IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

特開2024-120503フィルタ、マルチプレクサ、およびフィルタの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120503
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】フィルタ、マルチプレクサ、およびフィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/54 20060101AFI20240829BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20240829BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H03H9/54 Z
H03H9/17 F
H03H3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027335
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】川島 由
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB08
5J108CC04
5J108DD02
5J108EE03
5J108FF13
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM08
5J108MM14
(57)【要約】
【課題】下部配線へのダメージを抑制するフィルタを提供する。
【解決手段】フィルタ100は、タンタル酸リチウム膜又はニオブ酸リチウム膜であり、薄膜部分13と厚膜部分14を有する圧電膜12と、入力パッド80及び出力パッド81と、入力パッド80と出力パッド81の間に直列に接続され、薄膜部分13と薄膜部分13を挟む下部電極20及び上部電極21とを有する直列共振器S1、S2と、入力パッド80と出力パッド81の間に並列に接続され、厚膜部分14と厚膜部分14を挟む下部電極30及び上部電極31とを有する並列共振器P1と、直列共振器S1、S2と並列共振器P1の間を接続し、下部電極20と下部電極30に接続された下部配線41、61と、圧電膜12を貫通する貫通孔17に設けられ、貫通孔17の側面における圧電膜12の厚さは貫通孔17の全周において同じであり、下部配線41、61に接続された導電膜85とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜であり、薄膜部分と前記薄膜部分より厚い厚膜部分とを有する圧電膜と、
前記基板上に設けられた入力パッドおよび出力パッドと、
前記入力パッドと前記出力パッドとの間に直列に接続され、前記圧電膜の前記薄膜部分と、前記薄膜部分を挟む第1下部電極および第1上部電極と、を有する複数の直列共振器と、
前記入力パッドと前記出力パッドとの間に並列に接続され、前記圧電膜の前記厚膜部分と、前記厚膜部分を挟む第2下部電極および第2上部電極と、を有する1または複数の並列共振器と、
前記複数の直列共振器と前記1または複数の並列共振器との間を接続し、少なくとも1つは前記第1下部電極と前記第2下部電極とに接続された下部配線である1または複数の配線と、
前記圧電膜を貫通する貫通孔に設けられ、前記貫通孔の側面における前記圧電膜の厚さは前記貫通孔の全周において同じであり、前記下部配線に接続された導電膜と、を備えるフィルタ。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記圧電膜の前記薄膜部分および前記厚膜部分のうちいずれか一方を貫通する、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記下部配線は、前記複数の直列共振器の間を接続する第1下部配線と、前記第1下部配線と前記1または複数の並列共振器の間を接続する第2下部配線と、を有し、
前記貫通孔は、前記第1下部配線と前記第2下部配線に重なって前記圧電膜に設けられる、請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記入力パッド、前記出力パッド、および前記1または複数の並列共振器が接続するグランドパッドの少なくとも1つは、前記圧電膜を貫通する他の貫通孔に設けられ、前記他の貫通孔が貫通する前記圧電膜の厚さは前記貫通孔が貫通する前記圧電膜の厚さと同じである、請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に設けられ、単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜であり、薄膜部分と前記薄膜部分より厚い厚膜部分とを有する圧電膜と、
前記圧電膜の前記薄膜部分と、前記薄膜部分を挟む第1下部電極および第1上部電極と、を有する1または複数の直列共振器と、
前記圧電膜の前記厚膜部分と、前記厚膜部分を挟む第2下部電極および第2上部電極と、を有する1または複数の並列共振器と、
前記1または複数の直列共振器が間に直列に接続され、少なくとも一方が前記圧電膜を貫通する第1貫通孔に設けられ、前記第1下部電極に接続する第1下部配線に接続された入力パッドおよび出力パッドと、
前記1または複数の並列共振器が接続され、少なくとも1つが前記圧電膜を貫通する第2貫通孔に設けられ、前記第2貫通孔の側面における前記圧電膜の厚さは前記第1貫通孔の側面における前記圧電膜の厚さと同じであり、前記第2下部電極に接続する第2下部配線に接続された1または複数のグランドパッドと、を備えるフィルタ。
【請求項6】
前記第1貫通孔および前記第2貫通孔は、前記圧電膜の前記薄膜部分および前記厚膜部分のうちいずれか一方を貫通する、請求項5に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記圧電膜は、第1圧電膜と、前記第1圧電膜に積層され、前記第1圧電膜の自発分極の方向と反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電膜と、を有する、請求項1または5に記載のフィルタ。
【請求項8】
請求項1または5に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【請求項9】
単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜である圧電膜の一部を薄くして薄膜部分と前記薄膜部分より厚い厚膜部分とを有する前記圧電膜を形成する工程と、
前記圧電膜の前記薄膜部分と、前記薄膜部分を挟む第1下部電極および第1上部電極と、を有する複数の直列共振器を形成する工程と、
前記圧電膜の前記厚膜部分と、前記厚膜部分を挟む第2下部電極および第2上部電極と、を有する1または複数の並列共振器を形成する工程と、
前記複数の直列共振器と前記1または複数の並列共振器との間を接続し、少なくとも1つは前記第1下部電極と前記第2下部電極とに接続された下部配線である1または複数の配線を形成する工程と、
前記下部配線を露出させる貫通孔を前記圧電膜の厚さが同じ部分に物理エッチング法を用いて形成する工程と、
前記貫通孔に導電膜を埋め込む工程と、を備えるフィルタの製造方法。
【請求項10】
単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜である圧電膜の一部を薄くして薄膜部分と前記薄膜部分より厚い厚膜部分とを有する前記圧電膜を形成する工程と、
前記圧電膜の前記薄膜部分と、前記薄膜部分を挟む第1下部電極および第1上部電極と、を有する1または複数の直列共振器を形成する工程と、
前記圧電膜の前記厚膜部分と、前記厚膜部分を挟む第2下部電極および第2上部電極と、を有する1または複数の並列共振器を形成する工程と、
前記第1下部電極に接続する第1下部配線および前記第2下部電極に接続する第2下部配線を形成する工程と、
前記第1下部配線を露出させる第1貫通孔と前記第2下部配線を露出させる第2貫通孔とを前記圧電膜の厚さが同じ部分に物理エッチング法を用いて同時に形成する工程と、
