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特開2024-120480区域特徴量を用いた位置推定モデル及び方法、並びに経路予測プログラム及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120480
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】区域特徴量を用いた位置推定モデル及び方法、並びに経路予測プログラム及び装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20230101AFI20240829BHJP
【FI】
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027302
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100141313
【弁理士】
【氏名又は名称】辰巳 富彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮博
(72)【発明者】
【氏名】武田 直人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 悠大
(72)【発明者】
【氏名】上坂 大輔
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】エリア内の特徴を考慮して対象の位置を推定する位置推定モデルを提供する。
【解決手段】本位置推定モデルは、調査対象のエリアにおける対象の時系列の位置情報から、対象の後の位置情報を推定するモデルであって、(a)対象の時系列の位置情報のそれぞれに対応する複数の単位区域に係る区域特徴量である時系列の区域特徴量に基づき、区域特徴量の時系列データとその後となった区域特徴量のデータとを含む学習データによって訓練された区域特徴推定器を用いて、この時系列の区域特徴量に対し後となる区域特徴量を生成する区域特徴推定部と、(b)生成された後となる区域特徴量と単位区域に係る区域特徴量の各々とに基づき、後となる区域特徴量に対応する単位区域に係る情報である特徴対応区域情報を生成し、この特徴対応区域情報に基づき、対象の後の位置情報を決定する位置情報決定部としてコンピュータを機能させる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あるエリアにおける対象の位置に係る時系列の位置情報から、当該対象の後の位置情報を推定する位置推定モデルであって、
当該エリア内の単位区域毎に当該単位区域の特徴を表す区域特徴量が設定されており、
当該時系列の位置情報のそれぞれに対応する複数の単位区域に係る区域特徴量である時系列の区域特徴量に基づき、区域特徴量の時系列データとその後となった区域特徴量のデータとを含む学習データによって訓練された区域特徴推定器を用いて、当該時系列の区域特徴量に対し後となる区域特徴量を生成する区域特徴推定部と、
当該後となる区域特徴量と、当該単位区域に係る区域特徴量の各々とに基づき、当該後となる区域特徴量に対応する単位区域に係る情報である特徴対応区域情報を生成し、当該特徴対応区域情報に基づき、当該対象の後の位置情報を決定する位置情報決定部と
してコンピュータを機能させることを特徴とする位置推定モデル。
【請求項2】
前記位置情報決定部は、
当該時系列の位置情報のそれぞれに対応する時系列の単位区域に基づき、単位区域の時系列データとその後となった単位区域のデータとを含む学習データによって訓練された単位区域推定器を用いて、当該時系列の単位区域に対し後となる単位区域に係る情報である履歴対応区域情報を生成する単位区域推定部
を含み、当該特徴対応区域情報と、当該履歴対応区域情報とに基づき、当該対象の後の位置情報を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の位置推定モデル。
【請求項3】
前記単位区域推定器は、入力データを埋め込み表現ベクトルに変換するように訓練された埋め込み部を有し、
前記位置情報決定部は、当該エリア内の各単位区域の区域特徴量からなる区域特徴地図情報に対し、前記埋め込み部と同じパラメータをもって埋め込み処理を実施し、埋め込み処理を施された当該区域特徴地図情報における当該単位区域に係る埋め込み表現の各々に係る区域特徴量と、当該後となる区域特徴量とを用いて、当該特徴対応区域情報を生成し、
生成した当該特徴対応区域情報は、当該後となる区域特徴量に対応する単位区域に係る埋め込み表現の情報となっている
ことを特徴とする請求項2に記載の位置推定モデル。
【請求項4】
前記単位区域推定器は、トランスフォーマ(Transformer)におけるセルフアテンション(Self-attention)層及び全結合ニューラルネットワーク(Fully-connected neural network)層を含む複数のモジュールを用いて自己回帰を行うように構築されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の位置推定モデル。
【請求項5】
前記位置情報決定部は、当該特徴対応区域情報と、当該履歴対応区域情報とに基づき、ニューラルネットワーク(Neural Network)アルゴリズム、アテンション機構(attention mechanism)、又はアダマール積(Hadamard product)を用いて、当該対象の後の位置情報を決定することを特徴とする請求項2又は3に記載の位置推定モデル。
【請求項6】
前記区域特徴推定器は、トランスフォーマ・エンコーダ(Transformer Encoder)及びデコーダ(Decoder)、又は全結合型ニューラルネットワークアルゴリズムを用いて構築されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の位置推定モデル。
【請求項7】
前記位置情報決定部は、当該後となる区域特徴量と、当該単位区域に係る区域特徴量の各々とに基づき、内積又はアテンション機構を用いて、当該特徴対応区域情報を生成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の位置推定モデル。
【請求項8】
当該区域特徴量は、対応する単位区域内に存在する又は生じている事物であって、当該対象の移動又は滞在に影響を及ぼし得る事物に係る量を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の位置推定モデル。
【請求項9】
当該区域特徴量は、対応する単位区域内に存在する建物若しくは建造物における種類、用途、規模、及び数のうちの少なくとも1つに係る量を含むことを特徴とする請求項8に記載の位置推定モデル。
【請求項10】
当該エリア内の各単位区域の区域特徴量からなる区域特徴地図情報を変更しても、使用する推定器における訓練を改めて実施することなく、当該対象の後の位置情報を決定することができることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の位置推定モデル。
【請求項11】
あるエリアにおける対象の位置に係る時系列の位置情報から、請求項1から3のいずれか1項に記載の位置推定モデルを用いて、当該対象の後の位置情報を含む経路を予測する経路予測手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする経路予測プログラム。
【請求項12】
あるエリアにおける対象の位置に係る時系列の位置情報から、請求項1から3のいずれか1項に記載の位置推定モデルを用いて、当該対象の後の位置情報を含む経路を予測する経路予測手段を有することを特徴とする経路予測装置。
【請求項13】
あるエリアにおける対象の位置に係る時系列の位置情報から、当該対象の後の位置情報を推定する位置推定方法であって、
当該エリア内の単位区域毎に当該単位区域の特徴を表す区域特徴量が設定されており、
当該時系列の位置情報のそれぞれに対応する複数の単位区域に係る区域特徴量である時系列の区域特徴量に基づき、区域特徴量の時系列データとその後となった区域特徴量のデータとを含む学習データによって訓練された区域特徴推定器を用いて、当該時系列の区域特徴量に対し後となる区域特徴量を生成するステップと、
当該後となる区域特徴量と、当該単位区域に係る区域特徴量の各々とに基づき、当該後となる区域特徴量に対応する単位区域に係る情報である特徴対応区域情報を生成し、当該特徴対応区域情報に基づき、当該対象の後の位置情報を決定するステップと
