IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧 ▶ シナノケンシ株式会社の特許一覧

特開2024-120497ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置
<>
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図1
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図2
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図3
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図4
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図5A
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図5B
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図6A
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図6B
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図7
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図8
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図9
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図10
  • 特開-ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120497
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/10 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
H02P6/10
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027321
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100199819
【弁理士】
【氏名又は名称】大行 尚哉
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】千田 有一
(72)【発明者】
【氏名】種村 昌也
(72)【発明者】
【氏名】大井上 巧
(72)【発明者】
【氏名】董 豫
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA01
5H560DA07
5H560DB07
5H560DC12
5H560EB01
5H560EC02
5H560JJ12
5H560RR01
5H560TT15
5H560UA02
5H560XA02
5H560XA04
(57)【要約】
【課題】電流リップルを抑制でき、騒音を低減させてブラシレスDCモータを矩形波駆動で速度制御することが可能なブラシレスDCモータの制御方法を提案する。
【解決手段】このブラシレスDCモータの制御方法は、ブラシレスDCモータ10の通電相を切り替え可能に構成されたインバータ回路30を用い、離散時間系制御により目標回転速度vrでブラシレスDCモータ10を矩形波駆動させる制御方法であって、目標回転速度vrに追従するための目標電流値Isを設定する目標電流値設定ステップST2と、矩形波駆動中のブラシレスDCモータ10の通電相電流値Iu,Iv,Iwを計測する電流値計測ステップST3と、通電相電流値Iu,Iv,Iwを目標電流値Isに追従させるようゲート信号を生成するゲート信号生成ステップST4と、ゲート信号に基づき通電相を切り替える通電相切り替えステップST5と、を実行する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート信号に基づきブラシレスDCモータの通電相を切り替え可能に構成されたインバータ回路を用い、離散時間系制御により目標回転速度で当該ブラシレスDCモータを矩形波駆動させるブラシレスDCモータの制御方法であって、
前記目標回転速度に追従するための目標電流値を生成する目標電流値設定ステップと、
前記矩形波駆動中の前記ブラシレスDCモータの通電相電流値を計測する電流値計測ステップと、
前記通電相電流値を前記目標電流値に追従させるようゲート信号を生成するゲート信号生成ステップと、
前記ゲート信号に基づき前記通電相を切り替える通電相切り替えステップと、を実行する、ブラシレスDCモータの制御方法。
【請求項2】
更に、前記矩形波駆動中の前記ブラシレスDCモータを計測して得た回転速度情報から回転速度を算出する回転速度算出ステップを実行し、
前記目標電流値設定ステップにおいて、前記目標回転速度と前記回転速度算出ステップで算出した前記回転速度との差から前記目標電流値を生成する、請求項1記載のブラシレスDCモータの制御方法。
【請求項3】
前記離散時間系制御が離散時間系PI制御であり、前記目標電流値設定ステップにおいて、前記目標電流値(Is[z])を次の式1を用い生成する、請求項2記載のブラシレスDCモータの制御方法。
【請求項4】
前記ゲート信号生成ステップにおいて、電流方向が正の通電相電流値と前記目標電流値とを比較し、その大小により通電相が切り替わるよう前記ゲート信号を生成する、請求項1~3のいずれか一項に記載のブラシレスDCモータの制御方法。