前記第1貫通孔に導電膜を埋め込んで入力パッドおよび出力パッドの少なくとも一方を形成する工程と、
前記第2貫通孔に導電膜を埋め込んでグランドパッドを形成する工程と、を備えるフィルタの製造方法。
【請求項11】
前記物理エッチング法としてイオンミリング法を用いる、請求項9または10に記載のフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ、マルチプレクサ、およびフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電膜と、圧電膜を挟む下部電極および上部電極と、を備える圧電薄膜共振器が知られている。圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する領域は、弾性波が共振する共振領域である。圧電膜に、単結晶ニオブ酸リチウム膜または単結晶タンタル酸リチウム膜を用いることが知られている(例えば特許文献1)。圧電薄膜共振器は、携帯電話などの無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして用いられる。フィルタとして、入力端子と出力端子との間に直列に接続された直列共振器と、並列に接続された並列共振器と、を備えるラダー型フィルタが知られている。直列共振器と並列共振器とで互いに共振周波数が異なるようにする。そこで、共振器の圧電膜の厚さを異ならせることで共振周波数を異ならせることが知られている(例えば特許文献2)。また、共振領域の周りの圧電膜を掘り込む構成が知られている(例えば特許文献3、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-51262号公報
【特許文献2】特開2002-359534号公報
【特許文献3】特表2018-537672号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ting Wu、外4名、「Application of Free Side Edges to Thickness Shear Bulk Acoustic Resonator On Lithium Niobate for Suppression of Transverse Resonance」、弾性波素子技術コンソーシアム第2回研究会資料、令和3年3月8日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直列共振器は並列共振器より共振周波数が高くなるようにする。これは、直列共振器の圧電膜の厚さを並列共振器の圧電膜の厚さに比べて薄くすることで実現できる。また、共振器の下部電極に接続する下部配線を露出させる貫通孔を圧電膜に形成し、貫通孔に下部配線に接続する導電膜を形成することがある。このときに、直列共振器と並列共振器とで圧電膜の厚さが異なることで、圧電膜に貫通孔を形成する際に下部配線まで削ってしまい、下部配線にダメージを与えてしまうことがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、下部配線にダメージを与えることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられ、単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜であり、薄膜部分と前記薄膜部分より厚い厚膜部分とを有する圧電膜と、前記基板上に設けられた入力パッドおよび出力パッドと、前記入力パッドと前記出力パッドとの間に直列に接続され、前記圧電膜の前記薄膜部分と、前記薄膜部分を挟む第1下部電極および第1上部電極と、を有する複数の直列共振器と、前記入力パッドと前記出力パッドとの間に並列に接続され、前記圧電膜の前記厚膜部分と、前記厚膜部分を挟む第2下部電極および第2上部電極と、を有する1または複数の並列共振器と、前記複数の直列共振器と前記1または複数の並列共振器との間を接続し、少なくとも1つは前記第1下部電極と前記第2下部電極とに接続された下部配線である1または複数の配線と、前記圧電膜を貫通する貫通孔に設けられ、前記貫通孔の側面における前記圧電膜の厚さは前記貫通孔の全周において同じであり、前記下部配線に接続された導電膜と、を備えるフィルタである。
【0008】
上記構成において、前記貫通孔は、前記圧電膜の前記薄膜部分および前記厚膜部分のうちいずれか一方を貫通する構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記下部配線は、前記複数の直列共振器の間を接続する第1下部配線と、前記第1下部配線と前記1または複数の並列共振器の間を接続する第2下部配線と、を有し、前記貫通孔は、前記第1下部配線と前記第2下部配線に重なって前記圧電膜に設けられる構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記入力パッド、前記出力パッド、および前記1または複数の並列共振器が接続するグランドパッドの少なくとも1つは、前記圧電膜を貫通する他の貫通孔に設けられ、前記他の貫通孔が貫通する前記圧電膜の厚さは前記貫通孔が貫通する前記圧電膜の厚さと同じである構成とすることができる。
【0011】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられ、単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜であり、薄膜部分と前記薄膜部分より厚い厚膜部分とを有する圧電膜と、前記圧電膜の前記薄膜部分と、前記薄膜部分を挟む第1下部電極および第1上部電極と、を有する1または複数の直列共振器と、前記圧電膜の前記厚膜部分と、前記厚膜部分を挟む第2下部電極および第2上部電極と、を有する1または複数の並列共振器と、前記1または複数の直列共振器が間に直列に接続され、少なくとも一方が前記圧電膜を貫通する第1貫通孔に設けられ、前記第1下部電極に接続する第1下部配線に接続された入力パッドおよび出力パッドと、前記1または複数の並列共振器が接続され、少なくとも1つが前記圧電膜を貫通する第2貫通孔に設けられ、前記第2貫通孔の側面における前記圧電膜の厚さは前記第1貫通孔の側面における前記圧電膜の厚さと同じであり、前記第2下部電極に接続する第2下部配線に接続された1または複数のグランドパッドと、を備えるフィルタである。
【0012】
上記構成において、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔は、前記圧電膜の前記薄膜部分および前記厚膜部分のうちいずれか一方を貫通する構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記圧電膜は、第1圧電膜と、前記第1圧電膜に積層され、前記第1圧電膜の自発分極の方向と反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電膜と、を有する構成とすることができる。
【0014】
本発明は、上記に記載のフィルタを含むマルチプレクサである。
【0015】
本発明は、単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜である圧電膜の一部を薄くして薄膜部分と前記薄膜部分より厚い厚膜部分とを有する前記圧電膜を形成する工程と、前記圧電膜の前記薄膜部分と、前記薄膜部分を挟む第1下部電極および第1上部電極と、を有する複数の直列共振器を形成する工程と、前記圧電膜の前記厚膜部分と、前記厚膜部分を挟む第2下部電極および第2上部電極と、を有する1または複数の並列共振器を形成する工程と、前記複数の直列共振器と前記1または複数の並列共振器との間を接続し、少なくとも1つは前記第1下部電極と前記第2下部電極とに接続された下部配線である1または複数の配線を形成する工程と、前記下部配線を露出させる貫通孔を前記圧電膜の厚さが同じ部分に物理エッチング法を用いて形成する工程と、前記貫通孔に導電膜を埋め込む工程と、を備えるフィルタの製造方法である。
【0016】
