(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120510
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】剥離剤及び剥離方法
(51)【国際特許分類】
C09D 9/00 20060101AFI20240829BHJP
B29B 17/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C09D9/00
B29B17/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027347
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 早季子
(72)【発明者】
【氏名】金子 文弥
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 成相
【テーマコード(参考)】
4F401
4J038
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AA26
4F401AD02
4F401AD07
4F401CA32
4F401CA35
4F401EA62
4J038RA02
(57)【要約】
【課題】ポリエステル基材を侵しにくく、またポリウレタン層を溶解しにくいものでありながら、剥離性に優れる剥離剤を提供する。
【解決手段】実施形態に係る剥離剤は、芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを構成成分とするポリエステルにより形成されたポリエステル基材に接着しているポリウレタン層を剥離させるための剥離剤である。該剥離剤は、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジアルキレングリコールジアセテート、及びトリアルキレングリコールジアセテートからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを構成成分とするポリエステルにより形成されたポリエステル基材に接着しているポリウレタン層を剥離させるための剥離剤であって、
ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジアルキレングリコールジアセテート、及びトリアルキレングリコールジアセテートからなる群から選択される少なくとも1種を含む、剥離剤。
【請求項2】
前記のジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジアルキレングリコールジアセテート、及びトリアルキレングリコールジアセテートからなる群から選択される少なくとも1種を40質量%以上含む、請求項1に記載の剥離剤。
【請求項3】
前記ポリウレタン層を形成するポリウレタンの酸価が0~40mgKOH/gである、請求項1に記載の剥離剤。
【請求項4】
前記ポリウレタン層を形成するポリウレタンが、ポリエステルポリオールを原料に含んでなるポリウレタンである、請求項1に記載の剥離剤。
【請求項5】
前記ポリエステル基材が、ポリエチレンテレフタレート基材、ポリエチレンナフタレート基材、又はポリエチレンフラノエート基材である、請求項1に記載の剥離剤。
【請求項6】
前記のジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジアルキレングリコールジアセテート、及びトリアルキレングリコールジアセテートからなる群から選択される少なくとも1種が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種であり、
【化1】
式(1)中、R
1は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
2は炭素数2~4のアルカンジイル基を示し、式(2)中、R
3は炭素数2~4のアルカンジイル基を示し、nは2又は3を示す、請求項1に記載の剥離剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の剥離剤を用いた剥離方法であって、
芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを構成成分とするポリエステルにより形成されたポリエステル基材にポリウレタン層が設けられたコーティング基材を前記剥離剤に浸漬し、前記ポリエステル基材から前記ポリウレタン層を剥離する、剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、剥離剤及び剥離方法に関し、より詳細には、ポリエステル基材に接着しているポリウレタン層を剥離させる剥離剤、及びそれを用いた剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材の表面に別の樹脂層をコーティングしたコーティング基材は、光学用途をはじめとして様々な用途に用いられており、例えば樹脂基材としてのPETフィルム上にポリウレタン層を設けたものが知られている。かかるコーティング基材においては、資源の有効利用の観点より、樹脂層を除去して樹脂基材をリサイクルすることが望ましい。
【0003】
特許文献1には、基材と粘着剤を含む粘着テープを処理対象として、様々な種類の粘着剤を容易に除去することができる粘着剤処理液が記載され、該粘着剤処理液がハンセン溶解度パラメータ値31以下の液体とアルカリ化合物とを含むことが記載されている。また、該ハンセン溶解度パラメータ値が31以下の液体として、メタノール、エタノールなどの有機溶媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、ポリエステル基材にポリウレタン層を設けたコーティング基材について、ポリエステル基材のリサイクルを可能にするべく、ポリウレタン層を剥離するための剥離剤について検討した。そのような剥離剤には、ポリウレタン層を剥離できることが求められるとともに、剥離剤によりポリエステル基材を侵さないことが望まれる。また、剥離剤の繰り返し使用を可能にするという観点からは、ポリウレタン層が剥離剤により溶解しにくいこと、即ち非溶解性であることが望まれる。