【請求項5】
前記ゲート信号生成ステップにおいて、前記インバータ回路において同時に開くトランジスタの数を変更して前記通電相を切り替えるように前記ゲート信号を生成する、請求項1~3のいずれか一項に記載のブラシレスDCモータの制御方法。
【請求項6】
前記ゲート信号生成ステップにおいて、
前記通電相電流値が前記目標電流値より小さい場合には、通電相のコイルに電流を流入させる側のトランジスタのゲートと前記コイルから電流を流出させる側のトランジスタのゲートとを共に開けるための前記ゲート信号を生成し、
前記通電相電流値が前記目標電流値より大きい場合には、前記コイルに電流を流入させる側のトランジスタのゲートを閉じ、前記コイルから電流を流出させる側のトランジスタのゲートを開けるための前記ゲート信号を生成する、請求項1~3のいずれか一項に記載のブラシレスDCモータの制御方法。
【請求項7】
ブラシレスDCモータを離散時間系制御により目標回転速度で矩形波駆動させるブラシレスDCモータの制御装置であって、
ゲート信号の切り替わりにより前記ブラシレスDCモータの通電相の切り替え制御を行うように構成されたインバータ回路と、
前記目標回転速度の入力を受け付ける目標回転速度入力部と、
外付けまたは内蔵の電流センサにより計測された前記矩形波駆動中の前記ブラシレスDCモータの通電相電流値を取得する通電相電流値取得部と、
前記ブラシレスDCモータの回転速度を、前記目標回転速度入力部で受け付けた前記目標回転速度に追従させるために、各相の通電相電流値の目標電流値を生成する目標電流値生成部と、
前記通電相電流値取得部が取得した前記通電相電流値を、前記目標電流に追従させるための制御指令を生成し、当該制御指令を、前記インバータ回路による前記通電相の切り替えを行うための前記ゲート信号として、前記インバータ回路に向けて出力するゲート信号生成部と、を備えている、ブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項8】
更に、前記矩形波駆動中の前記ブラシレスDCモータの計測された測定回転速度情報の入力を受け付ける回転速度情報入力部を備え、
前記目標電流値生成部は、前記目標回転速度と前記回転速度とに基づき、前記目標電流値を生成する、請求項7記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項9】
前記離散時間系制御が離散時間系PI制御であり、前記目標電流値生成部は、前記目標電流値(Is[z])を次の式1を用い生成する、請求項8記載のブラシレスDCモータの制御装置。
【請求項10】
前記ゲート信号生成部は、
前記通電相電流値が前記目標電流値より小さい場合には、通電相のコイルに電流を流入させる側のトランジスタのゲートと前記コイルから電流を流出させる側のトランジスタのゲートとを共に開けるための前記ゲート信号を生成し、
前記通電相電流値が前記目標電流値より大きい場合には、前記コイルに電流を流入させる側のトランジスタのゲートを閉じ、前記コイルから電流を流出させる側のトランジスタのゲートを開けるための前記ゲート信号を生成する、請求項7~9のいずれか一項に記載のブラシレスDCモータの制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスDCモータの制御方法、および、ブラシレスDCモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータは、小型・高効率・長寿命・低騒音等の特長を活かし工業製品やコンピュータ周辺機器など様々な分野で多用されており、近年においては、より高い基準の騒音低減が求められている。ブラシレスDCモータの騒音として、ベアリングの振動や部品の傷による機械騒音および電磁トルクリップルやコギングトルクによる電磁騒音が知られている。ここで一般的には、ブラシレスDCモータを駆動させるために、電圧を正弦波状に変化させロータを回転させる正弦波駆動制御(180度制御)、又は、電気角が60度毎に電流の向きを変化させロータを回転させる矩形波駆動制御(120度制御)が行われる。特に、矩形波駆動制御として、ON/OFFのスイッチングを繰り返し行い、出力される電力を制御するPWM(Pulse Width Modulation)速度制御(以降、「PWM制御」と記載する。)が多用されている。PWM制御においては、ON/OFFのデューティ比を変化させ、電圧の実効値を調節して目標回転速度に追従させる。矩形波駆動制御は、正弦波駆動制御に対し、制御システムを簡易に構成でき、コストも安価にできる点で採用するメリットがあるが、スイッチング時の電磁トルクリップルにより比較的騒音が大きくなる傾向にある。そこで従来、矩形波駆動制御で駆動させるブラシレスDCモータの騒音を低減させるためのさまざまな提案がなされてきた(例えば特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
特許文献1で開示されている制御装置(モータ制御装置)は、モータを起動し、その回転速度が目標回転速度と一致するように制御する。具体的には、制御演算部が回転速度偏差に応じてモータの回転速度が目標回転速度と一致するようにq軸電流指令値を出力し、駆動回路部がこのq軸電流指令値に基づいて生成したPWM電圧制御信号をインバータ回路に出力する(引用文献1の段落[0006]参照)。
【0004】
特許文献2で開示されている制御装置(ブラシレスDCモータの駆動装置)は、台形波生成手段と、三角波を発振する三角波発振回路と、台形波と三角波とからPWM変調波を生成するPWM変調回路と、PWM変調波に基づいて制御信号を生成する駆動回路と、を有し、インバータ回路に出力された制御信号に基づきブラシレスDCモータを駆動する(引用文献2の段落[0006]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-295672号公報