本発明は、単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜である圧電膜の一部を薄くして薄膜部分と前記薄膜部分より厚い厚膜部分とを有する前記圧電膜を形成する工程と、前記圧電膜の前記薄膜部分と、前記薄膜部分を挟む第1下部電極および第1上部電極と、を有する1または複数の直列共振器を形成する工程と、前記圧電膜の前記厚膜部分と、前記厚膜部分を挟む第2下部電極および第2上部電極と、を有する1または複数の並列共振器を形成する工程と、前記第1下部電極に接続する第1下部配線および前記第2下部電極に接続する第2下部配線を形成する工程と、前記第1下部配線を露出させる第1貫通孔と前記第2下部配線を露出させる第2貫通孔とを前記圧電膜の厚さが同じ部分に物理エッチング法を用いて同時に形成する工程と、前記第1貫通孔に導電膜を埋め込んで入力パッドおよび出力パッドの少なくとも一方を形成する工程と、前記第2貫通孔に導電膜を埋め込んでグランドパッドを形成する工程と、を備えるフィルタの製造方法である。
【0017】
上記構成において、前記物理エッチング法としてイオンミリング法を用いる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、下部配線にダメージを与えることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例1に係るフィルタの平面図である。
図2図2(a)は、図1のA-A断面図、図2(b)は、図1のB-B断面図である。
図3図3(a)から図3(c)は、実施例1に係るフィルタの製造方法を示す断面図(その1)である。
図4図4(a)から図4(c)は、実施例1に係るフィルタの製造方法を示す断面図(その2)である。
図5図5(a)から図5(c)は、実施例1に係るフィルタの製造方法を示す断面図(その3)である。
図6図6(a)は、比較例に係るフィルタの平面図、図6(b)は、図6(a)のA-A断面図である。
図7図7(a)から図7(c)は、比較例に係るフィルタの製造方法を示す断面図である。
図8図8は、実施例1の変形例1に係るフィルタの平面図である。
図9図9は、実施例1の変形例2に係るフィルタの平面図である。
図10図10は、実施例1の変形例3に係るフィルタの平面図である。
図11図11は、実施例2に係るフィルタの平面図である。
図12図12(a)は、図11のA-A断面図、図12(b)は、図11のB-B断面図である。
図13図13(a)から図13(c)は、実施例2に係るフィルタの製造方法を示す断面図である。
図14図14は、実施例3に係るフィルタの平面図である。
図15図15は、実施例3の変形例1に係るフィルタの平面図である。
図16図16は、実施例3の変形例2に係るフィルタの平面図である。
図17図17(a)は、実施例4に係るフィルタの平面図、図17(b)は、図17(a)のA-A断面図である。
図18図18(a)から図18(c)は、実施例4に係るフィルタの製造方法を示す断面図(その1)である。
図19図19(a)から図19(c)は、実施例4に係るフィルタの製造方法を示す断面図(その2)である。
図20図20(a)および図20(b)は、実施例1および実施例4における直列共振器および並列共振器の動作を説明する図である。
図21図21(a)および図21(b)は、シミュレーションに用いた直列共振器および並列共振器の断面図である。
図22図22は、直列共振器および並列共振器の周波数に対する|Y|のシミュレーション結果を示す図である。
図23図23(a)および図23(b)は、実施例5における直列共振器および並列共振器の断面図である。
図24図24は、実施例6に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例0021】
図1は、実施例1に係るフィルタの平面図である。図2(a)は、図1のA-A断面図、図2(b)は、図1のB-B断面図である。図1において、図の明瞭化のために、保護膜19の図示を省略するとともに、共振領域22、32にハッチングを付している(以下の同様な図においても同じ)。また、図1において、圧電膜12の上面の法線方向をZ方向、Z方向に直交する方向であって圧電膜12の上面の面方向で互いに直交する方向をX方向およびY方向とする(以下の同様な図においても同じ)。図1図2(a)、および図2(b)に示すように、実施例1に係るフィルタ100は、基板10上に直列共振器S1、S2と並列共振器P1が設けられたラダー型フィルタである。
【0022】
直列共振器S1、S2は、基板10上に設けられた入力パッド80と出力パッド81との間に直列に接続されている。入力パッド80と直列共振器S1との間は上部配線40により接続され、直列共振器S1と直列共振器S2との間は下部配線41により接続され、直列共振器S2と出力パッド81との間は上部配線42により接続されている。並列共振器P1は、入力パッド80と出力パッド81との間に並列に接続されている。並列共振器P1の一端は上部配線60によりグランドパッド82に接続され、他端は下部配線61により下部配線41に接続されている。入力パッド80、出力パッド81、およびグランドパッド82は、外部と電気的に接続するための端子である。
【0023】
基板10上に絶縁膜11を介して圧電膜12が設けられている。圧電膜12は、薄膜部分13と、薄膜部分13より厚い厚膜部分14と、を有する。図1において、薄膜部分13は破線で囲まれた範囲であり、それ以外は厚膜部分14となっている。薄膜部分13の厚さはほぼ一定ある。厚膜部分14の厚さもほぼ一定である。
【0024】
基板10は、シリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板、またはGaAs基板などである。絶縁膜11は、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、または酸化アルミニウム膜などである。圧電膜12は、単結晶ニオブ酸リチウム膜または単結晶タンタル酸リチウム膜であり、例えば回転Yカットニオブ酸リチウム膜または回転Yカットタンタル酸リチウム膜である。圧電膜12の上面の法線方向をZ方向、Z方向に直交する方向であって圧電膜12の上面の面方向で互いに直交する方向をX方向およびY方向とする右手系のXYZ座標系において、圧電膜12のオイラー角は例えば(0°、-105°、0°)または(0°、-105°、90°)である。オイラー角の各角度は±5°の範囲内を許容し、±1°の範囲内が好ましい。
【0025】
直列共振器S1、S2は、圧電膜12の薄膜部分13と、薄膜部分13を挟む下部電極20および上部電極21と、を備える。薄膜部分13を挟み下部電極20と上部電極21とが平面視において重なる領域は共振領域22である。共振領域22の平面形状はほぼ矩形である。
【0026】
並列共振器P1は、圧電膜12の厚膜部分14と、厚膜部分14を挟む下部電極30および上部電極31と、を備える。厚膜部分14を挟み下部電極30と上部電極31とが平面視において重なる領域は共振領域32である。共振領域32の平面形状はほぼ矩形である。
【0027】
共振領域22および共振領域32内の圧電膜12に、弾性波の変位がZ方向にほぼ直交する方向(すなわち厚さに対して歪み方向)に振動する弾性波が励振される。この振動を厚みすべり振動という。厚みすべり振動の変位の最も大きい方向(厚みすべり振動の変位方向)が厚みすべり振動の振動方向となる。直列共振器S1、S2の共振領域22において励振される弾性波の波長は、圧電膜12の薄膜部分13の厚さのほぼ2倍である。並列共振器P1の共振領域32において励振される弾性波の波長は、圧電膜12の厚膜部分14の厚さのほぼ2倍である。
【0028】
共振領域22における圧電膜12は薄膜部分13であり、共振領域32における圧電膜12は厚膜部分14であるため、直列共振器S1、S2の共振周波数は、並列共振器Pの共振周波数より高くなる。
【0029】
入力パッド80と直列共振器S1との間を接続する上部配線40は、直列共振器S1を構成する上部電極21に接続されて圧電膜12上に設けられている。同様に、出力パッド81と直列共振器S2との間を接続する上部配線42は、直列共振器S2を構成する上部電極21に接続されて圧電膜12上に設けられている。並列共振器P1とグランドパッド82との間を接続する上部配線60は、並列共振器P1を構成する上部電極31に接続されて圧電膜12上に設けられている。上部電極21は共振領域22内に位置する部分を指し、共振領域22から引き出された部分を上部配線40、42とする。同様に、上部電極31は共振領域32内に位置する部分を指し、共振領域32から引き出された部分を上部配線60とする。