を有することを特徴とする、コンピュータによって実施される位置推定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
都市における交通網の設計・更新や、交通政策の決定・改善等を行うに当たり、人や自動車といった対象の交通行動を予測することが重要である。この交通行動の予測においては、近年、移動需要の発生を将来の昼間・夜間人口のみから予測する従来の手法に代わり、ユーザの移動行動を詳細にモデル化したアクティビティベーストモデルを利用する方法が提案されている。
【0003】
例えば非特許文献1には、活動先の魅力度(建物統計)と移動コスト(交通条件)とから、目的地の予測や、移動そのものの発生の予測を行う技術が開示されている。この技術では、自宅から主要な活動先へ向かい、その後自宅へ戻るまでの一連の行動をツアーと定義し、このツアーをアクティビティベーストモデルに組み込むことによって、都市交通におけるユーザの日常行動の再現を図っている。
【0004】
ここで、上記の非特許文献1に開示されたモデルを含め、移動行動推定用のモデルは多くの場合、アンケート調査によって取得されたデータを元に構築されてきた。これに対し、近年、大量に取得することの可能なスマートフォンの位置情報から、人の移動行動モデルを構築する研究が精力的に進められている。
【0005】
例えば非特許文献2には、スマートフォンの位置情報に基づき、自然言語処理において発展してきた深層学習アルゴリズムであるGPT-2を用いて、人の移動行動をモデル化し、現在までの移動系列に応じた移動軌跡を生成して、精度の高い移動行動シミュレーションの実施を図る技術が開示されている。
【0006】
この技術では、大量の位置情報の系列を文章と見立てて訓練されたGPT-2を用い、位置情報の系列を固定長のベクトルにエンコードした上で、この系列の次となる位置を予測している。したがって、ある地域に存在するユーザについて、それまでの移動軌跡に基づき、例えばその地域をそのまま通過するか、又は当日の最後には自宅に戻るかを区別することができるとしている。具体的に非特許文献2では、実際に京都において、取得されたユーザの移動軌跡から、この後ユーザが自宅に戻るか否かを判定する実験を行い、自宅に戻ると判定されたユーザの割合が、当該割合の実データと概ね合致する旨の実験結果が得られたとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】石井良治他,「アクティビティシミュレータ“東京都市圏ACT”の開発と都市交通政策検討への活用」,第65回土木計画学研究発表会講演集,2022年
【非特許文献2】Takayuki Mizuno, Shouji Fujimoto, and Atushi Ishikawa, “Generation of individual daily trajectories by GPT-2”, Frontiers in Physics, vol.10, 2022年, <https://doi.org/10.3389/fphy.2022.1021176>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に述べたような対象の移動行動は、環境の変化、特に地区の再開発や大規模商業施設の建設といった土地利用の変化の影響を少なからず受けることが予想される。実際、自治体やディベロッパー等には、このような影響の大きさを把握し、人流・来訪者数の変化や周辺交通状況の変化を予測したいという強いニーズが存在する。
【0009】
例えば、自治体等では従来、道路整備やバス定期路線の変更といったような長期間固定される施策をとることが前提であったため、交通・人流の総量や渋滞の箇所等を予測することが重要視されてきた。一方、現在着目されているオンデマンドタクシーや相乗りタクシーといったような動的に提供される交通サービスに係る施策においては、個々のユーザの移動行動を予測し、詳細な移動需要を推定・把握することが重要となる。
【0010】
ここで、ユーザの移動行動は通常、その居住地や生活スタイル等によって、土地利用等の環境の影響を強く受けることが分かっている。しかしながら従来、そのような環境を考慮した移動行動の予測はほとんど行われてこなかった。
【0011】
例えば、非特許文献1に開示された技術では、現在地に至るまでどのように移動してきたがが、次の位置の推定において全く考慮されていない。その結果、個々のユーザの経てきた環境や現在地の環境の影響を考慮した移動行動の予測は、非常に困難である。さらに、ツアー単位での行動推定となるため、例えば「夜に自宅に戻ってくる行動」といった移動行動しか予測することができない。すなわち、例えば観光や運輸目的で対象地域を通り過ぎる移動行動の予測は困難となっている。
【0012】
さらに、非特許文献2に開示された技術のように、自然言語処理で使用される言語モデルを用いてユーザの移動行動を予測する研究は始まったばかりであり、建物等の環境の影響を取り入れた予測には、まだ至っていないのが実情である。
【0013】
そこで、本発明は、エリア内の特徴を考慮して対象の位置を推定する位置推定モデル及び位置推定方法を提供することを目的とする。また、このような位置推定モデルを用いて対象の経路を予測する経路予測プログラム及び経路予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、あるエリアにおける対象の位置に係る時系列の位置情報から、当該対象の後の位置情報を推定する位置推定モデルであって、
当該エリア内の単位区域毎に当該単位区域の特徴を表す区域特徴量が設定されており、
当該時系列の位置情報のそれぞれに対応する複数の単位区域に係る区域特徴量である時系列の区域特徴量に基づき、区域特徴量の時系列データとその後となった区域特徴量のデータとを含む学習データによって訓練された区域特徴推定器を用いて、当該時系列の区域特徴量に対し後となる区域特徴量を生成する区域特徴推定部と、
当該後となる区域特徴量と、当該単位区域に係る区域特徴量の各々とに基づき、当該後となる区域特徴量に対応する単位区域に係る情報である特徴対応区域情報を生成し、当該特徴対応区域情報に基づき、当該対象の後の位置情報を決定する位置情報決定部と
してコンピュータを機能させる位置推定モデルが提供される。
【0015】
この本発明による位置推定モデルの一実施形態として、位置情報決定部は、
当該時系列の位置情報のそれぞれに対応する時系列の単位区域に基づき、単位区域の時系列データとその後となった単位区域のデータとを含む学習データによって訓練された単位区域推定器を用いて、当該時系列の単位区域に対し後となる単位区域に係る情報である履歴対応区域情報を生成する単位区域推定部
を含み、当該特徴対応区域情報と、当該履歴対応区域情報とに基づき、当該対象の後の位置情報を決定することも好ましい。
【0016】
また、本発明による位置推定モデルの他の実施形態として、単位区域推定器は、入力データを埋め込み表現ベクトルに変換するように訓練された埋め込み部を有し、
位置情報決定部は、当該エリア内の各単位区域の区域特徴量からなる区域特徴地図情報に対し、前記埋め込み部と同じパラメータをもって埋め込み処理を実施し、埋め込み処理を施された当該区域特徴地図情報における当該単位区域に係る埋め込み表現の各々に係る区域特徴量と、当該後となる区域特徴量とを用いて、当該特徴対応区域情報を生成し、
生成した当該特徴対応区域情報は、当該後となる区域特徴量に対応する単位区域に係る埋め込み表現の情報となっていることも好ましい。
【0017】
さらに、本発明に係る単位区域推定器は、トランスフォーマ(Transformer)におけるセルフアテンション(Self-attention)層及び全結合ニューラルネットワーク(Fully-connected neural network)層を含む複数のモジュールを用いて構築されていることも好ましい。
【0018】
また、本発明に係る位置情報決定部は、当該特徴対応区域情報と、当該履歴対応区域情報とに基づき、ニューラルネットワーク(Neural Network)アルゴリズム、アテンション機構(attention mechanism)、又はアダマール積(Hadamard product)を用いて、当該対象の後の位置情報を決定することも好ましい。
【0019】
さらに、本発明に係る区域特徴推定器は、トランスフォーマ・エンコーダ(Transformer Encoder)及びデコーダ(Decoder)、又は全結合型ニューラルネットワークアルゴリズムを用いて構築されていることも好ましい。