【特許文献2】特開2006-006067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている制御装置で採用されているPWM制御は、デューティ比の変化が激しい場合、電流リップルと呼ばれる電流の脈動が発生し、それによる振動が電磁騒音の原因となる。PWM制御では、ON/OFFのスイッチングにより電圧を調整するため、電流リップルを抑制することが困難である。
【0007】
本発明の主目的は、このような点に鑑みて、電流リップルを抑制でき、騒音を低減させてブラシレスDCモータを矩形波駆動で速度制御することが可能なブラシレスDCモータの制御方法を提案することにある。併せて、本発明の目的は、この制御方法を応用したブラシレスDCモータの制御装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]上記課題を解決すべく、本発明に係るブラシレスDCモータの制御方法は、ゲートに基づきブラシレスDCモータの通電相を切り替え可能に構成されたインバータ回路を用い、離散時間系制御により目標回転速度で当該ブラシレスDCモータを矩形波駆動させるブラシレスDCモータの制御方法であって、目標回転速度に追従するための目標電流値を生成する目標電流値設定ステップと、矩形波駆動中のブラシレスDCモータの通電相電流値を計測する電流値計測ステップと、通電相電流値を目標電流値に追従させるようゲート信号を生成するゲート信号生成ステップと、ゲート信号に基づき通電相を切り替える通電相切り替えステップと、を実行する。
【0009】
[2]本発明に係るブラシレスDCモータの制御方法では、更に、矩形波駆動中のブラシレスDCモータを計測して得た回転速度情報から回転速度を算出する回転速度算出ステップを実行し、目標電流値設定ステップにおいて、目標回転速度と回転速度算出ステップで算出した回転速度との差から目標電流値を生成することが好ましい。
【0010】
[3]本発明に係るブラシレスDCモータの制御方法では、離散時間系制御が離散時間系PI制御であり、目標電流値設定ステップにおいて、目標電流値(Is[z])を次の式1を用い生成することが好ましい。
【0011】
[4]本発明に係るブラシレスDCモータの制御方法では、ゲート信号生成ステップにおいて、電流方向が正の通電相電流値と目標電流値とを比較し、その大小により通電相が切り替わるようゲート信号を生成することが好ましい。
【0012】
[5]本発明に係るブラシレスDCモータの制御方法では、ゲート信号生成ステップにおいて、インバータ回路において同時に開くトランジスタの数を変更して通電相を切り替えるようにゲート信号を生成することが好ましい。
【0013】
[6]本発明に係るブラシレスDCモータの制御方法では、ゲート信号生成ステップにおいて、通電相電流値が目標電流値より小さい場合には、通電相のコイルに電流を流入させる側のトランジスタのゲートとコイルから電流を流出させる側のトランジスタのゲートとを共に開けるためのゲート信号を生成し、通電相電流値が目標電流値より大きい場合には、コイルに電流を流入させる側のトランジスタのゲートを閉じ、コイルから電流を流出させる側のトランジスタのゲートを開けるためのゲート信号を生成することが好ましい。
【0014】
[7]本発明に係るブラシレスDCモータの制御装置は、ブラシレスDCモータを離散時間系制御により目標回転速度で矩形波駆動させるブラシレスDCモータの制御装置であって、ゲート信号の切り替わりによりブラシレスDCモータの通電相の切り替え制御を行うように構成されたインバータ回路と、目標回転速度の入力を受け付ける目標回転速度入力部と、外付けまたは内蔵の電流センサにより計測された矩形波駆動中のブラシレスDCモータの通電相電流値を取得する通電相電流値取得部と、ブラシレスDCモータの回転速度を、目標回転速度入力部で受け付けた目標回転速度に追従させるために、各相の通電相電流値の目標電流値を生成する目標電流値生成部と、通電相電流値取得部が取得した通電相電流値を、目標電流に追従させるための制御指令を生成し、当該制御指令を、インバータ回路による通電相の切り替えを行うためのゲート信号として、インバータ回路に向けて出力するゲート信号生成部と、を備えている。
【0015】
[8]本発明に係るブラシレスDCモータの制御装置では、更に、矩形波駆動中のブラシレスDCモータの計測された測定回転速度情報の入力を受け付ける回転速度情報入力部を備え、目標電流値生成部は、目標回転速度と回転速度とに基づき、目標電流値を生成することが好ましい。
【0016】
[9]本発明に係るブラシレスDCモータの制御装置では、離散時間系制御が離散時間系PI制御であり、目標電流値生成部は、目標電流値(Is[z])を上記の式1を用い生成することが好ましい。
【0017】
[10]本発明に係るブラシレスDCモータの制御装置では、ゲート信号生成部は、通電相電流値が目標電流値より小さい場合には、通電相のコイルに電流を流入させる側のトランジスタのゲートとコイルから電流を流出させる側のトランジスタのゲートとを共に開けるためのゲート信号を生成し、通電相電流値が目標電流値より大きい場合には、コイルに電流を流入させる側のトランジスタのゲートを閉じ、コイルから電流を流出させる側のトランジスタのゲートを開けるためのゲート信号を生成することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電流リップルを抑制でき、騒音を低減させてブラシレスDCモータを矩形波駆動で速度制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態1のブラシレスDCモータシステムの構成を示すブロック図である。