【0006】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、ポリエステル基材を侵しにくく、またポリウレタン層を溶解しにくいものでありながら、剥離性に優れる剥離剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを構成成分とするポリエステルにより形成されたポリエステル基材に接着しているポリウレタン層を剥離させるための剥離剤であって、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジアルキレングリコールジアセテート、及びトリアルキレングリコールジアセテートからなる群から選択される少なくとも1種を含む、剥離剤。
【0008】
[2] 前記のジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジアルキレングリコールジアセテート、及びトリアルキレングリコールジアセテートからなる群から選択される少なくとも1種を40質量%以上含む、[1]に記載の剥離剤。
[3] 前記ポリウレタン層を形成するポリウレタンの酸価が0~40mgKOH/gである、[1]又は[2]に記載の剥離剤。
[4] 前記ポリウレタン層を形成するポリウレタンが、ポリエステルポリオールを原料に含んでなるポリウレタンである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の剥離剤。
[5] 前記ポリエステル基材が、ポリエチレンテレフタレート基材、ポリエチレンナフタレート基材、又はポリエチレンフラノエート基材である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の剥離剤。
[6] 前記のジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジアルキレングリコールジアセテート、及びトリアルキレングリコールジアセテートからなる群から選択される少なくとも1種が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種であり、
【化1】
式(1)中、R
1は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
2は炭素数2~4のアルカンジイル基を示し、式(2)中、R
3は炭素数2~4のアルカンジイル基を示し、nは2又は3を示す、[1]~[5]のいずれか1項に記載の剥離剤。
【0009】
[7] [1]~[6]のいずれか1項に記載の剥離剤を用いた剥離方法であって、芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを構成成分とするポリエステルにより形成されたポリエステル基材にポリウレタン層が設けられたコーティング基材を前記剥離剤に浸漬し、前記ポリエステル基材から前記ポリウレタン層を剥離する、剥離方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態に係る剥離剤であると、ポリエステル基材を侵しにくく、またポリウレタン層を溶解しにくいものでありながら、ポリエステル基材に接着しているポリウレタン層を剥離させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る剥離剤は、ポリエステル基材に接着しているポリウレタン層を剥離させるための剥離剤である。
【0012】
剥離剤による処理対象は、ポリエステル基材にポリウレタン層が設けられたコーティング基材である。該コーティング基材は、ポリエステル基材と、その表裏少なくとも一方の面に形成された樹脂皮膜としてのポリウレタン層とを含むものであり、ポリエステル基材にポリウレタン層が接着されている。
【0013】
本実施形態において、ポリエステル基材は、芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを構成成分(モノマー)とするポリエステルにより形成されたものである。すなわち、ポリエステル基材を形成するポリエステルは、芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールを重縮合して得られる。
【0014】
該ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸は、芳香環を有するジカルボン酸であり、芳香環は、炭化水素のみからなる芳香環でもよく、複素芳香環でもよい。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸(例えば、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸)、ジフェニルジカルボン酸(例えば、4,4’-ジフェニルジカルボン酸)、フランジカルボン酸(例えば、2,5-フランジカルボン酸)等が挙げられ、これらのいずれか1種が用いられたものでもよく、又は2種以上が併用されたものでもよい。
【0015】
該ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸以外の多価カルボン酸を構成成分として含んでもよい。また、該ポリエステルは、エチレングリコール以外のジオールを構成成分として含んでもよい。但し、該ポリエステルは、多価カルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を主成分とし、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とするものである。多価カルボン酸成分中の芳香族ジカルボン酸のモル比率は80モル%以上であることが好ましい。ジオール成分中のエチレングリコールのモル比率は80モル%以上であることが好ましい。