【0020】
また、本発明に係る位置情報決定部は、当該後となる区域特徴量と、当該単位区域に係る区域特徴量の各々とに基づき、内積又はアテンション機構を用いて、当該特徴対応区域情報を生成することも好ましい。
【0021】
さらに、本発明に係る当該区域特徴量は、対応する単位区域内に存在する又は生じている事物であって、当該対象の移動又は滞在に影響を及ぼし得る事物に係る量を含むことも好ましい。例えば具体的に、当該区域特徴量は、対応する単位区域内に存在する建物若しくは建造物における種類、用途、規模、及び数のうちの少なくとも1つに係る量を含むことも好ましい。
【0022】
また、本発明による位置推定モデルは、当該エリア内の各単位区域の区域特徴量からなる区域特徴地図情報を変更しても、使用する推定器における訓練を改めて実施することなく、当該対象の後の位置情報を決定することができることも好ましい。
【0023】
本発明によれば、また、あるエリアにおける対象の位置に係る時系列の位置情報から、以上に述べた位置推定モデルを用いて、当該対象の後の位置情報を含む経路を予測する経路予測手段としてコンピュータを機能させる経路予測プログラムが提供される。
【0024】
本発明によれば、さらに、あるエリアにおける対象の位置に係る時系列の位置情報から、以上に述べた位置推定モデルを用いて、当該対象の後の位置情報を含む経路を予測する経路予測手段を有する経路予測装置が提供される。
【0025】
本発明によれば、さらにまた、あるエリアにおける対象の位置に係る時系列の位置情報から、当該対象の後の位置情報を推定する位置推定方法であって、
当該エリア内の単位区域毎に当該単位区域の特徴を表す区域特徴量が設定されており、
当該時系列の位置情報のそれぞれに対応する複数の単位区域に係る区域特徴量である時系列の区域特徴量に基づき、区域特徴量の時系列データとその後となった区域特徴量のデータとを含む学習データによって訓練された区域特徴推定器を用いて、当該時系列の区域特徴量に対し後となる区域特徴量を生成するステップと、
当該後となる区域特徴量と、当該単位区域に係る区域特徴量の各々とに基づき、当該後となる区域特徴量に対応する単位区域に係る情報である特徴対応区域情報を生成し、当該特徴対応区域情報に基づき、当該対象の後の位置情報を決定するステップと
を有する、コンピュータによって実施される位置推定方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の位置推定モデル及び位置推定方法によれば、エリア内の特徴を考慮して対象の位置を推定することができる。また、本発明の経路予測プログラム及び経路予測装置によれば、このような位置推定モデルを用いて対象の経路を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明による位置推定モデルの一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明による位置推定モデルの他の実施形態を示す模式図である。
図3】本発明に係る位置情報決定手段における内積処理の実施例におけるcos類似度の算出結果を示すヒストグラムである。
図4】本発明による位置推定モデルにおける位置推定処理の方針・手順を概略的に説明するための模式図である。
図5】本発明による位置推定モデルの更なる他の実施形態を示す模式図である。
図6】本発明による位置推定モデルの更なる他の実施形態を示す模式図である。
図7】本発明による位置推定モデルの更なる他の実施形態を示す模式図である。
図8】本発明による経路予測装置の一実施形態における機能構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0029】
[位置推定モデル]
図1は、本発明による位置推定モデルの一実施形態(位置推定モデル1)を示す模式図である。
【0030】
図1に示した本実施形態の位置推定モデル1は、調査対象のエリア(例えば東京都や、全国)における「対象」(位置推定対象)の位置に係る「時系列の位置情報」から、この「対象」の「後の位置情報」を推定する機械学習モデルである。ここで「対象」は本実施形態において、例えば歩行者や交通機関の利用者であり得る人間や、道路を走行する自動車とすることができ、周囲の土地利用形態、例えば建物等を含む環境の影響(作用)を受けつつ主体的又は自律的に移動するものとなっている。ちなみに、ドローン等の飛行体、自転車、自動二輪車、電動車椅子等、ヨット、ボートや船舶等、さらには例えば生息調査対象の動物も「対象」とすることが可能である。
【0031】
また、「対象」の「時系列の位置情報」は、例えばユーザの所持するGPS(Global Positioning System)測位機能を備えた携帯端末や、自動車に搭載されたGPS測位機能を備えた通信端末等から、位置情報使用許諾を受けた上で取得された測位結果に基づいて生成される情報とすることができる。例えば、時刻7:00~12:00における5分毎の緯度・経度情報であってもよい。さらにこの「時系列の位置情報」は、基地局測位方式、無線LAN(Local Area Network)のアクセスポイント測位方式や、スマートポール等による測位結果、さらにはアンケート調査結果等から生成される位置情報を含んだものであってもよい。
【0032】
また、推定される「後の位置情報」は本実施形態において、「時系列の位置情報」に係る時間帯よりも後となる位置情報であって、上記の例においては、例えば時刻12:05の緯度・経度情報や、時刻12:05~13:00における5分毎の緯度・経度情報とすることができる。
【0033】
さらに、調査対象のエリアにおいては、このエリア内の単位区域(本実施形態ではメッシュ)毎に、当該単位区域(メッシュ)の特徴を表す「区域特徴量」が設定されている。この「区域特徴量」は本実施形態において、対応する単位区域(メッシュ)内に存在する又は生じている事物であって、「対象」の移動又は滞在、特に移動又は滞在の目的、に影響を及ぼし得る事物に係る量を含む。
【0034】
ちなみに以下、「区域特徴量」は、メッシュ内に存在する(例えば商業施設や駅等を含む)建物を、種類(個人家屋,共同住宅,事業所,複合建物等)、用途(業種)(飲食,物販,教育,医療等)や、規模(階数,床面積等)をもって分類した際の各分類に属する建物の数に係る量となっているが、当然ながらこれに限定されるものではない。例えば、建物若しくは建造物における種類、用途、規模、及び数のうちの少なくとも1つに係る量を含むものであってよく、さらに、(調査対象期間に発生している)各種イベントや各種POI(Point Of Interest)等の種類、用途、規模、及び数のうちの少なくとも1つに係る量を含むものとすることもできる。
【0035】
以上に述べたような設定の下、位置推定モデル1は、具体的に、
(A)「時系列の位置情報」のそれぞれに対応する複数の単位区域に係る区域特徴量である「時系列の区域特徴量」に基づき、「区域特徴推定器」を用いて、「時系列の区域特徴量」(の時間帯)に対し後(例えば直後)となる区域特徴量である「後の区域特徴量」を生成する区域特徴推定部11と、
(B)生成された「後の区域特徴量」と、単位区域(メッシュ)に係る区域特徴量の各々とに基づき(図1では両者の内積(cos類似度)を用いて)、「後の区域特徴量」に対応する単位区域(メッシュ)に係る情報である「特徴対応区域情報」を生成し、この「特徴対応区域情報」に基づき、対象の「後の位置情報」(図1では「t=i+1のメッシュm^i+1(単位区域)」)を決定する位置情報決定部12と
してコンピュータを機能させる機械学習モデルとなっている。
【0036】
ここで、上記(A)の「区域特徴推定器」は、後に詳細に説明するが、区域特徴量の時系列データとその後となった区域特徴量の正解データとを含む学習データによって訓練された推定器である。また、上記(B)における単位区域(メッシュ)に係る区域特徴量の各々は、本実施形態において、調査対象エリア内の各単位区域(メッシュ)の区域特徴量からなる「区域特徴地図情報」(図1では更新可能地図)から取り出されて、使用される。
【0037】
このように位置推定モデル1は、エリア内の特徴である各単位区域(メッシュ)の区域特徴量(本実施形態では、区域特徴地図情報(更新可能地図))を考慮して、対象の「後の位置情報」を決定する、すなわち対象の後の位置を推定することができるのである。
【0038】