【0030】
直列共振器S1と直列共振器S2との間を接続する下部配線41は、直列共振器S1を構成する下部電極20と直列共振器S2を構成する下部電極20とに接続されている。並列共振器P1と下部配線41との間を接続する下部配線61は、並列共振器P1を構成する下部電極30に接続されている。下部電極20は共振領域22内に位置する部分を指し、共振領域22から引き出された部分を下部配線41とする。同様に、下部電極30は共振領域32内に位置する部分を指し、共振領域32から引き出された部分を下部配線61とする。
【0031】
下部配線41および下部配線61は、例えば金属膜87と、金属膜87の少なくとも一部に重なる金属膜86と、を含む。なお、金属膜86は設けられていない場合でもよい。下部電極20および下部電極30は、絶縁膜11の上面に設けられた凹部15内に配置されている。
【0032】
下部電極20と絶縁膜11との間および下部電極30と絶縁膜11との間に、空隙16が形成されている。空隙16は、共振領域22および共振領域32の全体に重なっている。共振領域22の傍の圧電膜12を貫通して共振領域22を挟む貫通孔18が設けられている。同様に、共振領域32の傍の圧電膜12を貫通して共振領域32を挟む貫通孔18が設けられている。貫通孔18の平面形状はほぼ矩形である。貫通孔18は空隙16に接続している。貫通孔18が設けられることで、スプリアスを低減する効果が得られる。
【0033】
下部電極20、上部電極21、下部電極30、および上部電極31は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、またはイリジウム(Ir)などの単層膜またはこれらの積層膜である。金属膜87は、例えば上記材料などの単層膜または積層膜である。金属膜86は、例えばチタン(Ti)膜である。上部配線40、上部配線42、および上部配線60と、上部電極21および上部電極31とは、例えば同じ材料により形成される。金属膜87と、下部電極20および下部電極30とは、例えば同じ材料により形成される。
【0034】
下部電極20、上部電極21、下部電極30、および上部電極31の厚さは、例えば20nm~150nmである。金属膜87の厚さも、例えば20nm~150nmである。金属膜86の厚さは、例えば200nm~400nmである。上部配線40、上部配線42、および上部配線60と、上部電極21および上部電極31とは、例えば同じ厚さである。金属膜87と、下部電極20および下部電極30とは、例えば同じ厚さである。
【0035】
下部配線41および下部配線61上における圧電膜12に貫通孔17が設けられている。貫通孔17は、下部配線41、61の金属膜86に重なって設けられている。金属膜86は、貫通孔17を形成するときに下部配線41、61がエッチングされることがある場合を考慮して設けられている。貫通孔17は圧電膜12の厚膜部分14に設けられ、貫通孔17が貫通する圧電膜12の厚さは貫通孔17の全体において同じである。貫通孔17に埋め込まれて導電膜85が設けられている。導電膜85は下部配線41および下部配線61に接触している。導電膜85が設けられることで、下部配線41および下部配線61を流れる電流に対する電気抵抗を下げることができる。導電膜85は、例えば金(Au)層、銅(Cu)層、またはアルミニウム(Al)層などを含む金属層である。
【0036】
圧電膜12の表面、上部電極21、31の表面、および上部配線40、42、60の表面を覆って保護膜19が設けられている。入力パッド80、出力パッド81、およびグランドパッド82は、保護膜19を貫通して上部配線40、42、60に接続されている。保護膜19は、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、または酸化アルミニウム膜等の絶縁膜である。入力パッド80、出力パッド81、およびグランドパッド82は、Au層、Cu層、またはAl層などを含む金属層である。
【0037】
[製造方法]
図3(a)から図5(c)は、実施例1に係るフィルタの製造方法を示す断面図である。図3(a)から図5(c)は、図1のA-A間に相当する箇所の断面図である。図3(a)に示すように、圧電膜12上に下部配線41、61を構成する金属膜86を形成する。次いで、圧電膜12上に下部電極20、下部電極30、および下部配線41、61を構成するの金属膜87を形成する。ここでの圧電膜12は、図2(a)における圧電膜12より厚い膜(基板)である。金属膜86、金属膜87、下部電極20、および下部電極30は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて成膜し、その後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。これらの代わりにリフトオフ法を用いてもよい。
【0038】
図3(b)に示すように、圧電膜12上に、下部電極20および下部電極30を覆う犠牲層90を形成する。犠牲層90は、MgO、ZnO、Ge、またはSiOなどのエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解される材料から選択される。犠牲層90は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて成膜し、その後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。犠牲層90は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0039】
図3(c)に示すように、圧電膜12上に犠牲層90および下部配線41、61を覆う絶縁膜11を成膜し、その後、絶縁膜11の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて研磨する。これにより、絶縁膜11は、所望の厚さとなり、上面が平坦化される。
【0040】
図4(a)に示すように、絶縁膜11を基板10に接合する。その後、圧電膜12の上面を例えばCMP法を用いて研磨して、圧電膜12を所望の厚さまで薄くする。次いで、圧電膜12の一部を薄くして薄膜部分13を形成する。薄膜部分13以外は、薄膜部分13に比べて厚い厚膜部分14となる。薄膜部分13は、例えばフォトリソグラフィ法および物理エッチング法を用いて形成する。物理エッチング法として例えばイオンミリング法を用いてもよい。
【0041】
図4(b)に示すように、圧電膜12上に上部電極21、上部電極31、上部配線40、上部配線42(図4(b)では不図示)、および上部配線60を形成する。上部電極21、上部電極31、上部配線40、上部配線42、および上部配線60は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて成膜し、その後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。これらの代わりにリフトオフ法を用いてもよい。
【0042】
図4(c)に示すように、圧電膜12上に上部電極21、上部電極31、上部配線40、上部配線42(図4(c)では不図示)、および上部配線60を覆う保護膜19を形成する。保護膜19は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて成膜する。次いで、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて、入力パッド80、出力パッド81、グランドパッド82、および導電膜85を形成する領域において保護膜19に開口91を形成する。
【0043】