【0016】
ポリエステル基材は、樹脂として上記ポリエステルのみを含むことが好ましいが、その効果を損なわない範囲で他の樹脂を含んでもよい。例えば、全樹脂成分の80質量%以上が上記ポリエステルであることが好ましい。また、ポリエステル基材には、例えば、有機もしくは無機の滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等の種々の添加剤が含まれてもよい。
【0017】
好ましいポリエステル基材の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材、ポリエチレンナフタレート(PEN)基材、ポリエチレンフラノエート(PEF)基材が挙げられる。PET基材は、テレフタル酸とエチレングリコールを重縮合してなるポリエチレンテレフタレートにより形成されるポリエステル基材である。PEN基材は、ナフタレンジカルボン酸(詳細には2,6-ナフタレンジカルボン酸)とエチレングリコールを重縮合してなるポリエチレンナフタレートにより形成されるポリエステル基材である。PEF基材は、フランジカルボン酸(詳細には2,5-フランジカルボン酸)とエチレングリコールを重縮合してなるポリエチレンフラノエートにより形成されるポリエステル基材である。PEF及びPENはPETの代替材料として知られており、本実施形態においてもPET基材の代わりに、PEN基材又はPEF基材を好適に用いることができる。
【0018】
ポリエステル基材ないしコーティング基材の形状は、特に限定されず、例えば、フィルム状、シート状、板状等が挙げられ、また所定の形状に成形されたものでもよい。
【0019】
ポリウレタン層は、ポリエステル基材の表裏少なくとも一方の面に積層された樹脂層である。ポリウレタン層を形成するポリウレタンは、ポリオールとポリイソシアネートを反応させて得られるものであり、分子内にウレタン結合を有する重合体である。
【0020】
ポリオールとしては、特に限定されず、例えば、ポリエステルポリオール(例えば、脂肪族ポリエステルポリオール、芳香族ポリエステルポリオール)、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリテトラメチレングリコール)、ポリブタジエンポリオール等の重合体のポリオールが挙げられる。ポリオールとしては、また、上記重合体のポリオールとともに、又はこれとは別に、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の低分子の多価アルコール(好ましくは、二価アルコール、三価アルコール)を用いてもよい。これらのポリオールはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ポリイソシアネートとしては、特に限定されず、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどを挙げることができる。脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、水添キシリレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネートなどを挙げることができる。また、これらのポリイソシアネートのイソシアヌレート体、アダクト体、ビュレット体、アロフェネート体、カルボジイミド体などを用いてもよい。また、これらのポリイソシアネートは、いずれか1種用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリウレタン層は、水系ポリウレタン樹脂により形成された層でもよく、溶剤系ポリウレタン樹脂により形成されたものでもよい。一実施形態において、水系ポリウレタン樹脂の場合、ポリウレタン層は、アニオン性親水基を持つアニオン性ポリウレタンにより形成された層でもよく、カチオン性親水基を持つカチオン性ポリウレタンにより形成された層でもよく、親水性セグメントを持つ非電荷のノニオン性ポリウレタンにより形成された層でもよい。
【0023】
一実施形態において、ポリウレタン層を形成するポリウレタンの酸価は0~40mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは10~35mgKOH/gである。酸価が40mgKOH/g以下であることにより、本実施形態に係る離型剤による剥離性の効果を高めることができる。このような酸価を持つポリウレタンとしては、カルボキシ基等のアニオン性親水基を持つアニオン性ポリウレタン樹脂が挙げられ、例えば、アニオン性親水基と活性水素基を持つ化合物をモノマー成分に含ませることにより得られる。
【0024】
本明細書において、ポリウレタンの酸価(mgKOH/g)は、JIS K0070:1992(中和滴定法)に基づいて測定した値を示す。
【0025】
一実施形態において、ポリウレタン層を形成するポリウレタンは、ポリエステルポリオールを原料に含んでなるポリウレタンであることが好ましい。すなわち、ポリウレタン層は、ポリエステルポリオールを含むポリオールとポリイソシアネートとを反応させてなるポリウレタンにより形成されていることが好ましい。このようなポリエステルポリオールを用いたポリウレタンであると、本実施形態に係る離型剤により溶解しにくく、すなわちポリウレタン層の非溶解性を向上することができる。この場合、ポリウレタンを構成するポリオール中におけるポリエステルポリオールの量は、特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して70質量%以上でもよく、80~99質量%でもよい。
【0026】
ポリウレタン層には、上記ポリウレタンの他に、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、消泡剤、表面調整剤の種々の添加剤が含まれてもよい。
【0027】
ポリウレタン層の厚さは、特に限定されず、例えば0.05~500μmでもよく、0.5~100μmでもよく、1~50μmでもよい。
【0028】