なお、「区域特徴地図情報」(更新可能地図)は本実施形態において、建物を種類、用途及び規模で分類した場合の各分類に属する建物の数に係る量である区域特徴量、すなわち後に説明する建物統計ベクトル、から構成されており、例えばこのエリア内で商業施設や駅が新設された際、当然ながら変更されるべき情報となる。しかしながら、位置推定モデル1は本実施形態において(後に詳細に説明するが)、「区域特徴地図情報」(更新可能地図)を変更しても、使用する推定器(図1では、区域特徴推定器11a)における訓練を改めて実施することなく、位置推定対象の「後の位置情報」を決定することができる。言い換えると、例えば位置推定対象である人の後の位置、ひいては人流、に対する環境(建物分布,土地利用形態)の変化の影響を、改めて推定器の訓練を実施することなく、速やかに推定することが可能となるのである。
【0039】
ちなみに、後に詳細に説明する位置推定モデル2(図2)、位置推定モデル3(図5)、位置推定モデル4(図6)、及び位置推定モデル5(図7)も、区域特徴推定部(21,31,41,51)及び位置情報決定部(22,32,42,52)としてコンピュータを機能させる機械学習モデルであって、以上に述べた位置推定モデル1の奏する効果と同様の効果を奏功するものとなっている。
【0040】
[モデル構成,位置推定方法]
次に、以上に述べた位置推定モデル1の機能構成を包含する1つの実施形態としての位置推定モデル2について、詳細に説明を行う。図2は、本発明による位置推定モデルの他の実施形態(位置推定モデル2)を示す模式図である。
【0041】
ちなみに、以下に説明する実施形態では、調査対象のエリアは、N(例えば50000)個のメッシュ(単位区域)で区切られている。ここでメッシュは、例えば日本測地系の地域メッシュであってもよく、また各メッシュmのデータは、例えばJIS X 410の地域メッシュコードとすることができる。さらに以下、時系列データに係る時点(時刻)の表記は、t=kのように行う。ここで、時点(時刻)kは、単位時間をΔtとして、基準時点(基準時刻)から時間(Δt×k)だけ経過した時点(時刻)を指すものとする。
【0042】
図2に示したように、位置推定モデル2は、
(A)区域特徴推定器21aを用いて区域特徴量(本実施形態では後述する建物統計ベクトル)の推定処理を実施する区域特徴推定部21と、
(B)単位区域推定器221aを用いてメッシュ(単位区域)の推定処理を実施する単位区域推定部221を有する位置情報決定部22と
を、コンピュータに搭載されたプログラムの実行によって具現される機能構成部として有している。言い換えると、これらの機能構成部としてコンピュータを機能させるモデルとなっているのである。
【0043】
ここで、上記(A)の区域特徴推定部21は、区域特徴推定器21aを備えていてもよく、又は外部の(例えば外部サーバに搭載された)区域特徴推定器21aを使用可能であってもよい。また、上記(B)の単位区域推定部221は、単位区域推定器221aを備えていてもよく、又は外部の(例えば外部サーバに搭載された)単位区域推定器221aを使用可能であってもよい。ここで、使用する推定器が備えられたものであってもよく、外部の使用可能なものであってもよいことは、上述した位置推定モデル1(図1)や、後に説明する位置推定モデル3(図5)、位置推定モデル4(図6)、及び位置推定モデル5(図7)においても当てはまる。
【0044】
なお、上述した位置推定モデル1(図1)の区域特徴推定部11及び区域特徴推定器11aはそれぞれ、この後説明する区域特徴推定部21及び区域特徴推定部21aと同一の機能構成を有するものである。また、同じく位置推定モデル(図1)の位置情報決定部12は、後に説明する位置情報決定部22における特徴対応区域ベクトルS(mi+1)を生成するまでの機能構成と同一の機能構成を有するものとなっている。
【0045】
<区域特徴推定部>
図2に示したように、区域特徴推定部21は、
(A1)位置推定対象(本実施形態では、GPS搭載端末のユーザ)について取得された「時系列の位置データ」{Xt|t=0, 1, ・・, i}における複数の位置データのそれぞれに対応する「複数のメッシュコードデータ」{mt|t=0, 1, ・・, i}についての建物統計ベクトル(区域特徴量)である「時系列の建物統計ベクトルデータ」{x_mt|t=0, 1, ・・, i}を、訓練された区域特徴推定器21aへ入力し、
(A2)この区域特徴推定器21aから、その出力として、「時系列の建物統計ベクトルデータ」{x_mt|t=0, 1, ・・, i}の後となる建物統計ベクトル、本実施形態ではその直後となる建物統計ベクトルx_mi+1、を取り出す。
【0046】
ここで、本実施形態の区域特徴量である建物統計ベクトルx_mは、メッシュmに存在する建物についての数であって(種類、用途及び規模で分類した際の)各分類に属する建物の数をベクトル要素としたベクトルである。この建物の分類数をCとすると、建物統計ベクトルはC次元ベクトルとなり、予め所定個の建物分類を設定しておくことで固定長のベクトルとして生成される。例えば(後に説明で用いる)図4に示した「Mesh(メッシュ)Xの建物統計ベクトル」は、予め設定された建物の4つ(C=4)の種類による分類(個人向け住宅,商業施設,オフィスビル施設,駅)における各分類の建物件数(5, 3, 2, 0)をベクトル要素とした4次元ベクトルとなる。
【0047】
なお、区域特徴推定器21aへ入力される上記(A1)の「時系列の建物統計ベクトルデータ」{x_mt|t=0, 1, ・・, i}は、図2に示したように、C×(i+1)次元の行列(テンソル)として捉えることもできる。
【0048】
また、本実施形態の区域特徴推定器21aは、
(a)取得された時系列の位置データに対応する時系列の建物統計ベクトル(区域特徴量)データと、
(b)その後(本実施形態では、その直後)となった建物統計ベクトル(区域特徴量)の正解データと
の複数(多数)の組を含む学習データによって訓練された時系列データ用推定器である。
【0049】
具体的に、区域特徴推定器21aとして例えば、非特許文献3:Zeng, Ailing, et al. "Are Transformers Effective for Time Series Forecasting?", arXiv preprint arXiv:2205.13504v1, 2022年 <https://doi.org/10.48550/arXiv.2205.13504>に開示された、
(a)トランスフォーマ・エンコーダ(Transformer encoder)及びデコーダ(Decoder)
を用いて構築されたAutoformer、Informerや、FEDformer等、又は
(b)全結合型ニューラルネットワーク(Fully-connected neural network)アルゴリズムを用いて構築されたDLinearや、NLinear等
を採用することができる。
【0050】
ここでトランスフォーマ・エンコーダは、自然言語処理の分野で2017年に提案されて以来、盛んに利用されているトランスフォーマ(Transformer)のエンコード部であって、複数のモジュールで構成されており、各モジュールは、マルチヘッド・セルフアテンション(Multi-head self-attention)層及び全結合型ニューラルネットワーク層を含む。上記(a)のAutoformer、Informer、及びFEDformerは、時系列データを取り扱うに当たり、このうちマルチヘッド・セルフアテンション層の複雑性を軽減する工夫を施したモデルとなっている。
【0051】
また上記(b)のDLinearは、入力である時系列データをトレンド成分と季節成分とに分解(decomposition)し、各成分を個別に線形1層のニューラルネットワークで処理するモデルである。さらにNLinearは、入力である時系列データに対し、この時系列データからこの入力の最終値を引く形の正規化(時間方向の正規化)を行った後、線形1層のニューラルネットワークでの処理を施すモデルとなっている。
【0052】
いずれにしても、区域特徴推定器21a(区域特徴推定部21)の出力である建物統計ベクトルx_mi+1は、ユーザが時点t=0から時点t=iまでの間に経てきた(メッシュの)建物環境から、このユーザが時点t=i+1で経験するであろう建物環境を推定した結果となっている。ちなみに本実施形態において、この建物統計ベクトルx_mi+1は、この後の内積処理(cos類似度算出処理)に備えて、ノルムが1となるように正規化されて出力される。
【0053】
<位置情報決定部>
同じく図1に示したように、本実施形態の位置情報決定部22は、
