(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120504
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】坑井の異常箇所検出装置及び異常箇所検出方法
(51)【国際特許分類】
E21B 47/002 20120101AFI20240829BHJP
G01V 8/10 20060101ALI20240829BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
E21B47/002
G01V8/10 S
G01B11/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027336
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000174910
【氏名又は名称】三井金属資源開発株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593142020
【氏名又は名称】地熱エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 一成
(72)【発明者】
【氏名】梶原 竜哉
【テーマコード(参考)】
2F065
2G105
【Fターム(参考)】
2F065AA17
2F065BB07
2F065CC14
2F065DD08
2F065FF04
2G105AA02
2G105BB17
2G105CC01
2G105EE06
2G105GG05
2G105LL08
2G105LL09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】地熱坑井内の観察映像から、坑内水の流出等の異常流動を検出し、坑壁の亀裂等の異常箇所を検出する検出装置及び検出方法を提供。
【解決手段】ボアホールカメラで映像データを撮影し、データをフレームに切分け、各フレームの浮遊粒子を検出し、各フレームの所定の浮遊粒子の移動の検出を行い、移動速度ベクトルV(θ,t)を算出し、時刻t時の移動方向θ(t)と、前記V(θ,t)から移動速度|V(θ,t)|を算出する。ボアホールカメラのゾンデ部の深度Dz(t)に基づき、降下速度|Vz(t)|を算出し、V(θ,t)を、|Vz(t)|でスカラー除算し、浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)を算出し、P(θ,t)から、重み付け係数fを算出し、浮遊粒子の位置及びP(θ,t)にfを乗算し、時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を算出し、時刻t時のP’(θ,t)により、坑井の異常の有無を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑井の異常箇所を検出する異常箇所検出装置であって、
前記異常箇所検出装置と接続されたボアホールカメラによって撮影された映像データから、所定のフレームにおける浮遊粒子を所定数検出するとともにその中心位置を検出し、前記フレームの次のフレームにおける前記浮遊粒子を検出することにより、浮遊粒子の移動の検出を行い移動速度ベクトルV(θ,t)を算出し、
前記浮遊粒子について、時刻tにおける移動方向θ(t)と、前記移動速度ベクトルV(θ,t)から移動速度|V(θ,t)|を算出するとともに、
前記ボアホールカメラのゾンデ部の深度Dz(t)に基づき、時刻tにおける前記ゾンデ部の降下速度|Vz(t)|を算出し、
前記浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)を、前記ゾンデ部の降下速度|Vz(t)|でスカラー除算することによって、前記浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)を算出し、
前記浮遊粒子の位置及び正規化速度ベクトルP(θ,t)から、重み付け係数fを算出し、
前記浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)に重み付け係数fを乗算することで、時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を算出し、
時刻tにおける前記重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)に基づき、前記坑井に異常が存在するか否かを判定する、
ように構成される、異常箇所検出装置。
【請求項2】
坑井の異常箇所を検出する異常箇所検出方法であって、
ボアホールカメラによって映像データを撮影し、
前記映像データから、所定のフレームにおける浮遊粒子を所定数検出するとともにその中心位置を検出し、前記フレームの次のフレームにおける前記浮遊粒子を検出することにより、浮遊粒子の移動の検出を行い移動速度ベクトルV(θ,t)を算出し、
前記浮遊粒子について、時刻tにおける移動方向θ(t)と、前記移動速度ベクトルV(θ,t)から移動速度|V(θ,t)|を算出するとともに、
前記ボアホールカメラのゾンデ部の深度Dz(t)に基づき、時刻tにおける前記ゾンデ部の降下速度|Vz(t)|を算出し、
前記浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)を、前記ゾンデ部の降下速度|Vz(t)|でスカラー除算することによって、前記浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)を算出し、