図5(a)に示すように、導電膜85が形成される領域の圧電膜12をフォトリソグラフ法および物理エッチング法を用いて除去して、圧電膜12に下部配線41、61が露出する貫通孔17を形成する。貫通孔17が形成される領域の圧電膜12は、厚膜部分14であり、厚さが一定の部分である。したがって、貫通孔17は圧電膜12の厚さが同じ部分に形成される。圧電膜12は単結晶タンタル酸リチウム膜または単結晶ニオブ酸リチウム膜であるため、化学エッチング法によって圧電膜12をエッチングすることは難しいことから、物理エッチング法を用いて圧電膜12をエッチングする。物理エッチング法として例えばイオンミリング法を用いてもよい。
【0044】
図5(b)に示すように、圧電膜12に形成した貫通孔17に導電膜85を形成する。上部配線40上に入力パッド80を形成し、上部配線60上にグランドパッド82を形成する。図示は省略するが、上部配線42上に出力パッド81を形成する。これらは、例えば真空蒸着法またはめっき法を用いて形成する。
【0045】
図5(c)に示すように、犠牲層90のエッチング液またはエッチングガスなどのエッチング媒体を犠牲層90に導入する。エッチング媒体は、圧電膜12を貫通して犠牲層90に達する孔を介し犠牲層90に導入される。これにより、犠牲層90が除去される。犠牲層90が除去されることで、下部電極20および下部電極30と、絶縁膜11と、の間に空隙16が形成される。以上により、実施例1に係るフィルタが形成される。
【0046】
[比較例]
図6(a)は、比較例に係るフィルタの平面図、図6(b)は、図6(a)のA-A断面図である。図6(a)および図6(b)に示すように、比較例に係るフィルタ1000では、圧電膜12の薄膜部分13が実施例1に比べて広面積に形成され、直列共振器S1と直列共振器S2が薄膜部分13に形成されるだけでなく、下部配線41も薄膜部分13に重なって形成されている。下部配線61は、薄膜部分13から厚膜部分14にかけて重なって形成されている。導電膜85は、圧電膜12の薄膜部分13から厚膜部分14にかけて形成された貫通孔17に埋め込まれている。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0047】
図7(a)から図7(c)は、比較例に係るフィルタの製造方法を示す断面図である。まず、実施例1の図3(a)から図4(c)と同様の工程を行って図7(a)とする。
【0048】
図7(b)に示すように、導電膜85が形成される領域の圧電膜12をフォトリソグラフ法および物理エッチング法を用いて除去して、圧電膜12に貫通孔17を形成する。物理エッチング法として例えばイオンミリング法を用いてもよい。貫通孔17は、下部配線41、61上における圧電膜12を除去して形成される。比較例では、下部配線41は圧電膜12の薄膜部分13に重なって形成され、下部配線61は薄膜部分13から厚膜部分14にかけて重なって形成されている。このため、下部配線41、61上における圧電膜12を物理エッチング法で除去して貫通孔17を形成する際に、下部配線41、61の金属膜86の一部もエッチングされてしまう。特に、イオンミリング法を用いた場合では、金属膜86がエッチングされ易い。
【0049】
図7(c)に示すように、圧電膜12に形成した貫通孔17に導電膜85を形成する。上部配線40上に入力パッド80を形成し、上部配線60上にグランドパッド82を形成する。図示は省略するが、上部配線42上に出力パッド81を形成する。その後、犠牲層90を除去することで、図6(b)に示すような比較例に係るフィルタが形成される。
【0050】
比較例では、図7(b)のように、下部配線41、61を露出させる貫通孔17を圧電膜12の厚さが異なる薄膜部分13と厚膜部分14に物理エッチング法を用いて形成する。このため、下部配線41、61の一部がエッチングされてしまうことが生じ、下部配線41、61にダメージを与えてしまう。これにより、貫通孔17に導電膜85を埋め込んだとしても、下部配線41、61の電気抵抗を下げることができないことがある。
【0051】
一方、実施例1によれば、図4(a)のように、圧電膜12の一部を薄くして薄膜部分13と厚膜部分14とを形成する。図4(b)から図5(c)のように、圧電膜12の薄膜部分13と、薄膜部分13を挟む下部電極20(第1下部電極)および上部電極21(第1上部電極)と、を有する複数の直列共振器S1、S2を形成する。圧電膜12の厚膜部分14と、厚膜部分14を挟む下部電極30(第2下部電極)および上部電極31(第2上部電極)と、を有する1または複数の並列共振器P1を形成する。直列共振器S1、S2と並列共振器P1との間を接続する下部配線41、61を形成する。図5(a)のように、下部配線41、61を露出させる貫通孔17を圧電膜12の厚さが同じ部分である厚膜部分14に物理エッチング法を用いて形成する。図5(b)のように、貫通孔17に導電膜85を埋め込む。このような製造方法により形成されることで、フィルタ100は、貫通孔17の側面における圧電膜12の厚さが貫通孔17の全周において同じであり、導電膜85がこのような貫通孔17に下部配線41、61に接続して設けられる。これにより、貫通孔17を形成するためのエッチングにおいて、下部配線41、61がエッチングされることが抑制され、下部配線41、61にダメージを与えることを抑制できる。ここで、圧電膜12の厚さが同じとは、製造誤差程度のばらつきを許容するものであり、最大厚さに対する最大厚さと最小厚さの差の割合が10%以下の場合である。
【0052】
また、実施例1では、イオンミリング法を用いて貫通孔17を形成する。圧電膜12が単結晶ニオブ酸リチウム膜または単結晶タンタル酸リチウム膜である場合、イオンミリング法を用いることで、圧電膜12に貫通孔17を容易に形成することができる。一方、イオンミリング法を用いて圧電膜12に貫通孔17を形成する場合、比較例のように、貫通孔17を圧電膜12の薄膜部分13と厚膜部分14に形成すると、下部配線41、61の一部がエッチングされ易くなる。しかしながら、実施例1では、貫通孔17を圧電膜12の厚膜部分14のみに形成しているため、イオンミリング法を用いて貫通孔17を形成した場合でも、下部配線41、61がエッチングされることを抑制できる。
【0053】
また、実施例1では、図1および図2(a)のように、貫通孔17は圧電膜12の薄膜部分13および厚膜部分14のうち厚膜部分14を貫通して設けられている。これにより、並列共振器P1と貫通孔17とを同じ厚さの厚膜部分14に形成することができ、製造を簡略化できる。
【0054】
また、実施例1では、図1のように、直列共振器S1、S2と並列共振器P1は、下部配線41(第1下部配線)と下部配線61(第2下部配線)とにより接続されている。貫通孔17は、下部配線41と下部配線61に重なって圧電膜12に設けられている。これにより、貫通孔17に埋め込まれる導電膜85による下部配線41、61の電気抵抗の低減を効果的に低減できる。
【0055】
[変形例]
図8は、実施例1の変形例1に係るフィルタの平面図である。図8に示すように、実施例1の変形例1に係るフィルタ110は、入力パッド80と出力パッド81との間に並列共振器P1に加えて並列共振器P2が並列に接続されている。並列共振器P2の一端は下部配線62によりグランドパッド82に接続され、他端は上部配線63により上部配線42に接続されている。並列共振器P2が下部配線62を介して接続するグランドパッド82は、圧電膜12の厚膜部分14を貫通する貫通孔17aに埋め込まれて下部配線62に接続している。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0056】
実施例1の変形例1のように、導電膜85が、圧電膜12の厚膜部分14を貫通する貫通孔17に設けられることに加え、グランドパッド82が、貫通孔17が貫通する圧電膜12の厚さと同じ厚さの厚膜部分14を貫通する貫通孔17aに設けられてもよい。これにより、貫通孔17、17aを形成する際に、下部配線41、61、62にダメージを与えることを抑制できる。
【0057】
図9は、実施例1の変形例2に係るフィルタの平面図である。図9に示すように、実施例1の変形例2に係るフィルタ120は、入力パッド80と出力パッド81との間に、直列共振器S1、S2に加えて直列共振器S3、S4が直列に接続されている。入力パッド80と出力パッド81との間に、並列共振器P1に加えて並列共振器P2が並列に接続されている。直列共振器S2と直列共振器S3との間は上部配線42により接続され、直列共振器S3と直列共振器S4との間は下部配線43により接続され、直列共振器S4と出力パッド81との間は上部配線44により接続されている。並列共振器P2の一端は上部配線64によりグランドパッド82に接続され、他端は下部配線65にとり下部配線43に接続されている。