(B1)区域特徴推定部21で生成された、建物統計ベクトルx_mi+1(後となる区域特徴量)の正規化ベクトルと、更新可能地図(図2では、N×C次元の行列(テンソル))から取り出された各メッシュの建物統計ベクトルx_m(j)(j=1, 2, ・・, N(Nはメッシュ数))の正規化ベクトルとの内積をとって、N次元の特徴対応区域ベクトルS(mi+1)を生成し、
また、(位置情報決定部22の)単位区域推定部221は、
(B2)上記(A1)と同じ位置推定対象について取得された「時系列の位置データ」{Xt|t=0, 1, ・・, i}における複数の位置データのそれぞれに対応する「時系列のメッシュコードデータ」{mt|t=0, 1, ・・, i}に基づき、単位区域推定器221a及びデコーダ221bを用いて、「時系列のメッシュコードデータ」{mt|t=0, 1, ・・, i}に対し後となるメッシュ、本実施形態では直後となるメッシュmi+1に係る情報である履歴対応区域ベクトルP(mi+1)を生成し、
さらに、位置情報決定部22は、
(B3)生成した上記(B1)の特徴対応区域ベクトルS(mi+1)と、生成した上記(B2)の履歴対応区域ベクトルP(mi+1)とに基づき、位置推定器22aを用いて、N次元の区域推定ベクトルを生成し、この区域推定ベクトルから、位置推定対象(GPS搭載端末のユーザ)の後の位置情報、本実施形態では時点t=i+1において推定されるメッシュm^ i+1を決定する。
【0054】
ここで、上記(B1)の特徴対応区域ベクトルS(mi+1)においては、N個のベクトル要素の各々が、(N個のメッシュのうちの)対応するメッシュに係る建物統計ベクトルx_m(j) (j=1, 2, ・・, N)の正規化ベクトルと、建物統計ベクトルx_mi+1の正規化ベクトルとの内積値(cos類似度)となっている。すなわち、特徴対応区域ベクトルS(mi+1)は、(時点t=i+1の建物統計ベクトルとして)推定された建物統計ベクトルと、各メッシュの建物統計ベクトルとの類似の度合いを表した情報であって、いずれのメッシュの建物統計ベクトルが、推定された建物統計ベクトルに最も類似しているかが分かる情報となっている。
【0055】
ちなみに、上述した位置推定モデル1(図1)においては、この内積値(cos類似度)が最も大きいメッシュ、すなわち特徴対応区域ベクトルS(mi+1)における最大値をとるベクトル要素に対応するメッシュを、時点t=i+1において推定されるメッシュm^ i+1とすることができる。
【0056】
ここで、位置情報決定部22における内積処理(cos類似度算出処理)の実施例を示す。図3は、本実施例におけるcos類似度(内積値)の算出結果を示すヒストグラムである。
【0057】
本実施例では、位置推定対象であるGPS搭載端末のユーザにおける、取得された多数の時系列の位置データから、8日間にわたっての30分毎の時系列のメッシュコードデータを多数生成し、その一部を学習データとして、DLinearベースの区域特徴推定器21aを構築した。ここでメッシュコードには、約250m×約250mの4分の1地域メッシュコードを採用した。また建物を、種類(個人家屋,共同住宅,事業所,複合建物等)、用途(業種)(飲食,物販,教育,医療等)や、規模(階数,床面積等)をもって分類した上で、取得された市販の地図情報を用いて、メッシュ毎に、当該メッシュ内に存在する建物についての数であって各分類に属する建物の数をベクトル要素とする建物統計ベクトルを生成した。
【0058】
次いで、生成した多数の8日間にわたる時系列のメッシュコードデータの一部を評価用のデータとして、対応する7日間にわたる時系列の建物統計ベクトルを、構築した区域特徴推定器21aへ入力し、その出力として取得された建物統計ベクトル(推定建物統計ベクトル)と、対応する残りの1日間の建物統計ベクトル(正解建物統計ベクトル)とのcos類似度(内積値)を算出した。
【0059】
その結果、図3のヒストグラムに示したように、取得された推定建物統計ベクトルの多くが、正解建物統計ベクトルに高い類似度をもって類似していることが分かった。ここで、算出されたcos類似度の中央値は0.71に達している。したがって、このようなcos類似度(内積値)をベクトル成分とする特徴対応区域ベクトル(特徴対応区域情報)は、この後の位置推定において使用するのに好適な情報となっていることが理解される。
【0060】
図2に戻って、上記(B2)の単位区域推定器221aは、例えば多数のユーザが所持するGPS測位機能を備えた携帯端末から取得された測位結果に基づき生成されたメッシュコードの時系列データと、実際にその後となった(本実施形態ではその直後となった)メッシュコードの正解データとを含む学習データによって訓練された機械学習モデルである。
【0061】
この単位区域推定器221aは、トランスフォーマにおけるセルフアテンション層及び全結合ニューラルネットワーク層を含む複数のモジュールを用いて(例えば、トランスフォーマ・エンコーダやトランスフォーマ・デコーダを用いて)自己回帰を行うように構成されたものとすることができる。ここで自己回帰とは、自然言語処理でいえば、それまでに出てきた単語によって次に出てくる単語の出現確率が決められる処理過程を指す。このような単位区域推定器221aとして、具体的に例えば、BERT、非特許文献2で使用されたGPT-2や、GPT-3等を採用してもよい。なおこのうち、GPT-2及びGPT-3は、トランスフォーマ・デコーダで構成された言語モデルであり、特にGPT-3は、上記のセルフアテンション層及び全結合ニューラルネットワーク層を含むモジュールを、デコーダモジュールとして96個重ねた大規模構造を有している。
【0062】
ちなみに単位区域推定器221aを、LSTM(Long Short Term Memory)等のRNN(Recurrent neural network)アルゴリズムを用いて構築することも可能である。しかしながら本実施形態のように、単位区域推定器221aをトランスフォーマベースの推定器とすることによって、より長期のコンテキスト(位置履歴)を精度良く取り扱うことが容易となるのである。
【0063】
いずれにしても単位区域推定器221aは、「時系列の位置データ」{Xt|t=0, 1, ・・, i}を入力として、時点t=i+1における、推定される位置に係る離散表現としての内部状態ベクトル、すなわち予め設定された隠れベクトル次元の(固定長の)履歴対応区域隠れベクトルを出力する。ちなみに、GPT-2の場合、デフォルトではt=0, 1, ・・, i, i+1の履歴対応区域隠れベクトルを出力するので、ここから時点t=i+1に対応する履歴対応区域隠れベクトルを抽出して出力としてもよい。またこの場合、時点t=0, 1, ・・, iでの内部状態も推定結果に反映させるべく、これらの(t=0~i+1の)履歴対応区域隠れベクトルに対しプーリング(pooling)処理を施した結果を、時点t=i+1の履歴対応区域隠れベクトルとして出力してもよい。
【0064】
さらに、上記(B2)のデコーダ221bは、例えば全結合型(1層の)ニューラルネットワークアルゴリズムによって構築されたものとすることができ、上記のように生成された時点t=i+1の履歴対応区域隠れベクトルを入力として、N(Nはメッシュ数)次元の履歴対応区域ベクトルP(mi+1)を出力する。ここで、この履歴対応区域ベクトルP(mi+1)の各ベクトル要素は、対応するメッシュが時点t=i+1のメッシュmi+1となる尤度となっている。
【0065】
また、上記(B3)の位置推定器22aは、例えば全結合型のDNN(Deep Neural Network)アルゴリズムによって構築されたものであってもよい。具体的に位置推定器22aは、特徴対応区域ベクトルS(mi+1)と履歴対応区域ベクトルP(mi+1)とを入力として、N(Nはメッシュ数)次元の区域推定ベクトルを出力する。ここで、この区域推定ベクトルの各ベクトル要素は、対応するメッシュが時点t=i+1のメッシュmi+1となる尤度であって、これまで経てきた建物環境も考慮した尤度となっている。すなわち区域推定ベクトルは、これまでの建物環境の履歴から予想される建物環境(との類似度)と、これまでのメッシュの履歴から予想される次のメッシュ(である尤もらしさ)とを考慮して推定された、各メッシュにおける(時点t=i+1の)メッシュmi+1である可能性を表現した情報となっているのである。
【0066】
ここで位置情報決定部22は、このように生成された区域推定ベクトルにおいて最大値をとるベクトル要素(尤度)に対応するメッシュを、時点t=i+1において推定されるメッシュm^ i+1とすることができる。