本実施形態に係る剥離剤は、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジアルキレングリコールジアセテート、及びトリアルキレングリコールジアセテートからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を含む。
【0029】
ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとしては、下記一般式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。
【化2】
式(1)中、R
1は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
2は炭素数2~4のアルカンジイル基を示す。アルカンジイル基とは、2価の鎖式飽和炭化水素基であり、アルキレン基とも称される。R
1は、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。R
2は、より好ましくは炭素数2又は3のアルカンジイル基である。
【0030】
ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートの具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルアセテート等のジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノヘキシルエーテルアセテートなどのジプロピレングリコールモノアルキルアセテート、ジブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のジブチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等が挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0031】
ジアルキレングリコールジアセテート及びトリアルキレングリコールジアセテートとしては、下記一般式(2)で表される化合物を用いることが好ましい。
【化3】
式(2)中、R
3は炭素数2~4のアルカンジイル基を示し、nは2又は3を示す。R
3は、より好ましくは炭素数2又は3のアルカンジイル基である。nはより好ましくは2である。
【0032】
ジアルキレングリコールジアセテートの具体例としては、ジエチレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、ジブチレングリコールジアセテートが挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0033】
トリアルキレングリコールジアセテートの具体例としては、トリエチレングリコールジアセテート、トリプロピレングリコールジアセテート、トリブチレングリコールジアセテートが挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0034】
本実施形態に係る剥離剤は、上記有機溶媒を含む液体の薬剤であり、剥離用処理液とも称される。剥離剤は、上記有機溶媒のみで構成されてもよく、該有機溶媒とともに他の溶媒を含んでもよい。他の溶媒としては、ポリウレタン層を溶解させない各種有機溶媒を用いることができ、例えば、n-デカン、n-トリデカン等の炭素数5~20のアルカン、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等の炭素数1~18のアルコール、酢酸エチル等の炭素数4~8のエステル等が挙げられる。他の溶媒としてはまた、水を用いてもよい。
【0035】
剥離剤は、上記のジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジアルキレングリコールジアセテート、及びトリアルキレングリコールジアセテートからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を40質量%以上(即ち、40~100質量%)含むことが、本実施形態の効果を高める観点から好ましい。該有機溶媒の量は、より好ましくは60~100質量%であり、更に好ましくは80~100質量%であり、更に好ましくは86~100質量%である。上記他の溶媒の含有量は、例えば60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下であり、更に好ましくは14質量%以下である。剥離剤は、上記のような溶媒のみで構成されてもよいが、界面活性剤等の添加剤を含んでもよい。
【0036】
一実施形態において、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートと、ジアルキレングリコールジアセテート及び/又はトリアルキレングリコールジアセテートとを併用する場合、両者の比率は特に限定されない。例えば、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート(A)と、ジアルキレングリコールジアセテート及び/又はトリアルキレングリコールジアセテート(B)との質量比は、(A)/(B)=20/80~80/20でもよく、30/70~70/30でもよい。
【0037】
上記剥離剤を用いてコーティング基材からポリウレタン層を剥離する方法としては、ポリウレタン層を剥離することができるように剥離剤を処理する方法であれば特に限定されない。
【0038】
好ましくは、上記ポリエステル基材にポリウレタン層が設けられたコーティング基材を上記剥離剤に浸漬し、ポリエステル基材からポリウレタン層を剥離することである。その際、浸漬した状態で所定時間静置してもよく、また浸漬した状態で剥離剤を攪拌してもよい。浸漬した剥離剤の液中で又は剥離剤から取り出してから、コーティング基材の表面(ポリウレタン層が設けられた側の表面)を拭き取ってもよく、これによりポリウレタン層を剥離することができる。
【0039】