前記浮遊粒子の位置及び正規化速度ベクトルP(θ,t)から、重み付け係数fを算出し、
前記浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)に重み付け係数fを乗算することで、時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を算出し、
時刻tにおける前記重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)に基づき、前記坑井に異常が存在するか否かを判定する、異常箇所検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑井内の観察映像から、坑内水の流出や熱水の流入などの異常流動を検出し、坑壁の亀裂などといった異常箇所を検出することができる坑井の異常箇所検出装置及び異常箇所検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地熱や温泉をエネルギーや観光資源として利用するために、地表に掘られた掘削坑(地熱坑井や温泉坑井)に熱交換器を挿入して地中から採熱をしたり、地下にから掘削坑(生産井)を介して熱水(温泉水を含む)や蒸気を直接採取したり、それらを地上で発電用に利用された後の水を掘削坑(地熱還元井)を介して地中に還元したり、また、地熱坑井内に水を注入して地熱により加熱された水や発生した蒸気を採取することなどが行われている。
【0003】
温泉坑井では深度1000m以上、地熱坑井では深度2000mを超えることもあり、特に地熱坑井内部の温度は200℃を超えるような過酷な環境下となることも多く、また、地熱坑井や温泉坑井の直径は坑口でも数十cm程度であり、地熱坑井や温泉坑井内の点検を行うことは困難を極める。
【0004】
このため、特許文献1に開示されるようなボアホールカメラと呼ばれるカメラを地熱坑井内に挿入し地熱坑井の内面を撮影することで、坑壁の亀裂や、断層の状態、坑井を保護するための保護管(ケーシング)などの観察を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、地熱坑井や温泉坑井内部には坑内水が貯留しており、この坑内水には、例えば、岩盤の破片、坑壁からの剥離スケール、熱水に含まれる鉱物、微生物などの浮遊粒子が存在する。このような浮遊粒子が存在すると、ボアホールカメラによって撮影された映像がぼやけてしまったり、地熱坑井や温泉坑井の内面の様子を観察しにくかったりする。
【0007】
このため、ボアホールカメラによって撮影された映像を人間が目視によって観察する場合であっても、コンピュータ解析などを行う場合であっても、浮遊粒子が観察の阻害要因となってしまい、坑壁の亀裂や坑井の保護管の損傷箇所などを見逃してしまう場合がある。
【0008】
本発明では、このような現状に鑑み、坑井内の観察映像から、坑内水の流出や熱水の流入などの異常流動を検出し、坑壁の亀裂などといった異常箇所を検出することができる坑井の異常箇所検出装置及び異常箇所検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述するような従来技術における課題を解決するために発明されたものであって、本発明の坑井の異常箇所検出装置及び異常箇所検出方法は、以下のように構成されたものを含む。
【0010】
[1] 坑井の異常箇所を検出する異常箇所検出装置であって、
前記異常箇所検出装置と接続されたボアホールカメラによって撮影された映像データから、所定のフレームにおける浮遊粒子を所定数検出するとともにその中心位置を算出し、前記フレームの次のフレームにおける前記浮遊粒子を検出することにより、浮遊粒子の移動の検出を行い移動速度ベクトルV(θ,t)を算出し、
前記浮遊粒子について、時刻tにおける移動方向θ(t)と、前記移動速度ベクトルV(θ,t)から移動速度|V(θ,t)|を算出するとともに、
前記ボアホールカメラのゾンデ部の深度Dz(t)に基づき、時刻tにおける前記ゾンデ部の降下速度|Vz(t)|を算出し、
前記浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)を、前記ゾンデ部の降下速度|Vz(t)|でスカラー除算することによって、前記浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)を算出し、
前記浮遊粒子の位置及び正規化速度ベクトルP(θ,t)から、重み付け係数fを算出し、
前記浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)に重み付け係数fを乗算することで、時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を算出し、
時刻tにおける前記重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)に基づき、前記坑井に異常が存在するか否かを判定する、
ように構成される、異常箇所検出装置。
【0011】
[2] 坑井の異常箇所を検出する異常箇所検出方法であって、
ボアホールカメラによって映像データを撮影し、
前記映像データから、所定のフレームにおける浮遊粒子を所定数検出するとともにその中心位置を算出し、前記フレームの次のフレームにおける前記浮遊粒子を検出することにより、浮遊粒子の移動の検出を行い移動速度ベクトルV(θ,t)を算出し、