【0067】
次いで、以上に述べた位置推定モデル2における訓練について説明する。以上の説明から明らかなように、位置推定モデル2は、訓練すべきパラメータが多く、いわゆるEnd2Endで(入力端から出力端までを一括して)訓練することが、設計によっては相当に困難となる可能性が高い。
【0068】
そこで、使用する推定器やデコーダ(21a,221a及び221b,22a)に対し個別にPre-training(事前訓練)を施してもよい。例えば、GPT-2を採用した単位区域推定器221a及びデコーダ221bに対し、非特許文献2に開示された方法を用いてPre-trainingを施し、さらに区域特徴推定器21aに対し、非特許文献3(Zeng, Ailing, et al. "Are Transformers Effective for Time Series Forecasting?")に開示された方法を用いてPre-trainingを施しておくことも好ましい。この場合、最後に位置推定モデル2の全体(のニューラルネットワーク)をFine-tunning(精密調整)することによって、訓練処理(モデル構築処理)を完了させることができる。なお、先に説明した位置推定モデル1(図1)や、後述する位置推定モデル3(図5)、位置推定モデル4(図6)、及び位置推定モデル5(図7)に対する訓練も、以上に述べた方法と同様にして実施することが可能である。
【0069】
また、以上に説明したモデル訓練において、関係するメッシュの建物統計ベクトルは当然に学習データとして使用される。しかしながら、調査対象エリア内の建物の数が変化(増減)したりその種類や規模が変更となったりしたことに合わせて、建物統計ベクトル、ひいては更新可能地図が更新されたとしても、すでに構築された位置推定モデル2(及び1,3~5)は、訓練し直す必要がない。すなわち、更新後の建物統計ベクトル(更新可能地図)に係る新たな学習データをもって改めて訓練を実施しなくとも、位置情報決定部22において更新後の更新可能地図(建物統計ベクトル)を取り扱うだけで、位置推定処理を実施することができるのである。これにより、例えば対象である人の将来の位置、ひいては将来の人流、に対する建物環境の変化の影響を、処理負担の非常に大きい再訓練に依らずに、速やかに推定することが可能となる。
【0070】
ちなみに、位置推定モデル2(及び1,3~5)において、更新可能地図が更新されても再訓練の必要は生じないということは、位置推定モデル2(及び1,3~5)が、「調査対象であるユーザがどのような建物分布を有する場所を経ていくかは、それまで経てきた建物環境によって決まる」との前提の下、設計されていることを意味する。すなわち、例え建物環境が変化したとしても(更新可能地図が更新されたとしても)、ユーザが移動する目的(意味)は当該ユーザにおいて維持され、例えば「オフィス街に行った後は、商業地へ移動する傾向にある」といったような当該ユーザの移動パターン(移動意図)は変化しないものとしているのである。
【0071】
図4は、本発明による位置推定モデル2における位置推定処理の方針・手順を概略的に説明するための模式図である。なお、ここで説明する方針・手順は、後述する位置推定モデル3(図5)、位置推定モデル4(図6)、及び位置推定モデル5(図7)についても概ね当てはまるものとなっている。
【0072】
図4に示した例によれば、位置推定モデル2(図2)は、
(a)GPS測位機能を搭載したスマートフォンである端末2の基地局による観察によって取得されたユーザの移動軌跡(時系列の位置情報):Mesh 1→Mesh 2→Mesh 3→Mesh 4→Mesh 5
を取り込み、これを入力とした単位区域推定器221a(図2)の出力として、「次の時点のメッシュの離散表現を含む、ユーザの移動軌跡の離散表現」を取得し、これから「移動軌跡から推定される次の時点のメッシュに係る情報」(履歴対応区域情報)を生成する。
【0073】
また、位置推定モデル2は、
(b)取得された各メッシュ内の建物分布(土地利用形態)情報から生成された各メッシュの建物統計ベクトル
を取り込み、ユーザの移動軌跡(Mesh 1→Mesh 2→Mesh 3→Mesh 4→Mesh 5)に対応する時系列の建物統計ベクトル(住宅地→駅→オフィス→商業地→駅)を生成して、これを入力とした区域特徴推定器21aの出力として、「次の時点の建物統計ベクトル」を取得し、これから「経てきた建物環境から推定される次の時点のメッシュに係る情報」(特徴対応区域情報)を生成する。
【0074】
最後に位置推定モデル2は、生成した「移動軌跡から推定される次の時点のメッシュに係る情報」(履歴対応区域情報)と、生成した「「経てきた建物環境から推定される次の時点のメッシュに係る情報」(特徴対応区域情報)」との両方を勘案して、次の時点のメッシュ:Mesh 6を推定する。
【0075】
このように位置推定モデル2は、単にユーザのそれまでの移動軌跡だけではなく、それまでに経てきた建物環境も考慮することにより、ユーザの位置をより精度よく推定することができる。言い換えると、ユーザ位置の「空間的制約」を考慮するだけでなく、ユーザ位置のユーザにとっての「意味的制約」も考慮した、より精度の高い位置推定が可能となるのである。例えば、ユーザの「オフィスの後、商業地に移動する(仕事帰りに買い物をする)」といったような目的(意図)をも取り込んだ位置推定を行うことも可能となるのである。
【0076】
[位置推定モデルの他の実施形態]
図5は、本発明による位置推定モデルの更なる他の実施形態(位置推定モデル3)を示す模式図である。
【0077】
図5に示した本実施形態の位置推定モデル3は、上述した位置推定モデル2(図2)の一部を変更したモデルとなっている。具体的に、位置推定モデル2は、N(Nはメッシュ数)次元の特徴対応区域ベクトルと、N次元の履歴対応区域ベクトルとを統合して、推定されるメッシュm^ i+1を決定・出力する、いわばメッシュ数(ボキャブラリ数)次元統合型のモデルである。これに対し、本実施形態の位置推定モデル3は、「隠れベクトル次元」の特徴対応区域隠れベクトルと、「隠れベクトル次元」の履歴対応区域隠れベクトルとを統合して、推定されるメッシュm^ i+1を決定・出力する、いわば隠れベクトル次元統合型のモデルとなっている。ここで、「隠れベクトル次元」とは、単位区域推定器(321a)の内部状態ベクトル(隠れベクトル)の次元である。
【0078】
同じく図5に示したように、本実施形態の位置推定モデル3は、
(A)区域特徴推定器31aを用いて建物統計ベクトル(区域特徴量)の推定処理を実施する区域特徴推定部31と、
(B)単位区域推定器321aを用いてメッシュ(単位区域)の推定処理を実施する単位区域推定部321を有する位置情報決定部32と、
を、コンピュータに搭載されたプログラムの実行によって具現される機能構成部として有している。
【0079】
このうち上記(A)の区域特徴推定部31及び区域特徴推定器31aは、上述した位置推定モデル2(図2)の区域特徴推定部21及び区域特徴推定器31aと同一の機能構成を有するものである。また、上記(B)の単位区域推定器321aも、位置推定モデル2(図2)の単位区域推定器221aと同一の機能構成を有している。一方、上記(B)の単位区域推定部321は、単位区域推定部221(図2)と異なり、デコーダを備えておらず、隠れベクトル次元の履歴対応区域隠れベクトル(履歴対応区域情報)を生成・出力する。
【0080】
さらに、本実施形態の単位区域推定器321aは(図2に示した実施形態の単位区域推定器221aも同様であるが)、入力データを埋め込み表現(分散表現)ベクトルに変換するように訓練された埋め込み部321aeを有している。ここで、本実施形態の位置情報決定部32は、
(B1)更新可能地図(区域特徴地図情報)に対し、すなわち更新可能地図における(建物統計ベクトルを行ベクトルとした場合の)列ベクトルに対し、埋め込み部321aeと同じパラメータをもって埋め込み処理を実施して、(隠れベクトル次元数)×C次元の埋め込み処理済み更新可能地図を生成し、
(B2)埋め込み処理済み更新可能地図(区域特徴地図情報)におけるメッシュに係る埋め込み表現の各々に係る建物統計ベクトル(行ベクトル)と、区域特徴推定部31で推定された建物統計ベクトルx_mi+1(後となる区域特徴量)とを用いて(本実施形態では正規化された両者の内積をとって)、隠れベクトル次元の特徴対応区域隠れベクトル(特徴対応区域情報)を生成し、