【0058】
下部配線41および下部配線61上における圧電膜12に貫通孔17が設けられていることに加え、下部配線43および下部配線65上における圧電膜12に貫通孔17が設けられている。2つの貫通孔17は共に圧電膜12の厚膜部分14に設けられている。言い換えると、2つの貫通孔17は共に圧電膜12の厚さが同じ部分に設けられている。2つの貫通孔17には導電膜85が設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0059】
実施例1の変形例2のように、圧電膜12の厚さが同じ部分に複数の貫通孔17が設けられ、複数の貫通孔17それぞれに導電膜85が設けられている場合でもよい。
【0060】
図10は、実施例1の変形例3に係るフィルタの平面図である。図10に示すように、実施例1の変形例3に係るフィルタ130は、実施例1の変形例2と同じように、入力パッド80と出力パッド81との間に、直列共振器S1~S4が直列に接続され、並列共振器P1、P2が並列に接続されている。実施例1の変形例3では、直列共振器S1~S4の共振領域22、並びに、下部配線41、上部配線42、および下部配線43が設けられた領域が、圧電膜12の薄膜部分13となっている。すなわち、直列共振器S1~S4各々において、共振領域22を挟む貫通孔18は圧電膜12の厚膜部分14に設けられている。
【0061】
下部配線61上における圧電膜12に貫通孔17が設けられ、下部配線65上における圧電膜12に貫通孔17が設けられている。2つの貫通孔17は共に圧電膜12の厚膜部分14に設けられている。言い換えると、2つの貫通孔17は共に圧電膜12の厚さが同じ部分に設けられている。2つの貫通孔17には導電膜85が設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【実施例0062】
図11は、実施例2に係るフィルタの平面図である。図12(a)は、図11のA-A断面図、図12(b)は、図11のB-B断面図である。図11図12(a)、および図12(b)に示すように、実施例2に係るフィルタ200では、入力パッド80と直列共振器S1との間は下部配線50により接続され、直列共振器S1と直列共振器S2との間は上部配線51により接続され、直列共振器S2と出力パッド81との間は下部配線52により接続されている。並列共振器P1の一端は下部配線70によりグランドパッド82に接続され、他端は上部配線71により上部配線51に接続されている。
【0063】
入力パッド80と直列共振器S1との間を接続する下部配線50は、直列共振器S1を構成する下部電極20に接続されている。出力パッド81と直列共振器S2との間を接続する下部配線52は、直列共振器S2を構成する下部電極20に接続されている。並列共振器P1とグランドパッド82との間を接続する下部配線70は、並列共振器P1を構成する下部電極30に接続されている。下部配線50、52、70は、例えば金属膜87と、金属膜87の少なくとも一部に重なる金属膜86と、を含む。なお、金属膜86は設けられていない場合でもよい。直列共振器S1と直列共振器S2との間を接続する上部配線51は、直列共振器S1を構成する上部電極21と直列共振器S2を構成する上部電極21に接続されて圧電膜12上に設けられている。並列共振器P1と上部配線51との間を接続する上部配線71は、並列共振器P1を構成する上部電極31に接続されて圧電膜12上に設けられている。
【0064】
下部配線50上における圧電膜12に貫通孔17bが設けられ、貫通孔17bに埋め込まれて下部配線50に接続する入力パッド80が設けられている。下部配線52上における圧電膜12に貫通孔17cが設けられ、貫通孔17cに埋め込まれて下部配線52に接続する出力パッド81が設けられている。下部配線70上における圧電膜12に貫通孔17dが設けられ、貫通孔17dに埋め込まれて下部配線70に接続するグランドパッド82が設けられている。貫通孔17b~17dは、圧電膜12の厚膜部分14に設けられている。したがって、貫通孔17b~17dは、圧電膜12の厚さが同じ部分に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0065】
[製造方法]
図13(a)から図13(c)は、実施例2に係るフィルタの製造方法を示す断面図である。まず、実施例1の図3(a)から図4(c)と同様の工程を行って図13(a)とする。
【0066】
図13(b)に示すように、入力パッド80、出力パッド81、およびグランドパッド82が形成される領域の圧電膜12をフォトリソグラフ法および物理エッチング法を用いて除去して、圧電膜12に貫通孔17b、貫通孔17c(図13(b)では不図示)、および貫通孔17dを形成する。物理エッチング法として例えばイオンミリング法を用いてもよい。貫通孔17bは下部配線50を露出させて圧電膜12の厚膜部分14に形成され、貫通孔17dは下部配線70を露出させて圧電膜12の厚膜部分14に形成される。図示は省略するが、貫通孔17cは下部配線52を露出させて圧電膜12の厚膜部分14に形成される。
【0067】
図13(c)に示すように、貫通孔17bに入力パッド80を形成し、貫通孔17dにグランドパッド82を形成する。図示は省略するが、貫通孔17cに出力パッド81を形成する。これらは、例えば真空蒸着法またはめっき法を用いて形成する。その後、犠牲層90を除去することで、図11図12(a)、および図12(b)に示す実施例2に係るフィルタが形成される。
【0068】
実施例2によれば、図4(a)のように、圧電膜12の一部を薄くして薄膜部分13と厚膜部分14とを形成する。図13(a)から図13(c)および図12(a)のように、圧電膜12の薄膜部分13と、薄膜部分13を挟む下部電極20(第1下部電極)および上部電極21(第1上部電極)と、を有する1または複数の直列共振器S1、S2を形成する。圧電膜12の厚膜部分14と、厚膜部分14を挟む下部電極30(第2下部電極)および上部電極31(第2上部電極)と、を有する1または複数の並列共振器P1を形成する。直列共振器S1、S2の下部電極20に接続する下部配線50、52(第1下部配線)を形成する。並列共振器P1の下部電極30に接続する下部配線70(第2下部配線)を形成する。下部配線50を露出させる貫通孔17b(第1貫通孔)と、下部配線52を露出させる貫通孔17c(第1貫通孔)と、下部配線70を露出させる貫通孔17d(第2貫通孔)とを、圧電膜12の厚さが同じ部分である厚膜部分14に物理エッチング法を用いて同時に形成する。図12(a)および図12(b)のように、貫通孔17bに入力パッド80を形成し、貫通孔17cに出力パッド81を形成する。貫通孔17dにグランドパッド82を形成する。このような製造方法で形成されることで、フィルタ200は、入力パッド80、出力パッド81、およびグランドパッド82は、圧電膜12の厚膜部分14を貫通する貫通孔17b、17c、17dに設けられる。すなわち、入力パッド80および出力パッド81が設けられる貫通孔17b、17cの側面における圧電膜12の厚さはグランドパッド82が設けられる貫通孔17dの側面における圧電膜12の厚さと同じになる。これにより、貫通孔17b~17dを形成するためのエッチングにおいて、下部配線50、52、70がエッチングされることが抑制され、下部配線50、52、70にダメージを与えることを抑制できる。圧電膜12の厚さが同じとは、製造誤差程度のばらつきを許容するものであり、最大厚さに対する最大厚さと最小厚さの差の割合が10%以下の場合である。
【実施例0069】
図14は、実施例3に係るフィルタの平面図である。図14に示すように、実施例3に係るフィルタ300は、入力パッド80と出力パッド81との間に、直列共振器S1~S5が直列に接続され、並列共振器P1、P2が並列に接続されている。入力パッド80と直列共振器S1との間、直列共振器S1と直列共振器S2と並列共振器P1との間、および並列共振器P1とグランドパッド82との間は、実施例1と同じように接続されている。直列共振器S2と直列共振器S3との間は上部配線42により接続され、直列共振器S3と直列共振器S4との間は下部配線43により接続され、直列共振器S4と直列共振器S5との間は上部配線44により接続され、直列共振器S5と出力パッド