前記浮遊粒子について、時刻tにおける移動方向θ(t)と、前記移動速度ベクトルV(θ,t)から移動速度|V(θ,t)|を算出するとともに、
前記ボアホールカメラのゾンデ部の深度Dz(t)に基づき、時刻tにおける前記ゾンデ部の降下速度|Vz(t)|を算出し、
前記浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)を、前記ゾンデ部の降下速度|Vz(t)|でスカラー除算することによって、前記浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)を算出し、
前記浮遊粒子の位置及び正規化速度ベクトルP(θ,t)から、重み付け係数fを算出し、
前記浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)に重み付け係数fを乗算することで、時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を算出し、
時刻tにおける前記重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)に基づき、前記坑井に異常が存在するか否かを判定する、異常箇所検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、坑内水に浮遊している浮遊粒子の移動方向から、坑内水の流出や熱水の流入などの異常流動を検出することで、坑壁の亀裂や坑井の保護管の損傷などといった坑井の異常箇所やフィードポイント(地熱貯留層との水みち箇所)を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態における坑井の異常箇所検出装置の構成を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の異常箇所検出装置によって、坑井の異常箇所を検出する流れを説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図3は、特定の浮遊粒子の移動距離d(t)、移動速度v(t)、移動方向θ(t)を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、特定の浮遊粒子の移動ベクトルの重み付け係数を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、特定の浮遊粒子の移動ベクトルの重み付け係数を説明するための模式図である。
【
図6】
図6(a)は、異常が存在しない場合の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t
1)を示すグラフ、
図6(b)は、重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t
1)の場合の浮遊粒子の移動ベクトルを示す模式図である。
【
図7】
図7(a)は、異常が存在する場合の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t
2)を示すグラフ、
図7(b)は、重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t
2)の場合の浮遊粒子の移動ベクトル(坑内水の流出)を示す模式図である。
【
図8】
図8(a)は、異常が存在する場合の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t
3)を示すグラフ、
図8(b)は、重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t
3)の場合の浮遊粒子の移動ベクトル(熱水の流入)を示す模式図である。
【
図9】
図9(a)は、ゾンデ部に対して水平方向を撮影した映像データにおいて、映像の中央付近において上下方向に坑井の亀裂があり、坑内水が流出している場合の浮遊粒子の移動ベクトルを示す模式図、
図9(b)は、
図9(a)に示すように浮遊粒子が移動している場合の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を示すグラフである。
【
図10】
図10(a)は、ゾンデ部に対して水平方向を撮影した映像データにおいて、映像の中央付近において水平方向に坑井の亀裂があり、熱水が流入している場合の浮遊粒子の移動ベクトルを示す模式図、
図10(b)は、
図10(a)に示すように浮遊粒子が移動している場合の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を示すグラフである。
【
図11】
図11(a)は、ゾンデ部に対して水平方向を撮影した映像データにおいて、映像の右側付近において斜め方向に坑井の亀裂があり、坑内水が流出している場合の浮遊粒子の移動ベクトルを示す模式図、
図11(b)は、
図11(a)に示すように浮遊粒子が移動している場合の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を示すグラフである。
【
図12】
図12(a)は、ゾンデ部に対して水平方向を撮影した映像データにおいて、映像の中央付近において坑井に穴状の亀裂があり、熱水が流入している場合の浮遊粒子の移動ベクトルを示す模式図、
図12(b)は、