(B3)生成した特徴対応区域隠れベクトルと、単位区域推定部321で生成した履歴対応区域隠れベクトルとに基づき、例えば全結合型のDNNアルゴリズムによって構築された位置推定器32aを用いて、区域推定ベクトルを生成し、この区域推定ベクトルから、推定されるメッシュm^ i+1を決定・出力する。
【0081】
なお本実施形態において、上記(B2)の特徴対応区域隠れベクトル(特徴対応区域情報)は、建物統計ベクトルx_mi+1(後となる区域特徴量)に対応するメッシュに係る埋め込み表現の情報となっている。また、上記(B2)の「埋め込み部321aeと同じパラメータ」として、単位区域推定器(例えばGPT-2やGPT-3)321aに対しPre-Trainingを実施することにより獲得される埋め込みパラメータ(Embedding parameters)を用いることができる。このような埋め込みパラメータを用いて取得される埋め込み処理済み更新可能地図は、更新可能地図を、単位区域推定器(例えばGPT-2やGPT-3)321aの内部状態空間上に(圧縮)射影したものと捉えることができる。
【0082】
以上述べたように、位置推定モデル3においては、位置推定器32aへの入力として取り扱う特徴対応区域情報(特徴対応区域隠れベクトル)及び履歴対応区域情報(履歴対応区域隠れベクトル)を、N(Nはメッシュ数)次元(例えば約50000次元)よりも少ない次元である隠れベクトル次元(例えば約500次元)の情報としている。これに対し、位置推定モデル2(図2)では、位置推定器22aへの入力として、N次元の特徴対応区域情報(特徴対応区域ベクトル)及び履歴対応区域情報(履歴対応区域ベクトル)を取り扱っている。したがって、位置推定モデル3によれば、取り扱うベクトルの次元数を小さくすることによって、モデル内での、特に位置推定器32aにおける演算処理の負担をより低減し、さらに、より高い汎化性能を実現することが可能になるのである。
【0083】
図6は、本発明による位置推定モデルの更なる他の実施形態(位置推定モデル4)を示す模式図である。
【0084】
図6に示した本実施形態の位置推定モデル4は、上述した位置推定モデル3(図5)の一部を変更したモデルとなっている。具体的に、位置推定モデル4の位置情報決定部42は、位置情報決定部32(図5)において採用されていた位置推定器(32a)に代えて、
(a)アテンション機構(attention mechanism)をもって構築されたアテンション(Attention)部42aと、
(b)例えば全結合型(1層の)ニューラルネットワークアルゴリズムによって構築されたデコーダ42bと
を備えている。
【0085】
ここで、アテンション機構は、入力データのどの部分に特に注目(attention)すべきかを決定する機構であり、現在、機械学習分野において広く活用されている技術である。このアテンション機構については、例えば非特許文献:Vaswani, A., Shazeer, N., Parmar, N., Uszkoreit, J., Jones, L., Gomez, A. N., Kaiser, L. ukasz, & Polosukhin, I., “Attention is All you Need”, Advances in Neural Information Processing Systems (Vol. 30), 2017年, <https://proceedings.neurips.cc/paper/2017/file/3f5ee243547dee91fbd053c1c4a845aa-Paper.pdf> において詳細に説明されている。
【0086】
位置情報決定部42は、上記のアテンション部42a及びデコーダ42bを用いて、特徴対応区域隠れベクトルと履歴対応区域隠れベクトルとに基づき、推定されるメッシュm^ i+1を決定・出力する。なお、位置推定モデル4の区域特徴推定部41及び区域特徴推定器41aは、上述した位置推定モデル3(図5)の区域特徴推定部31及び区域特徴推定器31aと同一の機能構成を有するものである。また、単位区域推定器321aも、位置推定モデル3(図5)の単位区域推定器321aと同一の機能構成を有している。さらに、位置情報決定部42も、上記のアテンション(Attention)部42a及びデコーダ42b以外の部分については、位置推定モデル3(図5)の位置推定器32a以外の部分と同一の機能構成を有するものとなっている。
【0087】
同じく図6に示したように、本実施形態のアテンション部42aは、第1重み付け混合部、スケール部、ソフトマックス関数部、及び第2重み付け混合部として機能する。最初に、第1重み付け混合部は、特徴対応区域隠れベクトルと履歴対応区域隠れベクトルとをそれぞれQuery及びKeyとして入力し、両者の重み付け和に係る関数(additive attention function)値ベクトル、又は両者の重み付け積に係る関数(multi-plicative attention function)値ベクトルを出力する。ここで、この重み付けはいわば、履歴対応区域隠れベクトル(key)における各ベクトル要素の、特徴対応区域隠れベクトル(Query)に対する重要度を表したものと解釈することができる。次いでスケール部は、第1重み付け混合部からの出力ベクトルを、履歴対応区域隠れベクトル(key)の次元数を用いて規格化する。
【0088】
その後、ソフトマックス関数部は、公知のソフトマックス関数を適用し、規格化されたこの出力ベクトルにおけるベクトル要素の最大値を最も大きくした、且つ要素の合計が1となるベクトルを出力する。最後に、第2重み付け混合部は、ソフトマックス関数部からの出力ベクトルと、Valueとして入力した履歴対応区域隠れベクトルとの重み付け和に係る関数値ベクトル、又は両者の重み付け積に係る関数値ベクトルを出力する。ここで、この出力ベクトルは、履歴対応区域隠れベクトル(value)における各ベクトル要素の、特徴対応区域隠れベクトル(Query)に対する重要性を考慮した、新たな特徴対応区域隠れベクトルとなっているのである。
【0089】
なお本実施形態において、デコーダ42bは、この出力ベクトルを入力として、N(Nはメッシュ数)次元の区域推定ベクトルを出力するのである。またアテンション部42aは、以上に説明した入力内容とは逆になるが、履歴対応区域隠れベクトルをqueryとして、特徴対応区域隠れベクトルをmemory(key, value)として、アテンション処理を実施することも可能である。
【0090】
このように、アテンション部42aによれば、
(a)ユーザ位置の「意味的制約」を考慮して導出された特徴対応区域隠れベクトルデータと、
(b)ユーザ位置の「空間的制約」を考慮して導出された履歴対応区域隠れベクトルデータと
を、単にDNNで統合するのではなく、両データについて、相手のデータに基づき自身の注目すべきデータ部分を決定することにより、当該データ部分に重みを付与した、より推定精度の高いメッシュ(単位区域)推定用のデータを生成することが可能となるのである。
【0091】
また、以上に説明したアテンション機構は、位置情報決定部42における内積処理の代わりとして使用することも可能である。具体的には、例えば、
(a)区域特徴推定部41から出力された、建物統計ベクトルx_mi+1の正規化ベクトルをqueryとし、一方、埋め込み処理済み更新可能地図から(各行ベクトルとして)抽出された「隠れベクトル次元数個の建物統計ベクトル」の正規化ベクトルの各々をmemory(key, value)として、アテンション処理を行い、
(b)「隠れベクトル次元数個の建物統計ベクトル」の正規化ベクトルの各々についてアテンション処理を実施した結果に対し、平均処理又は最大値によるプーリング処理を施し、
(c)平均又はプーリング処理の施された結果を所定のデコーダへ入力し、このデコーダの出力として特徴対応区域隠れベクトル(特徴対応区域情報)を生成してもよい。
【0092】
なお、上述した位置推定モデル1(図1)、位置推定モデル2(図2)や、位置推定モデル3(図5)、さらにはこの後述べる位置推定モデル5(図7)においても、内積処理の代わりに、上述したようなアテンション処理を適用して、特徴対応区域情報を生成することが可能である。
【0093】
図7は、本発明による位置推定モデルの更なる他の実施形態(位置推定モデル5)を示す模式図である。
【0094】
図7に示した本実施形態の位置推定モデル5は、上述した位置推定モデル2(図2)の一部を変更したモデルとなっている。具体的に、位置推定モデル2の位置情報決定部22(図2)では、特徴対応区域ベクトルと履歴対応区域ベクトルとを位置推定器(22a)を用いて統合するのに対し、位置推定モデル5の位置情報決定部52は、特徴対応区域ベクトルと履歴対応区域ベクトルとのアダマール積(Hadamard product)をとり、その結果に対しソフトマックス関数を適用して区域推定ベクトルを生成する。