図2】実施形態1のブラシレスDCモータシステムにおける制御概念を示すブロック図である。
図3】実施形態1のブラシレスDCモータシステムの電流追従制御を示すグラフである。
図4】実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法を示すフローチャートである。
図5A】実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法における通電相切り替えステップでの通電相切り替えを示す模式図である(ロータ回転角度0°~180°)。
図5B】実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法における通電相切り替えステップでの通電相切り替えを示す模式図である(ロータ回転角度180°~360°)。
図6A】実施形態2のブラシレスDCモータの制御方法における通電相切り替えステップでの通電相切り替えを示す模式図である(ロータ回転角度0°~180°)。
図6B】実施形態2のブラシレスDCモータの制御方法における通電相切り替えステップでの通電相切り替えを示す模式図である(ロータ回転角度180°~360°)。
図7】実験結果におけるモータ回転速度を示すグラフである。
図8】実験結果におけるモータ電流波形を示すグラフである。
図9】実験結果におけるモータ電磁トルク波形を示すグラフである。
図10】実験結果におけるモータ電磁トルク波形のスペクトル強度を示す図である。
図11】実験結果におけるモータ電磁トルク波形の累積振幅スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した一実施形態としてのブラシレスDCモータシステム1を説明する。なお、各図面は必ずしも実際の全ての構成を厳密に反映したものではない。また、本明細書では、ブラシレスDCモータのロータの回転に関し、「回転速度」の語を用い説明しているが、この語を「角速度」の語に置き換えて読み替えてもよい。また、本明細書では、ブラシレスDCモータの構造、インバータ回路を用いてのブラシレスDCモータの駆動原理、ブラシレスDCモータを制御するにあっての周辺機器については概ね従来と同様であり、従来と同様の部分については、簡略な説明にするか説明を省略する。
【0021】
[実施形態1]
(1-1.実施形態1のブラシレスDCモータシステムの構成)
図1は、実施形態1のブラシレスDCモータシステム1の構成を示すブロック図である。まずは図1を参照し、実施形態1のブラシレスDCモータシステム1の構成を説明する。
【0022】
また、実施形態1では、離散時間系制御として、離散時間系PI制御(Proportional-Integral制御)を用いた場合を例に以下説明する。なお、離散時間系制御には、PI制御の他、P制御の演算が偏差ではなく出力に対して行われるI-P制御(Integral-Proportional制御)もあり、I-P制御を離散時間系制御として用いてもよい。また、後述する実施形態2、その他の実施形態においても、離散時間系制御として、離散時間系PI制御を用いた場合について説明するが、実施形態1と同様、PI制御の代わりにI-P制御を用いてもよい。
【0023】
ブラシレスDCモータシステム1は、図1に示すように、回転動力を出力するブラシレスDCモータ10と、回転角度を検出するロータリエンコーダ20と、接続されたブラシレスDCモータ10を離散時間系PI制御により目標回転速度で矩形波駆動させる制御装置30と、を備えている。また、ブラシレスDCモータシステム1は、制御装置30にデータを設定したり制御装置30からデータを取得したりできるよう、制御装置30にデータ授受可能に接続されたコンピュータ機器80を備えている。以下に、ブラシレスDCモータシステム1における各構成について詳述する。
【0024】
ブラシレスDCモータ10は、ステータ(不図示)と、複数の磁極を有しステータに対し回転可能なロータ11と、ステータに周方向等間隔で固定された複数のコイル12と、ステータに周方向等間隔で固定された磁気センサ13とを備えている。ロータ11は、出力軸と当該出力軸に対し周方向に等間隔で整列するS極の磁極の永久磁石とN極の磁極の永久磁石とを有し回転子を構成している。複数のコイル12は、後述のインバータ回路40から供給される電流の有無および電流の向きによって、S極の磁力の発生とN極の磁力の発生と無磁力とを切り替え可能である。複数の磁気センサ13は、一例としてホールセンサであり、対面するロータ11の磁極を検出する。ステータ、複数のコイル12、及び複数の磁気センサ13は、固定子を構成している。ブラシレスDCモータ10は、ロータ11に配置された磁極の数が2極(180°で2分割)で、コイル12の数が3つ(120°ピッチ)で、磁気センサ13の数が3つ(120°ピッチ)で構成されたU相、V相、およびW相を有する3相モータである。
【0025】
ロータリエンコーダ20は、ロータ11の出力軸と機械的に連結しており、ロータ11の回転角度を検出する。また、ロータリエンコーダ20は、後述のDSPユニット70に電気的に接続されており、回転速度情報としての角度信号をDSPユニット70に出力する。
【0026】
制御装置30は、インバータ回路40、モータ駆動用電源50、電流センサ60、およびDSPユニット70(Digital Signal Processor ユニット70)を含み構成されている。制御装置30においては、ADコンバータ等その他構成を有するが、その他の構成については既知であり説明を省略する。