本実施形態に係る剥離剤は、テレビやパソコンモニター等の液晶ディスプレイ等の光学用途、離型フィルム(離型シート)をはじめとする様々な分野において、ポリエステル基材にポリウレタン層が設けられたコーティング基材からポリウレタン層を剥離するために用いることができる。例えば、コーティング基材が組み込まれた製品のリサイクルに際し、当該製品から回収したコーティング基材からポリウレタン層を剥離するために用いることができ、ポリエステル基材をリサイクルすることができる。あるいはまた、コーティング基材を用いた製品の製造過程において生じる端材を処理対象として用いることにより、ポリエステル基材をリサイクルすることができる。あるいはまた、ポリエステル基材にポリウレタン層が設けられたコーティング基材を、樹脂皮膜を成膜するための離型フィルムとして用いる場合に、該離型フィルムからポリウレタン層を剥離するために用いることができ、ポリエステル基材をリサイクルすることができる。
【実施例0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0041】
下記表1に示す配合(質量部)の剥離剤について、表1に示す樹脂基材とポリウレタン層からなるコーティングフィルムを処理対象とする場合の剥離性、樹脂基材の侵されにくさ、及びポリウレタン層の非溶解性を評価した。
【0042】
離型剤に使用した有機溶媒は以下のとおりである。
・ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
・ジエチレングリコールジアセテート
・トリエチレングリコールジアセテート
・イソプロピルアルコール
・ジエチレングリコールジブチルエーテル
・N,N-ジメチルホルムアミド
・n-デカン
・エタノール
【0043】
表1中の樹脂基材の種類について、「PET」は、厚さ99μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製「ルミラーT-60」)である。「PEN」は、厚さ50μmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(東洋紡株式会社製「テオネックスQ51」)である。「PC」は、厚さ2mmのポリカーボネート(PC)板(日本テストパネル株式会社製「標準試験板 PC(ポリカーボネート)」)である。「ABS」は、厚さ2mmのABS板(日本テストパネル株式会社製「標準試験板 ABS」)である。
【0044】
表1中のポリウレタン層の種類について、「PU1」は、下記合成例1により調製されたポリウレタンの水分散体(酸価:35mgKOH/g)である。「PU2」は、下記合成例2により調製されたポリウレタンの水分散体(酸価:34mgKOH/g)である。「PU3」は、下記合成例3により調製されたポリウレタンの水分散体(酸価:11mgKOH/g)である。
【0045】
合成例1~3において使用した原料は以下のとおりである。
[ポリオール]
・ポリエステルポリオール(a-1):数平均分子量1000、酸価0.5mgKOH/gのポリオール。合成方法は以下の通り。
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、イソフタル酸38.29質量部、アジピン酸19.94質量部、1,6-ヘキサンジオール27.8質量部、及びエチレングリコール13.97質量部を仕込み、窒素気流下で撹拌しながら250℃まで昇温した。酸価が5mgKOH/g以下になるまで反応を行い、ポリエステルポリオール(a-1)を得た。
【0046】
・ポリエステルポリオール(a-2):数平均分子量2000、酸価0.5mgKOH/gのポリオール。合成方法は以下の通り。
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、イソフタル酸52.41質量部、アジピン酸8.77質量部、1,6-ヘキサンジオール26.58質量部、及びエチレングリコール12.24質量部を仕込み、窒素気流下で撹拌しながら250℃まで昇温した。酸価が5mgKOH/g以下になるまで反応を行い、ポリエステルポリオール(a-2)を得た。
【0047】
・ポリオール(a-3):三洋化成工業(株)製「ニューポールBPE-20NK」(登録商標)
・ジメチロールプロピオン酸:2,2-ジメチロールプロピオン酸、Perstorp社製「Bis-MPA」(登録商標)(官能基数2、分子量134.13)
・トリメチロールプロパン
【0048】
[ポリイソシアネート]
・MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
・TDI:トリレンジイソシアネート
【0049】
[ブロック剤及び中和剤]
・ジブチルアミン(ブロック剤)
・トリエチルアミン(中和剤)
・アンモニア(中和剤)
【0050】
[合成例1:PU1の合成]
ポリオールとして、ポリエステルポリオール(a-1)を64.89質量部、トリメチロールプロパンを0.5質量部、及びジメチロールプロピオン酸を8.40質量部と、ポリイソシアネートとしてTDIを26.21質量部と、メチルエチルケトン100質量部とを混合し、70~75℃で120分間反応させてウレタンプレポリマー溶液を得た。このウレタンプレポリマー溶液を35℃まで冷却し、ブロック剤としてジブチルアミンを0.46質量部及び中和剤としてトリエチルアミン6.02質量部を添加して中和を行った後、水320質量部を徐々に加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させた。この後メチルエチルケトンを留去して、固形分25質量%のポリウレタンの水分散体(PU1)を得た。
【0051】
[合成例2:PU2の合成]
ポリオールとして、ポリオール(a-3)を49.74質量部、トリメチロールプロパンを0.6質量部、及びジメチロールプロピオン酸を8.21質量部と、ポリイソシアネートとしてTDIを41.45質量部と、メチルエチルケトン100質量部とを混合し、70~75℃で120分間反応させてウレタンプレポリマー溶液を得た。このウレタンプレポリマー溶液を35℃まで冷却し、ブロック剤としてジブチルアミンを2.42質量部及び中和剤としてアンモニア0.99質量部を添加して中和を行った後、水320質量部を徐々に加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させた。この後メチルエチルケトンを留去して、固形分25質量%のポリウレタンの水分散体(PU2)を得た。
