とが当接してカムローラ12bがカム面133に沿って転げ上がるトルクカム領域では、ラインL2の右上がりの直線傾斜部L22で示されるように、所定のトルクT’に至るまではトルクTの増大に伴って軸力Faが増大するものの、それ以降は、ラインL2の水平部L23で示されるように、摩耗Wに起因してカムローラ12bがカム面113を転げ上がらないことから、トルクTが増大しても軸力Faは増えない。
【0024】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、押圧装置のカム板のカム面の摩耗を抑え、設計上必要な押付力を得ることができるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記目的を達成するために、本発明は、入力軸と、互いの内側面同士を対向させた状態で互いの相対回転を自在として前記入力軸と同心に配置された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されるパワーローラと、前記入力側ディスクまたは前記出力側ディスクの前記内側面と反対側の外側面に配置されて、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとを互いに近づけるように前記入力側ディスクまたは前記出力側ディスクを軸方向へ押圧するとともに、前記入力軸と共に回転するカム板と、前記カム板と前記入力側ディスクまたは前記出力側ディスクの前記外側面との間で保持器により転動自在に保持された転動体とを有するローディングカム式の押圧装置とを備えるトロイダル型無段変速機において、前記入力側ディスクおよび出力側ディスクと前記パワーローラとの当接部に予圧を付与する付勢部材と、前記カム板を軸方向で支持する支持部材とを備え、前記カム板は、前記付勢部材を収容する収容空間を形成する収容部を有するとともに、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に、前記収容部を径方向外側から形成する部位および収容部を径方向内側から形成する部位のいずれもが前記支持部材に軸方向で当接されるようになっていることを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、カム板は、付勢部材を収容する収容部の存在に起因して部分的に中空を成すことにより、この中空部で変形し易くなるが、入力側ディスクと出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に、収容部を径方向外側から形成する部位および収容部を径方向内側から形成する部位のいずれもが支持部材に軸方向で当接されるようになっているため、押圧装置のカム板における押圧力(軸力)作用時(トラクションドライブ時)の変形量を径方向全体にわたってほぼ均一にすることが可能となる(前述した従来のように径方向内側ほど変形量が大きくなるといった径方向で偏った変形を生じさせないで済む)。したがって、転動体とカム板のカム面との間で生じる滑りを抑制でき、結果として、カム面での摩耗(フレッチング摩耗)を抑えることができる。そのため、設計上必要な押付力を得ることができるようになる。
【0027】
なお、上記構成において、押圧装置は、ディスク同士の間で動力(トルク)の伝達が行なわれていない無負荷時や伝達トルクが小さく押圧力が小さい初期動作時においては、カム板と支持部材との間に隙間が存在していてもよい。要は、入力側ディスクと出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に収容部を径方向外側から形成するカム板の部位および収容部を径方向内側から形成するカム板の部位のいずれもが支持部材に軸方向で当接されるようになっていればよい。また、上記構成において、支持部材は、カム板を軸方向で支持できればどのようなものであっても構わない。したがって、一実施例において、支持部材は、例えば、入力軸とカム板との間に介挿されてスラスト荷重を支承自在なアンギュラ型玉軸受の外輪部材および/または内輪部材であってもよい。また、上記構成において、付勢部材は、入力側ディスクおよび出力側ディスクとパワーローラとの当接部(具体的には、例えば、各ディスクの凹面とパワーローラの周面との当接部)に予圧を付与できればどのような形態であってもよく、例えば、皿ばねまたはコイルばねであってもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、押圧装置のカム板は、入力側ディスクと出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に、収容部を径方向外側から形成する部位および収容部を径方向内側から形成する部位のいずれもが支持部材に軸方向で当接されるようになっているため、カム板のカム面の摩耗を抑え、設計上必要な押付力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の軸方向に沿う要部断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の軸方向に沿う要部断面図である。