図12(a)に示すように浮遊粒子が移動している場合の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいて、より詳細に説明する。
図1は、本実施形態における坑井の異常箇所検出装置の構成を説明するための模式図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の坑井の異常箇所検出装置10は、坑井100に挿入されるゾンデ部20と、ゾンデ部20を吊り下げるとともにゾンデ部20から送られてくる情報を通信するためのアーマードケーブル30と、アーマードケーブル30の巻き出し・巻き取りを行い、ゾンデ部20の降下・上昇を行うウインチ42と、を有するボアホールカメラ12に、アーマードケーブル30を介して接続されている。
【0016】
なお、本実施形態においては、ゾンデ部20の鉛直方向下方にカメラ21が備えられており、ゾンデ部20の鉛直方向下方を撮影するように構成される。
【0017】
このようなボアホールカメラ12としては、坑井100内の映像を撮影できるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、(株)村田製作所製高温用ボアホールカメラシステム WTC-1500HTなどの、市販されているボアホールカメラを用いることができる。
【0018】
なお、ボアホールカメラ12が撮影する映像は、本実施形態においては、ゾンデ部20に対して鉛直方向下方の映像を撮影するものであるが、後述するように、ゾンデ部20に対して水平方向の映像を撮影するものであってもよい。この場合、ゾンデ部20の周方向にカメラ21を設けるようにしてもよいし、
図1に示すゾンデ部20の鉛直方向下方に設けられたカメラ21を超広角カメラとすることによって、ゾンデ部20に対して水平方向の映像までも撮影できるように構成することもできる。なお、このように超広角カメラを用いる場合には、撮影した映像に歪みが生じるため、歪み補正を行うようにすることが好ましい。
【0019】
また、ゾンデ部20を降下・上昇させる際に、ゾンデ部20が坑井100の略中心に位置するように、ゾンデ部20にセントラライザ22を備えることが好ましい。このように、セントラライザ22を備えることによって、本実施形態のように、ゾンデ部20に対して鉛直方向下方の映像を撮影する場合、撮影した映像データの中心と、坑井100の中心がほぼ一致することになる。
【0020】
異常箇所検出装置10は、ボアホールカメラ12から送られてくる映像データを受信し、受信した映像データを後述するように解析可能なコンピュータにより構成することができる。
【0021】
このように構成される本実施形態の異常箇所検出装置10は、以下のようにして、坑井の異常箇所を検出することができる。
図2は、本実施形態の異常箇所検出装置10によって、坑井100の異常箇所を検出する流れを説明するためのフローチャートである。
【0022】
まず、ゾンデ部20を坑井100に挿入するとともに、ウインチ42を制御してアーマードケーブル30を巻き出して、ゾンデ部20を坑井100内に降下させる(S10)。
【0023】
本実施形態においては、ゾンデ部20の降下中に、ゾンデ部20の下方を撮影する(S20)。なお、ゾンデ部20の下方を撮影するタイミングは、ゾンデ部20の降下中に限らず、例えば、ゾンデ部20を停止したタイミングで行っても構わない。
【0024】
撮影した映像データは、ゾンデ部20から異常箇所検出装置10に送信され、異常箇所検出装置10は受信した映像データを以下のように解析する。
異常箇所検出装置10は、映像データの各フレーム(時刻毎の静止画)における所定数の浮遊粒子を検出するとともに、特定の浮遊粒子の追跡(各フレームにおける特定の浮遊粒子の移動の検出)を行う(S30)。
【0025】
ここで、液体中の流速分布を求める方法として、粒子画像流速計測法(Particle Image Velocity:PIV法)が知られている。PIV法では、流体内に指標となる粒子(トレーサー粒子)を混入させ、レーザーなどの強い光を照射することで、トレーサー粒子を可視化し、微小な2時刻間の粒子の移動量から流速分布を求めている。
【0026】
本発明では、本来視覚を遮断する坑井内浮遊粒子をトレーサー粒子として利用し、坑井水の流動状況を把握している。なお、浮遊粒子の移動先推定法としては、例えば、異なるフレームにおいて背景除去を用いて検出された浮遊粒子間の位置変化を算出するようにしてもよいし、YOLO(You Only Look Once)などのアルゴリズムを用いることもできる。
【0027】
なお、背景除去法を用いて浮遊粒子を検出する際には、検出処理を行う前段階として、例えば、輝度値のヒストグラムを圧縮させるなどの画像のコントラストを低下させるフィルタ処理を行ったり、検出した浮遊粒子の大きさについて統計分布を調べて、所定値以上の浮流粒子を除外するなどの処理を行って、浮遊粒子以外の物を検出してしまうことを防ぐことが好ましい。
【0028】
また、撮影した映像データには、数多くの浮遊粒子が含まれているため、例えば、映像データから少数の浮遊粒子のみに着目して検出及び追跡を行った場合、誤作動や検出漏れが生じやすい。このため、本実施形態においては、撮影した映像データに含まれる浮遊粒子をなるべく多く検出及び追跡するために、隣接フレーム間だけでなく、一定時間内で検知した浮遊粒子の移動速度ベクトルを利用するようにしている。このように、多量の浮遊粒子について検出及び追跡することにより、後述するような流動ベクトルのデータを大量に取得することができ、誤作動や検出漏れの影響を小さくすることができ、異常の判定に与える影響を小さくすることができる。