【0052】
[合成例3:PU3の合成]
ポリオールとして、ポリエステルポリオール(a-2)を81.45質量部、ジメチロールプロピオン酸を2.63質量部と、ポリイソシアネートとしてMDIを15.92質量部と、メチルエチルケトン100質量部とを混合し、70~75℃で120分間反応させてウレタンプレポリマー溶液を得た。このウレタンプレポリマー溶液を35℃まで冷却し、ブロック剤としてジブチルアミンを0.11質量部及び中和剤としてトリエチルアミン1.88質量部を添加して中和を行った後、水180質量部を徐々に加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させた。この後メチルエチルケトンを留去して、固形分40質量%のポリウレタンの水分散体(PU3)を得た。
【0053】
剥離剤の評価方法については下記のとおりである。
[剥離性(剥がれやすさの評価)]
(コーティングフィルムの作製)
樹脂基材をイソプロピルアルコールにより脱脂し、次いで、ポリウレタンの水分散体をバーコーターで乾燥膜厚10μmになるように塗布し、80℃で10分間乾燥し、さらに120℃で10分間乾燥し、ポリウレタンの皮膜(ポリウレタン層)が形成されたコーティングフィルムを得た。
(評価方法)
50mLのガラス製バイアルに、各剥離剤を40mL入れた。2cm×5cmの大きさのコーティングフィルムを、上記各剥離剤40mLに浸漬し、室温にて10分間静置した。10分後にコーティングフィルムを剥離剤から取り出し、紙ウエスで表面を1回又は3回拭き取った。拭き取り後におけるポリウレタンの皮膜の剥離状態を観察し、下記基準により評価した。
(評価基準)
A:1回の拭き取りでポリウレタンの皮膜を完全に除去できた。
B:1回の拭き取りでは皮膜残りがあったが、3回の拭き取りでポリウレタンの皮膜を完全に除去できた。
C:3回の拭き取りでも、ポリウレタンの皮膜を完全に除去できなかった。
【0054】
[樹脂基材の侵されにくさ]
上記剥離性の評価において、紙ウエスでの拭き取り後における樹脂基材の表面状態を観察し、下記基準により評価した。
○:樹脂基材の表面が侵されていない。
×:樹脂基材の表面がざらつく等して侵されていた。
【0055】
[ポリウレタン層の非溶解性]
離型紙上にポリウレタンの水分散体を乾燥厚み約200~300μmになるように塗布し、40℃で24時間乾燥を行い、その後80℃で6時間、更に120℃で30分間乾燥してポリウレタンの膜を作製した。2cm×2cmの大きさのポリウレタンの膜を、各剥離剤50mLに24時間浸漬し、剥離剤から取り出して乾燥させた後、ポリウレタンの膜の質量を測定した。初期質量(W1)から剥離剤浸漬後に残った質量(W2)の比率(質量保持率=(W2/W1)×100%)を求めた。質量保持率が80%以上であれば合格、80%未満であれば不合格とする。
【0056】
【0057】
結果は表1に示すとおりである。比較例1では、剥離剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを用いたが、樹脂基材がポリカーボネートフィルムであったため、ポリウレタン層の剥離性に劣っていた。また、比較例2では、樹脂基材がABS樹脂フィルムであったため、ポリウレタン層を剥離することはできたものの、剥離剤により樹脂基材が侵されていた。
【0058】
比較例3~5は、PETフィルムにポリウレタン層を積層したコーティング基材を処理対象とした例である。剥離剤としてイソプロピルアルコールを用いた比較例3及びジエチレングリコールジブチルエーテルを用いた比較例4では、ポリウレタン層の剥離性に劣っていた。一方、剥離剤としてN,N-ジメチルホルムアミドを用いた比較例5では、剥離性に優れ、樹脂基材が侵されにくいものであったが、ポリウレタン層が溶解した。このようにポリウレタン層の溶解が大きいと、剥離剤の繰り返し使用性に劣る。
【0059】
実施例1は剥離剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを用いた例である。実施例2は剥離剤としてジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いた例である。実施例3は剥離剤としてジエチレングリコールジアセテートを用いた例である。実施例4は剥離剤としてトリエチレングリコールジアセテートを用いた例である。実施例10,11は、実施例1に対してポリウレタン層の種類を変更したものである。実施例12は、ポリエステル基材としてPETを用いた実施例1に対して、PENを用いたものである。これら実施例1~4,10~12であると、ポリウレタン層の剥離性に優れるとともに、ポリエステル基材を侵しにくく、かつポリウレタン層が溶解しにくいものであり、剥離剤の繰り返し使用性に優れていた。
【0060】
実施例5,6は、剥離剤としてジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとジアルキレングリコールジアセテートを併用した例であり、実施例1~4と同様、ポリエステル基材を侵しにくく、またポリウレタン層を溶解しにくいものでありながら、ポリウレタン層を剥離することができた。実施例7~9は、剥離剤としてジアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとともに他の有機溶媒を併用した例である。このように他の有機溶媒を併用しても、剥離性、樹脂基材の侵されにくさ、及びポリウレタン層の非溶解性の効果が得られた。
【0061】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0062】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。