【
図3】従来のトロイダル型無段変速機の一例を示す断面図である。
【
図5】従来のトロイダル型無段変速機の押圧装置周辺の構成例を示す軸方向に沿う断面図である。
【
図6】カムローラ転送面の摩耗がトロイダル型無段変速機に及ぼす影響を示すトルク-軸力線図である。
【
図7】(a)は、トラクションドライブにより伝達されるトルクが増大されて軸力が大きくなった際のカム板と支持部材との押し付け状態を概略的に示す図、(b)は、カム板のカム面に沿ってカムローラが転げ上がる状態を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の特徴は、カム板と支持部材との当接形態にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分においては、
図3乃至
図5と同一の符号を付してその詳細な説明を省略または簡略化することにする。
【0031】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の軸方向に沿う要部断面図を示している。本実施形態に係るトロイダル型無段変速機は、
図3および
図4に関連して前述したように、入力軸1と、互いの内側面同士を対向させた状態で互いの相対回転を自在として入力軸1と同心に配置された入力側ディスク2および出力側ディスク(
図1には示されない)と、入力側ディスク2と前記出力側ディスクとの間に挟持されるパワーローラ(
図1には示されない)とを備えている。
【0032】
また、入力側ディスク2または前記出力側ディスクの内側面と反対側の外側面、特に本実施形態では、入力側ディスク2の外側面2dには、ローディングカム式の押圧装置12が配置されている。この押圧装置12は、入力側ディスク2と前記出力側ディスクとを互いに近づけるように入力側ディスク2を軸方向へ押圧するものであり、入力軸1と共に回転するカム板(カムフランジ)7と、カム板7と入力側ディスク2の外側面2dとの間で保持器12aにより転動自在に保持された複数個のカムローラ(転動体)12bとから構成されている。このような構成により、押圧装置12は、入力側ディスク2を出力側ディスク4に向け弾性的に押圧しつつ、この入力側ディスク2を回転駆動自在としている。なお、本実施形態において、カム板7は、例えば、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼等の硬質金属材料によって形成される。
【0033】
また、カム板7の片側面(
図1の左側面)には、円周方向に亙る凹凸であるカム面113が形成され、入力側ディスク2の外側面12dにも、同様の形状を有するカム面114が形成されている。また、入力軸1の端部に嵌着されて背面が入力軸1に螺合されたナット90に突き当てられている内側ベアリング支持部材(内輪部材)119の片側面には、アンギュラ型の内輪軌道115が形成されており、この内輪軌道115と、カム板7を軸方向で支持する外側ベアリング支持部材(外輪部材)116の内周面に形成されたアンギュラ型の外輪軌道117との間には、複数個の玉118が介挿されている。すなわち、ベアリング支持部材(内外輪部材)116,119と玉118は、入力軸1とカム板7との間に介挿されてスラスト荷重を支承自在なアンギュラ型の玉軸受120を構成している。なお、カム板7を支持する入力軸1の外周部位の段部と内側ベアリング支持部材119との間の隙間にはシム190が介挿されている。
【0034】
また、本実施形態のトロイダル型無段変速機は、入力側ディスク2および前記出力側ディスクの内側面と前記パワーローラの周面との当接部に押圧力(予圧)を付与する付勢部材としての皿ばね8(例えば、ばね鋼鋼材などの熱間成形用のばね材料およびSUPおよび硬鋼線、ピアノ線、ステンレス鋼線などの冷間熱間成形用のばね材料により形成される)を有しており、カム板7は、この皿ばね8を収容するための収容空間(本実施形態では、入力側ディスク2の側に閉塞壁を有するとともに、外側ベアリング支持部材116の側で開放している)を形成する収容部7aを入力軸1に近い径方向内側に形成して成る。そして、カム板7は、入力側ディスク2と前記出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に、収容部7aを径方向外側から形成する部位および収容部7aを径方向内側から形成する部位のいずれもが外側ベアリング支持部材116に軸方向で当接されるようになっている。