【0029】
次いで、異常箇所検出装置10は、追跡している特定の浮遊粒子について、各フレームにおける移動方向及び移動速度を算出する(S40)。
図3に示すように、時刻tにおいて位置P
1に存在する特定の浮遊粒子が、時刻t+T
intにおいて位置P
2に移動し、移動距離がd(t)である場合、移動速度|v(t)|=d(t)/T
int、移動方向θ(t)と表すことができる。ここで、T
intは、各フレーム間の時間差を示している。また、特定の浮遊粒子の流動ベクトル(移動方向θ(t)、移動速度|v(t)|で移動する浮遊粒子のベクトル)を移動速度ベクトルV(θ,t)とする。
【0030】
なお、映像データにもよるが、一般的に、時刻tから時刻t+Tintまでの間に、数十枚のフレームが存在する。このような複数のフレームから、2枚のフレームを選択して移動速度ベクトルV(θ,t)を算出してもよいが、数十枚のフレームから取得可能な大量の移動速度ベクトルV(θ,t)を算出して利用するようにしてもよい。このように大量の移動速度ベクトルV(θ,t)を利用することによって、検出抜けなどの影響を低減させることができ、異常検出も正確かつ容易に行うことができる。
【0031】
また、異常箇所検出装置10は、ゾンデ部20の深度Dz(t)に基づき、時刻tにおけるゾンデ部20の降下速度|Vz(t)|を取得する(S50)。
【0032】
そして、異常箇所検出装置10は、特定の浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)を、ゾンデ部20の降下速度|Vz(t)|でスカラー除算することによって補正を行い、特定の浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)を算出する(S60)。浮遊粒子は、ゾンデ部20の降下によってその流動に影響を受けているため、このように、浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)|をゾンデ降下速度|Vz(t)|でスカラー除算することによって、ゾンデ降下速度による影響を補正することができる。
【0033】
また、異常箇所検出装置10は、特定の浮遊粒子の正規化速度ベクトルP(θ,t)から重み付けのための係数fを算出する(S70)。
具体的には、フレームの中心から角度φの方向に存在する特定の浮遊粒子が角度θの方向に移動している場合、
図4(a)のように、0≦φ<+πかつ0≦θ<+πの場合、もしくは、
図4(b)のように、-π≦φ<0かつ-π≦θ<0の場合は、係数f=cos(θ-φ)、
図5(a)のように、0≦φ<+πかつ-π≦θ<0の場合、もしくは、
図5(b)のように、-π≦φ<0かつ0≦θ<+πの場合は、係数f=cos{π-(θ-φ)}とすることができる。ここで係数f>0の場合、特定の浮遊粒子は坑井の外側へ移動しており、坑内水が流出している可能性が高い。一方で、係数f<0の場合、特定の浮遊粒子は坑井の中心方向へ移動しており、坑内に熱水が流入している可能性が高い。
【0034】
次いで、正規化速度ベクトルP(θ,t)に重み付け係数fを乗算することで、「坑井中心から角度φの方向にある浮遊粒子」について、移動方向φ、正規化速度ベクトルP(θ,t)×f=P’(θ,t)を算出し、時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を求める。(S80)
【0035】
なお、本実施形態において、方向は、映像データの上方を0とし、反時計回りに0から-π、時計回りに0から+πとして示している。
【0036】
異常箇所検出装置10は、重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)において、スペクトル強度(振幅)が、所定の閾値を超える箇所があった場合に、異常と判断する。(S90)
【0037】
具体的には、時刻t
1における重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t
1)が
図6(a)のように表される場合、
図6(a)のように、閾値の範囲内に収まっている場合には、坑内水の流入出による浮遊粒子の移動はないと判断する。この場合、ゾンデ部20の降下の影響により、
図6(b)に示すように、坑井100の中心から外側に向かって、浮遊粒子が広がって移動していることを意味する。
【0038】
なお、ゾンデ部20を停止させて映像データを撮影した場合には、ゾンデ部20を停止させた後は、ゾンデ部20の降下の際に坑壁に接触したりして巻き上がった浮遊粒子によって、坑内水が混濁する状態が支配的となり、坑内水の流動を正確には把握することはできない。しばらくして、これらの浮遊粒子の巻き上がりが沈静化すると坑内水流動に浮遊粒子の運動が支配されるようになる。その際は、一般に坑井内では高温の熱水が湧き上がってくるので、降下時のパターンと比較するとレベルの低い(後述する重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)の平均値μが低下する)状態になるが、基本的には
図6(b)に類似したパターンがみられるため、ゾンデ部20を降下させながら映像データを撮影した場合と同様に、異常の判断を行うことができる。
【0039】
また、時刻t
2における重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t