【0027】
インバータ回路40は、ゲートドライバ41と、3相ブリッジ42と、を含む回路が形成されている。インバータ回路40は、3相ブリッジ42の各相それぞれのラインにブラシレスDCモータ10の各コイル12が接続され、後述のDSPユニット70からの制御指令(ゲート信号)に基づきゲートドライバ41でブラシレスDCモータ10の通電相を切り替えることができる。
【0028】
モータ駆動用電源50は、インバータ回路40に電気的に接続されており、インバータ回路40の3相ブリッジ42を介してブラシレスDCモータ10の通電相に駆動電源を供給する。
【0029】
電流センサ60は、設置された箇所に流れる電流値をリアルタイムで計測できるセンサであり、インバータ回路40からブラシレスDCモータ10の各コイル12への電源供給ラインに設置されている。また、電流センサ60は、後述のDSPユニット70に電気的に接続されており、計測した電流値をDSPユニット70に出力する。
【0030】
DSPユニット70は、制御プログラムおよび一時記憶データを記憶する記憶素子、演算処理を行う演算素子、および外部とデータ入出力をするための入出力インターフェースを有する処理ユニットであり、記憶素子に記憶された制御プログラムに従い、デジタル信号処理およびデジタル信号の入出力処理を実行する。DSPユニット70は、目標回転速度入力部71と、通電相電流値取得部72と、目標電流値生成部73と、ゲート信号生成部74と、回転速度情報入力部75と、磁気センサ信号入力部76と含み構成されており、ブラシレスDCモータ10の制御処理を実行する。
【0031】
目標回転速度入力部71は、後述のコンピュータ機器80からブラシレスDCモータ10を駆動させる際の目標回転速度vrの入力を受け付ける。
【0032】
通電相電流値取得部72は、電流センサ60により計測された矩形波駆動中のブラシレスDCモータ10の通電相電流値Iu,Iv,Iwを取得する。
【0033】
目標電流値生成部73は、ブラシレスDCモータ10の回転速度vを、目標回転速度入力部71で受け付けた目標回転速度vrに追従させるために、各相の通電相電流値Iu,Iv,Iwの目標電流値Isを生成する。目標電流値生成部73は、目標回転速度vrと回転速度vとに基づき、目標電流値Isを生成する。例えば、目標電流値生成部73は、目標回転速度vrと回転速度vとの差から目標電流値Isを生成する。具体的に、目標電流値生成部73は、積分の近似法において前進矩形近似を用い、目標電流値(Is[z])を次の式1を用い生成する。
なお、式1では、伝達関数における積分の近似法として前進矩形近似を用いたが、他の近似法、例えば、後退矩形近似、台形近似(双一次変換)などを用いてもよい。
【0034】
ゲート信号生成部74は、通電相電流値取得部72が取得した通電相電流値Iu,Iv,Iwを、目標電流に追従させるための制御指令を生成し、当該制御指令を、インバータ回路40による通電相の切り替えを行うためのゲート信号として、インバータ回路40に向けて出力する。ゲート信号生成部74は、通電相電流値Iu,Iv,Iwが目標電流値Isより小さい場合には、通電相のコイル12に電流を流入させる側のトランジスタのゲートとコイル12から電流を流出させる側のトランジスタのゲートとを共に開けるためのゲート信号を生成し、通電相電流値Iu,Iv,Iwが目標電流値Isより大きい場合には、コイル12に電流を流入させる側のトランジスタのゲートを閉じ、コイル12から電流を流出させる側のトランジスタのゲートを開けるためのゲート信号を生成する。
【0035】
回転速度情報入力部75は、ロータリエンコーダ20といった回転速度情報計測機器から矩形波駆動中のブラシレスDCモータ10の計測された測定回転速度情報である角度信号の入力を受け付ける。
【0036】
磁気センサ信号入力部76は、通電相の切り替えタイミングを計るべく、ブラシレスDCモータ10の磁気センサ13が検出した磁気センサ信号の入力を受け付ける。
【0037】
コンピュータ機器80は、例えばパーソナルコンピュータ、タブレット端末、携帯端末、制御スイッチ、表示パネルであり、DSPユニット70とデータの授受を行い、DSPユニット70に実行させる制御内容の指示やDSPユニット70から取得したデータの表示やそのデータを用いた解析を行う。
【0038】
(1-2.実施形態1のブラシレスDCモータシステムにおける制御概念)
図2は、実施形態1のブラシレスDCモータシステム1における制御概念を示すブロック図である。図3は、実施形態1のブラシレスDCモータシステム1の電流追従制御を示すグラフである。次に図2および図3を参照し、実施形態1のブラシレスDCモータシステム1における制御概念について説明する。
【0039】
ブラシレスDCモータシステム1においては、ブラシレスDCモータ10を与えられた目標回転速度vrに追従するようにゲート信号に基づきインバータ回路40におけるトランジスタを開閉して各通電相に供給する電流をコントロールするとともに、ブラシレスDCモータ10の回転角度を用いてフィードバック制御が行われる。
【0040】
ブラシレスDCモータシステム1においては、従来のPWM制御とは異なり、目標回転速度vrに対応する目標電流値Isに対し、ブラシレスDCモータ10の計測された通電相電流値Iu,Iv,Iwを追従させる電流追従制御(図3参照)が行われ、従来とは異なる制御処理が行われる。
【0041】
より詳しくは、ブラシレスDCモータシステム1においては、図2に示すように、与えられた目標回転速度vrと、ロータリエンコーダ20が出力した回転速度情報としての角度信号から算出されてフィードバックされる回転速度vとの差から離散時間系PI制御するための目標電流値Isが設定される。そして、電流センサ60を用いてブラシレスDCモータ10の通電相電流値Iu,Iv,Iwを計測し、磁気センサ信号から得たタイミングで、通電相電流値Iu,Iv,Iwを目標電流値Isに追従すべく制御指令としてのゲート信号を生成し、ゲート信号に基づいて通電相の切り替え制御処理が行われる。