81との間は下部配線45により接続されている。並列共振器P2の一端は下部配線66によりグランドパッド82に接続され、他端は上部配線67により上部配線44に接続されている。
【0070】
下部配線41および下部配線61上における圧電膜12の厚膜部分14を貫通する貫通孔17が設けられ、貫通孔17に下部配線41、61に接続する導電膜85が設けられている。下部配線45上における圧電膜12の厚膜部分14を貫通する貫通孔17eが設けられ、貫通孔17eに下部配線45に接続する出力パッド81が設けられている。下部配線66上における圧電膜12の厚膜部分14を貫通する貫通孔17fが設けられ、貫通孔17fに下部配線66に接続するグランドパッド82が設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0071】
[変形例]
図15は、実施例3の変形例1に係るフィルタの平面図である。図15に示すように、実施例3の変形例1に係るフィルタ310では、直列共振器S1~S5の共振領域22、並びに、上部配線42、下部配線43、および上部配線44が設けられた領域が、圧電膜12の薄膜部分13となっている。すなわち、直列共振器S1~S5各々において、共振領域22を挟む貫通孔18は圧電膜12の厚膜部分14に設けられている。その他の構成は実施例3と同じであるため説明を省略する。
【0072】
実施例3およびその変形例1によれば、導電膜85が圧電膜12の厚膜部分14を貫通する貫通孔17に設けられることに加え、出力パッド81およびグランドパッド82が圧電膜12の厚膜部分14を貫通する貫通孔17e、17fに設けられている。これにより、貫通孔17、17e、17fを形成する際に、下部配線41、61、45、61、66にダメージを与えることを抑制できる。
【0073】
図16は、実施例3の変形例2に係るフィルタの平面図である。図16に示すように、実施例3の変形例2に係るフィルタ320では、並列共振器P1、P2が形成された領域が圧電膜12の厚膜部分14であり、圧電膜12のその他の領域は薄膜部分13となっている。したがって、貫通孔17、17e、17fは、圧電膜12の薄膜部分13に設けられている。その他の構成は実施例3と同じであるため説明を省略する。
【0074】
実施例3およびその変形例では、入力パッド80は上部配線40に接続し、出力パッド81は下部配線45に接続する場合を例に示したが、入力パッド80が下部配線に接続し、出力パッド81が上部配線に接続する場合でもよい。
【実施例0075】
図17(a)は、実施例4に係るフィルタの平面図、図17(b)は、図17(a)のA-A断面図である。図17(a)および図17(b)に示すように、実施例4に係るフィルタ400では、圧電膜12は、積層された第1圧電膜12aと第2圧電膜12bを備える。第1圧電膜12aおよび第2圧電膜12bは、単結晶ニオブ酸リチウム膜または単結晶タンタル酸リチウム膜である。第1圧電膜12aと第2圧電膜12bの厚さは同じである。第1圧電膜12aの分極方向と第2圧電膜12bの分極方向とは反対である。例えば第1圧電膜12aの分極方向は+Z方向であり、第2圧電膜12bの分極方向は-Z方向である。第1圧電膜12aと第2圧電膜12bは例えば表面活性化法により直接接合されている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0076】
[製造方法]
図18(a)から図19(c)は、実施例4に係るフィルタの製造方法を示す断面図である。図18(a)から図19(c)は、図17のA-A間に相当する箇所の断面図である。図18(a)に示すように、第1圧電膜12aの一部に凹部88を形成する。ここでの第1圧電膜12aは、図17(b)における第1圧電膜12aより厚い膜(基板)である。凹部88は、例えばフォトリソグラフィ法および物理エッチング法を用いて形成する。物理エッチング法として例えばイオンミリング法を用いてもよい。
【0077】
図18(b)に示すように、実施例1の図3(a)から図3(c)と同様の方法により、第1圧電膜12a上に、金属膜86と金属膜87を含む下部配線41、61と、下部電極20、30と、を形成した後、下部電極20および下部電極30を覆う犠牲層90を形成する。その後、第1圧電膜12a上に犠牲層90および下部配線41、61を覆う絶縁膜11を成膜し、絶縁膜11の上面を例えばCMP法を用いて研磨する。
【0078】
図18(c)に示すように、絶縁膜11を基板10に接合する。その後、第1圧電膜12aの上面を例えばCMP法を用いて研磨して、第1圧電膜12aを所望の厚さまで薄くする。
【0079】
図19(a)に示すように、第1圧電膜12aに第2圧電膜12bを例えば表面活性化法により直接接合させる。ここでの第2圧電膜12bは、図17(b)における第2圧電膜12bより厚い膜(基板)である。第1圧電膜12aと第2圧電膜12bが表面活性化法により接合されている場合、第1圧電膜12aと第2圧電膜12bとの間にアモルファス層が形成される場合がある。この場合、アモルファス層の厚さは第1圧電膜12aおよび第2圧電膜12bの厚さに比べて十分小さいため、第1圧電膜12aと第2圧電膜12bは直接接合されているとみなせる。
【0080】
図19(b)に示すように、第2圧電膜12bの上面を例えばCMP法を用いて研磨し、第2圧電膜12bを所望の厚さまで薄くして、第1圧電膜12aと第2圧電膜12bからなる圧電膜12を形成する。次いで、第2圧電膜12bの一部に例えばフォトリソグラフィ法および物理エッチング法を用いて凹部を形成し、第1圧電膜12aに形成した凹部88と共に圧電膜12の一部を薄膜部分13とする。薄膜部分13以外は、薄膜部分13に比べて厚い厚膜部分14となる。物理エッチング法として例えばイオンミリング法を用いてもよい。次いで、第2圧電膜12b上に上部電極21、上部電極31、上部配線40、上部配線42(図19(b)では不図示)、および上部配線60を形成する。
【0081】
図19(c)に示すように、第2圧電膜12b上に上部電極21、上部電極31、上部配線40、上部配線42(図19(c)では不図示)、および上部配線60を覆う保護膜19を形成する。次いで、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて、入力パッド80、出力パッド81、グランドパッド82、および導電膜85を形成する領域において保護膜19に開口を形成する。次いで、導電膜85が形成される領域の圧電膜12をフォトリソグラフ法および物理エッチング法を用いて除去して、圧電膜12に下部配線41、61が露出する貫通孔17を形成する。貫通孔17が形成される領域の圧電膜12は厚膜部分14である。物理エッチング法として例えばイオンミリング法を用いてもよい。
【0082】
その後、図17(b)に示すように、圧電膜12に形成した貫通孔17に導電膜85を形成する。上部配線40上に入力パッド80を形成し、上部配線60上にグランドパッド82を形成する。図示は省略するが、上部配線42上に出力パッド81を形成する。次いで、犠牲層90のエッチング液またはエッチングガスなどのエッチング媒体を犠牲層90に導入して、犠牲層90を除去する。以上により、実施例4に係るフィルタが形成される。
【0083】
図20(a)および図20(b)は、実施例1および実施例4における直列共振器および並列共振器の動作を説明する図である。図20(a)および図20(b)では、下部電極20、30、圧電膜12、および上部電極21、31を示している。右側の図は、Z方向の位置に対する弾性波の変位を示す図である。
【0084】