【0035】
具体的には、カム板7は、図示の軸方向に沿う断面において、環状の収容部7aを挟んで略同心的に軸方向に延びる略円筒状の外側延在部7bおよび内側延在部7cを有する。そして、カム板7は、少なくとも入力側ディスク2と前記出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に、収容部7aよりも径方向外側に位置されて軸方向に延在する外側延在部7bの端面7baと、収容部7aよりも径方向内側に位置されて軸方向に延在する内側延在部7cの端面7caとがいずれも外側ベアリング支持部材116と軸方向で当接するようになっている。
【0036】
このような構成によれば、押圧装置12のカム板7における押圧力(軸力)作用時(トラクションドライブ時)の変形量を径方向全体にわたってほぼ均一にすることが可能となる(前述した従来のように径方向内側ほど変形量が大きくなるといった径方向で偏った変形を生じさせないで済む)。したがって、カムローラ12bとカム板7のカム面113との間で生じる滑りを抑制でき、結果として、カム面113での摩耗(フレッチング摩耗)を抑えることができる。そのため、設計上必要な押付力を得ることができるようになる。
【0037】
なお、本実施形態の押圧装置12は、ディスク同士の間で動力(トルク)の伝達が行なわれていない無負荷時や伝達トルクが小さく押圧力が小さい初期動作時においては、カム板7と外側ベアリング支持部材116との間に隙間が存在していてもよい。要は、入力側ディスク2と前記出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に収容部7aを径方向外側から形成するカム板7の外側延在部7bおよび収容部7aを径方向内側から形成するカム板7の内側延在部7cのいずれもが外側ベアリング支持部材116に軸方向で当接してさえいればよい。
【0038】
図2は、本発明の第2の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の軸方向に沿う要部断面図を示している。前述した第1の実施形態では、収容部7aを径方向外側から形成するカム板7の外側延在部7bおよび収容部7aを径方向内側から形成するカム板7の内側延在部7cのいずれもが共通の外側ベアリング支持部材116に軸方向で当接していたが、本実施形態では、入力側ディスク2と前記出力側ディスクとの間でのトルク伝達時に、収容部7aを径方向外側から形成するカム板7の外側延在部7bが外側ベアリング支持部材116に軸方向で当接するとともに、収容部7aを径方向内側から形成するカム板7の内側延在部7cが、内側ベアリング支持部材119の軸方向延在部119aに軸方向で当接するようになっている。ここで、特に本実施形態において、内側ベアリング支持部材119の軸方向延在部119aは、第1の実施形態よりも短い長さで軸方向に延在する内側延在部7cと共に、皿ばね8を収容するための収容空間(収容部7a)を形成している。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。したがって、第1の実施形態と同様の作用効果が得られるとともに、径方向外側および径方向内側の両方で作用するカム板7からの押圧力を2つのベアリング支持部材116,119に分散させることができるため、アンギュラ型玉軸受120の負担が少なくて済む。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変形が可能である。例えば、前述した実施形態では、押圧装置が、入力側ディスクの内側面と反対側の外側面に配置されるとともに入力側ディスクと出力側ディスクとを互いに近づけるように入力側ディスクを軸方向へ押圧しているが、押圧装置は、出力側ディスクの内側面と反対側の外側面に配置されるとともに入力側ディスクと出力側ディスクとを互いに近づけるように出力側ディスクを軸方向へ押圧してもよい。また、前述の実施形態では、本発明を、ダブルキャビティ式ハーフトロイダル型無段変速機に適用する場合を例にとって説明したが、これに限ることなく、本発明は、シングルキャビティ式のハーフトロイダル型やフルトロイダル型のトロイダル型無段変速機にも適用できる。また、本発明のトロイダル型無段変速機の用途は限定されず、自動車や航空機など、様々な分野に適用できる。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 入力軸
2 入力側ディスク
2a 内側面
3 出力側ディスク
3a 内側面
7 カム板
7a 収容部
7b 外側延在部
7c 内側延在部
8 皿ばね(付勢部材)
11 パワーローラ
12 押圧装置
12a 保持器
12b 転動体
116 外側ベアリング支持部材
119 内側ベアリング支持部材