【0042】
(1-3.実施形態1におけるブラシレスDCモータの制御方法)
図4は、実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法を示すフローチャートである。続いて図4を参照し、上述の電流追従制御を行うためのブラシレスDCモータの制御方法を説明する。
【0043】
ブラシレスDCモータシステム1におけるブラシレスDCモータの制御方法は、ゲート信号に基づきブラシレスDCモータ10の通電相を切り替え可能に構成されたインバータ回路40を用い、離散時間系PI制御により目標回転速度vrでブラシレスDCモータ10を矩形波駆動させるブラシレスDCモータの制御方法である。このブラシレスDCモータの制御方法は、目標回転速度設定ステップST1、並びに、駆動制御を停止するまで繰り返される目標電流値設定ステップST2、電流値計測ステップST3、ゲート信号生成ステップST4、通電相切り替えステップST5、および回転速度算出ステップST6を実行する。
【0044】
目標回転速度設定ステップST1では、目標回転速度vrを設定する。
【0045】
目標電流値設定ステップST2では、目標回転速度vrに追従するために、目標回転速度vrと回転速度算出ステップST6で算出した回転速度vとの差から目標電流値Isを生成し、設定する。具体的には、積分の近似法において前進矩形近似を用い、目標電流値(Is[z])を次の式1を用い生成する。
なお、式1では、伝達関数における積分の近似法として前進矩形近似を用いたが、他の近似法、例えば、後退矩形近似、台形近似(双一次変換)などを用いてもよい。
【0046】
電流値計測ステップST3では、矩形波駆動中のブラシレスDCモータ10の通電相電流値Iu,Iv,Iwを計測する。
【0047】
ゲート信号生成ステップST4では、通電相電流値Iu,Iv,Iwを目標電流値Isに追従させるようゲート信号を生成する。具体的には、電流方向が正の通電相電流値Iu,Iv,Iwと目標電流値Isとを比較し、その大小によりゲート信号を生成する。また、インバータ回路40において同時に開くトランジスタの数を変更して通電相を切り替えるようにゲート信号を生成する。さらに具体的には、通電相電流値Iu,Iv,Iwが目標電流値Isより小さい場合には、通電相のコイル12に電流を流入させる側のトランジスタのゲートとコイル12から電流を流出させる側のトランジスタのゲートとを共に開けるためのゲート信号を生成し、通電相電流値Iu,Iv,Iwが目標電流値Isより大きい場合には、コイル12に電流を流入させる側のトランジスタのゲートを閉じ、コイルから電流を流出させる側のトランジスタのゲートを開けるためのゲート信号を生成する。
【0048】
通電相切り替えステップST5では、ゲート信号に基づき通電相を切り替える。
【0049】
回転速度算出ステップST6では、矩形波駆動中のブラシレスDCモータ10を計測して得た回転速度情報から回転速度vを算出する。
【0050】
駆動制御を継続する場合には、回転速度算出ステップST6で算出された回転速度vを目標電流値設定ステップST2にフィードバックし、目標電流値設定ステップST2から回転速度算出ステップST6までを再び行う。
【0051】
以上が実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法の手順になるが、この制御方法の特長である通電相の切り替えについて、以下において、さらに説明を補足する。
【0052】
図5Aおよび図5Bは、実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法における通電相切り替えステップST5での通電相切り替えを示す模式図である。図5Aおよび図5Bを参照し、ゲート信号生成ステップST4で生成されたゲート信号に基づき通電相切り替えステップST5で切り替えられた通電相の状態について、より具体的に説明する。
【0053】
実施形態1において、ゲート信号生成ステップST4では、次の表1に基づき、トランジスタのゲートを開閉させるよう、ゲート信号が生成される。
【表1】
【0054】
まず、ロータ11の電気角(回転角)が0°~60°の範囲においては、U相のコイルからV相のコイルへ電流を流す必要がある。このとき、電流値計測ステップST3で計測されたU相に供給される電流値Iuが目標電流値Isを下回っている場合、U相用P型のトランジスタUPのゲートとV相用N型のトランジスタVNのゲートを開くようにする。そうすると、図5A(a1)に示すように、U相に電源から電流が流れ込み、V相から電源へ電流が流れ出すようになり、電流値Iuが増加する。一方で、電流値Iuが増加しすぎて電流値計測ステップST3で計測される電流値Iuが目標電流値Isを上回ってしまった場合、U相用P型のトランジスタUPのゲートを閉じてV相用N型のトランジスタVNのゲートだけを開くようにする。そうすると、図5A(a2)に示すように、U相に電源から電流が流れ込まないようになり、電流値Iuが減少する。その後、ロータ11の電気角が60°毎に進むごとに、通電させる相を変えていく必要があるが、同様の考え方で制御するため、その他の電気角における具体的な制御については、表1、並びに、図5Aまたは図5Bを参照するものとし、説明を省略する。
【0055】
実施形態1では、このように、常に電流値を計測し、目標電流値Isに対する計測された電流値の大小を判断し、その結果に応じて生成されたゲート信号に基づきトランジスタのゲート開閉させることで、供給電流を増減させるようにフィードバック制御し、目標電流値Isに電流値を追従させている。