図20(a)に示すように、実施例1では、圧電膜12は分極方向89が1方向の1つの圧電膜である。この場合、右図のように、基本波は圧電膜12の上面の変位が0のとき、圧電膜12の下面の変位がEとなる。これにより、基本波は、下部電極20、30と上部電極21、31との電位が異なり、下部電極20、30と上部電極21、31との間に所定の周波数の交流信号を加えると圧電膜12に基本波が励振する。一方、第2高調波では下部電極20、30と上部電極21、31との電位がほぼ同じとなる。よって、圧電膜12に第2高調波はほとんど励振されない。圧電膜12の厚さTは基本波の波長のほぼ1/2となる。共振周波数の高い共振器を作製するためには、圧電膜12の厚さTを薄くすることになる。このため、圧電膜12の機械的強度が低下して破損し易くなる。また、圧電膜12の厚さTの製造ばらつきにより、共振周波数等の特性がばらつきやすくなる。
【0085】
図20(b)に示すように、実施例4では、第1圧電膜12aの分極方向89aは+Z方向、第2圧電膜12bの分極方向89bは-Z方向である。右図のように、第2高調波では圧電膜12の上面の変位が0のとき、圧電膜12の下面の変位が0である。圧電膜12のZ方向のほぼ中央付近の変位はEである。第1圧電膜12aの分極方向89aと第2圧電膜12bの分極方向89bとは逆方向のため、第2高調波では下部電極20、30と上部電極21、31との電位が異なる、下部電極20、30と上部電極21、31との間に所定の周波数の交流信号を加えると第2高調波が励振する。一方、基本波では下部電極20、30と上部電極21、31との電位がほぼ同じとなる。よって、圧電膜12に基本波はほとんど励振されない。厚さTはほぼ第2高調波の波長となる。このため、同じ共振周波数を有する共振器を作製する場合に、実施例4では、実施例1に対し、圧電膜12の厚さTを約2倍にできる。これにより、圧電膜12の破損を抑制できる。また、共振周波数等の特性のばらつきを抑制できる。
【0086】
[シミュレーション]
直列共振器Sと並列共振器Pとで共振周波数を異ならせるために、直列共振器Sには周波数調整膜を形成せず、並列共振器Pに周波数調整膜を形成したときの周波数特性を有限要素法によりシミュレーションした。図21(a)および図21(b)は、シミュレーションに用いた直列共振器および並列共振器の断面図である。図21(a)に示すように、直列共振器Sは、圧電膜12を挟んで下部電極20と上部電極21が設けられている。図21(b)に示すように、並列共振器Pは、圧電膜12を挟んで下部電極30と上部電極31が設けられている。共振領域32において、上部電極31上に周波数調整膜84が設けられている。
【0087】
シミュレーション条件は以下である。
直列共振器S
第1圧電膜12a:厚さが150nmの165°回転Yカットニオブ酸リチウム膜
第2圧電膜12b:第1圧電膜12aとは分極方向が反対方向である、厚さが150nmの165°回転Yカットニオブ酸リチウム膜
下部電極20、30:厚さが30nmのアルミニウム膜
上部電極21、31:厚さが30nmのアルミニウム膜
並列共振器P
第1圧電膜12a:厚さが150nmの165°回転Yカットニオブ酸リチウム膜
第2圧電膜12b:第1圧電膜12aとは分極方向が反対方向である、厚さが150nmの165°回転Yカットニオブ酸リチウム膜
下部電極20、30:厚さが30nmのアルミニウム膜
上部電極21、31:厚さが30nmのアルミニウム膜
周波数調整膜84:厚さが46nmのチタン膜
【0088】
図22は、直列共振器および並列共振器の周波数に対する|Y|のシミュレーション結果を示す図である。|Y|はアドミッタンスの絶対値である。図22に示すように、直列共振器Sではスプリアスの発生が抑制されているが、並列共振器Pではスプリアス95が発生した。このシミュレーション結果から、第1圧電膜12aと第2圧電膜12bを接合させた圧電膜12を用いて第2高調波を励振させる共振器では、共振周波数を調整するために周波数調整膜84を用いると、スプリアスが発生することが分かる。したがって、第1圧電膜12aと第2圧電膜12bを接合させた圧電膜12を用いる場合では、圧電膜12の厚さを調整することで、直列共振器と並列共振器の共振周波数を異ならせることが好ましい。
【0089】
実施例4によれば、圧電膜12は、第1圧電膜12aと、第1圧電膜12aに積層され、第1圧電膜12aの自発分極の方向と反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電膜12bと、を有する。これにより、第2高調波を励振させることができる。よって、基本波を励振させる場合に比べて、圧電膜12の厚さを約2倍にできるため、圧電膜12の破損を抑制でき、また、共振周波数等の特性のばらつきを抑制できる。
【実施例0090】
図23(a)および図23(b)は、実施例5における直列共振器および並列共振器の断面図である。図23(a)および図23(b)に示すように、実施例5における直列共振器Sおよび並列共振器Pは、空隙16の代わりに、基板10と下部電極20、30との間に音響反射膜96が設けられている。音響反射膜96は、音響インピーダンスの低い膜97と音響インピーダンスの高い膜98とが交互に設けられている。膜97および98の膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。これにより、音響反射膜96は弾性波を反射する。膜97と膜98の積層数は任意に設定できる。音響反射膜96は共振領域22、32に重なり、音響反射膜96は共振領域22、32と同じ大きさまたは共振領域22、32より大きい。音響反射膜96の膜97は、例えば酸化シリコン、窒化シリコンなどである。膜98は、例えばタングステン、タンタル、モリブデン、ルテニウムなどである。
【0091】
実施例1から実施例4およびその変形例のように、直列共振器および並列共振器は、空隙16が弾性波を反射するFBARでもよい。実施例5のように、直列共振器および並列共振器は音響反射膜96が弾性波を反射するSMRでもよい。共振領域22、32の平面形状が矩形の例を説明したが、共振領域22、32は、楕円形状または五角形状などの多角形状でもよい。
【実施例0092】
図24は、実施例6に係るデュプレクサの回路図である。図23に示すように、実施例6に係るデュプレクサ600は、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ92が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ93が接続されている。送信フィルタ92は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ93は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ92および受信フィルタ93の少なくとも一方を実施例1から実施例5およびその変形例のフィルタとすることができる。マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0093】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
10…基板、11…絶縁膜、12…圧電膜、12a…第1圧電膜、12b…第2圧電膜、13…薄膜部分、14…厚膜部分、15…凹部、16…空隙、17、17a、17b、17c、17d、17e、17f…貫通孔、18…貫通孔、19…保護膜、20…下部電極、21…上部電極、22…共振領域、30…下部電極、31…上部電極、32…共振領域、40…上部配線、41…下部配線、42…上部配線、43…下部配線、44…上部配線、45…下部配線、50…下部配線、51…上部配線、52…下部配線、60…上部配線、61…下部配線、62…下部配線、63…上部配線、64…上部配線、65…下部配線、66…下部配線、67…上部配線、70…下部配線、71…上部配線、80…入力パッド、81…出力パッド、82…グランドパッド、84…周波数調整膜、85…導電膜、86…金属膜、87…金属膜、88…凹部、89、89a、89b…分極方向、90…犠牲層、91…開口、92…送信フィルタ、93…受信フィルタ、95…スプリアス、96…音響反射膜、97…音響インピーダンスの低い膜、98…音響インピーダンスの高い膜、100、110、120、130、200、300、310、320、400、1000…フィルタ、600…デュプレクサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24