2)が
図7(a)のように、閾値の範囲を超えている場合には、坑内水の流入出により浮遊粒子が移動していると判断する。この場合、
図7(b)に示すように、坑井100の外側に向かって特定の方向に浮遊粒子が移動している、すなわち、坑内水が流出していることを意味する。
【0040】
一方で、時刻t
3における重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t
3)が
図8(a)のように、閾値の範囲を下回っている場合にも、坑内水の流入出により浮遊粒子が移動していると判断する。この場合、
図8(b)に示すように、坑井100の内側に向かって特定の方向に浮遊粒子が移動している、すなわち、熱水が流入していることを意味する。
【0041】
なお、ゾンデ部20を停止させて映像データを撮影した場合には、上述するような浮遊粒子の巻き上がりが沈静化するまで待つ必要があるが、坑内水の流出や熱水の流入がある場合には、
図7,8と同様のパターンを示すことになる。したがって、ゾンデ部20を降下させながら映像データを撮影した場合と同様に、異常の判断を行うことができる。
【0042】
なお、閾値としては、特に限定されるものではなく、適宜設定することができるが、例えば、時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)の平均値をμとした場合に、閾値を、μ±2σとすることができる。ここで、σは標準偏差を表す。
【0043】
異常箇所検出装置10は、異常が存在すると判断した場合、時刻t2,t3におけるゾンデ部20の深度Dz(t2),Dz(t3)を算出し、深度Dz(t2),Dz(t3)において、坑井に異常が生じていると判断する(S100)。
【0044】
なお、異常箇所検出装置10によって算出された解析結果は、例えば、異常箇所検出装置10の表示装置(図示せず)に表示するなどして、ユーザーに通知するように構成することが好ましい。
【0045】
また、上記実施形態においては、ゾンデ部20に対して鉛直方向下方を撮影した映像データを用いて浮遊粒子の検出及び追跡を行って、異常の検出を行っているが、ゾンデ部20に対して水平方向を撮影した映像データを用いて浮遊粒子の検出及び追跡行い、異常の検出を行うこともできる。
【0046】
ゾンデ部20に対して水平方向を撮影した映像データにおいて、例えば、映像の中央付近において上下方向に坑井の亀裂があり、坑内水が流出している場合には、
図9(a)のように、浮遊粒子が移動することになる。
【0047】
したがって、上述するのと同様に、浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)から時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を求めた場合、
図9(b)に示すように、θ=±π/2付近にピークが現れる。
【0048】
また、ゾンデ部20に対して水平方向を撮影した映像データにおいて、例えば、映像の中央付近において水平方向に坑井の亀裂があり、熱水が流入している場合には、
図10(a)のように、浮遊粒子が移動することになる。
【0049】
したがって、上述するのと同様に、浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)から時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を求めた場合、
図10(b)に示すように、θ=0及びθ=±π付近にピークが現れる。
【0050】
また、ゾンデ部20に対して水平方向を撮影した映像データにおいて、例えば、映像の右側付近において斜め方向に坑井の亀裂があり、坑内水が流出している場合には、
図11(a)のように、浮遊粒子が移動することになる。
【0051】
したがって、上述するのと同様に、浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)から時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を求めた場合、
図11(b)に示すように、+π>θ>+π/2及び0>θ>-π/2付近にピークが現れる。なお、+π>θ>+π/2に現れるピークの方がより顕著となる。
【0052】
また、ゾンデ部20に対して水平方向を撮影した映像データにおいて、例えば、映像の中央付近において坑井に穴状の亀裂があり、熱水が流入している場合には、
図12(a)のように、浮遊粒子が移動することになる。
【0053】
したがって、上述するのと同様に、浮遊粒子の移動速度ベクトルV(θ,t)から時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を求めた場合、
図12(b)に示すように、θ全域においてフラットで高レベルなスペクトルが現れる。
【0054】
このように、ゾンデ部20に対して水平方向を撮影した映像データから時刻t毎の重み補正済み正規化速度スペクトルP’(θ,t)を求めた場合にも、坑井の異常に応じた形状のスペクトルが現れるため、異常の検出を行うことができる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 異常箇所検出装置
12 ボアホールカメラ
20 ゾンデ部
21 カメラ
22 セントラライザ
30 アーマードケーブル
42 ウインチ
100 坑井
110 地上部