【0056】
(1-4.実施形態1における作用・効果)
実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法は、目標回転速度に追従するための目標電流値Isを設定する目標電流値設定ステップST2と、矩形波駆動中のブラシレスDCモータ10の通電相電流値Iu,Iv,Iwを計測する電流値計測ステップST3と、通電相電流値Iu,Iv,Iwを目標電流値Isに追従させるようゲート信号を生成するゲート信号生成ステップST4と、ゲート信号に基づき通電相を切り替える通電相切り替えステップST5と、を実行する。すなわち、実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法では、ゲート信号に基づき通電相を切り替えて、目標回転速度に対応する目標電流値Isに通電相電流値を追従するよう電流追従制御が行われて、ブラシレスDCモータ10は、矩形波駆動で目標回転速度に速度制御される。また、実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法では、通電相電流値Iu,Iv,Iwを目標電流値Isに追従させるよう通電相を切り替えることから電流リップルが発生し難く、電流リップルに伴う騒音が低減される。従って、実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法によれば、電流リップルを抑制でき、騒音を低減させてブラシレスDCモータを矩形波駆動で速度制御することができる。また、実施形態1のブラシレスDCモータ10の制御装置30によれば、当該ブラシレスDCモータの制御方法を利用して制御処理を実行するため、その制御方法の効果を享受するため、電流リップルを抑制でき、騒音を低減させてブラシレスDCモータ10を矩形波駆動で速度制御することができる。
【0057】
また、実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法においては、インバータ回路40において同時に開くトランジスタの数を変更して通電相を切り替えるようにゲート信号を生成する。具体的には、通電相電流値Iu,Iv,Iwが目標電流値Isより大きい場合には、電流がブラシレスDCモータ10へ流入する側のそれまで開いていたトランジスタを閉じるようにゲート信号を生成する。実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法によれば、このように生成されたゲート信号を用いて1の通電相を単に不通にするだけなので、不通にしたうえで同時に別の相を通電させる場合のように同時処理のタイミングずれの影響を受けず、より電流リップルを抑制することができる。
【0058】
[実施形態2]
実施形態2のブラシレスDCモータシステムは、実施形態1のブラシレスDCモータシステム1と基本構成、制御概念、及び制御方法の流れについては同様であるが、ゲート信号生成ステップST4で生成されるゲート信号、およびそのゲート信号に基づき通電相切り替えステップST5で切り替えられた通電相の状態のみ異なる。このため、以下の説明においては、異なる制御内容のみ説明し、その他の説明を省略する。なお、図1図4については、実施形態2にも適用できる。
【0059】
図6Aおよび図6Bは、実施形態2のブラシレスDCモータの制御方法における通電相切り替えステップST5での通電相切り替えを示す模式図である。図6Aおよび図6Bを参照し、ゲート信号生成ステップST4で生成されたゲート信号に基づき通電相切り替えステップST5で切り替えられた通電相の状態について、より具体的に説明する。
【0060】
実施形態2において、ゲート信号生成ステップST4では、次の表2に基づき、トランジスタを切り替えるよう、ゲート信号が生成される。
【表2】
【0061】
まず、ロータ11の電気角(回転角)が0°~60°の範囲においては、U相のコイルからV相のコイルへ電流を流す必要がある。このとき、電流値計測ステップST3で計測されたU相に供給される電流値Iuが目標電流値Isを下回っている場合、実施形態1と同様、U相用P型のトランジスタUPのゲートとV相用N型のトランジスタVNのゲートを開くようにする。そうすると、図6A(a1)に示すように、U相に電源から電流が流れ込み、V相から電源へ電流が流れ出すようになり、電流値Iuが増加する。一方で、電流値Iuが増加しすぎて電流値計測ステップST3で計測された電流値Iuが目標電流値Isを上回ってしまった場合、V相用P型のトランジスタVPのゲートとU相用N型のトランジスタUNのゲートを開くようにする。そうすると、図6A(a2)に示すように、逆にV相からU相へ電流を流そうとする力が働き、電流値Iuが減少する。その後、ロータ11の電気角が60°毎に進むごとに、通電させる相を変えていく必要があるが、同様の考え方で制御するため、その他の電気角における具体的な制御については、表2、並びに、図6Aまたは図6Bを参照するものとし、説明を省略する。
【0062】
実施形態2でも、実施形態1と同様に、常に電流値を計測し、目標電流値Isに対する計測された電流値の大小を判断し、その結果に応じて生成されたゲート信号に基づきトランジスタのゲート開閉させることで、供給電流を増減させるようにフィードバック制御し、目標電流値Isに電流値を追従させている。
【0063】
実施形態2のブラシレスDCモータの制御方法によれば、実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法と同様、目標電流値設定ステップST2と、電流値計測ステップST3と、ゲート信号生成ステップST4と、通電相切り替えステップST5と、を実行するため、実施形態1のブラシレスDCモータの制御方法と同様、電流リップルを抑制でき、騒音を低減させてブラシレスDCモータを矩形波駆動で速度制御することができる。