【0095】
これにより位置推定モデル5は、例えば全結合型DNNである位置推定器22a(図2)と比較すると、格段に少ない処理負担をもって、区域推定ベクトル生成処理(位置推定処理)を実施することができるのである。
【0096】
なお、本実施形態の位置推定モデル5における区域特徴推定部51及び区域特徴推定器51aは、上述した位置推定モデル2(図2)の区域特徴推定部21及び区域特徴推定器21aと同一の機能構成を有するものである。また、単位区域推定器521a及びデコーダ521bも、位置推定モデル2(図2)の単位区域推定器221a及びデコーダ221bと同一の機能構成を有している。さらに、位置情報決定部52も、上記のアダマール積適用処理及びソフトマックス関数適用処理を施す部分以外の部分については、位置推定モデル2(図2)の位置推定器22a以外の部分と同一の機能構成を有するものとなっている。
【0097】
[経路予測装置・プログラム]
図8は、本発明による経路予測装置の一実施形態における機能構成を示す機能ブロック図である。
【0098】
図8に示したように、本実施形態の経路予測装置8は、
(a)外部の例えば地図データ管理サーバから通信インタフェース部801及び通信制御部821を介して取得された、対象エリア内の建物に係る情報であるエリア内建物情報(を含む地図情報)を保存・管理するエリア内建物情報保存部802と、
(b)エリア内建物情報保存部802から読み出したエリア内建物情報を用いて、各メッシュの建物統計ベクトル、ひいては更新可能地図、を生成し適宜更新する更新可能地図生成・更新部811と、
(c)GPS測位機能を搭載した端末2(を所持するユーザ)のGPS測位データを(基地局3を介して)収集し管理する外部のモバイルデータ管理サーバから、通信インタフェース部801及び通信制御部821を介して取得された端末位置情報を保存・管理する端末位置情報保存部803と、
(d)端末位置情報保存部803から読み出した端末位置情報を用いて、学習用及び(位置推定対象の)位置推定用の時系列位置情報(時系列メッシュコードデータ)を生成する時系列位置情報生成部812と、
(e)生成された学習用の時系列位置情報と、対応するメッシュの建物統計ベクトルとを用いて訓練(Pre-training,Fine-tuning)を実施し、位置推定モデル1~5のいずれか1つを構築するモデル訓練部813と、
(f)生成された位置推定用の時系列位置情報に基づき、構築された位置推定モデル(1, 2, 3, 4, 5)を用いて、次の時点の(位置推定対象の)位置情報(メッシュコード)を決定し、さらに決定した位置情報を含む時系列位置情報に基づき、さらに次の時点の位置情報を決定し、このような処理を所定回繰り返して、位置推定対象の将来の移動経路を予測する、すなわち将来の移動経路情報(時系列メッシュコードデータ)を生成する経路予測部814と、
(g)決定された又は経路情報保存部804に保存・管理された将来の移動経路情報を、例えばキーボード及びディスプレイを備えたユーザインタフェース(UI)部805からの指示に従い、このユーザインタフェース部805に表示させる入出力制御部822と
を具備している。なお、生成された将来の移動経路情報は、通信制御部821及び通信インタフェース部801を介し、外部の情報処理装置へ送信され、そこで利用されてもよい。
【0099】
ちなみに、上記(b)の更新可能地図生成・更新部811と、上記(d)の時系列位置情報生成部812と、上記(e)のモデル訓練部813と、上記(f)の経路予測部814と、上記(g)の入出力制御部822とは、本発明による経路予測方法の一実施形態を実施する主要機能構成部であり、本発明による経路予測プログラムの一実施形態を保存したプロセッサ・メモリにおける当該経路予測プログラムの実行によって具現する機能と捉えることもできる。またこのことから、経路予測装置8は、経路予測の専用装置であってもよいが、本発明による経路予測プログラムを搭載した、例えばクラウドサーバ、非クラウドのサーバ装置、パーソナル・コンピュータ(PC)、ノート型若しくはタブレット型コンピュータ、又はスマートフォン等とすることも可能である。
【0100】
いずれにしても経路予測装置8は、対象エリア内の特徴である各メッシュ(単位区域)の建物統計ベクトル、すなわち更新可能地図(区域特徴地図情報)も考慮して、位置推定対象の将来の移動経路を決定することができる。例えば、建物統計ベクトルを適切に設定すれば、位置推定対象における移動の目的・意味や移動パターンをも勘案した移動経路の高精度の予測を行うことも可能となるのである。
【0101】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、位置推定モデルを用いることにより、エリア内の特徴である各単位区域(例えばメッシュ)の区域特徴量(例えば建物統計ベクトル)を考慮して、対象の後の位置情報(例えば次の時点の位置情報)を決定する、すなわち対象の後の位置を推定することができる。ここで、区域特徴量が更新された(例えば建物環境が変化した)場合でも、位置推定モデルを改めて訓練することなく、この更新の反映された新たな位置推定結果を速やかに得ることも可能となる。
【0102】
また、本発明による経路予測装置及びプログラムによれば、エリア内の特徴である各単位区域(例えばメッシュ)の区域特徴量(例えば建物統計ベクトル)を考慮して、対象の将来の移動経路情報を決定する、すなわち対象の将来の移動経路を推定することができる。
【0103】
例えば、区域特徴量として適切に設定された建物統計ベクトルを採用することによって、ユーザが居住する地域の建物環境や、ユーザの目的を反映した移動パターン(を含む生活スタイル)に応じた、より詳細な移動需要を推定・把握することもできる。また、このような詳細な移動需要を活用することによって、例えば、オンデマンドタクシーや相乗りタクシーといったような動的に提供される交通サービスにおいて、例えば常時、好適な配車態様や待機車分布を実現するといったように、サービスの質の向上や効率化を図ることも可能となる。
【0104】
さらに、例えば本発明による経路予測方法を用いて、都市部における的確且つ詳細な自動車や歩行者等の移動経路予測、ひいてはその行動予測を実施し、道路、歩道、交差点や施設内通路等におけるレジリエントなインフラを整備したり、さらには都市化がもたらす交通上の又は人流に係る課題を解決する効率的な都市計画を実施したりすることもできる。すなわち本発明によれば、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」や、目標11「都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」に貢献することも可能となるのである。
【0105】
以上に述べた本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲での種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。以上に述べた説明はあくまで実施形態の例示であって、不要な制約を行うものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定されるものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0106】
1、2、3、4、5 位置推定モデル
11、21、31、41、51 区域特徴推定部
11a、21a、31a、41a、51a 区域特徴推定器
12、22、32、42、52 位置情報決定部
22a、32a 位置推定器
221、321、421、521 単位区域推定部
221a、321a、421a、521a 単位区域推定器
221b、42b、521b デコーダ
42a アテンション部
2 端末
3 基地局
8 経路予測装置
801 通信インタフェース部
802 エリア内建物情報保存部
803 端末位置情報保存部
804 経路情報保存部
805 ユーザインタフェース(UI)部
811 更新可能地図生成・更新部
812 時系列位置情報生成部
813 モデル訓練部
814 経路予測部
821 通信制御部
822 入出力制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8