【0064】
[その他の形態]
以上、本発明を上記の実施形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0065】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の数、接続の仕方、等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0066】
(2)上記した実施形態においては、ブラシレスDCモータの制御装置について、インバータ回路、モータ駆動用電源、電流センサ、およびDSPユニットを一体に構成した装置であるものとして説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、一部構成を、制御装置と電気的に接続された別装置として構成してもよい。
【0067】
(3)上記した実施形態においては、ブラシレスDCモータは、ロータに配置された磁極の数が2極、コイルの数が3つ、磁気センサの数が3つの3相モータであるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ロータ11に配置された磁極の数が8極(45°で8分割)のブラシレスDCモータであってもよい。
【0068】
(4)上記した実施形態においては、フィードバックする回転速度情報をロータリエンコーダ20から取得した角度信号であるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、磁気センサの信号から算出した回転速度情報であってもよい。
【実施例0069】
実施形態1のブラシレスDCモータの制御装置30を用い、ブラシレスDCモータ10を電流追従制御(以降「本発明を用いた電流追従制御」と記載する。)させた場合の実験を行った。この実験は、目標回転速度vrが2000(rpm)、負荷トルクが0.2(N・m)、サンプリング時間が20(μs)の条件にて行った。なお、比較のためブラシレスDCモータ10を従来の制御装置を用い、120度PWM制御(以降「従来のPWM制御」と記載する。)させた場合の実験も併せて行った。以下にその実験結果を説明する。
【0070】
図7は、実験結果におけるモータ回転速度を示すグラフである。図8は、実験結果におけるモータ電流波形を示すグラフである。図9は、実験結果におけるモータ電磁トルク波形を示すグラフである。図10は、実験結果におけるモータ電磁トルク波形のスペクトル強度を示す図である。図10に示すスペクトル強度は、モータ電磁トルクの周波数成分を求めた結果である。図11は、実験結果におけるモータ電磁トルクの累積振幅スペクトルを示す図である。図11に示す累積振幅スペクトルは、モータ電磁トルクのスペクトル強度から人間が聞こえる音の周波数(20Hz~20kHz)の振動エネルギーを定量的に求めた結果である。
【0071】
実験を行った結果、目標回転速度への追従性については、図7に示すように、本発明を用いた電流追従制御でも従来のPWM制御でも目標回転速度に到達するまでに多少差があるものの、追従性については差を確認できなかった。一方、モータ電流波形については、図8に示すように、本発明を用いた電流追従制御では、従来のPWM制御に比べ、より電流リップルが抑制されており、より矩形波に近い形となっていることが確認できた。
【0072】
また、モータ電磁トルクについては、図9に示すように、本発明を用いた電流追従制御では、従来のPWM制御に比べ、全体的にうねりが少なく、変動幅も小さく振動が抑制されていることが確認できた。このモータ電磁トルクのスペクトル強度を見てみると、図10に示すように、本発明を用いた電流追従制御では、すべての周波数帯域での振動成分が抑制されており、従来のPWM制御の2kHz~3kHzの間で見られるような極端にスペクトル強度の高まりも確認できなかった。さらに、図11に示すように、従来のPWM制御では、モータ電磁トルクの累積振幅スペクトルが約39N・mであるのに対し、本発明を用いた電流追従制御では、約24N・mであり、本発明を用いた電流追従制御では、従来のPWM制御に対して振動成分が約39%低減されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0073】
1…ブラシレスDCモータシステム、10…ブラシレスDCモータ、11…ロータ、12…コイル、13…磁気センサ、20…ロータリエンコーダ、30…制御装置、40…インバータ回路、41…ゲートドライバ、42…3相ブリッジ、50…モータ駆動用電源、60…電流センサ、70…DSPユニット、71…目標回転速度入力部、72…通電相電流値取得部、73…目標電流値生成部、74…ゲート信号生成部、75…回転速度情報入力部、76…磁気センサ信号入力部、80…コンピュータ機器、Is…目標電流値、Iu…(通電相)電流値(U相)、Iv…(通電相)電流値(V相)、Iw…(通電相)電流値(W相)、v…回転速度、vr…目標回転速度、ST1…目標回転速度設定ステップ、ST2…目標電流値設定ステップ、ST3…電流値計測ステップ、ST4…ゲート信号生成ステップ、ST5…通電相切り替えステップ、ST6…回転速度算出ステップ、UN…U相用N型トランジスタ、UP…U相用P型トランジスタ、VN…V相用N型トランジスタ、VP…V相用P型トランジスタ、WN…W相用N型トランジスタ、WP…W相用P型トランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11